特許第5923113号(P5923113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5923113弾性研磨材の製造方法及び弾性研磨材並びに該弾性研磨材を使用したブラスト加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923113
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】弾性研磨材の製造方法及び弾性研磨材並びに該弾性研磨材を使用したブラスト加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 11/00 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   B24C11/00 B
【請求項の数】19
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-550243(P2013-550243)
(86)(22)【出願日】2012年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2012082192
(87)【国際公開番号】WO2013094492
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-279795(P2011-279795)
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154129
【氏名又は名称】株式会社不二製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081695
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 正明
(74)【代理人】
【識別番号】100103414
【弁理士】
【氏名又は名称】戸村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 恵二
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正三
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−215327(JP,A)
【文献】 特許第3475252(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 11/00
B24D 3/00
C09K 3/14
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム硬度30以下で,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物を所定の粒子径に造粒して核体を得,
前記核体の表面に,平均粒子径0.1μm〜12μmの砥粒を付着させた後,該砥粒が付着した前記核体表面に押圧力を付与して前記砥粒を前記核体の表面に定着させ,前記砥粒を定着させた核体の表面に,更に同様の砥粒の付着と押圧力の付与による定着を繰り返すことにより,前記核体の表面に厚み方向に複数の砥粒が接着されて形成された組積構造を有する砥粒層を形成することを特徴とする弾性研磨材の製造方法。
【請求項2】
前記核体の圧縮永久歪を5%以下,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)を0.3以上としたことを特徴とする請求項1記載の弾性研磨材の製造方法。
【請求項3】
前記砥粒層の厚さを弾性研磨材の短径の1/4未満としたことを特徴とする請求項1又は2記載の弾性研磨材の製造方法。
【請求項4】
前記核体のゴム硬度を10以下としたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の弾性研磨材の製造方法。
【請求項5】
前記核体の圧縮永久歪を1%以下としたことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の弾性研磨材の製造方法。
【請求項6】
前記核体と前記砥粒との混合物を攪拌媒体と共に攪拌機のドラム内に投入し,該ドラムを回転させることにより,前記核体の表面に対する砥粒の付着と前記核体に対する押圧力の付与を繰り返し行うことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の弾性研磨材の製造方法。
【請求項7】
ゴム硬度30以下で,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物から造粒された所定の粒子径を有する核体と,前記核体の表面に形成した砥粒層を備え,砥粒層は,前記架橋ポリロタキサン化合物によって厚み方向に複数接着された平均粒子径0.1μm〜12μmの砥粒から成る組積構造を有することを特徴とする弾性研磨材。
【請求項8】
前記核体の圧縮永久歪が5%以下,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)が0.3以上であることを特徴とする請求項7記載の弾性研磨材の製造方法。
【請求項9】
前記砥粒層の厚さが,弾性研磨材の短径の1/4未満であることを特徴とする請求項7又は8記載の弾性研磨材。
【請求項10】
前記核体のゴム硬度が10以下であることを特徴とする請求項7〜9いずれか1項記載の弾性研磨材。
【請求項11】
前記核体の圧縮永久歪が1%以下であることを特徴とする請求項7〜10いずれか1項記載の弾性研磨材。
【請求項12】
前記架橋ポリロタキサン化合物は,ポリカーボネートジオール及びアクリル酸エステル共重合体の中から選択される一の化合物とポリロタキサンとを架橋してなることを特徴とする請求項7〜11いずれか1項記載の弾性研磨材。
【請求項13】
前記架橋ポリロタキサン化合物は,イソシアネート化合物からなる架橋剤で架橋してなることを特徴とする請求項12記載の弾性研磨材。
【請求項14】
前記ポリロタキサンが,α−シクロデキストリン分子の開口部に,ポリエチレングリコールを貫通し,該ポリエチレングリコールの両端にアダマンタン基を結合してなることを特徴とする請求項12〜13いずれか1項記載の弾性研磨材。
【請求項15】
前記α−シクロデキストリン分子の水酸基の一部をポリカプロラクトン基で置換したことを特徴とする請求項14記載の弾性研磨材。
【請求項16】
前記架橋ポリロタキサン化合物にシランカップリング剤を配合したことを特徴とする請求項12〜15いずれか1項記載の弾性研磨材。
【請求項17】
請求項7〜16いずれか1項記載の弾性研磨材を,圧縮流体と共に被加工物の加工表面に対して0〜90°の入射角で噴射することを特徴とするブラスト加工方法。
【請求項18】
前記入射角が5〜70°の範囲であることを特徴とする請求項17記載のブラスト加工方法。
【請求項19】
前記弾性研磨材を,噴射圧力0.01〜0.5MPaで噴射することを特徴とする請求項17又は18記載のブラスト加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性研磨材の製造方法及び弾性研磨材に関し,より詳細には,ブラスト加工装置によって被加工物の表面に投射することにより,被加工物の加工表面の光沢面化,艶出し,鏡面化,平滑化等を行うことができる弾性研磨材の製造方法,及び前記方法によって製造された弾性研磨材に関する。
【0002】
なお,本明細書において,「ブラスト加工」には,圧縮空気等の圧縮流体を利用して研磨材を投射(噴射)する乾式ブラストや湿式ブラスト等のブラスト加工方法の他,羽根車を回転させて研磨材に遠心力を与えて投射する遠心式(インペラ式)や,打出しロータを用いて研磨材を叩きつけ投射する平打式等,被加工物の加工表面に対して所定の噴射速度や噴射角度で研磨材を投射することが可能なブラスト加工方法を広く含む。
【背景技術】
【0003】
被加工物の加工表面の面粗度を向上させ,該加工表面を鏡面化,光沢面化等する研磨加工としては,一般に,研磨紙・研磨布による研磨や,バフによる研磨,ラッピング,回転する砥粒との接触による研磨,超音波振動を与えられた砥粒との接触による研磨等が用いられているが,ブラスト加工は使用されていない。
【0004】
このように鏡面化や光沢面化等の研磨加工にブラスト加工が使用されていない理由は,前記ブラスト加工が,研磨材を被加工物に対して投射し,該被加工物の加工表面に前記研磨材を衝突させるものであるために,このような研磨材と被加工物表面との衝突の際に,前記加工表面には梨地状の凹凸が形成されてしまうためである。
【0005】
このような梨地状の凹凸の形成を抑制し,高精度に被加工物の表面を切削等するためには,番手#3000(4μm)程度の微細な砥粒を使用してブラスト加工を行うことも考えられる。
【0006】
しかし,このような微細な砥粒を直接投射しようとしても,個々の砥粒の質量が小さいためにブラスト装置のキャビネット内に形成された噴射室内でこの砥粒が空気中を浮遊し,視界が遮られて加工部位の監視ができず,正確な加工を行うことができない。
【0007】
またこのような微細な砥粒を使用する場合,砥粒が静電気を帯びるとキャビネット内面,および被加工物に大量に付着し,これを除去するためにはイオンエアの送風,湿式洗浄が必要で,ブラスト装置にこれを行うための装置構成を設ける必要があると共に,除去作業中,ブラスト加工が中断されて作業性が低下する。
【0008】
そのため,このように噴射室内で浮遊せず,かつ,静電気によるキャビネット内面や被加工物に対する付着を抑制しながら,前述のような微細な砥粒を使用したと同様の加工を行うことのできる研磨材の開発が要望されている。
【0009】
このように,通常であれば,ブラスト加工によって被加工物の加工表面を鏡面等の光沢面に加工することはできないが,被加工物の加工表面への梨地の形成を抑制し,被加工物の加工表面の研磨を可能とするブラスト加工用の研磨材として,弾性体からなる核体の表面に砥粒を担持させた研磨材,又は,弾性体と砥粒とを一体的に結合させた研磨材が提案されている。
【0010】
