特許第5921989号(P5921989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000017
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000018
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000019
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000020
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000021
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000022
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000023
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000024
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000025
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000026
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000027
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000028
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000029
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000030
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000031
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000032
  • 特許5921989-製品の評価方法 図000033
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921989
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】製品の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20160510BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   G01M17/02 B
   G01N33/44
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-183761(P2012-183761)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-41069(P2014-41069A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(72)【発明者】
【氏名】小林 将俊
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−013640(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/100021(WO,A1)
【文献】 特開2012−046622(JP,A)
【文献】 特開2001−296235(JP,A)
【文献】 特開平09−133611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
G01N 17/00
G01N 33/44
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性を追跡することにより、1又は2以上の部品を有する製品が受けた履歴を評価するための方法であって、上記特性追跡のために採用され、この特性を表す要素のタイプを1からNの自然数nを用いて要素nで表し、上記劣化のための条件のタイプを1からMの自然数mを用いて条件mで表したとき、
履歴のある対象製品と、この履歴のない基準製品とを準備する工程、
上記対象製品の部品から実試料を得て、この実試料の特性を表す要素nの計測値nを得る工程、
上記対象製品の部品に対応する上記基準製品の部品から基準試料を得て、この基準試料の特性を表す要素nの計測値nを得る工程、
上記計測値nの上記計測値nに対する比率(n/n)で表される参照変化率Sを得る工程、
上記基準試料をなす材料と同等の材料から模擬試料を作製し、この模擬試料の特性を表す要素nの計測値nを得る工程、
上記模擬試料を条件mで人工的に劣化させて劣化試料を作製し、この劣化試料の特性を表す要素nの計測値namを得る工程、
上記計測値namの上記計測値nに対する比率(nam/n)で表される対照変化率R(m)を得る工程、
及び
上記参照変化率S及び上記対照変化率R(m)を用いて上記対象製品の状態と上記劣化試料の状態との類似性を判断する工程
を含んでいる、製品の評価方法。
【請求項2】
上記類似性を判断する工程において、
下記数式(1)で表される、根二乗平均誤差関数α(m)を用いて、この根二乗平均誤差関数α(m)が最小となる条件mが見極められ、
【数5】


この根二乗平均誤差関数α(m)のβ(m)が上記対照変化率R(m)及び上記参照変化率Sの乖離の程度を表す乖離関数である、請求項1に記載の製品の評価方法。
【請求項3】
上記乖離関数β(m)が、上記対照変化率R(m)と上記参照変化率Sとを用いて下記数式(2)で表され、
【数6】


この乖離関数β(m)のl(n)が要素nについて得られる対照変化率R(m)及び参照変化率Sの、冪数であり、
上記模擬試料を人工的に劣化させて得られる較正試料の特性を表す要素nの計測値がnとされ、この計測値nの、この模擬試料の特性を表す要素nの計測値nに対する比率により較正変化率が表されたとき、
上記較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも大きい場合において、この較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が1.2以上1.6以下の範囲にある要素n1を基準とし、この較正変化率が1.1に満たない要素n2について、この要素n2の較正変化率の冪乗が上記要素n1の較正変化率よりも大きくなるように、この要素n2についての冪数l(n2)が決められ、
上記較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも小さい場合において、この較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が0.2以上0.6以下の範囲にある要素n1を基準とし、この較正変化率が0.7よりも大きな要素n2について、この要素n2の較正変化率の冪乗が上記要素n1の較正変化率よりも小さくなるように、この要素n2についての冪数l(n2)が決められる、請求項2に記載の製品の評価方法。
【請求項4】
上記乖離関数β(m)が、上記対照変化率R(m)と上記参照変化率Sとを用いて下記数式(3)で表される請求項2に記載の製品の評価方法。
β(m)=R(m)−S (3)
【請求項5】
上記要素のタイプを表す自然数nの最大値Nが、3以上である請求項1から4のいずれかに記載の製品の評価方法。
【請求項6】
