特許第5921747号(P5921747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5921747セラミド及びコラーゲンの合成促進剤並びにコラーゲンの糖化抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921747
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】セラミド及びコラーゲンの合成促進剤並びにコラーゲンの糖化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20160510BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20160510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   A61K31/047
   A61P17/16
   A61P43/00 111
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-116511(P2015-116511)
(22)【出願日】2015年6月9日
(62)【分割の表示】特願2011-541812(P2011-541812)の分割
【原出願日】2010年11月17日
(65)【公開番号】特開2015-164954(P2015-164954A)
(43)【公開日】2015年9月17日
【審査請求日】2015年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-262951(P2009-262951)
(32)【優先日】2009年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】市川 智也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭司郎
(72)【発明者】
【氏名】志村 進
(72)【発明者】
【氏名】大石 祐一
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 Knuuttila ML et al.,Effects of dietary xylitol on collagen content and glycosylation in healthy and diabetic rats.,Life Science,2000年 6月 8日,Vol.67 No.3,pp.283-290
【文献】 Mattila PT et al.,Effects of a long-term dietary xylitol supplementation on collagen content and fluorescence of the s,Gerontology.,2005年 6月,Vol.51 No.3,pp.166-169
【文献】 国民生活センター,キシリトールを使用した菓子類の商品テスト結果 平成10年,1998年,p.1-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/047
A61P 17/16
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤から選択されるいずれかの形態であることを特徴とする、1日当たりの投与量が被投与者の1日の食事で摂取するカロリー100kcal当たり0.4g〜0.67gとなる量のキシリトールを含有する、経口摂取用のセラミド合成促進剤。
【請求項2】
請求項1記載の経口摂取用のセラミド合成促進剤を得るための、1日当たりの投与量が被投与者の1日の食事で摂取するカロリー100kcal当たり0.4g〜0.67gとなる量のキシリトールの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド及びコラーゲンの合成促進剤並びにコラーゲンの糖化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚の老化や皮質の悪化に伴い、ドライスキンや、しわ・たるみ等の問題が生じることが知られている。
【0003】
皮膚の水分保持機能が低下して皮膚が乾燥し、その表面がカサカサした状態となることをドライスキンという。ドライスキンは、外部からの刺激を受けやすく、肌荒れ、炎症、かぶれ、湿疹、あかぎれ等が起こりやすい状態であるため、その改善が求められる。
【0004】
皮膚の乾燥を防ぎ、ドライスキンを改善する方法として、ワセリン、ミネラルオイル、セラミド等の水分の蒸散を抑える成分を配合した外用剤を皮膚に塗布する方法が行われている。また、皮膚にしわやたるみが生じることを防ぐ方法として、コラーゲンを皮膚に塗布する方法が行われている。しかし、そのような外用剤を塗布するだけで本来の皮膚と同じ水分保持機能を発揮させることは技術的に非常に困難である。また、その効果は一時的なものであり、持続的な効果については疑問であるとされており、ドライスキンやしわ・たるみの根本的な解決にならないという問題点がある。
【0005】
こうした問題点がない方法として、皮膚の細胞においてセラミドやコラーゲンの合成を促進する成分を経口摂取する方法が検討されている。
【0006】
