特許第5922879号(P5922879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5922879ポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922879
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20160510BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20160510BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20160510BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20160510BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08K5/42
   C08K5/521
   C08K5/5399
   C08J5/00CFD
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2011-94723(P2011-94723)
(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公開番号】特開2011-256368(P2011-256368A)
(43)【公開日】2011年12月22日
【審査請求日】2014年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2010-112648(P2010-112648)
(32)【優先日】2010年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100146743
【弁理士】
【氏名又は名称】山脇 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100173598
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 桜子
(72)【発明者】
【氏名】横山 知成
(72)【発明者】
【氏名】内村 竜次
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和幸
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 謙二
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−176473(JP,A)
【文献】 特開昭49−073455(JP,A)
【文献】 特開平07−070304(JP,A)
【文献】 特開2010−043201(JP,A)
【文献】 特表2003−535948(JP,A)
【文献】 特表2003−509551(JP,A)
【文献】 特開2010−059316(JP,A)
【文献】 特開2003−128906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3以上8以下(3≦(η10/η1000)≦8)であり、極限粘度[η](dl/g)が0.40以上1.00以下であるポリカーボネート樹脂と、
難燃剤と、を配合したポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるポリカーボネート樹脂成形体の鉛筆硬度がHB以上であり、
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位を有し、
下記式(1)で表される構造単位を有する前記ポリカーボネート樹脂の含有量が、全ポリカーボネート樹脂中の少なくとも50重量%であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式(1)において、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、酸素原子を示す。R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂の極限粘度[η](dl/g)が、0.50以上1.00以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、前記難燃剤0.05重量部〜0.2重量部を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記式(1)におけるR及びRが、フェノキシ基における2位の炭素に結合したメチル基であり、R及びRが、フェノキシ基における6位の炭素に結合した水素原子であり、Xが、イソプロピリデン基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(2)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂は、下記式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換法により得られることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

(式(3)において、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、酸素原子を示す。R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【請求項7】
前記難燃剤は、スルホン酸金属塩系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、燐含有化合物系難燃剤及び珪素含有化合物系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体であって、
厚さ2mm以下の試験片によるUL94の難燃性試験においてV−0規格を満たし、JIS−K7136の規定に基づく厚さ3mmの試験片によるヘーズ値が1.0以下であり、且つ表面硬度がHB以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、OA機器、家電製品等の用途にも使用されている。この分野では、合成樹脂材料の難燃化の要望が強く、多くの難燃剤が検討されている。例えば、特許文献1には、溶融法で得られるポリカーボネートであって特定の溶融粘弾性を有するものと難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−049061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポリカーボネート樹脂は、難燃性に加え、多くの用途に適した成形品を得るための良好な成形性が求められる。例えば、薄肉製品を射出成形法により得る場合等は、射出成形に適した流動性が必要とされる。
本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性と成形性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記[1]〜[9]に係るポリカーボネート樹脂組成物とポリカーボネート樹脂成形体が提供される。
[1]300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3以上8以下(3≦(η10/η1000)≦8)であるポリカーボネート樹脂と、難燃剤と、を配合し、鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、前記難燃剤0.05重量部〜0.2重量部を含むことを特徴とする前項[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする前項[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0006】
【化1】
【0007】
(式(1)において、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、酸素原子を示す。R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[4]前記式(1)におけるR及びRが、フェノキシ基における2位の炭素に結合したメチル基であり、R及びRが、フェノキシ基における6位の炭素に結合した水素原子であり、Xが、イソプロピリデン基であることを特徴とする前項[3]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(2)で表される構造単位を有することを特徴とする前項[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0008】
【化2】
【0009】
(式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[6]前記式(1)で表される構造単位を有する前記ポリカーボネート樹脂の含有量が、全ポリカーボネート樹脂中の少なくとも50重量%であることを特徴とする前項[3]乃至[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7]前記ポリカーボネート樹脂は、下記式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換法により得られることを特徴とする前項[1]乃至[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0010】
【化3】
【0011】
(式(3)中、R、R、R、R、Xは、前記式(1)と同義である。)
