【実施例1】
【0020】
実施例1について、
図1〜3に基づいて説明する
本実施例のスイング式逆止弁1は、流体を流すための流路3が形成された弁ケース2と、流路3の途中部に設けられた弁座4と、回動軸6を中心にスイング可能なアーム5と、このアーム5先端に取付けられた弁体7とを備え、この弁体7が自重により閉弁可能に構成されることにより流体を一方向のみに流す逆止弁である。
【0021】
図1,
図2に示すように、弁ケース2は、流体(例えば、天然ガス等)の輸送用配管(図示略)の途中部に接続され、入口部3aと、出口部3bと、作業部3cの3つの開口を備えた金属製ケーシングで構成されている。弁ケース2の内部には、入口部3aから出口部3bに亙って直線状に延びる流路3と、ストッパ8とが形成されている。
このストッパ8は、流路3を流れる流体流量が増加し、弁体7が全開状態のとき、弁体7の下流側背面部と当接して弁体7の開度を一定に保持している。
【0022】
入口部3aは、流体を加圧するコンプレッサ(図示略)に連なる上流側配管(図示略)とフランジ2aを介して接続され、出口部3bは、受け側設備と連なる下流側配管(図示略)とフランジ2bを介して接続される。作業部3cは、フランジ2cに複数のボルト10により固定された円盤状蓋部材9によって閉鎖され、弁体7の組付けやメインテナンスのとき、蓋部材9をフランジ2cから取り外して所定の作業を行う。
【0023】
図1に示すように、環状の弁座4は、流路3の入口部3a側途中部に形成された壁部2dの径方向内側部分において流体の流れ方向下流側へ突出するように形成されている。
尚、以下、流体の流れ方向における上下流側を上下流側として説明する。
【0024】
アーム5は、略L字状に形成され、一端に回動軸6へ外装可能な回動部5aを備え、他端に筒状の弁体支持部5bを備えている。回動軸6は、壁部2dにおいてフランジ2cと弁座4の上端との略中間位置に設けられ、回動部5aを回動自在に枢支している。この回動軸6は、
図2に示すように、弁ケース2に設けられた挿通穴に挿通され、その基端部分に内嵌されたブッシュ11を介してプラグ12によって抜け止めされている。
【0025】
図1に示すように、弁体7は、ステンレス鋼(例えば、SUS316)により円板状に形成され、弁座4と当接可能な弁部7aと、弁体7を弁体支持部5bに固定するための軸部7bと、凹部7cと、環状の拡張部13とが
同心状に一体形成されている。
この弁体7は、流路3内を流れる流体流量が多いとき、弁部7aが弁座4から下流側へ離隔して開弁し、流体の流れが止まったとき、弁体7の自重により弁部7aが弁座4に当接して閉弁するように構成されている。
【0026】
弁部7aは、閉弁状態の弁体7の外周部分において上流側へ突出するように形成され、弁部7aの上流側端面が弁座4の下流側端面と面接触するように環状に構成されている。軸部7bは、閉弁状態の弁体7の中央部分から下流側へ延びるように形成され、下流端部分には雄ねじが形成されている。この軸部7bは、弁体支持部5bに上流側から挿通され、雄ねじに螺合可能なナット15によって弁体支持部5bに固定される。
凹部7cは、閉弁状態の弁体7の上流側部分に凹入形成され、凹部7cの軸心方向の厚さが、弁部7aの軸心方向の厚さよりも小さく設定されている。
【0027】
図1に示すように、拡張部13は、閉弁状態の弁部7aの下流端全周から弁体7の径方向外側へ環状に張り出し、その軸心方向の厚さが、弁部7aの軸心方向の厚さ、更には、凹部7cの軸心方向の厚さよりも小さく形成されている。それ故、拡張部13は、弁体7が閉弁状態のとき弁座4の外周側の壁部2dから下流側へ離隔して配置されている。
【0028】
次に、スイング式逆止弁1の作用・効果について説明する。
図3(a)に示すように、流路3内の流体の流速が略零の閉弁状態のとき、弁体7の揚弁力(弁体7が流体から受ける力)Fwaは、次式(1)のように表すことができる。
Fwa=π(ra)
2×△P …(1)
raは弁部7a(内周端)の半径、△Pは配管内の流体圧変化に起因する一次圧と二次圧との差圧である。尚、説明の便宜上、弁体7に作用する圧力分布の項を省略し、流体の動圧が弁体7に一律に作用する簡易モデルにより説明する。
【0029】
図3(b),
