特許第5921543号(P5921543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921543
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】皮膚構造の測定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/107 20060101AFI20160510BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   A61B5/10 300Q
   A61B5/00 M
   A61B5/00ZDM
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-520639(P2013-520639)
(86)(22)【出願日】2011年7月4日
(65)【公表番号】特表2013-538070(P2013-538070A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】KR2011004883
(87)【国際公開番号】WO2012011682
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年6月16日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0070850
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2010-0070847
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】株式会社アモーレパシフィック
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ジ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ナム, ケ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ミョン ジュン
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−105826(JP,A)
【文献】 特表2010−537188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/107
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象皮膚に対して互いに異なる方向に配列され、皮膚に順次光を照射するように構成された複数の光源
皮膚を撮像して前記複数の光源のそれぞれに対応する複数のイメージを生成する撮像部;および
前記複数のイメージを利用して皮膚の構造情報を算出する分析部;
を含み、
前記分析部は、前記複数のイメージの明るさを利用して皮膚の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する法線算出部、および、前記第1のノーマルマップを利用して皮膚の微細構造情報に対応する第2のノーマルマップを生成する微細構造算出部を含むことを特徴とする皮膚構造の測定装置。
【請求項2】
前記光源はフラッシュ装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項3】
前記光源はメタルハライドランプを含むことを特徴とする請求項2に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項4】
皮膚の位置を固定するように構成された固定部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項5】
前記撮像部および前記複数の光源を支持し、皮膚に対して移動可能に構成された支持部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項6】
前記微細構造算出部は、
前記第1のノーマルマップにガウシアン・フィルタを適用することにより皮膚輪郭情報に対応する低周波数マップを生成する低周波数マップ生成部;および
前記第1のノーマルマップから前記低周波数マップを除去することにより前記第2のノーマルマップを生成する第2のノーマルマップ生成部;を含むことを特徴とする請求項に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項7】
前記微細構造算出部は、前記第2のノーマルマップを一方向にスケーリングするスケーリング部をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項8】
前記分析部は、前記第2のノーマルマップを利用して皮膚のシワ成分情報に対応するスカラーマップを生成するシワ成分算出部をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項9】
