(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
精密濾過が二つの透析濾過段階を含み、ここで、乳の限外濾過から取得されたUF透過液、乳の精密濾過に由来する精密濾過透過液の限外濾過から取得されたUF透過液、または水が、第一の段階におけるダイアウォーターとして用いられ、かつ、乳糖標準化カゼイン濃縮物を提供するために、水、ブライン、乳の限外濾過から取得されたUF透過液、乳の精密濾過に由来する精密濾過透過液の限外濾過から取得されたUF透過液、または乳の限外濾過に由来する限外濾過透過液のナノ濾過から取得されたNF透過液が、第二の段階におけるダイアウォーターとして用いられる、請求項1に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
酸性化は、大部分のチーズの製造における基本的な工程(operation)の一つである。酸性化は通常、スターター培養物での乳酸の産生であるが、化学的酸性化も可能である。酸性化は乳凝固および最終製品の品質に影響する。レンネット(微生物レンネットの動物レンネット)または凝固剤、および必要な添加物および原料が、ゲル(凝塊)を形成するために乳系のカゼイン成分を凝固する(またはカードリングする/レンネッティングする)スターターと共に、標準化乳に添加される。凝固後、ゲルは小立方体/小片へ切断され、チーズカードが形成される。カードは、チーズの種類に応じておよそ1時間、チーズバットでクッキングまたは混合され、その後、ホエーが除去され、カードが型詰めされる。バット段階の目的は、選択されたチーズの種類に、適切な粒子サイズを与えることである。撹拌、加熱および他のこのような方法は、続く圧搾段階において、水分および脂肪含量の観点から高品質のチーズが獲得できるように、カードが取り扱われることを可能にする。型詰めされたチーズは圧搾されブラインされる。ブライン後、チーズは包装され、熟成される。
【0003】
より良好かつよりエネルギー効率の良い工程を得るために、チーズ製造において濾過技術を用いることができる。濾過技術を用いる利点は、チーズ収量の増大、レンネット添加量の低減およびチーズ製造工程の単純化である。限外濾過(UF)の間、タンパク質および脂肪は保持液(retentate)へ濃縮され、ホエータンパク質の一部分がまだチーズ内に保持される。UF技術は1974年以来、フレッシュおよびソフトチーズ製造において用いられている。しかしながら、ホエータンパク質はチーズの風味および質感形成に影響を与えるので、ハードチーズおよびセミハードチーズにおける品質の問題が存在する。UF技術はセミハードおよびハードチーズ製造において一般に用いられていない。カゼインミセルおよび脂肪が保持液に濃縮され、ホエータンパク質が透過液内へと膜を通過する、精密濾過(MF)技術を用いて、ホエータンパク質は除去できる。MF技術は、ホエータンパク質の不利益無く、セミハードチーズおよびハードチーズを生産することを可能にする。しかしながら、MF保持液の高緩衝能力がチーズ熟成および質感に影響することが知られており、また、濃縮MF保持液は、伝統的なチーズ製造設備で扱うことが難しい。
【0004】
精密濾過工程の発達は、チーズ製造のために最適な組成、すなわち脂肪、カゼインおよび乳糖含量を有する、完全濃縮プレチーズ(full concentrated pre−cheese)を生産できるようにした。完全濃縮を達成するために、溶媒留去(evaporation)などの濃縮工程が必要である。
【0005】
米国特許出願公開第2003/0077357 A1号は、精密濾過の間にpH低減が実行される、脱脂乳の精密濾過を開示する。精密濾過保持液は、その保持液へ酸味料( acidulant)およびレンネットを加えることにより、モツァレラチーズへとさらに加工される。
【0006】
様々な膜技術を用いる既知のチーズ製造工程の欠点は、完全濃縮プレチーズの高粘度に関連する。高粘度は、最終チーズ製品へのプレチーズの加工可能性、すなわち、スターターおよびレンネットの混合ならびにチーズ製品複合体へのプレチーズの注入(dose)を、著しく妨害する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
一実施態様では、本発明は、以下の段階を含む、チーズを生産するための方法を提供する:
