特許第5923104号(P5923104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5923104早期脱型材およびコンクリート製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923104
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】早期脱型材およびコンクリート製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20160510BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20160510BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20160510BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20160510BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20160510BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20160510BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20160510BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C04B22/06 Z
   C04B28/02
   C04B22/08 A
   C04B22/14 B
   C04B24/02
   C04B22/14 D
   C04B22/08 Z
   C04B40/02
   C04B18/14 A
   C04B18/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-538472(P2013-538472)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071898
(87)【国際公開番号】WO2013054604
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-226165(P2011-226165)
(32)【優先日】2011年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-289924(P2011-289924)
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】グェン ドゥック フーン
(72)【発明者】
【氏名】富岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】吉野 亮悦
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−293591(JP,A)
【文献】 特開平09−052748(JP,A)
【文献】 特開2001−316147(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/143506(WO,A1)
【文献】 特開2008−266108(JP,A)
【文献】 特開2001−039748(JP,A)
【文献】 笠井芳夫,コンクリート総覧,日本,技術書院,1998年 6月10日,第1版,第361頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
C04B 103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理して得られ、かつ、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100質量部に対して、遊離石灰10〜70質量部、水硬性化合物10〜50質量部、及び無水石膏10〜60質量部の割合で含有する熱処理物を含有し、かつ早期脱型材の100質量部中、平均粒径が6μm以下の微粒子ポルトランドセメントを40質量部以下含有してなる早期脱型材。
【請求項2】
CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理して得られ、かつ、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100質量部に対して、遊離石灰10〜70質量部、水硬性化合物10〜50質量部、及び無水石膏10〜60質量部の割合で含有する熱処理物を含有し、かつ早期脱型材100質量部中、グリセリンを0.1〜10質量部含有してなる早期脱型材。
【請求項3】
2500〜9000cm/gのブレーン比表面積を有する請求項1または2に記載の早期脱型材。
【請求項4】
さらに、平均粒子径が20μm以下の微粒子生石灰および/または平均粒子径が20μm以下の微粒子無水石膏を含有してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の早期脱型材。
【請求項5】
前記水硬性化合物が、3CaO・3Al・CaSO、または3CaO・3Al・CaSOと4CaO・Al・Feと2CaO・SiOとの混合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の早期脱型材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の早期脱型材を、セメントと早期脱型材からなるセメント組成物100質量部中、2〜15質量部配合し、打設から脱型までの蒸気養生温度を70℃以下、および打設から脱型までのマチュリティを210〜320℃・hrとすることを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
【請求項7】