前記シワ成分算出部は、
前記第2のノーマルマップから水平方向の成分を抽出して2次元ベクターマップを生成するベクターマップ生成部;および
前記2次元ベクターマップに楕円形ガウシアン・フィルタを適用して前記スカラーマップを生成するスカラーマップ生成部;を含むことを特徴とする請求項に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項10】
前記スカラーマップ生成部は、前記楕円形ガウシアン・フィルタを予め設定された角度にて回転させながら前記楕円形ガウシアン・フィルタの出力値を算出することを特徴とする請求項に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項11】
前記シワ成分算出部は、前記スカラーマップから予め設定されたしきい値以上の値を有する領域を抽出するしきい値適用部をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の皮膚構造の測定装置。
【請求項12】
測定対象皮膚に対して互いに異なる方向に配列され、皮膚に順次光を照射するように構成された複数の光源
皮膚を撮像して前記複数の光源のそれぞれに対応する複数のイメージを生成する撮像部;
および
前記複数のイメージを利用して皮膚の構造情報を算出する分析部;
を含み、
前記分析部は、前記複数のイメージの明るさを利用して皮膚の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する法線算出部、および、前記第1のノーマルマップの各ピクセルにおいて、当該ピクセルの法線情報により仮想の球の動きをシミュレーションし、経時に伴う前記仮想の球の位置を利用して皮膚弾力情報を算出する弾力度算出部を含むことを特徴とする皮膚構造の測定装置。
【請求項13】
互いに異なる複数の光照射方向に順次皮膚に光を照射しながら、前記複数の光照射方向のそれぞれに対応する複数のイメージを撮像する段階
前記複数のイメージの明るさを利用して皮膚表面の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する段階;
前記第1のノーマルマップにガウシアン・フィルタを適用することにより皮膚輪郭情報に対応する低周波数マップを生成する段階;および
前記第1のノーマルマップから前記低周波数マップを除去することにより皮膚の微細構造情報に対応する第2のノーマルマップを生成する段階;
を含むことを特徴とする皮膚構造の測定方法。
【請求項14】
前記第2のノーマルマップを生成する段階は、
前記低周波数マップを平面上のマップに変換するための回転演算を算出する段階;および
前記回転演算を前記第1のノーマルマップに適用する段階;を含むことを特徴とする請求項13に記載の皮膚構造の測定方法。
【請求項15】
前記第2のノーマルマップを一方向にスケーリングする段階をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の皮膚構造の測定方法。
【請求項16】
前記第2のノーマルマップから水平方向の成分を抽出して2次元ベクターマップを生成する段階;および
前記2次元ベクターマップに楕円形ガウシアン・フィルタを適用して皮膚のシワ成分情報に対応するスカラーマップを生成する段階;をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の皮膚構造の測定方法。
【請求項17】
前記スカラーマップを生成する段階は、前記楕円形ガウシアン・フィルタを予め設定された角度にて回転させながら前記楕円形ガウシアン・フィルタの出力値を算出する段階を含むことを特徴とする請求項16に記載の皮膚構造の測定方法。
【請求項18】
前記スカラーマップから予め設定されたしきい値以上のスカラー値を有する領域を抽出する段階をさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の皮膚構造の測定方法。
【請求項19】
互いに異なる複数の光照射方向に順次皮膚に光を照射しながら、前記複数の光照射方向のそれぞれに対応する複数のイメージを撮像する段階
前記複数のイメージの明るさを利用して皮膚表面の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する段階;および
前記第1のノーマルマップの各ピクセルにおいて、当該ピクセルの法線情報により仮想の球の動きをシミュレーションし、経時に伴う前記仮想の球の位置を利用して皮膚弾力度情報を算出する段階;
