(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態のガラス板の製造方法、及び、ガラス板の製造装置について説明する。
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0016】
(ガラス板の製造方法の全体概要)
ガラス板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス板は、納入先の業者に搬送される。
【0017】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解槽では、ガラス原料を、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
熔解槽の熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱し加熱する方法に加えて、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2、As
2O
3、Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO
2(酸化錫)を用いることができる。
【0018】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に泡は浮上して放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程は、減圧雰囲気の空間を清澄槽につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。なお、清澄工程では、例えば、酸化錫を清澄剤として用いた清澄方法を用いる。
【0019】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0020】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラス(ガラス板)に成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス板が作られる。この後、ガラス板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス板の洗浄が行われ、さらに、気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。
【0021】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス板の製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104、105、106と、を有する。
図2に示す熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われる。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
【0022】
(ガラス供給管と成形体との接続)
図3(a)は、成形体210とガラス供給管106との接続部分を示す分解斜視図であり、
図3(b)は、管拡張部106bの開口端が溝部210aの開口端と接続するときの接続領域Z1と溝部210aとの間の相対位置を示す図である。
成形体210は、その上部に溝部210aが形成された一方向(図中X方向)に延びる長尺状の構造体である。溝部210aは、X方向に進むにつれて溝深さが浅くなっている。このため、溝部210aに供給された熔融ガラスMGは、溝部210aから溢れ出して、成形体210の両側に設けられた側壁210bを鉛直下方に流れる。両側の側壁210bを流下する熔融ガラスMGは、成形体210の鉛直下方に設けられた下方先端210cで合流し、1つに張り合わされてシートガラス(ガラス板)SGとなる。このような成形体210の溝部210aには、熔融ガラスMGが円滑に供給される(熔融ガラスMGの流れが停留(滞留)し難い)ことが、失透や脈理を生じさせない点で好ましい。特に、液相温度が高く、液相粘度が成形工程時の熔融ガラスの粘度(成形粘度)に近づき、あるいは、液相粘度が成形粘度より小さくなるような失透し易いガラスでは、ガラス供給管106から溝部210aに供給される熔融ガラスMGの流れが停留することを避けなければならない。
【0023】
成形体210の溝部210aの流路断面は矩形形状を成している。一方、成形体210の溝部210aと接続するガラス供給管106は移送管であって、一定の流路断面を有するガラス供給管本体106aと、ガラス供給管本体106aの流路断面が徐々に広がるテーパー形状からなる管拡張部106bと、を含む。管拡張部106bの一方の端は、ガラス供給管本体106aと接続され、管拡張部106bの他方の端は、溝部210aの開口端と接続されている。ガラス供給管本体106aの流路断面は円形状を成し、管拡張部106bの流路断面は、円形状から矩形形状に徐々に変化するように構成されている。また、ガラス供給管本体106aの流路断面形状である円の直径は、溝部210aの溝幅に比べて小さい。熔融ガラスMGをガラス供給管本体106aから、管拡張部106bを通して成形体210の溝部210aに供給するとき、ガラス供給管106を流れる熔融ガラスMGの流路断面の横幅、縦幅(断面積)は、ガラス供給管106の開口端と成形体210の溝部210aの開口端の接続位置に近づくにつれて徐々に広がり、接続位置で溝部210aの溝幅になっている。しかも、この接続位置において、ガラス供給管106の開口端の縁は、溝部210aの開口端における少なくとも底面の縁形状(
