特許第5921547号(P5921547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5921547ディスプレイ領域用のポリウレタンベースのコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921547
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】ディスプレイ領域用のポリウレタンベースのコーティング
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20160510BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20160510BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C03C17/32 B
   C03C17/32 A
   C08G18/80
   B32B27/40
【請求項の数】39
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-527522(P2013-527522)
(86)(22)【出願日】2011年8月3日
(65)【公表番号】特表2013-543470(P2013-543470A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】EP2011063349
(87)【国際公開番号】WO2012031837
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年1月23日
(31)【優先権主張番号】102010045149.5
(32)【優先日】2010年9月11日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】シュトリーグラー,ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルツ−キリン,ベルナデッテ
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−532517(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0219176(US,A1)
【文献】 特開2008−008609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色ポリウレタン系からなる透明コーティングを有する滑らかで透明なガラス又はガラスセラミックの基板の成形体であって、前記ポリウレタンコーティングが、H酸化合物を用いて熱架橋したポリイソシアネートを含有し、該コーティングされた成形体が、1%〜20%の範囲の可視光線透過率を有し、
前記可視光線の波長範囲が400nm〜750nmであり、
前記基板及び/又は前記コーティングの粗度Raが0.5μm未満であり、
前記ポリウレタンコーティングが、有機及び/又は無機着色顔料及び/又は白色顔料及び/又は黒色顔料、及び/又は少なくとも1つの有機及び/又は無機色素を含有し、
前記ポリウレタンコーティングの出発物質が、ブロック化ポリイソシアネート及びH酸化合物からなり、該H酸化合物がポリエステルポリオールであることを特徴とする、成形体。
【請求項2】
前記ブロック化ポリイソシアネートが脂肪族、芳香族、脂環式又は芳香脂肪族ポリイソシアネートであることを特徴とする、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記ブロック化ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとする脂肪族ポリイソシアネートであることを特徴とする、請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
前記ブロック化ポリイソシアネートが、800g/mol〜10000g/molの平均分子量を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項5】
前記ブロック化ポリイソシアネートが、1000g/mol〜1100g/molの平均分子量を有することを特徴とする、請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
前記ブロック化ポリイソシアネートが、1分子当たり2個〜50個のブロック化イソシアネート基を有することを特徴とする、請求項〜5のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項7】
前記ブロック化ポリイソシアネートが、1分子当たり2個〜6個のブロック化イソシアネート基を有することを特徴とする、請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
前記ポリエステルポリオールが、1000g/mol〜2000g/molの平均分子量、及び純ポリオール又は溶解ポリオールベースで2重量%〜8重量%のヒドロキシル基含量を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項9】
前記ポリエステルポリオールが、純ポリオール又は溶解ポリオールベースで3重量%〜6重量%のヒドロキシル基含量を有することを特徴とする、請求項に記載の成形体。
【請求項10】
前記ポリウレタンコーティングの出発物質が、ブロック化ポリイソシアネート及びH酸化合物を1:1〜2:1の当量比で含有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項11】
前記ポリウレタンコーティングの出発物質が、ブロック化ポリイソシアネート及びH酸化合物を1.1:1〜1.6:1の当量比で含有することを特徴とする、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
前記ポリウレタンコーティングが、55重量%〜99.9重量%の範囲のポリウレタン含量を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項13】
前記ポリウレタンコーティングが、75重量%〜96重量%の範囲のポリウレタン含量を有することを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
前記顔料が25μm以下の粒径を有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項15】
前記顔料が10μm以下の粒径を有することを特徴とする、請求項14に記載の成形体。
【請求項16】
前記コーティングがモノアゾ顔料、ジアゾ顔料、多環顔料、酸化鉄顔料、酸化クロム顔料、ルチル型構造若しくはスピネル型構造を有する酸化物混合相顔料、カーボンブラック、グラファイト、TiO、ZrO、炭酸塩又は硫化物を含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項17】
前記ポリウレタンコーティングが液晶顔料、及び/又は有機及び/又は無機光輝顔料及び/又は発光顔料を含み、該光輝顔料がコーティングされた及び/又はコーティングされていないプレートレット様顔料であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項18】
前記プレートレット様顔料が100μm以下の辺長を有することを特徴とする、請求項17に記載の成形体。
【請求項19】
前記プレートレット様顔料が10μm以下の辺長を有することを特徴とする、請求項18に記載の成形体。
【請求項20】
前記有機及び/又は無機色素が、着色色素及び/又は黒色色素及び/又は発光色素であるとともに、前記ポリウレタンコーティングの出発物質に可溶であり、前記有機色素がアクリジン、銅フタロシアニン、フェノチアジンブルー、ジスアゾブラウン、キノリンイエロー、アゾ系列、アゾメチン系列及びフタロシアニン系列のコバルト、クロム又は銅の錯体色素、アゾクロム錯体ブラック、フェナジンフレキソブラック、チオキサンテンイエロー、ベンズアントロンレッド、ペリレングリーンであることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項21】
前記有機色素が金属クロム錯体色素であることを特徴とする、請求項20に記載の成形体。
【請求項22】
前記ポリウレタンコーティングが、0.1重量%〜45重量%の範囲の色素含量を有することを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項23】
前記ポリウレタンコーティングが、0.1μm〜1000μmの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項1〜22のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項24】
前記ポリウレタンコーティングが、5μm〜20μmの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項23に記載の成形体。
【請求項25】
前記基板及び/又は前記コーティングの粗度Raが0.001μm〜0.02μmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜24のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項26】
前記ポリウレタンコーティングの出発物質が、溶媒及び/又は増粘剤及び/又はチキソトロープ剤及び/又は消泡剤及び/又は湿潤剤及び/又はレベリング剤及び/又は触媒を含み、前記溶媒が非プロトン性であるとともに、中揮発性(VD=10〜35)又は低揮発性(VD>35)であり、前記増粘剤が20℃で固体又は粘性のポリアクリレート、ポリシロキサン、チキソトロープアクリル樹脂、イソシアネート又はウレタンによってチキソトロープ性にしたアルキド樹脂、ワックス、会合性増粘剤であり、前記触媒が第三級アミン及び/又は金属含有塩であることを特徴とする、請求項1〜25のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項27】
前記増粘剤が会合性アクリレート増粘剤、疎水的に改質されたセルロースエーテル、エーテルウレタン、ポリエーテル、又は変性尿素、又は非晶質シリカであることを特徴とする、請求項26に記載の成形体。
【請求項28】
前記増粘剤が親水性焼成シリカ、有機層状ケイ酸塩、又は金属セッケンであることを特徴とする、請求項26に記載の成形体。
【請求項29】
前記触媒が亜鉛塩、コバルト塩、鉄塩、スズ(IV)塩、スズ(II)塩又はアンチモン塩であることを特徴とする、請求項2628のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項30】
前記触媒がスズ(IV)アルコキシレート、ジブチルスズジラウレート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、亜鉛ナフテネート又はコバルトナフテネートであることを特徴とする、請求項2628のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項31】