[8]前記難燃剤は、スルホン酸金属塩系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、燐含有化合物系難燃剤及び珪素含有化合物系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前項[1]乃至[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9]前項[1]乃至[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体であって、厚さ2mm以下の試験片によるUL94の難燃性試験においてV−0規格を満たし、JIS−K7136の規定に基づく厚さ3mmの試験片によるヘーズ値が1.0以下であり、且つJIS−K5600−5−4の規定に基づく表面硬度がHB以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、比(η10/η1000)が3以上8以下の範囲外のポリカーボネート樹脂を使用し、鉛筆硬度がHB未満であるポリカーボネート樹脂組成物と比較して、難燃性と成形性が良好なポリカーボネート樹脂成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
<ポリカーボネート樹脂組成物>
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と難燃剤とを成分とし、樹脂組成物としての鉛筆硬度がHB以上である。以下、各要件について説明する。
【0015】
(ポリカーボネート樹脂)
本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂は、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10(Pa・s)と300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000(Pa・s)との比(η10/η1000)が3以上8以下(3≦(η10/η1000)≦8)である性質を有する。
本実施の形態において、キャピログラフによるポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、キャピラリーレオメータ「キャピログラフ 1C」(株式会社東洋精機製作所製)を用い、ダイス径1mmφ×10mmL、滞留時間5分、測定温度300℃にて、剪断速度γ=9.12sec−1〜1824sec−1の範囲で測定され、ポリカーボネート樹脂のη10及びη1000を求める。また、本実施の形態で用いるポリカーボネート樹脂の溶融粘度の測定において、測定に用いるポリカーボネート樹脂は、予め80℃で5時間乾燥したものを使用する。
【0016】
本実施の形態において、溶融粘度η10は、後述するポリカーボネート樹脂の燃焼性試験における燃焼時の溶融粘度に対応する。溶融粘度η10が高いほど、燃焼時に火種が落下し難く、延焼し難いと考えられる。
本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂の溶融粘度η10は、通常、8,000以上であり、好ましくは10,000以上である。但し、溶融粘度η10は、通常、50,000以下である。溶融粘度η10が、過度に小さいと燃焼時に火種が落下しやすい傾向がある。溶融粘度η10が、過度に大きいと押出機での混練時に粘度が高いため、添加剤の分散不良を招き易い、あるいは押出機のモータ負荷が大きすぎてトラブルになりやすい傾向がある。
【0017】
本実施の形態において、溶融粘度η1000は、例えば、射出成型時のポリカーボネート樹脂の溶融粘度に対応する。溶融粘度η1000が低いほど、成形時の流動性が良好と考えられる。
本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂の溶融粘度η1000は、通常、10,000以下であり、好ましくは5,000以下である。但し、溶融粘度η1000は、通常、1,000以上であり、好ましくは2,000以上である。溶融粘度η1000が、過度に小さいと機械的強度が劣る傾向がある。溶融粘度η1000が、過度に大きいと流動性不足により成型性が悪化する傾向がある。
【0018】
本実施の形態において使用するポリカーボネート樹脂は、溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3以上8以下(3≦(η10/η1000)≦8)である性質を有する。
ここで、溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)は、ポリカーボネート樹脂と難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物の難燃性と成形性のバランスを表す指標としての技術的意義を有する。すなわち、高速剪断速度における溶融粘度η1000は、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時における成形性を支配する要因となり得る。また、低速剪断速度における溶融粘度η10は、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼性試験における難燃性を支配する要因となり得る。
本実施の形態において、比(η10/η1000)は、3以上、好ましくは4以上であり、且つ、比(η10/η1000)は、8以下、好ましくは6以下である。比(η10/η1000)が過度に小さいと、難燃性や成型性に劣る傾向がある。比(η10/η1000)が過度に大きいと、押出混練時のしやすさや、機械的強度に劣る傾向がある。
【0019】
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂は、分子中に少なくとも下記式(1)で表される構造単位を含有するものが挙げられる。
【0020】
【化4】
【0021】
ここで、式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。尚、R、R、R、Rにおける炭素数は、置換基を除くアルキル基部分の炭素数を示す。Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、酸素原子を示す。
【0022】
及びRの、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0023】
及びRの、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、R及びRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。R及びRは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0025】
ここで、式(1)におけるR、R、R、Rの結合位置は、それぞれのフェニル環上のXに対して2位、3位、5位及び6位から選ばれる任意の位置である。これらの中でも、好ましくはXに対して3位、5位である。
【0026】
式(1)において、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、酸素原子を示す。置換若しくは無置換の硫黄原子としては、例えば、−S−、−SO−が挙げられる。置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基を以下に示す。
【0027】
【化5】
【0028】
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のアルキレン基又はポリメチレン基を示す。nは、1〜10の整数を示す。
【0029】
及びRの、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R及びRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、更にはメチル基が好ましく、特に、R及びRの両方がメチル基であり、nが1、つまり式(1)のXがイソプロピリデン基であることが好ましい。
【0030】
Zは、式(1)において、2個のフェニル基を結合する炭素と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素環を形成する。二価の炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは、炭素数5〜炭素数8)が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体が好ましい。
【0031】
本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例として、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位、即ちR及びRがメチル基でXに対して3位に有り、R及びRが水素原子である構造単位を有するもの、または、下記式(2)で表される構造単位を有するものが好ましい。
【0032】
【化6】
【0033】
式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、前述した式(1)におけるR及びRと同様である。
中でも本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位を有するものであることが、特に好ましい。
【0034】
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂は、少なくとも式(1)で表される構造単位を有することが必要である。好ましい範囲としては、式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂の含有量が、全ポリカーボネート樹脂中の少なくとも50重量%である。式(1)で表される構造単位が過度に少ないと、樹脂の表面硬度や流動性が劣る傾向がある。
