特許第5922610号(P5922610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5922610原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス及び原子炉の炉内投入用中性子吸収材並びにこれらを用いる溶融燃料の管理方法、溶融燃料の取り出し方法及び原子炉の停止方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922610
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス及び原子炉の炉内投入用中性子吸収材並びにこれらを用いる溶融燃料の管理方法、溶融燃料の取り出し方法及び原子炉の停止方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20160510BHJP
   C03C 4/08 20060101ALI20160510BHJP
   G21C 9/033 20060101ALI20160510BHJP
   G21C 7/24 20060101ALI20160510BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20160510BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C03C3/068
   C03C4/08
   G21C9/02 L
   G21C7/24
   G21F9/30 531M
   G21F9/28 511A
   G21F9/30 535B
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-71445(P2013-71445)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-193794(P2014-193794A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙祐
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】丸山 博見
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴夫
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−286934(JP,A)
【文献】 特開平10−226533(JP,A)
【文献】 特開昭59−057195(JP,A)
【文献】 特開2004−317429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
、Gd及びSiOを含み、BとGdとの含有量の合計は、50〜80重量%であり、Bの含有量は、重量基準で、Gdの含有量以上であり、かつ、SiOの含有量以上であり、B:25〜50重量%、Gd:10〜40重量%、及びSiO:10〜30重量%を含むことを特徴とする原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス。
【請求項2】
の含有量は、重量基準で、Gdの含有量の1〜2倍であることを特徴とする請求項1記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス。
【請求項3】
アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ金属酸化物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属酸化物及び前記アルカリ金属酸化物の含有量の合計は、30重量%以下であることを特徴とする請求項記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス。
【請求項5】
形状は粒子状であり、その粒子の直径の平均値は1〜10mmであることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス。
【請求項6】
比表面積は、球より大きいことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス。
【請求項7】
一個又は複数個のBC粒子を請求項1〜のいずれか一項に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラスで被覆した構造を有することを特徴とする原子炉の炉内投入用中性子吸収材。
