特許第5922182号(P5922182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922182
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】電線保護装置及び電線監視システム
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/18 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   H02G7/18
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-124339(P2014-124339)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-5363(P2016-5363A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】堀 雅晃
【審査官】 石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−226824(JP,A)
【文献】 特開2002−027647(JP,A)
【文献】 特開2013−223359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/00
H02G 7/18
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱に固定した腕金に下設した碍子を介して支持した電線に作用する倒木程度の負荷から当該電線が切断されることを保護する電線保護装置であって、
前記電線をその外周方向から受容する固定腕を突出した歯車箱と、
前記歯車箱と回転自在に連結した軸部から遠心方向に延び、前記固定腕に対して開閉自在な可動腕と、
前記固定腕に対して前記可動腕を閉じる方向に回転できるラチェット装置と、
前記可動腕に設けた圧力センサに所定の圧力値が発生すると、前記固定腕と前記可動腕との連結が解除されるように、回転手段を駆動して前記ラチェット装置を作動させる制御部と、を備える電線保護装置。
【請求項2】
前記回転手段は、その出力軸の回動角度が規制されたロータリーソレノイドからなり、
前記ラチェット装置は、
前記歯車箱の内部に配置され、前記軸部を軸方向に延在したラチェット歯車と、
回動軸を前記歯車箱の内壁面に固定し、一方の端部に設けた爪部を前記ラチェット歯車のラチェット歯に向かって傾倒すると、前記爪部が当該ラチェット歯に噛み合うラチェット爪と、
前記ラチェット爪の他端部側に係合し、前記爪部が前記ラチェット歯から離れる方向に力を付勢する板ばねと、
前記歯車箱の内部に回動自在に保持され、一方の方向に回動すると前記ラチェット爪の爪部を前記ラチェット歯に向かって傾倒させ、他方の方向に回動すると前記ラチェット爪の爪部から離れる方向に移動するカムを端部に有するガイドリングと、
前記ガイドリングと連結し、前記ロータリーソレノイドの出力軸と回り止め可能な連結穴を開口したボスを中心部から突出したリングプレートと、を有する請求項1記載の電線保護装置。
【請求項3】
前記歯車箱は、その側面部に形成された制御箱を更に備え、
前記制御箱は、
前記回転手段を少なくとも制御する制御回路と、
少なくとも前記回転手段を通電するための一つ以上の電池を内部に有する請求項1又は2記載の電線保護装置。
【請求項4】
前記碍子に支持されると共に、前記歯車箱を着脱自在に支持する支持金具を更に備え、
前記支持金具は、
前記碍子の碍子部の外周を挟持する一対の半円弧状のバンド部材と、
二股に分岐した支持アームが前記バンド部材のボルト受け片にボルト部材で止め締めされ、基端部が支持プレートの中央部に結合した支持部材と、を有し、
前記支持プレートは、前記歯車箱の上面に設けた複数の雌ねじ部に締結するボルト部材が挿入自在なボルト穴を有する請求項1から3のいずれかに記載の電線保護装置。
【請求項5】
前記電柱に支持され、少なくとも前記回転手段を駆動するための電力を出力し、前記制御部に接続自在な太陽電池パネルを更に備える請求項1から4のいずれかに記載の電線保護装置。
【請求項6】
請求項3に記載の前記制御回路は、前記圧力センサから発生した圧力値データ、及び当該電線保護装置の所在地データを無線で送信する送信回路を備え、