上記条件のタイプを表す自然数mの最大値Mが、3以上である請求項1から5のいずれかに記載の製品の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の評価方法に関する。詳細には、本発明は、模擬試料の促進劣化試験で得た結果に基づいて製品の状態を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品は通常、複数の部品を組み合わせて構成される。例えば、タイヤでは、トレッド、サイドウォール、ビード、カーカス等の部品を組み合わせて構成されている。使用により、これら部品の一部又は全部において、その状態が経時的に変化することがある。この変化は、製品の性能に影響する。製品の品質向上の観点から、この変化を予測するための方法について、様々な検討がなされている。この検討例が、特開2002−192924公報及び特開2004−047295公報に開示されている。
【0003】
使用履歴のある製品を市場から回収し、各部品の状態について調査を行うことがある。例えば、タイヤのトレッドを調査の対象とした場合、トレッドから採取した試料を用いて、硬さ、切断時伸び、切断時引張応力、所定伸び引張応力、複素弾性率等の物性が計測される。それぞれの物性について得た計測値に基づいて、トレッドの状態が評価される。
【0004】
製品の状態変化の原因を探求することは、この製品の品質向上に寄与しうる。この観点から、模擬試料を用いて試験を行い、製品において生じた変化の再現を試みることがある。この再現のための試験として通常、促進劣化試験が行われる。この促進劣化試験の例が、特開2001−296235公報及び特開平09−133611号公報に開示されている。促進劣化試験では、例えば、トレッドの状態変化を再現するには、このトレッドをなすゴム組成物と同等のゴム組成物から形成された模擬試料が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−192924公報
【特許文献2】特開2004−047295公報
【特許文献3】特開2001−296235公報
【特許文献4】特開平09−133611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図17には、促進劣化試験として熱劣化試験を採用した例が示されている。この熱劣化試験は、JIS−K 6257に準拠して実施されている。この試験では、劣化のための温度が80℃に設定され、硬さ、複素弾性率、切断時伸び、切断時引張応力、100%伸長時の引張応力(以下、100%モジュラスとも称される。)及び膨潤率の経時変化が追跡されている。この追跡の結果が、この図17にプロットされている。図17中、符号P1で示されたプロットは硬さの変化率を表している。符号P2で示されたプロットは、複素弾性率の変化率を表している。符号P3で示されたプロットは、切断時伸びの変化率を表している。符号P4で示されたプロットは、切断時引張応力の変化率を表している。符号P5で示されたプロットは、100%モジュラスの変化率を表している。そして、符号P6で示されたプロットは膨潤率の変化率を表している。なお、この熱劣化試験では、劣化条件として、「80℃4日」、「80℃7日」、「80℃14日」及び「80℃21日」の4タイプが採用されている。図中、「未処理」は劣化させる前の模擬試料の特性であることを表している。
【0007】
図17には、回収されたタイヤのトレッドの物性の、この回収タイヤに対応する新品タイヤのトレッドの物性に対する変化率(以下、製品変化率とも称される。)が点線で示されている。図17中、点線L1は硬さの製品変化率を表している。点線L2は、複素弾性率の製品変化率を表している。点線L3は、切断時伸びの製品変化率を表している。点線L4は、切断時引張応力の製品変化率を表している。点線L5は、100%モジュラスの製品変化率を表している。そして、点線L6は膨潤率の製品変化率を表している。
【0008】
図示されているように、模擬試料において確認された物性の変化率が製品変化率に到達するまでの時間は、選択する物性によって異なる。複数の物性を指標として、回収タイヤの劣化状態を総合的に再現するのは難しい。劣化試料の状態が回収タイヤの状態と一致する確率は低く、劣化試料の状態と回収タイヤの状態とが類似しているかどうかの判断も難しい。このように、様々な条件を想定し促進劣化試験を行っても、製品の状態を再現するための条件を見極めるのは難しいのが現状である。
【0009】
本発明の目的は、製品の状態変化を再現しうる条件を見極めるための評価方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る製品の評価方法は、模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性を追跡することにより、1又は2以上の部品を有する製品が受けた履歴を評価するための方法である。この評価方法は、上記特性追跡のために採用され、この特性を表す要素のタイプを1からNの自然数nを用いて要素nで表し、上記劣化のための条件のタイプを1からMの自然数mを用いて条件mで表したとき、
(1)履歴のある対象製品と、この履歴のない基準製品とを準備する工程、
(2)上記対象製品の部品から実試料を得て、この実試料の特性を表す要素nの計測値nを得る工程、
(3)上記対象製品の部品に対応する上記基準製品の部品から基準試料を得て、この基準試料の特性を表す要素nの計測値nを得る工程、
(4)上記計測値nの上記計測値nに対する比率(n/n)で表される参照変化率Sを得る工程、
(5)上記基準試料をなす材料と同等の材料から模擬試料を作製し、この模擬試料の特性を表す要素nの計測値nを得る工程、
(6)上記模擬試料を条件mで人工的に劣化させて劣化試料を作製し、この劣化試料の特性を表す要素nの計測値namを得る工程、
(7)上記計測値namの上記計測値nに対する比率(nam/n)で表される対照変化率R(m)を得る工程、
及び
(8)上記参照変化率S及び上記対照変化率R(m)を用いて上記対象製品の状態と上記劣化試料の状態との類似性を判断する工程
を含む。
【0011】
好ましくは、この製品の評価方法では、上記類似性を判断する工程において、
下記数式(1)で表される、根二乗平均誤差関数α(m)を用いて、この根二乗平均誤差関数α(m)が最小となる条件mが見極められる。
【数1】


ここで、上記根二乗平均誤差関数α(m)のβ(m)は、上記対照変化率R(m)及び上記参照変化率Sの乖離の程度を表す乖離関数である。
【0012】
好ましくは、この製品の評価方法では、上記乖離関数β(m)は、上記対照変化率R(m)と上記参照変化率Sとを用いて下記数式(2)で表される。
【数2】


この乖離関数β(m)のl(n)は、要素nについて得られる対照変化率R(m)及び参照変化率Sの、冪数である。そして、上記模擬試料を人工的に劣化させて得られる較正試料の特性を表す要素nの計測値がnとされ、この計測値nの、この模擬試料の特性を表す要素nの計測値nに対する比率により較正変化率が表されたとき、
上記較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも大きい場合において、この較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が1.2以上1.6以下の範囲にある要素n1を基準とし、この較正変化率が1.1に満たない要素n2について、この要素n2の較正変化率の冪乗が上記要素n1の較正変化率よりも大きくなるように、この要素n2についての冪数l(n2)は決められる。上記較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも小さい場合においては、この較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が0.2以上0.6以下の範囲にある要素n1を基準とし、この較正変化率が0.7よりも大きな要素n2について、この要素n2の較正変化率の冪乗が上記要素n1の較正変化率よりも小さくなるように、この要素n2についての冪数l(n2)は決められる。
【0013】
好ましくは、この製品の評価方法では、上記乖離関数β(m)は、上記対照変化率R(m)と上記参照変化率Sとを用いて下記数式(3)で表される。
β(m)=R(m)−S (3)
【0014】
