特許第5922124号(P5922124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922124
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】二酸化炭素固定回路を導入した微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20160510BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160510BHJP
   C12P 19/32 20060101ALI20160510BHJP
   C12P 7/28 20060101ALI20160510BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20160510BHJP
   C12P 13/14 20060101ALI20160510BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20160510BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20160510BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20160510BHJP
   C12R 1/185 20060101ALN20160510BHJP
   C12R 1/15 20060101ALN20160510BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12N15/00 A
   C12P19/32 B
   C12P7/28
   C12P7/04
   C12P13/14
   C12N9/12
   C12N9/14 101
   C12N9/02
   C12P19/32 B
   C12R1:185
   C12P19/32 B
   C12R1:15
   C12P7/28
   C12R1:185
   C12P7/28
   C12R1:15
   C12P7/04
   C12R1:185
   C12P7/04
   C12R1:15
   C12P13/14
   C12R1:185
   C12P13/14
   C12R1:15
【請求項の数】15
【全頁数】85
(21)【出願番号】特願2013-526900(P2013-526900)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2012069247
(87)【国際公開番号】WO2013018734
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2014年1月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-167808(P2011-167808)
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】白井 智量
(72)【発明者】
【氏名】安楽城 正
(72)【発明者】
【氏名】天野 仰
(72)【発明者】
【氏名】松本 佳子
(72)【発明者】
【氏名】舘野 俊博
(72)【発明者】
【氏名】竹林 のぞみ
(72)【発明者】
【氏名】森重 敬
(72)【発明者】
【氏名】高橋 均
(72)【発明者】
【氏名】和田 光史
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩
(72)【発明者】
【氏名】古澤 力
(72)【発明者】
【氏名】平沢 敬
(72)【発明者】
【氏名】秀崎 友則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 絢子
(72)【発明者】
【氏名】ユーゲン−ローマン、 ドミニク ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】マダヴァン、 アンジャリ
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 スー サン
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102007047206(DE,A1)
【文献】 国際公開第2009/008377(WO,A1)
【文献】 特開2009−148222(JP,A)
【文献】 APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2011年 3月,vol.77 no.6,pp.1925-1936
【文献】 日本生物工学会大会講演要旨集 平成22年度,2010年,p.225 1S-Dp10
【文献】 日本生物工学会大会講演要旨集 平成22年度,2010年,p.137 2P-2107
【文献】 バイオサイエンスとインダストリー,2008年,vol.66 no.8,pp.426-432
【文献】 PLoS ONE,2010年,vol.5 no.10 e13001,pp.1-12
【文献】 Microbial Cell Factories,2007年,vol.6 no.19,pp.1-11
【文献】 Microbial Cell Factories,2009年,vol.8 no.43,pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のいずれをも有していない微生物に、(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれも付与せず、または付与してもその機能を発揮せずに、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも種の酵素活性を付与することにより得られたアセチルCoA生産回路を有するアセチルCoA生産微生物であって、
微生物が、腸内細菌科に属する微生物又はコリネ型細菌に属する微生物であるアセチルCoA生産微生物;
(a)マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(b)アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(c)クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路、
(d)COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(e)マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼとからなる群より選択された少なくとも1種。
【請求項2】
ホスホエノールピルビン酸またはピルビン酸が、オキサロ酢酸を経由し、さらにマレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼにより得られた2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸がさらに2−ホスホグリセリン酸を経由して再びホスホエノールピルビン酸に変換されるアセチルCoA生産回路を有する請求項1に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項3】
(f)ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸カルボキシラーゼ、またはホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、またはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼからなる群より選択された少なくとも一種と、
(g)リンゴ酸デヒドロゲナーゼと、
(h)マレートチオキナーゼと、
(i)マリルCoAリアーゼと、
(j)グリオキシル酸カルボリガーゼと、
(k)2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、またはヒドロキシピルビン酸イソメラーゼ及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも一種と、
(l)グリセリン酸2−キナーゼ、またはホスホグリセリン酸ムターゼ及びグリセリン酸3−キナーゼからなる群より選択された少なくとも一種と、
(m)エノラーゼと、
からなるアセチルCoA生産回路を有する請求項1又は請求項2に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項4】
微生物が、エシェリヒア属細菌若しくはパントエア属細菌である腸内細菌科に属する微生物、又は、コリネバクテリウム属細菌であるコリネ型細菌に属する微生物である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項5】
微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌が有する乳酸デヒドロゲナーゼの活性が不活化または低減された請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項6】
微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌が有する、イソクエン酸リアーゼ及びリンゴ酸シンターゼからなる群より選択された少なくとも1つの酵素の活性が不活化又は低減された請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項7】
微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌に、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及びアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性が付与または強化された請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項8】
微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌に、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性が付与または強化された請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項9】
微生物が、パントエア属細菌であり、パントエア属細菌が有する、フマル酸ヒドラターゼA及びフマル酸ヒドラターゼCの活性が不活化または低減された請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項10】
微生物が、パントエア属細菌であり、パントエア属細菌が有するリンゴ酸シンターゼの活性が不活化または低減された請求項1〜請求項4及び請求項9のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項11】
マレートチオキナーゼにおいて、メチロバクテリウム・エクストロクエンス由来のmtkBの144番のアミノ酸に相当するアミノ酸がイソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミンもしくはプロリン、及び/又は244番目のアミノ酸がグルタミン酸、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、チロシン、リジンもしくはアルギニンであるマレートチオキナーゼを用いることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からアセチルCoAを生産することを含むアセチルCoA生産方法。
【請求項13】
請求項7、請求項8又は請求項11に記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からアセトンを生産することを含むアセトン生産方法。
【請求項14】
請求項8又は請求項11に記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からイソプロピルアルコールを生産することを含むイソプロピルアルコール生産方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からグルタミン酸を生産することを含むグルタミン酸生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチルCoA生産微生物及びこれを用いた物質生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチルCoAは微生物の代謝経路における、きわめて重要な中間体のひとつである。さまざまな代謝産物がアセチルCoAを経由して生産される。このようなアセチルCoAを経由して生成される物質の例として、たとえば、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−プロリン、L−アルギニン、L−ロイシン、L−イソロイシン、などのアミノ酸類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、クエン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、メタクリル酸及びポリ−3−ヒドロキシ酪酸などの有機酸類;イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;その他にもアセトン、ポリグルタミン酸、などが知られている。
【0003】
アセチルCoAは、多くの微生物の場合、グルコースなどの糖を炭素源として生産される。糖は、まず、エムデン・マイヤーホフ経路、エントナー・ドウドロフ経路、ペントース・リン酸経路などの、解糖系と呼ばれる代謝経路を経て、ピルビン酸へと変換される。その後、ピルビン酸デカルボキシラーゼやピルビン酸−ギ酸リアーゼなどの作用により、アセチルCoAへと変換される。この際、二酸化炭素やギ酸が副生成物として生産され、糖に由来する炭素が一部欠損することとなる。このため、二酸化炭素を再固定してアセチルCoAの収量を増やすための幾つかの検討が行われている。
【0004】
微生物の体内において、二酸化炭素を固定して炭素源とする経路はいくつか知られている(Appl. Environ. Microbiol. 77(6), 1925−1936(2011))。具体的には、カルビン・ベンソン回路、還元的TCA回路、Wood−Ljungdahl経路、3−ヒドロキシプロピオン酸回路、4−ヒドロキシ酪酸回路、などが挙げられる。カルビン・ベンソン回路は、植物や光合成細菌に存在する、約12種の酵素からなるCO固定経路であり、リブロース−1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(RubisCO)によりCOを固定し、最終的にグリセルアルデヒド3−リン酸が生産される。還元的TCA回路は、緑色硫黄細菌をはじめとする嫌気性菌や微好気性菌にみられる回路で、11種の酵素からなり、フェレドキシンを補酵素としたCO固定酵素(アセチルCoAカルボキシラーゼ、2−オキソグルタル酸シンターゼ)を特徴とし、通常のTCA回路の逆方向の反応によりCOからピルビン酸を生産する。Wood−Ljungdahl経路は、酢酸産生菌など嫌気性微生物にみられる経路で、9種の酵素からなり、ギ酸デヒドロゲナーゼやCOデヒドロゲナーゼ等によりCOや補酵素上のギ酸を還元し、最終的にアセチルCoAへと変換する。3−ヒドロキシプロピオン酸回路は、クロロフレクサス属菌などにみられる回路で、13種の酵素からなり、アセチルCoA(プロピオニルCoA)カルボキシラーゼの作用によりCOを固定し、マロニルCoAなどを経由して、アセチルCoAを生産する。4−ヒドロキシ酪酸回路は、古細菌などに存在する経路で、ピルビン酸シンターゼ、アセチルCoA(プロピオニルCoA)カルボキシラーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、の反応によりCOを固定し、4−ヒドロキシブチリルCoAなどを経由して、アセチルCoAを生産する。
【0005】
一方、二酸化炭素を固定する経路を有用化合物生産微生物に導入し、有用物質を生産しようとする試みも、アイデアとしてはいくつか報告されている。たとえば国際公開第2009/094485号パンフレットや国際公開第2010/071697号パンフレットには、酢酸菌のWood−Ljungdahl経路に類似した経路を導入した微生物を用いて二酸化炭素からアセチルCoAを生産する提案が開示されている。また、COを固定して有用化合物を生産させる例として、国際公開第2009/046929号パンフレットには、ヒドロゲナーゼとテトラヒドロ葉酸リアーゼを導入した微生物を用いて二酸化炭素から乳酸を生産する試みが開示されている。また、国際公開第2011/099006号パンフレットでは、アセチルCoA上への炭酸固定反応やマロニルCoAの還元反応を経由し、COを固定する回路を提案している。独国特許出願公開第102007059248号明細書では、4−ヒドロキシ酪酸回路に類似した経路によるアセチルCoAの生産を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、公知の炭酸固定回路は、COを固定してアセチルCoA由来の有用化学品を生産するという観点から、必ずしも効率がよいとはいえない。たとえば、カルビン・ベンソン回路は、自然界の炭酸固定回路としてもっとも有名であるが、炭酸固定を担うRubisCOは、反応速度が遅い上に、酸化的分解といった副反応もみられ、効率のいい酵素とはいえない(Journal of Bioscience and Bioengineering 94(6) 497−505, 2002)。また、Wood−Ljungdahl経路、国際公開第2009/094485号パンフレット、国際公開第2010/071697号パンフレット、国際公開第2009/046929号パンフレットなどに記載されている経路では、COをCOやギ酸へと還元する経路を含むが、このような還元反応は通常の条件下だと困難な上に、このように強い還元反応を触媒する酵素は還元性の環境下でしか作用しない場合が多く、絶対嫌気性の微生物以外に導入するのは容易ではない。還元的TCA回路においても、途中のピルビン酸シンターゼや2−オキソグルタル酸シンターゼによる還元反応には、フェレドキシンを電子受容体とした強い還元力が必要で、反応として難しい。また、4−ヒドロキシ酪酸回路、3−ヒドロキシプロピオン酸回路、国際公開第2011/099006号パンフレット、国際公開第2009/046929号パンフレットなどに記載されている経路などでは、スクシニルCoAの還元や、マロニルCoAの還元といった、カルボン酸もしくはその(チオ)エステルの還元反応を利用しているが、このような反応は酵素反応として一般的に困難で、発酵経路としてはできるだけ避けた方が望ましいとされている(Atsumi et al., Nature, 451,(3), 86−89, 2008; Yim et al., Nat. Chem. Biol.,7, 445−452, 2011)。4−ヒドロキシ酪酸回路は、4−ヒドロキシブチリルCoAの脱水や、3−ヒドロキシプロピオン酸の脱水といった、脱水反応を経由しているが、このような反応は水中だとしばしば逆反応(水和)と競合するという問題がある。また、4−ヒドロキシ酪酸回路、3−ヒドロキシプロピオン酸回路、還元的TCA回路においては、マロニルCoA合成酵素やピルビン酸合成酵素の作用により、生産されたアセチルCoAが回路内で別の物質へと変換されるため、アセチルCoAの生産という観点からは、必ずしも効率的とはいえない。
【0007】
さらに、このような回路を微生物に導入して、何らかの物質生産を試みる場合、回路を構成する酵素の数や、新たに付与すべき酵素活性の数を考慮する必要がある。すなわち、回路を構築する酵素や付与する酵素の数が多ければ多いほど、制御が難しくなる上に、微生物への負担も増す。たとえば、Wood−Ljungdahl経路を大腸菌に導入しようとすると、少なくとも9種の遺伝子導入が必要で、物質生産の経路を構築した上に、さらにこれほどの遺伝子を導入して制御することは、現実的にきわめて困難な作業といえる。少ない数の酵素で構成された回路を、少ない数の酵素付与で構築したほうが、回路を構築する上でも、物質生産経路と組み合わせる上でも、有利であることは明らかである。
【0008】
したがって、COを固定してアセチルCoAへと変換するには、A.経路を構成する各酵素の活性が十分に高く、B.アセチルCoAを消費する酵素を回路中に含まず、C.新たに付与する酵素の数が少なく回路がシンプルである、ことが、理想的であるといえる。しかしながら、今までに報告されたCOからアセチルCoAを生産する回路において、A〜Cの条件をすべて満たす回路は存在せず、いずれも実現性に乏しかった。その証拠に、既存の炭酸固定回路の提案において、実際に酵素活性を工業的に利用される微生物に付与して、COをアセチルCoA及びアセチルCoA由来の物質へと変換して発酵に用いた例は、これまで皆無であった。
【0009】
本発明は、二酸化炭素を利用して効率よくアセチルCoAを生成するために有用な微生物、及び該微生物を用いて、アセチルCoA及びアセチルCoAに由来する有用な代謝産物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1] 下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のいずれをも有していない微生物に、(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれも付与せず、または付与してもその機能を発揮せずに、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも種の酵素活性を付与することにより得られたアセチルCoA生産回路を有するアセチルCoA生産微生物であって、
微生物が、腸内細菌科に属する微生物又はコリネ型細菌に属する微生物であるアセチルCoA生産微生物;
(a)マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(b)アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(c)クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路、
(d)COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(e)マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼとからなる群より選択された少なくとも1種。
[2] ホスホエノールピルビン酸またはピルビン酸が、オキサロ酢酸を経由し、さらにマレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼにより得られた2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸がさらに2−ホスホグリセリン酸を経由して再びホスホエノールピルビン酸に変換されるアセチルCoA生産回路を有する[1]に記載のアセチルCoA生産微生物。
[3] (f)ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸カルボキシラーゼ、またはホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、またはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼからなる群より選択された少なくとも一種と、
(g)リンゴ酸デヒドロゲナーゼと、
(h)マレートチオキナーゼと、
(i)マリルCoAリアーゼと、
(j)グリオキシル酸カルボリガーゼと、
(k)2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、またはヒドロキシピルビン酸イソメラーゼ及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも一種と、
(l)グリセリン酸2−キナーゼ、またはホスホグリセリン酸ムターゼ及びグリセリン酸3−キナーゼからなる群より選択された少なくとも一種と、
(m)エノラーゼと、
からなるアセチルCoA生産回路を有する[1]又は[2]に記載のアセチルCoA生産微生物。
[4] 微生物が、エシェリヒア属細菌若しくはパントエア属細菌である腸内細菌科に属する微生物、又は、コリネバクテリウム属細菌であるコリネ型細菌に属する微生物である[1]〜[3]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[5] 微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌が有する乳酸デヒドロゲナーゼの活性が不活化または低減された[1]〜[4]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[6] 微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌が有する、イソクエン酸リアーゼ及びリンゴ酸シンターゼからなる群より選択された少なくとも1つの酵素の活性が不活化又は低減された[1]〜[5]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[7] 微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌に、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及びアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性が付与または強化された[1]〜[6]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[8] 微生物が、エシェリヒア属細菌であり、エシェリヒア属細菌に、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性が付与または強化された[1]〜[7]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[9] 微生物が、パントエア属細菌であり、パントエア属細菌が有する、フマル酸ヒドラターゼA及びフマル酸ヒドラターゼCの活性が不活化または低減された[1]〜[4]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[10] 微生物が、パントエア属細菌であり、パントエア属細菌が有するリンゴ酸シンターゼの活性が不活化または低減された[1]〜[4]及び[9]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[11] マレートチオキナーゼにおいて、メチロバクテリウム・エクストロクエンス由来のmtkBの144番のアミノ酸に相当するアミノ酸がイソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミンもしくはプロリン、及び/又は244番目のアミノ酸がグルタミン酸、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、チロシン、リジンもしくはアルギニンであるマレートチオキナーゼを用いることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物。
[12] [1]〜[11]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からアセチルCoAを生産することを含むアセチルCoA生産方法。
[13] [7]、[8]又は[11]に記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からアセトンを生産することを含むアセトン生産方法。
[14] [8]又は[11]に記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からイソプロピルアルコールを生産することを含むイソプロピルアルコール生産方法。
[15] [1]〜[11]のいずれか1つに記載のアセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料からグルタミン酸を生産することを含むグルタミン酸生産方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二酸化炭素を効率よくアセチルCoAへと変換するために有用な微生物及び該微生物を用いて、アセチルCoA及び有用な代謝産物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る二酸化炭素固定経路の概要を説明する経路図である。
図2A】各種mtkBの配列相同性を示した図である。
図2B】各種mtkBの配列相同性を示した図である。
図3A】各種mtkAの配列相同性を示した図である。
図3B】各種mtkAの配列相同性を示した図である。
図4】実施例41にかかる各種パントエア属細菌で生産されたグルタミン酸への13C導入パターンを示した図である。
図5】実施例50にかかる各種コリネバクテリウム属細菌で生産されたグルタミン酸への13C導入パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るアセチルCoA生産微生物は、下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のいずれをも有していない微生物に、(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれも付与せず、または付与してもその機能を発揮せずに、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも1種の酵素活性を付与することにより得られたアセチルCoA生産回路を有するアセチルCoA生産微生物である。
【0014】
(a)マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路。
(b)アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路。
(c)クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路。
(d)COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路。
(e)マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼとからなる群より選択された少なくとも1種。
【0015】
本発明によれば、所定の酵素活性を付与することにより、糖代謝において発生するCOや外部から供給したCOを固定化する、二酸化炭素固定回路が構築され、且つCOを効率よくアセチルCoAへと変換しうるアセチルCoA生産回路を有するアセチルCoA生産微生物を提供することができる。
すなわち本発明とは、COをアセチルCoAへと変換するために種々検討した結果、上述のように、下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のいずれをも有していない微生物に、(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれも付与せず、または付与してもその機能を発揮せずに、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも1種の酵素活性を付与することによりCOをアセチルCoAへと変換できることを見出したものである。
(a)マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(b)アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(c)クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路、
(d)COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(e)マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼとからなる群より選択された少なくとも1種。
【0016】
また、このCOをアセチルCoAへと変換するアセチルCoA生産微生物を利用することにより、また当該微生物に対して所定の酵素活性を更に付与することにより、アセチルCoAと、アセチルCoAに由来する有用な代謝産物、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、クエン酸、イタコン酸、酢酸、酪酸、(ポリ−)3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、メタクリル酸、(ポリ)グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、オルニチン、シトルリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン等の物質生産を効率よく行うことができる。
【0017】
本発明は、COを固定してアセチルCoAへと変換する、もっともシンプルで実用的なアセチルCoA生産回路を提案する(図1)。
図1に記載のアセチルCoA生産回路は、本発明におけるアセチルCoA生産回路の好ましい一態様を示す(以下、「図1の回路」と称する場合がある。)。
【0018】
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼと、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼと、ピルビン酸カルボキシラーゼ及びピルビン酸キナーゼからなる群より選択された少なくとも一種と、リンゴ酸デヒドロゲナーゼと、マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼと、グリオキシル酸カルボリガーゼと、ヒドロキシピルビン酸イソメラーゼ、ヒドロキシピルビン酸レダクターゼ及び2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも一種と、グリセリン酸2−キナーゼ、ホスホグリセリン酸ムターゼ及びグリセリン酸3−キナーゼからなる群より選択された少なくとも一種と、エノラーゼとの8〜10種の酵素からなり、(ホスホエノール)ピルビン酸カルボキシラーゼもしくはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼが炭酸固定を担う。この(ホスホエノール)ピルビン酸カルボキシラーゼは炭酸固定酵素の中で活性の高い部類に属する。たとえば、植物等の光合成で利用されるRubisCOの比活性は、3U〜20U/mg程度の活性が知られている(J. Biol. Chem. 274(8) 5078−82(1999), Anal. Biochem. 153(1) 97−101 (1986))のに対し、(ホスホエノール)ピルビン酸カルボキシラーゼにおいては、大腸菌で30U/mg、高いものでは100〜150U/mgのものまで報告されている(J. Biol. Chem. 247, 5785−5792 (1972) ;Biosci. Biotechnol. Biochem. 59, 140−142 (1995);Biochim Biophys Acta. 1475(3):191−206 (2000))。また、マリルCoAを合成するマレートチオキナーゼ(mtk)は、今回の研究で、これまで知られていた酵素(J. Biol. Chem. 248(21) 7295−303 (1973))と比較して、より活性の高いマレートチオキナーゼが発見された。さらに、図1の回路を構成する酵素数は8〜10種であり、公知のアセチルCoA生産回路と比較して最もシンプルで、なおかつ微生物に付与すべき酵素数も少なくて済む。しかも、図1の回路中にはアセチルCoAを消費する酵素は含まれない。したがって図1の回路は、COを固定してアセチルCoAへと変換するための、理想的な回路といえる。
【0019】
さらに、図1の回路の利点として、回路が解糖系とは独立しているため、さまざまな経路の解糖系と自由に組み合わせることができることも挙げられる。たとえば、ペントース・リン酸経路はNADPHの生産量が高いため、物質生産にしばしば用いられる(特表2007−510411号公報)が、本回路とは独立しており、容易に組み合わせることができる。
【0020】
図1の回路は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(mdh)、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ(glxR)又はヒドロキシピルビン酸レダクターゼ(ycdW)、がそれぞれNADH(もしくはNADPH)を還元力として消費する。また、マレートチオキナーゼ(mtk)、グリセリン酸3−キナーゼ(glxK)、グリセリン酸2−キナーゼ(garK)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc)はATPを消費する。ピルビン酸キナーゼ(pyk)はピルビン酸を生産する。