【0035】
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂は、下記に示す物性を満たすものであることが好ましい。
(a)塩化メチレン溶媒中、20℃における極限粘度[η](dl/g)が、0.40以上2.0以下の範囲である。さらに、極限粘度[η](dl/g)が、0.50〜1.00が好ましく、0.50〜0.80が特に好ましい。極限粘度[η]が過度に小さいと、機械的強度が劣る傾向があり、極限粘度[η]が過度に大きいと、溶融流動性が悪化し成形性が劣る傾向がある。
【0036】
(b)分岐パラメータG=[η]/[η]linが、0.1以上0.9以下の範囲である。さらに、分岐パラメータGは、0.3〜0.9が好ましく、0.5〜0.9が特に好ましい。分岐パラメータGが過度に小さいと、溶融張力が大きすぎて流動性が低下する傾向があり、分岐パラメータGが過度に大きいと、溶融状態でニュートン流体として挙動し成形性が不十分となる傾向がある。
ここで、[η]linは、光散乱法又は汎用較正曲線を用いたGPC法で測定される重量平均分子量が同一の直鎖状ポリカーボネートの、塩化メチレン溶媒中、20℃における極限粘度である。本実施の形態では、分岐剤を使用せずに芳香族ジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとの界面重合法により得られたポリカーボネート樹脂(直鎖状ポリカーボネート)の極限粘度と重量平均分子量とから粘度式を求め、それをもとにして算出した値である。
【0037】
本実施の形態では、分岐パラメータGは、以下の方法により算出する。すなわち、前述した方法で測定したポリカーボネート樹脂の極限粘度〔η〕を、それと同じ重量平均分子量を有する直鎖状ポリカーボネートの極限粘度〔η〕linとで除してポリカーボネート樹脂の分岐パラメータGを算出する。
〔η〕linは、分岐剤を使用せずに界面重縮合法で製造したポリカーボネート樹脂の極限粘度を測定し、これを直鎖状ポリカーボネートの極限粘度〔η〕linとする。また、極限粘度〔η〕linを有する直鎖状ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は、予め、ポリカーボネート樹脂のGPC測定結果から求めた標準ポリスチレンに換算した分子量と、極限粘度〔η〕とから分子量−粘度関係式を求め、この分子量−粘度関係式から算出する。
【0038】
(c)前述した溶融粘度η10の対数値lnη10を、塩化メチレン溶媒中、20℃における極限粘度[η](dl/g)で除した数値(lnη10/[η])が14.0以下であり、さらに、前述した溶融粘度η1000の対数値lnη1000を、塩化メチレン溶媒中、20℃における極限粘度[η](dl/g)で除した数値(lnη1000/[η])が11.0以下である。
(lnη10/[η])と(lnη1000/[η])は、上記の範囲を同時に満足することが好ましい。上記の範囲を外れると、流動性、成形性のバランスを損なう傾向がある。(lnη10/[η])及び(lnη1000/[η])は、ともに下限値は特に限定されないが、実用上、(lnη10/[η])は、11.0〜14.0の範囲がより好ましく、(lnη1000/[η])は、8.0〜11.0の範囲がより好ましい。
【0039】
(lnη10/[η])、(lnη1000/[η])は、流動性を示す指標であることを意味する。例えば、同一の極限粘度(=分子量)を有するポリカーボネート樹脂であっても溶融粘度が異なる場合がある。成形体の薄肉化を図る場合、機械的強度は維持しつつ、且つ流動性が良い材料が要求される。この機械的強度については、低剪断速度域の溶融粘度(η10)と極限粘度([η])との比(lnη10/[η])が上記範囲内となるように調整することが好ましい。一方、流動性については、高剪断速度域の溶融粘度(lnη1000)と極限粘度([η])との比(lnη1000/[η])が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0040】
(d)ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、(Mw/Mn)は、3.0〜4.0の範囲がより好ましい。(Mw/Mn)が過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、(Mw/Mn)が過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0041】
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は特に限定されない。製造方法として後述するエステル交換法を採用する場合、得られるポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、通常、100ppm以上、好ましくは、200ppm以上、さらに好ましくは、300ppm以上である。但し、通常、2000ppm以下、好ましくは1800ppm以下、さらに好ましくは1200ppm以下である。ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が過度に小さいと、成形品の初期色相が悪化する傾向がある。末端水酸基濃度が過度に大きいと、滞留熱安定性が低下する傾向がある。
【0042】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
次に、本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。ポリカーボネート樹脂の製造方法には、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合(溶融法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとの界面重縮合による界面法が挙げられる。これらの中でも、溶融法が好ましい。
【0043】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、溶融法(エステル交換法)、界面法ともに下記式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物を含有することが好ましい。
【0044】
【化7】
【0045】
式(3)中、R、R、R、R、Xは、前記式(1)と同義である。
【0046】
式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アダマンタン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、3,3’−ジメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)アダマンタン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)プロパン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェノール等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、3,3’−ジメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェノール等が挙げられる。
【0048】
さらに、これらの中で、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましく、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンが好ましい。
式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物は1種又は2種以上を混合して用いることができる。上記式(3)において、R、R、R、R、Xの好ましい構造及びフェニル環に対する好ましい結合位置は、式(1)におけるのと同様である。
【0049】
(溶融法:エステル交換法)
溶融法においては、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に行われる溶融重縮合反応によりポリカーボネート樹脂を製造する。
【0050】
(カルボニル化合物)
本実施の形態で使用するカルボニル化合物としては、下記式で示される炭酸ジエステル化合物が挙げられる。
【0051】
【化8】
【0052】
ここで、上記式中、A’は、置換基を有することがある炭素数1〜炭素数10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。尚、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜炭素数10のアルキル基、炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
【0053】
炭酸ジエステル化合物の具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
また、上記の炭酸ジエステル化合物は、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0055】
本実施の形態において、これらの炭酸ジエステル化合物(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、炭酸ジエステル化合物が1.01〜1.30のモル比、好ましくは1.02〜1.20のモル比で用いられる。前記モル比が過度に小さいと、得られるポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が高くなり、熱安定性が悪化する傾向となる。また、前記モル比が過度に大きいと、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステル化合物の残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0056】
