【0031】
本発明者らは、Li
2CO
3、La
2O
3、及び、Nb
2O
5の混合比率を変更することにより、xの値を変更した単相のLi
xLa
(1−x)/3NbO
3を作製した。そして、作製したLi
xLa
(1−x)/3NbO
3についてICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析を行うことによりxの値を特定するとともに、上記溶融凝固実験を行うことにより、融点及び凝固点を特定した。結果を
図6Aに示す。
図6Aの実線は実際の測定結果を繋いだ線であり、点線は実線から類推することにより得られた線である。
図6Aに示した曲線のうち、上に凸の曲線が液相線に相当し、下に凸の曲線が固相線に相当する。
図6Aより、0<x≦0.23の範囲におけるLLNbOの融点及び凝固点が特定され、0<x≦0.23の範囲において、単相のLi
xLa
(1−x)/3NbO
3を作製可能と判断できる。したがって、本発明の製造方法によってLi
xLa
(1−x)/3NbO
3(0<x≦0.23)の単結晶を製造する場合には、
図6Aから読み取れる融点以上の温度に原料を加熱することにより溶融体を得た後、
図6Aから読み取れる凝固点以下の温度へ冷却すれば良い。この際、冷却過程において、LiNbO
3及びLaNbO
4も析出するが、液相から析出したLLNbOを成長させることにより、LLNbOの単結晶を製造することが可能になる。なお、
図6Aに示したように、0<x<0.23の範囲では、LLNbOの融点がLLNbOの凝固点よりも高温である。
本発明の製造方法のフローチャートの一例を
図6Bに示す。
図6Bに示したように、本発明の製造方法は、加熱工程S11と冷却工程S12とを有している。加熱工程S11は、ペロブスカイト構造の固体電解質の単結晶を製造するための原料を、固体電解質の融点以上の温度に加熱することにより溶融体を得る工程である。例えば、Li
xLa
(1−x)/3NbO
3(0<x≦0.23)の単結晶を製造する場合、この加熱工程S11は、
図6Aから読み取れる融点以上の温度に原料を加熱することにより溶融体を得る工程、とすることができる。また、冷却工程S12は、加熱工程S11で得られた溶融体を、固体電解質の凝固点以下の温度へ冷却する工程である。例えば、Li
xLa
(1−x)/3NbO
3(0<x≦0.23)の単結晶を製造する場合、この冷却工程S12は、
図6Aから読み取れる凝固点以下の温度へ冷却する工程、とすることができる。
本発明の製造方法は、加熱工程及び冷却工程を有していれば、その形態は特に限定されない。冷却工程は、溶融体を一方向に冷却する工程であっても良い。溶融体を一方向に冷却する一例を
図6Cに示す。
図6Cに示したように、溶融体を一方向に冷却する際には、例えば、溶融体を収容した坩堝を加熱する熱源が備えられた炉内で、坩堝を熱源から遠ざける方向へと一方向に移動させることにより、坩堝内の溶融体を一方向に冷却することができる。なお、
図6Cに示す形態で溶融体を一方向に冷却する場合、単結晶は
図6Cの紙面下側から上側へ向かって成長する。このほか、例えば、坩堝へと付与される熱量の付与形態を制御することにより、熱量が付与されている坩堝の高温部を坩堝の一端側から他端側へと移動させながら、当該高温部の移動に追従するように坩堝の低温部を坩堝の一端側から他端側へと移動させることによって、溶融体を一方向に冷却することも可能である。
本発明の製造方法における加熱工程及び冷却工程の一形態を
図6Dに示す。
図6Dに示したように、本発明の製造方法では、加熱工程で原料の加熱を開始してから0.25時間以内に溶融体を得、該溶融体を得てから0.25時間以内に冷却工程を開始することができる。
本発明の製造方法の一形態を
図6Eに示す。
図6Eにおいて、
図6Bに示した工程と同様の工程には、
図6Bで使用した表現と同様の表現を使用し、その説明を適宜省略する。
