(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した脱脂工程において、バインダの揮発に伴い抵抗体の中間成形体及び基体の中間成形体の体積収縮が起こる。一般に、抵抗体と基体とは、原料割合や原料粒径の違いからバインダ量が互いに異なるため、脱脂時の体積収縮率が互いに異なる。この体積収縮率の相違に起因して、抵抗体(抵抗体の中間成形体)と基体(基体の中間成形体)との接合面に応力が発生し、かかる応力によって抵抗体や基体にクラック(割れ)が発生するおそれがあった。このようにしてクラックが発生すると、ヒータの強度や耐久性の低下を招く。
【0005】
本発明は、ヒータ成形時におけるクラックの発生を抑制可能なグロープラグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[形態1]絶縁性セラミックからなる基体と前記基体内部に配置された抵抗体とを有するヒータを備えたグロープラグの製造方法であって、(a)バインダ及び導電性材料を含む第1のセラミック系成形材料を用いて、加熱工程を経て前記抵抗体となる第1の中間成形体を成形する工程と、(b)成形された前記第1の中間成形体を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上曝す工程と、(c)バインダを含み、前記第1のセラミック系成形材料に比べて同一条件で加熱された場合の収縮率が小さい第2のセラミック系成形材料を用いて、加熱工程を経て前記基体となる第2の中間成形体を成形する工程と、(d)前記工程(b)により得られた前記第1の中間成形体を内包する前記第2の中間成形体を加熱することにより、前記第1の中間成形体及び前記第2の中間成形体からバインダを除去する工程と、を備え、前記抵抗体は、発熱部と、前記発熱部と接して配置され、前記発熱部に比べて比抵抗が小さいリード部と、を有し、前記工程(a)は、(a1)前記第1のセラミック系成形材料を加熱して、前記工程(d)を経て前記発熱部となる前記発熱部の中間成形体を成形する工程と、(a2)成形された前記発熱部の中間成形体を冷却する工程と、(a3)前記第1のセラミック系成形材料を、加熱しながら冷却後の前記発熱部の中間成形体と接するように配置することにより、前記工程(d)を経て前記リード部となる前記リード部の中間成形体を成形する工程と、を有する、グロープラグの製造方法。
【0007】
[適用例1]絶縁性セラミックからなる基体と前記基体内部に配置された抵抗体とを有するヒータを備えたグロープラグの製造方法であって、(a)バインダ及び導電性材料を含む第1のセラミック系成形材料を用いて、加熱工程を経て前記抵抗体となる第1の中間成形体を成形する工程と、(b)成形された前記第1の中間成形体を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上曝す、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上曝す工程と、(c)バインダを含み、前記第1の
セラミック系成形材料に比べて同一条件で加熱された場合の収縮率が小さい第2のセラミック系成形材料を用いて、加熱工程を経て前記基体となる第2の中間成形体を成形する工程と、(d)前記工程(b)により得られた前記第1の中間成形体を内包する前記第2の中間成形体を加熱することにより、前記第1の中間成形体及び前記第2の中間成形体からバインダを除去する工程と、を備える、グロープラグの製造方法。
【0008】
適用例1のグロープラグの製造方法によると、加熱により第1の中間成形体及び第2の中間成形体からバインダを除去する工程(工程(d))よりも前に、第1の中間成形体を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上曝す、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上曝すので、工程(d)において第1の中間成形体及び第2の中間成形体からバインダを除去する際に、クラックの発生を抑制することができる。このように、比較的高い湿度環境に比較的長い期間曝すことによりクラックの発生を抑制することができるのは、以下の理由によるものと推定される。比較的高い湿度環境に第1の中間成形体が曝されることにより、第1の中間成形体内のバインダに含まれる親水基が空気中の水分と結合し、セラミックとバインダ(バインダに含まれる有機成分)との結合が離れるため、加熱時のバインダの移動に伴うセラミックの移動が抑制される。したがって、加熱時の第1の中間成形体の変形(収縮)が抑制されるので、第1の中間成形体の変形に伴い発生する応力が小さく抑えられ、クラックの発生が抑制されるものと推定される。特に、第2の中間成形体は、第1の中間成形体に比べて、同一条件で加熱された場合の収縮率が小さいため、第1の中間成形体を内包する第2の中間成形体を加熱した場合に、第1の中間成形体と第2の中間成形体との収縮率の相違に起因して応力が発生するおそれがある。しかしながら、上述したように、第1の中間成形体の変形(収縮)が抑制されているので、上述した応力は小さく抑えられ、かかる応力に起因するクラックの発生は抑制される。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載のグロープラグの製造方法において、前記工程(a)は、前記第1の
