特許第5921810号(P5921810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921810
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】帽子及び帽子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A42B 1/00 20060101AFI20160510BHJP
   A42C 1/00 20060101ALI20160510BHJP
   A42C 1/04 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   A42B1/00 M
   A42B1/00 J
   A42B1/00 Z
   A42C1/00 C
   A42C1/00 H
   A42C1/00 P
   A42C1/04
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-25274(P2011-25274)
(22)【出願日】2011年2月8日
(65)【公開番号】特開2012-162828(P2012-162828A)
(43)【公開日】2012年8月30日
【審査請求日】2013年12月6日
【審判番号】不服2015-11543(P2015-11543/J1)
【審判請求日】2015年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】597093115
【氏名又は名称】株式会社シオジリ製帽
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 英一
【合議体】
【審判長】 栗林 敏彦
【審判官】 井上 茂夫
【審判官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/157590(WO,A1)
【文献】 実開平6−51237(JP,U)
【文献】 米国特許第4873726(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0295223(US,A1)
【文献】 特開昭56−112504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 1/00 - 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のクラウン形成用生地を継ぎ合わせることにより、着用者の頭部を覆うクラウンを半球状に形成した帽子の製造方法であって、
クラウン
着用者の頭部左前面及び頭部右前面を連続して覆う二等辺三角形状の一のクラウン形成用生地と、
着用者の頭部左前面及び頭部右前面以外を覆う複数枚の二等辺三角形状の他のクラウン形成用生地と
で構成
少なくとも前記一のクラウン形成用生地
その片面にホットメルト接着剤を塗布された接着芯地と、
接着芯地におけるホットメルト接着剤が塗布された面に重ねられたクラウン表地と
で構成
球面状に湾曲した形態を有する一対の圧縮板の間に、前記他のクラウン形成用生地に対して継ぎ合せる前の前記一のクラウン形成用生地における互いに接着する前の接着芯地とクラウン表地とを重ねた状態で挟み込み、その状態で加熱圧縮処理を施すことにより、前記一のクラウン形成用生地における接着芯地とクラウン表地とを接着しながら前記一のクラウン形成用生地を球面状に湾曲して形成したことを特徴とする帽子の製造方法
【請求項2】
複数枚のクラウン形成用生地を継ぎ合わせることにより、着用者の頭部を覆うクラウンを半球状に形成した帽子の製造方法であって、
クラウン
着用者の頭部前面から頭頂部を経て頭部後面までを連続して覆う帯状の一のクラウン形成用生地と、
着用者の頭部左側面及び頭部右側面をそれぞれ覆う一対の半円状の他のクラウン形成用生地と
で構成
少なくとも前記一のクラウン形成用生地
その片面にホットメルト接着剤を塗布された接着芯地と、
接着芯地におけるホットメルト接着剤が塗布された面に重ねられたクラウン表地と
で構成
球面状に湾曲した形態を有する一対の圧縮板の間に、前記他のクラウン形成用生地に対して継ぎ合せる前の前記一のクラウン形成用生地における互いに接着する前の接着芯地とクラウン表地とを重ねた状態で挟み込み、その状態で加熱圧縮処理を施すことにより、前記一のクラウン形成用生地における接着芯地とクラウン表地とを接着しながら前記一のクラウン形成用生地を球面状に湾曲して形成したことを特徴とする帽子の製造方法
【請求項3】
前記一のクラウン形成用生地におけるクラウン表地を、合成繊維からなる編地と、前記一のクラウン形成用生地における接着芯地を、熱可塑性繊維からなる不織布とた請求項1又は2記載の帽子の製造方法
【請求項4】