図6Eに示したように、本発明の製造方法は、冷却工程S12の後に、単結晶冷却工程S13を有していても良い。単結晶冷却工程S13を有する場合、当該単結晶冷却工程S13は、単結晶の凝固開始端と単結晶の凝固終了端との温度差を25℃以下にしながら単結晶を冷却するステップ(温度差制御冷却ステップS13a)を有することが好ましい。「単結晶の凝固開始端と単結晶の凝固終了端との温度差を25℃以下にする」の概要を
図6Fに示す。
図6Fに示したように、例えば、単結晶の成長方向が、
図6Fの紙面下側から上側の方向である場合、単結晶を成長させる坩堝の一端(単結晶の成長方向の一端、
図6Fに示した坩堝の下端)の温度をT1[℃]とし、単結晶を成長させる坩堝の他端(単結晶の成長方向の他端、
図6Fに示した坩堝の上端)の温度をT2[℃]とする。このとき、T1とT2との差が25℃以下(|T2−T1|≦25)になるように制御することによって、単結晶の凝固開始端と単結晶の凝固終了端との温度差を25℃以下にすることが可能である。
本発明の製造方法によってLi
xLa
(1−x)/3NbO
3(0<x≦0.23)の単結晶を製造する場合、
図6Aから読み取れるLLNbOの融点以上に原料を加熱して溶融体を得、これを
図6Aから読み取れるLLNbOの凝固点以下に冷却する工程を有していれば、その形態は特に限定されない。本発明の製造方法では、単結晶の作製に使用可能な公知の方法を適宜用いることができる。そのような方法としては、垂直ブリッジマン法や水平ブリッジマン法等を例示することができる。
図6Gに、水平ブリッジマン法の形態例を示す。
図6Gに示したように、水平ブリッジマン法では、その内部で結晶を成長させる坩堝を、略水平に配置する。そして、温度を制御して固液界面を移動させることにより、結晶を成長させる。
なお、本発明者らがLLNbO単結晶の製造を試みた際には、種結晶として使用可能なLLNbOの単結晶が存在しなかったため、後述するように垂直ブリッジマン法でLLNbO単結晶の作製を試みた。しかしながら、本発明により、LLNbO単結晶を作製することが可能になったため、今後は、本発明により製造したLLNbO単結晶を種結晶として用いて、LLNbO単結晶を製造することも可能である。LLNbO単結晶を種結晶として用いて、LLNbO単結晶を製造する際に使用可能な方法としては、CZ(Czochralski)法やFZ(Floating Zone)法等の公知の方法を例示することができる。
【実施例】
【0033】
1.Li
xLa
(1−x)/3NbO
3単結晶の作製
直径5μm未満のLi
2CO
3(株式会社三徳製、純度99.9%)、La
2O
3(日本コークス工業株式会社製、純度99.9%)、及び、Nb
2O
5(日本コークス工業株式会社製、純度99.9%)を用い、これらの混合比率を変えることにより、上記第1の方法によってxの値を変化させた単相のLi
xLa
(1−x)/3NbO
3焼結体を作製した。単相であるか否かを確認するX線回折には、水平X線回折装置(株式会社リガク製、Smart Lab。以下において同じ。)を使用した。また、xの値を特定するICP発光分光分析には、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8000)を使用した。
続いて、単相のLLNbO焼結体が内径の約90%以上97%以下になる大きさの白金坩堝(内径20mm〜50mm、高さ100mm〜180mm)に、作製した単相のLLNbO焼結体を充填し、これを縦型ブリッジマン炉に設置した。なお、白金坩堝には、底面及び側面の任意の位置に熱電対を設置可能であり、単結晶育成中の温度制御は、B−type又はR−typeの熱電対を用いて特定した温度を制御することにより行った。その後、
図6Aから読み取れる融点以上の温度へと加熱することによりLLNbO焼結体を融解させて溶融体を得た後、
図6Aから読み取れる凝固点以下の温度へと低下させるために白金坩堝を下方へと移動させることにより、溶融体を一方向に凝固させた。例えば、x=0.1の場合、