図1の回路の収支としては、ホスホエノールピルビン酸を出発物質とする場合、「ホスホエノールピルビン酸+2CoA+CO+3NAD(P)H+3ATP→2アセチルCoA+3NAD(P)+3ADP」である。
また、ピルビン酸を出発物質とする場合、「ピルビン酸+2CoA+CO+3NAD(P)H+4ATP→2アセチルCoA+3NAD(P)+4ADP」となる。
すなわち、図1の回路は、COを固定してアセチルCoAへと変換する際、ホスホエノールピルビン酸(もしくはピルビン酸)、NAD(P)H、ATP、の供給を必要とする。
【0021】
アセチルCoAを中間体とする発酵経路の中で、発酵中に酸素を消費する経路の収支式を表1に記載した。これらの発酵においては、発酵経路上でNADHなどの還元型補酵素が生成され、それが酸素の作用により酸化型へと戻される、という現象が起こっていると想定される。そこで、もし、生成される還元型補酵素を、酸素に代わって図1の回路により消費できれば、発酵中に生成される還元力をアセチルCoA生産回路で有効利用でき、COを固定して生産物へと変換できると期待される。
【0022】
なお、ここでの還元型補酵素とは、NADH、NADPH、FADH、FMNH、還元型キノン補酵素、といった、酸化還元に関与する補酵素であり、かつそれが還元状態である補酵素を指し、好ましくはNADHまたはNADPH、より好ましくはNADHを指す。一方、酸化型補酵素とは、還元型補酵素の酸化型で、たとえばNAD、NADP、FAD、FMN、酸化型キノン補酵素を指し、好ましくはNAD又はNADP、より好ましくはNADを指す。
【0023】
【表1】

【0024】
また、表1のように、発酵式の左辺に酸素が存在する発酵では、しばしば酸素が大量に必要とされるが、そのためには大量の通気や強力な攪拌が要求されることがあり、設備費や電力費の増大につながる。そこで、図1の回路を導入すれば、余剰の還元力を消費することで、過剰な通気攪拌を緩和でき、発酵生産の費用を削減できると期待される。
【0025】
本発明の回路の還元力を補うために、還元力を生産できる物質を加えたり、外部からエネルギーを与えることで、還元力を与えてもよい。たとえば、還元度の高い物質(たとえば、水素、亜硫酸塩、アルコール類、パラフィン、等)を基質として利用する、電気培養で還元エネルギーを直接供給する、生物の光化学反応で還元力を供給する、などといった手段も考えられる。なお、外部から還元力を補給できれば、表1のように還元型補酵素が発生する発酵でない場合でも、提案する炭酸固定経路を駆動させることは可能である。
【0026】
以下、本発明について説明する。
【0027】
本発明における「二酸化炭素(CO)固定」とは、糖代謝において発生するCOや外部から供給したCOを有機化合物へ変換することを指す。COはHCOであってもよい。また、本明細書では「二酸化炭素(CO)固定」を「炭酸固定」と呼ぶことがある。
【0028】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0029】
本発明における「不活化」とは、既存のあらゆる測定系によって測定された酵素(特に断らない限り、本明細書において「酵素」には、単独では酵素活性を示さない「因子」も含まれる)の活性が不活化前の微生物での活性を100としたとき、その1/10以下である状態を指す。
本発明における酵素活性の「低減」とは、当該酵素をコードする遺伝子の遺伝子組換え技術により、それらの処理を行う前の状態よりも有意に当該酵素の活性が低下している状態を指す。
【0030】
本発明における「活性」の「強化」とは、強化前の微生物での各種酵素活性が強化後に高まることを広く意味する。
強化の方法としては、微生物が有している各種酵素の活性が高まれば、特に制限はなく、細胞外から導入された酵素遺伝子による強化、細胞内の酵素遺伝子の発現増強による強化及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0031】
細胞外から導入された酵素遺伝子による強化としては、具体的には、宿主由来の酵素よりも高活性の酵素をコードする遺伝子を宿主微生物の細胞外から遺伝子組換え技術により細胞内に導入して、導入された酵素遺伝子による酵素活性を追加するあるいはこの酵素活性に宿主が本来有する酵素活性と置換すること、更には宿主由来の酵素遺伝子又は細胞外からの酵素遺伝子の数を2以上に増加させること、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
微生物内の酵素遺伝子の発現増強による強化としては、具体的には、酵素遺伝子の発現を増強する塩基配列を宿主微生物の微生物外から微生物内に導入すること、宿主微生物がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーターを他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子の発現を強化させること、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0032】
本発明における「活性」の「付与」とは、対象酵素遺伝子を見出せない微生物に対して、酵素遺伝子を外部から導入し、対象となる酵素の活性を与えることを広く意味する。付与の方法としては、微生物に対象となる酵素の活性が与えられれば、特に制限はなく、酵素遺伝子を保有するプラスミドによる形質転換、酵素遺伝子のゲノムへの導入、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
「活性」の「強化」もしくは「付与」で用いられるプロモーターとしては、遺伝子を発現できるものであれば特に制限はないが、構成型プロモーターもしくは誘導型プロモーターを使用することができる。
【0033】
対象となる酵素遺伝子を、当該微生物が有しているか否かを判断する場合には、たとえば、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes;http://www.genome.jp/kegg/)やNCBI(National Center for Biotechnology Information ;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/)に登録されている、各菌株の遺伝子情報を参照することが挙げられる。なお、本発明では、KEGGもしくはNCBIに登録されている、各菌株の遺伝子情報のみを用いることとする。
【0034】
本発明における酵素活性の付与は、例えば酵素をコードする遺伝子を遺伝子組換え技術により宿主細菌の細胞外から細胞内に導入することにより行うことができる。このとき、導入される酵素遺伝子は、宿主細胞に対して同種又は異種のいずれであってもよい。
【0035】
細胞外から細胞内へ遺伝子を導入する際に必要なゲノムDNAの調製、DNAの切断及び連結、形質転換、PCR(Polymerase Chain Reaction)、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの設計、合成等の方法は、当業者によく知られている通常の方法で行うことができる。これらの方法は、Sambrook, J., et al., ”Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989)などに記載されている。
【0036】
本発明における「遺伝子組換え技術により」等との文言は、生来の遺伝子の塩基配列に対する別のDNAの挿入、あるいは遺伝子のある部分の置換、欠失又はこれらの組み合わせによって塩基配列上の変更が生じているものであれば全て包含し、例えば、突然変異が生じた結果得られたものであってもよい。
【0037】
本発明において因子又は酵素の活性が不活化された微生物とは、細胞外から細胞内への何らかの方法によって、生来の活性が損なわれた微生物を指す。これらの微生物は、例えば該蛋白質又は酵素をコードする遺伝子を破壊すること(遺伝子破壊)により作出することができる。
【0038】
本発明における遺伝子破壊としては、ある遺伝子の機能が発揮できないようにするために、その遺伝子の塩基配列に変異を入れる、別のDNAを挿入する、及び、遺伝子のある部分を欠失させることを挙げることができる。遺伝子破壊の結果、例えばその遺伝子がmRNAへ転写できなくなり、構造遺伝子が翻訳されなくなる。あるいは、転写されたmRNAが不完全なために翻訳された構造蛋白質のアミノ酸配列に変異又は欠失が生じて本来の機能の発揮が不可能になる。
【0039】
遺伝子破壊株の作製は、当該酵素又は蛋白質が発現しない破壊株が得られればいかなる方法も用いることが可能である。遺伝子破壊の方法は種々の方法(自然育種、変異剤添加、紫外線照射、放射線照射、ランダム突然変異、トランスポゾン、部位特異的遺伝子破壊)が報告されているが、ある特定の遺伝子のみ破壊できるという点で、相同組換えによる遺伝子破壊が好ましい。相同組換えによる手法はJ.Bacteriol.,161,1219−1221(1985)やJ.Bacteriol.,177,1511−1519(1995)やProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,97,6640−6645(2000)に記載されており、これらの方法及びその応用によって同業技術者であれば容易に実施可能である。
【0040】
本発明において「宿主」とは、ひとつ以上の遺伝子を微生物外から導入された結果、本発明の効果を発揮しうる状態になった当該微生物を意味する。
なお、本発明における「宿主」とは、本来、炭素源材料からアセチルCoAを生産する能力を有するか否かに関わらず、何らかの手段を用いることにより炭素源材料からアセチルCoAを生産する能力を有し得る微生物を意味する。
【0041】
本発明における「宿主」は、有用な代謝産物の生産経路を備えていてもよい。本発明における「有用な代謝産物」とは、アルコール、アミノ酸、有機酸、テルペン類をはじめとする、微生物の代謝経路における主な代謝産物の総称を意味する。本来、有用な代謝産物を生産する能力を有するか否かに関わらず、何らかの手段を用いることにより有用な代謝産物を生産する能力を有し得る微生物であればよい。
【0042】
本発明における「アセチルCoAに由来する有用な代謝産物」とは、代謝経路上でアセチルCoAを経由して生産される、有用な代謝産物の総称を意味する。アルコールにおいては、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノールなどが挙げられる。アミノ酸においては、例えば、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸、L−アルギニン、L−オルニチン、L−シトルリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−プロリンなどを示す。有機酸においては、例えば、3−ヒドロキシ酪酸、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリグルタミン酸、3−ヒドロキシイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、メタクリル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、メバロン酸などが挙げられる。テルペン類においては、イソプレン、スクアレン、ステロイド、カロテノイドなどが挙げられる。これら以外にも、例えばアセトンなどが挙げられる。本来、アセチルCoAに由来する有用な代謝産物を生産する能力を有するか否かに関わらず、何らかの手段を用いることによりアセチルCoAに由来する有用な代謝産物を生産する能力を有し得る微生物であればよい。
【0043】
本発明に係る「アセチルCoAの生産」とは、代謝経路上で、何らかの物質をアセチルCoAへと変換することを意味する。アセチルCoAは代謝中間体で、代謝経路上でさまざまな物質へと速やかに変換されるため、見かけのアセチルCoA量は必ずしも増加するとは限らないが、アセチルCoAに由来する物質にCO由来のラベルが検出される、またはアセチルCoAに由来する物質の対糖収率等が上昇する等により間接的に効果を把握することができる。変換に関与する要因はさまざま(補酵素量、基質量、フィードバック阻害などによる代謝変化、等)であるため、必ずしもアセチルCoAの生産量がすべてのアセチルCoA由来物質の量に比例するわけではないが、もし、アセチルCoAから特定の物質への生産経路を強化するか、それがもともと強い場合(たとえば、下記イソプロピルアルコール生産微生物やグルタミン酸生産微生物の場合)は、アセチルCoA以降の変換効率が外的要因に左右されにくいため、その物質の生産効率をアセチルCoA生産効率の指標とみなせる。
【0044】
本発明にかかるアセチルCoA生産微生物は、下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のいずれをも有していない微生物に、(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれも付与せず、または付与してもその機能を発揮せずに、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼからなる群より選択された少なくとも1種の酵素活性を付与することにより得られたアセチルCoA生産回路を有するアセチルCoA生産微生物である。
(a)マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(b)アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(c)クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路、
(d)COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(e)マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼとからなる群より選択された少なくとも1種。
【0045】
アセチルCoA生産効率の観点より、アセチルCoA生産微生物は、マレートチオキナーゼ及びマリルCoAリアーゼの酵素活性が付与されていることが好ましく、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ及びグリオキシル酸カルボリガーゼの酵素活性が付与されていることがより好ましく、マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼと、グリオキシル酸カルボリガーゼと、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ及び/又はヒドロキシピルビン酸レダクターゼの酵素活性が付与されていることがさらに好ましい。
ここで、本発明における「(生来)有していない」とは、宿主微生物が天然界において本来的に有していないことを意味する。
【0046】
本明細書における「マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路」とは、下記(1)〜(7)の回路を指す。
(1)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.1に示されたアセチルCoAがマロニルCoA、3−ヒドロキシプロピオン酸、プロピオニルCoA、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(2)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.4Aに示されたアセチルCoAがマロニルCoA、マロン酸セミアルデヒド、β−アラニン、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(3)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.4B、16又は18に示されたアセチルCoAがマロニルCoA、ヒドロキシプロピオン酸、(R)−乳酸又は(S)−乳酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(4)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.8に示されたアセチルCoAがマロニルCoA、マロン酸セミアルデヒド又はヒドロキシプロピオン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(5)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.9A、9B又は9Cに示されたアセチルCoAがマロニルCoA、ヒドロキシプロピオン酸、2−ケトグルタル酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(6)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.9D又は9Fに示されたアセチルCoAがマロニルCoA、ヒドロキシプロピオン酸、メチルマロニルCoA、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(7)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.17に示されたアセチルCoAがマロニルCoA、マロン酸セミアルデヒド又はヒドロキシプロピオン酸、メチルマロニルCoA、ピルビン酸、オキサロ酢酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
【0047】
上記(1)〜(7)の炭酸固定回路は共通して、マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する。これらの反応はマロン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼまたはマロニルCoAレダクターゼが触媒する(国際公開第2011/099006号パンフレット)。このような、スクシニルCoAの還元や、マロニルCoAの還元といった、カルボン酸もしくはその(チオ)エステルの還元反応は酵素反応として一般的に困難で、発酵経路としてはできるだけ避けた方が望ましいとされている(Atsumi et al., Nature, 451,(3), 86−89, 2008; Yim et al., Nat. Chem. Biol.,7, 445−452, 2011)。
【0048】
本明細書における「アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路」とは、下記(8)〜(10)の回路を指す。
(8)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.1に示されたアセチルCoAがピルビン酸、ホスホエノールピルビン酸、オキサロ酢酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(9)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.7C、7D又は7Eに示されたアセチルCoAがピルビン酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
(10)国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.9Mに示されたアセチルCoAがピルビン酸、2−ケトグルタル酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路
【0049】
上記(8)〜(10)の炭酸固定回路は共通して、アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する。この反応を触媒するのがピルビン酸シンターゼである(国際公開第2011/099006号パンフレット)。ピルビン酸シンターゼによるピルビン酸の合成反応はフェレドキシンを介した強い還元力が必要で、反応が遅い上に、酸素に弱いため極端な嫌気条件下でないと反応が進行しない。
本明細書における「クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路」とは、国際公開第2011/099006号パンフレットのFIG.9H又は9Jに示されたアセチルCoAがクロトニルCoA、エチルマロニルCoA又はグルタコニルCoA、オキサロ酢酸、リンゴ酸、マリルCoAを経由し、再びアセチルCoAに変換される回路を指す。
上記のクロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの変換を触媒するのがクロトニルCoAカルボキラーゼ−レダクターゼ又はメチルクロトニルCoAカルボキシラーゼである。クロトニルCoAカルボキラーゼ−レダクターゼは、炭酸塩に対するKmが高く(14mM; PNAS 104(25)10631−10636、(2007))、低濃度域での活性が見込めない。また、基質であるクロトニルCoAは3−ヒドロキシブチリルCoAから脱水反応により生産されるが、このような酵素は通常水中環境下だと逆反応の水和反応が優勢であるため、十分な速度が見込めない。また、メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼは、報告されている比活性がそれほど高くない(0.2−0.6U/mg; Arch Biochem Biophys. 310(1) 64−75 (1994))上に、上記同様、基質であるクロトニルCoAの生産に十分な速度が見込めないという問題もある。
【0050】
本明細書における「COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路」とは、国際公開第2009/046929号パンフレットのFig.5、6、13又は14に示された回路、すなわちCOからギ酸、セリンへと経由する経路を有し、オキサロ酢酸がリンゴ酸、マリルCoA、グリセリン酸を経由し、再びオキサロ酢酸に変換される回路を指す。
【0051】
上記のCOからギ酸への酵素反応は強い還元力が必要で、反応が遅い上に、酸素に弱いため極端な嫌気条件下でないと反応が進行しない。
本明細書におけて、炭酸固定回路を「付与してもその機能を発揮せずに(しない)」とは、対象酵素遺伝子を見出せない微生物に対して、活性を持つ酵素遺伝子を外部から導入し、対象となる酵素の活性は与えるが、炭酸固定回路が機能していないことを指す。「炭酸固定回路が機能してしない」ことは、ラベルされたCOを用いた試験で、回路中の代謝産物またはそれら代謝産物に由来する物質にCO由来のラベルが検出されない、もしくは回路中の代謝産物に由来する物質の対糖収率等の上昇が見られない等により間接的に把握することができる。
【0052】
前記アセチルCoA生産微生物において構築されるアセチルCoA生産回路は、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、ヒドロキシピルビン酸レダクターゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ又は2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼを含む経路である。このようなアセチルCoA生産回路の一例を、図1に示す。また、前記アセチルCoA生産回路は、アセチルCoAを消費する酵素、たとえばアセチルCoAカルボキシラーゼやピルビン酸シンターゼ、を有しない。
【0053】
図1に示すアセチルCoA生産回路では、二酸化炭素は、まず、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(pck)などの作用で、ホスホエノールピルビン酸若しくはピルビン酸と結合し、オキサロ酢酸へと変換される。オキサロ酢酸は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(mdh)の作用によりリンゴ酸へと変換される。リンゴ酸は、マレートチオキナーゼ(mtk)の作用でマリルCoA(リンゴ酸CoA)へと変換される。マリルCoA(リンゴ酸CoA)は、マリルCoAリアーゼ(Mcl)の作用でアセチルCoAとグリオキシル酸に変換される。グリオキシル酸は、グリオキシル酸カルボリガーゼ(gcl)の作用で2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸へと変換される。3−ヒドロキシ−2−オキソプロピオン酸は、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ(glxR)の作用でグリセリン酸へと変換されるか、又は、ヒドロキシピルビン酸イソメラーゼ(hyi)の作用でヒドロキシピルビン酸へと変換されてから、ヒドロキシピルビン酸レダクターゼ(ycdW)の作用でグリセリン酸へと変換される。グリセリン酸は、グリセリン酸3−キナーゼ(glxK)の作用で3−ホスホグリセリン酸へと変換されるか、又は、グリセリン酸2−キナーゼ(garK)の作用で2−ホスホグリセリン酸へと変換される。3−ホスホグリセリン酸は、ホスホグリセリン酸ムターゼ(gpm)の作用で2−ホスホグリセリン酸へと変換される。2−ホスホグリセリン酸は、エノラーゼ(eno)の作用でホスホエノールピルビン酸へと変換される。回路にピルビン酸カルボキシラーゼを含む場合、ピルビン酸キナーゼ(pyk)の作用で、ホスホエノールピルビン酸はピルビン酸へと変換される。
【0054】
前記アセチルCoA生産微生物に付与される酵素活性は、付与した結果、前記アセチルCoA生産回路が機能的に構築されるものであればよく、宿主微生物に応じて、本明細書に記載の範囲内で適宜選択することができる。
図1の回路上の酵素を一部保有しないために、図1のいずれの経路でも閉じられた回路が形成されない微生物においては、不足となる酵素を付与する必要がある。エシェリヒア属細菌のうち、たとえば大腸菌は、マレートチオキナーゼ及びマリルCoAリアーゼを保有しないため、少なくとも、両酵素を付与すればよい。
また、パントエア属細菌、たとえばパントエア・アナナティスは、マレートチオキナーゼ、およびマリルCoAリアーゼ、およびグリオキシル酸カルボリガーゼを保有しないため、少なくとも、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼを付与すればよい。
また、コリネ型細菌のうち、たとえばコリネバクテリウム・グルタミカムは、マレートチオキナーゼ、マリルCoAリアーゼ、グリオキシル酸カルボリガーゼ、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ、及びヒドロキシピルビン酸レダクターゼを保有しないため、少なくとも、マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼと、グリオキシル酸カルボリガーゼと、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼ及び/又はヒドロキシピルビン酸レダクターゼを付与すればよい。
【0055】
前記アセチルCoAを消費する酵素とは、アセチルCoAを基質として別の物質と変換する酵素を指す。たとえば、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号6.4.1.2に分類され、アセチルCoAをマロニルCoAへと変換するアセチルCoAカルボキシラーゼや、酵素番号1.2.7.1に分類され、アセチルCoAをピルビン酸へと変換するピルビン酸シンターゼが挙げられる。
【0056】
前記アセチルCoAを消費する酵素を含む回路とは、アセチルCoAを消費する酵素によりアセチルCoAが、回路を経由して再びアセチルCoAへと戻るような、閉じられた回路を指す。なお、アセチルCoAを消費する酵素により変換された物質が、アセチルCoAに戻ること無く別の生産物へと変換される場合(たとえば、イソプロピルアルコール生産経路で、最終産物としてイソプロピルアルコールに変換される場合)、閉じられた回路ではないため、「アセチルCoAを消費する酵素を含む回路」には含まれない。
【0057】
前記閉じられた回路とは、回路上の任意の物質から開始して、回路を経由して別の物質へと変換され、最終的に最初と同じ物質へと変換される経路を指す。
【0058】
前記マレートチオキナーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号6.2.1.9に分類され、リンゴ酸とCoAを結合させ、マリルCoAへと変換する酵素の総称である。反応の際、1分子のATPを消費し、1分子のADPとリン酸を生成する。本酵素は400アミノ酸程度のlarge subunitと300アミノ酸small subunitから構成される。遺伝子上には、通常、large subunit、small subunitという順番で存在する。本特許では、便宜上、large subunitをmtkB、small subunitをmtkAと呼ぶ。本酵素の比活性としては、たとえば精製酵素で2.5U/mgという例が報告されている(Anal Biochem. 227(2), 363−367 (1995))。
【0059】
本酵素はメタンなどのC1炭素源の資化経路(J. Bacteriol. 176(23), 7398−7404 (1994))や3−ヒドロキシプロピオン酸経路(Arch.Microbiol., 151、252−256(1989))に主に見られる酵素で、ゲノム上の近傍には、マリルCoAリアーゼが存在するという特徴がみられ、そのような酵素であれば好適に使用できる。精製酵素で活性を評価した例は、メチロバクテリウム・エクストロクエンス由来のマレートチオキナーゼで知られているが、実際の配列と活性を対比させたは少なく、活性と配列を同時に評価した例は、唯一、メチロバクテリウム・エクストロクエンスAM1株由来酵素(Genbank Accession Number AAA62654およびAAA62655)だけである(J. Bacteriol. 176(23), 7398−7404 (1994))。この文献では、遺伝子をクローニングして、それを同じメチロバクテリウム・エクストロクエンスに導入して、活性を評価している。ところが、われわれが実際にこの配列を合成して評価しても、活性は認められなかった。そこで、AAA62655の配列と、本発明で改めて取得したメチロバクテリウム・エクストロクエンス由来のマレートチオキナーゼ配列(配列番号70)と比較すると、AAA62655はカルボン酸末端が大幅(36アミノ酸)に欠失しており、他のマレートチオキナーゼの配列(たとえば図3)と比較しても異常に短いことから、誤った不活性型の配列が記載されていると考えられる。
【0060】
したがって、実際にマレートチオキナーゼをクローニングして、異種微生物から発現させ、活性と配列とを対応させて報告した例は、事実上、本発明が初めてである。
マレートチオキナーゼは、例えば、メチロバクテリウム・エクストルクエンス(Methylobacterium extorquens)等のメチロバクテリウム属由来(配列番号70及び71)、ハイホマイクロビウム・メチロボラム(Hyphomicrobium methylovoum)、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス(Hyphomicrobium denitrificans)等のハイホマイクロビウム属由来、リゾビウム・エスピー(Rhizobium sp)NGR234等のリゾビウム属由来、グラニュリバクター ベセスデンシス(Granulibacter bethesdensis)等のグラニュリバクター属由来(配列番号107及び108)、ニトロソモナス ユーロピア(Nitrosomonas europaea)等のニトロソモナス属由来、メチロコッカス キャプスラタス(Methylococcus capsulatus)等のメチロコッカス属由来、ガンマプロテオバクテリア界由来のものが挙げられる。
【0061】
アセチルCoAを経由する有用物質の生産効率の観点から、特に好ましくはハイホマイクロビウム属由来のアミノ酸配列(配列番号73及び74、110及び111)、リゾビウム属由来のアミノ酸配列(配列番号75及び76)、ニトロソモナス属由来のアミノ酸配列(配列番号113及び114)、メチロコッカス属由来のアミノ酸配列(配列番号116、117)、及びガンマプロテオバクテリア界由来のアミノ酸配列(例えば配列番号118、119)が例示される。
ハイホマイクロビウム属由来のマレートチオキナーゼ(配列番号73、74及び110及び111)、リゾビウム属由来のマレートチオキナーゼ(配列番号75及び76)及びニトロソモナス属由来のマレートチオキナーゼ(配列番号113及び114)は、65%〜80%の相同性を有する。また、メチロコッカス属由来のマレートチオキナーゼ(配列番号116、117)は、ガンマプロテオバクテリア界由来のマレートチオキナーゼ(例えば配列番号118、119)と70%〜80%の相同性を有する。
本発明において開示されているハイホマイクロビウム属由来のマレートチオキナーゼ、リゾビウム属由来のマレートチオキナーゼ、ニトロソモナス属由来のマレートチオキナーゼ、メチロコッカス属由来のマレートチオキナーゼ、ガンマプロテオバクテリア界由来のマレートチオキナーゼに対し、それぞれのアミノ酸配列において70%以上のホモロジーを持ち、かつマレートチオキナーゼ活性を有するマレートチオキナーゼは、本発明のアセチルCoA及びアセチルCoAに由来する有用な産物の生産に好適に使用できる。
【0062】
実施例に示したマレートチオキナーゼのアライメント結果を図2A及び図2B(MtkB:mtkのlarge subunit)(以下、図2A及び図2Bを合わせて「図2」と称する。)及び図3A及び図3B(MtkA:mtkのsmall subunit)(以下、図3A及び図3Bを合わせて「図3」と称する。)に示した。図2及び図3に示すとおり、マレートチオキナーゼは同一のアミノ酸もしくは類似のアミノ酸で保存された相同性の高い共通配列を全体的に保持していることが明らかになった。
【0063】
メチロバクテリウム・エクストルクエンス(図2及び図3中ではMeと表記)、酵素活性の高いリゾビウム エスピー(図2及び図3中ではRhと表記)、ハイホマイクロビウム・メチロボラム(図2及び図3中ではHmeと表記)、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス(図2及び図3中ではHdと表記)、ニトロソモナス ユーロピア(図2及び図3中ではNeと表記)、メチロコッカス キャプスラタス(図2及び図3中ではMcと表記)及びガンマプロテオバクテリア界由来のマレートチオキナーゼ(図2及び図3中ではgamと表記)を以下に示す第一のグループから第四のグループの4つのグループに分類し、図2及び図3にそれぞれのグループを「.+#*」の4種の記号で示した。
【0064】
第一のグループはメチロバクテリウム・エクストルクエンスと、酵素活性の高いリゾビウム エスピー、ハイホマイクロビウム・メチロボラム、ハイホマイクロビウム・デニトリフィカンス、ニトロソモナス ユーロピア、メチロコッカス キャプスラタス及びガンマプロテオバクテリアとを比較した場合に異なる配列を持つ部位であり、図2及び図3に「.」の記号で示した。配列の位置をメチロバクテリウム・エクストルクエンスのアミノ酸の配列番号にそって記載する。
【0065】