セラミック系成形材料を用いて射出成形することにより、前記第1の中間成形体を成形する工程であり、前記工程(c)は、前記第2の
セラミック系成形材料を加圧成形することにより、前記第2の中間成形体を成形する工程である、グロープラグの製造方法。
【0010】
このような構成により、成形方法の相違に起因して、第1の中間成形体は、第2の中間成形体に比べて収縮率が高い。すなわち、射出成形により得られる第1の中間成形体は、内部の空隙が比較的少ないため、バインダが除去される際にバインダと共にセラミックが移動し易くなるので収縮され易い。これに対して、加圧成形により得られる第2の中間成形体は、内部の空隙が比較的多いため、バインダが除去される際に空隙がクッションとなってセラミックの移動が抑制されるので収縮され難い。このように、同一条件で加熱した場合に第1の中間成形体が第2の中間成形体に比べて収縮率が高い場合であっても、工程(b)を実行することにより、第1の中間成形体の収縮を抑制できるので、第1の中間成形体と第2の中間成形体との収縮率の差を低減させてクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載のグロープラグの製造方法において、前記抵抗体は、発熱部と、前記発熱部と接して配置され、前記発熱部に比べて比抵抗が小さいリード部と、を有し、前記工程(a)は、(a1)前記第1のセラミック系成形材料を加熱して、前記工程(d)を経て前記発熱部となる前記発熱部の中間成形体を成形する工程と、(a2)成形された前記発熱部の中間成形体を冷却する工程と、(a3)前記第1のセラミック系成形材料を、加熱しながら冷却後の前記発熱部の中間成形体と接するように配置することにより、前記工程(d)を経て前記リード部となる前記リード部の中間成形体を成形する工程と、を有し、前記工程(b)は、成形された前記第1の中間成形体を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に、20時間以上曝す工程である、グロープラグの製造方法。
【0012】
このような構成により、発熱部とリード部とは、主としてリード部の成形材料に含まれるバインダの接着力により互いに接合されるため、発熱部の成形材料に含まれるバインダの接着力及びリード部の成形材料に含まれるバインダの接着力により接合される場合に比べて、接合力が弱い。したがって、高湿度環境下において、バインダが加水分解されると接合部分における接着力が非常に弱くなり、発熱部とリード部との剥離が生じるおそれがある。しかしながら、工程(b)において、湿度環境を、高湿度範囲(例えば、60%RH以上)において比較的低い範囲である60%RH以上かつ80%未満とするので、発熱部とリード部との接合面における剥離の発生を抑制することができる。
【0013】
[適用例4]適用例3に記載のグロープラグの製造方法において、前記工程(a1)は、前記第1のセラミック系成形材料に含まれる第1の成形材料を加熱して、前記発熱部の中間成形体を成形する工程であり、前記工程(a3)は、前記第1のセラミック系成形材料に含まれ、前記第1の成形材料に比べて前記導電性材料の含有率が高い第2の成形材料を、加熱しながら冷却後の前記発熱部の中間成形体と接するように配置することにより、前記リード部の中間成形体を成形する工程である、グロープラグの製造方法。
【0014】
このような構成により、比抵抗の高い発熱部と比抵抗の低いリード部とを形成することができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、グロープラグ用ヒータの製造方法、グロープラグ、及びグロープラグ用ヒータなどの形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.グロープラグの構成:
図1は、本発明を適用して製造されたグロープラグの構成を示す説明図である。グロープラグ100は、主体金具2と、中軸3と、絶縁部材5と、絶縁部材6と、かしめ部材8と、外筒7と、ヒータ4と、電極リング18と、リード線19とを備えている。
【0018】
