【実施例】
【0054】
ガラスの原料としては、B
2O
3、Gd
2O
3、SiO
2、MgO、CaCO
3、SrCO
3、BaCO
3、Li
2CO
3、Na
2CO
3及びK
2CO
3を用いた。
【0055】
ガラスの作製方法は、次のとおりである。
【0056】
まず、上記の原料を所定量配合し、混合した。それをルツボに入れ、1400℃で3時間溶融し、急冷することにより、ガラスを約1kg作製した。均一なガラスとするため、溶融状態においては撹拌した。
【0057】
表1は、作製したガラスの組成及びその評価結果を示したものである。
【0058】
【表1】
【0059】
本表に示すように、実施例G1〜G22のガラスは、ガラス製作性、吸収反応度及び耐水性のすべてが合格であった。これに対して、比較例G23〜G31のガラスは、ガラス製作性、吸収反応度及び耐水性のうちいずれかが不合格であった。
【0060】
比較例G23、G24及びG26の場合、B
2O
3の含有量が多すぎ、十分な耐水性が得られなかった。また、耐水性試験の水のpHを測定したところ、G23では約4、G24では約5と酸性になっていた。これは、配管等の金属部材を腐食してしまうおそれがある。
【0061】
比較例G25、G27及びG30の場合、SiO
2の含有量が多く、1400℃の溶融では、均一なガラスを得ることができなかった。比較例G28の場合、Gd
2O
3の含有量が多すぎ、ガラス作製の際にガラスが白色に結晶化してしまい、均一なガラスが得られなかった。
【0062】
比較例G29及びG31の場合、B
2O
3及びGd
2O
3の含有量が少ないために十分な吸収反応度は得られなかった。また、アルカリ土類酸化物及びアルカリ金属酸化物の含有量、特にアルカリ金属酸化物の含有量が多いために、十分な耐水性が得られなかった。しかし、アルカリ土類酸化物及びアルカリ金属酸化物の溶出により、耐水性試験後の水のpHは、比較例G23、G24及びG26とは異なり、酸性にはならなかった。
【0063】
本表に示す結果から、水中投下用中性子吸収ガラスとしては、B
2O
3(酸化ホウ素)、Gd
2O
3(酸化ガドリニウム)及びSiO
2(酸化ケイ素)を含み、B
2O
3とGd
2O
3との合計が50〜80重量%であり、かつ、重量基準で、B
2O
3≧Gd
2O
3及びB
2O
3≧SiO
2の関係を有するものが有効であることが分かる。さらに、水中投下用中性子吸収ガラスは、B
2O
3の含有量が、重量基準でGd
2O
3の含有量の1〜2倍(Gd
2O
3≦B
2O
3≦2Gd
2O
3)の関係を有することが好ましい。また、ガラスの各成分の含有量は、B
2O
3が25〜50重量%、Gd
2O
3が10〜40重量%、及びSiO
2が10〜30重量%の範囲にあることが望ましい。
【0064】
さらに、ガラスの成分として、アルカリ土類酸化物及びアルカリ金属酸化物のどちらか一方を少なくとも含むことが有効であり、その含有量は30重量%以下であることが好ましい。更に好ましくは、アルカリ金属酸化物の含有量が10重量%以下である。アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ金属酸化物は、ガラスの成分である酸化ホウ素が水に溶出したとしても、水の環境を塩基性とする傾向がある。このため、中和作用が働き、炉内が腐食環境となる可能性を更に低減することができる。
【0065】
つぎに、中性子吸収ガラスをB
4C粉末と混合し、成形し、焼結体として用いた例について説明する。
【0066】
図2Aは、B
4C粉末と中性子吸収ガラスとを混合し、焼結することにより作製した中性子吸収材を示す断面図である。
【0067】
本図において、中性子吸収材23は、B
4C粉末22を中性子吸収ガラス21に分散した構成を有している。
【0068】
B
4Cは、水に不溶であるが、水に接した状態では、水と徐々に反応してほう酸を生成する。
【0069】
本図に示す中性子吸収材23は、中性子を吸収する機能が高いが、水と反応してほう酸を生成するという問題点を有するB
4Cを水中に投入した状態で使用するために好適な構成を有するものである。
【0070】
この中性子吸収材23の作製方法について説明する。
【0071】
中性子吸収ガラスを粉砕して粉末状にし、B
4C粉末と十分に混合する。この混合粉末を成形し、加熱し、ガラス成分を溶融した後、冷却することにより、B
4C粉末を中性子吸収ガラスで覆った構成を有する焼結体である中性子吸収材を作製する。
【0072】
ここで、B
4C単体の焼結体を作製することは、B
4Cの融点が高いため、困難である。これに対して、ガラスの溶融点は、B
4Cの融点よりも低いため、これらの混合物の焼結体の作製は、B
4C単体の焼結体の作製よりも容易である。
【0073】
