特許第5922833号(P5922833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5922833高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922833
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20160510BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20160510BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20160510BHJP
   A61P 5/18 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   A61K37/24ZNA
   A61K9/19
   A61P19/10
   A61P5/18
【請求項の数】3
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2015-179919(P2015-179919)
(22)【出願日】2015年9月11日
(62)【分割の表示】特願2013-519467(P2013-519467)の分割
【原出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2016-14042(P2016-14042A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2015年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-127698(P2011-127698)
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】西尾 文秀
(72)【発明者】
【氏名】前島 卓治
(72)【発明者】
【氏名】三留 佳郎
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/002136(WO,A1)
【文献】 特表2002−512973(JP,A)
【文献】 特表平09−506869(JP,A)
【文献】 PHARMACEUTICLAL RESEARCH,2008年,VOL.25, NO.6,P.1387-1395
【文献】 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SIENCES,2009年,VOL.98, NO.12,P.4485-4500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/22
A61K 9/19
A61P 19/10
C07K 14/635
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤であって、下記の、
1)類縁物質1’:
ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
【化1】

2)類縁物質2’:
ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
【化2】

3)類縁物質3’:
ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
4)類縁物質4’:
ヒトPTH(1−34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
5)類縁物質5’:
ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
)類縁物質9’:
ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
)類縁物質10’:
ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c−1)又は(c−2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
【化3】

)類縁物質11’:
ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
)類縁物質7’
ヒトPTH(1−34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物及び
10)類縁物質8’
ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
を含み、
11)類縁物質6’:
ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
を含まず、
但し、前記高純度の凍結乾燥製剤とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、前記PTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【請求項2】
前記PTHペプチドがヒトPTH(1−34)である、請求項1に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【請求項3】
PTHペプチド含有凍結乾燥製剤がガラス製バイアルに収容された製剤である、請求項1又は2に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPTH(副甲状腺ホルモン)又はその生理学的活性同等物(以下、「PTHペプチド」と総称する。)を有効成分として含有する凍結乾燥製剤に関する。また、本発明はPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に関する。さらに、本発明はPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の検査乃至品質の保証方法に関する。
【背景技術】
【0002】
副甲状腺ホルモンは、カルシトニン類やビタミンD類とともに、血中カルシウム濃度の調節に関与するホルモンである。従って、PTHペプチドは、副甲状腺機能低下症の診断薬として用いられている。また、副甲状腺ホルモンは、生体内において、腎臓における活性型ビタミンD3生成を増加させることにより、腸管でのカルシウム吸収を促進する作用を有することも知られている(非特許文献1)。また、骨粗鬆症患者に対して1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり1回の投与あたり100又は200単位のPTHを皮下投与することにより、当該骨粗鬆症患者の海面骨の骨密度を増加させかつ皮質骨の骨密度を減少させない骨粗鬆症の治療方法が開示されている(特許文献7)。
【0003】
一般に、微量のPTHペプチドを用時溶解型凍結乾燥製剤として製剤化する場合、マンニトール等の糖類あるいはゼラチン等の高分子物質を安定化剤として配合する方法が用いられている(特許文献1、特許文献2)。また、単糖類または二糖類および塩化ナトリウムを含有することを特徴とする凍結乾燥医薬組成物も知られている(特許文献3)。
【0004】
また、上記のような凍結乾燥製剤を無菌性的に製造して医薬品とする場合、通常の医薬品製造施設は、HEPAフィルターを通した一定の風速を有する無菌の空気の流れにより無菌環境を実現したエリアを利用する。つまり、当該無菌環境下の医薬品製造施設内において、典型的には、有効成分含有溶液の調製工程に続く該溶液の無菌ろ過〜容器への充填工程、充填容器の凍結乾燥庫への搬入工程、及び凍結乾燥工程から容器(バイアル等)の封栓工程から成る製造過程が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−60940号公報
【特許文献2】特開平2−111号公報
【特許文献3】特開平5−306235号公報
【特許文献4】特開昭64−16799号公報
【特許文献5】WO02/002136
【特許文献6】特開2003−095974号公報
【特許文献7】特開平8−73376号公報
【特許文献8】WO00/10596
【特許文献9】WO10/30670
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Current Osteoporosis Reports、Vol.6、12−16、2008
【非特許文献2】Journal of pharmaceutical sciences、vol.98、no.12、p4485−4500, 2009
【非特許文献3】ADVANCES IN ENZYMOLOGY、32、221−296、1969
【非特許文献4】J.Biol.Chem.、vol.266、2831−2835、1991
【非特許文献5】M.Takei et al.、Peptide Chemistry 1980、187−192、1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医薬品の有効成分は、原料物質からの化学合成、生物由来物質の単離・精製、或いは遺伝子工学的生産と生成物の単離・精製等により取得される。一般的に、遺伝子組換法を含めいかなる製法の場合でも、原料自体の純度、反応の不完全性、単離・精製過程での分解等により、製造される医薬有効成分として100%の純度を得るのは困難なことが多い。他方で、診断薬や治療薬が不純物を許容量以上に含んでいた場合、当該診断や治療に好ましくない影響を及ぼす可能性を否定することはできないから、依然として安全で有効な医薬を製造するための重要な因子の一つが高純度の生成物を得ることであることに変わりはない。とりわけ、PTHペプチドを含有する製剤を骨粗鬆症の治療/予防のために投与する場合、その投与期間が長期に渉ることもあり得るから、PTHペプチドを含有する製剤は特に高純度であることが必要とされるであろう。
【0008】
しかしながら、前記のような典型的製造過程により本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとすると、当該有効成分(PTHペプチド)の化学構造が変化した物質(以下、「PTH類縁物質」という。)を含んだ製剤が製造されてしまうことが知見された。とりわけ製造スケールが大きくなると、生産数量の増加に伴って前記PTH類縁物質の生成量が実質的に許容できない程度までに増加することさえ危惧されるといった問題に直面した。さらに、当該PTH類縁物質の生成量は常に一定でなく、製造場所や時期、時間等の違いによっても変化するものであったが、該PTH類縁物質が生成されてしまう原因も特定されていなかったことから、その生成量を管理できないという現実的に重大な問題にも直面した。
【0009】
しかして、本発明は、高純度、すなわちPTH類縁物質の含量が許容できるまで低いレベルであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を提供することを課題とする。さらに本発明は、当該高純度PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明の別の課題は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を確認するなどの目的のためのPTH類縁物質の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、製造スケールが大きくなり、生産数量の増加に伴ってPTH類縁物質の生成量が実質的に許容できない程度までに増加することが危惧されるに至り、当該PTH類縁物質を単離しキャラクタゼーションすることに成功した。更に、当該PTH類縁物質の生成が、PTHペプチド含有溶液等の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することにより顕著に防止・低減されることを見出した。
【0011】
また、理論に拘束されるわけではないが、前記でキャラクタリゼーションされたPTH類縁物質の構造的特徴、および当該類縁物質の生成が医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することにより防止・低減された事実から、それらのPTH類縁物質の生成が、医薬品製造施設内空気環境内に存在する酸化能を有する物質に起因すると推定された。確かに、医薬品製造施設の空気環境は、高い清浄度(グレードA等)であることの他に、屡、酸化能を有する気体性物質を含むことがある。つまり、医薬品製造施設は、より徹底した無菌環境を実現するためにホルムアルデヒドやオゾン等の滅菌剤により燻蒸消毒されることがある。そして、当該燻蒸消毒の残留物としてホルムアルデヒドやオゾンといった酸化能を有する気体を含有する場合があり得ることにも思い至ったのである。更に言えば、燻蒸消毒の有無に拘らずオゾンは大気中にも0.001〜0.02ppm、場所や時間、季節によっては約0.02〜0.1ppmの濃度で存在している。
【0012】
しかるに、本発明者らは、本発明で明らかとなったPTH類縁物質の生成が、オゾンを含有する空気に対してPTHペプチドを接触させることにより再現されることも確認した。
【0013】
したがって本発明は以下の局面及び好適な実施態様を包含する。
【0014】
[1] 高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤であって、但し高純度とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する少なくとも1種のPTH類縁物質の量が1.0%以下であり、及び/又はPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味し、該凍結乾燥製剤は、凍結乾燥前のPTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制したことを特徴とする方法により製造される、前記PTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0015】
[2] 前記PTH類縁物質が、
1)類縁物質1:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より64Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(1−a)〜(1−c)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(1−a) Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu−Met−His−Asn−Leu−Gly−Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、
(1−b) His−Leu−Asn−Ser−Met−Glu−Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(1−c) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
2)類縁物質2:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より36Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(2−a)〜(2−c)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(2−a) Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu−Met−His−Asn−Leu−Gly−Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、
(2−b) His−Leu−Asn−Ser−Met−Glu−Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(2−c) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
3)類縁物質3:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より32Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(3−a)〜(3−b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(3−a) Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu−Met−His−Asn−Leu−Gly−Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、及び
(3−b) His−Leu−Asn−Ser−Met−Glu−Arg(配列番号:2)の質量数+16Da;
4)類縁物質4:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より48Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(4−a)〜(4−b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(4−a) Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu−Met−His−Asn−Leu−Gly−Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、及び
(4−b) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
5)類縁物質5:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より48Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(5−a)〜(5−b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(5−a) His−Leu−Asn−Ser−Met−Glu−Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(5−b) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
6)類縁物質6:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より20Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(6−a)〜(6−b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(6−a) His−Leu−Asn−Ser−Met−Glu−Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(6−b) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
7)類縁物質7:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より16Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(7−a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(7−a) Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu−Met−His−Asn−Leu−Gly−Lys(配列番号:1)の質量数+16Da;
8)類縁物質8:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より16Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(8−a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(8−a) His−Leu−Asn−Ser−Met−Glu−Arg(配列番号:2)の質量数+16Da;
9)類縁物質9:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より32Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(9−a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(9−a) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
10)類縁物質10:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より16Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(10−a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(10−a) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+16Da;又は
11)類縁物質11:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より4Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(11−a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(11−a) Val−Glu−Trp−Leu−Arg(配列番号:3)の質量数+4Da、
のうちの少なくとも1種以上である、[1]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0016】
[3] 前記PTH類縁物質が、
1)類縁物質1’:
ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
【化1】


2)類縁物質2’:
ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
【化2】


3)類縁物質3’:
ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
4)類縁物質4’:
ヒトPTH(1−34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
5)類縁物質5’:
ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
6)類縁物質6’:
ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
7)類縁物質7’
ヒトPTH(1−34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
8)類縁物質8’
ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
9)類縁物質9’:
ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
10)類縁物質10’:
ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c−1)又は(c−2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
【化3】

