特許第5923117号(P5923117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923117
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】金属合金の微細化方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 27/20 20060101AFI20160510BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20160510BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20160510BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20160510BHJP
   C22C 23/02 20060101ALN20160510BHJP
【FI】
   B22D27/20 B
   C22C21/02
   B22D21/04
   !C22C21/00 N
   !C22C23/02
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-554002(P2013-554002)
(86)(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公表番号】特表2014-517770(P2014-517770A)
(43)【公表日】2014年7月24日
(86)【国際出願番号】GB2012050300
(87)【国際公開番号】WO2012110788
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2015年2月3日
(31)【優先権主張番号】1102849.5
(32)【優先日】2011年2月18日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】502104011
【氏名又は名称】ブルーネル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】ナデンドラ・ハリ・バブ
(72)【発明者】
【氏名】ノワック・マグダレナ
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−234061(JP,A)
【文献】 特開平3−257175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 27/20
B22D 21/04
C22C 21/02
C22C 21/00
C22C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも3%w/wのケイ素を含むAl-Si合金または(ii)マグネシウム合金の粒度を微細化する方法であって、
(a)二ホウ化ニオブAl3Nb両方を形成させるために充分なニオブおよびホウ素を合金に添加する工程、または
(b)合金に二ホウ化ニオブとAl3Nbを添加する工程、または
(c)それらの任意の組合せ
を含む方法。
【請求項2】
(i)少なくとも3%w/wのケイ素を含むAl-Si合金または(ii)マグネシウム合金の粒度を微細化する方法であって、
(a)二ホウ化ニオブもしくはAl3Nbまたはその両方を形成させるために充分なニオブおよびホウ素を第1合金の一部に添加する工程、および
(b)工程(a)の生成物を第2合金の一部に添加する工程
を含み、第1合金と第2合金は同じであるか異なっている方法。
【請求項3】
微細化されている合金がAl-Si合金であり、二ホウ化ニオブの少なくとも一部が反応してAl3Nbを形成する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
微細化されている合金がMg−Al合金である、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
二ホウ化ニオブの量が合金の少なくとも0.001重量%である、請求項1に記載の使用または請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
二ホウ化ニオブの量が合金の10重量%以下である、請求項1に記載の使用または請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Al-Si合金が3〜25wt%のケイ素を含む、請求項1に記載の使用または請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法または使用によって得ることができる合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、金属合金の粒度を微細化する方法、特にアルミニウム−ケイ素合金およびマグネシウム合金(アルミニウムを含むものとアルミニウムを除外したものの両方)の粒度を微細化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属合金の生産における重要な目標は、最終製品の粒度の低減である。これは「結晶粒微細化」として知られており、一般に、金属合金結晶の接種を促進すると思われる物質であるいわゆる「結晶粒微細化剤」を添加することによって対処されている。接種による結晶粒微細化は、鋳造プロセスに多くの恩恵をもたらし、機械的性質の改良に著しい影響を有する。微細な等軸結晶粒組織は、高い降伏強さ、高い靱性、良好な押出性、微細スケールでの第二相および微小空隙の均一な分布を付与する。これは、結果として、改良された機械加工性、良好な表面仕上げおよび耐熱間割れ性を(他のさまざまな望ましい性質と共に)もたらす。
【0003】
アルミニウムは比較的軽い金属であり、それゆえに、金属合金の重要な構成成分である。アルミニウム合金には2つのグループ、すなわち展伸合金と鋳造合金とがある。展伸合金には、Al−Ti−B(Al−xTi−yBで、0≦x≦5および0≦y≦2の形にあるもの)およびAl−Ti−C系母合金などのチタン系結晶粒微細化剤が、よく使用される。しかし鋳造合金の場合、チタン系結晶粒微細化剤の添加はそれほど効果的ではなく、ケイ素含量が3%を上回るアルミニウム−ケイ素合金の場合は特にそうである。ケイ素レベルが3%を上回ると、ポジショニング効果(Ti−Si化合物の形成によるチタンの消費)が生じると考えられる。
【0004】
大半のアルミニウム鋳造合金が3wt%を軽く上回るレベルのケイ素を含む点に注意することが重要である。例えば英国では、大半の鋳造アルミニウム合金構成成分は、LM2、LM4、LM6、LM21、LM24およびLM25と呼ばれるわずか数種類の合金でできている。これらの合金の全てにおいて、ケイ素レベルは6wt%と12wt%の間にある。
【0005】
ケイ素濃度に応じて、アルミニウム−ケイ素合金は、上に挙げたLM2、LM4、LM6、LM21、LM24およびLM25などの亜共晶(Si<12wt%)または過共晶(Si>12%)と分類される。過共晶Al−Si合金は、優れた耐摩耗性および耐食性、低い密度および高い熱安定性を有する。これらの合金は、耐摩耗応用(ピストン合金など)に広く使用されている。過共晶系では、初晶相はケイ素であり、それが、過共晶Al−Si合金の破壊靱性に対して有害な効果を有する粗大なプレートレットやポリゴンなどの不規則な形態を示す。それゆえに、これらのケイ素粒子を効果的に微細化しなければならない。
【0006】
