(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921995
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
F16J15/34 H
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-200261(P2012-200261)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2014-55625(P2014-55625A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸雄
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−506021(JP,A)
【文献】
特開2012−044867(JP,A)
【文献】
実開昭61−172259(JP,U)
【文献】
特開平09−089119(JP,A)
【文献】
特開2009−250432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 − 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機械の回転軸を貫通させた状態で前記流体機械のケーシングに固定され、前記回転軸の周囲に封止液室を形成しているハウジングと、
前記ハウジングの前記封止液室内に回転可能に配設され、前記回転軸と一体的に回転する回転環と、
前記ハウジングの前記封止液室内に回転不可能に配設され、前記回転環が当接して摺動面を形成する固定環と、
前記ハウジングに固定され、前記回転軸の軸方向に突出するフィン部、および、前記フィン部内に形成した封止液流路を有する放熱部材と、
前記ハウジングに形成され、前記封止液室と前記放熱部材の前記封止液流路とを連通させる流入路および流出路と、
前記回転軸に配設され、前記封止液室内の封止液を前記流入路から前記封止液流路および前記流出路を経て前記封止液室内へ循環させる循環手段と
を備えることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記フィン部は、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間を前記封止液流路とした直径が異なる複数の円環状凸部からなり、
前記各フィン部の前記開口側を閉塞する閉塞部材を有し、この閉塞部材に径方向に隣接する前記封止液流路を連通させる連通路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記フィン部は、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間を前記封止液流路とした直径が異なる複数の円弧状凸部からなり、
前記各フィン部の前記開口側を閉塞する閉塞部材を有し、この閉塞部材に径方向に隣接する前記封止液流路を連通させる連通路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記各フィン部のうち、径方向の外側端または内側端の前記フィン部に前記流入路が接続されており、径方向の内側端または外側端の前記フィン部に前記流出路が接続されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記フィン部は、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間を前記封止液流路とした螺旋状凸部からなり、
前記フィン部の前記開口側を閉塞する閉塞部材を有するとともに、
前記フィン部の径方向の外側端または内側端に前記流入路が接続されており、前記フィン部の径方向の内側端または外側端に前記流出路が接続されていることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記回転軸に、前記放熱部材へ冷却風を送風するファンが配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記ハウジングの外周部に、前記放熱部材および前記ファンを覆うダクト部材が配設されていることを特徴とする請求項6に記載のメカニカルシール。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記ケーシングに固定されるベースと、前記ベースに対して前記ケーシングと逆側に位置するように固定されるとともに前記封止液室が形成されたシールカバーとを備え、
