【実施例】
【0036】
実施例1−LM6合金用の結晶粒微細化剤としての二ホウ化ニオブ
本発明者らは、NbB
2相(Al−5wt%の(Nb:2Bモル比)という形で前もって合成されたものを、LM6合金(以下の元素を以下の重量パーセントで含むアルミニウム合金:Si=10〜13%;Fe=0.6%;Mn=0.5%;Ni=0.1%;Mg=0.3%;Zn=0.1%;およびTi=0.1%)に導入した。下記表1および
図1に示すように、NbおよびBの濃度が増加するにつれて粒度は減少することから、NbB
2および/またはAl
3Nbが溶融物における不均質核を強化することが確認される。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例2−工業用純アルミニウム用の結晶粒微細化剤としての二ホウ化ニオブ
図2に、Si−0.02;Fe=0.07;Mn=0.001;Zn=0.02;Ti=0.006;Ni=0.001(どの量もwt%)の不純物を含み、さまざま量のNbおよびBが添加されている、Norton Aluminium Ltd.から入手したアルミニウム合金の粒度を示す。この図から、Nb添加とB添加の組合せは極めて有効であることがわかる。
【0039】
図3に示すように、Al−Si鋳造合金(LM6)についても、同様の結果が得られる。
【0040】
実施例3:Al−Si二元合金における結晶粒微細化
下記表2に示す合金を、温度範囲750〜800℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。等量のNb粉末をKBF
4粉末の形のホウ素と混合した。KBF
4とAlの間の反応は発熱性であり、局所温度は短期間、1500Cを超える場合がある。約0.1wt%Nbおよび0.1wt%Bを、表2に示す合金の溶融物に添加した。0.12wt%〜6.1wt%のNbB
2に対応する広範囲(0.1〜5wt%)のNbおよびBレベルでも実験を行った。結晶粒微細化剤添加ありおよび結晶粒微細化剤添加なしで鋳造するために、一般にTP1鋳型として知られている標準的な試験手順を使用した。TP1鋳型は3.5K/秒の冷却速度を与え、これは大工業的鋳造条件のそれに似ている。比較のために、Al−5Ti−B結晶粒微細化剤添加ありの実験を行った。化学電解研磨(HClO
4+CH
3COOH)およびBakerの陽極酸化を使って結晶粒界を明らかにした。Zeiss偏光光学顕微鏡をAxio4.3画像解析システムと共に使用し、直線切断法を使って粒度を測定した。粒度を視覚的に比較するために、Keller氏液を使ってマクロエッチングを行った。
【0041】
【表2】
【0042】
結果
市販純アルミニウムへの0.12wt%二ホウ化ニオブの添加の効果を
図4に示す。Nb系化学物質の添加によって粒度は有意に低下することが観察される。微細な結晶粒組織は、大型のビレットを製造する場合に、いくつかの利益(例えば、低下した化学的偏折、低下した空隙率、熱間割れの不在)をもたらす。
【0043】
図5は、工業用純アルミニウムから生産された、マクロエッチングしたTP−1試験鋳型標本の表面を示しており、二ホウ化ニオブ添加(a)なしおよび(b)ありのアルミニウムについて、粒度を明らかにしている。
図5(c)は、Alのみ、および二ホウ化ニオブと組み合わせたAlについて、測定された粒度を鋳込温度の関数として示している。
【0044】
Al−Si鋳造合金にとって、Al−5Ti−B母合金は効率のよい結晶粒微細化剤ではなく、有害な効果を有する場合さえあることが知られている。Al−Si二元合金における本発明者らの一連の実験は、Si含量が>5wt%である場合には、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤の方がAl−5Ti−Bよりうまく機能することを示している(
図6参照)。
【0045】