図3(a)の場合直線形状)に一致する形状を有し、ガラス供給管106(管拡張部106b)の壁面は溝部210aの底面と段差なく接続されている。ここで、熔融ガラスMGの流路断面の横幅とは、溝部210aの溝幅方向における幅をいい、熔融ガラスMGの流路断面の縦幅とは、熔融ガラスMGが溝部210aから溢れ出す鉛直方向における幅をいう。
【0024】
具体的には、ガラス供給管本体106aと接続する管拡張部106bの端において、管拡張部106bの断面形状は、円形状であり、管拡張部106bの円形状の底部107bとガラス供給管本体106aの底部とは同一位置(同一高さ)にあり、底部同士が段差なく接続されている。管拡張部106bの流路断面は円形状から矩形形状に変化するが、このときの矩形形状は底部と対向する頭頂部において、横幅及び縦幅が溝部210aに近づくにつれて広くなる。このため、管拡張部106bの頭頂部108bを含む上部の空間が広がっている。つまり、管拡張部106bの断面形状は、ガラス供給管本体106aの円形状の流路断面形状から、その断面形状の一部が溝部210aの底面の縁形状に一致する形状に変化する。ここで、
図3(b)に示す例では、溝部210aの底面の縁形状は直線形状であり、管拡張部106bの断面形状は、溝部210aと接続する端において、直線形状になっている。なお、溝部210aの底面とは、溝部210aの断面形状が矩形形状の場合の溝底に当たる平面の部分の他に、一定の溝幅で深さ方向に延びる部分より下方であって、溝幅が段階的にあるいは連続的に狭くなり溝が終了する部分の面も含まれる。
さらに、溝部210aと接続する管拡張部106bの開口端における断面形状は、溝部210aの開口端における側面(側壁面)の縁形状(直線形状)の一部に一致する形状を有している。
なお、ガラス供給管106における熔融ガラスMGの流路断面の幅あるいは断面積の変化は、連続的にあるいは段階的に行われてもよいが、連続的な幅あるいは断面積の変化が、熔融ガラスMGの流れを可能な限り停留させない点で好ましい。
また、成形体210の溝部210aとガラス供給管106(管拡張部106b)との接続については、例えば、特開2013―234107号公報に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。
【0025】
上述したように、管拡張部106bは、溝部210aと接続するとき、溝部210aの溝幅と同じ幅を持って溝部210aと接続される。
図3(b)に示すように、管拡張部106bの開口端の縁は、溝部210aの底面を含む溝下部の縁と一致するように管拡張部106bは設けられる。これにより、管拡張部106bから溝部210aに流れ込む熔融ガラスMGは、管拡張部106bから溝210aに滑らかに流れるので、熔融ガラスMGの流れは停留し難くなる。もし、管拡張部106bがない場合、ガラス供給管本体106aから溝部210aに進むとき、流路断面が急拡大するので、熔融ガラスMGの流れの停留が起こる場合がある。この場合、熔融ガラスMGは特に底部、頭頂部に停留し易く、失透の原因、異質素地(異質な熔融ガラス)の生成の原因となり易い。このため、ガラス供給管106の開口部の縁、すなわち管拡張部106bの、溝部210aと接続する部分は、溝部210aの底面を含む溝下部の縁の形状と一致するように管拡張部106bが設けられる。
なお、
図3(b)に示すように、成形体210の溝部210aには、熔融ガラスMGが溝部210aの底面を含む溝下部から供給され、接続位置において、溝部210aのうち溝下部の上方に位置する溝上部は、
図3(a)に示すように板状部材を用いて閉塞されている。このため、熔融ガラスMGは溝部210aの溝下部から供給され、しかも、底面において熔融ガラスMGが停留することなく滑らかに流れるので溝部210aから熔融ガラスMGは滑らかに溢れ出す。
【0026】
図4は、ガラス供給管本体106a、管拡張部106b、及び、成形体210の接続位置周辺を上方からみたときの熔融ガラスMGの流れを説明する図である。
図4に示すように、熔融ガラスMGをガラス供給管106から成形体210に供給するとき、ガラス供給管106を流れる熔融ガラスMGの流路断面の幅が、成形体210に近づくにつれて拡張している。管拡張部106bの流路断面の幅は、ガラス供給管本体106aの流路断面の幅W1から成形体210の溝部210aの流路断面の幅W2に向かって徐々に拡張している。ここで、管拡張部106bの流路断面の横幅及び縦幅が拡張する部分がガラス供給管本体106a及び溝部201aと接続する部分、つまり、ガラス供給管本体106aと管拡張部106bの頭頂部108bとの接合部、管拡張部106bと頭頂部108の高さに対応する溝部210aの頭頂対応部211a(