前記ポリウレタンコーティングが、0.1重量%〜25重量%の増粘剤含量を有することを特徴とする、請求項1〜30のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項32】
前記ポリウレタンコーティングが、10重量%〜15重量%の増粘剤含量を有することを特徴とする、請求項31に記載の成形体。
【請求項33】
前記コーティングされた成形体の可視光範囲(400nm〜750nm)での散乱が、0.01%〜40%の範囲であることを特徴とする、請求項1〜32のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項34】
前記コーティングされた成形体の可視光範囲(400nm〜750nm)での散乱が、6%未満の範囲であることを特徴とする、請求項33に記載の成形体。
【請求項35】
前記コーティングされた成形体の可視光範囲(400nm〜750nm)での散乱が、0.01%〜1%の範囲であることを特徴とする、請求項34に記載の成形体。
【請求項36】
前記ポリウレタンコーティングが、20℃〜150℃の温度範囲で10Ω/cm超の表面抵抗を有することを特徴とする、請求項1〜35のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項37】
前記コーティングされた成形体が、940nmの波長で25%超の透過率を有し、可視光波長範囲(400nm〜750nm)で3.4%の最大透過率変化を有することを特徴とする、請求項1〜36のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項38】
前記ポリウレタンコーティングが、周辺コーティングを少なくとも部分的に覆うか、又は周辺コーティングの全域を覆うか、又は少なくとも1つの周辺コーティングによって少なくとも部分的に覆われ、該周辺コーティングが貴金属コーティング、ゾルゲルコーティング、アルキド樹脂コーティング、シリコーンコーティング、エポキシ樹脂コーティング若しくはポリアミドコーティング、ガラスベースのコーティング、又はポリウレタンコーティングであることを特徴とする、請求項1〜37のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項39】
プレート、調理面、コントロールパネル、光学レンズ、煙突のぞき窓、ベーキングオーブン窓、ディスプレイ領域、フィッティング又は自動車用の窓として構成され、前記ポリウレタンコーティングが片面若しくは両面に適用されるか、又は両面に適用された前記ポリウレタンコーティングが少なくとも片面で部分的に除去されることを特徴とする、請求項1〜38のいずれか一項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、ガラスセラミック又はプラスチックの成形体のディスプレイ領域、特に屋内電気器具の調理面又はコントロールパネルのディスプレイ領域用の可視光波長範囲で低い透過率を有するポリウレタンコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
有機バインダー系をベースとするディスプレイ領域のコーティング(「ディスプレイ層」)は、以前から知られている。底面に隆起のある着色ガラスセラミック製の調理面(例えば、CERAN HIGHTRANS(商標))の場合、コーティングは、点灯手段(白熱灯、LED等)がガラスセラミックを通してはっきりと輝くように、ディスプレイ領域の隆起のある底面を平らにする働きをする。ディスプレイは例えば、まだ熱い調理面を警告する役割を果たす(余熱ディスプレイとして知られる)。
【0003】
隆起の高さは通常0.1mm〜0.3mmであり、それらの間隔は1mm〜5mmであり、それらは一般にオフセットに配置される。隆起は、ガラスセラミックプレートの機械的安定性(耐衝撃性及び曲げ強度)を増大させ、セラミック化(ceramicization)基板との接触を低減する(特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献2は、例えば隆起のあるプレートからなる覗き窓(sight windows)を記載している。ガラスプレート又はガラスセラミックプレートの隆起間の谷間は、プレートを通したほぼ明確な視界を可能にする、滑らかで平らなプレートの底面が得られるように硬化性合成樹脂で満たされる。合成樹脂として、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂、更にはポリウレタン樹脂が言及されている。これらの合成樹脂は、特定の光学的効果を達成するために着色することもできる。隆起の高さに応じて、合成樹脂層の厚さは0.01mm〜1mmである。
【0005】
特許文献2は、当業者が経済的理由のために、自己硬化性合成樹脂系(例えば、室温で化学的に架橋する二成分系、更には空気架橋系又は湿気架橋系)を選択し得るように、任意の合成樹脂の硬化条件を言及してはいない。
【0006】
特許文献2の更なる展開例は特許文献3に言及されている。ここでは、文字(writing)の入ったプラスチックマスクを同じ硬化性合成樹脂(とりわけポリウレタン樹脂)に載せ、硬化させる。特許文献3も同様に、ポリウレタン系の選択を行う当業者が、室温で重付加によって架橋する従来の二成分系から開始し得るように、樹脂が架橋する条件又はポリウレタン樹脂を選択する際に従うべき基準に関する情報を与えてはいない。湿気硬化型ポリイソシアネートをベースとし、同様に室温の空気中で自然に硬化する一成分ポリウレタンコーティング組成物を利用することも明らかであり得る。
【0007】
付加的な加熱工程及び関連コスト、並びに適用されたプラスチックマスクが変形又は融解し得るリスクのために、熱硬化性コーティング系は明らかでない。
【0008】
隆起のあるガラスセラミック調理面は一般に、隆起のある底面が付加的な工程で(樹脂の適用を用いて又は研磨によって)滑らかにされていない場合に、ディスプレイ領域内の隆起が照明ディスプレイの歪みをもたらすという欠点を有する。加熱領域内の隆起は、放熱器(ハロゲン加熱素子又はIR加熱素子)が作動する際に外観を損なう場合もある。
【0009】
両面が滑らかなガラスセラミック調理面は、言及された欠点を有しない。両面が滑らかであり、可視光に対して透明であり、ひいては底面に不透明なコーティングを有する無着色のガラスセラミック調理面の場合、ディスプレイ領域をコーティングせずに、例えばガラスセラミックの裏側に料理レシピを示すためのLCDディスプレイを設けることもできる。かかる調理面は、特許文献4に記載されている。
【0010】
しかしながら、ディスプレイ領域は、コーティングがハブ(hob)の内部への視界を妨げるが、それにもかかわらずコーティングの下に配置されるスイッチの入った照明デバイスが、コーティングを通して十分にはっきりと輝くようにコーティングすることもできる。この実施の形態では、ディスプレイ領域を完全に埋めるために大面積のLCDディスプレイは必ずしも必要とされず、より安価な7セグメントディスプレイ、個々のシンボル、ピクトグラム又は文字のディスプレイにも好適である。コーティングされたディスプレイ領域の利点は、調理ハブの製造業者が様々な点灯手段の配置及び組合せに関して設計の自由を得ることである。
【0011】
両面が滑らかな、無着色の透明なガラスセラミック調理面のかかるディスプレイ領域に好適なコーティングが、特許文献5に記載されている。言及される貴金属コーティングは、とりわけ可視光をほとんど散乱させず(散乱は1%未満である)、可視光に対するそれらの低い透明度のために(400nm〜750nmの波長に対する透過率は1%〜21%である)、ボード、ケーブル及びハブ内の他の構成要素までの視界が妨げられるという点で注目に値する。そのためディスプレイ領域においてコーティングされた調理面の下に配置される照明デバイスは、動作時にコーティングされたガラスセラミック調理面を通してはっきりと輝き、非稼働の状態ではコーティングによって隠されている。この高品質コーティングの欠点は、貴金属の高いコスト、所要の高い焼成温度(約800℃)及び色の選択の制限(黒色、褐色、銀色、金色又は銅色の層しか得ることができない)である。
【0012】
特許文献5では、有機顔料、黒色顔料、無機顔料又はナノ粒子を用いて着色することができる既知の有機コーティング(ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂のコーティング)が、力学的安定性、化学的安定性及び熱安定性に関して、発明された貴金属層より大幅に劣っていることが言及されている。特許文献5は有機バインダーの組成について更なる情報を与えてはいない。
【0013】
特許文献6は、携帯電話ディスプレイ及び他のディスプレイ構成要素用の傷付き保護としてポリウレタンコーティングを提案している。ポリウレタンコーティングは無着色であっても、又は色付きであってもよい。着色をどのようにすれば行うことができるか、及びその目的、及びディスプレイコーティングをどの程度色付けすべきかについての情報は与えられてはいない。このポリウレタン系は、とりわけ熱硬化することができ、二成分系であっても又は一成分系であってもよい。二成分系は、ポリエステルポリオール成分及びジイソシアネート成分からなり得る。特許文献6はどちらの系が好ましいかは示してはいない。一成分系及び二成分系は同等に論考され、スピンコーティングによって適用されるが、局所的に限られた適用又は任意の構造化されたコーティングは可能ではない。
【0014】
特許文献7、特許文献8、特許文献9及び特許文献10は、調理面におけるディスプレイ領域用のスパッタコーティングを開示している。これらの層は、貴金属層と同程度の輝度を有するが、小ロットサイズ(small runs)で作製する場合には気相成長技術のために極めて高価であり、複雑なマスキング技術によってしか構造化することができないディスプレイ領域をもたらす。
【0015】
ディスプレイ領域のコーティングは、特許文献5に記載される層の場合と同様に、有機金属結合したチタン、ジルコニウム、鉄等(光輝塗料として知られる)のナノ層を用いて達成することもできる。かかるコーティングは例えば特許文献11から既知である。これらのコーティングの欠点は、対応する酸化物への金属有機化合物の変換を達成するために、言及される貴金属コーティングに用いられるのと同様に高い温度で焼成する必要があることである。
【0016】
上述のディスプレイ領域に対するコーティング以外にも、アルキルシリケート(ゾルゲル系)をベースとするスクリーン印刷されたコーティングも、特許文献12及び独国特許出願第102009010952号(未だ公開されていない)から既知である。これらの系の大きな欠点は、ゾルがコーティング組成物の加工中に湿気への曝露のために架橋し始めるため、調理面間で同程度の透明度の層は、コーティング組成物を連続的に供給し、コーティングプロセスを連続的に行った場合にしか得ることができないということである。加えて、ゾルゲルコーティング組成物は、僅か数ヶ月という比較的低い貯蔵安定性を有し、輸送又は貯蔵中の温度変動の際に変化する。貯蔵時間が限度を超えるか、又は貯蔵条件若しくは輸送条件が好ましくない場合、粘度変化が生じ、又はコーティング組成物が未開封の容器内でゲル化する。この層は可視光を大幅に散乱させるエフェクト顔料を更に含有するため、表示される数字、文字又はシンボルが不鮮明となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2003086019号