【請求項8】
原子炉の内部に漏れ出た溶融燃料を安全に管理する方法であって、請求項1〜のいずれか一項に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス又は請求項記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収材を前記溶融燃料の上方から投入し、前記原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス又は前記原子炉の炉内投入用中性子吸収材が前記溶融燃料の表面に接触した状態とし、前記溶融燃料の未臨界を維持することを特徴とする溶融燃料の管理方法。
【請求項9】
原子炉の内部の燃料棒から漏れ出た溶融燃料を前記原子炉の外部に安全に取り出す方法であって、請求項1〜のいずれか一項に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス又は請求項記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収材を前記溶融燃料の上方から投入し、前記原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス又は前記原子炉の炉内投入用中性子吸収材が前記溶融燃料の表面に接触した状態とし、前記溶融燃料は、掘削し、前記原子炉の外部に取り出すことを特徴とする溶融燃料の取り出し方法。
【請求項10】
前記溶融燃料は、掘削機を用いて掘削し吸引することにより、前記原子炉の外部に取り出すことを特徴とする請求項記載の溶融燃料の取り出し方法。
【請求項11】
非常の際、原子炉を停止する方法であって、請求項1〜のいずれか一項に記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス又は請求項記載の原子炉の炉内投入用中性子吸収材を前記原子炉の内部に投入し、前記原子炉の炉内投入用中性子吸収ガラス又は前記原子炉の炉内投入用中性子吸収材が前記原子炉の内部の燃料棒の周囲に堆積した状態とすることを特徴とする原子炉の停止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子吸収ガラス及び中性子吸収材並びにこれらを用いる溶融燃料の管理方法、溶融燃料の取り出し方法及び原子炉の停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント及び加圧水型原子力プラント等の原子力プラントでは、核燃料物質を含む複数の燃料集合体が原子炉の炉心に装荷されている。炉心内に装荷されてから所定の運転サイクル数での原子炉の運転を経験した燃料集合体は、使用済燃料集合体として原子炉内から原子炉外に搬出されている。
【0003】
特許文献1には、原子力発電プラントの燃料を、炉心と燃料貯蔵プールにわたって自動的に移送する自動燃料交換装置が記載されている。このような自動燃料交換装置は、通常の運転サイクルにおいて燃料集合体を搬出する際は、燃料集合体がそれ一体では臨界とならない大きさとなるように設計されており、そのため、燃料集合体を一体ずつ搬出すれば臨界となるおそれはなく、安全に搬出できる。
【0004】
一方で、万一、スリーマイル原子力発電所の原子力プラントのように、原子炉内の炉心に装荷している燃料集合体に含まれる核燃料物質が溶融する事故が発生した場合には、この溶融した核燃料物質(以下、「溶融燃料」と呼ぶ。)を切削し、原子炉から搬出する必要がある。この際には、万一の臨界発生を防止するための手段を講ずる必要がある。
【0005】
例えば、非特許文献1には、スリーマイル原子力発電所の事故後の溶融燃料の切削および搬出に際しては、核燃料物質を水中に保持しながら切削及び搬出を行う場合において、中性子吸収材であるホウ素を一定以上の濃度となるように水に添加したという記載がある。
【0006】
また、特許文献2には、B、La及びGdを必須の成分とする放射線遮蔽ガラスが開示されている。
【0007】
特許文献3には、B、Gd及びSiOを主成分として含み、X線やγ線等の放射線を遮蔽する能力を有するガラス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−262182号公報
【特許文献2】特開平10−226533号公報