図5参照)との接合部では、熔融ガラスMGの流れが停留し易い。熔融ガラスMGの流速は、ガラス供給管106の径方向の中心付近が最も速く、ガラス供給管106の外周付近、例えば、頭頂部付近、底部付近では遅くなる。ガラス供給管106の流路断面が急拡大すると、流路断面の急拡大以降を流れる熔融ガラスMGの流速は、この拡大前と比較して急激に低下する。流路断面の幅(管路、断面積)が急拡大すると,流体の粘性よりも流体の慣性の影響が強くはたらき、上流からの延長上では流速が速いが、そこから離れると流速は遅くなり、流れの停留が発生しやすくなる。ここで、流体の慣性とは、それまで流れていた速度(速さ・流れ方向)を維持しようとする性質をいい、流体の粘性とは、粘性応力に起因する圧力損失の原因であり、流体は圧力損失を小さくしようとして、速度勾配を小さくしようとする、また、その結果、流れが管路の断面いっぱいに広がる性質をいう。管路が緩やかに拡大すると、流体の慣性よりも流体の粘性の影響が勝り、流れは管路の断面いっぱいに広がろうとして、よどみは発生しにくい。特に、熔融ガラスMGの温度を下げていく供給工程(ST4)においては、熔融ガラスMGの流速が遅いと、その部分での上流からの熔融ガラスMGの持ち込み顕熱が低下し、温度が下がる。温度が下がると熔融ガラスMGの粘性が上昇するため、さらに流速が下がる。この悪循環を防ぐには、管路設計に注意を払い、流速の遅いよどみ点をつくらないことが重要である。熔融ガラスMGの流速が低下した付近に、停留、よどみが発生すると、成形体210で成形するシートガラス(ガラス板)に、歪み、板厚偏差、脈理等が発生する原因となる。例えば、SiO
2は軽く、ガラス供給管106の上部に留まりやすく、ZrO
2は重く、ガラス供給管106の下部(底部)に留まりやすい。ガラス供給管106内において、熔融ガラスMG中にこれらのような成分の不均一性が生じ、脈理の原因となる。ガラス供給管106での流路断面の急激変化を防ぐために、例えば、幅の比率W2/W1、W4/W3を、1.1〜2にすることが好ましく、1.2〜1.8にすることがより好ましい。これにより、熔融ガラスMGは、滞留が抑制され、滑らかに成形体210の溝部210aに流れ込む。なお、管拡張部106bの長さは、幅の比率によって任意に変更できるが、例えば、0.1m〜2mが好ましく、0.1m〜1mがより好ましい。
【0027】
図5は、ガラス供給管本体106a、管拡張部106b、及び、成形体210の接続位置周辺を側面からみたときの熔融ガラスMGの流れを説明する図である。
図5に示すように、ガラス供給管本体106a、管拡張部106b、及び、成形体210の底面は、同一位置(同一高さ)にあり、底面同士が段差なく接続されているため、熔融ガラスMGの停留は発生し難い。これに対し、ガラス供給管本体106aと管拡張部106bの頭頂部108bとの接合部では、流路断面の縦幅が広がるため、熔融ガラスMGの流れが停留し易い。このため、頭頂部108bの接合部において、流路断面の縦幅が広がる場合であっても、停留を防ぐ必要がある。本実施形態では、管拡張部106bの流路断面の縦幅は、幅W3から幅W4に徐々に拡張している。また、本実施形態では、剥離点から再付着点の間に、加熱装置212を備える。剥離点、再付着点については、後述する。加熱装置212は、例えば、抵抗加熱、誘電加熱、マイクロ波加熱によって発熱するシーズヒータ、カートリッジヒータ、セラミックヒータから構成され、熔融ガラスMGを加熱することにより、熔融ガラスMGの停留を抑制する。加熱装置212の設置位置は、剥離点、再付着点を流れる熔融ガラスMGを加熱できる位置であれば任意である。また、通電加熱によって、剥離点、再付着点を流れる熔融ガラスMGを加熱することもできる。
【0028】
(熔融ガラスの加熱)
熔融ガラスMGの流れの停留は、流路断面が拡大することによって発生する場合があるが、停留が発生しやすいガラス供給管106の径方向の外周付近(例えば、頭頂部、底部)の熔融ガラスMGの温度が、ガラス供給管106の径方向の中心付近の熔融ガラスMGの温度と比較して、一定以上低くなっている(温度差が一定以上ある)場合についても、停留が発生しやすい。熔融ガラスMGの温度と熔融ガラスMGの粘性とは相関関係があり、熔融ガラスMGの温度差が一定以上ある場合、つまり、熔融ガラスMGの圧力差が一定以上ある場合に、停留が発生する可能性がある。ガラス供給管106内においては、上流から下流に向かって圧力が低下する圧力勾配となる場合、停留は発生せず、上流から下流に向かって圧力が上昇する逆圧力勾配となる場合、停留が発生する可能性がある。熔融ガラスMGが逆圧力勾配となる位置、つまり、停留が発生する可能性がある位置は、熔融ガラスMGの流線によって判断できる。
図6は、熔融ガラスMGの流線220を模式的に示した図である。流路が拡大するガラス供給管本体106aと管拡張部106bの頭頂部108bとの接合部付近、管拡張部106bと溝部210aの頭頂対応部211aとの接合部付近において、熔融ガラスMGの停留、よどみが発生しやすいが、特に、
図6に示すように、剥離点221付近(近傍)から再付着点222付近(近傍)の間で発生する可能性が高い。ここで、剥離点とは、熔融ガラスMGの流線220が、物体(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)表面から離れる点をいい、上流より下流の静圧が高くなる逆圧力勾配の区間の上流側端点をいう。また、再付着点とは、剥離点以降(下流)において、熔融ガラスMGの流線220が、物体(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)表面に再び沿う点をいい、逆圧力勾配の区間の下流側端点をいう。また、静圧とは、流体の流れで作られる動圧に対する圧力であり、静止している流体の圧力をいう。また、熔融ガラスMGの流線220とは、熔融ガラスMGの速度ベクトルを接線とする曲線(群)をいい、熔融ガラスMGの流れを示すものである。また、付近(近傍)とは、対象(剥離点221、再付着点222)の位置から30cmの範囲内を意味する。剥離点221付近では、熔融ガラスMGは、ガラス供給管106(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)の内壁表面から離れる向きに流れる。