図6Aから融点=1364℃、凝固点=1320℃と読み取れる。そこで、x=0.1の場合には、1364℃よりも高温である1390℃に加熱し、この温度状態で白金坩堝を保持することにより溶融体を得た。その後、凝固点(1320℃)に設定された箇所以降(当該箇所よりも下方の領域)の温度勾配が0.4℃/mmとなるように温度が制御された縦型ブリッジマン炉において、白金坩堝を0.45mm/hの速さで下方へと移動させることにより、Li
0.1La
0.3NbO
3単結晶の作製を試みた。白金坩堝から取り出した凝固体(直径20mm×長さ92mm)を
図7に示す。
図7の紙面左側から右側の方向が単結晶の成長方向である。
図7に示したように、今回使用した白金坩堝は、テーパー部や成長させる結晶を選択するセレクタ部を有していなかった。
【0034】
また、
図7にA、B、Cと示した各領域で凝固体を切断し、切断面から切り出した試料を、水平X線回折装置を用いて分析することにより、A、B、Cの各領域を調査した。結果を
図8に示す。
図8のA、B、Cは
図7のA、B、Cとそれぞれ対応している。
図8に示したように、A領域からはLLNbO及びLaNbO
4のピークが確認され、B領域(長さ約65mm程度)からはLLNbOのピークが確認され、C領域からはLLNbO及びLiNbO
3のピークが確認された。この結果から、B領域がLLNbOの単相領域であることが確認された。
【0035】
次に、B領域に単結晶が含まれていることを確認するため、B領域の3箇所を、切断面の法線方向が単結晶の成長方向と平行になるようにウエハース状に切断した。そして、水平X線回折装置を用いて切断面について極点測定を行った。結果を
図9に示す。
図9の紙面下側から上側の方向が単結晶の成長方向である。
図9に示したように、測定角度α=31.28°において、全ての部位で(110)極点図が得られた。この結果から、B領域に単結晶が含まれることを確認した。なお、
図9に示した3つの極点図におけるβ角度の相違は(回転しているように見えるのは)、測定時の試料設置角度の違いに起因している。
【0036】
同様に、ICP発光分光分析によりx=0.075であることを確認した育成試料、及び、x=0.22であることを確認した育成試料について極点測定を行った結果を
図10及び
図11に示す。
図10はx=0.075の結晶における結晶面の極点図であり、
図11はx=0.22の結晶における結晶面の極点図である。
図10に示したように、x=0.075の場合には、測定角度α=32.05°において、(110)極点図のシングルパターンが得られた。また、
図11に示したように、x=0.22の場合には、測定角度α=32.45°において、(110)極点図のシングルパターンが得られた。これらの結果から、x=0.075及びx=0.22の場合においても、単結晶が製造されたことを確認した。なお、
図10及び
図11の極点図が
図9の極点図と異なるのは、
図10及び
図11の結果が得られた試料の測定面が、
図9の結果が得られた試料の測定面の裏面に相当するためである。
【0037】
以上より、本発明の製造方法により、Li
xLa
(1−x)/3NbO
3単結晶を製造可能であることが確認された。なお、単結晶の成長速度(白金坩堝の移動速度)を変更して最適条件を検討した結果、テーパー部及びセレクタ部を有しない形態の坩堝を使用した場合、成長速度を0.8mm/h以下とすることにより、競争成長によって結晶成長を促進し、単結晶を得ることが可能であり、成長速度を0.5mm/h以下とすることにより、B領域に占める単結晶の割合を増大しやすくなることが分かった。
【0038】
2.イオン伝導度評価
