特許第5922456号(P5922456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5922456-金属タリウムの製造方法 図000006
  • 特許5922456-金属タリウムの製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922456
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】金属タリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 61/00 20060101AFI20160510BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20160510BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20160510BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C22B61/00
   C22B7/02 B
   C22B5/10
   B09B3/00 304G
   B09B3/00ZAB
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-68757(P2012-68757)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-199683(P2013-199683A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮史
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−251772(JP,A)
【文献】 特開昭60−122722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 61/00
B09B 3/00
C22B 5/10
C22B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タリウム含有溶液に還元剤を加えてタリウム沈殿物とし、前記タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融し、
前記タリウム沈殿物が臭化タリウム及び塩化タリウムのいずれかであり、
前記アルカリ塩がNaOH及びKOHのいずれかであり、
前記還元源がコークスであることを特徴とする金属タリウムの製造方法。
【請求項2】
タリウム含有溶液が、鉛電気炉煙灰に水、硫酸及び酸化剤の少なくともいずれかを加えて浸出した液である請求項1に記載の金属タリウムの製造方法。
【請求項3】
タリウム及び臭素を含む鉛電気炉煙灰に、水及び硫酸の少なくともいずれかを加えてスラリーとし、該スラリーを硫酸浸出液と硫酸残渣とに固液分離する硫酸浸出工程と、
前記硫酸残渣に水、硫酸及び酸化剤の少なくともいずれかを加えてスラリーとし、該スラリーを酸化浸出液と残渣とに固液分離する酸化浸出工程と、
を含む請求項1から2のいずれかに記載の金属タリウムの製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化タリウムにアルカリ塩及び還元源を加えて溶融することを特徴とする金属タリウムの製造方法。
【請求項5】
ハロゲン化タリウムが、臭化タリウム及び塩化タリウムのいずれかであり、
還元源がコークスである請求項4に記載の金属タリウムの製造方法。
【請求項6】
溶融が700℃以上の温度で行われる請求項1から5のいずれかに記載の金属タリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タリウム含有溶液から高純度の金属タリウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タリウムは、鉛製造原料に微量に含まれていることが多い。そのため、鉛の製錬工程においては、タリウムは不純物であり、除去が望まれている。また、タリウムの除去が進まないと鉛製錬の工程内で循環して濃縮され、製品鉛中のタリウム品位が徐々に上昇することになる。このため、鉛製錬工程から金属タリウムの回収及び分離が望まれている。一方、タリウム(Tl)は有価金属であり、産業上さまざまな分野で使用されており、産業上の利用の点から、金属タリウムの回収、及び金属タリウムの製造方法の提供が望まれている。
【0003】
このため、例えば、鉛電気炉煙灰からタリウムを分離し、金属タリウムとして回収する方法がある(特許文献1参照)。この金属タリウムの回収方法について図1に示す。まず、鉛電気炉煙灰に水を加えて撹拌し、硫酸及び酸化剤を添加することで、タリウムは水に溶け、鉛は硫酸鉛として沈殿するので、ろ過によって分離することができる。次に、ろ液に塩化源及び還元剤を加えるとタリウムは塩化タリウム(TlCl)として沈殿する。これを洗浄してカドミニウムを除去後、200℃の濃硫酸に溶かすと、Cl(塩素)を除去できる。得られたタリウム溶液をpH調整・硫化剤添加により残ったカドミニウムや鉛を除去後、亜鉛板を用いてセメンテーション反応を行うと、ほぼタリウム金属のスポンジタリウムが得られる。これにNaOHフラックスを添加して溶融するとタリウム金属が得られる。
【0004】