主体金具2は、軸孔9を備えた略円筒状の外観形状を有する金属製の部材である。主体金具2の外周面において、後端に工具係合部12が、中央部分に雄ねじ部11が、それぞれ形成されている。工具係合部12は、所定の工具と係合可能な外観形状(例えば、六角形状)を有しており、グロープラグ100が図示しないエンジンのシリンダヘッドに取り付けられる際に、所定の工具と係合される。雄ねじ部11は、グロープラグ100を図示しないエンジンのシリンダヘッドに取り付けるために用いられる。
【0019】
中軸3は、金属製の丸棒状の部材であり、後端側の一部が主体金具2の後端から突出するように、主体金具2の軸孔9に収容されている。中軸3は、他の部分に比べて径が小さい小径部17を先端に備えている。小径部17には、リード線19の一端が接合されており、かかるリード線19を介して電極リング18と電気的に接続されている。
【0020】
絶縁部材5は、中軸3を囲むリング状の外観を有し、主体金具2の軸孔9に配置されている。絶縁部材5は、主体金具2の中心軸及び中軸3の中心軸がいずれもグロープラグ100の中心軸C1と一致するように中軸3を固定すると共に、主体金具2と中軸3との間を電気的に絶縁する。絶縁部材6は、筒状部13及びフランジ部14を備えている。筒状部13は、絶縁部材5と同様に、リング状の外観形状を有し、軸孔9の後端において中軸3を囲んで配置されている。フランジ部14は、リング状の外観形状を有し、筒状部13よりも中軸3の後端側において中軸3を囲んで配置され、主体金具2の軸孔9の後端を封止している。
【0021】
かしめ部材8は、略円筒状の外観形状を有し、フランジ部14と接した状態で、主体金具2の後端から突出した中軸3を囲むようにかしめられている。このようにかしめ部材8がかしめられることにより、中軸3と主体金具2との間に嵌合された絶縁部材6が固定され、中軸3からの絶縁部材6の抜けが防止される。
【0022】
外筒7は、軸孔10を有する略筒状の外観形状の金属製部材であり、主体金具2の先端に接合されている。外筒7の後端側には、厚肉部15及び係合部16が形成されている。係合部16は、厚肉部15よりも後端側に配置され、外周径が厚肉部15の外周径よりも小さい。外筒7は、係合部16が主体金具2の軸孔9に嵌められ、厚肉部15が主体金具2の先端に接するように配置されている。外筒7は、ヒータ4の中心軸がグロープラグ100の中心軸C1と一致するように、軸孔10においてヒータ4を保持する。
【0023】
ヒータ4は、先端が曲面である円柱状の外観形状を有し、外筒7の軸孔10に嵌め込まれている。ヒータ4の先端側の一部は、外筒7から突出して図示しない燃焼室内に露出される。ヒータ4の後端側の一部は、外筒7から突出して主体金具2の軸孔9に収容されている。なお、ヒータ4の詳細構成については後述する。ヒータ4は、セラミック系成形材料により成形されている。電極リング18は、ヒータ4の後端に嵌め込まれている。電極リング18には、前述のリード線19の一端が接続されている。
【0024】
図2は、
図1に示すヒータを中心としたグロープラグの部分拡大断面図である。なお、
図2において
図1と同じ構成部には、同じ符号を付して説明を省略する。
図2に示すように、ヒータ4は、基体21及び抵抗体22を備えている。基体21は、絶縁性セラミックから成り、先端が曲面である略円柱状の外観形状を有し、内部に抵抗体22を収容している。基体21は、厚み方向に貫通する貫通孔を2つ備えており、これら2つの貫通孔において、抵抗体22が有する後述の2つの電極取出部を収容する。
【0025】
抵抗体22は、一対のリード部31と、発熱部32とを備えている。一対のリード部31は、それぞれ導電性セラミックからなる棒状の部材であり、基体21内部に配置(埋設)されている。一対のリード部31は、互いに長手方向が平行となるように、また、それぞれの中心軸がグロープラグ100の中心軸C1と平行となるように配置されている。一方のリード部31の後端寄りの位置には、電極取出部27が外周方向に突出して形成されている。電極取出部27は、基体21の貫通孔に収容され、電極リング18の内周面に接している。このようにして、電極リング18とリード部31とが電気的に接続される。また、他方のリード部31の後端寄りの位置にも、電極取出部28が外周方向に突出して形成されている。電極取出部28は、基体21の貫通孔に収容され、外筒7の内周面に接している。このようにして、外筒7とリード部31とが電気的に接続される。一対のリード部31は、いずれも発熱部32と接続され、発熱部32に電流を導く。したがって、電極リング18にリード線19を介して電気的に接続された中軸3と、外筒7に係合し電気的に接続された主体金具2とは、グロープラグ100において、発熱部32に通電するための電極(陽極及び陰極)として機能する。
【0026】
