(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のトレンチショットキバリアダイオードについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
1.トレンチショットキバリアダイオード
図1は、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100を説明するために示す図である。
図1(a)はトレンチショットキバリアダイオード100の断面図であり、
図1(b)はトレンチショットキバリアダイオード100の平面図である。なお、
図1(b)においては、バリア電極層126及びアノード電極層128の図示を省略している。
【0022】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100は、耐圧が100Vのトレンチショットキバリアダイオード(耐圧100V級のトレンチショットキバリアダイオード)であって、n
+型半導体層(第1半導体層)112及びn
−型ドリフト層(第2半導体層)114を有する半導体基板110と、半導体基板110の第1主面側に形成されトレンチ116内に誘電体層118を介して導電体層120が埋め込まれた構造を有する複数のトレンチ領域122と、複数のトレンチ領域122が設けられていない部分に設けられたメサ領域124と、半導体基板110の第1主面上に設けられメサ領域124との間でショットキ接合を形成するバリア金属層126と、バリア金属層126上に設けられたアノード電極層128と、半導体基板110の第2主面上に設けられたカソード電極層130とを備える。誘電体層118は、絶縁体物質からなる。
【0023】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電される結果、メサ領域124に存在する総キャリア量Qaccと、メサ領域124の不純物に起因するキャリア量Qdopとが「Qacc/Qdop≧2.0」の関係式を満たす(後述する
図16参照。)。
【0024】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100においては、誘電体層118の層厚Toxが100nm以下(例えば、25nm、50nm、75nm、100nm)である。
【0025】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100においては、メサ領域124の幅Wmが1.5μm以下(例えば、0.5μm、1.0μm、1.5μm)である。
【0026】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、メサ領域124の20%以上の領域にキャリアが蓄積されることが好ましい。
【0027】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、トレンチ領域122とメサ領域124との境界近傍におけるキャリア濃度が、メサ領域124の不純物に起因するキャリア濃度の20倍以上である。
【0028】
n
+型半導体層112の厚さは例えば400μmであり、n
−型ドリフト層114の厚さは例えば8.0μmであり、トレンチ116の深さは例えば2.0μmであり、トレンチ116の幅は例えば0.35μmである。n
+型半導体層112及びn
−型ドリフト層114はシリコンからなる。
【0029】
n
+型半導体層112の不純物濃度は例えば1.0×10
19cm
−3であり、n
−型ドリフト層114の不純物濃度は例えば2.5×10
15cm
−3である。
【0030】
導電体層120は例えばポリシリコンからなり、誘電体層118は例えば熱酸化により形成された二酸化ケイ素膜からなり、バリア金属層126は例えばモリブデン膜(バリアハイトΦB:0.68eV)からなり、アノード電極層128は例えばアルミニウム膜及びニッケル膜等の積層膜からなり、カソード電極層130は例えばチタン膜、ニッケル膜及び銀膜の積層膜からなる。
【0031】
なお、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100は、トレンチショ
ットキバリアダイオード100を上から見たときに、
図1(b)に示すように、メサ領域124がストライプ状に配列されたストライプ構造を有する。
【0032】
2.トレンチショットキバリアダイオードの効果
図2は、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100に順方向電圧を印加したときの様子を示す図である。
図3は、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100に逆方向電圧を印加したときの様子を示す図である。
【0033】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100によれば、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、メサ領域124に存在する総キャリア量Qaccと、メサ領域124の不純物に起因するキャリア量Qdopとが「Qacc/Qdop≧2.0」の関係式を満たすことから、
図2に示すように、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電されることから、メサ領域124に存在する多数キャリアの濃度を高くすることが可能となる。その結果、メサ領域124の幅を狭くしていっても、メサ領域124の抵抗がそれほど高くなることがなくなるため、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能となる。
【0034】