実施例4:市販鋳造合金における結晶粒微細化
表3に、大型の構造体を鋳造するためによく使用される市販鋳造合金のリストを示す(全ての量はwt%)。これらの合金を全て750〜800℃で溶融した。0.1wt%NbおよびKBF
4の形の0.1wt%のホウ素を溶融物に添加した。TP1鋳型(3.5K/秒の冷却速度)を使用した。LM25には、TP1鋳型に加えて、他にも2タイプの鋳型(0.7K/sおよび0.0035K/s)も使用した。これらの低い冷却速度は、冷却速度が0.1K/s程度まで低い場合がある砂型鋳造条件をシミュレートするために使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
LM25鋳造合金での実験により、二ホウ化ニオブの添加は、
図7に示すように、TiBの添加よりも効果的に粒度を減少させることが確認される。冷却速度は毎秒3.5Kであり、全ての実施例で同じTP1鋳型を使用したので、これは全ての実施例での冷却速度であった。
【0048】
LM24鋳造合金での実験により、二ホウ化ニオブの添加は、
図8に示すように、Al−Ti−Bの添加よりも効果的に粒度を減少させることが確認される。この効果はある温度範囲で明白であることがわかるが、通常の工業的手法は液相線温度より少なくとも40〜50℃は高い溶融合金を注湯することであるから、このことは重要である。
【0049】
LM6鋳造合金での実験により、二ホウ化ニオブの添加は、
図9に示すように、Al−Ti−Bの添加よりも効果的に粒度を減少させることが確認される。
【0050】
LM6合金における結晶粒微細化に対するNbおよびBの影響
文献では、Al−Si合金の場合、Al−Ti−B添加の代わりにホウ素を添加すると、粒度が微細化されると主張されている。これを検証するために、本発明者らは、ホウ素(KBF
4の形)、ニオブ、Al−5Ti−1B、ならびにニオブとホウ素の組合せ(Nb−KBF
4の形)を添加した。
図10からわかるように、NbもBも単独では粒度を微細化しない。Nb−Bの組合せだけが、粒度を効果的に微細化する。
【0051】
機械的性質:
引張試験片を作製するために、円筒棒状(直径13mmおよび長さ120mm)のLM6合金試料を、鋼製鋳型で鋳造し、ASTM規格によって指定されている寸法の引張試験片標本を機械加工した。引張試験標本の正確な寸法は基準径6.4、ゲージ長25mmおよびつかみ部の直径12mmである。引張特性試験は万能材料試験機(Instron(登録商標)5569)を使って、2mm/分のクロスヘッド速度(ひずみ速度:1.33×10
-3s
-1)で行った。非微細化LM6は181MPaの最大引張強さ(UTS)を有するが、結晶粒微細化後は、UTSが20%改良されて225MPaになることが観察される。さらにまた、伸びは、LM6では、二ホウ化ニオブ添加によって、3%から4.6%に改良された。これらの結果を
図11に示す。
【0052】
冷却速度の効果
図12(a)は平均粒度を冷却速度の関数として示す。LM25の場合、低い冷却速度(砂型鋳造鋳型冷却速度)では粒度が有意に増加する。Nb−B添加合金では微細な結晶粒組織が観察され、これにより、その結晶粒微細化効率が再確認される。
【0053】
冷却速度が粒度に及ぼす効果を実証するために、
図12(b)に、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤ありおよび二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤なしで形成されたLM6合金標本の写真を示す。
【0054】
初晶Al粒度に加えて、微細なAl−Si共晶組織も広範な冷却速度で得られる−
図12(c)参照。この微細な共晶組織および低下した空隙率は合金の可鍛性を改良する。
【0055】
空隙率
鋳造欠陥の一例は固化した合金の空隙である。
