特許第5921695号(P5921695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921695
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】防錆用組成物およびこれを含む水分散体
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20160510BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20160510BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20160510BHJP
   C09D 201/10 20060101ALI20160510BHJP
   C09D 201/06 20060101ALI20160510BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160510BHJP
   C08F 220/42 20060101ALI20160510BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20160510BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20160510BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20160510BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20160510BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C23C26/00 A
   C08L35/00
   C09D143/04
   C09D201/10
   C09D201/06
   C09D7/12
   C08F220/42
   C08F230/08
   C08K5/353
   C08K5/17
   C08K5/54
   C09D5/08
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-533099(P2014-533099)
(86)(22)【出願日】2013年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2013073258
(87)【国際公開番号】WO2014034828
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2015年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-193127(P2012-193127)
(32)【優先日】2012年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】香川 靖之
(72)【発明者】
【氏名】水谷 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉村 寿洋
(72)【発明者】
【氏名】江藤 彰紀
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/044912(WO,A1)
【文献】 特開平11−189744(JP,A)
【文献】 特開2005−296789(JP,A)
【文献】 特開2000−273386(JP,A)
【文献】 特開2003−327902(JP,A)
【文献】 特開2006−022127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00− 30/00
C09D 143/00−143/04
C08F 220/00−220/70,
230/00−230/10
C23F 11/00− 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニトリル基、水酸基、およびアルコキシシリル基を有する重合体(A)ならびに架橋剤(B)を含有し、
重合体(A)が、重合体(A)に含まれる全構造単位の量を100重量%としたとき、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位を30〜80重量%、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)(ただし、前記(a−1)成分を除く)から導かれる構造単位を10〜60重量%、水酸基を有するモノマー(a−3)から導かれる構造単位を1〜10重量%、およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を1〜5重量%含む防錆用組成物。
【請求項2】
重合体(A)は粒子として存在し、その平均粒径が10〜500nmである請求項1に記載の防錆用組成物。
【請求項3】
重合体(A)は、酸価が30mgKOH/g以下である請求項1または2に記載の防錆用組成物。
【請求項4】
重合体(A)は、水酸基価が1〜90mgKOH/gである請求項1〜のいずれかに記載の防錆用組成物。
【請求項5】
さらに、水酸基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(D)を含有する請求項1〜のいずれかに記載の防錆用組成物。
【請求項6】
水溶性ジルコニウム化合物(D)が炭酸ジルコニウムアンモニウムである請求項に記載の防錆用組成物。
【請求項7】
架橋剤(B)が、オキサゾリン化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜のいずれかに記載の防錆用組成物。
【請求項8】
オキサゾリン系化合物(b1)は、水分散性で、かつ、オキサゾリン基当量が200〜5000g/当量である請求項に記載の防錆用組成物。
