特許第5921203号(P5921203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921203
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】土壌改良方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   B09B3/00 EZAB
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-5305(P2012-5305)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-144271(P2013-144271A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2014年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】302064762
【氏名又は名称】株式会社日本総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓一
【審査官】 原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−247546(JP,A)
【文献】 特開2008−072985(JP,A)
【文献】 特開2012−202871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/10−1/10
B09B 1/00−5/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類を含む有害物質に汚染された土壌内に、重金属類を餌とするミミズを導入する工程と
前記土壌内への導入から所定の期間経過した後に、前記土壌内のうちの一部の領域に前記ミミズを誘引する誘引領域を形成する工程と、
前記ミミズを前記誘引領域に誘引する工程と、
前記誘引領域に誘引された前記ミミズを回収する工程と
を有する、土壌改良方法。
【請求項2】
前記誘引領域を形成する工程において、ミミズを誘引する嗜好性生理活性物質を前記土壌内に注入することによって、前記土壌内のうちの嗜好性生理活性物質が注入された領域に前記前記誘引領域を形成する、
請求項1に記載の土壌改良方法。
【請求項3】
前記誘引領域を形成する工程において、中空管を前記土壌内に挿入し、当該中空管を介して前記嗜好性生理活性物質を前記土壌内に注入する、
請求項2に記載の土壌改良方法。
【請求項4】
前記ミミズを導入する工程の前に、前記土壌内のうちの一部の領域に前記ミミズを抑留する抑留領域を形成する工程を
さらに有し、
前記ミミズを導入する工程において、形成された前記抑留領域内に前記ミミズを導入し、
前記誘引領域を形成する工程において、前記土壌内であって、前記抑留領域の内側の領域に前記誘引領域を形成し、
前記誘引する工程において、前記抑留領域内に導入された前記ミミズを前記誘引領域に誘引する、
請求項1乃至3の何れかに記載の土壌改良方法。
【請求項5】
前記抑留領域を形成する工程において、ミミズが嫌忌する忌避性生理活性物質を前記土壌内のうちの一部の領域を囲むように当該土壌内に注入することによって前記抑留領域を形成する、
請求項4に記載の土壌改良方法。
【請求項6】
前記抑留領域を形成する工程において、中空管を前記土壌に挿入し、当該中空管を介して前記忌避性生理活性物質を前記土壌内に注入する、
請求項5に記載の土壌改良方法。
【請求項7】
前記抑留領域を形成する工程において、前記忌避性生理活性物質が複数箇所において前記土壌の表面付近から鉛直方向に分布するように、前記中空管を介して当該忌避性生理活性物質を前記土壌内に注入することにより、前記土壌内に前記抑留領域内外を鉛直方向に仕切る領域を形成する
請求項6に記載の土壌改良方法。
【請求項8】
前記抑留領域を形成する工程において、前記忌避性生理活性物質が前記土壌内の所定の深さにおいて水平方向に分布するように、前記中空管を介して当該忌避性生理活性物質を前記土壌内に注入することにより、前記土壌内に前記抑留領域内外を水平方向に仕切る領域を形成する
請求項6又は7に記載の土壌改良方法。
【請求項9】
前記抑留領域を形成する工程において、複数の板材を前記土壌内のうちの一部の領域を囲むように前記土壌に配設することによって前記抑留領域を形成する、
請求項4に記載の土壌改良方法。
【請求項10】