【特許文献2】独国特許第4104983号
【特許文献3】独国特許第4424847号
【特許文献4】欧州特許第1837314号
【特許文献5】独国特許第102006027739号
【特許文献6】国際公開第2007025011号
【特許文献7】国際公開第2003098115号
【特許文献8】独国特許第102007030503号
【特許文献9】仏国特許第2885995号
【特許文献10】米国特許出願公開第2007/0108184号
【特許文献11】国際公開第2008047034号
【特許文献12】特開2003086337号公報
【発明の概要】
【0018】
したがって、本発明の目的は、滑らかで透明な成形体上のディスプレイ領域用のコーティング系であって、
安価であり、
貯蔵及び加工の際に安定であり、
低温(好ましくは200℃未満)で架橋し、
容易に構造化することができ、
傷のつきにくい、強く接着するコーティングをもたらし、
多数の色合いで得ることができ、
水及び油に対して化学的耐性があり、
150℃までの加熱に対して色が安定であり、
基板の衝撃強度及び曲げ強度を許容し難い程度まで低下させず、
照明ディスプレイに対して十分に透明であり、
非稼働のディスプレイ及び他の構成要素を隠すのに十分に不透明である、
コーティング系を発見することである。
【0019】
特定の場合では、コーティング系は容量性タッチスイッチ又は赤外線タッチスイッチにも好適であるものとし、6%未満の散乱を有する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、ブロック化ポリイソシアネートをベースとする着色有機表面コーティング組成物によって達成される。
【0021】
かかる焼成ポリウレタン系は、非常に低い架橋温度及び非常に短い架橋時間であっても(これは既知のゾルゲル系の場合でも、既知の貴金属系の場合でも可能ではない)、好適な顔料着色又は着色によって、低い散乱を有し、言及される貴金属層よりも10倍〜100倍安価である層について十分な耐引っ掻き性及び接着強度を達成し、貯蔵及び加工の際に安定であり、スクリーン印刷を用いた単純な方法で構造化コーティングとしても適用することができ、更にはディスプレイ領域のコーティングに要求される他の要件を満たすという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態を示す図である。
図2】本発明の他の実施形態を示す図である。
図3】本発明の他の実施形態を示す図である。
図4】コーティングされていないガラスセラミック及びコーティングされたガラスセラミックの透過率曲線を示す図である。
図5】ディスプレイ層でコーティングされたガラスセラミック及びポリウレタン層の散乱曲線を示す図である。
図6】本発明の他の実施形態を示す図である。
図7】本発明の他の実施形態を示す図である。
図8】本発明の他の実施形態を示す図である。
図9】本発明の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ブロック化ポリイソシアネートでは高温でのみブロック化剤が除外されるため、架橋反応は熱処理によって開始する必要がある。僅か100℃〜250℃、好ましくは160℃〜200℃という比較的低い温度であっても、架橋反応を開始するのに十分である。純ポリウレタン膜の高い透明度及び低い散乱能のために、所望される任意の数の色合い、更には所望の透過率を、着色剤の好適な選択、組合せ及び割合によって得ることができる。色素又は微粉顔料も、コーティングされていない基板の粗度、更には硬化ポリウレタン膜の粗度が、いずれの場合もR=0.5μm未満、特にR=0.3μm未満、好ましくはR=0.001μm〜R=0.1μmである場合に、低い散乱を有する層を得ることを可能にする。ポリウレタン系はまた、所要の力学的性質及び化学的性質を有し、線状バンド、ドット等の構造を僅かな工学的支出で作製することができるように、スクリーン印刷可能とすることができる。結果として、個々に構成したディスプレイ領域だけでなく、装飾要素にも単一のプロセス工程を適用することができる。
【0024】
多数の利用可能なポリイソシアネート、すなわち複数の遊離イソシアネート基を有する多官能性イソシアネート、例えば、
芳香族ポリイソシアネート、例えばトリレン2,4−ジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネート(MDI)、
脂環式ポリイソシアネート及び芳香脂肪族ポリイソシアネート、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルシクロヘキシル2,4−ジイソシアネート(HTDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、
脂肪族ポリイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)又はトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)の中でも、
最も熱的に安定なポリウレタンを形成することから、脂肪族イソシアネートを用いることが好ましい。HDIは特に、優れた熱安定性及び耐黄変性を有する表面コーティングを得ることを可能にする。一般に、モノマーイソシアネートではなく、モノマーのオリゴマー又はポリマー、例えばそれらのダイマー、トリマー又はより高次のポリマー、更にはビウレット、イソシアヌレート、又はトリメチロールプロパン付加物、又は他の多価アルコールが、分子の拡大の結果として、取り扱いがより容易な比較的不揮発性の成分が得られることから、表面コーティングに使用される。
【0025】
脂肪族イソシアネートは、200℃〜250℃でしか分解しないウレタンを作製することを可能にする。したがって、脂肪族ポリイソシアネートに由来するポリウレタン層の熱安定性は、好ましくない場合、例えば熱い調理鍋をディスプレイ領域上に載せた場合でも、調理面のディスプレイ領域において底面で一時的でも150℃を超えない温度しか生じないことから、調理面のディスプレイ領域での使用にも十分である。また一方で、このタイプの誤操作は一般に音響警告信号を発信させ、ディスプレイ領域の下方に位置する電子機器を保護するためにハブのスイッチが切られる。
【0026】
加工及び貯蔵に安定な表面コーティングを得るためには、ブロック化ポリイソシアネート(焼成ウレタン樹脂(BU樹脂)として知られる)を使用する必要がある。好適なブロック化剤は、アルコール及びフェノール、更には他のブレンステッド酸(陽子供与体、酸性水素を有する化合物)、例えばチオアルコール、チオフェノール、オキシム、ヒドロキサム酸エステル、アミン、アミド、イミド、ラクタム、又はジカルボニル化合物、特にε−カプロラクタム、ブタノンオキシム、ジメチルピラゾール、ジイソプロピルアミン、及びマロン酸ジエチル等のマロン酸エステルである。ブタノンオキシムブロック化HDIは、140℃〜180℃(5分〜60分)で硬化する表面コーティングを配合することを可能にするが、ε−カプロラクタムブロック化HDIは、幾らか高い温度を架橋に必要とする(160℃〜240℃、5分〜60分)。マロン酸ジエチルブロック化HDIを用いて架橋された表面コーティング樹脂は、100℃〜120℃と低い温度で硬化する。ブロック化剤が架橋時に放出され、マロン酸ジエチルが危険物に分類されず、ε−カプロラクタムがブタノンオキシムと比較して危険物としての分類重要度が低いため、マロン酸エステル又は(より高い架橋温度にもかかわらず)ε−カプロラクタムによってブロック化された脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。ブタノンオキシム、ε−カプロラクタム及び他の大半のブロック化剤は、架橋時に表面コーティング膜から相当な程度で放出され、乾燥機の排気流路によって表面コーティング組成物から除去される。これにより、反応平衡が出発成分側からポリウレタン側へと移動する。
【0027】
好適なブロック化ポリイソシアネートの例は、例えばBayer MaterialScience製のDesmodur(商標)グレード、Desmodur(商標)BL 3175 SN及びDesmodur(商標)BL 3272 MPAである。表1に、これらの樹脂の性質の概要を示す。当量はブロック化イソシアネート基の含量から計算することができる。ブロック化ポリイソシアネートの平均NCO官能性が既知である場合、それから平均分子量を決定することができる。本発明の目的上、NCO官能性は1分子当たりのブロック化した、場合によっては遊離のNCO基の数である。
【0028】
好ましいブロック化ポリイソシアネートの平均分子量は、800g/mol〜2000g/molである。しかしながら、2000g/mol〜10000g/molの分子量を有する樹脂も同様に好適であり得る。
【0029】
好適なBU樹脂の場合、NCO官能性は2以上、特に2.5〜6であり、特に好ましくは2.8〜4.2である。しかしながら、1分子当たり6個よりも多くのブロック化イソシアネート基を有する樹脂も、好ましくはないにせよ好適である。
【0030】
ブロック化ポリイソシアネートは、一般にトリマー型ポリイソシアネートであるが、ダイマー型、より高次のオリゴマー型又はポリマー型のブロック化ポリイソシアネートも好適である。イソシアヌレート構造を含有するポリイソシアネートが好ましい。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
平均分子量は例えばGPC測定(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて決定することができる。
【0033】
ブロック化ポリイソシアネートの反応相手としては、原則として、反応性(酸性)水素原子を含有する全ての化合物を利用することが可能である。ポリオール、特にポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールが、これらの成分を用いて力学的かつ化学的に非常に安定なコーティングを得ることができることから、非常に好適である。しかし、アミン、ポリアミン、ヒマシ油、アマニ油及びダイズ油とトリオールとのエステル交換生成物、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂又はポリアクリレート樹脂、ビニルポリマー、エチルセルロース等のセルロースエステルも反応相手となり得る。
【0034】
ブロック化剤の排除後のブロック化イソシアネート基又は遊離イソシアネート基と、反応性水素原子を含有する化合物との反応は、重付加によってポリウレタンを形成する。ポリウレタンの性質は、イソシアネート成分だけでなく、選択されるH酸化合物にも相当に依存する。当然ながら、膜の性質を特定の要件に適合させるために、様々なH酸化合物、例えばポリエステルポリオールと、特にシリコーン樹脂又はエポキシ樹脂とを組み合わせることも可能である。
【0035】
高いヒドロキシル基含量(1分子当たり3個以上のヒドロキシル基、2重量%〜8重量%、特に3重量%〜6重量%のOH含量に相当する)、及び1000g/mol〜2000g/molの範囲の平均分子量を有するポリエステルポリオール、特に分岐ポリエステルポリオールが、ディスプレイ領域のコーティングに特に好適であることが見出されている。これは、ヒドロキシル基によって強く架橋したポリウレタン膜をもたらすこれらのポリオールによって、特に硬質であり、傷がつきにくく、化学的に安定であるが、それにもかかわらず、驚くべきことにガラスセラミック(熱膨張が極めて低い基板)からも分離しないほど十分に柔軟である層を作製することが可能になるためである。ポリエステルポリオールがより高度に分岐し、それらが有するヒドロキシル基がより多いほど、形成されるポリウレタンはより強く架橋する。