前記放熱部材は、前記シールカバーの外周部に液密に配置された状態で、前記ベースに固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【請求項9】
前記ハウジングと前記ケーシングとの間にヒートバリア部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機械に用いられるメカニカルシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、ポンプ等の流体機械の回転軸が貫通され、この回転軸の周囲に冷却用の封止液室を形成するハウジングを備えている。ハウジング内には、封止液室内に位置するように、回転軸と一体的に回転する従動リング(回転環)が配設されるとともに、この従動リングが軸方向に沿って押し付けられるシートリング(固定環)が配設されている。そして、封止液室の内部は、従動リングとシートリングとの摩擦熱を除去するための封止液(揚水)で満たされている。
【0003】
メカニカルシールは、摩擦熱の除去により昇温した封止液および高温の封止液自身を冷却するための冷却機構を有する。この冷却機構としては、ハウジング外に水冷式熱交換器を配設し、外部冷却水と封止液室内の封止液とを循環通水させることにより、封止液を強制冷却するものがある。
【0004】
しかし、水冷式熱交換器をハウジングの外部に配設したメカニカルシールは、封止液室と熱交換器とを接続する一対の封止液用配管、冷却水の水源と熱交換器とを接続する一対の冷却水用配管、および、冷却水を供給するための給水ポンプが必要である。そのため、これらの附帯設備により、メカニカルシールの設計や製作に大きな制約が生じるうえ、メンテナンスも必要になるためコスト高になっていた。
【0005】
特許文献1のメカニカルシールでは、ハウジングの外部に空冷式の熱交換器を配設し、この空冷式熱交換器に封止液を通水させることにより、封止液を冷却する構成としている。また、特許文献2のメカニカルシールでは、ハウジングを構成するシールカバーに放熱フィンを一体的に設け、この放熱フィンをファンによって冷却することにより、シールカバー内の封止液を冷却する構成としている。
【0006】
特許文献1,2のメカニカルシールは、冷却水を供給する冷却水用配管および給水ポンプが不要であるため、附帯設備を簡素化できるうえ、コストの増大を抑制できる。しかし、特許文献1のメカニカルシールは、封止液を循環供給するための封止液用配管がなおも必要であるため、設計や製作に制約が生じている。一方、特許文献2のメカニカルシールは、封止液用配管も不要であるため、設計や製作の自由度は向上するが、放熱フィンを介してシールカバーを冷却し、このシールカバーを介して封止液を冷却するため、封止液を効率的に冷却することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開9−89119号公報
【特許文献2】特開2009−250432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、附帯設備を増やすことなく、効率的に封止液の冷却が可能なメカニカルシールを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明のメカニカルシールは、流体機械の回転軸を貫通させた状態で前記流体機械のケーシングに固定され、前記回転軸の周囲に封止液室を形成
しているハウジングと、前記ハウジングの前記封止液室内に回転可能に配設され、前記回転軸と一体的に回転する回転環と、前記ハウジングの前記封止液室内に回転不可能に配設され、前記回転環が当接して摺動面を形成する固定環と、前記ハウジングに固定され、前記回転軸の軸方向に突出するフィン部、および、前記フィン部内に形成した封止液流路を有する放熱部材と、前記ハウジングに形成され、前記封止液室と前記放熱部材の前記封止液流路とを連通させる流入路および流出路と、
前記回転軸に配設され、前記封止液室内の封止液を前記流入路から前記封止液流路および前記流出路を経て前記封止液室内へ循環させる循環手段とを備える構成としている。
【0010】
このメカニカルシールは、ハウジングの封止液室の外周部に封止液流路を有する放熱部材を配設し、封止液流路と封止液室とを連通させる流入路および流出路をハウジングに設けた構成である。よって、ハウジングに対して封止液用配管等の附帯設備を配設する必要はないため、省スペース化を図ることができるうえ、設計や製作の自由度を向上できる。そして、各フィン部の封止液流路にて封止液を効率的に冷却することができる。
【0011】
このメカニカルシールでは、前記フィン部は、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間を前記封止液流路とした直径が異なる複数の円環状凸部からなり、前記各フィン部の前記開口側を閉塞する閉塞部材を
