(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一工程にてホウ素含有物質と窒素含有物質とを加熱処理してBN含有率が80重量%以上の粗製窒化ホウ素を得た後、第二工程にて該粗製窒化ホウ素を、下記式(1)を満足するホウ素含有フラックス成分とともに耐熱容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下連続反応炉で1550〜2400℃にて再加熱処理して結晶成長させることを特徴とする、結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法。
式(1):ホウ素含有フラックス成分に含まれるホウ素量/粗製窒化ホウ素量≦1.4重量%
前記耐熱容器が、少なくとも内面が窒化ホウ素でコーティングされているグラファイト製容器である請求項1〜3のいずれかに記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法。
前記粗製窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が2.5以上かつ数平均粒子径が9μm以下であり、窒素ガス雰囲気中にて1550〜2400℃で再加熱処理した後の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.9以下かつ数平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素粉末(以下、h−BN粉末と記す)は耐熱性、潤滑性、電気絶縁性、および熱伝導性などに優れた特性を持つことから、固体潤滑材、離型剤、化粧品原料、熱伝導性樹脂用フィラー、焼結体原料などの多くの用途に使用されている。中でも化粧品に混合したときの隠蔽効果に優れることや、熱伝導性が高いことから、化粧品原料や樹脂用熱伝導性フィラーとして特に有用である。
【0003】
これらh−BN粉末の工業的な製造方法としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂等のホウ素含有物質と、メラミン、尿素、ジシアンジアミド、アンモニア、窒素等の窒素含有物質とを加熱雰囲気下に反応させる方法が挙げられる。
【0004】
これら製造方法の中でも、特許文献1には、ホウ素含有物質と窒素含有物質とを900〜1300℃程度の温度で加熱処理して一旦粗製BN粉末を合成した後、該粗製BN粉末を水洗して不純物を除去して、再度1500〜1800℃程度の高温で処理することにより、結晶性のh−BN粉末が効率良く製造可能であることが示されている。
【0005】
また特許文献2には、ホウ酸等のホウ素含有物質とメラミン等の窒素含有物質を含む混合物に対し、Ca含有物質を添加してから1800℃〜2200℃の高温で焼成・結晶化することにより、結晶性のh−BN粉末が製造できることが示されている。同様に特許文献3には結晶性のh−BN粉末の製造時に、Ca含有物質として、炭酸カルシウム、ホウ酸カルシウムが好適であることが示されている。さらに、特許文献6には、粗製窒化ホウ素粉末を、60℃以下で1週間以上養生させて、再加熱する方法が示されている。
【0006】
特許文献4には、還元剤となる炭素化合物とホウ酸等のホウ素含有物質とを、窒素ガス雰囲気中窒化触媒存在下に1650℃〜2300℃の高温で還元窒化することを特徴とする、h−BNの連続的製造方法が記載されている。また特許文献5には、h−BNの還元窒化に適した高温連続反応炉が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、結晶性h−BNの製造には2000℃前後の高温処理が必要である。しかしながら特許文献1〜3及び6のようなバッチ炉による製法では、生産の度に2000℃前後までの昇温と取り出し可能な温度までの降温を繰り返す必要があり、加熱冷却に多大なエネルギーロスが生じるという問題があった。
【0009】
また特許文献2〜3のように粗製BN粉末を一旦取り出すことなく一気に2000℃付近の高温で処理を行う製法では、結晶性h−BN生産時に、原料となる窒素化合物やホウ素化合物から大量の分解物が発生する。したがってこのような製法を連続反応炉による連続生産方式に適用しようとすると、高温炉内が常時汚染されることとなるため、炉内の掃除に多大な手間を要する。
【0010】
特許文献4〜5のようなh−BN生産が連続的に可能となる製法では、還元剤として用いられる炭素化合物が高温でホウ素化合物を還元することによりCOあるいはCO
2ガスとして揮発する。そのため、仕込んだ原料の量に対して得られるh−BNの収率が低くなり、高価でかつメンテナンスも容易ではない高温炉の稼働率が低下して設備コストが増大し、結晶性h−BN粉末がコストアップするという問題があった。また、得られるh−BN粉末は結晶サイズが大きくなりにくいという問題があった。
【0011】