MtkB(図2)では、18番目のヒスチジン、プロリンもしくはリジン、21番目のアルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸もしくはアラニン、26番目のチロシンもしくはヒスチジン、29番目のグルタミン酸、アラニンもしくはアルギニン、34番目のアルギニンもしくはバリン、36番目のアルギニン、セリンもしくはグルタミン酸、42番目のアルギニン、スレオニン、バリンもしくはグリシン、44番目のバリン、66番目のアスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシンもしくはロイシン、67番目のヒスチジン、リジンもしくはグルタミン酸、74番目のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸、75番目のセリン、フェニルアラニン、アラニンもしくはグルタミン酸、80番目のスレオニン、リジンもしくはヒスチジン、84番目のヒスチジンもしくはプロリン、89番目のグルタミン、アラニン、グリシンもしくはリジン、92番目のロイシンもしくはバリン、100番目のグルタミン酸、アラニンもしくはグルタミン、102番目のメチオニン、スレオニン、セリンもしくはバリン、103番目のアスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、ヒスチジンもしくはセリン、104番目のイソロイシンもしくはプロリン、105番目のアラニン、アスパラギン酸、リジンもしくはグルタミン、112番目のフェニルアラニンもしくはロイシン、121番目のイソロイシン、122番目のメチオニン、バリンもしくはスレオニン、127番目のセリンもしくはアラニン、128番目のセリン、アラニン、グルタミンもしくはグルタミン酸、139番目のアラニン、セリン、スレオニン、グルタミン酸もしくはアルギニン、144番目のイソロイシン、146番目のアルギニンもしくはリジン、166番目のグリシンもしくはアラニン、170番目のアスパラギン酸、グルタミン酸、リジンもしくはアルギニン、171番目のアスパラギン、プロリン、アスパラギン酸もしくはグリシン、173番目のイソロイシンもしくはロイシン、175番目のグリシン、アスパラギン、プロリンもしくはアラニン、176番目のアルギニン、リジン、ヒスチジンもしくはグルタミン、183番目のグリシン、アラニンもしくはアルギニン、184番目のシステインもしくはイソロイシン、191番目のチロシン、ロイシンもしくはリジン、193番目のアラニン、206番目のアルギニン、グルタミン酸、アスパラギンもしくはセリン、207番目のグリシン、リジン、アスパラギン、グルタミン酸もしくはプロリン、208番目のアスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリンもしくはリジン、231番目のグルタミン酸、233番目のアルギニン、235番目のリジン、アスパラギンもしくはロイシン、238番目のグルタミン酸もしくはイソロイシン、243番目のスレオニン、イソロイシンもしくはバリン、244番目のチロシン、アラニンもしくはグルタミン酸、249番目のグリシン、256番目のアスパラギン酸、258番目のアスパラギンもしくはアスパラギン酸、278番目のイソロイシン、ロイシンもしくはフェニルアラニン、300番目のリジンもしくはアスパラギン、307番目のスレオニン、アルギニン、アラニン、グルタミン酸もしくはグルタミン、336番目のロイシン、バリン、システインもしくはチロシン、340番目のグリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミンもしくはアルギニン、358番目のアルギニンもしくはロイシン、375番目のアラニンもしくはアスパラギン酸、379番目のアスパラギン酸、リジン、グルタミン酸もしくはアラニン、385番目のトリプトファン、アラニン、アルギニンもしくはバリンが挙げられる。
MtkA(図3)では、16番目のフェニルアラニン、19番目のリジン、アルギニン、グルタミン酸もしくはグルタミン、20番目のイソロイシンもしくはヒスチジン、30番目のアルギニンもしくはアスパラギン酸、46番目のグルタミン、スレオニンもしくはセリン、47番目のアラニン、セリン、リジンもしくはアルギニン、49番目のロイシンもしくはプロリン、51番目のメチオニン、アルギニンもしくはロイシン、67番目のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸、68番目のアラニンもしくはバリン、71番目のバリンもしくはイソロイシン、74番目のプロリン、90番目のイソロイシン、93番目のシステイン、アラニンもしくはイソロイシン、94番目のバリン、119番目のアスパラギン酸、アラニンもしくはセリン、121番目のメチオニン、セリンもしくはシステイン、124番目のイソロイシン、スレオニンもしくはロイシン、137番目のアラニンもしくはシステイン、151番目のアルギニン、バリンもしくはアスパラギン、155番目のバリン、171番目のアラニン、アルギニンもしくはリジン、193番目のリジン、アルギニンもしくはバリン、195番目のメチオニン、バリンもしくはイソロイシン、197番目のグルタミン酸、グルタミン、アルギニンもしくはリジン、223番目のアラニンもしくはグリシン、224番目のロイシンもしくはアルギニン、226番目のアラニン、230番目のメチオニン、259番目のフェニルアラニン、アラニンもしくはグルタミン酸、267番目のバリンもしくはメチオニン、271番目のグルタミン酸もしくはリジン、273番目のアラニン、システインもしくはロイシン、280番目のスレオニンもしくはアスパラギン、282番目のセリンもしくはアラニン、294番目のアラニン、リジン、グルタミン、グリシンもしくはグルタミン酸、295番目のメチオニン、グルタミン、アルギニン、ロイシンもしくはヒスチジンが挙げられる。
これらのアミノ酸配列を1つ以上有するマレートチオキナーゼは、酵素活性の観点からより好適である。
【0066】
第二のグループはリゾビウム エスピー、ハイホマイクロビウム・メチロボラム、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス、ニトロソモナス ユーロピア、メチロコッカス キャプスラタス及びガンマプロテオバクテリア全てに特徴的な共通配列であり、図2及び図に「+」の記号で示した。特徴的な共通配列の位置をハイホマイクロビウム・メチロボラムのアミノ酸の配列番号にそって記載する。
MtkB(図2)の43番目のバリン、120番目のイソロイシン、143番目のイソロイシン、192番目のアラニン、230番目のグルタミン酸、232番目のアルギニン、248番目のグリシン及び255番目のアスパラギン酸が挙げられる。
MtkA(図3)では16番目のフェニルアラニン、74番目のプロリン、90番目のイソロイシン、94番目のバリン、155番目のバリン、226番目のアラニン及び230番目のメチオニンが挙げられる。
これらの特徴的な共通配列、及び全体的に保存された共通配列以外の相同性のない部分には、変異が入っていても良い。これらのアミノ酸配列を有するマレートチオキナーゼは、酵素活性の観点からさらに好適である。
【0067】
第三のグループはリゾビウム エスピー、ハイホマイクロビウム・メチロボラム、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス及びニトロソモナス ユーロピアに特徴的な共通配列であり、図2及び図に「#」の記号で示した。特徴的な共通配列の位置をハイホマイクロビウム・メチロボラムのアミノ酸の配列番号にそって記載する。
MtkB(図2)の29番目のグルタミン酸、34番目のアルギニン、68番目のイソロイシン、83番目のヒスチジン、91番目のロイシン、95番目のロイシン、103番目のイソロイシン、111番目のフェニルアラニン、141番目のアスパラギン酸、182番目のグリシン、183番目のシステイン、252番目のバリン、299番目のリジン、345番目のバリン、354番目のグルタミン酸、357番目のアルギニン及び374番目のアラニンが挙げられる。
MtkA(図3)では20番目のイソロイシン、68番目のアラニン、93番目のシステイン、121番目のメチオニン、123番目のロイシン、137番目のアラニン、224番目のロイシン、236番目のアラニン、237番目のチロシン、238番目のイソロイシン、261番目のグルタミン酸、267番目のバリン、270番目のロイシン、271番目のリジン、275番目のバリン、277番目のイソロイシン、280番目のスレオニン及び282番目のセリンが挙げられる。
これらの特徴的な共通配列、及び全体的に保存された共通配列以外の相同性のない部分には、変異が入っていても良い。これらのアミノ酸配列を有するマレートチオキナーゼは、酵素活性の観点からさらに好適である。
【0068】
第四のグループはメチロコッカス キャプスラタス及びガンマプロテオバクテリアに特徴的な共通配列であり、図2及び図3に「*」の記号で示した。特徴的な共通配列の位置をメチロコッカス キャプスラタスのアミノ酸の配列番号にそって記載する。
MtkB(図2)の2番目のアスパラギン、15番目のチロシン、18番目のプロリン、26番目のチロシン、28番目のアスパラギン酸、34番目のバリン、36番目のグルタミン酸、38番目のイソロイシン、53番目のグリシン、60番目のバリン、63番目のアラニン、65番目のセリン、67番目のグルタミン酸、74番目のアスパラギン酸、76番目のメチオニン、114番目のイソロイシン、119番目のグルタミン、122番目のスレオニン、128番目のグルタミン酸、132番目のグルタミン酸、136番目のバリン、143番目のリジン、145番目のバリン、147番目のグルタミン酸、153番目のイソロイシン、160番目のシステイン、162番目のリジン、163番目のバリン、166番目のアラニン、167番目のイソロイシン、173番目のロイシン、174番目のメチオニン、176番目のグルタミン、179番目のアルギニン、180番目のロイシン、181番目のメチオニン、184番目のイソロイシン、194番目のロイシン、195番目のグルタミン、203番目のイソロイシン、204番目のバリン、205番目のグリシン、211番目のロイシン、218番目のフェニルアラニン、219番目のアスパラギン、237番目のロイシン、239番目のグルタミン酸、240番目のグルタミン酸、245番目のバリン、246番目のグルタミン酸、249番目のグリシン、253番目のアスパラギン、256番目のアラニン、277番目のアラニン、281番目のヒスチジン、298番目のグルタミン酸、299番目のリジン、302番目のアスパラギン、304番目のシステイン、306番目のイソロイシン、330番目のイソロイシン、334番目のロイシン、336番目のグルタミン、340番目のセリン、341番目のロイシン、370番目のフェニルアラニン、375番目のアスパラギン、377番目のアスパラギン酸、378番目のアスパラギン酸、381番目のアラニン及び386番目のイソロイシンが挙げられる。
MtkA(図3)では4番目のフェニルアラニン、5番目のバリン、6番目のアスパラギン、8番目のヒスチジン、9番目のセリン、11番目のバリン、12番目のイソロイシン、20番目のヒスチジン、28番目のアラニン、30番目のアルギニン、33番目のスレオニン、56番目のロイシン、60番目のアスパラギン酸、72番目のアスパラギン酸、73番目のバリン、91番目のイソロイシン、96番目のアルギニン、97番目のバリン、102番目のアラニン、107番目のバリン、111番目のイソロイシン、114番目のグルタミン、117番目のアルギニン、119番目のグリシン、121番目のアスパラギン酸、129番目のスレオニン、130番目のプロリン、134番目のスレオニン、137番目のグルタミン酸、138番目のシステイン、139番目のリジン、140番目のバリン、163番目のアスパラギン、168番目のグルタミン酸、175番目のロイシン、191番目のスレオニン、192番目のアスパラギン酸、194番目のバリン、195番目のスレオニン、196番目のバリン、199番目のアラニン、210番目のバリン、221番目のバリン、222番目のアラニン、224番目のアラニン、225番目のアルギニン、227番目のアラニン、260番目のグルタミン酸、263番目のスレオニン、266番目のアラニン、268番目のメチオニン、269番目のアスパラギン酸、270番目のアラニン、272番目のグルタミン酸、274番目のロイシン、277番目のチロシン、280番目のアルギニン、281番目のアスパラギン、283番目のアラニン、285番目のイソロイシン、290番目のロイシン、291番目のアルギニン、292番目のアラニン、295番目のグルタミン酸が挙げられる。
これらの特徴的な共通配列、及び全体的に保存された共通配列以外の相同性のない部分には変異が入っていても良い。
これらのアミノ酸配列を有するマレートチオキナーゼは、酵素活性の観点から最も好適である。
【0069】
前記マレートチオキナーゼの遺伝子(mtk)としては、上述した各由来生物から得られるマレートチオキナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。
好適なものとしては、メチロバクテリウム・エクストルクエンス等のメチロバクテリウム属由来(配列番号67及び68)、ハイホマイクロビウム メチロボラム、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス等のハイホマイクロビウム属由来、リゾビウム エスピー NGR234等のリゾビウム属由来、グラニュリバクター ベセスデンシス等のグラニュリバクター属由来、ニトロソモナス ユーロピア等のニトロソモナス属由来、メチロコッカス キャプスラタス等のメチロコッカス属由来、ガンマプロテオバクテリア界由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
アセチルCoAの生産効率の観点から、好ましくはハイホマイクロビウム属由来(配列番号61及び62、配列番号86及び87)、リゾビウム属由来(例えば、配列番号63)、グラニュリバクター属由来(配列番号81及び82)、ニトロソモナス属由来(配列番号91及び92)、メチロコッカス属由来(配列番号96及び97)、ガンマプロテオバクテリア界由来の遺伝子の塩基配列(配列番号102及び103)を有するDNAが例示される。
特に好ましくはハイホマイクロビウム属由来遺伝子の塩基配列(配列番号61及び62、配列番号86及び87)、及びコドンを最適化したリゾビウム属由来の遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号63)、ニトロソモナス属由来の遺伝子の塩基配列(配列番号91及び92)、メチロコッカス属由来の遺伝子の塩基配列(配列番号96及び97)、ガンマプロテオバクテリア界由来の遺伝子の塩基配列(配列番号102及び103)が例示される。
【0070】
前記マリルCoAリアーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.1.3.24に分類され、マリルCoAからグリオキシル酸とアセチルCoAを生成する酵素である。例えば、メチロバクテリウム・エクストルクエンス等のメチロバクテリウム属由来、ハイホマイクロビウム・メチロボラム、 ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス等のハイホマイクロビウム属由来、クロロフレクサス・アウランチアクス等のクロロフレクサス属由来、ニトロソモナス ユーロピア等のニトロソモナス属由来、メチロコッカス キャプスラタス等のメチロコッカス属由来のものが挙げられる。
アセチルCoAの生産効率の観点から、特に好ましくはメチロバクテリウム属由来のアミノ酸配列(配列番号69)ハイホマイクロビウム属由来のアミノ酸配列(配列番号72及び109)、ニトロソモナス属由来のアミノ酸配列(配列番号112)、メチロコッカス属由来のアミノ酸配列(配列番号115)が例示される。
マリルCoAリアーゼの比活性としては、たとえば、メチロバクテリウム・エクストロクエンスにおいて、精製酵素として28.1U/mgという報告がある(Biochem. J. 139, 399−405, (1974))。
【0071】
前記マリルCoAリアーゼの遺伝子(mcl)としては、上述した各由来生物から得られるマリルCoAリアーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。
好適なものとしては、メチロバクテリウム・エクストルクエンス等のメチロバクテリウム属由来、ハイホマイクロビウム・メチロボラム、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス等のハイホマイクロビウム属由来、クロロフレクサス・アウランチアクス等のクロロフレクサス属由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。アセチルCoAの生産効率の観点から、特に好ましくはメチロバクテリウム属由来の遺伝子、及びハイホマイクロビウム属由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
特に好ましいメチロバクテリウム属由来の遺伝子の塩基配列の一例としては、メチロバクテリウム・エクストルクエンス由来遺伝子の塩基配列(配列番号66)ハイホマイクロビウム属由来の遺伝子の塩基配列の一例としては、ハイホマイクロビウム・メチロボラム由来遺伝子の塩基配列(配列番号60)、ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス由来遺伝子の塩基配列(配列番号85)、ニトロソモナス属由来の遺伝子の塩基配列の一例としては、ニトロソモナス ユーロピア由来遺伝子の塩基配列(配列番号90)、メチロコッカス属由来の遺伝子の塩基配列の一例としては、メチロコッカス キャプスラタス由来遺伝子の塩基配列(配列番号95)が挙げられる。
【0072】
前記アセチルCoAカルボキシラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号6.4.1.2に分類され、アセチルCoAとCOからマロニルCoAへと変換する酵素の総称を指す。
前記マロン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.2.1.18に分類され、マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒドへと変換する酵素の総称を指す。
前記マロニルCoAレダクターゼとは、マロニルCoAをマロン酸セミアルデヒドもしくは3−ヒドロキシプロピオン酸へと変換する酵素の総称を指す。
前記クロトニルCoAカルボキラーゼ−レダクターゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.3.1.85に分類され、クロトニルCoAをエチルマロニルCoAへと変換する酵素の総称を指す。
前記メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号6.4.1.4に分類され、クロトニルCoAをグルタコニルCoAへと変換する酵素の総称を指す。
前記ピルビン酸シンターゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.2.7.1に分類され、アセチルCoAをピルビン酸へと変換する酵素の総称を指す。
【0073】
前記アセチルCoA生産微生物は、更に、乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸シンターゼ、及びフマル酸ヒドラターゼからなる群より選択された少なくとも1つの酵素の活性が不活化又は低減されていることが好ましい。これにより、より効率よくアセチルCoAを生産することができる。
【0074】
活性の不活化又は低減の対象となりうる乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸シンターゼ、及びフマル酸ヒドラターゼの各酵素のうち、リンゴ酸シンターゼは、アセチルCoAとグリオキシル酸をリンゴ酸へと変換する反応であり、マレートチオキナーゼ及びマリルCoAリアーゼによる反応の逆反応であり、アセチルCoAとグリオキシル酸がリンゴ酸へと戻る反応が阻止または低減されるため、アセチルCoAの収率向上につながり、好ましい。
【0075】
また、活性の不活化又は低減の対象となりうる乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸シンターゼ、及びフマル酸ヒドラターゼの各酵素のうち、フマル酸ヒドラターゼを不活化させることが、アセチルCoAの生産効率の観点から好ましい。これにより、リンゴ酸がフマル酸をはじめとする他の物質へと変換されて量が減ることを防ぐことができ、アセチルCoAの収率向上につながる。
【0076】
前記乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)は、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.1.1.28に分類され、ピルビン酸を乳酸へと変換、もしくはその逆の変換をする酵素の総称を指す。
【0077】
前記イソクエン酸リアーゼ(aceA)は、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.1.3.1に分類され、イソクエン酸をコハク酸とグリオキシル酸へと変換する酵素の総称を指す。
【0078】
前記リンゴ酸シンターゼ(aceBおよびglcB)は、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号2.3.3.9に分類され、アセチルCoAとグリオキシル酸をリンゴ酸とCoAへと変換する酵素の総称を指す。リンゴ酸シンターゼは微生物によって、複数個のアイソマーをゲノム中に有する場合もある。大腸菌の多くは、aceBおよびglcBの2種類の名称の遺伝子を保有するので、本特許では両方とも記載する。なお、パントエア・アナナティスおよびコリネバクテリウム・グルタミカムには、aceBもしくはglcBに相当する遺伝子が一種類存在するが、本特許では便宜上aceBに統一して記載する。
【0079】
前記フマル酸ヒドラターゼ(fum)は、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.2.1.2に分類され、リンゴ酸をフマル酸へと変換する酵素の総称を指す。フマル酸ヒドラターゼは、微生物によって、複数個のアイソマーをゲノム中に有している場合もある。たとえば、大腸菌はfumA,fumB,fumCの三種類のフマル酸ヒドラターゼを保有している。パントエア・アナナティスはfumA,fumCを保有している。コリネバクテリウム・グルタミカムはfumCを保有している。
【0080】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.1.1.31に分類され、ホスホエノールピルビン酸と二酸化炭素をオキサロ酢酸とリン酸へと変換する酵素の総称を指す。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌、ハイホマイクロビウム・メチロボラム(Hyphomicrobium methylovorum)等のハイホマイクロビウム属細菌、スタルケヤ・ノベラ(Starkeya novella)等のスタルケヤ属細菌、ロドシュードモナス・エスピー(Rhodopseudomonas sp.)等のロドシュードモナス属細菌、ストレプトマイセス・コエリカラ(Streptomyces coelicolor)等のストレプトマイセス属細菌由来のものが挙げられる。
【0081】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの遺伝子(ppc)としては、上述した各由来生物から得られるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌、ハイホマイクロビウム・メチロボラム(Hyphomicrobium methylovorum)等のハイホマイクロビウム属細菌、スタルケヤ・ノベラ(Starkeya novella)等のスタルケヤ属細菌、ロドシュードモナス・エスピー(Rhodopseudomonas sp.)等のロドシュードモナス属細菌、ストレプトマイセス・コエリカラ(Streptomyces coelicolor)等のストレプトマイセス属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0082】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.1.1.32、酵素番号4.1.1.38、酵素番号4.1.1.49、に分類され、ホスホエノールピルビン酸と二酸化炭素をオキサロ酢酸へと変換する酵素の総称を指す。その際、酵素番号4.1.1.32はGDPをGTPに変換する反応、酵素番号4.1.1.38はリン酸をピロリン酸に変換する反応、酵素番号4.1.1.49はADPをATPに変換する反応、をそれぞれ伴っている。例えば、アクチノバチルス・スクシノジェンス(Actinobacillus succinogenes)等のアクチノバチルス属細菌、マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)等のマイコバクテリウム属細菌、トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)等のトリパノソーマ属細菌由来のものが挙げられる。
【0083】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの遺伝子(pck)としては、上述した各由来生物から得られるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、アクチノバチルス・スクシノジェンス(Actinobacillus succinogenes)等、アクチノバチルス属、マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)等のマイコバクテリウム属細菌、トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)等のトリパノソーマ属細菌由来のものが挙げられる。
【0084】
前記ピルビン酸カルボキシラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号6.4.1.1に分類され、ピルビン酸と二酸化炭素をオキサロ酢酸へと変換する酵素の総称を指す。反応の際、ATPを消費し、ADPとリン酸を生成する。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)等のマイコバクテリウム属細菌由来のものが挙げられる。
【0085】
前記ピルビン酸カルボキシラーゼの遺伝子(pyc)としては、上述した各由来生物から得られるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)等のマイコバクテリウム属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0086】
前記リンゴ酸デヒドロゲナーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.1.1.37に分類され、NADHを補酵素として用い、オキサロ酢酸からリンゴ酸を生成する酵素の総称を指す。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
前記リンゴ酸デヒドロゲナーゼの遺伝子(mdh)としては、上述した各由来生物から得られるリンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0087】
前記グリオキシル酸カルボリガーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.1.1.47に分類され、2分子のグリオキシル酸を1分子の2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸へと変換する酵素の総称を指す。反応の際、1分子の二酸化炭素の脱炭酸を伴う。例えば、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、ロドコッカス・ジョスティ等のロドコッカス属細菌由来のものが挙げられる。
前記グリオキシル酸カルボリガーゼの遺伝子(gcl)としては、上述した各由来生物から得られるグリオキシル酸カルボリガーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、ロドコッカス・ジョスティ等のロドコッカス属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0088】
前記2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.1.1.60に分類され、NADHを補酵素として用い、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸をグリセリン酸へと変換する酵素の総称を指す。例えば、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
前記2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼの遺伝子(glxR)としては、上述した各由来生物から得られる2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸レダクターゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0089】
前記ヒドロキシピルビン酸イソメラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号5.3.1.22に分類され、2−ヒドロキシ−3−オキソプロピオン酸をヒドロキシピルビン酸へと異性化する酵素の総称を指す。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来のものが挙げられる。
前記ヒドロキシピルビン酸イソメラーゼの遺伝子(hyi)としては、上述した各由来生物から得られるヒドロキシピルビン酸イソメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0090】
前記ヒドロキシピルビン酸レダクターゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号1.1.1.81に分類され、NADH又はNADPHを補酵素として用い、ヒドロキシピルビン酸をグリセリン酸へと変換する酵素の総称を指す。
例えば、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、およびパントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来のものが挙げられる。
前記ヒドロキシピルビン酸レダクターゼの遺伝子(ycdW)としては、上述した各由来生物から得られるヒドロキシピルビン酸レダクターゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、およびパントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0091】
前記グリセリン酸3−キナーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号2.7.1.31に分類され、グリセリン酸を3−ホスホグリセリン酸へと変換する酵素の総称を指す。1分子のATPを消費し、1分子のADPとリン酸を生成する。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
本発明におけるグリセリン酸3−キナーゼの遺伝子(glxK)としては、上述した各由来生物から得られるグリセリン酸3−キナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0092】
前記グリセリン酸2−キナーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号2.7.1.165に分類され、グリセリン酸を2−ホスホグリセリン酸へと変換する酵素の総称を指す。1分子のATPを消費し、1分子のADPとリン酸を生成する。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
本発明におけるグリセリン酸2−キナーゼの遺伝子(garK)としては、上述した各由来生物から得られるグリセリン酸2−キナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0093】
前記ホスホグリセリン酸ムターゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号5.4.2.1に分類され、3−ホスホグリセリン酸を2−ホスホグリセリン酸へと変換する酵素の総称を指す。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来のものが挙げられる。
前記ホスホグリセリン酸ムターゼの遺伝子(gpm)としては、上述した各由来生物から得られるホスホグリセリン酸ムターゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0094】
前記エノラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号4.2.1.11に分類され、2−ホスホグリセリン酸をホスホエノールピルビン酸へと変換する酵素の総称を指す。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来のものが挙げられる。
前記エノラーゼの遺伝子(eno)としては、上述した各由来生物から得られるエノラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0095】
前記ピルビン酸キナーゼは国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した、酵素番号2.7.1.40に分類され、ホスホエノールピルビン酸とADPからピルビン酸とATPを生成する酵素の総称を指す。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来のものが挙げられる。
前記ピルビン酸キナーゼの遺伝子(pyk)としては、上述した各由来生物から得られるピルビン酸キナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネバクテリウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、パントエア・アナナティス等のパントエア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。
【0096】
前記アセチルCoA生産微生物は、アセチルCoAを有用な代謝産物へと変換する経路に加えて、アセチルCoAを原料とする他の代謝産物を生産する経路を有していてもよく、又は当該他の代謝産物を生産する経路に関連する酵素活性を強化していてもよい。これにより、アセチルCoAに由来する有用な代謝産物を、炭素源材料及び二酸化炭素から生成すると共にアセチルCoAに由来する有用な代謝産物の生産性を向上させることができる。
【0097】
本発明で用いられる微生物は、下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のいずれをも有していない微生物であれば特に制限はされない。
(a)マロニルCoAからマロン酸セミアルデヒド又は3−ヒドロキシプロピオン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(b)アセチルCoAとCOからピルビン酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(c)クロトニルCoAとCOからエチルマロニルCoA又はグルタコニルCoAへの酵素反応を有する炭酸固定回路、
(d)COからギ酸への酵素反応を有する炭酸固定回路、
(e)マレートチオキナーゼと、マリルCoAリアーゼとからなる群より選択された少なくとも1種。
【0098】
例えば、腸内細菌科に属する微生物又はコリネ型細菌に属する微生物が挙げられる。具体的には、エシェリヒア属細菌やパントエア属細菌などの腸内細菌科に属する微生物、コリネバクテリウム属細菌やブレビバクテリウム属細菌などのコリネ型細菌に属する微生物、糸状菌、放線菌等が挙げられる。
腸内細菌科に属する微生物としては、エンテロバクター属、エルビニア属、エシェリヒア属、クレブシエラ属、パントエア属、プロビデンシア属、サルモネラ属、セラチア属、シゲラ属、モルガネラ属、エルウィニア属等に属する菌が挙げられる。中でも、有用な代謝産物を効率的に生産できるという観点から、エシェリヒア属又はパントエア属に属する微生物が好ましい。
コリネバクテリウム属細菌としては、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムなどが挙げられる。
【0099】
エシェリヒア属細菌としては、特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)、プロトタイプの野生株B株由来のエシェリヒア・コリ B (ATCC 11303)等が挙げられる。
【0100】
エシェリヒア属細菌及びパントエア属細菌は、いずれも腸内細菌科に属し、非常に近縁である(J. Gen. Appl. Microbiol. 43(6) 355−361 (1997)、International Journal of Systematic Bacteriology, p1061−1067 (1997))。
近年、エンテロクター属に属する菌には、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・ディスパーサ(Pantoea dispersa)等に再分類されているものがある(International Journal of Systematic Bacteriology, July 39(3) 337−345 (1989))。
また、エルビニア属に属する菌にはパントエア・アナナス(Pantoea ananas)、パントエア・スチューアルティに再分類されているものがある(International Journal of Systematic Bacteriology, 43(1), 162−173 (1993))。
エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等が挙げられる。具体的には、欧州特許出願公開952221号明細書に例示された菌株を使用することが出来る。エンテロバクター属の代表的な株として、エンテロバクター・アグロメランスATCC12287株が挙げられる。
【0101】