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100によれば、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、メサ領域124がトレンチ領域122に囲まれているため、
図3に示すように、逆バイアス時にはメサ領域124の内部が空乏化してピンチオフされ、逆方向もれ電流IRを小さくしたり耐圧VBRを高くしたりすることが可能となる。
【0035】
3.トレンチショットキバリアダイオードの製造方法
図4及び
図5は、実施形態1に係るショットキバリアダイオードの製造方法を説明するために示す図である。
図4(a)〜
図4(d)及び
図5(a)〜
図5(d)は各工程図である。
実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100は、
図4及び
図5に示す
ように、以下の工程(a)〜工程(h)を行うことによって製造することができる。
【0036】
(a)半導体基板準備工程
まず、n
+型半導体層112(厚さ:400μm、不純物濃度:1.0×10
19cm
−3)の上面にn
−型ドリフト層114(厚さ:8.0μm、不純物濃度:2.5×10
15cm
−3)が形成された半導体基板110を準備する(
図4(a)参照。)。
【0037】
(b)トレンチ形成工程
その後、n
−型ドリフト領域114の所定領域にトレンチ116(深さ:2.0μm、幅:0.35μm)を形成する(
図4(b)参照。)。
【0038】
(c)誘電体層形成工程
その後、熱酸化により、トレンチ116の内面(側面及び底面)に二酸化ケイ素からなる誘電体層118(厚さ:50nm)を形成し、n
−型ドリフト層114の表面に二酸化ケイ素からなる絶縁体層(厚さ:50nm)を形成する(
図4(c)参照。)。
【0039】
(d)ポリシリコン層形成工程
その後、トレンチ116の内面に形成された誘電体層118の内面及びn
−型ドリフト層114の表面に形成された絶縁体層の上にCVDによりポリシリコン膜121を形成する(
図4(d)参照。)。
【0040】
(e)トレンチ領域形成工程
その後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により所定量のポリシリコン膜を除去するとともに、n
−型ドリフト層114の表面に形成された二酸化ケイ素膜を除去することにより、トレンチ116内に誘電体層118を介して導電体層120が埋め込まれた構造を有するトレンチ領域122を形成する(
図5(a)参照。)。このとき、シリコン基板110の第1主面側におけるトレンチ領域122が設けられていない部分にはメサ領域124が形成されることになる。
【0041】
(f)バリア金属層形成工程
その後、半導体基板110の第1主面上に、モリブデン膜からなるバリア金属層126を形成する(
図5(b)参照。)。バリア金属層126は、メサ領域124との間でショットキ接合を形成する。
【0042】
(g)アノード電極層形成工程
その後、バリア金属層126の上方に、蒸着法により、アルミニウム膜及びニッケル膜等の積層膜からなるアノード電極層128を形成する(
図5(c)参照。)。
【0043】
(h)カソード電極層形成工程
その後、n
+型半導体層112の下方に、チタン膜、ニッケル膜及び銀膜の積層膜からなるカソード電極層130を形成する(
図5(d)参照。)。
【0044】
以上の工程を行うことによって、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオー
ド100を製造することができる。
【0045】
[実施形態2]
実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102(図示せず。)は、基本的には実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100と同様の構成を有するが、トレンチショットキバリアダイオードの耐圧が実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100の場合とは異なる。すなわち、実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102は、耐圧が60Vのトレンチショットキバリアダイオード(耐圧60V級のトレンチショットキバリアダイオード)である。具体的には、n
−型ドリフト層の厚さを例えば6.5μmとし、n
−型ドリフト層の不純物濃度を例えば5.25×10
15cm
−3としたトレンチショットキバリアダイオードである。
【0046】
そして、実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電される結果、メサ領域124に存在する総キャリア量Qaccと、メサ領域124の不純物に起因するキャリア量Qdopとが「Qacc/Qdop≧1.5」の関係式を満たす(後述する
図17参照。)。
【0047】
実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、メサ領域124の20%以上の領域にキャリアが蓄積されることとなる。
【0048】
実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、トレンチ領域122とメサ領域124との境界近傍におけるキャリア濃度が、メサ領域124の不純物に起因するキャリア濃度の20倍以上となる。
【0049】
