(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両に設置されるディスクブレーキ装置に用いられ、車両において車軸又は車輪とともに回転するように設置されるディスクに対して押し付け可能な、ディスクブレーキパッドであって、
前記ディスクにおける摩擦制動面に対して押し付け可能な複数のライニング部材と、
複数の前記ライニング部材のそれぞれを揺動可能に支持するように設置される第1揺動調整部材を有し、前記第1揺動調整部材が揺動することで、前記ライニング部材を前記摩擦制動面に対して当該摩擦制動面に垂直な方向に沿って押し付ける際の押し付け方向の位置を複数の前記ライニング部材の間で調整可能なように、複数の前記ライニング部材を支持する揺動調整機構と、
複数の前記ライニング部材に対して当接した状態で、前記ディスクと複数の前記ライニング部材との間で発生する摩擦制動力によって前記摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重を支持する荷重支持部材と、
前記ディスクブレーキ装置におけるブレーキシリンダ装置によって駆動されるキャリパボディに対して揺動自在に保持されることが可能であるとともに、複数の前記ライニング部材を前記揺動調整機構を介して支持するライニング支持部と、
を備えていることを特徴とする、ディスクブレーキパッド。
車両に設置されるディスクブレーキ装置に用いられ、車両において車軸又は車輪とともに回転するように設置されるディスクに対してディスクブレーキパッドを押し付け可能な、ブレーキキャリパ装置であって、
前記ディスクブレーキ装置におけるブレーキシリンダ装置が装備されて車両に対して車両ロール回転方向に回転自在となるように取り付けられるとともに、前記ブレーキシリンダ装置によって駆動されることで一対の前記ディスクブレーキパッドにより前記ディスクを挟み込んでブレーキ力を発生させるキャリパボディと、
前記キャリパボディに対して取り付けられる一対の前記ディスクブレーキパッドと、
を備え、
前記ディスクブレーキパッドは、
前記ディスクにおける摩擦制動面に対して押し付け可能な複数のライニング部材と、
複数の前記ライニング部材のそれぞれを揺動可能に支持するように設置される第1揺動調整部材を有し、前記第1揺動調整部材が揺動することで、前記ライニング部材を前記摩擦制動面に対して当該摩擦制動面に垂直な方向に沿って押し付ける際の押し付け方向の位置を複数の前記ライニング部材の間で調整可能なように、複数の前記ライニング部材を支持する揺動調整機構と、
複数の前記ライニング部材に対して当接した状態で、前記ディスクと複数の前記ライニング部材との間で発生する摩擦制動力によって前記摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重を支持する荷重支持部材と、
前記ブレーキシリンダ装置によって駆動される前記キャリパボディに対して揺動自在に保持されることが可能であるとともに、複数の前記ライニング部材を前記揺動調整機構を介して支持するライニング支持部と、
を備えていることを特徴とする、ブレーキキャリパ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたディスクブレーキパッドは、ディスクの摩擦制動面とライニング部材との面圧の均一化を図ることを指向した構成によって、ヒートスポットの発生を抑制し、ヒートクラックの発生を抑制を図ろうとするものと考えられる。しかしながら、特許文献1に開示されたディスクブレーキパッドの場合、球形キャップ(11、23)が、支持する部材に設けられたシェル状の切欠内にはめこまれて構成された旋回支持機構が、用いられている。この旋回支持機構によって、ライニング部材(3)が支持プレート(7)に旋回可能に結合され、或いは、支持プレート(7)がライニング支持部材(19)に旋回可能に結合される。
【0009】
特許文献1に開示されたディスクブレーキパッドでは、上記の旋回支持機構が多数設けられ、凹んだ球面に対して盛り上がった球面が嵌まり込んで摺動する構造を多く設ける必要がある。このため、加工が難しい摺動用の球面を加工するための球面加工が多く必要となる。よって、特許文献1に開示されたディスクブレーキパッドでは、加工工数の増大を招いてしまうという問題がある。
【0010】
更に、特許文献1に開示されたような上記の旋回支持機構の場合、ディスクと複数のライニング部材との間で発生する摩擦制動力によって摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重も、全て、摺動する球面に作用することになる。このため、接触する球面間において、上記の荷重によって生じる摩擦が抵抗となり、接触する球面間での円滑な摺動動作が阻害され易くなってしまう。これにより、複数のライニング部材の間における摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能が阻害され易くなってしまうという問題がある。よって、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる、ディスクブレーキパッドの実現が望ましい。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、ディスクにおけるヒートスポットの発生を抑制してヒートクラックの発生を抑制できるとともに、加工工数を低減でき、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる、ディスクブレーキパッドを提供することを目的とする。また、そのディスクブレーキパッドを備えるブレーキキャリパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、車両に設置されるディスクブレーキ装置に用いられ、車両において車軸又は車輪とともに回転するように設置されるディスクに対して押し付け可能な、ディスクブレーキパッドに関する。そして、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記ディスクにおける摩擦制動面に対して押し付け可能な複数のライニング部材と、複数の前記ライニング部材のそれぞれを揺動可能に支持するように設置される第1揺動調整部材を有し、前記第1揺動調整部材が揺動することで、前記ライニング部材を前記摩擦制動面に対して当該摩擦制動面に垂直な方向に沿って押し付ける際の押し付け方向の位置を複数の前記ライニング部材の間で調整可能なように、複数の前記ライニング部材を支持する揺動調整機構と、複数の前記ライニング部材に対して当接した状態で、前記ディスクと複数の前記ライニング部材との間で発生する摩擦制動力によって前記摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重を支持する荷重支持部材と、前記ディスクブレーキ装置におけるブレーキシリンダ装置によって駆動されるキャリパボディに対して揺動自在に保持されることが可能であるともに、複数の前記ライニング部材を前記揺動調整機構を介して支持するライニング支持部と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
この構成によると、複数のライニング部材が、ライニング支持部に対して、揺動調整機構を介して支持される。更に、揺動調整機構は、複数のライニング部材を第1揺動調整部材にて揺動可能に支持する。そして、第1揺動調整部材が揺動することで、複数のライニング部材の間で摩擦制動面への押し付け方向の位置が調整される。即ち、摩擦制動面の表面において熱的膨張によって部分的に盛り上がった箇所が発生して表面の凹凸ができた場合であっても、その表面の凹凸に倣うように、第1揺動調整部材に支持された複数のライニング部材の間で、押し付け方向の位置が調整される。そして、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力が調整されることになる。これにより、摩擦制動面の表面で部分的に盛り上がった箇所に対して、対応するライニング部材が、周辺の領域に対応するライニング部材よりも強く押し付けられてしまうことが抑制される。その結果、ディスクにおけるヒートスポットの発生が抑制され、ディスクにおけるヒートクラックの発生も抑制される。
【0014】
また、上記の構成によると、荷重支持部材が複数のライニング部材に対して当接することで、ディスクと複数のライニング部材との間で発生する摩擦制動力によって摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重が、荷重支持部材によって支持される。このため、摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重が、ライニング部材が第1揺動調整部材に揺動可能に支持される箇所、或いは、揺動調整機構において第1揺動調整部材が支持される箇所に作用することが抑制される。これにより、揺動調整機構の作動に対して上記の荷重によって生じる摩擦が抵抗となってしまうことが抑制され、揺動調整機構の円滑な作動が確保される。即ち、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる。また、上記の構成によると、特許文献1に開示されたような旋回支持機構が不要となる。即ち、加工が難しい摺動用の球面を加工するための球面加工が不要となる。よって、加工工数を低減することができる。
【0015】
従って、上記の構成によると、ディスクにおけるヒートスポットの発生を抑制してヒートクラックの発生を抑制できるとともに、加工工数を低減でき、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる、ディスクブレーキパッドを提供することができる。
【0016】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記第1揺動調整部材は、両端部のそれぞれにおいて前記ライニング部材を支持するように設置され、前記揺動調整機構は、前記第1揺動調整部材をその両端部の間の中途位置において支持することが好ましい。
【0017】
この構成によると、第1揺動調整部材は、その中途位置で支持されるとともに両端部でライニング部材をそれぞれ揺動可能に支持するシーソー状に構成される。このため、揺動することで複数のライニング部材の間で摩擦制動面への押し付け方向の位置を調整する機構を簡素な構成で実現することができる。
【0018】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記第1揺動調整部材は、その長手方向が、前記ディスクの回転中心線を中心とする当該ディスクの半径方向に平行な方向、又は前記回転中心線を中心とする円の接線方向に平行な方向に沿って延びるように、設置され、当該第1揺動調整部材の長手方向における両端部のそれぞれにおいて、前記ライニング部材を支持するように設置されていることが好ましい。
【0019】
この構成によると、ディスクの半径方向或いは回転方向に沿って設置された複数のライニング部材をそれぞれ支持する複数の第1揺動調整部材がディスクの半径方向或いは回転方向に沿って設置される。このため、摩擦制動面に沿って、複数のライニング部材とそれらを支持する複数の第1揺動調整部材とを効率的に密集させて配置することができる。これにより、多数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能の更なる円滑化を図ることができる。
【0020】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記荷重支持部材は、複数の前記ライニング部材のそれぞれの一部が挿通される貫通孔或いは凹みが複数設けられた平板状の部分を含む部材として設けられ、前記貫通孔或いは前記凹みの縁部分に対して、前記ライニング部材が当接することが好ましい。
【0021】
この構成によると、ライニング部材に縁部分が当接する貫通孔又は凹みを複数設けた平板状の部分を有する簡素な構造で、摩擦制動力によって摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重を支持する荷重支持部材を容易に形成することができる。
【0022】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記揺動調整機構は、複数の前記第1揺動調整部材を支持するように設置される第2揺動調整部材を更に有し、前記第2揺動調整部材が揺動することで、前記押し付け方向の位置を複数の前記第1揺動調整部材の間で調整可能なように、それぞれ複数の前記第1揺動調整部材を支持することが好ましい。