発熱部32は、U字状の外観形状を有し、各リード部31の一端同士を接続する。発熱部32は通電により発熱する部位である。湾曲部分に電流を集中させることによって高温を実現させるために、湾曲部分の径は、発熱部32における他の部分の径や、各リード部31の径よりも小さくなっている。
【0027】
本実施例では、各リード部31及び発熱部32を形成する導電性セラミックは、後述するように、窒化珪素を主成分とし、タングステンカーバイトを含有した導電性セラミック材料を焼成等して得られる。ここで、本実施例では、発熱部32がより多くの熱量を発するように、発熱部32の比抵抗を各リード部31の比抵抗よりも大きくしている。具体的には、発熱部32を形成する導電性セラミックにおけるタングステンカーバイトの含有率を、各リード部31を形成する導電性セラミックにおけるタングステンカーバイトの含有率よりも低くして、発熱部32と一対のリード部31とを、互いに組成の異なる異材料で形成するようにしている。後述するように、発熱部32及び一対のリード部31は、異材料を段階的に射出成形して接合形成されるため、発熱部32と一対のリード部31との間には、接合面30が形成されている。
【0028】
上記構成を有するグロープラグ100は、後述の製造方法により製造されることにより、ヒータ4成形時におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0029】
B.グロープラグの製造方法:
図3は、本発明の一実施形態としてのグロープラグの製造方法の手順を示すフローチャートである。先ず、基体21用の成形材料と、リード部31用の成形材料と、発熱部32用の成形材料の合計3種類の成形材料を、それぞれ作製する(ステップS205)。本実施態様において、基体21の成形材料は、セラミックを主成分とする粉状体であり、例えば、セラミック原料とバインダと水等を、ニーダー(混練機)を用いて混練し、その後スプレードライ法によって造粒して作製することができる。本実施形態では、セラミック原料として窒化珪素を用いるが、窒化珪素に代えて、又は、窒化珪素に加えて、サイアロンや窒化アルミニウムなどを用いることもできる。また、本実施形態では、バインダは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン等の可塑剤、ワックス及び分散剤等を、1種又は2種以上を混合して用いることができる。なお、バインダの含有量は、5〜50質量%、好ましくは10〜20質量%である。
【0030】
また、本実施形態において、リード部31の成形材料は、セラミック及びタングステンカーバイドを主成分とする粉状体であり、例えば、セラミック原料とタングステンカーバイトとバインダと水等を、ニーダーを用いて混練し、その後スプレードライ法によって造粒して作製することができる。セラミック原料及びバインダの種類については、上述した基体21用の成形材料と同様である。但し、リード部31の成形材料におけるバインダの含有量は、基体21の成形材料におけるバインダの含有量よりも高く、例えば、10〜70質量%である。したがって、リード部31の成形材料を用いて得られる後述の中間成形体は、基体21の成形材料を用いて得られる後述の中間成形体に比べて、単位質量あたりのバインダ量が多いため、同一条件で加熱した場合に、収縮率がより大きくなる。
【0031】
発熱部32の成形材料は、タングステンカーバイドの含有率がリード部31の成形材料におけるタングステンカーバイドの含有率に比べて低い点を除き、リード部31の成形材料と同様である。したがって、このようなタングステンカーバイトの含有率の相違に起因して、発熱部32の比抵抗は、リード部31の比抵抗に比べて
大きい。
【0032】
なお、上述した基体21の成形材料は、請求項における第2のセラミック系成形材料に相当する。また、リード部31の成形材料は、第1のセラミック系成形材料及び第2の成形材料に、発熱部32の成形材料は、第1のセラミック系成形材料及び第1の成形材料に、それぞれ相当する。
【0033】
ステップS205が完了すると、抵抗体22の中間成形体を作製する(ステップS210)。中間成形体とは、後述する脱脂や焼成等の加熱工程を経て抵抗体となる部材を意味する。このステップS210は、発熱部32の中間成形体の作製(ステップS211)と、リード部31の中間成形体の作製(ステップS212)とからなる。
【0034】
図4は、ステップS211において用いられる金型装置の断面図である。
図4(a)は、ステップS211において用いられる金型装置50の平面断面図であり、
図4(b)は、金型装置50の側面断面図である。抵抗体22の形状が比較的複雑であるため、本実施形態では、抵抗体22の中間体は射出成形により作製される。
【0035】