【0017】
−酸性化カゼイン濃縮物を生産するために乳原料を精密濾過および予備酸性化に供する段階であって、精密濾過が予備酸性化の前にまたは同時に実施される段階、
【0018】
−完全濃縮プレチーズを生産するために酸性化カゼイン濃縮物を濃縮する段階、
【0019】
−完全濃縮プレチーズをチーズ製品へ加工する段階。
【0020】
本発明の一実施形態では、精密濾過は予備酸性化の前に実施され、それにより精密濾過保持液としてのカゼイン濃縮物および精密濾過透過液としてのホエータンパク質を分離するために乳原料が精密濾過に供され、その後酸性化カゼイン濃縮物を生産するためにカゼイン濃縮物が予備酸性化される。
【0021】
本発明の別の実施形態では、精密濾過および予備酸性化が同時に実施される。
【0022】
乳原料は、動物、例えば、牛、羊、山羊、ラクダ、ロバ、もしくは、食用に適した乳を生産するいかなる他の動物から得られた乳そのもの、または所望通りに前処理された乳であってもよい。
【0023】
上記のチーズに加えて、用語「チーズ」は、以下、本願においてはチーズ様製品も指す。チーズ様製品において、乳脂肪および/またはタンパク質は、別の適した脂肪もしくはタンパク質またはその両方によって、部分的にまたは完全に置換される。典型的には、乳脂肪は、菜種油または分別パーム油などの植物油によって、部分的に置き換えられる。
【0024】
本発明の文脈において、乳原料は、乳、ホエー、および乳とホエーの組み合わせといったもの、もしくはその濃縮物をいう。乳原料は、例えば、脂肪もしくは糖画分、および/または、ホエーおよび乳タンパク質画分、例えば乳タンパク質、ホエータンパク質、カゼイン、ホエーおよび乳タンパク質画分、α−ラクトアルブミン、ペプチド、アミノ酸、例えばリシン、などの乳製品の生産において一般に用いられる原料によって補完されてもよい。脂肪および乳糖は、異なる分離技術の利用によって、乳原料から除去される。乳原料は、それゆえ、例えば、全乳、クリーム、低脂肪乳もしくは脱脂乳、低乳糖乳もしくは無乳糖乳、限外濾過乳、透析濾過乳、精密濾過乳、または、粉乳からもどされた乳、有機乳、またはこれらの組み合わせであってもよい。好ましくは、乳原料は、脱脂乳である。
【0025】
一実施形態では、乳原料は、精密濾過および/または予備酸性化の前に、当技術分野で知られている方法で、脂肪含量、および所望によりタンパク質含量の点で、標準化される。別の実施形態では、標準化は、予備酸性化の前に、本発明の工程において取得された精密濾過/透析濾過保持液に実施される。
【0026】
乳原料は、精密濾過および/または予備酸性化にそれを供する前に、熱処理できる。一般に、熱処理は乳原料の微生物学的質を改良する。熱処理は、50℃から150℃の範囲の温度で実施できる。乳原料の熱処理は、続く完全濃縮プレチーズのカードリングに悪影響を与えない。用いられる熱処理の例は、低温殺菌、高温殺菌あるいは低温殺菌温度より低い温度での十分長い時間の加熱である。特に、UHT処理(例えば乳の場合、138℃で2−4秒)、ESL処理(例えば乳の場合、130℃で1−2秒)、低温殺菌(例えば乳の場合、72℃で15秒)、または高温殺菌(95℃で5分)を挙げることができる。熱処理は、直接的(蒸気を乳へ、乳を蒸気へ)または間接的(チューブ式熱交換器、プレート式熱交換器、表面かき取り式熱交換器)のいずれであってもよい。
【0027】
乳原料はまた、当技術分野で一般に知られている方法で、そこから微生物負荷(microbial load)を下げるために、前処理できる。病原性および腐敗性微生物除去は、一般に、精密濾過、遠心除去(bactofugation)またはそれらの組み合わせなどの物理的分離によって実行される。微生物除去のための精密濾過における膜細孔径は、典型的に約1.4μmである。
【0028】
精密濾過膜での、カゼインおよびホエータンパク質のような乳成分の濾過のため、細孔径の大きさは、ポリマー性またはセラミック精密濾過膜が用いられる場合、例えば0.05から0.5μmまで変動できる。
【0029】
乳原料の精密濾過は保持液にカゼインの大部分を保持する一方で、ホエータンパク質の大部分は透過液へと通過する。精密濾過は、好ましくは膜を通って保持液を、かつ膜の透過部分を通って透過液を再循環させる、均一膜間差圧ループを利用して、実行される。