好ましくは、この製品の評価方法では、上記要素のタイプを表す自然数nの最大値Nは3以上である。
【0015】
好ましくは、この製品の評価方法では、上記条件のタイプを表す自然数mの最大値Mは、3以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る評価方法によれば、製品の状態変化を再現しうる条件が効率良く見極められる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る評価方法が示されたフローチャートである。
図2図2は、図1の評価方法が実施された空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図3図3は、図2に示されたタイヤのトレッドの状態を表す参照レーダーチャートが示されたグラフである。
図4図4は、表3の条件3で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図5図5は、表3の条件5で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図6図6は、表3の条件7で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図7図7は、表3の条件9で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図8図8は、表3の条件11で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図9図9は、表3の条件13で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図10図10は、表3の条件15で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図11図11は、表3の条件18で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図12図12は、表3の条件20で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の状態を表す対照レーダーチャートが示されたグラフである。
図13図13は、表3の条件1から4で模擬試料を劣化させて得た較正試料の特性が示されたグラフである。
図14図14は、根二乗平均平均誤差関数α(m)の算出結果が示されたグラフである。
図15図15は、表3の条件1から4で模擬試料を劣化させて得た較正試料の他の特性が示されたグラフである。
図16図16は、本発明の他の実施形態に係る評価方法により得られた根二乗平均平均誤差関数α(m)の算出結果が示されたグラフである。
図17図17は、促進試験結果の一例が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0019】
図1のフローチャートに示されているのは、模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性を追跡することにより、1又は2以上の部品を有する製品が受けた履歴を評価するための方法である。
【0020】
この評価方法は、準備工程(STEP1)、実試料の特性を調査する工程(STEP2)、基準試料の特性を調査する工程(STEP3)、参照変化率Sを算出する工程(STEP4)、模擬試料の特性を調査する工程(STEP5)、劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)、対照変化率R(m)を算出する工程(STEP7)及び製品の状態と劣化試料の状態との類似性を判断する工程(STEP8)を含んでいる。
【0021】
本明細書では、準備工程(STEP1)から類似性の判断工程(STEP8)までが順に説明されるが、本発明はこの順序に制限されない。実試料の特性を調査する工程(STEP2)、基準試料の特性を調査する工程(STEP3)、模擬試料の特性を調査する工程(STEP5)及び劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)の後に、参照変化率Sを算出する工程(STEP4)及び対照変化率R(m)を算出する工程(STEP7)が実施されてもよい。模擬試料の特性を調査する工程(STEP5)及び劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)の後に、実試料の特性を調査する工程(STEP2)及び基準試料の特性を調査する工程(STEP3)が実施されてもよい。本発明における各工程の順序は、評価のための段取り等を考慮し適宜決められる。
【0022】
準備工程(STEP1)では、対象製品と、基準製品とが準備される。この評価方法では、製品が有する全ての部品又は一部の部品の特性を変化させた履歴が評価の対象とされる。この履歴のある製品が対象製品であり、この履歴のない製品が基準製品である。例えば、本発明の評価方法が需要者による使用履歴を対象とする場合は、この使用履歴のある製品が対象製品であり、この使用履歴のない製品が基準製品である。本発明の評価方法が保管履歴を対象とする場合は、この保管履歴のある製品が対象製品であり、この保管履歴のない製品が基準製品である。なお、本明細書では、評価の対象とする製品としてタイヤを取り上げるが、本発明の対象とする製品はこのタイヤに制限されるものではない。
【0023】
図2に示されているのは、市場から回収した空気入りタイヤ2である。このタイヤ2は、乗用車用である。この図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図2において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0024】
このタイヤ2は、トレッド4、サイドウォール6、ビード8、カーカス10、ベルト12、バンド14、インナーライナー16及びチェーファー18を備えている。このタイヤ2は、トレッド4、サイドウォール6等の多数の部品を有する製品である。
【0025】
図示されていないが、このタイヤ2のトレッド4にはチッピングが生じている。言い換えれば、このタイヤ2は車両に装着されて使用されている間にトレッド4にチッピングを生じさせるような履歴を受けている。本明細書では、この図2に示されたタイヤ2が対象製品である。図示されていないが、この回収タイヤ2に対応し、使用履歴のない、新品のタイヤが基準製品である。この評価方法の準備工程(STEP1)では、回収タイヤ2と、この回収タイヤ2に対応する新品のタイヤとが準備される。なお、新品タイヤのトレッドには、チッピングは生じていない。このチッピングは、タイヤ2の損傷状態を表す語である。走行によりトレッド面に傷がつき、トレッド4の一部が細片として欠け落ちた状態が、チッピングと称される。このチッピングは、タイヤ2の外観を目視で観察することにより確認される。
【0026】
実試料の特性を調査する工程(STEP2)では、対象製品の部品から実試料を得て、この実試料の特性が調査される。前述したように、対象製品であるタイヤ2のトレッド4にチッピングが生じている。この評価方法では、トレッド4から実試料を作製し、この実試料の特性を表す要素について計測が行われる。
【0027】
本明細書では、評価対象とする部品としてトレッド4を扱うが、本発明の対象は目視で異状が確認されたトレッド4に制限されるものではない。この評価方法は、目視では異状の確認されていないサイドウォール6を評価対象としてもよい。タイヤ2の表面に露出していないビード8のエイペックス20を評価対象としてもよい。
【0028】
評価対象のトレッド4は、架橋ゴムからなる。架橋ゴムの特性を表す要素のタイプとしては、硬さ、切断時伸び、切断時引張応力、100%モジュラス、複素弾性率、膨潤率等の物性及び残存老化防止剤量、残存オイル量、トータル網目密度、モノスルフィド網目密度、カルボニル基の定量値、水酸基の定量値等の指標が挙げられる。各要素の測定方法は、次の通りである。