リンは(数ppmの添加レベルで)初晶ケイ素の最も効果的な微細化剤の一つとして広く受け入れられており、一般に、溶融物におけるリン化アルミニウム(AlP)粒子(格子定数a=0.545nm)の形成ゆえに使用されている。ケイ素は、パラメータがAlPと極めてよく似ているため、AlPの基盤上に立方体−立方体方位関係で不均質に核生成し、固化して、ファセットケイ素粒子を形成しうることが示唆されている。リンの添加は、実用的固化条件下で、ケイ素の粒度を約100μmから30μmまで微細化することが観察されている。しかしリンは共晶組織を有する合金の粒度は微細化しない。加えて、より良い耐摩耗応用のために、特に高温における応用のために、初晶ケイ素の粒度をさらに微細化することが重要である。
【0007】
マグネシウムは最軽量の構造用金属であり、それゆえに、多くの重要な工業的合金に使用されている。アルミニウム合金の場合と同様、鋳造プロセス前のマグネシウム合金溶融物への結晶粒微細化剤の添加は、市販鋳造物の粒度を最適化するための重要な方法とみなされてきた。結晶粒微細化剤の使用は、合金の機械的性質を強化するだけでなく、機械加工性を改良するために金属間化合物および溶質元素の均一な分布も誘導し、良好な表面仕上げ、好ましい耐熱間割れ性および顕著な押出性を与える。
【0008】
ジルコニウムは、アルミニウム不含マグネシウム合金(ZE43、ZK60およびWE43など)の効果的な結晶粒微細化剤であることが見いだされている。しかし、ジルコニウムとアルミニウムの間に望ましくない反応が起こって粒度微細化に有害な作用を及ぼす安定な金属間化合物相を形成するので、ジルコニウムをアルミニウム含有マグネシウム合金(AZ系列合金およびAM系列合金)の結晶粒微細化剤として使用することはできていない。その上、炭素接種剤(例えばグラファイト、Al43またはSiC)はAl含有Mg市販合金の粒度を微細化することが観察されているものの、大量の液体に炭素系相を均一に混合することに伴う加工上の困難ゆえに、そのような化学添加剤がマグネシウム工業においては商業的に使用されることはない。具体的には、安定性の問題ゆえに母合金を生産することができず、マグネシウム合金の結晶粒微細化は十分でない。
【0009】
さまざまな従来技術文献には、硬さまたは結晶粒微細化剤として作用すると思われる添加材(alloyant)が数多く記載されている。例えば英国特許第595,214号明細書(Brimelow);英国特許第595,531号明細書(Bradbury);英国特許第605,282号明細書(The National Smelting Company);英国特許第563,617号明細書(The National Smelting Company);欧州特許出願公開第0265307A1号明細書(Automobiles Peugeot);米国特許出願公開第2005/0016709A1号明細書(Saha);米国特許出願公開第2008/0219882A1号明細書(Woydt);欧州特許出願公開第1205567A2号明細書(Alcoa,Inc.)および国際公開第91/02100号パンフレット(Comalco)を参照されたい。しかしこれらの従来技術文献のなかに、本発明が必要とする二ホウ化ニオブは言うまでもなく、ニオブとホウ素の両方を元素状で含む合金の例さえ開示しているものはない。
【0010】
特開昭57−098647号(日産自動車)は、優れた耐摩耗性を有するアルミニウム合金材料を開示しており、これには、さまざまな材料を、なかでもNbBを、固体潤滑剤または耐摩耗性材料として添加してもよいことが開示されている。結晶粒微細化剤としてNbB2を使用することの開示は何もないようである。
【0011】
少量のケイ素(典型的には3wt%未満)を添加材(alloyant)として有するアルミニウム合金に関して結晶粒微細化剤の使用を開示している従来技術文献は、例えば英国特許第1244082号明細書(Kawecki);英国特許第605282号明細書(National);英国特許第595531号明細書(Bradbury);英国特許第563617号明細書(National);およびHE Calderon「TMS 2008,137th Annual Meeting & Exhibition,Supplemental Proceedings」2008,Metals & Materials Society,pp.425−430、「Innoculation of aluminium alloys with nanosized borides and microstructural analysis」など、種々存在する。米国特許第6,416,598号明細書(Sircar)には、低ケイ素含量アルミニウム合金の機械加工能を強化するために高融点構成要素を使用することが開示されている。しかし上述のように、本発明が特に取り組んだ技術的課題は、3wt%より高いケイ素レベルを有するアルミニウム合金に関するものである。
【0012】
ソ連特許第519487号明細書(Petrov)は、合金の機械的性質および製造性を改良するために、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、バリウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムが特別な比で添加されている、ケイ素、銅、マグネシウム、マンガン、チタンおよびホウ素を含むアルミニウム系合金を開示している。
【0013】
Petrov文献には、ニオブおよびホウ素の微量元素で形成されうる合金が開示されているが、ニオブ原子とホウ素原子は他の元素と優先的に反応するので、わずかでも二ホウ化ニオブが形成されるとは考えられない。具体的に述べると、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムおよび二ホウ化ニオブの形成のエンタルピーに基づいて、本発明者らは、Petrovの合金では二ホウ化ニオブは形成されないと考える。
【0014】
例えば、Petrovの合金中に存在する最大量のチタン(0.2wt%)は約0.09wt%のホウ素原子を取り込んでホウ化チタンを形成するのに対し、存在すると明記されたホウ素の最大量はこれより低い(0.05wt%)。それゆえに、ホウ化チタン形成の結果として、二ホウ化ニオブを形成するためのホウ素は、Petrovの合金中には一切残っていないであろう。
【0015】
加えて、存在しうる最大量のジルコニウム(0.2wt%)は約0.047wt%のホウ素原子と反応してホウ化ジルコニウムを形成する。これは、存在しうるホウ素原子の最大量(0.05wt%)に近い。
【0016】
Petrovの合金はカルシウムも含有している。ホウ化カルシウム(CaB6)の形成は著しい量のホウ素を消費し、これは優先的に起こると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】英国特許第595,214号明細書(Brimelow)
【特許文献2】英国特許第595,531号明細書(Bradbury)
【特許文献3】英国特許第605,282号明細書(The National Smelting Company)
【特許文献4】英国特許第563,617号明細書(The National Smelting Company)
【特許文献5】欧州特許出願公開第0265307A1号明細書(Automobiles Peugeot)
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0016709A1号明細書(Saha)
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0219882A1号明細書(Woydt)
【特許文献8】欧州特許出願公開第1205567A2号明細書(Alcoa,Inc.)