以上のように従来技術では、粒径が大きくかつ結晶性の高いh−BN粉末を高効率かつ低コストにて、かつ炉内の汚染を少なくして生産するのは困難であった。そこで、本発明では、より高効率かつ低コストで、粒径が大きくかつ結晶性の高い結晶性六方晶窒化ホウ素粉末を連続的にかつ炉の汚染を少なくして製造する方法を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記現状に鑑み、粒径が大きくかつ結晶性に優れたh−BN粉末を、高効率かつ低コストで連続的にかつ炉の汚染を少なくして生産するという課題を実現させるべく、鋭意検討を行った。
【0013】
その結果、ホウ素含有物質と窒素含有物質とを加熱処理し、BN含有率が80重量%以上の粗製窒化ホウ素を得た後、該粗製窒化ホウ素を所定量のホウ素を含むホウ素含有フラックス成分とともに耐熱容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下連続反応炉で1550〜2400℃にて再加熱処理して結晶成長させることにより、結晶性h−BN粉末を連続的に製造可能であることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち本発明の第一は、第一工程にてホウ素含有物質と窒素含有物質とを加熱処理してBN含有率が80重量%以上の粗製窒化ホウ素を得た後、第二工程にて該粗製窒化ホウ素を、下記式(1)を満足するホウ素含有フラックス成分とともに耐熱容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下連続反応炉で1550〜2400℃にて再加熱処理して結晶成長させることを特徴とする、結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法である。
式(1):ホウ素含有フラックス成分に含まれるホウ素量/粗製窒化ホウ素量≦1.4重量%
【0015】
本発明の第二は、前記第一工程の加熱処理温度が800℃以上、1550℃未満である第一に記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法である。
【0016】
本発明の第三は、前記耐熱容器が、グラファイト製または窒化ホウ素製であることを特徴とする、第一又は二に記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法である。
【0017】
本発明の第四は、前記耐熱容器が、少なくとも内面が窒化ホウ素でコーティングされているグラファイト製容器である第一〜三のいずれかに記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法である。
【0018】
本発明の第五は、前記連続反応炉がプッシャー式トンネル炉であることを特徴とする、第一〜四のいずれかに記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法である。
【0019】
本発明の第六は、前記粗製窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が2.5以上かつ数平均粒子径が9μm以下であり、窒素ガス雰囲気中にて1550〜2400℃で再加熱処理した後の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.9以下かつ数平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする、第一〜五のいずれかに記載の結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の連続的製造方法である。
【0020】
なお本発明には、前記第一発明において、式(1)の要件がない発明(発明A)も含まれる。この発明Aにおいても、前記第二発明〜第六発明で言及されている事項は、好ましい態様になる。その他、全ての要件に関し、発明Aは前記第一発明と同様である。
【発明の効果】
【0021】
上記のごとく、まず焼成して粗製窒化ホウ素(BN)粉末を一旦製造した後、1550〜2400℃の高温処理を実施する際に使用するホウ素含有フラックス成分量を抑制することで、高温処理時に分解物や揮発物がほとんど発生しなくなるため、連続生産時に炉内壁を分解物で汚染したりすることがほとんど無くなり、炉を長期間連続的に稼動させることが可能となったため、高温炉の昇降温に要するエネルギーを大幅に低減することが可能となった。また分解物や揮発物がほとんど発生しなくなった結果、高温連続反応炉の利用効率を高めることが可能となり、設備コストを低く抑えられるため、小規模な設備であっても粒径が大きくかつ高結晶性のh−BN粉末を高効率かつ低コストにて、工業的規模で生産できることとなった。
