【文献】
CHEN Hsueh‐Yung et al,Core-shell composite latexes derived from PEDOT:PSS dispersion and the preparation of conductive, flexible and transparent films,J Mater Chem ,2013年,vol.1, No.34,p5351-5358
【文献】
LIU Ying Dan et al,Core-Shell Structured Monodisperse Poly(3,4-Ethylenedioxythiophene)/Poly(Styrenesulfonic Acid) Coated Polystyrene Microspheres and Their Electrorheological Response,Macromol Rapid Commun ,2011年,Vol.32, No.12,p881-886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スルホン酸系乳化剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸及びトルエンスルホン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PSS自体は絶縁性のためPEDOTに対してなるべく少ない方が好ましく、PSSの割合いが多いと、膜としたときの分散状態はPEDOTが島(PSSが海)となってしまい、PEDOT本来の性能が発現し難くなる。また、PEDOT/PSSは、基板との密着性や成膜性が十分でない場合があり、剛直な膜としても知られている。また、ポリピロール層が設けられた導電性微粒子は、透明性に劣ることに加え、抵抗が高くなる傾向にあるため導電性材料として活用範囲が限られる。さらに、アニリンを用いた導電性コポリマーは、粒子径が大きくなり易く、薄膜を作製し難いことに加え、抵抗が高くなり十分な導電性が得られないことがある。
【0007】
本発明は、導電性高分子であるチオフェン系ポリマーの重合安定性に優れ、導電性が良好な導電膜を作製できる水性樹脂分散体及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高い導電性を有するチオフェン系ポリマーを含む導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]ポリマー粒子が水に分散した水性樹脂分散体であって、ポリマー粒子が、スルホン酸系乳化剤及びチオフェン系ポリマーを含み、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜5000nmであり、水性樹脂分散体をキャスト法で膜とした場合の導電率が0.05S/cm〜5000S/cmである、水性樹脂分散体。
[2]下記式(1)で表される水性樹脂分散体中のポリマー成分におけるチオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)が30質量%〜80質量%である、[1]に記載の水性樹脂分散体。
X=100×α/(α+β+γ) (1)
(式中、αはチオフェン系モノマーの仕込み量を示し、βはチオフェン系以外のモノマーの仕込み量を示し、γはスルホン酸系乳化剤の仕込み量を示す。)
[3]ポリマー粒子が、ガラス転移温度が30℃以下のポリマーを更に含む、[1]又は[2]に記載の水性樹脂分散体。
[4]ポリマー粒子がコア/シェル構造を有し、シェルが、スルホン酸系乳化剤及びチオフェン系ポリマーを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
[5]ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜180nmである、[1]〜[4]のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
[6]ガラス転移温度が30℃以下のポリマーが、(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーを重合したアクリルポリマーを含有する、[3]〜[5]のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
[7](メタ)アクリル酸エステルが、アクリル酸2−エチルヘキシルを含む、[6]に記載の水性樹脂分散体。
[8]アクリルポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び多官能の(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合した架橋型アクリルポリマーである、[6]又は[7]に記載の水性樹脂分散体。
[9]多官能の(メタ)アクリレートが、トリメチロールプロパントリ(メタ)クリレートを含む、[8]に記載の水性樹脂分散体。
[10]チオフェン系ポリマーが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である、[1]〜[9]のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
[11]スルホン酸系乳化剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸及びトルエンスルホン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]〜[10]のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
[12]チオフェン系ポリマーと、該チオフェン系ポリマー以外のポリマーと、スルホン酸系乳化剤とを含み、海島構造を形成している導電膜であり、チオフェン系ポリマー以外のポリマーが島状に分散し、チオフェン系ポリマーが海状に連続体を形成し、チオフェン系ポリマー以外のポリマーの平均粒子径が5nm〜80nmであり、膜中のチオフェン系ポリマーの含有量が膜全体に対し30質量%〜80質量%である、導電膜。
[13]チオフェン系ポリマーと、チオフェン系ポリマー以外のポリマーと、スルホン酸系乳化剤とを含む導電膜であって、導電率が0.05S/cm〜5000S/cmであり、粒径0.1μm以上の粒子が10個/mm
2以下である、導電膜。
[14]下記式(3)で表される導電膜中のチオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(Z)が30質量%〜80質量%である、[12]又は[13]に記載の導電膜。
Z=100×α/(α+β+γ) (3)
(式中、αはチオフェン系モノマーの仕込み量を示し、βはチオフェン系以外のモノマーの仕込み量を示し、γはスルホン酸系乳化剤の仕込み量を示す。)
[15]チオフェン系ポリマーが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である、[12]〜[14]のいずれかに記載の導電膜。
[16]チオフェン系ポリマー以外のポリマーのガラス転移温度が30℃以下である、[12]〜[15]のいずれかに記載の導電膜。
[17]チオフェン系ポリマー以外のポリマーが、(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーを重合したアクリルポリマーである、[12]〜[16]のいずれかに記載の導電膜。
[18]アクリルポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び多官能の(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合した架橋型アクリルポリマーである、[17]に記載の導電膜。
[19](メタ)アクリル酸エステルが、アクリル酸2−エチルヘキシルを含む、[17]又は[18]に記載の導電膜。
