(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、留め具10の斜視図である。
図1(a)は表側からみた留め具10であり、
図1(b)は裏側からみた留め具10である。留め具10は、金属材からなるクリップ20と合成樹脂材からなるピン部材60とを備える。
【0012】
留め具10は、第1取付孔が形成された第1取付部材に、第2取付孔が形成された第2取付部材を取り付けるために用いられる。たとえば、第1部材は車体パネルであって、第2部材は導電性樹脂チューブや導電性プレートである。留め具10は、導電性樹脂チューブや導電性プレートを車体パネルにアースする。
図1に示す留め具10は、取付部材に取り付ける前の状態であり、この状態で出荷や輸送がなされる。クリップ20およびピン部材60について、部品図を参照しつつ説明する。
【0013】
図2は、クリップ20を説明するための図である。
図2(a)はクリップ20を正面からみた図であり、
図2(b)はクリップ20を幅方向からみた図であり、
図2(c)は
図2(b)のクリップ20の裏側からみた図である。ここで各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0014】
なお、
図2(c)に示すX方向を、第1板部22および第2板部24が対向する対向方向といい、Y方向を第1板部22および第2板部24の幅方向という。また、対向方向および幅方向に直交する方向を取付孔への挿入方向またはピン部材60の軸方向という。
【0015】
クリップ20は、第1板部22、第2板部24、フランジ部26、リブ36、屈曲部48、および屈曲部42を備える。クリップ20は、金属板に切り抜き加工およびプレス加工を施して形成される。
【0016】
図2(b)に示すように、同じ形状である第1板部22および第2板部24は対向して配置され、一端はフランジ部26により連結され、他端は自由端である。フランジ部26は、第1板部22と第2板部24とが対向するように第1板部22と第2板部24とを連結し、取付部材の表面側において取付孔の周縁に当接する。フランジ部26にはピン部材60を挿入するための挿入孔28が形成される。
【0017】
リブ36は、フランジ部26に設けられ、フランジ部26の端部の板面を屈曲して形成される。リブ36の一端は、第1板部22または第2板部24にも連なり、リブ36によりフランジ部26の強度が向上する。リブ36は取付部材の表面側に係止する。
【0018】
図2(a)に示すように第1板部22は、フランジ部26側から先端側に向かって順に、第1幅広部29a、第1傾斜部30aおよび第1幅狭部31aを有する。同じ形状である第2板部24も同様に、第2幅広部29b、第2傾斜部30bおよび第2幅狭部31bを有する。第1幅広部29aおよび第2幅広部29bを区別しない場合、幅広部29といい、第1傾斜部30aおよび第2傾斜部30bを区別しない場合、傾斜部30といい、第1幅狭部31aおよび第2幅狭部31bを区別しない場合、幅狭部31という。
【0019】
傾斜部30は、幅広部29と幅狭部31の間に形成され、幅広部29から幅狭部31に向かって幅が狭くなる。また、傾斜部30は自由端側に向かって幅が狭くなるように側縁が傾斜する。留め具10を取付部材の取付孔に挿通する際に、傾斜部30の側縁によって取付孔の縁に付いた塗装を削り、クリップ20と取付部材を導通することができる。また、傾斜部30により第1板部22および第2板部24の側縁が挿入途中に取付孔の縁に引っかかることを抑えることができる。
【0020】
幅広部29および幅狭部31の幅は異なるため、幅広部29および幅狭部31のそれぞれでの弾性、すなわち撓みやすさが異なる。幅広部29および幅狭部31の幅は一定である。幅広部29の幅を一定にすることで、取付部材の板厚が薄い場合に取付孔の縁に接触するために必要な幅を確保することができ、アースさせることができる。また、幅狭部31の幅を一定にすることで、幅狭部31の撓みやすさを所定値以下に抑えて、幅狭部31を撓みやすくすることができる。なお幅広部29の幅は取付孔の直径より小さい。幅広部29、傾斜部30および幅狭部31は、金属板を切り抜くことで容易に加工ができる。取付部材の板厚に応じて幅広部29、傾斜部30および幅狭部31のいずれかが取付部材の裏面側に当接する。