【特許文献9】国際公開第91/02100号パンフレット(Comalco)
【特許文献10】特開昭57−098647号
【特許文献11】英国特許第1244082号明細書(Kawecki)
【特許文献12】米国特許第6,416,598号明細書(Sircar)
【特許文献13】ソ連特許第519487号明細書(Petrov)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】HE Calderon「TMS 2008,137th Annual Meeting & Exhibition,Supplemental Proceedings」2008,Metals & Materials Society,pp.425−430
【非特許文献2】「Innoculation of aluminium alloys with nanosized borides and microstructural analysis」
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様によれば、(i)アルミニウムと少なくとも3%w/wのケイ素とを含む合金または(ii)マグネシウムを含む合金の結晶粒を微細化するための、二ホウ化ニオブの使用が提供される。マグネシウムを含む合金は、例えばさらにアルミニウムを含んでもよいし、アルミニウム不含であってもよい。
【0020】
「二ホウ化ニオブ」とは、2モルのホウ素に対して1モルのニオブで形成された、式NbB2で表される化合物を意味し、1モルのホウ素に対して1モルのニオブで形成された、式NbBで表される等量化合物ではない。NbとBをNbB2のモル比で添加した場合、相図はNbBが生じないことを示唆する。NbBの結晶組織は斜方晶系(3.298Å、8.724Å、3.166Å)であり、アルミニウムにとって効果的な核生成部位として作用しそうにない。
【0021】
理論に束縛されることは望まないが、二ホウ化ニオブは微細な相介在物を形成し、これらの介在物の一定の面は合金にとって不均質核生成部位として作用すると考えられる。しかし、アルミニウム−ケイ素合金の結晶粒を微細化するには、Al3Nbの相も存在することが、極めて好ましい。ここでも理論に束縛されることは望まないが、Al3Nbの層がNbB2溶融界面に生じ、その層が、次に、Al結晶粒を核生成させうると考えられる。
【0022】
マグネシウムを含む合金の場合は、ニオブとホウ素を添加すると、二ホウ化ニオブ相が、観察される結晶粒微細化の原因になると考えられる。アルミニウム含有マグネシウム合金中にAl3Nb相が形成されることは(不可能ではないものの)考えにくい。実験により、アルミニウム不含マグネシウム合金へのニオブとホウ素の添加は結晶粒微細化をもたらすことが示されている。
【0023】
したがって、本発明の第2の態様では、(i)アルミニウムと少なくとも3%w/wのケイ素とを含む合金または(ii)マグネシウムを含む合金の粒度を微細化する方法であって、
(a)二ホウ化ニオブもしくはAl3Nbまたはその両方を形成させるために充分なニオブおよびホウ素を合金に添加する工程、または
(b)合金に二ホウ化ニオブを添加する工程、または
(c)合金にAl3Nbを添加する工程、または
(d)それらの任意の組合せ
を含む方法が提供される。
【0024】
本発明の第3の態様では、(i)アルミニウムと少なくとも3%w/wのケイ素とを含む合金または(ii)マグネシウムを含む合金の粒度を微細化する方法であって、
(a)二ホウ化ニオブもしくはAl3Nbまたはその両方を形成させるために充分なニオブおよびホウ素を第1合金の一部に添加する工程、および
(b)工程(a)の生成物を第2合金の一部に添加する工程
を含み、第1合金と第2合金は同じであるか異なっている方法が提供される。
言い換えると、合金は、最初にマスターバッチ(結晶粒微細化剤を含む合金のごく一部)を生産し、次にそのマスターバッチをバルク合金に添加することによって、微細化されうる。
【0025】
本発明の第4の態様では、(i)アルミニウムと少なくとも3%w/wのケイ素とを含む合金または(ii)マグネシウムを含む合金であるバルク合金の粒度を微細化するためのマスターバッチ合金を生産する方法であって、
(a)二ホウ化ニオブもしくはAl3Nbまたはその両方を形成させるために充分なニオブおよびホウ素を合金の一部に添加する工程
を含む方法が提供される。
【0026】
例えば、アルミニウム合金に添加するためのマスターバッチは、一般式Al−(Xwt%(モル比でNb:2B)を有しうる(式中、Xは0.1から非常に大きい数字(ことによると99もの大きさ)までであることができる)。代替的一実施形態では、マスターバッチが、元素状のニオブおよびホウ素を、最終合金製品中に充分な二ホウ化ニオブを形成させるのに充分な量で含みうる。
【0027】
本方法において使用される合金は、好ましくは、アルミニウム−ケイ素合金(最も好ましくはLM6などのアルミニウム−ケイ素合金)またはマグネシウム合金(最も好ましくはAZ91Dなどのマグネシウム−アルミニウム合金)であるが、本方法は、結晶粒微細化が必要な任意の合金で使用しうる。
【0028】
好ましい一実施形態では、微細化されている合金がアルミニウムおよびケイ素を含み、二ホウ化ニオブの少なくとも一部が反応してAl3Nbを形成する。これに代えて、またはこれに加えて、アルミニウムとニオブからAl3Nbを直接形成させることもできる。
【0029】
一実施形態では、二ホウ化ニオブの量が合金の少なくとも0.001重量%である。もう一つの実施形態では、二ホウ化ニオブの量が合金の10重量%以下である。
【0030】
少なくとも3wt%のアルミニウムを有する任意のアルミニウム−ケイ素合金の結晶粒を微細化するために本方法を使用する場合、好ましくは、3〜25wt%のケイ素を有する合金において、本方法を使用する。