【0029】
(a)硬さは、「JIS−K6253」の規定に準拠して、23℃の環境下で、タイプAのデュロメータによって測定される。
【0030】
(b)切断時伸び、切断時引張応力及び所定伸び引張応力のそれぞれは、「JIS−K6251」の規定に準拠して測定される。条件は、下記の通りである。
試験片の形状=4号ダンベル
環境温度=23℃
試験機=東洋精機製作所社製の商品名「ストログラフ」
引張速度=500mm/min
【0031】
(c)複素弾性率は、「JIS−K6394」の規定に準拠して測定される。条件は、下記の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の商品名「VES」
初期歪み:10%
動歪み:±5%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0032】
(d)膨潤率を得るためには、「JIS−K6258」の規定に準拠して浸漬試験が実施される。40℃のトルエンに24時間浸漬した際の試験片の体積変化率が、膨潤率として表される。数値が小さいほど、架橋密度が高いことが示される。
【0033】
(e)残存老化防止剤量は、試験片に残存する老化防止剤の量である。「JIS−K6229」の規定に準拠し試験片から老化防止剤が抽出され、この抽出された老化防止剤の量が定量される。数値が大きいほど、残存量が多いことが示される。
【0034】
(f)残存オイル量は、試験片に残存するオイルの量である。「JIS−K6229」の規定に準拠し試験片からオイルが抽出され、この抽出されたオイルの量が定量される。数値が大きいほど、残存量が多いことが示される。
【0035】
(g)トータル網目密度νT及びモノスルフィド網目密度νMは、次のようにして得られる。厚さ1.5mm〜2.5mmのサンプルが、準備される。このサンプルについて、溶媒にアセトンを用い、80℃〜90℃で15時間、ソックスレー抽出が実施される。抽出後、サンプルが1時間以上室温で真空乾燥される。真空乾燥後、縦約2mm、横約2mmの大きさに切断され、試験片が準備される。この試験片の縦の長さWo、横の長さDo及び高さHoが正確に測定される。
【0036】
(g−1)試験片が、30℃に調整された恒温槽内で、トルエン/THF(1/1(体積比))の混合溶液に20時間浸漬される。浸漬後、試験片を取り出し、この試験片の膨潤後の高さHsが測定される。この試験片について、熱機械分析計(TMA)を用いて、荷重に対する歪み量(圧縮比α)が測定される。この圧縮比αを用いて、下記数式(i)から、網目密度ν(×10−4mol/cm)が算出される。この網目密度νが、トータル網目密度νTと称される。
ν = Vr1/3×F×10/(R×T×(α−α−2)×A) (i)
ここで、Vrは膨潤サンプル中のゴム体積分率である。Fは、荷重(mg)である。Rは気体定数(8.31)である。Tは、絶対温度(K)である。Aは、未膨潤試験片の断面積(Wo×Do)である。なお、ゴム体積分率Vrは、下記数式(ii)から算出される。
Vr=(Vo−Vf)/(Vs−Vf) (ii)
数式(ii)において、Voは膨潤前の体積(Wo×Do×Ho)である。Vsは、膨潤後の体積(Wo×Do×Hs/Ho)である。Vfはゴム組成物に含まれる薬品の体積を表す。このゴム組成物が、カーボンブラック、亜鉛華及び硫黄を含む場合、この体積Vfは、Vo×d(C/1.85+Z/5.6+S/2.05)で示される。なお、dは基材ゴムの比重である。Cは、カーボンブラックの含有量(質量%)である。Zは、亜鉛華の含有量(質量%)である。Sは、硫黄の含有量(質量%)である。
【0037】
(g−2)上記(g)で準備された試験片が30℃に調整された恒温槽内で、水素化リチウムアルミニウムの溶液に20時間浸漬される。浸漬後、水素化リチウムアルミニウムの溶液をトルエン/THF(1/1(体積比))の混合溶液に置き換え、この試験片がさらに2時間混合溶液中に浸漬される。その後、試験片を取り出し、この試験片の膨潤後の高さHsが測定される。この試験片について、熱機械分析計(TMA)を用いて、荷重に対する歪み量(圧縮比α)が測定される。この圧縮比αを用いて、上記数式(i)から、網目密度ν(×10−4mol/cm)が算出される。この網目密度νが、モノスルフィド網目密度νMと称される。
【0038】
(i)カルボニル基及び水酸基の定量値を得るためには、全反射法の赤外分光光度計を用いて試験片の赤外吸収スペクトルを得て、このスペクトルにおける、内部基準としての、ポリマーに由来するメチレン基(1445cm−1)、並びに、劣化の指標としてのカルボニル基(1740cm−1)及び水酸基(3300cm−1)の吸収強度が計測される。カルボニル基の定量値は、メチレン基の吸収強度に対するカルボニル基の吸収強度の比率で表される。水酸基の定量値は、メチレン基の吸収強度に対する水酸基の吸収強度の比率で表される。
【0039】
本発明においては、特性追跡のために採用され、この特性を表す要素のタイプが、1からNの自然数nを用いて要素nとして表される。したがって、この実試料の特性を調査する工程(STEP2)では、対象製品の部品から実試料を得て、この実試料の特性を表す要素nが調査され、この要素nの計測値nが得られる。
【0040】
この実施形態では、特性追跡のために採用された要素のタイプは、硬さ、複素弾性率、切断時伸び、切断時引張応力及び100%モジュラスである。この実施形態では、硬さは「要素1」として表される。複素弾性率は、「要素2」として表される。切断時伸びは、「要素3」として表される。切断時引張応力は、「要素4」として表される。そして、100%モジュラスは「要素5」として表される。したがって、この実試料の特性を調査する工程(STEP2)では、回収タイヤ2のトレッド4から得た実試料の特性が調査され、「要素1」の計測値1が得られる。「要素2」の計測値2が得られる。「要素3」の計測値3が得られる。「要素4」の計測値4が得られる。そして、「要素5」の計測値5が得られる。
【0041】
基準試料の特性を調査する工程(STEP3)では、対象製品の部品に対応する基準製品の部品から基準試料を得て、この基準試料の特性が調査される。前述したように、実試料の特性を調査する工程(STEP2)では、回収タイヤ2のトレッド4から実試料が作製される。したがって、この基準試料の特性を調査する工程(STEP3)では、基準製品としての新品タイヤのトレッドから基準試料が作製される。そして、この基準試料の特性を表す要素nが調査され、この要素nの計測値nが得られる。
【0042】
前述したように、この実施形態では、特性追跡のための要素のタイプとして、「要素1」で表される硬さ、「要素2」で表される複素弾性率、「要素3」で表される切断時引張伸び、「要素4」で表される切断時引張応力及び「要素5」で表される100%モジュラスが採用されている。したがって、この基準試料の特性を調査する工程(STEP3)では、新品タイヤのトレッドから得た基準試料の特性を調査することにより、「要素1」の計測値1が得られる。「要素2」の計測値2が得られる。「要素3」の計測値3が得られる。「要素4」の計測値4が得られる。「要素5」の計測値5が得られる。
【0043】
参照変化率Sを算出する工程(STEP4)では、実試料の調査工程(STEP2)で得た要素nの計測値n及び基準試料の調査工程(STEP3)で得た要素nの計測値nを用いて参照変化率Sが計算される。この評価方法では、この参照変化率Sは計測値nの計測値nに対する比率(n/n)で表される。
【0044】
前述したように、この実施形態では、特性追跡のための要素のタイプとして、「要素1」で表される硬さ、「要素2」で表される複素弾性率、「要素3」で表される切断時引張伸び、「要素4」で表される切断時引張応力及び「要素5」で表される100%モジュラスが採用されている。したがって、この参照変化率Sを算出する工程(STEP4)では、「要素1」については、比率(1/1)で表される参照変化率Sが得られる。「要素2」については、比率(2/2)で表される参照変化率Sが得られる。「要素3」については、比率(3/3)で表される参照変化率Sが得られる。「要素4」については、比率(4/4)で表される参照変化率Sが得られる。そして、「要素5」については、比率(5/5)で表される参照変化率Sが得られる。下記の表1に示されているのは、実試料の調査工程(STEP2)、基準試料の調査工程(STEP3)及び参照変化率Sを算出する工程(STEP4)で得られるデータである。
