特許第5921300号(P5921300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921300
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】光重合型歯科用表面被覆材キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/00 20060101AFI20160510BHJP
   A61K 6/08 20060101ALI20160510BHJP
   A61K 6/083 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   A61K6/00 A
   A61K6/08 H
   A61K6/083 530
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-91076(P2012-91076)
(22)【出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2013-216641(P2013-216641A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】内田 潤
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
(72)【発明者】
【氏名】寺前 充司
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359551(JP,A)
【文献】 特開2005−154312(JP,A)
【文献】 特開2010−083833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)を含む光重合型歯科用表面被覆材キットであって、
歯科用表面被覆用接着材(1)において、
(A)揮発性有機化合物と(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体の合計量を100重量部としたとき、
(A)揮発性有機化合物を50〜99重量部、
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体を1〜50重量部、
(C)光重合開始剤を0.01〜2重量部
を含み、
光重合型歯科用表面被覆材(2)において、(E)重合性単量体の合計量100重量部としたとき、
(F)光重合開始剤を0.01〜20重量部
を含むことを特徴とする光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項2】
光重合型歯科用表面被覆材(2)に、
(D)揮発性有機化合物を70〜200重量部を含むことを特徴とする請求項1に記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項3】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含むことを特徴とする請求項1記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項4】
(E)重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含むことを特徴とする請求項1記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項5】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含み、
(E)重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含み、
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体と、
(E)重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体の合計量が51〜150重量部であることを特徴とする請求項1記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項6】
(C)光重合開始剤が、α―ケトカルボニル化合物、アシルホスフィンオキシド化合物の内少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項7】
(C)光重合開始剤が第三級アミンを含むことを特徴とする請求項1、6記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項8】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体がジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの内少なくとも1種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【請求項9】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体がウレタンジ(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする
請求項1〜8のいずれかに記載の光重合型歯科用表面被覆材キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合型歯科用表面被覆材キットおよびその方法に関する。さらに詳しくは、修復物の表面に塗布し、透明で表面未重合層が少ない硬化膜を形成させ修復物の滑沢性、耐摩耗性、耐着色性を向上させる光重合型歯科用表面被覆材キットおよびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内で使用される修復物には、インレー、 アンレー、 クラウン、 ブリッジ、前装冠等の歯冠修復物、コンポジットレジン、シーラント等の欠損部等へ充填し修復する為の修復材料、人工歯、床等の義歯を製作する為の補綴材料などがある。