セメントとして、スラグおよび/またはフライアッシュを含む混合セメントを使用する請求項6に記載のコンクリート製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野で使用されるコンクリート製品用の早期脱型材、およびコンクリート製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にコンクリート製品は、鋼製型枠にコンクリートを流し込み、前養生を行ったのち蒸気養生を行ってコンクリートの強度発現を促し、冷却後に脱型して製造される。鋼製型枠は非常に高価であるため、1つの型枠を1日に複数回使用することが望まれているが、コンクリートの脱型には所定の強度が必要なため限界がある。このため短い養生期間で高い圧縮強度を発現させる製造方法が検討されている(特許文献1)。
【0003】
また、早期脱型材としては、生石灰、無水石膏、アルカリ金属の硫酸塩を主体としたものや、グリセリン等の特定化合物とアルカリ金属硫酸塩を併用したものなどが知られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかしながら、その性能は充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本特開2000−301531号公報
【特許文献2】日本特開2001−294460号公報
【特許文献3】日本特開2011−153068号公報
【特許文献4】日本特開2000−233959号公報
【特許文献5】日本特表2008−519752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境負荷を低減するため、セメントに高炉スラグやフライアッシュなどの混合材を配合した混合セメントが使用されるケースが増えている。セメントクリンカを削減することでCO排出量を抑えることを目的としている。
【0006】
しかしながら、これら混合セメントは初期強度の発現性に乏しく、コンクリート製品の製造においても初期強度の発現を増進させる早期脱型材および製造方法が望まれている。また、コンクリート製品の表面にレイタンス(laitance)と呼ばれる脆弱層が形成されやすいという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、混合セメントを使用しても初期強度の発現を増進させ、かつレイタンスの生成を抑制する早期脱型材、およびコンクリート製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理して得られ、かつ、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100質量部に対して、遊離石灰10〜70質量部、水硬性化合物10〜50質量部、及び無水石膏10〜60質量部の割合で含有する熱処理物を含有し、かつ早期脱型材の100質量部中、平均粒径が6μm以下の微粒子ポルトランドセメントを40質量部以下含有してなる早期脱型材。
(2)CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理して得られ、かつ、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100質量部に対して、遊離石灰10〜70質量部、水硬性化合物10〜50質量部、及び無水石膏10〜60質量部の割合で含有する熱処理物を含有し、かつ早期脱型材100質量部中、グリセリンを0.1〜10質量部含有してなる早期脱型材。
【0009】
(3)2500〜9000cm/gのブレーン比表面積を有する上記(1)または(2)に記載の早期脱型材。
(4)さらに、平均粒子径が20μm以下の微粒子生石灰および/または平均粒子径が20μm以下の微粒子無水石膏を含有してなる上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の早期脱型材。
(5)前記水硬性化合物が、3CaO・3Al・CaSO、または3CaO・3Al・CaSOと4CaO・Al・Feと2CaO・SiOとの混合物である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の早期脱型材。
【0010】
(6)上記(1)〜()のいずれか1項に記載の早期脱型材を、セメントと早期脱型材からなるセメント組成物100質量部中、2〜15質量部配合し、打設から脱型までの蒸気養生温度を70℃以下、および打設から脱型までのマチュリティを210〜320℃・hrとすることを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
(7)セメントとして、スラグおよび/またはフライアッシュを含む混合セメントを使用する上記()に記載のコンクリート製品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の早期脱型材により、従来と比べ、凝結時間が短く早期に表面仕上げや蒸気養生可能で、養生期間が短くても所定の圧縮強度を確保でき、混合セメントを用いた場合でも短時間で圧縮強度が発現し、コンクリートの早期脱型が可能となり、さらに、コンクリート製品の表面に形成されるレイタンスを抑制する効果や、ひび割れの原因となる収縮ひずみを抑制する効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用される、「部」、「%」は、特に規定しない限り質量基準である。
また、本発明で云うコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、およびセメントコンクリートを総称するものである。
【0013】
本発明の熱処理物とは、CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを、大気中で熱処理して得られる。
【0014】
本発明で云う遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