前記送信回路から送信された前記圧力値データ及び前記所在地データを受信する受信部を有する電線監視装置を備え、
前記電線監視装置は、前記圧力値データ及び前記所在地データを表示する表示部を有する電線監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保護装置及び電線監視システムに関する。特に、電柱に架設された電線が倒木などによる負荷で切断されることから保護する電線保護装置の構造、及びこの電線保護装置を用いた電線監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山間部などでは、降雨又は積雪により地盤が緩み、大きな木が倒れることがある。そして、この倒木が電柱に架設された電線に傾倒して、その負荷により電線が切断することがある。
【0003】
このような事態を回避するため、電柱に固定した腕金に下設した碍子に電線を支持する螺旋状のバインド線であって、倒木による負荷で破断する程度の強度を有するバインド線が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1によるバインド線は、倒木による負荷が電線に作用すると、電線が切断する前に破断するので、電線が切断することを防止できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−226824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1によるバインド線は、倒木による負荷が電線に作用すると、破断するので、このバインド線を再利用できないという問題がある。又、特許文献1によるバインド線は、倒木による負荷が電線に作用すると、破断するので、新たなバインド線を用いて、電線を碍子に支持するための復旧工事に手間取るという問題がある。
【0007】
更に、特許文献1によるバインド線は、電線が切断することを防止できるが、倒木による電線への負荷を集中監視できないという問題もある。
【0008】
電柱に架設された電線が倒木などによる負荷で切断されることから保護できると共に、電線の復旧工事が容易な電線保護装置、及びこの電線保護装置を用いた電線監視システムが求められている。そして、以上のことが本発明の課題といってよい。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電線が倒木などによる負荷で切断されることから保護できる電線保護装置、及びこの電線保護装置を用いた電線監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、碍子に支持され、電線を受容する固定腕を有する歯車箱、及び、軸部が歯車箱と回転自在に連結し、固定腕に対して開閉自在な可動腕で電線保護装置を構成し、固定腕に対して可動腕が閉じる方向にのみ回転できるラチェット装置を歯車箱の内部に備えると共に、可動腕に設けた圧力センサに所定の圧力値が発生すると、固定腕と可動腕との連結が解除されるように、ラチェット装置を作動させることで、電線が倒木などによる負荷で切断されることから保護できることを見出し、これに基づいて、以下のような新たな電線保護装置及び電線監視システムを発明するに至った。
【0011】
(1)本発明による電線保護装置は、電柱に固定した腕金に下設した碍子を介して支持した電線に作用する倒木程度の負荷から当該電線が切断されることを保護する電線保護装置であって、前記電線をその外周方向から受容する固定腕を突出した歯車箱と、前記歯車箱と回転自在に連結した軸部から遠心方向に延び、前記固定腕に対して開閉自在な可動腕と、前記固定腕に対して前記可動腕を閉じる方向に回転できるラチェット装置と、前記可動腕に設けた圧力センサに所定の圧力値が発生すると、前記固定腕と前記可動腕との連結が解除されるように、回転手段を駆動して前記ラチェット装置を作動させる制御部と、を備える。
【0012】
(2)前記回転手段は、その出力軸の回動角度が規制されたロータリーソレノイドからなり、前記ラチェット装置は、前記歯車箱の内部に配置され、前記軸部を軸方向に延在したラチェット歯車と、回動軸を前記歯車箱の内壁面に固定し、一方の端部に設けた爪部を前記ラチェット歯車のラチェット歯に向かって傾倒すると、前記爪部が当該ラチェット歯に噛み合うラチェット爪と、前記ラチェット爪の他端部側に係合し、前記爪部が前記ラチェット歯から離れる方向に力を付勢する板ばねと、前記歯車箱の内部に回動自在に保持され、一方の方向に回動すると前記ラチェット爪の爪部を前記ラチェット歯に向かって傾倒させ、他方の方向に回動すると前記ラチェット爪の爪部から離れる方向に移動するカムを端部に有するガイドリングと、前記ガイドリングと連結し、前記ロータリーソレノイドの出力軸と回り止め可能な連結穴を開口したボスを中心部から突出したリングプレートと、を有することが好ましい。