このように、実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102は、トレンチショットキバリアダイオードの耐圧が実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100の場合とは異なるが、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100の場合と同様に、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電されることから、メサ領域124に存在する多数キャリアの濃度を高くすることが可能となる。その結果、メサ領域124の幅を狭くしていっても、メサ領域124の抵抗がそれほど高くなることがなくなるため、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能となる。また、メサ領域124がトレンチ領域122に囲まれているため、逆バイアス時にはメサ領域124の内部が空乏化してピンチオフされ、逆方向もれ電流IRを小さくしたり耐圧VBRを高くしたりすることが可能となる。
【0050】
なお、実施形態2に係るトレンチショットキバリアダイオード102は、トレンチショットキバリアダイオードの耐圧以外の点については、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100の場合と同様の構成を有するため、実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオード100が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0051】
[実施形態3]
実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード104(図示せず。)は、基本的には実施形態1又は2に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102と同様の構成を有するが、トレンチショットキバリアダイオードの耐圧が実施形態1又は2に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102の場合とは異なる。すなわち、実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード104は、耐圧が40Vのトレンチショットキバリアダイオード(耐圧40V級のトレンチショットキバリアダイオード)である。具体的には、n
−型ドリフト層の厚さを例えば5.0μmとし、n
−型ドリフト層の不純物濃度を例えば9.0×10
15cm
−3としたトレンチショットキバリアダイオードである。
【0052】
そして、実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード104においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電される結果、メサ領域124に存在する総キャリア量Qaccと、メサ領域124の不純物に起因するキャリア量Qdopとが「Qacc/Qdop≧1.25」の関係式を満たす(後述する
図18参照。)。
【0053】
実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード104においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、メサ領域124の20%以上の領域にキャリアが蓄積されることとなる。
【0054】
実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード106においては、活性領域において200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、トレンチ領域122とメサ領域124との境界近傍におけるキャリア濃度が、メサ領域124の不純物に起因するキャリア濃度の20倍以上となる。
【0055】
このように、実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード104は、トレンチショットキバリアダイオードの耐圧が実施形態1又は2に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102の場合とは異なるが、実施形態1又は2に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102の場合と同様に、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電されることから、メサ領域124に存在する多数キャリアの濃度を高くすることが可能となる。その結果、メサ領域124の幅を狭くしていっても、メサ領域124の抵抗がそれほど高くなることがなくなるため、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能となる。また、メサ領域124がトレンチ領域122に囲まれているため、逆バイアス時にはメサ領域124の内部が空乏化してピンチオフされ、逆方向もれ電流IRを小さくしたり耐圧VBRを高くしたりすることが可能となる。
【0056】
なお、実施形態3に係るトレンチショットキバリアダイオード104は、トレンチショットキバリアダイオードの耐圧以外の点については、実施形態1又は2に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102の場合と同様の構成を有するため、実施形態1又は2に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0057】
なお、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104を構成するにあたっては、以下の試験例1〜8の結果を参考にした。