このため、剥離点221付近では、他の部分(例えば、ガラス供給管106の径方向の中心部、ガラス供給管106の底面107等)の圧力より低い、負圧状態にある。これに対し、再付着点222付近では、他の部分の圧力より高い、正圧状態にある。ここで、粘度(粘性)は、分子運動論によれば、圧力と相関関係がある。圧力が高くなった状態(正圧状態)では、粘度は高くなり、圧力が低くなった状態(負圧状態)では、粘度は低くなる。このような圧力差がある部分、言い換えると、粘度に差が生じた部分、さらに、言い換えると、温度差が生じた部分において、熔融ガラスMGの停留、よどみが発生しやすい。このため、本実施形態では、剥離点221付近から再付着点222付近までの範囲において、加熱装置212を用いて熔融ガラスMGを加熱することにより、剥離点221付近から再付着点222付近までの熔融ガラスMGの温度差を低減させる。温度差が低減することにより、粘度差、圧力差(逆圧力勾配)も解消され、熔融ガラスMGの停留、よどみの発生を抑制することができる。
【0029】
剥離点221、再付着点222の位置については、ガラス供給管106(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)内に、複数の温度計、液面レベル計、流速計、圧力計(図示せず)を備えることにより、特定することができる。例えば、熔融ガラスMGの温度と液面高さとを測定して、測定した温度・液面高さのデータを用いてシミュレーションにより逆圧力勾配の区間を特定する。このシミュレーションでは、熔融ガラスMGの流路形状をコンピュータ(特定装置)上でモデル化し、多数(例えば、100万個程度)の格子に流体領域を分割する。シミュレーションを行うために物性値、境界条件を設定する。ここでは、圧力損失を計算するために、熔融ガラスMGの密度(kg/m
3)、粘度(Pa・s)を物性値として設定する。また、境界条件として、入口、壁、出口を設定する。入口は、例えば、管拡張部106bよりも十分上流に、入口境界を設定する。そして、熔融ガラスMGの質量流量(kg/s)または熔融ガラスMGの入口流速(m/s)を与える。熔融ガラスMGと成形体210の溝部210aの壁面との界面となる壁は、固定壁であるため、粘着条件(境界で流速ゼロ)とし、熔融ガラスMGと成形体210の溝部210aの空間面(空洞面)との界面となる壁は、自由液面であるため、滑り条件(壁に平行なせん断応力ゼロ)とする。出口は、熔融ガラスMGが溝部210aからオーバーフローした(溢れ出した)後の適当な位置に、出口境界を設定し,等圧面条件とする。そして、各格子において流速に関して適当な初期値を与え、反復計算(例えば、SIMPLEアルゴリズム)により流速値の更新を繰り返すことにより、厳密解に近い近似解を得る。
また、管拡張部106bの頭頂部108bに、上流から下流まで複数の温度計、流速計を備え、実測した温度、流速から流速分布を求めることにより、管拡張部106bの頭頂部108bの内壁表面の圧力、圧力勾配を求めることもできる。これにより、上流より下流の静圧が高くなる逆圧力勾配の区間を特定することもできる。剥離点221は、逆圧力勾配の区間の上流側の位置であり、逆圧力勾配の区間の中で相対的に圧力の低い位置である。再付着点222は、逆圧力勾配の区間の下流側の位置であり、逆圧力勾配の区間の中で相対的に圧力の高い位置である。なお、上述したように、ガラス供給管106内の圧力、熔融ガラスMGの粘度、熔融ガラスMGの温度は相関関係があるため、熔融ガラスMGの粘度、熔融ガラスMGの温度を測定することによっても、剥離点221、再付着点222の位置を特定することができる。
【0030】
加熱装置212は、剥離点221付近の静圧と再付着点222付近の静圧との差(逆圧力勾配)を、基準値以下になるよう制御する。ここで、基準値は、例えば、500Paであり、逆圧力勾配であっても、熔融ガラスMGがよどまない程度の値である。500Paを超える逆圧力勾配は、計算の誤差の程度を超え、有意である。有意な逆圧力勾配により、熔融ガラスMGが再付着点222から剥離点221に向かう2次流れが生じる。このため、流量の微小変動などの原因で一度よどみに流れ込んだ熔融ガラスMGは、2次流れによりよどみ領域の中を循環し、よどみ領域から脱出するのは困難となる。このため、失透などの重大な品質不良を発生する可能性がある。逆圧力勾配を制御するために加熱装置212が加える熱量は、ガラス供給管106の熱伝導率、熔融ガラスMGの量、熔融ガラスMGの組成、加熱装置212から熔融ガラスMGまでの距離等に変化する。このため、加熱装置212は、粘度計(図示せず)が測定した測定結果に基づいて、熔融ガラスMGを適宜加熱して、逆圧力勾配を基準値以下になるよう制御する。剥離点221付近から再付着点222付近までの逆圧力勾配(圧力差)を低減することにより、熔融ガラスMGの停留、よどみの発生を抑制することができる。
【0031】
熔融ガラスMGの温度は、成形体210で成形を行うために適した温度に近づけるために、下流に向かうにつれて徐々に降下する。熔融ガラスMGが成形体210の溝部210aから溢れ出す前段階では、溝部210aにある熔融ガラスMGの液面(表面)温度が一番低い。つまり、