セラミドはスフィンゴシン塩基と脂肪酸が酸アミド結合した複合脂質であり、表皮の角質細胞間脂質の主要な成分である。角質細胞間脂質は水分透過、化学的刺激、物理的刺激に対する皮膚のバリア機能を維持する上で重要な役割を果たしているが、セラミドは特に水分透過に対するバリア機能に寄与している。そのため、皮膚に含有されるセラミドの量は皮膚の水分保持機能を測るうえで重要な指標となる。アトピー性皮膚炎にみられるドライスキンや老人の乾皮症ではセラミドの減少が原因の一つと考えられている(非特許文献1)。
【0007】
セラミドの生合成における律速酵素として、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)が知られている。SPTはセリンとパルミトイル−CoAから3−ケトジヒドロスフィンゴシンを合成する酵素であり、セラミドをはじめとしたスフィンゴ脂質の生合成において最初の反応を触媒する酵素である。
【0008】
一方で、細胞外マトリックスの一つであるコラーゲンは、3本のポリペプチド鎖からなるらせん構造を基本的な構成単位とする繊維状タンパク質である。コラーゲンを構成するアミノ酸は主にグリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン及びアラニン等からなり、そのなかでもヒドロキシプロリンはコラーゲンに特徴的なアミノ酸であるため、コラーゲン量を定量する際の指標とされている。
コラーゲンは肌の弾力を維持する上で重要な役割を有しており、皮膚コラーゲン量の低下やコラーゲンの質的変化は、加齢による自然老化や、紫外線などによる光老化と相関して、しわやたるみの原因となることが知られている。質的変化のひとつであるコラーゲンの糖化は、加齢と共に進行する現象であり、近年では皮膚の老化現象の一つとして考えられている。
【0009】
セラミド合成促進剤として、ニコチン酸誘導体(特許文献1)、植物抽出物(特許文献2〜4)、漢方生薬(非特許文献2)、牛乳のリン脂質(非特許文献3)、日本酒成分(非特許文献4)、ナイアシンアミド(非特許文献5)等が開示されている。
コラーゲン合成促進剤として、ザイモモナス発酵代謝液(非特許文献10)、植物抽出物(特許文献5〜9)、コラーゲンペプチド様のジペプチドやトリペプチド(特許文献10〜11)、γ-オリザノール分解物(特許文献12)等が開示されている。
しかし、これらの中には皮膚への刺激性が強いもの等もあり、安全性の面で不十分なものがある。また、培養細胞に有効成分を直接作用させて効果を評価しているものもあるが、ヒトや動物での使用を考えた場合、有効成分が体内に吸収されるのか、有効成分が体内で何らかの代謝を受けても効果を発揮できるのかという点が不明であり、十分な効果が得られるかどうか明確でない。つまり、その効果や安全性の面で十分であるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3508042号公報
【特許文献2】特開2006−111560号公報
【特許文献3】特開2004−210743号公報
【特許文献4】特開2002−370998号公報
【特許文献5】特開2007−230917号公報
【特許文献6】特開2006−273756号公報
【特許文献7】特開2006−265120号公報
【特許文献8】特開2005−139141号公報
【特許文献9】特開2005−120108号公報
【特許文献10】特開2010−024200号公報
【特許文献11】特開2006−056904号公報
【特許文献12】特開2005−263677号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】宮地良樹ら、美容皮膚科学、2005年、8〜18頁、南山堂
【非特許文献2】日野孝之、諸橋正昭、フレグランスジャーナル、2004年、3号、26〜30頁、「皮膚の脂質代謝を調整する漢方生薬の検討」
【非特許文献3】Haruta Y. et al.、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、2008年、72巻、8号、2151〜2157頁、Dietary phospholipid concentrate from bovine milk improves epidermal function in hairless mice.
【非特許文献4】Nakahara M. et al.、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、2007年、71巻、2号、427-434頁、Effect of a sake concentrate on the epidermis of aged mice and confirmation of ethyl alpha-D-glucoside as its active component.
【非特許文献5】丹野修、フレグランスジャーナル、1999年、10号、23〜28頁、「De novoセラミド合成促進による表皮バリア機能の改善」
【非特許文献6】Knuuttila M.L. et al.、Life Sciences、2000年、67巻、3号、283〜290頁、Effects of dietary xylitol on collagen content and glycosylation in healthy and diabetic rats.
【非特許文献7】Mattila P.T. et al.、Gerontology、2005年、51巻、3号、166〜169頁、Effects of a long-term dietary xylitol supplementation on collagen content and fluorescence of the skin in aged rats.