このうち,砥粒を核体の表面に担持させたものとして,弾力性のある多孔質の植物繊維からなる核体に,この植物繊維に含まれる脂肪分または糖分を粘着剤として砥粒を付着させた研磨材(特許文献1参照)や,ゼラチン等の水を含有することにより所望の弾力性と粘着性を有する核体の表面に前記粘着性により砥粒を付着させた研磨材(特許文献2参照)が提案されている。
【0011】
また,弾性体と砥粒とを一体的に結合させた研磨材として,複数の砥粒を,この砥粒より反発係数が大きいゴムやアクリル樹脂等の弾性物質をバインダとして一体的に結合した粒状研磨材や(特許文献3参照),砥粒とポリロタキサンとが混在した状態で前記ポリロタキサンの環状分子間を化学的に結合させて得た架橋ポリロタキサン化合物を所定の粒径に造粒することで,弾性体である架橋ポリロタキサンに砥粒が分散されたゲル状研磨材が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特許第2957492号公報
【特許文献2】日本国特開2001−207160号公報
【特許文献3】日本国実開昭55−98565号公報
【特許文献4】日本国特開2009−215327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上に従来技術として説明したように,弾性を持つ核体の表面に砥粒を付着させた研磨材や,弾性体と砥粒とを一体的に結合させた研磨材(以下,これらを総称して「弾性研磨材」という。)にあっては,核体や弾性体が塑性変形することによって,被加工物に対して研磨材が衝突しても,この衝撃を吸収するために被加工物の表面に圧痕が形成され難く,従って,被加工物の表面が梨地となることを防止しつつ被加工物表面で滑動させることで,鏡面研磨等の加工をブラスト加工によっても行うことができるという優れた効果を有するものとなっている。
【0014】
しかし,前述した既知の弾性研磨材にあっては,以下のような問題点がある。
【0015】
〔砥粒を表面に担持した弾性研磨材(特許文献1,2)の問題点〕
前述した弾性研磨材のうち,核体の表面に砥粒を付着させた構造のものにあっては,核体の表面に核体が持つ油脂や糖分,核体が水を含浸することによって発現する粘着性によって砥粒を付着させていることから,このような弾性研磨材にあっては,これを被加工物の表面に投射して衝突させると,衝突時の衝撃や摩擦熱の発生により,核体中の油脂分や水分が失われることで接着力を失い,表面に担持させた砥粒が脱落する。
【0016】
そのため,この種の研磨材にあっては,これを繰り返し使用すると切削能力が徐々に失われるために,一定時間毎に研磨材を新しいものに全量交換するか,又は,研磨材に油脂分や水分を補って粘着性を復活させると共に,再度砥粒を担持乃至は付着させる等の再生処理を行う必要があり,コストがかかる。
【0017】
また,前述のように,研磨材の切削能力は比較的短時間のうちに劣化して失われるために,研磨材を繰り返し使用しつつ流れ作業的に多数の被加工物を処理する場合,時間的に前後して処理する被加工物を同品質に仕上げるためには,経時に伴う研磨材の切削能力の変化を考慮して加工条件を経時と共に変化させる必要があり,大量の製品を連続して処理する場合に,工程の自動化を行うことが困難となる。
【0018】
しかも,油脂分や水分が失われれば,核体は硬化し,被加工物の表面に衝突した際の衝撃で破砕してしまい,研磨材の消耗率が高まるだけでなく,硬化した研磨材は衝突時の衝撃を吸収できなくなり,被加工物の表面に梨地を生じさせる等,所望の加工状態を得ることができなくなる。
【0019】
〔弾性体と砥粒を結合させた研磨材(特許文献3,4)の問題点〕
以上のように,核体の表面に砥粒を担持させた構造の研磨材に対し,架橋ポリロタキサン中に砥粒を分散させた研磨材(特許文献4)にあっては,ここで使用されている架橋ポリロタキサンは,水を含浸することにより弾性力を発揮するタイプのものであるために,ブラスト加工用の研磨材として使用することにより脱水して水分を失うと弾性力が減じ,やがて硬くなり,加工面は梨地となるという,前述した特許文献1,2に記載の弾性研磨材と同様の問題が発生する。
【0020】
これに対し,ゴムやアクリル樹脂等の弾性物質をバインダとして砥粒を一体的に結合させた研磨材(特許文献3)では,特許文献1,2の弾性研磨材とは異なり,乾燥等に伴う性質の変化等といった問題は生じない。
【0021】
しかし,特許文献3,4のいずれに記載の弾性研磨材共に,連続して使用することにより,砥粒のうちの表面に露出した部分(切刃)が摩耗するに従い切削力が低下することから,砥粒を表面に担持させた研磨材を使用する場合と同様,一定時間の使用毎に研磨材を交換する必要がありコスト高となると共に,経時劣化により刻々と加工条件が変化するために自動化が困難である。
【0022】
また,砥粒と弾性体とを一体化させた研磨材において,弾性体を,砥粒同士を結合するためのバインダとして使用する場合(特許文献3)には,砥粒に対し弾性体の含有量が少なく,砥粒が持つ性質が支配的となるため,このような研磨材を被加工物の表面に噴射させる場合,依然として梨地が形成されるという問題がある(例えば特許文献2の[0003]欄に従来技術として記載されている特許文献3の欠点の記載参照)。
【0023】
これに対し,弾性体の含有量を増加することにより,弾性体の中に砥粒が分散された状態とした弾性研磨材にあっては,弾性体の割合が増えれば増える程(砥粒の添加量が減れば減る程)弾性体の性質がより色濃く現れることにより,衝撃吸収性が増大して被加工物の表面に対して梨地等が形成されることを防止する効果を高めることができる。
【0024】
しかし,研磨材中の弾性体の割合を増やせば増やす程,研磨材の表面より露出する砥粒の割合が減少するために,研磨材が持つ基本的な切削能力が低くなり,加工時間が長くなる。
【0025】
また,研磨材の表面より露出する砥粒の割合が少なければ,露出部分(切刃)の摩耗も激しくなり,比較的短時間で切削能力が低下するために,研磨材の寿命も短くなる。
【0026】
〔上記従来技術の組合せについて〕
なお,核体として自己粘着性を有するエラストマー製のものを使用し,この核体自身が有する粘着性によって砥粒を表面に担持させるものとすれば,油脂分や糖分等の接着成分や乾燥による水分の喪失等によって表面に付着した砥粒が脱落するという,特許文献1,2に記載の弾性研磨材が有していた問題点を解消できることが予測される。
【0027】
しかし,このように構成した弾性研磨材において,核体は,砥粒に対してのみ粘着力を発揮する訳ではなく,あらゆる物に対して粘着力を発揮するために,使用するうちにブラスト加工時に発生した切削粉や剥離したバリ等が弾性研磨材の表面に付着して,切削能力を変化させてしまい,場合によっては,被加工物の表面を傷付ける等して,加工不良を発生させる原因となる。
【0028】
また,核体の持つ粘着性は,核体相互においても発揮されるため,研磨材同士が付着し合って大きな塊を形成してしまい,このようにして形成された弾性研磨材は投射自体が困難となる。
【0029】
特に,衝突時の衝撃吸収性能を高めるために,軟らかく変形性に富むエラストマーを核体として使用する場合には,例え表面に満遍なく砥粒を付着させていたとしても,その軟質性,変形性ゆえに砥粒間の隙間から弾性研磨材の表面に核体が露出して,前述した異物の付着や弾性研磨材同士の凝集の発生は不可避となる。
【0030】
そのため,このような構造の弾性研磨材を想定した場合,核体として使用できるエラストマーは,ある程度の硬度を有するものを使用することが必要となり,弾性研磨材に付与することができる衝撃吸収性能には依然として頭打ちが生じることとなる。
【0031】
しかも,自己粘着性を有するエラストマーは,一般に軟らかく変形性に富む程高い粘着性を発揮し,硬度が増す程に粘着性は失われることから,前述したように核体と成すエラストマーに硬度を与えれば,自己粘着性は低下するため,核体の表面に砥粒を保持する力も低下して,連続使用による砥粒の脱落による性能低下という問題も不可避となる。
【0032】
〔本発明の課題〕
そこで本発明は,上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり,ブラスト加工による鏡面研磨に使用できる等といった,従来の弾性研磨材が持つ特性をそのままに,このような弾性研磨材により高い衝撃吸収性を付与することができるものでありながら,弾性研磨材同士が接着して凝集することを防止でき,しかも,長時間連続して使用しても性能の低下が殆ど無く,初期の性能を維持することができるという,相反する性能を兼ね備えた弾性研磨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0034】
上記目的を達成するための,本発明の弾性研磨材1の製造方法は,ゴム硬度30以下で,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物を所定の粒子径に造粒して核体2を得,
前記核体2の表面に,平均粒子径0.1μm〜12μmの砥粒31を付着させた後,該砥粒31が付着した前記核体2表面に押圧力を付与して前記砥粒31を前記核体2の表面に定着させ,前記砥粒31を定着させた核体2の表面に,更に同様の砥粒31の付着と押圧力の付与による定着を繰り返すことにより,前記核体2の表面に厚み方向に複数の砥粒31が接着されて形成された組積構造を有する砥粒層3を形成することを特徴とする(請求項1)。
【0035】
上記構成の弾性研磨材1の製造方法において,前記核体2の圧縮永久歪を5%以下,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)を0.3以上とすることが好ましい(請求項2)。
【0036】
更に,前記砥粒層3の厚さWを弾性研磨材1の短径dの1/4(25%)未満にすることが好ましい(請求項3)。
【0037】
前記核体2のゴム硬度は,更に10以下であることが好ましく(請求項4),また,圧縮永久歪を1%以下とすることが好ましい(請求項5)。
【0038】
上記弾性研磨材1の製造は,前記核体2と前記砥粒31との混合物をセラミック球や鋼球等の攪拌媒体と共に攪拌機のドラム内に投入し,該ドラムを回転させることにより,前記核体2の表面に対する砥粒31の付着と前記核体2に対する押圧力の付与を繰り返し行うことにより行うことができる(請求項6)。