【請求項9】
シランカップリング剤(b2)が、グリシジル基、アミノ基、アミド基、またはイソシアネート基を有する化合物である請求項またはに記載の防錆用組成物。
【請求項10】
架橋剤(B)が、オキサゾリン化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)である請求項のいずれかに記載の防錆用組成物。
【請求項11】
重合体(A)100重量部に対して、オキサゾリン系化合物(b1)を1〜40重量部、シランカップリング剤(b2)を0.1〜10重量部の割合で含有する請求項10に記載の防錆用組成物。
【請求項12】
さらに、水酸基とオキサゾリン基との反応を促進する触媒(C)を含有する請求項10または11に記載の防錆用組成物。
【請求項13】
水酸基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(D)を含有し、重合体(A)100重量部に対して、オキサゾリン系化合物(b1)を1〜40重量部、シランカップリング剤(b2)を0.1〜5重量部、触媒(C)を0.1〜10重量部、水溶性ジルコニウム化合物(D)を0.1〜5重量部の割合で含有する請求項12に記載の防錆用組成物。
【請求項14】
触媒(C)がリン酸二水素アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、ハロゲン化リチウムおよび水酸化リチウムから選ばれた化合物である請求項12または13に記載の防錆用組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の防錆用組成物を含む水分散体。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の防錆用組成物の硬化物で鋼板を被覆してなる防錆鋼板。
【請求項17】
全構造単位の量を100重量%としたとき、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位を30〜80重量%、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)(ただし、前記(a−1)成分を除く)から導かれる構造単位を10〜60重量%、水酸基を有するモノマー(a−3)から導かれる構造単位を1〜10重量%およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を1〜5重量%含む防錆用重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防錆用組成物およびこれを含む水分散体に関し、詳しくはアルカリ処理に対する耐性に優れた防錆塗膜を形成し得る防錆用組成物およびこれを含む水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
主として炭化水素から構成される高分子鎖からなり、側鎖に有するカルボキシル基の一部が金属陽イオンで中和されている部分中和物であるアイオノマー樹脂は、各種基材、特に、金属と良好な密着性を有することはよく知られている。例えば、日本接着学会誌、Vol.19、No.3、p95−101(1983)にアルカリ金属や2価金属などの架橋イオンの種類によってアイオノマー樹脂の塗膜物性や密着度に違いが生ずることが報告されている。また、このアイオノマー樹脂からなる防錆層は耐水性が優れるため、アイオノマー樹脂を金属基材の防錆材として使用できることも知られている。しかも、Na、Kなどの1価金属イオンやアミンで中和されたアイオノマー樹脂は水中に分散することが可能であるため、アイオノマー樹脂の水分散体を使用した種々の防錆処理材が開発され、現在、各種産業分野に広く用いられている。
【0003】
しかし、このようなアイオノマー樹脂の単独処理では顧客が要求する防錆性や密着性などの性能に応え得なかった。このため、アイオノマー樹脂は、主に下地にクロメート処理などを施した有機被覆複合鋼板の製造に使用されてきた。しかし、近年、世界的規模で環境問題に関心が集まり、6価クロムを使用しない表面処理金属製品の要求が高まっている。そのため、クロメート下地処理を行わずに、有機樹脂による1段処理のみで従来と同等の防錆性や密着性などを発現できる防錆塗料が求められるようになった。
【0004】
これらの要求に応えるため、すでに種々の検討がなされている。例えば、特開平11−012411号公報には、防錆性能を向上するため2価の金属で中和されたアイオノマー樹脂、エポキシ基含有化合物、アイオノマー樹脂とエポキシ基含有化合物の反応物とからなる水性分散体組成物が開示されている。しかし、本発明者らが評価したところでは、上記の開示された組成物により塗膜を形成した鋼板にアルカリ脱脂処理を施した後、塩水噴霧試験すると鋼板が発錆し、防錆性は十分ではなかった(以下、アルカリ脱脂処理後の防錆性を耐アルカリ性と記す)。
【0005】
また、特開2006−22127号公報には、1価の金属イオンおよび/またはアミンで中和されたアイオノマー樹脂、多官能オキザゾリン樹脂、触媒およびシランカップリング剤を含有する防錆塗料用組成物が開示され、この組成物から形成される塗膜が高い耐アルカリ性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−012411号公報