[20]多官能の(メタ)アクリレートが、トリメチロールプロパントリメタクリレートを含む、[18]又は[19]に記載の導電膜。
[21]スルホン酸系乳化剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸及びトルエンスルホン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[12]〜[20]のいずれかに記載の導電膜。
[22]ポリマー粒子が水に分散した水性樹脂分散体を製造する方法であって、スルホン酸系乳化剤、チオフェン系モノマー及び水を含む第1の乳化液を調製する工程と、スルホン酸系乳化剤、前記チオフェン系モノマー以外のモノマー及び水を含む第2の乳化液を調製し、該第2の乳化液を重合してコア粒子を作製する工程と、コア粒子の存在下、第1の乳化液を重合してポリマー粒子を作製する工程と、を備え、コア粒子の平均粒子径が5nm〜80nmであり、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜5000nmである、水性樹脂分散体の製造方法。
[23]下記式(2)で表されるポリマー成分におけるチオフェン系モノマーに由来するユニットの仕込み量(Y)が30質量%〜80質量%である、[22]に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
Y=100×α/(α+β+γ) (2)
(式中、αはチオフェン系モノマーの仕込み量を示し、βはチオフェン系以外のモノマーの仕込み量を示し、γはスルホン酸系乳化剤の仕込み量を示す。)
[24]ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜180nmである、[22]又は[23]に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[25]第1の乳化液及び第2の乳化液が、過硫酸アンモニウムを更に含む、[22]〜[24]のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[26]チオフェン系モノマーが、3,4−エチレンジオキシチオフェンである、[22]〜[25]のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[27]チオフェン系モノマー以外のモノマーを重合して得られるポリマーのガラス転移温度が30℃以下である、[22]〜[26]のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[28]チオフェン系モノマー以外のモノマーが、(メタ)アクリル酸エステルを含む、[22]〜[26]のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[29](メタ)アクリル酸エステルが、アクリル酸2−エチルヘキシルを含む、[28]に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[30]チオフェン系モノマー以外のモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び多官能の(メタ)アクリレートを含む、[22]〜[29]のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[31]多官能の(メタ)アクリレートが、トリメチロールプロパントリメタクリレートを含む、[30]に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[32]スルホン酸系乳化剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸及びトルエンスルホン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[22]〜[31]のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
[33]第1の乳化液を調製する際の温度が20℃〜60℃である、[22]〜[32]のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チオフェン系ポリマーの重合安定性に優れ、導電性が良好な導電膜を作製できる水性樹脂分散体及びその製造方法を提供することができる。また、本発明は、高い導電性を有するチオフェン系ポリマーを含む導電膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0012】
[水性樹脂分散体]
本実施形態の水性樹脂分散体は、スルホン酸系乳化剤及びチオフェン系ポリマーを含むポリマー粒子が水に分散した水性樹脂分散体であって、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜5000nmであり、水性樹脂分散体からなる膜の導電率が0.05S/cm〜5000S/cmであることを特徴とする。また、水性樹脂分散体の全固形分のポリマー成分中、チオフェン系ポリマーの含有量は30質量%〜80質量%であることが好ましい。
【0013】
ポリマー粒子の平均粒子径は、分散安定性の観点から、10〜3000nmが好ましく、50〜2500nmがより好ましい。また、成膜性の観点から、ポリマー粒子の平均粒子径は、10nm〜180nmが好ましく、20〜150nmがより好ましく、50〜120nmが更に好ましい。
【0014】
本実施形態に係るポリマー粒子は、後述するようにコア粒子を形成した後、その存在下でチオフェン系モノマーを重合することで作製することができる。ポリマー粒子の構造としては、コア粒子の内部にチオフェン系モノマーが入り込みながら重合して組成に偏りがない均一な構造を有してもよく、コア粒子の表面でチオフェン系モノマーが重合してシェルを形成したコア/シェル構造を有していてもよい。導電性及び成膜性の観点から、ポリマー粒子は、導電性高分子であるチオフェン系ポリマーがシェルとなるコア/シェル構造を有するとよい。水性樹脂分散体を用いて導電膜を成膜する過程にて、水が蒸発すると同時にポリマー粒子が最密充填構造をとるため、シェル同士が必ず接する構造をとり、導電性高分子がシェルであれば、導電性高分子が接した連続膜を形成できるためである。コア/シェル構造の有無は、小角X線散乱法により確認することができる。
【0015】
ポリマー粒子がコア/シェル構造を有する場合、上記シェルが、スルホン酸系乳化剤及びチオフェン系ポリマーを含み、水性樹脂分散体中の全固形分のポリマー成分中、チオフェン系ポリマーの含有量が30質量%〜80質量%であり、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜180nmであることが好ましい。
【0016】
チオフェン系ポリマーは、チオフェン系モノマーを重合することにより得ることができる。チオフェン系モノマーとしては、例えば、チオフェン、3−アルキルチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。特に製膜した際の導電性の観点から3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0017】
水性樹脂分散体において、下記式(1)で表される水性樹脂分散体中のポリマー成分におけるチオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は30質量%〜80質量%が好ましく、分散性、製膜性、製膜した際の導電性の観点から、30質量%〜75質量%が好ましく、30質量%〜70質量%が好ましく、35質量%〜60質量%がより好ましい。
X=100×α/(α+β+γ) (1)
α:チオフェン系モノマーの仕込み量
β:チオフェン系以外のモノマーの仕込み量
γ:スルホン酸系乳化剤の仕込み量
【0018】