【0039】
また,本発明の弾性研磨材1は,前述したいずれかの方法によって製造することができ,ゴム硬度30以下,好ましくは10以下で,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物から造粒された所定の粒子径を有する核体2と,前記核体2の表面に形成した砥粒層3を備え,前記砥粒層3が,平均粒子径0.1μm〜12μmの砥粒31が前記架橋ポリロタキサン化合物によって厚み方向に複数接着された平均粒子径0.1μm〜12μmの砥粒から成る組積構造を有することを特徴とする(請求項7,10)。
【0040】
この弾性研磨材1は,好適には前記核体2の圧縮永久歪を5%以下,より好ましくは1%以下,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)を0.3以上とする(請求項8,11)。
【0041】
更に,前記砥粒層3の厚さWは,弾性研磨材1の短径dの1/4(25%)未満であることが好ましい(請求項9)。
【0042】
前記架橋ポリロタキサン化合物は,ポリカーボネートジオール,アクリル酸エステル共重合体のうちから選択される一の化合物とポリロタキサンとを,イソシアネート化合物からなる架橋剤で架橋してなるものであることが好ましい(請求項12,13)。
【0043】
また,前記ポリロタキサンは,α−シクロデキストリン分子の開口部に,ポリエチレングリコールを貫通し,該ポリエチレングリコールの両端にアダマンタン基を結合してなるものが好ましく,また,前記α−シクロデキストリン分子はその水酸基の一部をポリカプロラクトン基で置換したものであっても良い(請求項14,15)。
【0044】
なお,前記架橋ポリロタキサン化合物にシランカップリング剤を配合することも可能である(請求項16)。
【0045】
また,本発明の弾性研磨材1は,圧縮流体と共に被加工物の加工表面に対して0から90°の入射角で噴射するブラスト加工方法に使用することができる(請求項17)。前記入射角は好ましくは5〜70°,好ましくは10〜60°,より好ましくは10〜45°とすることができる(請求項18)。
【0046】
また,前記ブラスト加工方法においては,本発明の弾性研磨材1の噴射圧力は0.01〜0.5MPaの範囲が好ましく,より好ましい噴射圧力の範囲は,0.02〜0.3MPaである(請求項19)。
【発明の効果】
【0047】
以上説明した本発明の構成により,本発明の弾性研磨材1によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0048】
ゴム硬度を30以下とする軟質性と自己粘着性とを有する架橋ポリロタキサン化合物によって形成された核体2を使用することで,核体2が含有する水分量等に影響されることなく粘着性を発揮することができ,使用に伴う乾燥等によっても砥粒の脱落等が生じ難いだけでなく,この核体の表面に形成された,厚み方向に複数の砥粒31が接着されて形成された組積構造を有する砥粒層3は,弾性研磨材1に切削能力を付与するのみでなく,使用,保管時において核体2を,この砥粒層3の内側に封じ込めておく作用を有し,その結果, 軟らかく,変形性に富み,且つ,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物を核体2として使用するものでありながら,弾性研磨材1の表面に対する異物の付着や,弾性研磨材1同士が付着して塊状に凝集するといった問題の発生を確実に解消することができた。
【0049】
また,本発明の弾性研磨材1は,前述したように乾燥等によって砥粒31が脱落し難いというだけでなく,砥粒層3は複数の砥粒31が接着されて形成された組積構造を有することから,仮に砥粒層3を構成する砥粒31のうち最表面側の砥粒31が全て脱落してしまったとしても,これにより直ちに切削能力が失われることはなく,一定の切削能力を比較的長時間に亘って発揮させることができた。
【0050】
しかも,本発明の弾性研磨材1は,前記構造を有するものであることから,使用による摩耗によって砥粒層3の厚さが減少した場合であっても,使用後の弾性研磨材1の表面に砥粒を付着させると共に,これを押圧,定着させ,この作業を繰り返すことにより,比較的容易に砥粒層3を成長させて弾性研磨材1の再生を行うことができた。
【0051】
前述した架橋ポリロタキサン化合物として,圧縮永久歪が5%以下で,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)が0.3以上のものを使用することで,衝突時の衝撃吸収性が極めて高く,ヘタリが殆ど無く破損し難い弾性研磨材とすることができ,従来の弾性研磨材に比較して,少なくとも十数倍長寿命である弾性研磨材を得ることができた。
【0052】
なお,砥粒層3の厚みが増すに従い弾性研磨材1の弾性は失われるが,砥粒層3の厚みを弾性研磨材1の短径dの1/4(25%)未満とすることで,比較的高い弾性を維持することができた。
【0053】
核体2のゴム硬度を10以下とした構成にあっては,弾性研磨材1の衝撃吸収性をより一層向上させることができる一方,このような極めて軟質の核体2を使用した場合であっても,弾性研磨材1同士が付着して塊となることを防止できた。
【0054】
更に,核体2の圧縮永久歪を1%以下とした構成にあっては,弾性研磨材1の耐へたり性がより一層向上するため,更なる長寿命化を図ることができた。
【0055】
以上で説明した弾性研磨材は,前述した核体2と砥粒31との混合物に繰り返し衝撃を加えること,例えば前記核体2と砥粒31との混合物をセラミック球や鋼球等の攪拌媒体と共に攪拌機のドラム内に投入し,該ドラムを回転させることにより比較的簡単に得ることができた。
【0056】
核体2に使用される前記架橋ポリロタキサン化合物について,ポリカーボネートジオール,アクリル酸エステル共重合体のうちから選択される一の化合物とポリロタキサンとをイソシアネート化合物からなる架橋剤で架橋してなるものを使用することで,自己粘着性を有し,ゴム硬度を30以下とすることができた。
【0057】
また,前記架橋ポリロタキサン化合物に使用される前記ポリロタキサンについて,α−シクロデキストリン分子の開口部に,ポリエチレングリコールを貫通し,該ポリエチレングリコールの両端にアダマンタン基を結合してなるものを使用することでゴム硬度の数値をさらに下げることができた。
【0058】
また,前記架橋ポリロタキサン化合物にシランカップリング剤を配合することで無機材料からなる砥粒との接着性を向上させることができた。
【0059】
また,本発明の弾性研磨材1を圧縮流体と共に被加工物の加工表面に対して0〜90°の入射角で噴射すると,本発明の弾性研磨材1の核体2が易変形性でゴム硬度(弾性率)が低いため跳ね返り難いことから,噴射による弾性研磨材1に対する面方向への残余エネルギーの他,被加工物に衝突した後に向きを変えて被加工物の加工表面に沿った流れに移行した圧縮流体によって,被加工物の加工表面に沿って滑走して被加工物の加工表面を研磨することができた。
【0060】
また,弾性研磨材1は衝突により著しく扁平化するため,加工表面に対する接触面積,つまり研磨範囲が広くなり,さらには,加工表面に対し面上での研磨ができた。また,被加工物の加工表面に対する衝突による衝撃力を核体2内部のポリロタキサンの架橋された環状分子が滑車のように働いて分散させ,この分散した均質な力が弾性研磨材1の各々の砥粒31に加わるため,加工表面に対し非常に平滑性が高く,均質な鏡面研磨を施すことができた。
【0061】
また,被加工物の加工表面に衝突し扁平化した弾性研磨材1の核体2の内部では,伸長した直鎖状分子が元の丸まった縮んだ状態に戻る,いわゆるゴム弾性だけでなく,圧縮された環状分子がもとの状態に戻ろうとする反発力も働くことで,本発明の弾性研磨材1は低弾性率でありながら通常のゴムに比べて優れた復元力を発揮する。
【0062】
また,弾性研磨材1の噴射圧力が0.01〜0.5MPaの範囲内であると,被加工物に対する衝突エネルギーを確保しつつ,被加工物に弾性研磨材1が衝突したとき,弾性研磨材1の砥粒層3より砥粒31が脱落しないものとすることができ,弾性研磨材1の寿命を長くすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】本発明の弾性研磨材の断面模式図。
図2】砥粒層の形成原理説明図。
図3】本発明の弾性研磨材(実施例1)の断面電子顕微鏡写真であり(A)は80倍,(B)は2000倍。
図4】本発明の弾性研磨材における砥粒層の厚さ−圧縮弾性率相関図。
図5】実施例3における加工時間−表面粗さ相関図(試料1:SUS304)。
図6】実施例3における加工時間−表面粗さ相関図(試料2:WC)。
図7】実施例3における加工時間−切削量相関図(試料1:SUS304)。
図8】本発明の弾性研磨材の噴射の一例を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0064】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0065】
1.研磨材の全体構成
本発明の弾性研磨材1は,ゴム硬度を30以下とする軟質性と自己粘着性を備えた架橋ポリロタキサン化合物から成る核体2の表面に,厚み方向に複数の砥粒31が接着されて形成された組積構造を有する砥粒層3を備えた構造である(図1参照)。
【0066】
2.原材料
(1)砥粒
上記の弾性研磨材1に使用する砥粒31としては,切削能力,研磨能力,艶出し能力を有する砥粒31であれば如何なるものを使用しても良く,一例として,ダイヤモンド,炭化ホウ素(B4C),炭化珪素,アルミナ,炭化タングステン,ジルコニア,ジルコン,ガーネット,石英,ガラス,鉄クロムボロン鋼,鋳鋼,タングステン,ナイロン,ポリカーボネート等の既知の各種の砥粒31を使用することができ,これらのうちの一種を単独で,又は二種以上を混在させて使用することができる。
【0067】
二種類以上の砥粒31を混在させて使用する場合には,このうちの1種類を,加工目的を主として担うものとして選定し,この砥粒が50mass%以上の比率で配合されるように組み合わせることが好ましい。