【0021】
第1板部22は、第1幅狭部31aの自由端側に形成された屈曲部42を有し、第2板部24は、第2幅狭部31bの自由端側に形成された屈曲部48を有する。屈曲部42は、対向する第2板部24に接近する接近部38と、接近部38から拡開するように折り返された折り返し部40とを有する。屈曲部48も対向する接近部38に接近する接近部44と、接近部44の端部から拡開するように折り返された折り返し部46とを有する。接近部38,44は、自由端側において互いに接近するよう屈曲される。折り返し部40,46は、自由端に向かって互いに離間するように折り返される。
【0022】
図2(a)および(b)に示すように屈曲部42に第1切欠部32aが形成され、屈曲部48に第2切欠部32bが形成される。第1切欠部32aおよび第2切欠部32bを区別しない場合、切欠部32という。切欠部32は、接近部38,44と折り返し部40,46に渡って形成される。
【0023】
図2(c)に示すように第1切欠部32aと第2切欠部32bは、接近することでピン部材60の先端が差し込まれる差込孔49を画成する。屈曲部42と屈曲部48の間にピン部材60が挿入されることで第1板部22と第2板部24が弾性により拡開する。
【0024】
図2(a)および(b)に示すように、接近部38の根元部分に内向きに突出する第1内方突部34aが形成される。同様に接近部44に第2内方突部34bが形成される。
【0025】
図3は、ピン部材60について説明するための図である。
図3(a)は、ピン部材60の一方の側面をみた図であり、ピン部材60の他方の側面をみた図である。ピン部材60は、取付孔の直径より大きい頭部62と、頭部62から下垂するように設けられた棒状の胴部64を有する。
【0026】
図3(b)に示すように頭部62は、厚肉部66と、厚肉部66より薄い薄肉部68を有する。取付状態において薄肉部68にクリップ20のフランジ部26が収まり、フランジ部26の外側に厚肉部66が位置して取付部材に当接する。
【0027】
図3(b)に示すように胴部64は、内部に空隙部78が形成されており、クリップ20が変形して胴部64に接触した場合に撓み可能となっている。胴部64は、先端突起部70、側突部72、係止肩部74および凸部76を有する。
【0028】
先端突起部70は胴部64の先端に設けられ、
図3(a)および(b)に示すように、空隙部78が形成された胴部64より、径方向に小さく形成される。先端突起部70の断面は長孔状に形成される。先端突起部70が胴部64より径が小さいため、先端突起部70の根元には段部80が形成される。この段部80にはクリップ20の屈曲部42,48が当接する。
【0029】
側突部72は、胴部64の側面に突出するように形成され、留め具10においてクリップ20の抜け止めとして機能する。係止肩部74および凸部76は、胴部64の側面に形成され、側突部72より先端側に位置する。凸部76はピン部材60の軸方向に延在する。係止肩部74は凸部76と直交する方向に延在する。
【0030】
図1に戻る。留め具10は、クリップ20の挿入孔28にピン部材60の胴部64を挿入して組み付けられる。
図1(b)に示すように、第1切欠部32aおよび第2切欠部32bにより形成された差込孔49に先端突起部70が挿入される。これにより、胴部64の根元部分および先端部分が挿入孔28の縁および差込孔49の縁によって動きが制限されるため、留め具10のガタツキが抑えられる。この留め具10の作用について説明する。
【0031】
図4は、取付孔への挿入前の状態の留め具10について説明するための図である。
図4(a)は、留め具10をクリップ20の幅方向からみた図であり、
図4(b)は、留め具10をクリップ20の対向方向からみた図であり、