スルホン酸系乳化剤としては、例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸、トルエンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ステアリルベンゼンスルホン酸、ステアリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リノレインベンゼンスルホン酸等の飽和及び不飽和アルキルベンゼンスルホン酸とその塩類;オクチルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンベンゼンスルホン酸等の飽和及び不飽和アルキルナフタレンスルホン酸とその塩類;ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ステアリルスルホン酸等の飽和及び不飽和アルキルスルホン酸とその塩類;ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホン酸等のポリアルキレンアルキルエーテルスルホン酸とその塩類;(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸とその塩類が挙げられる。また、スルホン酸系乳化剤は、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、及びそれらの共重合体等のポリスルホン酸系化合物であってもよい。
【0019】
スルホン酸系乳化剤は、ポリマー粒子の安定性に重要であり、さらに製膜した際に導電性を付与するためにも必要である。特に重合安定性と、製膜した際の導電性付与の観点からドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸又はトルエンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
スルホン酸系乳化剤の使用量は、特に限定はされないが、例えば、ポリマー粒子の作製に使用する全重合性モノマー成分の合計使用量に対して、0.5質量%〜70質量%が好ましい。乳化剤の使用量を多くすると重合安定性が向上し、少なくすると耐水性が向上する。ドーパントとしての効果の観点から、1質量%〜60質量%がより好ましく、2質量%〜55質量%がさらに好ましく、5質量%〜50質量%が特に好ましい。
【0021】
また、ポリマー粒子がコア/シェル構造の場合、スルホン酸系乳化剤の使用量は、シェル部分を形成する際に使用する全重合性モノマー成分の合計使用量に対して、0.5質量%〜70質量%が好ましい。
【0022】
ポリマー粒子を構成するポリマーとして、チオフェン系ポリマーとそれ以外のポリマーを併用して用いることができる。また、ポリマー粒子がコア/シェル構造を有する場合、チオフェン系ポリマーがシェルを構成し、チオフェン系ポリマーとは異なるポリマーがコアを構成するとよい。
【0023】
チオフェン系ポリマー以外のポリマーのガラス転移温度(Tg)は、製膜性及び膜の柔軟性の観点から30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。なお、Tgの下限値は−80℃程度である。本実施形態において、水性樹脂分散体のコアのガラス転移温度Tg(K:絶対温度)は、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・Wn/Tgn
[上記FOX式は、n種の単量体からなる重合体を構成する各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度をTgi(K)とし、各モノマーの重量分率をWiとしており、(W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1)である。]
【0024】
本実施形態のチオフェン系モノマー以外のモノマーとしては特に限定はなく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、アニリン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーチサック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等や、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジビニルベンゼン、メチルビニルケトン等の官能性単量体、及び、多官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。製膜性及び膜の柔軟性の観点から、チオフェン系モノマー以外のモノマーとして(メタ)アクリル酸エステルが含まれることが好ましい。また、コア/シェル構造を有するポリマー粒子を作製する場合、コアの形成に多官能の(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。特に重合安定性、膜の基材との密着性の観点から、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル又はアクリル酸エチルを含むことが好ましい。
【0027】
それぞれのホモポリマーのガラス転移温度は、アクリル酸2−エチルヘキシルが−70℃、アクリル酸ブチルが−55℃、メタクリル酸ブチルが20℃、アクリル酸エチルが−20℃である。疎水性のアクリル酸2−エチルヘキシルを用いることで、後から重合するチオフェン系モノマーがシェルとなるコア/シェル構造を作製する上で好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステルの割合は、重合安定性の観点から、ポリマー粒子の原料となる全モノマー量の10質量%〜70質量%が好ましい。さらに膜にしたときの柔軟性、基材との密着性の観点から20質量%〜70質量%がより好ましく、30質量%〜60質量%が更に好ましい。また、ポリマー粒子がコア/シェル構造を有する場合、絶縁性のコアの割合は、製膜性、膜の柔軟性、膜の導電性の観点から、コアとシェルとを合わせた全質量に対して20質量%〜70質量%が好ましく、20質量%〜65質量%がより好ましく、25質量%〜60質量%が更に好ましい。
【0029】
多官能の(メタ)アクリレートの具体例としては、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。特に重合安定性の観点からトリメチロールプロパントリアクリレート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートを含むことが好ましい。
【0030】
多官能の(メタ)アクリレートの割合は、重合安定性やコア/シェル構造を確立する観点から、ポリマー粒子を形成するため、モノマー量の1質量%〜40質量%以下が好ましく、2質量%〜30質量%がより好ましい。
【0031】
チオフェン系ポリマー以外のポリマーは、(メタ)アクリル酸エステル及び多官能の(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合した架橋型ポリマーであることが、ポリマー粒子の安定性及び導電性の観点から好ましい。
【0032】
本実施形態では、(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーとして、アルコキシシラン基含有重合性モノマーが挙げられる。
【0033】
アルコキシシラン基含有重合性モノマーとして具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられ、これらの群から選ばれた1以上を使用できる。中でも、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0034】
ポリマー粒子がコア/シェル構造を有する場合、コアにスルホン酸系乳化剤を含むことが好ましい。コアに含まれるスルホン酸系乳化剤としては、シェルに含まれるスルホン酸系乳化剤と同様のものが挙げられる。
【0035】