本発明で云う水硬性化合物とは、3CaO・3Al・CaSOで表されるyeelimite(アウインとも称される)、3CaO・SiO(CSと略記)や2CaO・SiO(CSと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al・Fe(CAFと略記)や6CaO・2Al・Fe(CFと略記)や6CaO・Al・Fe(CAFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、または2CaO・Fe(CFと略記)などのカルシウムフェライトであり、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0015】
なかでも、水硬性化合物としては、3CaO・3Al・CaSO、4CaO・Al・Fe、および2CaO・SiOからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、3CaO・3Al・CaSO、または3CaO・3Al・CaSOと4CaO・Al・Feと2CaO・SiOとの混合物がさらに好ましく、3CaO・3Al・CaSOが特に好ましい。
【0016】
本発明で云う無水石膏とは、CaSOとして表されるものである。
【0017】
CaO原料としては、石灰石や消石灰などが挙げられる。Al原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられる。Fe原料としては銅カラミや市販の酸化鉄などが挙げられる。SiO原料としては珪石などが挙げられる。CaSO原料としては二水石膏、半水石膏および無水石膏などが挙げられる。
これらの原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO、ZrO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0018】
本発明において、CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理する方法は、特に限定されるものではない。例えば、電気炉やキルンなどを用いて、1000〜1600℃の温度で焼成することが好ましく、1200〜1500℃がより好ましい。1000℃未満では、練り混ぜ直後のコンクリートの流動性の確保が難しい場合や初期強度の発現性が充分でない場合があり、1600℃を超えると無水石膏が分解する場合や初期強度の発現性が不十分になる場合がある。熱処理の時間は、その温度にもよるが、最高温度での保持時間は0〜2.0時間が好ましく、0.25〜1.75時間がより好ましい。
【0019】
得られる熱処理物における各成分の含有量は、以下の範囲であることが好ましい。遊離石灰の含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、10〜70部であり、20〜60部が好ましい。水硬性化合物の含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、10〜50部であり、20〜30部が好ましい。無水石膏の含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、10〜60部であり、20〜50部が好ましい。
【0020】
また、早期脱型材を炭酸ガスで処理し、早期脱型材中に炭酸カルシウムを生成させることは練り混ぜ直後のスランプを確保する上で好ましい。炭酸カルシウムの含有量は、遊離石灰、水硬性化合物および無水石膏の合計100部中、0.1〜10部であることが好ましく、1〜5部がより好ましい。前記範囲外では、練り混ぜ直後のスランプ向上が少ない場合や強度発現性が低下する場合がある。
【0021】
上記各成分の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、各成分を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、各成分の量を計算によって求めることもできる。炭酸カルシウムの含有量は、示差熱天秤(TG−DTA)や示差熱熱量測定(DSC)などによって、炭酸カルシウムの脱炭酸に伴う重量変化から定量することができる。
【0022】
本発明の早期脱型材の粉末度は、ブレーン比表面積で2500〜9000cm/gが好ましく、3500〜9000cm/gがより好ましい。2500cm/g未満では、初期強度の増進が不十分の場合や長期に亘って後膨張して強度が低下する場合がある。また、9000cm/gを超えるとコンクリートの流動性が低下する場合がある。
【0023】
本発明の早期脱型材では、CaO原料と、Al原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理して得られた、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏を含む熱処理物中に、微粒子ポルトランドセメント、および/または微粒子生石灰、および/または微粒子無水石膏を配合すると初期強度の発現性が向上するため好ましい。
【0024】
微粒子ポルトランドセメントとしては、平均粒子径6μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上であるのが好ましい。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布計で測定できる。
微粒子ポルトランドセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメントを粉砕、分級したものが使用可能である。微粒子ポルトランドセメントを配合する割合は特に限定されるものではないが、通常、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏および微粒子ポルトランドセメントの合計100部中、40部以下が好ましく、10〜30部がより好ましい、40部を超えて配合すると初期強度が逆に低下する場合がある。
【0025】
微粒子生石灰としては、石灰石や消石灰を焼成して生石灰としたものを粉砕して使用することが可能であり、平均粒子径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、また、通常0.1μm以上が好ましい。
微粒子無水石膏としては、天然無水石膏、ニ水石膏、半水石膏などを粉砕して使用することが可能であり、平均粒子径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、また、通常0.1μm以上が好ましい。