を含むことを特徴とする皮膚構造の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施例は、皮膚構造の測定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に存在するシワまたは毛穴などのような微細構造を測定したり、これをコンピュータ上のイメージとして再現したりする技術は、多様なイメージングシステム(imaging system)において重要な機能と見なされている。特に近年は、電荷結合素子(Charge Coupled Device;CCD)付き携帯装置や美容診断システム、遠隔医療などの発達に伴い、皮膚の微細構造を正確に測定する技術は画像通信や皮膚に適合した化粧品の選択または医療診断などへの活用度が増大しつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の一側面によれば、光源の位置を変化させながら被験者の皮膚を撮像し、撮像したイメージを利用して皮膚に存在するシワまたは毛穴などの微細構造に関する情報を得ることができ、これをイメージとして表すことができる皮膚構造の測定装置および方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施例に係る皮膚構造の測定装置は、測定対象皮膚に対して互いに異なる方向に配列され、皮膚に順次光を照射するように構成された複数の光源;および皮膚を撮像して前記複数の光源のそれぞれに対応する複数のイメージを生成する撮像部;を含んでいてよい。
【0005】
前記皮膚構造の測定装置は、皮膚の位置を固定するように構成された固定部をさらに含んでいてよい。
【0006】
前記皮膚構造の測定装置は、前記撮像部および前記複数の光源を支持し、皮膚に対して移動可能に構成された支持部をさらに含んでいてもよい。
【0007】
前記皮膚構造の測定装置は、前記複数のイメージを利用して皮膚の構造情報を算出する分析部をさらに含んでいてもよい。
【0008】
前記分析部は、前記複数のイメージの明るさを利用して皮膚の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する法線算出部を含んでいてよい。
【0009】
前記分析部は、前記第1のノーマルマップを利用して皮膚の微細構造情報に対応する第2のノーマルマップを生成する微細構造算出部をさらに含んでいてよい。
【0010】
前記分析部は、前記第2のノーマルマップを利用して皮膚のシワ成分情報に対応するスカラーマップを生成するシワ成分算出部をさらに含んでいてもよい。
【0011】
前記分析部は、前記第1のノーマルマップから皮膚弾力情報を算出する弾力度算出部をさらに含んでいてもよい。
【0012】
一実施例に係る皮膚構造の測定方法は、互いに異なる複数の光照射方向に順次皮膚に光を照射しながら、前記複数の光照射方向のそれぞれに対応する複数のイメージを撮像する段階;および前記複数のイメージの明るさを利用して皮膚表面の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する段階;を含んでいてよい。
【0013】
前記皮膚構造の測定方法は、前記第1のノーマルマップにガウシアン・フィルタを適用することにより皮膚輪郭情報に対応する低周波数マップを生成する段階;および前記第1のノーマルマップから前記低周波数マップを除去することにより皮膚の微細構造情報に対応する第2のノーマルマップを生成する段階;をさらに含んでいてもよい。
【0014】
前記皮膚構造の測定方法は、前記第2のノーマルマップから水平方向の成分を抽出して2次元ベクターマップを生成する段階;および前記2次元ベクターマップに楕円形ガウシアン・フィルタを適用して皮膚のシワ成分情報に対応するスカラーマップを生成する段階;をさらに含んでいてもよい。
【0015】
前記皮膚構造の測定方法は、前記第1のノーマルマップから皮膚弾力情報を算出する段階をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面に係る皮膚構造の測定装置および方法を利用すれば、光源の位置を変化させながら撮像した皮膚イメージから皮膚に存在するシワや毛穴などのような微細構造に対応するノーマルマップ(normal map)を生成し、生成されたノーマルマップをイメージとして表示することができる。このように生成されたイメージから特定の化粧品製品の使用前後における皮膚構造の改善効果などを容易に可視的に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1a】一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。
図1b】一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。
図1c】一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。
図1d】一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。
図1e】一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。
図1f】一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。