パントエア属細菌の代表的な菌株として、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)パントエア・アグロメランス、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。具体的には、下記の菌株が挙げられる。
・パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP−6614)(欧州特許出願公開0952221号明細書)
・パントエア・アナナティスAJ13356株(FERM BP−6615)(欧州特許出願公開0952221号明細書)
尚、これらの菌株は、欧州特許出願公開0952221号明細書にはエンテロバクター・アグロメランスとして記載されているが、現在では、上記のとおり、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティスに再分類されている。
【0102】
本発明のコリネ型細菌とは、Bergeys Manual of Determinative Bacteriology, 8, 599 (1974)に定義される、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、またはミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物等をいう。
また、これまでブレビバクテリウム属に分類されていたが、その後コリネバクテリウム属に再分類されている微生物(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))、および類縁菌であるブレビバクテリウム属に属する微生物も挙げられる。以下にコリネ型細菌の例を列挙する。
例えば、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム、コリネバクテリウム・アルカノリティカム、コリネバクテリウム・カルナエ、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・リリウム、コリネバクテリウム・メラセコーラ、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス、コリネバクテリウム・ハーキュリス、ブレビバクテリウム・ディバリカタム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、ブレビバクテリウム・ロゼウム、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム、ブレビバクテリウム・チオゲニタリス、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、ブレビバクテリウム・アルバム、ブレビバクテリウム・セリヌム、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラムが挙げられる。
【0103】
特に、以下の菌株を包含する。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカム ATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエ ATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020、13032、13060、コリネバクテリウム・リリウム ATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス AJ12340(FERM BP−1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC13868、ブレビバクテリウム・ディバリカタム ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム ATCC13826、ATCC14067、AJ12418(FERM BP−2205)、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC19240、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6871、ATCC6872、ブレビバクテリウム・アルバム ATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌム ATCC15112及びミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354を包含する。
【0104】
微生物が、エシェリヒア属細菌である場合には、エシェリヒア属細菌に、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及びアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性が付与または強化されたアセチルCoA生産微生物が、本発明におけるアセチルCoA生産微生物の好ましい一態様として挙げられる。
また、微生物が、エシェリヒア属細菌である場合には、エシェリヒア属細菌に、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性が付与または強化されたアセチルCoA生産微生物も、本発明におけるアセチルCoA生産微生物の好ましい一態様として挙げられる。
【0105】
前記チオラーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号2.3.1.9に分類され、アセチルCoAからアセトアセチルCoAを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、ハロバクテリウム種(Halobacterium sp.)細菌、ズーグロア・ラミゲラ(Zoogloea ramigera)等のズーグロア属細菌、リゾビウム種(Rhizobium sp.)細菌、ブラディリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum)等のブラディリゾビウム属細菌、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)等のカンジダ属細菌、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)等のカウロバクター属細菌、ストレプトマイセス・コリナス(Streptomyces collinus)等のストレプトマイセス属細菌、エンテロコッカス・ファカリス(Enterococcus faecalis)等のエンテロコッカス属細菌由来のものが挙げられる。
【0106】
前記チオラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるチオラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・ベイジェリンキ等のクロストリジウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、ハロバクテリウム種の細菌、ズーグロア・ラミゲラ等のズーグロア属細菌、リゾビウム種の細菌、ブラディリゾビウム・ジャポニカム等のブラディリゾビウム属細菌、カンジダ・トロピカリス等のカンジダ属細菌、カウロバクター・クレセンタス等のカウロバクター属細菌、ストレプトマイセス・コリナス等のストレプトマイセス属細菌、エンテロコッカス・ファカリス等のエンテロコッカス属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。より好適なものとしては、クロストリジウム属細菌、及びエシェリヒア属細菌などの原核生物に由来するものを挙げることができ、特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム又はエシェリヒア・コリ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0107】
前記アセト酢酸デカルボキシラーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号4.1.1.4に分類され、アセト酢酸からアセトンを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)等のバチルス属細菌由来のものが挙げられる。
【0108】
前記アセト酢酸デカルボキシラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるアセト酢酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム属細菌に由来するもの、及びバチルス属細菌に由来するものを挙げることができ、例えばクロストリジウム・アセトブチリカム、バチルス・ポリミクサ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0109】
前記アセト酢酸デカルボキシラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるアセト酢酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNAを利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム属細菌に由来するもの、及びバチルス属細菌に由来するものを挙げることができ、例えばクロストリジウム・アセトブチリカム、バチルス・ポリミクサ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0110】
前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.80に分類され、アセトンからイソプロピルアルコールを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌由来のものが挙げられる。
【0111】
前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNAを利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム属細菌に由来するものを挙げることができ、例えばクロストリジウム・ベイジェリンキ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0112】
前記CoAトランスフェラーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号2.8.3.8に分類され、アセトアセチルCoAからアセト酢酸を生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌、ローセブリア・インテスチナリス(Roseburia intestinalis)等のローセブリア属細菌、ファカリバクテリウム・プラウセンツ(Faecalibacterium prausnitzii)等ファカリバクテリウム属細菌、コプロコッカス(Coprococcus)属細菌、トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)等のトリパノソーマ、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli:大腸菌)等エシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
【0113】
前記CoAトランスフェラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム・アセトブチリカム等のクロストリジウム属細菌、ローセブリア・インテスチナリス等のローセブリア属細菌、ファカリバクテリウム・プラウセンツ等のファカリバクテリウム属細菌、コプロコッカス属細菌、トリパノソーマ・ブルセイ等のトリパノソーマ、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。より好適なものとしては、クロストリジウム属細菌及びエシェリヒア属細菌に由来するものを挙げることができ、特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム及びエシェリヒア・コリ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0114】
上記4種類の酵素はそれぞれ、クロストリジウム属細菌、バチルス属細菌及びエシェリヒア属細菌からなる群より選択された少なくとも1種由来のものであることが酵素活性の観点から好ましく、なかでも、アセト酢酸デカルボキシラーゼ及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼがクロストリジウム属細菌由来であり、CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性がエシェリヒア属細菌由来である場合が更に好ましい。
【0115】
なかでも上記4種類の酵素はそれぞれ、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・ベイジュリンキ又はエシェリヒア・コリのいずれか由来のものであることが酵素活性の観点から好ましく、アセト酢酸デカルボキシラーゼがクロストリジウム・アセトブチリカム由来の酵素であり、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼが、それぞれクロストリジウム・アセトブチリカム又はエシェリヒア・コリ由来の酵素であり、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼが、クロストリジウム・ベイジェリンキ由来の酵素であることがより好ましく、上記4種類の酵素は、酵素活性の観点から、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性がクロストリジウム・アセトブチリカム由来であり、前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性がクロストリジウム・ベイジェリンキ由来であり、CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性がエシェリヒア・コリ由来であることが特に好ましい。
【0116】
大腸菌由来のCoAトランスフェラーゼ遺伝子(atoD及びatoA)とチオラーゼ遺伝子(atoB)は、atoD、atoA、atoBの順番で大腸菌ゲノム上でオペロンを形成しているため(Journal of Baceteriology Vol.169 pp 42−52 Lauren Sallus Jenkinsら)、atoDのプロモーターを改変することによって、CoAトランスフェラーゼ遺伝子とチオラーゼ遺伝子の発現を同時に制御することが可能である。
【0117】
このことから、CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性が宿主大腸菌のゲノム遺伝子より得られたものである場合、充分なイソプロピルアルコール生産能力を獲得する観点から、両酵素遺伝子の発現を担うプロモーターを他のプロモーターと置換する等によって両酵素遺伝子の発現を増強することが好ましい。CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性の発現を増強するために用いられるプロモーターとしては、前述のエシェリヒア・コリ由来GAPDHプロモーター等を挙げることができる。
【0118】
アセチルCoAを原料として他の代謝産物を生産するアセチルCoA生産微生物としては、例えば、イソプロピルアルコール生産系を有する大腸菌(以下、「イソプロピルアルコール生産大腸菌」という。)を宿主として、上述した各酵素活性を、付与又は強化し、或いは不活性化又は低減した微生物等を挙げることができる。
【0119】
前記イソプロピルアルコール生産大腸菌としては、イソプロピルアルコール生産能を付与する各遺伝子の導入及び変更が可能であればいずれの大腸菌であってもよい。
より好ましくは、イソプロピルアルコール生産能が予め付与された大腸菌であることができ、これにより、より効率よくイソプロピルアルコールを生産させることができる。
このようなイソプロピルアルコール生産大腸菌としては、例えば国際公開第2009/008377号パンフレットに記載されているアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性、及びチオラーゼ活性を付与され、植物由来原料からイソプロピルアルコールを生成しうるイソプロピルアルコール生成大腸菌などを挙げることができる。その他、国際公開第2009/094485号パンフレット、国際公開第2009/094485号パンフレット、国際公開第2009/046929号パンフレット、国際公開第2009/046929号パンフレットに記載の微生物も、イソプロピルアルコール生産大腸菌の例として挙げられる。
【0120】
前記イソプロピルアルコール生産大腸菌は、イソプロピルアルコール生産経路を備えた大腸菌であり、遺伝子組換え技術により導入されたイソプロピルアルコール生産能力を保有する大腸菌をいう。このようなイソプロピルアルコール生産系は、対象となる大腸菌にイソプロピルアルコールを生産させるものであればいずれのものであってもよい。
本発明におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌は、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及び前述したチオラーゼ活性の4種類の酵素活性が、細胞外から付与されていることが好ましい。
【0121】
本発明において、イソプロピルアルコール生産系を備えているイソプロピルアルコール生産大腸菌の例として、WO2009/008377号に記載のpIPA/B株又はpIaaa/B株を例示できる。また、該大腸菌には、イソプロピルアルコールの生産に関与する酵素のうち、CoAトランスフェラーゼ活性とチオラーゼ活性の強化は該大腸菌のゲノム上の各遺伝子の発現を強化することで行い、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性とアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性の強化は各遺伝子の発現をプラスミドで強化した株(本明細書では、pIa/B::atoDAB株と呼ぶことがある)を含む。
【0122】
更に、本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌は、転写抑制因子GntRの活性が不活化されていると共に、イソプロピルアルコール生産系と、該GntRの活性の不活性化に伴うイソプロピルアルコール生産能を維持又は強化する酵素活性パターンの補助酵素群とを備えたイソプロピルアルコール生産大腸菌であってもよい。これにより、イソプロピルアルコールをよりいっそう高生産することができる。
【0123】
本発明における「補助酵素群」とは、このようなイソプロピルアルコール生産能に影響する1つ又は2つ以上の酵素を指す。また、補助酵素群のそれぞれの酵素活性は、不活化、活性化又は強化されており、本発明における「補助酵素群の酵素活性パターン」とは、GntRの活性を不活性化したことのみによって得られる向上したイソプロピルアルコール生産量が、維持又は増加し得る各酵素の酵素活性パターンを指し、1つ又は2つ以上の酵素の組み合わせを包含する。
【0124】
補助酵素群の酵素活性パターンとしては、好ましくは、以下のパターンを挙げることができる:
(1)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性及びホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の野生型の維持、
(2)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活性化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化、
(3)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活性化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化と、ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の不活性化。
なかでも、上記(3)の補助酵素群の酵素活性パターンがイソプロピルアルコール生産能の観点からより好ましい。
【0125】
なお、前記補助酵素群及びその酵素活性パターンは、これらに限定されず、GntRの活性の不活性化を含み、イソプロピルアルコール生産大腸菌におけるイソプロピルアルコール生産量が増加し得る補助酵素群及びその酵素活性パターンであれば、いずれも本発明に包含される。また、補助酵素群は、必ずしも複数の酵素で構成されている必要はなく、1の酵素で構成していてもよい。
【0126】
前記GntRとは、エントナー・ドウドロフ経路を経由したグルコン酸代謝に関与するオペロンを負に制御する転写因子を指す。グルコン酸の取り込みと代謝を担う二つの遺伝子群(GntIとGntII)の働きを抑制するGntR転写抑制因子の総称を指す。
前記グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)とは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号5.3.1.9に分類され、D−グルコース−6−リン酸からD−フルクトース−6−リン酸を生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
【0127】
前記グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)とは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.49に分類され、D−グルコース−6−リン酸からD−グルコノ−1,5−ラクトン−6−リン酸を生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、ディノコッカス・ラジオフィラス(Deinococcus radiophilus)等のディノコッカス属菌、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アキュリタス(Aspergillus aculeatus)等のアスペルギルス属菌、アセトバクター・ハンセニー(Acetobacter hansenii)等のアセトバクター属菌、サーモトガ・マリチナ(Thermotoga maritima)等のサーモトガ属菌、クリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)等のクリプトコッカス属菌、ディクチョステリウム・ディスコイデウム(Dictyostelium discoideum)等のディクチョステリウム属菌、シュードモナス・フルオセセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginos等のシュードモナス属、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス属、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)等のバチルス属菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
【0128】
前記グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)の遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるチオラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、ディノコッカス・ラジオフィラス(Deinococcus radiophilus)等のディノコッカス属菌、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アキュリタス(Aspergillus aculeatus)等のアスペルギルス属菌、アセトバクター・ハンセニー(Acetobacter hansenii)等のアセトバクター属菌、サーモトガ・マリチナ(Thermotoga maritima)等のサーモトガ属菌、クリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)等のクリプトコッカス属菌、ディクチョステリウム・ディスコイデウム(Dictyostelium discoideum)等のディクチョステリウム属菌、シュードモナス・フルオセセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)等のシュードモナス属、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス属、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)等のバチルス属菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。より好適なものとしては、ディノコッカス属菌、アスペルギルス属菌 、アセトバクター属菌、サーモトガ属菌、シュードモナス属、のバチルス属菌、エシェリヒア属細菌などの原核生物に由来するものを挙げることができ、特に好ましくは、エシェリヒア・コリ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0129】
前記ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)とは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.44に分類され、6−ホスホ−D−グルコン酸からD−リブロース−5−リン酸とCOを生成する反応を触媒する酵素の総
称を指す。
【0130】
本発明におけるこれらの酵素の活性は、細胞外から細胞内へ導入されたもの又は、宿主細菌がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーター活性を強化又は他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子を強発現させたものとすることができる。
【0131】
本発明において酵素の活性を強化した大腸菌とは、何らかの方法によって該酵素活性が強化された大腸菌を指す。これらの大腸菌は、例えば該酵素及び蛋白質をコードする遺伝子を、前述したものと同様の遺伝子組換え技術を用いて細胞外から細胞内にプラスミドを用いて導入する又は、宿主大腸菌がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーター活性を強化又は他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子を強発現させる、又はこれらの組み合わせ等の方法を用いて作出することができる。
【0132】
前記イソプロピルアルコール生産大腸菌に適用可能な遺伝子のプロモーターとは、上記いずれかの遺伝子の発現を制御可能なものであればよいが、恒常的に微生物内で機能する強力なプロモーターで、かつグルコース存在下でも発現の抑制を受けにくいプロモーターがよい。具体的にはグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーターやセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼのプロモーターを例示することができる。
【0133】
前記イソプロピルアルコール生産大腸菌におけるプロモーターとはシグマ因子を有するRNAポリメラーゼが結合し、転写を開始する部位を意味する。例えばエシェリヒア・コリ由来のGAPDHプロモーターはGenBank accession number X02662の塩基配列情報において、塩基番号397〜440に記されている。
【0134】
前記イソプロピルアルコール生産大腸菌においては、乳酸デヒドロゲナーゼ(LdhA)が破壊されていてもよい。これにより、酸素供給が制限された培養条件下においても乳酸の生産が抑制されるため、イソプロピルアルコールを効率よく生産することができる。 酸素供給が制限された培養条件とは、気体として空気のみを用いる場合には、一般的に0.02vvm〜2.0vvm(vvm;通気容量〔mL〕/液容量〔mL〕/時間〔分〕)、回転数200〜600rpmのことをいう。
前記乳酸デヒドロゲナーゼ(LdhA)とは、ピルビン酸とNADHからD−乳酸とNADを生成する酵素を指す。
【0135】
なお、前記アセチルCoA生産微生物は、アセトンを生産する場合、イソプロピルアルコール生産系のうち、チオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及びアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性のみを有することができる。即ち、前記アセチルCoA生産微生物を用いてアセトンを生産する場合には、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性を有していないものも使用することができる。
【0136】
アセチルCoAを原料とする他の代謝産物を生産する経路の他の例としては、アセチルCoAからグルタミン酸を生産する経路を挙げることができる。例えば、グルタミン酸を効率よく生産する経路を有する微生物(以下、「グルタミン酸生産微生物」と称する場合がある。)を宿主として、上述した各酵素活性を、付与又は強化し、或いは不活性化又は低減した微生物を、前記他の代謝産物を生産する経路を有する微生物、又は当該他の代謝産物を産生する経路に関連する酵素活性を強化した微生物の好適な一例として挙げることができる。
【0137】
グルタミン酸生産微生物としては、L−アミノ酸を生産する能力を有する既述の微生物が挙げられる。
グルタミン酸生産微生物の具体例としては、エシェリヒア属細菌やパントエア属細菌などの腸内細菌科属菌、コリネバクテリウム・グルタミカムなどのコリネ型細菌等が挙げられるが、本発明の微生物はこれらの例に限定されない。
【0138】
前記グルタミン酸生産菌としては、グルタミン酸生産能を付与する各遺伝子の導入及び変更が可能であればいずれの微生物であってもよい。より好ましくは、グルタミン酸生産能が予め付与されたパントエア属細菌もしくはコリネ型細菌であることができ、これにより、より効率よくグルタミン酸を生産させることができる。
【0139】
微生物にグルタミン酸生産能を微生物に付与する方法は、例えば、L−グルタミン酸生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現が増大及び/又は過剰発現するように改変することを含む。L−グルタミン酸生合成酵素の例としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミンシンセターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ、エノラーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルクトース−2−リン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ等が挙げられる。これらの酵素のうち、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、及びグルタミン酸デヒドロゲナーゼの1つ又は複数の活性が増大することが好ましく、これらの酵素の3つ全ての活性を増強させることがより好ましい。
【0140】
このようなグルタミン酸生産菌としては、例えば特開2005−278643号公報に記載されているグルタミン酸生産菌などを挙げることができる。
【0141】
L−グルタミン酸生産菌としては、酸性条件下で培養したときに液体培地中にL−グルタミン酸の飽和濃度を越える量のL−グルタミン酸を蓄積する能力(以下、酸性条件下でのL−グルタミン酸蓄積能ということがある)を有する微生物を用いることができる。例えば、欧州公開公報1078989号記載の方法により、低pH環境下でL−グルタミン酸に対する耐性が向上した菌株を取得することにより、飽和濃度を超える量のL−グルタミン酸を蓄積する能力を付与することができる。
【0142】
本来的に酸性条件下でのL−グルタミン酸蓄積能を有する微生物として具体的には、パントエア・アナナティスAJ13356株(FERM BP−6615)及びAJ13601株(FERM BP−7207)(以上、欧州特許出願公開0952221号明細書参照)などが挙げられる。パントエア・アナナティスAJ13356は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(IPOD, NITE)、住所 郵便番号305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、受託番号FERM P−16645として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6615が付与されている。尚、同株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)と同定され、エンテロバクター・アグロメランスAJ13355として寄託されたが、近年16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)に再分類されている(後記実施例参照)。また、後述するAJ13355から誘導された菌株AJ13356、及びAJ13601も、同様にエンテロバクター・アグロメランスとして前記寄託機関に寄託されているが、本明細書ではパントエア・アナナティスと記述する。AJ13601は、1999年8月18日に経済産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(IPOD, NITE))に受託番号FERM P−17156として寄託され、2000年7月6日にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERMBP−7207が付与されている。
【0143】
L−グルタミン酸生産能を付与または増強する別の方法として、有機酸アナログや呼吸阻害剤などへの耐性を付与する方法や、細胞壁合成阻害剤に対する感受性を付与する方法も挙げられる。例えば、モノフルオロ酢酸耐性を付与する方法(特開昭50−113209号公報)、アデニン耐性またはチミン耐性を付与する方法(特開昭57−065198号公報)、ウレアーゼを弱化させる方法(特開昭52−038088号公報)、マロン酸耐性を付与する方法(特開昭52−038088号公報)、ベンゾピロンまたはナフトキノン類への耐性を付与する方法(特開昭56−1889号公報)、HOQNO耐性を付与する方法(特開昭56−140895号公報)、α−ケトマロン酸耐性を付与する方法(特開昭57−2689号公報)、グアニジン耐性を付与する方法(特開昭56−35981号公報)、ペニシリンに対する感受性を付与する方法(特開平4−88994号公報)などが挙げられる。
【0144】
このような耐性菌の具体例としては、下記のような菌株が挙げられる。
・ブレビバクテリウム・フラバムAJ3949 (FERMBP−2632;特開昭50−113209号公報参照)
・コリネバクテリウム・グルタミカムAJ11628 (FERM P−5736;特開昭57−065198号公報参照)
・ブレビバクテリウム・フラバムAJ11355(FERM P−5007;特開昭56−1889号公報参照)
・コリネバクテリウム・グルタミカムAJ11368(FERM P−5020;特開昭56−1889号公報参照)
・ブレビバクテリウム・フラバムAJ11217(FERM P−4318;特開昭57−2689号公報参照)
・コリネバクテリウム・グルタミカムAJ11218(FERM P−4319;特開昭57−2689号公報参照)
・ブレビバクテリウム・フラバムAJ11564(FERM P−5472;特開昭56−140895公報参照)
ブレビバクテリウム・フラバムAJ11439(FERM P−5136;特開昭56−35981号公報参照)
・コリネバクテリウム・グルタミカムH7684(FERM BP−3004;特開平04−88994号公報参照)
・ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ11426(FERM P−5123;特開平56−048890号公報参照)
・コリネバクテリウム・グルタミカムAJ11440(FERM P−5137;特開平56−048890号公報参照)
・ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ11796(FERM P−6402;特開平58−158192号公報参照)
【0145】