【0068】
例えば,被加工物が超硬素材によって構成されている場合には,ダイヤモンドや炭化珪素等の硬質の砥粒を主たる砥粒として選定することで,効率的な加工が可能となり,これに,第2の砥粒として炭化ホウ素,炭化珪素,アルミナ等を使用することで,所望の面を経済的に得ることができる。
【0069】
砥粒31のサイズは,平均粒子径0.1〜12μmの範囲から適宜選択可能であり,被加工物の加工表面を光沢化する鏡面加工等を行なう場合には,6μm以下(#2000以上)の細砥粒を使用することが好ましく,本発明の弾性研磨材にあっては,平均粒径が1μm以下(#8000以上)の細砥粒を用いることも可能である。
【0070】
(2)核体
前述の核体2は,ゴム硬度が30以下の軟質性と,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物を所定の粒子径に造粒したものを使用し,好ましくは,圧縮永久歪が5%以下で,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)が0.3以上の架橋ポリロタキサン化合物を使用する。
【0071】
ここで,架橋ポリロタキサン化合物の主要構成材料である「ポリロタキサン」は,複数の環状分子の孔を貫通した直鎖状分子の両端にブロック基を結合させることにより環状分子から直鎖状分子を抜き取ることをできなくした構造を持ち,環状分子の孔内に直鎖状分子を挿入して「擬ポリロタキサン」(ブロック基を持たない状態)を得,この擬ポリロタキサンの直鎖状分子の両端を,ブロック基を結合させることにより,環状分子から直鎖状分子を抜き取ることができないようにした「ブロック化ポリロタキサン」を製造し,更に,得られたブロックポリロタキサンを,必要に応じて添加物を添加した状態でブロックポリロタキサンの環状分子間を化学的に結合させて架橋させることで,弾性体である架橋ポリロタキサン化合物を得ることができ,このような架橋ポリロタキサン化合物を所定の粒径に造粒することにより,本発明の弾性研磨材に使用する核体2を得ることができる。
【0072】
上記直鎖状分子としては,例えば,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリブタジエン,ポリテトラヒドロフラン,ポリアクリル酸エステル,ポリジメチルシロキサン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリイソプレン,ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0073】
上記環状分子は,その孔に上記直鎖状分子が貫通されるもので,例えば,環状ポリエーテル,環状ポリエステル,環状ポリエーテルアミン,環状ポリアミン等の環状ポリマー,あるいは,α−シクロデキストリン,β−シクロデキストリン,γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン等が挙げられる。また,上記環状分子は,貫通している直鎖状分子上で移動可能で,さらに,架橋剤と化学結合できる反応基を有するものが好ましく,例えば,α−シクロデキストリン,β−シクロデキストリン,γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンが挙げられる。
【0074】
また,上記環状分子としてシクロデキストリンを使用する場合,上記添加物,架橋剤等の他材料との相溶性,溶剤への溶解性,反応性,分散性等を向上させるために,シクロデキストリンの水酸基を他の置換基で置換されたものであってもよい。好ましい置換基としては,例えば,アセチル基,アルキル基,トリチル基,トシル基,トリメチルシラン基,フェニル基,ヒドロキシルプロピル基,ポリカプロラクトン基,アルコキシシラン等の他,ポリエステル鎖,オキシエチレン鎖,アルキル鎖,アクリル酸エステル鎖等が挙げられる。
【0075】
上記ブロック基としては,上記環状分子から上記直鎖状分子を抜き取ることができないように,嵩高い基,イオン性基等が挙げられる。具体的には,ジニトロフェニル基類,シクロデキストリン類,アダマンタン基類,トリチル基類,フルオレセイン類,ピレン類,アントラセン類等が挙げられる。
【0076】
上述のブロックポリロタキサンの環状分子間は,架橋剤を介して化学的に結合させて架橋させることができる。使用される架橋剤は,少なくとも2つのポリロタキサン分子を架橋するために2以上の反応基を有するものが好ましい。また,架橋剤は,他材料との相溶性を考慮して選択される。架橋剤としては,例えば,ポリエーテル,ポリエステル,ポリシロキサン,ポリカーボネート,ポリ(メタ)アクリレート又はポリエン,もしくはそれらの共重合体,もしくはそれらの混合体を挙げることができる。より具体的には,ポリエチレングリコールジオール,ポリエチレングリコールジカルボン酸末端,ポリエチレングリコールジチオール酸末端,ポリプロピレンジオール,ポリテトラヒドロフラン,ポリ(テトラヒドロフラン)ビス(3−アミノプロピル)末端,ポリプロピレングリコールビス(2−アミノプロピルエーテル),グリセロールプロポキシレート,グリセロールトリス[ポリ(プロピレングリコール)アミノ末端],ペンタエリトリトールエトキシレート,ペンタエリトリトールプロポキシレートなどのポリエーテル類;ポリ(エチレンアジペート),ポリ(1,3−プロピレンアジペート)ジオール末端,ポリ(1,4−ブチレンアジペート)ジオール末端,ポリラクトンなどのポリエステル類;変性ポリブタジエン,変性ポリイソプレンなどのポリエン類;ポリジメチルシロキサンジシラノール末端,ポリジメチルシロキサン水素化末端,ポリジメチルシロキサンビス(アミノプロピル)末端,ポリジメチルシロキサンジグリシジルエーテル末端,ポリジメチルシロキサンジカルビノール末端,ポリジメチルシロキサンジビニール末端,ポリジメチルシロキサンジカルボン酸末端などのシロキサン類;1,5−ペンタンジオール,1,6−ヘキサンジオールなどを成分とするポリアルキレンカーボネートジオール類,この他,キシリレンジイソシアナート,ヘキサメチレンジイソシアナート,トリレンジイソシアナート,イソホロンジイソシアナート,これらのアダクト体(例えばトリメチロールプロパンアダクト体)等のイソシアナート系化合物を挙げることができる。
【0077】
また,上記添加物として粘着性を有する化合物を添加した状態でブロックポリロタキサンの環状分子間を化学的に結合させて架橋させることで,自己粘着性を有する架橋ポリロタキサン化合物を得ることができる。なお,粘着性を有する化合物とポリロタキサンの環状分子とが直接的に結合(架橋)されるものでも良く,また,粘着性を有する化合物とポリロタキサンの環状分子とが架橋剤を介して間接的に結合(架橋)されるものであっても良い。
【0078】
該粘着性を有する化合物としては,ポリカーボネートジオール,アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0079】
なお,核体2を得るために行う前述の「造粒」は,得られた架橋ポリロタキサン化合物の塊を,不定形な形状に切断,破砕等する場合のみならず,所定形状に切断乃至は裁断する場合も含み,核体2の粒子形状は,直方体,立方体,扁平体等の定形性を有するものであっても良く,又は,破砕機等によって前記化合物を破砕して得た不定形な形状であっても良く,更にはこれらの形状が混在するものであっても良い。その他の方法として,例えば,貧溶媒滴下,スプレー,押し出し,型による成形等,架橋の際に所定形状に形成してそのまま核体2を得られるようにしても良く,更には打ち抜きなどによる造粒手段を用いることもできる。
【0080】
ここで,架橋ポリロタキサン化合物は,一般に弾性率(ゴム硬度)と圧縮永久歪が共に小さいという特徴があり,且つ,振動の吸収に優れているという特徴を有するものであるが,本発明の弾性研磨材の核体2として使用するものは,このような架橋ポリロタキサン化合物のうち,更に,ゴム硬度(JIS K 6253)が30以下,好ましくは10以下で,自己粘着性を有するものを使用する。
【0081】
好ましくは,架橋ポリロタキサン化合物として,圧縮永久歪(JIS K 6262)が5%以下,より好ましくは1%以下,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)が0.3以上,より好ましくは0.5以上のものを使用する。
【0082】
ここで,弾性研磨材1の弾性率は低い程,衝突時の衝撃を良く吸収して梨地等の形成がされ難いものとなる一方,核体2の表面に砥粒層3を形成することにより,得られる弾性研磨材1のゴム硬度は核体2のゴム硬度より高くなることから,核体2のゴム硬度は低ければ低い程良く,核体2としてゴム硬度が30以下,好ましくは10以下のものを使用する。
【0083】
また,圧縮永久歪を5%以下,好ましくは1%以下と極めて小さなものとすることで,応力緩和が低く,被加工物に対する噴射,衝突を繰り返しても被加工物に対して作用する圧縮応力は変化しないため,本発明の弾性研磨材を繰り返し使用した場合であっても,被加工物の加工状態を一定に維持することができ,後述する組積構造を有する砥粒層3の形成と相俟って,弾性研磨材の長寿命化を可能とする。
【0084】
更に,振動吸収特性は,核体2によって吸収可能な振動や衝突エネルギー量と関連し,tanδが0.3以下である場合,弾性研磨材が被加工物に衝突した際,核体が受ける振動や衝撃のエネルギー吸収量が少なく,被加工物表面の鏡面化が難しくなる。
【0085】
このような架橋ポリロタキサン化合物は,分子量400000以上で,低反発係数を有する弾性体であり,良く伸びる(ストレス・ストレインカーブで400%)という特性を有している。
【0086】
3.核体に対する砥粒の付着
前述した核体2の表面に対し,厚み方向に複数の砥粒31が接着されて形成された組積構造を有する砥粒層3を形成することにより,本発明の弾性研磨材1が得られる。
【0087】
このように,核体2の表面に前述した組積構造を有する砥粒層3を形成するために,核体2の表面に対し砥粒31を付着させた後,この核体2に対し押圧力を付与して砥粒31を核体の表面に定着させ,その後更に,砥粒の付着と押圧による定着の作業を繰り返し行う。