これらの修復物には有機系レジン材料、無機原料と樹脂原料からなるコンポジットレジン等が用いられている。
これらの修復物は、口腔内に露出する材料の表面が可能な限り平滑で滑沢なことが望まれている。
【0003】
修復物が平滑で滑沢なことが求められる理由として、審美性、舌触感、プラーク付着の抑制および対合歯の摩耗や嚥下機能の観点から重要である。そのため修復物は平滑で滑沢さを付与するために、作製工程において研磨作業が必要とされている。
【0004】
口腔外で作製される修復物の研磨作業は、ビトリファイド系砥石を用いて粗研削を行なう工程、ゴムバインダー系の砥石を用いて中研磨および仕上げ研磨を行う工程を経て最終的にバフ研磨仕上げ等を行なう煩雑な作業である。そのため、平滑で滑沢な面を得るには研磨作業に多大な時間を費やさなければならなかった。
口腔内で作製される修復物の研磨作業においても、ゴムバインダー系の砥石を用いて中研磨および仕上げ研磨を行なうが平滑で滑沢な面を得ることが難しかった。
さらに、修復物は口腔内の過酷な環境下での使用により、劣化や摩耗が原因で表面が粗造化する。この粗造化が原因で着色、細菌の付着による汚染を誘発するという問題点もあった。
【0005】
修復物の表面を粗研磨した後、重合性単量体を主成分とする比較的硬度の高い歯科用表面被覆材で修復物の表面を被覆することで、平滑な面を得る方法も知られていた。修復物表面に歯科用表面被覆材を使用することで、修復物の研磨作業における、中研磨以降の研磨工程を省くことが可能となる。
【0006】
従来の歯科用表面被覆材は、紫外線重合型インク等の分野で用いられるアクリル系ハードコート技術を流用した、光重合型オリゴマーと光重合型モノマーと紫外線重合型重合開始剤とから成る紫外線重合型歯科用表面被覆材が多用されていた。しかし、紫外線重合型歯科用表面被覆材は重合時に生体為害性のある紫外線を使用することから、より安全な可視光線重合型重合開始剤を使用する可視光線重合型歯科用表面被覆材が望まれていた。そこで、可視光線重合型歯科用表面被覆材として、(メタ)アクリレート系モノマーと可視光線重合型重合開始剤とを含有する種々の組成物が提案されている。
しかし、(メタ)アクリレート系モノマーを主成分とする光重合型歯科用表面被覆材に光を照射すると、ラジカル重合連鎖反応が開始され重合反応が起こるが、このとき空気中の酸素が重合阻害因子として作用する為、光重合型歯科用表面被覆材の表面に未重合の(メタ)アクリレート系モノマーが残存し、滑沢性に欠ける状態であった。紫外線重合型重合開始剤に比べ可視光線重合型重合開始剤を用いた光重合の場合の方が特に著しくモノマーが残存し、滑沢性に欠ける状態であった。
【0007】
この問題を解決する提案として、表面の硬化性を向上させた各種の光重合型の歯科用表面被覆材が知られている。
特許文献1では、特定の化学式で示されるジペンタエリスリトールアクリレート単量体と該単量体の揮発性溶剤と重合開始剤とを主成分とする可視光重合硬化性組成物が提案されているが、歯科用表面被覆材のチッピングや脱落についても解決されていなかった。更に特許文献1で用いられてる可視光重合触媒は、いずれも黄色味が強く、また可視光照射により得られた硬化膜の色にも黄色味が残存するという欠点があった。
特許文献2では、特定の化学式で示される多官能アクリレート単量体と該単量体の揮発性溶剤とチオキサントン系重合開始剤とを主成分とする可視光重合硬化性組成物が提案されているが、接着材との組み合わせについては記載されておらず、最適な接着材と歯科用表面被覆材との組み合わせについては知られておらず、硬化前後の表面被覆材の変色が低減されたものの、表面被覆材の耐久性や耐摩耗性に劣るという問題があった。
特許文献3では、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールの1
分子中で3以上の水酸基がアクリル酸エステル基に修飾された多官能アクリレート架橋剤と揮発性(メタ)アクリレート化合物と重合開始剤としてアシルホスフィンオキサイドを含有する光重合型歯科用表面被覆材が提案されている。特許文献3に示されている手法では、得られた歯科用光重合型表面被覆材は、従来よりも耐久性や耐摩耗性の向上に寄与したものの、耐摩耗性が充分では無いため、歯磨き等で比較的短期間に光沢が消失し、また被覆材のチッピングや脱落等の問題があった。
【0008】
特許文献4では、一次粒子の平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を充填材として配合し審美性に優れた歯科用硬化性材料が提案され、表面光沢及び審美性や耐久性の向上が報告されている。しかし、特許文献4に示されている手法では、修復材との接着強度が低いために、依然として被覆材のチッピングや脱落等の問題は解決されていなかった。
【0009】
これら先行技術による従来の光重合型歯科用表面被覆材は、被覆材のチッピングや脱落等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−183904号公報
【特許文献2】特開平4−366113号公報
【特許文献3】特開平4−29910号公報
【特許文献4】特開2005−154312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)を含む光重合型歯科用表面被覆材キットであって、修復物表面に歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布し、光重合することで、透明で表面未重合層が少ない硬化膜を短時間で形成させ、レジン修復材の滑沢性、耐久性、耐摩耗性、耐着色性を向上させ、更には、表面被覆材のチッピングや脱落を低減することができる光重合型歯科用表面被覆材キットおよびその方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、
歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)を含む光重合型歯科用表面被覆材キットであって、
歯科用表面被覆用接着材(1)において、
