【実施例】
【0116】
次に,本発明の弾性研磨材の製造実施例,及び得られた弾性研磨材を使用した加工実施例について説明する。
【0117】
1.弾性研磨材の製造実施例
1−1.核体の製造例
以下の方法で製造した架橋ポリロタキサン化合物を造粒して得た核体を使用した。
【0118】
(1)ポリロタキサンの製造
(1-1) ポリロタキサンA
直鎖分子をポリエチレングリコール(重量平均分子量3.5万),環状分子をα−シクロデキストリン,封鎖基をアダマンタンアミン基とし,前記α−シクロデキストリンのOH基の一部をヒドロキシプロピル化した「ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン化合物」(17mass%)に,窒素をゆっくり流しながらε−カプロラクトン(78mass%)を導入すると共に,100℃で60分間均一に撹拌した後,トルエン希釈した2−エチルヘキサン酸スズ(50mass%溶液:5mass%)を添加して反応させ,溶媒を除去することにより「カプロラクトン導入ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン化合物」が得られる。この「カプロラクトン導入ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン化合物」を「ポリロタキサンA」とした。
【0119】
(1-2)ポリロタキサンB
直鎖状分子をポリエチレングリコール(質量平均分子量35000),環状分子をヒドロキシプロピル基を導入した後ε−カプロラクトンをグラフト重合したα−シクロデキストリン(ヒドロキシプロピル置換度:48%,ε−カプロラクトンの重合投入量:〔ε−カプロラクトン〕/〔ヒドロキシ基〕=3.9,環状分子の包接量:25%),ブロック基をアダマンタン基とし,Soft Matter., 2008, 4, 245-249に記載されている方法と同様にして作製したポリロタキサンを「ポリロタキサンB」とした。
【0120】
(1-3)ポリロタキサンC
ポリエチレングリコール(平均分子量:35,000)10g,2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)100mgおよび臭化ナトリウム1gを水100mlに溶解した。得られた溶液に市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度約5%)5mlを添加し,室温で攪拌しながら反応させた。このとき,pHが10〜11を保つように1NのNaOHを添加した。そして,エタノールを添加して反応を終了させた。
【0121】
得られた反応液について,塩化メチレン50mlによる抽出を3回繰り返して無機塩以外の成分を抽出した後,エバポレータで塩化メチレンを留去した。抽出物を温エタノール250mlに溶解させた後,−4℃下に一晩置き,PEG−カルボン酸のみを析出させ,遠心分離でPEG−カルボン酸を回収した。
【0122】
直鎖状分子として上記PEG−カルボン酸3gおよび環状分子としてα−シクロデキストリン12gを,それぞれ別々に用意した70℃の温水50mlに溶解させた後,両者を混合し,その後,4℃下で一晩静置して,直鎖状分子および環状分子の包接錯体を得た。
【0123】
室温でジメチルホルムアミド(DMF)50mlにアダマンタンアミン(Aldrich社製)0.13gを溶解し,上記で得られた包接錯体14gに添加した後,すみやかによく振り混ぜた。続いて,BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)0.38gをDMF25mlに溶解したものを添加し,同様によく振り混ぜた。さらに,ジイソプロピルエチルアミン0.14mlをDMF25mlに溶解したものを添加し,同様によく振り混ぜた。得られた混合物を冷蔵庫中で一晩静置した。
【0124】
その後,上記混合物にDMF/メタノール=1:1混合溶液100mlを加えてよく混ぜ,遠心分離して上澄みを捨てた。このDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後,さらにメタノール100mlを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返した。得られた沈澱物を真空乾燥した後,ジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに溶解し,得られた透明な溶液を水700ml中に滴下して,複数の環状分子の孔を貫通した直鎖状分子の両端にブロック基を結合させたポリロタキサンを析出させた(環状分子:α−シクロデキストリン,直鎖状分子:PEG,ブロック基:アダマンタン基)。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し,真空乾燥または凍結乾燥させた。このDMSO溶解−水中析出−回収−乾燥のサイクルを2回繰り返し,最終的に精製ポリロタキサンを得た。得られたポリロタキサンを「ポリロタキサンC」という。