;又は
11)類縁物質11’:
ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
のうちの少なくとも1種以上である、[1]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0017】
[4] 前記高純度が、製剤中の少なくとも1種以上の上記類縁物質1乃至11の量が該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して1.0%以下であり、及び/又は上記類縁物質量1乃至11の合計量がPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して5.0%以下であることを意味する、[2]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0018】
[5] 前記高純度が、製剤中の少なくとも1種以上の上記類縁物質1’乃至11’の量が該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して1.0%以下であり、及び/又は上記類縁物質量1’乃至11’の合計量がPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して5.0%以下であることを意味する、[3]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0019】
[6] 前記PTHペプチドがヒトPTH(1−34)である、[1]乃至[5]いずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0020】
[7] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤がガラス製バイアルに収容された製剤である、[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0021】
[8] 凍結乾燥前のPTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露の抑制が、PTHペプチド含有溶液調製工程、無菌濾過工程、薬液充填工程、及び凍結乾燥手段への搬入工程のいずれか1以上の工程で行われることを特徴とする、[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0022】
[9] 更に、凍結乾燥後のバイアル封栓工程においても凍結乾燥物が医薬品製造施設内空気環境に暴露されることを抑制することを含む方法により製造されることを特徴とする、[8]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0023】
[10] 凍結乾燥前のPTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露の抑制が、凍結乾燥手段への搬入工程で行われることを特徴とする、[1]乃至[9]のいずれか1項に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0024】
[11] 前記暴露の抑制が、医薬品製造施設内空気が凍結乾燥手段内へ流入することを抑制する手段が講じられた凍結乾燥庫を用いることで行われることを特徴とする、[10]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0025】
[12] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部に備えられた容易に開閉可能な副扉を有する凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該副扉を容器搬入時のみ開け且つ搬入後は速やかに閉めることで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[11]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0026】
[13] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部を有する凍結乾燥庫であり、医薬品製造施設内空気が凍結乾燥手段内へ流入することを抑制する手段が、流動空気の流れを該開口部から庫内に向かわない方向に変える整風カバーである、[11]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
[14] 前記搬入工程が、凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[10]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0027】
[15] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部に備えられた容易に開閉可能な副扉を有する凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該副扉を容器搬入時のみ開け搬入後は速やかに閉めること、並びに凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[10]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0028】
[16] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部を有し、更に該開口部に整風カバーを備える凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該整風カバーが流動空気の流れを庫内に向かわない方向に変えること、並びに凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[10]に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
[17] 前記搬入工程が3時間以上にわたる該工程である、[10]乃至[16]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0029】
[18] PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程の終了までが3時間以上にわたり、その間の1以上の工程においてPTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露が抑制される方法により製造されることを特徴とする、[8]乃至[17]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0030】
[19] 前記不活性ガスが窒素ガスである、[14]乃至[18]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0031】
[20] 高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤であって、該凍結乾燥製剤は、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段へ搬入する際に医薬品製造施設内空気環境に対して暴露されるのを抑制したことを特徴とする方法で製造され、但し前記高純度とは当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する少なくとも1種のPTH類縁物質の量が1.0%以下であり、及び/又はPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味し、前記搬入工程は3時間以上にわたる工程であり、且つ前記空気環境はHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されている環境であり、該HEPAフィルター直下20cmの位置の気流が0.2〜1.0m/sの流速気流である、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
[21] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の1以上の工程においてPTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする方法。
【0032】
[22] 更に、凍結乾燥後のバイアル封栓工程においても凍結乾燥物が医薬品製造施設内空気環境に暴露されることを抑制することを含む、[21]に記載の方法。
【0033】
[23] 凍結乾燥手段への搬入工程においてPTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[21]又は[22]に記載の方法。
【0034】
[24] 前記暴露の抑制が、医薬品製造施設内空気が凍結乾燥手段内へ流入することを抑制する手段が講じられた凍結乾燥庫を用いることを特徴とする、[23]に記載の方法。
【0035】
[25] 凍結乾燥手段への搬入工程が3時間以上にわたる該工程である、[23]又は[24]に記載の方法。
【0036】
[26] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部に備えられた容易に開閉可能な副扉を有する凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該副扉を容器搬入時のみ開け搬入後は速やかに閉めることで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制する、[24]又は[25]に記載の方法。
【0037】
[27] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部を有する凍結乾燥庫であり、医薬品製造施設内空気が凍結乾燥手段内へ流入することを抑制する手段が、流動空気の流れを該開口部から庫内に向かわない方向に変える整風カバーである、[24]又は[25]に記載の方法。
[28] 凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[23]又は[25]に記載の方法。
【0038】
[29] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部に備えられた容易に開閉可能な副扉を有する凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該副扉を溶液容器搬入時のみ開け搬入後に速やかに閉めること、並びに凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[23]又は[25]に記載の方法。
[30] 前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部を有し、更に該開口部に整風カバーを備える凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該整風カバーが流動空気の流れを庫内に向かわない方向に変えること、並びに凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする、[23]又は[25]に記載の方法。
【0039】
[31] 前記不活性ガスが窒素である、[28]乃至[30]のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
[32] 前記PTHペプチド含有溶液を収容する容器がガラス製バイアルである、[21]乃至[31]のいずれか1つに記載の方法。
【0041】
[33] 前記PTHがヒトPTH(1−34)である、[21]乃至[32]のいずれか1つに記載の方法。
【0042】
[34] 医薬品製造施設内空気環境が、1)グレードAの空気であり、2)粒径0.3μmの粒子を99.97%以上の効率で捕らえる性能を有するHEPA フィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されており、且つ、3)含有オゾン濃度が0.001〜0.1ppmの空気環境である、[21]乃至[33]のいずれか1つに記載の方法。
【0043】
[35] 医薬品製造施設内空気環境が、含有ホルムアルデヒド濃度0.1ppm以下の空気環境である、[21]乃至[34]のいずれか1つに記載の方法。
【0044】
[36] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する少なくとも1種のPTH類縁物質の量を1.0%以下とし、及び/又はPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量を5.0%以下とするための、[21]乃至[35]のいずれか1つに記載の方法。
【0045】
[37] 上記[2]に記載のPTH類縁物質1乃至11の生成を抑制するための、[21]乃至[36]のいずれか1つに記載の方法。
【0046】
[38] 上記[3]に記載のPTH類縁物質1’乃至11’ の生成を抑制するための、[21]乃至[36]のいずれか1つに記載の方法。
【0047】
[39] 上記[21]〜[38]のいずれか1つに記載の方法により製造された、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
[40] 高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤の製造方法であって、該製造方法は、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段へ搬入する際に医薬品製造施設内空気環境に対して暴露されるのを抑制したことを特徴とする方法であり、但し前記高純度とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する少なくとも1種のPTH類縁物質の量が1.0%以下であり、及び/又はPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味し、前記搬入工程は3時間以上にわたる工程であり、且つ前記空気環境はHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されている環境であり、該HEPAフィルター直下20cmの位置の気流が0.2〜1.0m/sの流速気流である、前記製造方法。
【0048】
更に本発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の医薬品としての適合性の保証及び法令の遵守のために重要である検査方法を意図する。当該検査方法は、前記PTH類縁物質のいずれか1つ以上、またはその全ての存在確認、及び/又は存在量を定量することを特徴とする。当該局面及び好適な実施態様として以下のものを包含する。
【0049】
[41] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の検査方法であって、該方法は、該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中における[2]に記載のPTH類縁物質1乃至11の少なくとも1種以上の存在を確認、及び/又は存在量を定量することを特徴とする方法。
【0050】
[42] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の検査方法であって、該方法は、該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中における[3]に記載のPTH類縁物質1’乃至11’の少なくとも1種以上の存在を確認、及び/又は存在量を定量することを特徴とする方法。
【0051】
[43] 前記PTH類縁物質の定量が、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤に由来する試料を高速液体クロマトグラフィーに付して紫外部吸収を測定した際のクロマトグラム上における前記PTH類縁物質に相当するピークの面積を計算することを含む、[41]又は[42]に記載の方法。
【0052】
[44] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤に由来する試料を高速液体クロマトグラフィーに付して紫外部吸収を測定した際のクロマトグラム上における前記PTH類縁体に相当するピークの面積と、同一クロマトグラム上におけるPTHペプチドに相当するピーク面積或いはPTHペプチドのピーク面積とそれ以外に検出された全てのPTH類縁物質のピーク面積の和を比較することで当該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中のPTHペプチドの純度を算出することを含む、[43]に記載の方法。
【0053】
[45] 前記クロマトグラム上で前記PTH類縁物質のいずれか2種以上が1又は2以上の単一ピークとして検出されるクロマトグラフィー条件を適用した場合において、当該ピークの面積と、同一クロマトグラム上におけるPTHペプチドに相当するピーク面積或いはPTHペプチドのピーク面積とそれ以外に検出された全てのPTH類縁物質のピーク面積の和を比較することで当該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中のPTHペプチドの純度を算出することを含む、[44]に記載の方法。
【0054】
[46] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する少なくとも1種のPTH類縁物質の量が1.0%以下、及び/又はPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを保証するための、[41]乃至[45]のいずれか1つに記載の方法。
【0055】
[47] 更に、高速液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて前記PTH類縁物質の質量数を検出することを含む、[41]乃至[46]のいずれか1つに記載の方法。
【0056】
[48] 更に、前記クロマトグラム上で単一ピークを与える物質を分取し、当該物質をトリプシン消化して生じるフラグメントの質量数を同定することを含む、[41]乃至[47]のいずれか1つに記載の方法。
【0057】
[49] 上記[41]乃至[48]のいずれか1つに記載の検査方法を実施する工程を含む、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤から成る医薬品の製造方法。
【0058】
更に、本発明の好適なPTHペプチド含有凍結乾燥製剤として以下の局面も意図される。
【0059】
[50] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤であって、少なくとも1以上のPTH類縁物質がPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して1.0%以下であり、及び/又全PTH類縁物質量がPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して5.0%以下であることを特徴とするPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0060】
[51] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤であって、それぞれのPTH類縁物質のいずれもがPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して1.0%以下であり、及び/又全PTH類縁物質量がPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して5.0%以下であることを特徴とするPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0061】
[52] PTH類縁物質が上記[2]記載の類縁物質である、[50]又は[51]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0062】
[53] PTH類縁物質が上記[3]記載の類縁物質である、[50]又は[51]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0063】
[54] PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する類縁物質量が少なくとも下記の関係:
類縁物質1量が0.04%以下;
類縁物質3と類縁物質4の合計量が0.11%以下;
類縁物質5の量が0.26%以下;
類縁物質7の量が0.33%以下;
類縁物質8の量が0.21〜1.00%から任意に選ばれる百分率以下;及び
類縁物質9の量が0.68%以下
にある、[52]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0064】
[55] PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する類縁物質量が少なくとも下記の関係:
類縁物質1’量が0.04%以下;
類縁物質3’と類縁物質4’の合計量が0.11%以下;
類縁物質5’の量が0.26%以下;
類縁物質7’の量が0.33%以下;
類縁物質8’の量が0.21〜1.00%から任意に選ばれる百分率以下;及び
類縁物質9’の量が0.68%以下
にある、[53]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0065】
[56] 類縁物質1の量、類縁物質2の量、類縁物質3と類縁物質4の合計量、類縁物質5の量、類縁物質6の量、類縁物質7の量、類縁物質8の量、類縁物質9の量、類縁物質10及び類縁物質11の合計量のいずれもがPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して1.0%以下である、[52]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0066】
[57] 類縁物質1’の量、類縁物質2’の量、類縁物質3’と類縁物質4’の合計量、類縁物質5’の量、類縁物質6’の量、類縁物質7’の量、類縁物質8’の量、類縁物質9’の量、類縁物質10’及び類縁物質11’の合計量のいずれもがPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対して1.0%以下である、[53]記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0067】
[58] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が、栓を有するガラス容器に充填された製剤である、[50]乃至[57]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0068】
[59] PTHペプチド含有凍結乾燥製剤がガラス製バイアル製剤である、[50]乃至[58]のいずれか1つに記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。
【0069】
[60] PTHペプチドがヒトPTH(1−34)である[50]乃至[59]いずれか1つに記載のPTH含有凍結乾燥製剤。
【発明の効果】
【0070】
本発明により高純度PTH含有凍結乾燥製剤が提供される。すなわち、本発明においてPTH含有凍結乾燥製剤中で生成していることが確認され、キャラクタリゼーションされたPTH類縁物質の、医薬品製造時における好ましくない生成が防止・低減される。また、当該PTH類縁物質を定量することで、簡便、迅速、且つ確実にPTH含有凍結乾燥製剤の品質を確認・検証しつつ、医薬品として適格な当該製剤を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】実施例及び比較例として製造したPTHペプチド凍結乾燥製剤の原料として用いたPTHペプチドを試料として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、紫外部(214nm)吸収を測定した際のクロマトグラムを示す。横軸は時間(分)を、縦軸は吸収強度を表す。約20〜21分前後に現れた大きなピークはヒトPTH(1−34)である。”6(丸囲い数字)”は類縁物質7(類縁物質7’)に、”7(丸囲い数字)”は類縁物質8(類縁物質8’)に対応する。
図2】実施例1として製造したPTHペプチド凍結乾燥製剤を試料として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、紫外部(214nm)吸収を測定した際のクロマトグラムを示す。横軸は時間(分)を、縦軸は吸収強度を表す。21.157分(保持時間)に現れた大きなピークはヒトPTH(1−34)である。”1(丸囲い数字)”は類縁物質1(類縁物質1’)に、”2(丸囲い数字)”は類縁物質2(類縁物質2’)に、”3(丸囲い数字)”は類縁物質3と類縁物質4’の混合物(類縁物質3’と類縁物質4’の混合物)に、”4(丸囲い数字)”は類縁物質5(類縁物質5’)に、”6(丸囲い数字)”は類縁物質7(類縁物質7’)に、”7(丸囲い数字)”は類縁物質8(類縁物質8’)に、”8(丸囲い数字)”は類縁物質9(類縁物質9’)に、”9(丸囲い数字)”は類縁物質10と類縁物質11の混合物(類縁物質10’と混合物11’の混合物)に対応する。
図3】比較例1として製造したPTHペプチド凍結乾燥製剤を試料として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、紫外部(214nm)吸収を測定した際のクロマトグラムを示す。横軸は時間(分)を、縦軸は吸収強度を表す。20.279分(保持時間)に現れた大きなピークはヒトPTH(1−34)である。”5(丸囲い数字)”は類縁物質6(類縁物質6’)に、その他の丸囲い数字の意味は図2と同じ。
図4】試験例2としてオゾンに暴露したPTHペプチド凍結乾燥製剤を試料として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、紫外部(214nm)吸収を測定した際のクロマトグラムを示す。横軸は時間(分)を、縦軸は吸収強度を表す。22.670分(保持時間)に現れた大きなピークはヒトPTH(1−34)である。丸囲い数字の意味は図2と同じ。
図5】メチオニン酸化体の構造を示す。
図6】トリプトファン変化体の構造を示す。
図7】類縁物質1の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図8】類縁物質2の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図9】類縁物質3と類縁物質4の混合物の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図10】類縁物質5の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図11】類縁物質6の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図12】類縁物質7の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図13】類縁物質8の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図14】類縁物質9の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図15】類縁物質10と11の混合物の高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)の結果を示す。横軸は時間(分)を、縦軸は検出強度を表す。
図16】本発明の好適な凍結乾燥手段の一例を示す模式図である。
図17】本発明の好適な凍結乾燥手段の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明について、具体的に説明する。
【0073】
(1) PTHペプチド
本発明において「PTHペプチド」の用語は、天然型のPTH及びその生理学的活性同等物の総称として用いる。PTHの生理学的活性は血清カルシウム上昇作用を有するものとして特徴付けられる。好適なPTHペプチドは、天然型PTHまたはその部分ペプチド類を包含し、分子量約4,000から10,000のペプチド類であってよい。ただしPTHペプチドは、すべての構成アミノ酸残基が天然体と比較して化学修飾されていないものであり、後述する(2)PTH類縁物質を含まないものである。部分ペプチドの具体例としては、34〜84個のアミノ酸配列を有するヒトPTH(1−34)、ヒトPTH(1−35)、ヒトPTH(1−36)、ヒトPTH(1−37)、ヒトPTH(1−38)、ヒトPTH(1−84)等があげられる。すなわち、ヒトPTH(1−34)とは、天然型のヒトPTHのアミノ酸番号1〜34に対応する当該天然型配列の部分ペプチドである。好適には、ヒトPTH(1−34)、ヒトPTH(1−84)が好ましく、特に好ましくはヒトPTH(1−34)である。ヒト−PTH(1−34)のアミノ酸配列は以下のとおりである:
【化4】