【0088】
ここで,核体2の表面に満遍なく砥粒31を付着させた状態〔図2(A)参照〕とすることで,核体2は,一見,砥粒31によって表面全体を覆われた状態となっている。
【0089】
しかし,このように砥粒31が付着した状態の核体2に対し押圧力を付与すると,核体2の表面に付着した砥粒31は核体2の内部側に押し込まれる一方,核体2は砥粒31と砥粒31の隙間を押し開けて外側に膨出する(はみ出す)こととなる〔図2(B)参照〕。
【0090】
従って,核体2の表面に単に砥粒31を付着させた(まぶした)だけの状態のものを弾性研磨材として使用する場合には,はみ出した核体2に異物が付着し,又は,弾性研磨材同士が付着しあって塊状に凝集してしまうことになる。
【0091】
これに対し本願の弾性研磨材にあっては,砥粒31を定着させた後〔図2(B)参照〕,更に,核体2の表面に砥粒31を付着させ〔図2(C)参照〕,このようにして再度砥粒31を付着させた核体2に押圧力を付与して砥粒31を定着させ〔図2(D)〕,この作業を繰り返すことにより,一例として使用する砥粒の平均粒子径の約4倍以上の厚さWの砥粒層3を形成する。
【0092】
このように,砥粒31の付着と押圧力の付与による定着を繰り返すことにより,核体2の表面には,図1中に拡大図で示すように,組積構造を備えた砥粒層3が形成される結果,軟質で変形性に富むエラストマーを核体2として使用した場合であっても,核体2は,通常の使用や保管状態では,砥粒層3を越えて表面に膨出することができなくなり,その結果,得られた弾性研磨材1の表面に対する異物の付着や,弾性研磨材1同士が付着して塊状に凝集することが無くなる。
【0093】
このような構造の砥粒層3を備えた弾性研磨材1の製造は,比較的少量の製造であれば,例えば,核体2と砥粒31とを混在させた状態でこれを何度も手で揉むことにより,又は,核体2と砥粒31とを共に乳鉢内に入れて乳棒で何度も押し又は叩くといった作業を行うことでも得られるが,例えば攪拌機のドラム内に核体2と砥粒31の混合物と共にセラミック球や鋼球等の攪拌媒体,本実施形態にあってはアルミナの球を入れて前記ドラムを回転させることにより,比較的簡単に大量の弾性研磨材1を製造することができる。
【0094】
この砥粒層3の形成は,前述したように砥粒層3の厚さWが使用した砥粒の平均粒子径の約4倍以上の厚さとなる迄行うことが好ましく,砥粒層3の厚さWが使用した砥粒の平均粒子径の4倍未満では核体が砥粒層を越えて表面に露出する場合があり,弾性研磨材1に対する異物の付着や,弾性研磨材1同士が付着して塊状に凝集する原因となる。
【0095】
一方,砥粒層3の厚さWが増すに従い弾性研磨材1は弾性を失い硬くなり,核体の短径dに対し砥粒層3の厚さWが1/4(25%)で,核体2の弾性に対し1/8程度まで弾性が低下してしまうことから,砥粒層3の厚さが核体2の短径dに対し1/4(25%)未満の範囲となるように砥粒層31を形成することが好ましい。
【0096】
以上のようにして,核体2の表面に対し砥粒31の付着と押圧を繰り返すことにより砥粒層3を形成した後,篩がけする等して余分な砥粒を除去し,また,必要に応じて得られた弾性研磨材1自体を粒径毎に分級することにより,本発明の弾性研磨材1を得ることができる。
【0097】
4.使用方法
以上のようにして得られた弾性研磨材1は,「サンドブラスト」乃至は「ショットブラスト」として知られる既知の方法で被加工物の表面に投射,衝突させることにより,被加工物の鏡面研磨加工に使用することができる。
【0098】
この弾性研磨材1の投射方法としては,圧縮気体と共に研磨材を噴射するエア式,回転する羽根車の遠心力を利用して投射する遠心式(インペラ式),打出しロータを用いて研磨材を叩きつけ投射する平打式等,被加工物の加工表面に対して所定の噴射速度や噴射角度で研磨材を投射することが可能なものであれば如何なる方式で投射するものとしても良い。
【0099】
このうち,エア式は,ノズルより噴射する弾性研磨材1を被加工物の所望の部位に衝突させることができるため,被加工物が大型且つ,重力物であっても加工が容易であると共に,弾性研磨材1と共に噴射する圧縮気体の噴射圧力の調整等によって,弾性研磨材1の飛翔速度や衝突時のエネルギーの調整が容易であることから,エア式のブラスト加工装置によって投射することは好ましく,このようなエア式のブラスト加工装置としては,圧縮気体(圧縮空気)の供給源としてコンプレッサの他,ブロワを用いたものを使用しても良い。
【0100】
弾性研磨材1の投射は,被加工物の表面に衝突した弾性研磨材1が,被加工物の表面に沿って滑走することができるような条件で行い,前述したブラスト加工方法のうち,圧縮気体と共に研磨材を噴射する方法では,被加工物の表面に対する噴射角度に拘わらず,弾性研磨材と共に噴射された圧縮気体は,被加工物の表面に衝突した後に被加工物表面に沿った流れとなり,この流れに乗って弾性研磨材1も被加工物の表面上を滑走させることができることから,被加工物の表面に対し0〜90°の全入射角の範囲で投射した場合においても被加工物の表面で弾性研磨材1の滑走を得ることができる。
【0101】
但し,他の遠心式や平打式も含めた好適な入射角の範囲は,5〜70°,好ましくは10〜60°,より好ましくは10〜45°の範囲である。
【0102】
エア式のブラスト加工装置における噴射圧力(加工圧)は,被加工物の材質,使用する弾性研磨材の粒径や使用している砥粒の材質,目的とする加工状態等によって,一例として0.01〜0.5MPaの範囲で適宜変更可能であり,好ましい噴射圧力の範囲は,0.02〜0.3MPaである。
【0103】
この噴射圧力(加工圧)が0.01MPaより低圧であると,弾性研磨材1の被加工物への衝突速度が小さい(従って,衝突エネルギーも小さい)ため,加工自体は可能であるものの,所望の被加工面の仕上がりを得るためには長時間を有することとなり経済的でない一方,0.5MPa以上になると,被加工物に弾性研磨材1が衝突したとき,弾性研磨材1の砥粒層3より砥粒31が脱落し易くなり,弾性研磨材1の寿命が短くなり,比較的早期に再生が必要となる。
【0104】
前述した本発明の弾性研磨材1は,以上で説明した条件で被加工物の表面に投射することで,被加工物の表面に沿って滑走することで,この滑走の際に,砥粒層3を構成する砥粒31の材質及び粒径に対応した表面加工状態,例えば被加工物表面の鏡面研磨を行うために使用することができる。
【0105】
なお,本発明の弾性研磨材1は,表面に付着させた砥粒31が脱落し難いものとなってはいるものの,繰り返しの使用により砥粒31の脱落による性能の低下が少なからず生じる。
【0106】
このような性能の低下が生じた場合には,前述した弾性研磨材1の製造方法と同様に,使用後の弾性研磨材1の表面に砥粒31を付着させると共に押圧する作業を繰り返し行うことで,弾性研磨材1の性能を再度回復させることができる。
【0107】
5.本発明の弾性研磨材1の衝突挙動
図8は,本発明の弾性研磨材1を,圧縮流体と共に被加工物の加工表面に対して噴射した場合に,この弾性研磨材1が被加工物の加工表面に衝突し,被加工物の加工表面に沿って滑走し,そして,被加工物の加工表面から跳ね返るまでの間における,弾性研磨材1の形状の変化の様子を示したものである。
【0108】
被加工物の加工表面に対して噴射された弾性研磨材1の形状は,上述の造粒の際に形成された形状であり,図8に示す場合は,その断面が略円形の略球状である。なお,この弾性研磨材1の核体2の内部では,ポリロタキサンの直鎖状分子が丸まって縮んだ状態となっていて,エントロピーが大きく,安定している。
【0109】
その後,噴射された弾性研磨材1は,被加工物の加工表面に接触を始めてから変形し(潰れ)始め,ついには図8に示すように著しく扁平化された状態となる。この間,弾性研磨材1の核体2の内部では,衝突による被加工物の加工表面からの反発エネルギーに対し,丸まっていたポリロタキサンの直鎖状分子が前記加工表面の面方向に伸張し,さらに架橋点となっているポリロタキサンの環状分子が直鎖状分子上を動くとともに滑車の働きをすることで応力分散がなされる。
【0110】
また,被加工物の加工表面に接触した弾性研磨材1は,核体2が上述したように易変形性でゴム硬度(弾性率)が低いため,跳ね返り難く,弾性研磨材1に対する面方向への残余エネルギーの他,被加工物に衝突した後に向きを変えて被加工物の加工表面に沿った流れに移行した圧縮流体によって,被加工物の加工表面に沿って滑走し,被加工物の加工表面を研磨する。
【0111】
この際,弾性研磨材1は衝突により著しく扁平化するため,加工表面に対する接触面積,つまり研磨範囲が広くなる上,加工表面に対し面上での研磨が行われる。また,上述したように衝突による衝撃力を核体2の内部では架橋された環状分子(架橋点)が滑車のように働いて分散させ,その分散された均質な力が弾性研磨材1の各々の砥粒31に加わるため,加工表面に対し非常に平滑性が高く,均質な鏡面研磨を施すことが可能である。
【0112】
被加工物の加工表面に接触開始後,加工表面を滑走しながら扁平化した弾性研磨材1は,続いて,加工表面を滑走しながら元の形状に回復する過程をたどって,ついには被加工物の表面から跳ね返る。この際,核体2の内部では,上述した衝突による直鎖状分子の伸張及び環状分子の移動によりエントロピーが減少した不安定な状態から,核体2の内部の分子がエントロピーが増加する方向へ,つまり,衝突前の安定した状態に戻る方向へ自発的に変化し,ついには造粒の際に形成された形状にまで回復する。
【0113】
以下,上述の核体2の内部で環状分子が移動することによってエントロピーが減少することについて詳述する。まず,核体2のポリロタキサン化合物中のポリロタキサン分子には架橋剤と反応した架橋された環状分子(架橋点)と,架橋剤と反応しなかった架橋されていない環状分子とが混在する。そして,このポリロタキサン分子中において,直鎖状分子は架橋された環状分子を自由に通り抜けることができるのに対して,架橋されていない環状分子は架橋された環状分子を通り抜けることができない。すると,衝突により核体2の内部では,ポリロタキサンの直鎖状分子が伸長する過程で架橋された環状分子は引っ張られて直鎖状分子上を動くが,一部において,2つの架橋された環状分子が,その間に挟まれた幾つかの架橋されていない環状分子を圧縮するように動くことで環状分子が密な状態が発生し,環状分子の分布が不均一となることでエントロピーが減少するのである。