【0058】
[試験例1]
試験例1は、メサ領域の幅Wm及び誘電体層の厚さToxを変化させることにより、メサ領域におけるキャリア蓄積領域がどのように変化するかを明らかにするための試験例である。試験は、基本的には実施形態1に係るトレンチショットキバリアダイオードと同様の構成のトレンチショットキバリアダイオードについて、メサ領域の幅Wm及び誘電体層の厚さToxをそれぞれ変化させながらメサ領域におけるキャリア濃度をシミュレーションすることによって行った。シミュレーションは、TMA社のデバイスシミュレータMEDICIを用いて行った。試験例1は、以下の試料(試料1〜24)について行った。
【0059】
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料名 メサ領域の幅Wm 誘電体層の厚さTox
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料1 0.5μm 25nm
試料2 1.0μm 25nm
試料3 1.5μm 25nm
試料4 2.0μm 25nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料5 0.5μm 50nm
試料6 1.0μm 50nm
試料7 1.5μm 50nm
試料8 2.0μm 50nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料9 0.5μm 75nm
試料10 1.0μm 75nm
試料11 1.5μm 75nm
試料12 2.0μm 75nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料13 0.5μm 100nm
試料14 1.0μm 100nm
試料15 1.5μm 100nm
試料16 2.0μm 100nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料17 0.5μm 150nm
試料18 1.0μm 150nm
試料19 1.5μm 150nm
試料20 2.0μm 150nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料21 0.5μm 200nm
試料22 1.0μm 200nm
試料23 1.5μm 200nm
試料24 2.0μm 200nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0060】
図6は、試料1〜4におけるキャリア蓄積状態を示す図である(試験例1)。
図7は、試料5〜8におけるキャリア蓄積状態を示す図である(試験例1)。
図8は、試料9〜12におけるキャリア蓄積状態を示す図である(試験例1)。
図9は、試料13〜16におけるキャリア蓄積状態を示す図である(試験例1)。
図10は、試料17〜20におけるキャリア蓄積状態を示す図である(試験例1)。
図11は、試料21〜24におけるキャリア蓄積状態を示す図である(試験例1)。横軸は、トレンチショットキバリアダイオードの第1主面に沿った、トレンチ領域の中央部からの距離を示し、縦軸はキャリア濃度を示す。なお、図中、トレンチ領域は、導電体層120及び誘電体層118を含む領域である。また、図中、図の左端がトレンチ領域の中央部を示し、図の右端がメサ領域124の中央部を示す。また、図中、メサ領域の不純物に起因するキャリア量Qdopに対するメサ領域に存在する総キャリア量Qaccの比率「Qacc/Qdop」の値を下方に示す。
【0061】
その結果、
図6〜
図11からも明らかなように、誘電体層の厚さToxが薄くなるほど、トレンチ領域とメサ領域との境界近傍におけるキャリア濃度が高くなることが分かった。また、メサ領域の幅Wmが狭くなるほど蓄積キャリアがメサ領域のより広い領域に広がっていくことが分かった。このことから、誘電体層の厚さToxをできるだけ薄くするとともにメサ領域の幅Wmをできるだけ狭くすることにより、メサ領域に存在する多数キャリアの濃度を高くすることが可能となることが分かった。
【0062】
[試験例2〜4]
試験例2は、メサ領域の幅Wm及び誘電体層の厚さToxを変化させることにより、順方向降下電圧VFがどのように変化するかを明らかにするための試験例である。試験例3は、メサ領域の幅Wm及び誘電体層の厚さToxを変化させることにより、逆方向もれ電流IRがどのように変化するかを明らかにするための試験例である。試験例4は、メサ領域の幅Wm及び誘電体層の厚さToxを変化させることにより、耐圧VBRがどのように変化するかを明らかにするための試験例である。試験は、試験例1で用いた試料(試料1〜24)について、順方向降下電圧VF、逆方向もれ電流IR及び耐圧VBRをシミュレーションすることによって行った。
【0063】
図12は、メサ領域の幅Wmと順方向降下電圧VFとの関係を示す図である(試験例2)。
図13は、メサ領域の幅Wmと逆方向もれ電流IRとの関係を示す図である(試験例3)。
図14は、メサ領域の幅Wmと耐圧VBRとの関係を示す図である(試験例4)。
図15は、誘電体層の厚さToxと耐圧VBRとの関係を示す図である(試験例4)。
【0064】
その結果、試験例2からは、試料1〜12(Tox:25nm、50nm、75nm)においては、メサ領域の幅Wmが狭くなるほど、順方向降下電圧VFが低くなることが分かった(
図12参照。)。また、試料13〜16(Tox:100nm)においては、メサ領域の幅Wmの広狭によらず、順方向降下電圧VFが変化しないことが分かった。また、試料17〜24(Tox:150nm、200nm)においては、メサ領域の幅Wmが狭くなるほど、順方向降下電圧VFが高くなることが分かった。また、すべての試料(試料1〜24)において、誘電体層118の厚さが薄くなるほど、順方向降下電圧VFが低くなることが分かった。