(A) 揮発性有機化合物と(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体の合計量を100重量部としたとき、
(A) 揮発性有機化合物を50〜99重量部、
(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体を1〜50重量部、
(C) 光重合開始剤を0.01〜2重量部、
を含み、
光重合型歯科用表面被覆材(2)において、(E) 重合性単量体の合計量を100重量部としたとき、
(F) 光重合開始剤を0.01〜20重量部、
を含むことを特徴とする光重合型歯科用表面被覆材キット
によって前述の課題を解決することが可能であることを究明して本発明を完成させた。
歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)から構成される光重合型歯科用表面被覆材キットであることが好ましい。
光重合型歯科用表面被覆材(2)に、(D)揮発性有機化合物を70〜200重量部を含むことができる。
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含むことが好ましい。
(E)重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含むことが好ましい。
【0013】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含み、(E)重合性単量体に、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含み、(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体と、(E)重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体の合計量が51〜150重量部を含むことが好ましい。
本発明は歯科用表面被覆用接着材(1)を塗布した後に、重合させずに光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布し、歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)が混合状態で光重合されることが好ましい。歯科用表面被覆用接着材(1)を塗布後に光硬化させ、その後に光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布し光硬化させた場合に比べ、接着性が向上する。
歯科修復物の表面との親和性や歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2) の親和性が向上する為に効果が得られたものと思われる。
【0014】
(C)光重合開始剤が、α―ケトカルボニル化合物、アシルホスフィンオキシド化合物の内少なくとも1種以上を含むことが好ましい。(C)光重合開始剤が第三級アミンを含むことが好ましい。
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体がジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの内少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体がウレタンジ(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)は、(A)揮発性有機化合物と、(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体と、(C)光重合開始剤とを含有してなり、歯科修復物の表面に塗布することで、光重合型歯科用表面被覆材と良好な接着強度を得ることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の光重合型歯科用表面被覆材キットの歯科用表面被覆用接着材(1)を塗布後、本発明の光重合型歯科用表面被覆材キットの光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布し、短時間光重合するだけで、滑沢性、耐久性、耐摩耗性、耐着色性に優れ、透明で光沢のある硬化被膜を形成することができ、更に光重合型歯科用表面被覆材のチッピングや脱落を低減することができる。このため、歯科修復物と良好な接着強度を有するため、長期間にわたり使用することが可能である。
また、歯科修復物の研磨が不要になり、口腔内において摩耗されにくくなる。更に、この硬化被膜は汚染されにくく、汚染による歯科修復物の変色劣化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)および光重合型歯科用表面被覆材(2)について具体的に説明する。
【0018】
本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)は、水を含まないことが好ましい。水が含まれることで重合阻害が生じる可能性がある。
本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)は、塗布した後、光重合させても良いが、光重合させない方が好ましい。光重合させない方が歯科用表面被覆用接着材(1)上に光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布した際のぬれ性が良く、操作性が向上する。また、歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)の接触界面で両者がなじみやすく、混じりあうことで、より高い接着強度を示し、被覆層の耐久性、耐摩耗性に優れる。
【0019】
本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)に配合されている揮発性有機化合物(A)としては、成分(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体および成分(C)光重合開始剤を同時に均一に溶解することができることが好ましい。「均一に溶解」とは、23℃1気圧の環境下で、混合後24時間の静置後に目視での確認で、分離されていないことをいう。