【0036】
好適なポリエステルポリオールの例は、Bayer MaterialScience製のDesmophen(商標)グレード、Desmophen(商標)651、Desmophen(商標)680及びDesmophen(商標)670である。例えば、低いOH含量を有する僅かに分岐したDesmophen(商標)1800は、主に線形構造を有し、したがって軟質である、弱く架橋したポリウレタン膜しかもたらさないために不適切である。表2に樹脂の特徴的な性質の一部を示す。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
上述のDesmaphen(商標)グレードを含む大半の市販のポリエステルポリオールの分子構造は、一般にポリオール混合物が製造プロセスにおいて得られるために、正確に規定することはできない。しかしながら、ポリエステルポリオールの性質は、反応条件を用いて再現性よく設定することができ、生成物をヒドロキシル含量(OH数)、平均分子量、それらの密度及び粘度によって特性化することが可能である。平均OH官能性は出発成分の選択によって決まる。
【0040】
ポリオール成分(H酸成分、「バインダー」とも称される)のヒドロキシル含量(OH含量)のモニタリング及び知識、並びにポリイソシアネート成分(「硬化剤」とも称される)のブロック化イソシアネート基含量(NCO含量)の知識は、コーティングの最大架橋が理論的に、以下の反応式に従って、化学量論量の硬化剤及びバインダーを使用した場合、すなわち硬化剤とバインダーとの化学量論比が1:1である場合にしか起こらないために重要である:
R−N=C=O+HO−R’→R−NH−CO−O−R’
イソシアネート アルコール ウレタン
【0041】
1:1の化学量論比で理論的に達成され得る最大架橋密度は、コーティングの性質(接着性、耐引っ掻き性、柔軟性、化学的安定性及び熱安定性)にとって重要である。したがって、硬化剤及びバインダーはポリウレタン系中に1:1の化学量論比で存在するものとする。この目的で必要とされる量は、当量によって計算することができる。
【0042】
硬化剤含量の低下(架橋不足)は、力学的安定性及び化学的安定性のより乏しい、より柔軟なコーティングを生じるため、回避すべきである。硬化剤含量の増大(過剰架橋)は、過剰のイソシアネート基が大気水分と反応して尿素基を形成するため、架橋密度を増大させる。したがって、1.1:1〜2:1という硬化剤とバインダーとの当量比を用いることが、コーティングの硬度、したがって耐引っ掻き性又は基板に対する接着性を増大させるために有用であり得る。水との二次反応は、溶媒の含水量又は基板の残留水分含量等の他の要因によっても可能となり、それによりイソシアネート基が系から除去され、したがってポリオール成分のヒドロキシル基との反応に利用可能ではなくなるため、およそ1.1:1〜2:1、特に1.3:1〜1.6:1という硬化剤とバインダーとの当量比が好ましい。
【0043】
無色透明な記載のバインダー系を用いて、照明ディスプレイに対しては十分に透明であり、同時に十分に不透明である表面コーティングを得るために、ブロック化ポリイソシアネート及びH酸成分(例えば、ポリヒドロキシ樹脂)からなるポリウレタン系を、可視光線透過率Tvisが1%〜20%の範囲となるように着色する必要がある。
【0044】
最大100℃で長期にわたって熱的に安定であり、150℃〜最大250℃の温度に一時的に耐える着色剤が好適である。通常は着色剤がバインダー系の架橋及びその後の使用の際に、より高い温度に曝されることはない。
【0045】
したがって、熱的に非常に安定な無機着色剤以外に、有機着色剤も好適である。本発明の目的上、着色剤はDIN 55943に従う全ての着色物質である。電気器具及び電子器具についての法的要件から、着色剤は鉛、六価クロム(Cr+VI)、カドミウム又は水銀を全く含有しないものとする。酸化鉄顔料、酸化クロム顔料等の無機着色顔料及び黒色顔料、又はルチル型構造若しくはスピネル型構造を有する酸化物混合相顔料、及び無機白色顔料(酸化物、炭酸塩、硫化物)が好適である。好適な顔料の例としては、ヘマタイト(α−Fe)からなる酸化鉄赤色顔料、Feという近似組成を有する酸化鉄黒色顔料、並びに混合相顔料のコバルトブルーCoAlO、亜鉛鉄ブラウン(Zn,Fe)FeO、クロム鉄ブラウン(Fe,Cr)、鉄マンガンブラック(Fe,Mn)(Fe,Mn)、スピネルブラックCu(Cr,Fe)、更にはグラファイト、並びに無機白色顔料としてTiO及びZrOを挙げることができる。
【0046】
特定の着色効果を達成するために、無機光輝顔料(金属エフェクト顔料、パールエフェクト顔料及び干渉顔料)又は無機発光顔料を使用することも可能である。好適な金属エフェクト顔料は例えばアルミニウム、銅又は銅亜鉛合金のプレートレット様粒子であり、好適なパールエフェクト顔料は例えば、オキシ塩化ビスマスであり、好適な干渉顔料は炎色(fire-coloured)金属ブロンズ、マイカ上の二酸化チタン、アルミニウム、マイカ、二酸化ケイ素又は酸化アルミニウム上の酸化鉄であり、好適な発光顔料は銀ドープ硫化亜鉛等の蛍光顔料、又は銅ドープ硫化亜鉛等のリン光顔料である。
【0047】
有機着色剤としては、有機着色顔料(例えばナフトールAS、ジピラゾロン等のモノアゾ顔料及びジアゾ顔料)、多環顔料(例えばキナクリドンマゼンタ、ペリレンレッド)、有機黒色顔料(アニリンブラック、ペリレンブラック)、有機エフェクト顔料(フィッシュシルバー(Fisch silver)、液晶顔料)、又は有機発光顔料(アゾメチン蛍光イエロー、ベンゾキサンテン蛍光イエロー)、更には有機着色色素及び黒色色素(例えばアクリジン、銅フタロシアニン、フェノチアジンブルー、ジスアゾブラウン、キノリンイエロー、アゾ系列、アゾメチン系列及びフタロシアニン系列のコバルト、クロム又は銅の金属錯体色素、アゾクロム錯体ブラック、フェナジンフレキソブラック等のカチオン色素、アニオン色素又は非イオン性色素)、更には有機発光色素(例えばチオキサンテンイエロー、ベンズアントロンレッド、ペリレングリーン)を使用することが可能である。
【0048】
顔料の平均粒径は通常、1μm〜25μm(好ましくは5μm〜10μm)の範囲である。D90は40μm未満(好ましくは6μm〜15μm)であるものとし、D50は25μm未満(好ましくは6μm〜8μm)であるものとし、D10は12μm未満(好ましくは2μm〜5μm)であるものとする。プレートレット様顔料は、カラーペーストを140〜31(36μmのメッシュ径に相当する)又は100〜40(57μmのメッシュ径に相当する)のスクリーン織幅(screen weaves)で問題なく印刷することができるように、60μm〜100μm(好ましくは5μm〜10μm)の最大辺長を有するものとする。より粗い顔料の場合、照明ディスプレイを十分に明瞭に識別することができなくなるほど、可視光を過度に散乱させる層が得られる。顔料がより細かいほど、ディスプレイ領域(ディスプレイ層)のコーティングが可視光を散乱させる程度が小さくなり、ディスプレイがより明瞭に(よりはっきりと)なる。言及した粒子サイズでは、散乱は通常5%〜40%(波長範囲:400nm〜750nm)である(特許文献5を参照されたい)。
【0049】
1μm未満の粒子サイズを有する顔料を使用した場合、散乱を6%未満(0.1%〜6%)、特に4%〜5%まで低下させることができ、その結果として特に明瞭なディスプレイが可能となる。ナノ粒子の分散には、通常は相当な追加支出が必要とされるが、これは必ずしもディスプレイ品質の向上に見合うものとは限らない。しかしながら、カーボンブラックを用いた顔料着色についての支出は、利用可能な特別な調製物のために度を超えてはおらず、光をほとんど散乱させず、貴金属コーティングのディスプレイ品質に匹敵する特に明瞭なディスプレイを可能にするコーティングをもたらす。
【0050】
言及したように、バインダー系に可溶な色素、すなわち着色剤、例えば1:2金属クロム錯体色素である、BASF SE製のOrasol(商標)ブラウン2 GL、Orasol(商標)ブラックCN及びOrasol(商標)ブラックRLI等の有機金属錯体色素、又は着色イオンを有する無機化合物、例えば塩化鉄、タングステンブロンズ(NaWO)、ベルリンブルーFe[Fe(CN)・HOも、それらが十分に強く着色し、ポリウレタン系の架橋及びその後の使用の際に生じる応力に耐えられるほど十分に熱的に安定であれば好適である。バインダー系が光又は熱の作用下で過マンガン酸塩又は二クロム酸塩等の強酸化剤によって急速に分解し得ることから、着色剤は強酸化剤であってはならない。これらの色素によって、驚くほど低い散乱(0.01%〜1%)及び粗度(R=0.001μm〜0.02μm、コーティングされていない基板と同程度)を有するディスプレイ層を得ることが可能となる。
【0051】
しかしながら、高いディスプレイ品質のためには、上述の低い粗度及び低い散乱に加えて、塗料が均一に広がること、すなわち顔料が均一に分散した滑らかな膜が形成され、硬化したディスプレイコーティングが、肉眼で見ることのできる大きな不透明な粒子、不純物等(例えば200μmを超える、特に0.3mm〜1.5mmのサイズを有する凝集体、ダスト、毛羽、粒子)を全く含有しないことも重要である。これは、かかる粒子又は顔料凝集体が点灯手段の光線内に入ると、ディスプレイ内に0.2mm〜3mmの寸法を有するダークスポットを生じ、その結果として、低い散乱及び粗度にもかかわらずディスプレイ品質が大幅に低下するためである。この要件のために、優れたディスプレイ品質を有するディスプレイ層の製造においては製造時の清浄性に注意を払うことが必要である。製造は理想的にはクリーンルーム条件下で行う。
【0052】
コーティングにおいて1%〜20%という所望の透過率(可視光範囲の波長に対する)を達成するのに必要とされる顔料含量は、コーティングの層厚に大きく依存し、層厚に応じて0.1重量%〜45重量%である(硬化したコーティングベースで)。この顔料含量は、55重量%〜99.9重量%というポリウレタン含量に相当する。層厚が大きくなると、小さな層厚が必要とされる場合よりも顔料含量が少なくなる。
【0053】
ポリウレタンコーティングの厚さは、0.1μm〜1000μm、好ましくは5μm〜20μmの範囲で選択することができる。0.1μm未満の層厚では、最大の顔料含量であっても十分に不透明なコーティングを作製することができなくなる。さらに、45重量%を超える顔料含量でも、耐引っ掻き性及び接着性は十分ではなくなる。1000μmを超える層厚は、通常は高い材料消費のために慣用的ではなく、いかなる更なる技術的利点ももたらさない。しかしながら、特定の場合では、硬質ポリウレタン系の高い透明度及び柔軟性によって、ミリメートル範囲の層厚も可能である。
【0054】