特に1550〜2400℃の高温処理を連続炉で行えば、少ないホウ素含有フラックスが揮発することでその残存量が非常に少なくなるにも拘わらず、高結晶化をより確実に達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ホウ素含有物質と窒素含有物質とを加熱処理して粗製窒化ホウ素を得る第一工程と、該粗製窒化ホウ素と所定量のホウ素を含むホウ素含有フラックス成分とを不活性ガス雰囲気下の連続反応炉で再加熱処理して結晶成長させる第二工程を含むことを特徴とする。第一工程では、窒化ホウ素を結晶成長させるための粗製窒化ホウ素を調製する。第二工程では、該粗製窒化ホウ素と低減された量のホウ素とを反応させて、さらに窒化ホウ素を結晶成長させる。
【0024】
1.第一工程
本発明で使用されるホウ素含有物質としては、ホウ酸、酸化ホウ素、無機又は有機化合物のホウ酸塩、ハロゲン化ホウ素、ボラジン、ボロシロキサン等の様々な化合物が使用可能であるが、経済性や反応性等の観点から、ホウ酸、酸化ホウ素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩(例えば、ホウ砂)等のホウ素化合物を好適に用いることが可能である。ホウ酸及び酸化ホウ素としては、オルトホウ酸(H
3BO
3)、メタホウ酸(HBO
2)、テトラホウ酸(H
2B
4O
7)、無水ホウ酸(B
2O
3)など、一般式(B
2O
3)・(H
2O)x〔但し、x=0〜3〕で示される化合物の1種又は2種以上が好適である。
【0025】
本発明で使用される窒素含有物質としては、分子中に窒素原子を含有する物質であればよく、有機窒素化合物、無機窒素化合物、窒素単体およびこれらの混合物などが使用可能である。
【0026】
窒素含有物質のうち有機窒素化合物としては様々な物質が使用可能であるが、窒素含有量、経済性、反応性等の観点から、メラミン、尿素等のNH
2基を有する有機化合物、有機アンモニウム塩、アミド化合物、N≡C−基を有する有機化合物等が好適である。これらの中でも、メラミン、尿素が特に好ましく用いられる。窒素含有物質のうち、無機窒素化合物としては、アンモニアガス、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアンモニウム塩等を例示することができる。また窒素単体としては、窒素ガス、液体窒素等を例示することができる。
【0027】
これらホウ素含有物質及び窒素含有物質を、適温で反応させて粗製BN粉末を得る第一工程においては、後述のように所定のBN含有量となる限り、予めホウ素含有物質と窒素含有物質とを反応させておいても良いし、未反応のまま炉に仕込んでそのまま焼成してもよい。また窒素含有物質がアンモニアガスや窒素ガスなどの気体である場合には、ホウ素含有物質のみを炉内に仕込んだ後、炉内を上記ガスに置換し、そのまま加熱すれば良い。あるいはホウ素含有物質及び窒素含有物質を炉内に仕込んだ後、雰囲気をアンモニアガスや窒素ガスなどの気体で置換することにより、より効率よく窒素を導入することが可能であるが、雰囲気はこれらに限定されるものではなく、一般的な不活性ガス雰囲気下でも可能である。さらには少量の水分や酸素が混入していてもかまわない。第一工程において、上記成分は、従来公知の方法を使用して混合してもよく、例えば、ヘンシェルミキサーなどの高速攪拌装置を使用して混合してもよい。
【0028】
第一工程における炉の最高温度は、特に制限は無いが、炉の設備コストや加熱に要するユーティリティーのコストを考慮すると、例えば、1550℃未満、好ましくは1500℃未満、より好ましくは1460℃未満、さらに好ましくは1400℃未満、最も好ましくは1350℃未満であり、好ましくは800℃以上、より好ましくは850℃以上、さらに好ましくは900℃以上である。炉の最高温度が高くなり過ぎると、第一工程の炉にも特殊な耐熱素材や高価な断熱材が必要となり設備コストアップになるほか、加熱に要するユーティリティーのコストも高額となってしまい、得られるh−BN粉末がコストアップする原因となる。また1550℃以上で加熱するとBN粉末の結晶化が中途半端に進行してしまうため、一旦取り出した後再度加熱した際に結晶化が進行しづらくなる傾向が強くなる。昇温速度、降温速度、最高温度での処理時間等には特に制限は無い。
【0029】
第一工程で得られた粗製BN粉末は、BN含有率が80重量%以上である必要がある。BN含有率が80重量%未満の場合には、第二工程で1550〜2400℃にて連続的に再加熱処理する際に、揮発物や不純物が多く発生するため、連続反応炉内を汚染してしまったり、連続反応炉での結晶性h−BN粉末の収率が低下してしまったりする。第一工程で得られた粗製BN粉末のBN含有率は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0030】
第一工程で得られた粗製BN粉末は、一旦冷却して大気雰囲気中に取り出し、60℃以下の温度にて一週間以上養生させてもよいし、一旦冷却させること無くそのまま第二工程の高温連続反応炉に仕込んでも良い。養生させると、高結晶化を促進することができる。
【0031】
2.第二工程