また、本発明のPTHペプチドは、1種又は2種以上の揮発性有機酸と形成した塩として存在してもよい。揮発性有機酸としては、トリフルオロ酢酸、蟻酸、酢酸などが例示され、好ましくは酢酸を挙げることができるが、それに限定されない。フリー体のPTHペプチドと揮発性有機酸が塩を形成する際の両者の比率も、可能な塩を形成する限りにおいて特に限定されない。例えば、ヒト−PTH(1−34)は、その分子中に9分子の塩基性アミノ酸残基と4分子の酸性アミノ酸残基を有するため、それらの分子内における塩形成を考慮に入れると、塩基性アミノ酸5残基を酢酸の化学当量とすることができる。例えば、酢酸量に酢酸重量×100(%)/ヒト−PTH(1−34)のペプチド重量、で表される酢酸含量を用いれば、一つの理論として、フリー体であるヒト−PTH(1−34)に対する酢酸の化学当量は約7.3%(重量%)となる。本願明細書において、フリー体であるヒト−PTH(1−34)は「テリパラチド」と称され、またテリパラチドの酢酸塩は「テリパラチド酢酸塩」と称されることもある。テリパラチド酢酸塩における酢酸含量は、テリパラチドと酢酸が塩を形成する限りにおいて特に限定されず、例えば、前記の理論化学等量である7.3%以上であってもよく、場合によっては0%を超えれば1%未満でも差し支えない。典型的には、テリパラチド酢酸塩における酢酸含量として、1〜7%、好ましくは2〜6%が例示され得る。
【0074】
ただし、本発明のPTHペプチドがフリー体であるかその塩であるかに関わらず、本発明の製剤中のPTHペプチド量、各PTH類縁物質量、PTH類縁物質混合物量および全PTH類縁物質はHPLC試験で定量され得、そしてその場合のPTHペプチドやPTH類縁物質は全てフリー体量として定量されることに留意すべきである。
【0075】
(2) PTH類縁物質
本発明にける「PTH類縁物質」は、広義には、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤由来の試料をHPLCに付した際に、当該クロマトグラム上で有効成分であるPTHペプチドとは異なるピークとして検出されるものとして定義される。従って、当該クロマトグラム上で元来のPTHペプチドと異なる1つのピークとして検出されるならば、そのピーク内において2以上の別個の化学物質が混在している場合でも、当該ピークに含まれる全ての化学物質をまとめて1つの「PTH類縁物質」と見做してよい。つまり、一般的な凍結乾燥製剤の純度確認や測定の目的においては、HPLCのクロマトグラム上で単一ピークとして検出可能な複数の化学物質の混合物も包括的に「類縁物質」ということがあり、且つそのような混合物から成る単一ピークを便宜的に1つの「類縁物質」と見做して純度確認や純度計算等をすることが広く行われているから、本発明においても所与の条件下のHPLCにおいて単一ピークとして検出される複数の化学物質の混合物を包括的して1種の「PTH類縁物質」と見做すことを妨げられない。
【0076】
本発明において、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造中に生成することが見出されたPTH類縁物質は、以下の表1のようにキャラクタリゼーションされた。
【表1】

上記の表1において、T1〜T3は、各類縁物質をトリプシン消化した際に生じる代表的なフラグメントであり、ヒトPTH(1−34)配列のアミノ酸番号に基づき記載すると下記のとおりである。
【化5】

また、表1において被変化アミノ酸の番号は、対応するヒトPTH(1−34)配列のアミノ酸番号として表記されており、本明細書において特段の断りがない場合は同様の表記である。
【0077】
更に、表1の推定構造において、ヒトPTH(1−34)−Met8[O]−Met18[O]−Trp23[二酸化](類縁物質1’)とは、ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がそれぞれメチオニンスルホキシド残基であり、23位トリプトファンに対応する残基が以下の構造(a)で示される残基(Trp23酸化(a)残基)であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。
【化6】

また、ヒトPTH(1−34)−Met8[O]−Met18[O]−Trp23[二酸化―ギ酸脱離](類縁物質2’)とは、ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がそれぞれメチオニンスルホキシド残基であり、23位トリプトファンに対応する残基が以下の構造(b)で示される残基(Trp23酸化(b)残基)であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。
【化7】

同様に、ヒトPTH(1−34)−Met8[O]−Met18[O](類縁物質3’)とは、ヒトPTH(1−34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がそれぞれメチオニンスルホキシド残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。また、ヒトPTH(1−34)−Met8[O]−Trp23[二酸化](類縁物質4’)とは、ヒトPTH(1−34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基であり、23位トリプトファンに対応する残基がTrp23酸化(a)残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。なお、HPLC条件によっては、類縁物質3’と類縁物質4’が単一のピークとして検出され易く、その場合、前記のとおりに当該類縁物質3’と類縁物質4’の混合物としてPTH類縁物質を定義してもよい。
【0078】
ヒトPTH(1−34)−Met18[O]−Trp23[二酸化](類縁物質5’)とは、ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基であり、23位トリプトファンに対応する残基がTrp23酸化(a)残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。
【0079】
ヒトPTH(1−34)−Met18[O]−Trp23[二酸化―ギ酸脱離](類縁物質6’)とは、ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基であり、23位トリプトファンに対応する残基がTrp23酸化(b)残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。
【0080】
ヒトPTH(1−34)−Met8[O](類縁物質7’)とは、ヒトPTH(1−34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一のPTH類縁物質を意味する。
【0081】
ヒトPTH(1−34)−Met18[O](類縁物質8’)とは、ヒトPTH(1−34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一のPTH類縁物質を意味する。
【0082】
ヒトPTH(1−34)−Trp23[二酸化](類縁物質9’)とは、ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基がTrp23酸化(a)残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。
【0083】
ヒトPTH(1−34)−Trp23[一酸化](類縁物質10’)とは、ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基が以下の構造(c)−1または(c)−2で示される残基(Trp23酸化(c)残基)であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。
【化8】