【非特許文献8】J. F. Woessner, Jr., Arch Biochem Biophys., 93, 440-447 (1961)
【非特許文献9】I. Bergman and R. Loxley, Anal Chem., 35, 1961-1965 (1963)
【非特許文献10】田中浩、フレグランスジャーナル、2006年、12号、29〜35頁、「紫外線による真皮構成成分のダメージとその改善」
【非特許文献11】Philip G. et al.、The Journal of Nutrition、1993年、123巻、11号、1936〜1951頁、AIN-93 purified diets for laboratory rodents: final report of the American Institute of Nutrition ad hoc writing committee on the reformulation of the AIN-76A rodent diet.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記課題に基づき、本発明は、皮膚のセラミド合成を促進することによって皮膚の水分保持機能等のバリア機能を高めることができ、さらに皮膚コラーゲン量を増加し及びコラーゲンの糖化を抑えることによって皮膚のしわやたるみを防止する、安全に摂取できる経口用剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題について鋭意研究した結果、キシリトールを経口摂取することで、セラミドの合成が促進され、かつセリンパルミトイルトランスフェラーゼのmRNA発現量が高まることを見出した。また、本発明者らは、キシリトールを経口摂取することによって皮膚のコラーゲン量が増大し、かつコラーゲンの糖化が抑制されることを見いたした。これらの知見により、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、キシリトールを有効成分として含有する、経口摂取するセラミド及びコラーゲンの合成促進剤並びにコラーゲンの糖化抑制剤に関する。
【発明の効果】
【0014】
キシリトールを経口摂取することにより、セラミド合成量及び皮膚中のコラーゲン量を増加させ、かつ糖化コラーゲンレベルを減少させることができる。
また、キシリトールは従来から菓子等の甘味料として使用されており、経口摂取してもその安全性については問題ない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例における試験スケジュールの概略。
図2】試験例1において、3ヶ月試験グループにおけるセリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルを表すグラフ。
図3】試験例1において、6ヶ月試験グループにおけるセリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルを表すグラフ。
図4】試験例2において、3ヶ月試験グループにおけるセラミドレベルの測定結果を表すグラフ。
図5】試験例2において、6ヶ月試験グループにおけるセラミドレベルの測定結果を表すグラフ。
図6】試験例3における抽出・分画の工程図。
図7】試験例3において、3ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量を表すグラフ。
図8】試験例3において、6ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量を表すグラフ。
図9】試験例3において、3ヶ月試験グループにおけるコラーゲン量あたりの蛍光強度を表すグラフ。
図10】試験例3において、6ヶ月試験グループにおけるコラーゲン量あたりの蛍光強度を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
キシリトールは炭素数5個の糖アルコールであり、キシリットとも呼ばれる。キシロースへの水素添加によって生成し、う蝕原性のない甘味料としてチューインガムやキャンディ等の菓子に広く利用されている。
キシリトールはグリセリン、プロピレングリコール等のポリオール類の一つであり、保水力が高く皮膚に塗布することによってその水分保持機能を高める効果が期待できることから、外用剤の保湿成分として配合される場合がある。しかし、このような効果は外用した場合に期待できる効果であり、キシリトールを経口摂取しても、そのまま皮膚まで到達してこのような効果を発揮できるものではない。
キシリトールを経口摂取した場合の皮膚への効果については、キシリトールを5.0重量%及び10.0重量%という比較的高用量で含有するキシリトール混餌を与えたラットによる実験において、皮膚のコラーゲン量が増加し、さらにコラーゲンの糖化を抑制する作用が報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。しかし、皮膚のセラミド合成に対する効果については知見がなかった。また、コラーゲンに対する効果についても、キシリトールをはじめとした糖アルコールをヒトが一度に多量に摂取した場合、下痢等の副作用が懸念されるため、より少ないキシリトール含量で同じような効果が期待できるかについての評価が望まれていた。