上記の方法で作製したLLNbO単結晶から、10mm×10mm×厚さ0.5mm以上1mm以下の大きさの結晶を切り出した。そして、一方の電極から他方の電極へと向かう方向が切り出した結晶の成長方向と平行になるように、切り出した結晶を一対の電極で挟み、交流インピーダンス測定装置(ソーラトロン社、1470E+FRA。以下において同じ。)を用いて、交流インピーダンス法によりバルクインピーダンスを特定し、特定したバルクインピーダンスを用いてイオン伝導度を算出した。ICP発光分光分析により特定したxの値とイオン伝導度(実施例)との関係を
図12に示す。
図12の縦軸はイオン伝導度σ[S/cm]、横軸はLi
xLa
(1−x)/3NbO
3におけるxである。
また、LLNbO単結晶を作製する際の原料として使用した単相のLLNbO(1190℃以上1250℃以下の温度で焼成する過程を経て作製し且つ本発明の製造方法における加熱工程及び冷却工程を経る前のLLNbO)についても、交流インピーダンス測定装置を用いて、同様にイオン伝導度(比較例)を算出した。文献に記載されていたLi
xLa
(1−x)/3NbO
3のイオン伝導度(文献値)とともに、
図12に示す。
【0039】
図12より、本発明の製造方法で製造したLLNbO単結晶は、調査したすべての組成において、比較例及び文献値よりも高い伝導度を示した。したがって、本発明のLLNbO単結晶を固体電池に用いることにより、性能を向上させることが可能になると考えられる。また、これまで、LLNbOはx=0.1のときに最高のイオン伝導度を示すと考えられていたが、
図12より、LLNbOはx=0.075付近で最高のイオン伝導度を示すことが分かった。
【0040】
3.単結晶の調査
上記の方法で作製したLLNbO単結晶(以下において単に「単結晶」ということがある。)の外観観察を行うとともに、単結晶の成長方向と垂直に単結晶を切断することにより、単結晶内部の状態を調査した。
図13Aに単結晶の外観を、
図13Bに単結晶の断面を、それぞれ示す。
【0041】
図13Aに示したように、単結晶は全体として透明であったが、大きな亀裂(クラック)が何箇所かに確認された。このクラックには、単結晶の凝固開始側の端部(
図7のA領域に相当。以下において同じ。)に形成される異相から伝播するように発生しているクラックが含まれていた。
【0042】
図13Bに示したように、単結晶の内部にはクラックが確認された。また、白く見える介在物がランダムに単結晶内部に存在していた。ここで、単結晶の面内に存在するクラックは、切断前の単結晶には存在せず、単結晶の切断時に発生した(単結晶は透明であるため、切断前に亀裂が存在しないことを確認した部位を切断した。)。また、単結晶の切断面を確認したところ、単結晶面内のクラックの大半は、白い介在物を起点としていた。以上の結果から、単結晶の内部に存在する介在物は、クラックの一因になることが分かった。
【0043】
次に、外観及び切断面を観察した単結晶について、X線回折により介在物の同定(物質の同定)を試みた。介在物が微量であったこともあり、具体的な物質を同定することはできなかったが、介在物は微量の異相であると推定される。
【0044】
4.異相低減方法の検討
図13Aに示したように、本発明の製造方法で製造した単結晶には、その凝固開始端側及び凝固終了端側に異相が形成され、凝固開始側の端部に存在する異相を起点にクラックが伝播していた。そのため、クラックを低減するためには、単結晶の凝固開始側の端部に形成される異相領域を低減することが有効と考えられ、当該端部の異相を低減することによってクラックを有しない単結晶領域の存在割合を高めることが可能になると考えられる。そこで、異相領域の低減方法について検討を行った。
【0045】
通常、ブリッジマン法では、凝固(結晶成長)を開始する前に、溶解した試料を加熱保持し、全体の熱分布や融液成分の対流が一定に落ち着くまで、長時間に亘って保持される。しかしながら、かかる方法で単結晶を製造すると、単結晶の凝固開始端側及び凝固終了端側に多くの異相が形成されるため、異相領域を低減するためには通常とは異なる方法で単結晶を製造する必要がある。本発明者らは鋭意検討の結果、原料を短時間で溶解した後、所定の時間内に、坩堝底部の冷却を開始し、単結晶を成長させることによって、異相領域を低減可能であることを知見した。より具体的には、例えば、原料を収容した坩堝を含めた周辺部材が熱衝撃に耐え得る最大の昇温速度で加熱炉内を昇温し、坩堝に設置した熱電対で温度を確認するとともに炉体上部に設置したCCDカメラにより原料が完全に溶解したことを確認した後、直ちに、坩堝底部の冷却を開始することにより、異相領域を低減することが可能であった。