ヒトPTH(1−34)−Trp23[二酸化―ギ酸脱離](類縁物質11’)とは、ヒトPTH(1−34)の23位トリプトファンに対応する残基がTrp23酸化(b)残基であり、その他の構造は元のPTHペプチドと同一であるPTH類縁物質を意味する。なお、HPLC条件によっては、類縁物質10’と類縁物質11’が単一のピークとして検出され易く、その場合、前記のとおりに当該類縁物質10’と類縁物質11’の混合物としてPTH類縁物質が定義できる。
【0084】
上記の類縁物質1’乃至11’では、いずれもメチオニンやトリプトファンが酸化して生じる変性アミノ酸残基が導入されるようにPTHペプチドが変化している。従って、本発明のPTH類縁物質の生成が、酸化能を有する物質とPTHペプチドとの接触により開始されると推論することは合理的と思われる。つまり、本明細書において「酸化能を有する物質」とは、PTHペプチドの構成アミノ酸、特にメチオニンやトリプトファンを酸化する能力を有する物質を意味する。殊に、前記のとおり医薬品製造施設内の空気にはオゾンやホルムアルデヒドなどの酸化性気体分子が存在する場合があることに鑑みて、本明細書における「酸化能を有する物質」としては、そのような医薬品製造施設内空気に含有されることのある、メチオニンやトリプトファンを酸化し得る物質が興味深い。
【0085】
なお、上記から明らかなように、有効成分として含有されるPTHペプチドがヒトPTH(1−34)以外の場合でも、上記のようなPTH類縁物質の定義が適用できる。例えば、ヒトPTH(1−84)を有効成分として用いた場合、対応する類縁物質1’もヒトPTH(1−84)−Met8[O]−Met18[O]−Trp23[二酸化]と表記され得、その場合、ヒトPTH(1−84)の8位および18位メチオニン残基がそれぞれメチオニンスルホキシド残基であり、23位トリプトファン残基がTrp23酸化(a)残基であり、その他の構造はヒトPTH(1−84)と同一であるPTH類縁物質が指定できる。
【0086】
(3) PTH類縁物質の検出と定量
PTH含有凍結乾燥製剤中のPTH類縁物質は、当該製剤を生理食塩液1mLで溶解し、その溶解液と添加液(塩化ベンザルコニウム0.25gに50mM硫酸緩衝液(pH2.3)を加えて50mLとしたもの)を9:1の割合で混合して試料を作製し、当該試料100μL、下記の段落〔0087〕〜〔0089〕に記載の条件下のHPLCに付すことにより、検出または定量る。なお、試料は5℃付近の一定温度に付してHPLCに付す。ここで、PTH類縁物質に関し「含む」とは、前記HPLCで検出されることを意味し、「含まない」とは、前記HPLCで検出されないことを意味する。
【0087】
<HPLCの条件>
a)検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm)
b)カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填(Agilent Technologies社製のZorbax 300SB−C18、又は同等品)
c)カラム温度:40℃付近の一定温度
d)移動相:
移動相A:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液900mLにアセトニトリル100mLを加える。
【0088】
移動相B:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液500mLにアセトニトリル500mLを加える。
【0089】
e)移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表2のように変えて濃度勾配制御する。
【表2】

f)流量:毎分1.0mL
g)検出時間:試料溶液注入後45分間。ただし溶媒ピークの後ろからとする。
【0090】
本発明のPTHペプチド及びPTH類縁物質は紫外部領域において実質的な吸光度を有するので、その検出及び定量には紫外部吸収をモニターすることが有利である。測定波長は、PTHペプチド及びPTH類縁物質の検出が可能であれば特に限定されないが、例えば210〜360nm、好ましくは210〜280nm、より好ましくは210〜254nmの範囲の1以上の波長を選択すればよい。好適な波長の一例は214nmである。当該紫外吸収の測定値に基づいてクロマトグラムを作成することが可能である。
【0091】
上記のHPLCを実施して得られるクロマトグラムに基づく各PTHの類縁物質量及びPTHペプチド量は、当該クロマトグラム上の各々のピーク面積を(例えば、自動積分法により)算出することで求めることができる。そして、当該算出値に基づいて、下記の式1および2により、それぞれ、各PTH類縁物質量(%)及び全PTH類縁物質量(%)を定量及び比較できる。なお、式中の「総ピーク面積」とは、上記クロマトグラム上のPTHペプチドのピーク面積とそれ以外に検出された全てのPTH類縁物質のピーク面積を足すことで求められる値である。従って、当該「総ピーク面積」は、「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に相当する。また、本発明において特に断りのない場合、「%」は下記式の意味を有する。
【0092】
<式1>
各PTH類縁物質量(%)=(各類縁物質のピーク面積/総ピーク面積)×100
<式2>
全PTH類縁物質量(%)=(各類縁物質のピーク面積の総和/総ピーク面積)×100
なお、上記の条件下でHPLCを実施した場合に、前記のとおりヒト−PTH(1−34)から生成する類縁物質3と4(類縁物質3'と4’)は単一のピークとして溶出されてくるが、その場合には当該単一ピークを1つの類縁物質と見做しても製剤の純度確認乃至測定の用に供する際には結果に影響を与えないから、当該類縁物質3と4(類縁物質3'と4’)の混合ピークを1つの類縁物質と見做してもよい。類縁物質10と11(類縁物質10'と11’)についても同様である。
【0093】
下記の表3に、ヒトPTH(1−34)を含有する凍結乾燥製剤に由来する試料に対し上記の条件下でHPLCを実施した場合の典型的な測定例を示す。なお、表中で「おおよその相対保持時間」と表記したのは、相対保持時間も使用するカラムや移動相流量により変化する場合があるからであるが、その場合でも、当該相対保持時間を目安としつつクロマトグラムのパターンに基づいて各類縁物質を同定、定量できる。
【表3】

(4) PTHペプチド含有凍結乾燥製剤
本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤とはPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤を意味する。
【0094】
本発明のPTH含有凍結乾燥製剤の一態様は、当該製剤中のあるPTH類縁物質量が「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して1.0%以下であり、及び/又は当該製剤中の全PTH類縁物質量も「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して5.0%以下であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤、である。
【0095】
また、本発明のPTH含有凍結乾燥製剤の別の態様は、当該製剤中のそれぞれのPTH類縁物質量がいずれも「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して1.0%以下であり、及び/又は当該製剤中の全PTH類縁物質量も「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して5.0%以下であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤である。なお、「1.0%以下」及び「5.0%以下」という時には、PTH類縁物質が本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤中に全く含まれない場合も、あるいは当該%以下で含まれる場合もあることを意味する。
【0096】
好ましくは、本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤中において、少なくとも1以上のPTH類縁物質が「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して1.0%を超えて含まれず、より好ましくは全てのPTH類縁物質が「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して1.0%を超えて含まれない。また、前記のとおり、2以上の類縁物質がクロマトグラム上で単一のピークを与えた場合に、当該単一ピークを1つの類縁物質と見做し、その見做し類縁物質が「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に対して1.0%を超えて含まれないことが更に好ましい。また、当該製剤中のそれぞれのPTH類縁物質量が好ましくは「1.0%以下」であるが、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下であっても好ましい。さらに、全PTH類縁物質量が好ましくは「5.0%以下」であるが、4.5%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下であっても好ましい。
【0097】
また、下記の表4としても本発明の好適なPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を例示できる。(なお、表中の「PTH類総量」は、「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」を意味する。)
【表4】