上記の方法により作製した中性子吸収材は、ガラスに覆われているため、耐水性が向上する。さらに、ガラスに含まれるアルカリ土類金属イオン又はアルカリ金属イオンが溶出しやすいため、B
4Cからほう酸が生じたとしても腐食環境となる可能性が低くなる。
【0074】
なお、本発明の中性子吸収材は、水中に投下する用途に限られることはなく、制御棒に装てんされるB
4C粉末の代替、高速炉で用いられるB
4C焼結体の代替等として用いることができる。
【0075】
また、上述の例においては、B
4C粉末を中性子吸収ガラスで覆う構成について説明したが、ガラスの特性及び組成は、中性子吸収ガラスのものに限定されるものではない。ここで用いることが可能なガラスに必要な特性は、B
4C粉末が水と接触することを防止することであって、中性子を吸収する機能は必須ではない。中性子を吸収する機能は、B
4C粉末が担うからである。
【0076】
図2Bは、
図2Aの中性子吸収材の変形例であり、B
4Cの粒子を中性子吸収ガラスで被覆した構成を有する中性子吸収材を示す断面図である。
【0077】
本図においては、中性子吸収材123は、一個のB
4C粒子122の表面を中性子吸収ガラス121で被覆した構成を有する。中性子吸収ガラス121は、
図2Aの場合と同様、中性子吸収能力を有しないものであってもよい。
【0078】
以下、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を用いた溶融燃料の取り出し方法の例について説明する。
【0079】
図3Aは、溶融燃料の取り出し作業の前に、未臨界を維持し、安全性を高めるために中性子吸収材を原子炉内に投入した状態を示す概略断面図である。
【0080】
本図においては、溶融燃料31が塊である場合であり、水33の中に沈んでいる状態を示している。投入された粒子状の中性子吸収ガラス32は、溶融燃料31の塊の上面を覆っている。言い換えると、中性子吸収ガラス32は、溶融燃料31の塊に直接接触している。また、溶融燃料31の塊に隙間(割れ目)がある場合、溶融燃料31の塊同士の間に隙間がある場合等には、これらの隙間に中性子吸収ガラス32が入り込む。これにより、燃料から発生する中性子を遮蔽し、連鎖反応を抑制し、臨界に達しないようにすることができる。
【0081】
図3Bは、溶融燃料の取り出し作業の際における原子炉内の状態を示す概略断面図である。
【0082】
本図においては、
図3Aに示す溶融燃料31を掘削機35のドリル36により破砕し、掘削機35の溶融燃料吸引部37を介して粒子状になった溶融燃料34を吸引している状態を示している。水33の中に分散した溶融燃料34の粒子は、中性子吸収ガラス32の粒子と混合され、溶融燃料34の粒子が中性子吸収ガラス32の粒子に覆われた状態となる。これにより、溶融燃料34の粒子から発生する中性子を遮蔽し、連鎖反応を抑制し、掘削作業中においても臨界に達しないようにすることができる。
【0083】
以下、
図3A及び3Bを用いて更に詳しく説明する。
【0084】
原子炉内の溶融燃料31を取り出す作業を始める前に、溶融燃料31が存在する箇所に予め中性子吸収ガラス32を投入する。中性子吸収ガラス32は、水よりも比重が重いため、溶融燃料31の表面に堆積する。何らかの理由で溶融燃料31に正の反応度が印加された場合であっても、溶融燃料31の表面に堆積した中性子吸収ガラス32が反応の抑制に寄与する。
【0085】
ここで、中性子吸収ガラス32を想定される溶融燃料31の大きさ以下にすることにより、溶融燃料31の間に入り込みやすくなり、より高い効果が期待できる。例えば、溶融燃料31の直径が上述の数値計算において用いた寸法である5mmの場合には、中性子吸収ガラス32の直径を5mm以下とすることが望ましい。
【0086】
次に、溶融燃料31を実際に取り出す作業について、溶融燃料31の上部をドリル36で掘削し、掘削した溶融燃料34を吸い出して回収する場合を例に説明する。
【0087】
この例においては、溶融燃料31の上方から掘削機35を近づけ、ドリル36を用いて溶融燃料31を削り、同時に上方に吸引することにより、溶融燃料31を取り出す。この際、掘削した溶融燃料34の一部は、掘削機35の吸引口36に吸引されず、周りの水33の中に飛散する可能性がある。この状態で、溶融燃料34と水33との体積割合が変化し、再臨界となる可能性がある。
【0088】
図3Aに示すような状態で投入された中性子吸収ガラス32は、水33の中に飛散した溶融燃料34と同様に水33の中に飛散する。中性子吸収ガラス32は、水33の中の中性子を吸収し、反応を抑制するため、再臨界を防ぐことができる。また、中性子吸収ガラス32が掘削機35のドリル36で削られる等して破損・変形しても、
図1Bに示す中性子吸収ガラス32の中性子吸収能力が損なわれることはないため、中性子による反応を抑制する効果が期待できる。
【0089】