図13に3つの異なる鋳造条件について空隙面積率の比較を示す。Al−Nb−B母合金添加は空隙率を有意に低下させることがわかる。
【0056】
実施例5:過共晶合金の結晶粒微細化
Nb−Bの添加の効果を調べることを目指して、本発明者らは、最初に、Al−14%Si合金インゴットを作製し、ファウンドリマスターを使って、マスターブロック中のさまざまな場所でサンプリングすることにより、ブロック全体にわたるSi濃度の均一性を確認した。この合金は750Cで溶解し、0.1wt%ニオブおよび0.1wt%ホウ素(0.123wt%NbB
2に対応)を溶融物に添加してから、TP1鋳型(3.5K/s)および鋼製鋳型(1K/s)で鋳造した。
【0057】
結果
図14に、NbB
2の添加ありおよび添加なしでのAl−14Siのミクロ組織を示す。極めて微細な初晶Si相が観察される。加えて、微細な共晶針状組織が観察される。他の加工方法がこのような微細な結晶粒組織をもたらすことは知られていない点に注意することが重要である。
【0058】
実施例6:Al−NbB
2母合金を生産するための方法
本発明者らは、新たに発見されたNbとBの化学的組合せによる新規結晶粒微細化剤を極端に簡単な方法でAl−Si系溶融物に添加することを可能にする実用的方法を開発した。この方法では本発明者らは最初に、Al−Nb−B母合金を生産し、次に、この母合金の小片をAl−Si系合金の溶融物に単に添加するだけで、固化金属において微細な結晶粒組織が生じうることを実証する。
【0059】
母合金の形での結晶粒微細化剤の添加は工業では一般的な手法である。これにより、鋳造プロセスにおける腐食性KBF
4塩の使用が回避される。塩添加の代わりに、微細な粒度を得るために、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤をAl−Nb−B母合金の小さな金属片の形でAl−Si系液体合金に添加できることを、本発明者らは示す。濃縮されたAl−Nb−B合金の添加はアルミニウム溶融物へのNbB
2の均一な分散を保証する。
【0060】
母合金の一般式はAl−x wt.%Nb−y wt.%Bである。xの範囲は0.05〜10であり、yの範囲は0.01〜5である。以下に3つの例を挙げる。
【0061】
実施例6A:Al−4.05Nb−0.09B(Al−5wt%(Nb:2Bモル比)と等価)の加工
市販純Alインゴットを温度範囲800〜850℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。NbB
2相を形成させるために、5wt%NbB
2(NbとKBF
4の混合物)を溶融物に添加した。Al
3Nb相介在物も生じうる点に注意することが重要である。KBF
4とAlの間の反応は発熱性であって局所温度は短時間1500℃を超える場合があり、その高温がAlへのNbの溶解を促進すると考えられる。溶融物は、15分ごとに約2分間、非反応性セラミック棒で撹拌した。溶融物の表面上のドロスをすくい取り、液体金属を円筒状鋳型に鋳造した。この鋳造金属をAl−Nb−B結晶粒微細化剤母合金と呼ぶ。Al−Nb−Bのミクロ組織を
図15に示す。この図は、Alマトリックス中に均一に分布した微細な介在物およびミクロ組織を有するNb系粒子を明らかにしている。TEM研究はAlと介在物の間の界面が高度にコヒーレントであることを示唆しており、これは、それらが不均質Al核形成を強化している可能性を示唆する。
【0062】
実施例6B:市販純アルミニウムへのAl−5Nb−1B母合金の添加
市販純Alを温度範囲750〜800℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。Al−5wt%NbB
2母合金の小片(Alの重量に対して0.1wt%NbB
2と等価)を溶融物に添加した。15分後に、溶融物を約2分間撹拌し、TP1鋳型に鋳造した。試料を研磨し、陽極酸化して、結晶粒界を明らかにした。少量のAl−Nb−B結晶粒微細化剤母合金添加による添加を行った市販純Alの粒度を