【0031】
本発明の第5の態様では、アルミニウムと少なくとも3%w/wのケイ素とを含む合金の結晶粒を微細化するための、Al3Nbの使用が提供される。
【0032】
本発明の第5の態様では、上に定義した方法または使用によって得ることができるものを提供する。
【0033】
二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤は粒度を有意に微細化することが観察され、輸送車両における鋼および鋳鉄に代わる軽量アルミニウムのより幅広い使用に重要な役割を果たしうると予想される。より良い流動性を有するように、鋳造物は、通常、40℃前後過熱されることになり、市販純アルミニウムの場合は、それが700℃であることに注意することが重要である。過熱とは通常、合金の溶融温度を上回る液体の温度を指す。市販純Alの溶融温度は660℃である。合金の流動性は温度が増加するにつれて増加する。通常は、より良い流動性という観点から、鋳造温度は、合金に応じて、溶融温度を40℃〜100℃上回る範囲にあるだろう。したがって、工業では、市販純Alまたは希薄Al合金が、少なくとも40℃の過熱温度で鋳造される。非常に高い過熱は、溶融物酸化のリスクが深刻なので、良い選択ではないことに注意されたい。
【0034】
以下に、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態をいくつか説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】LM6合金に関して粒度を二ホウ化ニオブの量の関数として示すグラフである。この量はマスターバッチ合金の出発組成を表す。実際のNbB2濃度ははるかに低いものでありうる。
図2】工業用純アルミニウムに関して粒度をニオブおよびホウ素の添加の関数として示すグラフである。
図3】LM6合金に関して粒度をニオブおよびホウ素の添加の関数として示すグラフである。
図4】結晶粒微細化剤としてのニオブおよびホウ素を含まない、そしてそれらを含む、工業用純アルミニウムの断面の写真を示す図である。
図5図5(a)および(b)は、結晶粒微細化剤としてのニオブおよびホウ素を含まない、およびそれらを含む、工業用純アルミニウムの標本の写真である。図5(c)は、(a)および(b)の標本に関する、鋳込温度の関数としての粒度のグラフである。
図6図6(a)は、異なる量のケイ素を含む合金に関する、結晶粒微細化剤のタイプの関数としての粒度のグラフである。図6(b)は、粒度を示す、2つの異なるアルミニウム合金の顕微鏡像を示している。
図7】結晶粒微細化剤のタイプに応じて、LM25合金に関する粒度を、鋳込温度の関数として示すグラフである。
図8】結晶粒微細化剤のタイプに応じて、LM24合金に関する粒度を、鋳込温度の関数として示すグラフである。
図9】結晶粒微細化剤のタイプに応じて、LM6合金に関する粒度を、鋳込温度の関数として示すグラフである。
図10】粒度をLM6合金に添加された結晶粒微細化剤のタイプの関数として示す棒グラフである。
図11】伸びおよび最大引張強さ(UTS)に関してプロットしたグラフである。
図12図12(a)は、ニオブ結晶粒微細化剤ありおよびニオブ結晶粒微細化剤なしのLM25合金に関して、粒度を冷却速度の関数として示すグラフである。図12(b)は、冷却速度が粒度に対して有する効果を実証するための、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤ありおよび二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤なしで形成させたLM6合金標本の写真を示す図である。図12(c)は、冷却速度の関数としての、共晶Siニードルサイズのグラフである。共晶結晶粒組織の相違を明らかにするために、2つのミクロ組織も示されている。
図13】面積空隙率をLM6合金に添加された結晶粒微細化剤のタイプの関数として示す棒グラフである。
図14】0.1wt%Nb+0.1wt%B(a)なしおよび(b)ありのAl−14Si合金のミクロ組織である。
図15】Al−Nb−B母合金のSEMおよび光学顕微鏡像を示す図である。
図16】Al−Nb−B母合金の添加(a)なしおよび(b)ありの工業用純Al合金の結晶粒組織を示す図である。
図17】Al−Nb−B母合金なしおよびAl−Nb−B母合金ありのLM25合金ミクロ組織の顕微鏡像を示す図である。
図18】二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤を有するLM6合金に関して、粒度を、保持時間の関数として示すグラフである。
図19】高圧ダイキャスト法を使ったLM6合金鋳造物を表す図である。
図20】粒度を、AZ91D合金への二ホウ化ニオブ添加の関数として示すグラフである。
図21】二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤なしおよび二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤ありのAZ91D合金鋳造物の組織の顕微鏡像を示す図である。
図22】追加ニオブなしおよび追加ニオブありの従来技術合金の粒度およびミクロ組織を示す図である。
図23】二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤ありおよび二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤なしのLM6合金の固化中の時間の関数としての温度のグラフである。