【0017】
これに対し、本発明者らは、キシリトールを経口で摂取することにより、皮膚のセラミドの合成が促進されること、また、セラミド生合成における律速酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)のmRNA発現量が高まること、を見出した。また、本発明者らは、従来より少量のキシリトールを経口摂取することによって皮膚のコラーゲン量が増大し、かつコラーゲンの糖化が抑制されることを見いたした。新たに得られたこれらの知見により、本発明者らは本発明に係るセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤を完成させた。
【0018】
本発明のセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤は、好ましくは、1日当たりの投与量が被投与者の1日の食事で摂取するカロリー100kcal当たり0.4g〜1.35gとなる量のキシリトールを有効成分として含有する。さらに好ましくは、1日当たりの投与量が被投与者の1日の食事で摂取するカロリー100kcal当たり0.4g〜0.67gとなる量のキシリトールを有効成分として含有する。また、本発明のセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤は、好ましくは、有効成分としてキシリトールを0.1重量%〜99重量%の割合で含有し、さらに好ましくは、1重量%〜90重量%の割合で含有する。
また、本発明のセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤は、経口により摂取されることを特徴とする。
【0019】
本発明のセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤は、例えば、医薬品、医薬部外品又は飲食品等として利用することができる。
医薬品の場合、経口剤として投与される。経口剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。医薬部外品の場合、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等の剤形で利用される。飲食品の場合、ドリンク等の飲料品、キャンディ、せんべい、クッキー等の食品のほか、タバコやチューインガム等の嗜好品、飼料や飼料類、又はうがい薬、歯磨き等の化粧品類等が挙げられる。なお、これらはあくまでも例示にすぎず、キシリトールを経口で摂取できる限り、本発明はいかなる物品にも用いることができる。
医薬品や医薬部外品の場合、薬理学的に許容される一種または二種以上の担体、さらに必要に応じて他の治療のための有効成分を含有していてもよい。そのほか、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤、界面活性剤、可塑剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等を含有していてもよい。
また、飲食品には、食品製造上許容される基材、担体、賦形剤、添加剤、増量剤、着色剤、香料等を含有していてもよい。
なお、キシリトール以外の成分に関しても、上記に限定されることはなく、本発明は公知のいかなる成分をも任意に含有していてもよい。
【0020】
本発明のキシリトールを含有するセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤は、それぞれの技術分野において公知の任意の方法により製造することができる。その製造過程において、キシリトールを公知のいかなる方法で添加してもよい。
【0021】
なお、本発明のキシリトールを含有するセラミド合成促進剤、コラーゲン合成促進剤及びコラーゲンの糖化抑制剤は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下、非ヒト動物と略す)に対しても使用することができる。非ヒト動物としては、ほ乳類、は虫類、両生類、魚類等、ヒト以外の動物をあげることができる。
【0022】
以上の構成により、本発明においては、従来の経口によって摂取するセラミド合成促進剤と同程度のセラミドの合成促進効果が期待できる。そのため、皮膚の水分保持機能を高める用途や、ドライスキンの改善等に用いることができる。また、本発明においては、コラーゲンの合成を促進する効果剤及びコラーゲンの糖化を抑制する効果も期待できる。そのため、皮膚のしわやたるみを防止する用途に用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を用いて本発明について説明するが、これらの実施例はなんら本発明の範囲を限定するものではない。
【0024】
供試動物、動物の飼育