【0046】
加熱炉内に設置した、原料が収容されている坩堝を、平均80℃/minの昇温速度で加熱することにより原料を溶解させ(溶解所要時間:0.25時間)、溶解してから0.25時間以内に坩堝底部の冷却を開始することにより、0.7mm/hの成長速度で単結晶を成長させた。このようにして作製した単結晶(以下において、「条件1の試料」ということがある。)を
図14Aに、当該
図14Aに示した単結晶の、凝固開始端側の拡大図を
図15Aに、それぞれ示す。
また、加熱炉内に設置した、原料が収容されている坩堝を、平均3.75℃/minの昇温速度で加熱することにより原料を溶解させ(溶解所要時間:6時間)、溶解してから12時間後に坩堝底部の冷却を開始することにより、0.7mm/hの成長速度で単結晶を成長させた。このようにして作製した単結晶(以下において、「条件2の試料」ということがある。)を
図14Bに、当該
図14Bに示した単結晶の、凝固開始端側の拡大図を
図15Bに、それぞれ示す。
異相領域を確認しやすくするため、
図15A及び
図15Bには、単結晶の凝固開始端側の端部、及び、異相領域と単結晶領域との境界部を点線で示した。すなわち、2本の点線に挟まれた領域が、異相領域に相当する。
【0047】
図15Aに示したように、条件1の試料は、単結晶の凝固開始端側に形成された異相領域の厚さが1mm程度であった。これに対し、
図15Bに示したように、条件2の試料は、単結晶の凝固開始端側に形成された異相領域の厚さが約12mm〜13mm程度であった。これらの結果から、急速昇温によって原料を溶解させた後、従来よりも短時間(例えば0.25時間以下)で冷却を開始することにより、異相領域を低減することが可能であった。また、異相領域が低減された条件1の試料は、条件2の試料よりもクラックが少なかった。これは、単結晶で観察されるクラックが、異相と単結晶との熱膨張差に起因して生じていたためであると推察される。
【0048】
条件1の試料の成長方向と垂直に単結晶(
図7のB領域に相当する部位。以下において、「単結晶領域」ということがある。)を切断した断面を
図16Aに、条件2の試料の成長方向と垂直に単結晶領域を切断した断面を
図16Bに、それぞれ示す。
図16Aに示した条件1の単結晶領域の内部は、
図16Bに示した条件2の単結晶領域の内部よりも、析出した白色の異相(介在物)が少なかった。これは、条件1の試料では、単結晶の凝固開始端側の異相領域が低減された結果、残りの融液成分が異相の析出に適さない成分に近づいたためと考えられる。
【0049】
上述のように、急速昇温で原料を溶解させてから短時間のうちに冷却を開始することにより、単結晶の凝固開始端側に形成される異相領域の厚さを低減することが可能になる。そこで、Li
xLa
(1−x)/3NbO
3におけるxが0.1、0.15、及び、0.2である場合について、上記条件1の試料を製造した方法と、上記条件2の試料を製造した方法のそれぞれで単結晶を製造し、得られた単結晶領域の長さを調べた。結果を表1に示す。表1において、「条件1」とは、上記条件1の試料を製造した方法と同様の条件で作製したことを意味し、「条件2」とは、上記条件2の試料を製造した方法と同様の条件で作製したことを意味する。なお、何れの方法においても、原料は140g、単結晶の成長速度は0.7mm/hとし、直径20mmの単結晶を製造した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1より、条件1の方法で単結晶を製造することにより、条件2の方法で製造された単結晶よりも、単結晶領域の長さを長くすることが可能であった。すなわち、条件1の方法で単結晶を製造することにより、単結晶の歩留まり(試料全体に占める単結晶領域の割合)を高めることが可能であった。
