特許第5921795号(P5921795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5921795-酸素還元触媒 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5921795
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】酸素還元触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/06 20060101AFI20160510BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20160510BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20160510BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20160510BHJP
【FI】
   B01J23/06 M
   B01J37/02 301C
   H01M4/90 B
   H01M8/10
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-502542(P2016-502542)
(86)(22)【出願日】2014年10月7日
(86)【国際出願番号】JP2014076812
【審査請求日】2016年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-108472(P2014-108472)
(32)【優先日】2014年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】手塚 記庸
(72)【発明者】
【氏名】今井 卓也
(72)【発明者】
【氏名】吉村 真幸
(72)【発明者】
【氏名】大森 将弘
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/021688(WO,A1)
【文献】 特開2013−127869(JP,A)
【文献】 特開2012−200643(JP,A)
【文献】 B.Ruiz CAMACHO, et al.,Enhancing oxygen reduction reaction activity and stability of platinum via oxide-carbon composites,Catalysis Today,2013年 3月15日,Vol.202,Page. 36-43
【文献】 Minghui YANG, et al.,Mesoporous titanium nitride supported Pt nanoparticles as high performance catalysts for methanol electrooxidation,Physical Chemistry Chemical Physics,2013年 1月28日,Vol.15 No.4,Page. 1088-1092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
H01M 4/90
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン粒子、炭素材料及び触媒成分を含み、
前記二酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が酸化亜鉛で被覆され、
前記二酸化チタン粒子及び前記炭素材料はそれぞれ前記触媒成分を担持している酸素還元触媒。
【請求項2】
前記二酸化チタン粒子が前記酸素還元触媒中に散在している構造を有する請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
さらに、前記二酸化チタン粒子の表面の一部が水酸化亜鉛で被覆されている請求項1または2に記載の酸素還元触媒。
【請求項4】
前記炭素材料が、カーボンブラック、グラファイト化カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、多孔性カーボン及び活性炭から選ばれる少なくとも一つの炭素材料である請求項1〜3のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項5】
前記触媒成分が、貴金属または貴金属合金である請求項1〜4のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項6】
前記貴金属及び貴金属合金中の貴金属が、Pt、Pd、Ir、Rh及びRuから選ばれる少なくとも一種を含む請求項5に記載の酸素還元触媒。
【請求項7】