【特許文献2】特開2006−22127号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本接着学会誌、Vol.19、No.3、p95−101(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、最近さらに防錆塗料の薄膜化が進み、防錆塗料には従来に増して高い耐アルカリ性が求められている。本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決すること、すなわち、耐アルカリ性が優れた塗膜を形成し得る防錆用組成物を提供すること、また適切な成分と組み合わせることによりそのような防錆用組成物を作製し得る重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、塗膜を形成する重合体に酸性基が存在すると防錆塗膜の耐アルカリ性を低下させる場合があるとの知見を得た。そしてモノマー成分として酸モノマーの使用を制限し、その代わりに少なくともニトリル基、水酸基、およびアルコキシシリル基を有する重合体と架橋剤とを組み合わせることにより、優れた基材密着性、耐水性、耐溶剤性および耐食性と優れた耐アルカリ性とを両立した塗膜を形成し得る防錆用組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、たとえば、以下の[1]〜[19]に記載した事項により特定される。
[1]少なくともニトリル基、水酸基、およびアルコキシシリル基を有する重合体(A)ならびに架橋剤(B)を含有する防錆用組成物。
[2]重合体(A)が、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)(ただし、前記(a−1)成分を除く)から導かれる構造単位、水酸基を有するモノマー(a−3)から導かれる構造単位およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を含むものである上記[1]に記載の防錆用組成物。
[3]重合体(A)が、重合体(A)に含まれる全構造単位の量を100重量%としたとき、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位を30〜90重量%、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)(ただし、前記(a−1)成分を除く)から導かれる構造単位を10〜60重量%、水酸基を有するモノマー(a−3)から導かれる構造単位を1〜10重量%、およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を1〜5重量%含むものである上記[1]または[2]に記載の防錆用組成物。
[4]重合体(A)は粒子として存在し、その平均粒径が10〜500nmである上記[1]〜[3]のいずれかに記載の防錆用組成物。
[5]重合体(A)は、酸価が30mgKOH/g以下である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の防錆用組成物。
[6]重合体(A)は、水酸基価が1〜90mgKOH/gである上記[1]〜[5]のいずれかに記載の防錆用組成物。
[7]さらに、水酸基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(D)を含有する上記[1]〜[6]のいずれかに記載の防錆用組成物。
[8]水溶性ジルコニウム化合物(D)が炭酸ジルコニウムアンモニウムである上記[7]に記載の防錆用組成物。
[9]架橋剤(B)が、オキサゾリン化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)から選ばれた少なくとも1種である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の防錆用組成物。
[10]オキサゾリン系化合物(b1)は、水分散性で、かつ、オキサゾリン基当量が200〜5000g/当量である上記[9]に記載の防錆用組成物。
[11]シランカップリング剤(b2)が、グリシジル基、アミノ基、アミド基、またはイソシアネート基を有する化合物である上記[9]または[10]に記載の防錆用組成物。
[12]架橋剤(B)が、オキサゾリン化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)である上記[9]〜[11]のいずれかに記載の防錆用組成物。
[13]重合体(A)100重量部に対して、オキサゾリン系化合物(b1)を1〜40重量部、シランカップリング剤(b2)を0.1〜10重量部の割合で含有する上記[12]に記載の防錆用組成物。
[14]さらに、水酸基とオキサゾリン基との反応を促進する触媒(C)を含有する上記[12]または[13]に記載の防錆用組成物。
[15]水酸基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(D)を含有し、重合体(A)100重量部に対して、オキサゾリン系化合物(b1)を1〜40重量部、シランカップリング剤(b2)を0.1〜5重量部、触媒(C)を0.1〜10重量部、水溶性ジルコニウム化合物(D)を0.1〜5重量部の割合で含有する上記[14]に記載の防錆用組成物。
[16]触媒(C)がリン酸二水素アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、ハロゲン化リチウムおよび水酸化リチウムから選ばれた化合物である上記[14]または[15]に記載の防錆用組成物。
[17]上記[1]〜[16]のいずれかに記載の防錆用組成物を含む水分散体。
[18]上記[1]〜[16]のいずれかに記載の防錆用組成物の硬化物で鋼板を被覆してなる防錆鋼板。
[19]α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)(ただし、前記(a−1)成分を除く)から導かれる構造単位、水酸基を有するモノマー(a−3)から導かれる構造単位およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を含む防錆用重合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接着剤組成物から得られる塗膜は耐アルカリ性に優れ、薄膜化しても十分な耐アルカリ性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の防錆用組成物は、少なくともニトリル基、水酸基、およびアルコキシシリル基を有する重合体(A)ならびに架橋剤(B)を含有する。