(エステル交換触媒)
本実施の形態において使用するエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、ベリリウム化合物、マグネシウム化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、実用的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が望ましい。これらのエステル交換触媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
エステル交換触媒の使用量は、通常、全芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して1×10−9〜1×10−1モルの範囲で用いられるが、成形特性や色相に優れた芳香族ポリカーボネートを得るためには、エステル交換触媒の量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、全芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは1.0×10−6〜5×10−6モルの範囲内、より好ましくは1.0×10−6〜4×10−6モルの範囲内であり、特に好ましくは1.3×10−6〜3.8×10−6モルの範囲内である。上記下限量より少なければ、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性と成形特性をもたらす分岐成分量が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、分岐成分量が多すぎて流動性が低下し、目標とする成形特性の優れた芳香族ポリカーボネートが製造できない。
【0058】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0059】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;アルカリ土類金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
また、ベリリウム化合物及びマグネシウム化合物としては、例えば、当該金属の水酸化物、炭酸塩等の無機金属化合物;前記金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。
【0060】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0061】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0062】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0063】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0064】
(溶融法によるポリカーボネート樹脂の製造工程)
溶融法によるポリカーボネート樹脂の製造工程は、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル化合物の原料混合溶融液を調製し(原調工程)、これらの化合物を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。反応器は、複数基の竪型撹拌反応器及びこれに続く少なくとも1基の横型撹拌反応器が用いられる。通常、これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、反応を停止させ、重縮合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、ポリカーボネート樹脂を所定の粒径のペレットに形成する工程等を適宜追加してもよい。
【0065】
(界面法)
界面法によるポリカーボネート樹脂の製造方法は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液を調製し、重合触媒として使用するアミン化合物の存在下で、芳香族ジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとの界面重縮合反応を行い、次いで、中和、水洗、乾燥工程を経てポリカーボネート樹脂が得られる。
【0066】
塩化カルボニル(以下、CDCと記すことがある。)は、通常、液状又はガス状で使用される。CDCの好ましい使用量は、反応条件、特に、反応温度及び水相中の芳香族ジヒドロキシ化合物の金属塩の濃度によって適宜選択され、特に限定されない。通常、芳香族ジヒドロキシ化合物の1モルに対し、CDC1モル〜2モル、好ましくは1.05モル〜1.5モルである。CDCの使用量が過度に多いと、未反応CDCが多くなり原単位が極端に悪化する傾向がある。また、CDCの使用量が過度に少ないと、クロロフォルメート基量が不足し、適切な分子量伸長が行われなくなる傾向がある。
【0067】
界面法では、通常、有機溶媒を使用する。有機溶媒としては、塩化カルボニル及びカーボネートオリゴマー、ポリカーボネート樹脂等の反応生成物を溶解し、水と相溶しない(または、水と溶液を形成しない)不活性有機溶媒が挙げられる。
このような不活性有機溶媒として、例えば、ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン及び1,2−ジクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン及びクロロトルエン等の塩素化芳香族炭化水素;その他、ニトロベンゼン及びアセトフェノン等の置換芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらの中でも、例えば、ジクロロメタン又はクロロベンゼン等の塩素化された炭化水素が好適に使用される。これらの不活性有機溶媒は、単独であるいは他の溶媒との混合物として使用することができる。
【0068】
縮合触媒としては、二相界面縮合法に使用されている多くの縮合触媒の中から、任意に選択することができる。例えば、トリアルキルアミン、N−エチルピロリドン、N−エチルピペリジン、N−エチルモルホリン、N−イソプロピルピペリジン、N−イソプロピルモルホリン等が挙げられる。中でも、トリエチルアミン、N−エチルピペリジンが好ましい。
【0069】
連鎖停止剤としては、モノフェノールを使用する。モノフェノールとしては、例えば、フェノール;p−t−ブチルフェノール、p−クレゾール等の炭素数1〜炭素数20のアルキルフェノール;p−クロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール等のハロゲン化フェノールが挙げられる。モノフェノールの使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分子量に応じ適宜選択され、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.5モル%〜10モル%である。
【0070】
界面法において、ポリカーボネート樹脂の分子量は、モノフェノール等の連鎖停止剤の添加量で決定される。このため、ポリカーボネート樹脂の分子量を制御する観点から、連鎖停止剤の添加時期は、カーボネート形成性化合物の消費が終了した直後から、分子量伸長が始まる前での間が好ましい。
カーボネート形成性化合物の共存下でモノフェノールを添加すると、モノフェノール同士の縮合物(炭酸ジフェニル類)が多く生成し、目標とする分子量のポリカーボネート樹脂が得られにくい傾向がある。モノフェノールの添加時期が極端に遅れると、分子量制御が困難となり、さらに、分子量分布の低分子側に特異な肩を有する樹脂となり、成型時には垂れを生じる等の弊害が生じる傾向がある。
【0071】
また、界面法、溶融法共に、任意の分岐剤を使用することができる。このような分岐剤としては、たとえば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(THPE)、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(4,4’−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌル等も使用しうる。これらの中でも、少なくとも3個のフェノール性ヒドロキシル基を有する分岐剤が好適である。分岐剤の使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分岐度に応じ適宜選択され、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、0.05モル%〜2モル%である。
【0072】
(界面法によるポリカーボネート樹脂の製造工程)
界面法によるポリカーボネート樹脂の製造工程は、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液を調製し(原調工程)、塩化カルボニル(COCl)及び有機溶媒の存在下で行われる芳香族ジヒドロキシ化合物のホスゲン化反応の後、縮合触媒と連鎖停止剤を用いて芳香族ジヒドロキシ化合物のオリゴマー化反応を行い(オリゴマー化工程)、続いて、オリゴマーを用いた重縮合反応を行い(重縮合工程)、重縮合反応後の反応液をアルカリ洗浄、酸洗浄、水洗浄により洗浄し(洗浄工程)、洗浄された反応液を予濃縮しポリカーボネート樹脂を造粒後に単離し(樹脂単離工程)、単離されたポリカーボネート樹脂の粒子を乾燥する(乾燥工程)ことによっておこなわれる。
【0073】