言及したように、カーボンブラックが、低い散乱を有するコーティングの作製に特に好適である。8μm〜12μmの層厚では、2重量%〜5重量%のカーボンブラック、特に3.6±0.2重量%のカーボンブラック(硬化したコーティングベースで)が、可視光に対して1%〜20%という所望の透過率を得るために必要とされる。好適なカーボンブラックは、フレームブラック(flame blacks)(一次粒子サイズ10nm〜210nm)、ファーネスブラック(一次粒子サイズ5nm〜70nm)、特に微粉ガスブラック(一次粒子サイズ2nm〜30nm)である。カーボンブラックを酸化的に後処理する、すなわちそれらの表面を加熱又は強酸化剤での処理によって高度に親水性にすることで、分散性を改善することができる。
【0055】
それにもかかわらず、高速混合機を用いた分散は通常は十分ではない。分散が不十分である場合、多くの小さな黒色粒子、すなわち崩壊していない、凝集した一次カーボンブラック粒子からなるカーボンブラック凝集体が、コーティング中に肉眼で見える。カーボンブラック凝集体は照明領域内で黒色ドットとして目立つため、ディスプレイの鮮明さを大幅に損なう。実質的に全てのカーボンブラック凝集体を、例えば三本ロールミル、撹拌ボールミル又は押出機(スクリュー式混練機)を用いて、塗料に比較的高い剪断力を加えることによって崩壊させることができる。しかしながら、これらのプロセスは、それらが比較的複雑であり、塗料におけるカーボンブラック濃度が、例えば溶媒が加工中に蒸発し、カーボンブラックがダストとして失われるか、又は装置の部品に付着するために大幅に変化するという欠点を有する。その一方で、塗料における再現性よく一定のカーボンブラック濃度(硬化したコーティングベースで±1重量%、特に±0.2重量%)が、再現性よく一定の層厚に加えて、コーティングの再現性よく一定の透過率にとって最も重要な必要条件である。
【0056】
したがって、市販のカーボンブラックペーストを使用することがより望ましい。これらのカーボンブラック調製物では、カーボンブラックは、カーボンブラック凝集体がコーティング中に生じることのないように、予め有機化合物中に好適に分散されている。カーボンブラックの取扱いは、適量のペースト様生成物しか秤量する必要がなくなるため、はるかに簡単である。市販のカーボンブラック調製物は、例えばDegussa AG製のカーボンブラックペーストTack AC 15/200(カーボンブラック含量12%)、BB 40/25(カーボンブラック含量38重量%〜42重量%)、又はBrockhues GmbH製のカーボンブラックペーストADDIPAST 750 DINP(カーボンブラック含量20%〜30%)である。
【0057】
しかしながら、カーボンブラック調製物は、有機成分が好ましいポリウレタン系(ポリイソシアネート及びポリエステルポリオールからなる)と相溶性を有しない場合があるという欠点を有する。ポリウレタン系Desmodur(商標)BL 3175 SN/Desmophen(商標)680 BAの場合、例えばカーボンブラックペーストTack ACを使用した場合に小粒が生じる。カーボンブラック調製物の更なる欠点は、カーボンブラック含量の割合が、製造方法の結果としてバッチ間での変動を受け、コーティングの透過率についての上述の結果を伴う場合があることである。更なる欠点は、カーボンブラック調製物、例えばカーボンブラック調製物Tack ACが、ブチルアセテート又は他の揮発性溶媒を含有し得ることである。しかしながら、コーティングがスクリーン印刷によって行われる場合、塗料中の揮発性溶媒は、色濃度を加工中に一定に保つ(溶媒の蒸発によって変化させない)ためには回避すべきである。これは、スクリーン印刷中の色濃度の変化が必然的に粘度、層厚の変化、したがって最終的には硬化したコーティングの透過率の変化をもたらすためである。言及した他の2つのカーボンブラック調製物の場合、可塑剤(ベンジルブチルフタレート、BBP;ジイソノニルフタレート、DINP)が有機分散媒体として使用され、環境、更にはヒトの健康に有害であることが欠点である。
【0058】
カーボンブラックペーストの上述の欠点を受け入れる必要なしに、カーボンブラックをポリウレタン系において規定の濃度で十分に微細に分散する、考え得る最善の方法は、カーボンブラックを20℃で固体である有機基質中に分散させた特定の粒状材料を使用することである。かかるカーボンブラック調製物は、例えばDegussa AGからINXEL(商標)、又はSun Chemical CorporationからSurpass(商標)という名称で市販されている。これらの粒状材料では、カーボンブラックはポリマー基質に微粉状で融解されている。遊離一次粒子を含有し、それぞれの用途の特定の要件(溶媒、濃度、粘度)に適合したカーボンブラックペースト又はカーボンブラック分散液を作製することができるように、ポリマー基質を、高速混合機を用いて分散することによって、湿潤剤を添加して従来の溶媒に溶解させる場合もある。粒状材料のためのポリマー基質としては、通常は非常に容易にポリウレタン系との相溶性を有し、酸性水素を含有する場合にポリウレタン系に組み込むことができるアルデヒド樹脂(例えばBASF製のLaropal(商標)A 81、尿素アルデヒド樹脂)が使用される。粒状材料におけるカーボンブラック濃度は粒状材料に応じて変化し、20重量%〜60重量%の範囲、特に25重量%(INXEL(商標)Black A905)又は55重量%(Surpass(商標)black 647−GP47)である。
【0059】
スクリーン印刷用インクを製造するために顔料着色ポリウレタン系に好適な溶媒は、特に35〜50超の蒸発指数EI、及び120℃超、特に200℃超の沸点を有する非プロトン性の比較的不揮発性の溶媒、例えば3000超の蒸発指数(EI)(EIジエチルエーテル=1)を有し、235℃〜250℃の範囲で沸騰するブチルカルビトールアセテート(ブチルジグリコールアセテート)である。
【0060】
120℃〜200℃の範囲の沸点を有する中程度の揮発度(EI=10〜35)の非プロトン性溶媒、例えば1−メトキシ−2−プロピルアセテート(EI=34)、ブチルアセテート(EI=11)又はキシレン(EI=17)も好適である。互いに組み合わせて使用することもできる揮発度が低い又は中程度の高沸点溶媒は、第1に塗料をスクリーン内で液体に、すなわち加工可能に維持する役割を有する。第2に、再現可能な層厚、その結果としてコーティングの一定の透過率を達成することができるように、色濃度を加工中に一定に保つことが重要である。加工中に一定の色濃度は、高い揮発度(EI<10)の溶媒が塗料の印刷中に蒸発し、結果として塗料の濃度が許容し難い程度まで変化し得るため、揮発度が中程度又は低い溶媒を塗料中に十分な割合で用いることで初めて達成することができる。
【0061】
しかしながら、実験から、高い揮発度(EI=1〜10)の溶媒、例えばメチルアセテート(EI=2.2)又はメチルイソブチルケトン(EI=7)が、スクリーン印刷プロセス中の溶媒の蒸発及び関連する濃度の増大のために許容し難いほど高い透過率の変化が生じることなく、或る特定の量(塗料ベースで1重量%〜10重量%)で存在することができることも示されている。揮発度の高い溶媒の割合は、特に揮発度が中程度及び低い溶媒の割合を超えてはならない。
【0062】
バインダー系のイソシアネート成分は非プロトン性溶媒と反応しないため、これらの溶媒を使用すべきである。n−ブチルアルコール(EI=33)、メトキシプロパノール(EI=38)、ブチルグリコール(EI=165)、ブチルジグリコール(EI>1200)、フェノキシプロパノール又はテルピネオール等のプロトン性溶媒が選択された場合、イソシアネート成分が熱硬化中に溶媒と反応することもあり、その結果としてコーティングの性質(耐化学性、接着性等)が通常は許容し難い程度に変化し得る。イソシアネート成分とn−ブチルアルコールとの反応は、例えば分岐をほとんど有さず、耐引っ掻き性に乏しいポリウレタンを生じ得る。しかしながら、特定の場合で溶媒との反応が望ましい場合もある。イソシアネート成分とプロトン性溶媒との反応は、脱ブロック化温度に達した時点で膜中にプロトン性溶媒が存在しないか、又は無視することができるほど少量のプロトン性溶媒しか存在しないように、温度が上昇すると印刷された膜から急速に放出されるプロトン性溶媒を使用することによって妨げることができる場合もある。
【0063】
カーボンブラックで顔料着色し、記載のポリウレタン系をベースとするスクリーン印刷用インクは、合計で10重量%〜45重量%の溶媒、特に38重量%〜43重量%の溶媒を含有するものとする。塗料(インク)の粘度はこの場合、塗料が垂れることなく一様に流動し、均一な膜が得られるように、200s−1の剪断速度で500mPa・s〜3500mPa・s、特に1000mPa・s〜3000mPa・sの範囲である。
【0064】
ポリウレタン系がカーボンブラック以外の顔料を含む場合、溶媒の割合は、顔料の粉末度、所望の層厚及びコーティング方法に応じて大幅に上下させることができる。溶媒の割合は、試験によって決定し、コーティング方法に適合させるものとする。
【0065】
顔料着色したポリウレタン系がスクリーン印刷に使用するには過度に流動性であり、溶媒の割合を更に低減することができない場合、レオロジー添加剤の添加によって粘度を増大させる必要がある。そうでなければ、フラッジング(flooding)後に塗料がスクリーンの繊維を通って落ち、加工が不可能となるか、又は少なくとも非常に困難になる。
【0066】
好適なレオロジー添加剤は、理想的には硬化したコーティングの色合い、透過率及び散乱を変化させない増粘剤及びチキソトロープ剤である。
【0067】
増粘は、例えば20℃で固体又は粘性であるポリアクリレート、ポリシロキサン、チキソトロープ化(thixotropicized)アクリル樹脂、及びイソシアネートチキソトロープ化アルキド樹脂又はウレタンチキソトロープ化アルキド樹脂等の樹脂の添加によって達成することができる。水素化ヒマシ油又はポリオレフィンワックス等のワックスも好適である。スクリーン印刷用インクに所望される非ニュートン粘性も、会合性アクリレート増粘剤等の会合性増粘剤、疎水的に改質されたセルロースエーテル、疎水的に改質されたエーテルウレタン(ポリウレタン増粘剤)、疎水的に改質されたポリエーテル、又は変性尿素を用いて達成することができる。
【0068】
言及される有機増粘剤又は有機修飾した増粘剤の場合、系との相溶性及び熱応力下で黄変が生じる傾向は、全ての事象において評価しなくてはならない。このため、特定の濃度範囲のセルロースエーテルは、逆の効果を有し、粘度を更に低減する場合もある。水素化ヒマシ油は、ポリウレタン系の熱架橋におけるその比較的低い熱安定性のために、分解生成物に起因する望ましくない褐色を生じる場合もある。完全に無機の増粘剤の場合には、これらが通常はより高い熱安定性を有するために、熱架橋中のポリウレタン系の黄変又は褐色の着色は起こらない。
【0069】
好適な無機増粘剤又は有機修飾した無機増粘剤は、例えば非晶質シリカ、又はメトキシプロピルアセテート若しくはブチルカルビトールアセテート等の極性溶媒の場合、特に親水性焼成シリカである。しかしながら、有機修飾した疎水性シリカ又は有機層状ケイ酸塩(有機修飾したベントナイト、スメクタイト、アタパルジャイト)、更には金属セッケン、例えば亜鉛又はアルミニウムのステアリン酸塩及びオクチル酸塩も、粘度を増大させるのに好適である。
【0070】
無機増粘剤の欠点は、それらがコーティングの散乱を増大させ、したがってコーティングの透明度を低減し得ることである。しかしながら、コーティングの散乱は驚くべきことに、比較的高い割合(架橋したコーティングにおいて10重量%〜15重量%)であっても、焼成シリカの添加の結果として特に大きく増大はしない。無機増粘剤の割合(架橋した層ベースで)は0.1重量%〜25重量%の範囲、特に3重量%〜15重量%の範囲であるものとする。増粘剤の25重量%を超える割合では、層の他の性質(熱安定性及び機械的安定性)が大幅に損なわれる場合もある(割合(重量%)は硬化したコーティングベースである)。