【0013】
重合体(A)は、本組成物の主成分であり、架橋剤(B)と架橋することにより防錆塗膜を形成する。
【0014】
重合体(A)としては、具体的には、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)から導かれる構造単位、水酸基含有モノマー(a−3)から導かれる構造単位およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を含む重合体(A1)を挙げることができる。つまり重合体(A1)は、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)、水酸基含有モノマー(a−3)およびアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)を共重合させることにより得ることができる。このように重合体(A1)はアクリル酸およびメタクリル酸等の酸モノマーから導かれる構造単位を必須構造単位としては含まない。
【0015】
なお、本発明において(メタ)アクリル酸とはアクリル酸およびメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートとはアクリレートおよびメタクリレートを意味する。
【0016】
重合体(A1)は、前記(a−1)〜(a−4)から導かれる構造単位以外の構造単位を含むことができる。ただし、重合体(A)に含まれる酸性基を有する構造単位の量は制限される。
【0017】
重合体(A)の酸価は30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがより好ましく、15mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。ここで、重合体(A)の酸価とは、重合体(A)1g中に含有される酸性成分を中和するために必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数である。重合体(A)の酸価は、JIS K0070に準じた方法で求められる。
【0018】
重合体(A)は、上記のとおり酸性基を有する構造単位の含有比率が小さく、好ましくは酸性基を有する構造単位を含まない。つまり重合体(A)に存在する酸性基の量は少なく、好ましくは酸性基が存在しない。
【0019】
架橋剤(B)は、重合体(A)と架橋することにより、防錆塗膜の耐水性を向上させることができる。架橋剤(B)は、重合体(A)と架橋することができる化合物であり、好ましくは、オキサゾリン系化合物、シランカップリング剤、エポキシ系化合物、アミノ系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、有機ジルコニウム系化合物、有機チタン系化合物、エピクロルヒドリン系化合物、カルボジイミド系化合物、アジリジン系化合物であり、特に好ましくは、オキサゾリン系化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)である。
【0020】
従来の防錆用組成物の主成分である重合体はカルボキシル基等の酸性基を一定割合で有していた。これは、主成分である重合体がシランカップリング剤と架橋する上で、重合体に酸性基が一定割合で含有されることが必須であったからである。
【0021】
ところが、本発明者らの研究により、重合体に酸性基が存在すると防錆塗膜の耐アルカリ性が低下する場合があることが判明した。そこで、本発明の防錆用組成物においては、重合体(A)に存在する酸性基の量を制限することにより防錆塗膜の耐アルカリ性を向上させた。たとえば重合体(A1)は、酸性基を有する構造単位の代わりに水酸基含有モノマー(a−3)から導かれる構造単位を含む。つまり重合体(A)は、酸性基の代わりに水酸基を有する。本発明の防錆用組成物においては、重合体(A)が有する水酸基と架橋剤(B)、たとえばオキサゾリン系化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)の官能基とが反応することにより架橋体が得られる。ただし、架橋に関与する重合体(A)の官能基が水酸基であると、シランカップリング剤(b2)などとの架橋の強度を高めることができない。そこで、本発明の防錆用組成物においては、たとえば重合体(A1)にアルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位を含有させることにより、重合体(A)のアルコキシシリル基とシランカップリング剤(b2)などの官能基とを水架橋させることによって架橋の強度を高めることを可能にした。本発明の防錆用組成物は、以上のような構成により、従来の防錆用組成物と同等の塗膜強度を保ちながら、従来の防錆用組成物よりもはるかに高い耐アルカリ性を有する塗膜を形成することを可能にした。
【0022】
重合体(A)の水酸基価は1〜90mgKOH/gであることが好ましく、1〜50mgKOH/gであることがより好ましく、1〜25mgKOH/gであることがさらに好ましい。ここで、重合体(A)の水酸基価とは、重合体(A)1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウム(KOH)のmg数である。重合体(A)の水酸基価は、JIS K0070に準じた方法で求められる。
【0023】
α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位は、本防錆用組成物から形成される防錆塗膜の耐溶剤性を向上させるために重合体(A1)に含有される。α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)としては、たとえばアクリロニトリル、メタクリルニトリル等を挙げることができる。