図16に示す。この実用的経路でも微細な結晶粒組織が得られることがわかる。ミクロ組織の特徴は
図4のものと似ているように見える。
【0063】
実施例6C:市販Al−Si合金(LM25)へのAl−5Nb−1B母合金の添加
LM25合金を温度範囲750〜800℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。Al−5wt%NbB
2母合金の小片(LM25の重量に対して0.1wt%NbB
2と等価)を溶融物に添加した。15分後に、溶融物を約2分間撹拌し、TP1鋳型に鋳造した。Al−Nb−B母合金添加による添加を行ったLM25の粒度を
図17に示し、添加なしと比較する。Al−Nb−B母合金の添加により、微細化された結晶粒組織が得られることがわかる。
【0064】
実施例7:フェーディング研究
アルミニウム液体溶融物中の核生成剤相粒子は集塊を形成し、この集塊挙動が時間と共に増加する。結果として、結晶粒微細化効率は時間と共に劣化する。そこで、液体が少なくとも30〜60分間は高温のままである工業的応用の観点から、フェーディング研究は極めて重要である。
【0065】
実験:約2KgのLM6合金溶融物を電気抵抗炉で調製した。TP1鋳型を使って試験試料を鋳造した。Nb/Bを溶融物に添加し、撹拌した。さまざまな時間間隔で試料をTP1鋳型中に鋳造した。鋳造に先だって、溶融物をセラミック棒で穏やかに撹拌した。
図18に、粒度を時間の関数として示す。粒度は、1時間まではほとんど影響を受けず、その後、時間と共にわずかに増加することが観察された。3時間後でさえ、粒度が、LM6粒度より有意に低い約515μmである点に注意することが重要である。
【0066】
実施例8:高圧ダイキャスティングで生産された結晶粒微細化LM6およびLM24の引張特性
先の実施例では重力鋳造を使ってLM6合金を生産した。しかし工業的プロセスでは、超高速製造プロセスである高圧ダイキャスティング(HPDC)を使って、小さな合金構成成分を生産する。LM24合金はHPDC用に特別に設計された合金である。この研究では、HPDC機を使って、Nb/Bの添加ありおよび添加なしで、LM24合金とLM6合金の両方を鋳造した。HPDCが与える冷却速度は>10
3K/sであることに注意されたい。そのような高い冷却速度でさえ、粒度の微細化は観察される(
図19参照)。伸びは、LM6合金の場合で6.8%から7.7%に、またLM24合金の場合で3%から3.6%に改良されていた。これら2つの材料が同じ強さおよび硬さを有すると、より高い可鍛性を有する方が、実際の応用には、より望ましい。
【0067】
実施例9:マグネシウム(AZ91D)合金へのNbB
2添加
上記実施例6において合成したAl−5wt%NbB
2母合金を、液状および鋳造型のAZ91D合金に添加した。
図20に示すように、AZ91D合金の粒度は、NbB
2濃度が増加するにつれて減少することから、NbB
2はMg合金溶融物における不均質核を強化することが確認される。理論に束縛されることは望まないが、粒度が減少した理由は、主として、NbB
2相結晶とMg相結晶の間の整合によるものと思われる。どちらの結晶組織も六方晶系であり、基底面における格子不整合は1.8%である。格子不整合が小さい(<5%)場合、不均質核の形成のためのエネルギー障壁は無視できることが知られている。
【0068】
実施例10:Mg合金における結晶粒微細化
AZ91D合金を680℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。SF
6+N
2気体混合物を使って溶融物を酸化から保護した。約0.1wt%Nbおよび0.1wt%B(約0.123wt%NbB