【0125】
(1-4)ポリロタキサンD
「ポリロタキサンC」のα−シクロデキストリンの水酸基を,ジメチルアセトアミド/塩化リチウム溶媒中,ジメチルアミノピリジン(触媒)の存在下で,無水酢酸によりアセチル化して得られたポリロタキサンを「ポリロタキサンD」という。
【0126】
(1-5)ポリロタキサンE
ポリエチレングリコール600(Aldrich社製,Mn:600)の片方の末端の水酸基を,塩化メチレン中,ピリジン(触媒)の存在下で,トシルクロライドと反応させてトシル化した。一方,ジメチルホルムアミド中にて,「ポリロタキサンC」のシクロデキストリンの水酸基を水素化ナトリウムで活性化し,上記トシル化したポリエチレングリコールと反応させてエーテル結合を形成することにより,シクロデキストリンの水酸基に長鎖のオキシエチレン鎖を付加し,得られたポリロタキサンを「ポリロタキサンE」という。
【0127】
(2)ポリロタキサン化合物の製造
(2-1) ポリロタキサン化合物A
上記のポリロタキサンA(29.35mass%)と,架橋剤(41.92mass%),ポリカーボネートジオール (旭化成ケミカルズ製「デュラノールT5650J」(26.80mass%),ジラウリン酸ジブチル錫(0.01mass%),2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(BASF社製「IRGANOPX 1726」)(1.92mass%)を反応槽に入れて80℃に昇温,攪拌して均一化した後,減圧脱泡して得られるポリロタキサン化合物を,「ポリロタキサン化合物A」とした。
【0128】
なお,ここで使用する架橋剤は,以下の方法で製造することができる。
【0129】
窒素置換した反応槽に1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(三井化学社製「タケネート600」)を入れて攪拌しながら80℃に昇温する。
【0130】
この1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン36mass%に対し,70℃に暖めたポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製「デュラノールT−5650J」)64mass%を4時間かけてゆっくりと滴下した後,温度を維持しつつ更に3時間攪拌して化合物を得る。
【0131】
窒素置換した反応容器に前記方法で得られる化合物を入れ,攪拌しながら100℃に昇温し,この化合物79mass%に対し,ε−カプロラクタム21mass%を加えて6時間攪拌して前述の架橋剤とする。
【0132】
(2-2) ポリロタキサン化合物B
上記ポリロタキサンA(16.25mass%)と,架橋剤(45.03mass%),ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製「デュラノール T5650E」(37.71mass%),ジラウリン酸ジブチル錫(0.03mass%),2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(BASF社製「IRGANOX1726」)(0.98mass%)を反応槽に入れて80℃に昇温し,攪拌して均一溶液とした後,減圧脱泡して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物B」とした。
【0133】
なお,ここで使用する架橋剤は,以下の方法で得ることができる。
【0134】
窒素置換した反応槽に,1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(三井化学社製「タケネート600」)を入れて攪拌しながら80℃に昇温する。
【0135】
上記反応槽に,1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン47mass%に対し,70℃に暖めたポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製「デュラノールT−5650E」)53mass%を2時間かけてゆっくりと滴下した後,温度を維持しつつ更に3時間攪拌して化合物を得る。
【0136】
窒素置換した反応槽に,上記化合物を入れて攪拌しながら100℃に昇温し,この化合物76mass%にε-カプロラクタム24mass%を入れて6時間攪拌して上記架橋剤とする。
【0137】
(2-3) ポリロタキサン化合物C
上記のポリロタキサンB(6質量部)と,アクリル酸エステル共重合体(100質量部)と,架橋剤(4質量部)と,シランカップリング剤として,3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製,KBM403)(0.2質量部)とを混合し得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物C」とした。