図24】a)過冷却が0.4℃のAl−5Si、b)過冷却が約0.1℃の、Nb−B添加ありのAl−5Siの、冷却曲線の形でのAl−5Si合金の熱分析を表す図である。添加なしのAl−5Si合金、およびNb−B添加ありのAl−5Si合金について、固化試料のマクロエッチングした断面のスキャン画像も示す。Al−5Siの粒度は約1cmであり、Nb−Bを添加すると、それが380μmに減少する。
図25】Nb−Bの添加ありおよびNb−Bの添加なしの二元合金Al−14Siの光学顕微鏡像を示す図である。さまざまな倍率の顕微鏡像により、Si粒子のサイズおよび分布が明らかになる。サイズの大きい(約100μm)初晶Siが、TP1試料の全体にわたって均一に分布している。Nb−Bを添加すると、初晶ケイ素粒径は小さくなる(1〜5μm)。ごくわずか(<2%)な魚骨タイプのSi粒子も観察される。
図26】添加なし、0.1wt%Al−5Ti−B添加あり、および0.1wt%Nb−0.1wt%B添加ありの、Al−14Siの典型的ミクロ組織を示す図である。
図27】Nb−Bを添加したAl−14SiのTP−1試料の模式的断面および異なるミクロ組織を示す図である。
図28】一切の添加なしおよびNb−BありのAl−14Siの試料のミクロ組織を示す図である。溶融物を、1℃/sおよび5℃/sの冷却速度を与える2タイプの鋳型に鋳造した。
図29】冷却速度が約5℃/sの鋳型におけるAl−16Si合金鋳造物に関し、a)Al−Si共晶混合物における初晶ケイ素粒子を示すミクロ組織、およびb)Nb−B添加なしおよびNb−B添加ありのAl−16Siにおける粒子分布を示すヒストグラムを表す図である。
図30】Al−18Si合金に関し、a)共晶のミクロ組織、ならびにb)Nb−BなしおよびNb−BありのAl−18Siにおける共晶サイズ分布を示すヒストグラムを表す図である。
図31】LM13合金;0.1%Nb−0.1%BありのLM13、および0.1%Nb−0.1%B−0.02%SrありのLM13のミクロ組織を含む図である。
図32】添加すると初晶Alと初晶Siの両方に微細な結晶粒組織をもたらすNb−B−Pありの、およびNb−B−Pなしの、LM13合金のミクロ組織。
図33】Al−Si二元合金に関して二次デンドライトアーム間隔のサイズに対するNb−Bの影響を示すグラフである。
図34】添加なしおよびNb−BありのAl−6Siに関して、二次アーム間隔および粒度を、冷却速度の関数として示すグラフである(冷却速度が増加するにつれて二次アーム間隔は減少する)。
図35】Nb−B添加なしおよびNb−B添加ありのLM6におけるFe相のミクロ組織を表す図である。
図36】Nb−B添加なしおよびNb−B添加ありの高圧ダイキャストLM24合金のミクロ組織を表す図である。
図37】高圧ダイキャスティング法を使って加工されたLM6およびLM24合金に関する最大引張強さ対伸びを示すグラフである。
図38】(a)Nb−B添加ありおよびNb−B添加なしのLM6について粒度を冷却速度の関数として示すグラフ、および(b)マクロエッチングした試料の写真を含む図である。
図39】Nb−B添加なしおよびNb−B添加ありならびに熱処理ありおよび熱処理なしのLM25に関する、伸びの関数としての引張強さのグラフである。
図40】0.1wt%Nb−0.1wt%Bを添加したLM6のリサイクリングを表すグラフである。
図41】1%Feおよび1%Fe/0.1wt%Nb/0.1wt%Bで富化されたLM25合金のミクロ組織を示す図である。
図42】粒子/マトリックス界面の透過型電子顕微鏡法による分析を示す図である。粒子(p)とAlマトリックス(m)の間の良好な格子整合(<1%)。転位が観察されるコヒーレント界面。
図43】Nb系粒子を示す、Al−2Nb−Bの出発組成を有する母合金のミクロ組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0036】
実施例1−LM6合金用の結晶粒微細化剤としての二ホウ化ニオブ
本発明者らは、NbB2相(Al−5wt%の(Nb:2Bモル比)という形で前もって合成されたものを、LM6合金(以下の元素を以下の重量パーセントで含むアルミニウム合金:Si=10〜13%;Fe=0.6%;Mn=0.5%;Ni=0.1%;Mg=0.3%;Zn=0.1%;およびTi=0.1%)に導入した。下記表1および図1に示すように、NbおよびBの濃度が増加するにつれて粒度は減少することから、NbB2および/またはAl3Nbが溶融物における不均質核を強化することが確認される。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例2−工業用純アルミニウム用の結晶粒微細化剤としての二ホウ化ニオブ
図2に、Si−0.02;Fe=0.07;Mn=0.001;Zn=0.02;Ti=0.006;Ni=0.001(どの量もwt%)の不純物を含み、さまざま量のNbおよびBが添加されている、Norton Aluminium Ltd.から入手したアルミニウム合金の粒度を示す。この図から、Nb添加とB添加の組合せは極めて有効であることがわかる。
【0039】
図3に示すように、Al−Si鋳造合金(LM6)についても、同様の結果が得られる。
【0040】
実施例3:Al−Si二元合金における結晶粒微細化
下記表2に示す合金を、温度範囲750〜800℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。等量のNb粉末をKBF4粉末の形のホウ素と混合した。KBF4とAlの間の反応は発熱性であり、局所温度は短期間、1500Cを超える場合がある。約0.1wt%Nbおよび0.1wt%Bを、表2に示す合金の溶融物に添加した。0.12wt%〜6.1wt%のNbB2に対応する広範囲(0.1〜5wt%)のNbおよびBレベルでも実験を行った。結晶粒微細化剤添加ありおよび結晶粒微細化剤添加なしで鋳造するために、一般にTP1鋳型として知られている標準的な試験手順を使用した。TP1鋳型は3.5K/秒の冷却速度を与え、これは大工業的鋳造条件のそれに似ている。比較のために、Al−5Ti−B結晶粒微細化剤添加ありの実験を行った。化学電解研磨(HClO4+CH3COOH)およびBakerの陽極酸化を使って結晶粒界を明らかにした。Zeiss偏光光学顕微鏡をAxio4.3画像解析システムと共に使用し、直線切断法を使って粒度を測定した。粒度を視覚的に比較するために、Keller氏液を使ってマクロエッチングを行った。
