【実施例】
【0023】
以下に、実施例を用いて本発明について説明するが、これらの実施例はなんら本発明の範囲を限定するものではない。
【0024】
供試動物、動物の飼育
SD系ラット(雄性、11週齢、生育場出荷時体重:350〜400g) 40匹を日本クレアより購入し実験に用いた。動物は、コンベンショナル動物飼育室にて室温23±1℃、湿度50±10%、明暗サイクル12時間(明期8:00〜20:00)という環境下で飼育した。2週間の馴化飼育後に体重測定を行ない、各群の平均体重が均等になるよう表1に示す4つの試験群にラットを群分け、その後、試験飼料投与期間として11週間飼育を行なった。11週間経過時の体重に基づき、各試験群内の平均体重が均等になるよう3匹と7匹にグループを分けた。3匹に分けたグループは更に1週間だけ飼育し解剖した(計12週間、3ヶ月試験グループ)。7匹に分けたグループは更に13週間飼育し解剖を行なった(計24週間、6ヶ月試験グループ)。
図1に試験スケジュールの概略を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
飼料は、AIN-93G標準精製飼料を基本組成とした。スクロースをキシリトールに置換した組成の飼料(表2参照)を調製し、試験に用いた。尚、馴化飼育中は対照群と同じ飼料を与えた。なお、キシリトールのカロリーについては2.40kcal/gと3.00kcal/gのいずれの値も一般的に受け入れられているため、表2には両方の値をもとに計算した結果を示す。
【0027】
【表2】
【0028】
飼料及び水は自由摂取とし、解剖の1週間前からは16:30〜翌日10:30の18時間を摂食時間とし、10:30〜16:30の間は絶食させた。体重測定及び給餌量と残餌量の測定は2日に1度行ない、両者の差を摂食量とした。また、糞の状態、下痢等の異常の有無についても観察・記録した。
試験飼育2〜3週後にキシリトール5%混餌群の1匹において背部の引っかき行動による外傷が認められ、その後治癒したが皮膚の解析への影響が考えられるので、この動物は解析対象から除外した。また、試験飼育10週目において、キシリトール1.5%混餌群の1匹に血尿が認められ、その後の体重が安定しなかったので、この動物は解析対象から除外した。
【0029】
飼育に関する結果
試験飼料投与開始から1〜2日間、キシリトール5.0%混餌群のラット10匹中1匹に軟便(水分量の多い有形の便)を認めたが、一時的な症状であり、その後は回復した。また、3ヶ月飼育期間中の各群におけるラット平均体重の推移、1週間合計平均摂食量の推移、及び3ヶ月間の累計摂食量にも、飼育期間を通して各群間で摂食量に統計学的な差は見られなかった。
【0030】
解剖、各サンプルの採取
解剖は麻酔薬ソムノペンチル(共立製薬)を体重100gあたり0.1mL 腹腔内に投与して行なった。麻酔後、ラット背部の毛をバリカンで剃り、その後、瞬間接着剤(アロンアルファ)を塗布したスライドガラスを背部表面に1分間貼り付け、皮膚表面の皮脂を採取した。その後、背部皮膚(皮膚の一部をφ=1.8cmのパンチで、円形にカットした)、血漿(心臓採血)、肝臓、副睾丸脂肪を採取した。
【0031】
[試験例1] セラミド合成酵素の発現レベルの測定
皮膚からのtotal RNA抽出とcDNA作製
採取した皮膚組織を凍結した状態で破砕し、破砕した皮膚片約350mgをサンプルとして供した。皮膚組織からのtotal RNAの抽出はSV Total RNA Isolation System(Promega)を用いて行なった。total RNA 2μgから逆転写反応(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit、ABI)でcDNAを作製した。作製したcDNAはリアルタイムPCRでの解析に用いる為、滅菌水で5倍に希釈した。
【0032】
リアルタイムPCRによる各種遺伝子発現解析
96ウェルチューブ(ABI)に、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(Spt)のプライマー及びプローブと、TaqMan(登録商標) Universal Master Mix II(ABI)を混合したリアルタイムPCR反応液24μLと、前項で作製したcDNA 5倍希釈サンプルを1μL加え、リアルタイムPCR(7300型、ABI)にて、遺伝子発現解析を行なった。プライマーおよびプローブは下記に示した配列を使用した。なお、プローブに用いたオリゴDNAの5’末端にはFAMを、3’末端にはTAMRAを結合した。mRNA量は、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチン(Beta-actin)の発現量で補正した後、対照群に対する相対値として求めた。
Forward primer:5’− CAG TGC AGC CTG CTT TGC TA −3’(配列番号1)
Reverse primer 5’− GCC TTT CGA GGA TTC TTT TGA TC −3’(配列番号2)
Probe (rat SPT):5’− CCA GAA AGG ACT ACA GGC ATC ACG CAG −3’(配列番号3)