前記誘引領域を前記抑留領域内に形成する、
請求項4乃至9の何れかに記載の土壌改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類により汚染された土壌を改良するための土壌改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重金属類による土壌汚染が問題となっており、土壌に含まれる重金属類を除去し、土壌を改良又は浄化する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、重金属類により汚染された土壌にヨウシュヤマゴボウを植栽し、そのヨウシュヤマゴボウに土壌に含まれる重金属類を摂取させ、生育後に当該ヨウシュヤマゴボウの地上部を除去することによって、土壌を改良する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−113858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、植物は水を介してしか土壌内に含まれる成分を吸収することができないため、この方法では、水溶性でない重金属類については除去することができない。また、植物の場合、移動することができないため、広い範囲の土壌を改良することが困難であるという問題もある。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、上記課題を解決することができる土壌改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、重金属類を摂取する動物を利用することによって、重金属類により汚染された土壌の改良を効率良く行うことができると考え、その動物としてミミズに着目した。例えば、“ジェームス・オーウェン(James Owen)、「Heavy Metal-Eating “Superworms”Unearthed in U.K.」、[online]、2008年10月7日、National Geographic、[2011年11月22日検索]、インターネット(URL:http://news.nationalgeographic.com/news/2008/10/081007-super-worms.html)”に開示されているように、近年、土壌に含まれる重金属類を餌として摂取するミミズが発見されている。このミミズは、土壌に含まれる重金属類を餌として摂取し、体内に蓄積することができる。また、このミミズは、通常の生物が生存することができないような高濃度に汚染された土壌においても、生息することが可能である。
【0007】
そこで、本発明者は、このミミズを利用して土壌改良を行う方法について鋭意検討した。このミミズを汚染された土壌に導入することにより当該土壌の浄化を進めることが期待できる一方で、ミミズの場合、摂取した重金属類を体内に蓄積するため、そのように体内に重金属類を蓄積したミミズが土壌内で死滅した場合、その蓄積された重金属類は土壌内に放出されてしまい、土壌が再度汚染されてしまう等の問題が生じ得る。本発明者は、このような問題を回避しつつ、効率良く土壌改良を行う方法として、下記の発明をした。
【0008】
すなわち、本発明の一の態様の土壌改良方法は、重金属類を含む有害物質に汚染された土壌内に、重金属類を餌とするミミズを導入する工程と前記土壌内への導入から所定の期間経過した後に、前記土壌内のうちの一部の領域に前記ミミズを誘引する誘引領域を形成する工程と、前記ミミズを前記誘引領域に誘引する工程と、前記誘引領域に誘引された前記ミミズを回収する工程とを有する
【0009】
前記態様における前記誘引領域を形成する工程において、ミミズを誘引する嗜好性生理活性物質を前記土壌内に注入することによって、前記土壌内のうちの嗜好性生理活性物質が注入された領域に前記前記誘引領域を形成するようにしてもよい。
【0010】
また、前記態様における前記誘引領域を形成する工程において、中空管を前記土壌内に挿入し、当該中空管を介して前記嗜好性生理活性物質を前記土壌内に注入するようにしてもよい。
【0011】
また、前記態様において、前記ミミズを導入する工程の前に、前記土壌内のうちの一部の領域に前記ミミズを抑留する抑留領域を形成する工程をさらに有し、前記ミミズを導入する工程において、形成された前記抑留領域内に前記ミミズを導入し、前記誘引領域を形成する工程において、前記土壌内であって、前記抑留領域の内側の領域に前記誘引領域を形成し、前記誘引する工程において、前記抑留領域内に導入された前記ミミズを前記誘引領域に誘引するようにしてもよい。