有し、この閉塞部材に径方向に隣接する前記封止液流路を連通させる連通路
が設けられていることが好ましい。
または、前記フィン部は、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間を前記封止液流路とした直径が異なる複数の円弧状凸部からなり、前記各フィン部の前記開口側を閉塞する閉塞部材を
有し、この閉塞部材に径方向に隣接する前記封止液流路を連通させる連通路
が設けられていることが好ましい。
これらの場合、前記各フィン部のうち、径方向の外側端または内側端の前記フィン部に前記流入路
が接続
されており、径方向の内側端または外側端の前記フィン部に前記流出路
が接続
されていることが好ましい。
また、前記フィン部は、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間を前記封止液流路とした螺旋状凸部からなり、前記フィン部の前記開口側を閉塞する閉塞部材を
有するとともに、前記フィン部の径方向の外側端または内側端に前記流入路
が接続
されており、前記フィン部の径方向の内側端または外側端に前記流出路
が接続
されている構成としてもよい。
このようにすれば、各フィン部の封止液流路に封止液を順次通水させることができるため、封止液を冷却するための距離(時間)を十分に確保することができる。よって、封止液を確実かつ効率的に冷却することができる。
【0012】
また、前記回転軸に、前記放熱部材へ冷却風を送風するファン
が配設
されていることが好ましい。このようにすれば、流体機械の作動により回転軸に連動してファンが回転し、フィン部に冷却風を送風することができる。よって、冷却効率を向上できる。
この場合、前記ハウジングの外周部に、前記放熱部材および前記ファンを覆うダクト部材
が配設
されていることが好ましい。このようにすれば、ファンによる送風路を区画できるため、更に冷却効率を向上できる。
【0013】
さらに、前記ハウジングは、前記ケーシングに固定されるベースと、前記ベースに対して前記ケーシングと逆側に位置するように固定されるとともに前記封止液室が形成されたシールカバーとを備え、前記放熱部材は、前記シールカバーの外周部に液密に配置された状態で、前記ベースに固定され
ていることが好ましい。このようにすれば、ベースに対するシールカバーの固定を解除することにより、回転軸と一緒に回転環と固定環とを一体的に取り外すことができる。そのため、メンテナンス時の清掃や部品交換を容易に行うことができる。
【0014】
さらにまた、前記ハウジングと前記ケーシングとの間にヒートバリア部
が設け
られていることが好ましい。このようにすれば、流体機械からハウジングへの熱伝導を低減することができる。よって、各フィン部での封止液の冷却効率を更に向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメカニカルシールでは、ハウジングに放熱部材を配設し、ハウジングの封止液室と放熱部材の封止液流路とを連通させる流入路および流出路をハウジングに設けているため、別体の配管等の附帯設備を配設する必要はない。よって、省スペース化を図ることができるうえ、メカニカルシールの設計や製作の自由度を向上できる。また、各フィン部の封止液流路にて封止液を効率的に冷却できるため、回転環と固定環との摩擦熱を確実に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態のメカニカルシールを示す断面図である。
【
図4】
図2の放熱部材の逆側を示す分解斜視図である。
【
図6】ハウジングのシールカバーを取り外した状態を示す断面図である。
【
図7】第2実施形態のメカニカルシールを示す断面図である。
【
図8】第3実施形態のメカニカルシールを示す断面図である。
【
図9】第4実施形態のメカニカルシールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る第1実施形態のメカニカルシール10を示す。このメカニカルシール10は、流体機械(例えば高温流体を扱うボイラー給水用のポンプ)のケーシング1に固定されるハウジング11を備える。本実施形態のメカニカルシール10は、ハウジング11の外周部に空冷式の放熱部材31を配設し、この放熱部材31に封止液室21内の封止液を循環供給することにより、封止液を効率的に冷却できるようにしたものである。
【0019】