図3(c)に示すように、弁部7aが弁座4から下流側へ離隔した開弁状態直後のとき、弁体7の揚弁力Fwbは、次式(2)のように表すことができる。
Fwb=(1/2)×ρ×π(rb)
2×cosθ×(Vb)
2×Cx …(2)
ρは流体密度、rb(ra<rb)は拡張部13を含む弁体7の半径、θは鉛直方向に対する弁体7の傾き、Cxは抵抗係数、Vbは流速であり、この流速Vbは傾きθに依存する。
【0030】
ここで、次式(3)に示す閉弁モーメントMcが次式(4)に示す開弁モーメントMoよりも大きいとき、チャタリングが発生する。
Mc=M×g×sinθ×L …(3)
Mはアーム5と弁体7の合計重量、gは重力加速度、Lは回動軸6からアーム5と弁体7との重心Gまでの距離である。
Mo=Fwb×L …(4)
そこで、スイング式逆止弁1の弁体7では、所定の低流量でも開弁モーメントMoが閉弁モーメントMcよりも大きくなるように、Mを抑え、rb(拡張部13の面積)を大きくなるように設定している。
【0031】
以上のように、スイング式逆止弁1では、弁体7の重量増加を抑制しつつ、開弁状態の弁体7の受圧面積π(rb)
2を、閉弁状態の弁体7の受圧面積π(ra)
2よりも拡大することができる。即ち、開弁状態の流体流量が同じ従来型の弁体(半径がra)と弁体7とを比較したとき、弁体7の受圧面積π(rb)
2を従来型の弁体の受圧面積π(ra)
2よりも大きくすることができ、これに伴い揚弁力も大きくできるから、弁体7上流側の流体圧変化が生じた場合でも、従来型の弁体と比べて開弁モーメントMoを閉弁モーメントMcよりも大きな状態に維持することができる。
【0032】
次に、3種類の弁体A〜Cを用いた検証実験により実証されたスイング式逆止弁1の効果について説明する。この検証実験では、
図4に示す従来の弁体Aと、弁体7から拡張部13を省略した弁体Bと、弁体7と同じ構造の弁体Cとを準備した上で、上流側からコンプレッサにより加圧された流体を流し、チャタリング発生が停止したときのコンプレッサ出力を夫々計測した。尚、弁体Aの半径と弁体Bの半径と弁体Cの弁座半径は同一とされ、その他、弁ケース、アーム等の構成は何れも同じ仕様に設定されている。
【0033】
検証実験の結果を下記対比表に示す。
【表1】
以上のように、弁体B,Cは、弁体Aに比べて軽量化されているため、チャタリング発生域を低流量(低圧)側に移動でき、チャタリングが早期に抑制されている。
弁体Cは、弁体Bに比べて弁体重量は増加しているものの、拡張部13による受圧面積の拡大により、開弁状態における揚弁力を増加でき、弁体Bよりもチャタリングの抑制効果が格段に高いことが分かる。
【0034】
スイング式逆止弁1によれば、弁部7aの少なくとも一部から弁体7の径方向外側へ張り出した拡張部13を設けたことにより、開弁状態における流体を受ける弁体7の受圧面積を従来型の弁体Aの受圧面積よりも増加することができるため、開弁により弁体7上流側の流体圧が減少しても、弁体7に作用する揚弁力の低下を抑制でき、弁体7と弁座4との当接頻度を抑制してチャタリングの発生を回避することができる。
【0035】
拡張部13の軸心方向の厚さが弁部7aの軸心方向の厚さよりも小さく形成され、拡張部13は、弁体7が閉弁状態のとき弁座4の外周側の壁部2dから流路3を流れる流体の流れ方向の下流側へ離隔するように形成されたため、閉弁状態のとき、拡張部13が弁座4の外周側の壁部2dと当接しないため、拡張部13の軸心方向の厚さを小さくすることができ、弁体7の軽量化によりチャタリングの発生を一層防止することができる。
【0036】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、拡張部を弁部の下流端全周から径方向外側へ張り出した例を説明したが、少なくとも開弁状態における流体の受圧面積を閉弁状態における流体の受圧面積よりも増加出来ればよく、全周のうちの一部から部分的に径方向外側へ張り出した拡張部であっても良い。また、他のチャタリング防止技術と併用することも可能である。
【0037】
2〕前記実施例においては、流体として気体用のスイング式逆止弁の例を説明したが、液体用のスイング式逆止弁に適用することも可能である。
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。