前記一のクラウン形成用生地における着用者の頭部前面を覆う部分の中央部にエンブレムを貼る請求項1〜3いずれか記載の帽子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半球状のクラウンを備えた帽子と、この帽子の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着用者の頭部を覆うクラウンが半球状に形成された帽子が広く着用されている。この種の帽子は、一般的に、二等辺三角形状に裁断された平坦な複数枚のクラウン形成用生地を縫製することにより、半球状のクラウンを得たものが殆どとなっている。これら二等辺三角形状のクラウン形成用生地は、蓮華の花弁に形が似ていることから、「れんげ」と呼ばれることがある。この種の帽子は、複数枚の平坦なクラウン形成用生地から半球状のクラウンを得ることができるものの、クラウン形成用生地の枚数が多くなりがちで、裁断コストや縫製コストが高くなるという欠点があった。また、クラウン形成用生地の継目が多く表れ、帽子の見た目が悪くなるという欠点もあった。さらに、その継目によって帽子のデザインが制限されるという欠点もあった。加えて、クラウンにおける着用者の頭部前面を覆う部分の裏側に前立などの保形材を取り付けるなどしなければ、クラウンの保形性を高めることができないという欠点もあった。
【0003】
このような実状に鑑みてか、これまでには、加熱圧縮処理を施すことによりクラウンを半球状に形成した帽子も提案されている(例えば、特許文献1〜7を参照)。しかし、これらはいずれも、クラウン全体が1枚の円形状のクラウン形成用生地によって形成されたものとなっている。したがって、半球状に形成された後のクラウン形成用生地の厚さが場所によって大きく変わるおそれがある。場合によっては、クラウンに皺などが形成されるおそれもある。というのも、広い面積の平坦なクラウン形成用生地に加熱圧縮処理を施して半球状に形成しようとすると、クラウン形成用生地には、余った部分や無理に引っ張られる部分などがどうしてもできてしまうからである。クラウン形成用生地が複層構造を為す場合には、その傾向はより顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−112504号公報
【特許文献2】特開平07−070808号公報
【特許文献3】特開平08−302517号公報
【特許文献4】実登第3068282号公報
【特許文献5】特開2007−138373号公報
【特許文献6】特開2009−024314号公報
【特許文献7】特開2009−102751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、クラウン形成用生地の枚数を削減し、その裁断コストや縫製コストを削減することができるにもかかわらず、クラウン全体を綺麗な半球状とすることが容易な帽子を提供するものである。また、クラウンの保形性に優れた帽子を提供することも本発明の目的である。さらに、この帽子の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、複数枚のクラウン形成用生地を継ぎ合わせることにより、着用者の頭部を覆うクラウンを半球状に形成した帽子であって、前記複数枚のクラウン形成用生地のうち、少なくとも1枚のクラウン形成用生地が、その片面にホットメルト接着剤を塗布された接着芯地と、接着芯地におけるホットメルト接着剤が塗布された面に重ねられたクラウン表地とで構成され、このクラウン形成用生地における接着芯地とクラウン表地とを重ねた状態で加熱圧縮処理を施すことにより、該クラウン形成用生地を球面状に湾曲して形成したことを特徴とする帽子によって解決される。このように、加熱圧縮処理を施すことによって、少なくとも1枚のクラウン形成用生地を球面状に形成することにより、該クラウン形成用生地を広くしても、クラウンを綺麗な半球状に形成することが可能になる。したがって、クラウン形成用生地の枚数を削減することも可能になる。加えて、クラウン形成用生地自体に保形性を付与することができるので、前立などの保形材を別途設けることなく、クラウンの保形性を高めることも可能になる。
【0007】
本発明の帽子において、それぞれのクラウン形成用生地をどのような形態とするかや、前記複数枚のクラウン形成用生地のうちどのクラウン形成用生地に上述したような加熱圧縮処理を施すかは特に限定されない。例えば、半球状のクラウンを、着用者の頭部左前面及び頭部右前面を連続して覆う二等辺三角形状の一のクラウン形成用生地(一の「れんげ」)と、着用者の頭部左前面及び頭部右前面以外を覆う複数枚の二等辺三角形状の他のクラウン形成用生地(他の「れんげ」)とで構成し、少なくとも前記一のクラウン形成用生地を、その片面にホットメルト接着剤を塗布された接着芯地と、接着芯地におけるホットメルト接着剤が塗布された面に重ねられたクラウン表地とで構成し、このクラウン形成用生地における接着芯地とクラウン表地とを重ねた状態で加熱圧縮処理を施すことにより、該クラウン形成用生地を球面状に湾曲して形成することができる(図1を参照。)。
【0008】
