特許第5922078号(P5922078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5922078サブマージアーク溶接に用いる溶融型フラックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922078
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接に用いる溶融型フラックス
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   B23K35/362 310A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-207113(P2013-207113)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-71171(P2015-71171A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2015年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 智之
(72)【発明者】
【氏名】早川 直哉
(72)【発明者】
【氏名】豊田 剛正
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠
(72)【発明者】
【氏名】末永 和之
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−055197(JP,A)
【文献】 特開2010−125509(JP,A)
【文献】 特開2007−268541(JP,A)
【文献】 特開平06−031481(JP,A)
【文献】 特開昭60−187495(JP,A)
【文献】 特開昭59−045098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/362
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接で用いる溶融型フラックスであって、SiO2:10〜27質量%、MnO:2〜10質量%、TiO2:2〜6質量%、CaO:10〜25質量%、CaF2:15〜40質量%、Al2O3:5〜30質量%、MgO:2〜10質量%、FeO:0.3〜3質量%、B2O3:0.6質量%以下を含有し、残部が不可避的不純物からなるとともに、前記SiO2、前記MnO、前記TiO2、前記CaO、前記CaF2、前記Al2O3、前記MgOの含有量(質量%)をそれぞれ[%SiO2]、[%MnO]、[%TiO2]、[%CaO]、[%CaF2]、[%Al2O3]、[%MgO]として、下記の(1)式で算出されるBI値が1.3以上2.5以下を満足し、かつ[%CaF2]/[%CaO]が1以上を満足することを特徴とする溶融型フラックス。
BI=〔0.5[%MnO]+[%CaO]+[%MgO]+[%CaF2]〕÷
〔[%SiO2]+0.5([%TiO2]+[%Al2O3])〕 ・・・(1)
【請求項2】
前記溶融型フラックスが、前記組成に加えて更に、LiO2:0.2〜2質量%、Na2O:0.2〜2質量%、K2O:0.2〜2質量%から選ばれる1種、または2種以上を合計で0.2〜2質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の溶融型フラックス。
【請求項3】
前記溶融型フラックスが、前記組成に加えて更に、BaO:0.3〜3質量%、ZrO2:0.3〜3質量%から選ばれる1種、または2種を合計で0.3〜3質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融型フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接に好適な溶融型フラックスに関するもので、特にラインパイプ、原油タンク、LPGタンク等に用いられる高張力鋼をサブマージアーク溶接する際に好適に用いられ、溶接後の水素起因の割れを生じることなく、スラグ剥離性とビード形状とが優れていることから、溶接作業性が良好で、しかも溶接金属の酸素量が低く、溶接金属の低温靭性が向上する溶融型フラックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラインパイプや各種タンク等に用いられるUOE鋼管、鋼材の自動溶接技術として、MIG溶接、CO2溶接、サブマージアーク溶接が従来から知られている。その中でもサブマージアーク溶接は、高能率で施工でき、かつ高性能な溶接金属を得ることができる溶接技術として広く採用されている。