【0023】
この構成によると、揺動調整機構には、第1揺動調整部材による複数のライニング部材の間での摩擦制動面への押し付け方向の位置の調整機能に加え、第2揺動調整部材による複数の第1揺動調整部材の間での上記の押し付け方向の位置の調整機能も設けられる。このため、複数のライニング部材の間における押し付け位置の調整機能に関し、第1揺動調整部材による揺動動作と第2揺動調整部材による揺動動作とによって、更に円滑で柔軟性の高い位置調整機能が実現されることになる。
【0024】
尚、第2揺動調整部材が複数設けられた揺動調整機構において、複数の第2揺動調整部材を支持するように設置される第3揺動調整部材が更に設けられ、第3揺動調整部材が揺動することで、押し付け方向の位置を複数の第2揺動調整部材の間で調整可能なように、それぞれ複数の第2揺動調整部材を支持する構成が設けられてもよい。また、揺動調整機構において、第2揺動調整部材が第1揺動調整部材を支持する構造、或いは第3揺動調整部材が第2揺動調整部材を支持する構造のような、上記と同様の支持構造で、更に多段構造となるように、下段側の揺動調整部材を揺動可能に支持する上段側の揺動調整部材が設けられた支持構造が構成されてもよい。
【0025】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記ライニング支持部には、複数の前記ライニング部材を支持する台座部と、前記台座部に対して一体に又は固定されて設けられて前記キャリパボディからの荷重を前記台座部に伝達可能な荷重伝達部と、が設けられ、前記荷重伝達部は、前記台座部に対して、複数の前記ライニング部材が前記摩擦制動面に押し付けられる際に複数の前記ライニング部材と前記摩擦制動面との間で生じる面圧の大きさが前記ディスクの回転中心線の位置からの当該ディスクの半径方向における距離の大きさに反比例するように当該面圧を発生させる荷重を前記台座部に作用可能な位置において、設けられていることが好ましい。
【0026】
本願発明者は、ディスクにおけるヒートスポットの発生を抑制できるとともに複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる前述の構成に加え、更に、ディスクブレーキパッドにおける偏摩耗の発生を抑制可能な構成についても、理論的考察を重ねるとともに繰り返し実験を行って検証を重ねた。そして、本願発明者は、そのように鋭意研究を重ねた結果、次の第1条件及び第2条件の両条件が充足されることで、偏摩耗の発生を抑制可能なディスクブレーキパッドを実現できることに想到した。
【0027】
上記の第1条件は、ディスクブレーキパッドの複数のライニング部材がディスクの摩擦制動面に押し付けられている制動動作中におけるディスクの摩擦制動面の温度の均一化を図ることである。ディスクの摩擦制動面の温度のばらつきが発生すると、温度が高いところのライニング部材の摩耗が促進され、偏摩耗となる。よって、第1条件が充足されると、ディスクの摩擦制動面温度の不均一によるライニング部材の偏摩耗が抑制されることになる。
【0028】
また、第2条件は、制動動作中において、摩擦制動面に押し付けられる複数のライニング部材の単位面積当たりの制動エネルギの均一化を図ることである。ライニング部材の摩耗量は、摩擦制動面に押し付けられるライニング部材の制動エネルギの関数で表せる。このため、上記の第2条件が充足されると、ライニング部材の単位面積当たりの制動エネルギのばらつきによる偏摩耗が抑制され、ライニング部材の摩耗量の均一化が図られることになる。
【0029】
上記の第1条件が充足されるためには、ディスクの摩擦制動面の熱流束の値が均一化されることが必要となる。そして、ディスクは、回転する円形の平板状の部材として構成されるため、ディスクの半径方向における寸法が単位寸法のリング状要素を考えた場合、このリング状要素の面積は、その半径に比例することになる。従って、全摩擦面の熱流束が均一となるためには、リング状要素の単位時間当たりの摩擦熱は、半径に比例する必要がある。一方、この要素における摩擦熱(熱流)は、ディスクブレーキパッドの押し付け荷重とすべり速度とに比例する。また、リング状要素のすべり速度は、その半径に比例するため、この要素における摩擦熱は、荷重と半径とに比例する。以上の関係から、第1条件が充足されるためには、リング状要素におけるディスクブレーキパッドからの荷重を、ディスクの半径方向におけるいずれの位置のリング状要素であっても、その半径によらず、摩擦制動面における均一な熱流束の値に応じて定まる一定の値とする必要がある。
【0030】
また、第2条件が充足されるためには、単位面積当たりの単位時間当たりにおけるディスクブレーキパッドの制動エネルギの値が均一化されることが必要となる。そして、前述のディスクのリング状要素に対応するライニング部材側の要素における制動エネルギが半径に比例するため、上記制動エネルギを均一化するには、ライニング部材側の要素の面積を半径に比例させる必要がある。更に、リング状要素におけるディスクブレーキパッドからの荷重を、上記のように得られたライニング部材側の要素の面積にて除した値が、ライニング部材側の要素に生じた面圧となる。このため、上記の面圧は、ライニング部材側の要素の半径に反比例することになる。
【0031】
そして、上記の構成のディスクブレーキパッドは、荷重伝達部が、台座部に対して、複数のライニング部材と摩擦制動面との間で生じる面圧の大きさがディスクの回転中心線の位置からのディスクの半径方向における距離の大きさに反比例するようにその面圧を発生させる荷重を台座部に作用可能な位置において、設けられている。このため、上記の構成のディスクブレーキパッドによると、前述の第1条件及び第2条件が充足されることになる。よって、上記の構成によると、ディスクブレーキパッドの偏摩耗の発生を抑制することができる。尚、上記の構成のディスクブレーキパッドは、使用が開始された初期使用状態においては、所定の初期摩耗状態が発生する。しかし、上記の構成のディスクブレーキによると、初期摩耗状態を経過して安定した使用状態になって以降の状態においては、偏摩耗の発生が抑制されることになる。
【0032】
従って、上記の構成によると、偏摩耗の発生を抑制することができる、ディスクブレーキパッドを提供することができる。
【0033】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、複数の前記ライニング部材は、前記回転中心線を中心とする円周に沿って円弧状に延びるとともに前記ディスクの半径方向における外側の縁部分を規定する外周円弧部と、前記回転中心線を中心とする円周に沿って円弧状に延びるとともに前記ディスクの半
径方向における内側の縁部分を規定する内周円弧部と、前記外周円弧部及び前記内周円弧部に対して前記回転中心線を中心とする円周方向における両側の縁部分をそれぞれ規定するとともに、前記ディスクの半径方向に沿って直線状に延びる一対の直線部と、によって囲まれる領域に亘って広がるように設置可能であることが好ましい。
【0034】
この構成によると、ディスクブレーキパッドがディスクブレーキ装置に用いられる際には、複数のライニング部材が、ディスクの回転中心線と同心状に配置される外周円弧部及び内周円弧部と、それらの両側でディスクの半径方向に沿って延びる一対の直線部と、によって囲まれる領域に亘って広がるように設置される。このため、前述の第1条件及び第2条件を充足するためのディスクブレーキパッドを更に簡素な構造で実現することができる。
【0035】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記第1揺動調整部材は、揺動可能に支持する複数の前記ライニング部材のそれぞれを、当該ライニング部材が前記摩擦制動面に押し付けられる際に当該ライニング部材と当該摩擦制動面との間で生じる面圧の大きさが前記ディスクの回転中心線の位置からの当該ディスクの半径方向における距離の大きさに反比例するように当該面圧を発生させる荷重を当該ライニング部材に作用可能な位置において、支持していることが好ましい。
【0036】
この構成によると、ディスクブレーキパッドにおける複数のライニング部材の全体として、前述の第1条件及び第2条件が充足されることに加え、複数のライニング部材のそれぞれにおいても、前述の第1条件及び第2条件が充足されることになる。よって、個別のライニング部材においても、偏摩耗の発生が効率よく抑制されることになる。
【0037】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記第1揺動調整部材は、両端部のそれぞれにおいて前記ライニング部材を支持するように設置され、前記揺動調整機構は、前記第1揺動調整部材をその両端部の間の中途位置において支持し、前記第1揺動調整部材は、その長手方向が、前記ディスクの回転中心線を中心とする当該ディスクの半径方向に平行な方向に沿って延びるように、設置され、前記第1揺動調整部材にその両端部のそれぞれにおいて支持される前記ライニング部材のうち、一方は、前記ディスクの半径方向における外側に配置される外側ライニング部材として設けられ、他方は、前記ディスクの半径方向における内側に配置される内側ライニング部材として設けられていることが好ましい。そして、更に、このディスクブレーキパッドは、前記揺動調整機構において、前記第1揺動調整部材が当該揺動調整機構において支持される位置である第1支持位置から前記外側ライニング部材が前記第1揺動調整部材に支持される位置までの前記第1揺動調整部材の長手方向における距離と、前記第1支持位置から前記内側ライニング部材が前記第1揺動調整部材に支持される位置までの前記第1揺動調整部材の長手方向における距離と、の比が、前記外側ライニング部材と前記ディスクとの間で生じる前記押し付け方向の荷重の大きさと、前記内側ライニング部材と前記ディスクとの間で生じる前記押し付け方向の荷重の大きさと、の比に対して、逆比となるように設定されていることが好ましい。
【0038】
この構成によると、ディスクの半径方向に平行な方向に沿って延びるように設置された第1揺動調整部材において、第1支持位置から外側及び内側ライニング部材をそれぞれ支持する位置までの距離の比が、外側及び内側ライニング部材にそれぞれ作用する荷重の大きさの比の逆比に設定されている。このため、外側及び内側ライニング部材にそれぞれ作用する荷重の大きさが異なる場合であっても、それらの異なる荷重の大きさに応じて、外側及び内側ライニング部材の間における摩擦制動面に対する押し付け力が調整される。そして、個別のライニング部材において偏摩耗の発生が抑制される前述の構成に、上記の構成を更に付加することができる。これにより、個別のライニング部材において偏摩耗の発生を抑制できるとともに、複数のライニング部材に生じさせる荷重条件に関する制約を緩和することができる。よって、複数のライニング部材の間における摩擦制動面に対する押し付け力を調整できるとともに個別のライニング部材における偏摩耗の発生を抑制できるディスクブレーキパッドにおいて、設計自由度の向上を図ることができる。
【0039】
また、本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドは、前記揺動調整機構は、複数の前記第1揺動調整部材を支持するように設置される第2揺動調整部材を更に有し、前記第2揺動調整部材が揺動することで、前記押し付け方向の位置を複数の前記第1揺動調整部材の間で調整可能なように、それぞれ複数の前記第1揺動調整部材を支持し、前記第1揺動調整部材は、両端部のそれぞれにおいて前記ライニング部材を支持するように設置され、前記第2揺動調整部材は、両端部のそれぞれにおいて前記第1揺動調整部材を支持するように設置され、前記揺動調整機構は、前記第1揺動調整部材をその両端部の間の中途位置において支持するとともに、前記第2揺動調整部材をその両端部の間の中途位置において揺動可能に支持し、前記第2揺動調整部材の両端部のそれぞれにおいて支持される前記第1揺動調整部材は、その長手方向が、前記ディスクの回転中心線を中心とする円の接線方向に平行な方向に沿って延びるように、設置され、前記第2揺動調整部材は、その長手方向が、前記ディスクの回転中心線を中心とする当該ディスクの半径方向に平行な方向に沿って延びるように、設置され、前記第2揺動調整部材にその両端部のそれぞれにおいて支持される前記第1揺動調整部材のうち、一方は、前記ディスクの半径方向における外側に配置される外側揺動調整部材として設けられ、他方は、前記ディスクの半径方向における内側に配置される内側揺動調整部材として設けられていることが好ましい。そして、このディスクブレーキパッドは、更に、前記揺動調整機構において、前記第2揺動調整部材が当該揺動調整機構において支持される位置である第2支持位置から前記外側揺動調整部材が前記第2揺動調整部材に支持される位置までの前記第2揺動調整部材の長手方向における距離と、前記第2支持位置から前記内側揺動調整部材が前記第2揺動調整部材に支持される位置までの前記第2揺動調整部材の長手方向における距離と、の比が、前記外側揺動調整部材に支持された複数の前記ライニング部材と前記ディスクとの間で生じる前記押し付け方向の荷重の大きさと、前記内側揺動調整部材に支持された複数の前記ライニング部材と前記ディスクとの間で生じる前記押し付け方向の荷重の大きさと、の比に対して、逆比となるように設定されていることが好ましい。