【0033】
セリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルの測定結果
3ヶ月試験グループにおけるセリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルを
図2に、6ヶ月試験グループにおけるセリンパルミトイルトランフフェラーゼ遺伝子(Spt)の発現レベルを
図3に、それぞれ示す。
各群間に統計学的な有意差及び有意傾向は認められなかったが、いずれもキシリトール投与群において対照群よりも発現レベルが上昇していた。
【0034】
[試験例2] 皮膚セラミド量の測定
皮膚セラミドの抽出
解剖時に背部皮膚表面からスライドガラスに採取した皮脂サンプルをヘキサン:エタノールを95:5で混合した溶媒に浸し、超音波処理によって、脂質成分を抽出した。抽出した脂質成分は、疎水性フィルター(Millex(登録商標)-FH、φ=0.45μm、ミリポア)でろ過後、試験管に移し、窒素ガスで濃縮・乾固させた。乾固された脂質成分はクロロホルムで再度溶解し、茶褐色のマイクロチューブに移し、窒素ガスで再度濃縮・乾固させた。この時、マイクロチューブの重量を予め測っておき、窒素ガスでの濃縮・乾固後の重量との差を総脂質量とした。
得られた総脂質1mgにつき、クロロホルムを10μL加え、脂質成分を溶解させ、これをTLC法に供する総脂質サンプルとした。
【0035】
TLC法による皮膚セラミド量の数値化
シリカゲルプレート(HPTLC、メルク)に総脂質サンプルを5μL(総脂質0.5mg相当量)スポットし、展開溶媒(クロロホルム:メタノール:酢酸=192:7:1)で展開させた。展開終了後、シリカゲルプレートを十分乾燥させてから表3に示す処方により調製した硫酸銅(II)−リン酸溶液(発色試薬)を噴霧し、150℃で10分程度加熱した。標品としてはウシ脳由来セラミド(Ceramide, Natural Mixture、フナコシ)を用いた。シリカゲルプレートに現れたスポットはイメージアナライザ(LAS-3000、フジフィルム)で数値化を行なった。
【表3】
【0036】
皮膚セラミドレベルの測定結果
3ヶ月試験グループにおけるセラミドレベルの測定結果を
図4に示す。各群間で統計学的な有意差及び有意傾向は認められなかったものの、キシリトール投与群では全体的に対照群よりも高い値を示し、特にキシリトール2.5%混餌群が対照群に比して高値であった。
6ヶ月試験グループにおけるセラミドレベルの測定結果を
図5に示す。キシリトール1.5%混餌群と5.0%混餌群が対照群と比して、1.4〜1.5倍と統計学的に有意に増加していた。キシリトール2.5%混餌群も統計学的な有意差及び有意傾向は認められなかったものの、対照群より高値であった。
【0037】
[試験例3] 皮膚コラーゲン量の評価、コラーゲン中の糖化コラーゲン量の測定
トータルコラーゲンの抽出、分画
非特許文献8に準じて抽出・分画を行なった(
図6参照)。
採取した皮膚を凍結破砕し、アセトンで脱脂・脱水処理を行ない、解剖鋏で裁断した。その後、ボールミル(Retsch)で凍結粉砕し、凍結乾燥を経て、皮膚粉末サンプルを得た。皮膚粉末サンプル30mgに9mLの0.5M酢酸を加え、4℃で16時間振盪抽出後、30,000G、4℃で30分遠心分離し、上清と沈殿に分けた。
上清には、終濃度が100mg/mLとなるようにペプシン1:10,000(生化学用、和光純薬)を加え、22℃で16時間反応させ、非コラーゲン性のタンパクを分解した。その後、最終モル濃度が1.8Mとなるように塩化ナトリウムを加え、再度30,000G、10分、4℃で遠心を行ない、得られた沈殿物を0.1M酢酸で溶解したものを酸可溶性画分とした。
一方、0.5M 酢酸抽出後の沈殿物に対しては、表4の組成で調製したコラゲナーゼバッファーで一度沈殿を洗った後、表5の組成で200unit/mLの濃度に調製したコラゲナーゼ酵素液を3mL加え、37℃で22時間反応させた。その後、30,000G、30分、4℃で遠心を行ない、上清をコラゲナーゼ可溶性画分とした。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
ヒドロキシプロリン(Hyp)の定量
非特許文献8及び非特許文献9に準じてヒドロキシプロリンの定量を行なった。
酸可溶性画分あるいはコラゲナーゼ可溶性画分20μLに、6N 塩酸を500μL加えて混合後、130℃で3時間、酸加水分解を行なった。冷却後、pH指示薬として、0.04%メチルレッド溶液を2μL加え、2.5N 水酸化ナトリウムを1150μL加えた。溶液の色がピンクと薄黄色の中間色の色となるよう、塩酸及び水酸化ナトリウムの希釈水溶液を適宜加えpH=6〜7に調整した。
その後、表6、表7に記載の組成で調製した50mMクロラミンT溶液を1mL混合し、常温で20分反応後、18.9%過塩素酸水溶液を1mL混合し、常温で5分反応させた。その後、表8に記載の組成で調製した20% p -ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液を1mL混合し、60℃の湯浴中で20分反応させた。その後、流水で5分冷却し、常温で1時間以上静置した後、分光光度計(U-3900H、日立)にて557nmの吸光度を測定し、検量線からヒドロキシプロリン量を求めた。こうして得られたヒドロキシプロリン量に換算係数7.25を乗じた値をコラーゲン換算値とした。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
