(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態の超音波診断装置用台車(以下、単に台車ともいう)を説明する。
図1に、本実施形態の台車の全体外観を示す。
図2及び
図3に台車を構成する各機構部の分解斜視図、分解側面図を示す。
【0014】
図示するように、この台車1は超音波診断装置100を載せるための天板部10と、天板部10を支持する支持部20と、車輪40が固定された台座部30とを有している。この台車は、図示するように、車輪40を床面に設置して使用されるものであり、以下の説明において、床面に垂直な方向を高さ方向或いは上下方向とも言う。またこの台車1の車輪が走行する方向を走行方向或いは前後方向、それと直交する方向を左右方向と言う。
【0015】
天板部10は、
図2に示すように、例えばノート型超音波診断装置100の操作パネルの下面を受け入れる凹形状が形成された上面を持つ、高さ方向の厚みが薄い部材で、裏面側は、後述する回転機構部に固定されている。天板部10の任意の位置に超音波検査用プローブ110を収納するためのプローブホルダー50が取り付けられている。プローブホルダー50は、天板部10に固定されていてもよいし、着脱自在であってもよい。図示する実施形態では、天板部10の両側にプローブを収納するカップ51が固定されたプローブホルダー50が取り付けられている。
【0016】
また天板部10の前方の端部には、天板部10を操作するための操作ハンドル11が設けられている。操作者は、この操作ハンドル11を持って後述する天板部10の回転や前後左右方向の移動を行うことができる。
【0017】
支持部20は、天板部10を動かすための複数の機構を備えており、これら機構の一部又は全部は天板部10とデザイン的に一体性を持たせたカバー21(211、212)で覆われている。
【0018】
天板部10を動かすための機構として、本実施形態の台車は、垂直移動機構部、揺動機構部、水平移動機構部及び回転機構部を備えている。以下、各機構部の詳細を説明する。
【0019】
垂直移動機構部60は、
図3に示すように、台座部30に固定された固定部61と、台座部30に対し垂直方向に可動である可動部62とから構成される。これら固定部61と可動部62とから成る垂直移動機構として、公知の複筒式或いは単筒式ダンパー(オイルダンパー)などを利用することができる。即ち、ダンパーのシリンダ部分が固定部61、ピストン部分が可動部62となり、シリンダ部には上下移動を制御するオイル等の流体が充填されている。垂直移動機構部60の上下方向の可動範囲(ストローク)は、特に限定されるものではないが、本実施形態では300mmである。
【0020】
可動部62には、垂直方向の所望の位置に可動部62を固定するためのロック機構(不図示)が備えられている。ロック機構としては、電磁的な機構、機械的な機構など、ロックを動作・解除するための機構を伴う公知のロック機構を採用することができる。また可動部62の上端には、揺動機構部が連結されている。
【0021】
固定部61と可動部62は、それぞれ、独立した下カバー211、上カバー212で覆われ、各カバーに固定されている。上カバー212には、可動部62のロック機構を作動・解除するためのレバー24が設けられている。上カバー212の外形は、下カバー211の外形より大きく、可動部62が下降したとき、上カバー212内に固定部61を覆う下カバー211が入り込む構造になっている。
【0022】
上カバー212は、下カバー211が挿入される開口が形成される底面と、底面から垂直方向に立ち上る両側面212A、212Bと、両側面をつなぐ背面212Cとを有する筐体である。背面212Cはほぼ垂直な面であるが、両側面は底面から上に行くに従って前後方向の幅が狭くなり、これにより前面が傾斜した形状を有しており、傾斜した前面212Dと上面は連続している。
【0023】
前面には、増設プローブなどの付属品を納める収納部23が形成されている。収納部23は、例えばプローブ側コネクタが連結されるコネクタと同形状のコネクタ部231を複数連設したもので、コネクタ部からプローブを取り外すための解除ボタン232が各コネクタ部に設けられている。この収納部23の上部の両側面212A、212B間に、可動部62に連結された揺動機構部70が位置しており、前面は、この揺動機構部の可動範囲に相当する開口が形成されている。
【0024】
また上カバー212には、操作ハンドル25が取り付けられている。この操作ハンドル25は、操作者が可動部62の操作及び台車の移動操作のハンドルとして用いることができる。なお垂直移動機構部60の操作は、操作ハンドルに代えてペダル式にすることも可能である。また図示していないが、カバー内部には、電源装置が収納されている。
【0025】
揺動機構部70は、
図2及び