前記貴金属合金が、貴金属と、Fe、Ni、Co、Ti、Cu及びMnから選ばれる少なくとも一種の金属とを含む請求項5または6に記載の酸素還元触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の酸素還元触媒を含むインク。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の酸素還元触媒を含む触媒層。
【請求項10】
請求項9に記載の触媒層を備える電極。
【請求項11】
請求項9に記載の触媒層を、カソード触媒層および/またはアノード触媒層として有し、さらに、前記カソード触媒層とアノード触媒層との間に高分子電解質膜を有する膜電極接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の膜電極接合体を備える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元触媒、該触媒を含むインク、該触媒を含む触媒層、該触媒層を備える電極、該触媒層を有する膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸性酸化物を含む電極触媒であって、該触媒成分に還元処理を行うこと、及び、該酸性酸化物を添加することにより得られる、耐久性を向上させた電極触媒が開示されている。酸性酸化物としては、二酸化チタン等が記載されている。また、酸性酸化物の代わりに塩基性酸化物を用いた場合は、白金との所望の相互作用が得られないため、触媒成分の長期耐久性は得られないとされている。
【0003】
特許文献2には、触媒担持導電性担体と、高分子電解質とからなる触媒層を有する燃料電池用カソードであって、前記触媒担持導電性担体には酸素吸放出体と接触した触媒がさらに担持又は混合されていることを特徴とする、発電性能が改良された燃料電池用カソードが開示されている。酸素吸放出体としては、酸素を可逆的に吸・放出する機能を有する材料であり、塩基性酸化物を含む複合セラミックス材料が例示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献2で開示される技術で高い活性を持つ酸素還元触媒が得られるとしても、特許文献1によると、塩基性酸化物を用いた場合、触媒成分の長期耐久性は得られないとされ、高い活性を持ち、さらに長期耐久性にも優れた酸素還元触媒は得られていなかった。
【0005】
また、酸化亜鉛は、固体高分子形燃料電池(以下「PEFC」)の作動環境である強酸性下では溶解してしまうので、通常、PEFCのセル内に用いられる材料ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−33701号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/071777号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い触媒活性を有し、かつ、耐久性にも優れる酸素還元触媒、該触媒を含むインク、該触媒を含む触媒層、該触媒層を備える電極、該触媒層を有する膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を含む。
(1)二酸化チタン粒子、炭素材料及び触媒成分を含み、
前記二酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が酸化亜鉛で被覆され、
前記二酸化チタン粒子及び前記炭素材料はそれぞれ前記触媒成分を担持している酸素還元触媒。
(2)前記二酸化チタン粒子が前記酸素還元触媒中に散在している構造を有する前項(1)に記載の酸素還元触媒。
(3)さらに、前記二酸化チタン粒子の表面の一部が水酸化亜鉛で被覆されている前項(1)または(2)に記載の酸素還元触媒。
(4)前記炭素材料が、カーボンブラック、グラファイト化カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、多孔性カーボン及び活性炭から選ばれる少なくとも一つの炭素材料である前項(1)〜(3)のいずれかに記載の酸素還元触媒。
(5)前記触媒成分が、貴金属または貴金属合金である前項(1)〜(4)のいずれかに記載の酸素還元触媒。
(6)前記貴金属及び貴金属合金中の貴金属が、Pt、Pd、Ir、Rh及びRuから選ばれる少なくとも一種を含む前項(5)に記載の酸素還元触媒。
(7)前記貴金属合金が、貴金属と、Fe、Ni、Co、Ti、Cu及びMnから選ばれる少なくとも一種の金属とを含む前項(5)または(6)に記載の酸素還元触媒。
(8)前項(1)〜(7)のいずれかに記載の酸素還元触媒を含むインク。
(9)前項(1)〜(7)のいずれかに記載の酸素還元触媒を含む触媒層。
(10)前項(9)に記載の触媒層を備える電極。
(11)前項(9)に記載の触媒層を、カソード触媒層および/またはアノード触媒層として有し、さらに、前記カソード触媒層とアノード触媒層との間に高分子電解質膜を有する膜電極接合体。