サブマージアーク溶接で用いるフラックスは、溶融型フラックスと焼成型フラックスがある。溶融型フラックスは、種々の鉱物質を原材料として1200℃以上の高温度で溶融し、冷却して固化した後、さらに粉末状に粉砕したものであり、吸湿し難く、かつ取扱いや保管が容易であるという利点を持つ。一方で、焼成型フラックスは、原材料に結合剤(たとえば水ガラス等)を少量加えて造粒した後、約600℃で焼成したものであり、溶接金属の組成を容易に調節できるという利点を有するが、反面、吸湿し易いという欠点を持つ。
【0003】
溶融型フラックスと焼成型フラックスは、いずれも溶接部を大気から遮断して溶接金属の酸化、窒化を防止するとともに、溶融メタルとの冶金反応によって短時間で清浄な溶接金属を形成する等、サブマージアーク溶接にて重要な機能を果たす。
とりわけ溶融型フラックスは、多電極の高速溶接に適しており、良好なビード外観が得られるので、ラインパイプ用のUOE鋼管のように高速溶接性質が要求される場合に、使用されることが多い。
【0004】
溶融型フラックスの組成を調節して、溶接金属中の酸素量を低減すれば、溶接金属の靭性を高めることができる。溶融型フラックスの組成を調節する一つの手段として、塩基度を上げる方法が知られている。しかし、単に溶融型フラックスの塩基度を上げるだけでは、溶接金属の酸素量をある程度は低減できるものの、良好なビード形状が得られず、しかも溶接スラグの剥離性が劣化する問題が残る。
【0005】
この問題を解決するために、高塩基度の溶融型フラックスが種々提案されている。たとえば特許文献1に、CaOをMgOやBaOに置換し、さらにアルカリ金属化合物を添加した溶融型フラックス、特許文献2に、Na2B4O7を添加した溶融型フラックスが開示されている。これら特許文献1、2に開示された溶融型フラックスは、いずれも成分を規定することによって、溶接金属の靭性向上を達成するとともに、溶接作業性を改善するものである。作業性の中でも、特に溶接スラグ剥離性の改善に関しては、特許文献3にTiO2やZrO2を多量に添加した溶融型フラックスのスラグ剥離性を改善する方法としてFeOを添加する技術が開示されている。
【0006】
また、ラインパイプの高強度化のニーズが高まっていることから、厚肉高強度のUOE鋼管の需要が増加しているが、高張力鋼の溶接によって形成される溶接金属は、溶接後に水素起因の割れ感受性が高まるので、溶接金属の低水素化を図る必要がある。そのため、高張力鋼のサブマージアーク溶接では、溶接金属の低酸素化のみならず、上記したように低水素化を達成できる溶融型フラックスを使用する必要がある。
【0007】
ところが溶接金属の低酸素化を達成するために高塩基度の溶融型フラックスを使用すると、溶接金属の水素量が増加する傾向が強くなる。これは、溶融型フラックスの塩基度の上昇によって、スラグ中のCa4F2Si2O7(以下、Cuspidineという)が増加することが原因である。つまりCuspidineは、CaO、CaF2、SiO2からなる化合物であり、高温で溶解するときに、結晶構造内に水素を取込み易い物質であるから、スラグ中のCuspidineの増加に伴って、溶接金属の水素量が増加すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−187495号公報
【特許文献2】特開昭64−53799号公報
【特許文献3】特許第4484079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
耐サワー環境で使用されるラインパイプは、溶接部の硬化性を下げる(すなわち靭性を高める)ために溶接金属中の合金元素量を低く抑える必要があり、かつ酸素量も低減する必要がある。また、スラグの剥離性、ビードの形状、溶接施工の作業性は、溶接金属中の酸素量を低減しながら、改善する必要がある。