【0138】
なお,上記アクリル酸エステル共重合体は,ブチルアクリレート単位98.5mass%および2−ヒドロキシエチルアクリレート単位1.5mass%からなる質量平均分子量180万のアクリル酸エステル共重合体とする。
【0139】
また,ここで使用する架橋剤は,キシリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパンアダクト体(綜研化学社製,TD−75;3官能性,分子量698,固形分75質量%)とする。
【0140】
なお,ポリロタキサン化合物Cは,シランカップリング剤を含有することにより,ガラス,石英,金属等の無機材料からなる砥粒との接着性を向上させることができる。
【0141】
(2-4) ポリロタキサン化合物D
上記「ポリロタキサンC」20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(I)100質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物D」とした。
【0142】
なお,上記ポリアクリル酸エステル共重合体(I)は,n−ブチルアクリレート90質量部と、2−イソシアナートエチルメタクリレート10質量部と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.6質量部とを酢酸エチル200質量部中にて混合し、60℃で17時間攪拌することにより得られる質量平均分子量41万のポリアクリル酸エステル共重合体とする。
【0143】
(2-5) ポリロタキサン化合物E
ポリロタキサンD20質量部と、上記ポリアクリル酸エステル共重合体(I)100質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物E」とした。
【0144】
なお,上述のポリロタキサン化合物D及びポリロタキサン化合物Eは,上述の架橋剤を使用するポリロタキサン化合物A,ポリロタキサン化合物B及びポリロタキサン化合物Cがポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とを直接的に及び架橋剤を介して間接的に結合(架橋)しているものであるのと異なり,ポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とが直接的にのみ結合(ポリアクリル酸エステル共重合体がポリロタキサンによって架橋)されている。
【0145】
(2-6) ポリロタキサン化合物F
ポリロタキサンE20質量部と、上記ポリアクリル酸エステル共重合体(I)100質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物F」とした。
【0146】
なお,このポリロタキサン化合物Fは,上述の架橋剤を使用するポリロタキサン化合物A,ポリロタキサン化合物B及びポリロタキサン化合物Cがポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とを直接的に及び架橋剤を介して間接的に結合(架橋)しているものであるのと異なり,ポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とが直接的にのみ結合(ポリアクリル酸エステル共重合体がポリロタキサンによって架橋)されている。
【0147】
(2-7) ポリロタキサン化合物G
ポリロタキサンC20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)10質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物G」とした。
【0148】
なお,上記ポリアクリル酸エステル共重合体(II)は,n−ブチルアクリレート80質量部と、2−ヒドロキシエチルアクリレート20質量部と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.4質量部とを酢酸エチル300質量部およびメチルエチルケトン100質量部の混合溶媒中にて混合し、60℃で17時間攪拌することにより得られる質量平均分子量80万のポリアクリル酸エステル共重合体とする。
【0149】
(2-8) ポリロタキサン化合物H
ポリロタキサンC30質量部と、上記ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)15質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物H」とした。
【0150】
(2-9) ポリロタキサン化合物I
ポリロタキサンD5質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)2.5質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物I」とした。