図5に示される、成形体210の溝部210a入口の流路断面において、管拡張部106bと溝部210aの頭頂対応部211aとの接合部付近の熔融ガラスMGの温度が最も低くなる。このため、溝部210aにある熔融ガラスMGの液面(表面)、つまり、頭頂対応部211aの接合部付近での温度低下を防ぐことにより、停留、よどみを抑制する必要がある。本実施形態では、溝部210aの上部付近、成形体210の上部(上面)付近、特に、管拡張部106bと溝部210aの頭頂対応部211aとの接合部付近に、加熱装置212を設けることにより、溝部210aにある熔融ガラスMGの液面の温度(成形体210の溝部210a入口の流路断面における最低温度)の低下を抑制し、剥離点221付近から再付着点222付近までの逆圧力勾配を、基準値以下になるよう制御している。熔融ガラスMGの温度が低下する位置、つまり、剥離点221付近から再付着点222付近までの位置を加熱することにより、溝部210aに供給された熔融ガラスMGの停留、よどみを抑制することができる。
【0032】
熔融ガラスMGの停留、よどみを抑制することができる、熔融ガラスMGの加熱量、設定温度は、以下のように求めることができる。まず、ガラス供給管106(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)の構造を決定する設計段階で、流体解析シミュレーションを行い、逆圧力勾配がなるべく小さくなるようにガラス供給管106の構造(断面積が変化する構造)を設計する。この流体解析シミュレーションでは、例えば、熔融ガラスMGの予想温度を使って流路の圧力を予測(算出)する。予想温度は、熱伝導と熔融ガラスの流れを同時に解くことによって得られる。熱伝導と熔融ガラスの流れを同時に計算するために、ガラス、白金、炉内空気、各耐火物を解析領域とする。解析シミュレーションを行うために物性値、生成条件、境界条件を設定する。ここで、物性値として、ガラスの密度[kg/m
3]、粘度[Pa・s]、比熱[J/kg・K]、熱伝導率[W/m・K]、及び、白金、加熱装置212(ヒーター)、各耐火物の密度[kg/m
3]、比熱[J/kg・K]、熱伝導率[W/m・K]を設定する。また、生成条件として、白金、加熱装置212(ヒーター)の発熱部位に、発熱密度[W/m
3]を設定する。また、入口、壁、出口を設定し、この部分に境界条件を与える。入口は、例えば、管拡張部106bよりも十分上流に、入口境界を設定する。入口は、例えば、管拡張部106bよりも十分上流に、入口境界を設定する。そして、熔融ガラスMGの質量流量(kg/s)または熔融ガラスMGの入口流速(m/s)、及び、流入温度(℃)を与える。熔融ガラスMGと成形体210の溝部210aの壁面との界面となる壁は、固定壁であるため、粘着条件(境界で流速ゼロ)とし、熔融ガラスMGと成形体210の溝部210aの空間面(空洞面)との界面となる壁は、自由液面であるため、滑り条件(壁に平行なせん断応力ゼロ)とする。耐火物外壁は、温度が30℃程度になるように放熱条件を設定する。ガラスや耐火物が空気と接する面に、輻射境界を設定する。出口は、熔融ガラスMGが溝部210aからオーバーフローした(溢れ出した)後の適当な位置に、出口境界を設定し,等圧面条件とする。これらの条件を設定し、解析シミュレーションを行うことにより、ガラス供給管106における熔融ガラスの予測圧力が算出される。しかし、実際のガラス板の成形時(操業中)の圧力は、ガラス供給管106での逆圧力勾配と、それによる剥離点・再付着点の圧力とは、熔融ガラスMGの温度に依存するため、流体解析シミュレーションで予測した予測圧力からずれる可能性がある。このため、実際のガラス板の成形時に測定した熔融ガラスMGの温度を用いて、流体解析シミュレーションを再度行い、逆圧力勾配の区間の圧力差を求める。そして、求めた逆圧力勾配の区間の圧力差が、基準値500Pa以下となる熔融ガラスMGの温度をシミュレーション等で求め、熔融ガラスMGの目標温度、加熱量を決定する。加熱装置212が、熔融ガラスMGが目標温度になるよう、熔融ガラスMGを加熱することにより、熔融ガラスMGの停留、よどみを抑制することができる。
【0033】
次に、熔融ガラスMGに停留、よどみが発生しない粘性について説明する。上述したように、成形体310の溝部210a入口の流路断面において、管拡張部106bの径方向の中心付近で熔融ガラスMGの温度が最高になり、溝部210a(管拡張部106b)の頭頂対応部211aの接続部付近で熔融ガラスMGの温度が最低になる。熔融ガラスMGの温度と熔融ガラスMGの粘性とは相関関係があり、成形体310の溝部210a入口の流路断面において、熔融ガラスMGが最高温度となる付近で熔融ガラスMGの粘性が最小になり、熔融ガラスMGが最低温度となる付近で熔融ガラスMGの粘性が最大になる。熔融ガラスMGの粘性が最大になる付近では、熔融ガラスMGの停留、よどみが発生するおそれがあるため、この熔融ガラスMGの最大粘性を粘性基準値以下となるよう制御することにより、停留等を抑制することができる。本実施形態では、成形体の溝部210aの開口端における熔融ガラスの粘性を、3300Pa・sから5450Pa・sの範囲内となるよう制御することが好ましい。つまり、熔融ガラスMGの最大粘性を粘性基準値である5450Pa・s以下となるよう加熱装置212が制御することが好ましく、熔融ガラスMGの最小粘性を3300Pa・s以上となるよう加熱装置212が制御することが好ましい。また、熔融ガラスMGを加熱して、熔融ガラスMGの粘性を低下させて、流量、静圧を増加させることにより、剥離点221から再付着点222までの距離を、100mm以下となるよう制御することが好ましい。加熱装置212が加える熱量は、ガラス供給管106の熱伝導率、熔融ガラスMGの量、加熱装置212から熔融ガラスMGまでの距離等に変化する。このため、加熱装置212は、粘度計(図示せず)が測定した測定結果に基づいて、熔融ガラスMGの最大粘性を粘性基準値以下となるよう制御する。加熱装置212が熔融ガラスMGを適宜加熱することにより、このような熔融ガラスMGの粘性を実現することができる。