【0026】
微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏を配合する割合は、特に限定されるものではないが、通常、熱処理物と微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏の合計100部中、60部以下が好ましい。60部を超えて置換するとコンクリートの流動性が低下して型枠に充填することが困難になる場合や、初期強度が逆に低下する場合がある。また、微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏を配合する割合は、熱処理物と微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏の合計100部中、10部以上が好ましい。
なお、本発明において、微粒子ポルトランドセメント、微粒子生石灰や微粒子無水石膏の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計を用い、超音波装置を用いて分散させた状態で測定を行う。
【0027】
本発明の早期脱型材では、CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、を混合したものを熱処理して得られる熱処理物、あるいは、熱処理物に微粒子ポルトランドセメントおよび/または微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏を添加したものに対して、グリセリンを添加することによって初期強度の発現性を向上させることができる。
【0028】
本発明で使用するグリセリンは、化学式でC、化学名1,2,3-プロパントリオールまたはグリセロールで表される化合物である。
【0029】
熱処理物に添加するグリセリンの割合は、特に限定されるものではないが、熱処理物、あるいは、熱処理物に微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏を添加したものとグリセリンの合計100部中、好ましくは0.1〜10部であり、より好ましくは1〜5部である。0.1部未満では初期強度の増進効果やレイタンスの改善が得られない場合があり、10部を超えるとコンクリートの流動性が悪くなる場合がある。
なお、グリセリンは、熱処理物、あるいは、熱処理物に微粒子ポルトランドセメントおよび/または微粒子生石灰および/または微粒子無水石膏の混合物に添加し、次いで、同時粉砕し、粉砕物の表面に付着させることが強度発現性の観点から好ましい。
【0030】
本発明の早期脱型材の使用量は、コンクリートの配合によって変化するため特に限定されるものではないが、セメントと早期脱型材からなるセメント組成物100部中、2〜15部であり、5〜12部が好ましい。前記範囲内の場合、圧縮強度の増進効果が得られる場合がある。
【0031】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらセメントに対して、スラグ、フライアッシュ、およびシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を混合した各種混合セメント、ならびに石灰石粉末を混合したフィラーセメントなどが挙げられる。この中でも混合セメントを用いた場合、環境負荷が小さく、本発明の早期脱型材を用いた場合の強度増進効果が高いことから好ましい。本発明で使用するセメントとしては、スラグおよび/またはフライアッシュを含む混合セメントを使用するのが特に好ましい。
【0032】
本発明における、コンクリートの打設から脱型までの養生条件は以下のようになされるのが好ましい。コンクリートの打設から脱型までの蒸気養生温度は70℃以下であり、60℃以下であるのが好ましい。70℃を超える温度で養生するとコンクリートにひび割れが生じる場合がある。また、通常、蒸気養生温度は40℃以上が好ましい。
【0033】
またコンクリート打設から脱型までのマチュリティを210〜320℃・hrとするのが好ましい。マチュリティとは以下の式によって定義される。
マチュリティM=Σ(T+10)Δt
T:Δt時間におけるコンクリートの温度
Δt:経過時間(hr)
【0034】
マチュリティが210℃・hr未満では圧縮強度の発現が不十分で脱型することができない場合があり、320℃・hrを超える場合は製造に要する時間が長くなりすぎて不経済になる場合がある。打設から脱型までのマチュリティは、230〜300℃・hrであるのがより好ましい。
【0035】
本発明では、砂、砂利の他、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、セメント急硬材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライト等のイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石膏、ケイ酸カルシウム、鋼繊維などを併用することが可能である。有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質などが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはもちろんである。
【0037】
「実験例1」
下記する「使用材料」に記載される、CaO原料と、CaSO原料と、さらに、Al原料、Fe原料およびSiO原料からなる群から選ばれる少なくとも1種などを混合した。得られた混合物を電気炉を用いて、大気中、1350℃で0.5時間熱処理し、得られた熱処理物をボールミルで粉砕して早期脱型材(A〜H)を調製した。また、熱処理物の粉砕品に微粒子普通ポルトランドセメントを添加した早期脱型材(I)を調製した。さらに、熱処理物や、熱処理物と微粒子生石灰と微粒子無水石膏との混合物にグリセリンを添加してボールミルで粉砕した早期脱型材(a〜t)を調製した。