こうして得られた粗製BN粉末を、窒素ガス雰囲気下にて1550〜2400℃で再加熱処理し結晶成長させることで、粒径が大きくかつ結晶性に優れたh−BN粉末を生産することができる。本発明は、後述する様に、本第二工程でホウ素含有フラックス成分の使用量を抑制する点に特徴を有するが、ホウ素含有フラックス成分を抑制すると、再加熱処理時のフラックス成分の揮発によって、窒化ホウ素の高結晶化が優れたレベルではあっても、最高レベルにまでは到達しない事がある。窒化ホウ素の高結晶化を最高レベルにするには、1500〜2400℃での再加熱処理において加熱を連続炉で行う事が望ましい。再加熱時の最高温度は1550〜2400℃の範囲であるが、より高結晶性のh−BN粉末を得るためには最高温度が高いほうが好ましく、炉の管理コストや維持費を低減させるためには最高温度を低く抑えるほうが好ましい。以上の兼ね合いから、最高温度は好ましくは1600〜2300℃、より好ましくは1700〜2250℃、さらに好ましくは1750〜2200℃、最も好ましくは1800〜2150℃である。より高結晶性のh−BN粉末を得るためには最高温度での処理時間は長いほうが好ましく、生産性やユーティリティー費用を低減させるためには最高温度での処理時間は短いほうが好ましい。好ましい最高温度での処理時間は、10分〜10時間であり、より好ましくは20分〜6時間であり、最も好ましくは30分〜5時間である。再加熱時の雰囲気は窒素ガス雰囲気下で実施する必要がある。
【0032】
h−BN粉末の結晶性の評価については、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI=Graphitization Index)が用いられる。GIは、X線回折図の(100)、(101)及び(102)線の積分強度比すなわち面積比を次式によって算出することによって求めることができ、この値が小さいほど結晶性が高い。
GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕
【0033】
上記のように、GIはh−BN粉末の結晶性の指標であり、結晶性が高いほどこの値が小さくなり完全に結晶化(黒鉛化)したものではGI=1.60になるとされている。しかし、高結晶性でかつ粒子が十分に成長したh−BN粉末の場合、粉末が配向しやすいためGIは更に小さくなる。
【0034】
本発明においては、第一工程で得られる粗製BN粉末は、GI値を2.5以上とすることが好ましく、第二工程で結晶成長させた後の結晶性h−BN粉末はGIを1.9以下とすることが好ましい。第一工程で得られる粗製BN粉末のGI値を2.5未満とすると、第二工程での結晶成長が困難となる場合がある。第一工程でのGI値はより好ましくは2.6以上、さらに好ましくは2.8以上、最も好ましくは3.0以上である。第二工程でのGI値が1.9を超えると、最終製品として用いるには結晶化が不十分である場合が多い。第二工程でのGI値はより好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下、最も好ましくは1.4以下である。
【0035】
h−BN粉末の数平均粒子径は、界面活性剤を含む水溶液にh−BN粉末を凝集しないよう投入し、超音波分散器で1分間分散させた後、レーザー散乱式粒度測定装置にて測定した値である。
【0036】
本発明においては、第一工程で得られる粗製BN粉末は、数平均粒子径を9μm以下とすることが好ましく、第二工程で結晶成長させた後の結晶性h−BN粉末は数平均粒子径を10μm以上とすることが好ましい。第一工程で得られる粗製BN粉末の数平均粒子径が9μmを超えると、第二工程での結晶成長が困難となる場合がある。第一工程での数平均粒子径はより好ましくは8μm以下、さらに好ましくは7μm以下、最も好ましくは6μm以下である。第二工程での数平均粒子径が10μm未満であると、最終製品として用いるには結晶化が不十分である場合が多い。第二工程での数平均粒子径は好ましくは12μm以上、より好ましくは14μm以上、さらに好ましくは16μm以上、最も好ましくは18μm以上である。
【0037】
本発明においては、第二工程の1550〜2400℃で再加熱処理し結晶成長させる際には、ホウ素含有フラックス成分を添加する必要がある。但し第二工程においてホウ素含有フラックス成分を積極的に添加することが好ましいが、第一工程の反応性をうまく制御することで、また、第一工程にて製造される粗製BN粉末中に適度な遊離のホウ素成分を残留させることで、この遊離のホウ素成分を第二工程におけるホウ素含有フラックス成分としてそのまま用いることも可能である。1550℃未満で反応させて生成した粗製BN粉末中に含まれる遊離のホウ素成分が少ない場合には、別途第二工程においてホウ素含有フラックス成分を追加で添加する必要がある。第二工程において、上記成分は、従来公知の方法を使用して混合してもよく、例えばヘンシェルミキサーなどの高速攪拌装置を用いて混合してもよい。
【0038】