【0045】
【表1】
【0046】
この評価方法では、参照変化率Sを用いて、レーダーチャートが作成されてもよい。言い換えれば、この評価方法は、参照変化率Sを用いて、レーダーチャートを作成する工程をさらに含むことができる。レーダーチャートは、回収タイヤ2のトレッド4の状態の理解を容易にする。このレーダーチャートは、製品の状態を複数の要素を用いて総合的に理解する場合に有用である。なお、この評価方法では、参照変化率Sを用いて表されたレーダーチャートは参照レーダーチャートと称される。
【0047】
図3に示されているのは、参照レーダーチャートの一例である。この図3には、参照変化率S、S、S、S及びSを用いて作成された参照レーダーチャートが実線で示されている。点線は、新品タイヤのレーダーチャートである。この図3から、回収タイヤ2のトレッド4では、「要素1」で表される硬さ、「要素2」で表される複素弾性率、及び、「要素5」で表される100%モジュラスが、新品タイヤよりも上昇し、「要素3」で表される切断時引張伸び、及び、「要素4」で表される切断時引張応力が新品タイヤよりも低下していることが分かる。
【0048】
模擬試料の特性を調査する工程(STEP5)では、基準試料をなす材料と同等の材料から模擬試料が作製され、この模擬試料の特性が調査される。前述したように、基準試料は新品タイヤのトレッドから作製される。したがって、この実施形態の模擬試料の特性を調査する工程(STEP5)では、トレッドをなすゴム組成物と同等のゴム組成物を準備し、このゴム組成物を架橋することにより模擬試料が作製される。そして、この模擬試料の特性を表す要素nが調査され、この要素nの計測値nが得られる。
【0049】
前述したように、この実施形態では、特性追跡のための要素のタイプとして、「要素1」で表される硬さ、「要素2」で表される複素弾性率、「要素3」で表される切断時引張伸び、「要素4」で表される切断時引張応力及び「要素5」で表される100%モジュラスが採用されている。したがって、この模擬試料の特性を調査する工程(STEP5)では、模擬試料の特性を調査することにより、「要素1」の計測値1が得られる。「要素2」の計測値2が得られる。「要素3」の計測値3が得られる。「要素4」の計測値4が得られる。「要素5」の計測値5が得られる。下記の表2に示されているのは、模擬試料の調査工程(STEP5)で得られるデータである。
【0050】
【表2】
【0051】
劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)では、模擬試料を人工的に劣化させて劣化試料が作製される。本発明では、模擬試料を劣化させるために様々な措置をとることができる。例えば、架橋ゴムからなる模擬試料を人工的に劣化させるための措置としては、
(A)温度を80℃に調整した試験槽内に模擬試料を置く。
(B)温度を80℃に調整した試験槽内に、20%の引張り歪みを付与した状態で、模擬試料を置く。
(C)室温又は温度を80℃に調整した試験槽内において、正弦波を描く往復運動をする構造を有する装置を用いて、引張り歪みの付与とその解放をこの模擬試料に繰り返す。なお、引張り歪みの最大値は20%、その最小値は0%、往復運動の周波数は0.5Hzとする。
(D)温度を80℃に調整した試験槽内に、表面をアセトンで拭いた模擬試料を置く。そして、模擬試料を試験槽内に置いた日から2日置きに模擬試料を取り出し、この模擬試料の表面をアセトンでさらに拭く。
(E)JIS−K6259に準拠して、温度を40℃、オゾン濃度を50pphmに調整した試験槽内に、20%の引張り歪みを付与した状態で、模擬試料を置く。
(F)JIS−K6259に準拠して、温度を40℃、オゾン濃度を50pphmに調整した試験槽内において、正弦波を描く往復運動をする構造を有する装置を用いて、引張り歪みの付与とその解放をこの模擬試料に繰り返す。なお、引張り歪みの最大値は20%、その最小値は0%、往復運度の周波数は0.5Hzとする。
及び
(G)キセノンウェザーメーターの試験槽内に20%の引張り歪みを付与した状態で模擬試料を置き、この模擬試料に照射強度180W/mで紫外線を照射する。
が挙げられる。
【0052】
この評価方法では、例えば、措置(A)及び措置(E)を組み合わせて、模擬試料を複合的に劣化させてもよい。措置(C)及び措置(E)を組み合わせて、模擬試料を複合的に劣化させてもよい。
【0053】
本発明においては、劣化のための条件のタイプが1からMの自然数mを用いて条件mで表される。この劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)では、模擬試料を条件mで人工的に劣化させて劣化試料が作製される。
【0054】
この評価方法では、条件mは劣化のための措置に基づいて設定される。例えば、架橋ゴムからなる模擬試料を人工的に劣化させるための条件は、前述の(A)から(G)で示した措置に基づいて設定することができる。下記の表3には、この実施形態で採用される、模擬試料の劣化のための条件mの内容が示されている。
【0055】
【表3】
【0056】
この劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)では、条件mで模擬試料を劣化させて得た劣化試料について、その特性を表す要素nが調査され、この要素nの計測値namが得られる。前述したように、この実施形態では、特性追跡のための要素のタイプとして、「要素1」で表される硬さ、「要素2」で表される複素弾性率、「要素3」で表される切断時引張伸び、「要素4」で表される切断時引張応力及び「要素5」で表される100%モジュラスが採用されている。したがって、この劣化試料の特性を調査する工程(STEP6)では、例えば、表3の条件1で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性を調査することにより、「要素1」の計測値1a1が得られる。「要素2」の計測値2a1が得られる。「要素3」の計測値3a1が得られる。「要素4」の計測値4a1が得られる。「要素5」の計測値5a1が得られる。この表3の条件5で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性を調査することにより、「要素1」の計測値1a5が得られる。「要素2」の計測値2a5が得られる。「要素3」の計測値3a5が得られる。「要素4」の計測値4a5が得られる。「要素5」の計測値5a5が得られる。
【0057】
対照変化率R(m)を算出する工程(STEP7)では、模擬試料の調査工程(STEP5)で得た要素nの計測値n及び劣化試料の調査工程(STEP6)で得た要素nの計測値namを用いて対照変化率R(m)が計算される。この対照変化率R(m)は、計測値nに対する計測値namの比率(nam/n)で表される。
【0058】