【0024】
α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)から導かれる構造単位は重合体(A1)の基本構成単位である。ここで、α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)は前記α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)を含まない。
【0025】
α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)として、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル類のエステル化物、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、その他酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミドおよびメチロールメタクリルアミド等を挙げることができる。アクリル酸またはメタアクリル酸のエステル化物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等、およびグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類を挙げることができる。
【0026】
これらの中でも、その他モノマーとの共重合性、Tg調整の観点からn−ブチルアクリレートが好ましい。
【0027】
水酸基を有するモノマー(a−3)から導かれる構造単位は、前述のとおり、本防錆用組成物から形成される防錆塗膜の耐アルカリ性を向上させるために重合体(A1)に含有され、架橋剤(B)と架橋反応する。
【0028】
水酸基を有するモノマー(a−3)としては、たとえばヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらの中でも、その他モノマーとの共重合性の点で2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0029】
アルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位は、前述のとおり、シランカップリング剤(b2)と水架橋させることにより、架橋構造の強度を高めるために重合体(A1)に含有される。アルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)としては、たとえば、トリメトキシシリル(メタ)アクリレート、トリエトキシシリル(メタ)アクリレート、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、等を挙げることができる。これらの中でも、共重合性、塗膜形成時の架橋反応性の点で3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0030】
重合体(A1)に含まれる全構造単位の量を100重量%としたとき、重合体(A1)に含まれる前記(a−1)〜(a−4)から導かれる構造単位の含有比率はそれぞれ以下のとおりである。α,β−モノエチレン性不飽和基を有するニトリル系モノマー(a−1)から導かれる構造単位の含有比率は、好ましくは30〜90重量%、より好ましくは50〜90重量%、さらに好ましくは55〜80重量%である。α,β−モノエチレン性不飽和基を有するモノマー(a−2)から導かれる構造単位の含有比率は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは20〜40重量%である。水酸基含有モノマー(a−3)から導かれる構造単位の含有比率は、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜7重量%、さらに好ましくは3〜6重量%である。アルコキシシリル(メタ)アクリレート(a−4)から導かれる構造単位の含有比率は、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜4重量%、さらに好ましくは1〜3重量%である。
【0031】
重合体(A1)に含まれ得る、前記(a−1)〜(a−4)から導かれる構造単位以外の構造単位としては、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコール鎖含有ジ(メタ)アクリレートなどから導かれる構造単位を挙げることができる。重合体(A1)に含まれ得る、前記(a−1)〜(a−4)から導かれる構造単位以外の構造単位の含有比率は、成膜性を損なわない範囲とすることができ、重合体(A1)に含まれる全構造単位の量を100重量%としたとき好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
【0032】
本防錆用組成物において重合体(A)が粒子として存在する場合は、その平均粒径が10〜500nmであることが好ましく、10〜200nmであることがより好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。重合体(A)の平均粒径が前記範囲内であると、成膜性が向上し、塗膜の耐水性、耐アルカリ性、耐食性が向上する。また、前述のとおり、本発明の防錆用組成物は、カルボキシル基等の酸性基を有しないか、またはその含有量が少ない。このため、本防錆用組成物から形成される防錆塗膜の鋼板等に対する密着性が低下することが懸念される。重合体(A)の平均粒径が前記範囲内であるような小粒径であると、重合体(A)の鋼板等への接触面積が増大し、防錆塗膜と鋼板等との密着性が向上することも期待できる。
【0033】
重合体(A)の平均粒径は、大塚電子(株)製の粒径アナライザーFPAR−1000等の測定器により光散乱法によって求めることができる。
【0034】