ホウ素含有フラックス成分としては、窒化ホウ素を除くホウ素化合物が用いられる。具体的には、ホウ酸、酸化ホウ素、無機又は有機化合物のホウ酸塩、ハロゲン化ホウ素、ボラジン、ボロシロキサン等の様々な化合物が使用可能であるが、経済性や反応性等の観点から、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩、ホウ酸、酸化ホウ素等のホウ素化合物を好適に用いることが可能である。アルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩類としては、ホウ砂などのアルカリ金属のホウ酸塩、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属のホウ酸塩が好適である。これらの中でもホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸カルシウムが特に好ましい。
【0039】
ホウ素含有フラックス成分としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩類を用いることが好ましいが、原料としてホウ酸塩類を添加する必要は無い。即ちアルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質と、ホウ素含有物質とが存在していれば、高温にて反応してアルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩類が系内で生じ、h−BN粉末の結晶化を促進する。さらにはアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属以外の成分が残存しないあるいは揮発しやすい物質を選択することで、得られるh−BN粉末の純度を向上させることも可能である。
【0040】
アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質のうち、アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等が、アルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が好ましく用いられる。これらの金属を含有する炭酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、金属、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、アセチルアセトナート化合物等の有機金属化合物が好適に用いられる。アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質は特に高純度である必要はなく、通常市販の工業用の品質のものが好適に使用される。ホウ酸及び酸化ホウ素としては、オルトホウ酸(H
3BO
3)、メタホウ酸(HBO
2)、テトラホウ酸(H
2B
4O
7)、無水ホウ酸(B
2O
3)など、一般式(B
2O
3)・(H
2O)x〔但し、x=0〜3〕で示される化合物の1種又は2種以上が好適である。
アルカリ金属・アルカリ土類金属(M)とホウ素(B)との元素モル比は適宜設定可能であるが、通常はM/B=1/4〜4/1程度、好ましくはM/B=1/3〜3/1程度で使用すればよい。
【0041】
第二工程の1550〜2400℃で再加熱処理し結晶成長させる際に添加されるホウ素含有フラックス成分の添加量は、粗製BN粉末100重量部に対し50重量部以下で添加するのが好ましい。添加剤の量が粗製BN粉末に対して50重量部を超えると、同じ炉で生産した際に一度に焼成可能な結晶性h−BN粉末の量が減ってしまうため、生産効率が低下してしまう上、フラックス成分の揮発により炉内を汚染させる原因となる場合がある。また得られる結晶性h−BN粉末に添加物が残存してしまうため、結晶性h−BN粉末の純度が低下してしまう。粗製BN粉末100重量部に対するホウ素含有フラックス成分の添加量は、好ましくは40重量部以下、より好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下、特に好ましくは15重量部以下、最も好ましくは11重量部以下である。
【0042】
本発明において、ホウ素含有フラックス成分に含まれるホウ素は、以下の式を満たすことが必須である。式(1)の左辺の値は、好ましくは1.3重量%以下、より好ましくは1.2重量%以下、さらに好ましくは1.1重量%以下である。また式(1)の左辺の値は、例えば、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。式(1)の左辺の値が大きすぎると、炉を汚染して配管が詰まるため、結晶成長を促進できないことがある。式(1)の左辺の値が小さすぎると、結晶成長に必要なホウ素量が少ないため、結晶成長を促進できないことがある。
式(1):ホウ素含有フラックス成分に含まれるホウ素量/粗製窒化ホウ素量≦1.4重量%