本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂は、前述した式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂に加え、必要に応じ、下記式(4)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含むことができる。
【0074】
【化9】
【0075】
ここで、式(4)中、Xは、前記式(1)と同義である。
式(4)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂の具体例としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)の単独重合体、前述した式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の1種または2種以上とビスフェノールAとの共重体が挙げられる。
本実施の形態では、前述した式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂と式(4)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂とを併用する場合、式(4)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂の含有量が、全ポリカーボネート樹脂中の90重量%以下であることが好ましい。
【0076】
(難燃剤)
本実施の形態で使用する難燃剤としては、例えば、スルホン酸金属塩系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、燐含有化合物系難燃剤及び珪素含有化合物系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、スルホン酸金属塩系難燃剤が好ましい。
本実施の形態で使用する難燃剤の配合量は、通常、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.01重量部以上であり、好ましくは、0.05重量部以上である。ただし、通常、1重量部以下であり、好ましくは、0.2重量部以下の範囲である。難燃剤の配合量が過度に少ないと、難燃効果が低下する。難燃剤の配合量が過度に多いと、樹脂成形品の機械強度が低下しすぎる傾向がある。
【0077】
スルホン酸金属塩系難燃剤としては、脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。これら金属塩の金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウムのマグネシウム類;カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属等が挙げられる。スルホン酸金属塩は、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
スルホン酸金属塩としては、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩等が挙げられる。
【0078】
芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸ナトリウム、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのカリウム、4−クロロー4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム等が挙げられる。
【0079】
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0080】
ハロゲン含有化合物系難燃剤の具体例としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、トリブロモフェノール、臭素化芳香族トリアジン、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシポリマー、デカブロモジフェニルオキサイド、トリブロモアリルエーテル、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、エチレンビステトラブロモフタルイミド、デカブロモジフェニルエタン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモシクロドデカン等が挙げられる。
【0081】
燐含有化合物系難燃剤としては、赤燐、被覆された赤燐、ポリリン酸塩系化合物、リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等が挙げられる。
【0082】
珪素含有化合物系難燃剤としては、例えば、シリコーンワニス、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなるシリコーン樹脂、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つシリコーン化合物、シリカ粉末の表面に官能基を有していてもよいポリジオルガノシロキサン重合体を担持させたシリコーン粉末、オルガノポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体等が挙げられる。
【0083】
<鉛筆硬度>
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K5600に準拠した鉛筆硬度が、HB以上であることが必要である。さらに、ポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度は、好ましくは、F以上であり、さらに好ましくはH以上である。但し、通常、3H以下である。ポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度がHB未満では、樹脂成形体の表面が傷つきやすい傾向がある。
【0084】
前述したように、本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物は、溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3以上8以下(3≦(η10/η1000)≦8)であるポリカーボネート樹脂と難燃剤と組み合わせ、且つ鉛筆硬度がHB以上であることにより、このような構成を有しない樹脂組成物と比較して、難燃性と成形性のバランスが良好である。
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が向上する理由は明確ではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂成分に、芳香族ジヒドロキシ化合物の2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料モノマーとして使用して得られたポリカーボネート樹脂(「C−PC」と記す。)や、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料モノマーとして使用して得られたポリカーボネート樹脂(「Tm−PC」と記す。)を用いる場合を例に挙げると、以下のように考えられる。
【0085】
すなわち、C−PCやTm−PC(以下、「C−PC等」と記す。)は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を原料モノマーとして使用して得られたポリカーボネート樹脂(「A−PC」と記す。)と比較して、骨格を形成するベンゼン環にメチル基を有することにより分子鎖が切れ易く、分解が早い可能性がある。このため、C−PC等は素早く分解して黒鉛化し、断熱層(チャー)を形成することにより難燃性を発現しやすい場合がある。C−PC等の熱分解開始温度がA−PCと比較して低いのは、ビスフェノール骨格の「2個のベンゼン環の3位がメチル基で置換されている」という構造上の差違が影響している。特に、前述した溶融法によってC−PCを製造する場合、高温且つ高剪断力下の溶融状態で重合反応が進行すると、ビスフェノール化合物の両フェニル環の3位から分岐鎖が生じやすい。このため、燃焼試験において燃焼滴下物(ドリップ)が抑制される等の難燃性が向上すると考えられる。
【0086】
また、C−PC等は、A−PCと比較して分子鎖同士のパッキング密度が下がり、且つ、分子鎖が剛直で動きにくいため、樹脂成形品の収縮率が低く、線膨張係数が低い傾向にある。このため、樹脂成形品の寸法安定性が高いことが予想される。
【0087】
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物は、このような特質を有することから、例えば、携帯電話、PC等の精密機器用筐体;TV等の家電製品ハウジング;スクリーン用フィルム;グレージング等の二色以上の多色成形樹脂成形品の外装部材;カーポート、農業ハウス、防音板等の建築資材の表層二層以上の多層押出品等の高寸法精度が要求される樹脂部材に好適である。
また、本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物は、高硬度且つ難燃性が向上した樹脂成形体が得られるので、例えば、ランプレンズ、保護カバー、拡散板等のLED等照明関連樹脂成形品;眼鏡レンズ、自販機ボタン、携帯機器等のキー等の用途に好適である。
【0088】
<添加剤>
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、種々の添加剤が配合される。添加剤としては、例えば、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、ワラストナイト、珪酸カルシウム、硼酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂と難燃剤及び必要に応じて配合される添加剤等の混合方法は特に限定されない。本実施の形態では、例えば、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂と難燃剤等を混合後、押出機等で混練する方法、溶融状態のポリカーボネート樹脂と難燃剤等とを混合する方法、溶融法又は界面法における原料モノマーの重合反応の途中又は重合反応終了時に難燃剤等を添加する方法等が挙げられる。