重合体(A)の平均粒径を前記範囲内にする方法としては、たとえば、重合体(A)を乳化重合で製造する場合に使用する界面活性剤量を調整する方法等を挙げることができる。
【0035】
重合体(A)たとえば重合体(A1)の合成方法は特に制約はないが、水を主成分とした溶媒中で行う乳化重合が好ましい。
【0036】
オキサゾリン系化合物(b1)は、重合体(A)を架橋させ、架橋体を形成する物質である。防錆用組成物がオキサゾリン系化合物(b1)を含むことにより、防錆塗膜の密着性および耐水性が向上する。オキサゾリン系化合物(b1)としては、たとえば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン化合物と(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール等の(メタ)アクリルエステル類、(メタ)アクリル酸アミド酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレンスチレンスルホン酸ナトリウム等のオキサゾリン基と反応しない共重合可能な単量体との共重合体の水溶性又は水分散体共重合体を挙げることができる。具体的な例として、日本触媒(株)の製品であるエポクロスK−2010E、K−2020E、K−2030E、WS−500等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、エポクロスK−2020EおよびK−2030Eが好ましい。
【0037】
オキサゾリン系化合物(b1)のオキサゾリン基当量は、通常、200〜5000g/当量、好ましくは250〜4000g/当量、更に好ましくは300〜3000g/当量である。オキサゾリン基当量がこの範囲であると、基材密着性、塗膜強度、耐水性、耐アルカリ性の点で好ましい。
【0038】
オキサゾリン系化合物(b1)はポットライフの観点から水分散性であることが好ましい。
【0039】
本発明の防錆用組成物においてオキサゾリン系化合物(b1)の含有量は、重合体(A)100重量部に対して、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは5〜20重量部である。オキサゾリン系化合物(b1)の配合量がこの範囲であると、塗膜強度、基材安定性、耐水性の点で好ましい。
【0040】
シランカップリング剤(b2)は、重合体(A)を架橋させ、架橋体を形成する物質である。防錆用組成物がシランカップリング剤(b2)を含むことにより、防錆塗膜の耐水性が向上する。シランカップリング剤(b2)としては、従来使用されている通常のシランカップリング剤を挙げることができる。シランカップリング剤(b2)は、水酸基、カルボキシル基などのアクリル樹脂中の官能基と反応し得る官能基を有することが好ましく、特にグリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、ビニル基、アミノ基、アミド基、ウレイド基、チオール基、スルフィド基およびイソシアネート基の中から選ばれる基を有することが好ましい。これらの中でも、グリシジル基、アミノ基、アミド基、またはイソシアネート基を有することが好ましい。
【0041】
シランカップリング剤(b2)の具体的な例として、信越化学のシランカップリング剤KBM−303、KBM−403、KBM−603、KBM−903、KBM−585等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の防錆用組成物においてシランカップリング剤(b2)の含有比率は、重合体(A)100重量部に対して、塗膜強度、耐アルカリ性の点で、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜8重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部である。
【0043】
以上のように、本発明の防錆用組成物は重合体(A)および架橋剤(B)を含有することから、実質的に酸フリーでありながら架橋反応性に優れるので、耐水性、耐アルカリ性、塗膜安定性に優れる。更に、重合体(A)を小径にすることにより、耐水性、耐アルカリ性、塗膜安定性に優れる。
【0044】
本発明の防錆用組成物は、重合体(A)、架橋剤(B)たとえばオキサゾリン系化合物(b1)およびシランカップリング剤(b2)以外に、必要に応じて、水酸基とオキサゾリン基との反応を促進する触媒(C)および水酸基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(D)を含有することができる。
【0045】
水酸基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)は、重合体(A)が有する水酸基とオキサゾリン系化合物(b1)との反応を触媒し、架橋反応を促進させるために使用される。触媒(C)としては、酸、酸エステル、オニウム塩、リチウム塩類等が挙げられる。具体的には、テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラエチルホスホニウムクロライド、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド等の第4級ホスホニウム塩、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のハロゲン化物およびその水酸化物等、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、フェニルリン酸、フィニルリン酸アンモニウム、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸アンモニウム等の酸およびそのアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルクロライド等の第4級アンモニウム塩およびその水酸化物等を挙げることができる。この中で、テトラメチルホスホニウムクロライド、リチウムブロマイド、リチウムクロライド、水酸化リチウム、リン酸水素二アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルヒドロキサイドが好ましく、特に、リン酸二水素アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、ハロゲン化リチウムおよび水酸化リチウムから選ばれた化合物であることが好ましい。