ハウジング11は、ケーシング1から突出した回転軸2を貫通させて配置されるもので、回転軸2の周囲に位置する封止液室21を備える。そして、封止液室21内に回転環である従動リング25と固定環であるシートリング28とが配設されるものである。具体的には、ハウジング11は、ケーシング1に対してボルト締めにより固定されるベース12と、ベース12に対してボルト締めにより固定されるシールカバー17とを備える。
【0020】
ベース12は、中心に回転軸2を貫通させる開口部13を有する円環状のものである。このベース12の開口部13には、ケーシング1に向けて回転軸2の軸線に沿った方向(軸方向)に突出する円環状の取付部14が設けられている。この取付部14にボルト15を軸方向に貫通させて、ケーシング1に対してベース12が固定される。なお、取付部14とケーシング1との間はシールパッキンにより封止されている。ベース12をケーシング1に取り付けた状態では、取付部14の外周部、即ちベース12とケーシング1との間に、所定間隔の隙間からなるヒートバリア部16が形成される。
【0021】
シールカバー17は、外径がベース12の外径より小さい円筒状をなし、ベース12に対してケーシング1と逆側の大気側に位置するように配置される。このシールカバー17は、軸方向に沿ってボルト18を貫通させて、ベース12に対して固定される。なお、シールカバー17とベース12との間はシールパッキンにより封止されている。
図2に示すように、シールカバー17の内周部には、ベース12の開口部13に連通する略同一内径の空隙部19が設けられ、その内周壁に筒状のカバー部材20が配設されている。このカバー部材20内は、回転軸2の周囲に形成され、流体機械が取り扱う流体(揚水)からなる封止液で満たされる封止液室21を構成する。
【0022】
ハウジング11内に位置するように、回転軸2にはスリーブ22が嵌められている。このスリーブ22は、回転軸2に対して固定部材23によって移動不可能に固定され、回転軸2に連動して一体的に回転する。なお、スリーブ22と回転軸2との間はシールパッキンにより封止されている。
【0023】
スリーブ22には、封止液室21内のケーシング1の側に位置するようにホルダ24が固定されている。このホルダ24の内部には、回転軸2に連動して一体的に回転する従動リング25の一部が収容されている。この従動リング25は、ホルダ24(回転軸2)に対して回転不可能であるが、回転軸2の軸方向には移動可能に配設されている。従動リング25とスリーブ22との間にはシールパッキンが配設されている。また、従動リング25とホルダ24との間にはコンプレッションリング26が配設されている。そして、コンプレッションリング26とホルダ24との間には、従動リング25を回転軸2の軸線に沿って大気側へ弾性的に付勢するためのスプリング27が配設されている。
【0024】
封止液室21内の大気側、即ちスプリング27による従動リング25の付勢方向先端にはシートリング28が配設されている。このシートリング28は、シールカバー17に固定されたピン29を差し込むことで、封止液室21内に回転不可能に保持されている。なお、シートリング28とシールカバー17との間はシールパッキンにより封止されている。従動リング25およびシートリング28は、回転軸2の軸方向に沿った対向位置が、回転軸2の軸線に対して直交する面状に形成されている。そして、シートリング28に対して従動リング25がスプリング27の付勢力によって弾性的に押し付けられることにより、その当接部分が封止液室21を大気側に対して封止する摺動面30を構成する。
【0025】
図1に示すように、封止液室21の外周部であるシールカバー17の外周部には、封止液を冷却するための放熱部材31が配設されている。この放熱部材31は、シールカバー17に対して軸方向に移動させて嵌合させることにより配置される円環状の装着部32を備える。この装着部32には、軸方向に貫通するボルト穴33が設けられ、ボルト34によりベース12に対して固定される。装着部32の外周部には、回転軸2の軸方向に沿って突出する全長が等しい複数(本実施形態では3個)のフィン部35A〜35Cが設けられている。
図3および
図4に示すように、各フィン部35A〜35Cは、直径が異なる同一軸線の円環状凸部からなる。これらフィン部35A〜35Cは、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞された中空状をなし、その内部空間が封止液流路36A〜36Cを構成する。なお、装着部32およびフィン部35A〜35Cの間には、補強用の連結リブ37が設けられている。また、各フィン部35A〜35Cの表面には、熱伝導率を向上するためのコーティングや塗装を施してもよい。
【0026】