コアに含まれるスルホン酸系乳化剤はポリマー粒子の安定性に重要であり、重合安定性の観点からドデシルベンゼンスルホン酸又はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0036】
コアに含まれるスルホン酸系乳化剤の含有量は、特に限定はされないが、例えば、コア部分を形成する際に使用する全重合性モノマー成分の合計含有量に対して、0.1質量%〜70質量%が好ましい。乳化剤の含有量を多くすると重合安定性が向上し、少なくすると耐水性が向上する。ドーパントとしての効果の観点から、0.5質量%〜60質量%がより好ましく、1質量%〜55質量%がさらに好ましく、2質量%〜50質量%が特に好ましい。
【0037】
本実施形態の水性樹脂分散体の耐光性を向上させる観点から、アルコキシシラン基含有重合性モノマーとは別に、ケイ素含有化合物を、コアを形成する成分として使用することができる。ケイ素含有化合物としては、環状シラン及び下記式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【0038】
(R
1)
n−Si−(R
2)
4−n (I)
式中、nは0〜3の整数であり、R
1は水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基又は炭素数5〜6のシクロアルキル基を示す。nが2又は3の場合、複数存在するR
1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R
2は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基又は水酸基を示す。nが0〜2の場合、複数存在するR
2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0039】
ケイ素化合物は、式(I)においてnが0であるシラン(I)及びnが1であるシラン(II)から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましく、良好な水分散体の重合安定性を得るためにはシラン(II)を含んでいることがより好ましい。シラン(I)のR
2としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基又は水酸基が好ましい。シラン(I)の好ましい具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
シラン(II)のR
1としてはメチル基又はフェニル基が好ましく、R
2は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基又は水酸基が好ましい。シラン(II)の好ましい具体例としては、メチルトリメトシキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
また、水性樹脂分散体から形成される導電膜に柔軟性を付与する場合には、ケイ素含有化合物が、環状シラン及び式(I)においてnが2であるシラン(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これは、環状シラン及びシラン(III)からなる群より選ばれる化合物のうち少なくとも1種を用いることより、ケイ素含有化合物が形成するシリコーン重合体の架橋密度を低くし、膜に柔軟性を付与することができるためであり、シラン(II)と併用した場合に特に好ましい。
【0042】
環状シランの具体例としては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0043】
シラン(III)の具体例として、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン及びメチルフェニルシランが挙げられる。
【0044】
さらに、ケイ素含有化合物には、加水分解基を有する線状シロキサン、アルコシシシランオリゴマー及び式(I)においてnが3であるシラン(IV)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0045】
シラン(IV)の具体例として、トリフェニルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
ポリマー粒子の平均粒子径は、膜の導電性を向上する観点から10nm以上であり、製膜性と安定性との観点から180nm以下であり、製膜性の観点から150nm以下がさらに好ましく、膜の導電性をより一層向上する観点から、120nm以下が特に好ましい。本実施形態に係る平均粒子径は、動的光散乱法による個数換算粒子径の累積50%値(d50)から得られるものとする。
【0047】
本実施形態の水性樹脂分散体の固形分濃度は、保存安定性の観点から0.1質量%〜30質量%が好ましい。
【0048】
[水性樹脂分散体の製造方法]
本実施形態の水性樹脂分散体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0049】
すなわち、本実施形態の水性樹脂分散体の製造方法は、スルホン酸系乳化剤、チオフェン系モノマー及び水を含む第1の乳化液Aを調製する工程と、スルホン酸系乳化剤、チオフェン系モノマー以外のモノマー及び水を含む第2の乳化液Bを調製し、第2の乳化液Bを重合してコア粒子を作製する工程と、コア粒子の存在下、第1の乳化液Aを重合して、ポリマー粒子を作製する工程と、を備え、コア粒子の平均粒子径が5nm〜80nmであり、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜5000nmであることを特徴とする。
【0050】
本実施形態のコア/シェル構造を有するポリマー粒子が水に分散した水性樹脂分散体の製造方法は、スルホン酸系乳化剤、チオフェン系モノマー及び水を含む第1の乳化液Aを調製する工程と、スルホン酸系乳化剤、チオフェン系モノマー以外のモノマー及び水を含む第2の乳化液Bを調製し、第2の乳化液Bを重合してコアとなるコア粒子を作製する工程と、コア粒子の存在下、第1の乳化液Aを重合して、コア粒子を覆うシェルを形成する工程と、を備え、コア粒子の平均粒子径が5nm〜80nmであり、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜180nmであることを特徴とする。前記第1の乳化液Aを調製する工程は、前記コア粒子を作製する工程より先に行っても、後で行っても構わない。
【0051】
本実施形態においては、使用するモノマーの組み合わせや種類によって、ポリマー粒子が均一構造又はコア/シェル構造となる。乳化液Bに親水性のスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた場合、均一構造のポリマー粒子となる傾向がある。また、乳化液Bに(メタ)アクリル酸アルキルエステルや多官能の(メタ)アクリレートを用いた場合、コア/シェル構造のポリマー粒子となる傾向がある。
【0052】
本実施形態に係るポリマー粒子の作製は、モノマーと水と乳化剤とを予め、ホモジナイザー等を用いて、混合乳化しておき、これらを連続滴下又は一括添加するプレエマルション法で行うことが重合安定性の観点から重要である。
【0053】
チオフェン系モノマーを重合する際、コア粒子をアクリルポリマーとし、コア粒子の存在下で重合することで、重合安定性がより良好となり、分散安定性がより良好な水分散体を作製することができる。よって、アクリルポリマーをコアとすることで、チオフェン系モノマーが重合されたポリマー粒子の重合安定性や分散安定性にも寄与していると考えられる。また、コア粒子存在下で、チオフェン系モノマーを重合することで、導電性向上にも寄与している。
【0054】
導電膜の製造方法において、下記式(2)で表されるポリマー成分におけるチオフェン系モノマーに由来するユニットの仕込み量(Y)は30質量%〜80質量%であることが好ましく、導電性と成膜性の観点から、30質量%〜70質量%であることがより好ましく、35質量%〜60質量%であることが更に好ましい。