また、常圧での沸点が50−120℃、好ましくは55−100℃の有機化合物を好適に使用することができる。
揮発性有機化合物(A)の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサン等のアルカン系溶媒等を挙げることができる。これらの有機溶剤は単独であるいは組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、生体に対する安全性の観点からアルコール類、ケトン類又はエステル類が好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートである。また更に、良好な揮発除去性も考慮すると、アセトン、エタノール、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0020】
本発明における(A)揮発性有機化合物の配合量は、塗布面の乾燥性及び硬化後の強度を考慮すると、(A) 揮発性有機化合物と(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体の合計を100重量部としたとき、50〜99重量部であり、好ましくは70〜99重量部の範囲である。例えば、99重量部以上では配合量が過多となり接着力が低下することがある。一方、50重量部以下では接着材(1)の粘性が高くなるため、塗布性が劣り、操作が困難となる。また、被膜厚さが増加するため、審美性に欠けてしまう。
【0021】
本発明の光重合型歯科用表面被覆材(2)に配合されている(D)揮発性有機化合物としては、(E)重合性単量体および成分(F)光重合開始剤を同時に均一に溶解することができることが好ましい。「均一に溶解」とは、23℃1気圧の環境下で、混合後24時間の静置後に目視での確認で、分離されていないことをいう。
また、常圧での沸点が50−120℃、好ましくは55−100℃の有機化合物を好適に使用することができる。(D)揮発性有機化合物の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサン等のアルカン系溶媒等を挙げることができる。これらの有機溶剤は単独であるいは組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、生体に対する安全性の観点からアルコール類、ケトン類又はエステル類が好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートである。また更に、良好な揮発除去性も考慮すると、アセトン、エタノール、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0022】
本発明における(D)揮発性有機化合物の配合量は、塗布面の乾燥性及び硬化後の強度を考慮すると(E)
重合性単量体の合計量が100重量部としたとき、70〜200重量部であることが好ましい。例えば、200重量部以上では配合量が過多となり接着力が低下することがある。一方、70重量部以下では光重合型歯科用表面被覆材(2)の粘性が高くなるため、塗布性が劣り、操作が困難となる場合がある。また、被膜厚さが増加するため、審美性に欠けることがある。
【0023】
本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)および光重合型歯科用表面被覆材(2)に配合されている(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体および(E)重合性単量体は、1つ以上のエチレン性不飽和基を含む。これらの重合性単量体の例としては、1つのエチレン性不飽和基を有する単官能重合性単量体、2つのエチレン性不飽和基を有する二官能重合性単量体、3つのエチレン性不飽和基を有する三官能重合性単量体および4つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能重合性単量体などを挙げることができる。
また、本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)および光重合型歯科用表面被覆材(2)に配合されている(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体および(E)重合性単量体は、通常、微量の重合禁止剤を添加している。
【0024】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体において、2つのエチレン性不飽和基を有する二官能重合性単量体の芳香族化合物系として例えば、2、2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等である。
【0025】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体において、2つのエチレン性不飽和基を有する二官能重合性単量体の脂肪族化合物系として例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1、3−ブタンジオールジメタクリレート、1、4−ブタンジオールジメタクリレート、1、6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等である。
【0026】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体において、3つのエチレン性不飽和基を有する三官能重合性単量体として例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等である。