【0089】
<ポリカーボネート樹脂成形体>
上述した本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物を用いて、ポリカーボネート樹脂成形体が調製される。ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形機等の従来公知の成形機を用いて成形する方法等が挙げられる。
本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂成形体は、例えば、フェニル環に置換基を有しないビスフェノールA等をモノマーとして得られるポリカーボネート樹脂を使用する場合と比較して、成形体の表面硬度及び透明性の低下が抑制され、且つ難燃性が良好である。
具体的には、本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂成形体は、難燃性については、厚さ2mm以下の試験片によるUL94の難燃性試験においてV−0規格を満たすことが好ましい。透明性については、JIS−K7136の規定に基づく厚さ3mmの試験片によるヘーズ値が1.0以下であることが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
(I)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度
ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、ダイス径1mmφ×30mmLのキャピラリーレオメータ(株式会社東洋精機製作所製 キャピログラフ1C)を使用し、ポリカーボネート樹脂の滞留時間は5分、測定温度300℃、剪断速度γ=9.12sec−1〜1824sec−1の範囲で測定した。ポリカーボネート樹脂は、予め80℃で5時間乾燥したものを使用した。ポリカーボネート樹脂のη10及びη1000は、剪断速度10sec−1における溶融粘度と剪断速度1000sec−1における溶融粘度をそれぞれ読み取り、測定値とした。
【0092】
(II)ポリカーボネート樹脂組成物の試験
A.燃焼性試験
ポリカーボネート樹脂組成物を用いて、射出成形機(住友重機械工業株式会社製SE100DU)により、シリンダ温度260℃〜280℃、成形サイクル30秒の条件で、UL規格に従い、厚みの異なる複数の試験片を射出成形し、UL規格94の垂直燃焼試験を行った。ULクラスは、「V−0」はV−0合格を、「V−2」はV−2合格を、「V−2NG」はV−2不合格を意味する。
【0093】
V−0,V−1,V−2の判定は、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間及び無炎燃焼持続時間の合計、5本の試験片の有炎燃焼持続時間の合計、並びに燃焼滴下物(ドリップ)の有無で判定する。
1回目、2回目ともに、V−0は10秒以内、V−1とV−2は30秒以内に有炎燃焼を終えるか否かで判定する。更に、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計が、V−0は30秒以内、V−1とV−2は60秒以内で消えるか否かで判定する。
更に、5本の試験片の有炎燃焼持続時間の合計が、V−0は50秒以内、V−1とV−2は250秒以内か否かで判定する。また、燃焼滴下物はV−2のみに許容されている。なお、すべての試験片は燃え尽きないことが必要である。
【0094】
B.鉛筆硬度
ポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度は、予め、射出成型機(住友重機械工業株式会社製SE100DU)を用い、バレル温度260℃〜280℃、金型温度60℃〜80℃の条件下にて、厚み3mm、縦100mm、横100mmのポリカーボネート樹脂組成物のプレートを射出成形した。この射出成形により得られたプレートについて、K5600−5−4に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用い、750g荷重にて鉛筆硬度を測定した。
【0095】
C.流れ値Q
ポリカーボネート樹脂組成物の流れ値Qは、高化式フローテスタ(島津製作所製CFT−500A)を使用し、280℃、160Kg/cmの条件下で、1mmφ×10mmのオリフィスを用い、予備加熱7分で測定した(単位:cm/sec)。
【0096】
(実施例1〜実施例6)
溶融粘度の比(η10/η1000)が表1に示す値を有する6種類のポリカーボネート樹脂(PC−1〜PC−6)と、難燃剤及び離型剤を用い、これらを表1に示す組成(重量比を示す。以降の表においても同様である。)で配合混合し、二軸押出機(日本製鋼所株式会社製TEX30XCT)により、バレル温度280℃で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物を調製した。得られたペレットは、80℃、5時間乾燥した後、上記の手順に従い、各種試験片を作成し、燃焼性、鉛筆硬度、Q値を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1中のポリカーボネート樹脂は以下の通りである。
A.ポリカーボネート樹脂
(1)ポリカーボネート樹脂(PC−1)の調製:
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)6.55モル(1.68kg)と、ジフェニルカーボネート6.73モル(1.44kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(CsCO)を、BPC1モルに対し1.5×10−6モルとなるように加え(CsCOとして3.20mg)、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
【0099】
次に、反応器内を60分かけて温度を280℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は16回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は286℃、攪拌動力は1.15kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp−トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0100】
尚、得られたポリカーボネート樹脂(PC−1)の物性を以下に示した。
極限粘度[η](dl/g) 0.552
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.87
lnη10/[η] 12.6
lnη1000/[η] 9.8
η10/η1000 4.6
鉛筆硬度 2H
重量平均分子量(Mw) 66,500
(Mw/Mn) 3.14
【0101】
(2)ポリカーボネート樹脂(PC−2)の調製:
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)6.59モル(1.69kg)と、ジフェニルカーボネート6.73モル(1.44kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(CsCO)を、BPC1モルに対し1.5×10−6モルとなるように加え(CsCOとして3.20mg)、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
【0102】
次に、反応器内を60分かけて温度を284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は16回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、攪拌動力は1.15kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp−トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0103】
尚、得られたポリカーボネート樹脂(PC−2)の物性を以下に示した。
極限粘度[η](dl/g) 0.597
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.85
lnη10/[η] 12.1
lnη1000/[η] 9.5
η10/η1000 4.9
鉛筆硬度 2H
重量平均分子量(Mw) 70,200
(Mw/Mn) 3.48
【0104】
(3)ポリカーボネート樹脂(PC−3)の調製:
「BPC」を6.59モル(1.69kg)とし、反応器内の圧力を1Torr未満に保った後の反応時間を80分とした以外は、ポリカーボネート樹脂(PC−2)と同様の条件で調製した。反応終了直前の反応液温度は300℃、攪拌動力は1.15kWであった。
尚、得られたポリカーボネート樹脂(PC−3)の物性を以下に示した。
極限粘度[η](dl/g) 0.708
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.83
lnη10/[η] 11.6
lnη1000/[η] 8.6
η10/η1000 7.9
鉛筆硬度 2H
重量平均分子量(Mw) 99,500
(Mw/Mn) 3.94
【0105】
(4)界面法によるポリカーボネート樹脂(PC−4)の調製:
BPC13.80kg/時、水酸化ナトリウム(NaOH)5.8kg/時及び水93.5kg/時を、ハイドロサルファイト0.017kg/時の存在下に、35℃で溶解した後、25℃に冷却した水相と5℃に冷却した塩化メチレン61.9kg/時の有機相とを、各々内径6mm、外径8mmのテフロン(登録商標)製配管に供給し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却した液化ホスゲン7.2kg/時と接触させた。
【0106】
上記原料は、ホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速度にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応が行われる。このとき、反応温度は、断熱系で塔頂温度60℃に達した。反応物の温度は、次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行い調節した。
【0107】
オリゴマー化に際し、触媒としてトリエチルアミン5g/時(BPC1モルに対して0.9×10−3モル)、分子量調節剤としてp−t−ブチルフェノール0.153kg/時を用い、これらは各々、オリゴマー化槽に導入した。
【0108】
この様にして、パイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液を、さらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス(N)雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応のBPCのナトリウム塩(BPC−Na)を消費させ、その後、水相と油相を静置分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
【0109】
上記オリゴマーの塩化メチレン溶液のうち、23kgを、内容積70リットルのファウドラー翼付き反応槽に仕込み、これに希釈用塩化メチレン10kgを追加し、さらに25重量%水酸化ナトリウム水溶液2.2kg、水6kg及びトリエチルアミン2.2g(BPC1モルに対して1.1×10−3モル)を加え、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、60分間重縮合反応を行ってポリカーボネート樹脂を得た。
【0110】
次いで、塩化メチレン30kg及び水7kgを加え、20分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。分離した有機相に、0.1N塩酸20kgを加え15分間撹拌し、トリエチルアミン及び小量残存するアルカリ成分を抽出した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。
【0111】
更に、分離した有機相に、純水20kgを加え、15分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を抽出排水中の塩素イオンが検出されなくなるまで(3回)繰り返した。得られた精製ポリカーボネート溶液を、40℃温水中にフィードすることで粉化し、乾燥後、ポリカーボネート樹脂の粒状粉末を得た。
【0112】
得られたポリカーボネート樹脂のフレークを2軸押出機に送入し、2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂(PC−4)の物性を以下に示した。
極限粘度[η](dl/g) 0.661
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 1.00
lnη10/[η] 11.3
lnη1000/[η] 9.1
η10/η1000 3.8
鉛筆硬度 2H
重量平均分子量(Mw) 89,800
(Mw/Mn) 3.55
【0113】
(5)ポリカーボネート樹脂(PC−5)の調製:
前述したポリカーボネート樹脂(PC−1)の調製において、BPC100%の使用に変え、BPA0.34kgと2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(Tm−BPAと略す)1.34kgを併用し、CsCOをBPAとTm−BPAの合計量の1モルに対し、5.0×10−6モルに変更し、THPEをBPAとTm−BPAの合計量の1モルに対し3.5×10−3モル添加した以外は、PC−1と同様の条件でポリカーボネート樹脂を製造した。ポリカーボネート樹脂のH−NMRの測定した結果により、樹脂中のBPAカーボネート部が20.4質量%、Tm−BPAカーボネート部が79.6質量%であった。
尚、得られたポリカーボネート樹脂(PC−5)の物性を以下に示した。
極限粘度[η](dl/g) 0.512
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.90
lnη10/[η] 13.3
lnη1000/[η] 10.1
η10/η1000 5.1
鉛筆硬度 H
重量平均分子量(Mw) 61,300
(Mw/Mn) 3.21
【0114】
(6)ポリカーボネート樹脂(PC−6):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ノバレックスM7022J
η10/η1000 2.8
鉛筆硬度 3B
【0115】
B.難燃剤
表1、表3、表4中の難燃剤は以下の通りである。
難燃剤C4:スルホン酸金属塩系難燃剤(パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(ランクセス株式会社製バイオウェットC4)
燐含有化合物系難燃剤PX200:芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤(大八化学社製PX200)
燐含有化合物系難燃剤FP110:フォスファゼン誘導体系難燃剤(伏見製薬社製FP110)
スルホン酸金属塩系難燃剤F114P:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(Bayer社製F114P)
ハロゲン含有化合物系難燃剤FR53:臭素化ポリカーボネート樹脂系難燃剤(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンFR FR53)
【0116】
C.離型剤
表1中の離型剤は以下の通りである。
離型剤H476:ペンタエリスリトールテトラステアレート(日油株式会社製ユニスターH−476)
【0117】
(比較例1〜比較例5)
さらに、比較例として、溶融粘度の比(η10/η1000)が表2に示す値を有する5種類のポリカーボネート樹脂(PC−2,PC−6,PC−9〜PC−11)と、難燃剤及び離型剤を用い、これらを表2に示す組成で配合混合し、実施例1と同様な操作によりポリカーボネート樹脂組成物を調製した。得られたペレットは、120℃、5時間乾燥した後、上記の手順に従い、各種試験片を作成し、燃焼性、鉛筆硬度、Q値を測定した。結果を表2に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
表2中のポリカーボネート樹脂は以下の通りである。
(1)PC−9:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ノバレックスM7027J
η10/η1000 5.2
鉛筆硬度 3B
(2)PC−10:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユーピロンS−3000 極限粘度[η](dl/g) 0.475
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 1.0
lnη10/[η] 14.3
lnη1000/[η] 12.4
η10/η1000 2.3
鉛筆硬度 2B
重量平均分子量(Mw) 45,000
(Mw/Mn) 2.90
【0120】
(3)界面法によるポリカーボネート樹脂(PC−11)の調製:
BPC13.80kg/時、水酸化ナトリウム(NaOH)5.8kg/時及び水93.5kg/時を、ハイドロサルファイト0.017kg/時の存在下に、35℃で溶解した後、25℃に冷却した水相と5℃に冷却した塩化メチレン61.9kg/時の有機相とを、各々内径6mm、外径8mmのテフロン(登録商標)製配管に供給し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却した液化ホスゲン7.2kg/時と接触させた。
【0121】
上記原料は、ホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速度にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応が行われる。このとき、反応温度は、断熱系で塔頂温度60℃に達した。反応物の温度は、次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行い調節した。
オリゴマー化に際し、触媒としてトリエチルアミン5g/時(BPC1モルに対して0.9×10−3モル)、分子量調節剤としてp−t−ブチルフェノール0.12kg/時をオリゴマー化槽に導入した。
【0122】
このようにして、パイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液を、さらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス(N)雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応のBPCのナトリウム塩(BPC−Na)を消費させた後、水相と油相を静置分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
【0123】