Y=100×α/(α+β+γ) (2)
α:チオフェン系モノマーの仕込み量
β:チオフェン系以外のモノマーの仕込み量
γ:スルホン酸系乳化剤の仕込み量
【0055】
本実施形態の水性樹脂分散体を作製する工程では、スルホン酸系乳化剤及びチオフェン系モノマーを含む混合液を乳化させて、第1の乳化液Aを調製する工程を有する。また、スルホン酸系乳化剤及びチオフェン系モノマー以外のモノマーを含む混合液を乳化させて第2の乳化液Bを調製した後、第2の乳化液Bを水中で重合させてポリマー粒子のコア部となるコア粒子を作製する工程を有する。そして、コア粒子の存在下で、第1の乳化剤Aに含まれるチオフェン系モノマーを重合させてポリマー粒子を作製する工程を有する。
【0056】
第1の乳化液Aを調製する工程におけるチオフェン系モノマーの使用量は、第1の乳化液A全体に対し、0.1質量%〜50.0質量%が好ましく、0.3質量%〜35.0質量%がより好ましく、さらに0.3質量%〜10.0質量%より好ましい。また、第1の乳化液Aを調製する工程におけるスルホン酸系乳化剤の使用量は、第1の乳化液A全体に対し、0.001質量%〜10.0質量%が好ましく、0.005質量%〜8.0質量%がより好ましい。
【0057】
コア粒子を作製する工程において、チオフェン系以外のモノマーの使用量は、第2の乳化液B全体に対し0.1質量%〜50.0質量%が好ましく、0.3質量%〜35.0質量%がより好ましい。また、コア粒子を作製する工程におけるスルホン酸系乳化剤の使用量は、第2の乳化液全体に対し、0.001質量%〜10.0質量%が好ましく、0.005質量%〜8.0質量%がより好ましい。
【0058】
第1の乳化液Aを調製する工程における温度は、乳化液の安定性の観点から20℃〜60℃であることが好ましい。
【0059】
第1の乳化液Aを重合する際及び第2の乳化液Bを重合する際に、第1及び第2の乳化液は、それぞれ重合開始剤又は酸化剤を含んでいてもよい。重合開始剤又は酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、塩化鉄、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、過塩素酸銅、有機酸鉄(III)等が挙げられる。有機酸鉄(III)としては、ベンゼンスルホン酸鉄(III)、アルキルベンゼンスルホン酸鉄(III)、トルエンスルホン酸鉄(III)が挙げられる。これらの中でも過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0060】
また、必要に応じて、第1の乳化液Aを重合する際及び第2の乳化液Bを重合する際に触媒を用いることもできる。触媒の例として、鉄イオン(II)、鉄イオン(III)といった遷移金属イオン類が挙げられる。
【0061】
上述の方法により得られた水性樹脂分散体は、必要に応じて精製処理を施すことができる。水性樹脂分散体の精製方法として、陽イオン交換樹脂及び/又は陰イオン交換樹脂とを接触させることによりイオン交換することが挙げられる。その温度は、一般的に0〜100℃で行うことができるが、イオン交換樹脂の耐熱性を考慮すると、5〜50℃で行うことが好ましい。陽イオン交換樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知の各種陽イオン交換樹脂を用いることができるが、水素型強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。陰イオン交換樹脂としても、特に限定されるものではなく、公知の各種陰イオン交換樹脂を用いることができるが、水酸基型強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0062】
水性樹脂分散体の後処理として、重合後にホモジナイザーを用いて、粒子径の微細化を行ってもよい。ホモジナイザーによって、凝集体を1次粒子に分散させることで、得られる水性樹脂分散体を用いて製膜した導電膜の導電性の向上が期待される。ホモジナイザーによる分散時にスルホン酸系乳化剤を用いるとより保存安定性の向上が期待される。
【0063】
本実施形態の製造方法により作製される水性樹脂分散体は、同一ポリマー粒子内に絶縁材料と導電材料を有しており、粒子形態は、絶縁材料と導電材料が均一に混ざり合った構造、又は、絶縁材料がコア、導電材料がシェルとなるコア/シェル構造をとることができる。コア部となるコア粒子の平均粒子径は、粒子の安定性や製膜性、耐水性の観点から、5nm〜80nmであり、5nm〜70nmが好ましい。また、ポリマー粒子の平均粒子径(コア/シェル構造の場合は全体の粒子径)は、得られる水性樹脂分散体を用いて作製する導電膜の導電性の観点から10nm以上であり、安定性の観点から5000nm以下であり、3000nm以下が好ましく、2500nm以下がより好ましい。さらに製膜性と安定性の観点から180nm以下が好ましい。さらに、水性樹脂分散体の製膜性をより向上する観点から150nm以下がさらに好ましく、導電性の観点から、120nm以下が特に好ましい。コア粒子及びポリマー粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による個数換算粒子径の累積50%値(d50)から得られるものとする。
【0064】
本実施形態の水性樹脂分散体、又は本実施形態の水性樹脂分散体の製造方法により得られる水性樹脂分散体を塗布して乾燥することで、高い導電性を有する導電膜を得ることができる。
【0065】
水性樹脂分散体の塗布方法としては、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、浸漬法、スプレー法、凸版印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スクリーン印刷法等が挙げられる。塗布後、50℃以上の熱をかけることで、水が揮発するのを早めることができる。
【0066】
また、膜質を向上させるために、塗布する前に水以外の有機溶媒を水性樹脂分散体に添加してもよい。具体的な有機溶媒の例として、エタノール、2−プロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル等が挙げられる。
【0067】
塗布する基板としては、ガラス基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)のようなプラスチックの基板、アルミ基板、ステンレス(SUS)基板、紙基板等の通常用いられるあらゆる基板が挙げられる。
【0068】
[導電膜]
本実施形態の導電膜は、チオフェン系ポリマーと、チオフェン系ポリマー以外のポリマーと、スルホン酸系乳化剤とを含み、均一構造もしくは海島構造を形成している導電膜である。また、該導電膜の導電率は、0.05S/cm〜5000S/cmである。
【0069】
均一構造とは、導電膜中、0.1μm以上の粒径を有する粒子が10個/mm
2以下であることを指す。評価方法としては、TEM観察を用いて、Sを酢酸ウラニルでウラン染色することで、観察できる。そして、1mm
2の導電膜を測定し、0.1μm以上の粒径を有する粒子の個数を評価する方法があげられる。ここで粒径とは、一次粒子の最大長径のことを指す。また、粒径0.1μm以上の粒子は、チオフェン系ポリマー及び/又はチオフェン系ポリマー以外のポリマーに由来する粒子である。
【0070】
導電性の観点から海島構造がよく、その場合、チオフェン系ポリマー以外のポリマーが島状に分散し、チオフェン系ポリマーが海状に連続体を形成し、チオフェン系ポリマー以外のポリマーの平均粒子径が5nm〜80nmであることを特徴とする。さらに、導電膜中のチオフェン系ポリマーの含有量が膜全体に対し30質量%〜80質量%であることを特徴する。
【0071】