【0040】
この構成によると、ディスクの半径方向に平行な方向に沿って延びるように設置された第2揺動調整部材において、第2支持位置から外側及び内側揺動調整部材をそれぞれ支持する位置までの距離の比が、外側揺動調整部材に支持されたライニング部材及び内側揺動調整部材に支持されたライニング部材にそれぞれ作用する荷重の大きさの比の逆比に設定されている。このため、外側揺動調整部材に支持されたライニング部材及び内側揺動調整部材に支持されたライニング部材にそれぞれ作用する荷重の大きさが異なる場合であっても、それらの異なる荷重の大きさに応じて、外側及び内側揺動調整部材の間における摩擦制動面に対する押し付け力が調整される。そして、個別のライニング部材において偏摩耗の発生が抑制される前述の構成に、上記の構成を更に付加することができる。これにより、第1揺動調整部材を支持する第2揺動調整部材が設けられた揺動調整機構を備えるディスクブレーキパッドにおいて、個別のライニング部材において偏摩耗の発生を抑制できるとともに、複数のライニング部材に生じさせる荷重条件に関する制約を緩和することができる。よって、複数のライニング部材の間における摩擦制動面に対する押し付け力を調整できるとともに個別のライニング部材における偏摩耗の発生を抑制できる上記のディスクブレーキパッドにおいて、設計自由度の向上を図ることができる。
【0041】
また、本発明のある局面に係るブレーキキャリパ装置は、車両に設置されるディスクブレーキ装置に用いられ、車両において車軸又は車輪とともに回転するように設置されるディスクに対してディスクブレーキパッドを押し付け可能な、ブレーキキャリパ装置に関する。そして、本発明のある局面に係るブレーキキャリパ装置は、前記ディスクブレーキ装置におけるブレーキシリンダ装置が装備されて車両に対して車両ロール回転方向に回転自在となるように取り付けられるとともに、前記ブレーキシリンダ装置によって駆動されることで一対の前記ディスクブレーキパッドにより前記ディスクを挟み込んでブレーキ力を発生させるキャリパボディと、前記キャリパボディに対して取り付けられる一対の前記ディスクブレーキパッドと、を備え、前記ディスクブレーキパッドは、前記ディスクにおける摩擦制動面に対して押し付け可能な複数のライニング部材と、複数の前記ライニング部材のそれぞれを揺動可能に支持するように設置される第1揺動調整部材を有し、前記第1揺動調整部材が揺動することで、前記ライニング部材を前記摩擦制動面に対して当該摩擦制動面に垂直な方向に沿って押し付ける際の押し付け方向の位置を複数の前記ライニング部材の間で調整可能なように、複数の前記ライニング部材を支持する揺動調整機構と、複数の前記ライニング部材に対して当接した状態で、前記ディスクと複数の前記ライニング部材との間で発生する摩擦制動力によって前記摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重を支持する荷重支持部材と、前記ブレーキシリンダ装置によって駆動される前記キャリパボディに対して揺動自在に保持されることが可能であるともに、複数の前記ライニング部材を前記揺動調整機構を介して支持するライニング支持部と、を備えていることを特徴とする。
【0042】
この構成によると、前述した本発明のある局面に係るディスクブレーキパッドと同様の効果を奏することができる。即ち、この構成によると、ディスクにおけるヒートスポットの発生を抑制してヒートクラックの発生を抑制できるとともに、加工工数を低減でき、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる、ブレーキキャリパ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、ディスクにおけるヒートスポットの発生を抑制してヒートクラックの発生を抑制できるとともに、加工工数を低減でき、複数のライニング部材の間において摩擦制動面に対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる、ディスクブレーキパッドを提供することができる。また、そのディスクブレーキパッドを備えるブレーキキャリパ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態は、車両に設置されるディスクブレーキ装置に用いられ、車両において車軸又は車輪とともに回転するように設置されるディスクに対して押し付け可能な、ディスクブレーキパッド、及びそのディスクブレーキパッドを備えるブレーキキャリパ装置に関して、広く適用することができるものである。尚、本実施形態のディスクブレーキパッド及びブレーキキャリパ装置については、鉄道車両用として用いられる場合を例にとって説明する。
【0046】
[ディスクブレーキ装置]
図1は、本発明の一実施の形態に係るブレーキキャリパ装置1及びディスクブレーキパッド10が設けられた、ディスクブレーキ装置100を車軸方向から見た図であって、ディスクブレーキ装置100の側面図である。また、
図2は、
図1に示すディスクブレーキ装置100を上方から見た平面図である。尚、本実施形態のブレーキキャリパ装置1は、本実施形態のディスクブレーキパッド10を備えて構成されている。そして、ディスクブレーキ装置100は、ブレーキキャリパ装置1を備えて構成されている。
【0047】
ディスクブレーキ装置100は、例えば、鉄道車両に設置される。
図1では、ディスクブレーキ装置100が、鉄道車両の一部として二点鎖線で示す車両本体102に対して設置されている状態が図示されている。そして、
図1及び
図2に示すように、ディスクブレーキ装置100は、ブレーキシリンダ装置101、ブレーキキャリパ装置1、を備えて構成されている。
【0048】
ブレーキシリンダ装置101は、圧力流体によって作動してロッド(図示を省略)を移動させ、ロッドとともに移動するブレーキ出力部101aからブレーキ力を出力する装置として構成されている。尚、ブレーキシリンダ装置101がブレーキ力を出力して制動動作が行われる際には、ブレーキ出力部101aが、ブレーキシリンダ装置101のシリンダ本体101bから伸張するように動作する。一方、ブレーキシリンダ装置101から出力されるブレーキ力による制動動作が解除される際には、ブレーキ出力部101aが、シリンダ本体101bに向かって収縮するように動作する。
【0049】
[ブレーキキャリパ装置]
ディスクブレーキ装置100に用いられるブレーキキャリパ装置1は、ブレーキシリンダ装置101が装備されて車両本体102に対して車両ロール回転方向において回転自在となるように取り付けられたキャリパボディ11、一対のディスクブレーキパッド(10、10)、等を備えて構成されている。尚、上記の車両ロール回転方向とは、車両の進行方向を回転軸方向とする回転方向をいう。そして、ブレーキキャリパ装置1は、ブレーキシリンダ装置101によって駆動されることで一対のディスクブレーキパッド(10、10)によりディスク103を挟み込んでブレーキ力を発生させるように構成されている。このため、ブレーキキャリパ装置1は、ディスク103に対してディスクブレーキパッド10を押し付け可能な装置として設けられている。
【0050】
尚、ディスク103は、鉄道車両において車輪(図示を省略)又はその車輪の車軸(図示を省略)とともに回転するように設置される。また、ディスク103は、その回転中心線に対して垂直な方向に広がるように形成される表裏の摩擦制動面(103a、103a)を有する円板状に形成されている。尚、ディスク103の回転中心線は、鉄道車両の車輪の車軸の中心軸線と一致することになる。そして、ブレーキキャリパ装置1は、ブレーキシリンダ装置101が作動することで、一対のディスクブレーキパッド(10、10)が、摩擦制動面(103a、103a)に対して、ディスク103の回転中心線方向に平行な方向に沿ってディスク103を両側から挟み込むように押し付けられる。
【0051】
キャリパボディ11は、結合部材12、一対のブレーキてこ(13、13)、一対の支点軸(14、14)、一対のシリンダ支持ピン(15、15)、複数の揺動ピン16、等を備えて構成されている。尚、本実施形態では、揺動ピン16は4つ設けられ、1つのブレーキてこ13に2つの揺動ピン(16、16)が対応して設けられている。
【0052】
結合部材12は、車両本体102の底面に固定されたブラケット102aに対して、車両の進行方向と平行な軸周りに揺動可能なように揺動ピン12aを介して取り付けられている。そして、この結合部材12に対して、略対称に、一対のブレーキてこ(13、13)が、一対の支点軸(14、14)を介して揺動可能に設置されている。各支点軸14は、ディスク103の回転中心線方向と平行な方向から見た場合に、揺動ピン12aの軸方向に対して垂直な方向に延びるように設置されている。
【0053】
一対のブレーキてこ(13、13)のそれぞれは、揺動ピン12aと略平行な方向に沿って延びるように設置される。そして、一対のブレーキてこ(13、13)は、その一端側にブレーキシリンダ装置101が一対のシリンダ支持ピン(15、15)を介して取り付けられており、このブレーキシリンダ装置101により一端側が駆動されるように構成されている。
【0054】
尚、各ブレーキてこ(13、13)の一端側は、各シリンダ支持ピン15を介して、ブレーキシリンダ装置101の端部に対して揺動自在に取り付けられている。また、一対のブレーキてこ(13、13)のうちの一方の一端側には、ブレーキ出力部101aが連結されている。そして、一対のブレーキてこ(13、13)のうちの他方の一端側には、シリンダ本体101bにおけるブレーキ出力部101a側と反対側の端部が連結されている。
【0055】
また、一対のブレーキてこ(13、13)には、ブレーキシリンダ装置101が取り付けられた一端側に対して一対の支点軸(14、14)を介して反対側である他端側において、一対のディスクブレーキパッド(10、10)が取り付けられている。また、一対のブレーキてこ(13、13)の他端側は、複数の揺動ピン(16、16)を介して、一対のディスクブレーキパッド(10、10)に取り付けられている。尚、各ディスクブレーキパッド10は、各ブレーキてこ13の他端側に対して、一対の揺動ピン(16、16)を介して、揺動自在に取り付けられている。また、各揺動ピン16は、支点軸14に対して平行な方向に延びるように設置されている。
【0056】
上述したブレーキキャリパ装置1が設けられるディスクブレーキ装置100においては、ブレーキシリンダ装置101の作動によりブレーキ出力部101aがシリンダ本体101bから伸張する動作(シリンダ本体101
bから離隔する方向の動作)又はシリンダ本体101bに対して収縮する動作(シリンダ本体101bに接近する方向の動作)が行われる。これにより、一対のブレーキてこ(13、13)におけるシリンダ支持ピン15が連結された部分が、互いに離隔したり、接近したりするように駆動される。
【0057】
上記のように駆動されることにより、ディスクブレーキ装置100においては、各ブレーキてこ13が、各支点軸14を中心として揺動するように動作する。これにより、一対のブレーキてこ(13、13)とともに駆動される一対のディスクブレーキパッド(10、10)が、ディスク103を挟むように動作することになる。
【0058】
また、上記の動作の際には、例えば、一対のブレーキてこ(13、13)において、一方のブレーキてこ13に取り付けられた一方のディスクブレーキパッド10が先にディスク103の摩擦制動面103aに接触する。更に、他方のブレーキてこ13は、摩擦制動面103aに接触した一方のディスクブレーキパッド10から受ける反力を利用して他方のディスクブレーキパッド10をディスク103の摩擦制動面103aに押し当てることになる。これにより、ディスク103が一対のディスクブレーキパッド(10、10)によって挟み込まれ、ディスクブレーキパッド(10、10)と摩擦制動面(103a、103a)との間に摩擦制動力が発生する。この摩擦制動力によってディスク103の回転が制動され、ディスク103と同軸に設けられている鉄道車両の車輪の回転が制動されることになる。