【0046】
本発明の防錆用組成物において触媒(C)の含有比率は、重合体(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜7重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部である。触媒(C)の配合量がこの範囲であると、塗膜強度、耐アルカリ性の点で好ましい。
【0047】
水酸基と反応し得る水溶性ジルコニウム化合物(D)は、基材密着性、耐水性、耐アルカリ性向上のために使用される。水溶性ジルコニウム化合物(D)としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート等を挙げることができる。これらの中で、水酸基との反応性、基材密着性の点で炭酸ジルコニウムアンモニウムと炭酸ジルコニウムカリウムが好ましく、特に、炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
【0048】
カルボキシル基と反応し得る水溶性ジルコニウム化合物(D)の含有比率は、樹脂の保存安定性の点で、重合体(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。
【0049】
本発明の防錆用組成物を水に分散させて水分散体を作製することができる。すなわち、重合体(A)および架橋剤(B)、さらに必要に応じて添加される触媒(C)、水溶性ジルコニウム化合物(D)等を水に分散させて水分散体とすることができる。この水分散体は、本発明の防錆用組成物を調製し、これを水に分散して作製してもよく、本発明の防錆用組成物の各成分を個別に水に分散して作製してもよい。
【0050】
この水分散体の固形分濃度は、特に制限されず、塗装方法、塗装に使用される装置に応じて適宜調整される。通常は(A)、(B)、(C)および(D)成分等の合計量100重量部に対して水100〜3000重量部の割合であり、好ましくは200〜2000重量部の割合である。
【0051】
本発明の防錆用組成物は、さらにその他の成分を、本発明の目的が損なわれない範囲で含有することができる。本防錆用組成物が含有し得るその他の成分としては、耐食性を向上させることを目的に、無機充填剤を使用することができる。無機充填剤としては、コロイダルシリカ、酸化ジルコニウムなどが挙げられ、その配合量は、重合体(A)、架橋剤(B)、触媒(C)およびジルコニウム化合物(D)の合計100重量部に対して0〜80重量部が好ましく、0〜60重量部がさらに好ましい。その他成分としては、例えば、pH調整剤、キレート剤、顔料、濡れ剤、帯電防止剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、蛍光増白剤、着色剤、レベリング剤、濡れ剤、発泡剤、離型剤、消泡剤、制泡剤、流動性改良剤、増粘剤等が挙げられるが、これらに制約されるものでもない。
【0052】
本発明の防錆用組成物は、その製造方法には特に制限はなく、前記各成分をブレンドすることにより製造することができる。
【0053】
本発明の防錆用組成物は、そのまま鋼板等に塗布することもできるし、プレ反応させてから鋼板等に塗布することもできる。プレ反応条件としては通常40〜120℃で5〜100分間、好ましくは50〜100℃で10〜60分間、より好ましくは50〜80℃で10〜60分間である。
【0054】
本発明の防錆用組成物は、そのまま、またはプレ反応させてから鋼板上に塗布し、乾燥させ、硬化させることにより塗膜を形成することができる。組成物の塗布は、スプレー、カーテン、フローコーター、ロールコーター、刷毛塗り、浸せきのいずれの方法によっても行うことができる。塗布された組成物は、自然乾燥を行ってもよいが、焼き付けを行うことが好ましい。通常、焼き付け温度は60℃〜500℃で、焼き付け時間は1〜120秒間である。焼き付けを行うことにより塗膜の耐水性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐食性を向上させることができる。
【0055】
本発明の防錆用組成物の硬化物で鋼板を被覆することにより防錆鋼板を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[鋼板]
鋼板としては亜鉛溶融メッキ鋼板(JIS G3302)を用いた。以下の実施例および比較例において得られた防錆用組成物をこの鋼板の片面の全面に塗布後、表面温度120℃で60秒間乾燥することにより厚み2μmの塗膜を形成し、防錆鋼板試料を作製した。得られた塗膜の特性を以下の評価方法により評価した。
[基材密着性]
塗膜の基材密着性をJIS K5600−5−6に準じた碁盤目試験によって評価した。碁盤目による25の升目のうち剥がれた升目の数により以下のように評価した。
○:剥がれている升目がない
×:1以上の升目が剥がれている
[耐水性]
作製した防錆鋼板試料を、80℃温水に1時間浸漬し、その後の表面状態を目視にて評価した。
○:浸漬前と変化なし
△:ブリードが生じた
×:白化した
[耐アルカリ性]
作製した防錆鋼板試料を、50℃の2%水酸化ナトリウム水溶液に5分間浸漬し、その後の表面状態を目視にて評価した。
○:浸漬前と変化なし
△:黄変したが、剥がれは生じなかった
×:黄変と剥がれが生じた
[耐溶剤性]