本実施形態の導電膜は、上述した水性樹脂分散体を用いて作製することができる。水性樹脂分散体に分散しているポリマー粒子がコア/シェル構造を有する場合、膜中の島相は、ポリマー粒子のコアに由来する成分から構成される。膜中の海相は、ポリマー粒子のシェルに由来する成分から構成される。膜を構成するチオフェン系ポリマー、チオフェン系ポリマー以外のポリマー及びスルホン酸系乳化剤の具体例は、水性樹脂分散体について例示したものと同じである。
【0072】
チオフェン系ポリマー以外のポリマーの平均粒子径は、膜の柔軟性、製膜性の観点から5nm〜80nmが好ましく、5〜70nmがより好ましい。ここで、チオフェン系ポリマー以外のポリマーの平均粒子径は、動的光散乱法による個数換算粒子径の累積50%値(d50)から得られる値である。
【0073】
下記式(3)で表される導電膜中のチオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(Z)は、膜全体に対し、30質量%〜80質量%であることが好ましく、導電性と成膜性の観点から、膜全体に対し、30質量%〜70質量%がより好ましく、35質量%〜60質量%以下が更に好ましい。
Z=100×α/(α+β+γ) (3)
α:チオフェン系モノマーの仕込み量
β:チオフェン系以外のモノマーの仕込み量
γ:スルホン酸系乳化剤の仕込み量
【0074】
本実施形態の導電膜を製造する方法は特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。一例として、上述の水性樹脂分散体を基板に塗布して、熱をかけて乾燥する方法が挙げられる。水性樹脂分散体の塗布方法としては、上述の水性樹脂分散体の実施形態で挙げた方法を適用することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
以下、具体的な実施例により、本発明を詳細に説明する。
【0077】
[調製例1]
(水溶液1の調製)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、水3000質量部、過硫酸アンモニウム0.6質量部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム6質量部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げて、10分間攪拌し、水溶液1を調製した。
【0078】
[調製例2]
(水溶液2の調製)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、水3500質量部、過硫酸アンモニウム0.6質量部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げて、10分間攪拌し、水溶液2を調製した。
【0079】
[調製例3]
(水溶液3の調製)
反応容器中の温度を50℃とした以外は調製例2と同様にして、水溶液3を調製した。
【0080】
[実施例1]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル600質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.4質量部及び水1500質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−1を得た。乳化液B−1を滴下槽より45分かけて、水溶液1に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。これにより、コア粒子1を含む反応液1を得た。
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン400質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム100質量部及び水10000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−1を得た。その乳化液A−1を50℃に保った反応液1に混合した後、さらに水13930質量部を加えて、8時間重合した。その後、降温し、水性樹脂分散体1を回収した。回収時に重合残渣がないことを確認した。水性樹脂分散体1の固形分濃度は3.5質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、38.2質量%であった。
【0081】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体1をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
【0082】
[実施例2]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル400質量部、スチレンスルホン酸ナトリウム100質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.2質量部及び水1600質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−2を得た。その乳化液B−2を滴下槽より45分かけて、水溶液2に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び水250質量部を加え、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。ここに水を3000部加え、室温まで温度を下げた。この水分散液を陽イオン交換樹脂のビーズを入れ撹拌し、ビーズをろ過することで、コア粒子2を含む反応液2を得た。
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸40質量部、及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−2を得た。その乳化液A−2を50℃にした反応液2に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1000質量部、水20000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、1657質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体2を回収した。回収時に重合残渣が反応器の壁面に付着していることを確認した。水性樹脂分散体2の固形分濃度は約3.9質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、46.3質量%であった。
【0083】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体2に陰イオン交換樹脂のビーズを入れて撹拌し、ビーズを除去した後の液をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
【0084】
[実施例3]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル400質量部、スチレンスルホン酸ナトリウム100質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.2質量部及び水1600質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−3を得た。その乳化液B−3を滴下槽より45分かけて、水溶液2に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び水250質量部を加え、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。ここに水を3000部加え、コア粒子3を含む反応液3を得た。