【0071】
印刷された画像、特にクレーター及びベナールセルの形成を最適化し、良好な湿潤及び滑らかで均一な膜の形成を確実にするためには、消泡剤、湿潤剤又はレベリング剤を印刷用インク(例えば、5000mPa・s〜50000mPa・sの粘度を有する0.1重量%〜2重量%のポリシロキサン)に添加すべきである。これは、不規則に分散した顔料粒子を有する不均一な層からの光が屈折し、非常に細かい顔料にもかかわらず点灯手段が明瞭に識別可能とはならないことから、均一で滑らかな膜の形成がディスプレイの品質にとって決定的に重要であるためである。
【0072】
完成したポリウレタン塗料は、原材料から又は製造プロセスにおいて導入された毛羽、ダスト又は他の粒子、場合によっては更には依然として存在する単離された(カーボンブラック)凝集体を除去するために加圧濾過することができる。
【0073】
透明な材料、例えばプラスチック、ガラス又はガラスセラミックプレートのディスプレイ領域、特に調理面又はコントロールパネルのディスプレイ領域のコーティングは、吹き付け、浸漬、キャスティング、塗装、スクリーン印刷、パッド印刷又は他のスタンピングプロセスによって達成することができる。コーティングは、例えば色差、色グラデーション又は他の色効果、更には透過率差をもたらすために、1つ又は複数の層に適用することができる。使用時に150℃を超える温度に曝されない構成要素(例えばコントロールパネル、自動車のフロントガラス又はフィッティング)は、全面にわたってコーティングすることができる。記載の組成物の一様に又は異なって着色されたポリウレタン表面コーティングからなる多層構造の場合、個々の領域はコーティングされないままであってもよく、それを用いて、異なって着色された領域又は異なる透明度を有する領域(1%未満の透過率を有する不透明領域を含む)を作製することができる。
【0074】
使用時に150℃を超える温度に曝されず、中程度の機械的応力にしか曝されない構成要素(例えば自動車のフィッティング、冷蔵庫、洗濯機又は食洗機のコントロールパネル)は、ユーザーに面する側をコーティングすることもできる。これは、高い耐引っ掻き性を有するコーティングを、記載のポリウレタン系を用いて作製することができるためである。
【0075】
スクリーン印刷プロセスは、ディスプレイコーティングの厚さを、スクリーン厚さによって正確に規定することができるため、製造プロセスにおいて広域の領域でも一定の層厚を高い精度で得ることができるという利点を有する。この態様は、ディスプレイ層との関連で上記に言及したように、それにより照明要素の光に対する透過率を規定の方法で設定することができ、それがディスプレイ領域全体にわたって一定に保たれるため、特に重要である。
【0076】
好適なメッシュ厚は54−64、100−40及び140−31である。高いエッジ鮮鋭度を必要とする用途の場合、細かいメッシュ(例えば、57μmのメッシュ径を有するメッシュ100−40、又は36μmのメッシュ径を有するメッシュ140−31)を使用することが可能である。1μm〜10μmの範囲の層厚は、通常はこれらのメッシュを用いて得られる。比較的粗いメッシュ、例えばメッシュ54−64(115μmのメッシュ径を有する)は、比較的大きな顔料粒子(例えばエフェクト顔料、最大で100μmの辺長を有するプレートレット様パールエフェクト顔料等)であっても、印刷時にスクリーンのメッシュ径を遮断することなく使用することができるという利点を有する。導電性顔料(例えば上記で言及した量のカーボンブラック)を使用する場合、容量性タッチスイッチをディスプレイコーティングの下に使用することができるように、ポリウレタンバインダー系の優れた絶縁性のために非導電性であり、十分に厚く、したがって十分に不透明なディスプレイ層を、メッシュ54−64(又はより粗いメッシュ)を用いて得ることができる。より薄い層をもたらす、より細かいメッシュ厚の場合、より高い顔料含量が十分に不透明なコーティングを得るために必要とされ、その結果としてコーティングの伝導性が、容量性タッチスイッチの使用に許容し難いほど高くなる可能性がある。
【0077】
さらに、スクリーン印刷プロセスの場合、両面が滑らかであり、他の領域が不透明となるようにコーティングされたプレートのコーティングされていない領域における目的とする塗料の適用に、複雑なマスキング技術(吹き付けプロセス又は気相成長プロセスの場合と同様)は必要とされない。ディスプレイ領域の周囲の領域の(不透明な)コーティングが非常に厚く(最大60μm)、そのためディスプレイ層を窪み内に印刷する必要がある場合であっても、その工程にもかかわらず、凹んだディスプレイ領域のコーティングにおいて克服すべき問題は生じない。
【0078】
特に、ディスプレイ層を残りの領域のコーティングと約1mm〜5mm重ねて印刷する場合、辺縁に、すなわち周囲の領域のコーティングが終わる端部で非接液部(unwetted places)は生じない。
【0079】
周囲の領域のコーティングとのディスプレイ層の重ね印刷は有利である。これは、製造上の公差のために、ディスプレイ層の印刷用のテンプレートを全ての他の先に印刷された層(上側の装飾を含む)に対して配向させる精度が、通常は0.3mm〜1.0mmであるためである。周囲の底面コーティングと重ねない場合、ディスプレイウィンドウの領域が、製造上の公差によるテンプレートのオフセットのためにコーティングされずに残る可能性がある。しかしながら、ディスプレイ層を周辺コーティングと十分に重ねた場合、ディスプレイ領域全体が常に完全にディスプレイ層で覆われることを確実にすることができる。
【0080】
この状況での重要な必要条件は、ディスプレイ層が周辺コーティングに十分に付着することである。記載のポリウレタン系をベースとするディスプレイ層の場合、良好な接着がアルキルシリケート層、特に独国特許第10355160号及び独国特許出願公開第102005018246号で言及される系、貴金属コーティング、特に独国特許第102005046570号及び独国特許第102008020895号に記載される系、スパッタ系(特許文献8)、ガラスをベースとする多孔質コーティング(欧州特許出願公開第1435759号)又は架橋シリコーンコーティング(独国特許第102008058318号)を用いて達成されることが見出されている。一方で、周囲の層が主に(硬化した層ベースで50重量%を超える)未架橋のシリコーン(ポリシロキサン)を膜形成要素として含有するか、又は強く疎水性である場合に、湿潤及び接着の問題が生じる。しかしながら、この場合、シリコーン樹脂(例えば、メチルシリコーン樹脂又はフェニルシリコーン樹脂)又は他の樹脂の添加によって、ポリウレタン系を適切に修飾することができる。
【0081】
適用されるポリウレタン系の熱硬化性は、100℃〜250℃、特に160℃〜200℃まで1分間〜60分間、特に30分間〜45分間の時間にわたって加熱することによって達成される。加熱の結果として、初めに溶媒が塗料から蒸発し、次にイソシアネート成分が脱ブロック化され、それによりH酸成分(例えばポリエステルポリオール)との架橋反応が進行し、固体膜が形成される。200℃を超える温度は、形成されるポリウレタンが200℃以上で分解し始めるため、通常は利用されない。分解はコーティングの僅かに褐色の着色を引き起こし、一般に望ましくない。しかしながら、特定の場合では、架橋を250℃より高い温度で、極めて短い時間(1分間〜5分間)で行うことができる。短時間の熱応力によって褐色の着色が限度内に維持される。
【0082】
所要の反応温度は、とりわけイソシアネート成分をブロック化するために用いるブロック化剤に相当に依存する。このため、ブタノンオキシムを用いたイソシアネートのブロック化の場合、140℃〜180℃が架橋を開始するのに十分であり、ε−カプロラクタムを用いたイソシアネートのブロック化の場合、160℃〜240℃が必要とされる。十分な架橋に必要とされる時間は、イソシアネート成分及びH酸化合物(ポリエステルポリオール)の選択に依存する。この時間は触媒、例えば第三級アミン、特に金属含有触媒、例えばZn、Co、Fe、Sn(IV)、Sb及びSn(II)の塩を用いて大幅に(数分間まで)短縮することができる。特に好適な触媒は、ジブチルスズジラウレート等のスズ(IV)アルコキシレート、及びテトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、亜鉛ナフテネート又はコバルトナフテネートである。触媒又は触媒混合物は、0.05重量%〜1重量%(カラーペーストベースで)の量で添加される。
【0083】
ポリウレタン系の低い架橋温度のために、透明なガラスセラミックだけでなく、圧延又はフロートし(floated)、熱的又は化学的にプレストレスを与えることができる(例えば、欧州特許第1414762号に記載されるように)、透明なガラス(例えばホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸ガラス、アルカリ土類金属ケイ酸塩ガラス)、又は透明なプラスチックも基板として使用することができる。
【0084】
コーティングされていない基板は、僅かに色付き(例えば褐色、赤色又は更には青色)であってもよいが、照明ディスプレイに対して十分に透明のままでなくてはならず(1%≦Tvis≦100%)、光に対して不透明であってはならない。
【0085】
基板は必ずしも平板である必要はなく、角度が付いていても、若しくは湾曲していても、又は別の形で成形されていてもよい。
【0086】
調理面については、LiO−AlO−SiOタイプのガラスセラミック、特に30℃〜500℃の温度範囲で−10・10−7−1〜+30・10−7−1の熱膨張を有する透明な無着色のガラスセラミックを使用することが好ましく、その既知の組成は、とりわけ下記表3に示される。
【0087】
【表5】
これらのガラスセラミックは、以下の清澄剤の少なくとも1つを含有する
:As、Sb、SnO、CeO、硫酸塩又は塩化物の化合物。
【0088】
第1の例では、両面が滑らかであり、幅約60cm、長さ80cm及び厚さ4mmであり、特許文献4による組成(表3)を有し、独国特許第19721737号に記載されるように、ディスプレイ領域3において切り抜かれ、セラミック化された点の格子状に上側がセラミック装飾塗料6でコーティングされた無色のガラスセラミックプレート1を、出発基板として使用する。
【0089】
図1に示されるように、ゾルゲル塗料からなる第1の着色された不透明な塗料層2を、続いてスクリーン印刷によって、セラミック化したガラスセラミックプレート1の底面の全域(ただし、ディスプレイ領域の切り抜き部を含まない)に適用した。
【0090】
着色コーティング2を100℃で1時間乾燥させ、350℃で8時間焼成した。高い耐引っ掻き性、並びに水及び油に対する不浸透性等の性質を達成するために、続いて更なるゾルゲル塗料4を、第2の塗料層(トップコート)として第1の塗料層2上に印刷し、150℃で30分間乾燥させた。着色された不透明なゾルゲル層を用いたガラスセラミック調理面の底面コーティングに関する詳細は、独国特許第10355160号に見ることができる。
【0091】