【0013】
(3)前記歯車箱は、その側面部に形成された制御箱を更に備え、前記制御箱は、前記回転手段を少なくとも制御する制御回路と、少なくとも前記回転手段を通電するための一つ以上の電池を内部に有することが好ましい。
【0014】
(4)前記碍子に支持されると共に、前記歯車箱を着脱自在に支持する支持金具を更に備え、前記支持金具は、前記碍子の碍子部の外周を挟持する一対の半円弧状のバンド部材と、二股に分岐した支持アームが前記バンド部材のボルト受け片にボルト部材で止め締めされ、基端部が支持プレートの中央部に結合した支持部材と、を有し、前記支持プレートは、前記歯車箱の上面に設けた複数の雌ねじ部に締結するボルト部材が挿入自在なボルト穴を有することが好ましい。
【0015】
(5)前記電柱に支持され、少なくとも前記回転手段を駆動するための電力を出力し、前記制御部に接続自在な太陽電池パネルを更に備えることが好ましい。
【0016】
(6)本発明による電線監視システムは、前記制御回路は、前記圧力センサから発生した圧力値データ、及び当該電線保護装置の所在地データを無線で送信する送信回路を備え、前記送信回路から送信された前記圧力値データ及び前記所在地データを受信する受信部を有する電線監視装置を備え、前記電線監視装置は、前記圧力値データ及び前記所在地データを表示する表示部を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明による電線保護装置は、倒木程度の負荷が電線に作用すると、この圧力値を可動腕に設けた圧力センサが検出し、所定の圧力値以上になると、回転手段を駆動してラチェット装置を作動させるので、固定腕と可動腕との連結が解除される。そして、電線が切断する前に碍子から電線を解放できる。本発明による電線保護装置は、固定腕と可動腕とで電線を再び把持でき、復旧工事が容易である。
【0018】
本発明による電線監視システムは、電線保護装置に設けた送信回路から送信された圧力値データ及び所在地データを受信する受信部を有する電線監視装置を備え、電線監視装置は、圧力値データ及び所在地データを表示する表示部を有するので、複数の電線の負荷状況を集中監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態による電線保護装置の構成を示す正面図であり、電線保護装置を電柱に装柱した状態図である。
図2】前記実施形態による電線保護装置の構成を示す正面図である。
図3】前記実施形態による電線保護装置の構成を示す平面図である。
図4】前記実施形態による電線保護装置の構成を示す背面図である。
図5】前記実施形態による電線保護装置の構成を示す右側面図であり、一部を断面図で示している。
図6】前記実施形態による電線保護装置の構成を示す斜視分解組立図である。
図7】前記実施形態による電線保護装置の構成を示す斜視分解組立図であり、図6と異なる方向から電線保護装置を観ている。
図8】前記実施形態による電線保護装置に備わるラチェット装置の構成を示す要部拡大縦断面図であり、通常の状態図である。
図9】前記実施形態による電線保護装置に備わるラチェット装置の構成を示す要部拡大縦断面図であり、図8の状態変化図である。
図10】前記実施形態による電線保護装置の電気回路の構成を示す機能ブロック図である。
図11】前記実施形態による電線保護装置を用いた電線監視システムの構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
[電線保護装置の構成]
最初に、本発明の一実施形態による電線保護装置の構成を説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態による電線保護装置の構成を示す正面図であり、電線保護装置を電柱に装柱した状態図である。図2は、前記実施形態による電線保護装置の構成を示す正面図である。図3は、前記実施形態による電線保護装置の構成を示す平面図である。
【0022】