一方で、高強度ラインパイプは、溶接金属の低温割れ(すなわち水素起因の割れ)感受性を抑えるために、溶接金属中の水素量を低減する必要がある。
ところが、溶接金属中の酸素量の低減と水素量の低減とを併せて可能にし、しかも高速溶接(溶接速度200cm/分以上)におけるビードの形状やスラグの剥離性など溶接施工の作業性に優れた溶融型フラックスは、未だ開発されていない。
【0010】
そこで本発明は、ラインパイプ等の高い靭性が要求される溶接金属を形成するためのサブマージアーク溶接にて、溶接金属の低酸素化と低水素化とを達成でき、しかも溶接作業性(すなわちスラグ剥離性、ビードの形状等)も良好な溶融型フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、溶接金属の低酸素化のためには、溶融型フラックスの塩基度を所定の値に規定する必要があり、溶接金属の低水素化のためには、Cuspidineの晶出を抑える溶融型フラックスを使用する必要がある。すなわち、Cuspidine領域を避けたうえでフラックスの塩基度を高めることが必要である。これに加えて、溶接作業性、特にスラグ剥離性を改善するためには、FeOを適量添加する必要があることを見出した。フラックス中のFeOが不足することによるスラグ剥離性劣化のメカニズムは明確ではないが、フラックスのFeO溶解度が大きくなり、FeOを取り込むべく地鉄に侵入し、結果として地鉄と酸化スケールの界面が凹凸となって剥離性が劣化するものと推定している。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
なお本発明では、溶接金属の酸素量、溶接施工の作業性、ビードの形状のバランスをとる上で、塩基度として下記の(1)式で算出されるBI値を用いる。
すなわち本発明は、サブマージアーク溶接で用いる溶融型フラックスであって、SiO2:10〜27質量%、MnO:2〜10質量%、TiO2:2〜6質量%、CaO:10〜25質量%、CaF2:15〜40質量%、Al2O3:5〜30質量%、MgO:2〜10質量%、FeO:0.3〜3質量%、B2O3:0.6質量%以下を含有し、残部が不可避的不純物からなるとともに、そのSiO2、MnO、TiO2、CaO、CaF2、Al2O3、MgOの含有量(質量%)をそれぞれ[%SiO2]、[%MnO]、[%TiO2]、[%CaO]、[%CaF2]、[%Al2O3]、[%MgO]として、下記の(1)式で算出されるBI値が1.3以上2.5以下を満足し、かつ[%CaF2]/[%CaO]が1以上を満足する溶融型フラックスである。
BI=〔0.5[%MnO]+[%CaO]+[%MgO]+[%CaF2]〕÷
〔[%SiO2]+0.5([%TiO2]+[%Al2O3])〕 ・・・(1)
【0013】
本発明の溶融型フラックスにおいては、前記した組成に加えて更に、LiO2:0.2〜2質量%、Na2O:0.2〜2質量%、K2O:0.2〜2質量%から選ばれる1種、または2種以上を合計で0.2〜2質量%の範囲で含有することが好ましい。また、BaO:0.3〜3質量%、ZrO2:0.3〜3質量%から選ばれる1種、または2種を合計で0.3〜3質量%の範囲で含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、厳しい環境で使用されるラインパイプや各種タンクのサブマージアーク溶接において、靭性が高くかつ水素起因の割れが生じない溶接金属が得られる。しかも優れた溶接スラグ剥離性、ビード形状を有し、溶接施工の作業性も良好であるから、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の溶融型フラックスの成分について説明する。
(a)SiO2
SiO2は、スラグをガラス化させるとともに、ビードの外観および溶接金属の靭性に多大な影響を及ぼす重要な成分である。溶融型フラックスのSiO2の含有量が10質量%未満では、十分な幅のビードが形成されず、ビードの形状が劣る。一方、27質量%を超えると、良好な形状のビードが形成されるが、溶接金属の酸素量が増加して靭性の劣化を招く。したがって、溶融型フラックスのSiO2の含有量は10〜27質量%の範囲内とした。好ましくは16〜25質量%の範囲である。
【0016】
(b)MnO