図3に示すように、径に対し長さが長いアーム状の部材(以下、アームという)71からなり、アーム71の長手方向の一端71Aは、上下移動機構部60の可動部62の上端(連結部材73)に、回転軸Pが台車の左右方向と平行になるように、回転自在に固定されている。これにより、アーム71は連結部材73との連結点を中心に、軸Pと直交する面内を回転することができる。回転の範囲は可動部62の上端の形状及び上カバー212の開口部の形状によって規制される。本実施形態では、アーム71の長手方向が水平となる位置から、垂直よりもやや後方に倒れた位置まで、約100度程度の回転が可能である。
【0026】
アーム71の他端71Bには、連結部材85を介して、水平移動機構部80及び回転機構部90が連結される。アーム71の回転は、他端71B側の上下方向の動きとして見た場合、上下方向の揺動(swing)であるので、本発明ではこの機構部を揺動機構部と呼んでいる。この揺動機構部の上下方向の移動範囲はアーム71の長さと回転範囲に依存する。この揺動機構部70の上下移動と前述した垂直移動機構部60による上下方向の移動とを組み合わせることにより、上下方向の移動範囲を広げることができ、また、上下方向の位置を変化させる2つの機構を任意に組合せることにより姿勢の自由度を高めることができる。
【0027】
水平移動機構部80は、天板部10を水平面内で移動するための機構であり、一次元方向でもよいし、二次元方向でもよい。本実施形態では、互いに直交するX方向とY方向の二方向に移動可能な構成としており、一対のXレール81(第一水平機構部)と一対のYレール83(第二水平機構部)とを組み合わせた機構からなる。
【0028】
具体的には、
図2に示すように、揺動機構部70のアーム71の端部71Bに固定された、水平な上面を持つ連結部材85の上面に、Yレール83に係合し、Yレール83に沿ってスライドするYスライダ84が固定されている。Yレール83は、支持板86に固定されており、この支持板86のYレール83が固定された面(下面)と反対の面(上面)に、Xスライダ87が固定されている。Xスライダ87は、Xレール81に係合し、Xレール81に沿ってスライドする。そして、Xレール81は、後述する回転機構部90を構成する円板の底面に固定されており、このXレール81にスライダ87が係合している。
【0029】
この構造により、回転機構部90とその上の天板部10は、Xレール81に沿った方向及びYレール83に沿った方向のいずれにも移動可能となる。X方向及びY方向の移動範囲は、特に限定されるものではなく、また両者が同じである必要もないが、Xレール及びYレールが天板部10の投影面積内に収まるために、天板部10(その主平面)に内接する円の半径をRとするとき、±R以下であることが好ましい。本実施形態では、Y方向の移動範囲については、揺動機構部70のアーム71の回転によるY方向の移動量が組み合わせられることを考慮し、Y方向の移動範囲がX方向の移動範囲より小さい。X方向の移動範囲は、天板部のX方向の幅の±1/2よりやや小さい程度である。
【0030】
図4及び
図5に、水平移動機構部80による天板部10の移動の様子を示す。
図4は左右方向の動きを示す正面図(左側の三図)及び上面図(右側の三図)である。上の二図は、天板部の左右方向の中心とXレール81の左右方向の中心とが垂直方向で重なっている状態を示しており、この状態から、天板部が右端に移動した状態を中央の二図に、左端に移動した状態を下の二図に示している。
図5は前後方向の動きを示す側面図(左側の三図)及び上面図(右側の三図)であり、天板部の前後方向の中心とYレール83の前後方向の中心とが垂直方向で重なっている状態(上二図)から、天板部が最後方に移動した状態(中二図)と最前方に移動した状態(下二図)を示している。
なお
図4及び
図5では、Xレールの方向(X方向)とYレールの方向(Y方向)が、台車の左右方向、前後方向と一致している場合を示しているが、回転機構部90により天板部10が回転し、X方向と左右方向が一致しない場合やY方向と前後方向が一致しない場合にも上記移動は可能である。
【0031】
回転機構部90は、天板部10を上述した水平移動機構部80に対し、360度回転可能に支持する機構であり、軸と軸受からなる機構、スラスト玉軸受を用いた機構など公知の回転機構を採用することができる。本実施形態の回転機構部90は、
図2に示すように、上述した水平移動機構部80のXレール81が固定される円板91と、円板91のXレール81が固定された面(下面)と反対側の面(上面)に固定される円形のレール92と、天板部10の裏面側に固定され、円形のレール92に係合する複数の凸部(不図示)とからなる。代わりに、円形のレール92が天板部10の裏面に固定され、レール92と係合する複数の凸部を円板91の上面に立設した構造でもよい。このような構造において、天板部10はいずれの回転方向にも360度の回転が可能である。
【0032】