【特許文献3】特開2009−7194号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nuclear Technology, vol. 87 (1989) 660-678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載の方法でホウ素を炉内の水に添加すると、水と反応して生成したほう酸が炉内に溶出する可能性がある。その際に炉内の水中ほう酸濃度が適切に制御されなければ、炉内が腐食環境となる可能性があり、炉内構造物への影響が懸念される。よって、水中環境においても炉内を腐食環境としない中性子吸収材の開発が望まれており、その中でガラス素材に着目した。
【0011】
特許文献2に記載されている放射線遮蔽ガラスは、中性子を吸収できるガラスである。しかしながら、水環境下である炉内に投入して中性子吸収材として用いることは想定されていない。よって、特許文献2には、放射線遮蔽ガラスに含まれる酸化ホウ素が水に溶出する可能性や用いる形状に関しては特に記載されていない。
【0012】
特許文献3に記載されているガラス組成物は、耐洗剤性及び耐酸性を有するものであり、洗浄等を行ってもヤケが生じないようにしたものである。よって、水中に浸漬した状態で使用することを想定したものではない。
【0013】
以上のことから、本発明は、水を減速材とする原子炉の炉内に投入しても、水に対して安定性を持ち、かつ、炉内を腐食環境としない中性子吸収ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の中性子吸収ガラスは、B、Gd及びSiOを含み、BとGdとの含有量の合計は、50〜80重量%であり、Bの含有量は、重量基準で、Gdの含有量以上であり、かつ、SiOの含有量以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水を減速材とする原子炉の炉内に投入しても、水に対して安定性を持ち、かつ、炉内を腐食環境とせず、所定の中性子吸収能力を有する中性子吸収ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】中性子吸収能力である中性子増倍率を数値計算により算出するためのモデルを示す横断面図である。
図1B図1Aのモデルを用いて数値計算により算出した本発明の好適な例である下記の組成を有する中性子吸収ガラス、及び炭化ホウ素の吸収反応度を示すグラフである。
図1C】中性子吸収ガラスにおいて他の成分の重量比は変えないままBとGdとの重量割合のみ変化させて吸収反応度を算出した結果を示すグラフである。
図1D図1Bに示す例の中性子吸収ガラスの比表面積を変化させた場合の吸収反応度を示すグラフである。
図2A】BC粉末を中性子吸収ガラスに分散した構成を有する中性子吸収材を示す断面図である。
図2B】BCの粒子を中性子吸収ガラスで被覆した構成を有する中性子吸収材を示す断面図である。
図3A】溶融燃料の取り出し作業の前に、未臨界を維持し、安全性を高めるために中性子吸収材を原子炉内に投入した状態を示す概略断面図である。
図3B】溶融燃料の取り出し作業の際における原子炉内の状態を示す概略断面図である。
図4A】溶融した中性子吸収ガラスからガラス粒子を作製する装置の一部を示す模式断面図である。
図4B図4Aの装置の成形ローラの一部を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、水を減速材として用いる原子炉に用いる中性子吸収ガラス及び中性子吸収材に係り、特に、原子炉内の水中に投入して用いる場合に好適な中性子吸収ガラス及び中性子吸収材に関する。ここで、中性子吸収材は、BC粉末(炭化ホウ素の粉末)をガラスに分散した構成を有する。この場合に用いるガラスは、BC粉末を覆ってホウ素の溶出を防止するために用いるものであるため、所望の耐水性を有していればよいが、中性子吸収ガラスであることは更に望ましい。
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る中性子吸収ガラス及び中性子吸収材並びにこれらを用いる溶融燃料の管理方法、溶融燃料の取り出し方法及び原子炉の停止方法について説明する。
【0019】
前記中性子吸収ガラスは、B(酸化ホウ素)、Gd(酸化ガドリニウム)及びSiO(酸化けい素)を含み、BとGdとの含有量の合計は、50〜80重量%であり、Bの含有量は、重量基準で、Gdの含有量以上であり、かつ、SiOの含有量以上であることを特徴とする。ここで、B、Gd及びSiOの含有量の大小関係は、重量基準で、B≧Gd及びB≧SiOと言い換えてもよい。
【0020】
前記中性子吸収ガラスにおいて、Bの含有量は、重量基準で、Gdの含有量の1〜2倍であることが望ましい。
【0021】
