特許第5922495号(P5922495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922495
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】温度インジケータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/12 20060101AFI20160510BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   G01K11/12 A
   C09K9/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-120615(P2012-120615)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-246074(P2013-246074A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(72)【発明者】
【氏名】島崎 優子
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】中里 祥之
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−141577(JP,A)
【文献】 特開2001−066196(JP,A)
【文献】 特開2011−153967(JP,A)
【文献】 特開2001−281002(JP,A)
【文献】 特開2008−239810(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066698(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/00−19/00
C09K 9/02
3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面に設けられた温度感知層と、を有する温度インジケータにおいて、
前記温度感知層は、電子供与性呈色化合物と、潮解性金属塩と、水系アクリルエマルジョン由来のバインダー樹脂と、を含み、
前記温度感知層における、前記バインダー樹脂の含有量に対する前記電子供与性呈色化合物の含有量が15〜60質量%であり、前記潮解性金属塩の含有量に対する前記電子供与性呈色化合物の含有量が60〜250質量%であり、
前記温度感知層が、常温では消色していることを特徴とする温度インジケータ。
【請求項2】
80℃以上の環境に2〜5時間置かれることによって、前記温度感知層が不可逆的に呈色することを特徴とする請求項1に記載の温度インジケータ。
【請求項3】
基材の少なくとも片面に温度感知層用塗料を塗布し、乾燥させて温度感知層を形成する温度インジケータの製造方法において、
前記温度感知層用塗料は、少なくとも水系アクリルエマルジョン水溶液、電子供与性呈色化合物、潮解性金属塩、及び、イソプロピルアルコールを含み、
前記温度感知層用塗料における、前記水系アクリルエマルジョンの固形分の含有量に対するイソプロピルアルコールの含有量が10〜200質量%であることを特徴とする温度インジケータの製造方法。
【請求項4】
前記水系アクリルエマルジョン水溶液のpHが、前記電子供与性呈色化合物が呈色するpHよりも高いことを特徴とする請求項3に記載の温度インジケータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で無色状態から高温環境によって不可逆的に呈色し、熱履歴を目視で判断することができる温度インジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
温度環境の変化を目視で確認するための温度インジケータとしては、例えば、特許文献1に、電子供与性呈色化合物と、顕色剤としての酸性化合物と、消色剤としてのポリマーとからなる熱応答消色性着色組成物が開示されている。係る熱応答性消色性着色組成物は、常温で呈色しており、所定の温度を超えると消色し、係る消色状態を温度が低下しても維持することから、熱履歴を目視で判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−176419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された熱応答消色性着色組成物は、不可逆的に消色するため、一時的な温度上昇でも、温度が低下した後に確認することができるため、温度管理が必要な用途において有用である。しかしながら、係る熱応答消色性着色組成物は常温で着色しているため、物品に貼付した場合には、係る物品の意匠を隠してしまうといったデザイン性の面で制限があった。
【0005】
本発明の課題は、常温では消色しており、高温環境によって不可逆的に呈色し、熱履歴を目視で判断することができる温度インジケータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の温度インジケータは、基材と、前記基材の少なくとも片面に設けられた温度感知層と、を有する温度インジケータにおいて、
前記温度感知層は、電子供与性呈色化合物と、潮解性金属塩と、水系アクリルエマルジョン由来のバインダー樹脂と、を含み、
前記温度感知層における、前記バインダー樹脂の含有量に対する前記電子供与性呈色化合物の含有量が15〜60質量%であり、前記潮解性金属塩の含有量に対する前記電子供与性呈色化合物の含有量が60〜250質量%であり、
前記温度感知層が、常温では消色していることを特徴とする。
【0007】
本発明の温度インジケータの製造方法は、基材の少なくとも片面に温度感知層用塗料を塗布し、乾燥させて温度感知層を形成する温度インジケータの製造方法において、
前記温度感知層用塗料は、少なくとも水系アクリルエマルジョン水溶液、電子供与性呈色化合物、潮解性金属塩、及び、イソプロピルアルコールを含み、