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム40質量部、及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−3を得た。その乳化液A−3を50℃にした反応液3に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1000質量部、水20000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、1657質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体3を回収した。回収時に重合残渣がないことを確認した。水性樹脂分散体3の固形分濃度は約4質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、46.3質量%であった。
【0085】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体3をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。水性樹脂分散体3は非常に成膜性が高く、ガラス基板にスピンコート法で200nmの薄膜を作製することができた。島津製作所製のUV2500を用いて、550nm波長の光の透過率を測定した所、透過率が90%と非常に高い値を示した。
【0086】
[実施例4]
(水性樹脂分散体の作製)
3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム40質量部及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−4を得た。その乳化液A−4を50℃にした反応液2に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1000質量部、水20000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、1657質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体4を回収した。回収時に重合残渣が反応器の壁面に付着していることを確認した。水性樹脂分散体4の固形分濃度は約4質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、46.9質量%であった。
【0087】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体4に陰イオン交換樹脂のビーズを入れて撹拌し、ビーズを除去した後の液をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
【0088】
[実施例5]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.2質量部及び水1600質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−5を得た。その乳化液B−5を滴下槽より45分かけて、水溶液2に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び水250質量部を加え、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。ここに水を3000部加え、室温まで温度を下げ、コア粒子5を含む反応液5を得た。
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム40質量部、トルエンスルホン酸150質量部、及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−5を得た。その乳化液A−5を50℃にした反応液5に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1500質量部、水40000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、2150質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体5を回収した。回収時に重合残渣がないことを確認した。水性樹脂分散体5の固形分濃度は約3.7質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、40.7質量%であった。
【0089】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体5に陰イオン交換樹脂のビーズを入れて撹拌し、ビーズを除去した後の液をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。また、水性樹脂分散体5は非常に成膜性が高く、ガラス基板にスピンコート法で200nmの薄膜を作製することができた。
【0090】
[実施例6]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル450質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート50質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.2質量部及び水1600質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−6を得た。その乳化液B−6を滴下槽より45分かけて、水溶液2に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び水250質量部を加え、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。ここに水を3000部加え、室温まで温度を下げ、コア粒子6を含む反応液6を得た。
次に、乳化液A−5を50℃にした反応液6に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1500質量部、水40000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、2150質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体6を回収した。回収時に重合残渣が反応容器壁面に付着していることを確認した。水性樹脂分散体6の固形分濃度は約3.7質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、40.7質量%であった。
【0091】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体6をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
【0092】
[実施例7]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル350質量部、スチレンスルホン酸ナトリウム100質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート50質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.2質量部及び水1600質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−7を得た。その乳化液B−7を滴下槽より45分かけて、水溶液2に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び水250質量部を加え、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。ここに水を3000部加え、室温まで温度を下げ、コア粒子7を含む反応液7を得た。