【0030】
乳原料の精密濾過は、乳原料が容量で1から4.5倍、好ましくは容量で3.5から4.5倍に濃縮されるような方法で実施される。濃縮係数(cf=K)は、濾過に供給された液体の容量の保持液に対する比を指し、かつ以下の式で定義される:K=供給量(L)/保持液量(L)(L=容量)。
【0031】
精密濾過は、複数の精密濾過段階を含んでもよい。異なる段階は、例えば工程条件および/または濾過膜の変更を含み得る。可変の条件は、例えば、濾過温度、濾過圧、透析濾過材(diafilter medium)(ダイアウォーター(diawater))の添加、および/または濾過の濃縮係数であってもよい。条件は一以上の変数(variables)により変更できる。
【0032】
複数の精密濾過段階を含む精密濾過では、1より多いMF透過液画分および保持液画分が形成し得る。所望により、これらのMF透過液画分は、単一のMF透過液の流れ(stream)に合算してもよい。従って、MF保持液画分は、単一のMF保持液の流れに合算され得る。
【0033】
本発明の一実施形態では、乳原料の精密濾過は、一以上の透析濾過(DF)段階によって実施される。透析濾過の場合、濃縮係数は広範囲であってもよい。本発明の好ましい実施形態では、MF/DF濾過段階における総濃縮度は4を超える、好ましくは20から70、特に好ましくは50から70である。一実施形態では、精密濾過は二つのDF段階を含む。第一のDF段階は、有利には、精密濾過保持液として取得されたカゼイン濃縮物のホエータンパク質の枯渇を増強するために用いられる。典型的に、第一のDF段階の後、α−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの50から100%が除去される。第二のDF段階は、有利には、典型的に0.5%から2%の範囲で変動するチーズの最終乳糖濃度へ、該保持液の乳糖含量を標準化するために用いられる。一実施形態では、乳糖は保持液から実質的に完全に除去される。
【0034】
透析濾過段階では、保持液から除去したい物質を実質的に含有しない任意の物質を、ダイアウォーターとして用いることができる。例えば、水道水、ブラインまたは乳の異なる膜濾過の画分、例えばNF透過液、UF透過液、RO透過液、クロマトグラフィー分離した画分、これらの組み合わせ、またはこれらのいずれかの希釈液など、をダイアウォーターとして用いることができる。該画分は単一の工程または別個の工程(複数)から生じ得る。本発明の第一のDF段階において、例えば、乳の限外濾過から取得されたUF透過液、乳の精密濾過に由来する精密濾過透過液の限外濾過から取得されたUF透過液、または水が、ダイアウォーターとしての使用に適している。一実施形態では、乳の精密濾過に由来する精密濾過透過液の限外濾過から取得されたUF透過液が、第一の透析濾過段階におけるダイアウォーターとして用いられる。第二のDF段階では、例えば、水、ブライン、乳の限外濾過から取得されたUF透過液、乳の精密濾過に由来する精密濾過透過液の限外濾過から取得されたUF透過液、または乳の限外濾過に由来する限外濾過透過液のナノ濾過から取得されたNF透過液が、ダイアウォーターとしての使用に適している。一実施形態では、第二の透析濾過段階においてブラインが、ダイアウォーターとして用いられている。
【0035】
精密濾過および限外濾過により取得される乳糖標準化カゼイン濃縮物は、約50重量%から90重量%の無脂肪部分の水分含量(ROV)を有する。
【0036】
カゼイン濃縮物は、乳原料について上述したような方法で熱処理できる。
【0037】
本発明において、予備酸性化は、典型的に約5.0から6.1の範囲、好ましくは6.0未満、より好ましくは最大で5.9のpH範囲を提供するように実行される。カゼイン濃縮物の粘度を増大させないために、予備酸性化の間、カゼインのゲル化が全く起こらないような制御された方法で予備酸性化が実行されることが、本発明の方法の本質的特徴である。
【0038】