【0151】
(2-10) ポリロタキサン化合物J
ポリロタキサンD20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)10質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物J」とした。
【0152】
(2-11) ポリロタキサン化合物K
ポリロタキサンE20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)10質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物K」とした。
【0153】
(3)架橋(弾性体の製造)
前述したポリロタキサン化合物A,Bは,いずれも未架橋で粘性を有する液体の状態であるが,このポリロタキサン化合物A,Bを加熱することによりα−シクロデキストリン同士を架橋させることで,弾性体が得られる。
【0154】
本実施形態にあっては,前述したポリロタキサン化合物A,B(未架橋)を使用して,下記の三種類の弾性体A〜Cを得た。
【0155】
なお,弾性体A〜Cの構成成分としては,前述したポリロタキサン化合物A,Bの他,1.0mass%未満の帯電防止剤を添加するものとしても良く,このような帯電防止剤を添加することで,被加工物との衝突,研磨材搬送用のホースやノズル等との接触により静電気が発生することを防止できる。
【0156】
(3-1) 弾性体A
容器に前掲のポリロタキサン化合物Aを500g入れ,恒温槽にて150℃の温度に5時間保持して架橋させた後,恒温槽より容器を取り出して自然放熱させたもの。
【0157】
(3-2) 弾性体B
容器に前掲のポリロタキサン化合物Bを500g入れ,恒温槽にて150℃の温度に5時間保持して架橋させた後,恒温槽より容器を取り出して自然放熱させたもの。
【0158】
(3-3) 弾性体C
ポリロタキサン化合物A150gと,ポリロタキサン化合物B350gを共に共通の容器内に入れて両者が均一な状態となるように攪拌,混合し,この容器を恒温槽に入れて150℃の温度に5時間保持して架橋させた後,恒温槽より容器を取り出して自然放熱させたもの。
【0159】
(4)造粒
以上のようにして得られた弾性体A〜Cを,それぞれナイフにて切断することにより,一辺が0.05〜3.0mmの粒状物を得た。このようにして得た弾性体A〜Cの粒状物を,それぞれ核体A〜Cとした。
【0160】
以上のようにして得られた核体A〜Cの機械的特性を示せば,下記の表1に示す通りである。
【0161】
本実施例で使用した核体A〜Cは,いずれも自己粘着性を有すると共に,表1から明らかなようにゴム硬度が30以下,圧縮永久歪が5%以下で,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)が0.3以上という機械的特性を有している。
【0162】
なお,ゴム硬度に関し,本実施形態の核体A〜Cで使用されるポリカーボネートジオールをポリロタキサンを使用せずに単独で架橋した場合,詳細には,ポリカーボネートジオールのヒドロキシル基をイソシアネート化した後,架橋剤で架橋して生成したエラストマー(ポリウレタン)のゴム硬度は30を超える。
【0163】
しかし,このポリカーボネートジオールをポリロタキサンと化合(架橋)することで,詳しくは,ポリカーボネートジオールが架橋剤を介してポリロタキサンの環状分子と結合することで,ポリカーボネートジオールがポリロタキサンの直鎖状分子上を環状分子を介して自由に移動することができようになる,つまり,架橋点が動くようになることで,上述したポリカーボネートジオールを単独で架橋した場合に比べ,柔軟性が増し,ゴム硬度の数値を30以下とすることができたものと考えられる。
【0164】
なお,上述のポリカーボネートジオールとポリロタキサンとの反応(架橋)機構に関してより詳しくは,架橋剤(両端のヒドロキシル基をイソシアネート化されたポリカーボネートジオール)が有する2つの官能基のうち一方がポリカーボネートジオールの官能基と,他方が環状分子の官能基と反応して結合する。
【0165】
また,このようにポリロタキサンと化合(架橋)するのは,上述のポリカーボネートジオールの他,アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0166】
アクリル酸エステル共重合体とポリロタキサンとの反応(架橋)機構に関しては,架橋剤が有する2つの官能基のうち一方がアクリル酸エステル共重合体の官能基と,他方がポリロタキサンの環状分子の官能基と反応して結合し,又は,直接アクリル酸エステル共重合体の官能基とポリロタキサンの環状分子の官能基とが反応して結合する。従って,ポリロタキサンと架橋したアクリル酸エステル共重合体は,上述したポリカーボネートジオールの場合と同様に,アクリル酸エステル共重合体がポリロタキサンの直鎖状分子上を環状分子を介して自由に移動することができる,つまり,架橋点が動くようになる。