また、半球状のクラウンを、着用者の頭部前面から頭頂部を経て頭部後面までを連続して覆う帯状の一のクラウン形成用生地と、着用者の頭部左側面及び頭部右側面をそれぞれ覆う一対の半円状の他のクラウン形成用生地とで構成し、少なくとも前記一のクラウン形成用生地を、その片面にホットメルト接着剤を塗布された接着芯地と、接着芯地におけるホットメルト接着剤が塗布された面に重ねられたクラウン表地とで構成し、このクラウン形成用生地における接着芯地とクラウン表地とを重ねた状態で加熱圧縮処理を施すことにより、該クラウン形成用生地を球面状に湾曲して形成することもできる(図7を参照。)。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によって、クラウン形成用生地の枚数を削減し、その裁断コストや縫製コストを削減することができるにもかかわらず、クラウン全体を綺麗な半球状とすることが容易な帽子を提供することが可能になる。また、クラウンの保形性に優れた帽子を提供することも可能になる。さらに、この帽子の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施態様の帽子の外観を示した斜視図である。
図2】第一実施態様の帽子を分解した状態を示した斜視図である。
図3】第一実施態様の帽子におけるクラウン形成用生地をその表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。
図4】第一実施態様の帽子における接着芯地にクラウン表地を重ねている様子を、クラウン表地の表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。
図5】第一実施態様の帽子における接着芯地にクラウン表地を重ねた様子を、クラウン表地の表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。
図6】第一実施態様の帽子におけるクラウン形成用生地に加熱圧縮処理を施している様子を、クラウン形成用生地の表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。
図7】第二実施態様の帽子の外観を示した斜視図である。
図8】第二実施態様の帽子を分解した状態を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の帽子用庇の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。以下においては、第一実施態様の帽子と第二実施態様の帽子を例に挙げて本発明の帽子を説明するが、本発明の帽子の技術的範囲はこれらの実施態様に限定されず、その趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。まず、第一実施態様の帽子について説明する。図1は、第一実施態様の帽子の外観を示した斜視図である。図2は、第一実施態様の帽子を分解した状態を示した斜視図である。第一実施態様の帽子は、図2に示すように、着用者の頭部を覆うためのクラウン10と、クラウン10の下縁から前方に突き出た庇20と、クラウン10の裏側の継目に配される継目テープ30と、クラウン10の裏側の下縁近傍に配されるビン皮40とで構成されている。
【0012】
クラウン10は、図1,2に示すように、複数枚のクラウン形成用生地11〜15によって構成している。すなわち、着用者の頭部前面(頭部左前面及び頭部右前面)を覆う頭部前面被覆用のクラウン形成用生地11と、着用者の頭部左側面を覆う頭部左側面被覆用のクラウン形成用生地12と、着用者の頭部右側面を覆う頭部右側面被覆用のクラウン形成用生地13と、着用者の頭部左後面を覆う頭部左後面被覆用のクラウン形成用生地14と、着用者の頭部右後面を覆う頭部右後面被覆用のクラウン形成用生地15とで構成している。これらのクラウン形成用生地11〜15は、いずれも略二等辺三角形状に裁断された生地(いわゆる「れんげ」)となっており、継目テープ30を介してそれぞれの等辺部を継ぎ合わすことにより、半球状に形成されている。
【0013】
従来の一般的な帽子では、頭部前面被覆用のクラウン形成用生地11が、着用者の頭部左前面を覆う生地(頭部左前面被覆用のクラウン形成用生地)と着用者の頭部右前面を覆う生地(頭部右前面被覆用のクラウン形成用生地)とに分割されており、合計6枚のクラウン形成用生地によってクラウン10が半球状に形成されているのが通常である。したがって、従来の一般的な帽子では、クラウン10の前面真ん中に上下方向の継目(頭部左前面被覆用のクラウン形成用生地と頭部右前面被覆用のクラウン形成用生地との継目)が表れ、その分、見た目が悪くなっている。また、クラウン10の前面真ん中にエンブレムなどを貼る場合には、その継目の盛り上がりなどによってエンブレムを綺麗に貼ることが困難となっている。
【0014】