【0034】
図7(a)、(b)は、成形体210の溝部210aとガラス供給管106との従来の接続状態を説明する図である。
図7(a)、(b)に示すように、ガラス供給管106の接続位置における流路断面は、溝部210aの流路断面に比べて小さいので、熔融ガラスMGの流路断面は接続位置で急拡大する。このため、
図7(b)に示すように、溝部210aの延びる方向(X方向)に対して傾斜した方向に速度成分を有する熔融ガラスMGの流れが発生し、熔融ガラスMGは、溝部210a内でX方向に滑らかに流れない。特に、溝部210aの底面は、ガラス供給管106の壁面と段差を持って接するので、底面近傍を流れる熔融ガラスMGの流れの停留の程度は大きい。
このように、本実施形態では、ガラス供給管106は、その端部に管拡張部106bを含む。このとき、ガラス供給管106を流れる熔融ガラスMGの流路断面の幅が、ガラス供給管106の開口端と成形体210の溝部210aの開口端の接続位置に近づくにつれて徐々に広がって、接続位置で溝部210aの溝幅になっている。しかも、この接続位置において、ガラス供給管106(管拡張部106b)の開口端の縁は、成形体210の溝部210aの開口端における少なくとも底面の縁形状に一致する形状を有し、ガラス供給管106の壁面は溝部210aの底面と段差なく接続されている。さらに、この接続位置、より具体的には、熔融ガラスMGが停留する可能性がある剥離点221付近から再付着点222付近に対向する位置に加熱装置212を備えている。このため、本実施形態は、ガラス供給管106から成形体210の溝部210aへの熔融ガラスMGの流れを滑らかにすることができ、熔融ガラスMGの溝部210aにおける滞在時間を比較的一定範囲内に揃えて溝部210aから熔融ガラスMGを溢れ出させることができる。このため、ガラスの失透や異質な熔融ガラスが生じ難く、脈理がなく、均一な板厚の高品質なガラス板を製造することができる。
【0035】
なお、本実施形態では、
図3から
図6に示すように、成形体210の溝部210aに熔融ガラスMGを供給するために、管拡張部106bを用いているが、
図7(a)、(b)に示す従来の接続状態であっても、逆圧力勾配の区間に加熱装置212を設けることにより、熔融ガラスMGの停留、よどみを抑制することができる。従来の接続状態は、管拡張部106bを用いた接続状態と比べ、熔融ガラスMGが停留する可能性が高い。このため、従来の接続状態において、複数の圧力計を備えることにより、逆圧力勾配の区間である剥離点221と再付着点222とを特定し、この区間に加熱装置212を設けて熔融ガラスMGを加熱することにより、熔融ガラスMGの停留、よどみを効果的に抑制することができる。
【0036】
ここで、成形体210の溝部210aに供給する熔融ガラスMGの流量を一定に保つ方法について説明する。
図7(a)、(b)に示される、成形体210の溝部210aとガラス供給管106との従来の接続状態と、
図3(a)、(b)に示される、管拡張部106bを用いた本実施形態における成形体210の溝部210aとガラス供給管106との接続状態とにおいて、成形体210の溝部210aに到達したときの熔融ガラスMGの流量を比較する。ガラス供給管本体106a、管拡張部106bを通過する熔融ガラスMGの圧力損失は、ハーゲン・ポアズイユの式に、熔融ガラスの流速、熔融ガラスの粘性係数、ガラス供給管の管半径等を代入することにより求まる。ここで、圧力損失とは、流体が配管などを通過する際の単位時間単位流量あたりのエネルギー損失をいい、圧力損失が増えると流量は減少し、圧力損失が減ると流量は増加する。本実施形態における接続状態では、管径が徐々に拡大する管拡張部106bを用いているため、圧力損失は従来の接続状態と比べて減少している。圧力損失が減少しているため、本実施形態における熔融ガラスMGの流量は、従来と比較して増加している。本実施形態における熔融ガラスMGの流量と従来の熔融ガラスMGの流量とを同一にする(一定に保つため)には、本実施形態におけるガラス供給管106(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)での圧力損失を大きくする必要がある。圧力損失を大きくする手法として、例えば、熔融ガラスMGの流速を高める手法、また、熔融ガラスMGの粘性を高める手法がある。そこで、本実施形態では、管拡張部106bに熔融ガラスMGを供給するガラス供給管本体106aを流れる熔融ガラスMGの流速を高めるために、ガラス供給管本体106aの管径を、従来より小さく、例えば、φ50〜150mmにする。また、ガラス供給管本体106aから管拡張部106bに流れる熔融ガラスMGの温度を、従来より低く、例えば、1150℃〜1300℃に低下させて、熔融ガラスMGの粘性を上昇させる。このようにすることにより、ガラス供給管106(ガラス供給管本体106a、管拡張部106b)での圧力損失を大きくし、成形体210の溝部210aに供給する熔融ガラスMGの流量を一定に保つことができる。なお、ガラス供給管本体106aの管径、管拡張部106bに流れる熔融ガラスMGの温度は、熔融ガラスMGの組成、管拡張部106bの形状、幅長等によって変化するものであり、任意である。
【0037】
(ガラス板の特性、適用)
本実施形態のガラス板をフラットパネルディスプレイ用ガラス板に用いる場合、以下のガラス組成を有するようにガラス原料を混合するものが例示される。