前記中性子吸収ガラスは、B:25〜50重量%、Gd:10〜40重量%、及びSiO:10〜30重量%を含むことが望ましい。
【0022】
前記中性子吸収ガラスは、アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ金属酸化物の少なくともいずれかを含むことが望ましい。
【0023】
前記中性子吸収ガラスにおいて、アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ金属酸化物の含有量の合計は、30重量%以下であることが望ましい。
【0024】
前記中性子吸収ガラスの形状は粒子状であり、その粒子の直径の平均値は1〜10mmであることが望ましい。ここで、粒子の直径は、取り出した粒子を画像処理し、粒子の最大幅を測定して得た値である。この最大幅を100個の粒子について測定し、その平均値を粒子の直径の平均値と定義した。粒子は、直径が1mmより小さいと、原子炉内の水中に投入した際に発生する水流によって流されるおそれがある。一方、中性子吸収ガラスの粒子の直径が10mm以下であることが望ましい理由は、原子炉内の燃料ペレットの直径及び高さがともに10mm程度であり、燃料ペレットの隙間の寸法を考慮した場合の中性子吸収ガラスの粒子の直径の最大値に対応するからである。
【0025】
前記中性子吸収ガラスの比表面積は、球より大きいことが望ましい。
【0026】
中性子吸収材は、一個又は複数個のBC粒子を前記中性子吸収ガラスで被覆した構造を有することを特徴とする。
【0027】
中性子吸収材は、一個又は複数個のBC粒子をガラスで被覆した構造を有し、前記ガラスは、珪素、アルカリ土類金属及びアルカリ金属の酸化物を含むことが望ましい。
【0028】
前記溶融燃料の管理方法は、原子炉の内部に漏れ出た溶融燃料を安全に管理する方法であって、前記中性子吸収ガラス又は前記中性子吸収材を溶融燃料の上方から投入し、前記中性子吸収ガラス又は前記中性子吸収材が溶融燃料の表面に接触した状態とし、溶融燃料の未臨界を維持することを特徴とする。
【0029】
前記溶融燃料の取り出し方法は、原子炉の内部の燃料棒から漏れ出た溶融燃料を原子炉の外部に安全に取り出す方法であって、前記中性子吸収ガラス又は前記中性子吸収材を溶融燃料の上方から投入し、前記中性子吸収ガラス又は前記中性子吸収材が溶融燃料の表面に接触した状態とし、溶融燃料は、掘削し、原子炉の外部に取り出すことを特徴とする。
【0030】
前記溶融燃料の取り出し方法において、溶融燃料は、掘削機を用いて掘削し吸引することにより、原子炉の外部に取り出すことが望ましい。
【0031】
前記原子炉の停止方法は、非常の際、原子炉を停止する方法であって、前記中性子吸収ガラス又は前記中性子吸収材を原子炉の内部に投入し、前記中性子吸収ガラス又は前記中性子吸収材が原子炉の内部の燃料棒の周囲に堆積した状態とすることを特徴とする。
【0032】
以下、中性子吸収ガラスの評価項目であるガラス製作性、中性子の吸収反応度及び耐水性について説明する。
【0033】
ガラス製作性は、上記条件で均一なガラスとなった場合には合格「○」と、そうでない場合には不合格「×」と評価した。
【0034】
中性子の吸収反応度は、後述のモデルにおいて、中性子吸収材としてBCを用いた場合の吸収反応度を基準として算出し、同一の体積でかつ同一の配置とした中性子吸収ガラスについて吸収反応度を算出し、中性子吸収ガラスの吸収反応度がBCの吸収反応度の85%以上の場合には合格「○」と、85%未満の場合には不合格「×」と評価した。
【0035】
耐水性は、沸騰水中に作製したガラスを3時間投入し、外観上変化しない場合には合格「○」と、ガラスの表面に白ヤケが発生し、又はガラスが構造崩壊した場合には不合格「×」と評価した。また、試験後の水のpHも測定した。
【0036】
以下、中性子吸収ガラスの中性子吸収能力(中性子の吸収反応度)について説明する。
【0037】
図1Aは、中性子吸収能力である中性子増倍率を数値計算により算出するためのモデルを示す横断面図である。
【0038】
本図に示すモデルは、原子炉内の溶融燃料11及び中性子吸収材13を粒子状のものと仮定し、これらの配置を示すものである。この場合における数値計算を簡略化するため、溶融燃料11の粒子の形状を球形とし、この粒子の中心が単純立方格子の格子点に位置するように配列したものであると仮定している。言い換えると、当該粒子の中心点は、縦・横・高さの方向に真直ぐに列をなして配置していると仮定している。また、隣り合う粒子同士は、接点を有すると仮定する。本図においては、粒子同士が離れているように見えるが、これは、中性子吸収材13の配置を明瞭にするためであり、隣り合う粒子同士が接していない高さの断面を表したためである。