(12)前項(11)に記載の膜電極接合体を備える燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸素還元触媒は高い触媒活性を有し、かつ、耐久性にも優れる。本発明の酸素還元触媒を使用することにより、高出力で、かつ、耐久性にも優れた燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で得られた触媒(1)の透過型電子顕微鏡像である。
図2図2(a)は、実施例1で得られた触媒(1)の走査透過電子顕微鏡像である。図2(b)は、図2(a)と同一視野にて得られた、炭素の元素マッピング図である。図2(c)は、図2(a)と同一視野にて得られた、白金の元素マッピング図である。図2(d)は、図2(a)と同一視野にて得られた、チタンの元素マッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酸素還元触媒は、二酸化チタン粒子、炭素材料及び触媒成分を含み、前記二酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が酸化亜鉛で被覆され、前記二酸化チタン粒子及び前記炭素材料はそれぞれ前記触媒成分を担持し、好ましくは前記二酸化チタン粒子が前記酸素還元触媒中に散在している構造を有する。前記構造の例を図1に示す。
【0012】
前記二酸化チタン粒子は、その表面の全面が酸化亜鉛で被覆されていてもよいが、前記表面の一部が酸化亜鉛で被覆されていると、高い触媒活性と高い耐久性の両方が得やすくなるので好ましい。また、前記二酸化チタン粒子の表面の一部がさらに水酸化亜鉛で被覆されていると、さらに高い触媒活性が得られることがある。前記二酸化チタン粒子は、触媒成分を担持する際に触媒成分の凝集や粗大化を防ぐために、その比表面積が適切な大きさのものであることが好ましい。その比表面積の範囲としては、通常、5〜300m2/gが好ましく、100〜300m2/gがより好ましい。
【0013】
前記炭素材料は、カーボンブラック、グラファイト化カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、多孔性カーボン及び活性炭から選ばれる少なくとも一つの炭素材料であることが好ましく、カーボンブラック、グラファイト化カーボンブラック、カーボンナノファイバーであることがより好ましく、カーボンブラックであることがさらに好ましい。これら炭素材料を用いることにより、酸素還元触媒に十分な導電性が付与され、二酸化チタン粒子及び炭素材料にそれぞれ担持された触媒成分を有効に利用することができる。炭素材料の比表面積は、600〜1500m2/gであることが、触媒成分を担持する際に触媒成分の凝集や粗大化を防ぐ上で好ましい。
【0014】
酸素還元触媒における、酸化亜鉛で表面の少なくとも一部が被覆された二酸化チタン粒子と炭素材料との比率は質量比で2:8〜8:2の範囲であると、高い触媒活性及び優れた耐久性を有する酸素還元触媒が得られる点で好ましい。
【0015】
前記触媒成分は、貴金属または貴金属合金であることが好ましく、貴金属合金であることがより好ましい。さらに、前記貴金属及び貴金属合金中の貴金属は、Pt、Pd、Ir、Rh、Ruから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Pt、Pd、Ruを含むことがより好ましく、Ptを含むことがさらに好ましい。また、前記貴金属合金が、貴金属と、Fe、Ni、Co、Ti、CuおよびMnから選ばれる少なくとも1種の金属とを含むことが好ましく、貴金属とNi、Co、Mnから選ばれる少なくとも1種の金属とを含むことがより好ましく、貴金属とCoとを含むことがさらに好ましい。触媒成分としてこれらを用いることにより、良好な酸素還元触媒活性が得やすくなる。
【0016】
触媒成分の粒径は、2〜10nmが好ましい。この程度の粒径であれば、触媒活性が良好となり、PEFC作動環境下での安定性も保たれやすいので好ましい。
【0017】
また、酸素還元触媒全体に含まれる触媒成分の割合は10〜60質量%が好適である。この範囲であれば触媒成分の凝集や粗大化を抑えることが容易になり好ましい。
【0018】
本発明の酸素還元触媒は、例えば、酸化亜鉛で表面の少なくとも一部が被覆された二酸化チタン粒子の粉末と炭素材料とを均一に混合し、この混合物に、常法により白金等の金属を担持することにより製造することができる。
【0019】
前記二酸化チタン粒子と前記炭素材料との混合方法は、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェトミルなどの、方法を用いることができる。
【0020】
前記二酸化チタン粒子と炭素材料の混合比は、質量比で2:8〜8:2の範囲が高い触媒活性を有し、かつ、耐久性にも優れる酸素還元触媒を得る上で好ましい。
【0021】