これに対し、第一実施態様の帽子では、図1,2に示すように、着用者の頭部左前面と頭部右前面とが連続した1枚の頭部前面被覆用のクラウン形成用生地11によって覆われており、クラウン10を形成するクラウン形成用生地の枚数は、従来よりも1枚少ない5枚となっている。このため、クラウン10の前面真ん中に継目が存在せず、帽子の見た目が良くなっている。また、クラウン10の前面真ん中にエンブレムなどを綺麗に貼ることもできるようになっている。さらに、裁断コストや縫製コストを削減することも可能となっている。このように、第一実施態様の帽子は、見た目やコストなどにおいて従来の一般的な帽子よりも優れている。しかし、第一実施態様の帽子では、頭部前面被覆用のクラウン形成用生地11が従来の帽子におけるクラウン形成用生地の2枚分の広さを有しており、従来のような方法では、クラウン形成用生地11を皺なく綺麗に球面状に湾曲させることが難しい。
【0015】
この点、第一実施態様の帽子では、頭部前面被覆用のクラウン形成用生地11を以下のような複層構造とし、これに以下のような加熱圧縮処理を施すことにより、クラウン形成用生地11を球面状に湾曲して形成するようにしている。最初に、クラウン形成用生地11の層構成について説明する。図3は、第一実施態様の帽子におけるクラウン形成用生地11をその表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。第一実施態様の帽子において、クラウン形成用生地11は、図3に示すように、クラウン表地11aを接着芯地11bに貼り合せることによって形成している。クラウン形成用生地11は、クラウン表地11aあるいは接着芯地11bにより、球面状に湾曲した形態が保たれるようになっている。クラウン形成用生地11は、以下の手順により、球面状に湾曲して形成される。
【0016】
まず、図4図5に示すように、平坦な接着芯地11bの上に、平坦なクラウン表地11aを重ねる。図4は、第一実施態様の帽子における接着芯地11bにクラウン表地11aを重ねている様子を、クラウン表地11aの表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。図5は、第一実施態様の帽子における接着芯地11bにクラウン表地11aを重ねた様子を、クラウン表地11aの表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。接着芯地11bは、その上面(クラウン形成後に外側を向く方の外面)に接着剤11cが塗布されている。クラウン表地11aは、接着芯地11bにおける接着剤11cが塗布された側に重ねる。
【0017】
続いて、図6に示すように、加熱圧縮装置50における第一圧縮板51と第二圧縮板52との間にクラウン形成用生地11を挟みこみ、クラウン形成用生地11に加熱圧縮処理を施す。図6は、第一実施態様の帽子におけるクラウン形成用生地11に加熱圧縮処理を施している様子を、クラウン形成用生地11の表面に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。第一圧縮板51及び第二圧縮板52は、球面状に湾曲した形態となっており、クラウン形成用生地11を球面状に湾曲した状態で圧縮することが可能な構造のものとなっている。第一圧縮板51及び第二圧縮板52には、それぞれ蒸気孔51a,52aが設けられており、これらの蒸気孔51a,52aを通じてクラウン形成用生地11に蒸気(加熱気体)を吹き付けることができるようになっている。
【0018】
この蒸気により、クラウン形成用生地11(クラウン表地11a又は接着芯地11b(接着剤11cを含む)に含まれる熱可塑性素材を融点以上、あるいは軟化点以上まで加熱することができるようになっている。前記熱可塑性素材は、溶解又は軟化した後、再び冷却することにより、第一圧縮板51と第二圧縮板52とに沿った形状(球面状に湾曲した形状)で硬化してその形状で保たれるようになる。クラウン形成用生地11に吹き付ける蒸気は、図示省略の蒸気発生手段により発生される。第一圧縮板51と第二圧縮板52とによってクラウン形成用生地11に加える具体的な圧力は、特に限定されないが、通常、クラウン形成用生地11の皺を伸ばすことができ、かつクラウン形成用生地11が潰れない程度の圧力とされる。
【0019】
ところで、加熱圧縮処理が施されることにより球面状に湾曲されるクラウン形成用生地11は、それを形成するクラウン表地11aと接着芯地11b(接着剤11cを含む)のうち、少なくともいずれか一方が熱可塑性素材を含む熱可塑性シートであればよい。ここでいう「熱可塑性シート」は、その全体が熱可塑性素材のみによって形成されたシートだけでなく、例えば、熱可塑性繊維とそれ以外の繊維などを混在させた織布又は不織布など、熱可塑性素材をその一部に含むのであれば、その全体が熱可塑性素材で形成されていなくてもよいものとする。要するに、クラウン表地11aと接着芯地11bのうち少なくとも一方が、加熱により軟化又は溶融してその自然形状(外力が加わっていない状態での形状)を変え、冷却することによって、その形状を維持したまま硬化する素材であればよい。
【0020】