2)を溶融物に添加し、インペラーで1分間撹拌した。内径33mmの鋼製円筒状鋳型を200℃に予熱し、NbB
2を含有する溶融物を鋳型に注湯した。比較のためにNbB
2添加なしの実験も行った。両方の鋳造物試料を研磨し、化学エッチングした。Zeiss偏光光学顕微鏡をAxio4.3画像解析システムと共に使用し、直線切断法を使って粒度を測定した。
図21に示すように、極めて微細な結晶粒組織が観察された。
【0069】
実施例11:比較実験
以下に説明する組成を有する合金を、0.15wt%ニオブの添加あり、および0.15wt%ニオブの添加なしで、調製した。0.15wt%Nbを有する合金はSU519487(Petrov)に開示された合金の範囲に包含される。どちらの合金についても類似する条件でTP1鋳造物試料を作製した。
図22からわかるように、ニオブの添加は結晶粒微細化をもたらさず、このことは、二ホウ化ニオブがPetrovに開示された合金では形成されてないことと合致する。
【0070】
組成(wt%)
ケイ素 10
銅 3.5
マグネシウム 0.4
マンガン 0.25
チタン 0.2
ジルコニウム 0.2
ホウ素 0.025
モリブデン 0.2
カドミウム 0.02
バリウム 0.05
カルシウム 0.05
ナトリウム 0.005
カリウム 0.025
アルミニウム 残り
実施例12:LM6合金に関する冷却曲線の測定
0.1wt%Nb+0.1wt%B(KBF
4の形)ありおよびなしのLM6合金試料を、予熱(800℃)した鋼製るつぼに入れた(0.123wt%NbB
2と等価)。K型熱電対(直径0.5mm)を使って試料の温度を時間の関数として監視し、データ取得ソフトウェアによって記録した。測定された冷却曲線を表23に提示する。純LM6液体の冷却速度と、0.1wt.%Nb+0.1%B(0.123wt%NbB
2と等価)を含むLM6液体の冷却速度は似ている(それぞれ約0.5℃/sおよび0.3℃/s)ことがわかる。LM6では過冷却が1.5℃と測定されるのに対し、0.1wt%Nb+0.1wt%Bの添加は過冷却を劇的に減少させた(ΔTは約0.5℃である)。減少した過冷却は、Al−Si液体金属におけるNb系介在物の存在が不均質核生成過程を強化しうること、そしてその結果として、鋳造物の粒度を1〜2cmから約440μmまで低下させうることを、明確に実証している。
【0071】
実施例13:Al−5Si合金に関する冷却曲線
Nb−Bの添加ありおよび添加なしのAl−5Si溶融物に関して、測定された冷却曲線で熱分析を行った(
図24参照)。測定された過冷却は、Nb−B添加なし、およびNb−B添加ありのAl−5Si合金に関して、0.4℃および0.1℃である。冷却曲線測定の結果として生成したインゴットのマクロエッチングした表面も示す。自動車用の大きな鋳造構造物を生産するために工業で一般に使用される砂型鋳造プロセスに似た、0.04℃/sという非常に遅い冷却速度では、Nb−B添加の使用により、粒度の大きな相違が達成される。
【0072】
実施例14:過共晶Al−Si合金へのNb−Bの添加
共晶点に近いAl−14Siを800℃で溶融した。0.1wt%Nb+0.1wt%Bの添加ありおよび添加なしの溶融物を、3.5℃/sの冷却速度を与えるTP−1鋳型に、700℃で鋳造した。
【0073】
図25からは、Nb−Bを添加したAl−14Si合金が大きな初晶ケイ素粒子をほとんど含まないことが注目に値する。異なる形状、すなわちホッパー(hopers)(角形)および魚骨(魚の骨のように長い見た目)が存在する。魚骨状初晶ケイ素粒子が試料の縁端部(鋳型壁近く)に観察されるのに対し、ホッパー形(hoper shapes)は、試料の中央にある。比較のために、Al−14SiへのTi−B結晶粒微細化剤の添加を
図26に示す。
【0074】
図27は、Nb−Bを添加したAl−14SiのTP−1試料の模式的断片を表し、試料内のミクロ組織の相違が顕微鏡像に示されている。
【0075】