酸性化は微生物学的および/または化学的に行われる。微生物学的酸性化は、酸性化剤(acidification agent)としてスターター培養物および当技術分野で知られている技術を利用して実施され得る。化学的酸性化は、酸性化剤(acidifying agent)として化学的スターター、有機酸および/または無機酸を添加することにより行われる。これらの例には、グルコノデルタラクトン(GDL)、クエン酸、乳酸が含まれる。コケモモの安息香酸などのベリーおよび果実由来の天然酸(natural acid)もまた、酸性化において用いられ得る。本発明の一実施形態によると、予備酸性化は化学的スターター、有機酸および/または無機酸を添加することにより行われる。酸性化において用いられる酸は、好ましくはグルコノデルタラクトンである。微生物学的酸性化を用いる場合、用いられるスターター微生物により要求される環境が、例えば、栄養、pHおよび温度の観点から、満たされることが確実になるようにする必要がある。予備酸性化は、例えば中温性スターターにより実施できる。スターターは、一種類の株、複数の株、混合した株、または混合した複数の株のスターターである。最も一般的なスターターには、中温性スターター、例えば、クリスチャン・ハンセン(Christian Hansen)社およびダニスコ(Danisco)社から取得されるスターターが含まれる。スターターの量は、慣例的に0.5から2%、典型的には0.7から0.8%である。
【0039】
予備酸性化からの酸性化カゼイン濃縮物は、乳原料について上述したような方法で熱処理できる。
【0040】
酸性化カゼイン濃縮物を濃縮して、チーズ製造に適している完全濃縮プレチーズを提供する。本発明の一実施形態では、酸性化カゼイン濃縮物の濃縮は、膜濾過、溶媒留去、または膜濾過および溶媒留去の両方により実施される。精密濾過および限外濾過を膜濾過のために用いることができる。一実施形態では、濃縮は精密濾過により実施される。膜濾過は、特に低Ca:タンパク質比を有するプレチーズが望まれる場合、透析濾過により増強できる。低Ca:タンパク質比はソフトチーズに典型的である。一方で、精密濾過、続いて溶媒流去により実施される濃縮は、カルシウム濃度を増大させ、セミハードチーズを調製するために利用できる。溶媒留去による濃縮は、より高いCa:タンパク質比を提供し、セミハードチーズまたはハードチーズが調製される際に典型的に利用される。
【0041】
酸性化カゼイン濃縮物の濃縮は、5.0〜34.0mgカルシウム/g総タンパク質の、総タンパク質に対するカルシウムの比を有する完全濃縮プレチーズを提供する。本発明の一実施形態では、比は18〜34mgカルシウム/g総タンパク質である。
【0042】
異なるチーズの種類は、最終チーズの特性に影響する、様々な量のカルシウムを有する。いくつかのチーズの種類に対する典型的なカルシウム含量を、以下の表1に示す。チーズが固ければ固いほど、より多くのカルシウムを含有する。
【表1】
【0043】
上述のように、本発明で取得される完全濃縮プレチーズは、様々なチーズを製造するために用いることができる。例えば、ソフト、セミソフト、セミハード(固形)、ハード、エキストラハードのチーズが調製できる。ソフト、セミソフト、セミハード(固形)、ハードおよびエキストラハードの語句は、FAO/WHO A−6−1968 チーズのコーデックス一般規格(FAO/WHO A−6−1968 Codex General Standard for Cheese)において、厳格に定義される。従って、
【0044】
本願におけるソフトチーズは、無脂肪部分の水分含量が67%を超えるチーズをいい、
【0045】
本願におけるセミソフトチーズは、無脂肪部分の水分含量が61から69%であるチーズをいい、
【0046】
本願におけるセミハードチーズは、無脂肪部分の水分含量が54から63%であるチーズをいい、
【0047】
本願におけるハードチーズは、無脂肪部分の水分含量が49から56%であるチーズをいい、かつ
【0048】
本願におけるエキストラハードチーズは、無脂肪部分の水分含量が51%未満であるチーズをいう。
【0049】
用語「チーズ」は、以下、本願においてはチーズ様製品も指す。チーズ様製品において、乳脂肪および/またはタンパク質は、別の適した脂肪もしくはタンパク質またはその両方によって、部分的にまたは完全に置換される。
【0050】
完全濃縮プレチーズの脂肪部分の水分含量(ROV)および全固形物は所望とされる濃度に調節される。
【0051】