【0039】
中性子吸収材13の粒子は、菱形で表しているが、球形であると仮定している。
【0040】
溶融燃料11及び中性子吸収材13の粒子の隙間は、水12で満たされていると仮定している。
【0041】
更に具体的には、溶融燃料11の粒子の直径を5mm、中性子吸収材13の粒子の直径を2.5mm、溶融燃料11に対する中性子吸収材13の体積割合を1/160とし、外部との境界面は反射境界条件としている。
【0042】
数値計算においては、本図に示すモデルについて、まず、中性子吸収材13を投入しない場合の中性子増倍率を計算する。次に、中性子吸収材13を投入した場合の中性子増倍率を計算する。そして、中性子吸収材13の投入しない場合における中性子増倍率をkし、中性子吸収材13の投入した場合における中性子増倍率をkとすると、吸収反応度ρは、下記計算式で定義される。
【0043】
ρ=(k−k)/(k
図1Bは、図1Aのモデルを用いて数値計算により算出した本発明の好適な例である下記の組成を有する中性子吸収ガラス、及びBC(炭化ホウ素)の吸収反応度を示すグラフである。図中、吸収反応度は百分率で表している。BCは、一般に知られている中性子吸収材の一つである。
【0044】
:40重量%、Gd:30重量%、SiO:15重量%、NaO:10重量%、LiO:5重量%
Cは、高い中性子吸収能力を持ち、原子炉において中性子遮蔽材料や核反応制御材料として広く用いられている。例えば、沸騰水型原子炉においては、BC粉末を詰めたものを制御棒とし、通常運転の際又は緊急時における原子炉の核分裂反応の制御に用いられる。
【0045】
図1Aで示すようなモデルにおいて、本例の中性子吸収ガラスの吸収反応度は、−0.2Δk/k程度であり、同一のモデルにおけるBCの吸収反応度と同程度の大きさである。
【0046】
図1Bに示すように、本例の中性子吸収ガラスの吸収反応度は約−22.5%であり、BCの吸収反応度は約−25%である。よって、本例の中性子吸収ガラスの吸収反応度は、原子炉の核分裂反応を制御するために十分大きい値である。
【0047】
図1Cは、中性子吸収ガラスにおいて、他の成分の重量比は変えないままBとGdとの重量割合のみ変化させて、吸収反応度を算出した結果を示したものである。横軸にはGd/(B+Gd)を、縦軸には吸収反応度をとっている。ここで、横軸のGd、B及びGdは、それぞれの成分の重量%を表している。
【0048】
本図においては、中性子吸収ガラス全体に対するB及びGdの組成の合計(B+Gd)を80重量%とした。
【0049】
本図より、BとGdとの重量比に従って、吸収反応度が変化していることがわかる。このモデルにおいては、B+Gdに対するGdの割合が40%の場合に最も中性子を吸収することがわかる。
【0050】
このことから、適切な重量比を選択することにより、効果が高い中性子吸収材を得ることができることが分かった。
【0051】
図1Dは、図1Bに示す例の中性子吸収ガラスの粒子の形状を変え、体積に対する表面積の比(比表面積)を変化させた場合の吸収反応度を示すグラフである。計算モデルは、図1Aで示すものと同様である。横軸には、球の比表面積を1として基準化したものに対する各形状の粒子の比表面積の相対値を、縦軸には、粒子が球の場合における吸収反応度を1として基準化したものに対する各形状の粒子における吸収反応度の相対値をとっている。
【0052】
図1Dより、比表面積が大きくなるに従って、吸収反応度が大きくなっていることがわかる。よって、球形の中性子吸収ガラスが投入後に何らかの事由で破損し、変形しても、比表面積が球形の場合よりも大きくなるため、球形の場合と比較しても中性子吸収能力が小さくなることはないことが分かる。また、中性子吸収ガラスの形状を表面積が大きくなるように球形でないものとすることにより、中性子を吸収する効果を高めることもできる。
【0053】
以下、実施例について説明する。
【実施例】
【0054】
ガラスの原料としては、B、Gd、SiO、MgO、CaCO、SrCO、BaCO、LiCO、NaCO及びKCOを用いた。
【0055】
ガラスの作製方法は、次のとおりである。
【0056】
まず、上記の原料を所定量配合し、混合した。それをルツボに入れ、1400℃で3時間溶融し、急冷することにより、ガラスを約1kg作製した。均一なガラスとするため、溶融状態においては撹拌した。
【0057】
表1は、作製したガラスの組成及びその評価結果を示したものである。
【0058】
【表1】
【0059】