【0027】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体において、4つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能重量性単量体として例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4、4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2、4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジ(メタ)アクリレートとの付加から得られるジアダクト、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート等のようなポリメチロールアルカンやそのエーテルのポリ(メタ)アクリレート等である。
【0028】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体において、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体として例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート等である。なお、エチレン性不飽和結合を5個以上有する多官能重合性(メタ)アクリレートは一分子中に5個以上の(メタ)アクリレートを有していれば、ビニル基など他のエチレン性重合性基が結合していてもよい。これらの化合物は、良好な光重合性を示すと共に、得られた被膜の耐摩耗性および耐汚染性が良好になる。さらに、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートはアクリレート化合物のなかでは低毒性で安全性が高く、しかも光重合性が良好で架橋密度も高くなるため特に好ましく使用される。
【0029】
これら(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体は、単独で使用しても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体において、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体であることが好ましい。
【0030】
(E) 重合性単量体において、1つのエチレン性不飽和基を有する単官能重合性単量体として例えば、p−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−N−フェニルグリシン、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、及びその無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2−ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート等である。
【0031】
(E) 重合性単量体において、2つのエチレン性不飽和基を有する二官能重合性単量体の芳香族化合物系として例えば、2、2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等である。
【0032】
(E) 重合性単量体において、2つのエチレン性不飽和基を有する二官能重合性単量体の脂肪族化合物系として例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1、3−ブタンジオールジメタクリレート、1、4−ブタンジオールジメタクリレート、1、6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト;無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1、2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート等である。
【0033】
(E) 重合性単量体において、3つのエチレン性不飽和基を有する三官能重合性単量体として例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等である。
【0034】
(E) 重合性単量体において、本発明の4つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能重量性単量体として例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4、4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2、4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジ(メタ)アクリレートとの付加から得られるジアダクト、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート等のようなポリメチロールアルカンやそのエーテルのポリ(メタ)アクリレート等である。
【0035】
(E) 重合性単量体において、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体として例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート等である。なお、エチレン性不飽和結合を5個以上有する多官能重合性(メタ)アクリレートは一分子中に5個以上の(メタ)アクリレートを有していれば、ビニル基など他のエチレン性重合性基が結合していてもよい。これらの化合物は、良好な光重合性を示すと共に、得られた被膜の耐摩耗性および耐汚染性が良好になる。さらに、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートはアクリレート化合物のなかでは低毒性で安全性が高く、しかも光重合性が良好で架橋密度も高くなるため特に好ましく使用される。
【0036】
これら(E)重合性単量体は、単独で使用しても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