L−グルタミン生産能を有する微生物として好ましい例は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ活性を強化した菌、グルタミンシンセターゼ(glnA)活性を強化した菌、グルタミナーゼ遺伝子を破壊した菌である(欧州特許出願公開1229121号、1424398号明細書)。グルタミンシンセターゼの活性増強は、グルタミンアデニニルトランスフェラーゼ(glnE)の破壊、PII制御タンパク質(glnB)の破壊によっても達成できる。また、エシェリヒア属に属し、グルタミンシンセターゼの397位のチロシン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型グルタミンシンセターゼを有する菌株も好適なL−グルタミン生産菌として例示できる(米国特許出願公開第2003−0148474号明細書)。
【0146】
L−グルタミン生産能を付与または増強する別の方法として、6−ジアゾ−5−オキソ−ノルロイシン耐性を付与する方法 (特開平3−232497号公報)、プリンアナログ耐性及びメチオニンスルホキシド耐性を付与する方法(特開昭61−202694号公報)、α−ケトマレイン酸耐性を付与する方法(特開昭56−151495号公報)などが挙げられる。L−グルタミン生産能を有するコリネ型細菌の具体例として、以下の微生物が挙げられる。
【0147】
・ブレビバクテリウム・フラバムAJ11573 (FERM P−5492;特開昭56−161495号公報)
・ブレビバクテリウム・フラバムAJ11576 (FERM BP−10381;特開昭56−161495号公報)
・ブレビバクテリウム・フラバム AJ12212 (FERM P−8123;特開昭61−202694号公報)
【0148】
プロリン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アルギニン、シトルリン、オルニチン、ポリグルタミン酸を生産する微生物として好ましい例は、特開2010−41920号公報に記載されている。また、酢酸、(ポリ)3−ヒドロキシ酪酸、イタコン酸、クエン酸、酪酸、を生産する微生物としては、発酵ハンドブック(共立出版)に記載されている。
4−アミノ酪酸を製造する微生物としては、たとえば、特開2011−167097号公報のように、グルタミン酸生産微生物にグルタミン酸脱炭酸酵素を導入した微生物が挙げられる。
4−ヒドロキシ酪酸を製造する微生物としては、たとえば、特開2009−171960号公報のように、グルタミン酸生産微生物に、グルタミン酸脱炭酸酵素、アミノ基転移酵素、アルデヒド脱水素酵素、を導入した微生物が挙げられる。
【0149】
3−ヒドロキシイソ酪酸を製造する微生物としては、たとえば、国際公開第2009/135074号パンフレットや国際公開第2008/145737号パンフレット記載の経路を導入した微生物が挙げられる。
2−ヒドロキシイソ酪酸を製造する微生物としては、たとえば、国際公開第2009/135074号パンフレットや国際公開第2009/156214号パンフレット記載の経路を導入した微生物が挙げられる。
3−アミノイソ酪酸、メタクリル酸を製造する微生物としては、たとえば、国際公開第2009/135074号パンフレット記載の経路を導入した微生物が挙げられる。
【0150】
本発明における微生物は、少なくともマレートチオキナーゼとマリルCoAリアーゼの両方を付与することにより、前記図1のアセチルCoA生産経路を構築した微生物である。このため、マレートチオキナーゼとマリルCoAリアーゼとを生来有する微生物は、本発明のアセチルCoA生産微生物から除外される。
【0151】
Mtkとmclを生来有する微生物としては、例えば、メチロバクテリウム・エキストロクエンスといったメタン資化菌が挙げられる。これらの微生物は、メタン資化菌に適したベクター系や、メタン資化菌のゲノム遺伝子の改変技術は発達しておらず、大腸菌やコリネバクテリウムなどの工業微生物と比較して、遺伝子操作が困難である。また、これらの微生物は増殖が遅い場合が多く、有用な代謝産物の生産には適していない。
【0152】
本発明に係るアセチルCoA、アセトン、イソプロピルアルコール又はグルタミン酸の生産方法は、前記アセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料から、目的生産物であるアセチルCoA、アセトン、イソプロピルアルコール又はグルタミン酸を生産することを含む。即ち、前記アセチルCoA生産方法は、前記アセチルCoA生産微生物と炭素源材料とを接触させて、培養すること(以下、培養工程)と、接触により得られた目的生産物(アセチルCoA、アセトン、イソプロピルアルコール又はグルタミン酸)を回収する工程(以下、回収工程)とを含む。
前記アセチルCoA生産方法によれば、前記アセチルCoA生産微生物と炭素材料とを接触させて培養するので、前記アセチルCoA生産微生物により炭素源材料が資化され、二酸化炭素を固定しながら、効率よく目的生産物を生産することができる。
【0153】
前記炭素源材料としては、微生物が資化可能な炭素源を含む材料であれば特に制限はないが、植物由来原料であることが好ましい。
前記植物由来原料としては、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、それら植物器官の分解産物を指し、更に植物体、植物器官、またはそれらの分解産物から得られる炭素源のうち、微生物が培養において炭素源として利用し得るものも、植物由来原料に包含される。
【0154】
このような植物由来原料に包含される炭素源には、一般的なものとしてデンプン、スクロース、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース等の糖類、及びこれら成分を多く含む草木質分解産物、セルロース加水分解物など、及びこれらの組み合わせを挙げることができ、更には植物油由来のグリセリン又は脂肪酸も、本発明における炭素源に含んでもよい。
【0155】
前記植物由来原料の例示としては、穀物等の農作物、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿等、及びこれらの組み合わせを好ましく挙げることができ、その原料としての使用形態は、未加工品、絞り汁、粉砕物等、特に限定されない。また、上記の炭素源のみの形態であってもよい。
【0156】
培養工程におけるアセチルCoA生産微生物と植物由来原料との接触は、一般に、植物由来原料を含む培地でアセチルCoA生産微生物を培養することにより行われる。
前記植物由来原料とアセチルCoA生産微生物との接触密度は、アセチルCoA生産微生物の活性によって異なるが、一般に、培地中の植物由来原料の濃度として、グルコース換算で初発の糖濃度を混合物の全質量に対して20質量%以下とすることができ、アセチルCoA生産微生物の耐糖性の観点から好ましくは、初発の糖濃度を15質量%以下とすることができる。この他の各成分は、微生物の培地に通常添加される量で添加されればよく、特に制限されない。
【0157】
また培地中のアセチルCoA生産微生物の含有量としては、微生物の種類及び活性によって異なるが一般に、培養開始時に投入する前培養の菌液(OD660nm=4〜8)の量を培養液に対して0.1質量%から30質量%、培養条件制御の観点から好ましくは1質量%〜10質量%とすることができる。
【0158】
アセチルCoA生産微生物の培養に用いられる培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン、及び、目的生産物を生産するために微生物が要求する無機微量元素、核酸、ビタミン類等が含まれた通常用いられる培地であれば特に制限はない。
【0159】
前記培養工程での培養条件には特別の制限はなく、例えば好気条件下でpH4〜9、好ましくはpH6〜8、温度20℃〜50℃、好ましくは25℃〜42℃の範囲内でpHと温度を適切に制御しながら培養することができる。
【0160】
前記混合物中への気体の通気量は、特に制限はないが、気体として空気のみを用いる場合には、一般的に0.02vvm〜2.0vvm(vvm;通気容量〔mL〕/液容量〔mL〕/時間〔分〕)、50〜600rpmであり、大腸菌への物理的ダメージを抑制する観点から0.1vvm〜2.0vvmで行うことが好ましく、より好ましくは0.1vvm〜1.0vvmである。
【0161】
培養工程は、培養開始から混合物中の炭素材料が消費されるまで、又はアセチルCoA生産微生物の活性がなくなるまで継続させることができる。培養工程の期間は、混合物中のアセチルCoA生産微生物の数及び活性並びに、炭素源材料の量により異なるが、一般に、1時間以上、好ましくは4時間以上であればよい。一方、炭素源材料又はアセチルCoA生産微生物の再投入を行うことによって、培養期間は無制限に連続することができるが、処理効率の観点から、一般に5日間以下、好ましくは72時間以下とすることができる。その他の条件は、通常の培養に用いられる条件をそのまま適用すればよい。
【0162】
培養液中に蓄積した目的生産物を回収する方法としては、特に制限はないが、例えば培養液から菌体を遠心分離などで除去した後、目的生産物の種類に応じた条件による蒸留や膜分離等通常の分離方法で目的生産物を分離する方法が採用できる。
【0163】
なお、本発明に係るアセチルCoA生産方法は、前記培養工程の前に、使用するアセチルCoA生産微生物を適切な菌数又は/及び適度な活性状態とするための前培養工程を含んでいてもよい。前培養工程は、アセチルCoA生産微生物の種類に応じた通常用いられる培養条件による培養であればよい。
【0164】
前記アセトン生産方法において用いられるアセチルCoA生産微生物としては、アセチルCoA生産微生物の好ましい一態様として前述したチオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及びアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性を有するアセチルCoA生産微生物であることが、アセトンの生産効率の観点から好ましい。
前記イソプロピルアルコール生産方法において用いられるアセチルCoA生産微生物としては、アセチルCoA生産微生物の好ましい一態様として前述したチオラーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するアセチルCoA生産微生物であることが、イソプロピルアルコールの生産効率の観点から好ましい。
【0165】
なお、前記イソプロピルアルコール生産方法又はアセトン生産方法の場合、好ましくは、前記アセチルCoA生産微生物及び炭素源材料を含む混合物中に気体を供給しながら、該アセチルCoA生産微生物を培養する培養工程と、前記培養により生成したイソプロピルアルコール又はアセトンを混合物から分離し回収する目的生産物回収工程とを含む。
【0166】
このイソプロピルアルコール生産方法又はアセトン生産方法によれば、混合物に気体を供給しながらアセチルCoA生産微生物を培養する(通気培養)。この通気培養により、生産されたイソプロピルアルコール又はアセトンは混合物中に放出されると共に、混合物から蒸散し、この結果、生成したイソプロピルアルコール又はアセトンを混合物から容易に分離することができる。また、生成したイソプロピルアルコール又はアセトンが混合物から連続的に分離するため、混合物中のイソプロピルアルコール又はアセトンの濃度の上昇を抑制することができる。これにより、前記アセチルCoA生産微生物のイソプロピルアルコール又はアセトンに対する耐性を特に考慮する必要がない。
なお、本方法における混合物とは、宿主となる微生物の培養に一般的に用いられる基本培地を主体とすればよい。培養条件については、前述した事項がそのまま適用される。
【0167】
前記目的生産物回収工程では、培養工程で生成され、混合物から分離したイソプロピルアルコール又はアセトンを回収する。この回収方法としては、通常培養により混合物から蒸散したガス状又は飛沫状のイソプロピルアルコール又はアセトンを収集することができるものであればよい。このような方法としては、一般に用いられる密閉容器等の収集部材へ収容すること等を挙げることができるが、なかでも、イソプロピルアルコール又はアセトンのみを純度高く回収できる観点から、イソプロピルアルコール又はアセトンを捕捉するための捕捉液と、混合物から分離したイソプロピルアルコール又はアセトンとを接触することを含むものであることが好ましい。
【0168】
本イソプロピルアルコール生産方法又はアセトン生産方法では、イソプロピルアルコール又はアセトンは、捕捉液又は混合物に溶解した態様として回収することができる。そのような回収方法としては、例えば国際公開2009/008377号パンフレットに記載された方法などが挙げられる。回収されたイソプロピルアルコール又はアセトンは、HPLC等の通常の検出手段を用いて確認することができる。回収されたイソプロピルアルコールは、必要に応じて更に精製することができる。このような精製方法としては、蒸留等をあげることができる。
回収されたイソプロピルアルコール又はアセトンが水溶液の状態である場合には、本イソプロピルアルコール生産方法又はアセトン生産方法は、回収工程に加えて、脱水工程を更に含んでいてもよい。イソプロピルアルコール又はアセトンの脱水は、常法により行なうことができる。
【0169】
捕捉液又は混合物に溶解した態様として回収可能なイソプロピルアルコール又はアセトンの生産方法に適用可能な装置としては、例えば、国際公開2009/008377号パンフレットの図1に示される生産装置を挙げることができる。
【0170】
この生産装置では、使用される微生物と植物由来原料とを含む培地が収容された培養槽に、装置外部から気体を注入するための注入管が連結され、培地に対してエアレーションが可能となっている。
また、培養槽には、連結管を介して、捕捉液としてのトラップ液が収容されたトラップ槽が連結されている。このとき、トラップ槽へ移動した気体又は液体がトラップ液と接触してバブリングが生じる。
これにより、培養槽で通気培養により生成したイソプロピルアルコール又はアセトンは、エアレーションによって蒸散して培地から容易に分離される共に、トラップ槽においてトラップ液に補足される。この結果、イソプロピルアルコール又はアセトンを、より精製された形態で連続的に且つ簡便に生産することができる。
【0171】
本発明に係るグルタミン酸生産方法は、前記アセチルCoA生産微生物を用いて、炭素源材料から、目的生産物であるグルタミン酸を生産することを含む。即ち、前記グルタミン酸生産方法は、前記アセチルCoA生産微生物と炭素源材料とを接触させて、培養すること(以下、培養工程)と、接触により得られた目的生産物(グルタミン酸)を回収する工程(以下、回収工程)とを含む。
前記グルタミン酸生産方法によれば、前記アセチルCoA生産微生物と炭素材料とを接触させて培養するので、前記アセチルCoA生産微生物により炭素源材料が資化され、二酸化炭素を固定しながら、効率よく目的生産物を生産することができる。
【0172】
培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の培地を用いることができる。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。培地に使用される炭素源および窒素源は培養する菌株が利用可能であるものならばいずれの種類を用いてもよい。
【0173】
炭素源材料としては、グルコース、グリセロール、フラクトース、スクロース、マルトース、マンノース、ガラクトース、澱粉加水分解物、糖蜜等の糖類が使用でき、その他、酢酸、クエン酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類も単独あるいは他の炭素源と併用して用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、りん酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩または硝酸塩等が使用することができる。
有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆たん白分解物等が使用でき、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。
無機塩類としてはりん酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用できる。
【0174】
培養は、好ましくは、発酵温度20〜45℃、pHを3〜9に制御し、通気培養を行う。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。このような条件下で、好ましくは10時間〜120時間程度培養することにより、培養液中又は菌体内にL−アミノ酸が蓄積される。
【0175】
また、目的とするL−アミノ酸がL−グルタミン酸である場合、L−グルタミン酸が析出するような条件に調整された液体培地を用いて、培地中にL−グルタミン酸を析出させながら生成、蓄積させるように培養を行うことも出来る。L−グルタミン酸が析出する条件としては、例えば、pH5.0〜4.0、好ましくはpH4.5〜4.0、さらに好ましくはpH4.3〜4.0、特に好ましくはpH4.0を挙げることができる。尚、酸性条件下での生育の向上、及び、効率的なL−グルタミン酸の析出を両立するためには、pHは好ましくは5.0〜4.0、より好ましくは4.5〜4.0、さらに好ましくは4.3〜4.0であることが望ましい。尚、上記pHでの培養は、培養の全期間であってもよく、一部であってもよい。
【0176】
培養終了後の培養液からL−アミノ酸を採取する方法は、公知の回収方法に従って行えばよい。例えば、培養液から菌体を除去した後に濃縮晶析する方法あるいはイオン交換クロマトグラフィー等によって採取される。培地中にL−グルタミン酸が析出するような条件下で培養した場合、培養液中に析出したL−グルタミン酸は、遠心分離又は濾過等により採取することができる。この場合、培地中に溶解しているL−グルタミン酸を晶析させた後に、併せて単離してもよい。
【0177】
プロリン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アルギニン、シトルリン、オルニチン、酢酸、(ポリ)3−ヒドロキシ酪酸、イタコン酸、クエン酸、酪酸、ポリグルタミン酸を生産する方法としては、たとえば、発酵ハンドブック(共立出版)に記載された方法が挙げられる。
4−アミノ酪酸を製造する方法としては、たとえば、特開2011−167097のように、グルタミン酸生産微生物にグルタミン酸脱炭酸酵素を導入した微生物による生産方法が挙げられる。
4−ヒドロキシ酪酸を製造する微生物としては、たとえば、特開2009−171960号公報のように、グルタミン酸生産微生物に、グルタミン酸脱炭酸酵素、アミノ基転移酵素、アルデヒド脱水素酵素を導入した微生物による生産方法が挙げられる。
【0178】
3−ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法としては、たとえば、国際公開第2009/135074号パンフレットや国際公開第2008/145737号パンフレット記載の経路を導入した微生物が挙げられる。
2−ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法としては、たとえば、国際公開第2009/135074号パンフレットや国際公開第2009/156214号パンフレット記載の経路を導入した微生物が挙げられる。
3−アミノイソ酪酸、メタクリル酸を製造する方法としては、たとえば、国際公開第2009/135074号パンフレット記載の経路を導入した微生物が挙げられる。
【実施例】
【0179】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0180】
[実施例1]
<エシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化株の作製>
エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number U00096)、エシェリヒア・コリMG1655株のCoAトランスフェラーゼ αサブユニットをコードする遺伝子(以下、atoDと略することがある)の塩基配列も報告されている。すなわちatoDはGenBank accession number U00096に記載のエシェリヒア・コリMG1655株ゲノム配列の2321469〜2322131に記載されている。
【0181】
上記の遺伝子を発現させるために必要なプロモーターの塩基配列として、GenBank accession number X02662の塩基配列情報において、397−440に記されているエシェリヒア・コリ由来のグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーター配列を使用することができる。GAPDHプロモーターを取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAを、テンプレートと、CGCTCAATTGCAATGATTGACACGATTCCG(配列番号1)、及びACAGAATTCGCTATTTGTTAGTGAATAAAAGG(配列番号2)のプライマーを用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素MfeI及びEcoRIで消化することで約100bpのGAPDHプロモーターをコードするDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpUC19(GenBank accession number X02514)を制限酵素EcoRIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理したものとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニー10個をそれぞれアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、プラスミドを回収し、制限酵素EcoRI及びKpnIで消化した際、GAPDHプロモーターが切り出されないものを選抜し、さらに、DNA配列を確認しGAPDHプロモーターが正しく挿入されたものをpUCgapPとした。得られたpUCgapPを制限酵素EcoRI及びKpnIで消化した。
【0182】
さらにatoDを取得するために、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートと、CGAATTCGCTGGTGGAACATATGAAAACAAAATTGATGACATTACAAGAC(配列番号3)、及びGCGGTACCTTATTTGCTCTCCTGTGAAACG(配列番号4)のプライマーを用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素EcoRI及びKpnIで消化することで約690bpのatoDフラグメントを得た。このDNAフラグメントを先に制限酵素EcoRI及びKpnIで消化したpUCgapPと混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、atoDが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpGAPatoDと命名した。
なおエシェリヒア・コリMG1655株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0183】
上述した通り、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAにおけるatoDの塩基配列も報告されている。エシェリヒア・コリMG1655株のatoDの5’近傍領域の遺伝子情報に基づいて作製された、GCTCTAGATGCTGAAATCCACTAGTCTTGTC(配列番号5)とTACTGCAGCGTTCCAGCACCTTATCAACC(配列番号6)のプライマーを用いて、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことにより約1.1kbpのDNA断片を増幅した。
【0184】
また、エシェリヒア・コリMG1655株のGAPDHプロモーターの配列情報に基づいて作製されたGGTCTAGAGCAATGATTGACACGATTCCG(配列番号7)とエシェリヒア・コリMG1655株のatoDの配列情報に基づいて作製された配列番号4のプライマーを用いて、先に作製した発現ベクターpGAPatoDを鋳型としてPCRを行い、GAPDHプロモーターとatoDからなる約790bpのDNAフラグメントを得た。
【0185】
上記により得られたフラグメントをそれぞれ、制限酵素PstIとXbaI、XbaIとKpnIで消化し、このフラグメントを温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)〔Hashimoto−Gotoh, T., Gene, 241, 185−191 (2000)〕をPstIとKpnIで消化して得られるフラグメントと混合し、リガーゼを用いて結合した後、DH5α株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地で30℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収した。このプラスミドをエシェリヒア・コリB株(ATCC11303)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。得られた培養菌体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で培養しコロニーを得た。得られたコロニーを抗生物質を含まないLB液体培地で30℃で2時間培養し、抗生物質を含まないLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0186】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれを、抗生物質を含まないLB寒天プレートとクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。さらにはこれらのクローンの染色体DNAからPCRによりGAPDHプロモーターとatoDを含む約790bp断片を増幅させ、atoDプロモーター領域がGAPDHプロモーターに置換されている株を選抜し、以上を満足するクローンをエシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化株(以下B::atoDAB株と略することがある)と命名した。
なお、エシェリヒア・コリB株(ATCC11303)は細胞・微生物・遺伝子バンクであるアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0187】
[実施例2]
<エシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失株の作製>
エシェリヒア・コリMG1655のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number U00096)、エシェリヒア・コリのホスホグルコースイソメラーゼ(以下pgiと呼ぶことがある)をコードする遺伝子の塩基配列も報告されている(GenBank accession number X15196)。pgiをコードする遺伝子(1,650bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、CAGGAATTCGCTATATCTGGCTCTGCACG(配列番号8)、CAGTCTAGAGCAATACTCTTCTGATTTTGAG(配列番号9)、CAGTCTAGATCATCGTCGATATGTAGGCC(配列番号10)及びGACCTGCAGATCATCCGTCAGCTGTACGC(配列番号11)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号8のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位を、配列番号9および10のプライマーは5’末端側にXbaI認識部位を、配列番号11のプライマーは5’末端側にPstI認識部位をそれぞれ有している。
【0188】
エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC700926)のゲノムDNAを調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号8と配列番号9のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下pgi−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号10と配列番号11のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下pgi−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、pgi−L断片をEcoRI及びXbaIで、pgi−R断片をXbaI及びPstIでそれぞれ消化した。この消化断片2種と、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI及びPstI消化物とを混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、pgiをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の2つの断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認した。得られたプラスミドをXbaIで消化した後、T4DNAポリメラーゼにより平滑末端化処理を行った。本DNA断片と、pUC4Kプラスミド(GenBank accession number X06404)(Pharmacia)をEcoRIで消化することで得られるカナマイシン耐性遺伝子をさらにT4DNAポリメラーゼにより平滑末端化処理を行ったDNA断片とをT4DNAリガーゼを用いて連結した。その後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセルに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlとカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、pgiをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の間にカナマイシン耐性遺伝子が正しく挿入されていることを確認し、pTH18cs1−pgiとした。
なおエシェリヒア・コリMG1655株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0189】
作製したpTH18cs1−pgiを実施例1で作製したB::atoDABに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlとカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をカナマイシン50μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをカナマイシン50μg/mlを含むLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0190】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、カナマイシンを含むLB寒天プレートにのみ生育するクロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、pgi遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子に置換されていることで約3.3kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をエシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi株と略することがある)と命名した。
【0191】
なおエシェリヒア・コリMG1655株およびエシェリヒア・コリB株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0192】
[実施例3]
<エシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失株の作製>
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession No.CP000819)、GntRをコードする塩基配列はGenBank accession No.CP000819に記載のエシェリヒア・コリB株ゲノム配列の3509184〜3510179に記載されている。GntRをコードする塩基配列(gntR)の近傍領域をクローニングするため、GGAATTCGGGTCAATTTTCACCCTCTATC(配列番号12)、GTGGGCCGTCCTGAAGGTACAAAAGAGATAGATTCTC(配列番号13)、CTCTTTTGTACCTTCAGGACGGCCCACAAATTTGAAG(配列番号14)、GGAATTCCCAGCCCCGCAAGGCCGATGGC(配列番号15)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号12および13のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位をそれぞれ有している。
【0193】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号12と配列番号13のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gntR−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号14と配列番号15のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gntR−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、gntR−LとgntR−R断片を鋳型に配列番号12と配列番号15のプライマーペアで、PCRを行うことにより約2.0kbのDNA断片を増幅した(以下gntR−LR断片と呼ぶことがある)。このgntR−LR断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、EcoRIで消化し、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI消化物と混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、gntLR断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−gntRとした。
【0194】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−gntRを実施例2で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0195】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gntR遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi△gntR株と略することがある)と命名した。
【0196】
[実施例4]
<エシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失株の作製>
ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(gnd)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、CGCCATATGAATGGCGCGGCGGGGCCGGTGG(配列番号16)、TGGAGCTCTGTTTACTCCTGTCAGGGGG(配列番号17)、TGGAGCTCTCTGATTTAATCAACAATAAAATTG(配列番号18)、CGGGATCCACCACCATAACCAAACGACGG(配列番号19)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号16のプライマーは5’末端側にNdeI認識部位を有し、配列番号17および配列番号18のプライマーは5’末端側にSacI認識部位を有している。また、配列番号19のプライマーは5’末端側にBamHI認識部位を有している。