【0043】
第二工程で添加されたホウ素含有フラックス成分は、フラックスの添加量や種類によっては、第二工程の連続反応炉から取り出した際に、h−BN粉末中に残存している場合がある。その場合には、取り出し後にh−BN粉末を酸性水溶液などで水洗することで、フラックス成分を洗浄することが好ましい。酸性水溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸等の汎用的な無機強酸水溶液が用いられる。
【0044】
本発明において第二工程で1550〜2400℃にて再加熱処理する際には、連続反応炉が用いられる。連続反応炉とは、一般的なバッチ式反応炉のような炉の昇温降温動作によりサンプルを熱処理する方法とは異なり、再加熱処理したい温度に予め保たれた炉内を、処理するサンプルが通過していくことにより、サンプルの熱処理を連続的に行う反応炉のことを示す。このような連続反応炉を用いることにより、2000℃にも及ぶ炉の昇温降温動作が不要となるため、熱処理に要するエネルギーコストを大幅に低減できる。また連続反応炉による連続的な処理を行うことにより、原料が高温ゾーンを通過する前後でも、原料が連続的に熱履歴を受けることとなるため、高温ゾーンに保たれた処理時間が同じ場合には、バッチ式の炉で処理した場合と比べて大粒径で結晶性が高くなり、高品質のh−BN粉末が得られることとなる。
【0045】
連続反応炉としては、一般的に用いられる反応炉を広く適用することが出来る。ここで言う「連続」とは、常時サンプルが移動している方式のみを指すのでは無く、一定時間おきに一定距離をサンプルが移動する方式であれば良い。一般的には第一工程で得られた粗製BNとホウ素含有フラックス成分とを耐熱容器に仕込んだ後、原料の入った耐熱容器を数分〜数時間毎に移動させる方法により、連続反応炉内の1550〜2400℃に保たれた高温領域をサンプルが一定時間かけて通過する方式が採用される。
【0046】
第二工程で1550〜2400℃にて再加熱処理する際に用いられる耐熱容器は、グラファイト製または窒化ホウ素製であることが好ましい。これら以外の耐熱容器では、高温で粗製BN粉末やホウ素含有フラックス成分との反応性を有することがあるうえ、容器にかかるコストも高くなることがある。さらに連続反応炉としてのプッシャー炉に、グラファイト製または窒化ホウ素製容器を用いた場合に、炉内で容器と炉内壁との間に生じる摩擦力が低減でき、連続反応炉の寿命を延ばすことが可能となる。グラファイト製容器を用いる場合には、粗製BN粉末やホウ素含有フラックス成分と、容器との反応性を低下させるため、容器表面または内面を窒化ホウ素でコーティングした容器を用いるのが好ましい。
【0047】
第二工程で用いられる連続反応炉は、プッシャー式トンネル炉であることが好ましい。即ち第一工程で得られた粗製BNとホウ素含有フラックス成分とを、耐熱容器に仕込んだ後、原料の入った耐熱容器を1550〜2400℃に保たれたプッシャー式トンネル炉内に連続的に供給することで、プッシャー式トンネルの温度を昇降温することなく、1550〜2400℃に保たれた空間内を原料が連続的に通過していくことで、結晶性h−BN粉末が連続的に生産されることとなる。
【0048】
1550〜2400℃にまで再加熱可能なプッシャー式トンネル炉としては、グラファイト製ヒーターを備えた炉内に、グラファイトや窒化ホウ素などの耐熱素材で作られたトンネルを設置した構造の炉を例示することが出来る(例えば、
図1)。このようなトンネル炉の入り口付近にプッシャーを設置し、原料が充填された耐熱容器をプッシャーにより間隔を開けて押し進めて行くことで、順次原料が高温エリアに送られ、高温エリアでの結晶化が進行する。この際、原料から発生する少量の揮発物を炉外に排出するため、プッシャー式トンネル炉内には常に窒素気流を流しておくことが好ましい。また窒素気流下で処理されることにより、BN結晶内部の欠陥が修復され、h−BNの結晶化が進行することとなる。またグラファイトや窒化ホウ素などの耐熱素材でトンネルが構成されていることにより、原料から少量の揮発物等が発生した場合であっても、揮発物がヒーターを汚染することが無いため、炉を長期間連続的に運転させることが可能となる。
【0049】