【0012】
また、前記態様における前記抑留領域を形成する工程において、ミミズが嫌忌する忌避性生理活性物質を前記土壌内のうちの一部の領域を囲むように当該土壌内に注入することによって前記抑留領域を形成するようにしてもよい。
【0013】
また、前記態様における前記抑留領域を形成する工程において、中空管を前記土壌に挿入し、当該中空管を介して前記忌避性生理活性物質を前記土壌内に注入するようにしてもよい。
【0014】
また、前記態様における前記抑留領域を形成する工程において、前記忌避性生理活性物質が複数箇所において前記土壌の表面付近から鉛直方向に分布するように、前記中空管を介して当該忌避性生理活性物質を前記土壌内に注入することにより、前記土壌内に前記抑留領域内外を鉛直方向に仕切る領域を形成するようにしてもよい。
【0015】
また、前記態様における前記抑留領域を形成する工程において、前記忌避性生理活性物質が前記土壌内の所定の深さにおいて水平方向に分布するように、前記中空管を介して当該忌避性生理活性物質を前記土壌内に注入することにより、前記土壌内に前記抑留領域内外を水平方向に仕切る領域を形成するようにしてもよい。
【0016】
また、前記態様における前記抑留領域を形成する工程において、複数の板材を前記土壌内のうちの一部の領域を囲むように前記土壌に配設することによって前記抑留領域を形成するようにしてもよい。
【0017】
また、前記態様において、前記誘引領域を前記抑留領域内に形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る土壌改良方法によれば、土壌に含まれる種々の重金属類を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態1に係る土壌改良方法の手順を示すフローチャート。
図2】実施の形態1に係るフェロモン注入管を挿入した土壌を示す斜視図。
図3】実施の形態1に係る忌避性フェロモンを注入しているときの土壌内を示す模式図。
図4】実施の形態1に係る嗜好性フェロモンを注入しているときの土壌内を示す模式図。
図5】実施の形態2に係る土壌改良方法の手順を示すフローチャート。
図6】実施の形態2に係る囲い板及び仕切り板を挿入した土壌を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す各実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法及び装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は下記のものに限定されるわけではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0023】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る土壌改良方法は、重金属類を餌とするミミズを用いる土壌改良方法であって、フェロモンを用いることによって重金属類により汚染された土壌内にミミズを抑留し、その土壌に含まれる重金属類をミミズに摂取させることにより土壌内の重金属類を除去し、その後にフェロモンを用いることによってそのミミズを回収する土壌改良方法である。
【0024】
本実施の形態に係る土壌改良方法の詳細な手順について、フローチャート等を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態における土壌改良方法の手順を示すフローチャートである。まず、ミミズを土壌に導入する前に、土壌にフェロモンを注入するための12本の第1フェロモン注入管及び4本の第2フェロモン注入管を土壌に挿入する(S101)。
【0025】
図2は、第1フェロモン注入管及び第2フェロモン注入管が挿入された土壌を示す斜視図である。第1フェロモン注入管11,11,…はそれぞれ、中空管で構成されており、管の側面に複数の貫通孔(図示せず)を設けている。これらの貫通孔は、管の中間から先端にかけて、管の長さ方向に沿って並んで設けられている。第1フェロモン注入管11,11,…の管内を通流したフェロモンは、これらの貫通孔から管外へ放出される。これにより、第1フェロモン注入管11,11,…の側面からフェロモンが放出されることになる。また、第2フェロモン注入管12,12,…は、同じく中空管で構成されており、管の先端部分に貫通孔(図示せず)を設けている。第2フェロモン注入管12,12,…の管内を通流したフェロモンはこの貫通孔を介して管外へ放出される。これにより、第2のフェロモン注入管の先端部分からフェロモンが放出されることになる。