本発明の工程で生産された完全濃縮プレチーズを最終チーズ製品へ加工することは、当分野で知られている方法で実現できる。所望により、酸、酸味根(acidogen)、例えばGDL、ならびにレンネットおよびキモシンのような凝固剤がプレチーズに含まれる。異なるスターターおよびスターター混合物が用いられ得る。最も一般的なスターターは、中温性スターター(乳酸球菌スターター)、典型的にはクリスチャン・ハンセン(Christian Hansen)またはダニスコ(Danisco)のスターター、プロピオン酸菌属、典型的にはヴァリオ(Valio) PJS、および、味付与補助剤(taste imparting adjunct)(中温性かつ/または高温性の補助スターター)、典型的には高温性ヴァリオ(Valio) Lb 161(ショック性/非ショック性)、を含む。例えば、中温性0−スターター、クリスチャン・ハンセン(Christian Hansen)のR−608が、スターターとして使用される。スターターおよびその量は、チーズの種類および使用される環境に依存する。バルクスターターの量は、通常0.5から2%、典型的には0.7から0.8%であると知られている。DVSスターター(DVS/DVI)の量は、通常0.001から0.2%、典型的には0.01から0.05%である。バルクスターターに加え、本発明の方法は、味を授与するために、例えば、クリスチャン・ハンセン(Christian Hansen)のLH−32、BS−10およびCR−312を、そのまま、または、製造されるチーズおよびチーズ様製品に依存して異なる組み合わせおよび量で、追加スターターとして使用してもよい。あるいは、味付与補助スターターは、乳−および/またはホエー−ベースのミネラルと実質上同時に添加されてもよい。
【0052】
熟成チーズを調製する場合、熟成の前に、例えばブラインまたは乳−および/またはホエー−ベースのミネラルで、加塩が実施される。本発明の一実施形態では、酸性化カゼイン濃縮物の完全濃縮プレチーズへの溶媒留去の前に、加塩が実施される。別の実施形態では、溶媒留去の後、酸性化剤(acidifir)および凝固剤の添加と共に、加塩が実施される。
【0053】
本発明の方法は、最大で約1.35の、グリコマクロペプチドに対するβ−ラクトグロブリンおよびα−ラクトアルブミンの総含量の比を有するチーズを提供する。
【0054】
図1は、本発明の方法の一実施形態を図示する。標準化乳を二つの透析濾過(DF)段階を含む精密濾過(MF)に供し、カゼイン濃縮物を生産する。乳の限外濾過から取得された限外濾過(UF)透過液を第一のDF段階におけるダイアウォーターとして用い、かつ水を第二のDF段階におけるダイアウォーターとして用いる。カゼイン濃縮物を予備酸性化に供し、次いで、濾過での濃縮にさらに供して、完全濃縮プレチーズを生産する。所望により、濾過での濃縮は、図中に破線で示されるように、溶媒留去を続けてもよい。溶媒留去が用いられる場合、溶媒留去の前に塩がチーズ塊に添加される。スターター、凝固剤および塩を添加することにより、完全濃縮プレチーズはチーズ製品へと加工される。プレチーズは型(mould)へ移され、その中でチーズ製品へと凝固および熟成される。
【0055】
本発明に従って、チーズは、連続的なチーズ製造工程として、またはバッチ工程としてのいずれで製造されてもよい。バッチの容量は一般的な状態および入手可能な手段に依存して変化してもよい。本発明の方法は好ましくは連続的に実行される。
【0056】
別の態様では、本発明は、最大で約1.35の、グリコマクロペプチドに対するβ−ラクトグロブリンおよびα−ラクトアルブミンの総含量の比を有するチーズを提供する。
【0057】
以下の実施例は、発明を限定することなく、本発明のさらなる例示のために示される。
【実施例1】
【0058】
生乳を部分脱脂し、かつ脂肪−タンパク質比を、以下の実施例1.1、1.2および1.3で調製された各チーズの種類に典型的な所望の比率に標準化した。標準化した生乳を72℃で15秒間低温殺菌した。800kDaの分子量カットオフ膜を備えるスパイラル型(spiral−wound)膜を通して乳を再循環させることによって、50℃で、標準化および低温殺菌された乳を濃縮することにより、精密濾過を実行した。生乳の送圧(feeding pressure)は40kPaであり、膜を越えて圧力差は80kPaであった。
【0059】
