【0016】
本発明において用いることができるスフィンゴミエリンは、特に限定されず、化学的に合成されたものや、天然由来のものが挙げられる。
例えば、スフィンゴミエリンの化学的合成法として、1)ホスホロアミダイトを経由する方法(Weis、Chem Phys Lip、3、1999)、2)環状ホスフェートを経由する方法(Dong、Tetrahedron Lett、5291、1991)、あるいは3)環状ホスファイトを経由する方法(Byun、J Org Chem、6495、1994)により、セラミドの1位水酸基にホスホコリンを導入してスフィンゴミエリンに変換する方法が知られている。
また、牛乳から得られる乳脂肪球皮膜成分を、透析、硫安分画、ゲルろ過、等電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製(Sanchez−Juanes、Int Dairy J、273、2009)することで、高純度のスフィンゴミエリンを得ることができる。
さらに、スフィンゴミエリンとして市販品を用いることもできる。斯かる市販品としては、日油(株)「牛乳由来スフィンゴミエリン:NM-70」や「卵黄由来スフィンゴミエリン:NM-10」等が挙げられる。
【0020】
本発明の運動機能改善剤等を食品の有効成分として用いた場合の形態としては、牛乳、加工乳、乳飲料、ヨーグルト、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ジュース、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の運動機能改善剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、脂肪球皮膜成分以外の有効成分等を適宜組み合わせて運動機能改善用食品、持久力向上用食品、抗疲労用食品、筋力向上用食品、ペットフード等に配合することが可能である。
また、本発明の運動機能改善剤等は、適当量の栄養補給が困難な高齢者やベッドレスト状態の病者においては、経腸栄養剤等の栄養組成物の形態として配合することが可能である。
本発明の運動機能改善剤等を含む飲料、例えば乳飲料、清涼飲料水、茶系飲料等に対するスフィンゴミエリンの配合量(乾燥物換算)は、通常0.0001〜1.0質量%、さらに0.001〜0.5質量%、特に0.01〜0.2質量%とするのが好ましい。
【実施例】
【0024】
製造例1: スフィンゴミエリンの調製
ミルクリン脂質PC−500(フォンテラジャパン社より入手、スフィンゴミエリン8.8%含有)201gをとり、アセトン4000mLを加え、氷冷下にホモミキサー(TKオートホモミキサー、特殊機化工業社製)にて分散した。その後、遠心分離により、アセトン可溶画分(中性脂質)を除去した。得られたアセトン不溶画分Aに、クロロホルム800mL、メタノール400mL、水300mLを加え、液々抽出し、クロロホルム層を採取した。クロロホルム層は減圧濃縮し、クロロホルム画分A 154gを得た。
得られたクロロホルム画分Aに、水酸化カリウム28.05gおよびメタノール1000mLを加え、窒素下、37℃で15時間攪拌し、加水分解を行なった。反応終了後、クロロホルム2000mL、水750mLを加え、液々分配し、クロロホルム層を採取した。クロロホルム層は、減圧濃縮した後、酢酸15mLで中和し、クロロホルム400mL、メタノール200mL、水150mLを加え、再度液々抽出を行なった。クロロホルム層を採取し、減圧濃縮し、クロロホルム画分B 90gを得た。
得られたクロロホルム画分Bに、アセトン1200mLを加え、氷冷下にホモミキサー(TKオートホモミキサー、特殊機化工業社製)にて分散した。その後、遠心分離により、アセトン可溶画分(遊離脂肪酸)を除去した。同様の操作をさらに2回繰り返し、アセトン不溶画分B 44gを得た。
得られたアセトン不溶画分Bに、ヘキサン400mL、メタノール400mL、水150mL、28%アンモニア水50mLを加え、液々抽出を行い、ヘキサン層を採取した。ヘキサン層には、さらにメタノール400mL、水150mL、28%アンモニア水50mLを加え、洗浄した。得られたヘキサン層は、減圧濃縮し、ヘキサン画分27gを得た。
得られたヘキサン画分のうち22gを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。すなわち、シリカゲル(シリカゲル60、Merck社製)1kgに、ヘキサン画分のクロロホルム溶液を吸着させた後、クロロホルム/メタノール混合溶媒で供雑物を溶出した後、メタノール21Lで溶出し、精製スフィンゴミエリン画分16g(収率:8%)を得た。
【0025】
試験例1: スフィンゴミエリンの持久力向上、筋力向上効果
<方法> スフィンゴミエリンは、上記製造例1の方法に従い、ミルクリン脂質(PC−500、フォンテラジャパン)より抽出した。
1週間の予備飼育後、9週齢の雄性BALB/cマウス(日本チャールスリバー)を体重と遊泳持久力〔後記方法により、マウス用流水プール(京大松元式運動量測定流水槽:縦×横×深さ 90×45×45cm、水深38cm、水温34℃(Matsumoto、J Appl Physiol.81:1843−1849,1996))を用いて限界遊泳時間を測定〕が等しくなるように3群(Cont群、Ex群、SPM群)に分けた(各群8匹)。
群分け後、Cont群およびEx群のマウスにはコントロール食(10%脂質、20%カゼイン、55.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、4%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)を、また、SPM群のマウスには、製造例1によるスフィンゴミエリンを含む試験食(10%脂質、20%カゼイン、55.25%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン、4%ミネラル、0.25%スフィンゴミエリン)を、13週間給餌した。