【0065】
また、試験例3からは、すべての試料(試料1〜24)において、メサ領域の幅Wmが狭くなるほど、逆方向もれ電流IRが低くなることが分かった(
図13参照。)。
【0066】
また、試験例4からは、すべての試料(試料1〜24)において、100Vの耐圧が確保されていることが分かった(
図14及び
図15参照。)。なお、
図14からは、メサ領域の幅Wmが広くなるに従って耐圧VBRが低くなる傾向が見られた。また、
図15からは、誘電体層の厚さToxが薄くなるに従って耐圧VBRが低くなる傾向が見られた。
【0067】
[試験例5〜7]
試験例5〜7は、メサ領域の幅Wm及び誘電体層の厚さToxを変化させることにより、「Qacc/Qdop」の値及び順方向降下電圧VFがどのように変化するかを明らかにするための試験例である。試験は、試験例5においては、試験例1で用いた試料(試料1〜24)について、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したときの順方向降下電圧VF及び「Qacc/Qdop」の値をシミュレーションすることによって行った。また、試験例6においては、耐圧が60Vのトレンチショットキバリアダイオードからなる試料(試料1a〜24a)について、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したときの順方向降下電圧VF及び「Qacc/Qdop」の値をシミュレーションすることによって行った。また、試験例7においては、耐圧が40Vのトレンチショットキバリアダイオードからなる試料(試料1b〜24b)について、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したときの順方向降下電圧VF及び「Qacc/Qdop」の値をシミュレーションすることによって行った。なお、試料1a〜24aにおける誘電体層の厚さTox及びメサ領域の幅Wmは、それぞれ試料1〜24の場合と同様とした。また、試料1b〜24bにおける誘電体層の厚さTox及びメサ領域の幅Wmも、それぞれ試料1〜24の場合と同様とした。
【0068】
図16は、耐圧100Vのトレンチショットキバリアダイオードの場合の「Qacc/Qdop」と順方向降下電圧VFとの関係を示す図である(試験例5)。なお、
図16において、「Qacc/Qdop」と順方向降下電圧VFのプロットのうち破線の円形で囲んだプロットは、耐圧VBRが100V以上120V未満のものである。
図17は、耐圧60Vのトレンチショットキバリアダイオードの場合の「Qacc/Qdop」と順方向降下電圧VFとの関係を示す図である(試験例6)。なお、
図17において、「Qacc/Qdop」と順方向降下電圧VFのプロットのうち破線の円形で囲んだプロットは、耐圧VBRが60V以上72V未満のものである。
図18は、耐圧40Vのトレンチショットキバリアダイオードの場合の「Qacc/Qdop」と順方向降下電圧VFとの関係を示す図である(試験例7)。なお、
図18において、「Qacc/Qdop」と順方向降下電圧VFのプロットのうち破線の円形で囲んだプロットは、耐圧VBRが40V以上50V未満のものである。
【0069】
その結果、試験例5からは、耐圧100Vのトレンチショットキバリアダイオードにおいては、試料1〜4、試料5〜8、試料9〜12及び試料13〜16については、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるほど(すなわちメサ領域に蓄積されるキャリアが多くなれば多くなるほど)順方向降下電圧VFが低くなることが分かった(
図16参照。)。また、試料17〜20については、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後ほぼ一定の値になることが分かった。また、試料21〜24については、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後急激に高くなることが分かった。
【0070】
また、「Qacc/Qdop≧2.0」を満たす場合に、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能なトレンチショットキバリアダイオードとなることも分かった。なお、この場合、「Qacc/Qdop」を大きくすることが順方向降下電圧を低減するのに役立つという観点から言えば、誘電体層の厚さToxが150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましいことも分かった。
【0071】
また、試験例6からは、耐圧60Vのトレンチショットキバリアダイオードにおいては、試料1a〜4a、試料5a〜8a及び試料9a〜12aについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるほど(すなわちメサ領域に蓄積されるキャリアが多くなれば多くなるほど)順方向降下電圧VFが低くなることが分かった(
図17参照。)。また、試料13a〜16aについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後若干高くなることが分かった。また、試料17a〜試料20a及び試料21a〜24aについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後急激に高くなることが分かった。
【0072】