図4(c)は、
図4(b)のクリップ20のA−Aの断面であって、第1板部22および第2板部24と第1取付孔12aの関係を説明する図である。
図4(a)および(b)では、留め具10の側面を示すのに対し、第1取付部材12および第2取付部材14はその中心を通る断面を示す。
図4(a)〜(c)はいずれも同じ状態の留め具10である。
【0032】
第1取付部材12には第1取付孔12aが形成され、第2取付部材14には第2取付孔14aが形成される。第1取付部材12および第2取付部材14を特に区別しない場合、取付部材といい、同様に第1取付孔12aおよび第2取付孔14aを取付孔という。たとえば第1取付部材12は車体パネルであり、第2取付部材14は導電性プレートである。
図4(a)に示すように、頭部62の外径は第2取付孔14aより大きく、ピン部材60押し込むと頭部62が第2取付部材14の表面に当接する。また頭部62の薄肉部68は、フランジ部26より少し大きく形成されており、ピン部材60を押し込むとフランジ部26は薄肉部68により形成された空間に収まる。
【0033】
留め具10は、クリップ20およびピン部材60を一体化した状態で輸送されるため、輸送中にクリップ20とピン部材60が外れないようにすることが好ましい。
図4(a)に示すように、ピン部材60の胴部64を挿入孔28に挿入した状態において、側突部72によってフランジ部26(クリップ20)が頭部62から離間する方向に相対移動することが制限されている。また、屈曲部42,48は、係止肩部74および段部80に係止し、フランジ部26と頭部62が接近する方向に相対移動することを制限する。このように、フランジ部26と屈曲部42,48により胴部64を挟むようにクリップ20がピン部材60に固定されているため、クリップ20とピン部材60が外れる可能性が低減される。また、一対の切欠部32により形成された挿入孔に先端突起部70が挿入されて、胴部64の軸ぶれも抑えられており、輸送中にクリップ20およびピン部材60が外れる可能性がより低減されている。
【0034】
第1板部22および第2板部24は、所定間隔離れて対向し、対向方向に撓み可能である。第2取付部材14の板厚が比較的厚いため、第1取付孔12aの裏面側の縁には幅狭部31が位置する。なお幅狭部31が第1取付孔12aと接触する場合、第1板部22と第1取付孔12aとの間隔L1は、幅広部29が第1取付孔12aと接触する場合と比べて狭くなる。間隔L1は、幅狭部31の両側縁が第1取付孔12aに接触した状態での、幅狭部31の幅方向中央と第1取付孔12aとの間隔である。
【0035】
作業者が留め具10を取り付けるためピン部材60の頭部62を押し込んだ場合、ピン部材60の胴部64によりクリップ20の屈曲部42,48が押されるが、フランジ部26が第2取付部材14の表面側に当接しているためクリップ20は移動せず、ピン部材60のみが押し込まれる。このときピン部材60の係止肩部74および段部80は、屈曲部42,48の接近部38,44に接触して第1板部22と第2板部24を拡開させながら押し込まれる。このとき、幅狭部31の側縁により第1取付部材12の接触部分の塗装を剥がし、クリップ20を介して第2取付部材14を第1取付部材12にアースすることができる。頭部62が第2取付部材14の表面側に当接すると取付が完了する。
【0036】
ここで、作業者がピン部材60押し込んでフランジ部26が第2取付部材14の表面側に当接したときに、フランジ部26の剛性が低すぎると、フランジ部26が過剰に変形して取り付けができないおそれがある。そこで、フランジ部26の端部を折り曲げてリブ36を形成することで、フランジ部26の剛性を高め、取り付け時にフランジ部26が過剰に変形することを抑えることができる。
【0037】
図5は、取付孔に取り付けた状態の留め具10について説明するための図である。
図5(a)は、留め具10をクリップ20の幅方向からみた図であり、
図5(b)は、留め具10をクリップ20の対向方向からみた図であり、