【0052】
異相領域を低減するために、原料を急速に溶解させた後、直ちに冷却を開始する場合、溶解終了から冷却開始に至るまでの間における加熱炉内の温度変化が大きいため、加熱炉内の温度が不安定になることがある。そこで、加熱炉内温度を安定化させやすい形態にする観点から、本発明では、従来よりも多くの断熱材が配置された加熱炉を使用したり、加熱炉の温度を直接制御したりすることが好ましい。なお、上記条件1の単結晶を作製する際における、原料溶解後且つ冷却開始前の、加熱炉内の温度変化は、0.42℃以上0.75℃以下であった。
また、原料を急速に溶解させやすい形態にする観点から、加熱炉は、温度勾配が小さい(例えば0.05℃/mm以下程度)、所定の長さ以上(例えば約150mm以上)のホットゾーンが備えられる形態とすることが好ましい。
【0053】
5.異相偏在化方法の検討
条件1の試料及び条件2の試料の何れにおいても、単結晶領域における介在物(異相)の析出形態はランダムであり、規則性は特に確認されなかった。このように、異相の同時析出を伴う原料系において、主成分以外の微量析出する異相の析出形態は予測し難い。
上述のように、単結晶領域を切断すると、介在物を起点にクラックが形成されるため、ここまで検討した方法で単結晶を製造する場合、クラックを有しない単結晶を切り出すためには、介在物が存在しない箇所を選択的に切り出す必要がある。このような過程を経る単結晶の製造方法では、単結晶の製造効率が低下するため、介在物(異相)が存在しない単結晶領域の存在比率を高める(介在物(異相)を特定の領域に集中して析出させる)方法を特定することが好ましい。
本発明者らは、鋭意検討の結果、単結晶を成長させる際の固液界面を、単結晶の成長方向を法線方向とする面に対して傾斜させながら単結晶を連続的に(例えば一方向に連続的に)成長させることにより、介在物(異相)を偏在させることが可能になることを知見した。
【0054】
垂直ブリッジマン法で単結晶を成長させる場合、従来は、均質な単結晶を得るために、融液を保持する坩堝を一定の速度で回転させながら、炉内の温度不均一の影響が融液を保持する坩堝に及びにくい状態で、単結晶を成長させていた。特に、単結晶の成長方向を法線方向とする平面における温度分布は均一であり、単結晶の成長方向については結晶化温度(凝固温度)から融液の温度まで緩やかな温度勾配を設け、坩堝をゆっくりと移動させることにより単結晶を連続的に一方向に成長させていた。従来の垂直ブリッジマン法における、坩堝内の結晶、固液界面、及び、融液の様子を
図17に簡略化して示す。
図17に示したように、従来の垂直ブリッジマン法では、結晶の成長方向が固液界面に対してほぼ垂直であった。
【0055】
図18に、単結晶を成長させる際の固液界面を、単結晶の成長方向を法線方向とする面に対して傾斜させながら単結晶を一方向に成長させる際における、坩堝内の結晶、固液界面、及び融液の様子を簡略化して示す。
図18に示した状態では、固液界面が水平面ではなく、傾斜している。かかる形態とすることにより、
図18の点線で囲んだ領域(単結晶及び融液を含む水平面で切断した時に融液が存在する側)に、介在物(異相)を偏析させることが可能になる。
【0056】
図18に示したような、単結晶の成長方向を法線方向とする面に対して傾斜させた固液界面は、例えば以下に示す方法の1つによって、又は、2以上を組み合わせることによって実現することが可能である。
(a)軸方向の中心から外側へ向かって対称な温度分布を有する加熱炉内の軸方向の中心ではない箇所に、原料を入れた坩堝を配置する。
(b)軸方向の中心から外側へ向かって対称な温度分布を有する加熱炉内に、坩堝の軸方向が鉛直方向に対して傾くように、原料を入れた坩堝を配置する。