【0026】
図2に示すとおり、第1フェロモン注入管11,11,…は、改良対象となる土壌E1を囲むように、土壌E1の周辺に沿って、土壌E1内に鉛直方向に挿入される。ここで、第1フェロモン注入管11,11,…は、貫通孔が設けられている管の先端から中間までの部分が土壌E1内に埋没し、それ以外の部分が土壌E1から突出するように挿入される。なお、以下では、この第1フェロモン注入管11,11,…により囲まれた範囲を、改良対象区画C1と表現する。第2フェロモン注入管12,12,…は、改良対象区画C1の内側において鉛直方向に挿入される。また、第2フェロモン注入管12,12,…は、その先端部分が、第1フェロモン注入管11,11,…の側面に設けられた貫通孔の位置よりも深い位置となるように、土壌E1内に挿入される。このようにして土壌E1内に挿入された第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…の貫通孔から放出されるフェロモンによって、以下で詳細に説明するようにミミズを抑留する抑留領域G1が形成される。
【0027】
上記のように第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…を土壌E1内に挿入した後、第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…のそれぞれから、ミミズが嫌忌する忌避性フェロモンの土壌E1への注入を開始する(S102)。ここで、忌避性フェロモンは、30分程度土壌E1内に注入される。また、この忌避性フェロモンの注入は土壌E1の改良が終了するまでの間、所定の時間間隔(例えば3日毎等)で繰り返し行われる。
【0028】
図3は第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…より、土壌E1に忌避性フェロモンの注入しているときの土壌E1の断面を示す模式図である。ここで、A1,A1は、第1フェロモン注入管11,11より土壌E1内に注入された忌避性フェロモンの土壌E1内における分布を示している。第1フェロモン注入管11,11には、複数の貫通孔が管の中間から先端部分にかけて並設されており、これらの貫通孔が土壌E1内に埋没するように、第1フェロモン注入管11,11が土壌E1内に鉛直方向に挿入されている。そのため、図3に示すように、分布A1,A1は、土壌E1の表面付近から第1フェロモン注入管11の先端付近まで鉛直方向に広がっている。このような分布A1,A1が第1フェロモン注入管11,11,…毎に生じることによって、水平方向におけるミミズWの移動範囲を制限することが可能になる。
【0029】
また、図3において、A2,A2は、第2フェロモン注入管12,12より土壌E1に注入された忌避性フェロモンの分布を示している。上述したように、第2フェロモン注入管12,12の先端部分にフェロモンを放出する貫通孔が設けられているため、分布A2,A2は、第2フェロモン注入管12の先端部分を中心として土壌E1内に広がっている。このような分布A2,A2が第2フェロモン注入管12,12,…毎に生じることによって、第2フェロモン注入管12,12,…の先端部分の位置の深さにおいて忌避性フェロモンが水平方向に分布することになる。これにより、深さ方向におけるミミズWの移動範囲を制限することが可能になる。
【0030】
上述したように、分布A1,A1により土壌E1内での水平方向のミミズWの移動範囲が、分布A2,A2により同じく深さ方向のミミズWの移動範囲がそれぞれ制限されることになる。これにより、分布A1,A1及び分布A2,A2により囲まれた領域である抑留領域G1内にミミズを抑留することができる。
【0031】
上記のようにして忌避性フェロモンを土壌E1内に注入した後、これにより形成された抑留領域G1内に、予め繁殖させておいた重金属類を餌とするミミズを複数匹、土壌E1内に導入する(S103)。なお、ミミズを土壌E1に導入する場合、土壌E1内においてできる限り均等にミミズが存在するようにするために、トラクターによる掘り返し等の作業を事前に行っておくことが望ましい。このようにして土壌E1内に導入されたミミズは、忌避性フェロモンの作用により抑留領域G1内に留まる。そのため、抑留領域G1の外へミミズが逸出することを防止することができる。このように土壌E1内に導入され、抑留領域G1内に抑留されたミミズは、この抑留領域G1内を移動しながら、抑留領域G1内に含まれる重金属類を餌として摂取し、その摂取した重金属類を体内に蓄積していく。なお、後述するように、土壌E1内にミミズを導入してから一定期間経過した後に、土壌E1内から回収したミミズの総重量と土壌E1内に導入する前のミミズの総重量との比較結果に基づいて、全てのミミズが回収されたか否かの判定を行う。この判定を行うために、ステップS103においてミミズを土壌E1内に導入する前に、そのミミズの総重量を測定し、記録しておく。