【0059】
[ディスクブレーキパッド]
次に、本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキパッド10について詳しく説明する。前述のように、ディスクブレーキパッド10は、ディスクブレーキ装置100に用いられ、ディスク103に対して押し付け可能な機構として設けられる。そして、ブレーキキャリパ装置1における一対のディスクブレーキパッド(10、10)は、キャリパボディ11における一対のブレーキてこ(13、13)に対して取り付けられる。
【0060】
また、一対のディスクブレーキパッド(10、10)は、同様に構成されている。このため、以下の説明においては、一方のディスクブレーキパッド10について説明し、他方のディスクブレーキパッド10についての説明を省略する。尚、一対のディスクブレーキパッド(10、10)は、ディスク103の両側に設置される際には、ディスク103を中心として対称な配置となるように設置される。
【0061】
図3は、鉄道車両に設置されたディスクブレーキ装置100のブレーキキャリパ装置1に取り付けられたディスクブレーキパッド10について鉄道車両の車輪の車軸方向から見た図である。
図4は、
図3に示すディスクブレーキパッド10についてディスク103と平行な方向から見た図である。
図5は、
図4に示すディスクブレーキパッド10の分解斜視図である。尚、
図3及び
図4においては、キャリパボディ11についてはその一部のみが図示されており、揺動ピン16の図示が省略されている(後述の
図10も同様)。また、
図5においては、ディスクブレーキパッド10のみが図示されている。
【0062】
図1乃至
図5に示すディスクブレーキパッド10は、複数のライニング部材21、複数の揺動調整機構22、荷重支持部材23、ライニング支持部24、等を備えて構成されている。尚、
図5は、複数の揺動調整機構22のうち、1つの揺動調整機構22のみについて、荷重支持部材23に対する位置をずらした状態で図示している。また、
図5は、上記の1つの揺動調整機構22に対応する4個のライニング部材21について、荷重支持部材23に対する位置をずらした状態で図示している。
【0063】
図4及び
図5に示すように、ライニング部材21は、複数設けられている。各ライニン
グ部材21は、ディスク103における摩擦制動面103aに対して押し付け可能な部材として設けられる。そして、各ライニング部材21は、例えば、有機材或いは焼結金属材により形成されている。
【0064】
図6は、
図5に示す複数のライニング部材21の配置状態を示す図である。尚、
図6においては、複数のライニング部材21について鉄道車両の車輪の車軸方向から見た状態が示されている。また、
図7は、
図5に示す複数のライニング部材21のうちの一部を示す斜視図である。
【0065】
図4乃至
図7に示すように、複数のライニング部材21のそれぞれは、ディスク103の摩擦制動面103aに対向して配置される。そして、複数のライニング部材21は、ディスク103の摩擦制動面103aに平行な面に沿って配置される。
【0066】
また、複数のライニング部材21は、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円周に沿って円弧状に並んで配置されるとともに、ディスク103の半径方向に平行な方向にも並んで配置されている。尚、回転中心線C1については、
図6において、一点鎖線の交点として図示されている。また、
図6において、ディスク103の半径方向に平行な方向のいくつか(
図6では、3つを例示)については、回転中心線C1から放射状に延びる複数の一点鎖線で図示されている。また、本実施形態では、回転中心線C1を中心とする円周に沿ってライニング部材21が8列に並び、ディスク103の半径方向に平行な方向に沿ってライニング部材21が2列に並んだ形態のディスクブレーキパッド10が、例示されている。
【0067】
また、各ライニング部材21は、一体に形成された本体部21a及び当接部21bを備えて構成されている。本体部21aは、板状の部分として設けられ、ディスク103の摩擦制動面103aに対向するとともに摩擦制動面103aに押し付けられる面が形成されている。本体部21aにおいて板状に広がる平坦な部分の外形は、閉領域を区画するように延びる4つの稜線で区画されている。1つ目の稜線は、ディスク103の半径方向における外側に配置される円弧状の部分として構成されている。2つ目の稜線は、ディスク103の半径方向における内側に配置される円弧状の部分として構成されている。3つ目及び4つめの稜線は、ディスク103の半径方向と平行な方向に沿って延びるとともに両方の円弧状の部分を繋ぐ一対の直線状の部分として構成されている。
【0068】
当接部21bは、後述する揺動調整機構22に対して当接して支持される部分として設けられている。この当接部21bは、本体部21aから略直方体状の形状で突出する部分として設けられている。そして、当接部21bは、本体部21aに対して、摩擦制動面103aに押し付けられる面と反対側に配置される面において、一体に設けられている。また、当接部21bには、本体部21aから突出する先端部において、凹み穴21cが設けられている。本実施形態では、半球面状に凹む穴として設けられた形態の凹み穴21cを例示している。当接部21bが、凹み穴21cの内側において、揺動調整機構22に対して当接することで、後述するように、ライニング部材21が、揺動調整機構22に支持される。
【0069】
図8は、ディスクブレーキパッド10における複数のライニング部材21がディスク103の摩擦制動面103aに平行な面に沿って設置される領域であるライニング設置領域20を模式的に示す図である。摩擦制動面103aに平行な面に沿って広がるとともに複数のライニング部材21が設置されるライニング設置領域20は、その周縁部分が、外周円弧部25、内周円弧部26、一対の直線部(27a、27b)として構成されている。
【0070】
外周円弧部25は、一端側が屈曲部を介して直線部27aに連続し、他端側が屈曲部を介して直線部27bに連続している。そして、内周円弧部26も、一端側が屈曲部を介して直線部27aに連続し、他端側が屈曲部を介して直線部27bに連続している。よって、ライニング設置領域20の周縁部分は、外周円弧部25、直線部27a、内周円弧部26、直線部27bの順番で連続して1周する閉領域を区画するように構成されている。また、上記の構成により、ライニング設置領域20に設置される複数のライニング部材21は、外周円弧部25、内周円弧部26、及び一対の直線部(27a、27b)によって囲まれる領域に亘って広がるように設置可能に構成されている。
【0071】
外周円弧部25は、ライニング設置領域20において、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円周に沿って円弧状に延びるとともにディスク103の半径方向における外側の縁部分を規定する部分として構成されている。尚、ディスク103の回転中心線C1については、
図8において、複数の一点鎖線の交点C1として模式的に示されている。
図8では、回転中心線C1は、図中の点C1を通るとともに図面に対して垂直な方向に延びる線として構成される。
【0072】
内周円弧部26は、ライニング設置領域20において、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円周に沿って円弧状に延びるとともにディスク103の半径方向における内側の縁部分を規定する部分として構成されている。このため、ディスク103の半径方向において、内周円弧部26は、外周円弧部25よりも内側、即ち、外周円弧部25よりも回転中心線C1側に配置されている。
【0073】
一対の直線部(27a、27b)は、ライニング設置領域20において、外周円弧部25及び内周円弧部26に対してディスク103の回転中心線C1を中心とする円周方向における両側の縁部分をそれぞれ規定するとともに、ディスク103の半径方向に沿って直線状に延びる部分として構成されている。尚、
図8では、直線部27aが、ディスク103の半径方向R1に沿って延びる部分として図示され、直線部27bが、ディスク103の半径方向R2に沿って延びる部分として図示されている。
【0074】
図4及び
図5に示すように、揺動調整機構22は、複数設けられている。複数の揺動調整機構22のそれぞれは、複数のライニング部材21を支持するように構成されている。本実施形態では、1つの揺動調整機構22が4個のライニング部材22を支持する形態のディスクブレーキパッド10が、例示されている。
【0075】
図9は、1つの揺動調整機構22を示す斜視図である。
図4、
図5及び
図9に示すように、揺動調整機構22は、一対の第1揺動調整部材(28、29)、第2揺動調整部材30、受け部31、等を備えて構成されている。
【0076】
第1揺動調整部材28及び第1揺動調整部材29は、同様の部材として構成されている。第1揺動調整部材28には、細長い板状に形成された本体部28aと、本体部28aから突起状に突出する部分として設けられた一対の凸部(28b、28b)とが、設けられている。本体部28aと一対の凸部(28b、28b)とは、一体に形成されている。そして、一対の凸部(28b、28b)は、本体部28aの長手方向における両端部のそれぞれにおいて、互いに平行な方向に向かって本体部28aから突起状に突出する部分として設けられている。尚、本実施形態では、各凸部28bの端部が半球状に形成された形態を例示している。
【0077】
第1揺動調整部材29にも、第1揺動調整部材28と同様に、細長い板状に形成された本体部29aと、本体部29aから突起状に突出する部分として設けられた一対の凸部(29b、29b)とが、設けられている。本体部29aと一対の凸部(29b、29b)とは、一体に形成されている。そして、一対の凸部(29b、29b)は、本体部29aの長手方向における両端部のそれぞれにおいて、互いに平行な方向に向かって本体部29aから突起状に突出する部分として設けられている。尚、本実施形態では、各凸部29bの端部が半球状に形成された形態を例示している。
【0078】
第1揺動調整部材28における一対の凸部(28b、28b)のそれぞれは、各ライニング部材21の凹み穴21cに対して、遊嵌状態で嵌め込まれた状態で、当接している。これにより、第1揺動調整部材28は、各凸部28bにて各ライニング部材21に当接し、2個のライニング部材21を揺動可能に支持するように設置されている。同様に、第1揺動調整部材29における一対の凸部(29b、29b)のそれぞれは、各ライニング部材21の凹み穴21cに対して、遊嵌状態で嵌め込まれた状態で、当接している。これにより、第1揺動調整部材29は、各凸部29bにて各ライニング部材21に当接し、2個のライニング部材21を揺動可能に支持するように設置されている。
【0079】
上記の構成により、第1揺動調整部材(28、29)のそれぞれは、ディスクブレーキパッド10において、複数(本実施形態では、2つ)のライニング部材21のそれぞれを揺動可能に支持するように設置されている。そして、第1揺動調整部材(28、29)は、両端部のそれぞれにおいてライニング部材21を支持するように設置されている。
【0080】
第2揺動調整部材30は、複数(本実施形態では、2つ)の第1揺動調整部材(28、29)を支持するように設置される。そして、第2揺動調整部材30には、細長い軸状に形成された軸部30aと、軸部30aに固定されて後述する受け部31に当接する当接部30bとが、設けられている。
【0081】
軸部30aは、その長手方向における両端部において、第1揺動調整部材(28、29)が連結されている。即ち、軸部30aには、その長手方向における一方の端部に第1揺動調整部材28が連結されて支持され、その長手方向における他方の端部に第1揺動調整部材29が連結されて支持されている。第2揺動調整部材30の一方の端部は、第1揺動調整部材28をその第1揺動調整部材28の両端部の間の中途位置において支持している。第2揺動調整部材30の他方の端部は、第1揺動調整部材29をその第1揺動調整部材29の両端部の間の中途位置において支持している。尚、揺動調整機構22においては、後述するように、第2揺動調整部材30が揺動可能に支持されている。これにより、揺動調整機構22は、第1揺動調整部材(28、29)をその両端部の間の中途位置において揺動可能に支持している。