透析濾過の前に濃縮係数4へ精密濾過することにより、乳を濃縮した。次いで二種の別個の透析濾過段階が用いられた。第一の透析濾過は、供給液(feed)の使用量に基づき、1.6倍の、乳の精密濾過透過液の限外濾過から取得された限外濾過透過液を用いることにより実施された。第二の透析濾過段階は、供給液の使用量に基づき、0.28倍のブライン(0.5% w/v NaCl)を用いることにより実施された。透析濾過段階の後、精密濾過保持液を95℃で15秒間低温殺菌した。
【0060】
透析濾過から取得された保持液に0.1%(w/w)のR−608スターター培養物(クリスチャン・ハンセンから)を接種し、33℃で3時間インキュベートした。インキュベーション後、保持液のpHは5.7であった。酸性化保持液をさらに、以下の実施例1.1、1.2および1.3で示された三種の別個の方法で、チーズへと加工した。
【0061】
実施例1.1(濾過での濃縮、溶媒留去なし)
実施例1で取得された酸性化保持液を、精密濾過でそれを濃縮する前に、濾過温度(50℃)へと加熱した。精密濾過を0.1μmの分子量カットオフを有するセラミック精密濾過膜を用いて実施し、完全濃縮プレチーズを精密濾過保持液として提供した。精密濾過は、膜を通して保持液を、膜の透過部位を通して透過液を再循環させることにより、50℃で実施した。均一(uniform)膜間差圧(transmembrane pressure)(TMP)は70kPaであった。供給液は濃縮係数2へ濃縮された。
【0062】
最初の供給液、すなわち標準化乳、カゼイン濃縮物、および完全濃縮プレチーズの組成が表2に示される。
【表2】
【0063】
表2に示される結果は、精密濾過によるさらなる濃縮により、カゼイン濃縮物のカルシウム含量が低減できることを示す。さらに、予備酸性化は、完全濃縮プレチーズの粘度を明らかに低減させる。
【0064】
精密濾過の後、中温性スターター(0.7%)、例えばHansen PR1、および十分量の凝固剤(レンネット)、および塩を、20%未満のタンパク質含量を典型的に有するソフトチーズを調製するために、完全濃縮プレチーズへ添加した。そのようにして取得したチーズ塊を型へ移し、そこで凝固させ、かつ5から8週間熟成させた。
【0065】
実施例1.2(濾過および溶媒留去での濃縮)
実施例1で取得された酸性化保持液を、精密濾過でそれを濃縮する前に、濾過温度(50℃)へと加熱した。精密濾過を0.1μmの分子量カットオフを有するセラミック精密濾過膜を用いて実施した。精密濾過は、膜を通して保持液を、膜の透過部位を通して透過液を再循環させることにより、50℃で実施した。均一膜間差圧(TMP)は70kPaであった。供給液は濃縮係数2へ濃縮された。
【0066】
精密濾過後、塩を精密濾過保持液へ添加した。次いで保持液をStephan−vatを用いて70℃および1バールのバキュームで溶媒留去して、完全濃縮プレチーズを精密濾過保持液として提供した。
【0067】
最初の供給液、すなわち標準化乳、カゼイン濃縮物、および完全濃縮プレチーズ(精密濾過での濃縮後、および精密濾過および溶媒留去での濃縮後)の組成が表3に示される。
【表3】
【0068】
表3に示される結果は、精密濾過、ならびに精密濾過および溶媒留去によるさらなる濃縮により、カゼイン濃縮物のカルシウム含量が低減できることを示す。さらに、予備酸性化は、完全濃縮プレチーズの粘度を明らかに低減させる。
【0069】
溶媒留去後、中温性スターター(0.7%)CH 19、および十分量の凝固剤(レンネット)を、エダムチーズを調製するために、完全濃縮プレチーズへ添加した。チーズ塊はおよそ2から3kgの長方形のブロックに切断され、かつ型へ移され、1から2時間圧搾され、かつ熟成袋へ包装され、箱に入れられ、パレットの上に置かれ、5から8週間熟成された。熟成チーズは、薄く切られ、すり潰され、または、消費者包装へとさらに包装される。
【0070】
実施例1.3(溶媒留去での濃縮)
実施例1で取得された酸性化保持液を、70℃および100kPaのバキュームで溶媒留去し、完全濃縮プレチーズを精密濾過保持液として提供した。
【0071】
最初の供給液、すなわち標準化乳、カゼイン濃縮物、および完全濃縮プレチーズの組成が表4に示される。
【表4】
【0072】