上記オリゴマーの塩化メチレン溶液のうち、23kgを、内容積70リットルのファウドラー翼付き反応槽に仕込み、これに希釈用塩化メチレン10kgを追加し、さらに25重量%水酸化ナトリウム水溶液2.2kg、水6kg及びトリエチルアミン2.2g(BPC1モルに対して1.1×10−3モル)を加え、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、60分間重縮合反応を行って、ポリカーボネート樹脂を得た。
【0124】
次いで、塩化メチレン30kg及び水7kgを加え、20分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。分離した有機相に、0.1N塩酸20kgを加え15分間撹拌し、トリエチルアミン及び小量残存するアルカリ成分を抽出した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。
【0125】
更に、分離した有機相に、純水20kgを加え、15分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を抽出排水中の塩素イオンが検出されなくなるまで(3回)繰り返した。得られた精製ポリカーボネート溶液を、40℃温水中にフィードすることで粉化し、乾燥後、ポリカーボネート樹脂の粒状粉末(フレーク)を得た。
【0126】
得られたポリカーボネート樹脂のフレークを2軸押出機に送入し、2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂(PC−11)の物性を以下に示す。
極限粘度[η](dl/g) 0.978
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 1.00
lnη10/[η] 9.4
lnη1000/[η] 7.2
鉛筆硬度 2H
η10/η1000 8.8
重量平均分子量(Mw) 119,700
(Mw/Mn) 3.54
尚、表2中の難燃剤、離型剤は前述した表1のものと同様である。
【0127】
表1、表2に示す結果から、溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3以上8以下(3≦(η10/η1000)≦8)であるポリカーボネート樹脂と難燃剤と組み合わせ、且つ鉛筆硬度がHB以上であるポリカーボネート樹脂組成物は(実施例1〜7)、燃焼試験におけるV−0達成厚みが2mm以下であり、且つ、高化式フローテスタによる流れ値Qが6(cm/sec)以上である。これにより、このような構成を有しない樹脂組成物(比較例1〜5)と比較して、難燃性と成形性のバランスが良好であることが分かる。
【0128】
(PC−12):三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックスM7027BF。
極限粘度[η](dl/g) 0.559
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.88
lnη10/[η] 14.5
lnη1000/[η] 11.4
η10/η1000 5.7
鉛筆硬度 2B
(Mw/Mn) 2.70
【0129】
(PC−13):BPC(本州化学株式会社製)37.6kg(約147mol)とジフェニルカーボネート(DPC)32.2kg(約150mol)に、炭酸セシウムの水溶液を、炭酸セシウムがBPC1mol当たり2μmolとなるように添加して混合物を調整した。次に該混合物を、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ、還流冷却器を具備した内容量200Lの第1反応器に投入した。
【0130】
次に、第1反応器内を1.33kPa(10Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を5回繰り返し、第1反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、熱媒ジャケットに温度230℃の熱媒を通じて第1反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、300rpmで撹拌機を回転させ、熱媒ジャケット内の温度をコントロールして、第1反応器の内温を220℃に保った。そして、第1反応器の内部で行われるBPCとDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて第1反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0131】
続いて、第1反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。系内を窒素で絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、予め200℃以上に加熱した移送配管を経由して、第1反応器内のオリゴマーを第2反応器に圧送した。尚、第2反応器は内容量200Lであり、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ並びに還流冷却管を具備しており、内圧は大気圧、内温は240℃に制御していた。
【0132】
次に、第2反応器内に圧送したオリゴマーを38rpmで攪拌し、熱媒ジャケットにて内温を昇温し、第2反応器内を40分かけて絶対圧で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。その後、昇温を継続し、さらに40分かけて、内圧を絶対圧で13.3kPaから399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、昇温を続け、第2反応器内の絶対圧が70Pa(約0.5Torr)に到達後、70Paを保持し、重縮合反応を行った。第2反応器内の最終的な内部温度は285℃であった。
【0133】
第2反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。このとき、撹拌機の攪拌回転数は6回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は282℃、攪拌動力は1.27kWであった。
【0134】
次いで、第2反応器内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、第2反応器の槽底からポリカーボネート樹脂をストランド状で抜き出し、水槽で冷却しながら、回転式カッターを使用してペレット化した。得られたポリカーボネート樹脂(PC−13)の物性を以下に示す。
極限粘度[η](dl/g) 0.700
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.82
lnη10/[η] 11.2
lnη1000/[η] 8.7
η10/η1000 5.8
鉛筆硬度 2H
【0135】
(PC−14):第2反応器の攪拌機の回転数及び所定の攪拌動力値を変えた以外は、PC−13と同様にしてポリカーボネート樹脂を得た。このとき、撹拌機の攪拌回転数は16回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は280℃、攪拌動力は1.65kWであった。得られたポリカーボネート樹脂(PC−14)の物性を以下に示す。
極限粘度[η](dl/g) 0.540
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 0.89
lnη10/[η] 12.8
lnη1000/[η] 10.1
η10/η1000 4.3
鉛筆硬度 2H
【0136】
(PC−15):三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7030PJ
極限粘度[η](dl/g) 0.640
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 1.00
鉛筆硬度 2B
【0137】
(PC−16):三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022PJ
極限粘度[η](dl/g) 0.470
分岐パラメータG([η]/[η]lin) 1.00
鉛筆硬度 2B
【0138】
(実施例7〜9、及び比較例6、7)
上述した溶融法により調製したポリカーボネート樹脂(PC−13)、その他のポリカーボネート樹脂(PC−12)、難燃剤を用い、これらを表3−1に示す組成で配合混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30HSST)により、バレル温度280℃で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物を調製した。得られたペレットは、120℃で、5時間乾燥した後、上記の手順に従い、各種試験片を作製し、燃焼性、鉛筆硬度、及びHazeを測定した。結果を表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
(実施例10〜13、及び比較例8)
上述した溶融法により調製したポリカーボネート樹脂(PC−13、PC−14)、その他のポリカーボネート樹脂(PC−15、PC−16)、難燃剤を用い、これらを表4に示す組成で配合混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30HSST)により、バレル温度280℃で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物を調製した。得られたペレットは、120℃で、5時間乾燥した後、上記の手順に従い、各種試験片を作製し、燃焼性、鉛筆硬度、及び透明性を測定した。結果を表4に示す。
【0141】
【表4】
【0142】
表3、表4に示した結果から、特定の溶融粘度比を有するポリカーボネート樹脂と難燃剤とを配合した組成物により、難燃性と成形性のバランスに優れ、且つ高硬度であり色調も良好な成形体が得られることが分かる。