本発明により得られる、粒径が大きく結晶性の高いh−BN粉末は、化粧品に混合したときの他の成分による隠蔽効果に優れることから、例えば、化粧品に好ましく用いることが可能である。また高結晶性であるため熱伝導性が高いことや、大粒径であるため粒子同士の接触面における熱抵抗を低減できることから、例えば、樹脂用熱伝導性フィラーとして特に有用である。熱伝導性フィラーとして用いる際の樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれにも効果的に使用可能である。熱硬化性樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などのエポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、硬化性シリコーン系樹脂、硬化性アクリル系樹脂等が好ましく使用可能である。熱可塑性樹脂としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、非晶性半芳香族ポリエステルや非晶性全芳香族ポリエステルなどの非晶性ポリエステル系樹脂、結晶性半芳香族ポリエステルや結晶性全芳香族ポリエステルなどの結晶性ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミドや脂肪族−芳香族ポリアミドや全芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示されたポリマーのランダム・ブロック・グラフト共重合体などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の複数を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加して用いることもできる。これら熱可塑性樹脂は、目的に応じて適宜使い分ければよい。
【0050】
本願は、2011年11月2日に出願された日本国特許出願第2011−240880号に基づく優先権の利益を主張するものである。2011年11月2日に出願された日本国特許出願第2011−240880号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
黒鉛化指数(GI)測定:スペクトリス(株)製PANalytical X’Pert Pro XRD測定装置を用い、Cu・KαのX線にて、広角X線回折測定を行った。得られた測定値から、2θ=41°付近、44°付近、50°付近に見られる(100)(101)(102)の面積を測定し、下記式に基づいて黒鉛化指数(GI)を算出した。
GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕
【0053】
数平均粒子径:100mlビーカーにヘキサメタリン酸ナトリウム20重量%水溶液1mlを入れ、この水溶液にh−BN粉末20mgを投入し、超音波分散器で3分間分散処理した。得られた分散液にて、日機装(株)製レーザー回折式粒度分布測定器MT3300EXIIを用い、数平均粒子径を測定した。
【0054】
実施例1
オルトホウ酸55kg、メラミン45kgをヘンシェルミキサーで混合した後、窒素フロー下でバッチ式の管状電気炉にて1100℃に加熱し2時間処理後冷却することで、粗製BN粉末を得た。この粗製BN粉末を一旦取り出し、23℃50%RH条件にて10日間静置し、養生した。次いで、粗製BN粉末18kg、酸化カルシウム1.2kg、オルトホウ酸0.8kgをヘンシェルミキサーで混合した後、容器1個につき混合物を3kgずつ、外寸230mm角四方、内寸210mm角四方の立方体形状で内面及び外面がいずれも窒化ホウ素でコーティングされているグラファイト製耐熱容器に仕込む作業を繰り返すことで、原料混合物が充填された容器を50個準備した。グラファイト製ヒーターとグラファイト製マッフル型トンネルとを有したプッシャー式トンネル炉の中心部分を2050℃に保ち、内部に高純度窒素を充満させた。この状態のプッシャー式トンネル炉にさらに内部に高純度窒素気流を流しながら、原料が充填された耐熱容器を30分に1回の頻度で容器一個分ずつ炉内へ送ることにより、2050℃に保たれたゾーンを120分間かけて通過させ、粗製BN粉末を結晶化させて結晶性h−BN粉末を得た。得られた結晶性h−BN粉末を硝酸水溶液に分散させたあと、ろ過、純水での洗浄、乾燥を経ることにより、耐熱容器1個あたり2.66kgの結晶性h−BN粉末を得た。
得られたh-BN粉末の特性は下記の通りである。
粗製BN粉末:黒鉛化指数4.74、数平均粒子径0.95μm。
結晶性h−BN粉末:黒鉛化指数1.09、数平均粒子径23.5μm。
【0055】
実施例2
無水ホウ酸65重量部、リン酸カルシウム35重量部をヘンシェルミキサーで混合した後、アンモニアフロー下で管状電気炉にて1000℃に加熱し6時間処理後冷却することで、粗製BN粉末を得た。この粗製BN粉末を一旦取り出し、23℃50%RH条件にて10日間静置し、養生した。次いで、粗製BN粉末18kg、ホウ酸カルシウム2.0kgをヘンシェルミキサーで混合した後、容器1個につき混合物を3kgずつ、外寸230mm角四方、内寸210mm角四方の立方体形状グラファイト製耐熱容器に仕込む作業を繰り返すことで、原料混合物が充填された容器を50個準備した。グラファイト製ヒーターとグラファイト製マッフル型トンネルとを有したプッシャー式トンネル炉の中心部分を2050℃に保ち、内部に高純度窒素を充満させた。この状態のプッシャー式トンネル炉にさらに内部に高純度窒素気流を流しながら、原料が充填された耐熱容器を30分に1回の頻度で容器一個分ずつ炉内へ送ることにより、2050℃に保たれたゾーンを120分間かけて通過させ、粗製BN粉末を結晶化させて結晶性h−BN粉末を得た。得られた結晶性h−BN粉末を硝酸水溶液に分散させたあと、ろ過、純水での洗浄、乾燥を経ることにより、耐熱容器1個あたり2.66kgの結晶性h−BN粉末を得た。