しかし、前記提案の方法では、還元工程で塩化源を添加しており、Cl(塩素)を除去するため、200℃の濃硫酸を用いており、高温の酸に対応した装置、条件設定が必要であり、装置の長大化、設備費用の重装備化が必要である。また、セメンテーション反応は、反応速度が遅く、この方法では5時間反応させる必要があり、長時間を要する。
このため、鉛電気炉煙灰からのタリウムの分離が従来のように塩化源を添加することなく適用できることが望まれていた。
また、鉛電気炉煙灰には、臭素(Br)が含まれており、このような臭素を含む鉛電気炉煙灰の有効利用が望まれていた。
【0005】
したがって、従来のように高温の酸性溶液を使用することなく、簡易な方法で、更に短時間で高純度の金属タリウムを効率よく製造できる方法の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−25561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高温の酸性溶液を使用せずに、簡易な方法で、短時間で高純度の金属タリウムを効率よく製造する金属タリウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、従来のような湿式反応とは全く異なる乾式反応にも着目し本発明者が鋭意検討を重ねた結果、タリウム含有溶液に還元剤を加えてタリウム沈殿物とし、前記タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融することにより、従来のような高温の200℃の濃硫酸を用いる必要がなく、セメンテーション反応よりも短い時間で高純度の金属タリウムを効率よく製造できることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> タリウム含有溶液に還元剤を加えてタリウム沈殿物とし、前記タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融することを特徴とする金属タリウムの製造方法である。
<2> タリウム含有溶液が、鉛電気炉煙灰に水、硫酸及び酸化剤の少なくともいずれかを加えて浸出した液である前記<1>に記載の金属タリウムの製造方法である。
<3> タリウム沈殿物が臭化タリウム及び塩化タリウムのいずれかであり、
アルカリ塩がNaOH及びKOHのいずれかであり、
還元源がコークスである前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属タリウムの製造方法である。
<4> タリウム及び臭素を含む鉛電気炉煙灰に、水及び硫酸の少なくともいずれかを加えてスラリーとし、該スラリーを硫酸浸出液と硫酸残渣とに固液分離する硫酸浸出工程と、
前記硫酸残渣に水、硫酸及び酸化剤の少なくともいずれかを加えてスラリーとし、該スラリーを酸化浸出液と残渣とに固液分離する酸化浸出工程と、
を含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属タリウムの製造方法である。
<5> ハロゲン化タリウムにアルカリ塩及び還元源を加えて溶融することを特徴とする金属タリウムの製造方法である。
<6> ハロゲン化タリウムが、臭化タリウム及び塩化タリウムのいずれかであり、
還元源がコークスである前記<5>に記載の金属タリウムの製造方法である。
<7> 溶融が700℃以上の温度で行われる前記<1>から<6>のいずれかに記載の金属タリウムの製造方法である。
【0010】
本発明においては、タリウム含有溶液に還元剤を加えてタリウム沈殿物とし、前記タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融することにより、従来のような高温の濃硫酸を用いる必要がなく、セメンテーション反応よりも短い時間で効率よく高純度の金属タリウムを製造することができる。
また、硫酸浸出工程においてFe(2価)等を予め分離することで、酸化浸出工程における酸化剤の必要量を低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、高温の酸性溶液を使用せずに、簡易な方法で、短時間で高純度の金属タリウムを効率よく製造する金属タリウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、従来の金属タリウムの製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の金属タリウムの製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(金属タリウムの製造方法)
本発明の金属タリウムの製造方法は、タリウム含有溶液に還元剤を加えてタリウム沈殿物とし、前記タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融することを特徴とする。
【0014】
前記金属タリウムの製造方法は、酸化浸出工程と、還元工程と、還元溶融工程とを含み、硫酸浸出工程、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
本発明において、前記硫酸浸出工程は、必須の工程ではなく、必要に応じて含むことができるが、前記酸化浸出工程の前に、前記硫酸浸出工程を行うことで、工程数は増えるが、前記酸化浸出工程における酸化剤の使用量を低減することができ、前記硫酸浸出工程を行わない場合に比べて多量にタリウム沈殿物が得られる点で有利である。