前述したように、この実施形態では、特性追跡のための要素のタイプとして、「要素1」で表される硬さ、「要素2」で表される複素弾性率、「要素3」で表される切断時引張伸び、「要素4」で表される切断時引張応力及び「要素5」で表される100%モジュラスが採用されている。したがって、この対照変化率R(m)を算出する工程(STEP7)では、例えば、模擬試料の特性及び表3の条件1で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性に基づいて、「要素1」については、比率(1a1/1)で表される対照変化率R(1)が得られる。「要素2」については、比率(2a1/2)で表される対照変化率R(1)が得られる。「要素3」については、比率(3a1/3)で表される対照変化率R(1)が得られる。「要素4」については、比率(4a1/4)で表される対照変化率R(1)が得られる。そして、「要素5」については、比率(5a1/5)で表される対照変化率R(1)が得られる。模擬試料の特性及び表3の条件5で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の特性に基づいて、「要素1」については、比率(1a5/1)で表される対照変化率R(5)が得られる。「要素2」については、比率(2a5/2)で表される対照変化率R(5)が得られる。「要素3」については、比率(3a5/3)で表される対照変化率R(5)が得られる。「要素4」については、比率(4a5/4)で表される対照変化率R(5)が得られる。そして、「要素5」については、比率(5a5/5)で表される対照変化率R(5)が得られる。下記の表4から表7に示されているのは、劣化試料の調査工程(STEP6)及び対照変化率R(m)を算出する工程(STEP7)で得られるデータである。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
この評価方法では、対照変化率R(m)を用いて、レーダーチャートが作成されてもよい。言い換えれば、この評価方法は、対照変化率R(m)を用いて、レーダーチャートを作成する工程をさらに含むことができる。レーダーチャートは、劣化試料の状態の理解を容易にする。このレーダーチャートは、劣化試料の状態を複数の要素を用いて総合的に理解する場合に有用である。なお、この評価方法では、対照変化率R(m)を用いて表されたレーダーチャートは対照レーダーチャートと称される。
【0064】
図4に示されているのは、対照レーダーチャートの一例である。この図4には、表3の条件3で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この対照レーダーチャートは、劣化試料の対照変化率R(3)、R(3)、R(3)、R(3)及びR(3)がプロットされ、これらが実線で結ばれることにより得られる。点線は、模擬試料ののレーダーチャートである。この図4から、条件3で模擬試料を劣化させた場合、「要素2」の複素弾性率及び「要素5」の100%モジュラスが、模擬試料よりも上昇し、「要素3」の切断時引張伸び及び「要素4」の切断時引張応力が模擬試料よりも低下することが確認される。なお、「要素1」の硬さは、模擬試料のそれよりも上昇するが、両者の差は僅かである。
【0065】
図5には、表3の条件5で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図5から、条件5で模擬試料を劣化させた場合、「要素2」の複素弾性率及び「要素5」の100%モジュラスが、模擬試料よりも上昇し、「要素1」の硬さ及び「要素3」の切断時引張伸びが模擬試料よりも低下することが確認される。「要素4」の切断時引張応力は、模擬試料のそれとほとんど変わらない。
【0066】
図6には、表3の条件7で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図6から、条件7で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さのみが模擬試料よりも低下するが、「要素2」の複素弾性率、「要素3」の切断時引張伸び、「要素4」の切断時引張応力及び「要素5」の100%モジュラスは模擬試料のそれとほとんど変わらないことが確認される。
【0067】
図7には、表3の条件9で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図7から、条件9で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さ、「要素3」の切断時引張伸び及び「要素4」の切断時引張応力が模擬試料よりも低下し、「要素5」の100%モジュラスが模擬試料よりも上昇することが確認される。「要素2」の複素弾性率は、模擬試料のそれとほとんど変わらない。
【0068】
図8には、表3の条件11で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図8から、条件11で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さ、「要素2」の複素弾性率、「要素3」の切断時引張伸び、「要素4」の切断時引張応力及び「要素5」の100%モジュラスの全てが模擬試料よりも低下し、これらのうち特に、「要素1」の硬さの低下が著しいことが確認される。
【0069】
図9には、表3の条件13で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図9から、条件13で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さ及び「要素3」の切断時引張伸びが模擬試料よりも低下し、「要素2」の複素弾性率、「要素4」の切断時引張応力及び「要素5」の100%モジュラスが模擬試料よりも上昇することが確認される。
【0070】
図10には、表3の条件15で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図10から、条件15で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さ、「要素3」の切断時引張伸び及び「要素4」の切断時引張応力が模擬試料よりも低下し、「要素2」の複素弾性率及び「要素5」の100%モジュラスが模擬試料よりも上昇することが確認される。
【0071】
図11には、表3の条件18で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図11から、条件18で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さ、「要素3」の切断時引張伸び及び「要素4」の切断時引張応力が模擬試料よりも低下し、「要素2」の複素弾性率及び「要素5」の100%モジュラスが模擬試料よりも上昇することが確認される。「要素1」の硬さの低下が著しい。
【0072】
図12には、表3の条件20で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の対照レーダーチャートが実線で示されている。この図12から、条件20で模擬試料を劣化させた場合、「要素1」の硬さ及び「要素4」の切断時引張応力が模擬試料よりも低下することが確認される。「要素2」の複素弾性率、「要素3」の切断時引張伸び及び「要素5」の100%モジュラスは模擬試料のそれとほとんど変わらない。
【0073】
この評価方法の類似性を判断する工程(STEP8)では、参照変化率S及び対照変化率R(m)を用いて、対象製品の状態と劣化試料の状態との類似性が判断される。言い換えれば、様々な条件で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の中から、対象製品の状態と類似した状態にある劣化試料が選定される。これにより、対象製品が受けた履歴に相当する劣化条件(条件m)が見極められる。
【0074】
この評価方法では、類似性の判断に際して、レーダーチャートを用いることができる。例えば、図4から12に示された対照レーダーチャートと、図3に示された参照レーダーチャートとを見比べ、対象製品の状態と類似した状態にある劣化試料が選定される。レーダーチャートを用いることにより数値だけでなく形態的な相違も容易に判断できるので、このレーダーチャートの適用は類似性判断の効率化に寄与しうる。複数の要素に基づいて試料の状態が総合的に理解できるので、このレーダーチャートの適用は見極められた条件mと対象製品の受けた履歴との乖離を抑えうる。この評価方法は、製品の状態変化を再現するための条件mの見極めに寄与しうる。
【0075】
この評価方法では、類似性を判断する工程(STEP8)において、下記数式(1)で表される、根二乗平均誤差関数α(m)を用いることができる。