前記温度感知層用塗料における、前記水系アクリルエマルジョンの固形分の含有量に対するイソプロピルアルコールの含有量が10〜200質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の温度インジケータは、常温で消色しており、高温環境に一定時間以上置かれると不可逆的に呈色するため、熱履歴を目視で判断することができる。また、常温で消色していることから、常温におけるデザイン性の自由度が高く、物品の意匠を損なうことなく貼付することができる。例えば、温度インジケータの基材に透明フィルムを用いた場合には、温度インジケータを取り付ける物品の意匠を反映することになる。また、基材の温度感知層を設ける側に種々のデザインを施した後に、温度感知層を設けると、基材のデザインが反映できることになる。
【0009】
また、本発明の温度インジケータの製造方法においては、危険性が無く、取り扱いが容易な水性の塗料を用いて温度感知層を形成するため、基材を自由に選択することができ、量産にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の温度インジケータは、基材と、該基材の少なくとも片面に設けられた温度感知層とからなり、係る温度感知層は、電子供与性呈色化合物と、潮解性金属塩と、水系アクリルエマルジョン由来のバインダー樹脂とからなる。そして係る温度感知層は、少なくとも水系アクリルエマルジョン水溶液、電子供与性呈色化合物、潮解性金属塩、及び、イソプロピルアルコールを含む温度感知層用塗料を基材に塗布し、乾燥させてなる。
【0011】
以下に、各成分について説明する。
【0012】
本発明で用いられる基材としては、紙や樹脂フィルム、布、不織布など水性の温度感知層用塗料を付着させて加熱乾燥させることにより、該基材の表面や内部に該塗料の成分を含む塗膜を担持させ得るものであればいかなる素材も用いることができる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などの透明フィルム、或いはシートが好ましく用いられる。
【0013】
本発明で用いられる電子供与性呈色化合物は、高温で呈色する化合物であって、呈色するpH範囲が酸性のロイコ染料が用いられる。具体的には、山本化成株式会社製の「BLUE−63」(pH約4以下で呈色)、「RED−40」(pH約4以下で呈色)やクリスタルバイオレットラクトン(pH約2.6以下で呈色)が挙げられる。呈色pHがアルカリ性のロイコ染料、例えばフェノールフタレイン(pH約8以上で呈色)などは、高温時に呈色しないため、用いることができない。更に、pH1〜14で呈色している染料、例えばマラカイトグリーンなどは、常温で無色状態を示さないため、用いることができない。
【0014】
本発明で用いられる潮解性金属塩は、本発明の温度インジケータの温度感知層が高温環境において呈色する際の、呈色温度を調整する作用を有する。本発明の温度インジケータの温度感知層が呈色するメカニズムとしては、潮解性金属塩の有する金属イオンと電子供与性呈色化合物とが錯形成するためと考えられる。よって、潮解性金属塩の量が多いほど、呈色反応速度が速くなるため、より低温、より短時間の条件で温度感知層が呈色する。本発明で用いられる潮解性金属塩として具体的には、臭化リチウム、臭化マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
【0015】
本発明において、温度感知層中でバインダー成分となるバインダー樹脂は、水系アクリルエマルジョン由来であり、係る水系アクリルエマルジョンとしては、水溶液のpHが電子供与性呈色化合物の呈色するpHよりも高いものが用いられる。具体的には、大日本化学インキ工業株式会社製の「DICNAL E−8203WH」(pH=6〜7)、「DICNAL RS−308」(pH=7〜8)、「VONCOAT 40−418EF」(pH=7〜8)が挙げられる。水系アクリルエマルジョン水溶液のpHが電子供与性呈色化合物の呈色pHよりも低い場合には、温度感知層用塗料において電子供与性呈色化合物が呈色してしまい、常温で無色の温度感知層を形成できない。また、水系エマルジョンではない、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)といった水溶性高分子を樹脂バインダーとして用いた場合には、高温でも温度感知層が呈色せず、温度インジケータとしての機能を示さない。
【0016】
本発明において、電子供与性呈色化合物は、温度感知層中の含有量が、バインダー樹脂の含有量の15〜60質量%で、且つ、潮解性金属塩の含有量の60〜250質量%となるように用いられる。電子供与性呈色化合物のバインダー樹脂に対する含有量の割合が15質量%未満の場合には、本発明の温度感知層の呈色が弱く、また、60質量%を超えると、電子供与性呈色化合物が温度感知層用塗料中で良好に分散せず、未分散の電子供与性呈色化合物が粒状となって温度感知層の表面に現れるため、好ましくない。また、電子供与性呈色化合物の潮解性金属塩に対する含有量の割合が60質量%未満の場合、温度感知層が潮解しやすく、温度感知層表面にベトツキとムラが生じやすくなり、また、250質量%を超えると、温度感知層の呈色が弱く、好ましくない。
【0017】
本発明の温度インジケータは、上記した電子供与性呈色化合物と潮解性金属塩とを水系アクリルエマルジョン水溶液に添加し、イソプロピルアルコール(IPA)を加えて攪拌して温度感知層用塗料とし、係る塗料を基材に塗布し、乾燥させて温度感知層を形成して得られる。
【0018】
本発明において、IPAは、電子供与性呈色化合物と潮解性金属塩を塗料中に分散させる際の塗工性の向上を図るために用いられる。特に、攪拌による泡の発生を抑える消泡剤としての効果もある。IPAの添加量は、温度感知層用塗料における、水系アクリルエマルジョンの固形分の含有量に対するIPAの含有量が10〜200質量%となるように調整される。10質量%未満では、発泡による塗工ムラが生じやすく、200質量%を超えると、温度感知層の呈色が弱くなり好ましくない。