本表に示すように、実施例G1〜G22のガラスは、ガラス製作性、吸収反応度及び耐水性のすべてが合格であった。これに対して、比較例G23〜G31のガラスは、ガラス製作性、吸収反応度及び耐水性のうちいずれかが不合格であった。
【0060】
比較例G23、G24及びG26の場合、Bの含有量が多すぎ、十分な耐水性が得られなかった。また、耐水性試験の水のpHを測定したところ、G23では約4、G24では約5と酸性になっていた。これは、配管等の金属部材を腐食してしまうおそれがある。
【0061】
比較例G25、G27及びG30の場合、SiOの含有量が多く、1400℃の溶融では、均一なガラスを得ることができなかった。比較例G28の場合、Gdの含有量が多すぎ、ガラス作製の際にガラスが白色に結晶化してしまい、均一なガラスが得られなかった。
【0062】
比較例G29及びG31の場合、B及びGdの含有量が少ないために十分な吸収反応度は得られなかった。また、アルカリ土類酸化物及びアルカリ金属酸化物の含有量、特にアルカリ金属酸化物の含有量が多いために、十分な耐水性が得られなかった。しかし、アルカリ土類酸化物及びアルカリ金属酸化物の溶出により、耐水性試験後の水のpHは、比較例G23、G24及びG26とは異なり、酸性にはならなかった。
【0063】
本表に示す結果から、水中投下用中性子吸収ガラスとしては、B(酸化ホウ素)、Gd(酸化ガドリニウム)及びSiO(酸化ケイ素)を含み、BとGdとの合計が50〜80重量%であり、かつ、重量基準で、B≧Gd及びB≧SiOの関係を有するものが有効であることが分かる。さらに、水中投下用中性子吸収ガラスは、Bの含有量が、重量基準でGdの含有量の1〜2倍(Gd≦B≦2Gd)の関係を有することが好ましい。また、ガラスの各成分の含有量は、Bが25〜50重量%、Gdが10〜40重量%、及びSiOが10〜30重量%の範囲にあることが望ましい。
【0064】
さらに、ガラスの成分として、アルカリ土類酸化物及びアルカリ金属酸化物のどちらか一方を少なくとも含むことが有効であり、その含有量は30重量%以下であることが好ましい。更に好ましくは、アルカリ金属酸化物の含有量が10重量%以下である。アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ金属酸化物は、ガラスの成分である酸化ホウ素が水に溶出したとしても、水の環境を塩基性とする傾向がある。このため、中和作用が働き、炉内が腐食環境となる可能性を更に低減することができる。
【0065】
つぎに、中性子吸収ガラスをBC粉末と混合し、成形し、焼結体として用いた例について説明する。
【0066】
図2Aは、BC粉末と中性子吸収ガラスとを混合し、焼結することにより作製した中性子吸収材を示す断面図である。
【0067】
本図において、中性子吸収材23は、BC粉末22を中性子吸収ガラス21に分散した構成を有している。
【0068】
Cは、水に不溶であるが、水に接した状態では、水と徐々に反応してほう酸を生成する。
【0069】
本図に示す中性子吸収材23は、中性子を吸収する機能が高いが、水と反応してほう酸を生成するという問題点を有するBCを水中に投入した状態で使用するために好適な構成を有するものである。
【0070】
この中性子吸収材23の作製方法について説明する。
【0071】
中性子吸収ガラスを粉砕して粉末状にし、BC粉末と十分に混合する。この混合粉末を成形し、加熱し、ガラス成分を溶融した後、冷却することにより、BC粉末を中性子吸収ガラスで覆った構成を有する焼結体である中性子吸収材を作製する。
【0072】
ここで、BC単体の焼結体を作製することは、BCの融点が高いため、困難である。これに対して、ガラスの溶融点は、BCの融点よりも低いため、これらの混合物の焼結体の作製は、BC単体の焼結体の作製よりも容易である。
【0073】
上記の方法により作製した中性子吸収材は、ガラスに覆われているため、耐水性が向上する。さらに、ガラスに含まれるアルカリ土類金属イオン又はアルカリ金属イオンが溶出しやすいため、BCからほう酸が生じたとしても腐食環境となる可能性が低くなる。
【0074】
なお、本発明の中性子吸収材は、水中に投下する用途に限られることはなく、制御棒に装てんされるBC粉末の代替、高速炉で用いられるBC焼結体の代替等として用いることができる。
【0075】
また、上述の例においては、BC粉末を中性子吸収ガラスで覆う構成について説明したが、ガラスの特性及び組成は、中性子吸収ガラスのものに限定されるものではない。ここで用いることが可能なガラスに必要な特性は、BC粉末が水と接触することを防止することであって、中性子を吸収する機能は必須ではない。中性子を吸収する機能は、BC粉末が担うからである。