【0041】
【表2】
【0042】
結果
市販純アルミニウムへの0.12wt%二ホウ化ニオブの添加の効果を図4に示す。Nb系化学物質の添加によって粒度は有意に低下することが観察される。微細な結晶粒組織は、大型のビレットを製造する場合に、いくつかの利益(例えば、低下した化学的偏折、低下した空隙率、熱間割れの不在)をもたらす。
【0043】
図5は、工業用純アルミニウムから生産された、マクロエッチングしたTP−1試験鋳型標本の表面を示しており、二ホウ化ニオブ添加(a)なしおよび(b)ありのアルミニウムについて、粒度を明らかにしている。図5(c)は、Alのみ、および二ホウ化ニオブと組み合わせたAlについて、測定された粒度を鋳込温度の関数として示している。
【0044】
Al−Si鋳造合金にとって、Al−5Ti−B母合金は効率のよい結晶粒微細化剤ではなく、有害な効果を有する場合さえあることが知られている。Al−Si二元合金における本発明者らの一連の実験は、Si含量が>5wt%である場合には、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤の方がAl−5Ti−Bよりうまく機能することを示している(図6参照)。
【0045】
実施例4:市販鋳造合金における結晶粒微細化
表3に、大型の構造体を鋳造するためによく使用される市販鋳造合金のリストを示す(全ての量はwt%)。これらの合金を全て750〜800℃で溶融した。0.1wt%NbおよびKBF4の形の0.1wt%のホウ素を溶融物に添加した。TP1鋳型(3.5K/秒の冷却速度)を使用した。LM25には、TP1鋳型に加えて、他にも2タイプの鋳型(0.7K/sおよび0.0035K/s)も使用した。これらの低い冷却速度は、冷却速度が0.1K/s程度まで低い場合がある砂型鋳造条件をシミュレートするために使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
LM25鋳造合金での実験により、二ホウ化ニオブの添加は、図7に示すように、TiBの添加よりも効果的に粒度を減少させることが確認される。冷却速度は毎秒3.5Kであり、全ての実施例で同じTP1鋳型を使用したので、これは全ての実施例での冷却速度であった。
【0048】
LM24鋳造合金での実験により、二ホウ化ニオブの添加は、図8に示すように、Al−Ti−Bの添加よりも効果的に粒度を減少させることが確認される。この効果はある温度範囲で明白であることがわかるが、通常の工業的手法は液相線温度より少なくとも40〜50℃は高い溶融合金を注湯することであるから、このことは重要である。
【0049】
LM6鋳造合金での実験により、二ホウ化ニオブの添加は、図9に示すように、Al−Ti−Bの添加よりも効果的に粒度を減少させることが確認される。
【0050】
LM6合金における結晶粒微細化に対するNbおよびBの影響
文献では、Al−Si合金の場合、Al−Ti−B添加の代わりにホウ素を添加すると、粒度が微細化されると主張されている。これを検証するために、本発明者らは、ホウ素(KBF4の形)、ニオブ、Al−5Ti−1B、ならびにニオブとホウ素の組合せ(Nb−KBF4の形)を添加した。図10からわかるように、NbもBも単独では粒度を微細化しない。Nb−Bの組合せだけが、粒度を効果的に微細化する。
【0051】
機械的性質:
引張試験片を作製するために、円筒棒状(直径13mmおよび長さ120mm)のLM6合金試料を、鋼製鋳型で鋳造し、ASTM規格によって指定されている寸法の引張試験片標本を機械加工した。引張試験標本の正確な寸法は基準径6.4、ゲージ長25mmおよびつかみ部の直径12mmである。引張特性試験は万能材料試験機(Instron(登録商標)5569)を使って、2mm/分のクロスヘッド速度(ひずみ速度:1.33×10-3-1)で行った。非微細化LM6は181MPaの最大引張強さ(UTS)を有するが、結晶粒微細化後は、UTSが20%改良されて225MPaになることが観察される。さらにまた、伸びは、LM6では、二ホウ化ニオブ添加によって、3%から4.6%に改良された。これらの結果を図11に示す。
【0052】
冷却速度の効果
図12(a)は平均粒度を冷却速度の関数として示す。LM25の場合、低い冷却速度(砂型鋳造鋳型冷却速度)では粒度が有意に増加する。Nb−B添加合金では微細な結晶粒組織が観察され、これにより、その結晶粒微細化効率が再確認される。
【0053】
冷却速度が粒度に及ぼす効果を実証するために、図12(b)に、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤ありおよび二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤なしで形成されたLM6合金標本の写真を示す。
【0054】
初晶Al粒度に加えて、微細なAl−Si共晶組織も広範な冷却速度で得られる−図12(c)参照。この微細な共晶組織および低下した空隙率は合金の可鍛性を改良する。
【0055】
空隙率
鋳造欠陥の一例は固化した合金の空隙である。図13に3つの異なる鋳造条件について空隙面積率の比較を示す。Al−Nb−B母合金添加は空隙率を有意に低下させることがわかる。
【0056】
実施例5:過共晶合金の結晶粒微細化