SD系ラット(雄性、11週齢、生育場出荷時体重:350〜400g) 40匹を日本クレアより購入し実験に用いた。動物は、コンベンショナル動物飼育室にて室温23±1℃、湿度50±10%、明暗サイクル12時間(明期8:00〜20:00)という環境下で飼育した。2週間の馴化飼育後に体重測定を行ない、各群の平均体重が均等になるよう表1に示す4つの試験群にラットを群分け、その後、試験飼料投与期間として11週間飼育を行なった。11週間経過時の体重に基づき、各試験群内の平均体重が均等になるよう3匹と7匹にグループを分けた。3匹に分けたグループは更に1週間だけ飼育し解剖した(計12週間、3ヶ月試験グループ)。7匹に分けたグループは更に13週間飼育し解剖を行なった(計24週間、6ヶ月試験グループ)。図1に試験スケジュールの概略を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
飼料は、AIN-93G標準精製飼料を基本組成とした。スクロースをキシリトールに置換した組成の飼料(表2参照)を調製し、試験に用いた。尚、馴化飼育中は対照群と同じ飼料を与えた。なお、キシリトールのカロリーについては2.40kcal/gと3.00kcal/gのいずれの値も一般的に受け入れられているため、表2には両方の値をもとに計算した結果を示す。
【0027】
【表2】
【0028】
飼料及び水は自由摂取とし、解剖の1週間前からは16:30〜翌日10:30の18時間を摂食時間とし、10:30〜16:30の間は絶食させた。体重測定及び給餌量と残餌量の測定は2日に1度行ない、両者の差を摂食量とした。また、糞の状態、下痢等の異常の有無についても観察・記録した。
試験飼育2〜3週後にキシリトール5%混餌群の1匹において背部の引っかき行動による外傷が認められ、その後治癒したが皮膚の解析への影響が考えられるので、この動物は解析対象から除外した。また、試験飼育10週目において、キシリトール1.5%混餌群の1匹に血尿が認められ、その後の体重が安定しなかったので、この動物は解析対象から除外した。
【0029】
飼育に関する結果
試験飼料投与開始から1〜2日間、キシリトール5.0%混餌群のラット10匹中1匹に軟便(水分量の多い有形の便)を認めたが、一時的な症状であり、その後は回復した。また、3ヶ月飼育期間中の各群におけるラット平均体重の推移、1週間合計平均摂食量の推移、及び3ヶ月間の累計摂食量にも、飼育期間を通して各群間で摂食量に統計学的な差は見られなかった。
【0030】
解剖、各サンプルの採取
解剖は麻酔薬ソムノペンチル(共立製薬)を体重100gあたり0.1mL 腹腔内に投与して行なった。麻酔後、ラット背部の毛をバリカンで剃り、その後、瞬間接着剤(アロンアルファ)を塗布したスライドガラスを背部表面に1分間貼り付け、皮膚表面の皮脂を採取した。その後、背部皮膚(皮膚の一部をφ=1.8cmのパンチで、円形にカットした)、血漿(心臓採血)、肝臓、副睾丸脂肪を採取した。
【0031】
[試験例1] セラミド合成酵素の発現レベルの測定
皮膚からのtotal RNA抽出とcDNA作製
採取した皮膚組織を凍結した状態で破砕し、破砕した皮膚片約350mgをサンプルとして供した。皮膚組織からのtotal RNAの抽出はSV Total RNA Isolation System(Promega)を用いて行なった。total RNA 2μgから逆転写反応(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit、ABI)でcDNAを作製した。作製したcDNAはリアルタイムPCRでの解析に用いる為、滅菌水で5倍に希釈した。
【0032】
リアルタイムPCRによる各種遺伝子発現解析
96ウェルチューブ(ABI)に、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(Spt)のプライマー及びプローブと、TaqMan(登録商標) Universal Master Mix II(ABI)を混合したリアルタイムPCR反応液24μLと、前項で作製したcDNA 5倍希釈サンプルを1μL加え、リアルタイムPCR(7300型、ABI)にて、遺伝子発現解析を行なった。プライマーおよびプローブは下記に示した配列を使用した。なお、プローブに用いたオリゴDNAの5’末端にはFAMを、3’末端にはTAMRAを結合した。mRNA量は、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチン(Beta-actin)の発現量で補正した後、対照群に対する相対値として求めた。
Forward primer:5’− CAG TGC AGC CTG CTT TGC TA −3’(配列番号1)
Reverse primer 5’− GCC TTT CGA GGA TTC TTT TGA TC −3’(配列番号2)
Probe (rat SPT):5’− CCA GAA AGG ACT ACA GGC ATC ACG CAG −3’(配列番号3)
【0033】
セリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルの測定結果