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム40質量部、トルエンスルホン酸150質量部及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−7を得た。その乳化液A−7を50℃にした反応液7に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1500質量部、水40000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、2150質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体7を回収した。回収時に重合残渣が反応容器壁面に付着していることを確認した。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、40.7質量%であった。
【0093】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体7をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
【0094】
[実施例8]
(水性樹脂分散体の作製)
アクリル酸2−エチルヘキシル500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部、過硫酸アンモニウム1.2質量部及び水1600質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液B−8を得た。その乳化液B−8を滴下槽より45分かけて、水溶液2に滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び水250質量部を加え、反応容器の温度を80℃のまま45分間攪拌し、その後、50℃に保った。ここに水を3000部加え、室温まで温度を下げ、コア粒子8を含む反応液8を得た。
【0095】
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム40質量部、トルエンスルホン酸150質量部、及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−8を得た。その乳化液A−8を50℃にした反応液8に混合した。さらに15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1500質量部、水40000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後さらに3時間重合した。その後、2150質量部の水を加え、さらに降温し、水性樹脂分散体8を回収した。回収時に重合残渣がないことを確認した。水性樹脂分散体8の固形分濃度は約3.7質量%であった。また、チオフェン系モノマーに由来するユニットの含有量(X)は、40.7質量%であった。
【0096】
(導電膜の作製)
水性樹脂分散体8をガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。また、水性樹脂分散体8は非常に成膜性が高く、ガラス基板にスピンコート法で200nmの薄膜を作製することができた。
【0097】
[比較例1]
撹拌機、還流冷却器、温度計を取り付けた反応容器に水3000質量部を投入し、反応容器中の温度を50℃に上げた。次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン400質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム26質量部、過硫酸アンモニウム100質量部及び水7094質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−1’を得た。その乳化液A−1’を50℃に保った上記反応容器に投入し、さらに水16834質量部を加えて、8時間重合した。その後、降温し、反応液を回収したが、回収時に粒径が大きなポリマー粒子による重合残渣が多数発生し、ポリマー粒子が分散した水性樹脂分散体は得られなかった。該ポリマー粒子は凝集しているため、粒子径を測定することは出来なかった。また、回収したポリマーは膜にはならなかった。
【0098】
[比較例2]
3,4−エチレンジオキシチオフェン500質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部及び水5000質量部をホモジナイザーで乳化し、乳化液A−2’を得た。その乳化液A−2’を50℃にした水溶液3に混合した後、15000質量部の水を加えた。次に滴下ロートに過硫酸アンモニウム1000質量部、水40000部を混合したものを5時間かけて滴下し、重合した。滴下終了後、さらに3時間重合した後、2150質量部の水を加え、降温した。しかし、ポリマー粒子が凝集し、多数沈殿しポリマー粒子が分散した水性樹脂分散体は得られなかった。該ポリマー粒子は凝集しているため、粒子径を測定することは出来なかった。沈殿物を採取し、成膜を試みたが、膜にはならなかった。
【0099】
[比較例3]
22.2質量部のポリスチレンスルホン酸を含む2012質量部の水溶液中に、49質量部の1%硫酸鉄(III)水溶液、8.8質量部の3,4−エチレンジオキシチオフェン及び17.4質量部のペルオキソ二硫酸ナトリウムを加えた混合物を20℃で、23時間攪拌し、水性樹脂分散体を得た。水性樹脂分散体9の固形分濃度は約2.3質量%であった。
【0100】
[評価方法]
(1)コア粒子及びポリマー粒子の平均粒子径の測定
反応液中に含まれるコア粒子の平均粒子径、及び、水性樹脂分散体に含まれるポリマー粒子の平均粒子径を、大塚電子株式会社製の製品名「ELSZ−2」を用いた光散乱法により測定した。
【0101】
(2)重合安定性
重合安定性とは、重合後の水性樹脂分散体に含まれるポリマー粒子の分散安定性のことである。
○:重合残渣が全くなく、ポリマー粒子が均一に分散している状態。
△:重合残渣が発生するが、ポリマー粒子が均一に分散している状態。
×:ポリマー粒子が凝集し、均一に分散していない状態。
【0102】
(3)成膜性
水性樹脂分散体をキャスト法又はスピンコート法を用いて成膜性を評価した。成膜性とは、均一膜が作製できる状態のことである。
(キャスト法)
水性樹脂分散体を、ピペットを用いて滴下することで、ガラス基板に塗布し、120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
(スピンコート法)
水性樹脂分散体を、ピペットを用いて滴下することで、ガラス基板に塗布し、スピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いて、1500rpm、30秒の条件で成膜した。そして、その膜を120℃、10分間乾燥させることで、導電膜を作製した。
○:均一な膜が作製できる状態。
△:膜にはなるが、均一ではなく、凹凸や一部割れがある状態。
×:膜にならない状態。
【0103】
(4)導電性
水性樹脂分散体1mLをガラス基板に塗布(滴下)し、120℃、10分間乾燥するキャスト法で、導電膜を作製した。導電膜の導電性を、三菱化学アナリテック社製のロレスターにて測定した。測定条件は、24℃とした。
【0104】
作製した水性樹脂分散体及び導電膜についての評価結果を表1にまとめて示す。
【0105】
【表1】
【0106】
なお、実施例におけるポリマー粒子の粒子径の違いについては、以下のように推測している。粒子径は、光散乱法により水中で測定している。乳化剤の末端基がスルホン酸である場合、親水性のため水と作用し、粒径が大きくなる傾向がある。また、水性樹脂分散体のイオン交換の操作をすることで、Na塩の場合でも、イオン交換され、Naが水素に置換されるので、スルホン酸の場合と同様に粒径が大きくなる傾向がある。さらに、第2の乳化液中のモノマーとして疎水性のアクリル酸2−エチルヘキシルのみを用いた場合も、粒径が小さくなる傾向があると考えられる。