図2a】被験者の位置を固定するために使用できる固定部を示す図である。
図2b】被験者の位置を固定するために使用できる固定部を示す図である。
図3a】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により被験者の皮膚を撮像したイメージを示す写真である。
図3b】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により被験者の皮膚を撮像したイメージを示す写真である。
図3c】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により被験者の皮膚を撮像したイメージを示す写真である。
図4】一実施例に係る皮膚構造の測定装置における分析部を示すブロック図である。
図5】一実施例に係る皮膚構造の測定装置における第1のノーマルマップの生成過程を説明するための概略図である。
図6a】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により生成された第1のノーマルマップに対応するイメージを示す図である。
図6b】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により生成された第1のノーマルマップに対応するイメージを示す図である。
図7】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により第1のノーマルマップから算出された低周波数マップに対応するイメージを示す図である。
図8a】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により第1のノーマルマップから生成された第2のノーマルマップに対応するイメージを示す図である。
図8b】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により第1のノーマルマップから生成された第2のノーマルマップに対応するイメージを示す図である。
図9】一実施例に係る皮膚構造の測定装置により第2のノーマルマップから生成されたスカラーマップに対応するイメージを示す図である。
図10】一実施例に係る皮膚構造の測定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施例について詳述する。
【0019】
図1aないし図1fは、一実施例に係る皮膚構造の測定装置を示す図である。図1aは、前記装置の斜視図であり、図1bおよび図1cは、それぞれ前記装置の左側面図および右側面図である。また、図1dは、前記装置の平面図であり、図1eおよび図1fは、それぞれ前記装置の正面図および背面図である。
【0020】
図1aないし図1fを参照すると、一実施例に係る皮膚構造の測定装置は、複数の光源10および撮像部20を含んでいてよい。また、一実施例に係る皮膚構造の測定装置には、光源10および撮像部20を支持するための支持部40がさらに含まれていてもよい。
【0021】
複数の光源10は、被験者の皮膚に光を照射するための装置である。一実施例において、それぞれの光源10は、カメラなどに主に使用されるフラッシュ(flash)装置であってよい。一実施例において、光源10は、メタルハライド(metal halide)ランプであってよい。メタルハライドランプは、太陽光に近い色相を有し、大きさが小さいため点光源に近い効果を有することができる。メタルハライドランプを光源10として利用することにより、暗室でない一般の環境でも容易に皮膚イメージを撮像することができる。したがって、化粧品製品の販売先などで前記皮膚構造の測定装置を利用して消費者の皮膚イメージを撮像し皮膚構造の測定を実施することにより、製品の効能などを確認できるようにする利点がある。
【0022】
しかし、これは例示的なものであって、光源10はメタルハライドランプの他、発光ダイオード(Light Emitting Diode)またはその他の光照射手段であってもよい。また、光源10と共に反射板(図示せず)および/または、偏光フィルタ(図示せず)等も使用されていてよい。
【0023】
複数の光源10は互いに異なる方向から皮膚に光を照射するように配列されていてよい。また、複数の光源10は、被験者を中心に対称的に、または非対称的に配列されていてよい。例えば、図1aないし図1fでは、12個の光源10が被験者の位置を中心とする半球形状に配列されている。しかし、これは例示的なものであって、複数の光源10は必ずしも半球形状に配列されていなくてもよく、被験者を完全に取り囲む球形状に配列され、またはその他の配列形態で配列されていてもよい。また、光源10の個数や光源10間の距離、および光源10と被験者間の距離もまた、図面に示されたそれらと異なっていてよい。
【0024】