図6に、回転機構部90による天板部10の移動の様子を示す。図中、左側の三図は台車を正面から見た図、右側の三図は上面から見た図である。なお図では、天板部10の中心と、Xレール及びYレールの中心がいずれも垂直方向で重なる位置にある場合の回転移動を示しているが、
図4、
図5に示すいずれの位置或いはその途中の位置であっても回転は可能である。
このように天板部を水平面内で360度回転可能にしたことにより、操作者は台車に対しどこからでも天板に載置された超音波診断装置にアクセスすることが可能となり、空間的制約がある場所における操作性が大幅に向上する。
【0033】
以上説明した垂直移動機構部60、揺動機構部70、水平移動機構部80及び回転機構部90が、支持部20に備えられる基本的な移動機構であるが、支持部20はこれら機構部の他に、コンパクトな外観を阻害しない範囲で、付加的な構造や意匠性を高める構造を追加してもよい。
【0034】
次に台座30について説明する。台座30は、台車の構造体全体を支えるとともに、車輪40により床面を走行可能にするものであり、垂直移動機構部60の固定部61が固定される主部31と、主部31と一体的に設けられた脚部33、35と、脚部33、35に固定された車輪40とからなる。主部31は、垂直移動機構部60の固定部61を覆う下カバー
211と意匠的に一体性を持たせた板状の部材であり、固定部61の左右方向の両側に、概ね前後方向に延びる4本の脚部33、35が固定されている。
【0035】
図3に示すように、固定部61が固定される位置(その中心)から脚部33、35の各端部までの距離D1、D2は、前方の脚部33までの距離D1のほうが後方の脚部35端部までの距離D2より長い。後方の脚部35が短いことにより、天板部10を垂直移動機構部60の上方で180度回転させた位置で、立位の操作者が台車の後方から天板部10上の超音波診断装置にアクセスする際に、天板部1より操作者側に脚部35がはみ出さないようにでき、アクセス性を良好にしている。また固定部61が固定される位置(その中心)は、台車全体の後方に偏った位置になり、垂直移動機構部60の重心は後方に偏っているが、固定部61が固定される位置の中心より前方の位置で、揺動機構部70が垂直移動機構部60に接続されており、また長い前方の脚部33の重さがあるので、垂直移動機構部60の重心の偏りはバランスされている。これにより天板部の高さが変化しても全体としての姿勢の安定性を保つことができる。
【0036】
車輪40は、前方又は後方の脚部33、35の少なくとも一方は、走行方向が可変な回転車輪軸を備えた車輪である。車輪40には、その回転(車輪軸周りの回転)を止めるためのストッパが設けられている。
【0037】
次に上記構造を持つ本実施形態の台車の動作及び使用形態について、
図7〜
図10を参照して説明する。
【0038】
まず超音波診断装置100を台車1の天板部10にセットして、台車1の操作ハンドル25を押して所定の検査場所に移動する。この時の天板部10の姿勢は、限定されるものではないが、例えば前方の視認性を高めるためには、
図7(a)に示すように、アーム71を水平にし、コンパクトな走行姿勢を取るためには、
図7(b)に示すようにアーム71を垂直にする。また、操作ハンドル25の高さを操作者に扱いやすい高さとなるように垂直移動機構部60の可動部63の高さを調節する。可動部63の高さの調節は操作ハンドル25を上下に操作することにより行うことができる。この操作では、天板部10は垂直線上を単に上下するのみである。
【0039】
検査場所では、その場所の空間の広さや形に応じて、天板部10の高さ、向き、位置を任意に変えて検査を行う。高さの調節は、垂直移動機構部60の可動部63を上下する操作(操作ハンドル25による操作)と、揺動機構部70のアーム71を上下する操作(操作ハンドル11による操作)を適宜選択して行う。例えば、椅子に腰かけた状態で台車の前面に対面して検査を行う場合には、垂直移動機構部60の可動部63を操作して、天板部10を上下移動範囲の下限の高さまで下げた後、揺動機構部70を操作することにより、
図8(a)に示す高さの下限Hminまで天板部10を下げることができる。本実施形態の台車は、天板部10に載置した超音波診断装置の操作パネル面までの高さが、高さの下限では500mm程度であり、下肢の検査など低い位置での検査が可能になっている。また
図8(b)或いは(c)に示すように、垂直移動機構部60の移動量と揺動機構部70の移動量を適宜調節することにより、検査姿勢に適した高さHb或いはHcにすることができる。例えば座位に適した高さとして操作パネル面までの高さを750mm程度に変更できる。
【0040】
また揺動機構部70を操作して天板部10を下げた位置(
図8(a)、(b))では、天板部10は、台車の前面にせり出している。ここで水平移動機構部80を操作することにより、高さを変えることなく、天板部10の前後方向の位置を調整することができる。また必要に応じて左右方向の位置を調整することが可能となる。