Al−14SiのTP−1試料の断片から、試料の縁端部の方がSi粒子は大きいことが明らかになった。しかし試料の大半は微細なSi粒子と共晶組織とからなる。
【0076】
1℃/sの冷却速度と5℃/sの冷却速度が達成されるように2つの異なる鋳型を使用する。
図28に、冷却速度の増加に伴う初晶ケイ素サイズの相違を示す。ホッパー様(hopers like)結晶は、冷却速度が高い壁付近にのみ分散し、それらの面積率は全試料面積の約10%である。しかし、試料の中央では、初晶ケイ素粒子が魚骨形態として成長した。
【0077】
高い冷却速度と短い固化時間は、より微細化されたミクロ組織の形成につながりうる。初晶ケイ素粒径は、Nb−Bを含むAl−14Siでは、高い冷却速度により、55μmから17μmへと減少している。添加なしのAl−14Siでは、Si粒径の変化が有意でない。粒径は50μmから35μmへと減少する。α−Alのサイズの変化も(
図28ではコントラストが白い領域)も注目に値し、Nb−Bを含有する合金では、α−Alが添加なしの試料よりはるかに微細である。
【0078】
図29は、Al−16SiへのNb−Bの添加が初晶ケイ素を減少させることを示している。Nb−B添加は全てのSi粒子のサイズを低下させたわけではなかった。試料は、何も添加していないAl−16Siと比較すると、いくつかの大きい粒子と極めて小さい粒子を有している。
【0079】
共晶サイズについて定量的分析を行った。共晶はNb−Bを添加した場合の方がはるかに微細であることが、
図30から明白である。Nb−Bはα−Alおよび初晶ケイ素を微細化していると推断することができる。α−Alとケイ素の共晶はより繊維状であり、何も添加していないAl−18Siに一般に見られるような粗大な構造ではない。
【0080】
実施例15:SrまたはP添加と共に行ったNb−B添加のLM13合金(Al−13Si−0.8Cu)への効果
(a)Sr添加:合金LM13は自動車用のピストンの生産に使用されている。LM13へのNb−BならびにSrおよびP添加の影響を調べる。共晶Siのサイズおよび形態の修飾は、本質的に脆い共晶ケイ素相の構造的微細化を促進することによって機械的性質を改良するための、LM13合金にとって一般的な手法である。Al−Si合金へのストロンチウムの添加が共晶ケイ素形態を粗大な板様組織から充分に微細化された繊維状組織へと転換させることは、よく知られている。LM13合金へのNb−BおよびSrの添加を調べるための実験を行った。
図31は、マクロ組織の形態の相違を実証している。
【0081】
Nb−B+Srを添加したLM6では、α−Alの微細化が、共晶の修飾と共に依然として起こっている。
【0082】
(b)P添加:周知の初晶ケイ素微細化剤はリンであるから、Nb−B−P添加の影響を調べるために一連の鋳造実験を行った。その結果を
図32に示す。Pの存在下でさえ、より微細なアルミニウム結晶粒組織が存在することから、合金組成に応じて、SrまたはP添加に加えてNb−B結晶粒微細化剤も使用できるであろうことが示唆される。
【0083】
(c)Tiリッチ合金:市販されているAl−Si合金の大半は、0.2%までのTiレベルを含んでいる。TiはAl−Si合金ではTi−Siの形成によって結晶粒微細化効果を害することが知られているので、Tiレベルの高い合金へのNb−B添加の効果を調べることは重要である。この研究で示すLM25合金とLM24合金は0.1wt%のTiを含む。これらの合金の全てにおいて、Nb−Bの添加は、実施例で説明するように、粒度を有意に微細化することが観察される。もう一つの実験では、LM25合金のTiを総含量が0.2wt%になるまで富化する。01.wt%Nb+0.1wt%Bを合金に添加すると、結晶粒微細化が観察されることが、実験的に確認される。
【0084】
実施例16:Al−Si二元合金の二次デンドライトアーム間隔(SDAS)に対するNb−Bの効果