【0076】
【数3】
【0077】
根二乗平均誤差関数α(m)において、β(m)は対照変化率R(m)及び参照変化率Sの乖離の程度を表す乖離関数である。この乖離関数β(m)は、例えば、対照変化率R(m)及び参照変化率Sを用いて下記数式(2)で表される。
β(m)=R(m)−S (2)
【0078】
この類似性を判断する工程(STEP8)では、根二乗平均誤差関数α(m)が算出される。より詳細には、表1に示された参照変化率S及び表4から7に示された対照変化率R(m)を用いて、条件1から20のそれぞれについて、根二乗平均誤差関数α(m)が算出される。
【0079】
根二乗平均誤差関数α(m)は、対象製品の状態と劣化試料の状態との差を数値で評価するものである。小さな根二乗平均誤差関数α(m)は、対象製品の状態と劣化試料の状態との差が小さい、言い換えれば、劣化試料の状態が対象製品の状態に近いことを表す。一方、大きな根二乗平均誤差関数α(m)は、対象製品の状態と劣化試料の状態との差が大きい、言い換えれば、劣化試料の状態が対象製品の状態とは遠いことを表す。
【0080】
この類似性を判断する工程(STEP8)では、根二乗平均誤差関数α(m)が最小となる条件mが見極められる。より詳細には、条件1から20のそれぞれについて算出された根二乗平均誤差関数α(m)において、最小値を表す根二乗平均誤差関数α(m)が選択される。選択された根二乗平均誤差関数α(m)に基づいて、条件mが見極められる。この評価方法では、対象製品の状態と劣化試料の状態との類似性が数値を用いて定量的に判断される。この根二乗平均誤差関数α(m)の適用は、類似性の判断の容易に寄与しうる。類似性の判断が数値で裏付けられるので、この評価方法で見極められた条件mの信頼性は高い。この評価方法によれば、製品の状態変化を再現するための条件が適切に見極められる。
【0081】
ところで、下記の表8には、表3の条件4(80℃で3週間加熱する)で模擬試料を劣化させて得た劣化試料の、硬さ(「要素1」)、複素弾性率(「要素2」)及び100%モジュラス(「要素5」)の変化率が示されている。なお、この表8において、硬さの変化率は表4のR(4)に相当する。複素弾性率の変化率は、表4のR(4)に相当する。100%モジュラスの変化率は、表4のR(4)に相当する。
【0082】
【表8】
【0083】
図2に示された回収タイヤ2(対象製品)において、トレッド4の硬さは70(表1の計測値1に相当)である。基準製品としての新品タイヤのトレッドの硬さは65(表1の計測値1に相当)である。したがって、トレッド4の硬さの変化量は5であり、この場合の参照変化率Sは1.08である。この参照変化率Sは、表8に示された硬さの変化率と同程度である。
【0084】
硬さ、複素弾性率及び100%モジュラスはいずれも、試料に歪みを付与して得られる物性である。硬さは複素弾性率及び100%モジュラスと類似した物性であるにもかかわらず、その変化の程度を変化率で表した場合、上記表8に示されているように、硬さの変化率は複素弾性率及び100%モジュラスの変化率に比して小さい。しかし、製品における硬さの変化量は「5」であり、硬さとしての変化の程度は顕著である。そこで、この評価方法では、実質的な変化の程度が大きいにもかかわらず、変化率にこの変化の程度が十分に反映されていない要素については、この要素に類似し、その変化率に変化の程度が十分に反映されている他の要素と同程度の変化率になるように、重み付けがなされてもよい。この要素の類似性は要素間の関連性の有無により判断されればよく、この類似性の判断に際して特に制限はない。
【0085】
この評価方法では、重み付けをする場合、上記数式(1)で表される根二乗平均誤差関数α(m)において、上記数式(2)で表された乖離関数β(m)が、対照変化率R(m)及び参照変化率Sを用いて下記数式(3)で表される乖離関数β(m)に置き換えられる。この乖離関数β(m)において、l(n)は1、2、3、・・・、Lで表される自然数である。このl(n)は、要素nについて得られる対照変化率R(m)及び参照変化率Sの、冪数である。
【0086】
【数4】
【0087】
この評価方法では、類似性を判断する工程(STEP8)において、冪数l(n)は次のようにして決められる。劣化のための措置(例えば、前述の措置(A)から(G))を模擬試料に講じて、要素nの経時変化が追跡される。評価の対象が架橋ゴムのような高分子材料からなる場合、簡便でありしかも再現性に優れるとの観点から、劣化の措置としては試験槽内で模擬試料を加熱することが好ましい。評価の対象がタイヤ2のトレッド4のように架橋ゴムからなる部品である場合は、80℃で模擬試料を加熱する措置(前述の措置(A))が好ましい。措置(A)で模擬試料を劣化させることを選択した場合、例えば、表3に示された条件1から4で模擬試料を人工的に劣化させて較正試料を得、この較正試料について特性が調査される。変化の程度が大きく、再現性に優れるとの観点から、表3の条件4が好ましい。
【0088】
較正試料の特性を調査することにより、この特性を表す要素nの計測値nが得られる。この評価方法では、この計測値nの、上記模擬試料の特性を表す要素nの計測値nに対する比率が、要素nについての較正変化率として表される。
【0089】
この評価方法では、較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも大きい場合においては、この較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が1.2以上1.6以下の範囲にある要素n1を基準とし、この較正変化率が1.1に満たない要素n2について、この要素n2の較正変化率の冪乗が上記要素n1の較正変化率よりも大きくなるように、この要素n2についての冪数l(n2)が決められる。的確な判断が可能との観点から、較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が1.2以上1.6以下の範囲にありかつ1.4に最も近い要素n1が基準とされるのが好ましい。
【0090】
図13に示されているのは、表3の条件1から4で模擬試料を劣化させて得た較正試料の特性である。この図13には、各条件で得られた、硬さ(以下、要素1とも称される。)、複素弾性率(以下、要素2とも称される。)及び100%モジュラス(以下、要素5とも称される。)の較正変化率がプロットされている。この較正変化率は、前述の、参照変化率S及び対照変化率R(m)と同義である。この図13に示されたグラフにおいては、縦軸が較正変化率を表している。横軸は、時間に相当する。この図13は、要素1、要素2及び要素5の較正変化率の経時変化を表している。図13中、実線LHで示されているのが要素1の較正変化率の経時変化である。実線LEで示されているのが、要素2の較正変化率の経時変化である。実線LMで示されているのが、要素5の較正変化率の経時変化である。
【0091】
図13に示されているように、要素1の較正変化率、要素2の較正変化率及び要素5の較正変化率はいずれも1より大きい。つまり、この図13には、較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも大きい場合の例が示されている。
【0092】
図13から明らかなように、条件2から4で得た較正試料において、要素1、要素2及び要素5のうち、要素2が変化率が1.2以上1.6以下の範囲にありかつ1.4に最も近い要素(前述の要素n1に相当)であり、要素1が変化率が1.1に満たない要素(前述の要素n2に相当)である。したがって、要素2を基準として、要素1の変化率の冪乗が要素2よりも大きくなるように、この要素1の冪数l(1)が調整される。
【0093】
図13には、冪数l(1)を5とした場合の、要素1の変化率の冪乗の推移が点線LH5で示され、冪数l(1)を10とした場合の、要素1の変化率の冪乗の推移が点線LH10で示されている。この図13から明らかなように、条件4において、冪数l(1)を10とした場合に、要素2の変化率よりも大きな、要素1の変化率の冪乗が得られる。したがって、この図13に示された例では、要素1について、その冪乗l(1)が10とされる。なお、この実施形態では、この要素1以外の要素、すなわち、要素2の冪乗l(2)、要素3の冪乗l(3)、要素4の冪乗l(4)及び要素5の冪乗l(5)は、1とされる。