得られた塗膜について、メチルエチルケトンによるラビング試験を実施した。メチルエチルケトンを染み込ませたガーゼを用いて、2kgfの荷重で10往復ラビングを行い、その後の状態を目視にて評価した。
○:ラビング前と変化なし
△:表面が荒れたが、溶解はしなかった
×:表面が溶解した
[耐食性]
得られた塗膜の表面を基材の金属に届くようにクロスカット後、5%食塩水を噴霧した。25℃で5日間経過した後の錆の発生状態を目視にて評価した。
○:塗膜面への錆の浸入が5mm以下である
×:塗膜面への錆の浸入が5mmより大きい
[重合体(A)の酸価の測定方法]
重合体(A)の酸価は、JIS K0070に準じて測定した。
[重合体(A)の水酸基価の測定方法]
重合体(A)の水酸基価は、JIS K0070に準じて測定した。
[重合体(A)の平均粒径の測定方法]
重合体(A)の平均粒径は、大塚電子(株)製の粒径アナライザーFPAR−1000により光散乱法によって測定した。
[実施例1]
攪拌機、還流冷却付きのセパラブルフラスコに蒸留水285重量部及びラウリル硫酸ナトリウムを2.0重量部仕込み、窒素ガスで置換した後、75℃に昇温した。次いで過硫酸カリウム0.5重量部を添加してから下記組成のビニル単量体乳化物を4時間かけて連続的に添加し、更に3時間保持し、重合を完結させた。固形分が24.0重量%である共重合体(重合体(A))の水分散体を得た。この共重合体の平均粒径、酸価および水酸基価を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。
(ビニル単量体乳化物)
アクリロニトリル 65.0重量部
n−ブチルアクリレート 28.0重量部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート 5.0重量部
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 2.0重量部
ラウリル硫酸アンモニウム 0.2重量部
蒸留水 40.0重量部
この水分散体を固形分として100重量部とり、そこへエポクロスK−2030E(日本触媒社製オキサゾリン系化合物、オキサゾリン基当量:550)を10重量部、触媒であるリン酸二水素アンモニウムを1重量部、炭酸ジルコニウムアンモニウムを0.5重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)を5重量部、を配合し、室温にて攪拌して防錆用組成物の水分散体を調製した。この水分散体を用いて基材密着性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性および耐食性を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。
[実施例2〜5]
ビニル単量体乳化物の組成を表1の実施例2〜5に示した組成に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分が24.0重量%である共重合体(重合体(A))の水分散体を得た。この共重合体の平均粒径、酸価および水酸基価を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。エポクロスK−2030E、リン酸二水素アンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの配合量を表1に示したように変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、防錆用組成物の水分散体を調製した。この水分散体を用いて基材密着性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性および耐食性を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。
[比較例1、3、4]
ビニル単量体乳化物の組成を表1の比較例1、3および4に示した組成に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分が24.0重量%である共重合体の水分散体を得た。この共重合体の平均粒径、酸価および水酸基価を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。エポクロスK−2030E、リン酸二水素アンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの配合量を表1に示したように変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、防錆用組成物の水分散体を調製した。この水分散体を用いて基材密着性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性および耐食性を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。
[比較例2]
ビニル単量体乳化物の組成を表1の比較例2に示した組成に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分が24.0重量%である共重合体(重合体(A))の水分散体を得た。この共重合体の平均粒径、酸価および水酸基価を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。エポクロスK−2030E、リン酸二水素アンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの配合量を表1に示したように変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、防錆用組成物の水分散体を調製した。この水分散体を用いて基材密着性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性および耐食性を上記方法により求めた。その結果を表1に示した。
【0057】
【表1】