3ヶ月試験グループにおけるセリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルを図2に、6ヶ月試験グループにおけるセリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルを図3に、それぞれ示す。
各群間に統計学的な有意差及び有意傾向は認められなかったが、いずれもキシリトール投与群において対照群よりも発現レベルが上昇していた。
【0034】
[試験例2] 皮膚セラミド量の測定
皮膚セラミドの抽出
解剖時に背部皮膚表面からスライドガラスに採取した皮脂サンプルをヘキサン:エタノールを95:5で混合した溶媒に浸し、超音波処理によって、脂質成分を抽出した。抽出した脂質成分は、疎水性フィルター(Millex(登録商標)-FH、φ=0.45μm、ミリポア)でろ過後、試験管に移し、窒素ガスで濃縮・乾固させた。乾固された脂質成分はクロロホルムで再度溶解し、茶褐色のマイクロチューブに移し、窒素ガスで再度濃縮・乾固させた。この時、マイクロチューブの重量を予め測っておき、窒素ガスでの濃縮・乾固後の重量との差を総脂質量とした。
得られた総脂質1mgにつき、クロロホルムを10μL加え、脂質成分を溶解させ、これをTLC法に供する総脂質サンプルとした。
【0035】
TLC法による皮膚セラミド量の数値化
シリカゲルプレート(HPTLC、メルク)に総脂質サンプルを5μL(総脂質0.5mg相当量)スポットし、展開溶媒(クロロホルム:メタノール:酢酸=192:7:1)で展開させた。展開終了後、シリカゲルプレートを十分乾燥させてから表3に示す処方により調製した硫酸銅(II)−リン酸溶液(発色試薬)を噴霧し、150℃で10分程度加熱した。標品としてはウシ脳由来セラミド(Ceramide, Natural Mixture、フナコシ)を用いた。シリカゲルプレートに現れたスポットはイメージアナライザ(LAS-3000、フジフィルム)で数値化を行なった。
【表3】
【0036】
皮膚セラミドレベルの測定結果
3ヶ月試験グループにおけるセラミドレベルの測定結果を図4に示す。各群間で統計学的な有意差及び有意傾向は認められなかったものの、キシリトール投与群では全体的に対照群よりも高い値を示し、特にキシリトール2.5%混餌群が対照群に比して高値であった。
6ヶ月試験グループにおけるセラミドレベルの測定結果を図5に示す。キシリトール1.5%混餌群と5.0%混餌群が対照群と比して、1.4〜1.5倍と統計学的に有意に増加していた。キシリトール2.5%混餌群も統計学的な有意差及び有意傾向は認められなかったものの、対照群より高値であった。
【0037】
[試験例3] 皮膚コラーゲン量の評価、コラーゲン中の糖化コラーゲン量の測定
トータルコラーゲンの抽出、分画
非特許文献8に準じて抽出・分画を行なった(図6参照)。
採取した皮膚を凍結破砕し、アセトンで脱脂・脱水処理を行ない、解剖鋏で裁断した。その後、ボールミル(Retsch)で凍結粉砕し、凍結乾燥を経て、皮膚粉末サンプルを得た。皮膚粉末サンプル30mgに9mLの0.5M酢酸を加え、4℃で16時間振盪抽出後、30,000G、4℃で30分遠心分離し、上清と沈殿に分けた。
上清には、終濃度が100mg/mLとなるようにペプシン1:10,000(生化学用、和光純薬)を加え、22℃で16時間反応させ、非コラーゲン性のタンパクを分解した。その後、最終モル濃度が1.8Mとなるように塩化ナトリウムを加え、再度30,000G、10分、4℃で遠心を行ない、得られた沈殿物を0.1M酢酸で溶解したものを酸可溶性画分とした。
一方、0.5M 酢酸抽出後の沈殿物に対しては、表4の組成で調製したコラゲナーゼバッファーで一度沈殿を洗った後、表5の組成で200unit/mLの濃度に調製したコラゲナーゼ酵素液を3mL加え、37℃で22時間反応させた。その後、30,000G、30分、4℃で遠心を行ない、上清をコラゲナーゼ可溶性画分とした。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
ヒドロキシプロリン(Hyp)の定量
非特許文献8及び非特許文献9に準じてヒドロキシプロリンの定量を行なった。
酸可溶性画分あるいはコラゲナーゼ可溶性画分20μLに、6N 塩酸を500μL加えて混合後、130℃で3時間、酸加水分解を行なった。冷却後、pH指示薬として、0.04%メチルレッド溶液を2μL加え、2.5N 水酸化ナトリウムを1150μL加えた。溶液の色がピンクと薄黄色の中間色の色となるよう、塩酸及び水酸化ナトリウムの希釈水溶液を適宜加えpH=6〜7に調整した。
その後、表6、表7に記載の組成で調製した50mMクロラミンT溶液を1mL混合し、常温で20分反応後、18.9%過塩素酸水溶液を1mL混合し、常温で5分反応させた。その後、表8に記載の組成で調製した20% p -ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液を1mL混合し、60℃の湯浴中で20分反応させた。その後、流水で5分冷却し、常温で1時間以上静置した後、分光光度計(U-3900H、日立)にて557nmの吸光度を測定し、検量線からヒドロキシプロリン量を求めた。こうして得られたヒドロキシプロリン量に換算係数7.25を乗じた値をコラーゲン換算値とした。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