次いで、表4の組成(A)を有するポリウレタン塗料を、切り抜いたディスプレイ領域3にスクリーン印刷(スクリーンメッシュ54−64)によって適用し、周辺コーティングと約1mm重なったディスプレイ層5を得た。組成(A)を有する塗料の代わりに、他の例示的な組成(B)〜組成(I)を適用することも可能である。組成(A)〜組成(D)は、ポリウレタン成分の選択の点でのみ異なる。組成(E)及び組成(F)の場合、硬化剤とバインダーとの化学量論比を変更した。これは組成(E)の場合は1.3:1、組成(F)の場合は1.6:1である。組成(G)は、微粉カーボンブラックの代わりに、現在市販されている調理面のディスプレイ層において使用されるようなより粗い顔料を含有する。
【0092】
組成(H)及び組成(I)は、いかなる顔料も含有しないが、その代わりにポリウレタン系に溶解した高品質の有機金属錯体色素を含有する。ポリウレタン塗料を、160℃、200℃又は240℃で45分間架橋した(表6を参照されたい)。
【0093】
組成(A)〜組成(F)のポリウレタン塗料に使用されるカーボンブラックペーストは、177gのブチルカルビトールアセテート、37gの分散剤Schwego Wett 6246(リン酸エステルと組み合わせたポリマー)、及び164gのSurpass(商標)black 7(Sun Chemical Corporation、45重量%のLaropal(商標)A 81中55重量%のカーボンブラック)を、高速混合機を用いて、13.1m/s〜15.7m/sの周速で20分間均質化することによって作製した。周速は、カーボンブラックを十分に微細に分散させるためには少なくとも12m/sであるべきである。
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
更なる実施形態では、ディスプレイ層5及びトップコート4を適用する順序を逆転させることができる。図2に示されるように、ディスプレイ層5はディスプレイ領域3において着色層2の焼成後に適用され、トップコート4は、ディスプレイ領域が切り抜かれた状態で、乾燥させたディスプレイ層5に適用される。この変形形態では、トップコート4は、ポリウレタンをベースとするディスプレイ層が250℃を超える温度で明らかに分解する(発煙を伴う)ことから、250℃を超える乾燥温度又は焼成温度を必要としないことが重要である。
【0098】
この実施形態の更なる展開例を図3に示す。ここでは、トップコート4がディスプレイ領域3に広がり、例えば点灯手段7の真上で、分離した小さな領域のみが残る。この実施形態の利点は、調理場でディスプレイ領域3が(例えば、最新のレンジフード(vapour extraction hoods)のハロゲンランプによって)極めて強く照明される場合であっても、トップコート4が特定の領域(例えばLEDの真上)を除いて透過率を2%未満まで低減するために、ハブ内を見ることが可能ではないことである。
【0099】
別個の(第2又は第3の)印刷工程において、設けられた切り抜き領域に適用されるディスプレイ層の結果として、ディスプレイ層の色合いを周囲の着色層とは独立して選択することができる。
【0100】
着色ゾルゲル層及びゾルゲルトップコートの層厚は、この例では合計で35.4±3.0μmである。組成(A)を有するディスプレイ層の層厚は、10.3±0.1μmである。他の組成(B)〜組成(I)の層厚は、全ての例示的な組成物がメッシュスクリーン54−64を用いて印刷されることから、同規模であり、組成(A)〜組成(I)の固形分は同程度(54重量%〜60重量%)である。ディスプレイ層は、問題なく、すなわち印刷されていない領域を端部に有することなく、切り抜き領域に印刷することができた。
【0101】
可視光範囲における透過率Tvisは、組成(A)をベースとするディスプレイ層については8.2%である。他のカーボンブラックで顔料着色した層の透過率は、カーボンブラックで顔料着色した変形形態(A)〜変形形態(F)の所定のカーボンブラック含量が3.6%と一定であるため、同規模(7.3%〜10.6%)であり、塗料を同じスクリーンメッシュ(54−64)を用いて印刷した。得られるディスプレイ層間の透過率差は、塗料の製造及びコーティングの印刷における変動によるものである。全体として、製造プロセスにおける高い再現性を、比較的低い透過率差から結論付けることができる。
【0102】
ディスプレイ領域におけるコーティングされていないガラスセラミック及び組成(A)でコーティングされたガラスセラミックの透過率曲線を図4に示す。透過率Tvisは標準光タイプD65,2度観測角(observer)に対するDIN EN 410に従う透過率曲線から計算した。(A)のコーティングが設けられたガラスセラミックの透過率が、可視光波長範囲(400nm〜750nm)全体にわたって実質的に一定であることが明らかである。変化は僅か3.1%である。他のカーボンブラックで顔料着色した組成(B)〜組成(F)についても同様のことが当てはまる。したがって、カーボンブラックで顔料着色したポリウレタン層は、それらの波長範囲全体にわたって実質的に変化しない透明度の点で、従来の他の全てのディスプレイコーティングとは異なる。
【0103】
例えば、特許文献5に開示される貴金属コーティングの紫色光(400nm)に対する透過率は2.8%であり、暗赤色光(750nm)に対する透過率は13.5%である。このため、この2つのタイプの光の透過率差は10.7%であり、したがってカーボンブラックで顔料着色したポリウレタン層の透過率差より3倍超大きい。他の市販の貴金属コーティングは、更に大きい透過率差を有する。(例えば独国特許出願第102009010952号に記載されるような)ゾルゲルベースを有するディスプレイ層も、紫色光と暗赤色光との間の透過率差が11%、更には最大で20%と比較的大きい。
【0104】
したがって、カーボンブラックで顔料着色したポリウレタン層は、可視スペクトル全体にわたって、これまでに達成されていない程度まで均一に透明であり、したがって例えば青色、緑色、黄色、白色、赤色のLED又は他の点灯手段が、層を通して等しい輝度で輝くことが可能であるため、カーボンブラックで顔料着色したポリウレタンディスプレイ層は、多色ディスプレイにとって市販のディスプレイコーティングの何倍も良好である。この効果は現在、赤色光、更には青色光について等しく十分に透明なディスプレイ領域を有する調理面が市場で求められているため、望ましい。
【0105】
特許文献5と同じ方法によって決定される、組成(A)を有するディスプレイ層の散乱は、可視光範囲において3.7%〜5.1%である。したがって、カーボンブラックで顔料着色した層の散乱は、特許文献5に記載されるような貴金属層の場合よりも大きいが、市販のシリコーンディスプレイ層及びゾルゲルディスプレイ層(独国特許出願第102009010952号、及び特許文献5の比較例を参照されたい)の場合よりも大幅に小さい。
【0106】
図5は、関連波長範囲400nm〜750nmにおける組成(A)、組成(C)、組成(D)、組成(F)〜組成(H)のディスプレイ層でコーティングされたガラスセラミックの散乱曲線を示す。明確にするために、組成(B)、組成(E)及び組成(I)の散乱曲線は示していない。組成(B)及び組成(E)の散乱曲線は、(D)の曲線と(F)の曲線との間を通り、組成物(I)の散乱曲線は(H)の曲線と実質的に一致する。コーティングされていないガラスセラミックによる可視光の散乱は、とりわけコーティングされていない透明なガラスセラミックの粗度が僅かR=0.004±0.001μmであることから、無視することができるほど小さい。カーボンブラックで顔料着色した(A)〜(F)のポリウレタン層の粗度は、0.01μm〜0.02μmの範囲である。ガラスセラミック及び(A)〜(F)の層、更には(H)及び(I)の層の低い粗度は、低い散乱及び貴金属層の品質にまで及ぶ関連する高いディスプレイ品質にとって必要条件である。比較的粗い顔料を含有する組成(G)を有するポリウレタン層の散乱も図5に示す。R=0.43±0.08μmでは、(G)のコーティングは大幅に粗く、光を強く散乱させる。ディスプレイ品質はこれに応じて中程度である。(G)のコーティングの顔料着色は、独国特許出願第102009010952号の実施例(B)の顔料着色(Iriodin含量とグラファイト含量との比率=3.2:1)に相当する。したがって、どちらの層も同程度の色合い、同程度の透過率及び散乱を有する。しかしながら、200gの耐引っ掻き性が達成される独国特許出願第102009010952号の実施例(B)とは対照的に、(G)のポリウレタンコーティングは、実質的に更に傷がつきにくい(耐引っ掻き性は800gである)。
【0107】
変形形態(H)及び変形形態(I)における散乱は、可溶性の有機色素が着色に使用されているために極めて低い。固体粒子が組成(H)中に存在せず、表面コーティングが均一に均されているため、硬化した(H)のコーティングの粗度は、コーティングされていないガラスセラミック表面の粗度と同規模である。(H)及び(I)のコーティングのディスプレイ品質は優れており(青色、緑色、白色又は赤色のLEDの非常に明瞭なディスプレイ)、貴金属層の品質より劣ってはいない。
【0108】
粗度を、トレーシングステッププロフィルメータ(tracing step profilometer)を用いてDIN EN ISO 4288に従って決定した。標準偏差を3回の代表的な測定値から計算した(単一測定距離λc=0.08mm、測定距離λn=0.40mm、総スキャン長0.48mm(いずれの場合も1/2λcの実行前及び実行後の測定距離を含む);例(G)の場合、λc=0.80mm、λn=4.0mm、総スキャン長は4.8mmであった)。
【0109】
完成したコーティング調理面をハブ内に設置し、実際と関連する条件下で(従来のレンジフード下での照明を用いて)試験し、スイッチの入った照明ディスプレイ(E.G.O.製の接触制御操作パネルの7セグメントディスプレイ)が十分に識別可能であるか否かを決定した。現在慣習的なディスプレイの照明要素が、60cm〜80cmの距離から明瞭に見る(すなわち、コーティングされたガラスセラミックを通して十分な鮮鋭度及び輝度で輝く)ことができ、(A)〜(I)のディスプレイ層の透過率は満足のいくものである。スイッチを切った照明ディスプレイを用いて、同じ照明条件下で試験を行い、ディスプレイ層を通して接触制御操作パネルを識別することができるか否かを決定した。操作パネルはスイッチを切った状態では識別可能ではなかったため、ディスプレイ層は十分な程度までハブへの視界を制限する。
【0110】
このディスプレイ層は貴金属を全く含有しないため、貴金属調製物をベースとするコーティングよりも大幅に安価である。
【0111】
(A)〜(I)のコーティングの耐引っ掻き性は少なくとも300gであり、1000g超にまで及ぶ。したがって、ポリウレタンコーティングの耐引っ掻き性は、膜形成要素としてシリコーン樹脂を有する従来のディスプレイ層(100gの荷重にさえ耐えない)の数倍である。ポリウレタンコーティングの耐引っ掻き性は、ゾルゲルベースを有するディスプレイ層(独国特許出願第102009010952号)の約2倍〜3倍であり、貴金属コーティング(特許文献5)の耐引っ掻き性と同規模である。
【0112】
耐引っ掻き性の測定は、コーティング上にそれぞれの重量(100g、200g、...、800g、900g、1000g)を鉛直に負荷して超硬チップ(チップ径:0.5mm)を配置し、コーティング上の約30cmの距離を20cm/s〜30cm/sの速度で移動させることによって行った。ガラスセラミック通したユーザーの視界によって評価を行った。選択された荷重で、白色のバックグラウンド及び日光D65で60cm〜80cmの距離から損傷が識別可能でない場合に、試験は合格とみなされる。