第一実施態様の帽子において、クラウン表地11aには、ポリエステル繊維の編地(ポリエステルニット)を使用しており、接着芯地11bには、熱可塑性繊維からなる不織布を使用している。クラウン表地11aは、この他、ナイロン繊維の編地(ナイロンメッシュ)など、合成繊維を使用したものだけでなく、綿などの天然繊維を使用した生地を使用することもできる。接着芯地11bを形成する熱可塑性繊維に用いる熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂などが例示される。接着芯地11bは、ある程度の厚く形成すると好ましい。これにより、接着芯地11bの保形性を向上することが可能になる。
【0021】
接着剤11cは、感圧型接着剤を用いてもよいが、クラウン形成用生地11に加熱圧縮処理を施すことを考慮して、ホットメルト型接着剤を使用すると好ましい。これにより、クラウン形成用生地11の保形性をさらに向上させることが可能になる。第一実施態様の帽子において、接着剤11cは、接着芯地11bの片面に点状に塗布された状態となっている(いわゆる「ドット糊」)。このように、接着剤11cを点状に塗布することにより、加熱圧縮処理を経た後のクラウン表地11aに皺が形成されにくくすることが可能になる。
【0022】
クラウン形成用生地11に加熱圧縮処理を施す時間(加熱圧縮時間)は、クラウン形成用生地11に使用する素材や、それに吹き付ける蒸気の温度などによっても異なり、特に限定されない。しかし、加熱圧縮時間が短すぎると、クラウン形成用生地11が十分に変形する前にその形態が保持されるおそれがある。一方、加熱圧縮時間を長くしすぎると、生産性が低下するだけでクラウン形成用生地11の形態保持性の向上にはあまり寄与しない。それどころか、クラウン形成用生地11が熱によってダメージを受けるおそれもある。
【0023】
また、クラウン形成用生地11を加熱する蒸気の温度(加熱温度)は、クラウン形成用生地11に使用する素材や、上述した加熱圧縮時間などによっても異なり、特に限定されない。しかし、加熱温度が低すぎると、クラウン形成用生地11が球面状に変形しないおそれがある。一方、加熱温度が高すぎると、クラウン形成用生地11が熱によってダメージを受けるおそれがある。
【0024】
続いて、第二実施態様の帽子について説明する。図7は、第二実施態様の帽子の外観を示した斜視図である。図8は、第二実施態様の帽子を分解した状態を示した斜視図である。第二実施態様の帽子は、図8に示すように、着用者の頭部を覆うためのクラウン10と、クラウン10の下縁から前方に突き出た庇20と、クラウン10の裏側の継目に配される継目テープ30と、クラウン10の裏側の下縁近傍に配されるビン皮40とで構成されている。
【0025】
クラウン10は、図7,8に示すように、複数枚のクラウン形成用生地16〜17によって構成している。すなわち、着用者の頭部中央面(頭部前面中央部から頭部頂点を経て頭部後面中央部に至るまでの帯状の領域)を覆う頭部中央面被覆用のクラウン形成用生地16と、着用者の頭部左側面を覆う頭部左側面被覆用のクラウン形成用生地17と、着用者の頭部右側面を覆う頭部右側面被覆用のクラウン形成用生地18とで構成している。クラウン形成用生地16は、帯状(細長い矩形状)に裁断された生地となっており、クラウン形成用生地17,18は、半円状に裁断された生地となっている。クラウン10をこのような構造とすることによっても、クラウン10の前面中央部に継目が表れないようにすることができる。
【0026】
しかし、第二実施態様の帽子では、頭部中央面被覆用のクラウン形成用生地16、頭部左側面被覆用のクラウン形成用生地17、及び頭部右側面被覆用のクラウン形成用生地18が、従来の帽子におけるクラウン形成用生地よりも広い面積を有しており、これらのクラウン形成用生地16〜18を皺なく綺麗に球面状に湾曲させることが難しい。この点、第二実施態様の帽子でも、第一実施態様の帽子におけるクラウン形成用生地11と同様、クラウン形成用生地16〜18を複層構造とし、これに加熱圧縮処理を施すことにより、クラウン形成用生地16〜18を球面状に湾曲して形成するようにしている。このため、第二実施態様の帽子は、クラウン形成用生地16〜18が皺のない綺麗な状態となっており、また、クラウン形成用生地16〜18の保形性にも優れた者となっている。
【0027】
以上で述べた本発明の帽子は、半球状のクラウンを有する帽子であれば、その種類を特に限定されない。各種帽子として採用することができる。なかでも、洗濯などによる型崩れが問題となりやすい、運動帽や通学帽や作業帽として好適に採用できる。
【符号の説明】
【0028】
10 クラウン
11 頭部前面被覆用のクラウン形成用生地
11a クラウン表地
11b 接着芯地
11c 接着剤
12 頭部左側面被覆用のクラウン形成用生地
13 頭部右側面被覆用のクラウン形成用生地
14 頭部左後面被覆用のクラウン形成用生地
15 頭部右後面被覆用のクラウン形成用生地
16 頭部中央面被覆用のクラウン形成用生地
17 頭部左側面被覆用のクラウン形成用生地
18 頭部右側面被覆用のクラウン形成用生地
20 庇
30 継目テープ
40 ビン皮
50 加熱圧縮装置
51 第一プレス板
51a 蒸気孔
52 第二プレス板
52a 蒸気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8