(E)重合性単量体において、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体であることが好ましい。
(E)重合性単量体において、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体であることが好ましい。
【0037】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体が、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含み、また(E)重合性単量体が、エチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体を含むとき、(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体と、(E)重合性単量体に含まれるエチレン性不飽和結合を5つ以上有する多官能の重合性単量体の合計量は51〜150重量部であることが好ましい。150重量部を超える場合、十分な接着性を発現せず、また光重合時にレジン収縮が起こるためクラック形成やチッピング、脱落を引き起こすことがある。一方、51重量部以下では表面硬化性が悪くなることがある。
【0038】
本発明の歯科用表面被覆用接着材(1)に配合されている光重合開始剤(C)は、公知の光重合触媒系を使用する。光重合触媒としては増感剤と還元剤の組合せが一般に用いられ、増感剤には、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(
2 − メトキシエチル) ケタール、4 、 4 ’ − ジメチルベンジル− ジメチルケタール、アントラキノン、1 − クロロアントラキノン、2 − クロロアントラキノン、1
、 2 − ベンズアントラキノン、1 − ヒドロキシアントラキノン、1 − メチルアントラキノン、2 − エチルアントラキノン、1 − ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2
、 4−ジメチルチオキサントン、2 、 4−ジエチルチオキサントン、2 、 4−ジイソプロピルチオキサントン、2 −クロロー7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−1
0 、 1 0−ジオキシド、チオキサントン−1 0−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(
4−ジメチルアミノフェニル) ケトン、4 、 4’ − ビスジエチルアミノベンゾフェノン、( 2 、 4 、 6 − トリメチルベンゾイル) ジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド、アジド基を含む化合物などがあり単独もしくは混合しても使用できる。
【0039】
還元剤としては3 級アミン等が一般に使用される。3 級アミンとしては、N
、 N −ジメチル−p − トルイジン、N 、 N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4 − ジメチルアミノ安息香酸メチル、4 − ジメチルアミノ安息香酸エチル、4
−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。また他の還元剤として、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられる。
【0040】
これら歯科用表面被覆用接着材(1)中の光重合開始剤(C)は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。光重合開始剤(C)の添加量は目的に応じて選択すればよいが、(A) 揮発性有機化合物と(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体の合計を100重量部としたとき、0.01〜2重量部であり、好ましくは0.1〜2重量部である。
2重量部を超える場合は重合開始剤による硬化物の変色が見られる。また0.01重量部未満では光重合型歯科用表面被覆材の光硬化性および物理的性質または接着性が低下する。
【0041】
本発明の光重合型歯科用表面被覆材(2)に配合されている光重合開始剤(F)は、公知の光重合触媒系を使用する。光重合触媒としては増感剤と還元剤の組合せが一般に用いられ、増感剤には、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(
2 − メトキシエチル) ケタール、4 、 4 ’ − ジメチルベンジル− ジメチルケタール、アントラキノン、1 − クロロアントラキノン、2 − クロロアントラキノン、1
、 2 − ベンズアントラキノン、1 − ヒドロキシアントラキノン、1 − メチルアントラキノン、2 − エチルアントラキノン、1 − ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2
、 4−ジメチルチオキサントン、2 、 4−ジエチルチオキサントン、2 、 4−ジイソプロピルチオキサントン、2 −クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−1
0 、 1 0−ジオキシド、チオキサントン−1 0−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(
4−ジメチルアミノフェニル) ケトン、4 、 4’ − ビスジエチルアミノベンゾフェノン、( 2 、 4 、 6 − トリメチルベンゾイル) ジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド、アジド基を含む化合物などがあり単独もしくは混合しても使用できる。
【0042】
還元剤としては3 級アミン等が一般に使用される。3 級アミンとしては、N
、 N −ジメチル−p − トルイジン、N 、 N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4 − ジメチルアミノ安息香酸メチル、4 − ジメチルアミノ安息香酸エチル、4