(c)原料を入れた坩堝の一方の側を加熱する加熱能力と、当該坩堝の他方の側を加熱する加熱能力との間に差を設ける。
(d)原料を入れた坩堝の一方の側に(坩堝とヒーターとの間に)断熱材を配置する。
(e)加熱炉の軸方向を法線方向とする断面形状を楕円形にする。
(f)原料を入れる坩堝の一方の側の厚さと他方の側の厚さとの間に差を設ける(坩堝の厚さを非均一にする)。
(g)原料を入れる坩堝の一方の側の構成材料と他方の側の構成材料とを非同一にする。
【0057】
上記(a)及び(d)を組み合わせることにより、水平面内における最高温度地点と最低温度地点との差を5℃以上7℃以下に制御し、
図18に示した状態を実現しながら連続的に成長させたLLNbO単結晶を
図19A及び
図19Bに示す。
図19Bは
図19Aの裏面側に相当する。
図19Aと
図19Bとでは、色が異なっていた。より具体的には、
図19Aに示した側には異相が偏在していなかったため、特に、単結晶領域においては表面が透明であったが、
図19Bに示した側には異相が偏在していたため、単結晶領域を含むほぼ全領域において表面が白色であった。
【0058】
図17に示した状態で連続的に成長させたLLNbO単結晶の断面を
図20Aに、
図19A及び
図19Bに示した試料の単結晶領域の断面を
図20Bに、それぞれ示す。
図20Aでは介在物が偏在していないが、
図20Bでは図中に破線で囲んだ領域が白くなっており、この白色化した領域に介在物が偏在していた。
【0059】
LLNbO単結晶の場合、傾斜した固液界面の鉛直方向下側に異相を偏析させることができ、異相を偏析(偏在化)させることにより、断面に占める、面内に介在物(異相)を有しない単結晶領域の割合を、9割以上にすることも可能であった。以上の方法によって異相を偏在化させることにより、従来は加工時に単結晶面内に生じやすかったクラックの発生が防止され、異相を有しない単結晶領域を容易に切り出すことが可能になった。
【0060】
上記の方法で異相を偏在化させることにより、異相成分の分析が可能になった。そこで、X線回折測定により、異相成分の特定を試みた。その結果、異相成分はLiNb
3O
8であることが判明した。
【0061】
以上、LLNbO単結晶における異相の低減方法及び異相の偏在化方法について説明したが、これらの方法はLLNbO単結晶のみならず、異相の同時析出を伴う他の単結晶を製造する際にも同様に適用することが可能である。
【0062】
6.単結晶内における内部欠損防止方法の検討
本発明者らは、単結晶内における内部欠損(例えばクラック等)を防止しやすくするため、さらに、上述した異相の低減方法や異相の偏在化方法とともに、又は、上述した異相の低減方法や異相の偏在化方法とは独立して実施可能な方法について検討を行った。より具体的には、融点以上の温度へ加熱して溶解させた原料を凝固点以下の温度へと冷却する過程を経て作製した単結晶を、最終的に常温へと冷却する方法について検討を行った。LLNbO単結晶の凝固開始端と凝固終了端との温度差(25℃、31℃、52℃)、及び、単結晶を900℃から150℃まで冷却する際の冷却速度(0.5℃/min、0.27℃/min、0.2℃/min、0.15℃/min、0.1℃/min)に関する条件を変更することにより、LLNbO単結晶内における内部欠損の発生状況を調査した。結果を表2に示す。また、単結晶を冷却する際の温度プロファイルを
図21に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2より、以下の結果が得られた。
(i)単結晶領域の一端(単結晶の凝固開始端)の温度と他端(単結晶の凝固終了端)の温度との差が25℃以下になるように制御しながら単結晶を冷却することにより、単結晶内の内部欠損を低減しやすくなる。
(ii)900℃から150℃まで冷却する際の冷却速度を0.27℃/min未満にすることにより、単結晶内の内部欠損を低減しやすくなる。