【0032】
ミミズを土壌E1に導入し、2週間程度経過した後、改良対象区画C1内に第3フェロモン注入管を土壌E1内に鉛直方向に挿入する(S104)。図4は第3フェロモン注入管13を挿入した土壌E1の断面を示す模式図である。第3フェロモン注入管13は、第2注入管12と同様に構成されており、その先端部分に設けられた貫通孔(図示せず)よりフェロモンを放出することができる。ステップS104において、第3フェロモン注入管13は、その先端部分が第2フェロモン注入管12,12,…の先端部分よりも浅い位置となるように抑留領域G1内に挿入される。
【0033】
第3フェロモン注入管13を土壌E1内に挿入した後、その第3フェロモン注入管13の貫通孔を介して、ミミズを誘引する作用がある嗜好性フェロモンの土壌E1への注入を開始する(S105)。ここで、嗜好性フェロモンは、24時間毎に30分程度土壌E1に注入される。図4において、A3は、第3フェロモン注入管13より土壌E1内に注入された嗜好性フェロモンの分布を示している。上述したように、第3フェロモン注入管13の先端部分にはフェロモンを放出するための貫通孔が設けられており、その先端部分が抑留領域G1内となるように第3フェロモン注入管13が土壌E1内に挿入されているため、分布A3は、第3フェロモン注入管13の先端部分を中心として抑留領域G1内に広がっている。この嗜好性フェロモンの分布A3が存在する領域が、ミミズを誘引する誘引領域となる。
【0034】
なお、本実施の形態では、ミミズを土壌E1に導入してから2週間程度経過した後にステップS104及びS105を行って嗜好性フェロモンを注入しているが、そのタイミングについては、土壌E1のサイズ及び導入されるミミズの量等に応じて適宜決定される。
【0035】
ステップS105により嗜好性フェロモンが注入されると、土壌E1内に導入されたミミズは、嗜好性フェロモンの作用により、抑留領域G1内に形成された誘引領域に集まる。なお、ステップS105によって嗜好性フェロモンを土壌E1に注入している間も、第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…を介して忌避性フェロモンが継続して注入される。これにより、抑留領域G1内に形成された誘引領域に確実にミミズを集めることができる。
【0036】
上述したように、本実施の形態では、ミミズを土壌E1内に導入してから2週間程度経過した後に第3フェロモン注入管13を土壌E1内に挿入して嗜好性フェロモンの土壌E1内への注入を行っているが、このミミズを土壌E1内に導入してから嗜好性フェロモンを土壌E1内へ注入するまでの期間はこれに限られるわけではない。この期間は、主に土壌E1内に含まれる重金属類の量及び土壌E1内に導入するミミズの量等によって決定することが望ましい。
【0037】
嗜好性フェロモンを土壌E1内に注入し、3日程度経過した後、土壌E1よりミミズを回収する(S106)。このステップS106の具体的な内容について以下に説明する。まず、誘引領域を含む第3フェロモン注入管13周辺の土壌を回収する。この回収した土壌を篩いにかけ、ミミズのみを取り出す。ミミズを取り出した後、ミミズと共に回収した土壌は元に戻す。なお、嗜好性フェロモンを土壌E1内に注入してから、ミミズを回収するまでの期間は、土壌E1内に導入されたミミズの量及び改良対象となる土壌E1の広さ等によって決定することが望ましい。
【0038】
上述したようにしてミミズを回収した後、嗜好性フェロモンの注入を終了し(S107)、導入したミミズが全て回収されたか否かを判定する(S108)。このステップS108の具体的な内容について以下に説明する。まず、回収したミミズを水洗いし、重量を計測する。そして、このようにして計測したミミズの総重量(回収後の総重量)と、上述したように土壌E1内に導入する前に計測したミミズの総重量(導入前の総重量)とを比較する。ここで、導入前の総重量と回収後の総重量との差が所定の数値範囲内にある場合、土壌E1内に導入された全てのミミズが回収されたと判定される。なお、この数値範囲は、ミミズの成長による総重量の増加及びミミズの死滅による総重量の減少等を考慮して定められる。また、同世代の多数のミミズを一定期間成育させた場合にどの程度重量が変化するのかを事前に実験しておき、その実験において計測された変化量に基づいて上記の数値範囲を決めるようにしてもよい。