【0167】
【表1】
【0168】
1−2.砥粒
核体に付着させる砥粒として,以下の3種類の砥粒A〜Cを用意した。
【0169】
(1)砥粒A
ダイヤモンド砥粒〔♯10000(D50:0.6μm)〕のみ
(2)砥粒B
ダイヤモンド砥粒〔♯10000(D50:0.6μm)〕70mass%と,グリーンカーボランダムSiC砥粒〔♯10000(D50:0.6μm)〕30mass%の混合
(3)砥粒C
グリーンカーボランダムSiC砥粒〔♯8000(D50:1.2μm)〕のみ。
【0170】
1−3.核体に対する砥粒層の形成
前述した方法によって得た核体A〜Cのいずれか一種類と,前述した砥粒A〜Cのいずれか一種類とを組み合わせて,共に乳鉢に入れ,乳鉢内で核体の表面に砥粒をまぶしながら乳棒で叩くことにより,核体の表面に対する砥粒の付着と押圧を繰り返し行った。
【0171】
本実施例では,核体の表面に形成すべき砥粒層の適正な厚さWを求めるために,核体の表面に砥粒を付着させただけのもの(まぶしただけで乳棒により叩く作業を行っていない状態),及び付着と押圧の繰り返し回数を変化させて,核体の表面に対する砥粒層の形成厚さを変化させた。
【0172】
このようにして,各核体の表面に砥粒層を形成した後,これを篩にかけて余分な砥粒を除去すると共に,所定の粒径範囲毎に分級した。
【0173】
1−4.結果
以上のようにして得られた弾性研磨材のうち,核体の表面に砥粒を付着(まぶす)のみで,核体を押圧して定着させる作業を行っていないものにあっては,外見上,核体の表面に満遍なく砥粒が付着しているように見えるものの,このような弾性研磨材は,これを容器に入れて多数集合させた状態で保存しておくと,弾性研磨材同士が相互に付着して塊状となってしまい,使用できなくなった。
【0174】
そこで,砥粒Aを使用して砥粒の付着と定着を繰り返して製造した弾性研磨材のうち,塊状に凝集しなかった弾性研磨材を切断し,断面に現れた砥粒層の厚みを観察したところ,このような付着が生じなかった弾性研磨材は,形成された砥粒層の厚みWが2.5μm以上の厚さで形成されていた。
【0175】
ここで,本実施例で使用した砥粒A平均粒子径は0.6μmであることから,上記の結果から,核体2の表面に形成する砥粒層3の厚さWが,使用した砥粒の平均粒子径に対し約4倍程度の厚みとなるように砥粒層を形成することで,核体2を砥粒層3の内部に確実に閉じ込めておくことができるものと考えられる。
【0176】
なお,前述した方法によって形成された本発明の弾性研磨材(核体Aと砥粒Aの組合せたもの)の断面電子顕微鏡写真を
図3(A),(B)に示す。
【0177】
図3(A),(B)〔特に
図3(B)〕より,本発明の弾性研磨材にあっては,核体の表面に多数の砥粒が折り重なるようにして付着することにより形成された,組積構造を有する砥粒層が形成されており,この砥粒層が有する組積構造によって,核体は砥粒層を越えて表面側に膨出することができず,砥粒層の内側に確実に閉じ込めることに成功しているものと考えられる。
【0178】
すなわち,
図2を参照して説明したように,砥粒を単に核体の表面に満遍なく付着させた(まぶした)だけの状態では,表面に押圧力が加わった際に,砥粒の粒子間の隙間から核体がはみ出して表面に膨出することとなるが〔
図2(B)参照〕,前述したように核体の表面に対する砥粒の付着と押圧を繰り返すことで,砥粒の粒子間よりはみ出した核体に更に砥粒を付着させ,この作業を繰り返すことで砥粒の組積構造を形成することにより,核体がはみ出す隙間が完全に失われ,通常の保管や使用状態では砥粒層を越えて表面側に膨出することができなくなり,弾性研磨材同士の付着による凝集が防止できたものと考えられる。
【0179】
その一方で,砥粒層の内側には軟質で変形性に富む核体がそのまま封じ込められていることから,高い変形性や衝撃吸収性を発揮するという,相反する性質を両立させることができるものとなっている。
【0180】
なお,核体表面に対する砥粒の付着と押圧を延々と繰り返して行くと,砥粒層は更に厚みを増し,やがては核体と砥粒とが均一に練り込まれた状態となるに至るが,砥粒層の厚みが増していくと弾性研磨材は弾性を失い,弾性研磨材の粒径の大小に拘わらず,砥粒層の厚みWが弾性研磨材の短径d(
図1参照)の1/4(25%)に至ると,核体単独の場合に対し,弾性が1/8に迄低下(圧縮弾性率10%に要する圧力が8倍に迄上昇)してしまい(
図4参照),弾性研磨材の変形性や衝撃吸収性能が失われることが確認された。
【0181】
従って,形成する砥粒層の厚みは,弾性研磨材の粒径dの1/4(25%)程度が上限であり,好ましくは1/20,より好ましくは1/15程度である。
【0182】
2.加工実施例
2−1.試料(被加工物)
以下に示す試料1,試料2を被加工物として,本発明の弾性研磨材及び比較例の弾性研磨材を使用してそれぞれブラスト加工を行い,加工状態を比較した。