図4は、前記実施形態による電線保護装置の構成を示す背面図である。図5は、前記実施形態による電線保護装置の構成を示す右側面図であり、一部を断面図で示している。
【0023】
図6は、前記実施形態による電線保護装置の構成を示す斜視分解組立図である。図7は、前記実施形態による電線保護装置の構成を示す斜視分解組立図であり、図6と異なる方向から電線保護装置を観ている。
【0024】
図8は、前記実施形態による電線保護装置に備わるラチェット装置の構成を示す要部拡大縦断面図であり、通常の状態図である。図9は、前記実施形態による電線保護装置に備わるラチェット装置の構成を示す要部拡大縦断面図であり、図8の状態変化図である。
【0025】
(全体構成)
図1を参照すると、本発明の一実施形態による電線保護装置(以下、保護装置と略称する)10は、電柱Pに固定した腕金Aに下設した碍子Siに支持金具3を介して、支持されている。電柱Pの周辺に起立した木Trが倒れ、電線Wに所定の負荷が作用した場合に、保護装置10は、電線Wを挟持している固定腕11と可動腕12との連結を解除して、電線Wが切断される前に電線Wを落下させることで、電線Wを保護できる。
【0026】
図1から図7を参照すると、保護装置10は、円筒状の歯車箱1と可動腕12を備えている。歯車箱1は、固定腕11を遠心方向に突出している。固定腕11は、半円弧状の切り欠き11kを先端部に形成している(図2又は図7及び図8参照)。切り欠き11kには、電線Wをその外周方向から受容できる。
【0027】
図1から図7を参照すると、歯車箱1は、軸部1tsを一方の面から突出している(図4又は図5及び図6参照)。軸部1tsは、歯車箱1と回転自在に連結している。可動腕12は、その基端部が軸部1tsと回り止め可能に連結している。そして、可動腕12は、軸部1tsから遠心方向に延びるように、配置されている(図4参照)。可動腕12は、又、可動腕12は、半円弧状の切り欠き12kを先端部に形成している(図2又は図7及び図8参照)。
【0028】
図4又は図6を参照して、軸部1tsを一方の方向に回動すると、固定腕11と可動腕12で電線Wを挟持できる(図2参照)。一方、後述するラチェット装置13のメカニズムにより、固定腕11と可動腕12との連結を解除すると、軸部1tsは、一方の方向又は他方の方向に回動自在となる。そして、固定腕11に対して、可動腕12を開くことができる(図2参照)。なお、図2では、可動腕12が閉じた状態と、可動腕12が開いた状態を共に実線で示している。
【0029】
図7を参照すると、歯車箱1は、ラチェット装置13を内部に備えている。ラチェット装置13は、ラチェット歯車1tとラチェット爪1pを含んでいる。図8を参照して、ラチェット歯車1tにラチェット爪1pが係合した状態では、固定腕11に対して可動腕を閉じる方向にのみ回転できる(図2又は図4参照)。
【0030】
図6又は図7を参照すると、可動腕12は、その先端部の円弧面に圧力センサ12sを取り付けている。圧力センサ12sは、電線Wから受ける圧力値を電気信号に変換できる。圧力センサ12sは、制御部14に接続している。
【0031】
図1から図7を参照すると、保護装置10は、回転手段となるロータリーソレノイド2を備えている。ロータリーソレノイド2は、軸部1tsと反対側から歯車箱1に取り付けている。ロータリーソレノイド2は、一方の面から出力軸2sを突出している(図6又は図7参照)。出力軸2sは、ラチェット装置13に連結している。ロータリーソレノイド2を駆動すると、ラチェット歯車1tとラチェット爪1pの係合状態を解除できる(図9参照)。
【0032】
図1から図7を参照すると、倒木により圧力センサ12sに所定の圧力値が発生すると、制御部14は、固定腕11と可動腕12との連結が解除されるように、ロータリーソレノイド2を駆動して、ラチェット装置13を作動させる。そして、保護装置10は、電線Wが切断される前に電線Wを落下させることで、電線Wを保護できる。
【0033】
(歯車箱の構成)
次に、歯車箱の構成を説明する。図1から図7を参照すると、歯車箱1は、その側面部に制御箱14fを形成している。制御箱14fは、制御部14を内部に備えている。又、歯車箱1は、台座部15を上部に形成している。台座部15には、後述する支持金具3を固定できる。更に、歯車箱1は、取付金具21を介して、ロータリーソレノイド2を固定するための三つのねじ座16を外周方向に突出している(図6又は図7参照)。歯車箱1は、固定腕11、制御箱14f、台座部15、及びねじ座16を一体成形している(図6又は図7参照)。