【0039】
ステップS108において、ミミズが全て回収されていないと判定された場合(S108でNO)、再度ステップS105からステップS107の工程を繰り返す。他方、全てのミミズが回収されたと判定された場合(S108でYES)、第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…からの忌避性フェロモンの注入を終了し(S109)、土壌E1内に挿入された第1フェロモン注入管11,11,…、第2フェロモン注入管12,12,…、及び第3フェロモン注入管13を全て回収し(S110)、土壌E1の改良処理を終了させる。
【0040】
このように、本実施の形態では、重金属類を餌とするミミズを土壌E1内に導入し、所定の期間経過後にそのミミズを回収する。土壌E1内に導入されたミミズは、土壌E1に含まれる種々の重金属類を口から摂取し、体内に蓄積している。そのため、そのミミズを回収することによって、土壌E1に含まれている種々の重金属類を除去することができる。
【0041】
また、本実施の形態では、改良対象となる土壌E1内の特定の領域を忌避性フェロモンの分布により囲っている。これにより、改良対象となる土壌E1からミミズが逸出することを防ぎ、土壌E1に導入されたミミズを確実に回収することができる。さらに、所定の期間経過後に、ミミズを誘引する作用を有する嗜好性フェロモンを土壌E1内に注入し、これにより形成された特定の領域内にミミズを誘引している。これにより、土壌E1内に導入されたミミズを容易に回収することができる。
【0042】
なお、本実施の形態においては、嗜好性フェロモンを抑留領域G1内に注入することにより、抑留領域G1内に誘引領域を形成している。この誘引領域を抑留領域G1の外に設けてミミズを回収することも可能であるが、本実施の形態のように、誘引領域を抑留領域G1内に設けることにより、抑留領域G1内にミミズを抑留した状態を維持した上で回収作業を行うことができるため、より確実にミミズを回収することができる。
【0043】
また、本実施の形態では、忌避性フェロモンを用いて特定の領域にミミズを抑留し、また、嗜好性フェロモンを用いて特定の領域にミミズを誘引している。このようなフェロモンの作用は一定期間経過すると消滅するため、上述した土壌改良方法を施した後、改良対象となった土壌E1の洗浄又は浄化等の特別な後処理を行う必要はない。そのため、特別な後処理を行うことなく改良後の土壌E1を利用することができる。
【0044】
なお、ステップS110を実行した後に、第1フェロモン注入管11,11,…等を用いて忌避性フェロモンを土壌E1の全体にわたって注入するようにしてもよい。これにより、回収されなかったミミズがいる場合でもそれらのミミズを死滅させることができ、重金属類の拡散を防止することができる。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態1では、上述したとおり、フェロモンを利用することによってミミズの抑留及び回収を行う。これに対し、実施の形態2に係る土壌改良方法では、板材を用いることによってミミズの抑留及び回収を行う。
【0046】
本実施の形態に係る土壌改良方法の詳細な手順について、フローチャート等を参照しながら説明する。
図5は本実施の形態に係る土壌改良方法の手順を示すフローチャートである。まず、ミミズを導入する前に、特定の領域を囲むように配設される4枚の長方形状の囲い板と、それらの囲い板によって囲まれた領域をさらに6つの領域に分割するための7枚の長方形状の仕切り板とを、改良対象となる土壌に挿入する(S201)。
【0047】
図6は、囲い板21,21,…及び仕切り板22,22,…が挿入された土壌E2を示す斜視図である。囲い板21,21,…は、改良対象となる土壌E2の四辺を囲うように、土壌E2に鉛直方向に挿入される。本実施の形態においては、これらの囲い板21,21,…により囲まれた領域が、実施の形態1における抑留領域に相当することになる。仕切り板22,22,…は、囲い板21,21,…により囲まれた範囲を、平面視矩形状の6つの領域F1,F2,F3,F4,F5,F6に等分するように、囲い板21,21,…により囲まれた範囲内の土壌E2に鉛直方向に挿入される。このようにして囲い板21,21,…及び仕切り板22,22,…を土壌E2に挿入することにより6つの領域F1,F2,F3,F4,F5,F6を形成した後、領域F1に複数匹のミミズを導入する(S202)。このように領域F1に導入されたミミズは、実施の形態1の場合と同様に、領域F1内に含まれる重金属類を餌として摂取し、その摂取した重金属類を体内に蓄積していく。