また、酸化亜鉛により表面の全面が被覆された二酸化チタン粒子や表面の一部のみが被覆された二酸化チタン粒子など、被覆の程度の異なる種々の二酸化チタン粒子は市販品として入手することができる。酸化亜鉛で表面の少なくとも一部が被覆された二酸化チタンは、化粧品原料等として多種市販されており所望するものが選択しやすい。あるいは、含浸法等の液相法あるいは蒸着法等の気相法など、従来既知の方法により、表面が酸化亜鉛により任意の程度で被覆された二酸化チタン粒子を得ることもできる。
【0022】
さらに、酸化亜鉛で表面の一部が被覆されていて、水酸化亜鉛でも表面の一部が被覆された二酸化チタン粒子も、同様に市販品等から選択することができる。特に、液相法で得られた、酸化亜鉛で表面の少なくとも一部が被覆された二酸化チタン粒子は、酸化亜鉛中に水酸化亜鉛を含みやすいので、液相法で得られた酸化亜鉛で表面の少なくとも一部が被覆された二酸化チタン粒子の中から酸化亜鉛と水酸化亜鉛とで表面が被覆された二酸化チタン粒子を選択しやすい。
【0023】
本発明の酸素還元触媒を、アノード及び/またはカソード電極作成のために、後述する実施例や常法等によりインクに加工することができる。得られた本発明の酸素還元触媒を含むインクを電極基体に塗布等することにより、前記電極基体表面に本発明の酸素還元触媒を含む触媒層を形成し、本発明の酸素還元触媒層を備える電極を得ることができる。
【0024】
本発明の酸素還元触媒を含む触媒層を、カソード触媒層および/またはアノード触媒層として用い、前記カソード触媒層とアノード触媒層との間に高分子電解質膜を配置し膜電極接合体を形成することができる。さらに、前記膜電極接合体を備えた高出力で耐久性の高い燃料電池を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。また、実施例および比較例における、金属元素定量分析、X線光電子分光、透過型電子顕微鏡観察および走査透過電子顕微鏡観察は、以下の方法により行った。
1.金属元素定量分析
試料約40mgをビーカーに秤量し、王水、次いで硫酸を加えて加熱分解した。この加熱分解物を超純水で定容後、適宜希釈し、ICP発光分析装置(SII社製VISTA−PRO)を用いて金属元素を定量した。
2.X線光電子分光
試料のX線光電子スペクトルを、アルバックファイ社製QuanteraIIを用いて測定した。X線源にはAl―Kα線(1486.6eV、25W)を用い、光電子取出し角は45度に設定した。また、結合エネルギーの補正は炭素1sスペクトルの炭素−炭素結合ピークを284.6eVとすることで行った。
3.透過型電子顕微鏡観察
透過型電子顕微鏡(TEM)観察を、日立製作所製H9500(加速電圧300kV)を用いて行った。観察試料は、試料粉体をエタノール中に超音波分散させて得られた分散液を、TEM観察用マイクログリッド上に滴下することで作製した。
4.走査透過電子顕微鏡観察およびエネルギー分散型蛍光X線分析
走査透過電子顕微鏡(STEM)観察および、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)を、日立製作所製HD2300(加速電圧200kV)を用いて行った。観察試料は、試料粉体をエタノール中に超音波分散させて得られた分散液を、TEM観察用マイクログリッド上に滴下することで作製した。
実施例1:
<二酸化チタン粒子と炭素材料との混合>
酸化亜鉛で表面が被覆された二酸化チタン粒子ST―31(石原産業株式会社製、前記表面を被覆する酸化亜鉛中に水酸化亜鉛を含む)0.3g、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン株式会社製)0.7g、2−プロパノール20mLを容器にとり、ボールミルにて700rpmで10分間混合した。この後、混合物を濾別、次いで乾燥し、酸化亜鉛で表面が被覆された二酸化チタン粒子と炭素材料との混合物(以下「混合物(1)」とも記す。)を得た。
<触媒成分の担持>
純水1Lに、混合物(1)0.20gを添加し、超音波洗浄機で30分間振とうさせた。得られた懸濁液を、液温80℃に維持し、30分間攪拌した。ここに、塩化白金酸六水和物0.517g(白金0.195g相当)と、酢酸コバルト(II)四水和物0.083g(コバルト0.020g相当)とを含む水溶液40mLを、1時間かけて滴下した。この際、1.0mol/L水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下することで、懸濁液のpHを約7.0に保持した。この後、懸濁液の温度を80℃に維持したまま、3時間撹拌した。次に、0.583gの水素化ホウ素ナトリウムを含む水溶液60mlを、上記懸濁液に30分かけて滴下した。その後、懸濁液の液温を、80℃に維持したまま、1時間撹拌した。反応終了後、上記懸濁液を室温まで冷却し、ろ過により黒色粉末を濾別し、乾燥した。
<触媒成分の合金化>