【0034】
(回転手段の構成)
次に、回転手段となるロータリーソレノイドの構成を説明する。図2から図7を参照すると、ロータリーソレノイド2は、円筒状のステータ(固定子)とロータ(回転子)で構成している。ステータは、絶縁性を有する円筒状のハウジングで覆われると共に、ロータリーソレノイド2の外殻を構成している。ロータは、ステータの内部に回転自在に保持されている。ロータは、ステータの片側に出力軸2sを延在している(図6参照)。
【0035】
図2から図7に示したロータリーソレノイド2は、ロータに永久磁石を用い、ロータに設けた永久磁石とヨーク(鉄心)に発生した磁極との反発と吸引によって、回転運動するものを使用した。又、ロータリーソレノイド2は、通電することで出力軸2sを一方の方向に所定角度回動し、非通電に切り換えることで、原点に復帰し永久磁石の磁力で出力軸2sを保持する磁気復帰タイプを使用した。このように構成したロータリーソレノイドは、例えば、特開2008−300404号公報に開示されている。
【0036】
一般に、ロータリーソレノイドは、本体の内部に配置したコイルを通電することで、吸引される鉄芯の直線運動を立体カム機構により出力軸の回転運動に変換している。この場合、出力軸は、直線運動と回転運動が合成されるので、出力軸が直接回転運動する市販のロータリーソレノイド2を選択した。
【0037】
図6を参照すると、出力軸2sは、その外周の一部が平坦に形成されている。又、出力軸2sは、その基端部にストッパー部材22を固定している。ストッパー部材22は、その基端部が出力軸2sに回り止めされている。ストッパー部材22は、出力軸2sと一体に回動できる。又、ストッパー部材22は、ストップ片22aを中心部から延在している。
【0038】
一方、図6を参照すると、ロータリーソレノイド2は、その端面に円板状の回転規制部材23を固定している。回転規制部材23は、中心部からV字状に開角した切り欠き23dを形成している。ロータリーソレノイド2を通電すると、ストップ片22aが切り欠き23dの一方の停止壁に当接することで、出力軸2sの一方の方向への回動が規制される。ロータリーソレノイド2を非通電状態にすると、出力軸2sが初期の状態に復帰すると共に、ストップ片22aが切り欠き23dの他方の停止壁に当接することで、出力軸2sの他方の方向への回動が規制される。
【0039】
図6又は図7を参照すると、保護装置10は、円盤状の取付金具21を備えている。取付金具21は、円形の穴21hを中心部に開口している。穴21hには、出力軸2sを嵌合できる。又、取付金具21は、一対のねじ穴211・211を開口している。一方、図6を参照すると、回転規制部材23は、一対の雌ねじ部23s・23sを形成している。ねじ部材21sをねじ穴211に挿通して、雌ねじ部23sに締結することで、取付金具21をロータリーソレノイド2に固定できる。
【0040】
図6又は図7を参照すると、取付金具21は、歯車箱1に設けた三つのねじ座16に対応する三つの取付座21bを外周方向に突出している。取付座21bに開口したねじ穴にねじ部材21cを挿通して、ねじ座16に締結することで、取付金具21を介してロータリーソレノイド2を歯車箱1に固定できる。又、取付座21bをねじ座16に固定することで、正面側に開口したラチュット収容室1hを密閉できる。なお、取付金具21の開口側とラチュット収容室1hの開口側は、互いに段差を設けて嵌合するように、構成している。
【0041】
(支持金具の構成)
次に、支持金具の構成を説明する。図2又は図5及び図6を参照すると、保護装置10は、支持金具3を更に備えている。支持金具3は、碍子Siに支持されると共に、歯車箱1を着脱自在に支持できる。支持金具3は、一対の半円弧状のバンド部材31・31と支持部材32を備えている。一対のバンド部材31・31は、ボルト部材31bとナット31nを用いて、碍子Siの碍子部の外周を挟持している。一対のバンド部材31・31は、帯状のゴム板を介して碍子Siの碍子部の外周を挟持することが好ましい。
【0042】
図2又は図5及び図6を参照すると、支持部材32は、板状の支持アーム32aと支持プレート32pで構成している。支持アーム32aは、二股に分岐している。支持アーム32aは、それらの先端部がバンド部材31のボルト受け片31tにボルト部材31bで止め締めされている。又、支持アーム32aは、その基端部が支持プレート32pの中央部に溶接で結合している(図6参照)。