【0114】
つまり,衝突後扁平化した弾性研磨材1の核体2の内部では,伸長した直鎖状分子が元の丸まった縮んだ状態に戻る,いわゆるゴム弾性だけでなく,上述した圧縮された環状分子がもとの状態に戻ろうとする反発力も働くことで,本発明の弾性研磨材1は低弾性率でありながら通常のゴムに比べて優れた復元力を発揮する。
【0115】
なお,以上の衝突による一連の動作によっても本発明の弾性研磨材1は,上述したように核体2に自己粘着性を有するポリロタキサン化合物を使用することにより砥粒31が担持されている。
【実施例】
【0116】
次に,本発明の弾性研磨材の製造実施例,及び得られた弾性研磨材を使用した加工実施例について説明する。
【0117】
1.弾性研磨材の製造実施例
1−1.核体の製造例
以下の方法で製造した架橋ポリロタキサン化合物を造粒して得た核体を使用した。
【0118】
(1)ポリロタキサンの製造
(1-1) ポリロタキサンA
直鎖分子をポリエチレングリコール(重量平均分子量3.5万),環状分子をα−シクロデキストリン,封鎖基をアダマンタンアミン基とし,前記α−シクロデキストリンのOH基の一部をヒドロキシプロピル化した「ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン化合物」(17mass%)に,窒素をゆっくり流しながらε−カプロラクトン(78mass%)を導入すると共に,100℃で60分間均一に撹拌した後,トルエン希釈した2−エチルヘキサン酸スズ(50mass%溶液:5mass%)を添加して反応させ,溶媒を除去することにより「カプロラクトン導入ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン化合物」が得られる。この「カプロラクトン導入ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン化合物」を「ポリロタキサンA」とした。
【0119】
(1-2)ポリロタキサンB
直鎖状分子をポリエチレングリコール(質量平均分子量35000),環状分子をヒドロキシプロピル基を導入した後ε−カプロラクトンをグラフト重合したα−シクロデキストリン(ヒドロキシプロピル置換度:48%,ε−カプロラクトンの重合投入量:〔ε−カプロラクトン〕/〔ヒドロキシ基〕=3.9,環状分子の包接量:25%),ブロック基をアダマンタン基とし,Soft Matter., 2008, 4, 245-249に記載されている方法と同様にして作製したポリロタキサンを「ポリロタキサンB」とした。
【0120】
(1-3)ポリロタキサンC
ポリエチレングリコール(平均分子量:35,000)10g,2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)100mgおよび臭化ナトリウム1gを水100mlに溶解した。得られた溶液に市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度約5%)5mlを添加し,室温で攪拌しながら反応させた。このとき,pHが10〜11を保つように1NのNaOHを添加した。そして,エタノールを添加して反応を終了させた。
【0121】
得られた反応液について,塩化メチレン50mlによる抽出を3回繰り返して無機塩以外の成分を抽出した後,エバポレータで塩化メチレンを留去した。抽出物を温エタノール250mlに溶解させた後,−4℃下に一晩置き,PEG−カルボン酸のみを析出させ,遠心分離でPEG−カルボン酸を回収した。
【0122】
直鎖状分子として上記PEG−カルボン酸3gおよび環状分子としてα−シクロデキストリン12gを,それぞれ別々に用意した70℃の温水50mlに溶解させた後,両者を混合し,その後,4℃下で一晩静置して,直鎖状分子および環状分子の包接錯体を得た。
【0123】
室温でジメチルホルムアミド(DMF)50mlにアダマンタンアミン(Aldrich社製)0.13gを溶解し,上記で得られた包接錯体14gに添加した後,すみやかによく振り混ぜた。続いて,BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)0.38gをDMF25mlに溶解したものを添加し,同様によく振り混ぜた。さらに,ジイソプロピルエチルアミン0.14mlをDMF25mlに溶解したものを添加し,同様によく振り混ぜた。得られた混合物を冷蔵庫中で一晩静置した。
【0124】
その後,上記混合物にDMF/メタノール=1:1混合溶液100mlを加えてよく混ぜ,遠心分離して上澄みを捨てた。このDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後,さらにメタノール100mlを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返した。得られた沈澱物を真空乾燥した後,ジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに溶解し,得られた透明な溶液を水700ml中に滴下して,複数の環状分子の孔を貫通した直鎖状分子の両端にブロック基を結合させたポリロタキサンを析出させた(環状分子:α−シクロデキストリン,直鎖状分子:PEG,ブロック基:アダマンタン基)。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し,真空乾燥または凍結乾燥させた。このDMSO溶解−水中析出−回収−乾燥のサイクルを2回繰り返し,最終的に精製ポリロタキサンを得た。得られたポリロタキサンを「ポリロタキサンC」という。
【0125】
(1-4)ポリロタキサンD
「ポリロタキサンC」のα−シクロデキストリンの水酸基を,ジメチルアセトアミド/塩化リチウム溶媒中,ジメチルアミノピリジン(触媒)の存在下で,無水酢酸によりアセチル化して得られたポリロタキサンを「ポリロタキサンD」という。
【0126】
(1-5)ポリロタキサンE
ポリエチレングリコール600(Aldrich社製,Mn:600)の片方の末端の水酸基を,塩化メチレン中,ピリジン(触媒)の存在下で,トシルクロライドと反応させてトシル化した。一方,ジメチルホルムアミド中にて,「ポリロタキサンC」のシクロデキストリンの水酸基を水素化ナトリウムで活性化し,上記トシル化したポリエチレングリコールと反応させてエーテル結合を形成することにより,シクロデキストリンの水酸基に長鎖のオキシエチレン鎖を付加し,得られたポリロタキサンを「ポリロタキサンE」という。
【0127】
(2)ポリロタキサン化合物の製造
(2-1) ポリロタキサン化合物A
上記のポリロタキサンA(29.35mass%)と,架橋剤(41.92mass%),ポリカーボネートジオール (旭化成ケミカルズ製「デュラノールT5650J」(26.80mass%),ジラウリン酸ジブチル錫(0.01mass%),2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(BASF社製「IRGANOPX 1726」)(1.92mass%)を反応槽に入れて80℃に昇温,攪拌して均一化した後,減圧脱泡して得られるポリロタキサン化合物を,「ポリロタキサン化合物A」とした。
【0128】
なお,ここで使用する架橋剤は,以下の方法で製造することができる。
【0129】
窒素置換した反応槽に1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(三井化学社製「タケネート600」)を入れて攪拌しながら80℃に昇温する。
【0130】
この1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン36mass%に対し,70℃に暖めたポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製「デュラノールT−5650J」)64mass%を4時間かけてゆっくりと滴下した後,温度を維持しつつ更に3時間攪拌して化合物を得る。
【0131】
窒素置換した反応容器に前記方法で得られる化合物を入れ,攪拌しながら100℃に昇温し,この化合物79mass%に対し,ε−カプロラクタム21mass%を加えて6時間攪拌して前述の架橋剤とする。
【0132】
(2-2) ポリロタキサン化合物B
上記ポリロタキサンA(16.25mass%)と,架橋剤(45.03mass%),ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製「デュラノール T5650E」(37.71mass%),ジラウリン酸ジブチル錫(0.03mass%),2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(BASF社製「IRGANOX1726」)(0.98mass%)を反応槽に入れて80℃に昇温し,攪拌して均一溶液とした後,減圧脱泡して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物B」とした。
【0133】
なお,ここで使用する架橋剤は,以下の方法で得ることができる。
【0134】
窒素置換した反応槽に,1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(三井化学社製「タケネート600」)を入れて攪拌しながら80℃に昇温する。
【0135】
上記反応槽に,1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン47mass%に対し,70℃に暖めたポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製「デュラノールT−5650E」)53mass%を2時間かけてゆっくりと滴下した後,温度を維持しつつ更に3時間攪拌して化合物を得る。
【0136】
窒素置換した反応槽に,上記化合物を入れて攪拌しながら100℃に昇温し,この化合物76mass%にε-カプロラクタム24mass%を入れて6時間攪拌して上記架橋剤とする。