Nb−Bの添加の効果を調べることを目指して、本発明者らは、最初に、Al−14%Si合金インゴットを作製し、ファウンドリマスターを使って、マスターブロック中のさまざまな場所でサンプリングすることにより、ブロック全体にわたるSi濃度の均一性を確認した。この合金は750Cで溶解し、0.1wt%ニオブおよび0.1wt%ホウ素(0.123wt%NbB2に対応)を溶融物に添加してから、TP1鋳型(3.5K/s)および鋼製鋳型(1K/s)で鋳造した。
【0057】
結果
図14に、NbB2の添加ありおよび添加なしでのAl−14Siのミクロ組織を示す。極めて微細な初晶Si相が観察される。加えて、微細な共晶針状組織が観察される。他の加工方法がこのような微細な結晶粒組織をもたらすことは知られていない点に注意することが重要である。
【0058】
実施例6:Al−NbB2母合金を生産するための方法
本発明者らは、新たに発見されたNbとBの化学的組合せによる新規結晶粒微細化剤を極端に簡単な方法でAl−Si系溶融物に添加することを可能にする実用的方法を開発した。この方法では本発明者らは最初に、Al−Nb−B母合金を生産し、次に、この母合金の小片をAl−Si系合金の溶融物に単に添加するだけで、固化金属において微細な結晶粒組織が生じうることを実証する。
【0059】
母合金の形での結晶粒微細化剤の添加は工業では一般的な手法である。これにより、鋳造プロセスにおける腐食性KBF4塩の使用が回避される。塩添加の代わりに、微細な粒度を得るために、二ホウ化ニオブ結晶粒微細化剤をAl−Nb−B母合金の小さな金属片の形でAl−Si系液体合金に添加できることを、本発明者らは示す。濃縮されたAl−Nb−B合金の添加はアルミニウム溶融物へのNbB2の均一な分散を保証する。
【0060】
母合金の一般式はAl−x wt.%Nb−y wt.%Bである。xの範囲は0.05〜10であり、yの範囲は0.01〜5である。以下に3つの例を挙げる。
【0061】
実施例6A:Al−4.05Nb−0.09B(Al−5wt%(Nb:2Bモル比)と等価)の加工
市販純Alインゴットを温度範囲800〜850℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。NbB2相を形成させるために、5wt%NbB2(NbとKBF4の混合物)を溶融物に添加した。Al3Nb相介在物も生じうる点に注意することが重要である。KBF4とAlの間の反応は発熱性であって局所温度は短時間1500℃を超える場合があり、その高温がAlへのNbの溶解を促進すると考えられる。溶融物は、15分ごとに約2分間、非反応性セラミック棒で撹拌した。溶融物の表面上のドロスをすくい取り、液体金属を円筒状鋳型に鋳造した。この鋳造金属をAl−Nb−B結晶粒微細化剤母合金と呼ぶ。Al−Nb−Bのミクロ組織を図15に示す。この図は、Alマトリックス中に均一に分布した微細な介在物およびミクロ組織を有するNb系粒子を明らかにしている。TEM研究はAlと介在物の間の界面が高度にコヒーレントであることを示唆しており、これは、それらが不均質Al核形成を強化している可能性を示唆する。
【0062】
実施例6B:市販純アルミニウムへのAl−5Nb−1B母合金の添加
市販純Alを温度範囲750〜800℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。Al−5wt%NbB2母合金の小片(Alの重量に対して0.1wt%NbB2と等価)を溶融物に添加した。15分後に、溶融物を約2分間撹拌し、TP1鋳型に鋳造した。試料を研磨し、陽極酸化して、結晶粒界を明らかにした。少量のAl−Nb−B結晶粒微細化剤母合金添加による添加を行った市販純Alの粒度を図16に示す。この実用的経路でも微細な結晶粒組織が得られることがわかる。ミクロ組織の特徴は図4のものと似ているように見える。
【0063】
実施例6C:市販Al−Si合金(LM25)へのAl−5Nb−1B母合金の添加
LM25合金を温度範囲750〜800℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。Al−5wt%NbB2母合金の小片(LM25の重量に対して0.1wt%NbB2と等価)を溶融物に添加した。15分後に、溶融物を約2分間撹拌し、TP1鋳型に鋳造した。Al−Nb−B母合金添加による添加を行ったLM25の粒度を図17に示し、添加なしと比較する。Al−Nb−B母合金の添加により、微細化された結晶粒組織が得られることがわかる。
【0064】
実施例7:フェーディング研究
アルミニウム液体溶融物中の核生成剤相粒子は集塊を形成し、この集塊挙動が時間と共に増加する。結果として、結晶粒微細化効率は時間と共に劣化する。そこで、液体が少なくとも30〜60分間は高温のままである工業的応用の観点から、フェーディング研究は極めて重要である。
【0065】
実験:約2KgのLM6合金溶融物を電気抵抗炉で調製した。TP1鋳型を使って試験試料を鋳造した。Nb/Bを溶融物に添加し、撹拌した。さまざまな時間間隔で試料をTP1鋳型中に鋳造した。鋳造に先だって、溶融物をセラミック棒で穏やかに撹拌した。図18に、粒度を時間の関数として示す。粒度は、1時間まではほとんど影響を受けず、その後、時間と共にわずかに増加することが観察された。3時間後でさえ、粒度が、LM6粒度より有意に低い約515μmである点に注意することが重要である。
【0066】
実施例8:高圧ダイキャスティングで生産された結晶粒微細化LM6およびLM24の引張特性
先の実施例では重力鋳造を使ってLM6合金を生産した。しかし工業的プロセスでは、超高速製造プロセスである高圧ダイキャスティング(HPDC)を使って、小さな合金構成成分を生産する。LM24合金はHPDC用に特別に設計された合金である。この研究では、HPDC機を使って、Nb/Bの添加ありおよび添加なしで、LM24合金とLM6合金の両方を鋳造した。HPDCが与える冷却速度は>103K/sであることに注意されたい。そのような高い冷却速度でさえ、粒度の微細化は観察される(図19参照)。伸びは、LM6合金の場合で6.8%から7.7%に、またLM24合金の場合で3%から3.6%に改良されていた。これら2つの材料が同じ強さおよび硬さを有すると、より高い可鍛性を有する方が、実際の応用には、より望ましい。