【0043】
図6を参照すると、支持プレート32pは、一組のボルト穴32h・32hを開口している。一方、台座部15は、一組の雌ねじ部15s・15sを上面に形成している。ボルト穴32hにボルト部材32bを挿入し、ボルト部材32bを雌ねじ部15sに締結することで、支持部材32を台座部15に固定できる。このように、支持金具3は、歯車箱1を着脱自在に支持できる。
【0044】
(ラチェット装置の構成)
次に、ラチェット装置の構成を説明する。図8は、前記実施形態による電線保護装置に備わるラチェット装置の構成を示す要部拡大縦断面図であり、通常の状態図である。図9は、前記実施形態による電線保護装置に備わるラチェット装置の構成を示す要部拡大縦断面図であり、図8の状態変化図である。
【0045】
図7から図9を参照すると、ラチェット装置13は、ラチェット歯車1t、ラチェット爪1p、及び板ばね1sを備えている。ラチェット歯車1tは、ラチュット収容室1hの内部に回転自在に配置されている(図7参照)。ラチェット歯車1tは、軸部1tsを一端部側に延在している。軸部1tsは、その基端部が歯車箱1に回転自在に支持されている。又、軸部1tsは、その先端部側に可動腕12を固定している(図3又は図6参照)。ラチェット歯車1tは、円柱状の軸部1ttを他端部側に延在している。軸部1ttは、後述するリングプレート1rの中心部に設けたボス1rbの背面側に回転自在に支持されている。
【0046】
図7から図9を参照すると、ラチェット爪1pは、その回動軸をラチュット収容室1hの内壁面(底面)に固定している。図8に示すように、ラチェット爪1pの一方の端部に設けた爪部をラチェット歯車1tのラチェット歯に向かって傾倒すると、前記爪部をラチェット歯に噛み合わせることかできる。
【0047】
図7から図9を参照すると、板ばね1sは、その固定端部をラチュット収容室1hの内壁面(底面)に固定している。板ばね1sは、その自由端部をラチェット爪1pの他端部側に係合させている。そして、板ばね1sは、ラチェット爪1pの爪部がラチェット歯から離れる方向に力を付勢している(図9参照)。
【0048】
又、図7から図9を参照すると、ラチェット装置13は、ガイドリング1gとリングプレート1rを備えている。ガイドリング1gは、ラチュット収容室1hの内部に回動自在に保持されている。又、ガイドリング1gは、その回動角度が所定の範囲になるように規制されている。ガイドリング1gは、カム1cを端部に備えている。
【0049】
図8を参照して、歯車箱1に対してガイドリング1gを時計方向Rに回動して停止した状態では、カム1cは、ラチェット爪1pの爪部をラチェット歯に向かって傾倒させている。一方、歯車箱1に対してガイドリング1gを反時計方向Lに所定角度回動して停止した状態では、カム1cは、ラチェット爪1pの爪部から離れる方向に移動できる(図9参照)。そして、ラチェット爪1pとラチェット歯車1tの係合を解除できる。なお、図9に示した状態では、ガイドリング1gの他方の端部は、ラチェット爪1pの爪部を起立するように係合している。
【0050】
図7を参照すると、ガイドリング1gは、リングプレート1rに向かって突出した複数の円弧状の爪片を有している。一方、リングプレート1rは、ガイドリング1gの爪片に嵌合する円弧状の係止穴を開口している。ガイドリング1gの爪片をリングプレート1rの係止穴に係合することで、リングプレート1rからガイドリング1gに回転運動を伝動できる。
【0051】
図7を参照すると、ガイドリング1gは、円柱状のボス1rbを中心部から突出している。ボス1rbには、ロータリーソレノイド2の出力軸2sと回り止め可能な連結穴1rhを開口している(図6参照)。
【0052】
図6又は図7を参照して、ロータリーソレノイド2の出力軸2sをボス1rbに連結することで、リングプレート1rを介して出力軸2sの回転運動をガイドリング1gに伝動できる。
【0053】
図7を参照すると、ラチェット装置13は、内径止め輪1fを更に備えている。内径止め輪1fをラチュット収容室1hの内壁に形成された円環状の溝に嵌め込むことで、リングプレート1r、ガイドリング1g、及びラチェット歯車1tのスラスト方向(軸方向)の移動が規制されている。
【0054】