【0019】
本発明の温度インジケータは、常温で無色であり、例えば80℃で2〜5時間の高温環境に置かれることにより呈色する。係る呈色は不可逆反応であり、低温環境に戻っても持続される。本発明の温度インジケータの用途としては、80℃以上の高温環境に長時間保管されると劣化する物品に貼付しておくことで、係る物品の熱履歴を目視で判断することができる。また、80℃以上で2〜5時間の処理が必要な物品に貼付することで、係る処理が行われたかどうかの熱履歴を目視で判断することができる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
温度感知層において表1に示す組成になるように、ロイコ染料「BLUE−63」(山本化成株式会社製)と臭化リチウム(和光純薬工業株式会社製)とを「DICNAL E−8203WH」(大日本インキ化学工業株式会社製、固形分:40質量%)に添加し、IPAを加えた上で全体が均一になるように攪拌し、温度感知層用塗料を作製した。得られた塗料をPETフィルム(東洋紡株式会社製、厚さ50μm)にワイヤーバー♯12を用いて塗工し、80℃で1分間乾燥させて温度インジケータを作製した。尚、表中のIPA添加量は、塗料中の水系アクリルエマルジョンの固形分の含有量に対するIPA含有量である。
【0021】
得られた温度インジケータの塗工性を目視にて観察した後、80℃環境下に5時間保管後、色変化を測定し、初期値に対する色差ΔEを算出して呈色性を判定した。結果を表1に示す。尚、ΔEは、L*a*b*表色系において、下記の式より算出される。
ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)21/2
【0022】
塗工性、呈色の判定基準は以下の通りである。
〔塗工性〕
○:乾燥直後の温度感知層の表面が平滑でムラやベタツキがない。
×:乾燥直後の温度感知層の表面が平滑でない、或いは、ムラやベタツキがある。
〔呈色性〕
○:呈色している。ΔEが3.0以上
△:呈色が弱い。ΔEが1.5以上3.0未満
×:無色である。ΔEが1.5未満
【0023】
【表1】
【0024】
比較例1−1では80℃で5時間後でも呈色せず、実施例1−1乃至1−3は80℃で2時間後から呈色し始め、5時間後に良好な呈色性を示した。また、比較例1−4は80℃で5時間保管しても呈色せず、比較例1−5は80℃で5時間後に良好な呈色性を示すが、塗料の水分が多く、粘度が低くなり、塗工性がやや劣っていた。
【0025】
(実施例2)
温度感知層において表2に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、塗工性と呈色性を評価した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
比較例2−1では、ロイコ染料の含有量が少なすぎるため、呈色が弱かった。
【0028】
(実施例3)
温度感知層において表3に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、塗工性と呈色性を評価した。結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
イソプロピルアルコールの添加量によって、呈色する温度や保管時間の条件は変わらないが、比較例3−1では、塗料作製時に泡が発生し、基材への塗工時に泡によるムラが発生した。比較例3−2については、呈色が弱かった。
【0031】
(実施例4)
温度感知層において表4に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、塗工性と呈色性を評価した。結果を表4に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
比較例4−1ではロイコ染料の分散性が劣り、塗工時に未分散状態のロイコ染料が残って、塗工には適さなかった。また、比較例4−2は呈色が弱かった。
【0034】
(実施例5)
ロイコ染料の種類を変えて、温度感知層において表5に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、塗工性と呈色性を評価した。結果を表5に示す。
【0035】
【表5】
【0036】
比較例5−1は、塗工後に常温で呈色していたため、本発明の温度インジケータとしては適していなかった。また、比較例5−2は80℃で5時間保管しても呈色しなかった。
【0037】
(実施例6)
潮解性金属塩の種類を変えて、温度感知層において表6に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、塗工性と呈色性を評価した。結果を表6に示す。
【0038】
【表6】
【0039】
(実施例7)
バインダー樹脂の種類を変えて、温度感知層において表7に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、塗工性と呈色性を評価した。結果を表7に示す。尚、PVAは和光純薬株式会社製で重合度約500,PVPは和光純薬株式会社製でK=25である。これらは固形分が20質量%となるように調整して用いた。pHはPVA溶液が6〜7、PVP溶液が約7〜8であった。尚、表中のIPA添加量は、塗料中の樹脂成分の固形分の含有量に対するIPA含有量である。
【0040】
【表7】
【0041】
比較例7−1及び7−2はいずれも80℃で5時間保管しても呈色しなかった。
【0042】
(実施例8)
臭化リチウムの含有量を変えて、温度感知層において表8に示す組成となるように各成分を配合する以外は、実施例1と同様にして温度インジケータを作製し、60℃、80℃、100℃に保管し、呈色(ΔEが3.0以上)するまでの時間を測定した。結果を表8に示す。
【0043】
【表8】
【0044】
比較例1−4は80℃で5時間保管しても呈色せず、比較例1−5は80℃で2〜5時間後に良好な呈色性を示すが、塗料の水分が多く、粘度が低くなり、塗工性がやや劣っていた。