撮像部20は、被験者の正面に位置し複数の光源10により光が照射される状態で被験者の皮膚イメージを撮像するように構成されていてよい。このとき、複数の光源10は、順次光を照射することができ、撮像部20は、それぞれの光源10と同期化され、それぞれの光源10により光が照射される状態でイメージを撮像するように構成されていてよい。結果的に撮像部20では、複数のイメージが生成され、各イメージは異なる光源10により光が照射された状態の皮膚を示す。すなわち、光照射方向が互いに異なる複数の皮膚イメージを得ることができる。
【0025】
一実施例において、光源10および撮像部20は、移動可能な支持部40に固定されていてもよい。例えば、支持部40は、キャスタ付き構造物であってよく、キャスタを利用して支持部40を動かすことにより、被験者に対する光源10および撮像部20の位置を変更することができる。
【0026】
一方、皮膚構造を測定するためには、同じ位置を撮像した複数のイメージが必要となる。したがって、一実施例において、皮膚構造の測定装置は、被験者の位置を固定するために別途の固定部をさらに含んでいてよい。図2aは、このような固定部30を示す斜視図であり、図2bは、図2aに示す固定部30の正面図である。
【0027】
図2aおよび図2bを参照すると、固定部30を利用して皮膚を撮像したい被験者の身体の一部(例えば、被験者の頭部)を固定することができる。例えば、被験者が自身のあごを固定部30上に載せておいた状態で被験者の顔皮膚を撮像することができる。しかし、図2aおよび図2bに示した固定部30の形態は、単に例示的なものであって、固定部30は、被験者の位置を固定させるための他の手段で構成されていてもよい。または、別途の固定部を使用せずに被験者の皮膚イメージを撮像することもできる。
【0028】
以上で説明した皮膚構造の測定装置を利用して、互いに異なる光照射方向から光を照射しながら皮膚を測定した複数のイメージを得ることができる。図3aないし図3cは、図1に示した皮膚構造の測定装置により測定された皮膚のイメージを示す写真であり、図3aないし図3cは、それぞれ異なる光照射方向から皮膚に光を照射しながら測定された皮膚イメージを示す図である。
【0029】
一実施例において、皮膚構造の測定装置は、このような複数のイメージを利用して皮膚の構造情報を算出するための分析部をさらに含んでいてもよい。本明細書における分析部は、ハードウェア、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせ、または、ソフトウェアなどのコンピュータ関連エンティティー(entity)を指し示していてよい。例えば、分析部50には、実行中であるプロセス、プロセッサ、オブジェクト(object)、実行ファイル(executable)、実行スレッド(thread of execution)、プログラムおよび/または、コンピュータが含まれるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。例えば、コンピュータで実行中であるアプリケーション(application)およびコンピュータの双方がいずれも分析部に相当していてよい。
【0030】
図4は、一実施例に係る皮膚構造の測定装置に含まれる分析部を示すブロック図である。
【0031】
図4を参照すると、分析部50は、法線算出部51、微細構造算出部52およびシワ成分算出部53を含んでいてよい。法線算出部51は、光照射方向が異なる複数のイメージを利用して皮膚表面の法線情報を含む第1のノーマルマップ(normal map)を生成することができる。本明細書においてノーマルマップとは、皮膚表面を撮像したイメージから各ピクセル(pixel)の明るさ情報を用いて各ピクセルに対応する領域の皮膚表面の法線(normal)情報を算出することにより得られる皮膚構造情報を指し示す。このようなノーマルマップは、各ピクセルにおける法線情報に対応する色相および/または、陰影を有するイメージの形態で表示することもできる。
【0032】
以下、法線算出部51で複数のイメージを利用して皮膚表面の法線情報に対応する第1のノーマルマップを生成する過程について詳細に説明する。
【0033】
図5は、第1のノーマルマップの生成過程を説明するための概略図である。図5を参照すると、光源10から照射され皮膚1の表面から反射した光の強さは、Phongの反射モデル(reflection model)を利用すれば、次式1のように示すことができる。
【0034】
【数1】

前記式1中、ILは光源10からの入射光の強さを表し、Iは皮膚1の表面から反射した光の強さを表す。KDは皮膚1の拡散反射定数(diffuse reflection constant)を表し、KSは皮膚1の鏡面反射定数(specular reflection constant)を表す。Nは皮膚1の表面の法線を示すベクターであり、Vは観察方向を示すベクターであって、皮膚1に対する撮像部20の向きに対応する。また、Lは皮膚1の表面に対する入射光の向きを示すベクターであり、Rは法線方向に対して入射光と対称的な位置にある反射光の向きを示すベクターである。すなわち、入射光の向きLおよび反射光の向きRは、法線ベクターNと同じ角度θをなす。