【0048】
次に、ミミズを他の領域F2,F3,F4,F5,F6に順次移動させていく(S203)。このステップS203の具体的な内容を以下に説明する。領域F1にミミズを導入し、3日程度経過した後、ミミズを領域F1から領域F2に移動させる。この移動は、領域F1と領域F2との間を仕切る仕切り板22を土壌E2から抜き取ることにより行われる。領域F1と領域F2との間を仕切る仕切り板22を土壌E2から抜き取ると、領域F1と領域F2との間をミミズが移動可能となる。ここで、既にミミズが導入されている領域F1においては、土壌E2に含まれている重金属類をミミズが餌として摂取しているため、領域F2と比較すると土壌に含まれる重金属類の量は低下している。このため、領域F1にいるミミズは、餌である重金属類をより多く含む領域F2へと移動する。ミミズが領域F2へ移動し、3日程度経過した後、次は、領域F2から領域F3に、ミミズを移動させる。この移動は、上述した領域F1から領域F2への移動と同様の方法であるため、説明を省略する。その後も同様に、領域F4,F5,F6へ順次ミミズを移動させていく。領域F6へミミズが移動した後、領域F6からミミズが逸出するのを防ぐために、領域F6と領域F5との間に仕切り板22を挿入し、各領域間の移動を終了させる。なお、本実施の形態においては、この領域F6が実施の形態1における誘引領域に相当する。
【0049】
なお、本実施の形態では、各領域にミミズを導入してから3日程度経過した後に他の領域にミミズを移動させているが、そのタイミングについては、各領域のサイズ及び導入されているミミズの量等に応じて適宜決定される。
【0050】
上述したようにしてミミズを領域F6まで移動させてから3日程度経過した後、領域F6よりミミズを回収する(S204)。このステップS204は、実施の形態1のステップS106と同様にして行われる。すなわち、領域F6内の土壌を回収し、その回収した土壌を篩いにかけてミミズのみを取り出し、回収した土壌を元に戻す。
【0051】
上記のようにミミズを回収した後、導入したミミズが全て回収されたかを確認する(S205)。なお、ここでの確認の方法は実施の形態1のステップS108における判定の方法と同様であるため、その説明を省略する。ミミズが全て回収されたことが確認された後、土壌E2に挿入された囲い板21,21,…及び仕切り板22,22,…を全て回収し(S206)、土壌E2の改良処理を終了させる。
【0052】
このように、本実施の形態では、囲い板21,21,…及び仕切り板22,22,…を用いて抑留領域を形成している。これらの板材を土壌E2に挿入するのみで、ミミズを改良対象となる土壌E2内にミミズを抑留することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、改良対象となる土壌E2を複数の領域に分割し、それらの各領域にミミズを順次移動させていくため、どの領域にミミズがいるのかを把握することができる。これにより、ミミズを容易且つ確実に回収することができる。
【0054】
(その他の実施の形態)
上記の各実施の形態においては、改良対象となる土壌内にミミズを導入しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、土壌内を移動しながらその土壌に含まれる重金属類を摂取し、体内に蓄積できる生物であれば、他の生物であってもよい。但し、上述したように重金属類を餌として摂取するミミズが既に発見されているため、そのミミズを用いることによって本発明を容易に実現することができる。なお、ミミズの場合、他の生物と比較して、多量の重金属類等を生態濃縮により体内に蓄積することができるため、ミミズを用いて本発明を実現することによって、他の生物が生息できないような汚染土壌に対しても本発明の土壌改良方法を適用することができる。
【0055】
また、実施の形態1においては、フェロモンを用いて、土壌E1に導入されたミミズを特定の領域に抑留し、又は特定の領域に誘引しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、土壌E1に導入されたミミズを特定の領域に抑留又は誘引することができるのであれば、酵素、ホルモン、又は有機化合物等のような生理活性物質を用いてもよい。