【0094】
図14には、要素1の冪乗l(1)を10として、上記数式(3)で表される乖離関数を用いて、条件1から20の根二乗平均誤差関数を算出した結果が示されている。この図14においては、縦軸は根二乗平均誤差関数の値を表している。横軸は、それぞれの条件を表している。図14に示されているように、条件3の根二乗平均誤差関数が最小である。つまり、図2に示された回収タイヤ2のトレッド4の状態は、80℃で2週間、模擬試料を加熱して得た劣化試料の状態に近い。言い換えれば、回収タイヤ2のトレッド4の状態に近い状態は、条件2、すなわち、80℃で2週間、模擬試料を加熱することにより再現されうる。このように、この評価方法では、対象製品の状態と劣化試料の状態との類似性の見極めが数値を用いて定量的に判断される。冪数l(n)を適用することにより、類似性の判断が容易にかつ的確になされうる。しかも類似性の判断が数値で裏付けられるので、この評価方法で見極められた条件mの信頼性は高い。この評価方法によれば、製品の状態変化を再現するための条件が適切に見極められる。
【0095】
前述したように、この評価方法では、特性追跡のために採用され、この特性を表す要素のタイプが、1からNの自然数nを用いて要素nとして表される。この評価方法は、3以上の要素のタイプを対象とする場合において、製品の状態変化を再現するための条件の見極めに効果的に寄与しうる。したがって、この要素のタイプを表す自然数nの最大値Nは3以上が好ましい。
【0096】
前述したように、この評価方法では、劣化のための条件のタイプが1からMの自然数mを用いて条件mで表される。この評価方法は、3以上の条件のタイプを対象とする場合において、製品の状態変化を再現するための条件の見極めに効果的に寄与しうる。したがって、この条件のタイプを表す自然数mの最大値Mは3以上が好ましい。
【0097】
選択する要素によっては、図13に示した例とは異なり、劣化により得られる要素の変化率が1よりも小さくなる場合がある。この場合は、次のようにして冪数l(n)は決められる。
【0098】
この評価方法では、較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも小さい場合においては、この較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が0.2以上0.6以下の範囲にある要素n1を基準とし、この較正変化率が0.7よりも大きな要素n2について、この要素n2の較正変化率の冪乗が上記要素n1の較正変化率よりも小さくなるように、この要素n2についての冪数l(n2)が決められる。的確な判断が可能との観点から、較正試料の特性を表す要素nのうち、この較正変化率が0.2以上0.6以下の範囲にありかつ0.4に最も近い要素n1が基準とされるのが好ましい。
【0099】
図15に示されているのは、表3の条件1から4で模擬試料を劣化させて得た較正試料の特性である。この図15には、各条件で得られた、残存オイル量、残存老化防止剤量及び膨潤率の各要素についての較正変化率がプロットされている。この図15に示されたグラフにおいては、縦軸が較正変化率を表している。横軸は、時間に相当する。この図15は、残存オイル量、残存老化防止剤量及び膨潤率の経時変化を表している。図15中、実線LAで示されているのが残存オイル量の較正変化率の経時変化である。実線LOで示されているのが、残存老化防止剤量の較正変化率の経時変化である。実線LSで示されているのが、膨潤率の較正変化率の経時変化である。
【0100】
図15に示されているように、残存オイル量の較正変化率、残存老化防止剤量の較正変化率及び膨潤率の較正変化率はいずれも1より小さい。つまり、この図15には、較正試料の特性を表す要素nの較正変化率が1よりも小さい場合の例が示されている。
【0101】
図15から明らかなように、条件2から4で得た較正試料において、残存オイル量、残存老化防止剤量及び膨潤率の各要素のうち、残存老化防止剤がその較正変化率が0.2以上0.6以下の範囲にありかつ0.4に最も近い要素(前述の要素n1に相当)であり、残存オイル量がその較正変化率が0.7よりも大きな要素(前述の要素n2に相当)である。したがって、残存老化防止剤量を基準要素として、残存オイル量の較正変化率の冪乗が残存老化防止剤量の較正変化率よりも小さくなるように、この残存オイル量の冪数が調整される。
【0102】
図15には、冪数を4とした場合の、残存オイル量の較正変化率の冪乗の推移が点線LH4で示され、冪数を5とした場合の、残存オイル量の較正変化率の冪乗の推移が点線LH5で示されている。この図15から明らかなように、条件2及び3においては、冪数を4又は5とした場合に、基準要素としての残存老化防止剤量の較正変化率よりも大きな、残存オイル量の較正変化率の冪乗が得られる。条件4においては、冪数を5とした場合に、基準要素としての残存老化防止剤量の較正変化率よりも大きな、残存オイル量の較正変化率の冪乗が得られる。したがって、この図15に示された例では、残存オイル量の冪乗は4又は5とされる。
【0103】
図16に示されているのは、本発明に係る他の実施形態としての評価方法により得られた、根二乗平均誤差関数の算出結果である。この実施形態では、カルボニル基の定量値、水酸基の定量値、トータル網目密度、モノスルフィド網目密度、残存老化防止剤量及び残存オイル量が、特性追跡のために採用された要素のタイプである。この実施形態では、カルボニル基の定量値が「要素1」として表される。水酸基の定量値が、「要素2」として表される。トータル網目密度が、「要素3」として表される。モノスルフィド網目密度が、「要素4」として表される。残存老化防止剤量が、「要素5」として表される。残存オイル量が、「要素5」として表される。
【0104】
この実施形態では、下記の表9に示された条件で劣化試料が作製され、この劣化試料の特性が調査されている。この調査で得られた結果に基づいて、前述の数式(3)で示された乖離関数を用いて、条件1から11の根二乗平均誤差関数が算出されている。この算出結果が、図16に示されている。なお、この根二乗平均誤差関数の算出に際しては、前述の図15に示された結果に基づいて、要素5の冪乗l(5)が5とされている。この要素5以外の要素、すなわち、要素1の冪乗l(1)、要素2の冪乗l(2)、要素3の冪乗l(3)及び要素4の冪乗l(4)は、1とされる。
【0105】
【表9】
【0106】
図16に示されているように、条件3の根二乗平均誤差関数が最小である。つまり、対象製品の状態は、20%の引張歪みを付与した状態で80℃で7日間模擬試料を加熱して得た劣化試料の状態に近い。言い換えれば、製品の状態に近い状態が、条件3、すなわち、20%の引張歪みを付与した状態で80℃で7日間、模擬試料を加熱することにより再現されうる。このように、この評価方法では、対象製品の状態と劣化試料の状態との類似性の見極めが数値を用いて定量的に判断される。冪数l(n)を適用することにより、類似性の判断が容易にかつ的確になされうる。しかも類似性の判断が数値で裏付けられるので、この評価方法で見極められた条件mの信頼性は高い。この評価方法によれば、製品の状態変化を再現するための条件が適切に見極められる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明された方法は、様々な製品の評価にも適用されうる。
【符号の説明】
【0108】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・ビード
10・・・カーカス
12・・・ベルト
14・・・バンド
16・・・インナーライナー
18・・・チェーファー
20・・・エイペックス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17