【0137】
(2-3) ポリロタキサン化合物C
上記のポリロタキサンB(6質量部)と,アクリル酸エステル共重合体(100質量部)と,架橋剤(4質量部)と,シランカップリング剤として,3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製,KBM403)(0.2質量部)とを混合し得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物C」とした。
【0138】
なお,上記アクリル酸エステル共重合体は,ブチルアクリレート単位98.5mass%および2−ヒドロキシエチルアクリレート単位1.5mass%からなる質量平均分子量180万のアクリル酸エステル共重合体とする。
【0139】
また,ここで使用する架橋剤は,キシリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパンアダクト体(綜研化学社製,TD−75;3官能性,分子量698,固形分75質量%)とする。
【0140】
なお,ポリロタキサン化合物Cは,シランカップリング剤を含有することにより,ガラス,石英,金属等の無機材料からなる砥粒との接着性を向上させることができる。
【0141】
(2-4) ポリロタキサン化合物D
上記「ポリロタキサンC」20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(I)100質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物D」とした。
【0142】
なお,上記ポリアクリル酸エステル共重合体(I)は,n−ブチルアクリレート90質量部と、2−イソシアナートエチルメタクリレート10質量部と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.6質量部とを酢酸エチル200質量部中にて混合し、60℃で17時間攪拌することにより得られる質量平均分子量41万のポリアクリル酸エステル共重合体とする。
【0143】
(2-5) ポリロタキサン化合物E
ポリロタキサンD20質量部と、上記ポリアクリル酸エステル共重合体(I)100質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物E」とした。
【0144】
なお,上述のポリロタキサン化合物D及びポリロタキサン化合物Eは,上述の架橋剤を使用するポリロタキサン化合物A,ポリロタキサン化合物B及びポリロタキサン化合物Cがポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とを直接的に及び架橋剤を介して間接的に結合(架橋)しているものであるのと異なり,ポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とが直接的にのみ結合(ポリアクリル酸エステル共重合体がポリロタキサンによって架橋)されている。
【0145】
(2-6) ポリロタキサン化合物F
ポリロタキサンE20質量部と、上記ポリアクリル酸エステル共重合体(I)100質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物F」とした。
【0146】
なお,このポリロタキサン化合物Fは,上述の架橋剤を使用するポリロタキサン化合物A,ポリロタキサン化合物B及びポリロタキサン化合物Cがポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とを直接的に及び架橋剤を介して間接的に結合(架橋)しているものであるのと異なり,ポリロタキサンの環状分子とポリアクリル酸エステル共重合体とが直接的にのみ結合(ポリアクリル酸エステル共重合体がポリロタキサンによって架橋)されている。
【0147】
(2-7) ポリロタキサン化合物G
ポリロタキサンC20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)10質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物G」とした。
【0148】
なお,上記ポリアクリル酸エステル共重合体(II)は,n−ブチルアクリレート80質量部と、2−ヒドロキシエチルアクリレート20質量部と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.4質量部とを酢酸エチル300質量部およびメチルエチルケトン100質量部の混合溶媒中にて混合し、60℃で17時間攪拌することにより得られる質量平均分子量80万のポリアクリル酸エステル共重合体とする。
【0149】
(2-8) ポリロタキサン化合物H
ポリロタキサンC30質量部と、上記ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)15質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物H」とした。
【0150】
(2-9) ポリロタキサン化合物I
ポリロタキサンD5質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)2.5質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物I」とした。
【0151】
(2-10) ポリロタキサン化合物J
ポリロタキサンD20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)10質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物J」とした。
【0152】
(2-11) ポリロタキサン化合物K
ポリロタキサンE20質量部と、ポリアクリル酸エステル共重合体(II)100質量部(固形分換算)と、架橋剤としてキシリレンジイソシアナート系三官能アダクト体(綜研化学社製,TD−75)10質量部(固形分換算)とを混合して得られるポリロタキサン化合物を「ポリロタキサン化合物K」とした。
【0153】
(3)架橋(弾性体の製造)
前述したポリロタキサン化合物A,Bは,いずれも未架橋で粘性を有する液体の状態であるが,このポリロタキサン化合物A,Bを加熱することによりα−シクロデキストリン同士を架橋させることで,弾性体が得られる。
【0154】
本実施形態にあっては,前述したポリロタキサン化合物A,B(未架橋)を使用して,下記の三種類の弾性体A〜Cを得た。
【0155】
なお,弾性体A〜Cの構成成分としては,前述したポリロタキサン化合物A,Bの他,1.0mass%未満の帯電防止剤を添加するものとしても良く,このような帯電防止剤を添加することで,被加工物との衝突,研磨材搬送用のホースやノズル等との接触により静電気が発生することを防止できる。
【0156】
(3-1) 弾性体A
容器に前掲のポリロタキサン化合物Aを500g入れ,恒温槽にて150℃の温度に5時間保持して架橋させた後,恒温槽より容器を取り出して自然放熱させたもの。
【0157】
(3-2) 弾性体B
容器に前掲のポリロタキサン化合物Bを500g入れ,恒温槽にて150℃の温度に5時間保持して架橋させた後,恒温槽より容器を取り出して自然放熱させたもの。
【0158】
(3-3) 弾性体C
ポリロタキサン化合物A150gと,ポリロタキサン化合物B350gを共に共通の容器内に入れて両者が均一な状態となるように攪拌,混合し,この容器を恒温槽に入れて150℃の温度に5時間保持して架橋させた後,恒温槽より容器を取り出して自然放熱させたもの。
【0159】
(4)造粒
以上のようにして得られた弾性体A〜Cを,それぞれナイフにて切断することにより,一辺が0.05〜3.0mmの粒状物を得た。このようにして得た弾性体A〜Cの粒状物を,それぞれ核体A〜Cとした。
【0160】
以上のようにして得られた核体A〜Cの機械的特性を示せば,下記の表1に示す通りである。
【0161】
本実施例で使用した核体A〜Cは,いずれも自己粘着性を有すると共に,表1から明らかなようにゴム硬度が30以下,圧縮永久歪が5%以下で,1Hz〜100kHzの振動吸収特性(tanδ)が0.3以上という機械的特性を有している。
【0162】
なお,ゴム硬度に関し,本実施形態の核体A〜Cで使用されるポリカーボネートジオールをポリロタキサンを使用せずに単独で架橋した場合,詳細には,ポリカーボネートジオールのヒドロキシル基をイソシアネート化した後,架橋剤で架橋して生成したエラストマー(ポリウレタン)のゴム硬度は30を超える。
【0163】
しかし,このポリカーボネートジオールをポリロタキサンと化合(架橋)することで,詳しくは,ポリカーボネートジオールが架橋剤を介してポリロタキサンの環状分子と結合することで,ポリカーボネートジオールがポリロタキサンの直鎖状分子上を環状分子を介して自由に移動することができようになる,つまり,架橋点が動くようになることで,上述したポリカーボネートジオールを単独で架橋した場合に比べ,柔軟性が増し,ゴム硬度の数値を30以下とすることができたものと考えられる。
【0164】
なお,上述のポリカーボネートジオールとポリロタキサンとの反応(架橋)機構に関してより詳しくは,架橋剤(両端のヒドロキシル基をイソシアネート化されたポリカーボネートジオール)が有する2つの官能基のうち一方がポリカーボネートジオールの官能基と,他方が環状分子の官能基と反応して結合する。
【0165】
また,このようにポリロタキサンと化合(架橋)するのは,上述のポリカーボネートジオールの他,アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0166】
アクリル酸エステル共重合体とポリロタキサンとの反応(架橋)機構に関しては,架橋剤が有する2つの官能基のうち一方がアクリル酸エステル共重合体の官能基と,他方がポリロタキサンの環状分子の官能基と反応して結合し,又は,直接アクリル酸エステル共重合体の官能基とポリロタキサンの環状分子の官能基とが反応して結合する。従って,ポリロタキサンと架橋したアクリル酸エステル共重合体は,上述したポリカーボネートジオールの場合と同様に,アクリル酸エステル共重合体がポリロタキサンの直鎖状分子上を環状分子を介して自由に移動することができる,つまり,架橋点が動くようになる。