【0197】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No.CP000819)を調製し、配列番号16と配列番号17のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gnd−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号18と配列番号19のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gnd−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、gnd−L断片をNdeI及びSacIで、gnd−R断片をSacI及びBamHIでそれぞれ消化した。この消化断片2種と、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のNdeI及びBamHI消化物を混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、sコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、gndをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の2つの断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、pTH18cs1−gndとした。
【0198】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−gndを実施例3で作製したエシェリア・コリ、B::atoDAB△pgi△gntR株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0199】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gnd遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をエシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失株、B::atoDAB△pgi△gntR△gnd株と命名した。
【0200】
[実施例5]
<エシェリヒア・コリB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失株の作製>
D−乳酸デヒドロゲナーゼ(以下、ldhAと略することがある)をコードする遺伝子(990bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、GGAATTCGACCATCGCTTACGGTCAATTG(配列番号20)、GAGCGGCAAGAAAGACTTTCTCCAGTGATGTTG(配列番号21)、GGAGAAAGTCTTTCTTGCCGCTCCCCTGCAAC(配列番号22)、GGAATTCTTTAGCAAATGGCTTTCTTC(配列番号23)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号20および23のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位をそれぞれ有している。
【0201】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号20と配列番号21のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下ldhA−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号22と配列番号23のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下ldhA−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、ldhA−LとldhA−R断片を鋳型に配列番号20と配列番号23のプライマーペアで、PCRを行うことにより約2.0kbのDNA断片を増幅した(以下ldhA−LR断片と呼ぶことがある)。このldhA−LR断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、EcoRIで消化し、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI消化物を混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、ldhA−LR断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−ldhAとした。
【0202】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−ldhAを実施例4で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDAB△pgi△gntR△gndに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0203】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、ldhA遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をatoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhA株と略することがある)と命名した。
【0204】
[実施例6]
<atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失株の作製>
イソクエン酸リアーゼおよびリンゴ酸シンターゼ(以下、aceBAと略することがある)をコードする遺伝子(2936bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、GGAATTCATTCAGCTGTTGCGCATCGATTC(配列番号24)、CGGTTGTTGTTGCCGTGCAGCTCCTCGTCATGGATC(配列番号25)、GGAGCTGCACGGCAACAACAACCGTTGCTGACTG(配列番号26)、GGAATTCCAGGCAGGTATCAATAAATAAC(配列番号27)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号24および27のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位をそれぞれ有している。
【0205】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号24と配列番号25のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下aceBA−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号26と配列番号27のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下aceBA−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、aceBA−LとaceBA−R断片を鋳型に配列番号24と配列番号27のプライマーペアで、PCRを行うことにより約2.0kbのDNA断片を増幅した(以下aceBA−LR断片と呼ぶことがある)。このaceBA−LR断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、EcoRIで消化し、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI消化物と混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、aceBA−LR断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−aceBAとした。
【0206】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−aceBAを実施例5で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhAに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0207】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、aceBA遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhA△aceBA)株と略することがある)と命名した。
【0208】
[実施例7]
<atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失株の作製>
リンゴ酸シンターゼG(以下、glcBと略することがある)をコードする遺伝子(723bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、GGAATTCCAGGAGAAAGGGCTGGCACGGG(配列番号28)、CTTTTTTGACGCTATGTTTATCTCCTCGTTTTCGC(配列番号29)、GAGATAAACATAGCGTCAAAAAAGCCCCGGC(配列番号30)、GGAATTCCGTCCATCATTGCTACCAGCC(配列番号31)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号28および31のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位をそれぞれ有している。
【0209】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号28と配列番号29のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下glcB−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号30と配列番号31のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下glcB−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、glcB−LとglcB−R断片を鋳型に配列番号28と配列番号31のプライマーペアで、PCRを行うことにより約2.0kbのDNA断片を増幅した(以下glcB−LR断片と呼ぶことがある)。このglcB−LR断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、EcoRIで消化し、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI消化物と混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、glcB−LR断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−glcBとした。
【0210】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−gclBを実施例6で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhA△aceBA株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0211】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、glcB遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhA△aceBA△glcB)株と略することがある)と命名した。
【0212】
[実施例8]
<atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失、fumAC遺伝子欠失株の作製>
フマル酸ヒドラターゼAおよびフマル酸ヒドラターゼC(以下、fumACと略することがある)をコードする遺伝子(3193bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、CGCCATATGATCGCCAGCGCGCGGGATTTTTC(配列番号32)、CGAGCTCTGTTCTCTCACTTACTGCCTGG(配列番号33)、ATGAGCTCTCTGCAACATACAGGTGCAG(配列番号34)、CGGGATCCACTACGCGCACGATGGTCAAG(配列番号35)、に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号32のプライマーは5’末端側にNdeI認識部位を有している。配列番号33および34のプライマーは5’末端側にSacI認識部位をそれぞれ有している。配列番号35のプライマーは5’末端側にBamHI認識部位を有している
【0213】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号32と配列番号33のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下fumA−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号34と配列番号35のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下fumC−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、fumA−L断片をNdeI,SacI処理し、fumC−R断片をSacI,BamHI処理した。これらの断片を温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のNdeI,BamHI消化物と混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、fumA、fumC断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−fumACとした。
【0214】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−fumACを実施例7で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhA△aceBA△glcB株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0215】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、fumAC遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失、fumAC遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi△gntR△gnd△ldhA△aceBA△glcB△fumAC)株と略することがある)と命名した。
【0216】
[実施例9]
<プラスミドpIazの作製>
クロストリジウム属細菌のアセト酢酸デカルボキシラーゼはGenBank accession number M55392に、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼはGenBank accession number AF157307に記載されている。
【0217】
上記の遺伝子群を発現させるために必要なプロモーターの塩基配列として、GenBank accession number X02662の塩基配列情報において、397−440に記されているエシェリヒア・コリ由来のグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーター配列を使用することができる。
GAPDHプロモーターを取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてCGAGCTACATATGCAATGATTGACACGATTCCG(配列番号36)、及びCGCGCGCATGCTATTTGTTAGTGAATAAAAGG(配列番号37)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素NdeI、SphIで消化することで約110bpのGAPDHプロモーターにあたるDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpBR322(GenBank accession number J01749)を制限酵素NdeI及びSphIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地にて37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpBRgapPを回収した。
【0218】
イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を取得するために、Clostridium beijerinckii NRRL B−593のゲノムDNAをテンプレートに用いて、AATATGCATGCTGGTGGAACATATGAAAGGTTTTGCAATGCTAGG(配列番号38)、及びACGCGTCGAC TTATAATATAACTACTGCTTTAATTAAGTC(配列番号39)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素SphI、SalIで消化することで約1.1kbpのイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpUC119を制限酵素SphI及びSalIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収しIPAdhが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpUC−Iと命名した。
【0219】
プラスミドpUC−Iを制限酵素SphI及びEcoRIで消化することで得られるIPAdhを含むフラグメントとプラスミドpBRgapPを制限酵素SphI及びEcoRIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収しIPAdhが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpGAP−Iと命名した。
【0220】
アセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子を取得するために、Clostridium acetobutylicumATCC824のゲノムDNAをテンプレートに用いて、ACGCGTCGACGCTGGTGGAACATATGTTAAAGGATGAAGTAATTAAACAAATTAGC(配列番号40)、及びGCTCTAGAGGTACCTTACTTAAGATAATCATATATAACTTCAGC(配列番号41)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素SalI、XbaIで消化することで約700bpのアセト酢酸デカルボキシラーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作製したプラスミドpGAP−Iを制限酵素SalI及びXbaIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収し、adcが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpIaと命名した。
【0221】
グルコース6リン酸−1−デヒドロゲナーゼ遺伝子(zwf)を取得するためにエシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No.CP000819)をテンプレートに用いてGCTCTAGACGGAGAAAGTCTTATGGCGGTAACGCAAACAGCCCAGG(配列番号42)、及びCGGGATCCCGGAGAAAGTCTTATGAAGCAAACAGTTTATATCGCC(配列番号43)を用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素BamHI、XbaIで消化することで約1500bpのグルコース6リン酸1−デヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作製したプラスミドpIaを制限酵素XbaI及びBamHI消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地にて37℃で一晩培養し、得られたプラスミドをpIazとした。
【0222】
[実施例10]
<プラスミドpMWGKCの作製>
pBRgapPをテンプレートに用いてCCGCTCGAGCATATGCTGTCGCAATGATTGACACG(配列番号44)、及びGCTATTCCATATGCAGGGTTATTGTCTCATGAGC(配列番号45)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントをT4 Polynucleotide Kinase(Takara)でリン酸化することで、GAPDHプロモーターを含むDNAフラグメントを得た。また、プラスミドpMW119(GenBank accession number AB005476)を制限酵素AatII及びNdeIで処理し、得られたDNAフラグメントをKOD plus DNA polymerase(Takara)で末端を平滑化することで、pMW119の複製起点を含むDNAフラグメントを得た。GAPDHプロモーターを含むDNAフラグメントとpMW119の複製起点を含むDNAフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地において37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpMWGを回収した。
【0223】
クロラムフェニコール耐性遺伝子を取得するため、pTH18cs1(GenBank accession No.AB019610)をテンプレートに用いて、TCGGCACGTAAGAGGTTCC(配列番号46)及びCGGGTCGAATTTGCTTTCG(配列番号47)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントをT4 Polynucleotide Kinase(Takara)でリン酸化することで、クロラムフェニコール耐性遺伝子を含むDNAフラグメントを得た。それから、pMWGをテンプレートに用いてCTAGATCTGACAGTAAGACGGGTAAGCC (配列番号48)、及びCTAGATCTCAGGGTTATTGTCTCATGAGC(配列番号49)によりPCR法で増幅し、クロラムフェニコール耐性遺伝子を含むDNAフラグメントと混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをクロラムフェニコール25μg/mLを含むLB液体培地にて37℃で一晩培養し、得られたプラスミドをpMWGCとした。
【0224】
pMWGC遺伝子をテンプレートに用いて、CCGCTCGAGCATATGCTGTCGCAATGATTGACACG(配列番号50)、及びGCTATTCCATATGCAGGGTTATTGTCTCATGAGC(配列番号51)によりPCR法で増幅し、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをクロラムフェニコール25μg/mLを含むLB液体培地にて37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpMWGKCを回収した。
【0225】
[実施例11]
<メチロバクテリウム エキストロクエンスIAM12632由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
東京大学分子細胞生物学研究所IAMカルチャーコレクションからメチロバクテリウム エキストロクエンス(Methylobacterium extorquens)IAM12632を購入した。IAM12632をNBRCの培地番号352で培養し、DNeasy Blood &Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いて染色体DNAを得た。
【0226】
メチロバクテリウム エキストロクエンスIAM12632の染色体DNAを鋳型として、AAAAGGCGGAATTCACAAAAAGGATAAAACAATGGACGTTCACGAGTACCAAGCC(配列番号52)及びCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGAGGCGAGGTTCTTTTTCCGGACTC(配列番号53)をプライマーとしてPCRを実施し、増幅DNAをNdeIとXbaIで切断し、マレートチオキナーゼのフラグメントを得た。また、メチロバクテリウム エキストロクエンスの染色体DNAを鋳型として、GGATCCTCTAGACTGGTGGAATATATGAGCTTCACCCTGATCCAGCAG(配列番号54)及びGGCATGCAAGCTTTTACTTTCCGCCCATCGCGTC(配列番号55)をプライマーとしてPCRを実施し、増幅DNAをXbaIとHindIIIで切断し、マリルCoAリアーゼのフラグメントを得た。メチロバクテリウム エキストロクエンスのマレートチオキナーゼとマリルCoAリアーゼのフラグメントを、NdeIとHindIIIで切断したpMWGKCと連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mtk(Mex)_mclと命名した。
pMWGKC_mtk(Mex)_mclは、メチロバクテリウム エキストロクエンス由来のmclの遺伝子配列(配列番号66)、mtkAの遺伝子配列(配列番号67)、及びmtkBの遺伝子配列(配列番号68)を含む。また、メチロバクテリウム エキストロクエンス由来mclのアミノ酸配列、mtkAのアミノ酸配列、及びmtkBのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号69、配列番号70、及び配列番号71に示すとおりである。
【0227】
[実施例12]
<ハイホマイクロビウム メチロボラム NBRC 14180由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門)からハイホマイクロビウム メチロボラム(Hyphomicrobium methylovoum)NBRC14180を購入した。NBRC14180をNBRCの培地番号233で培養し、DNeasy Blood &Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いて染色体DNAを得た。
【0228】
NBRC 14180のセリン−グリオキシル酸アミノ転移酵素(GenBank Accession No. D13739)のN末端のDNA配列を参考にしてプライマー(配列番号56)を作製した。
ハイホマイクロビウム デニトリフィカンス(Hyphomicrobium denitrificans)のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/300021538?from=3218417&to=3221272&report=gbwithparts)のアミノ酸配列を元にNCBI(米国立生物工学情報センター)のホモロジー検索ツールを用いて相同性を比較した。(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthome)
相同性の高いアミノ酸配列を参考にプライマー(配列番号57)を作製した。
【0229】
上記で得られた配列番号56と配列番号57のプライマーを用いて上記の染色体DNAを鋳型としてPCRを実施した。増幅断片をpUC19をSmaIで消化したDNAに連結し、ハイホマイクロビウム メチロボラムNBRC 14180由来のセリン−グリオキシル酸アミノ転移酵素遺伝子からホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子の一部をクローニングした。クローンの配列を確認し、更にプライマー(配列番号58及び59)を作製した。
【0230】
ハイホマイクロビウム メチロボラムNBRC 14180の染色体DNAを鋳型として、上記で得られた配列番号58及び59のプライマーを用いてPCRを実施し、増幅したDNAをEcoRIとXbaIで切断して、ハイホマイクロビウムのmcl及びmtk遺伝子を含むDNAフラグメントを得た。それから、上述のプラスミドpMWGKC_mtk(Mex)_mclをEcoRIとXbaIで切断して、mclを含む約4.3kbの断片を回収し、ハイホマイクロビウムのmcl及びmtk遺伝子を含むDNAフラグメントと連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Hme)_mclと命名した。
pMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Hme)_mclは、ハイホマイクロビウム メチロボラム由来のmclの遺伝子配列(配列番号60)、mtkAの遺伝子(配列番号61)、及びmtkBの遺伝子(配列番号62)を含む。また、ハイホマイクロビウム メチロボラム由来mclのアミノ酸配列、mtkAのアミノ酸、及びmtkBのアミノ酸は、それぞれ配列番号72、配列番号73、及び配列番号74に示すとおりである。
【0231】
[実施例13]
<リゾビウム sp NGR234由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
リゾビウム sp(Rhizobium sp)NGR234のマレートチオキナーゼ・ベータサブユニット(GenBank Accession No. ACP26381)とスクシニルCoAシンテターゼ・アルファサブユニット(GenBank Accession No. ACP26382)のアミノ酸配列情報を基に、マレートチオキナーゼの遺伝子を全合成した(配列番号63)。得られた遺伝子をNdeIとXbaIで切断し、同様に制限酵素で切断したpMWGKCと連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mtk(Rhi)と命名した。また、メチロバクテリウム エキストロクエンスの染色体DNAを鋳型として、配列番号64及び配列番号65のプライマーを用いてPCRを実施し、増幅DNAをXbaIとHindIIIで切断して末端を平滑化した後、pMWGKC_mtk(Rhi)をXbaIで切断して平滑化した遺伝子と連結した。mtkとmclの遺伝子が同じ方向に導入されているものをpMWGKC_mtk(Rhi)_mclと命名した。リゾビウム sp由来mtkAのアミノ酸、及びmtkBのアミノ酸は、それぞれ配列番号75、及び配列番号76に示すとおりである。
【0232】
[実施例14]
<マレートチオキナーゼ及びマリルCoAリアーゼ導入イソプロピルアルコール生産株の作製>
実施例8で作製した大腸菌B株(atoDAB,△pgi_gntR_gnd_ldhA_aceBA_glcB_fumAC)のコンピテントセルに、実施例9で作製したプラスミドpIazと、mtk及びmclの各発現プラスミドを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株をそれぞれ以下のように命名した(表2参照)。
なお、表2記載の株番号は、大腸菌B株(atoDAB,△pgi_gntR_gnd_ldhA_aceBA_glcB_fumAC)に、pIazと表2記載のプラスミドを導入した株を意味する。
【0233】
【表2】

【0234】
[実施例15]
13Cラベル化COのイソプロピルアルコールへの導入検証>
500mlのバッフル付き三角フラスコに100mlのLB液体培地を調製し、121℃かつ20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に終濃度が50μg/mlとなるようにアンピシリンを34μg/mlとなるようにクロラムフェニコール添加した後、表2の炭酸固定経路導入株を一白金耳植菌し、30℃かつ130rpmにて約20時間培養した。遠心分離(5000G×15分)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、10mlの生理食塩水に該菌体を再懸濁し菌体懸濁液をそれぞれ得た。
【0235】
100mLの三角フラスコに100mMの13Cでラベルされた炭酸水素ナトリウム、50g/Lのグルコース、34μg/mlのクロラムフェニコール、50μg/mlのアンピシリンを含む30mLのM9最小培地を準備した。前記菌体懸濁液を3mL接種し、シリコン栓で密封して30℃、100rpmで24時間培養した。得られた培養液は、親水性PTFEメンブレンフィルター(ADVANTEC社、H050A047A、ポアサイズ0.5μM、diameter 47mm)をセットした減圧濾過用フィルターホルダー(ADVANTEC社、KGS−47)を用いて減圧濾過し、培養上清と菌体に分離した。
【0236】
菌体が付着したメンブレンフィルターは、直ちに−20℃に冷却した1.6mLのメタノール(LC/MSグレード)に浸して攪拌した後、−20℃で1時間放置した。1時間後、−20℃に冷却した1.6mLのクロロホルム(HPLCグレード)と4℃に冷却した0.64mLの純水を加え、ボルテックスで30秒間攪拌した。その後、4℃で遠心して上清を回収し、菌体のメタノール抽出液を得た。これをLC−MS/MSで分析し、菌体中のアセチルCoAの分子量分布を測定した。結果を表3に示した。なお、アセチルCoAの分子量分布は、マススペクトルピークの分子量:808、809及び810の割合を、それぞれM+0、M+1及びM+2として換算した。
【0237】
一方、上記培養上清から蒸留によりアルコール類及びアセトンを高濃度化して取り出し、分子量分布測定の原料として用いた。培養上清中のイソプロピルアルコールおよびエタノールの分子量分布を、GC−MSで分析した。結果を表4及び5に示した。なお、イソプロピルアルコール(IPA)の分子量分布(表4)は、マススペクトルピークの分子量:117、118及び119の割合を、それぞれM+0、M+1及びM+2として換算した。エタノール(EtOH)の分子量分布(表5)は、マススペクトルピークの分子量:103、104及び105の割合を、それぞれM+0、M+1及びM+2として換算した。
【0238】
【表3】
【0239】
【表4】
【0240】
【表5】
【0241】
表3に示されるように、MT−1株、及びMT−2株では、Control株と比較して、13Cが導入されていないアセチルCoA(M+0)の割合が低く、13Cが1原子導入されたアセチルCoA(M+1)の割合が高かった。特に、MT−2株のM+1の割合が高かった。したがって、MT−1株、及びMT−2株では、アセチルCoAに13Cラベル化された炭酸由来の炭素が導入され、しかもその効果はMT−2株のほうがより顕著であるたことがわかった。
さらに、MT−2株は、市販イソプロピルアルコールやエタノールと比較して、13Cの導入されていないイソプロピルアルコールやエタノール(M+0)の割合が低く、13Cが1原子導入されたイソプロピルアルコールやエタノール(M+1)の割合が高かった(表4、表5)。したがって、MT−2株ではイソプロピルアルコールやエタノールについても、13Cラベル化された炭酸由来の炭素が導入されたことがわかった。
【0242】
[実施例16]
<リンゴ酸を基質としたグリオキシル酸生産活性測定>
上述のmtk及びmcl発現株を25μg/mlのクロラムフェニコール、100μg/mlのアンピシリンを含む2mLのLB培地で培養した。粗酵素液の抽出は以下に示す方法で行った。対数増殖期の菌体を遠心分離により回収し、200mM MOPS‐K バッファー(pH7.7)で洗浄後、同バッファーに溶解し、超音波破砕した。遠心上清(12,000rpm、2min)を粗酵素抽出液とした。
【0243】
粗酵素液のタンパク質濃度は、粗酵素液及び検量線作成のための濃度既知のBSAをそれぞれQuick Start Bradford Dye Reagent(BioRad社)と反応し発色後、UVプレートリーダー(Molecular Divices, spectra max 190)でOD595nmを測定し、検量線からタンパク濃度を求めた。
【0244】
溶液中の酵素活性は以下の手順で求めた。MOPS−K バッファー pH7.7,3.5mM phenylhydrazine,10mM MgCl,3mM ATP,0.3mM CoA,10質量% 粗酵素液をマイクロウェル上で混合し、室温で30分間インキュベートした後、バックグラウンドとしてOD324nmの経時変化をUVプレートリーダーで測定し、それから最終濃度が5mMになるよう(S)−L−リンゴ酸ナトリウム溶液pH7.5を添加して、OD324nmの経時変化を測定した。検量線として、グリオキシル酸を上記のバッファーに添加して、5分間室温放置して、OD324nmを測定し、グリオキシル酸の検量線を作成した。酵素活性の値は、上記の(S)−L−リンゴ酸ナトリウム添加後のOD324nmの傾きから、バックグラウンドの傾きを差し引き、グリオキシル酸の検量線からグリオキシル酸の消費速度に換算した。それから、グリオキシル酸の消費速度をタンパク濃度で割ることで、タンパクあたりの酵素活性を求めた(表6)。