溶媒留去後、中温性スターター(0.7%)CHN 19、プロピオン酸菌Valio PJS、味付与補助剤(taste−giving adjunct)Valio Lb 161、および十分量の凝固剤(レンネット)を、エメンタールチーズを調製するために、完全濃縮プレチーズへ添加した。チーズを型へ移し、圧搾し、かつ熟成させた。熟成チーズは、薄く切られ、すり潰され、または、消費者包装へとさらに包装される。
【実施例2】
【0073】
生乳を脱脂し、72℃で15秒間低温殺菌した。800kDaの分子量カットオフ膜を備えるスパイラル型膜を通して乳を再循環させることによって、15℃で、脱脂および低温殺菌された乳を濃縮することにより、精密濾過を実行した。生乳の送圧は40kPaであり、膜を越えて圧力差は80kPaであった。
【0074】
透析濾過の前に濃縮係数4へ精密濾過することにより、乳を濃縮した。次いで、一つの透析濾過段階が、供給液の使用量に基づき、1.6倍の、乳の精密濾過透過液の限外濾過から取得された限外濾過透過液を用いることにより用いられた。透析濾過段階の後、精密濾過保持液を95℃で15秒間低温殺菌した。保持液を熱処理したクリーム(95℃で15秒間)で標準化して、上記の実施例1.1、1.2および1.3で調製された各チーズの種類に典型的な所望の比率に標準化された脂肪:タンパク質比を得た。
【0075】
透析濾過から取得された保持液に0.1%(w/w)のR−608スターター培養物(クリスチャン・ハンセンから)を接種し、33℃で3時間インキュベートした。インキュベーション後、保持液のpHは5.7であった。保持液をさらに、上記の実施例1.1、1.2および1.3で示された三種の別個の方法で、チーズへと加工した。
【実施例3】
【0076】
生乳を脱脂し、72℃で15秒間低温殺菌した。グルコノデルタラクトンを同時追加し、800kDaの分子量カットオフ膜を備えるスパイラル型膜を通して乳を再循環させることによって、15℃で、脱脂および低温殺菌された乳を濃縮することにより、精密濾過を実行した。生乳の送圧は40kPaであり、膜を越えて圧力差は80kPaであった。
【0077】
透析濾過の前に、濃縮係数4へ精密濾過することにより乳を濃縮した。次いで、一つの透析濾過段階が、供給液の使用量に基づき、1.6倍の、乳の精密濾過透過液の限外濾過から取得された限外濾過透過液を用いることにより用いられた。透析濾過段階の後、保持液のpHは5.7であった。予備酸性化された精密濾過保持液を95℃で15秒間低温殺菌した。保持液を熱処理したクリーム(95℃で15秒間)で標準化して、上記の実施例1.1、1.2および1.3で調製された各チーズの種類に典型的な所望の比率に標準化された脂肪:タンパク質比を得た。
【0078】
透析濾過から取得された保持液をさらに、上記の実施例1.1、1.2および1.3で示された三種の別個の方法で、チーズへと加工した。
【実施例4】
【0079】
この実施例は、その溶媒留去の間の、カゼイン濃縮物の粘度に対する予備酸性化の好ましい効果を示す。カゼイン濃縮物は実施例1に記載されるように調製された。
【表5】
【0080】
結果は、予備酸性化チーズ濃縮物の溶媒留去は、非酸性化チーズ濃縮物とは異なり、粘度の増大を引き起こさないことを示す。
【実施例5】
【0081】
図2は、完全濃縮プレチーズを生産するために、濃縮物の濃縮が精密濾過でさらに進められた場合の、酸性化および非酸性化カゼイン濃縮物の粘度対全固形物を示す。ダイヤグラムから、予備酸性化は、本質的に一定の濃縮物の粘度を保持する一方、非酸性化濃縮物の粘度はさらなる濃縮の間著しく増大することが示される。
【0082】
濃縮物の粘度が10000mPasを超えるレベルにまで指数関数的に増大したので、カゼイン濃縮物の予備酸性化無しでは、エダムおよびエメンタールのようなセミハードチーズおよびハードチーズに適した65%未満のROVを有する完全濃縮プレチーズを調製することができなかったことがさらに見出された。それは、該ROV値を有する非酸性化濃縮物はもはや液体ではなく、そのためチーズを生産するためのレンネットの添加は不可能である、ということを意味する。
【0083】
技術の進歩に応じて、本発明の概念を様々な態様で実施し得ることは、当業者には自明である。本発明およびその実施態様は、上述した例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において様々に変更することができる。