【0082】
また、第1揺動調整部材(28、29)のそれぞれは、軸部30aに対して、例えば、自在継手構造(図示省略)を介して連結されている。そして、第1揺動調整部材(28、29)のそれぞれは、軸部30aに対して、軸部30aの軸中心方向を中心とする回転方向において回転可能に連結されている。尚、第1揺動調整部材(28、29)のそれぞれは、軸部30aに対して、自在継手構造を介して連結されていなくてもよい。第1揺動調整部材(28、29)のそれぞれは、例えば、軸部30aに対して固定されていてもよい。
【0083】
当接部30bは、ライニング支持部24に固定された後述の受け部31に対して当接して支持される部分として設けられている。この当接部30bは、軸部30aに対して、軸部30aの長手方向における中央部分にて固定されている。そして、当接部30bには、軸部30aに固定される側と反対側であってライニング支持部24に対向する側において、凸部30cが設けられている。凸部30cは、軸部30aの長手方向における中央位置に対応する位置であって当接部30bの中心位置において、突起状に突出する部分として設けられている。尚、本実施形態では、凸部30cの端部が半球状に形成された形態を例示している。
【0084】
図10は、ディスクブレーキパッド10の一部の断面を示す図である。尚、
図10では、ディスクブレーキパッド10における回転中心線C1を中心とする円の接線方向に平行な面での断面が図示されている。また、
図10では、ディスクブレーキパッド10において回転中心線C1を中心とする円周方向における一方の端部側に配置された1つの揺動調整機構22及びその近傍の断面が図示されている。
図4及び
図10に示すように、凸部30cは、ライニング支持部24に固定された受け部31に当接して支持される。
【0085】
受け部31は、直方体状の部材として設けられ、ライニング支持部24における揺動調整機構22に対向する側の面に固定されている。尚、受け部31は、ライニング支持部24に一体に形成されていてもよい。そして、受け部31には、凸部30cに当接する凹み穴(図示省略)が設けられている。受け部31の凹み穴は、例えば、ライニング部材21の当接部21bの凹み穴21cと同様の形状に形成され、半球面状に凹む穴として設けられている。
【0086】
第2揺動調整部材30の凸部30cは、受け部31の凹み穴に対して、遊嵌状態で嵌め込まれた状態で、当接している。このように、第2揺動調整部材30は、凸部30cにて、ライニング支持部24に固定された受け部31の凹み穴の内側に当接し、ライニング支持部24に対して、受け部31を介して、揺動可能に支持されている。
【0087】
揺動調整機構22においては、前述のように、複数(本実施形態では、2つ)のライニング部材21のそれぞれを揺動可能に支持する第1揺動調整部材(28、29)が、更に揺動可能に支持されている。これにより、揺動調整機構22は、第1揺動調整部材(28、29)が揺動することで、押し付け方向の位置を複数のライニング部材21の間で調整可能なように、それぞれ複数のライニング部材21を支持するように構成されている。尚、上記の押し付け方向の位置は、ライニング部材21を摩擦制動面103aに対してこの摩擦制動面103aに垂直な方向に沿って押し付ける際の押し付け方向の位置となる。
【0088】
また、揺動調整機構22においては、前述のように、複数(本実施形態では、2つ)の第1揺動調整部材(28、29)を支持する第2揺動調整部材30が、揺動可能に支持されている。これにより、揺動調整機構22は、第2揺動調整部材30が揺動することで、前述の押し付け方向の位置を複数の第1揺動調整部材(28、29)の間で調整可能なように、それぞれ複数の第1揺動調整部材(28、29)を支持するように構成されている。
【0089】
図11は、揺動調整機構22の1つについて鉄道車両の車輪の車軸方向から見た図である。
図11においては、ディスク103の回転中心線C1(
図6、
図8を参照)を中心とするディスク103の半径方向に平行な方向として2つの方向D1、D2(
図11にて一点鎖線D1、D2でそれぞれ示す方向)が例示されている。また、
図11においては、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円の接線方向に平行な方向として方向T1(
図11にて一点鎖線T1で示す方向)が例示されている。
【0090】
揺動調整機構22においては、第1揺動調整部材(28、29)は、その長手方向が、ディスク103の回転中心線C1を中心とするディスク103の半径方向に平行な方向に沿って延びるように、設置されている。即ち、第1揺動調整部材28は、方向D1に沿って延びるように設置され、第1揺動調整部材29は、方向D2に沿って延びるように設置されている。そして、揺動調整機構22においては、第2揺動調整部材30は、その長手方向が、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円の接線方向に平行な方向に沿って延びるように、設置されている。即ち、第2揺動調整部材30は、方向T1に沿って延びるように設置されている。
【0091】
また、揺動調整機構22では、第1揺動調整部材(28、29)において、第2揺動調整部材30に支持される位置から2個のライニング部材21をそれぞれ支持する位置までの距離の比が、次に述べるように、所定の比となるように設定されている。ここで、その所定の比の説明のため、
図6を参照し、第1揺動調整部材(28、29)にその両端部のそれぞれにおいて支持されるライニング部材21のうち、ディスク103の半径方向における外側に配置される一方のライニング部材21を外側ライニング部材32aと定義する。そして、第1揺動調整部材(28、29)にその両端部のそれぞれにおいて支持されるライニング部材21のうち、ディスク103の半径方向における内側に配置される他方のライニング部材21を内側ライニング部材32bと定義する。即ち、第1揺動調整部材28は、ディスク103の半径方向の外側の端部で外側ライニング部材32aを支持し、ディスク103の半径方向の内側の端部で内側ライニング部材32bを支持する。同様に、第1揺動調整部材29は、ディスク103の半径方向の外側の端部で外側ライニング部材32aを支持し、ディスク103の半径方向の内側の端部で内側ライニング部材32bを支持する。
【0092】
また、上記の所定の比の説明のため、
図11を参照し、第1揺動調整部材(28、29)が揺動調整機構22において支持される位置である支持位置P1(本実施形態における第1支持位置)から外側ライニング部材32aが第1揺動調整部材(28、29)に支持される位置P2までの第1揺動調整部材(28、29)の長手方向における距離を距離G1と定義する。そして、支持位置P1から内側ライニング部材32bが第1揺動調整部材(28、29)に支持される位置P3までの第1揺動調整部材(28、29)の長手方向における距離を距離G2と定義する。
【0093】
尚、
図11において、第1揺動調整部材28における支持位置P1については、方向D1を示す一点鎖線と方向T1を示す一点鎖線との交点として図示されている。同様に、第1揺動調整部材29における支持位置P1については、方向D2を示す一点鎖線と方向T1を示す一点鎖線との交点として図示されている。また、
図11においては、位置P2は、小さい丸印で示す点P2として図示され、位置P3は、小さい丸印で示す点P3として図示されている。
【0094】
揺動調整機構22においては、距離G1と距離G2との比が、前述した所定の比に設定されている。具体的には、揺動調整機構22においては、距離G1と距離G2との比が、外側ライニング部材32aとディスク103との間で生じる押し付け方向の荷重の大きさと、内側ライニング部材32bとディスク103との間で生じる押し付け方向の荷重の大きさと、の比に対して、逆比となるように設定されている。即ち、外側ライニング部材32aに生じる押し付け方向の荷重の大きさを大きさP2と称し、内側ライニング部材32aに生じる押し付け方向の荷重の大きさを大きさP3と称すると、(距離G1):(距離G2)=(大きさP3):(大きさP2)の関係が成立するように、距離G1と距離G2との比が設定されている。
【0095】
荷重支持部材23は、ディスク103と複数のライニング部材21との間で発生する摩擦制動力によって摩擦制動面103aと平行な方向に沿って生じる荷重を支持する部材として、設けられている。そして、
図4、
図5及び
図10に示すように、荷重支持部材23は、プレート部33及び取付壁部34を備えて構成されている。尚、
図10においては、摩擦制動力によって摩擦制動面103aと平行な方向に沿って生じる荷重の作用方向が矢印Hで図示されている。
【0096】
プレート部33は、荷重支持部材23において、周縁部分の外形形状が前述のライニング設置領域20(
図8を参照)と同様の形状に形成された平板状の部分として設けられている。そして、プレート部33は、複数のライニング部材21のそれぞれの一部が挿通されるとともに略矩形に形成された貫通孔33aが複数設けられている。更に詳細には、各貫通孔33aには、各ライニング部材21の当接部21bが挿通された状態で配置されている。そして、ディスク103と各ライニング部材21との間で摩擦制動力が発生した際には、各ライニング部材21は、各貫通孔33aの孔形状を区画する部分である各貫通孔33aの縁部分33bに対して当接する。これにより、荷重支持部材23は、複数のライニング部材21に対して当接した状態で、上記の摩擦制動力によって摩擦制動面103aと平行な方向に沿って生じる荷重を支持するように構成されている。
【0097】
尚、
図5乃至
図7では、図示が省略されているが、各貫通孔33aに挿通される各ライニング部材21の当接部21bには、
図10に示すように、脱落防止部35が取り付けられている。脱落防止部35は、当接部21bに対して、本体部21a側と貫通孔33aを介して反対側で取り付けられている。そして、脱落防止部35は、荷重支持部材23に対して貫通孔33aの周囲の部分で係止可能なように、当接部21bに取り付けられている。これにより、各ライニング部材21が、荷重支持部材23からディスク103側に脱落してしまうことが防止されている。
【0098】
取付壁部34は、荷重支持部材23をライニング支持部24に対して取り付けて固定するための部分として設けられ、プレート部33に一体に設けられている。取付壁部34は、一対で設けられ、プレート部33の円弧状に延びる方向における両端部にそれぞれ設けられている。また、各取付壁部34は、プレート部33に対して略垂直な方向に沿って広がる壁状の部分として設けられている。そして、各取付壁部34におけるプレート部33と反対側の端部が、ライニング支持部24に対して固定される。
【0099】
図1乃至
図5、
図10に示すライニング支持部24は、ディスクブレーキ装置100におけるブレーキシリンダ装置101によって駆動されるブレーキてこ13に対して揺動自在に保持されることが可能であるとともに、複数のライニング部材21を複数の揺動調整機構22を介して支持する構造体として設けられている。このライニング支持部24は、例えば、一体の金属材料で形成されている。そして、ライニング支持部24は、キャリパボディ11に含まれるブレーキてこ13によって付勢されて、複数の揺動調整機構22を介して支持している複数のライニング部材21をディスク103に押し付ける。
【0100】
ライニング支持部24は、台座部36及び一対の荷重伝達部(37a、37b)を備えて構成されている。一対の荷重伝達部(37a、37b)は、台座部36に対して一体に設けられている。尚、一対の荷重伝達部(37a、37b)は、台座部36に対して一体に設けられていなくてもよく、台座部36に固定された状態で設けられていてもよい。
【0101】
台座部36は、周縁部分の外形形状が前述のライニング設置領域20と同様の形状に形成された平板状の部分として設けられている。そして、台座部23は、面方向に沿って平坦に広がる両面のうちの一方の面において、複数の揺動調整機構22を介して複数のライニング部材21を支持するように構成されている。
【0102】
一対の荷重伝達部(37a、37b)は、ブレーキてこ13からの荷重を台座部36に伝達可能な部分として設けられている。ブレーキてこ13には、一対の荷重伝達部(37a、37b)のそれぞれに対応して一対で突出する部分として設けられて、一対の荷重伝達部(37a、37b)に対してそれぞれ連結される一対の連結端部(13a、13b)が設けられている。連結端部13aが、荷重伝達部37aに連結され、連結端部13bが、荷重伝達部37bに連結される。