【0015】
<硫酸浸出工程>
前記硫酸浸出工程は、鉛電気炉煙灰に、水及び硫酸の少なくともいずれかを加えてスラリーとし、該スラリーを硫酸浸出液と硫酸浸出残渣とに固液分離する工程である。
【0016】
<<鉛電気炉煙灰>>
前記鉛電気炉煙灰は、鉛製錬の電気炉において発生した煙灰であり、鉛製錬の他、銅製錬等の非鉄製錬における乾式工程にて発生する煙灰であってタリウムが含まれていれば適用可能である。なお、非鉄製錬以外からの原料としては、タリウムが他の元素と混合されているもの、タリウム含有物、排水でもよい。更には、タリウムと臭素が含まれている溶液、含有物であってもよい。
前記鉛電気炉煙灰には、タリウムの他、臭素、鉛、錫、鉄、カドミウム、亜鉛、銅、ヒ素、アンチモンが含まれている。
前記鉛電気炉煙灰に臭素が一定量以上含まれていると、後の還元工程においてタリウム含有溶液に臭素又は塩素を添加する必要はないか、あるいは添加量を少なくすることができる。
【0017】
前記硫酸浸出工程では、まず、前記鉛電気炉煙灰に水をスラリー濃度450g/L以下になるように加える。前記スラリー濃度は、高いほど処理効率が良好なので、スラリー濃度100g/L〜400g/Lが好ましい。
前記水としては、液媒体であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
硫酸を加えて室温(25℃)以上で1時間以上撹拌し、固液分離する。撹拌速度は、直径90mmの撹拌羽を用いた場合には、300rpm以上である。前記撹拌時間は1時間〜2時間が好ましい。前記撹拌羽の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、2段タービン羽などが挙げられる。
前記固液分離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、加圧ろ過が好ましい。
前記硫酸浸出工程により、タリウム以外の不純物元素、例えば、Fe(鉄)、Cd(カドミニウム)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)等がろ液として硫酸浸出液に分離される。一方、Pb(鉛)、Sn(錫)、Tl(タリウム)等が残渣として硫酸浸出残渣に残る。また、臭素の85質量%〜90質量%も硫酸浸出液に分離される。なお、前記硫酸浸出工程においては、硫酸の濃度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、硫酸を添加しなくてもよいが、pH0.5〜1.5の範囲であることが好ましい。
【0018】
<酸化浸出工程>
前記酸化浸出工程は、前記硫酸浸出残渣又は前記鉛電気炉煙灰に、水、硫酸及び酸化剤の少なくともいずれかを加えてスラリーとし、該スラリーを酸化浸出液と残渣とに固液分離する工程である。
前記酸化浸出工程により、タリウムは固液分離によってろ液である酸化浸出液に分離される。前記酸化浸出液中のタリウム以外の不純物元素としては、例えば、鉛、錫、ヒ素、臭素などが挙げられる。
【0019】
前記酸化浸出工程では、まず、前記硫酸浸出工程で得られた硫酸浸出残渣に水をスラリー濃度600g/L以下になるように加えて撹拌する。
前記スラリー濃度は、高いほど処理効率が良好なので、スラリー濃度200g/L〜600g/Lが好ましい。
前記水としては、液媒体であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記スラリーは、硫酸を添加することにより、pHを0.3以下に調整することが好ましく、pH0〜0.3に調整することがより好ましい。
前記硫酸の濃度は、上記pH範囲であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
前記酸化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過マンガン酸カリウム、過硫酸ソーダなどが挙げられる。
前記酸化剤の添加量は、タリウムに対して、1.5倍当量〜3倍当量が好ましく、2倍当量〜2.5倍当量がより好ましい。
前記酸化剤を添加して室温(25℃)以上で1時間以上撹拌し、固液分離する。前記撹拌時間としては1時間〜2時間が好ましい。撹拌速度は、直径90mmの撹拌羽を用いた場合には、300rpm以上が好ましい。前記撹拌羽の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、2段タービン羽などが挙げられる。
前記固液分離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、加圧ろ過が好ましい。
前記酸化浸出工程、又は前記硫酸浸出工程及び前記酸化浸出工程を行うことにより、鉛電気炉煙灰から酸化浸出液としてのタリウム含有溶液が得られる。
【0021】
<<タリウム含有溶液>>
前記タリウム含有溶液としては、タリウムを含有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、鉛電気炉煙灰に、水、硫酸、及び酸化剤の少なくともいずれかを加えて、浸出した液であることが好ましく、前記硫酸浸出工程及び前記酸化浸出工程を行って得られた酸化浸出液がより好ましい。
前記タリウム含有溶液中には、タリウム以外の不純物元素として、例えば、鉛、錫、ヒ素、臭素などを含んでいる。