図8を参照して、ロータリーソレノイド2が通電されていない通常の状態では(図6参照)、ラチェット爪1pがラチェット歯車1tに係合しているので、歯車箱1に対してラチェット歯車1tは、反時計方向Lに回動することのみが許容される。つまり、固定腕11に対して可動腕12を閉じる方向にのみ回転できる(図2又は図4参照)。そして、電線Wを所定の圧力で挟持できる。
【0055】
図1を参照して、木Trが倒れ、電線Wに所定の負荷が作用した場合に、可動腕12に設けた圧力センサ12sに所定の圧力値が発生する(図6又は図7参照)。そして、圧力センサ12sから所定の圧力値の電気信号が送信されると、制御部14は、ロータリーソレノイド2を通電する(図6又は図7参照)。ロータリーソレノイド2が通電されると、出力軸2sが一方の方向へ回動する(図6参照)。
【0056】
図9を参照して、出力軸2sが一方の方向へ回動すると、歯車箱1に対してガイドリング1gを反時計方向Lに所定角度α回動できる。そして、カム1cは、ラチェット爪1pの爪部から離れる方向に移動することで、ラチェット爪1pとラチェット歯車1tの係合を解除できる。つまり、ラチェット歯車1tは、時計方向R又は反時計方向Lに回動自在となり、可動腕12から電線Wを解放できる。
【0057】
(制御部及び電気回路の構成)
次に、制御部及び電気回路の構成を説明する。図10は、前記実施形態による電線保護装置の電気回路の構成を示す機能ブロック図である。
【0058】
図1から図7を参照すると、歯車箱1は、その側面部に制御箱14fを形成している。制御箱14fは、プリント基板14pと二つの電池14b・14bを内部に配置している(図2又は図3参照)。又、制御箱14fは、後述する太陽電池パネル4と電気的に接続するためのジャック14jを外壁に設けている(図2又は図7参照)。
【0059】
図2から図7及び図10を参照すると、プリント基板14pには、複数の電気部品及び電子部品が実装され、少なくともロータリーソレノイド2を制御するための制御回路14kを構成している。電池14bは、制御回路14kを駆動させる電力を供給している。又、電池14bは、ロータリーソレノイド2を通電するための電力を供給している。
【0060】
図10を参照して、保護装置10は、二つの電池14b・14bで動作するように構成している。しかし、図1に示すように、太陽電池パネル4を電柱Pに設置して、太陽電池パネル4から供給される電力で保護装置10が動作するように構成してもよい。この場合、太陽電池パネル4から延出される電源ケーブル(図示せず)の端末にプラグを設けて、このプラグをジャック14jに接続自在に構成することが好ましい。
【0061】
(制御回路の構成)
次に、制御回路の構成を説明する。図10を参照すると、制御回路14kは、予め設定されたプログラムにしたがって制御動作を行うCPU(図示せず)と、圧力値データなどを格納した記憶手段であるROM及びRAM(いずれも図示せず)を含んでいる。
【0062】
図10を参照すると、制御回路14kは、検出回路141、比較回路142、及び判定回路143を含んでいる。検出回路141は、圧力センサ12sに接続している。更に、制御回路14kは、駆動回路144と送信回路145を含んでいる。駆動回路144は、指令を受けてロータリーソレノイド2を駆動できる。送信回路145は、圧力値データなどを無線で送信できる。
【0063】
図10を参照して、検出回路141には、圧力センサ12sから圧力値が送信されている。検出回路141は、この圧力値にローパスフィルタを介してノイズを除去した後、アナログ信号である圧力値をデジタル信号に変換して、比較回路142に送信する。
【0064】
図10を参照して、比較回路142は、検出回路141から送信された圧力値データを予め格納してある基準圧力値データと比較して、圧力値データと基準圧力値データとの差信号を判定回路143に送信する。基準圧力値データとしては、例えば、倒木で電線Wが切断される程度の圧力値データが設定される。
【0065】
図10を参照して、判定回路143は、比較回路142から送信された差信号が「0」又は「+」の場合は、駆動回路144が動作する信号を送信する。例えば、判定回路143は、駆動回路144が動作するように、駆動回路144の内部のスイッチ回路をオフからオンに切り換える信号を出力する。判定回路143は、比較回路142から送信された差信号が「−」の場合は、駆動回路144が動作する信号を送信しない。
【0066】