−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。また他の還元剤として、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられる。
【0043】
また、光重合型歯科用表面被覆材(2)中の光重合開始剤(F)は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の添加量は目的に応じて選択すればよいが、重合性単量体(E)100重量部に対して通常0.01〜20重量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5重量部の割合で使用される。20重量部を超える場合は重合開始剤による硬化物の変色が見られる。また0.01重量部未満では光重合型歯科用表面被覆材(2)の光硬化性および物理的性質または接着性が低下する。
【0044】
一般的に、重合性単量体中にウレタン基を含有しているとその極性によって接着性が向上することが知られている。そのため、(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体中には、ウレタンジ(メタ)アクリレートが含まれることが好ましい。(A) 揮発性有機化合物と(B) 酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体の合計を100重量部としたとき、ウレタンジ(メタ)アクリレートが1〜40重量部を含むことが好ましい。
【0045】
(B)酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体は、酸性基含有(メタ)アクリレートを含まない重合性単量体である。酸性基含有(メタ)アクリレートの重合性単量体は例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有するものである。これらの酸性基含有(メタ)アクリレートの重合性単量体を用いると、未重合層が多くなり、上部に塗布する滑沢材がその未重合層と混ざり、表面硬化性が劣るためである。
【0046】
歯科用表面被覆用接着材(1)を塗布した後の表面鉛筆硬度はB以下が好ましい。ここで、歯科用表面被覆用接着材(1)の鉛筆硬度がB以上である場合、歯科用表面被覆用接着材(1)の表面硬化が進んでいる状態であるため、光重合型歯科用表面被覆材 (2)との接着強度が低下し光重合型歯科用表面被覆材(2)のチッピングや脱落を生じる可能性がある。
【0047】
歯科用表面被覆用接着材(1)を塗布した後の表面性状は適度なベトつきがあることが好ましい。歯科用表面被覆接着材(1)上に光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布した際のぬれ性がよく、操作性が向上し、また歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)の接触界面で両者がなじみやすく混じりあうことで、より高い接着強度を示し、被覆層の耐久性や耐摩耗性に優れるためである。
【0048】
また、歯科用表面被覆用接着材(1)を塗布し光硬化した後、光重合型歯科用表面被覆材(2)を塗布して光重合させた時の鉛筆硬度はH以上、好ましくは2H以上である。一方、光重合型歯科用表面被覆材(2)の鉛筆硬度がH未満の場合、硬化物に十分な滑沢性、耐磨耗性、耐着色性を付与することができない。
【0049】
本発明の光重合型歯科用表面被覆材(2)は、上記の(D)〜(F)成分を必須として無機および有機充填剤などのフィラー、溶剤、変性剤、増粘剤、染料、顔料、重合調整剤、重合抑制剤などが適宜配合されてよい。
【0050】
例えばフィラーとしてはポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクルレートとエチルメタクリレートの共重合体、ポリスチレン等の有機ポリマー粉末、熱硬化性樹脂硬化物または無機充填剤を含む熱硬化性樹脂硬化物等を粉砕した有機充填剤、または無機充填剤(
カオリン、タルク、石英、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミノシリケート窒化珪素、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ガラス粉、フルオロアルミノシリケートガラスなど)
、無機充填剤と有機充填剤との複合充填剤等が挙げられ、フィラーの添加により当該光重合型歯科用表面被覆材(2)をペースト状、スラリー状で用いるのに適している。重合抑制剤としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられ、当該光重合型歯科用表面被覆材(2)の棚寿命の安定化に適している。
【0051】
前記のフィラーは、形状、粒度分布および平均粒径等に特に制限ない。しかしながら、平均粒径は、通常は50μm
以下、好ましくは10μm 以下のシリカ、シリカ・アルミナを主成分とする金属酸化物の使用が好ましい。これらのフィラーを添加することにより、機械的強度の改良、粘性、流動性の制御等が可能となる。
【0052】
本発明は、光重合型歯科用表面被覆材キットおよびその方法に関する。さらに詳しくは、硬質レジン、ハイブリッドレジンセラミックス、レジン系人工歯などのレジン系補綴材料やコンポジットレジン、シーラント、レジン系充填材料などの歯科用レジン系修復材料の表面に歯科用表面被覆用接着材(1)と光重合型歯科用表面被覆材(2)を順次塗布し、30〜240秒の光照射にて光重合することで、透明で表面未重合層が少ない硬化膜を短時間で形成させレジン修復材の滑沢性、耐摩耗性、更には耐着色性を向上させ、さらに、チッピングや表面被覆材の脱落を抑制させることができる光重合型歯科用表面被覆材キットおよびその方法に関する。
歯科用表面被覆用接着材(1)は約0.1〜100μm塗布後に、光重合型歯科用表面被覆材(2)は約5〜200μm塗布することが好ましい。
【実施例】
【0053】