【0041】
上記と同じ腰かけた状態での操作においても、操作者が台車の前面に対面するのではなく、患者に向かい合いながら検査ができるように、台車の横、左側或いは右側で操作するほうが便利な場合がある。このような場合には、天板部10の上下の高さを調節した後、回転機構部90をハンドル11により操作して天板部10を任意の方向、任意の角度に回転させて、
図9に示すように、台車の横に位置付けることができる。この場合、上カバー212は前面212Dが傾斜した形状を有しているので、天板部10の回転時に天板部10と上カバー212とが干渉することなく円滑な回転を行うことができる。
【0042】
立位で検査を行う場合には、座位の場合と逆に垂直移動機構部60の上限の高さに調節した後、ハンドル11を操作して揺動機構部70により、さらに天板部10を上げることができる(例えば
図8(b)から
図8(d)に移動)。本実施形態の台車は、天板部10を上限まで上げた状態で超音波診断装置の操作パネルの高さHmaxは床面から1000mm程度である。立位では台車の背面側からの操作も可能であり、その場合には、例えば
図10に示すように、揺動機構部70のアーム71を垂直な位置よりも後方に傾けるとともに、天板部10を180度回転させる。このとき台座30の後方脚部35は、天板部10の前端に垂直な面より内側に位置しているので、操作者は脚部35によって動きが妨げられることなく検査を行うことができる。
【0043】
本実施形態の超音波診断装置用台車の主な特徴は次のとおりである。
【0044】
超音波診断装置100を載せる天板部10の高さの方向を二つの機構の組合せで実現できる。これにより、コンパクトな機構で上下方向の移動範囲を広げることができ、低い姿勢での検査や立った状態での検査を容易にすることができ、また操作者の身長に合わせた高さに調節することができる。
【0045】
上下方向を調整する二つの機構は、垂直方向に移動する垂直移動機構部60と、垂直機構部の上端を回転中心として揺動するアームからなる揺動機構部70とで構成される。これら二つの機構は、いずれも高さ方向の任意の位置で操作可能であり、操作の自由度が高い。
【0046】
上下方向を調整する二つの機構に加えて、回転機構部
90を備えている。回転機構部を備えることにより、操作者は台車の側面や背面からでも天板部にセットされた超音波診断装置にアクセスすることができる。
【0047】
上下方向を調整する二つの機構に加えて、水平移動機構部80を備えている。水平移動機構部は、天板部の左右方向を移動する機構(第一水平機構部81)と、前後方向に移動する機構(第二水平機構部83)とからなる。揺動機構部による天板部の動きは、上下移動に前後方向の移動を伴うが、水平移動機構部は、この揺動機構部によって移動した前後方向の位置を調整することができる。
【0048】
垂直移動機構60は、固定部61と可動部63とで構成され、それぞれが独立したカバー211、212で覆われている。可動部63を覆うカバー212は、底面から上面に向かって前面が傾斜する形状を有している。これにより天板部が高さ方向のどの位置にあっても、カバーと天板部とが干渉することなく、回転機構部により天板部を回転させることができる。
【0049】
台車1を支える台座30は、前輪と後輪がそれぞれ固定された脚部33、35を備え、垂直移動機構の固定部61は、後輪側に偏って配置されている。可動部を覆う上カバーより上方で天板部10を回転させて、その前端が台車後方に位置した状態において、後輪が固定された脚部35は、天板部の前端より内側に位置する。これにより台車の後方で天板部(の前端)に対面する操作者は後輪により動きを妨げられることなく検査等の動作を行うことができる。
【0050】
以上、本発明の超音波診断装置用台車の実施形態を説明したが、本発明の台車は上記実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。例えば、実施形態では、水平移動機構部及び回転機構部の両者を備える台車を説明したが、その一方のみを含む台車あるいはそれらを含まない台車も本発明に含まれる。また実施形態では、水平移動機構部の上部に回転機構部を連結した構造を示したが、回転機構部の上部に水平移動機構部を設けることも可能である。
【0051】
また水平移動機構部として、X方向及びY方向の2方向に移動可能な機構を説明したが、例えば前後方向の一方のみに移動可能であってもよい。またXレールとYレールを用いた移動機構を説明したが、ピニオンとラックの組合せなどの移動機構を用いることができる。
【0052】
また実施形態で説明した各機構部は、いずれも手動式の機構を説明したが、電動式の機構を採用することも可能である。
さらに上記実施形態で挙げた移動範囲等の数値は単なる例示であって、任意の設計的変更が可能である。