【表8】
【0044】
蛍光強度の測定及び糖化コラーゲン量の評価
非特許文献6に準じて蛍光強度測定を行なった。酸可溶性画分及びコラゲナーゼ可溶性画分について、適宜希釈し、蛍光分光光度計(RF-5000、島津製作所)により励起波長Ex:370nm、測定波長Em:440nmで蛍光強度を測定した。各画分のヒドロキシプロリン量から算出したコラーゲン量あたりの蛍光強度を算出し、糖化コラーゲン量の指標とした。
【0045】
ヒドロキシプロリン量の測定結果
3ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量を
図7に、6ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量を
図8に、それぞれ示す。
3ヶ月試験グループについては、酸可溶性画分、コラゲナーゼ可溶性画分ともに各群間で統計学的な有意差及び有意傾向を認めなかったが、6ヶ月試験グループについては、いずれの画分においてもヒドロキシプロリン量が増加しており、特にコラゲナーゼ可溶性画分においては、キシリトール混餌群全てが対照群と比べて統計学的に有意に上昇していた。コラーゲンに特徴的なアミノ酸であるヒドロキシプロリンの量が増加していることから、キシリトール混餌群ではコラーゲンの合成量が増加したと考えられる。
【0046】
糖化コラーゲンレベルの測定結果
3ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量から算出したコラーゲン量あたりの蛍光強度(糖化コラーゲンレベル)を
図9に、6ヶ月試験グループにおけるヒドロキシプロリン量から算出したコラーゲン量あたりの蛍光強度(糖化コラーゲンレベル)を
図10に、それぞれ示す。
いずれの画分においても糖化コラーゲンレベル減少が見られ、特に3ヶ月試験グループについては、コラゲナーゼ可溶性画分においてキシリトール2.5%混餌群が対照群と比して有意に低値であった。また、6ヶ月試験グループについては、酸可溶性及びコラゲナーゼ可溶性の両画分で、すべてのキシリトール混餌群(1.5%、2.5%、5.0%)の値が対照群と比して有意に低値であった。
【0047】
以上のように、キシリトール投与群では、キシリトールを投与しなかった対照群と比較して、セラミドの合成促進効果が見られた。また、キシリトール以外の成分を経口摂取した結果を開示する先行文献である特許文献1〜4、非特許文献2〜5と比較しても、同程度の合成効果を有することが認められた。
また、キリリトール投与群では、対照群と比較して、コラーゲンの合成促進効果及びコラーゲンの糖化を抑制する効果が見られた。
【0048】
[実施例4]
以下の処方に従って錠剤を調製した。
キシリトール 40%
結晶セルロース 25%
乳糖 25%
トウモロコシデンプン 8%
ステアリン酸マグネシウム 2%
上記成分を均一に混合し、その混合末を打錠にて錠剤とした。
【0049】
[実施例5]
以下の処方に従って錠剤を調製した。
キシリトール 80%
乳糖 8%
ヒドロキシプロピルセルロース 10%
ステアリン酸マグネシウム 2%
上記成分を均一に混合し、その混合末を打錠にて錠剤とした。
【0050】
[実施例6]
以下の処方に従ってシロップ剤を調製した。
単シロップ 30%
キシリトール 20%
精製水 50%
【0051】
[実施例7]
以下の処方に従ってカプセル剤を調製した。
キシリトール 99%
ステアリン酸マグネシウム 1%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【0052】
[実施例8]
以下の処方に従ってカプセル剤を調製した。
キシリトール 90%
乳糖 8%
ステアリン酸マグネシウム 2%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【0053】
[実施例9]
以下の処方に従って散剤を調製した。
キシリトール 65%
トウモロコシデンプン 9.9%
ヒドロキシプロピルセルロース 25%
l−メントール 0.1%
【0054】
[実施例10]
以下の処方に従ってドリンク剤を調製した。
キシリトール 5%
酸味料 1.2%
果糖ブドウ糖液糖 6%
香料 0.1%
精製水 87.7%
【0055】
[実施例11]
以下の処方に従ってドリンク剤を調製した。
キシリトール 1%
酸味料 1.4%
果糖ブドウ糖液糖 8%
香料 0.1%
精製水 89.5%
【0056】
[実施例12]
以下の処方に従ってドリンク剤を調製した。
キシリトール 0.1%
酸味料 1.2%
砂糖 2%
果糖ブドウ糖液糖 8%
香料 0.2%
精製水 88.5%
【0057】
この出願は2009年11月18日に出願された日本国特許出願第2009−262951号からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。