本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤について更に説明すると、本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤は各種添加剤を含有することができる。添加剤として例えば、糖類、アミノ酸、又は塩化ナトリウム等を挙げることができる。添加剤として糖類を用いる場合には、糖類として、マンニトール、グルコース、ソルビトール、イノシトール、シュークロース、マルトース、ラクトース、トレハロースをPTHペプチド1重量に対して1重量以上(好ましくは50〜1000重量)添加することが好ましい。添加剤として糖類及び塩化ナトリウムを用いる場合には、糖類1重量に対して1/1000〜1/5重量(好ましくは1/100〜1/10重量)の塩化ナトリウムを添加することが好ましい。
【0098】
(5) PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の容器
本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤に用いる容器は特に限定されないが、当該製剤は栓を有するガラス容器に充填されたPTHペプチド含有凍結乾燥製剤であることが好ましい。栓の材質は特に限定されないがゴム製が好ましい。栓が洗浄、滅菌、および/または乾燥されていることが好ましい。
【0099】
本発明の栓を有するガラス容器に充填されたPTHペプチド含有凍結乾燥製剤とは、例えば、ゴム栓を有するガラス製バイアルに充填されたPTHペプチド含有凍結乾燥製剤(ガラス製バイアル製剤)、ゴム栓を有するガラス製バイアルに充填されたPTHペプチド含有凍結乾燥製剤と溶解用水溶液が無菌充填されたアンプルからなるキット製剤、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤と溶解用水溶液が無菌充填されたプレフィルドシリンジからなるキット製剤、ガラス製ダブルチャンバー製剤(1本のシリンジに2室が存在し、1室にPTH含有凍結乾燥品、他室に溶解用水溶液が含まれる)である。本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤としてはガラス製バイアル製剤が最も好ましい。ゴム栓の素材としては塩素化ブチルゴム、ノーマルブチルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、エラストマー等が挙げられる。ガラスとしては硼珪酸ガラスが好ましい。
【0100】
(6) PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造
凍結乾燥製剤は、その用途により、典型的には以下の工程の全て又はいずれかを含む過程により製造される。特に注記されない限り、本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤も以下の工程に準じて製造できる。すなわち、本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造スキームは、少なくとも以下で説明する有効成分含有溶液調製工程と凍結乾燥工程を含み、通常は有効成分含有溶液調製工程、搬入工程、および凍結乾燥工程を含み、好ましくは有効成分含有溶液調製工程、無菌ろ過・薬液充填工程、搬入工程、凍結乾燥工程、および包装工程を含む。
【0101】
1)有効成分溶液調製工程
本工程は有効成分の原薬と必要により各種添加剤を溶媒(例:注射用水)に溶解させる工程である。また必要に応じて溶解液のpH調整や溶解液の液量調整等を行ってもよい。当該工程の所要時間は、工業生産的に許容される時間内であれば特に限定されないが、場合により0.5〜5時間、通常は1〜3時間程度である。
【0102】
本発明のPTHペプチドを有効成分とする場合は、PTHペプチドの原薬を予備溶解しておき、それを各種添加剤を溶解させた溶媒に加えることが好ましい。各種添加剤として、賦形剤、安定化剤、溶解補助剤、酸化防止剤、無痛化剤、等張化剤、pH調整剤、防腐剤を例示できる。
【0103】
2)無菌ろ過・薬液充填工程
本工程は、上記の工程で調製した有効成分含有溶を無菌ろ過すること、及び当該無菌ろ過した液(薬液)を以下で説明する凍結乾燥工程の実施に適した容器に充填することを含む。
【0104】
典型的な本工程における無菌ろ過はフィルターを用いて行われる。無菌ろ過用のフィルターは各種市販品が利用可能である。フィルターの孔径は0.2μm以下又は0.22μm以下が好ましい。また無菌ろ過を実施する具体的な装置等も当業者に周知である。このようにして無菌ろ過することで、医薬品として利用される凍結乾燥製剤を製造するための薬液を調製することができる。
【0105】
典型的な本工程における薬液充填もまた当業者に周知である。通常は、有効成分の溶解液を無菌ろ過した後の薬液が、直接、個々の容器に充填される。或いは、一旦、多量の溶解液を一挙に無菌ろ過しておき、そこから以下の工程で使用するのに適した容器に分注してもよい。それらの容器としては、ゴム栓等で打栓することが可能なガラス製バイアルを例示することができる。そのようなガラス製バイアルを使用すると、ガラス製バイアル入り製剤の製造において好都合である。
【0106】
本工程の所要時間も、工業生産的に許容される時間内であれば特に限定されないが、場合により、ろ過工程として0.5〜2時間、通常は0.5〜1時間、
充填工程として3〜10時間、通常は6〜10時間である。
【0107】
なお、本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤をガラス製バイアル入り製剤とする場合、1つのガラス製バイアルに対して、例えば、PTHペプチドを含有した無菌ろ過後の溶液を1g(好ましくは0.3g〜3g、さらに好ましくは0.5g〜0.6g)程度充填することができる。
【0108】
3)搬入工程
ここでいう搬入工程は、前記のようにして用意された充填後の容器を、次の工程で利用する凍結乾燥手段まで運搬(搬送)し、当該手段内に搬入・配置する一連の工程を意味する。
【0109】
更に、凍結乾燥製剤の製造においては、以後の工程で凍結させた充填液を真空により乾燥させるため、当該充填容器の栓を開栓又は半開栓しておくことが通常である。つまり、開栓とは栓が全開していることを意味し、半開栓とは栓が開栓してはいないものの閉栓もしていない状態を意味するが、そのようにしておくことで容器中の薬液を凍結後に真空で乾燥させることができるのである。例えば、製造されるものがガラス製バイアル入り製剤の場合、ガラス製バイアルに無菌ろ過液(薬液)を充填した後、ゴム栓で充填済みバイアルを半打栓することで前記のような半開栓状態にできる。しかして、本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤をガラス製バイアル入り製剤等として製造する場合は、そのようにして半打栓するための工程も、本搬入工程に含める。
【0110】
凍結乾燥手段は、凍結した溶液を真空下で乾燥可能な手段である。工業生産のための当該手段は、溶液を凍結するのに十分な冷却機能も備えていることが好ましく、また凍結乾燥を促進するために当該処理中に被凍結乾燥物を適度に加温する機能を備えていることが好ましい。また、工業生産に適した典型的な凍結乾燥手段は、被凍結乾燥物を庫内へ搬入するための、当該手段の前面のほぼ全体に対応する大きな扉(以下、「大扉」とも言う。)を有する。典型的な凍結乾燥手段は凍結乾燥庫(「凍結乾燥機」とも呼ばれる。)であり、多くの形態のものが市販されている。
【0111】
本工程を例示的に説明すると、例えば製造しようとする製剤がガラス製バイアル入り製剤の場合、前記「2)」の工程で得られた薬液充填ガラス製バイアルを半打栓し、それを凍結乾燥手段まで搬送し、当該バイアルの各々を順次、或いはある数量単位で纏めていっぺんに凍結乾燥庫に搬入し、配置する過程が本工程に対応する。なお、ここでバイアルの各々を「順次搬入する」場合について注記すると、医薬品製造工場のレイアウトによっては、上記の薬液充填工程により各々のバイアルに薬液が次々と連続的に充填され、その後各バイアルは順次半打栓されて凍結乾燥手段まで運搬(搬送)されることがある。しかしながら、通常は、当該凍結乾燥手段が一回で処理できる数量のバイアル全てが凍結乾燥手段内に搬入されるのを待ってから次の凍結乾燥工程に移行するから、前記のようにして搬送されてきた各バイアルは当該一回で処理できる数量に達するまで凍結乾燥手段内に次々と入れられていき(つまり「順次搬入」され)、そして該手段内に配置されることが多い。しかして、そのように「順次搬入」する場合における本発明の「搬入工程」とは、ある(先頭の)バイアルについて薬液充填工程が完了した後から開始し、そしてその(先頭の)バイアルと一緒に(つまり、一回で)凍結乾燥される最後のバイアルが凍結乾燥手段内に搬入・配置されるまでの工程を意味する。
【0112】
また、バイアルを「ある数量単位で纏めていっぺんに」搬入するとは、例えば、凍結乾燥庫内への配置に際しては、凍結乾燥庫内が複数の棚を有しており、各棚に複数の薬液充填バイアルを纏めて置くことが可能なことがあり、また、場合により当該棚は薬液充填バイアルの搬入の便宜のために上下動せることができるものもあるが、その場合にも、やはり本発明の「搬入工程」とは、ある(先頭の)バイアルについて薬液充填工程が完了した後から開始し、そしてその(先頭の)バイアルと一緒に凍結乾燥される最後のバイアルが凍結乾燥手段内に搬入・配置されるまでの工程を意味する。いずれにしても、この工程では、薬液充填バイアルが半打栓の状態で後の凍結乾燥工程の開始前までの間放置され、そして以下で説明する医薬品製造施設内空気環境に暴露され得るということである。
【0113】
本工程の所要時間も、工業生産的に許容される時間内であれば特に限定されないが、場合により3〜10時間、通常は6〜10時間程度である。
【0114】
4)凍結乾燥工程
前記の凍結乾燥手段により、凍結状態の被乾燥物から、減圧下で水を昇華させる工程である。ガラス製バイアル入りの凍結乾燥製剤を製造する場合、減圧中は当該バイアルを開栓又は半開栓状態にして(例えば、バイアルを半打栓しておき)、凍結乾燥の終了時にバイアル空隙を窒素置換した後に封栓することができる。
【0115】
本工程の所要時間は、凍結乾燥手段の能力や被凍結乾燥物の量などにより変わるが、工業生産的に許容される時間内でればよく、通常は24〜72時間程度である。
【0116】
5)巻き締め工程
ガラス製バイアル入りの凍結乾燥製剤を製造する場合に含めることができる工程である。具体的には、例えば、前記「4)」の工程で得られた凍結乾燥処理後のガラス製バイアルをプレス方式のキャップ巻き締め機等でアルミキャップにて巻き締めする工程である。
【0117】
6)包装工程
製剤に対してラベルを添付して紙箱等に包装する工程である。
【0118】
凍結乾燥製剤を医薬品として製造する場合、該製造施設は医薬品GMPに適合する施設であることが要求されるであろう。当該施設は、上記で説明した工程を実施するための、薬液調製設備、無菌ろ過設備及び凍結乾燥設備(手段)や、それらに加えて注射用水製造設備、バイアル充填・打栓設備、キャップ巻締機、ラベラーなどを有し得る。
【0119】
また、凍結乾燥製剤を医薬品として製造する場合、上記の工程1)〜6)の全て、或いは少なくとも無菌ろ過工程の終了〜凍結乾燥工程の開始に至るまでの間は、医薬品製造施設内空気環境下で行われるべきである。つまり、医薬品製造施設の空気環境は、単なる外気環境とは異なる。具体的に、無菌注射剤の(医薬品)製造施設内空気環境には、「清浄度の高い重要区域(作業時及び非作業時ともに、空気1mあたりに含まれる粒径0.5μm以上の浮遊微粒子が3,520個以下であること)」であることが要求される。この空気の品質は、汎用されている現行の国内及び国際的な空気の品質に関する基準によるグレードA(クラス100又はISO5と称されている。)に相当する。
【0120】
本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を製造する施設内の空気環境も、少なくとも上記の無菌注射剤製造施設内の空気環境と同等であるか、より好ましくは粒径0.3μmの粒子を99.97%以上の効率で捕らえる性能を有するHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されている環境とすべきである。気流の風速としてはHEPAフィルター直下20cmの位置で0.2〜1.0m/s、製造の作業をする位置で0.1〜0.8m/sの流速があることが好ましく、HEPAフィルター直下20cmの位置で0.4〜0.7m/s、製造の作業をする位置で0.3〜0.5m/sの流速があることがさらに好ましい。
【0121】
更に、医薬品製造施設内においていっそう無菌的な空気環境を実現するために、通常は、殺菌剤としてオゾンやホルムアルデヒド、或いは過酸化水素、過酢酸、二酸化塩素、グルタルアルデヒドなどの酸化能を有する化学物質を用いて空気中に浮遊する菌や、機械・壁・床等の設備に付着した菌を滅菌することが行われる。但し、ホルムアルデヒドにより燻蒸滅菌した後の残留ホルムアルデヒド濃度は、通常0.1ppm以下、好ましくは0.08ppm以下に管理すべきである。なお、オゾンについて言えば、外気中にも通常、一日の平均値として0.001〜0.02ppmの濃度で存在している。また、場所や時間、季節によっては一時的に約0.02〜0.1ppmの濃度で存在する場合もある。
【0122】
本発明の一態様としてのPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法は、上記した医薬品製造施設内の空気環境下において、PTHペプチド(有効成分)含有溶液調製工程開始時、特に薬液充填工程の終了時から該溶液の凍結乾燥工程開始迄(つまり、搬入工程)に実質的な時間経過が要求される場合には、該経過過程においてPTHペプチド含有溶液が医薬品製造施設内空気環境に暴露されるのを抑制することで特徴付けられる。
【0123】
本発明において「医薬品製造施設内空気環境に暴露されるのを抑制」や「医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制」とは、PTHペプチド原薬、PTHペプチド含有溶液、PTHペプチド凍結乾燥製剤の少なくとも1以上を医薬品製造施設内空気環境に全く接触させないことのほか、その接触を実質的に(例えば、時間や接触量を)制限することを意味する。例えば、前記のHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持(以下、「流動空気」という。)されている環境下の場合、当該流動空気と接触する時間や接触する気流量を抑制する手段を講じることを含む。具体的には以下のものを例示できる。
【0124】
(A)PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段
上記のとおり、本発明者らは、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段を講じることにより、PTHペプチド含有溶液中における不純物(PTH類縁物質)の発生も抑制できることを見出した。前記のとおり通常の医薬品製造施設では該施設内空気の気流が維持されているために、該気流として降り注ぐことのある大量の空気がPTHペプチド含有溶液と接触し、そして該気流内に含まれる酸化能を有する気体性物質(オゾン等)が該溶液中のPTHペプチドと反応するなどの原因により溶液中のPTH類縁物質が増大していると推論できる。
【0125】
しかるに、本発明におけるPTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段は特に限定されず、例えば、PTHペプチド含有溶液周辺の空気の流動性や流動量を抑制する手段やPTHペプチド含有溶液周辺を不活性化ガスで置換する手段を例示することができる。
【0126】
また、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段を凍結乾燥庫への搬入工程において講じるのが有利であることも見出された。
【0127】
上記の態様を非限定的具体例に基づき説明すると、通常の凍結乾燥庫は、凍結乾燥すべき溶液を充填した容器を搬入するための扉を前面に有しており、該扉が凍結乾燥庫の前面を全て覆うことができる扉(大扉)であることが多いが、本発明の場合は該大扉の一部分において、凍結乾燥庫内に配置された棚の一段(その上に被凍結乾燥物充填容器が載せられる)にほぼ対応する大きさの小扉を更に備えていて、該容器を搬出入する際には容易に小扉が開閉可能な凍結乾燥庫が好ましい。
【0128】
更に好適には、前記小扉を有する凍結乾燥庫が、被凍結乾燥物充填容器を凍結乾燥庫内に搬出入する際において開く小扉部分に生じる、当該搬入のための開口部(以下、「小扉開口部」ともいう。)に備えられた容易に開閉可能な副扉を有しており、該副扉を常時開放せずに該容器搬入時のみ開けて搬入後に速やかに閉める手段を例示できる。また、該副扉は、小扉開口部に相当する領域のうちで、前記搬入のために必要な部分だけ開けられるように2枚〜5枚に分割されて備えられており、該容器の搬入時に必要な箇所のみ開けることができる該副扉が好ましく、2枚〜3枚に分割されていることが好ましい。容易に開閉可能な副扉の例としては、蝶番(ちょうつがい)を副扉の上部に設けて小扉開口部に備え付けた副扉や、左右にスライドする副扉、上下にスライドする副扉などが挙げられる。
【0129】
さらに、PTHペプチド含有溶液等が流動空気と接触することを抑制する手段として、PTHペプチド含有溶液調製工程において、PTHペプチドを溶媒に溶解させた後に、その調製用設備(タンクあるいは容器等)を閉封すること、あるいは、その調製時にその調製用器内を不活性ガスに置換しておくことを好ましく例示することができる。
【0130】
あるいは、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段として、無菌ろ過・薬液充填工程において、調製したPTHペプチド含有溶液をろ過滅菌する際に調製設備(タンクあるいは容器等)内を加圧し無菌フィルターを通過させて充填用の容器やタンクに液送する場合があるが、そのような場合に加圧用の気体を不活性ガスにすることを好ましく例示することができる。
【0131】
さらに、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段として、無菌ろ過・薬液充填工程において、薬液充填設備(タンクあるいは容器等)内の空気をあらかじめ不活性ガスに置換しておくことや、PTHペプチド含有溶液を充填するガラス製容器をあらかじめ不活性ガスに置換しておくことを好ましく例示することができる。
【0132】
あるいは、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段として、無菌ろ過・薬液充填工程において、PTHペプチド含有溶液を充填したガラス製容器内の空隙部(薬液でない空気の部分)を不活性ガスで置換することを好ましく例示することができる。
【0133】
さらに、無菌ろ過・薬液充填工程の終了後に、開栓又は半開栓のガラス容器に充填されたPTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段に搬入するまでの間、無菌ろ過・薬液充填施設から凍結乾燥庫付近までPTHペプチド含有溶液を充填したガラス製容器を運搬する場合があるが、このような場合にその運搬中の環境を不活性ガスの気流下にすることなどもPTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段として好ましく例示することができる。
【0134】
あるいは、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段として、凍結乾燥庫の小扉開口部から凍結乾燥庫内に流動空気が流入することを抑制するために、該開口部から庫内に向かう流動空気の流れを変えるフラップや整風カバー(図17)を設置することができる。当該フラップや整風カバーの形状は凍結乾燥機および小扉開口部のサイズによって適宜に選択することができ、また、その材質はビニル製シートや金属、樹脂製等であってよい。なお、凍結乾燥庫の小扉開口部から凍結乾燥庫内に流動空気が流入することを抑制するとは、PTHペプチド含有溶液と流動空気との接触が実質的に抑制される程度に当該流動空気の流入を制御することを意味し、好ましくは小扉開口部からの該流動空気の流入速度が0.2m/s以下、更に好ましくは0.1m/s以下が、特に好ましくは0.0m/s以下となるように制御され得る。当該制御は、好適には、フラップや整風カバー等を前記小扉付近に適宜配置することで行い得る。
【0135】
PTHペプチド含有溶液周辺を不活性化ガスで置換する手段は、前述の不活性化ガスによる置換手段の他、凍結乾燥工程で用いられる凍結乾燥庫内の空気を不活性化ガスで置換する手段であることができ、あるいは、凍結乾燥工程で用いられる凍結乾燥庫内にPTHペプチド含有溶液容器を搬入する際に搬入口から不活性化ガスを凍結乾燥庫内に流入させる手段であってもよい。流入する際の不活性ガスの流量は、0.1〜5Nm/minが好ましく、0.2〜3Nm/minが更に好ましく、0.3〜1Nm/minが特に好ましい。前記不活性化ガスで置換する際の不活性化ガスとして窒素やアルゴンを例示でき、好ましくは窒素を例示することできる。
【0136】
(B)PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段を講じる工程
上記(A)の「PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段」は、PTHペプチド含有溶液調製工程開始時から該溶液の凍結乾燥工程開始迄に含まれる工程全てあるいはその一部において講じることができ、PTHペプチド含有溶液調製工程開始時から講じていてもよい。本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の医薬品としての製造方法が、PTHペプチド含有溶液調製工程、凍結乾燥庫への開栓又は半開栓のガラス容器に充填された該溶液の搬入工程、および凍結乾燥工程を含む場合、上記(A)の手段は、凍結乾燥庫への開栓又は半開栓のガラス容器に充填された該溶液の搬入工程の一部又は全部で講じることができる。
【0137】
(C)PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段を講じる工程の時間
上記(A)の「PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触することを抑制する手段」を講じる工程の時間として、下限として、1時間以上、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上を例示することができ、上限として、20時間以下、好ましくは12時間以下、さらに好ましくは10時間以下、最も好ましくは9時間以下である。上記(A)の手段を講じる工程の時間として、例えば、1〜20時間、好ましくは3〜12時間、さらに好ましくは6〜10時間、最も好ましくは6〜9時間を挙げることができる。
【0138】
(7) PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の使用
本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤は、医薬的有効量のPTHペプチドを含有することができ、例えば、用時に適当な溶媒で当該凍結乾燥製剤を溶解して注射剤とし、骨粗鬆症治療に用いることができる。
【0139】
(8) PTHペプチド含有溶液におけるPTH類縁物質の生成を抑制する方法
本発明のPTH類縁物質の生成を抑制する方法は、PTHペプチド原薬、PTHペプチド含有溶液、PTHペプチド凍結乾燥製剤の少なくとも1以上と酸化能を有する物質、特に当該物質を含有する空気の接触を抑制する手段を講じる方法である。好ましくは、PTHペプチド含有溶液と接する空気を不活性化ガス(好ましくは窒素)に置換することを手段とする、PTH類縁物質の生成を抑制する方法を例示できる。さらに好ましくは、PTHペプチド含有溶液と流動空気の接触を抑制する手段またはPTHペプチド含有溶液と接する空気を不活性化ガス(好ましくは窒素)に置換する手段による、少なくとも前記類縁物質1乃至11又は類縁物質1’乃至11’のいずれか1以上のPTH類縁物質の生成を抑制する方法を例示することができる。
【0140】
これらの生成抑制方法は、上述のような医薬品製造施設内空気環境下の凍結乾燥製剤製造施設において実施することができる。例えば、PTHペプチド含有溶液調製工程開始時から該溶液の凍結乾燥工程開始迄の経過時間が所定時間以上であり、該経過過程において該溶液を流動空気と接触することを抑制する手段により、該溶液におけるこれらの生成を抑制可能である。本手段についての好ましい態様は、対応する本発明のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法の好ましい具体的態様と同一である。
【実施例】
【0141】
以下、実施例、参考例、及び試験例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0142】
[実施例1]
50Lステンレス容器に約25℃の注射用水約18kgを入れ、そこに秤量した精製白糖540gおよび塩化ナトリウム27gを加えて溶解し、次いでヒトPTH(1−34)を酢酸塩として3541mg(ロットA;860mg、ロットB;2591mg、ロットC;90mg)加えて溶解し、その後、注射用水を加え27kgに重量補正をしてPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を窒素加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、あらかじめ窒素を満たしたステンレス製の50L充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有する区域にて、当該無菌ろ過済みPTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得て、その約1000本ずつをステンレス製のトレイに整列させ、整列後のトレイをグレードAの区域で、あらかじめ窒素で満たしたULVAC製(型:DFB 棚面積:24m)凍結乾燥庫の前まで移送した。窒素で凍結乾燥庫内をパージし続けながら、前記凍結乾燥庫の小扉が開いた際の開口部に設けた、トレイの幅に合わせた副扉(図16の副扉に準ずるものを市販の前記凍結乾燥庫に自作で取り付けた。)を開き、トレイを凍結乾燥庫に搬入した後、速やかに副扉を閉めた。同様の工程を繰り返して半開栓バイアルを約9時間かけて凍結乾燥庫内に搬入した。PTH含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後ガラスバイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得た。
【0143】
[実施例2]
20Lステンレス容器に約25℃の注射用水約10kgを入れ、そこに秤量した精製白糖280gおよび塩化ナトリウム14gを加えて溶解し、次に注射用水を加えて14kgに重量補正をして添加剤溶液を調製した。ヒトPTH(1−34)を酢酸塩として1780mg(ロットD)量り、前記の添加剤溶液13kgに溶解してPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を窒素で加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、あらかじめ窒素を満たした50Lの充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有する区域にて、該PTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したガラスバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得て、その約1000本ずつをステンレス製のトレイに整列させ、整列後のトレイをグレードAの区域で、あらかじめ窒素で満たしたULVAC製(型:DFB 棚面積:24m)凍結乾燥庫の前まで移送した。窒素で凍結乾燥庫内をパージし続けながら、前記凍結乾燥庫の小扉が開いた際の開口部に設けた、トレイの幅に合わせた副扉(図16の副扉に準ずるものを市販の前記凍結乾燥庫に自作で取り付けた。)を開き、トレイを凍結乾燥庫に搬入した後、速やかに副扉を閉めた。同様の工程を繰り返して、半開栓バイアルを約6時間かけて凍結乾燥庫内に搬入した。PTHペプチド含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後ガラスバイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得た。
【0144】
[実施例3]
30Lステンレス容器に約25℃の注射用水約19kgを入れ、そこに秤量した精製白糖460gおよび塩化ナトリウム23gを加えて溶解し、次いで注射用水を加え23kgに重量補正をしてプラセボ溶液を調製した。ヒトPTH(1−34)を酢酸塩として2979mg(ロットD)量り、前記のプラセボ溶液22kgに溶解してPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を、窒素で加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、あらかじめ窒素を満たしたステンレス製の充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有する区域にて、該PTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得た。半開栓バイアルをグレードAの区域を移送し、あらかじめ窒素で満たした凍結乾燥庫(ULVAC製(型:DFB 棚面積:22m))であり、且つ該凍結乾燥庫の小扉の開口部とは逆の方向に流動空気の流れを変えるビニル製シート(図17の整風カバーに準ずるものを市販の凍結乾燥庫に自作で取り付けた。)を用いて小扉の開口部から凍結乾燥庫内に気流が入らないようにした凍結乾燥庫内に、全てのバイアルを約6時間かけて搬入した。なお、当該流動空気の流れを変えるビニル製シートも、市販の前記凍結乾燥庫に自作で取り付けたものであり、小扉の開口部の上部から斜め下方に向けてビニルシートを張り、上から下に向けて流れる流動空気の方向を変えて開口部から流入することを防いだ。PTHペプチド含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後バイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTH含有凍結乾燥製剤を得た。
【0145】
[実施例4]
50Lステンレス容器に約25℃の注射用水約18kgを入れ、そこに秤量した精製白糖540gおよび塩化ナトリウム27gを加えて溶解し、次いでヒトPTH(1−34)を酢酸塩として3525mg(ロットC;1880mg、ロットE;1645mg)加えて溶解し、その後、注射用水を加え27kgに重量補正をしてPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を、窒素で加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、あらかじめ窒素を満たしたステンレス製の50L充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有し、ホルマリンの濃度を0.08ppm以下とした区域にて、該PTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得て、その約1000本ずつをステンレス製のトレイに整列させ、整列後のトレイをグレードAの区域であらかじめ窒素で満たしたULVAC製(型:DFB 棚面積:24m)凍結乾燥庫の前まで移送した。窒素で凍結乾燥庫内をパージし続けながら、前記凍結乾燥庫の小扉が開いた際の開口部に設けた、トレイの幅に合わせた副扉(図16の副扉に準ずるものを市販の前記凍結乾燥庫に自作で取り付けた。)を開き、トレイを凍結乾燥庫に搬入した後、速やかに副扉を閉めた。同様の工程を繰り返して、半開栓バイアルを約8時間かけて凍結乾燥庫内に搬入した。PTHペプチド含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後ガラスバイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTH含有凍結乾燥製剤を得た。
【0146】
[実施例5]
50Lステンレス容器に約25℃の注射用水約18kgを入れ、そこに秤量した精製白糖540gおよび塩化ナトリウム27gを加えて溶解し、次いでヒトPTH(1−34)を酢酸塩として3566mg(ロットH)加えて溶解し、その後、注射用水を加え27kgに重量補正をしてPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を、窒素で加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、あらかじめ窒素を満たしたステンレス製の50L充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有し、ホルマリンの濃度を0.08ppm以下とした区域にて、該PTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得て、その約1000本ずつをステンレス製のトレイに整列させ、整列後のトレイをグレードAの区域であらかじめ窒素で満たしたULVAC製(型:DFB 棚面積:24m)凍結乾燥庫の前まで移送した。窒素で凍結乾燥庫内をパージし続けながら、前記凍結乾燥庫の小扉が開いた際の開口部に設けた、トレイの幅に合わせた副扉(図16の副扉に準ずるものを市販の前記凍結乾燥庫に自作で取り付けた。)を開き、トレイを凍結乾燥庫に搬入した後、速やかに副扉を閉めた。同様の工程を繰り返して、半開栓バイアルを約7時間かけて凍結乾燥庫内に搬入した。PTHペプチド含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後ガラスバイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTH含有凍結乾燥製剤を得た。
【0147】
[比較例1]
10Lステンレス容器に約25℃の注射用水約5000gを入れ、そこに秤量した精製白糖120gおよび塩化ナトリウム6gを加えて溶解し、次いでヒトPTH(1−34)を酢酸塩として909mg(ロットF;335mg、ロットG;574mg)加えて溶解し、その後、注射用水を加え6000gに重量補正をしてPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を窒素で加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、ステンレス製の充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有する区域にて、該PTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得た。半開栓バイアルをグレードAの区域を移送し、小扉を有する凍結乾燥機(ULVAC製(型:DFB 棚面積:22m))に全体で約4時間かけて順次搬入した。PTHペプチド含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後バイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得た。
【0148】
[比較例2]
10Lステンレス容器に約25℃の注射用水約2000gを入れ、そこに秤量した精製白糖100gおよび塩化ナトリウム5gを加えて溶解し、次いでヒトPTH(1−34)を酢酸塩として515mg(ロットD)加えて溶解し、その後、注射用水を加え4000gに重量補正をしてPTHペプチド含有水溶液を得た。得られたPTHペプチド含有水溶液を窒素で加圧しながらろ過フィルターを用いて無菌ろ過し、ステンレス製の5L充てん用タンクに液送した。医薬品製造施設内のグレードA(風速が約0.2〜0.4m/s)の環境を有する区域にて、該PTHペプチド含有水溶液を、洗浄・乾燥したバイアルに0.56g充填し、洗浄・乾燥したゴム栓を用いて半開栓バイアルを得た。半開栓バイアルをグレードAの区域を移送し、小扉を有する凍結乾燥機(共和真空技術製(型:RL 棚面積:9m))に全体で約3時間かけて順次搬入した。PTHペプチド含有溶液を凍結させて減圧下で水を昇華させる真空凍結乾燥を行い、乾燥終了後バイアル中を窒素で置換した後にゴム栓で封栓し、アルミキャップにて巻き締めてPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得た。
【0149】
[試験例1]
PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度および類縁物質量を評価する手法としては、HPLC法における面積百分率法が簡便である。塩化ベンザルコニウム0.25gを秤量し、50mM硫酸緩衝液(pH2.3)を加えて50mLとしたものを添加液とする。実施例及び、比較例の各々の製剤を生理食塩液1mLで溶解し、さらにその溶解液と添加液を9:1の割合で混合したものを試料溶液とする。試料溶液100μLにつき、以下に示す条件でHPLCにより試験を行った。なお、塩化ベンザルコニウムは、測定対象のペプチドが分析操作中に器具等に吸着するのを防止する目的で使用した。
【0150】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に3.5μmのオクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
【0151】
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:移動相A:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液900mLにアセトニトリル100mLを加える
移動相B:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液500mLにアセトニトリル500mLを加える
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する
注入後の時間:
【表5】