また、表1に示されるように、市販品A〜Cの早期脱型材や膨張材、市販品Bに微粒子普通ポルトランドセメントを添加した早期脱型材(J)、市販品Aにグリセリンを添加したもの、グリセリンだけを添加したものを、比較例として使用した。
なお、熱処理物についての各成分の組成と含有量は、粉末X線回折及び元素分析により求めた。
【0038】
単位水量145kg/m、単位セメント量440kg/m、単位早期脱型材量30kg/m(市販品Aにグリセリンを添加したもの、及びグリセリンだけを添加したものは、0.9kg/m)、減水剤2.5kg/m、s/a39.4%、空気量4.5%をコンクリートの基本配合とし、20℃の環境下で表1に示すように早期脱型材の種類を変えながらコンクリートのスランプ、および凝結時間を測定した。
その後、型枠にコンクリートを充填し、20℃での前置時間40分、昇温30分、最高温度50℃で3時間、冷却30分後に脱型し、脱型直後と20℃大気中で養生後の圧縮強度を測定した。また、コンクリート表面のレイタンスの有無と長さ変化率を評価した。結果を表1に示す。
なお、早期脱型材は骨材に置換する形で配合し、早期脱型材を添加しない配合についても検討を行った。
【0039】
(使用材料)
CaO原料:炭酸カルシウム(石灰石微粉末)、100メッシュ、市販品
Al原料:ボーキサイト、90μm篩通過率100%、市販品
Fe原料:酸化鉄粉末、ブレーン比表面積3000cm/g、市販品
SiO原料:ケイ石粉末、ブレーン比表面積3000cm/g、市販品
CaSO原料:ニ水石膏、ブレーン比表面積5000cm/g、市販品
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、密度3.16g/cm
微粒子普通ポルトランドセメント:平均粒子径3μm、密度3.16g/cm
微粒子生石灰(1):CaO含有量97%、平均粒子径10μm、市販品
微粒子無水石膏(1):天然無水石膏、平均粒子径8μm、市販品
微粒子生石灰(2):CaO含有量97%、平均粒子径18μm、市販品
微粒子無水石膏(2):天然無水石膏、平均粒子径15μm、市販品
グリセリン:市販品、精製グリセリン
砂:JIS標準砂
水:水道水
細骨材:日本国新潟県姫川産、5mm下、密度2.62g/cm
粗骨材:日本国新潟県姫川産、25mm下、密度2.64g/cm
減水剤:ナフタレンスルホン酸、商品名「マイテイ150」、花王社製
【0040】
早期脱型材A:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部、密度2.90g/cm、ブレーン比表面積3500cm/g。
早期脱型材B:早期脱型材Aをブレーン比表面積6000cm/gに粉砕したもの。
早期脱型材C:早期脱型材Aをブレーン比表面積9000cm/gに粉砕したもの。
早期脱型材D:遊離石灰32部、Yeelimite21部、CAF5部、CS5部、無水石膏37部、密度2.98g/cm、ブレーン比表面積3500cm/g。
早期脱型材E:遊離石灰50部、Yeelimite10部、CAF5部、CS5部、無水石膏30部、密度3.05g/cm、ブレーン比表面積3500cm/g。
早期脱型材F:早期脱型材Aをアルミナ製るつぼに入れて電気炉内にセットし、炭酸ガスを電気炉の内容積1Lあたり0.05L(リットル)/min流しながら、加熱温度600℃、30分反応させて合成したもの。遊離石灰20部、Yeelimite32部、無水石膏47、炭酸カルシウム1部、密度2.90g/cm、ブレーン比表面積6000cm/g。
早期脱型材G:遊離石灰70部、Yeelimite20部、無水石膏10部、密度3.20g/cm、ブレーン比表面積3500cm/g。
早期脱型材H:遊離石灰10部、Yeelimite50部、無水石膏40部、密度2.85g/cm、ブレーン比表面積3500cm/g。
早期脱型材I:早期脱型材A80部に平均粒子径3μmの微粒子普通ポルトランドセメントを20部配合、密度2.95g/cm、ブレーン比表面積4400cm/g。
早期脱型材J:市販品B80部に平均粒子径3μmの微粒子普通ポルトランドセメントを20部配合、密度2.95g/cm、ブレーン比表面積4400cm/g。
【0041】
早期脱型材a:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材b:早期脱型材Aに用いた熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材c:早期脱型材Aに用いた熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積9000cm/gに調製したもの。
早期脱型材d:遊離石灰30部、Yeelimite20部、CAF5部、CS5部、無水石膏40部からなる熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材e:遊離石灰50部、Yeelimite10部、CAF5部、CS5部、無水石膏30部からなる熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材f:遊離石灰30部、Yeelimite10部、無水石膏60部からなる焼成物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積4000cm/gに調製したもの。
早期脱型材g:遊離石灰70部、Yeelimite20部、無水石膏10部(ブレーン比表面積3500cm/g)からなる熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材h:遊離石灰10部、Yeelimite50部、無水石膏40部からなる熱処理物97部とグリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材i:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物をブレーン比表面積3500cm/gに粉砕し、粉砕物97部とグリセリン3部を混合して調製したもの。