放熱部材31のケーシング1側、即ち各フィン部35A〜35Cの開口側は閉塞部材38により閉塞されている。この閉塞部材38は、放熱部材31の開口側端面に嵌合される円環状の板材からなる。閉塞部材38には、放熱部材31のボルト穴33と対応するボルト穴39が設けられ、放熱部材31をボルト止めすることにより一緒に固定される。なお、閉塞部材38と放熱部材31との間、および、閉塞部材38とケーシング1との間は、シールパッキンにより封止されている。
【0027】
本実施形態の放熱部材31は、径方向の外側端に位置するフィン部35Aに後述する流入路45を接続し、径方向の内側端のフィン部35Cに後述する流出路46を接続する構成としている。閉塞部材38には、フィン部35Aの封止液流路36Aに位置するように、流入路45と連通する入口側接続口40が設けられている。放熱部材31には、フィン部35Cの更に径方向内側の装着部32に、流出路46と連通する出口側通路41が設けられている。この出口側通路41は、開口側端面から内周部に向けて貫通し、この内周部側の開口部13が出口側接続口42を構成する。また、放熱部材31には、出口側接続口42を形成した内周部中央に、径方向外向きに拡開させた環状溝43が設けられている。この環状溝43の軸方向の両側には、シールカバー17との間を液密に封止するためのシールパッキンが配設されている。
【0028】
さらに、閉塞部材38には、径方向に隣接するフィン部35A〜35Cおよび出口側通路41を連通させるための連通路44A〜44Cが設けられている。連通路44Aは、フィン部35A,35B内の封止液流路36A,36Bを連通させるためのもので、入口側接続口40に対して径方向の対向位置に設けられている。連通路44Bは、フィン部35B,35C内の封止液流路36B,36Cを連通させるもので、連通路44Aに対して径方向の対向位置に設けられている。連通路44Cは、フィン部35C内の封止液流路36Cと出口側通路41とを連通させるもので、連通路44Bに対して径方向の対向位置に設けられている。また、各連通路44A〜44Cは、連通させる封止液流路36A〜36Cに向けて軸方向に貫通させた一対の貫通孔と、これら貫通孔を連続させるように設けた連続溝とを有する構成である。
【0029】
図1に示すように、ハウジング11には、封止液室21内と放熱部材31の封止液流路36A〜36Cとを連通させて、封止液を循環供給するための流入路45および流出路46が設けられている。流入路45は、閉塞部材38の入口側接続口40に連続するように、ベース12に対して開口部13から径方向外向きに延びるように設けられている。流出路46は、放熱部材31の出口側接続口42(環状溝43)に連続するように、シールカバー17に対して径方向に貫通して設けられている。なお、本実施形態では、シールカバー17の内周部に設けたカバー部材20に、流出路46と連通する流出部47が設けられている。この流出部47は、従動リング25とシートリング28との摺動面30に封止液が吐出されるように構成している。
【0030】
流入路45の入口側である開口部13内には、スリーブ22に固定され、回転軸2に連動して一体的に回転するポンプリング48が配設されている。
図2に示すように、ポンプリング48のケーシング1側の外周部には、ケーシング1内の揚水の流入を遮断するためのラビリンス49が設けられている。また、ポンプリング48の封止液室21側の外周部には、周方向に所定間隔をもって軸方向に延びる溝が設けられている。この溝を形成していない部分により羽根部50が形成されている。この羽根部50は、封止液室21内の封止液を径方向外向きに流動させ、流入路45から放熱部材31および流出路46を経て封止液室21内へ循環させる循環手段を構成する。
【0031】
本実施形態では、放熱部材31の大気側にケーシング1側へ向けて冷却風を送風するファン51が配設されている。このファン51は、スリーブ22に固定されることにより、回転軸2に連動して一体的に回転する。また、ハウジング11の外周部には、ファン51および放熱部材31を覆うようにダクト部材52が配設されている。このダクト部材52は、ファン51による送風方向先端側に切欠部53が設けられている。
【0032】
このように構成したメカニカルシール10は、流体機械の回転軸2が回転されると、ポンプリング48が回転することにより、ラビリンス49によってケーシング1内の揚水がハウジング11内に流入することを阻止する。また、封止液室21内の封止液は、従動リング25とシートリング28とが摺接する摺動面30により、大気側への漏れが阻止される。そして、摺接により発生した従動リング25およびシートリング28の摩擦熱は、封止液により除去される。摩擦熱を吸着することにより昇温した封止液は、ポンプリング48の羽根部50によってベース12の流入路45へ流動され、放熱部材31内を通水されて冷却され後、流出路46を通して封止液室21内へ循環供給される。