前記黒色粉末を石英管状炉に入れ、水素を4体積%含む水素と窒素の混合ガス雰囲気下で、昇温速度10℃/minで700℃まで加熱し、700℃で30分間熱処理することにより、白金とコバルトとを合金化させ、触媒成分として白金とコバルトとの合金を含む酸素還元触媒(以下「触媒(1)」とも記す。)を得た。触媒(1)は、47質量%の白金を含み、白金とコバルトとのモル比(Pt:Co)は3:1であった。
比較例1:
酸化亜鉛で表面が被覆された二酸化チタン粒子の代わりに、被覆されていない二酸化チタン粒子ST―01(石原産業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして酸素還元触媒(以下「触媒(2)」とも記す。)を得た。触媒(2)は、47質量%の白金を含み、白金とコバルトとのモル比(Pt:Co)は3:1であった。
評価:
<金属元素定量分析結果>
触媒(1)および触媒(2)について、金属元素定量分析より得られたZn元素とTi元素の含有量(質量%)および原子数比(Zn/Ti)を表1に示す。触媒(1)は1.3質量%のZn元素を含み、Zn元素とTi元素の原子数比は0.14であった。一方、触媒(2)からはZn元素は検出されなかった。
【0026】
【表1】
<X線光電子分光測定結果>
触媒(1)および触媒(2)について、X線光電子分光より得られた、試料表面近傍におけるZn元素とTi元素の含有量(原子数%)および原子数比(Zn/Ti)を表2に示す。触媒(1)は0.7原子数%のZn元素を含み、Zn元素とTi元素の原子数比は1.4であった。一方、触媒(2)からはZn元素は検出されなかった。
【0027】
次に、触媒(1)について得られた、Zn2pのX線光電子スペクトルより検出されたZn元素成分は、酸化亜鉛(ZnO)と水酸化亜鉛(Zn(OH)2)からなり、その存在比は0.76:0.24であった。
【0028】
以上の結果から、触媒(1)において、Zn元素のTi元素に対する存在比が、試料表面近傍では試料全体に比べて約10倍高く、さらにZn元素は主に酸化亜鉛として存在することがわかる。これにより、酸化亜鉛が二酸化チタン粒子表面の少なくとも一部を被覆した状態で存在することが確認できる。
【0029】
【表2】
<透過型電子顕微鏡観察結果>
触媒(1)について得られた、透過型電子顕微鏡像を図1に示す。図中、番号1は二酸化チタン粒子、番号2は炭素材料、番号3は触媒成分をそれぞれ示す。触媒(1)において二酸化チタン粒子および炭素材料が、白金とコバルトの合金粒子からなる触媒成分をそれぞれ担持していることが図1から確認できる。
<走査透過電子顕微鏡観察結果>
触媒(1)について得られた、走査透過電子顕微鏡像を図2(a)に示す。また、図2(a)と同一視野にて得られた、炭素、白金、チタンの元素マッピングを図2(b)〜(d)にそれぞれ示す。炭素、白金、チタンの幾何的分布が概ね一致していることから、二酸化チタン粒子は酸素還元触媒中に散在していることが確認できる。
<固体高分子型燃料電池単セルの製造とその発電特性の評価>
(1)カソード用インクの調製
触媒(1)35mg、プロトン伝導性材料(ナフィオン(NAFION)(登録商標))15.8mgを含有する水溶液(5%ナフィオン水溶液、和光純薬製))0.315g、純水2.0mL、2−プロパノール2.0mLをバイアルに秤量し、氷水中で30分間超音波洗照射することにより、カソード用インク(1)を調製した。
【0030】
また、触媒(2)を用い、上記と同様にしてカソード用インク(2)を調製した。
(2)燃料電池用触媒層を有するカソード電極の作製
ガス拡散層(カーボンペーパー(東レ製TGP−H−060))を、アセトンに30秒間浸漬して脱脂した後、乾燥させ、次いで10%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水溶液に30秒間浸漬した。
【0031】
浸漬物を、室温乾燥後、350℃で1時間加熱することにより、カーボンペーパー内部にPTFEが分散し撥水性を有するガス拡散層(以下「GDL」とも記す。)を得た。
【0032】
次に、5cm×5cmの大きさとした前記GDLの表面に、自動スプレー塗布装置(サンエイテック社製)により、80℃で、カソード用インク(1)を塗布し、触媒(1)の総量が単位面積あたり0.425mg/cm2であるカソード触媒層をGDL表面に有する電極(以下「カソード(1)」とも記す。)を作製した。
【0033】
また、カソード用インク(2)を用い、上記と同様にしてカソード(2)を調製した。なお、カソード(1)及びカソード(2)における単位面積当たりの貴金属量は、いずれも0.2mg/cm2とした。
(3)アノード用インクの調製
純水50mlに、白金担持カーボン触媒(田中貴金属工業製TEC10E70TPM)0.6gと、プロトン伝導性材料0.25gを含有する水溶液(5%ナフィオン水溶液、和光純薬製)5gとを添加し、超音波分散機で1時間混合することにより、アノード用インク(1)を調製した。
(4)燃料電池用触媒層を有するアノード電極の作製