また、中性子の照射により着色する特性を有するガラス成分として鉛(Pb)等があり、これを中性子吸収ガラス32の成分として添加することにより、中性子吸収ガラス32を投入した位置で中性子が発生しているかどうかの検知にも役立てることができる。
【0090】
なお、上記の例においては、溶融燃料の取り出し方法について、ドリルで掘削した方法を例として説明しているが、掘削機の代わりにパワーショベルで掘り出す方法も想定され、本発明は、上述の例に限定されるものではない。
【0091】
以下、所定の形状・大きさの中性子吸収ガラスを製造する方法の例について説明する。
【0092】
図4Aは、溶融した中性子吸収ガラスから所定のサイズ・形状を有するガラス粒子を作製する装置(ガラス粒子作製装置)の一部を示す模式断面図である。
【0093】
図4Bは、
図4Aの装置の成形ローラの一部を示す概略斜視図である。
【0094】
図4Aにおいて、ガラス粒子作製装置は、ガラス溶融炉41と、成形ローラ42、43とを備えている。矢印44は成形ローラ42回転方向を、矢印45は成形ローラ43の回転方向を表している。
【0095】
ガラス溶融炉41においては、ガラスが溶融した状態で保持されている。ガラス溶融炉41の底部には、溶融ガラスの流出口が設けてあり、溶融ガラスは、成形ローラ42、43の間に流下し、成形され、固体状態のガラス粒子46となる。
【0096】
図4Bに示す成形ローラ47には、成形用の窪み48(凹部)が設けてある。
【0097】
以下、ガラス粒子作製装置によるガラス粒子46の製造方法について更に詳しく説明する。
【0098】
ガラス溶融炉41においてガラスの原料を溶かし、原料を十分に混合する。次に、溶融しているガラスをガラス溶融炉41から取り出し、一定の大きさに切断する。切断されたガラスは、高温度であり、溶融状態であるため、回転している成形ローラ42、43の間に落下し、窪み48の形状に従って成形され、ガラス粒子46となる。
【0099】
図4Bにおいては、窪み48の形状を四角錐台としているが、窪み48の形状を変えることによりガラス粒子46の形状を制御することができる。また、窪み48の数も本図に限定されるものではない。
【0100】
以下、沸騰水型原子炉の非常用原子炉停止装置であるほう酸水注入系(ほう酸水注入部)に代えて、本発明の中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を投入することにより原子炉の核分裂反応を制御する例について説明する。
【0101】
通常の沸騰水型原子炉においては、通常運転時は炉心の水量や制御棒の挿入深さを変えることにより原子炉内の核分裂反応を制御している。また、地震等により緊急に原子炉を停止する必要があるときは、原子炉にある全ての制御棒を炉心に全挿入することにより原子炉を停止する。
【0102】
しかしながら、例えば、万一制御棒の挿入に失敗した等の理由で原子炉内の核分裂反応が制御できなくなった場合、他の手段で原子炉内の核分裂反応を制御し、原子炉を直ちに停止させる必要がある。
【0103】
そのような緊急時において原子炉を停止させるための方法の一つとして、ほう酸水を原子炉の炉心に注入する方法がある。これは、原子炉の炉心に中性子吸収能力があるほう酸水を投入することにより、核分裂反応で生じた中性子を吸収させて連鎖反応を制御し、原子炉を停止するものである。
【0104】
一方で、炉心にほう酸水を投入すると、炉内の水中のほう酸濃度が適切に制御されていない場合は、炉内を腐食環境とする可能性がある。このため、炉内構造物に影響を与えることが懸念される。
【0105】
そこで、例えば、ほう酸水を注入する代わりに、本発明の中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を投入し、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材が原子炉の内部の燃料棒の周囲に堆積した状態とする。これにより、原子炉の核分裂反応を制御することができる。また、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を用いた場合、原子炉の内部の水にほう酸が溶出しないように、又はほう酸が溶出してもpHが低くならないようにすることができる。このため、炉内構造物を腐食する可能性を低減することができる。
【0106】
このように、本発明の中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を投入することにより原子炉の核分裂反応を制御する方法は、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材の耐水性が高いため、長期間の原子炉の停止においても、核燃料の反応を抑制し続けることができる。