図4(b)に示すように、金型装置50は、ベース金型51と、第1の可動金型52とが積層された構成を有している。金型装置50は、キャビティ53と、キャビティ53に通じる射出孔54とを備えている。キャビティ53及び射出孔54は、ベース金型51と可動金型52との境界に形成されている。キャビティ53の形状は、発熱部32の中間成形体に対応する形状である。
【0036】
ステップS211では、ステップS205で作製された発熱部32の成形材料が、射出孔54からキャビティ53に射出されて、発熱部32の中間成形体72が成形される。このとき、発熱部32の成形材料は加熱されて(例えば、120℃程度)射出されるため、キャビティ53内部で溶融して流動し易くなっている。
【0037】
図5は、ステップS212において用いられる金型装置の断面図である。
図5(a)は、ステップS212において用いられる金型装置50aの平面断面図であり、
図5(b)は、金型装置50aの側面断面図である。ステップS212において用いられる金型装置50aは、上述の金型装置50における第1の可動金型52を、第2の可動金型56に取り替えた構成を有している。金型装置50aは、キャビティ57と、キャビティ57に通じる射出孔58とを備えている。キャビティ57及び射出孔58は、ベース金型51と第2の可動金型56との境界に形成されている。キャビティ57の形状は、一対のリード部31の中間成形体に対応する形状である。
【0038】
ステップS211の後、発熱部32の中間成形体72が冷却してからステップS212が行われる。ステップS212では、先ず、
図4に示す金型装置50において、第1の可動金型52を型開きした後、
図5(a),(b)に示すように、発熱部32の中間成形体をベース金型51内に残したまま、第1の可動金型52を第2の可動金型56に交換する。この金型の交換によって、キャビティ57及び射出孔58を有する金型装置50aが構成される。次に、射出孔58から、リード部31の成形材料がキャビティ57に射出されて、リード部31の中間成形体71が成形される。なお、ステップS212においてもリード部31の成形材料は加熱されて射出される。したがって、既に冷却された発熱部32の中間成形体72に対して溶融したリード部31の成形材料が接することにより、発熱部32の中間成形体72と、リード部31の中間成形体71とが接合する。なお、発熱部32の中間成形体72及びリード部31の中間成形体71は、加熱されて射出成形されるため、材料間の空隙は非常に少ない。
【0039】
図6は、ステップS210の結果、得られた抵抗体の中間成形体の一例を示す斜視図である。
図6に示すように、ステップS210により得られた抵抗体22の中間成形体70は、発熱部32の中間成形体72と、リード部31の中間成形体71とが接合されている。リード部31の中間成形体71は、一対の棒状の成形体のそれぞれの後端がサポート部79により接続されたU字形状を有している。このようにサポート部79を設けて抵抗体22の中間成形体70を全体として環状に成形することにより、リード部31の中間成形体71の重量による負荷が発熱部32の中間成形体72及びサポート部79で分散され、発熱部32の中間成形体72の割れの発生を抑制するようにしている。リード部31の中間成形体71には、外周方向に突出した2つの突出部77,78を備えている。これら2つの突出部77,78は、後述の加熱工程を経て、前述の2つの電極取出部27,28となる。なお、抵抗体22の中間成形体70は、請求項における第1の中間成形体に相当する。
【0040】
図3に示すように、ステップS210により抵抗体22の中間成形体70が得られると、中間成形体70を高湿度環境下で保管する(ステップS215)。本実施形態では、抵抗体22の中間成形体70を恒温器内に収容して比較的高い湿度環境下で所定期間だけ保管する。具体的には、本実施形態では、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上保管する、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上保管する。このように、本実施形態において、抵抗体22の中間成形体を高湿度環境下で所定期間以上の間保管することにより、後述の脱脂工程におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0041】
ステップS215の後、抵抗体22の中間成形体70を恒温器から取り出し、比較的高温環境下において乾燥させる(ステップS220)。例えば、本実施形態では、200℃の環境下に50分程度放置して乾燥させる。かかる乾燥工程は、中間成形体70の予備収縮を目的とする。なお、この乾燥工程(ステップS220)は省略することもできる。
【0042】