5cm×5cmの大きさとした前記GDLの表面に、自動スプレー塗布装置(サンエイテック社製)により、80℃で、上記アノード用インク(1)を塗布し、白金担持カーボン触媒の総量が単位面積あたり1.00mg/cm2であるアノード触媒層をGDL表面に有する電極(以下「アノード(1)」とも記す。)を作製した。
(5)燃料電池用膜電極接合体の作製
電解質膜としてナフィオン膜(NR−212、DuPont社製)を、カソードとしてカソード(1)を、アノードとしてアノード(1)をそれぞれ準備した。
【0034】
カソード(1)とアノード(1)との間に前記電解質膜を配置した燃料電池用膜電極接合体(以下「MEA」とも記す。)を以下のように作製した。
【0035】
前記電解質膜をカソード(1)およびアノード(1)で挟み、カソード触媒層(1)およびアノード触媒層(1)が前記電解質膜に密着するように、ホットプレス機を用いて、温度140℃、圧力3MPaで7分間かけてこれらを熱圧着し、MEA(1)を作製した。
【0036】
また、カソード(1)の代わりにカソード(2)を用い、上記と同様にしてMEA(2)を作製した。
(6)単セルの作製
MEA(1)を、2つのシール材(ガスケット)、2つのガス流路付きセパレーター、2つの集電板および2つのラバーヒータで順次挟んで周囲をボルトで固定し、これらを所定の面圧(4N)になるように前記ボルトを締め付けて、固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(1)」とも記す。)を作製した(セル面積:25cm2)。
【0037】
また、MEA(1)の代わりにMEA(2)を用い、上記と同様にして、単セル(2)を作製した。なお、上記各単セルにおける発電面積は、いずれも25cm2とした。
(7)電流―電圧特性評価と電位サイクル耐久性試験
単セル(1)を80℃、アノード加湿器を80℃、カソード加湿器を80℃に温度調節した。この後、アノード側に燃料として水素を、カソード側に空気をそれぞれ供給し、単セル(1)の電流―電圧(I−V)特性を評価した。
【0038】
この後、電位サイクル耐久性試験として、単セル(1)を80℃、アノード加湿器を80℃、カソード加湿器を80℃に温度調製した状態で、アノード側に水素を、カソード側に窒素をそれぞれ供給しながら、1.0V−1.5V、および、1.5V−1.0Vからなる三角波電位サイクルを4000回印加した。
【0039】
上記三角波電位サイクルを4000回印加した後に、上述した条件にてI−V測定を行った。
【0040】
また、単セル(2)を用いて、上記と同様に電流―電圧(I−V)特性の評価および電位サイクル耐久性試験を行った。
<固体高分子型燃料電池単セルの発電性能及び耐久性評価の結果>
前記電位サイクル耐久性試験において、電位サイクルを4000回印加した後のI−V測定から得られた0.2A/cm2における電圧値の、電位サイクルを印加する前のI−V測定から得られた0.2A/cm2における電圧値(以下「初期電圧」とも記す。)に対する比(%)を電圧保持率と定義する。
【0041】
ここで、燃料電池のI−V特性において、ある一定の電流密度における電圧値は、当該燃料電池の発電性能の指標となる。すなわち、前記初期電圧が高いほど、燃料電池の初期発電性能が高いことを意味し、ひいては酸素還元触媒の触媒活性が高いことを示す。また、前記電圧保持率が高いほど、燃料電池の発電性能、ひいては酸素還元触媒の触媒活性が劣化しにくく、すなわち耐久性が高いことを示す。
【0042】
上記電位サイクル耐久性試験より得られた、0.2A/cm2における初期電圧および、電位サイクルを4000回印加した後の0.2A/cm2における電圧保持率を表3に示す。
【0043】
上記実施例1に係る単セル(1)では、初期電圧が0.789Vと、上記比較例1に係る単セル(2)の初期電圧0.776に比べ13mV高かった。これは、単セル(2)に比べ単セル(1)の発電性能が高く、すなわち触媒(2)に比べ触媒(1)の酸素還元触媒活性が高いことを示している。
【0044】
さらに、上記実施例1に係る単セル(1)では、電位サイクルを4000回印加した後の電圧保持率が21%であり、上記比較例1に係る単セル(2)の電圧保持率7%に比べ14%も高かった。これは、単セル(2)に比べ単セル(1)の耐久性が高く、すなわち触媒(2)に比べ触媒(1)の耐久性が高いことを示している。
【0045】
以上の結果より、上記実施例にて調製した酸素還元触媒は、上記比較例にて調製した酸素還元触媒に比べ、高い触媒活性を有し、なおかつ耐久性にも優れる。
【0046】
【表3】
【要約】
本発明は、高い触媒活性を有し、かつ、耐久性にも優れる酸素還元触媒、該触媒を含むインク、該触媒を含む触媒層、該触媒層を備える電極、該触媒層を有する膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池を提供することを課題とする。本発明は、二酸化チタン粒子、炭素材料及び触媒成分を含み、前記二酸化チタン粒子の表面が酸化亜鉛で被覆され、前記二酸化チタン粒子及び前記炭素材料はそれぞれ前記触媒成分を担持している酸素還元触媒である。
図1
図2