【0113】
ポリウレタン層の耐引っ掻き性は、架橋温度及び架橋時間に依存する。提示のポリウレタン系の場合、100g〜200gの範囲の耐引っ掻き性を有する、手触りの堅い乾燥した層が140℃以上(45分間)で得られる。160℃(45分間)を超えると、300g以上という大幅に高い耐引っ掻き性が得られる。(A)及び(C)の系の場合、温度の上昇は耐引っ掻き性の任意の更なる増大をもたらさず、(B)の系及び(D)のε−カプロラクタムブロック化系の耐引っ掻き性は、温度を200℃(45分間)まで上昇させることによって600gまで増大させることができた。更に240℃までの架橋温度の上昇は、耐引っ掻き性の更なる増大をもたらさなかった。しかしながら、800g〜1000g超という極めて高い耐引っ掻き性を、変形形態(E)及び変形形態(F)を用いて240℃で架橋することによって達成することができた。これらの変形形態の高い耐引っ掻き性の理由は、過剰の硬化剤のために達成することができる高い架橋密度である。変形形態(G)の高い耐引っ掻き性も顕著であり、これはおそらくは存在するマイカプレートレットによるものである。変形形態(A)と同等のバインダー組成をベースとする変形形態(H)は、予想される通り、変形形態(A)と同程度の耐引っ掻き性を有する。
【0114】
硬化した(A)〜(I)のポリウレタン層の接着性は満足のいくものである。この接着性は、透明粘着テープ片を硬化したコーティング上に擦り付け、次いで引き剥がす「TESA試験」を用いて試験した(Tesaフィルムタイプ104、Beiersdorf AG)。コーティングは粘着テープによってガラスセラミックから剥離しなかったため、十分に強く付着している。
【0115】
しかしながら、一部の系の接着性が、水による処理(24時間)によって大幅に低下することが見出されている。(A)〜(D)のコーティングは、水による処理後の「TESA試験」によってガラスセラミック基板から剥離した。しかしながら、ディスプレイ層は実際にはこのように高レベルの水分に曝されることはないため、接着性は満足のいくものと推定される。高湿度の場合、例えばハブ内の電子機器が損傷し、鉄を含有する構成要素(フレーム等)が腐食し、ディスプレイ領域の下方の容量性タッチスイッチが、水の電気伝導性のために機能しなくなる可能性がある。水による処理は、不良の硬化ディスプレイ層を基板から再び剥離して、ディスプレイ領域のコーティングを再度行うために用いることができる。
【0116】
耐水性は、より高い温度で架橋を行うことによって改善することができる。このため、例えば、変形形態(C)は、コーティングを200℃(45分間)で架橋した場合に、24時間の水による処理後に「TESA試験」に合格する。変形形態(A)は、コーティングを240℃(45分間)で架橋した場合に、水による処理後に「TESA試験」に合格する。一方で、組成(G)及び組成(H)は、通常の架橋温度(160℃)で水による処理後に十分な接着性を示す。この結果は、変形形態(A)〜変形形態(F)の接着性が、Laropal(商標)A 81の存在によって低下し、改善した接着性を有するコーティングを、Laropal(商標)A 81(又は耐湿性を有しない他の樹脂)の非存在によって得ることができることを示している。
【0117】
ガラスセラミックの衝撃強度は、驚くべきことに、良好に付着するポリウレタン層によって低下しない。この層は、それらの硬度にもかかわらず、明らかに十分に弾性であり、異なる熱膨張による応力差を均一にする。衝撃強度は、鋼球(200g、直径36mm)を用いた落球試験によって決定した。
【0118】
(A)〜(F)のディスプレイ層は導電性顔料(硬化した層ベースで3.6重量%のカーボンブラック)を含有するが、コーティングは容量性タッチスイッチに好適である。E.G.O.製の接触制御コントロールパネルを用いて試験を行った。組成(A)〜組成(F)を有するディスプレイ層がタッチスイッチ8上に配置されている場合(図1)に、調理域は装置の容量性タッチスイッチによって問題なくスイッチを入れることができた。これは、室温(20℃)でのコーティングの表面電気抵抗が350GΩ/スクエア(100℃で30GΩ/スクエア、150℃で1GΩ/スクエア)を超えるためである。メガオーム範囲の表面抵抗が、容量性タッチスイッチが問題なく機能するのに十分であると考えられる。(G)、(H)及び(I)のディスプレイ層も容量性タッチスイッチに好適である。
【0119】
ディスプレイコーティングの表面抵抗は、オーム計を用いて、測定器の2つの電極をコーティング上に互いに非常に近接させて(約0.5mm〜1mmの間隔で)配置することによって比較的簡単に決定することができる。測定器によって示される抵抗は、コーティングの表面抵抗にほぼ相当する。
【0120】
カーボンブラックによって顔料着色した組成(A)〜組成(F)、更には変形形態(G)のディスプレイは、近赤外領域における(940nmでの)透過率が25%以下であることから、赤外線タッチスイッチには不適切である(図4及び独国特許出願第102009010952号を参照)。しかしながら、940nmの波長の光に対する高い透過率(88%)のために、組成(H)及び組成(I)は赤外線タッチスイッチに非常に好適である。この観点から、変形形態(H)及び変形形態(I)は、容量性タッチスイッチのみに好適であり、IRタッチスイッチには好適でない特許文献5に提示される貴金属層よりも優れている。
【0121】
全ての他の配合を代表する、(A)、(D)及び(H)のディスプレイ層の色合いの安定性は、熱応力付加(150℃で12時間又は200℃で45分間)の前後で得られる明度の比較によって試験した。
【0122】
組成(A)、組成(D)及び組成(H)を有するコーティングの熱応力付加の前後の明度を表5に示す。これらの明度は、分光光度計(Datacolor製のMercury 2000;光タイプD65;観測角:10度)を用いてユーザーの視点から測定した、すなわちディスプレイ層の下に配置した測定器の較正にも使用した白色タイルを用いて、基板を通して測定した。色座標(colour position)比較のために、再現性よく同一なバックグラウンドに対して透明なディスプレイ層を測定する必要があることから、この測定が必要とされる。明度はCIELAB系(DIN 5033、第3部「測色指標」)に従って報告した。DIN 6174に従うと、色差ΔEは0.2〜0.4を超えなかった。決定された色差は非常に小さい。これは測定精度の範囲内であるか(0.1〜0.2)又は僅かに超える程度である。正常視力を有する目による検査では、150℃で12時間後には色差は見られず、200℃で45分間後に、ほとんど認識されない僅かな色差が見られた。したがって、このポリウレタン系は予測される熱応力に十分に安定である。
【0123】
論考されるディスプレイコーティングの性質を表6にまとめる。
【0124】
【表9】
【0125】
更なる実施形態では、ポリウレタン層を、底面に着色貴金属層を設けた調理面用のディスプレイ層として使用することもできる。底面コーティングとして貴金属層を有する調理面は、例えば独国特許第102005046570号及び独国特許第102008020895号から既知である。不透明な貴金属層がディスプレイ領域において切り抜かれる。提示のポリウレタン系によるディスプレイ領域のコーティングは、上記に記載したように、照明要素の光に対して十分な透過率を有し、同時に調理ハブの内部への視界を効果的に妨げるディスプレイ層をもたらす。
【0126】
ポリウレタンコーティング5は、図6に示されるように、焼成貴金属層2に重なるように適用し、熱的に硬化することができる。カーボンブラックで顔料着色した、又は有機着色剤を用いて着色したポリウレタン系が使用され、かかるポリウレタンコーティングによって、例えば特許文献5で言及される貴金属ディスプレイ層を、許容されるべきディスプレイ品質(散乱、可視スペクトル領域における透過率)を悪化させることなく置き換えることができる。
【0127】
しかしながら、ポリウレタンコーティング5はディスプレイ領域だけでなく、貴金属層全体にも適用することができる(図7)。ただし、この場合、動作時の分解生成物の形成を回避するために、調理面の動作時に250℃より熱くなる領域を切り抜くものとする。この場合、ポリウレタン層は貴金属層2を引っ掻き又は(例えば接着剤からの)油脂若しくはシリコーンの浸透から保護することができるため、ポリウレタン層はディスプレイ層の機能だけでなく、保護層の機能も有する。ポリウレタン層をディスプレイ領域だけでなく実質的に調理面全体にも適用するこの実施形態は、更なる保護層を適用する必要がないという利点を有する。
【0128】
貴金属層だけでなく、ゾルゲル層、スパッタ層又はガラスベースの層も、ポリウレタン層によって引っ掻き又は油脂若しくはシリコーンの浸透から保護することができる。特定の場合、ポリウレタン層の色を着色層の色と適合させ、それによりポリウレタン層によって着色層の傷を覆うことができる。
【0129】
図1図2及び図3と類似した更なる実施形態では、別の塗料4、例えばシリコーン修飾アルキド樹脂系を、貴金属層2を保護するために使用することができる。この他の塗料は、貴金属層中の穴等の傷を覆うように、貴金属系に適合した色を有し得る。上記で言及したように、図2又は図3に示す変形形態では、トップコート4は250℃までの温度で硬化可能である必要がある。これはポリウレタン系の分解がより高い温度で開始するためである。例えば灰色の保護層4で銀色の貴金属コーティング中の穴を覆うことができ、黒色の保護層で黒色の貴金属層中の穴を覆うことができる。ポリウレタン系が、層が重なる場所で接着性の問題が生じないように、アルキド樹脂系に対して十分な相溶性を有することが見出されている。
【0130】
コントロールパネル、装飾パネル、光学レンズ、ベーキングオーブン窓、煙突のぞき窓、又は例えば細かく温度制御される調理面を含む、200℃よりも熱くならない他の構成要素の場合、存在するポリウレタン系の更なる可能な組合せが存在する。
【0131】
この場合、基板上の第1の塗料層はポリウレタンからなっていてもよい。ディスプレイ領域及び不透明領域(透過率1%未満)は、ポリウレタン塗料の1つ又は複数の層を用いた背面印刷によって、このようにして作製することができる。図7に示される実施形態、及び図8に示される逆の実施形態(第1の塗料層2若しくは第2の塗料層5、又は両方の塗料層が少なくとも1つの領域において切り抜かれ、基板の同じ側に位置する)の両方が可能である。
【0132】
ユーザーに面する側が過剰の機械的応力を受けないコントロールパネル若しくは装飾パネル、又は他の構成要素の場合、ポリウレタン層2及びポリウレタン層5を反対側にも適用することができる。図9に示されるように、ディスプレイ領域及び不透明領域も同様にこのようにして作製することができる。所望の透明度に応じて、複数の一様に着色された又は異なって着色された塗料層を、片面で重ねて配置することもできる。ポリウレタン層は、他のコーティング(エナメル、エポキシ樹脂層、ポリアミド層等)と、重ね刷り及び切り抜きによって組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0133】
1 基板
2 着色層
3 ディスプレイ領域
4 トップコート
5 ディスプレイ層
6 上側装飾
7 点灯手段
8 タッチスイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9