【0022】
<還元工程>
前記還元工程は、前記タリウム含有溶液に還元剤を加えてタリウム沈殿物を得る工程である。
【0023】
前記タリウム含有溶液中に臭素が含まれていない場合には、前記タリウム含有溶液に臭素及び塩素のいずれかを添加する。前記タリウム含有溶液に臭素及び塩素のいずれかを添加すればよく、前記タリウム含有溶液中に臭素が1.5当量以上含まれている場合には、臭素及び塩素のいずれかを添加しなくてよい。
前記還元剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、亜硫酸ソーダ、亜硫酸ガスなどが挙げられる。前記還元剤は不純物になり得る元素を含まないものを用いることが好ましい。
前記還元剤の添加量は、タリウムに対して、0.4倍当量〜0.5倍当量が好ましく、0.3倍当量〜0.5倍当量がより好ましい。
撹拌羽の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、2段タービン羽などが挙げられる。
撹拌速度は、直径90mmの撹拌羽を用いた場合、200rpm以上が好ましい。
撹拌時間は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜2時間が好ましい。
この際、TlBr(臭化タリウム)が沈殿し、タリウム沈殿物(TlBr沈殿物)が発生するので、ろ過等の固液分離により回収する。
【0024】
<還元溶融工程>
前記還元溶融工程は、前記タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融する工程である。前記アルカリ塩及び前記還元源を加える順番はいずれかの順でもよいが、タリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源が同一容器内に設置されてから加熱し、溶融するのが好ましい。
【0025】
予め、前記タリウム沈殿物を炉で加温して溶融させるために乾燥することが好ましい。
前記乾燥は、炉を用いて、150℃以下の温度で水分を減量させるために行われる。
前記アルカリ塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)などが挙げられる。
前記アルカリ塩の添加量としては、前記タリウム沈殿物に対して、0.3g/g以下が好ましく、0.2g/g〜0.3g/gがより好ましい。
前記還元源としては、炭素等を含み高温でも使用可能な還元剤であれば特に制限はなく、高温であるため固体の還元源を用いることが好ましく、例えば、コークス、木炭、樹脂などが挙げられる。これらの中でも、コークスが特に好ましい。前記コークスは粉体であってもよい。
前記還元源の添加量としては、前記タリウム沈殿物に対して、0.02g/g以下が好ましく、0.01g/g以下がより好ましい。
溶融は、加温によって、アルカリ塩、タリウム殿物、及び還元源が主量の溶融されたアルカリ塩によるアルカリ浴中にて反応が進行し、金属タリウムが回収される。
溶融温度は、700℃以上が好ましく、700℃〜1,000℃がより好ましく、800℃〜850℃が更に好ましい。なお、前記溶融温度の上限は、反応において揮発分とのバランスにより決められる。
溶融時間は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30分間〜60分間が好ましい。
【0026】
前記タリウム沈殿物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、臭化タリウム(TlBr)及び塩化タリウム(TlCl)のいずれを用いても還元溶融は可能である。
これにより、臭素、塩素等のハロゲン元素によるハロゲン化タリウムを原料として溶融還元法により質量品位で99%以上の高純度の金属タリウムを製造できる。なお、フッ化タリウムについても条件を設定すれば使用できる。
【0027】
本発明の金属タリウムの製造方法においては、前記タリウム沈殿物の代わりにハロゲン化タリウムを用い、該ハロゲン化タリウムにアルカリ塩及び還元源を加えて、加温して溶融する態様とすることもできる。前記ハロゲン化タリウムとしては、例えば、臭化タリウム、塩化タリウムなどが挙げられる。
【0028】
ここで、図2は、本発明の金属タリウムの製造方法の一例を示すタリウム分離及び回収プロセスを示す工程図である。
まず、室温条件下で、鉛電気炉煙灰に水を加え、硫酸を加えて撹拌し、固液分離する(硫酸浸出工程)。前記硫酸浸出工程では、鉛電気炉煙灰に水をスラリー濃度450g/L以下になるように加える。次に、硫酸を加えて室温以上で1時間以上撹拌し、固液分離する。固液分離としては加圧ろ過が好ましい。
【0029】
次に、硫酸浸出残渣に酸化剤を添加して撹拌し、固液分離する(酸化浸出工程)。前記酸化浸出工程では、硫酸浸出残渣に水をスラリー濃度600g/L以下になるように加えて撹拌する。次に、硫酸を添加してpH0.3以下に調整する。酸化剤をタリウムに対して1.5〜3倍当量添加して室温以上で1時間以上撹拌し、固液分離する。固液分離としては加圧ろ過が好ましい。
【0030】
次に、室温条件下で、酸化浸出液としてのタリウム含有溶液に還元剤を添加して撹拌し、沈殿したタリウム沈殿物を固液分離する(還元工程)。なお、前記タリウム含有溶液には、必要に応じて臭素又は塩素を添加することが好ましい。前記還元工程では、前記タリウム含有溶液に還元剤をタリウムに対して0.3倍当量〜0.5倍当量添加して室温以上で1時間以上撹拌し、固液分離する。固液分離としては加圧ろ過が好ましい。