【0033】
具体的には、
図5に示すように、ベース12の流入路45に流入した封止液は、入口側接続口40から第1のフィン部35A内の封止液流路36Aに流入する。封止液流路36Aでは、両側に分流した後に下端に位置する連通路44A内に流入し、連通した第2のフィン部35B内の封止液流路36Bに流入する。封止液流路36Bでは、前述と同様に両側に分流した後に上端に位置する連通路44B内に流入し、連通した第3のフィン部35C内の封止液流路36Cに流入する。封止液流路36Cでは、両側に分流した後に下端に位置する連通路44C内に流入し、連通した出口側通路41に流入する。そして、出口側通路41からシールカバー17の流出路46を経て、カバー部材20の流出部47から封止液室21に循環供給される。
【0034】
この際、本実施形態の放熱部材31は、回転軸2に連動して回転するファン51により冷却(放熱)されている。しかも、ダクト部材52を配設することにより、放熱部材31の冷却効率が向上されている。その結果、放熱部材31の各封止液流路36A〜36Cを通過する封止液は、熱交換作用によって十分に冷却されて、封止液室21に循環供給される。
【0035】
このように、本実施形態のメカニカルシール10は、ハウジング11の封止液室21の外周部に封止液流路36A〜36Cを有する放熱部材31を配設し、封止液流路36A〜36Cと封止液室21とを連通させる流入路45および流出路46をハウジング11に設けた構成である。よって、ハウジング11に対して封止液用配管等の附帯設備を配設する必要はないため、省スペース化を図ることができるうえ、設計や製作の自由度を向上できる。そして、各フィン部35A〜35Cの封止液流路36A〜36Cにて封止液を効率的に冷却することができる。
【0036】
また、封止液は、外側端のフィン部35Aからフィン部35Bを経てフィン部35Cに流入させた後、封止液室21に循環供給されるため、冷却するための距離(時間)を十分に確保することができる。よって、封止液を確実かつ効率的に冷却することができる。しかも、回転軸2と一体的に回転するファン51およびダクト部材52により、更に効率的な冷却を行うことができる。また、ハウジング11とケーシング1との間にはヒートバリア部16が設け、ケーシング1からハウジング11への熱伝導を低減しているため、各フィン部35A〜35Cでの封止液の冷却効率を更に向上できる。
【0037】
さらに、本実施形態のハウジング11は、ケーシング1に固定されるベース12と、ベース12に固定されるシールカバー17とを備え、このシールカバー17の外周部に放熱部材31を配設した構成である。よって、
図6に示すように、シールカバー17のボルト18の固定を解除することにより、回転軸2およびスリーブ22と一緒に従動リング25およびシートリング28を一体的に取り外すことができる。そのため、メンテナンス時の清掃や部品交換を容易に行うことができる。
【0038】
(第2実施形態)
図7は第2実施形態のメカニカルシール10を示す。この第2実施形態では、放熱部材31のフィン部35A〜35Cの突出量(全長)を径方向の外側端から内側端にかけて順次小さくなるようにした点で、第1実施形態と相違する。このように構成した第1実施形態では、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。しかも、第2実施形態では、ファン51により送風が外側へ逃げ易い構造となっている。そのため、冷却効率を更に向上できる。
【0039】
(第3実施形態)
図8は第3実施形態のメカニカルシール10の放熱部材31を示す。この第3実施形態では、放熱部材31を2個の扇形状放熱部54A,54Bにより構成した点で、第1実施形態と相違する。各扇形状放熱部54A,54Bは、ボルト穴33を有する所定角度(本実施形態では120度)の装着部32を備える。各装着部32の外周部には、軸方向の一端側が開口されるとともに他端側が閉塞された中空状の円弧状凸部からなるフィン部35A〜35Cが設けられている。各フィン部35A〜35Cの内部は封止液流路36A〜36Cを構成し、その開口側が閉塞部材38により閉塞されている。
【0040】
閉塞部材38には、フィン部35Aの周方向の一端側に位置するように、流入路45と連通する入口側接続口40が設けられ、フィン部35Cの周方向の他端側に位置するように、流出路46と連通する出口側通路41および出口側接続口42が設けられている。そして、図示しないハウジング11にはベース12に一対の流入路45,45が設けられ、シールカバー17には一対の流出路46,46が設けられている。
【0041】