SiO
2:50〜70質量%、
Al
2O
3:0〜25質量%、
B
2O
3:1〜15質量%、
MgO:0〜10質量%、
CaO:0〜20質量%、
SrO:0〜20質量%、
BaO:0〜10質量%、
RO:5〜30質量%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaの合量)、
を含有する無アルカリガラス。
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.20質量%以上0.5質量%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10質量%より低くてもよい。
また、本発明のガラス板の製造方法を適用する場合は、ガラス組成物が、上記各成分に加えて、SnO
2:0.01〜1質量%(好ましくは0.01〜0.5質量%)、Fe
2O
3:0〜0.2質量%(好ましくは0.01〜0.08質量%)を含有し、環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製しても良い。
【0038】
また、近年フラットパネルディスプレイの画面表示のさらなる高精細化を実現するために、α−Si(アモルファスシリコン)・TFTではなく、p−Si(低温ポリシリコン)・TFTや酸化物半導体を用いたディスプレイが求められている。ここで、p−Si(低温ポリシリコン)TFTや酸化物半導体の形成工程では、α−Si・TFTの形成工程よりも高温な熱処理工程が存在する。このため、p−Si・TFTや酸化物半導体が形成されるガラス板には、熱収縮率が小さいことが求められている。熱収縮率を小さくするためには、歪点を高くすることが好ましいが、歪点が高いガラスは、上述したように液相温度が高く、液相粘度が低くなる傾向にある。すなわち、上記液相粘度は、成形工程における熔融ガラスの適正な粘度に近づく。このため、失透を抑制するためには、成形体210の溝部210aにおいて熔融ガラスMGの流れを停留させないことがより強く求められる。本実施形態では、熔融ガラスMGの流れが停留し難い。したがって、本発明のガラス板の製造方法は、例えば歪点が655℃以上のガラスを用いたガラス板にも適用できる。特に、p−Si・TFTや酸化物半導体に好適な歪点が655℃以上、歪点が680℃以上、さらには、歪点が690℃以上のガラスを用いたガラス板にも、本発明のガラス板の製造方法は適用でき、失透は生じ難い。
また、液相粘度が6000Pa・s以下のガラス、さらには、液相粘度が5000Pa・s以下のガラス、特に、液相粘度が4500Pa・s以下のガラスを用いたガラス板にも本発明のガラス板の製造法を適用でき、失透は生じ難い。
【0039】
歪点が655℃以上あるいは液相粘度が4500Pa・s以下のガラスをガラス板に用いる場合、ガラス組成としては、例えば、ガラス板が質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。
SiO
2:52〜78質量%、
Al
2O
3:3〜25質量%、
B
2O
3:3〜15質量%、
RO(但し、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる、ガラス板が含有する全ての成分であって、少なくとも1種である)3〜20質量%、を含み、
質量比(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は7〜20の範囲にある無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスであることが、好ましい。
さらに、歪点をより上昇するために、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/ROは7.5以上であることが好ましい。さらに、歪点を上昇させるために、β−OH値を0.1〜0.3mm
−1とすることが好ましい。さらに、高い歪点を実現しつつ液相粘度の低下を防止するためにCaO/ROは0.65以上とすることが好ましい。環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製してもよい。
【0040】
さらに、上述した成分に加え、本実施形態のガラス板に用いるガラスは、ガラスの様々な物理的、溶融、清澄、および、成形の特性を調節するために、様々な他の酸化物を含有しても差し支えない。そのような他の酸化物の例としては、以下に限られないが、SnO
2、TiO
2、MnO、ZnO、Nb
2O
5、MoO
3、Ta
2O
5、WO
3、Y
2O
3、および、La
2O
3が挙げられる。ここで、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用ガラス板は、泡に対する要求が特に厳しいので、上記酸化物の中では清澄効果が大きいSnO
2を少なくとも含有することが好ましい。
【0041】
上記ROの供給源には、硝酸塩や炭酸塩を用いることができる。なお、溶融ガラスの酸化性を高めるには、ROの供給源として硝酸塩を工程に適した割合で用いることがより望ましい。
【0042】
以上、本発明のガラス板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