【0035】
皮膚を測定したイメージにおける各ピクセルの明るさは、前記式1におけるIに対応する。また、前記式1におけるIおよびNを除く、余の項は予め値を求めることができる。例えば、皮膚1の表面に対する入射光の向きLは、被験者の近傍に反射具を位置させ、皮膚の撮像時に反射具を一緒に撮像して、反射具に映し出された光源の模様から得ることもできる。
【0036】
一方、前述したように光源の位置を変化させながら皮膚を撮像した複数のイメージが得られる。このような複数のイメージにおける各ピクセルの明るさIを、前述した式1に代入することにより、各ピクセルに対応する領域における皮膚表面の法線を示すベクターNを算出することができる。本明細書において第1のノーマルマップとは、皮膚を撮像したイメージの全てのピクセルに対して以上のような方式にて法線情報を算出して得られる皮膚構造情報を指し示す。
【0037】
図6aおよび図6bは、前述した過程により生成された第1のノーマルマップに対応するイメージを示す図である。図6aに示すイメージは、第1のノーマルマップを表現するためにランバート・シェーディング(Lambertian shading)を利用してレンダリングした結果であって、法線ベクターのx軸、y軸およびz軸の成分の値をそれぞれ赤色(R)、緑色(G)および青色(B)に対応させた結果を示す。一方、図6bに示すイメージは、第1のノーマルマップに色相を適用せずに陰影だけを利用してレンダリングした結果を示す。
【0038】
微細構造算出部52は、法線算出部51で生成された第1のノーマルマップを利用して皮膚に存在するシワ、および/または毛穴のような微細構造に対応する第2のノーマルマップを生成することができる。法線算出部51で生成された第1のノーマルマップは、皮膚表面の法線情報に対応する。しかし、被験者の顔は3次元の曲面であるため、第1のノーマルマップにおける皮膚の法線情報には、シワおよび/または毛穴などの微細構造だけでなく、被験者の顔の全体的な輪郭が含まれる。したがって、第1のノーマルマップだけからは、被験者の皮膚に存在するシワおよび/または毛穴のような微細構造に対する情報は分かり難い。
【0039】
これを解決するために、微細構造算出部52は、低周波数(low−frequency)マップ生成部521および第2のノーマルマップ生成部522を含んでいてよい。低周波数マップ生成部521は、第1のノーマルマップから皮膚の輪郭情報に対応する低周波数マップを算出することができる。前記低周波数マップは、第1のノーマルマップにガウシアン・フィルタ(Gaussian filter)を適用して低周波数成分を求め、それを更に正規化(normalization)という過程を通じて算出することができる。このときに適用されるガウシアン・フィルタの幅は、皮膚のシワおよび/または毛穴のような微細構造が低周波数マップで見えない程度に適宜決められていてよい。
【0040】
図7は、低周波数マップ生成部にて第1のノーマルマップから算出された低周波数マップに対応するイメージを示す図である。図示されるように、既存の皮膚イメージにおけるシワや毛穴などのような微細な構造は低周波数マップからは観察されず、鼻や唇の部分が突出したことや目の周りが陥没したことのように顔の全体的な輪郭に対応する成分だけが低周波数マップから観察されるのを確認することができる。
【0041】
次いで、第2のノーマルマップ生成部522は、低周波数マップ生成部521で算出された低周波数マップを本来の第1のノーマルマップから除去することにより、皮膚の微細構造に対応する第2のノーマルマップを生成することができる。第2のノーマルマップは、先に皮膚の輪郭情報が含まれている低周波数マップを平面上のマップに変換するための回転演算を算出し、その後、算出された回転演算を本来の第1のノーマルマップに適用する方法にて生成することができる。その結果、第1のノーマルマップの各ピクセルに対応する法線ベクターにおける皮膚の全体的な輪郭に対応する成分は回転演算によって除去される。したがって、最終的に生成された第2のノーマルマップには、皮膚の全体的な輪郭を除く、皮膚に存在するシワおよび/または毛穴などのような微細構造に対応する成分だけが残るようになる。
【0042】
一実施例において、微細構造算出部52は、スケーリング(scaling)部53をさらに含んでいてもよい。スケーリング部53は、第2のノーマルマップ生成部522にて生成された第2のノーマルマップにおいて微細構造をより一層強調するために一方向にスケーリングを行なうこともできる。例えば、皮膚の微細構造がz=f(x、y)の曲面で表現されると仮定した場合、法線ベクターNは、次式2のように示され得る。
【0043】
【数2】
このとき、曲面z=f(x、y)をz軸方向にスケーリングすることで微細構造を強調することができる。例えば、スケール・ファクタ(scale factor)sでスケーリングされた曲面は、z=sf(x、y)となり、その結果、法線ベクターNは、次式3のように示され得る。