表6に示されるように、MT−1〜MT−3のいずれについても、酵素活性が確認された。中でも、MT−2株及びMT−3株は、MT−1株と比較しても、酵素活性が高いことがわかった。これに対してコントロールでは、酵素活性が認められなかった。
【0245】
【表6】
【0246】
[実施例17]
<マレートチオキナーゼ及びマリルCoAリアーゼ導入株の生菌数及びプラスミド保持率>
100mLの三角フラスコに、50g/Lのグルコース及び30μg/mlのクロラムフェニコール、100μg/mlのアンピシリンを含む30mLのM9最小培地及びLB培地を準備した。前記のmtk及びmcl発現株をM9最小培地又はLB培地に接種し、シリコン栓で密封して30℃、100rpmで24時間培養した。培養液を水で希釈して、抗生物質を含まないLBプレートに100μL塗布し、全生菌数を測定した。また、希釈した培養液を、30μg/mlのクロラムフェニコールを含むLBプレートに塗布し、mtk(smt))及びmcl保有プラスミドを保持する菌数を測定した。
表7に示されるように、MT−2およびMT−3は、MT−1株よりも、培養液中の全生菌数の割合が高く、良好に増殖していることがわかった。また、mtk、mclを保有するプラスミドは、MT−1〜3株のそれぞれで、安定に保持されていた。
【0247】
【表7】
【0248】
[実施例18]
<グラニュリバクター ベセスデンシスBAA−1260由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
ATCCからグラニュリバクター ベセスデンシスのゲノムDNA(Granulibacter bethesdensis)BAA−1260D−5を購入した。
グラニュリバクター ベセスデンシスのゲノムDNAを鋳型として、CCCTGAGGAGGGTCCAAGAGATGGACGTCCATGAGTACCA(配列番号77)及びGCTCTAGATCAGGCTGCCTGACGCCCA(配列番号78)をプライマーとしてPCRを実施し、グラニュリバクターのmtkフラグメントを得た。また、実施例12で作製したpMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Hme)_mclを鋳型として、GGAATTCACAAAAAGGATAAAA(配列番号79)及びTGGTACTCATGGACGTCCATCTCTTGGACCCTCCTCAGGG(配列番号80)をプライマーとしてPCRを実施し、ハイホマイクロビウムのmclフラグメントを得た。得られたグラニュリバクターのmtkフラグメントとハイホマイクロビウムのmclフラグメントを鋳型として、配列番号79及び配列番号78をプライマーとしてPCRを実施し、ハイホマイクロビウムのmcl及びグラニュリバクターのmtkフラグメント遺伝子を含むDNAフラグメントを得た。EcoRIとXbaIで切断し得られたフラグメントと実施例10で作製したプラスミドpMWGKCをEcoRIとXbaIで切断して得られたプラスミドを連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Gb)と命名した。
pMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Gb)は、グラニュリバクター ベセスデンシス由来のmtkAの遺伝子(配列番号81)、及びmtkBの遺伝子(配列番号82)を含む。また、グラニュリバクター ベセスデンシス由来mtkAのアミノ酸配列、及びmtkBのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号107、及び配列番号108に示すとおりである。
【0249】
[実施例19]
<ハイフォマイクロビウム デニトリフィカンスDSM1869由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Germany)からハイフォマイクロビウム デニトリフィカンス(Hyphomicrobium denitrificans)DSM1869を購入した。DSM1869をDSMの培地番号803で培養し、DNeasy Blood &Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いて染色体DNAを得た。
ハイフォマイクロビウム デニトリフィカンスのゲノムDNAを鋳型として、ACCAGGGAATTCACAAAAAGGATAAAACAATGAGCTATACCCTCTACCCAACCGTAAGC(配列番号83)及びGCCCACTCTAGATCAGGCAACTTTTTTCTGCTTGCCGAGAACC(配列番号84)をプライマーとしてPCRを実施し、ハイフォマイクロビウムのmcl−mtkフラグメントを得た。EcoRIとXbaIで切断し得られたフラグメントと実施例12で作製したプラスミドpMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Hme)_mclをEcoRIとXbaIで切断して得られたプラスミドを連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mcl(Hde)_mtk(Hde)_mclと命名した。
pMWGKC_mcl(Hde)_mtk(Hde)_mclは、ハイフォマイクロビウム デニトリフィカンス由来のmclの遺伝子配列(配列番号85)、mtkAの遺伝子(配列番号86)、及びmtkBの遺伝子(配列番号87)を含む。また、ハイフォマイクロビウム デニトリフィカンス由来mclのアミノ酸配列、mtkAのアミノ酸配列、及びmtkBのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号109、配列番号110、及び配列番号111に示すとおりである。
【0250】
[実施例20]
<ニトロソモナス ユーロピアNBRC14298由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
NBRC(Biological Resource Center, NITE)からニトロソモナス ユーロピア(Nitrosomonas europaea)NBRC14298を購入した。NBRC14298をNBRCの培地番号829で培養し、DNeasy Blood &Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いて染色体DNAを得た。
ニトロソモナス ユーロピアのゲノムDNAを鋳型として、GCGGGGGAATTCACAAAAAGGATAAAACAATGAGTCATACCCTGTATGAACCAAAACACC(配列番号88)及びCAGGCGTCTAGATTAGAGTCCGGCCAGAACTTTTGCGACG(配列番号89)をプライマーとしてPCRを実施し、ニトロソモナス ユーロピアのmtkフラグメントを得た。EcoRIとXbaIで切断し得られたフラグメントと実施例12で作製したプラスミドpMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Hme)_mclをEcoRIとXbaIで切断して得られたプラスミドを連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mcl(Ne)_mtk(Ne)_mclと命名した。
pMWGKC_mcl(Ne)_mtk(Ne)_mclは、ニトロソモナス ユーロピア由来のmclの遺伝子配列(配列番号90)、mtkAの遺伝子(配列番号91)、及びmtkBの遺伝子(配列番号92)を含む。また、ニトロソモナス ユーロピア由来mclのアミノ酸配列、mtkAのアミノ酸配列、及びmtkBのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号112、配列番号113、及び配列番号114に示すとおりである。
【0251】
[実施例21]
<メチロコッカス キャプスラタスATCC33009由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
ATCCからメチロコッカス キャプスラタスのゲノムDNA(Methylococcus capsulatus)ATCC33009D−5を購入した。
メチロコッカス キャプスラタスのゲノムDNAを鋳型として、GGAATTCCATATGGCTGTTAAAAATCGTCTAC(配列番号93)及びGCTCTAGATCAGAATCTGATTCCGTGTTC(配列番号94)をプライマーとしてPCRを実施し、メチロコッカスのmcl−mtkフラグメントを得た。NdeIとXbaIで切断し得られたフラグメントと実施例10で作製したプラスミドpMWGKCもしくはpMWGCをNdeIとXbaIで切断して得られたプラスミドを連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mcl(Mc)_mtk(Mc)もしくはpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)と命名した。
pMWGKC_mcl(Mc)_mtk(Mc)もしくはpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)は、メチロコッカス キャプスラタス由来のmclの遺伝子配列(配列番号95)、mtkAの遺伝子配列(配列番号96)、及びmtkBの遺伝子配列(配列番号97)を含む。また、メチロコッカス キャプスラタス由来mclのアミノ酸配列、mtkAのアミノ酸配列、及びmtkBのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号115、配列番号116、及び配列番号117に示すとおりである。
【0252】
[実施例22]
<アンカルチャードガンマプロテオバクテリアGenBank:AP011641.1由来マレートチオキナーゼ発現プラスミドの構築>
アンカルチャードガンマプロテオバクテリア由来mtkを取得するために、GenBank:AP011641.1のアミノ酸配列をもとにガンマプロテオバクテリア由来mtkを設計し、DNA合成により以下のDNAフラグメント(配列番号98)を作製した。
作製したDNAフラグメントを鋳型として、GTTGAACGAGGAGATCGTCCATGAACATTCACGAATATCA(配列番号99)及びGCTCTAGATTAGCCAGAAACTGCAGATCC(配列番号100)をプライマーとしてPCRを実施し、ガンマプロテオバクテリアのmtkフラグメントを得た。また、実施例21で作製したpMWGKC_mcl(Mc)_mtk(Mc)もしくはpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)を鋳型として、配列番号93及びTGATATTCGTGAATGTTCATGGACGATCTCCTCGTTCAAC(配列番号101)をプライマーとしてPCRを実施し、メチロコッカスのmclフラグメントを得た。得られたガンマプロテオバクテリアのmtkフラグメントとメチロコッカスのmclフラグメントを鋳型として、配列番号93及び配列番号100をプライマーとしてPCRを実施し、メチロコッカスのmcl及びガンマプロテオバクテリアのmtkフラグメント遺伝子を含むDNAフラグメントを得た。NdeIとXbaIで切断し得られたフラグメントと実施例10で作製したプラスミドpMWGKCをNdeIとXbaIで切断して得られたプラスミドを連結した。得られたプラスミドをpMWGKC_mcl(Mc)_mtk(gamma)と命名した。
pMWGKC_mcl(Mc)_mtk(gamma)は、アンカルチャードガンマプロテオバクテリア由来のmtkAの遺伝子(配列番号102)、及びmtkBの遺伝子(配列番号103)を含む。また、アンカルチャードガンマプロテオバクテリア由来mtkAのアミノ酸配列、及びmtkBのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号118、及び配列番号119に示すとおりである。
【0253】
[実施例23]
<マレートキナーゼ及びマリルCoAリアーゼ導入イソプロピルアルコール生産atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失、gnd遺伝子欠失、ldhA遺伝子欠失、fumAC遺伝子欠失、aceBA遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失株の作製>
実施例8で作製した大腸菌B株(atoDAB,△pgi_gntR_gnd_ldhA_aceBA_glcB_fumAC)のコンピテントセルに、実施例18〜22で作製したプラスミドpIazと、mtk及びmclの各発現プラスミドを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株をそれぞれ以下のように命名した(表8参照)。
なお、表8記載の株番号は、大腸菌B株(atoDAB,△pgi_gntR_gnd_ldhA_aceBA_glcB_fumAC)に、pIazと表記載のプラスミドを導入した株を意味する。
【0254】
【表8】
【0255】
[実施例24]
<リンゴ酸を基質としたグリオキシル酸生産活性測定>
実施例16と同様の方法により、タンパクあたりの酵素活性を求めた(表9)。
表9に示されるように、MT−4〜MT−8のいずれにおいても、酵素活性が確認され、MT−1株と比較しても、酵素活性が高かった。中でも、MT−5株、MT−6株、MT−7株及びMT−8株は、実施例16にて示したMT−2及びMT−3株と同等かそれ以上に活性が高いことがわかった。これに対してコントロールでは、酵素活性が認められなかった。
【0256】
【表9】
【0257】
[実施例25]
<atoDゲノム強化、aceB遺伝子欠失株の作製>
リンゴ酸シンターゼ(以下、aceBと略することがある)をコードする遺伝子(1602bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、GGAATTCATTCAGCTGTTGCGCATCGATTC(配列番号24)、GTTATGTGGTGGTCGTGCAGCTCCTCGTCATGG(配列番号104)、GAGCTGCACGACCACCACATAACTATGGAG(配列番号105)、GGAATTCCAGTTGAACGACGGCGAGCAG(配列番号106)、に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号およびのプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位をそれぞれ有している。
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号24と配列番号106のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下aceB−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号105と配列番号106のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下aceB−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、aceB−LとaceB−R断片を鋳型に配列番号24と配列番号108のプライマーペアで、PCRを行うことにより約2.0kbのDNA断片を増幅した(以下aceB−LR断片と呼ぶことがある)。このaceB−LR断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、EcoRIで消化し、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI消化物と混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、aceB−LR断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−aceBとした。
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−aceBを実施例1で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDABに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、aceB遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、aceB遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△aceB)株と略することがある)と命名した。
【0258】
[実施例26]
<atoDゲノム強化、aceB遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失株の作製>
実施例7で作製したプラスミドpTH18cs1−gclBを実施例25で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDAB△aceB株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、glcB遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、aceB遺伝子欠失、glcB遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△aceB△glcB株と略することがある)と命名した。
【0259】
[実施例27]
<atoDゲノム強化、ldhA遺伝子欠失株の作製>
実施例5で作製したプラスミドpTH18cs1−ldhAを実施例1で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDABに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、ldhA遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をatoDゲノム強化、ldhA遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△ldhA株と略することがある)と命名した。
【0260】
[実施例28]
<pBRgapP、pMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)/B株、pBRgapP、pMWGC/B株の作製>
大腸菌B株のコンピテントセルに、実施例2で作製したプラスミドpBRgapPと、実施例21で作製したプラスミドpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)、もしくはpMWGCを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株を得た。
【0261】
[実施例29]
<pIa、pMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)/B::atoDAB株、pIa、pMWGC/B::atoDAB株の作製>
実施例1で作製した大腸菌B株(B::atoDAB)のコンピテントセルに、実施例9で作製したプラスミドpIaと、実施例21で作製したプラスミドpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)、もしくはpMWGCを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株を得た。
【0262】
[実施例30]
<pIa、pMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)/B::atoDAB△aceB株、pIa、pMWGC/B::atoDAB△aceB株の作製>
実施例25で作製した大腸菌B株(B::atoDAB△aceB)のコンピテントセルに、実施例9で作製したプラスミドpIaと、実施例21で作製したプラスミドpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)、もしくはpMWGCを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株を得た。
【0263】
[実施例31]
<pIa、pMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)/B::atoDAB△aceB△glcB株、pIa、pMWGC/B::atoDAB△aceB△glcB株の作製>
実施例26で作製した大腸菌B株(B::atoDAB△aceB△glcB)のコンピテントセルに、実施例9で作製したプラスミドpIaと、実施例21で作製したプラスミドpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)、もしくはpMWGCを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株を得た。
【0264】
[実施例32]
<pIa、pMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)/B::atoDAB△ldhA株、pIa、pMWGC/B::atoDAB△ldhA株の作製>
実施例27で作製した大腸菌B株(B::atoDAB△ldhA)のコンピテントセルに、実施例9で作製したプラスミドpIaと、実施例21で作製したプラスミドpMWGC_mcl(Mc)_mtk(Mc)、もしくはpMWGCを形質転換し、25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹し生育した株を得た。
【0265】
[実施例33]
<イソプロピルアルコールの生産>
本実施例では、WO2009/008377号パンフレット図1に示される生産装置を用いてイソプロピルアルコールの生産を行った。培養槽は3リットル容のガラス製のものを使用し、トラップ槽には、トラップ液としての水(トラップ水)を1槽あたり9Lの量で注入し、2台連結して使用した。
イソプロピルアルコール生産評価に用いた株の一覧を表10として示した。
【0266】
【表10】
【0267】
前培養として25mg/Lのクロラムフェニコール、100mg/Lのアンピシリンを含むLB Broth, Miller培養液(Difco244620)50mLを入れた500mL容三角フラスコに各評価株を植菌し、一晩、培養温度30℃、120rpmで攪拌培養を行った。前培養45mLを、以下に示す組成の培地900gの入った3L容の培養槽(ABLE社製培養装置BMS−PI)に移し、培養を行った。培養は大気圧下、通気量0.45L/min、撹拌速度490rpm、培養温度30℃、pH7.0(NH水溶液で調整)で行った。培養開始から8時間後までの間、50wt/wt%のグルコース水溶液を20g/L/時間の流速で添加した。その後は50wt/wt%のグルコース水溶液を20g/L/時間の流速で、培養槽内にグルコースがなるべく残存しないように適宜添加した。培養開始から30時間まで数回、菌体培養液をサンプリングし、遠心操作によって菌体を除いた後、得られた培養上清中及びトラップ水中のイソプロピルアルコール、アセトン及び主な副産物の蓄積量をHPLCで定法に従って測定した。なお、測定値は、培養後の培養液とトラップ槽2台中の合算値である。結果を表11、副産物を表12に示した。
<培地組成>
コーンスティープリカー(日本食品化工製):50g/L
FeSO・7HO:0.1g/L
HPO:2g/L
KHPO:2g/L
MgSO・7HO:2g/L
(NHSO:2g/L
アデカノールLG126(旭電化工業)0.1g/L
(残部:水)
【0268】
【表11】
【0269】
【表12】
【0270】
評価の結果、対照株(vec/atoDAB)のイソプロピルアルコール生産量は33.2g/30hであり、mtk導入株(mtk_mcl/atoDAB)の生産量は34.6g/30hであった。アセトンの生産量は対照株(vec/atoDAB)では6.0g/30h、mtk導入株(mtk_mcl/atoDAB)は8.8g/30hであった。このことから、mtk+mclを導入した方がイソプロピルアルコール、アセトンの生産量が向上することがわかった。また、30hにおけるイソプロピルアルコールの対糖収率は対照株(vec/atoDAB)では15.8%、mtk+mcl導入株(mtk_mcl/atoDAB)では、16.5%、イソプロピルアルコールとアセトンの対糖収率は対照株(vec/atoDAB)では18.6%、mtk+mcl導入株(mtk_mcl/atoDAB)では、20.7%を示した。このことから、mtk+mclの経路を導入することにより、糖のイソプロピルアルコール、アセトンへの変換効率が向上していることが示された。
同様にatoDAB△ldhAにおいてもmtk+mclを導入した株の方がイソプロピルアルコール、アセトンの生産量、対糖収率ともにatoDABと同様に向上していることが示された。atoDAB△ldhA、atoDAB△aceB、atoDAB△aceB△glcBにおいて、対糖収率がそれぞれの株の対照株(vec)よりmtk+mclを導入した株の方が向上したことから、mtk+mclによりアセチルCoA、アセチルCoAに由来する有用物質が効率的に増加したと考えられる。
表12では副産物を示した。30hにおける対照株(vec/B)とmtk+mcl導入株(mtk_mcl/B)を比較するとエタノール、ピルビン酸、コハク酸の量が減少しており、副産物の総量においても予想外にmtk+mcl導入株の方が対照株に対して、減少していることが分かった。同様にatoDAB、atoDAB△aceB、atoDAB△aceB△glcB、atoDAB△ldhAにおいてもmtk+mclを導入した株の方がエタノール、ピルビン酸、コハク酸、副産物の総量が対照株に対して、減少していることが示された。このことから、atoDABあるなしに関わらず、mtk+mclによる同様の効果がみられることがわかった。
atoDAB△aceB及びatoDAB△aceB△glcBではIPA及びIPAとアセトンの対糖収率は、atoDAB株と比較してほぼ同等であるが、vec、mtk導入株共に副産物の総量が減っており、特にmtk+mcl導入株において予想外に乳酸、コハク酸の蓄積が顕著に減少していた。培養液中からのイソプロピルアルコール、アセトンの回収の際、副産物が少ないと精製負荷を格段に軽減できることから、atoDAB△aceB及びatoDAB△aceB△glcBは工業上望ましい。
同様にatoDAB△ldhAにおいてもmtk+mclを導入した株の方がイソプロピルアルコール、アセトンの生産量、対糖収率ともにatoDABと同様に向上していることが示された。また上記の株すべてにおいて、対糖収率が対照株(vec)よりmtk+mclを導入した株において向上したことから、アセチルCoA、アセチルCoAに由来する有用物質が効率的に増加したと考えられる。
atoDAB△ldhAにおいては、副産物の総量が減っているのと同時にmtk+mcl導入株においてピルビン酸の蓄積が顕著に減少していた。さらにmtk+mcl導入したatoDAB△ldhAにおいてイソプロピルアルコール、アセトンの対糖収率が高いことから、効率よくグルコースとmtk+mclの経路の双方からイソプロピルアルコール、アセトンへ流れていることが示された。atoDAB△ldhAでは上記atoDAB△aceB及びatoDAB△aceB△glcBと同様に副産物が少ないことに加えてmtk+mcl導入株においてイソプロピルアルコール、アセトンの対糖収率が高い。イソプロピルアルコール、アセトンの回収の際の精製負荷の軽減と収率の向上の双方から工業的にイソプロピルアルコール、アセトンを生産する上でldhA破壊が好ましいことを示している。
B株においてはイソプロピルアルコール、アセトンの生産経路が導入されていない。酢酸が顕著に増加したことから、アセチルCoAは主として酢酸の方に流れたと考えられる。また、mtk+mcl導入株(mtk_mcl/B)において、増加したアセチルCoAは酢酸とエタノールへと流れたと予測される。このことからB株においてもmtk+mclの効果により、アセチルCoAが増加していることが示された。
【0271】
[実施例34]
<プラスミドpGAPSの構築>
スペクチノマイシン耐性遺伝子を取得するため、プラスミドpIC156(Steinmetz et. Al., Gene, 1994, 142(1):79−83)をテンプレートに用いて、CCGCGGTACCGTATAATAAAGAATAATTATTAATCTGTAGACAAATTGTGAAAGG(配列番号120)及びCTTTTGTTTATAAGTGGGTAAACCGTGAATATCGTGTTCTTTTCAC(配列番号121)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントをT4 Polynucleotide Kinase(Toyobo)でリン酸化することで、スペクチノマイシン耐性遺伝子を含むDNAフラグメントを得た。それから、プラスミドpGAPをPvuIで処理し、DNA断片をToyobo blunting highで平滑化して、前述のスペクチノマイシン耐性遺伝子を含むDNAフラグメントと連結させ、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルに形質転換し、スペクチノマイシン120μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをスペクチノマイシン120μg/mLを含むLB液体培地にて一晩培養し、得られたプラスミドをpGAPSと命名した。
【0272】
[実施例35]
<プラスミドpGAPS_gclの作製>
エシェリヒア・コリMG1655株から、DNeasy Blood &Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いて染色体DNAを得た。
グリオキシル酸カルボリガーゼ(gcl, NCBI−GI:945394)を含むオペロンを参考にして、2種のプライマー AAGAACTCTAGAACAAAAAGGATAAAACAATGGCAAAAATGAGAGCCGTTGACGCGGCAATG(配列番号122)及びGACCAGCTGCAGTCAGGCCAGTTTATGGTTAGCCATTAATTCCAGC(配列番123)を作製した。
また、2種のプライマー ACACAACTGCAGACAAAAAGGATAAAACAATGAAGATTGTCATTGCGCCAGACTCTTTTAAAGAGAGCT(配列番号124)及びGCCCCCAAGCTTTCAGTTTTTAATTCCCTGACCTATTTTAATGGCGCAGGを(配列番号125)作製した。
上記で得られた配列番号122と配列番号123のプライマーを用いて、エシェリヒア・コリMG1655株の染色体DNAを鋳型としてPCRを実施し約3kbの増幅DNAを得た。それから、上記で得られた124と配列番号125のプライマーを用いて、エシェリヒア・コリMG1655株の染色体DNAを鋳型としてPCRを実施し、約1.1kbの増幅DNAを得た。増幅DNAをそれぞれPstIで切断、連結した。この連結DNAをテンプレートとして、AAGAACTCTAGAACAAAAAGGATAAAACAATGGCAAAAATGAGAGCCGTTGACGCGGCAATG(配列番号126)及びGCCCCCAAGCTTTCAGTTTTTAATTCCCTGACCTATTTTAATGGCGCAGG(配列番号127)をプライマーとして用いてPCRを行い、増幅DNAを得た。この増幅DNAをXbaIとHindIIIで切断し、同様に制限酵素で切断したプラスミドpGAPSと連結した。エシェリヒア・コリDH5αを形質転換して、スペクチノマイシンを含むLB寒天プレートで培養し、得られた形質転換体からプラスミドを回収した。
このプラスミドを制限酵素ClaIおよびHindIIIで切断し、pGAPSとgclの遺伝子を含む、約4kbのDNA断片を回収した。DNA断片は、末端を平滑化後、セルフライゲーションさせてから、エシェリヒア・コリDH5αを形質転換して、120μg/mLスペクチノマイシンを含むLB寒天プレートで培養し、生育した菌を120μg/mLスペクチノマイシンを含むLB液体培地で培養して、形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、プラスミドpGAPS_gclを得た。
【0273】
[実施例36]
<パントエア・アナナティス PA株の取得>
パントエア・アナナティスAJ13601(特許寄託菌株BP−7207)からプラスミドRSFCPGを取り出した。プラスミドRSFCPGは、L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素である、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、を有する、テトラサイクリン耐性のプラスミドである(特開2001―333769号公報)。RSFCPGを用い、パントエア・アナナティスAJ417(特許寄託菌株BP−8646)をCaCl法(Molecular Cloning, 3rd edition, Cold Spring Harbor press, 2001)で形質転換し、10μ/mLのテトラサイクリンを含むLB培地で培養して、パントエア・アナナティスAJ417/RSFCPG(以後PA株と略することがある)を取得した。
【0274】
[実施例37]
<パントエア・アナナティス aceB遺伝子欠失株の作製>
パントエア・アナナティスAJ13355(特許寄託菌株BP−6614)のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number AP012032)、パントエア・アナナティスのマレートシンターゼ(以下PAaceBと呼ぶことがある)をコードする遺伝子の塩基配列も報告されている(GenBank accession number NC_017531)。aceBをコードする遺伝子(1,599bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、GACTCTAGAGGATCCCCGGGATGACAGACTCGGTTATCAACAGTGAATTACTTTTCAG(配列番号128)、GACGGGACGGCGGCTTTGTTGGCTTCCGCGTTATGAAAAAAGTAGAGAGC(配列番号129)、TTGAGACACAACGTGGCTTTCCCAGCAAGGACAGCGCGCGCAATGAATG(配列番号130)、ATGACCATGATTACGAATTCTCAGGGAAGCAGGCGGTAGCCTGGCAGAGTCAG(配列番号131)、に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。
また、カナマイシン耐性遺伝子をクローニングするため、TTTTTCATAACGCGGAAGCCAACAAAGCCGCCGTCCCGTCAAGTCAGC(配列番号132)、CGCGCGCTGTCCTTGCTGGGAAAGCCACGTTGTGTCTCAAAATCTCTGATGTTACATTGC(配列番号133)、に示すオリゴヌクレオチドプライマーを2種合成した。
【0275】
パントエア・アナナティスAJ417株のゲノムDNAを調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号128と配列番号129のプライマーペアで、PCRを行うことによりaceB遺伝子近傍の配列を含むのDNA断片を増幅した(以下PAaceB−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号130と配列番号131のプライマーペアで、PCRを行うことによりaceB遺伝子近傍の配列を含むのDNA断片を増幅した(以下PAaceB−R断片と呼ぶことがある)。また、カナマイシン耐性遺伝子を保有するプラスミドpUC4Kを、配列番号132と配列番号133のプライマーペアで、PCRを行うことによりカナマイシン耐性遺伝子を含むDNA断片を増幅した(以下KanR断片と呼ぶことがある)。また、プラスミドpUC18をEcoRI とXmaIで処理し、pUC18断片を作製した。これらのPAaceB−L断片、PAaceB−R断片、KanR断片、pUC18断片を回収し、それぞれの断片を混合して、In−fusion HD cloning kit(Invitrogen)を用いて処理し、エシェリヒア・コリDH5α(NEB5α;New England Biolabs)コンピテントセルを形質転換し、30μ/mLのカナマイシンを含むLBプレートで培養した。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、DNAシーケンシングによりpUC18ベクター中で、aceB前方部分配列_カナマイシン耐性遺伝子_aceB後方部分配列、という配列が構築されたことを確認した。このプラスミドを鋳型として、GCCGCCGAATTCCCGAAAAGTGCCACCTGACGTCTAAGAAACC(配列番号134)及び ATGACCATGATTACGAATTCTCAGGGAAGCAGGCGGTAGCCTGGCAGAGTCAG(配列番号135)でPCRを行い、精製して、増幅産物をEcoRIで切断し、DNAリガーゼ(Takara)によりセルフライゲーションさせることで、複製起点を有さないプラスミドを得た。このプラスミドを用い、パントエア・アナナティスAJ417株を形質転換して、30μ/mLのカナマイシンを含むLBプレートで培養した。得られたコロニーについて、aceB遺伝子が正しく欠失していることをゲノムPCRとDNAシーケンシングにより確認した。取得した株を、RSFCPGを用いCaCl法で形質転換し、10μ/mLのテトラサイクリンを含むLB培地で培養して、パントエア・アナナティスAJ417株aceB遺伝子欠失株(PA△aceB株と略することがある)と命名した。