歴史的に、冷却速度は、鋳放し合金のミクロ組織を制御するための効果的なパラメータの一つであることが判明している。冷却速度を増加させることによって、合金の二次アーム間隔は減少し、合金の強さは増加する。砂型鋳造における遅い冷却速度は通常、より大きなデンドライトアーム間隔と、より低い引張強さとをもたらす。粒度およびデンドライトアーム間隔を低下させることによって、合金の機械的性質を改良することができる。SDAS測定は、
図33に示すように、Nb−B結晶粒微細化剤がSDAS形成に影響を及ぼすことを示唆している。二次デンドライトアーム間隔は、結晶粒微細化された試料におけるケイ素添加が多いほど減少することが観察される。
【0085】
図34は冷却速度、二次アーム間隔および粒度間の依存性を表す。低い冷却速度で鋳造された試料では、高い冷却速度と比較して、SDASが高い。
【0086】
実施例17:金属間化合物サイズに対する効果
LM6合金およびLM24合金に観察される金属間化合物に対するNb−B添加の効果を調べる。Nb−BなしおよびNb−BありのLM6における鉄相は、大部分が、チャイニーズスクリプト形態を有するが、粒子のサイズおよび分散は、Nb−Bを溶融物に添加した場合の方が小さい(
図35)。それらは至るところに均一に分散している。
【0087】
高圧ダイキャスティング法で加工されたLM24およびLM6試料には、立方体形態の金属間化合物が見いだされた(
図36)。Nb−Bを含むLM24では、小さな粒度および共晶相ゆえに、鉄粒子は40%小さかった。
【0088】
実施例18:高圧ダイキャストLM24およびLM6合金の機械的性質
図37に、Nb−B添加なしおよびNb−B添加ありのLM6およびLM24について、引張試験結果を示す。この図表は、6つの試料の平均最大引張強さを表し、この図には、それらに対応する伸び値が提示されている。
【0089】
実施例19:結晶粒組織に対する冷却速度およびNb−B添加の影響
Nb−Bの添加なしおよび添加ありで、LM6合金を800℃で溶融し、多様な冷却速度が達成されるように、異なる鋳型に鋳造した。
図38に粒度を冷却速度の関数として示す。結晶粒微細化剤は異なる冷却速度に対する感受性があまり高くないことがわかる。0.03℃/sという低い冷却速度でさえ、Nb−Bを添加すると、粒度は依然として小さくなる。そのような遅い冷却下で生産された試料の断面を図に示す。
【0090】
実施例20:Al−Si合金の熱処理に対するNb−Bの影響
大半のアルミニウム鋳造物は「鋳放し」状態で使用されるが、より高度な機械的性質、または鋳放し材料とは異なる性質を要求する応用も、いくつかある。アルミニウム鋳造物の熱処理は、鋳造物を熱サイクルまたは一連の熱サイクルに付すことによって鋳放し合金の性質を変化させるために行われる。何も添加していないLM25とNb−Bを含むLM25の引張特性を比較するための実験を行った。金属への熱処理の影響を分析するために、引張試験片の熱処理も行った。引張試験片調製のために、試料を800℃で溶融し、予熱した円筒状鋳型に注湯した。LM25を溶体化処理し、532℃で5時間安定化した後、熱水で急冷し、次に250℃で3時間安定化処理した(TB7)。
図39に示す図表は、添加なしおよびNb−Bあり、熱処理ありおよび熱処理なしのLM25について、測定された伸びの最大値を、対応する引張応力の関数として表している。
【0091】
図39の図表からわかるように、LM25の熱処理はその引張強さを改良した。Nb−Bの添加はLM25の伸びおよび引張強さを改良する。Nb−Bを含むLM25の熱処理は、何も添加していないLM25の3.3〜3.7%から14.7%へと、伸びを有意に改良した。
【0092】
実施例21:LM6合金のリサイクリング