【0044】
【数3】
これは、法線ベクターにおいてxy成分の大きさを調節することで微細構造を強化および/または弱化させることができることを意味する。前述した実施例では、曲面をz軸方向にスケーリングした例を説明したが、スケーリング方向は微細構造において強調して観察したい成分の方向に応じて垂直および/または水平方向などと適宜決めればよい。
【0045】
図8aおよび図8bは、微細構造算出部で生成された第2のノーマルマップに対応するイメージを示す図である。図8aは、第1のノーマルマップから生成された第2のノーマルマップを示し、図8bは、図8aに示す第2のノーマルマップにおいて水平方向の成分を強調するスケーリングを行なった結果を示す。図示されるように、第2のノーマルマップからは、顔の全体的な輪郭を除く、シワや毛穴のような微細構造だけが目立って表現されることを確認することができる。
【0046】
シワ成分算出部53は、微細構造算出部52で生成され皮膚の微細構造に対応する第2のノーマルマップから更に皮膚のシワ成分だけに対応するスカラーマップを生成することもできる。本明細書においてシワ成分とは、皮膚の微細構造のうちでも所定の大きさ以上の構造だけを指し示す。例えば、シワ成分とは、第2のノーマルマップにおいて毛穴や小ジワのように相対的に大きさが小さい部分を除く、相対的に大きさが大きい太いシワの部分だけを指し示すものとしてよい。このとき、太いシワと区分される微細構造の大きさは、皮膚構造の測定の目的などに応じて適宜定義すればよく、いずれかの数値に限定されるものではない。
【0047】
シワ成分に対応するスカラーマップを生成するために、シワ成分算出部53は、ベクターマップ生成部531およびスカラーマップ生成部532を含んでいてよい。先ず、ベクターマップ生成部531は、第2のノーマルマップにおいて各法線ベクターのx軸およびy軸方向の成分だけを抽出し正規化して2次元ベクターマップを生成することができる。
【0048】
次に、スカラーマップ生成部532は、ベクターマップ生成部531で生成された2次元ベクターマップを楕円形ガウシアン・フィルタ(oriented Gaussian filter)を利用してフィルタリング(filtering)することができる。楕円形ガウシアン・フィルタの出力値は、2次元ベクターマップにおいてベクターの方向がフィルタの方向と一致する場合に高い値を持つ。これを利用して、各ベクターにおいて楕円形ガウシアン・フィルタの向きを変えながら出力値を算出し、その結果、算出される最大出力値を当該ベクターに対応するスカラー値にすることができる。
【0049】
一実施例において、スカラーマップ生成部532は、楕円形ガウシアン・フィルタの向きを360°全方位に回転させながら各ベクターに対応するスカラー値を算出することができる。または、スカラーマップ生成部532は、楕円形ガウシアン・フィルタの回転角度を予め設定された角度に調節することで、当該角度に対応するシワ成分だけを抽出することもできる。被験者の皮膚は、各領域によってシワの向きが異なる。したがって、楕円形ガウシアン・フィルタを全方位に回転させる代わりに、測定領域におけるシワの向きを含む所定の角度範囲で回転させながらスカラー値を算出することにより、目的とする向きのシワ成分だけを抽出することができる。
【0050】
また、スカラーマップ生成部532における楕円形ガウシアン・フィルタの回転間隔は、皮膚構造の測定の目的などに基づいて適宜決めればよい。例えば、楕円形ガウシアン・フィルタを5°間隔で回転させながら各ベクターに対応するスカラー値を算出することができ、または、楕円形ガウシアン・フィルタの回転間隔を0.1°または10°などの他の任意の値に決めてもよい。
【0051】
以上の過程を2次元ベクターマップのすべてのベクターに対し施すことにより、スカラーマップを生成することができる。以上のように生成されたスカラーマップは、太いシワなどのように相対的に大きさが大きい微細構造が位置する領域において高いスカラー値を有するようになる。したがって、スカラーマップを利用して皮膚の微細構造のうち毛穴や小ジワなどを除くて太いシワだけを観察することができる。一実施例において、シワ成分算出部53は、スカラーマップにおいてシワ成分を一層はっきりと区分するためにスカラー値が予め決められたしきい値を超えるピクセルだけを抽出するしきい値適用部533をさらに含んでいてもよい。
【0052】
図9は、シワ成分算出部にて生成されたスカラーマップにおいて特定のしきい値を超える値を有するピクセルだけを抽出した結果に対応するイメージである。図示されるように、相対的に大きさが小さい毛穴や小ジワなどは除外され、相対的に大きさが大きい太いシワだけが観察されるのを確認することができる。
【0053】