流量:毎分1.0mL
試料温度:5℃付近の一定温度
検出時間:試料溶液注入後45分間。ただし溶媒ピークの後ろからとする。
【0152】
計算方法: 各PTHの類縁物質量とそれらの総量は、上記条件下で液体クロマトグラフィー試験を実施し、各々のピーク面積を自動積分法により測定し、式1および2を用いて算出することにより、定量した。なお、総ピーク面積とは上記条件下で液体クロマトグラフィー試験を実施して検出された全てのピークの面積の総和であった。すなわち総ピーク面積は製剤中のPTHペプチドと全PTH類縁物質量の総和を示すことになる。
【0153】
式1: 各PTH類縁物質量(%)=(各類縁物質のピーク面積/総ピーク面積)×100
式2: 全PTH類縁物質量(%)=(各類縁物質のピーク面積の総和/総ピーク面積)×100
<結果>
実施例で用いたヒト−PTH(1−34)の類縁物質量(原薬)を評価した結果を表6に、HPLCのチャートを図1に示す。また、試験例で実施したPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度および類縁物質量を評価した結果を表7に示す。また、実施例1のHPLCのチャートを図2に、比較例1のHPLCのチャートを図3に示す。表6中の各類縁物質の構造は下記試験例2による推定により得られた。
【表6】