早期脱型材j:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を70部、微粒子生石灰(1)を13.5部、微粒子無水石膏(1)を13.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材k:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を50部、微粒子生石灰(1)を23.5部、微粒子無水石膏(1)を23.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材l:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を40部、微粒子生石灰(1)を28.5部、微粒子無水石膏(1)を28.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材m:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を30部、微粒子生石灰(1)を33.5部、微粒子無水石膏(1)を33.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材n:微粒子生石灰(1)を48.5部、微粒子無水石膏(1)を48.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積5000cm/gに調製したもの。
早期脱型材o:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を50部、微粒子生石灰(1)を47部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材p:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を50部、微粒子無水石膏(1)を47部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材q:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物を50部、微粒子生石灰(2)を23.5部、微粒子無水石膏(2)を23.5部、グリセリン3部を混合粉砕し、ブレーン比表面積6000cm/gに調製したもの。
早期脱型材r:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物99.9部とグリセリン0.1部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材s:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物99部とグリセリン1部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
早期脱型材t:遊離石灰21部、Yeelimite32部、無水石膏47部からなる熱処理物90部とグリセリン10部を混合粉砕し、ブレーン比表面積3500cm/gに調製したもの。
【0042】
市販品A:生石灰50部、カルシウムシリケート20部、無水石膏30部を含有した市販の早期脱型材。ブレーン比表面積4500cm/g。無水石膏はクリンカに後から添加。
市販品B:エトリンガイト系膨張材、密度2.95g/cm、ブレーン比表面積2800cm/g。
市販品C:エトリンガイト・石灰複合系膨張材、密度3.08g/cm、ブレーン比表面積2800cm/g。
【0043】
(試験方法)
凝結試験:JIS A 1147に準拠して実施した。凝結の始発時間を測定し、早期脱型材無混和のプレーンコンクリートを基準として、凝結促進効果を評価した。
スランプ:JIS A 1101に準拠
圧縮強度:JIS A 1108に準拠
レイタンスの有無:圧縮強度測定用の試験体表面に生じたレイタンスの状態を目視で評価した。レイタンスが試験体表面積の30%以上見られるものを×、レイタンスが試験体表面積の10〜30%見られるものを△、レイタンスが試験体表面積の0〜10%見られるものを○とした。
長さ変化率:JIS A 1129に準拠。試験体を脱型後、20℃水中に入れて温度を安定させたのち、材齢1日で基長を測定した。さらに材齢7日まで20℃水中で養生し、その後、20℃、60%RH室内で気中乾燥養生し、コンクリートに生じる収縮ひずみを材齢56日で測定した。
【0044】
【表1】
【0045】
「実験例2」
早期脱型材A、早期脱型材B、早期脱型材a、早期脱型材b、または早期脱型材kを用い、表2に示す量の高炉スラグおよび/またはフライアッシュによって、セメントの一部を置換して使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。なお、市販品Aや市販品Aにグリセリンを混合したものも評価した。
【0046】
(使用材料)
フライアッシュ:東北フライアッシュII種、ブレーン比表面積4000cm/g、密度2.23g/cm
スラグ:高炉スラグ、住金鉱化社製、スミットメント、ブレーン比表面積4000cm/g、密度2.91g/cm
【0047】
【表2】
【0048】
「実験例3」
早期脱型材A、または早期脱型材aを用い、スラグを100kg/m、フライアッシュを50kg/mセメントに置換配合し、蒸気養生条件とマチュリティを表3のように変化させたこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
「実験例4」
蒸気養生条件を20℃での前置時間40分、昇温30分、最高温度50℃で3時間、冷却30分とし、セメントと早期脱型材からなるセメント組成物100部中、早期脱型材の使用量を表4のように変化させたこと以外は実験例3と同様に行った。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の早期脱型材は、コンクリート製品の製造に有用であり、本発明の早期脱型材を用いる製造方法は、環境負荷の小さいコンクリート製品の生産性を高める方法として利用できる。
なお、2011年10月13日に出願された日本特許出願2011−226165号及び2011年12月28日に出願された日本特許出願2011−289924号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。