回収プロセススクラップのリサイクリングはアルミニウム鋳造場における一般的な手法である。0.1wt%Nb−0.1wt%Bを添加して1kgのLM6溶融物を生産した。試料を200℃に予熱した円筒状鋳型に680℃の鋳込温度で鋳造した。次に試料を切断し、ミクロ組織分析を行った。残りの金属を、Nb−Bを一切追加せずに再び溶融した。この手順を4回繰り返した。
図40に、粒度対異なるリサイクリング工程を示す。同様の実験をLM25合金に繰り返して、3回のリサイクリング後でさえ、微細な結晶粒組織を保っていることを確認した。
【0093】
粒度は1回目の鋳造後の方が小さく、1回目の再溶解後はわずかに大きくなる。2回目および3回目の再溶解でも、まだ正の結晶微細化の形跡がある。核生成部位は溶融物において依然として活性であり、これは、Nb−B結晶粒微細化剤添加後の合金のリサイクリングに有益であるだろう。溶融物にNbおよびBを追加することにより、さらに小さな結晶粒を得ることが可能であり、この研究は、工業的応用の観点から重要であるだろう。
【0094】
実施例22:LM25合金におけるFe不純物耐性
スクラップ合金における鉄含量は、市販合金組成物の大半では、指定された鉄レベルより、一般に高い。増加したFe濃度は、より大きな針状AlFeSi相粒子をもたらす。これら大形の針状物は、機械的性質、特に可鍛性にとって有害である。1wt%Feで富化されたLM25へのNb−B添加の効果を調べたところ、
図41に示すように、AlFeSi針状物の粒径はNb−Bを添加すると有意に低下することが確認される。
【0095】
実施例23:Al−5wt%NbB
2母合金の透過型電子顕微鏡法による研究
AlとNbB
2またはAl
3Nbの間の位相コントラストを調べるために、Al−5NbB
2についてTEM分析を行った。位相の異なる電子を対物絞りに通すと常に、位相コントラストが生まれる。大半の電子散乱機序は相変化を伴うので、ある種の位相コントラストは全ての像に存在する。最も有用なタイプの位相コントラスト像は、より多くの回折ビームを使って像を形成させた場合に形成される。いくつかのビームを選択することにより、しばしば高分解能電子顕微鏡(HREM)像と呼ばれる組織像を形成させることができる。多くの縞模様が交差して、
図42に見られるように、原子列に対応する輝点のパターンを与える。Nb系粒子とAlの間にコヒーレント界面を見ることができる。Nb系粒子とAlマトリックスの間の格子不整合は0.1%である。異質な固相とAlの間のそのような小さな格子不整合は、これらの粒子が効果的な不均質核生成部位として作用しうるであろうことを示唆している。
【0096】
実施例24:Al−Nb−B母合金の加工
実施例6に記載の合金に加えて、表4に記載の組成を有する母合金を調製した。Nb金属粉末およびKBF
4の形のホウ素を、表4に示す必要量でアルミニウム液体に添加する。溶融物を鋳造してAl−Nb−B母合金を生産する。これらの母合金は全て、LM6合金およびSiが約10%である他の合金についての結晶粒微細化で試験された。粒度はルーラーで測定され、誤差は±0.05mmである。
【0097】
【表4】
【0098】
実施例25:Al−Nb母合金へのホウ素の添加によるAl−Nb−B母合金の加工
市販Al−10Nb母合金を900℃で溶融し、合金を希釈するために純Alを添加することで、Al−2Nb母合金を形成させる。次に、Al−2Nb−Bの母合金組成に達するように、その溶融物に1wt%ホウ素を添加する。合金を鋳鉄製鋳型に鋳造する。
図43にこの合金のミクロ組織を示すが、これは針状のアルミナイド(Al
3Nb)およびホウ化物粒子を明らかにしている。結晶粒微細化を検証するためにこの母合金をAl−10Si合金に添加する。この母合金について結晶粒微細化が確認される。
【0099】
実施例26:Mg系合金
0.1wt%Nb+0.1wt%Bの添加あり、および添加なしで、TP1鋳型を使って、660℃の鋳込温度で、以下のMg合金を鋳造した。結晶粒微細化がこれらの合金の全てについて観察された。
【0100】
【表5】