【0103】
荷重伝達部(37a、37b)のそれぞれは、台座部36に対して垂直な方向に沿って延びる一対の板状の部分として構成されている。そして、荷重伝達部(37a、37b)のそれぞれにおける一対の板状の部分のそれぞれには、揺動ピン16が貫通する貫通孔が設けられている。また、荷重伝達部37aには、その一対の板状の部分の間において、連結端部13aが、揺動ピン16を介して揺動自在に連結されることになる。荷重伝達部37bには、その一対の板状の部分の間において、連結端部13bが、揺動ピン16を介して揺動自在に連結されることになる。このように、一対の荷重伝達部(37a、37b)のそれぞれは、ブレーキてこ13に対して、各揺動ピン16を介して揺動自在に取り付け可能に設けられている。尚、ディスクブレーキパッド10がブレーキキャリパ装置1に組み込まれた状態においては、一対の荷重伝達部(37a、37b)は、上記のように、ブレーキてこ13に対して、揺動ピン16を介して揺動自在に取り付けられている。
【0104】
荷重伝達部(37a、37b)から荷重が伝達され、複数のライニング部材21が摩擦制動面103aに押し付けられる際には、複数のライニング部材21と摩擦制動面103aとの間で面圧が生じることになる。そして、荷重伝達部(37a、37b)は、台座部36に対して、複数のライニング部材21と摩擦制動面103aとの間で生じる面圧の大きさがディスク103の回転中心線C1の位置からのディスク103の半径方向における距離の大きさに反比例するようにその面圧を発生させる荷重を台座部
36に作用可能な位置において、設けられている。
【0105】
また、各揺動ピン16は、その軸方向が、ライニング支持部24に対して、荷重中心位置C2を通って摩擦制動面103aに垂直な方向に対して交差する方向である方向L1に沿って延びるように、荷重伝達部(37a、37b)において設置可能に構成されている(
図1を参照)。ここで、荷重中心位置C2は、複数のライニング部材21と摩擦制動面103aとの間で生じる上記の面圧を発生させる荷重の中心が作用する位置であって、複数のライニング部材21とディスク103の摩擦制動面103aとが接触する摩擦面上の位置として構成される。更に、各揺動ピン16は、その軸方向が、ライニング支持部24に対して、ディスク103の半径方向R3に垂直で且つ摩擦制動面103aに平行な方向L1にも沿って延びるように、荷重伝達部(
37a、
37b)において設置可能に構成されている(
図1を参照)。
【0106】
尚、各揺動ピン16の軸方向が延びる方向L1については、
図1において、一点鎖線L1にて図示されている。また、ディスク103の半径方向R3については、
図1において一点鎖線R3にて図示されているとともに、
図8においても一点鎖線R3にて図示されている。また、上記の荷重中心位置C2に
図1において対応する位置については、一点鎖線L1と一点鎖線R3との交点C2として図示されている。また、
図8では、荷重中心位置C2について、小さい丸印で示す点C2として図示されている。
【0107】
各揺動ピン16の軸方向が延びる方向L1と、荷重中心位置C2を通って摩擦制動面103aに垂直な方向とが、交差する位置は、各揺動ピン16の軸方向が延びる方向L1上において、一対の荷重伝達部(37a、37b)の中間位置に位置している。このため、ブレーキてこ13からの荷重が各揺動ピン16を介して一対の荷重伝達部(37a、37b)に作用すると、ライニング支持部材24から複数のライニング部材21の全体に対しては、荷重中心位置C2を荷重の中心とする荷重が作用することになる。
【0108】
ディスクブレーキパッド10においては、ブレーキてこ13からの荷重が荷重中心位置C2に作用することで、最終的には、複数のライニング部材21と摩擦制動面103aとの間での面圧が、その大きさがディスク103の回転中心線C1の位置からのディスク103の半径方向における距離の大きさに反比例するように発生することになる。これにより、ディスクブレーキパッド10における偏摩耗の発生が抑制されることになる。
【0109】
また、ディスクブレーキパッド10においては、複数のライニング部材21に対して作用する荷重が上述した特定の荷重中心位置C2に作用することで、偏摩耗の発生が抑制されるように構成されているが、この関係と同様の関係が、各ライニング部材21においても更に成立するように構成されている。即ち、ディスクブレーキパッド10においては、第1揺動調整部材(28、29)は、揺動可能に支持する複数のライニング部材21のそれぞれを、上記の荷重中心位置C2の設定方法と同様の方法で設定される所定位置において、支持している。この所定位置は、第1揺動調整部材(28、29)に支持される各ライニング部材21が摩擦制動面103aに押し付けられる際にその各ライニング部材21と摩擦制動面103aとの間で生じる面圧の大きさがディスク103の回転中心線C1の位置からのディスク103の半径方向における距離の大きさに反比例するように上記の面圧を発生させる荷重をそのライニング部材21に作用可能な位置として、設定される。
【0110】
次に、複数のライニング部材21の全体として偏摩耗の発生が抑制される作用効果と、同様に各ライニング部材21において偏摩耗の発生が抑制される作用効果とについて、
図12及び
図13に示す解析モデルに基づいて説明する。
【0111】
前述したブレーキキャリパ装置1、ディスクブレーキパッド10によると、以下に説明する第1条件及び第2条件の両条件が充足されることになる。これにより、ディスクブレーキパッド10における複数のライニング部材21の全体として偏摩耗の発生が抑制されることになる。また、第1条件及び第2条件の両条件は、各ライニング部材21においても充足される。これにより、各ライニング部材21においても偏摩耗の発生が抑制される。尚、以下の説明では、複数のライニング部材21の全体についての解析モデルを例にとって第1条件及び第2条件に付いて説明し、複数のライニング部材21の全体として偏摩耗の発生が抑制される作用効果について説明する。各ライニング部材21についての解析モデル及び各ライニング部材21において偏摩耗の発生が抑制される作用効果については、複数のライニング部材21の全体としての解析と同様に解析されることになり、同様の説明となるため、省略する。また、以下の説明では、複数のライニング部材21を全体としてライニング部材ユニット19と称する。
【0112】
第1条件は、ディスクブレーキパッド10のライニング部材ユニット19がディスク103の摩擦制動面103aに押し付けられている制動動作中における摩擦制動面103aの温度の均一化を図ることである。ディスク103の摩擦制動面103aの温度のばらつきが発生すると、温度が高いところのライニング部材ユニット19の摩耗が促進され、偏摩耗となる。よって、第1条件が充足されると、ディスク103の摩擦制動面103aの温度の不均一によるライニング部材ユニット19の偏摩耗の発生が抑制されることになる。
【0113】
図12は、上記の第1条件を説明するための解析モデルを示している。
図12に示す解析モデルにおいては、ディスク103においてディスクブレーキパッド10に対して接触する摩擦制動面103aは、外周半径r
2、内周半径r
1のリング状に広がる要素として構成されている。上記の第1条件の説明にあたり、この摩擦制動面103aの半径方向における寸法が単位寸法1であるリング状の要素(即ち、単位幅のリング状の要素)としてのリング状要素38について考察する。尚、
図12において、リング状要素38については、斜線のハッチングを付して図示している。また、
図12において、リング状要素38については、ディスク103の回転中心線C1から半径寸法rの位置の要素として図示している。
【0114】
上記の第1条件が充足されて摩擦制動面103aの温度の均一化が図られる場合、摩擦制動面103aの熱流束q(即ち、単位面積あたりの熱流)も均一化されていることになる。よって、下式(1)が成立している。
【0115】
[数1]
q=const ・・・(1)
【0116】
また、リング状要素38に生じる単位時間当たりの摩擦熱である熱流Qは、回転中心線C1からの半径寸法rに比例し、下式(2)となる。
【0117】
[数2]
Q=2πrq ・・・(2)
【0118】
また、リング状要素38の熱流Qは、ディスクブレーキパッド10からの荷重とすべり速度とに比例するため、下式(3)としても表される。尚、下式(3)における分配率αは、ディスクブレーキパッド10とディスク103との間で生じた摩擦熱のうちディスク103への分配率を表している。また、下式(3)における荷重Fは、リング状要素38においてディスクブレーキパッド10から作用する押し付け荷重であって、摩擦制動面103aに対して垂直な押し付け方向に作用する荷重を表している。また、下式(3)における摩擦係数μは、ディスクブレーキパッド10とディスク103との間の摩擦係数を表している。また、下式(3)における角速度ωは、ディスク103の角速度を表している。このため、リング状要素38のすべり速度は、rωとなる。
【0119】
[数3]
Q=μFrωα ・・・(3)
【0120】
そして、式(2)及び式(3)より、下式(4)が得られる。
【0121】
[数4]
F=2πq/(μωα)=const ・・・(4)
【0122】
上式(4)より、第1条件が充足される場合には、リング状要素38におけるディスクブレーキパッド10から作用する荷重Fは、回転中心線C1からの半径寸法rの位置によらず、一定となる。よって、第1条件が充足される場合には、荷重Fは、ディスク103の半径方向におけるいずれの位置のリング状要素38であっても、その半径によらず、摩擦制動面103aにおける均一な熱流束qの値に応じて定まる一定の値となる。
【0123】
次に、第1条件に加えて充足される第2条件について説明する。第2条件は、制動動作中において、摩擦制動面103aに押し付けられるライニング部材ユニット19の単位面積当たりの制動エネルギの均一化を図ることである。ライニング部材ユニット19の摩耗量は、摩擦制動面103aに押し付けられるライニング部材ユニット19の制動エネルギの関数となる。このため、上記の第2条件が充足されることで、ライニング部材ユニット19の単位面積当たりの制動エネルギのばらつきが抑制され、ライニング部材ユニット19の摩耗量の均一化が図られることになる。これにより、ライニング部材ユニット19の偏摩耗の発生が抑制されることになる。
【0124】
図13は、上記の第2条件を説明するための解析モデルを示している。
図13に示す解析モデルにおいては、摩擦制動面103aは、二点鎖線で図示されており、
図12に示す解析モデルと同様に、外周半径r
2、内周半径r
1のリング状に広がる要素として構成されている。また、
図13に示す解析モデルにおいては、ディスクブレーキパッド10のライニング部材ユニット19は、半径r
2の外周円弧部25、半径r
1の内周円弧部26、一対の直線部(27a、27b)によって囲まれるライニング設置領域20に亘って広がる要素として構成されている。
【0125】
図13に示す解析モデルに基づく上記の第2条件の説明にあたり、前述のリング状要素38に対応するディスクブレーキパッド10のライニング部材ユニット19側の要素であるライニング部材側要素39について考察する。尚、
図13において、ライニング部材側要素39については、斜線のハッチングを付して図示している。また、
図13において、リング状要素38に接触する位置に配置されるライニング部材側要素39ついても、リング状要素38と同様に、ディスク103の回転中心線C1から半径寸法rの位置の要素として図示している。
【0126】
上記の第2条件が充足される場合、単位面積当たりの単位時間当たりにおけるディスクブレーキパッド10の制動エネルギEの値が均一化されることになる。よって、下式(5)が成立している。
【0127】
[数5]
E=const ・・・(5)
【0128】
そして、リング状要素38に対応するライニング部材側要素39の面積Sは、リング状要素38及びライニング部材側要素39において生じる制動エネルギであってその半径寸法rに比例して生じる制動エネルギを上記の制動エネルギEで除して得られることになる。尚、リング状要素38及びライニング部材側要素39の半径寸法rに比例して生じる制動エネルギは、単位時間当たりの摩擦熱である熱流Qとして、式(2)で得られる。よって、面積Sは、下式(6)のように表されることになる。
【0129】
[数6]