ステップS220の後、ヒータ4の中間成形体を作製する(ステップS225)。具体的には、ステップS205で作製した基体21の成形材料を、所定の金型装置に充填してプレス加工することにより、基体21の半分を構成する半割成形体を成形する。この半割成形体には、抵抗体22の中間成形体70を収容するための凹部が設けられている。次に、半割成形体の凹部に抵抗体22の中間成形体70を載置し、所定の金型(前述の半割成形体を成形するための金型とは異なる金型)により中間成形体70が収容された半割成形体を覆い、かかる金型に基体21の成形材料を充填してプレス加工することにより、抵抗体22の中間成形体70が基体21の中間成形体に内包された形状のヒータ4の中間成形体が成形される。このように、本実施形態では、基体21の中間成形体は、成形材料(粉状体)をプレス加工して成形されるので、材料(粒子)間の空隙は、成形材料が潰れる(変形する)際に小さくなるが、加工後も中間成形体に存在する。なお、ヒータ4の中間成形体に含まれる基体21の中間成形体は、請求項における第2の中間成形体に相当する。
【0043】
ステップS225の後、ヒータ4の中間成形体の脱脂が実行される(ステップS230)。ヒータ4の中間成形体(抵抗体22の中間成形体70及び基体21の中間成形体)には、バインダが含まれているので、加熱(仮焼成)することにより、かかるバインダを取り除く。具体的には、本実施形態では、800℃で60分加熱する。上述のように、本実施形態では、この脱脂工程の前に、高湿度環境下での保管工程を経ているため、脱脂工程においてクラックの発生が抑制される。
【0044】
ステップS230の後、本焼成が実行される(ステップS235)。具体的には、本実施形態では、1800℃で90分間、加圧及び加熱(いわゆるホットプレス)を行う。
【0045】
ステップS235の後、各種研磨加工及び切断加工が実行されて、ヒータ4の完成体が得られる(ステップS240)。この工程では、ステップS230により得られた焼成体の外周の研磨や、先端部の曲面加工や、電極取出部27,28を、基体21から露出させるための研磨等が行われた後、前述のサポート部79に対応する後端の部位を切断される。以上のステップS205〜S240により、ヒータ4が完成する。その後、
図1に示すグロープラグ100の各構成部が組みつけられ(ステップS245)、グロープラグ100が完成する。
【0046】
C.実施例(評価試験):
上述した本実施形態の製造方法によりグロープラグ100を複数製造し、得られたグロープラグ100において、ヒータにおけるクラックの発生率に関する評価試験を行った。本実施例では、ステップS215における湿度(相対湿度)及び保管期間を変えて複数のグロープラグ100を製造した。具体的には、ステップS215における湿度を60%RH以上かつ80%RH未満(60%RH,70%RH)とし、ステップS215における保管期間を20時間以上(20時間,50時間,100時間)としてグロープラグを製造した。また、ステップS215における湿度を80%RHとし、ステップS215における保管期間を5時間以上(5時間,10時間,20時間,50時間,100時間)としてグロープラグを製造した。また、ステップS215における湿度を90%RH及び100%RHとし、ステップS215における保管期間を20時間としてグロープラグを製造した。また、比較例として、ステップS215における湿度を40%RHとし、ステップS215における保管期間を50時間以上(50時間,100時間)としてグロープラグを製造した。また、比較例として、ステップS215における湿度を50%RHとし、ステップS215における保管期間を20時間以上(20時間,50時間,100時間)としてグロープラグを製造した。また、ステップS215における湿度を60%RH及び70%RHとし、ステップS215における保管期間を5時間以上(5時間,10時間)としてグロープラグを製造した。なお、本実施例及び比較例では、すべてのグロープラグの製造において、リード部31の成形材料におけるバインダの含有量及び発熱部32の成形材料におけるバインダの含有量は、いずれも50質量%であり、基体21の成形材料におけるバインダの含有量は、20質量%であった。
【0047】
このように、ステップS215における湿度及び保管期間が互いに異なる複数の製造条件で、それぞれ30本のグロープラグ100を製造した。そして、完成した各グロープラグ100に対してX線を透過させて画像を得て、かかる画像に基づいてクラックの発生の有無を確認した。また、前述の画像に基づいてリード部31と発熱部32との接合面30の剥がれの有無を確認した。
【0048】
図7は、本実施例及び比較例により製造されたグロープラグの評価試験結果を示す説明図である。