【0031】
次に、乾燥したタリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融させる(還元溶融工程)。前記還元溶融工程では、乾燥した臭化タリウム(TlBr)に固体NaOHを0.3g/g−TlBr以下、及びコークス0.02g/g−TlBr以下を加え、800℃以上で30分間以上溶融すると、金属タリウムが得られる。好ましくは、NaOH(水酸化ナトリウム)は0.2g/g−TlBr〜0.3g/g−TlBr、コークスは0.01g/g−TlBr以下加え、800℃以上で30分間以上溶融すると、金属タリウムが得られる。
以上により、99質量%以上の高純度の金属タリウムが得られる。
【0032】
本発明の金属タリウムの製造方法によれば、高温の酸性溶液を使用せずに、簡易な方法で、短時間で高純度の金属タリウムを効率よく製造することができる。本発明の金属タリウムの製造方法により製造された高純度の金属タリウムは、例えば、光ファイバー、複写器レンズ、高屈折光学ガラス等の光学分野、特殊ヒューズ、低凝固点温度計、脱酸剤などに幅広く用いられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
−鉛電気炉煙灰−
実施例で用いた非鉄製錬所にて発生した鉛電気炉煙灰の組成について、下記の表1に示す。なお、Br及びCl以外はICP法、Br及びClはイオンクロマト法で測定した(以下同様に測定した)。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例1)
室温(25℃)条件下で、5Lビーカー内で、前記鉛電気炉煙灰1.6kgに水を加えて4Lにし、95質量%硫酸466gを加えて300rpmで2時間撹拌し、加圧ろ過した(硫酸浸出工程)。なお、撹拌にはバッフル4枚、直径90mmの2段タービン羽を用いた。
【0037】
室温(25℃)条件下で、5Lビーカー内で、硫酸浸出残渣1.38kgに水を加えて4Lにして撹拌し、95質量%硫酸354gを添加してpH0.3以下にした。酸化剤として過マンガン酸カリウム4.9gを添加して300rpmで2時間撹拌し、加圧ろ過した(酸化浸出工程)。なお、撹拌にはバッフル4枚、直径90mmの2段タービン羽を用いた。
【0038】
室温(25℃)条件下で、5Lビーカー内で、前記酸化浸出液3.57Lに還元剤として亜硫酸ソーダ5.5gを添加して200rpmで2時間撹拌した。なお、撹拌にはバッフル4枚、直径90mmの2段タービン羽を用いた。次に、沈殿したTlBr沈殿物を加圧ろ過して回収した(還元工程)。TlBr沈殿物は乾量で約15g得られた。
【0039】
次に、100℃で乾燥したTlBr沈殿物10gに固体NaOHを3g、コークス粉体0.1gを加えて2号黒鉛るつぼに入れ、耐火レンガで簡易に蓋をし、加温し、850℃で30分間溶融した(還元溶融工程)。
99.7質量%の高純度の金属タリウムが得られた。得られた金属タリウムの分析結果を表2に示す。分析値は、すべて質量基準であり、質量%、質量ppmである。
【0040】
【表2】
【0041】
(実施例2)
前記鉛電気炉煙灰について、硫酸浸出工程を行わず、そのまま酸化浸出工程を行った。
5Lビーカー内で、前記鉛電気炉煙灰1.6kgに水を加えて4Lにして撹拌し、95質量%硫酸205gを添加してpH0.3以下にした。次に、酸化剤として過マンガン酸カリウム30gを添加して300rpmで2時間撹拌し、加圧ろ過した(酸化浸出工程)。なお、撹拌にはバッフル4枚、直径90mmの2段タービン羽を用いた。実施例2では実施例1の6倍量以上の過マンガン酸カリウムを用いた。
【0042】
次に、室温(25℃)条件下で、5Lビーカー内で、酸化浸出液3.57Lに還元剤として亜硫酸ソーダ11.4gを添加して200rpmで2時間撹拌した。なお、撹拌にはバッフル4枚、直径90mmの2段タービン羽を用いた。次に、沈殿したTlBr沈殿物を加圧ろ過して回収した(還元工程)。TlBr沈殿物は乾量で約4g得られた。得られた実施例2のTlBr沈殿物量は、実施例1の3分の1以下であった。
得られた実施例1及び2のTlBr沈殿物の分析結果を表3に示す。なお、得られたタリウム沈殿物にアルカリ塩及び還元源を加えて溶融すれば、金属タリウムが回収できる。
【0043】
【表3】
【0044】
(実施例3)
塩化タリウム(TlCl)試薬(和光純薬工業株式会社)10gに固体NaOHを3g、コークス0.1gを加えて2号黒鉛るつぼに入れ、耐火レンガで簡易に蓋をし、加温し、850℃で30分間溶融させた(還元溶融工程)。
99.5質量%の高純度の金属タリウムが得られた。得られた金属タリウムの分析結果を表4に示す。なお、臭素は、塩化タリウム(TlCl)試薬中に不純分として含まれていたものである。
【0045】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の金属タリウムの製造方法は、従来のような高温の200℃の濃硫酸を用いる必要がなく、セメンテーション反応よりも短い時間で高純度の金属タリウムを効率よく製造できるので、光ファイバー、複写器レンズ、高屈折光学ガラス等の光学分野、特殊ヒューズ、低凝固点温度計、脱酸剤などの産業上さまざまな分野で使用される有価金属であるタリウム(Tl)の製造方法として好適である。
図1
図2