このように構成した第3実施形態では、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。しかも、周方向に隣接する扇形状放熱部54A,54Bの間を、ファン51による冷却風が通過可能であるため、放熱部材31を介した封止液の冷却効率を向上できる。なお、放熱部材31が2個の扇形状放熱部54A,54Bに限られず、3個以上に分割して構成してもよい。また、各フィン部35A〜35Cの軸方向の突出量は、第1実施形態のように等しく設けてもよいし、第2実施形態のように中心に向けて大きくなるように設けてもよい。
【0042】
(第4実施形態)
図9は第4実施形態のメカニカルシール10の放熱部材31を示す。この第4実施形態では、円形状の放熱部材31に螺旋状に巻回した1個のフィン部35を設けた点で、各実施形態と相違する。即ち、放熱部材31は中心部にボルト穴33を有する装着部32を備え、その外周部に半径が徐々に大きくなるように連続した螺旋状凸部からなるフィン部35が設けられている。このフィン部35は、一端側が開口されるとともに他端側が閉塞され、その内部空間が連続した封止液流路36を構成する。フィン部35の開口側を閉塞した閉塞部材38には、フィン部35の径方向の外側端に位置するように流入路45と連通する入口側接続口40が設けられ、フィン部35の径方向の内側端に位置するように流出路46と連通する出口側通路41および出口側接続口42が設けられている。
【0043】
このように構成した第4実施形態では、フィン部35の外側端から流入した封止液は、中心に向けて一方向に回転しながら流動し、その間に冷却される。よって、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。しかも、第4実施形態では閉塞部材38に形成する孔数を減らすことができるため、シール用のシールパッキンの数を削減できる。なお、フィン部35の突出量は、第1実施形態のように等しく設けてもよいし、第2実施形態のように中心に向けて徐々に大きくなるように設けてもよい。
【0044】
なお、本発明のメカニカルシール10は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、第1から第3実施形態では、外側端に位置するフィン部35Aから封止液を流入させ、内側端に位置するフィン部35Cから封止液を流出させる構成としたが、内側端に位置するフィン部35Cから封止液を流入させ、外側端に位置するフィン部35Aから封止液を流出させる構成としてもよい。同様に、第4実施形態では、フィン部35の外側端から封止液を流入させ、内側端から封止液を流出させる構成としたが、内側端から封止液を流入させ、外側端から封止液を流出させる構成としてもよい。しかも、前記実施形態では流出路46をシールカバー17に設け、流出路46とフィン部35,35A〜35Cとを出口側通路41を介して接続する構成としたが、ベース12とシールカバー17とに連通する流出路を設けて、閉塞部材38に出口側接続口を設ける構成としてもよい。
【0046】
また、各実施形態では、1個の放熱部材31(第3実施形態では扇形状放熱部54A,54B)にそれぞれ1個の入口側接続口40および出口側接続口42を設けたが、封止液の流動状況に応じて2個以上設ける構成としてもよい。特に、流出路46(流出部47)に対応する出口側接続口42(出口側通路41)は、2個以上を周方向に所定間隔をもって設けることが、固定されたシートリング28の冷却に偏りが生じないため好ましい。勿論、入口側接続口40と出口側接続口42の数が異なるように構成してもよいうえ、開口面積(直径)を流路抵抗に応じて変更する構成としてもよい。これにより、放熱部材31内を通過する封止液の通過時間を調整できる。
【0047】
さらに、各フィン部35,35A〜35Cには、外方に突出する板状のフィンや突起部を設けて、更に冷却性能を向上できるようにしてもよい。しかも、ファン51の代わりに放熱部材31のフィン部35,35A〜35Cを囲繞する強制冷却用ボックスを配設し、この強制冷却用ボックス内に外部の冷却水を循環供給できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…ケーシング
2…回転軸
10…メカニカルシール
11…ハウジング
12…ベース
16…ヒートバリア部
17…シールカバー
21…封止液室
22…スリーブ
25…従動リング(回転環)
28…シートリング(固定環)
30…摺動面
31…放熱部材
35,35A〜35C…フィン部
36,36A〜36C…封止液流路
38…閉塞部材
40…入口側接続口
41…出口側通路
42…出口側接続口
44A〜44C…連通路
45…流入路
46…流出路
47…流出部
51…ファン
52…ダクト部材
54A,54B…扇形状放熱部