次に本発明の光重合型歯科用表面被覆材キットにつき、具体例を示して説明する。表1〜2に組成比率(重量部)、また表3〜5に各特性試験の結果を示す。なお本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
本発明の実施例および比較例に使用した化合物の略号を以下に示す。
MMA:メチルメタクリレート
EMA:エチルメタクリレート
PTA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
UDMA:ウレタンジメタクリレート
UDA:ウレタンジアクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
150A:15官能ウレタンアクリレート
DPH:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
APO:2、4、6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド
CQ:dl−カンファーキノン
DMBE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
6MHPA:6−メタクリロキシヘキシル−3−ホスホノアセテート
【0055】
実施例の特性評価方法を下記に示す。
(1)表面性状評価
ハイブリッド型硬質レジン(セラマージュ:松風製)の硬化体2×2cmで厚さ5mmの平板を用意する。その平板上に歯科用表面被覆用接着材(1)を1滴採取し、筆で薄く塗布した後、ソリディライトで1分間光重合を行い、表面性状について以下の様に評価した。以下に評価基準を示す。
○:表面に適度なベトつきを示す。
×:表面にベトつきが認められない。
【0056】
(2)表面硬化性評価
ハイブリッド型硬質レジン(セラマージュ:松風社製)の硬化体2×2cmで厚さ5mmの平板を用意する。その平板上に調製した各種歯科用表面被覆用接着材(1)を薄く塗布した後、乾燥させ、光重合型歯科用表面被覆材(II)を筆で厚さ約30μmに塗布する。平板を歯科技工用光重合器「ソリディライト」(松風製)で、1分間光重合を行う。試料硬化表面を以下の様に評価した。以下に評価基準を示す。
◎:表面が全くベトつかず、極めて高い表面硬化性を示す。
○:表面がわずかにベトつく程度で、高い表面硬化性を示す。
△:表面がややベトつくが、高い表面硬化性を示す。
×:表面にベトつきが認められ、低い表面硬化性を示す。
【0057】
(3)鉛筆硬度試験
JIS K 5600−5−4に準じる。ハイブリッド型硬質レジン(セラマージュ:松風製)の硬化体2×2cmで厚さ5mmの平板を用意する。その平板に各種光重合型歯科用表面被覆材を筆で厚さ約30μmに塗り拡げ、ソリディライトで1分間光重合を行う。その後、37℃の水中で24時間保存し、取り出し乾燥後、硬度の異なる鉛筆芯を塗布面に押し付けて(荷重750±10g、角度45±1°)、0.5〜1mm/sの速度で7mm以上動かした結果生じる傷跡の有無を確認し、傷跡が生じなかった鉛筆の硬度を測定する(n=3)。2B〜2Hまでで実施する。
【0058】
(4)接着試験
歯科汎用アクリル系レジン(プロビナイス:松風製)の2cm×2cmの厚さ2.5mmの平板を作製し、耐水研磨紙#600で研磨処理を行ない、歯科用表面被覆用接着材(1)を薄く塗布した後、乾燥させる。厚さ1mmの内径4mmの金型リングを押し当て、光重合型歯科用表面被覆材(2)を厚さ1mm充填する。重合器はソリディライトにて、3分間光重合を行なう。金型リングを取り外し、27℃の水中に24時間保存後、サーマルサイクル試験機にて、4℃−60℃、各1分間浸漬、2000回を条件として、耐久劣化させたものを試験体(n = 6)とする。
【0059】
歯科用表面被覆用接着材の調製
歯科用表面被覆用接着材(1)-1〜12及び比較例(1)-1〜4はそれぞれ表1に示す組成を混合し、均一な液体を得た。比較例(1)-5はセラレジンボンド(松風社製)のものを用いた。
【0060】
【表1】

【0061】
光重合型歯科用表面被覆材(2)の調製
光重合型歯科用表面被覆材(2)-1〜7は、それぞれ表2に示す組成を混合し、均一な液体を得た。

【表2】

【0062】
各実施例にて挙げる組成のものを、遮光下、混合し粘稠な液体として得た。
【0063】
歯科用表面被覆用接着材(1)の鉛筆硬度試験結果および表面性状を表3に示す。実施例1〜12および比較例3、4、5は鉛筆硬度がB以下であった。比較例1は、揮発性有機化合物が過多となり全て揮発し表面硬化性が母体の鉛筆硬度になった。比較例2は、重合性単量体に含まれる多官能の重合性単量体量が過多となり、鉛筆硬度が2Hとなった。
【表3】
【0064】
本発明の光重合型歯科用表面被覆材キットの表面硬化性試験結果、鉛筆硬度試験結果、接着試験結果を表4に示す。実施例13〜24は全て良好な結果であった。比較例6は、揮発性有機化合物が全て揮発し接着層となるレジン層がないため接着強度が低下した。比較例7は、重合性単量体に含まれる多官能の重合性単量体量が過多となり、歯科用表面被覆用接着材(1)としての未重合層が少なくなったため接着強度が低下した。比較例8、9は、酸性基含有(メタ)アクリレートを使用することで、滑沢材の表面硬化性の低下及び接着強度が低下した。比較例10は、光重合型歯科用表面被覆材(2)と組み合わせた時、歯科用表面被覆用接着材(1)の未重合層が光重合型歯科用表面被覆材(2)と混ざり合い、表面硬化性が低下した。

【表4】
【0065】
本発明の光重合型歯科用表面被覆材キットの表面硬化性試験結果、鉛筆硬度試験結果、接着試験結果を表5に示す。実施例25〜31は全て良好な結果であった。比較例11〜13は表面硬化性および、鉛筆硬度は優れていたものの歯科用表面被覆用接着材(1)を用いたものに比べて、接着強度が低かった。

【表5】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の光重合型歯科用表面被覆材は、表面硬化性、表面滑沢性、耐摩耗性、耐久性を持つ光重合型歯科用表面被覆材である。本発明の光重合型歯科用表面被覆材は、歯冠修復材料、歯科用充填材料、人工歯、義歯床用レジン等の歯科用材料の表面に用いる。