【表7】

[試験例2]
試験例1で得られた各類縁物質の構造を推定することを目的に、ヒトPTH(1−34)類縁物質を生成、分取し、さらに、分取物の分析試験を実施した。
【0154】
(1)各類縁物質の生成とその分取
精製白糖4.00gと塩化ナトリウム0.20gを量り、注射用水を加えて溶解し、プラセボ溶液とした。ヒトPTH(1−34)を精密に量り、プラセボ液100mLを加えて溶解し、反応原液とした。縦40cm×横90cm×高さ100cmのガラス戸のついた棚中に、オゾン発生装置およびオゾンを循環させ濃度を均一にする送風機(初期風速が約7.2m/s)を用いて、オゾン濃度計によりオゾン濃度が約0.08ppmとなる環境を作製した。反応原液を容量20mLのバイアルに約15mLずつ分注し、バイアルに撹拌子を入れてスターラーで撹拌しながら、純度が約20%(すなわち、ヒトPTH(1−34)類縁物質総量が80%)となるまで、約0.08ppmのオゾン雰囲気下に曝露(約20時間)し劣化させた。なお、純度の確認は試験例1の試験条件に従った。劣化させた溶液を凍結乾燥し、適当量の注射用水で溶解した溶液を、強制劣化溶液とした。この溶液を用いて、以下に示す条件で類縁物質の分取をおこなった。
【0155】
<試験条件>
下記の条件以外は試験例1の試験条件と同じであった。
【0156】
<試験例1と異なっていた条件>
カラム:内径9.4mm、長さ250mmのステンレス管に5μmのオクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
【0157】
流量:毎分6.0mL
なお、上記の条件が試験例1とは異なっていたにも拘らず、クロマトグラムのパターンに大きな差は観察されなかった。
【0158】
上記のクロマトグラフィー条件下で9つの類縁物質を分取し、それを脱塩・濃縮させ、さらに凍結乾燥させたものを蒸留水溶解し、各類縁物質(未消化品)を得た。試験例1の試験条件で、各類縁物質(未消化品)と強制劣化溶液をHPLC分析し、強制劣化溶液のヒトPTH(1−34)の保持時間を1として、各類縁物質(未消化品)の相対保持時間を算出した。
【0159】
<結果>
強制劣化溶液中の各類縁物質の相対保持時間とほぼ完全に一致していることを確認した。相対保持時間の結果を表8に、強制劣化溶液のクロマトグラムを図4に示した。図3図4ではチャージした液の組成が異なるためにヒトPTH(1−34)ピークの溶出時間が微妙に異なるが、各チャートにおける各類縁物質の溶出パターン及び量率が同じであることから図3図4の対応する類縁物質は同じものであると推察された。これらの結果から、ここでのオゾン曝露試験は、医薬品製造施設内の空気環境化においてPTHペプチド含有溶液を製造する際に誘発されるPTH類縁物質の生成反応を実質的に再現する試験であると考えられた。
【表8】

(2)各類縁物質の構造推定分析
上記の各類縁物質(未消化品)及びヒトPTH(1−34)標準物質をトリプシンで消化し、類縁物質(消化品)及び標準溶液(消化品)とした。これら10の試料を以下に示す条件でLC/MS/MSで解析した。
【0160】
<LC/MS/MS試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径1.5mm、長さ150mmのステンレス管に5μmのオクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
【0161】
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:移動相A:トリフルオロ酢酸を含む水混液(1:1000)
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する
注入後の時間:
【表9】

流量:毎分0.1mL
試料温度:5℃付近の一定温度
検出時間:試料溶液注入後45分間。ただし溶媒ピークの後ろからとする。
【0162】
イオン化モード:ES+
各類縁物質(未消化品)を以下に示す条件でLC/MSで解析した。
【0163】
<LC/MS試験条件>
下記の条件以外はLC/MS/MSの試験条件と同じであった。
【0164】
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する
注入後の時間:
【表10】

<結果>
試験例2において9つの類縁物質を構造解析した結果を以下に示す。
【0165】
<ヒトPTH(1−34)>
表11にトリプシン消化で生じるヒトPTH(1−34)の予想フラグメントを示した。
【表11】

標準溶液(消化品)のLC/MS/MSにおいて確認された各フラグメントの質量測定結果を表12に示した。標準溶液(消化品)の各フラグメントの実測値を理論質量と比較し、ヒトPTH(1−34)では推定構造の5つのフラグメントが得られたことが確認された。
【表12】