【0076】
図2Bは、図2Aの中性子吸収材の変形例であり、BCの粒子を中性子吸収ガラスで被覆した構成を有する中性子吸収材を示す断面図である。
【0077】
本図においては、中性子吸収材123は、一個のBC粒子122の表面を中性子吸収ガラス121で被覆した構成を有する。中性子吸収ガラス121は、図2Aの場合と同様、中性子吸収能力を有しないものであってもよい。
【0078】
以下、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を用いた溶融燃料の取り出し方法の例について説明する。
【0079】
図3Aは、溶融燃料の取り出し作業の前に、未臨界を維持し、安全性を高めるために中性子吸収材を原子炉内に投入した状態を示す概略断面図である。
【0080】
本図においては、溶融燃料31が塊である場合であり、水33の中に沈んでいる状態を示している。投入された粒子状の中性子吸収ガラス32は、溶融燃料31の塊の上面を覆っている。言い換えると、中性子吸収ガラス32は、溶融燃料31の塊に直接接触している。また、溶融燃料31の塊に隙間(割れ目)がある場合、溶融燃料31の塊同士の間に隙間がある場合等には、これらの隙間に中性子吸収ガラス32が入り込む。これにより、燃料から発生する中性子を遮蔽し、連鎖反応を抑制し、臨界に達しないようにすることができる。
【0081】
図3Bは、溶融燃料の取り出し作業の際における原子炉内の状態を示す概略断面図である。
【0082】
本図においては、図3Aに示す溶融燃料31を掘削機35のドリル36により破砕し、掘削機35の溶融燃料吸引部37を介して粒子状になった溶融燃料34を吸引している状態を示している。水33の中に分散した溶融燃料34の粒子は、中性子吸収ガラス32の粒子と混合され、溶融燃料34の粒子が中性子吸収ガラス32の粒子に覆われた状態となる。これにより、溶融燃料34の粒子から発生する中性子を遮蔽し、連鎖反応を抑制し、掘削作業中においても臨界に達しないようにすることができる。
【0083】
以下、図3A及び3Bを用いて更に詳しく説明する。
【0084】
原子炉内の溶融燃料31を取り出す作業を始める前に、溶融燃料31が存在する箇所に予め中性子吸収ガラス32を投入する。中性子吸収ガラス32は、水よりも比重が重いため、溶融燃料31の表面に堆積する。何らかの理由で溶融燃料31に正の反応度が印加された場合であっても、溶融燃料31の表面に堆積した中性子吸収ガラス32が反応の抑制に寄与する。
【0085】
ここで、中性子吸収ガラス32を想定される溶融燃料31の大きさ以下にすることにより、溶融燃料31の間に入り込みやすくなり、より高い効果が期待できる。例えば、溶融燃料31の直径が上述の数値計算において用いた寸法である5mmの場合には、中性子吸収ガラス32の直径を5mm以下とすることが望ましい。
【0086】
次に、溶融燃料31を実際に取り出す作業について、溶融燃料31の上部をドリル36で掘削し、掘削した溶融燃料34を吸い出して回収する場合を例に説明する。
【0087】
この例においては、溶融燃料31の上方から掘削機35を近づけ、ドリル36を用いて溶融燃料31を削り、同時に上方に吸引することにより、溶融燃料31を取り出す。この際、掘削した溶融燃料34の一部は、掘削機35の吸引口36に吸引されず、周りの水33の中に飛散する可能性がある。この状態で、溶融燃料34と水33との体積割合が変化し、再臨界となる可能性がある。
【0088】
図3Aに示すような状態で投入された中性子吸収ガラス32は、水33の中に飛散した溶融燃料34と同様に水33の中に飛散する。中性子吸収ガラス32は、水33の中の中性子を吸収し、反応を抑制するため、再臨界を防ぐことができる。また、中性子吸収ガラス32が掘削機35のドリル36で削られる等して破損・変形しても、図1Bに示す中性子吸収ガラス32の中性子吸収能力が損なわれることはないため、中性子による反応を抑制する効果が期待できる。
【0089】
また、中性子の照射により着色する特性を有するガラス成分として鉛(Pb)等があり、これを中性子吸収ガラス32の成分として添加することにより、中性子吸収ガラス32を投入した位置で中性子が発生しているかどうかの検知にも役立てることができる。
【0090】
なお、上記の例においては、溶融燃料の取り出し方法について、ドリルで掘削した方法を例として説明しているが、掘削機の代わりにパワーショベルで掘り出す方法も想定され、本発明は、上述の例に限定されるものではない。
【0091】
以下、所定の形状・大きさの中性子吸収ガラスを製造する方法の例について説明する。