【表8】
【0044】
蛍光強度の測定及び糖化コラーゲン量の評価
非特許文献6に準じて蛍光強度測定を行なった。酸可溶性画分及びコラゲナーゼ可溶性画分について、適宜希釈し、蛍光分光光度計(RF-5000、島津製作所)により励起波長Ex:370nm、測定波長Em:440nmで蛍光強度を測定した。各画分のヒドロキシプロリン量から算出したコラーゲン量あたりの蛍光強度を算出し、糖化コラーゲン量の指標とした。
【0045】
ヒドロキシプロリン量の測定結果
3ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量を図7に、6ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量を図8に、それぞれ示す。
3ヶ月試験グループについては、酸可溶性画分、コラゲナーゼ可溶性画分ともに各群間で統計学的な有意差及び有意傾向を認めなかったが、6ヶ月試験グループについては、いずれの画分においてもヒドロキシプロリン量が増加しており、特にコラゲナーゼ可溶性画分においては、キシリトール混餌群全てが対照群と比べて統計学的に有意に上昇していた。コラーゲンに特徴的なアミノ酸であるヒドロキシプロリンの量が増加していることから、キシリトール混餌群ではコラーゲンの合成量が増加したと考えられる。
【0046】
糖化コラーゲンレベルの測定結果
3ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量から算出したコラーゲン量あたりの蛍光強度(糖化コラーゲンレベル)を図9に、6ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量から算出したコラーゲン量あたりの蛍光強度(糖化コラーゲンレベル)を図10に、それぞれ示す。
いずれの画分においても糖化コラーゲンレベル減少が見られ、特に3ヶ月試験グループについては、コラゲナーゼ可溶性画分においてキシリトール2.5%混餌群が対照群と比して有意に低値であった。また、6ヶ月試験グループについては、酸可溶性及びコラゲナーゼ可溶性の両画分で、すべてのキシリトール混餌群(1.5%、2.5%、5.0%)の値が対照群と比して有意に低値であった。
【0047】
以上のように、キシリトール投与群では、キシリトールを投与しなかった対照群と比較して、セラミドの合成促進効果が見られた。また、キシリトール以外の成分を経口摂取した結果を開示する先行文献である特許文献1〜4、非特許文献2〜5と比較しても、同程度の合成効果を有することが認められた。
また、キリリトール投与群では、対照群と比較して、コラーゲンの合成促進効果及びコラーゲンの糖化を抑制する効果が見られた。
【0048】
[実施例4]
以下の処方に従って錠剤を調製した。
キシリトール 40%
結晶セルロース 25%
乳糖 25%
トウモロコシデンプン 8%
ステアリン酸マグネシウム 2%
上記成分を均一に混合し、その混合末を打錠にて錠剤とした。
【0049】
[実施例5]
以下の処方に従って錠剤を調製した。
キシリトール 80%
乳糖 8%
ヒドロキシプロピルセルロース 10%
ステアリン酸マグネシウム 2%
上記成分を均一に混合し、その混合末を打錠にて錠剤とした。
【0050】
[実施例6]
以下の処方に従ってシロップ剤を調製した。
単シロップ 30%
キシリトール 20%
精製水 50%
【0051】
[実施例7]
以下の処方に従ってカプセル剤を調製した。
キシリトール 99%
ステアリン酸マグネシウム 1%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【0052】
[実施例8]
以下の処方に従ってカプセル剤を調製した。
キシリトール 90%
乳糖 8%
ステアリン酸マグネシウム 2%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【0053】
[実施例9]
以下の処方に従って散剤を調製した。
キシリトール 65%
トウモロコシデンプン 9.9%
ヒドロキシプロピルセルロース 25%
l−メントール 0.1%
【0054】
[実施例10]
以下の処方に従ってドリンク剤を調製した。
キシリトール 5%
酸味料 1.2%
果糖ブドウ糖液糖 6%
香料 0.1%
精製水 87.7%
【0055】
[実施例11]
以下の処方に従ってドリンク剤を調製した。
キシリトール 1%
酸味料 1.4%
果糖ブドウ糖液糖 8%
香料 0.1%
精製水 89.5%
【0056】
[実施例12]
以下の処方に従ってドリンク剤を調製した。
キシリトール 0.1%
酸味料 1.2%
砂糖 2%
果糖ブドウ糖液糖 8%
香料 0.2%
精製水 88.5%
【0057】
この出願は2009年11月18日に出願された日本国特許出願第2009−262951号からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]