<類縁物質1>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.43を示す類縁物質を類縁物質1とし、表13に類縁物質1(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質1(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T2で+16Da、T3で+4Da、T1で+16Daの質量変化が確認された。
【表13】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析をおこなった結果を表14に示した。標準溶液(消化品)と比較した結果、T2ではMet18で+16Da、T3ではTrp23で+4Da、T1ではMet8で+16Daの質量変化が確認された。
【表14】

また類縁物質1(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表15に示した。類縁物質1(未消化品)では、理論質量と比較して+64Da及び+36Daのピークが確認され、図7に示すようにピークの大きさから+64Daがメインピークと考えられた。未消化品の分子量は約4000Daであるが、LC/MSにおいて実測値としては多価イオンの質量が得られるため、多価イオンの質量から未消化品の質量を計算する過程で±1Da程度の誤差が生じることが予想された。構造解析上、誤差が生じていると推定された質量差については( )内に補正した値を記載した。以降の構造解析でも同様に記載した。
【表15】

MS/MS解析の結果から、ヒトPTH(1−34)+36Da=(Met18+16Da)+(Trp23+4Da)+(Met8+16Da)と推定された。また、Trpにおける+4Da変化体の構造は図6のb)であり、その前駆体a)の質量変化は+32Daであると予想された。トリプシン消化等の操作の過程でTrp23がa)→b)へと変化したと仮定し、類縁物質1(未消化品)のメインピークは、ヒトPTH(1−34)+64Da=(Met18+16Da)+(Trp23+32Da)+(Met8+16Da)と推定された。すなわち、類縁物質1はヒト−PTH(1−34)−Met8[O]−Met18[O]−Trp23[二酸化]であると推定された。
【0166】
<類縁物質2>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.44を示す類縁物質を類縁物質2とし、表16に類縁物質2(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質2(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T2で+16Da、T3で+4Da、T1で+16Daの質量変化が確認された。
【表16】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析をおこなった結果、類縁物質1と同じく、T2ではMet18で+16Da、T3ではTrp23で+4Da、T1ではMet8で+16Daの質量変化が確認された。また類縁物質2(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表17に示した。類縁物質2(未消化品)では、理論質量と比較して+24Da及び+92Daのピークが確認されたが、図8に示したようにほぼピーク形状をなしていないことや、MS/MS解析の結果を支持する質量が得られなかったことから、確認されたこれらの質量の信頼性は低いと考えられた。
【表17】

MS/MS解析の結果から、類縁物質2は少なくとも、ヒトPTH(1−34)+36Da=(Met18+16Da)+(Trp23+4Da)+(Met8+16Da)の質量変化をしたものであると推定された。すなわち、類縁物質2はヒト−PTH(1−34)−Met8[O]−Met18[O]−Trp23[二酸化―ギ酸脱離]であると推定された。
【0167】
<類縁物質3及び4>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.46を示すピークは、以下で説明するとおりに類縁物質3及び4の混合物由来のものであった。表18に類縁物質3及び4の混合物(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質3及び4の混合物(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T2で+16Da、T3で+4Da、T1で+16Daの質量変化が確認された。また、質量変化を伴わないT2及びT3フラグメントも確認された。
【表18】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析をおこなった結果、類縁物質1と同じく、T2ではMet18で+16Da、T3ではTrp23で+4Da、T1ではMet8で+16Daの質量変化が確認された。また類縁物質3及び4の混合物(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表19に示した。類縁物質3及び4の混合物(未消化品)では、理論質量と比較して+32Da、+48Da及び+20Daのピークが確認され、図9に示すようにピークの大きさから+32Da及び+48Daが約1:1の割合でメインピークと考えられた。
【表19】

類縁物質3及び4の混合物(消化品)のLC/MS/MSクロマトグラムでは、T2+16Da:T2とT3+4Da:T3がそれぞれ約1:1の割合で存在し、T2+16Da:T3+4Da:T1+16Daは約1:1:2の割合で存在していた。従ってMS/MS解析の結果から、ヒトPTH(1−34)+32Da=(Met18+16Da)+(Met8+16Da)、ヒトPTH(1−34)+20Da=(Trp23+4Da)+(Met8+16Da)と推定され、後者に関しては類縁物質1と同じくトリプシン消化等の操作の過程においてTrp23でa)→b)という変化が起きたと仮定し、ヒトPTH(1−34)+48Da=(Trp23+32Da)+(Met8+16Da)と推定された。類縁物質3及び4は、それぞれ、ヒトPTH(1−34)+32Da及びヒトPTH(1−34)+48Daと推定された。すなわち、表8の相対保持時間=0.46のピークは、ヒト−PTH(1−34)−Met8[O]−Met18[O]とヒト−PTH(1−34)−Met8[O]−Trp23[二酸化]を含む混合物のピークと推定された。
【0168】
<類縁物質5>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.49を示す類縁物質を類縁物質5とし、表20に類縁物質5(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質5(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T2で+16Da、T3で+4Daの質量変化が確認された。
【表20】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析をおこなった結果、類縁物質1と同じく、T2ではMet18で+16Da、T3ではTrp23で+4Daの質量変化が確認された。また類縁物質5(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表21に示した。類縁物質5(未消化品)では、理論質量と比較して+48Da及び+20Daのピークが確認され、図10に示すようにピークの大きさから+48Daがメインピークと考えられた。
【表21】

MS/MS解析の結果から、ヒトPTH(1−34)+20Da=(Met18+16Da)+(Trp23+4Da)と推定された。類縁物質1と同じくトリプシン消化等の操作の過程においてTrp23でa)→b)という変化が起きたと仮定し、類縁物質5(未消化品)のメインピークは、ヒトPTH(1−34)+48Da=(Met18+16Da)+(Trp23+32Da)と推定された。すなわち、類縁物質5はヒト−PTH(1−34)−Met18[O]−Trp23[二酸化]と推定された。
【0169】
<類縁物質6>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.51を示す類縁物質を類縁物質6とし、表22に類縁物質6(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質6(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T2で+16Da、T3で+4Daの質量変化が確認された。また、質量変化を伴わないT1フラグメントも確認された。
【表22】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析をおこなった結果、類縁物質1と同じく、T2ではMet18で+16Da、T3ではTrp23で+4Daの質量変化が確認された。また類縁物質6(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表23に示した。類縁物質6(未消化品)では、理論質量と比較して+20Daのピークが確認された。
【表23】

MS/MS解析の結果から、類縁物質6は、ヒトPTH(1−34)+20Da=(Met18+16Da)+(Trp23+4Da)と推定された。すなわち、類縁物質6はヒト−PTH(1−34)−Met18[O]−Trp23[二酸化―ギ酸脱離]と推定された。
【0170】
<類縁物質7>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.55を示す類縁物質を類縁物質7とし、表24に類縁物質7(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質7(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T1で+16Daの質量変化が確認された。
【表24】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析を行った結果、類縁物質1と同じく、T1ではMet8で+16Daの質量変化が確認された。また類縁物質7(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表25に示した。図12に示すように、類縁物質7(未消化品)では、理論質量と比較して+16Daのピークが確認された。
【表25】

MS/MS解析の結果から、類縁物質7は、ヒトPTH(1−34)+16Da=(Met8+16Da)と推定された。すなわち、類縁物質7は、ヒト−PTH(1−34)−Met8[O]と推定された。
【0171】
<類縁物質8>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.62を示す類縁物質を類縁物質8とし、表26に類縁物質8(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質8(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T2で+16Daの質量変化が確認された。
【表26】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析を行った結果、類縁物質1と同じく、T2ではMet18で+16Daの質量変化が確認された。また類縁物質8(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表27に示した。図13に示すように、類縁物質8(未消化品)では、理論質量と比較して+16Daのピークが確認された。
【表27】

MS/MS解析の結果から、類縁物質8は、ヒトPTH(1−34)+16Da=(Met18+16Da)と推定された。すなわち、類縁物質8は、ヒト−PTH(1−34)−Met18[O]と推定された。
【0172】
<類縁物質9>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.65を示す類縁物質を類縁物質9とし、表28に類縁物質9(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質9(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T3で+4Daの質量変化が確認された。
【表28】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析を行った結果、類縁物質1と同じく、T3ではTrp23で+4Daの質量変化が確認された。また類縁物質9(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表29に示した。類縁物質9(未消化品)では、理論質量と比較して+32Da、+4Daのピークが観察され、図14に示すようにピークの大きさから+32Daがメインピークと考えられた。
【表29】

MS/MS解析の結果から、ヒトPTH(1−34)+4Da=(Trp23+4Da)と推定された。類縁物質1と同じくトリプシン消化等の操作の過程においてTrp23でa)→b)という変化が起きたと仮定し、類縁物質9(未消化品)のメインピークは、ヒトPTH(1−34)+32Da=(Trp23+32Da)と推定された。すなわち、類縁物質9は、ヒト−PTH(1−34)−Trp23[二酸化]と推定された。
【0173】
<類縁物質10及び11>
表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.70を示すピークは、以下で説明するとおりに類縁物質10及び11の混合物由来のものであった。表30に類縁物質10及び11の混合物(消化品)のLC/MS/MSにおける質量測定結果を示した。類縁物質10及び11の混合物(消化品)では標準溶液(消化品)の該当フラグメントの実測値と比較して、T3で+16Da及び+4Daの質量変化を別々のフラグメントとして確認した。
【表30】

質量変化が確認されたフラグメントについてMS/MS解析をおこなった結果を表31に示した。標準溶液(消化品)と比較した結果、一方のT3ではTrp23で+16Daの質量変化が確認された。Trpでの+16Da変化体の構造は図6のc)であると予想された。もう一方のT3では被変化アミノ酸を特定できるデータが得られなかったが、類縁物質1〜8の解析結果からTrp23で+4Daの質量変化をしていると推定された。
【表31】

また類縁物質10及び11の混合物(未消化品)のLC/MSで得られた質量を、ヒトPTH(1−34)の理論質量4115.1309と比較した結果を表32に示した。図15に示すように、類縁物質10及び11の混合物(未消化品)では、理論質量と比較して+16Da、+4Daのピークが観察された。
【表32】

MS/MS解析の結果から、ヒトPTH(1−34)+16Da=(Trp23+16Da)、ヒトPTH(1−34)+4Da=(Trp23+4Da)と帰属され、表8の「類縁物質(未消化品)」の列で相対保持時間=0.70を示すピークは、類縁物質10及び11の混合物と推定された。すなわち、類縁物質10はヒト−PTH(1−34)−Trp23[一酸化]と、類縁物質11はヒト−PTH(1−34)−Trp23[二酸化―ギ酸脱離]と推定された。
【0174】
<構造解析まとめ>
各類縁物質の相対保持時間および推定構造結果を表33に示した。表中のメチオニン残基の酸化は図5に、表中のa),b),c)は図6に示される。表中の各類縁物質の相対保持時間はヒトPTH(1−34)の保持時間を1とした場合の相対的な保持時間を示す。
【表33】
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明によれば、高純度PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が提供されるので、本発明は医薬品製造業において利用できる。
【符号の説明】
【0176】
1:大扉
2:小扉
3:副扉(開いた状態)
4:副扉(閉じた状態)
5:整風カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]