図10を参照して、判定回路143から動作信号が送信されると、駆動回路144は、ロータリーソレノイド2に所定の電圧を印加して、ロータリーソレノイド2を所定時間、通電する。これにより、前述したラチェット装置13のメカニズムにより(図7参照)、電線Wが切断される前に電線Wを落下させることができる。
【0067】
図10を参照して、送信回路145には、検出回路141から圧力値データが送信されると共に、判定回路143から差信号が送信されている。送信回路145は、これらの圧力値データなどを後述する電線監視装置50(図11参照)に向けて無線で送信できる。送信回路145は、送信要求があった場合のみ、圧力値データなどを送信するよう構成してもよい。
【0068】
[電線保護装置の作用]
次に、実施形態による保護装置10の作用及び効果を説明する。図1から図7を参照すると、保護装置10は、支持金具3を介して、碍子Siに支持されている。保護装置10は、電線Wを受容する固定腕11を突出した歯車箱1と、固定腕11に対して開閉自在な可動腕12を備えている。歯車箱1は、固定腕11に対して可動腕12を閉じる方向に回転できるラチェット装置13を内部に備えている。又、可動腕12には、圧力センサ12sを取り付けている。
【0069】
図1から図7を参照すると、保護装置10は、倒木程度の負荷が電線Wに作用すると、この圧力値を可動腕12に設けた圧力センサ12sが検出し、所定の圧力値以上になると、制御部14がロータリーソレノイド2を駆動してラチェット装置13を作動させる。
【0070】
実施形態による保護装置10は、電線Wが切断する前に、固定腕11と可動腕12との連結が解除されるので、電線Wが切断されることから保護できる。実施形態による保護装置10は、従来技術と異なり、固定腕11と可動腕12とで電線Wを再び把持でき、復旧工事が容易であるという効果がある。
【0071】
本発明による電線保護装置は、以下の効果が期待できる。
(1)倒木などに起因する電線の断線を防止できる。
(2)電線の復旧作業が効率化されると共に迅速化される。
【0072】
[電線監視システムの構成]
次に、本発明の一実施形態による電線監視システムの構成を説明する。図11は、前記実施形態による電線保護装置を用いた電線監視システムの構成を示す機能ブロック図である。
【0073】
図11を参照すると、本発明の一実施形態による電線監視システム(以下、監視システムと略称する)100は、保護装置10を含み、電線監視装置50を含むことができる。図10を参照して、送信回路145は、圧力センサ12sから発生した圧力値データを無線で送信でき、保護装置10の所在地データを無線で送信できる。
【0074】
図11を参照すると、電線監視装置50は、制御部である本体51、受信部となるアンテナ52、及び表示部53を備えている。表示部53は、実体としてディスプレイである。アンテナ52は、送信回路145から送信された圧力値データ及び所在地データを受信できる。表示部53は、圧力値データ及び所在地データを表示できる。
【0075】
[電線監視システムの作用]
次に、実施形態による監視システム100の作用及び効果を説明する。図11を参照して、電線監視装置50は、圧力値データを受信して、倒木で電線Wが切断される程度の基準圧力値データと近似していると判断した場合には、「一定の重量負荷あり」の警告を表示部53に表示できる。これにより、電線Wに木Trが接触していることを推測できる。表示部53には、警告表示と共に所在地データを表示することが好ましく、事故発生前に処置することも可能である。
【0076】
又、図11を参照して、電線監視装置50は、判定回路143を介して、駆動回路144が動作する信号を受信することもでき、この場合、「事故発生」の結果表示と共に、所在地データを表示することが好ましく、事故現場に急行することも可能になる。
【0077】
このように、実施形態による監視システム100は、複数の電線を集中監視できる。本発明による電線監視システムは、倒木事故につながる状況を集中監視できると共に、復旧工事を含む保守作業が効率化されることが期待できる。
【符号の説明】
【0078】
1 歯車箱
1ts 軸部
2 ロータリーソレノイド(回転手段)
10 保護装置(電線保護装置)
11 固定腕
12 可動腕
12s 圧力センサ
13 ラチェット装置
A 腕金
P 電柱
Si 碍子
W 電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11