図7において、「湿度」は、ステップS215における湿度(相対湿度)を示す。また、「時間」は、ステップS215における保管期間を示す。「収縮率」は、ステップS215前後における抵抗体22の中間成形体70の収縮度合いを示す。具体的には、抵抗体22の中間成形体70の長手方向の長さを、ステップS215実行前(ステップS210実行後)と、ステップS215実行後(ステップS220実行前)とで計測し、得られた2つの長さの差分(収縮量)の、ステップS215実行前の長さに対する割合(%)を、収縮率として求めた。
図7において、「クラック発生率」は、各条件で製造した全本数(30本)のうちクラックの発生が確認された本数の割合(%)を、「剥がれ発生率」は、各条件で製造した全本数(30本)のうちリード部31と発熱部32との接合面30における剥がれの発生が確認された本数の割合(%)を、それぞれ示す。
【0049】
図7に示すように、ステップS215における湿度が60%RH以上かつ80%RH未満(60%RH又は70%RH)であり、かつ、ステップS215における保管期間が20時間以上の条件下で作製されたグロープラグ100と、ステップS215における湿度が80%RH以上かつ100%RH以下であり、かつ、ステップS215における保管期間が5時間以上の条件下で作製されたグロープラグ100とでは(すなわち、実施例の全てのグロープラグ100では)、クラックの発生率がいずれも0%であった。これに対して、ステップS215における湿度が60%RH未満(40%RH又は50%RH)の条件下で作製されたグロープラグ100では、保管期間の長短に関わらずクラックが発生していた。また、ステップS215における湿度が60%RH以上かつ80%RH未満(60%RH又は70%RH)、かつ、ステップS215における保管期間が20時間未満(5時間又は10時間)の条件下で作製されたグロープラグ100では、クラックが発生していた。
【0050】
ここで、抵抗体22の中間成形体70に含まれるバインダ量(単位質量あたりのバインダ量)は、基体21の中間成形体に含まれるバインダ量(単位質量あたりのバインダ量)に比べて多い。それゆえ、かかるバインダ量の相違に起因して、抵抗体22の中間成形体70と、基体21の中間成形体とは、脱脂の際の収縮率が異なる。また、基体21の中間成形体は、プレス成形されているために、材料間の空隙が比較的多く存在する。それゆえ、かかる空隙がクッションとなり、脱脂(ステップS230)時のバインダの移動に伴うセラミック等の材料の移動が抑制されるために収縮が抑制される。これに対して、抵抗体22の中間成形体70は、射出成形されているために、材料間の空隙はほとんど無い。それゆえ、脱脂(ステップS230)時のバインダの移動に伴ってセラミック等の材料が大きく移動し収縮され易い。このように、抵抗体22の中間成形体70と、基体21の中間成形体とでは、脱脂の際の収縮率が異なるため、かかる収縮率の相違に起因して応力が発生してクラックが生じるおそれがある。
【0051】
しかしながら、
図7の評価結果に示すように、ステップS215において、比較的高い湿度環境下に比較的長い期間保管した場合(60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上保管する場合、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上保管する場合)に、クラックの発生が抑制されたのは、以下の理由によるものと推定される。
図7に示すように、実施例の収縮率は、比較例の収縮率に比べて小さい。これは、比較的高い湿度環境に抵抗体22の中間成形体70が比較的長期間曝されることにより、中間成形体70内のバインダに含まれる親水基(エステル基や水酸基等)が空気中の水分と結合し、セラミックやタングステンカーバイト等の材料とバインダ(バインダに含まれる有機成分)との結合が離れるため、脱脂時のバインダの移動に伴うセラミック等の材料の移動が抑制されて、成形体の変形(収縮)が抑制されたものと推定される。それゆえ、成形体の変形に伴い発生する応力が小さく抑えられ、クラックの発生が抑制されたものと推定される。
【0052】
リード部31と発熱部32との接合面30における剥がれに関しては、
図7に示すように、湿度が80%RH未満(60%RH及び70%RH)では、接合面30における剥がれは発生しなかったが、湿度が80%RH以上(80%RH,90%RH,100%RH)では、接合面30における剥がれが発生した。このように、比較的高い湿度環境下において剥がれが生じるのは、以下の理由によるものと推定される。上述したように、接合面30は、冷却されて硬化した発熱部32の中間成形体72に対して、溶融したリード部31の成形材料が接して形成される。それゆえ、接合面30における接着力は、主として溶融したリード部31の成形材料に含まれるバインダの接着力に依存し、発熱部32の中間成形体72側に含まれるバインダの接着力にはほとんど依存しないために比較的弱い。このように、接合面30における接着力が比較的弱いため(換言すると、接合面30における接着に寄与するバインダ量が少ないため)、非常に高い湿度環境下においてバインダが加水分解されると、接合面30における接着力が非常に弱くなり、接合面30における剥がれが発生し易くなるものと推定される。なお、かかる理由に照らすと、相対湿度が90%RH及び100%RHの場合には、