また、「Qacc/Qdop≧1.5」を満たす場合に、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能なトレンチショットキバリアダイオードとなることが分かった。なお、この場合、、「Qacc/Qdop」を大きくすることが順方向降下電圧を低減するのに役立つという観点から言えば、誘電体層の厚さToxが100nm以下であることが好ましく、75nm以下であることがより好ましいことも分かった。
【0073】
また、試験例7からは、耐圧40Vのトレンチショットキバリアダイオードにおいては、試料1b〜4b及び試料5b〜8bについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるほど(すなわちメサ領域に蓄積されるキャリアが多くなれば多くなるほど)順方向降下電圧VFが低くなることが分かった(
図18参照。)。また、試料9b〜12bについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後ほぼ一定の値になることが分かった。また、試料13b〜16bについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後若干高くなることが分かった。また、試料17b〜試料20b及び試料21b〜24bについては、「Qacc/Qdop」の値が大きくなるに従って順方向降下電圧VFがいったん低くなり、その後急激に高くなることが分かった。
【0074】
また、「Qacc/Qdop≧1.25」を満たす場合に、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能なトレンチショットキバリアダイオードとなることが分かった。なお、この場合、「Qacc/Qdop」を大きくすることが順方向降下電圧を低減するのに役立つという観点から言えば、誘電体層の厚さToxが100nm以下であることが好ましく、75nm以下であることがより好ましいことも分かった。
【0075】
[試験例8]
試験例8は、耐圧が100Vのトレンチショットキバリアダイオードにおいて、本発明のトレンチショットキバリアダイオードが、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能なトレンチショットキバリアダイオードであることを明らかにするための試験例である。試験は、試験例1で用いた試料(試料1〜24)について、順方向降下電圧VF及び逆方向もれ電流IRをシミュレーションすることによって行った。
【0076】
図19は、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRとの関係を示す図である(試験例8)。
試験例8からは、試料1〜24のうち、試料1〜16においては、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRとのトレードオフ曲線が左下がり曲線又は上下に沿った直線となることから、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフが大幅に改善されていることが分かった(
図19参照。)。
【0077】
[実施形態4]
図20は、実施形態4に係るトレンチショットキバリアダイオード106の断面図である。
実施形態4に係るトレンチショットキバリアダイオード106は、基本的には実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104と同様の構成を有するが、誘電体層を構成する材料が実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合とは異なる。すなわち、実施形態4に係るトレンチショットキバリアダイオード106においては、
図20に示すように、誘電体層118aを構成する材料が強誘電体材料(例えば、Ta
2O
5、PZTなど。)からなる。
【0078】
このように、実施形態4に係るトレンチショットキバリアダイオード106は、誘電体層を構成する材料が実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合とは異なるが、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合と同様に、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118a及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」に十分な量の電荷が充電されることから、メサ領域に存在する多数キャリアの濃度を高くすることが可能となる。その結果、メサ領域の幅を狭くしていっても、メサ領域の抵抗がそれほど高くなることがなくなるため、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能となる。また、メサ領域124がトレンチ領域122に囲まれているため、逆バイアス時にはメサ領域124の内部が空乏化してピンチオフされ、逆方向もれ電流IRを小さくしたり耐圧VBRを高くしたりすることが可能となる。
【0079】
また、実施形態4に係るトレンチショットキバリアダイオード106によれば、誘電体層118aを構成する材料が強誘電体材料からなることから、順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118a及びメサ領域124により構成されるコンデンサC」により一層多くの量の電荷が充電されることから、メサ領域124に存在する多数キャリアの量をより一層増大させることが可能となり、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフをより一層改善することが可能となる。
【0080】