S=Q/E=2πrq/E ・・・(6)
【0130】
更に、リング状要素38におけるディスクブレーキパッド10からの荷重Fを、上記のように得られたライニング部材側要素39の面積Sにて除した値が、ライニング部材側要素39に生じた面圧pとなる。即ち、式(4)及び式(6)より、下式(7)が得られる。
【0131】
[数7]
p=F/S=E/(μωαr) ・・・(7)
【0132】
上式(6)、(7)より、第1条件に加えて第2条件が充足される場合には、面積Sが半径寸法rに比例し、面圧pの大きさは、ライニング部材側要素39の半径寸法rに反比例することになる。
【0133】
よって、ブレーキキャリパ装置1、ディスクブレーキパッド10によると、荷重伝達部(37a、37b)が、台座部36に対して、ライニング部材ユニット19と摩擦制動面103aとの間で生じる面圧pの大きさがディスク103の回転中心線C1の位置からのディスク103の半径方向における距離の大きさに反比例するようにその面圧pを発生させる荷重Fを台座部36に作用可能な位置において、設けられている。このため、ブレーキキャリパ装置1、ディスクブレーキパッド10によると、式(7)で示す関係が成立し、前述の第1条件及び第2条件が充足されることになる。よって、本実施形態によると、ディスクブレーキパッド10の偏摩耗の発生を抑制することができる。
【0134】
次に、ディスクブレーキパッド10のライニング部材ユニット19において面圧pの総和としての荷重の中心が作用する位置である荷重中心位置C2について説明する。
図14は、荷重中心位置C2を求めるための解析モデルを示す図である。
図14に示す解析モデルにおいては、摩擦制動面103aは、二点鎖線で図示されており、
図12及び
図13に示す解析モデルと同様に、外周半径r
2、内周半径r
1のリング状に広がる要素として構成されている。また、
図14に示す解析モデルにおいては、ライニング部材ユニット19は、
図13に示す解析モデルと同様に、半径r
2の外周円弧部25、半径r
1の内周円弧部26、一対の直線部(27a、27b)によって囲まれるライニング設置領域20に亘って広がる要素として構成されている。
【0135】
また、
図14に示す解析モデルにおいては、回転中心線C1で交差する横軸及び縦軸としてX軸及びY軸が設定されている。Y軸は、ライニング部材
ユニット19における周方向における中心線を通過するように設定されている。即ち、Y軸は、ライニング部材ユニット19の表面積を二分する位置を通過するように設定されている。また、
図14においては、ライニング部材ユニット19において面圧pの総和としての荷重の中心が作用する位置である荷重中心位置C2を小さい丸印で示す点C2として図示している。
【0136】
図14において点C2で示される荷重中心位置C2は、Y軸上に位置している。そして、荷重中心位置のY座標である荷重中心位置座標yは、荷重中心位置の回転中心線C1からの距離となる。ライニング部材ユニット19において荷重中心位置座標yで特定される荷重中心位置C2は、前述した面圧pを発生させる荷重Fの総和(即ち、面圧pの総和)としての荷重の中心が作用する位置となる。以下、荷重中心位置座標yを求める演算処理について説明する。
【0137】
荷重中心位置座標yの演算処理の説明にあたり、ライニング部材ユニット19の表面における微小要素40を設定する。微小要素40は、ディスク103の回転中心線C1から半径寸法rの位置であって、回転中心線C1の位置から正方向に延びるX軸に対して反時計周り方向の角度が角度θの位置における要素として設定される。また、微小要素40は、径方向においてdrの長さを有し、周方向角度がdθに亘って広がる微小要素として設定される。尚、ディスク103の半径方向であって直線部27aが位置する方向のX軸正方向に対する角度が、角度θ
1に設定されている。また、ディスク103の半径方向であって直線部27bが位置する方向のX軸正方向に対する角度が、角度θ
2に設定されている。
【0138】
荷重中心位置座標yを求めるために、まず、ライニング部材ユニット19の表面と摩擦制動面103aとの間で生じる面圧pによるX軸周りのモーメントMを算出する。このモーメントMは、下式(8)を演算することで求められる。
【0140】
また、dS、面圧p、荷重中心位置座標yは、それぞれ、以下に示す式(9)にて表される。尚、面圧pは、前述の式(7)によって求められるが、式(8)においては、式(9)に示すように、前述の式(7)における半径寸法r以外の定数項部分について、定数aとして表している。また、式(8)を演算することで、以下に示す式(10)が得られることになる。
【0143】
一方、面圧pの総和であって前述の荷重Fの総和でもある荷重F
Aは、以下の式(11)を演算することで得られる。また、式(11)を演算すると、以下に示す式(12)が得られることになる。
【0146】
従って、荷重中心位置座標yは、下式(13)によって得られることになる。
【0148】
ここで、ライニング部材
ユニット19の周方向における広がり角度Δθ(
図14を参照)、即ち、角度θ
2から角度θ
1を差し引いて得られる広がり角度Δθを用いて式(13)を表記すると、下式(14)が得られる。
【0150】
上記の式(14)によって、荷重中心位置座標yが特定されることになる。そして、ブレーキキャリパ装置1、ディスクブレーキパッド10においては、上記の荷重中心位置座標yによって特定される荷重中心位置C2を通って摩擦制動面103aに垂直な方向に対して各揺動ピン16が設置される方向L1が交差するように、台座部36における荷重伝達部(37a、37b)の位置が設定されることになる。尚、式(14)に示す荷重中心位置座標yにて表されるように、荷重F
Aの中心が作用する位置である荷重中心位置C2は、ライニング部材ユニット19の表面の図心よりも半径方向における内径側(回転中心線C1側)となる。
【0151】
[本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態によると、複数のライニング部材21が、ライニング支持部24に対して、揺動調整機構22を介して支持される。更に、揺動調整機構22は、複数のライニング部材21を第1揺動調整部材(28、29)にて揺動可能に支持する。そして、第1揺動調整部材(28、29)が揺動することで、複数のライニング部材21の間で摩擦制動面103aへの押し付け方向の位置が調整される。即ち、摩擦制動面103aの表面において熱的膨張によって部分的に盛り上がった箇所が発生して表面の凹凸ができた場合であっても、その表面の凹凸に倣うように、第1揺動調整部材(28、29)に支持された複数のライニング部材21の間で、押し付け方向の位置が調整される。そして、複数のライニング部材21の間において摩擦制動面103aに対する押し付け力が調整されることになる。これにより、摩擦制動面103aの表面で部分的に盛り上がった箇所に対して、対応するライニング部材21が、周辺の領域に対応するライニング部材21よりも強く押し付けられてしまうことが抑制される。その結果、ディスク103におけるヒートスポットの発生が抑制され、ディスク103におけるヒートクラックの発生も抑制される。
【0152】
また、本実施形態によると、荷重支持部材23が複数のライニング部材21に対して当接することで、ディスク103と複数のライニング部材21との間で発生する摩擦制動力によって摩擦制動面103aと平行な方向に沿って生じる荷重が、荷重支持部材23によって支持される。このため、摩擦制動面103aと平行な方向に沿って生じる荷重が、ライニング部材21が第1揺動調整部材(28、29)に揺動可能に支持される箇所、或いは、揺動調整機構22において第1揺動調整部材(28、29)が支持される箇所に作用することが抑制される。これにより、揺動調整機構22の作動に対して上記の荷重によって生じる摩擦が抵抗となってしまうことが抑制され、揺動調整機構22の円滑な作動が確保される。即ち、複数のライニング部材21の間において摩擦制動面103aに対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる。また、本実施形態によると、特許文献1に開示されたような旋回支持機構が不要となる。即ち、加工が難しい摺動用の球面を加工するための球面加工が不要となる。よって、加工工数を低減することができる。
【0153】
従って、本実施形態によると、ディスク103におけるヒートスポットの発生を抑制してヒートクラックの発生を抑制できるとともに、加工工数を低減でき、複数のライニング部材21の間において摩擦制動面103aに対する押し付け力を調整する機能を円滑に発揮させることができる、ディスクブレーキパッド10、及びそのディスクブレーキパッド10を備えるブレーキキャリパ装置1を提供することができる。
【0154】
また、本実施形態によると、第1揺動調整部材(28、29)は、その中途位置で支持されるとともに両端部でライニング部材21をそれぞれ揺動可能に支持するシーソー状に構成される。このため、揺動することで複数のライニング部材21の間で摩擦制動面103aへの押し付け方向の位置を調整する機構を簡素な構成で実現することができる。
【0155】
また、本実施形態によると、ディスク103の半径方向に沿って設置された複数のライニング部材21をそれぞれ支持する複数の第1揺動調整部材(28、29)がディスク103の半径方向に沿って設置される。このため、摩擦制動面103aに沿って、複数のライニング部材21とそれらを支持する複数の第1揺動調整部材(28、29)とを効率的に密集させて配置することができる。これにより、多数のライニング部材21の間において摩擦制動面103aに対する押し付け力を調整する機能の更なる円滑化を図ることができる。
【0156】
また、本実施形態によると、ライニング部材21に縁部分33bが当接する貫通孔33aを複数設けたプレート部33を有する簡素な構造で、摩擦制動力によって摩擦制動面103aと平行な方向に沿って生じる荷重を支持する荷重支持部材23を容易に形成することができる。
【0157】
また、本実施形態によると、揺動調整機構22には、第1揺動調整部材(28、29)による複数のライニング部材21の間での摩擦制動面103aへの押し付け方向の位置の調整機能に加え、第2揺動調整部材30による複数の第1揺動調整部材(28、29)の間での上記の押し付け方向の位置の調整機能も設けられる。このため、複数のライニング部材21の間における押し付け位置の調整機能に関し、第1揺動調整部材(28、29)による揺動動作と第2揺動調整部材30による揺動動作とによって、更に円滑で柔軟性の高い位置調整機能が実現されることになる。
【0158】
また、本実施形態によると、ディスクブレーキパッド10において、前述の第1条件及び第2条件が充足されるため、偏摩耗の発生が抑制される。また、本実施形態によると、ディスクブレーキパッド10がディスクブレーキ装置100に用いられる際には、複数のライニング部材21が、ディスク103の回転中心線C1と同心状に配置される外周円弧部25及び内周円弧部26と、それらの両側でディスク103の半径方向に沿って延びる一対の直線部(27a、27b)と、によって囲まれるライニング設置領域20に亘って広がるように設置される。このため、前述の第1条件及び第2条件を充足するためのディスクブレーキパッド10を更に簡素な構造で実現することができる。
【0159】
また、本実施形態によると、ディスクブレーキパッド10における複数のライニング部材21の全体として、前述の第1条件及び第2条件が充足されることに加え、複数のライニング部材21のそれぞれにおいても、前述の第1条件及び第2条件が充足されることになる。よって、個別のライニング部材21においても、偏摩耗の発生が効率よく抑制されることになる。
【0160】
また、本実施形態によると、ディスク103の半径方向に平行な方向に沿って延びるように設置された第1揺動調整部材(28、29)において、支持位置P1から外側及び内側ライニング部材(32a、32b)をそれぞれ支持する位置(P2、P3)までの距離の比が、外側及び内側ライニング部材(32a、32b)にそれぞれ作用する荷重の大きさの比の逆比に設定されている。このため、外側及び内側ライニング部材(32a、32b)にそれぞれ作用する荷重の大きさが異なる場合であっても、それらの異なる荷重の大きさに応じて、外側及び内側ライニング部材(32a、32b)の間における摩擦制動面に対する押し付け力が調整される。これにより、ディスクブレーキパッド10においては、個別のライニング部材21において偏摩耗の発生を抑制できるとともに、複数のライニング部材21に生じさせる荷重条件に関する制約を緩和することができる。よって、複数のライニング部材21の間における摩擦制動面103aに対する押し付け力を調整できるとともに個別のライニング部材21における偏摩耗の発生を抑制できるディスクブレーキパッド10において、設計自由度の向上を図ることができる。