管拡張部106b内の圧力を測定することにより、剥離点221の位置、及び、再付着点222の位置を特定した。成形体210の入り口での、熔融ガラスMGの流量が100kg/1day、ガラス供給管本体106aから管拡張部106bに流れ込む熔融ガラスMGの温度が1235℃になるよう設定した。また、幅の比率W2/W1、W4/W3が1.8、管拡張部106bの長さが0.5mである管拡張部106bを、ガラス供給管本体106aと溝部210aとの間に設けた。管拡張部106bの頭頂部108bに、上流から下流まで複数の圧力計を備え、各圧力計により、管拡張部106bの頭頂部108bの内壁表面の圧力を測定した。そして、各圧力計が測定した圧力の平均値より低い圧力位置を剥離点221とし、平均値より高い圧力位置を再付着点222とした。その結果、剥離点221は、ガラス供給管本体106aと管拡張部106bの頭頂部108bとの接合部であり、再付着点222は、剥離点221から下流に100mm〜120mmの位置であった。
【0045】
(実施例2)
実施例1で特定した剥離点221から再付着点222までの範囲内に加熱装置212を設け、成形体210で成形したガラス板における歪み、板厚偏差、脈理等の発生を確認した。熔融ガラスMGの加熱量は、3000Wとした。他の条件においては、実施例1と同一に設定した。この条件において成形したガラス板における歪み、板厚偏差、脈理の発生結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、上記の条件の場合、成形したガラス板では要求スペックを満たさない歪み、板厚偏差、脈理は発生しなかった。以上の結果から、ガラス供給管106から溝部210aに向かって流路断面を徐々に拡張し、各管の接続位置から下流位置において、熔融ガラスを加熱することにより、ガラス供給管106における熔融ガラスの停留、よどみを抑制し、歪み、板厚偏差、脈理の発生を防ぐことができることがわかった。
【0048】
(実施例3)
管拡張部106bを用いずにガラス供給管本体106aを溝部210aに接続し、加熱装置212を設けなかった場合における、成形体210で成形したガラス板における歪み、板厚偏差、脈理等の発生を確認した。他の条件においては、実施例2と同一に設定した。この条件において成形したガラス板における歪み、板厚偏差、脈理の発生結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、上記の条件の場合、歪み、板厚偏差、脈理は要求スペックを満たさないことが確認された。以上の結果から、ガラス供給管106から溝部210aに向かって流路断面を徐々に拡張せず、さらに、各管の接続位置から下流位置において、熔融ガラスを加熱しない場合、ガラス供給管106における熔融ガラスの停留、よどみを抑制できず、歪み、板厚偏差、脈理が発生することがわかった。
【0051】
(実施例4)
ガラス供給管106、成形体210の溝部210aを流れる熔融ガラスMGの圧力、温度、粘性と、成形体210で成形したガラス板で発生する歪み、板厚偏差、脈理との関係性を調査した。実施例2の条件、実施例3の条件において、剥離点221及び再付着点222における、圧力、熔融ガラスMGの温度、粘性を測定した。圧力、熔融ガラスMGの温度及び粘度は、圧力測定器、温度測定器、粘度測定器を用いてそれぞれ測定した。圧力の測定結果を表3に示す。また、熔融ガラスMGの温度の測定結果を表4に示す。また、熔融ガラスMGの粘性の測定結果を表5に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
表3に示すように、実施例2の条件では、剥離点221と再付着点222との圧力差(逆圧力勾配)は、450Pa〜500Paであり、実施例3の条件では、600Pa〜650Paであった。上述したように、実施例2では、ガラス板に歪み、板厚偏差、脈理が発生せず(要求スペックを満たし)、実施例3では、ガラス板に歪み等が発生した(要求スペックを満たさない)ため、剥離点221と再付着点222との圧力差(逆圧力勾配)が、500Pa以下である場合に歪み等が発生せず、600Pa程度の場合に歪み等が発生することがわかった。
【0056】
また、表4に示すように、実施例2の条件では、剥離点221から再付着点222までの距離は、80mm〜100mmであり、実施例3の条件では、140mm〜160mmであった。上述したように、実施例2では歪み、板厚偏差、脈理が発生せず、実施例3では歪み、板厚偏差、脈理が発生している。このため、剥離点221から再付着点222までの距離が、100mm以下であれば、ガラス板に歪み、板厚偏差、脈理が発生しないことがわかった。熔融ガラスを加熱すると、熔融ガラスの粘性が低下して流量が増加し、剥離点と再付着点との静圧が変化する。剥離点の静圧と再付着点の静圧との圧力差が小さくなる、つまり、剥離点から再付着点までの距離が近づき、この距離が100mm以下であれば、熔融ガラスの停留、よどみを抑制できることがわかった。
【0057】
また、表5に示すように、実施例2の条件では、熔融ガラスMGの粘性は3300Pa・s〜5450Pa・sであり、実施例3の条件では、熔融ガラスMGの粘性は2750Pa・s〜7350Pa・sであった。上述したように、実施例2では歪み、板厚偏差、脈理が発生せず、実施例3では歪み、板厚偏差、脈理が発生している。このため、剥離点221の熔融ガラスMGの粘性と再付着点222の熔融ガラスMGの粘性との差が、5450Pa・s以下であれば、ガラス板に歪み等が発生しないことがわかった。
【0058】
以上の結果から、剥離点から再付着点までの逆圧力勾配、距離、粘性を制御することにより、熔融ガラスの停留、よどみを抑制し、歪み、板厚偏差、脈理の発生を防ぐことができることがわかった。