一実施例において、分析部50には、第1のノーマルマップを利用して皮膚弾力情報を算出するための弾力度算出部54がさらに含まれていてもよい。これは、第1のノーマルマップを利用したコンピュータ・シミュレーションによって実行され得る。例えば、第1のノーマルマップの各ピクセルに仮想の球を位置させ、当該ピクセルの法線ベクターにより球の動きをシミュレーションすることができる。その結果、法線ベクターの方向に応じて球の移動方向が決定できる。また、法線ベクターの傾きが大きい位置では、球の動きの速度が相対的に高い反面、法線ベクターの傾きが小さい位置では、球の動きの速度が低くなる。
【0054】
以上のように第1のノーマルマップの各ピクセルにおいて球の動きをシミュレーションし、球の経時に伴う位置を利用して皮膚の弾力情報を算出することができる。例えば、第1のノーマルマップの各ピクセルから動き始めた球の動きを一定の時間間隔で測定し、このように測定された球の位置を各時間段階別に繋ぐことによって等高線と類似した形態の皮膚弾力情報を算出することもできる。
【0055】
図10は、一実施例に係る皮膚構造の測定方法のフローチャートである。前記皮膚構造の測定方法は、図1ないし図9を参照して前述した実施例に係る皮膚構造の測定装置を利用して実行すればよい。
【0056】
図10を参照すると、光照射方向が異なる複数の光源にて順次皮膚に光を照射しながら、それぞれの光源にて光が照射される状態における皮膚イメージを撮像することができる(S1)。次いで、撮像された複数のイメージを利用して皮膚表面の法線情報を含む第1のノーマルマップを生成することができる(S2)。
【0057】
一実施例では、第1のノーマルマップを利用して皮膚に存在するシワ、および/または毛穴のような微細構造に対応する第2のノーマルマップを生成することもできる。このために、先ず、第1のノーマルマップから皮膚の輪郭情報に対応する低周波数マップを算出することができる(S3)。次いで、算出された低周波数マップを本来の第1のノーマルマップから除去することにより、皮膚の微細構造に対応する第2のノーマルマップを生成することができる(S4)。このようにして生成された第2のノーマルマップには、皮膚の全体的な輪郭を除く、皮膚に存在するシワ、および/または毛穴などのような微細構造に対応する成分だけが残るようになる。一実施例では、以上のような過程(S3およびS4)によって生成された第2のノーマルマップにおいて微細構造をより一層強調するために一方向にスケーリングを施すこともできる(S5)。
【0058】
一実施例では、以上のように皮膚の微細構造に対応する第2のノーマルマップから更に皮膚のシワ成分だけに対応するスカラーマップを生成することもできる。このために、先ず、第2のノーマルマップから各法線ベクターのx軸およびy軸方向の成分だけを抽出し正規化して2次元ベクターマップを生成することができる(S6)。次いで、生成された2次元ベクターマップを楕円形ガウシアン・フィルタを利用してフィルタリングすることによってスカラーマップを生成することができる(S7)。前記スカラーマップを利用して皮膚の微細構造のうち毛穴や小ジワなどを除く太いシワだけを観察することができる。一実施例では、スカラーマップにおいてシワ成分をさらにはっきりと区分するためにスカラー値が予め決められたしきい値を超えるピクセルだけを抽出する過程をさらに施すこともできる(S8)。
【0059】
一方、一実施例では、第1のノーマルマップを利用して皮膚弾力情報を算出することもできる(S9)。例えば、第1のノーマルマップの各ピクセルにおいて仮想の球の動きをシミュレーションし、球の動きを一定の間隔で測定し、測定された球の位置を各時間段階別に繋ぐことによって等高線と類似した形態の皮膚弾力情報を算出することができる。
【0060】
本明細書における一実施例に係る皮膚構造の測定方法を、図面に提示されたフローチャートを参照して説明した。簡略に説明するために前記方法を一連のブロックで図示し説明したが、本発明は、前記ブロックの順序に限定されず、幾つかのブロックは他のブロックと本明細書で図示され記述された順序と異なる順序に、または、同時に実施されてもよく、同一または類似の結果を達成する多様な他の分岐、流れ経路、およびブロックの順序が実現され得る。また、本明細書において記述される方法の実現のために図示されたすべてのブロックが要求されないこともある。
【0061】
上述した本発明は、図面に図示され実施例を参考にして説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当該分野における通常の知識を有する者ならばこれから多様な変形および実施例の変形が可能であることが理解できるであろう。なお、かかる変形は、本発明の技術的保護範囲内にあると見なされるべきである。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決められるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
実施例は、皮膚構造の測定装置および方法に関する。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図4
図5
図10
図3a
図3b
図3c
図6a
図6b
図7
図8a
図8b
図9