【0056】
また、実施の形態1においては、側面からフェロモンを放出可能な第1フェロモン注入管11,11,…及び先端からフェロモンを放出可能な第2フェロモン注入管12,12,…それぞれを土壌E1に挿入し、当該第1フェロモン注入管11,11,…及び第2フェロモン注入管12,12,…より忌避性フェロモンを土壌E1内に注入することによって、抑留領域G1を形成しているが、他の構成の中空管等を用いて本発明を実現することも可能である。例えば、コの字型の中空管で構成され、管に沿って穿設された貫通孔からフェロモンを放出することが可能なフェロモン注入管を用いてもよい。この場合、複数のフェロモン注入管を、その両端のみが地上に出るように土壌E1内に埋設する。このとき、各フェロモン注入管は、平面視で格子状となるように土壌E1内に配設される。このように配設された複数のフェロモン注入管を介して忌避性フェロモンを土壌E1内に注入することにより、これらのフェロモン注入管で囲まれた領域を抑留領域G1とすることができる。
【0057】
また、実施の形態1においては、第2フェロモン注入管12,12,…から土壌E1の所定の深さに忌避性フェロモンを注入することで、ミミズの深さ方向への移動を制限しているが、この忌避性フェロモンの注入は行わなくても構わない。ミミズは土壌内の酸素濃度等の影響から、土壌表面から1m以内の範囲内で主に活動する。このため、例えば第1フェロモン注入管11,11,…を介して忌避性フェロモンを注入することによって深さ1m程度までの位置におけるミミズの水平方向の移動を制限することにより、実質的にミミズを土壌の特定の領域に抑留することが可能となる。そのため、深さ方向への移動を制限するために第2フェロモン注入管12,12,…を介して忌避性フェロモンを注入しなくてもよく、土壌の酸素濃度等に応じて適宜行えばよい。
【0058】
なお、実施の形態2においては、深さ方向へのミミズの移動を制限するために板材等を用いていないが、上述したように、深さ方向への移動制限は必ずしも行う必要はないため、特に問題はない。但し、例えば土壌内の特定の深さにおいて板材を水平に配設する等して、ミミズが抑留領域から逸出することを確実に防止するようにしてもよい。
【0059】
また、実施の形態2においては、改良対象となる土壌E2を囲い、複数の領域に分割するために板材を用いているが、その他の態様で分割するようにしてもよい。例えば、実施の形態1の場合のように、忌避性フェロモンを用いて、改良対象となる土壌E2を囲い、さらにその囲った領域を複数の領域に分割するようにしてもよい。この場合、忌避性フェロモンの注入を停止し、所定の期間が経過することで、当該忌避性フェロモンの効果が消失し、隣接する領域間の移動が可能となる。また、忌避性フェロモンを用いる方法と、板材を用いる方法とを適宜組み合わせて、改良対象となる土壌E2を囲い、その囲った領域を複数の領域に分割するようにしてもよい。
【0060】
また、実施の形態2においては、土壌よりミミズを回収した後、回収したミミズの量を確認するのみであるが、実施の形態1の場合と同様にして、回収したミミズの量を導入したミミズの量と比較し、その比較結果に応じて全量のミミズが回収されたか否かを判定してもよい。ここで、全量のミミズが回収されていなかった場合、領域F6のより深い位置から土壌を回収してミミズを探索する、又は領域F1〜F5の土壌を回収してミミズを探索する等の作業を繰り返して行い、導入したミミズを全量回収することが望ましい。
【0061】
なお、忌避性フェロモン及び嗜好性フェロモンの効果は、含水率及び土性等の土壌環境に左右される。そのため、これらフェロモンを土壌内に注入する量及びそのタイミング等については、土壌環境に応じて決定されることが望ましい。また、土壌内でのフェロモンの濃度を検出し、その濃度が所定値を下回った場合に各注入管を介してフェロモンが注入されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の土壌改良方法は、重金属類により汚染された土壌を改良するための方法として有用である。
【符号の説明】
【0063】
11 第1フェロモン注入管
12 第2フェロモン注入管
13 第3フェロモン注入管
21 囲い板
22 仕切り板
A1,A2 忌避性フェロモンの分布
A3 嗜好性フェロモンの分布
C1 改良対象区画
E1,E2 土壌
G1 抑留領域
W ミミズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6