MnOは、スラグの流動性を向上させ、ビードの形状を滑らかにする成分である。溶融型フラックスのMnOの含有量が2質量%未満では、その効果が得られない。一方、10質量%を超えると、溶接金属の酸素量が増加して靭性の劣化を招く。したがって、溶融型フラックスのMnOの含有量は2〜10質量%の範囲内とした。好ましくは2〜7質量%の範囲である。
【0017】
(c)TiO2
TiO2は、スラグの剥離性に影響を及ぼす成分である。溶融型フラックスのTiO2の含有量が2質量%未満では、スラグの剥離性が改善されず、ビードに焼付きやすくなる。一方、6質量%を超えると、良好な形状のビードが得られない。したがって、溶融型フラックスのTiO2の含有量は2〜6質量%の範囲内とした。
【0018】
(d)CaO
CaOは、溶融型フラックスの塩基度(BI値)を高めて、溶接金属の酸素量を低減することによって、溶接金属の靭性を向上させる成分である。溶融型フラックスのCaOの含有量が10質量%未満では、塩基度が低くなり、溶接金属の靭性が劣化すると同時に、ビードの形状が劣る。一方、25質量%を超えると、ビードの表面にあばた等の欠陥が生じやすくなる。したがって、溶融型フラックスのCaOの含有量は10〜25質量%の範囲内とした。好ましくは13〜22質量%の範囲である。
【0019】
(e)CaF2
CaF2は、溶接金属の酸素量を低減して靭性の向上させる成分である。溶融型フラックスのCaF2の含有量が15質量%未満では、その効果が得られない。一方、40質量%を超えると、スラグが剥離しにくくなる。したがって、溶融型フラックスのCaF2の含有量は15〜40質量%の範囲内とした。好ましくは20〜35質量%の範囲である。
【0020】
(f)Al2O3
Al2O3は、スラグのガラス化を促進して、溶接金属の水素量を低減させる成分である。溶融型フラックスのAl2O3含有量が5質量%未満では、その効果が得られない。一方、30質量%を超えると、溶融型フラックスの融点が高くなりすぎて、良好な形状のビードが得られない。したがって、溶融型フラックスのAl2O3の含有量は5〜30質量%の範囲内とした。好適な範囲は10〜25質量%の範囲である。
【0021】
(g)MgO
MgOは、溶融型フラックスの塩基度(BI値)を高めるために必要な成分である。溶融型フラックスのMgOの含有量が2質量%未満では、塩基度が低くなり、溶接金属の靭性が劣化する。一方、10質量%を超えると、溶融型フラックスの融点が高くなりすぎて、良好な形状のビードが得られない。したがって、溶融型フラックスのMgOの含有量は2〜10質量%の範囲内とした。好適な範囲は2〜7質量%の範囲である。
【0022】
(h)FeO
FeOは、溶融型フラックスのスラグ剥離性確保のために必要な成分であり、本発明において最も重要な成分である。その含有量が0.3質量%未満では、スラグの溶接ビードへの焼付が発生する。一方、FeOは溶鋼に酸素を供給しやすい成分であり、その添加量が3%を超えると溶接金属の酸素量が増加する。したがって、溶融型フラックスのFeOの含有量は0.3〜3質量%の範囲内とした。
【0023】
(i)B2O3
Bは、溶接時に溶接金属内に入り、均一な微細フェライトからなる溶接金属を形成する作用を有する元素であり、溶融型フラックスにB2O3として添加する。溶融型フラックスのB2O3の含有量が0.6質量%を超えると、スラグが剥離しにくくなり、かつ溶接金属に割れが発生しやすくなる。したがって、溶融型フラックスのB2O3の含有量は0.6質量%以下とした。好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0024】
次に、上記した成分の相互作用について説明する。なお、溶融型フラックスのSiO2、MnO、TiO2、CaO、CaF2、Al2O3、MgOの含有量(質量%)を、それぞれ[%SiO2]、[%MnO]、[%TiO2]、[%CaO]、[%CaF2]、[%Al2O3]、[%MgO]と記す。
(j)[%CaF2]/[%CaO]≧1
溶融型フラックスの[%CaF2]/[%CaO]値が減少すると初晶Cuspidineが大量に晶出する。その結果、溶接金属の水素量の増大を招く。したがって、[%CaF2]/[%CaO]≧1とする。
【0025】
(k)塩基度(BI値)