【0167】
【表1】
【0168】
1−2.砥粒
核体に付着させる砥粒として,以下の3種類の砥粒A〜Cを用意した。
【0169】
(1)砥粒A
ダイヤモンド砥粒〔♯10000(D50:0.6μm)〕のみ
(2)砥粒B
ダイヤモンド砥粒〔♯10000(D50:0.6μm)〕70mass%と,グリーンカーボランダムSiC砥粒〔♯10000(D50:0.6μm)〕30mass%の混合
(3)砥粒C
グリーンカーボランダムSiC砥粒〔♯8000(D50:1.2μm)〕のみ。
【0170】
1−3.核体に対する砥粒層の形成
前述した方法によって得た核体A〜Cのいずれか一種類と,前述した砥粒A〜Cのいずれか一種類とを組み合わせて,共に乳鉢に入れ,乳鉢内で核体の表面に砥粒をまぶしながら乳棒で叩くことにより,核体の表面に対する砥粒の付着と押圧を繰り返し行った。
【0171】
本実施例では,核体の表面に形成すべき砥粒層の適正な厚さWを求めるために,核体の表面に砥粒を付着させただけのもの(まぶしただけで乳棒により叩く作業を行っていない状態),及び付着と押圧の繰り返し回数を変化させて,核体の表面に対する砥粒層の形成厚さを変化させた。
【0172】
このようにして,各核体の表面に砥粒層を形成した後,これを篩にかけて余分な砥粒を除去すると共に,所定の粒径範囲毎に分級した。
【0173】
1−4.結果
以上のようにして得られた弾性研磨材のうち,核体の表面に砥粒を付着(まぶす)のみで,核体を押圧して定着させる作業を行っていないものにあっては,外見上,核体の表面に満遍なく砥粒が付着しているように見えるものの,このような弾性研磨材は,これを容器に入れて多数集合させた状態で保存しておくと,弾性研磨材同士が相互に付着して塊状となってしまい,使用できなくなった。
【0174】
そこで,砥粒Aを使用して砥粒の付着と定着を繰り返して製造した弾性研磨材のうち,塊状に凝集しなかった弾性研磨材を切断し,断面に現れた砥粒層の厚みを観察したところ,このような付着が生じなかった弾性研磨材は,形成された砥粒層の厚みWが2.5μm以上の厚さで形成されていた。
【0175】
ここで,本実施例で使用した砥粒A平均粒子径は0.6μmであることから,上記の結果から,核体2の表面に形成する砥粒層3の厚さWが,使用した砥粒の平均粒子径に対し約4倍程度の厚みとなるように砥粒層を形成することで,核体2を砥粒層3の内部に確実に閉じ込めておくことができるものと考えられる。
【0176】
なお,前述した方法によって形成された本発明の弾性研磨材(核体Aと砥粒Aの組合せたもの)の断面電子顕微鏡写真を図3(A),(B)に示す。
【0177】
図3(A),(B)〔特に図3(B)〕より,本発明の弾性研磨材にあっては,核体の表面に多数の砥粒が折り重なるようにして付着することにより形成された,組積構造を有する砥粒層が形成されており,この砥粒層が有する組積構造によって,核体は砥粒層を越えて表面側に膨出することができず,砥粒層の内側に確実に閉じ込めることに成功しているものと考えられる。
【0178】
すなわち,図2を参照して説明したように,砥粒を単に核体の表面に満遍なく付着させた(まぶした)だけの状態では,表面に押圧力が加わった際に,砥粒の粒子間の隙間から核体がはみ出して表面に膨出することとなるが〔図2(B)参照〕,前述したように核体の表面に対する砥粒の付着と押圧を繰り返すことで,砥粒の粒子間よりはみ出した核体に更に砥粒を付着させ,この作業を繰り返すことで砥粒の組積構造を形成することにより,核体がはみ出す隙間が完全に失われ,通常の保管や使用状態では砥粒層を越えて表面側に膨出することができなくなり,弾性研磨材同士の付着による凝集が防止できたものと考えられる。
【0179】
その一方で,砥粒層の内側には軟質で変形性に富む核体がそのまま封じ込められていることから,高い変形性や衝撃吸収性を発揮するという,相反する性質を両立させることができるものとなっている。
【0180】
なお,核体表面に対する砥粒の付着と押圧を延々と繰り返して行くと,砥粒層は更に厚みを増し,やがては核体と砥粒とが均一に練り込まれた状態となるに至るが,砥粒層の厚みが増していくと弾性研磨材は弾性を失い,弾性研磨材の粒径の大小に拘わらず,砥粒層の厚みWが弾性研磨材の短径d(図1参照)の1/4(25%)に至ると,核体単独の場合に対し,弾性が1/8に迄低下(圧縮弾性率10%に要する圧力が8倍に迄上昇)してしまい(図4参照),弾性研磨材の変形性や衝撃吸収性能が失われることが確認された。
【0181】
従って,形成する砥粒層の厚みは,弾性研磨材の粒径dの1/4(25%)程度が上限であり,好ましくは1/20,より好ましくは1/15程度である。
【0182】
2.加工実施例
2−1.試料(被加工物)
以下に示す試料1,試料2を被加工物として,本発明の弾性研磨材及び比較例の弾性研磨材を使用してそれぞれブラスト加工を行い,加工状態を比較した。
【0183】
(1)試料1
鏡面に仕上げられたSUS304製の矩形板(50×50×2mm)の表面(鏡面)に,酸化アルミニウム製の砥粒(不二製作所製「不二ランダム」WA ♯400)を,ブラスト加工装置を使用して投射し,表面を粗したものを試料1とした。
【0184】
なお,触針式表面粗さ計(東京精密株式会社製)を用いて測定したブラスト加工後の試料1の表面粗さは,算術平均粗さ(Ra)で0.13μmであった。
【0185】
(2)試料2
超硬材料(炭化タングステンWC)製の矩形板(40×40×5mm)の表面を鏡面に研磨したものに対し,酸化アルミニウム製の砥粒(不二製作所製「不二ランダム」WA ♯3000)を,ブラスト加工装置を使用して投射し,表面を粗したものを試料試料2とした。
【0186】
なお,触針式表面粗さ計(東京精密株式会社製)を用いて測定した表面研磨後の試料2の表面粗さは,Raで0.048μmであった。
【0187】
2−2.加工条件
使用した弾性研磨材及び加工条件を下記の表2に示す。
【0188】
【表2】
【0189】
なお,比較例で使用した弾性研磨材は,以下の方法によって製造した,ゼラチンを核体とした弾性研磨材である。
【0190】
粉砕したゼラチン500gに,水350gと水分蒸発防止剤としてソルビトールとエチレングリコールを合わせて300g加えて室温にて充分膨潤させた後,加温してゼラチンを完全に溶解させ,常温にて冷却して凝固させた。
【0191】
固まったゼラチンをカッターにて切断して得た粒状体を核体とし,この核体の表面に砥粒をまぶすことで,ゼラチン自身が持つ粘着力で核体の表面に砥粒を付着させて弾性研磨材とした。
【0192】
投射装置として,エア式のブラスト加工装置(不二製作所製「SFCSR−1」)を使用した。このブラスト加工装置の噴射ノズルチップ径は直径8mmである。
【0193】
なお,上記で使用したブラスト加工装置には,圧縮空気供給源としてコンプレッサを備えるものとブロワを備えるものの二種類があり,各実施例で使用したブラスト加工装置がいずれのタイプであるかを,上記表2中の「エア源」欄に記載した。
【0194】
2−3.試験方法及び試験結果
前述したブラスト加工装置の研磨材タンク内に,実施例1〜3及び比較例の各弾性研磨材をそれぞれ1000g投入し,弾性研磨材の補充,交換,再生を行うことなく最初に投入した1000gの研磨材のみを循環使用して,同一の試料の表面に対し弾性研磨材の投射を80時間行うことで,加工時間に対する試料の表面粗さの変化と切削量の変化をそれぞれ測定した。
【0195】
以上の加工試験結果より,比較例の弾性研磨材(ゼラチン製の核体)を使用した場合には,加工初期においては試料1,2共に表面の鏡面研磨が行えているものの,加工開始から5時間程で,試料1(SUS304)については梨地状の表面となり,また,試料2(WC)については,表面に曇りが生じた。
【0196】
このことから,比較例の研磨材の寿命は,上記の条件下での使用において5時間よりも短く,この寿命を越えて継続して使用すると,初期の研磨・切削能力を維持できなくなることが確認された。
【0197】
これに対し,実施例1〜3の弾性研磨材を使用した加工では,試料1,2のいずれを加工した場合にも,試料の表面粗さが減じて一旦,所定の表面の表面粗さ(鏡面)となった後には,この表面粗さが80時間に亘り維持されており(実施例3に関し,図5,6参照),実施例1〜3の弾性研磨材にあっては,上記条件下での使用において,少なくとも80時間は,加工精度を一定に維持できること,すなわち,80時間を超える寿命を有するものであることが確認できた。
【0198】
なお,図示を省略した実施例1,2の結果についても,加工から2時間経過時の試料1,2の表面粗さと80時間経過時の表面粗さの変化は,実施例1で約5%,実施例2で約2%程度であり,また,加工から2時間経過時の切削量に対し,80時間経過時の切削量は,実施例1,2ともに2%程の低下しか見られず,いずれの実施例においても,一定の加工状態,切削能力を長時間に亘り発揮できるものであることが確認されている。
【0199】
なお,比較例で使用した弾性研磨材にあっては,約40〜50℃程の温度で核体が軟化してしまうために研磨材としての機能を失うことから,使用に際して温度上の制約が課せられることとなるが,実施例1〜3の弾性研磨材にあっては,最低でも120℃程度まで加熱しても性能の低下は生じず,ゼラチンを核体とした比較例の研磨材のような使用温度の制限も無い。
【0200】
3.その他
なお,以上のように80時間の循環使用を行った後の実施例1〜3の研磨材を確認した結果,使用後の弾性研磨材は砥粒層の厚みが薄くなっていることが確認された。
【0201】
そこで,回収した使用後の弾性研磨材を,再度,砥粒と共に乳鉢に投入して表面に砥粒をまぶしながら乳棒で叩く作業を繰り返したところ,砥粒層の厚さを増大させることができ,これにより弾性研磨材を再生させることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0202】
1 弾性研磨材
2 核体
3 砥粒層
31 砥粒
W 砥粒層の厚み
d 弾性研磨材の短径
図1
図2
図4
図5
図6
図7
図8
図3