得られたh-BN粉末の特性は下記の通りである。
粗製BN粉末:黒鉛化指数3.58、数平均粒子径1.05μm。
結晶性h−BN粉末:黒鉛化指数1.06、数平均粒子径26.5μm。
【0056】
比較例1
オルトホウ酸55kg、メラミン45kgをヘンシェルミキサーで混合した後、窒素フロー下でバッチ式の管状電気炉にて1100℃に加熱し2時間処理後冷却することで、粗製BN粉末を得た。この粗製BN粉末を一旦取り出し、23℃50%RH条件にて10日間静置し、養生した。この粗製BN粉末90g、酸化カルシウム6g、オルトホウ酸4gをるつぼにて混合した後、窒化ホウ素製容器仕込み、高温加熱が可能なバッチ式電気雰囲気炉に仕込んだ。内部を窒素置換した後、2050℃にて2時間加熱し、粗製BN粉末を結晶化させた。こうして得られた結晶性h−BN粉末を硝酸水溶液に分散させたあと、ろ過、純水での洗浄、乾燥を経て、結晶性h−BN粉末を得た。
粗製BN粉末:黒鉛化指数4.74、数平均粒子径0.95μm。
結晶性h−BN粉末:黒鉛化指数1.68、数平均粒子径12.3μm。
比較例1では連続反応炉による連続的生産方式を採用しなかったため、実施例1よりも得られた結晶性h−BN粉末の粒径が小さく、かつ結晶性が低くなった。
【0057】
比較例2
オルトホウ酸55kg、メラミン45kgをヘンシェルミキサーで混合した。容器1個につきこの混合物3kgを取り出し、外寸230mm角四方、内寸210mm角四方の立方体形状グラファイト製耐熱容器に仕込む作業を繰り返すことで、原料混合物が充填された容器を50個準備した。グラファイト製ヒーターとグラファイト製マッフル型トンネルとを有したプッシャー式トンネル炉の中心部分を2050℃に保ち、内部に高純度窒素を充満させた。この状態のプッシャー式トンネル炉にさらに内部に高純度窒素気流を流しながら、原料が充填された耐熱容器を30分に1回の頻度で容器一個分ずつ炉内へ送ることにより、2050℃に保たれたゾーンを120分間かけて通過させ、結晶性h−BN粉末を合成した。結果、耐熱容器1個につき0.5kgしかh−BN粉末が得られず、生産性が著しく低下した。また原料から発生した揮発物等により炉内のマッフルが著しく汚染されたため、容器50個中12個を送った時点で連続反応炉のプッシャーが動作不可能となり、停止してしまった。得られたh−BN粉末を硝酸水溶液に分散させたあと、ろ過、純水での洗浄、乾燥を経て、結晶性h−BN粉末を得た。
得られたh-BN粉末の特性は下記の通りである。
結晶性h−BN粉末:黒鉛化指数1.55、数平均粒子径13.8μm。
比較例2では一旦粗製BN粉末を取り出すことなく、一貫して連続反応炉による製造を試みたため、実施例1よりもh−BN粉末の生産効率が低下し、炉内の汚染も激しくなったうえ、得られた結晶性h−BN粉末は粒径が小さく結晶性の低いものであった。
【0058】
比較例3
オルトホウ酸50kg、アセチレンブラック11kg、酸化カルシウム5kgをヘンシェルミキサーで混合した。容器1個につきこの混合物3kgを取り出し、外寸230mm角四方、内寸210mm角四方の立方体形状グラファイト製耐熱容器に仕込む作業を繰り返すことで、原料混合物が充填された容器を50個準備した。グラファイト製ヒーターとグラファイト製マッフル型トンネルとを有したプッシャー式トンネル炉の中心部分を2050℃に保ち、内部に高純度窒素を充満させた。この状態のプッシャー式トンネル炉にさらに内部に高純度窒素気流を流しながら、原料が充填された耐熱容器を30分に1回の頻度で容器一個分ずつ炉内へ送ることにより、2050℃に保たれたゾーンを120分間かけて通過させることで、オルトホウ酸をアセチレンブラックで還元しながら窒素ガスで窒化させる方法により、結晶性h−BN粉末を合成した。結果、耐熱容器1個につき0.6kgしかh−BN粉末が得られず、生産性が著しく低下した。また原料からタール状の汚物が発生し、炉内下流付近に析出することで炉内が汚染された。得られたh−BN粉末硝酸水溶液に分散させたあと、ろ過、純水での洗浄、乾燥を経て、結晶性h−BN粉末を得た。
得られたh-BN粉末の特性は下記の通りである。
結晶性h−BN粉末:黒鉛化指数1.41、数平均粒子径11.7μm。
比較例3では還元窒化法と呼ばれる方法を採用したため、比較例2との比較では連続生産性は改善されたものの、やはり実施例1との比較ではh−BN粉末の生産効率が著しく低下し、炉内も汚染されたうえ、得られた結晶性h−BN粉末は粒径が小さく結晶性の低いものであった。
【0059】
以上から本発明の製造方法にて製造された結晶性h−BN粉末は、大粒径で結晶性が高く、さらに小規模の設備でも高効率で生産可能であることが分かる。このような結晶性h−BN粉末は、特に樹脂用熱伝導性フィラーとして有用である。