【0092】
図4Aは、溶融した中性子吸収ガラスから所定のサイズ・形状を有するガラス粒子を作製する装置(ガラス粒子作製装置)の一部を示す模式断面図である。
【0093】
図4Bは、図4Aの装置の成形ローラの一部を示す概略斜視図である。
【0094】
図4Aにおいて、ガラス粒子作製装置は、ガラス溶融炉41と、成形ローラ42、43とを備えている。矢印44は成形ローラ42回転方向を、矢印45は成形ローラ43の回転方向を表している。
【0095】
ガラス溶融炉41においては、ガラスが溶融した状態で保持されている。ガラス溶融炉41の底部には、溶融ガラスの流出口が設けてあり、溶融ガラスは、成形ローラ42、43の間に流下し、成形され、固体状態のガラス粒子46となる。
【0096】
図4Bに示す成形ローラ47には、成形用の窪み48(凹部)が設けてある。
【0097】
以下、ガラス粒子作製装置によるガラス粒子46の製造方法について更に詳しく説明する。
【0098】
ガラス溶融炉41においてガラスの原料を溶かし、原料を十分に混合する。次に、溶融しているガラスをガラス溶融炉41から取り出し、一定の大きさに切断する。切断されたガラスは、高温度であり、溶融状態であるため、回転している成形ローラ42、43の間に落下し、窪み48の形状に従って成形され、ガラス粒子46となる。
【0099】
図4Bにおいては、窪み48の形状を四角錐台としているが、窪み48の形状を変えることによりガラス粒子46の形状を制御することができる。また、窪み48の数も本図に限定されるものではない。
【0100】
以下、沸騰水型原子炉の非常用原子炉停止装置であるほう酸水注入系(ほう酸水注入部)に代えて、本発明の中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を投入することにより原子炉の核分裂反応を制御する例について説明する。
【0101】
通常の沸騰水型原子炉においては、通常運転時は炉心の水量や制御棒の挿入深さを変えることにより原子炉内の核分裂反応を制御している。また、地震等により緊急に原子炉を停止する必要があるときは、原子炉にある全ての制御棒を炉心に全挿入することにより原子炉を停止する。
【0102】
しかしながら、例えば、万一制御棒の挿入に失敗した等の理由で原子炉内の核分裂反応が制御できなくなった場合、他の手段で原子炉内の核分裂反応を制御し、原子炉を直ちに停止させる必要がある。
【0103】
そのような緊急時において原子炉を停止させるための方法の一つとして、ほう酸水を原子炉の炉心に注入する方法がある。これは、原子炉の炉心に中性子吸収能力があるほう酸水を投入することにより、核分裂反応で生じた中性子を吸収させて連鎖反応を制御し、原子炉を停止するものである。
【0104】
一方で、炉心にほう酸水を投入すると、炉内の水中のほう酸濃度が適切に制御されていない場合は、炉内を腐食環境とする可能性がある。このため、炉内構造物に影響を与えることが懸念される。
【0105】
そこで、例えば、ほう酸水を注入する代わりに、本発明の中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を投入し、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材が原子炉の内部の燃料棒の周囲に堆積した状態とする。これにより、原子炉の核分裂反応を制御することができる。また、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を用いた場合、原子炉の内部の水にほう酸が溶出しないように、又はほう酸が溶出してもpHが低くならないようにすることができる。このため、炉内構造物を腐食する可能性を低減することができる。
【0106】
このように、本発明の中性子吸収ガラス又は中性子吸収材を投入することにより原子炉の核分裂反応を制御する方法は、中性子吸収ガラス又は中性子吸収材の耐水性が高いため、長期間の原子炉の停止においても、核燃料の反応を抑制し続けることができる。
【符号の説明】
【0107】
11:溶融燃料、12:水、13:中性子吸収材、21、121:中性子吸収ガラス、22:BC粉末、23、123:中性子吸収材、31、34:溶融燃料、32:中性子吸収ガラス、33:水、35:掘削機、36:ドリル、37:溶融燃料吸引部、41:ガラス溶融炉、42、43:成形ローラ、44、45:矢印、46:ガラス粒子、47:成形ローラ、48:成形用の窪み、122:BC粒子。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B