なお、実施形態4に係るトレンチショットキバリアダイオード106は、誘電体層を構成する材料以外の点については、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合と同様の構成を有するため、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0081】
[実施形態5]
図21は、実施形態5に係るトレンチショットキバリアダイオード108の断面図である。
実施形態5に係るトレンチショットキバリアダイオード108は、基本的には実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104と同様の構成を有するが、トレンチの側壁の形状が実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合とは異なる。すなわち、実施形態5に係るトレンチショットキバリアダイオード108においては、
図21に示すように、トレンチの側壁の形状が凹凸形状からなる。
【0082】
このように、実施形態5に係るトレンチショットキバリアダイオード108は、トレンチの側壁の形状が実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合とは異なるが、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合と同様に、200A/cm
2の電流密度で順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118b及びメサ領域124により構成されるコンデンサ」に十分な量の電荷が充電されることから、メサ領域124に存在する多数キャリアの濃度を高くすることが可能となる。その結果、メサ領域の幅を狭くしていっても、メサ領域の抵抗がそれほど高くなることがなくなるため、耐圧VBRを確保しながら順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフを大幅に改善することが可能となる。また、メサ領域124がトレンチ領域122に囲まれているため、逆バイアス時にはメサ領域124の内部が空乏化してピンチオフされ、逆方向もれ電流IRを小さくしたり耐圧VBRを高くしたりすることが可能となる。
【0083】
また、実施形態5に係るトレンチショットキバリアダイオード108によれば、順方向電流を流したとき、「導電体層120、誘電体層118b及びメサ領域124により構成されるコンデンサ」により一層多くの量の電荷が充電されることから、メサ領域124に存在する多数キャリアの量をより一層増大させることが可能となり、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフをより一層改善することが可能となる。
【0084】
なお、実施形態5に係るトレンチショットキバリアダイオード108は、トレンチの側壁の形状以外の点については、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104の場合と同様の構成を有するため、実施形態1〜3に係るトレンチショットキバリアダイオード100,102,104が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0085】
[実施形態6]
実施形態6は、トレンチショットキバリアダイオードの製造方法に関する実施形態である。
上記した試験例8においては、試料1〜16の場合に、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRのトレードオフが大幅に改善されていることを述べたが、このうち試料1〜12の場合には、
図19に示すように、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRとのトレードオフ曲線が左下がり曲線となることから、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRとのトレードオフをより一層改善することができる。従って、メサ領域の幅Wm及びトレンチ内の誘電体層の層厚Toxを決定するにあたり、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRとのトレードオフ曲線が左下がり曲線となる範囲からメサ領域の幅Wm及びトレンチ内の誘電体層の層厚Toxを決定するパラメータ決定工程を実施することにより、順方向降下電圧VFと逆方向もれ電流IRとのトレードオフをより一層改善することが可能となる。
【0086】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の様態において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0087】
(1)上記した各実施形態においては、メサ領域124がストライプ状に配列されたストライプ構造を有するトレンチショットキバリアダイオードを用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、メサ領域がマトリクス状に配列されたマトリクス構造を有するトレンチショットキバリアダイオードにも適用可能である。
【0088】
(2)上記した各実施形態においては、半導体基板としてシリコン基板を用いたトレンチショットキバリアダイオードを用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、半導体基板として炭化珪素基板、GaN基板を用いたトレンチショットキバリアダイオードにも適用可能である。
【0089】
(3)上記した各実施形態においては、第1導電型をn型として本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第1導電型をp型としてもよい。