【0276】
[実施例38]
<パントエア・アナナティス fumA遺伝子欠失株の作製>
Bacillus subtilis subsp. subtilis str. 168(ATCC 23857)のゲノムDNAを調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、AGTCTAGAGATCCTTTTTAACCCATCAC(配列番号136)、及びAGTCTAGAAGTCGATAAACAGCAATATT(配列番号137)のプライマーを用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素XhoIで消化することで約2.0kbpのsacB遺伝子を含むDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpHSG298(Takara)を制限酵素XhoIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理したDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、カナマイシン25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、pHSG298にsacB遺伝子を含むDNAフラグメントが挿入されたプラスミドpHSG−sacBを得た。
【0277】
パントエア・アナナティス AJ13355が元来保有するプラスミドpEA320の全塩基配列は公知であり(NCBI Reference Sequence NC_017533.1)、フマル酸ヒドラターゼ クラスI(以下fumAと呼ぶことがある)をコードする遺伝子の塩基配列も報告されている。fumAをコードする遺伝子(1,647bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、GCAACGTTGGCTCTCATCT(配列番号138)、CGGGATCCAAACACGCGGCGGAAAACA(配列番号139)、CGGGATCCGTTAACGCAGGCTGAC(配列番号140)及びGCTGCTGGCGTACTGGTTC(配列番号141)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。
パントエア・アナナティス AJ417株のゲノムDNAを調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号138と配列番号139のプライマーペアで、PCRを行うことにより約0.7kbのDNA断片を増幅した(以下fumA−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号140と配列番号141のプライマーペアで、PCRを行うことにより約0.9kbのDNA断片を増幅した(以下fumA−R断片と呼ぶことがある)。
これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、fumA−L断片及びfumA−R断片をBamHIでそれぞれ消化し、リガーゼを用いて結合した後、T4ポリヌクレオチドキナーゼにより5’末端リン酸化処理を行った。本DNA断片と、上記pHSG−sacBをBamHIで消化し、T4DNAポリメラーゼにより平滑末端化処理を行った後、さらにアルカリフォスファターゼ処理したDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、カナマイシン25μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、fumAをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’近傍断片の2つの断片がpHSG−sacBに正しく挿入されていることを確認した。得られたプラスミドをpsacB−PAfumAと命名した。
psacB−PAfumAは、パントエア・アナナティス内で複製可能なプラスミドである。そこで、複製起点を有さずパントエア・アナナティス内で複製不能なfumA遺伝子欠失用プラスミドを得るために、psacB−PAfumAを鋳型に、CTTTACACTTTATGCTTCC(配列番号142)及び5’末端側にSacI認識部位を有するTTGAGCTCGAGAGGTCTGCCTCGTGA(配列番号143)のプライマーペアを用いたPCRにより約5kbpのDNAフラグメントを増幅した。このDNA断片をSacIで消化し、リガーゼを用いて結合することでプラスミドpPAfumAを得た。得られたpPAfumAは、fumA−L断片、fumA−R断片、sacB遺伝子、及びカナマイシン耐性遺伝子を含み、複製起点を有さない。エレクトロポレーション法により、pPAfumAを用いてパントエア・アナナティス AJ417を形質転換し、これをカナマイシン40μg/mlを含むLB寒天培地に塗布した。上記の培地で得られた一重交叉株をLB培地で一晩液体培養し、培養液を10%(W/V)スクロース含有LB寒天培地に塗付した。
次に、上記の培地で得られたクローンからカナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示したクローンを選択した。更にこれらのクローンの染色体DNAから配列番号138と配列番号141のプライマーペアを用いたPCRにより、fumA遺伝子が欠失したことで約1.5kbp断片の増幅が得られる株を選抜し、得られた株をパントエア・アナナティス AJ417株fumA遺伝子欠失株(以下PA△fumA株と略することがある)と命名した。
【0278】
[実施例39]
<パントエア・アナナティス fumA遺伝子欠失、fumC遺伝子欠失株の作製>
フマル酸ヒドラターゼ クラスII(以下fumCと呼ぶことがある)をコードする遺伝子(1,398bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、TCGCCATGATGCTGCTGTG(配列番号144)、CGGGATCCGACTTAGCGTCATCGGTTG(配列番号145)、CGGGATCCGATGAAGATTGCTAACGACG(配列番号146)及びTGATGCCGACAATATTACGC(配列番号147)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。
パントエア・アナナティス AJ417株のゲノムDNAを調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号144と配列番号145のプライマーペアで、PCRを行うことにより約0.8kbのDNA断片を増幅した(以下fumC−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号146と配列番号147のプライマーペアで、PCRを行うことにより約0.7kbのDNA断片を増幅した(以下fumC−R断片と呼ぶことがある)。
これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、fumC−L断片及びfumC−R断片をBamHIでそれぞれ消化し、リガーゼを用いて結合した後、T4ポリヌクレオチドキナーゼにより5’末端リン酸化処理を行った。本DNA断片と、実施例38で作製したpHSG−sacBをBamHIで消化し、T4DNAポリメラーゼにより平滑末端化処理を行った後、さらにアルカリフォスファターゼ処理したDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、カナマイシン25μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、fumCをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’近傍断片の2つの断片がpHSG−sacBに正しく挿入されていることを確認した。得られたプラスミドをpsacB−PAfumCと命名した。
プラスミドpsacB−PAfumAをpsacB−PAfumCと変更した以外は、実施例38と同様の方法で、複製起点を有さずパントエア・アナナティスム内で複製不能なfumC遺伝子欠失用プラスミドpPAfumCを得た。更に、実施例38で用いたプラスミドpPAfumAをpPAfumCとし、形質転換に用いたパントエア・アナナティス AJ417株をPA△fumA株とした以外は、実施例38と同様の方法で、カナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示したクローンを選択した。更にこれらのクローンの染色体DNAから配列番号138と配列番号141のプライマーペアを用いたPCRにより、fumC遺伝子が欠失したことで約1.5kbp断片の増幅が得られる株を選抜た。取得した株を、RSFCPGを用いCaCl法で形質転換し、10μ/mLのテトラサイクリンを含むLB培地で培養してパントエア・アナナティス fumA遺伝子欠失、fumC遺伝子欠失株(以下PA△fumAC株と略することがある)と命名した。
【0279】
[実施例40]
<パントエア・アナナティス評価株の構築>
実施例36、37、および39で作製した、パントエア・アナナティスPA株、PA△aceB株、PA△fumAC株、を用い、実施例34のpGAPS、実施例35のpGAPS_gcl、実施例10のpMWGKC、および実施例21のpMWGKC_mcl(Mc)_mtk(Mc)を、CaCl法もしくはエレクトロポレーション法で形質転換した。それぞれの株は30μg/mL クロラムフェニコール、120μg/mL スペクチノマイシン、15μg/mL テトラサイクリンを含むLB寒天培地に塗布し、生育した株を評価株とした。それらの株を表13にまとめた。
【0280】
【表13】
【0281】
[実施例41]
<パントエア株による13Cラベル化COのグルタミン酸への導入検証>
対象となるパントエア株を、30μg/mL クロラムフェニコール、120μg/mL スペクチノマイシン、15 μg/mL テトラサイクリンを含むLB培地で、220rpm、30℃の条件で前培養した。前培養液から、遠心分離(5000rpm、5分間)により菌体を回収した。それから、20g/L グルコース、30μg/mL クロラムフェニコール、120μg/mL スペクチノマイシン、15 μg/mL テトラサイクリン、を含む2mLのパントエア用最小培地(17g/L NaHPO・12HO、3g/L KHPO、0.5g/L NaCl、1g/L NHCl、10mM MgSO、10μM CaCl、50mg/L L−lysine、50mg/L L−Methionine、pH6.0)を準備し、前培養菌体をODが1〜5の範囲内になるよう調整して添加した。密栓した後、30℃、220rpmで1日間培養した。培養液は定期的にサンプリングして、遠心分離(12,000rpm、3分間)して菌体を除去し、上清を親水性PTFEメンブレンフィルター(MILLIPORE社、MSGVN2B50)でろ過し、培養サンプルとした。培養サンプルとして用いた株を表13にまとめた。
培養サンプルのグルタミン酸中の13C含量を測定する際は、適当量のサンプルを、凍結乾燥もしくは減圧乾燥などにより乾燥後、500μLのMTBSTFA+1%TBDMSCl(シグマ・アルドリッチ社製、375934)および500μLのdryDMFを加え、80℃で2時間加熱し、遠心分離(14,000rpm、5分間)して、上清をGC−MS(Agilent 7890Aおよび5975c)により分析した。誘導体化したグルタミン酸のt−ブチル基が一ヶ所外れた構造と予想される、分子量432、433、434のマススペクトルピークの面積を測定した。なお、分子量432は、すべての原子が最も豊富な同位体からなる構造で、分子量433および434は、1個および2個の中性子をさらに含む構造と考えられる。分子量が432、433、434のピークをそれぞれ[M+0]、[M+1]及び[M+2]とし、[M+1]/[M+0]の値をx軸、[M+2]/[M+0]の値をy軸として、分析結果を図4に示した。
【0282】
通常のグルタミン酸発酵において、NaH13CO由来の13Cは、オキサロ酢酸を経て、グルタミン酸の1位もしくは5位の炭素のどちらか片方にしか導入されないため、記載された基準線上の値となる。なお、基準線は以下の式により求めた。
【0283】
x=(x−x×α+α)/(1−α)
y=(y−y×α+x×α)/(1−α)
【0284】
αはグルタミン酸中のCO由来炭素(1位もしくは5位)の13C同位体の割合{≒13C/(13C+12C)}を示す。xおよびyは、基準線上の任意の点の座標を示す。x、yは、グルタミン酸中の、CO由来の炭素(グルタミン酸の1位もしくは5位のどちらか片方の炭素)の同位体比における12Cの割合が100%で、他の原子は天然の同位体比に等しい、と仮定した場合のxおよびyの値(すなわち、α=0の際のxおよびyの値)で、それぞれ、0.358527、0.16822084314と設定した。上記の式を解くと、基準線は以下の式で示される。
【0285】
y=x・x+y−x
【0286】
本来のグルタミン酸生産経路において、NaH13CO由来の13Cは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(pck)といった炭酸固定酵素により固定され、オキサロ酢酸を経由して、グルタミン酸の1位もしくは5位の炭素のどちらか片方にのみ導入される。ここで、ppcが取り込む12CO13COの割合にしたがって、[M+1]や[M+2]の値は変化するが、導入される箇所が1ヶ所の場合、常に基準線上の値となる。一方、もし想定する炭酸固定経路が機能した場合、13Cは、オキサロ酢酸とアセチルCoAの両方を経由するため、グルタミン酸の炭素の1位と5位に同時に導入される可能性が発生し、その結果[M+2]の値が相対的に上昇して、基準線よりも上部の値となるはずである。
図4によると、PA/mtk_mcl_gcl株、PA△aceB/mtk_mcl_gcl株、PA△fumAC/mtk_mcl_gcl株では、基準線よりあきらかに上部の値を示した。すなわち、固定されたCOが、アセチルCoAを経由して、グルタミン酸に導入されたと考えられる。一方、対照株(PA/vec)では、基準線上にプロットされ、アセチルCoA経由の13C導入はみられなかった。また、mtk+mclだけの導入株(PA/mtk_mcl)でも、アセチルCoA経由の13C導入は見られなかった。パントエア・アナナティスはgclを有しないため、mtkとmclの付与だけではグリオキシル酸の行き所がなく、反応が進行しなかったと考えられる。したがって、図1のように、mtkとmclの導入だけでなく、gcl以降の経路をつなぐことで、COがアセチルCoAへと変換されることが示された。
【0287】
[実施例42]
<パントエア株によるグルタミン酸生産>
実施例41の培養液における、グルタミン酸量および副生成物の量を測定した。培養サンプル中のグルタミン酸の定量には、NN−814(昭和電工社)カラムを装着したHPLC(Waters社 2695)とUV/Vis検出器(Waters社 2489)を用いた。ろ液中のグルコース、およびその他生成物の定量には、ULTRON PS−80H(信和化工社)カラムを装着したHPLC(Waters社 2695)とRI検出器(Waters社 2414)を用いた。結果を表14および15に示した。
【0288】
【表14】
【0289】
【表15】
【0290】
mtk+mcl+gclを付与した株(PA/mtk_mcl/gcl)は、対照株(PA/vec)やmtk+mclを付与した株(PA/mtk_mcl)よりも高い対糖収率を示した。また、aceB遺伝子やfumAC遺伝子を破壊すると、対糖収率はさらに向上した(PA△aceB/mtk_mcl/gcl、PA△fumAC/mtk_mcl/gcl)。
副産物量に関しては、mtk+mcl+gcl導入株(PA/mtk_mcl/gcl)と対照株(PA/vec)を比較すると、予想外なことに、コハク酸と2,3―ブタンジオール(2,3−BDO)の量が減少しており、副産物の総量においても減少することが分かった。さらに、aceB遺伝子を破壊した株(PA△aceB/mtk_mcl/gcl)と破壊前(PA/mtk_mcl/gcl)と比較すると、予想外なことに、コハク酸および酢酸が減少し、副産物総量も大きく減少することが判明した。fumAC遺伝子破壊株(PA△fumAC/mtk_mcl/gcl)においては、破壊前(PA/mtk_mcl/gcl)と比較して、コハク酸量は大幅に減少したが、酢酸量は増加し、副産物総量も減少した。培養液中からグルタミン酸を回収する際、副産物の量が少ないと、精製負荷を格段に軽減できることから、工業利用時の有用性は大きい。
なお、上記の副産物低減効果は、RSFCPGを保有しないPA株においても、同様の効果が見られた。
【0291】
[実施例43]
<プラスミドpCASETの作製>
pHSG298(Takara)をテンプレートにCGCCTCGAGTGACTCATACCAGGCCTG(配列番号148)、及びCGCCTCGAGGCAACACCTTCTTCACGAG(配列番号149)のプライマーを用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素XhoIで消化し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、カナマイシン25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、pHSG298にXhoIの認識配列が挿入されたプラスミドをpHSG298−XhoIと命名した。
tacプロモーターを取得するためpKK223−3(Pharmacia)をテンプレートにATCATCCAGCTGTCAGGCAGCCATCGGAAG(配列番号150)、及びATCCCCGGGAATTCTGTT(配列番号151)のプライマーを用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素PvuII及びSmaIで消化することで約0.2kbpのtacプロモーターをコードするDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpHSG298−XhoIを制限酵素PvuIIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理した約2.4kbpのDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、カナマイシン25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、pHSG298−XhoIのlacプロモーターがtacプロモーターに置換され、tacプロモーターの方向が元のlacプロモーターと同じ向きになっているプラスミドpHSGT1を得た。
得られたpHSGT1のtacプロモーターの下流にpHSG298のマルチクローニングサイトを連結するために、pHSG298を制限酵素EcoRI及びClaIで消化することでpHSG298のマルチクローニングサイトを含む約1.0kbpのDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpHSGT1を制限酵素EcoRI及びClaIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理した約1.7kbpのDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、カナマイシン25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、tacプロモーターの下流にpHSG298のマルチクローニングサイトが連結されたプラスミドpHSGT2を得た。
コリネバクテリウム・カゼイ JCM 12072から単離されたpCASE1(Appl Microbiol Biotechnol (2009) 81:1107−1115)の複製起点、repA及びrepBを含むDNAフラグメント(配列番号152)をDNA合成により作製した。配列を以下に示す。
CGCCTCGAGCACTGGAAGGGTTCTTCAGGGGAACCCCCGGAAACCGGGGAAACATCTGACTTGGTTAAATGTCGTATTATGAACACGCCGAGGAATGAAAACCGACCGTGCACGCTCGTGTGAGAAAGTCAGCTACATGAGACCAACTACCCGCCCTGAGGGACGCTTTGAGCAGCTGTGGCTGCCGCTGTGGCCATTGGCAAGCGATGACCTCCGTGAGGGCATTTACCGCACCTCACGGAAGAACGCGCTGGATAAGCGCTACGTCGAAGCCAATCCCGACGCGCTCTCTAACCTCCTGGTCGTTGACATCGACCAGGAGGACGCGCTTTTGCGCTCTTTGTGGGACAGGGAGGACTGGAGACCTAACGCGGTGGTTGAAAACCCCTTAAACGGGCACGCACACGCTGTCTGGGCGCTCGCGGAGCCATTTACCCGCACCGAATACGCCAAACGCAAGCCTTTGGCCTATGCCGCGGCTGTCACCGAAGGCCTACGGCGCTCTGTCGATGGCGATAGCGGATACTCCGGGCTGATCACCAAAAACCCCGAGCACACTGCATGGGATAGTCACTGGATCACCGATAAGCTGTATACGCTCGATGAGCTGCGCTTTTGGCTCGAAGAAACCGGCTTTATGCCGCCTGCGTCCTGGAGGAAAACGCGGCGGTTCTCGCCAGTTGGTCTAGGTCGTAATTGCGCACTCTTTGAAAGCGCACGTACGTGGGCATATCGGGAGGTCAGAAAGCATTTTGGAGACGCTGACGGCCTAGGCCGCGCAATCCAAACCACCGCGCAAGCACTTAACCAAGAGCTGTTTGATGAACCACTACCTGTGGCCGAAGTTGACTGTATTGCCAGGTCAATCCATAAATGGATCATCACCAAGTCACGCATGTGGACAGACGGCGCCGCCGTCTACGACGCCACATTCACCGCAATGCAATCCGCACGCGGGAAGAAAGGCTGGCAACGAAGCGCTGAGGTGCGTCGTGAGGCTGGACATACTCTTTGGAGGAACATTGGCTAAGGTTTATGCACGTTATCCACGCAACGGAAAAACAGCCCGCGAGCTGGCAGAACGTGCCGGTATGTCGGTGAGAACAGCTCAACGATGGACTTCCGAACCGCGTGAAGTGTTCATTAAACGTGCCAACGAGAAGCGTGCTCGCGTCCAGGAGCTGCGCGCCAAAGGTCTGTCCATGCGCGCTATCGCGGCAGAGATTGGTTGCTCGGTGGGCACGGTTCACCGCTACGTCAAAGAAGTTGAAGAGAAGAAAACCGCGTAAATCCAGCGGTTTAGTCACCCTCGGCGTGTTCAAAGTCCATCGTAACCAAGTCAGCTCGAGGCG
作製したDNAフラグメントを制限酵素XhoIで消化することで得られたDNAフラグメントとプラスミドpHSGT2を制限酵素XhoIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理したDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、カナマイシン25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、pHSGT2のXhoI認識部位にpCASE1の複製起点、repA及びrepBを含むDNAフラグメントが挿入されたプラスミドをpCASETと命名した。回収したpCASETでは、pCASE1由来repAの方向がtacプロモーターと逆向きになっていた。
【0292】
[実施例44]
<プラスミドpCASELの構築>
実施例43で合成した、pCASE1の複製起点、repA及びrepBを含むDNAフラグメント(配列番号152)を制限酵素XhoIで消化することで得られたDNAフラグメントと、実施例43で作製したプラスミドpHSG298−XhoIを制限酵素XhoIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理したDNAフラグメントとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αに形質転換し、カナマイシン25μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、pHSG298−XhoIのXhoI認識部位にpCASE1の複製起点、repA及びrepBを含むDNAフラグメントが挿入されたプラスミドをpCASELと命名した。回収したpCASELでは、pCASE1由来repAの方向がpHSG298由来lacプロモーターと逆向きになっていた。
【0293】
[実施例45]
<メチロコッカス・キャプスラタス由来mtk及びmcl発現プラスミドの構築>
pMWGKC_mcl(Mc)_mtk(Mc)を鋳型として、GGAATTCACAAAAAGGATAAAACAATGGCTGTCAAGAACCGTCTAC(配列番号153)及び CGAATTCTCAGAATCTGATTCCGTGTTCCTG(配列番号154)のプライマーペアでPCRを実施し、メチロコッカスのmcl−mtkを含むDNA断片を得た。配列番号153および154のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位を有している。このDNA断片およびプラスミドpCASETをEcoRIで切断して、両者を連結した。DNAシーケンシングにより、mcl−mtkフラグメントがプラスミドのプロモーターによる発現に適した方向に挿入されていることを確認し、このプラスミドをpCASET_mcl(Mc)_mtk(Mc)およびpCASEL_mcl(Mc)_mtk(Mc)と命名した。
【0294】
[実施例46]
<グラニュリバクター・ベセスデンシス、ニトロソモナス・ユーロピア、ハイホマイクロビウム・メチロボラム由来mtk発現プラスミドの構築>
pMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Gb)、pMWGKC_mcl(Hme)_mtk(Hme)_mcl、pMWGKC_mcl(Ne)_mtk(Ne)のそれぞれを用い、dam/dcm Competent E. coli (New England Biolabs社)を形質転換して、30μg/mL クロラムフェニコールを含むLB培地で増殖させてからプラスミドを回収し、制限酵素EcoRIおよびXbaIで切断して、mtkとmclを含む約3kbのDNA断片を回収した。それから、プラスミドpCASELを制限酵素EcoRIおよびXbaIで切断し、mtkとmclを含むDNA断片と連結させ、コリネバクテリウムでmtkおよびmclを発現させるためのベクターpCASEL_mcl(Hme)_mtk(Gb)、pCASEL_mcl(Hme)_mtk(Hme)、pCASEL_mcl(Ne)_mtk(Ne) を作製した。それぞれ、グラニュリバクター・ベセスデンシス、ニトロソモナス・ユーロピア、ハイホマイクロビウム・メチロボラムのmtkを保有する。
これまでに作製したコリネバクテリウム用プラスミドを表16にまとめた。
【0295】
【表16】
【0296】
[実施例47]
<コリネバクテリウムにおけるmtkの活性測定>
実施例45および実施例46で作製したプラスミドを用い、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13012株をエレクトロポレーション法で形質転換し、15μg/mgのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布して、30℃で1〜4日培養した。生育した株を、15μg/mgのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃で1〜4日培養し、遠心分離により菌体を回収した。菌体をMOPS−K バッファー pH7.7に懸濁し、懸0.1mmグラスビーズを用い、ビーズショッカー(安井器械社、MB5000)で破砕した。遠心上清(13,000rpm、2min)を変異体粗酵素抽出液として、以後実施例16と同様の方法で菌体の活性測定を行った。結果を表17に示す。
【0297】
【表17】
【0298】
pCASELを発現ベクターとした場合、メチロコッカス・キャプスラタス由来mtkを発現させたプラスミドが最も高い値を示した。また、表9と比較した場合、高活性なmtkと低活性なmtkの順序の相関はおおむね同じだった。それから、pCASELとpCASETに導入したメチロコッカス・キャプスラタス由来mtkの活性を評価したところ、pCASETに導入した株の方が高い活性を示した。
【0299】
[実施例48]
<コリネバクテリウム用mtk、mcl、gcl、およびglxR発現プラスミドの構築>
NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門)からロドコッカス・ジョスティNBRC16295を購入した。NBRC16295をNBRCの培地番号802で培養し、DNeasy Blood &Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いてゲノムDNAを得た。このゲノムDNAを鋳型として、CGAGCTCAAGCTTACAAAAAGGATAAAACAATGAGCACCATTGCATTCATCGG(配列番号155)CGGGATCCCTAGTCCAGCAGCATGAGAG(配列番号156)をプライマーとしてPCRを実施し、ロドコッカスのglxR−gclフラグメントを得た(配列番号157)。SacIとBamHIで切断し得られたフラグメントと、pCASET_mcl(Mc)_mtk(Mc)をSacIとBamHIで切断して得られたフラグメントを連結した。このプラスミドをpCASET_mcl(Mc)_mtk(Mc)_glxR(Rj)_gcl(Rj)と命名した。
【0300】
[実施例49]
<コリネバクテリウム・グルタミカムにおけるグルタミン酸生産および13C導入評価株の構築>
コリネバクテリウム・グルタミカムDSM1412(以後、「CG株」と呼ぶことがある。)実施例43、45、および48で構築したプラスミドを用い、エレクトロポレーション法で形質転換した。それぞれの株は15μg/mL カナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、生育した株を評価株とした。それらの株を表18にまとめた。
【0301】
【表18】
【0302】
[実施例50]
<コリネバクテリウム株による13Cラベル化COのグルタミン酸への導入検証>
対象となる微生物株を、15μg/mLカナマイシンを含む2mLのLB液体培地により、30℃かつ280rpmの条件で、十分な生育がみられるまで培養した。それから、100mLの羽根つき三角フラスコに、20g/Lのグルコース、および15μg/mLカナマイシンを含む10mlのコリネバクテリウム用最小培地{30g/L(NHSO、3g/L NaHPO、6g/L KHPO、2g/L NaCl、84mg/L CaCl、3.9mg/L FeCl、0.9mg/L ZnSO・7HO、0.3mg/L CuCl・HO、5.56mg/L MnSO・5HO、0.1mg/L (NH24・4HO、0.3mg/L Na・10HO、0.4g/L MgSO・7HO、40mg/L FeSO・7HO、500μg/L Vitamine B1・HCl、0.1g/L EDTA、10μg/L Biotin}を調整し、前述のLB液体培地による培養液を1mL添加して、十分な増殖がみられるまで1日〜4日培養し、前培養液とした。前培養液から、遠心分離(5000rpm、5分間)により菌体を回収した。
100mMの炭酸水素ナトリウム(13Cラベル化)、20g/Lのグルコース、1.5%(w/v)のTween60(シグマ・アルドリッチ社製)、および15μg/mLカナマイシンを含む2mLのコリネバクテリウム用最小培地(ただしBiotin最終濃度は2μg/Lに変更)を準備し、前培養菌体をODが1〜5の範囲内になるよう調整して添加した。密栓した後、30℃、150rpmで1〜2日間培養した。培養液は定期的にサンプリングして、遠心分離(MILLIPORE社 12,000rpm、3分間)して菌体を除去し、上清を親水性PTFEメンブレンフィルター(MILLIPORE社、MSGVN2B50)でろ過し、培養サンプルとした。培養サンプルの13C分析は、実施例41と同様の方法で実施した。すなわち、GC−MS分析時のMW432、433、434のピーク面積を、それぞれ[M]、[M+1]、[M+2]とし、横軸は[M+1]/[M]、縦軸は[M+2]/[M]を示す。基準線は実施例41に記載の方法にしたがって計算した。
【0303】
図5によると、mtk+mcl+gcl+glxR導入株(CG/mtk_mcl_gcl_glxR)は基準線より上方の値を示したことから、固定されたCOが、アセチルCoAを経由して、グルタミン酸に導入されたと考えられる。一方、対照株(CG/vec)は、ほぼ基準線上にプロットされ、アセチルCoA経由の13C導入は見られなかった。また、mtk+mclを導入した株(CG/mtk_mcl)においても、ほぼ基準線上にプロットされ、アセチルCoA経由の13C導入は見られなかった。コリネバクテリウム・グルタミカムはgcl、glxRを有しないため、パントエア・アナナティスと同様、mtkとmclだけでは反応が進行しなかったと考えられる。
【0304】
[実施例51]
<コリネバクテリウム株によるグルタミン酸生産試験>
実施例50の培養液における、グルタミン酸量および副生成物の量を測定した。培養液中のグルタミン酸、グルコース、その他有機化合物を実施例42と同様の方法で分析した。結果を表19および表20に示す。
【0305】
【表19】
【0306】
【表20】
【0307】
mtk+mcl+gcl+glxRを付与した株(CG/mtk_mcl_gcl_glxR)は、対照株(CG/vec)やmtk+mclだけの導入株(CG/mtk_mcl)よりも高い対糖収率を示した。
副産物量に関しては、mtk+mcl+gcl+glxR導入株(CG/mtk_mcl_gcl_glxR)株と対照株(CG/vec)を比較すると、予想外なことに、乳酸が主に減少しており、副産物の総量においても減少することが分かった。mtk+mclだけの導入株(CG/mtk_mcl)は、副産物量に関して対照株とほぼ同じであった。
【0308】
[実施例52]
<メチロバクテリウム・エクストルクエンス由来マレートチオキナーゼ遺伝子への変異導入による活性向上>
pMWGKC_mtk(Mex)_mclを鋳型とし、表21記載の配列番号のプライマーペアでPCRを行い、制限酵素DpnIで処理して鋳型を分解後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセルを形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをクロラムフェニコール10μg/mLを含むLB液体培地で30℃で一晩培養した。培養液の一部からプラスミドを回収し、DNA配列を確認して、目的の変異が正しく導入されたものを変異体サンプルとした。このサンプルをクロラムフェニコール10μg/mL含むLB液体培地で前培養後、クロラムフェニコール10μg/mL含むLB液体培地3mLに植菌し、30℃、280rpmで一晩培養した。そのうち2mLを10,000rpm、5分間遠心し、上清を除去後、2mLの10mMリン酸バッファー(pH7.0)を添加して洗浄した。この洗浄操作をさらにもう一回実施後、500μLのpH7の10mMリン酸バッファー(pH7.0)に懸濁した。懸濁液を、0.1mmグラスビーズを用い、ビーズショッカー(安井器械社、MB5000)で破砕した。遠心上清(13,000rpm、2min)を変異体粗酵素抽出液とした。
それぞれの変異体粗酵素抽出液について、[実施例16]の手法に基づき活性を評価した。結果を表21に示す。その結果、mtkBのQ244E変異、およびmtkBのL144I変異は変異導入前と比較して、活性値の向上が見られた。また、mtkBのQ244位に別のアミノ酸を導入したところ、A、L、I、M、N、Y,K、Rにおいて、活性の向上がみられた。また、mtkBのL144位に変異を導入したところ、N、D、K、R、H、Q、Pの変異により、活性の向上がみられた。
【0309】
【表21】
【0310】
このように本発明によれば、COをアセチルCoAへと変換できる。また、本発明によれば、アセチルCoAに由来する物質、例えばイソプロピルアルコール、アセトン、およびグルタミン酸も効率よく生産できる。
【0311】
2011年7月29日に出願の日本国出願番号第2011−167808号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]