【0161】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。例えば、次のような変形例を実施することができる。
【0162】
(1)ライニング部材の形状については、前述の実施形態で例示した形状に限らず、種々変更して実施してもよい。また、複数のライニング部材が設置されるライニング設置領域の周縁部分の形状についても、前述の実施形態で例示した形状に限らず、種々変更して実施してもよい。
【0163】
(2)荷重支持部材の形状については、前述の実施形態で例示した形状に限らず、種々変更して実施してもよい。前述の実施形態では、複数のライニング部材のそれぞれの一部が挿通される貫通孔が複数設けられた形態の荷重支持部材を例示したが、この通りでなくてもよい。例えば、荷重支持部材が、複数のライニング部材のそれぞれの一部が挿通される凹みが複数設けられた平板状の部分を含む部材として設けられてもよい。この場合、上記の複数の凹みのそれぞれの縁部分に対して各ライニング部材が当接した状態で、摩擦制動力によって摩擦制動面と平行な方向に沿って生じる荷重が荷重支持部材により支持されることになる。
【0164】
(3)ライニング支持部における荷重伝達部の形態については、前述の実施形態で例示した形態に限らず、種々変更して実施してもよい。前述の実施形態では、ライニング支持部において荷重伝達部が2箇所に設けられた形態を例示したが、荷重伝達部がライニング支持部における1箇所又は3箇所以上に設けられた形態が実施されてもよい。即ち、前述の実施形態と同じ荷重中心位置に荷重の中心が作用する形態であれば、荷重伝達部の配置及び数を種々変更して実施してもよい。
【0165】
(4)揺動調整機構については、前述の実施形態で例示した形態に限らず、種々変更して実施してもよい。例えば、第2揺動調整部材が設けられておらず、第1揺動調整部材が、ライニング支持部に固定された受け部に対して揺動可能に支持される形態の揺動調整機構が実施されてもよい。
【0166】
(5)
図15は、変形例に係る揺動調整機構41を説明するための図である。以下の揺動調整機構41の説明においては、前述の実施形態と異なる点について説明し、前述の実施形態と同様に構成される要素或いは対応する要素については、図面において同一の符号を付すことで、或いは同一の符号を引用して説明することで、適宜説明を省略する。尚、
図15に示す揺動調整機構41は、第1揺動調整部材(28、29)及び第2揺動調整部材30の設置形態において、前述の実施形態の揺動調整機構22と異なっている。以下、この異なる点について説明する。
【0167】
図15は、揺動調整機構41の1つについて鉄道車両の車輪の車軸方向から見た図である。
図15においては、ディスク103の回転中心線C1を中心とするディスク103の半径方向に平行な方向として1つの方向D3(
図15にて一点鎖線D3で示す方向)が例示されている。また、
図15においては、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円の接線方向に平行な方向として2つの方向T2、T3(図
15にて一点鎖線T2、T3で示す方向)が例示されている。
【0168】
揺動調整機構41においては、第2揺動調整部材30の両端部のそれぞれにおいて支持される第1揺動調整部材(28、29)は、その長手方向が、ディスク103の回転中心線C1を中心とする円の接線方向に沿って延びるように、設置されている。即ち、第1揺動調整部材28は、方向T2に沿って延びるように設置され、第1揺動調整部材29は、方向T3に沿って延びるように設置されている。そして、揺動調整機構41においては、第2揺動調整部材30は、その長手方向が、ディスク103の半径方向に平行な方向に沿って延びるように、設置されている。即ち、第2揺動調整部材30は、方向D3に沿って延びるように設置されている。
【0169】
また、揺動調整機構41は、第2揺動調整部材30によって、第1揺動調整部材(28、29)のそれぞれをその両端部の間の中途位置において支持している。尚、揺動調整機構41では、各第1揺動調整部材(28、29)は、それぞれの長手方向における中央位置で第2揺動調整部材30によって支持されている。そして、各第1揺動調整部材(28、29)は、その両端部のそれぞれにおいて、ディスク103の回転方向に沿って並んだ2個のライニング部材21のそれぞれを揺動可能に支持している。また、揺動調整機構41は、ライニング支持部24に固定された受け部31によって、第2揺動調整部材30をその両端部の間の中途位置において揺動可能に支持している。尚、揺動調整機構41では、第2揺動調整部材30は、その長手方向における中央位置で受け部31によって支持されている。
【0170】
また、揺動調整機構41では、第2揺動調整部材30において、受け部31に支持される位置から2つの第1揺動調整部材(28、29)をそれぞれ支持する位置までの距離の比が、次に述べるように、所定の比となるように設定されている。ここで、その所定の比の説明のため、
図15に示すように、第2揺動調整部材30にその両端部のそれぞれにおいて支持される第1揺動調整部材(28、29)のうち、ディスク103の半径方向における外側に配置される一方の第1揺動調整部材28を外側揺動調整部材42aと定義する。そして、第2揺動調整部材30にその両端部のそれぞれにおいて支持される第1揺動調整部材(28、29)のうち、ディスク103の半径方向における内側に配置される他方の第1揺動調整部材29を内側揺動調整部材42bと定義する。即ち、第2揺動調整部材30は、ディスク103の半径方向の外側の端部で外側揺動調整部材42aを支持し、ディスク103の半径方向の内側の端部で内側揺動調整部材42bを支持する。
【0171】
また、上記の所定の比の説明のため、
図15に示すように、第2揺動調整部材30が揺動調整機構41において揺動可能に支持される位置である支持位置P4(本実施形態における第2支持位置)から外側揺動調整部材42aが第2揺動調整部材30に支持される位置P5までの第2揺動調整部材30の長手方向における距離を距離G3と定義する。そして、支持位置P4から内側揺動調整部材42bが第2揺動調整部材30に支持される位置P6までの第2揺動調整部材30の長手方向における距離を距離G4と定義する。
【0172】
尚、
図15において、第2揺動調整部材30における支持位置P4については、小さい丸印で示す点P4として図示されている。また、
図15においては、位置P5については、方向D3を示す一点鎖線と方向T2を示す一点鎖線との交点として図示されている。同様に、位置P6については、方向D3を示す一点鎖線と方向T3を示す一点鎖線との交点として図示されている。
【0173】
揺動調整機構41においては、距離G3と距離G4との比が、前述した所定の比に設定されている。具体的には、揺動調整機構41においては、距離G3と距離G4との比が、外側揺動調整部材42aに支持された複数(2つ)のライニング部材21とディスク103との間で生じる押し付け方向の荷重の大きさと、内側揺動調整部材42bに支持された複数(2つ)のライニング部材21とディスク103との間で生じる押し付け方向の荷重の大きさと、の比に対して、逆比となるように設定されている。即ち、外側揺動調整部材42aに生じる2個のライニング部材21の押し付け方向の荷重の合計の大きさを大きさP5と称し、内側揺動調整部材42
bに生じる2個のライニング部材21の押し付け方向の荷重の合計の大きさを大きさP6と称すると、(距離G3):(距離G4)=(大きさP6):(大きさP5)の関係が成立するように、距離G3と距離G4との比が設定されている。
【0174】
この変形例によると、ディスク103の半径方向に平行な方向に沿って延びるように設置された第2揺動調整部材30において、支持位置P4から外側及び内側揺動調整部材(42a、42b)それぞれ支持する位置(P5、P6)までの距離の比が、外側揺動調整部材42aに支持されたライニング部材21及び内側揺動調整部材42bに支持されたライニング部材21にそれぞれ作用する荷重の大きさの比の逆比に設定されている。このため、外側揺動調整部材42aに支持されたライニング部材21及び内側揺動調整部材42bに支持されたライニング部材21にそれぞれ作用する荷重の大きさが異なる場合であっても、それらの異なる荷重の大きさに応じて、外側及び内側揺動調整部材(42a、42b)の間における摩擦制動面103aに対する押し付け力が調整される。そして、個別のライニング部材21において偏摩耗の発生が抑制される前述の実施形態の構成に、揺動調整機構41の構成を更に適用することができる。これにより、第1揺動調整部材(28、29)を支持する第2揺動調整部材30が設けられた揺動調整機構41を備えるディスクブレーキパッド10において、個別のライニング部材21において偏摩耗の発生を抑制できるとともに、複数のライニング部材21に生じさせる荷重条件に関する制約を緩和することができる。よって、複数のライニング部材21の間における摩擦制動面103aに対する押し付け力を調整できるとともに個別のライニング部材21における偏摩耗の発生を抑制できる上記のディスクブレーキパッド10において、設計自由度の向上を図ることができる。
【0175】
(6)
図16及び
図17は、変形例に係る揺動調整機構43を説明するための図である。以下の揺動調整機構43の説明においては、前述の実施形態と異なる点について説明し、前述の実施形態と同様に構成される要素或いは対応する要素については、図面において同一の符号を付すことで、或いは同一の符号を引用して説明することで、適宜説明を省略する。
【0176】
図16は、揺動調整機構43の1つについてディスク103の摩擦制動面103aと平行な方向から見た図である。また、
図17は、
図16に示す揺動調整機構43について鉄道車両の車輪の車軸方向から見た図である。
【0177】
図16及び
図17に示すように、揺動調整機構43は、複数(2つ)の第1揺動調整部材(28、29)を支持する第2揺動調整部材30を複数(2つ)備え、更に、複数の第2揺動調整部材30を支持するように設置される第3揺動調整部材44が備えられている。第3揺動調整部材44には、細長い軸状に形成された軸部44aと、軸部44aに設けられて受け部31に当接して支持される部分として設けられた凸部44bとが、備えられている。
【0178】
軸部44aは、その長手方向における両端部において、第2揺動調整部材30を揺動自在に支持している。軸部44aの両端部のそれぞれには、第2揺動調整部材30のそれぞれに設けられた凸部30cに当接する凹み穴(図示省略)が設けられている。軸部44aの両端部のそれぞれに設けられた凹み穴は、例えば、ライニング部材21の当接部21bの凹み穴21cと同様の形状に形成され、半球面状に凹む穴として設けられている。第2揺動調整部材30の凸部30cは、第3揺動調整部材44の上記の凹み穴に対して、遊嵌状態で嵌め込まれた状態で、当接している。このように、第2揺動調整部材30は、凸部30cにて、第3揺動調整部材44の凹み穴の内側に当接し、第3揺動調整部材44に対して揺動可能に支持されている。
【0179】
凸部44bは、軸部44aにおける長手方向の中央位置に設けられ、突起状に突出する部分として設けられている。尚、
図16では、凸部44bの端部が半球状に形成された形態を例示している。凸部44bは、受け部31の凹み穴に対して、遊嵌状態で嵌め込まれた状態で、当接している。このように、第3揺動調整部材44は、凸部44bにて、ライニング支持部24に固定された受け部31の凹み穴の内側に当接し、ライニング支持部24に対して、受け部31を介して、揺動可能に支持されている。
【0180】
揺動調整機構43は、第3揺動調整部材44が揺動することで、押し付け方向の位置を複数の第2揺動調整部材30の間で調整可能なように、それぞれ複数の第2揺動調整部材30を支持するように構成される。そして、揺動調整機構43によると、8個のライニング部材21が支持されることになる。尚、複数の第3揺動調整部材44を支持するように設置される第4揺動調整部材が更に設けられ、第4揺動調整部材が揺動することで、押し付け方向の位置を複数の第3揺動調整部材44の間で調整可能なように、それぞれ複数の第3揺動調整部材44を支持する構成の揺動調整機構が実施されてもよい。この揺動調整機構によると、16個のライニング部材21が支持されることになる。