図5(c)は、
図5(b)の留め具10の線分B−Bの断面図であり、第1板部22および第2板部24と第1取付孔12aの関係を説明する図である。
図5(a)〜(c)は、
図4に示す挿入途中の状態から、さらにピン部材60を取付孔に押し込み、取付が完了した状態を示す。
【0038】
図5(a)に示すように、第1板部22および第2板部24において第1取付孔12aの裏側に出た部分、すなわち第1取付孔12aと接触した位置から先端側の部分が拡開するように撓んでいる。これにより、フランジ部26と幅狭部31により取付孔の表側および裏側の縁を挟むように係止し、留め具10のガタツキなく留めることができる。第1板部22および第2板部24において第1取付孔12aと接触した位置から先端側の部分の長さを「張り出し長さ」という。
【0039】
車両に留め具10を取り付けると車両から振動を受ける。このとき留め具10ががたつくとアースができない可能性がある。
図5(a)に示すように、係止肩部74に屈曲部48が拡開した状態で係止しており、屈曲部48に形成された切欠部32に凸部76が収まっている。これにより拡開した第1板部22および第2板部24を係止でき、取付後のガタツキを抑えることができる。
【0040】
ここで、取付部材の板厚が厚くなり、第1板部22および第2板部24の張り出し長さが短くなれば、第1板部22および第2板部24は撓みづらくなる。しかしながら、幅狭部31は、幅広部29と比べて撓みやすいため、取付部材の板厚が厚くなってもピン部材60の押し込みに必要な力を抑えることができ、作業者は容易に取付作業ができる。
【0041】
図6は、
図5より板厚が薄い取付部材の取付孔に取り付けた状態の留め具10について説明するための図である。
図6(a)は、留め具10をクリップ20の幅方向からみた図であり、
図6(b)は、留め具10をクリップ20の対向方向からみた図であり、
図6(c)は、
図6(b)の留め具10の線分C−Cの断面図であり、第1板部22および第2板部24と第1取付孔12aの関係を説明する図である。
図6(a)〜(c)は、取付が完了した状態を示す。
【0042】
図6(a)に示す第2取付部材16は、
図5(a)に示す第2取付部材14より板厚が薄い。そのため、第1板部22および第2板部24の取付孔からの張り出し長さは長くなり、第1板部22および第2板部24は撓みやすくなる。そのため、ピン部材60の押し込みは容易にできるが、幅広部29により第1取付孔12aの縁に係止する力が弱まりうる。しかしながら、
図6(c)に示すように、第1板部22の幅広部29と第1取付孔12aとの間隔L2は、幅狭部31が第1取付孔12aと接触する場合と比べて大きく、幅広部29は幅狭部31より幅方向に広く、ほとんど撓まなくとも第1取付孔12aに接触可能である。したがって幅広部29の係止力を高めることができる。このように、取付部材の板厚が変化しても、留め具10を強固に係止させることができる。また、幅広部29により第1取付孔12aの縁に接触しやすくすることで、精度高くアースさせることができる。
【0043】
本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施例も本発明の範囲に含まれうる。
【0044】
図4(c)に示すように第1取付孔12aを円形の丸孔として示したが、その態様には限られない。たとえば第1取付孔12aは角孔であってよい。また第2取付孔14aも丸孔であっても角穴であってもよい。
【0045】
また、実施形態では第1板部22および第2板部24の幅を幅広部29、傾斜部30および幅狭部31と3段階に形成した態様を示したが、この態様に限られない。たとえば、第1板部22および第2板部24は、フランジ部26から幅狭部31に向かって幅が徐々に狭くなる態様であってよい。すなわち、幅広部は、幅狭部31よりフランジ部側に京成され、幅狭部31より幅が広く、幅狭部31に向かって側縁が傾斜する。この態様によっても取付部材の板厚によっても、クリップ20を取付孔の縁に強固に係止させることができる。