給餌期間中、Ex群およびSPM群のマウスにおいては、マウス用流水プールを用いて限界遊泳時間を週に1度測定した。限界遊泳時間は、遊泳開始から、7L/minの流量でマウスが呼吸のために7秒間水面に浮上できなくなるまでの時間とした。尚、この間、マウスを運動に慣らすため、週2回の遊泳トレーニング(6L/min、30min)を施した。
13週間飼育後、解剖に供し、摘出ひらめ筋及び長指伸筋の筋力を測定した。摘出筋の筋力測定は、Cannonらの方法(Biomed Sci Instrum、2005)に準じて行った。すなわち、マウスよりひらめ筋及び長指伸筋を摘出、縫合糸(#5−0 silk)を用いてトランスデューサー(WPI、FORT100)に固定し、37℃のKrebs溶液中(95%−O
2、5%−CO
2通気)に浸漬した。2本のプラチナ電極より、40Hz、330ms、10Vの電気刺激を施し、トランスデューサーより得られるシグナルを筋力(g/mg muscle)として測定した。
【0026】
<結果>
図1に、スフィンゴミエリンが遊泳持久力に及ぼす影響を示す。スフィンゴミエリン投与マウスでは、投与開始後早期から持久力の向上が認められ、投与開始5週後以降は、Cont群に対して有意な持久力向上を認めた。また、
図2に、スフィンゴミエリンが筋力向上に及ぼす影響について示す。スフィンゴミエリン投与マウスでは、ひらめ筋及び長指伸筋の筋力が有意な高値を示した。
持久力や筋力は身体を動かすための代表的な運動機能であり、また、運動機能が向上することにより、身体疲労に対する耐性が向上すると考えられる。したがって本試験において、スフィンゴミエリンは、運動持久力及び摘出筋の筋力を増加させたことから、持久力向上、筋力向上、および抗疲労に有効であることが明らかとなった。
【0027】
試験例2: スフィンゴミエリンの筋力低下抑制効果
<方法> 雄性BALB/cマウス(9週齢)を1週間予備飼育し、体重を基準に3群(Normal群、Cont群、SPM群)に群分けした(各群n=8)。
群分け後、Normal群およびCont群のマウスには、コントロール食(10%脂質、20%カゼイン、55.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン、4%ミネラル)を、また、SPM群のマウスには、製造例1によるスフィンゴミエリンを含む試験食(10%脂質、20%カゼイン、55.25%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン、4%ミネラル、0.25%スフィンゴミエリン)を、2週間給餌した。
試験飼料を2週間給餌した後、Cont群及びSPM群のマウスに尾懸垂処置を施し、後肢筋群(ひらめ筋等)への重力荷重を排した。荷重が減じた筋は廃用性筋萎縮を呈し、筋質量や筋力が低下する。Normal群のマウスには、尾懸垂処置を施さなかった。
尾懸垂処置7日後、マウスを解剖に供し、摘出ひらめ筋の筋力を測定した。摘出筋の筋力測定は、試験例1と同様の方法で行った。
【0028】
<結果>
図3に、摘出ひらめ筋の筋力を示す。尾懸垂処置に伴い、Cont群及びSPM群の筋力は、有意に低下した。一方、SPM群の筋力は、Cont群に対して有意な高値を示した。したがって本結果より、スフィンゴミエリンによる筋力低下抑制効果が明らかとなった。
【0029】
製剤例
処方例1 運動機能改善用ゼリー食品
カラギーナンとローカストビーンガムの混合ゲル化剤0.65%、グレープフルーツの50%の濃縮果汁5.0%、クエン酸0.05%、ビタミンC0.05%、およびスフィンゴミエリン(日油社製 NM-70)を0.1%混合し、これに水を加えて100%に調整し、65℃で溶解した。更に少量のグレープフルーツフレーバーを添加して85℃で5分間保持して殺菌処理後、100mLの容器に分注した。8時間静置して徐冷しながら5℃に冷却して、ゲル化させ、口に含んだ時に口溶け性が良好で、果実風味を有し食感良好なスフィンゴミエリンを含有するゼリー食品を得た。
【0030】
処方例2 運動機能改善用錠剤
アスコルビン酸180mg、クエン酸50mg、アスパルテーム12mg、ステアリン酸マグネシウム24mg、結晶セルロース120mg、乳糖594mg、およびスフィンゴミエリン(日油社製 NM-10)120mgからなる処方(1日量2200mg)で、日本薬局方(製剤総則「錠剤」)に準じて錠剤を製造し、スフィンゴミエリンを含有する錠剤を得た。
【0031】
処方例3 運動機能改善用ビタミン内服液
タウリン800mg、ショ糖2000mg、カラメル50mg、安息香酸ナトリウム30mg、ビタミンB1硝酸塩5mg、ビタミンB2 20mg、ビタミンB6 20mg、ビタミンC 2000mg、ビタミンE 100mg、ビタミンD3 2000IU、ニコチン酸アミド20mg、精製スフィンゴミエリン(製造例1)50mg、ロイシン200mg、イソロイシン100mg、バリン100mgを適量の精製水に加えて溶解し、リン酸水溶液でpH3に調節した後、更に精製水を加えて全量を50mLとした。これを80℃で30分滅菌して、スフィンゴミエリン及びアミノ酸類を含有する運動機能改善用飲料を得た。
【0032】
処方例4 運動機能改善用乳系飲料
乳カゼイン3.4g、分離大豆タンパク質1.67g、デキストリン14.86g、ショ糖1.3g、大豆油1.75g、シソ油0.18g、大豆リン脂質0.14g、グリセリン脂肪酸エステル0.07g、ミネラル類0.60g、ビタミン類0.06g、精製スフィンゴミエリン(製造例1)100mgに精製水を加え、常法に従い、レトルト殺菌し、スフィンゴミエリンを含有する運動機能改善用飲料(100mL)を得た。