図7に示す相対湿度が80%RHの例と同様に、ステップS215における保管期間が20時間よりも短い場合(例えば、5時間や10時間)にも、接合面30において剥がれが発生するものと考えられる。
【0053】
以上の評価結果から判断すると、抵抗体22の中間成形体70を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上曝す、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上曝すことが好ましい。このような工程を経ることにより、グロープラグ100におけるクラックの発生を抑制することができる。特に、抵抗体22の中間成形体70を、湿度60%RH以上かつ80%RH未満の環境に20時間以上曝すことが好ましい。このような工程を経ることにより、グロープラグ100におけるクラックの発生を抑制できることに加えて、リード部31及び発熱部32の接合面30における剥がれの発生を抑制することができる。
【0054】
D.変形例:
この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
D1.変形例1:
上述した実施形態及び実施例では、抵抗体22の中間成形体70は、2つの成形体(リード部31の中間成形体及び発熱部32の成形体)を結合した構成であったが、本発明はこれに限定されるものではない。単一の成形体により抵抗体22の中間成形体を構成することもできる。この構成においても、ステップS215において、抵抗体22の中間成形体を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上曝す、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上曝すことで、クラックの発生を抑制することができる。
【0056】
また、上述した実施形態及び実施例では、リード部31の成形材料と発熱部32の成形材料とは、互いに異なる組成の異材料であったが、これに代えて、同じ組成の同一材料とすることもできる。このような構成においても、上述した実施形態及び実施例と同様に、先に発熱部32の中間成形体を作製しておき、かかる中間成形体が冷却された後にリード部31の中間成形体を作製する場合において、脱脂の際(ステップS230)のクラックの発生を抑制できる。
【0057】
また、上述した実施形態及び実施例では、ステップS210において、先に発熱部32の中間成形体を作製し、その後にリード部31の中間成形体を作製していたが、これに代えて、先にリード部31の中間成形体を作製し、その後に発熱部32の中間成形体を作製することもできる。
【0058】
D2.変形例2:
上述した実施形態及び実施例では、抵抗体22の中間成形体70は、射出成形により得られていたが、射出成形に代えて、基体21の中間成形体と同様にプレス加工により得ることもできる。かかる構成においても、抵抗体22の中間成形体70に含まれるバインダ量と、基体21に含まれるバインダ量とが互いに相違していても、抵抗体22の中間成形体を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境に20時間以上曝す、又は、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境に5時間以上曝すことで、クラックの発生を抑制することができ、また、湿度60%RH以上かつ80%RH未満の環境に20時間以上曝すことにより、接合面30の剥がれを抑制することができる。
【0059】
D3.変形例3:
上述した実施例では、ステップS215における保管期間の上限は100時間であったが、100時間に代えて、100時間よりも長い任意の時間とすることもできる。すなわち、一般には、ステップS215における保管期間を、60%RH以上かつ80%RH未満の湿度環境であれば20時間以上、80%RH以上かつ100%RH以下の湿度環境であれば5時間以上とすることができる。
【0060】
D4.変形例4:
上述した実施形態及び実施例では、抵抗体22(リード部31及び発熱部32)の成形材料における導電性材料は、タングステンカーバイドであったが、これに代えて、珪化モリブデンや珪化タングステン等の、任意の導電性材料を用いることができる。