【0183】
(1)試料1
鏡面に仕上げられたSUS304製の矩形板(50×50×2mm)の表面(鏡面)に,酸化アルミニウム製の砥粒(不二製作所製「不二ランダム」WA ♯400)を,ブラスト加工装置を使用して投射し,表面を粗したものを試料1とした。
【0184】
なお,触針式表面粗さ計(東京精密株式会社製)を用いて測定したブラスト加工後の試料1の表面粗さは,算術平均粗さ(Ra)で0.13μmであった。
【0185】
(2)試料2
超硬材料(炭化タングステンWC)製の矩形板(40×40×5mm)の表面を鏡面に研磨したものに対し,酸化アルミニウム製の砥粒(不二製作所製「不二ランダム」WA ♯3000)を,ブラスト加工装置を使用して投射し,表面を粗したものを試料試料2とした。
【0186】
なお,触針式表面粗さ計(東京精密株式会社製)を用いて測定した表面研磨後の試料2の表面粗さは,Raで0.048μmであった。
【0187】
2−2.加工条件
使用した弾性研磨材及び加工条件を下記の表2に示す。
【0188】
【表2】
【0189】
なお,比較例で使用した弾性研磨材は,以下の方法によって製造した,ゼラチンを核体とした弾性研磨材である。
【0190】
粉砕したゼラチン500gに,水350gと水分蒸発防止剤としてソルビトールとエチレングリコールを合わせて300g加えて室温にて充分膨潤させた後,加温してゼラチンを完全に溶解させ,常温にて冷却して凝固させた。
【0191】
固まったゼラチンをカッターにて切断して得た粒状体を核体とし,この核体の表面に砥粒をまぶすことで,ゼラチン自身が持つ粘着力で核体の表面に砥粒を付着させて弾性研磨材とした。
【0192】
投射装置として,エア式のブラスト加工装置(不二製作所製「SFCSR−1」)を使用した。このブラスト加工装置の噴射ノズルチップ径は直径8mmである。
【0193】
なお,上記で使用したブラスト加工装置には,圧縮空気供給源としてコンプレッサを備えるものとブロワを備えるものの二種類があり,各実施例で使用したブラスト加工装置がいずれのタイプであるかを,上記表2中の「エア源」欄に記載した。
【0194】
2−3.試験方法及び試験結果
前述したブラスト加工装置の研磨材タンク内に,実施例1〜3及び比較例の各弾性研磨材をそれぞれ1000g投入し,弾性研磨材の補充,交換,再生を行うことなく最初に投入した1000gの研磨材のみを循環使用して,同一の試料の表面に対し弾性研磨材の投射を80時間行うことで,加工時間に対する試料の表面粗さの変化と切削量の変化をそれぞれ測定した。
【0195】
以上の加工試験結果より,比較例の弾性研磨材(ゼラチン製の核体)を使用した場合には,加工初期においては試料1,2共に表面の鏡面研磨が行えているものの,加工開始から5時間程で,試料1(SUS304)については梨地状の表面となり,また,試料2(WC)については,表面に曇りが生じた。
【0196】
このことから,比較例の研磨材の寿命は,上記の条件下での使用において5時間よりも短く,この寿命を越えて継続して使用すると,初期の研磨・切削能力を維持できなくなることが確認された。
【0197】
これに対し,実施例1〜3の弾性研磨材を使用した加工では,試料1,2のいずれを加工した場合にも,試料の表面粗さが減じて一旦,所定の表面の表面粗さ(鏡面)となった後には,この表面粗さが80時間に亘り維持されており(実施例3に関し,
図5,6参照),実施例1〜3の弾性研磨材にあっては,上記条件下での使用において,少なくとも80時間は,加工精度を一定に維持できること,すなわち,80時間を超える寿命を有するものであることが確認できた。
【0198】
なお,図示を省略した実施例1,2の結果についても,加工から2時間経過時の試料1,2の表面粗さと80時間経過時の表面粗さの変化は,実施例1で約5%,実施例2で約2%程度であり,また,加工から2時間経過時の切削量に対し,80時間経過時の切削量は,実施例1,2ともに2%程の低下しか見られず,いずれの実施例においても,一定の加工状態,切削能力を長時間に亘り発揮できるものであることが確認されている。
【0199】
なお,比較例で使用した弾性研磨材にあっては,約40〜50℃程の温度で核体が軟化してしまうために研磨材としての機能を失うことから,使用に際して温度上の制約が課せられることとなるが,実施例1〜3の弾性研磨材にあっては,最低でも120℃程度まで加熱しても性能の低下は生じず,ゼラチンを核体とした比較例の研磨材のような使用温度の制限も無い。
【0200】
3.その他
なお,以上のように80時間の循環使用を行った後の実施例1〜3の研磨材を確認した結果,使用後の弾性研磨材は砥粒層の厚みが薄くなっていることが確認された。
【0201】
そこで,回収した使用後の弾性研磨材を,再度,砥粒と共に乳鉢に投入して表面に砥粒をまぶしながら乳棒で叩く作業を繰り返したところ,砥粒層の厚さを増大させることができ,これにより弾性研磨材を再生させることができることが確認できた。