本発明では、溶接金属の酸素量、溶接施工の作業性、ビードの形状のバランスを精度良く評価するために、塩基度として下記の(1)式で算出されるBI値を用いる。BI値が1.3未満では、溶接金属の酸素量が高くなり、溶接金属の機械的性質、とりわけ低温靭性が劣化する。したがって、BI≧1.3とする。一方、BI値が2.5を超えると、ビードの形状が悪くなり、かつスラグ剥離性も極端に悪くなる。そのため、BI値は1.3〜2.5の範囲内とする
BI=〔0.5[%MnO]+[%CaO]+[%MgO]+[%CaF2]〕÷
〔[%SiO2]+0.5([%TiO2]+[%Al2O3])〕 ・・・(1)
本発明の溶融型フラックスの成分は、上記の(a)〜(i)で説明した通りであるが、LiO2、Na2O、K2O、の1種または2種以上、さらにBaO、ZrO2の1種または2種を下記限定範囲内で含有しても良い。
【0026】
(l)LiO2、Na2O、K2O
LiO2、Na2O、K2Oは、アーク安定剤として有効であり、これら成分の合計含有率が0.2質量%以上でその効果が発現するが、2質量%を超えると溶接作業性が劣化する。従って、これらを添加する場合には、LiO2:0.2〜2質量%、Na2O:0.2〜2質量%、K2O:0.2〜2質量%から選ばれる1種、または2種以上を合計0.2〜2質量%とする。
【0027】
(m)BaO、ZrO2
BaO、ZrO2はスラグ粘度を増加する作用を有する成分であり、これら成分の合計含有率が0.3質量%以上でその効果が発現するが、3質量%を超えると溶接作業性が劣化する。従って、これらを添加する場合には、BaO:0.3〜3質量%、ZrO2:0.3〜3質量%から選ばれる1種、または2種を合計で0.3〜3質量%とする。
【0028】
また溶融型フラックスの粒度は、特に限定しないが、搬送に伴う凝集や飛散を防止する、あるいは溶接施工の際に溶融しやすくかつ溶融メタルとの冶金反応を促進する観点から、36〜200meshの粒子が60%以上である粒度分布が望ましい。
【実施例】
【0029】
表1、2に示す成分の溶融型フラックスを用いて、サブマージアーク溶接を行ない、スラグの剥離性、ビードの表面形状と直進性、溶接金属中の酸素量を評価した。その手順を以下に説明する。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
厚さ15mmのAPI−5L−PSL2−X65M鋼板に、角度90°、深さ6mmのV溝加工を施し、0.05C−2Mn系ワイヤと0.18C−1.55Mn−0.5Mo系ワイヤを組み合わせた4電極サブマージアーク溶接法により、溶接速度235cm/分、溶接入熱3.4kJ/mmで片面一層溶接を行なった。ワイヤ径は、いずれも4.0mmとし、溶接電流/電圧は、第1極(すなわち溶接進行方向の先頭)から順に、1230A/34V、870A/36V、750A/42V、680A/42Vとした。
【0033】
このようにしてサブマージアーク溶接を行なった後、スラグの剥離性を評価するために、溶接金属表面のスラグの除去処理を行ない、その際に容易に除去できたものを良好(○)、機械的な衝撃を繰り返し与えないと除去できなかったものを不良(×)とした。また、ビード表面を目視で観察して表面形状を評価し、ビード表面がざらついて光沢の少ないもの、あるいはビードの中央に凹部が認められるものを不良(×)、光沢があり、凹部が認められないものを良好(○)とした。さらに、ビードの直進性を評価するために、止端部のうねりの小さいものを良好(○)、うねりの大きいものを不良(×)とした。溶接金属中の酸素量(質量ppm)は、融解−赤外線吸収法によって測定した。それらの結果は表3、4に示す通りである。
【0034】
次に、厚さ15mmのAPI−5L−PSL2−X65M鋼板に、角度90°、深さ6mmのV溝加工を施し、0.05C−2Mn系ワイヤを用いて30℃−72%RHの雰囲気中で1電極サブマージアーク溶接法により、溶接速度50cm/分、溶接電流500A、溶接電圧32Vで片面一層溶接を行なった。
このようにしてサブマージアーク溶接を行なった後、JIS規格Z3118に準拠してガスクロマトグラフ法で、溶接金属の拡散性水素量(ml/100g)を測定した。その結果を表3、4に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表3、4から明らかなように、発明例の溶融型フラックスは、サブマージアーク溶接による溶接金属の低酸素化、低水素化が達成され、しかもスラグ剥離性、ビード形状など溶接作業性が良好であることが確認された。