【0067】
実施例9:マグネシウム(AZ91D)合金へのNbB2添加
上記実施例6において合成したAl−5wt%NbB2母合金を、液状および鋳造型のAZ91D合金に添加した。図20に示すように、AZ91D合金の粒度は、NbB2濃度が増加するにつれて減少することから、NbB2はMg合金溶融物における不均質核を強化することが確認される。理論に束縛されることは望まないが、粒度が減少した理由は、主として、NbB2相結晶とMg相結晶の間の整合によるものと思われる。どちらの結晶組織も六方晶系であり、基底面における格子不整合は1.8%である。格子不整合が小さい(<5%)場合、不均質核の形成のためのエネルギー障壁は無視できることが知られている。
【0068】
実施例10:Mg合金における結晶粒微細化
AZ91D合金を680℃の電気炉で溶融し、2時間保持した。SF6+N2気体混合物を使って溶融物を酸化から保護した。約0.1wt%Nbおよび0.1wt%B(約0.123wt%NbB2)を溶融物に添加し、インペラーで1分間撹拌した。内径33mmの鋼製円筒状鋳型を200℃に予熱し、NbB2を含有する溶融物を鋳型に注湯した。比較のためにNbB2添加なしの実験も行った。両方の鋳造物試料を研磨し、化学エッチングした。Zeiss偏光光学顕微鏡をAxio4.3画像解析システムと共に使用し、直線切断法を使って粒度を測定した。図21に示すように、極めて微細な結晶粒組織が観察された。
【0069】
実施例11:比較実験
以下に説明する組成を有する合金を、0.15wt%ニオブの添加あり、および0.15wt%ニオブの添加なしで、調製した。0.15wt%Nbを有する合金はSU519487(Petrov)に開示された合金の範囲に包含される。どちらの合金についても類似する条件でTP1鋳造物試料を作製した。図22からわかるように、ニオブの添加は結晶粒微細化をもたらさず、このことは、二ホウ化ニオブがPetrovに開示された合金では形成されてないことと合致する。
【0070】
組成(wt%)
ケイ素 10
銅 3.5
マグネシウム 0.4
マンガン 0.25
チタン 0.2
ジルコニウム 0.2
ホウ素 0.025
モリブデン 0.2
カドミウム 0.02
バリウム 0.05
カルシウム 0.05
ナトリウム 0.005
カリウム 0.025
アルミニウム 残り
実施例12:LM6合金に関する冷却曲線の測定
0.1wt%Nb+0.1wt%B(KBF4の形)ありおよびなしのLM6合金試料を、予熱(800℃)した鋼製るつぼに入れた(0.123wt%NbB2と等価)。K型熱電対(直径0.5mm)を使って試料の温度を時間の関数として監視し、データ取得ソフトウェアによって記録した。測定された冷却曲線を表23に提示する。純LM6液体の冷却速度と、0.1wt.%Nb+0.1%B(0.123wt%NbB2と等価)を含むLM6液体の冷却速度は似ている(それぞれ約0.5℃/sおよび0.3℃/s)ことがわかる。LM6では過冷却が1.5℃と測定されるのに対し、0.1wt%Nb+0.1wt%Bの添加は過冷却を劇的に減少させた(ΔTは約0.5℃である)。減少した過冷却は、Al−Si液体金属におけるNb系介在物の存在が不均質核生成過程を強化しうること、そしてその結果として、鋳造物の粒度を1〜2cmから約440μmまで低下させうることを、明確に実証している。
【0071】
実施例13:Al−5Si合金に関する冷却曲線
Nb−Bの添加ありおよび添加なしのAl−5Si溶融物に関して、測定された冷却曲線で熱分析を行った(図24参照)。測定された過冷却は、Nb−B添加なし、およびNb−B添加ありのAl−5Si合金に関して、0.4℃および0.1℃である。冷却曲線測定の結果として生成したインゴットのマクロエッチングした表面も示す。自動車用の大きな鋳造構造物を生産するために工業で一般に使用される砂型鋳造プロセスに似た、0.04℃/sという非常に遅い冷却速度では、Nb−B添加の使用により、粒度の大きな相違が達成される。
【0072】
実施例14:過共晶Al−Si合金へのNb−Bの添加
共晶点に近いAl−14Siを800℃で溶融した。0.1wt%Nb+0.1wt%Bの添加ありおよび添加なしの溶融物を、3.5℃/sの冷却速度を与えるTP−1鋳型に、700℃で鋳造した。
【0073】
図25からは、Nb−Bを添加したAl−14Si合金が大きな初晶ケイ素粒子をほとんど含まないことが注目に値する。異なる形状、すなわちホッパー(hopers)(角形)および魚骨(魚の骨のように長い見た目)が存在する。魚骨状初晶ケイ素粒子が試料の縁端部(鋳型壁近く)に観察されるのに対し、ホッパー形(hoper shapes)は、試料の中央にある。比較のために、Al−14SiへのTi−B結晶粒微細化剤の添加を図26に示す。
【0074】
図27は、Nb−Bを添加したAl−14SiのTP−1試料の模式的断片を表し、試料内のミクロ組織の相違が顕微鏡像に示されている。
【0075】
Al−14SiのTP−1試料の断片から、試料の縁端部の方がSi粒子は大きいことが明らかになった。しかし試料の大半は微細なSi粒子と共晶組織とからなる。
【0076】
1℃/sの冷却速度と5℃/sの冷却速度が達成されるように2つの異なる鋳型を使用する。図28に、冷却速度の増加に伴う初晶ケイ素サイズの相違を示す。ホッパー様(hopers like)結晶は、冷却速度が高い壁付近にのみ分散し、それらの面積率は全試料面積の約10%である。しかし、試料の中央では、初晶ケイ素粒子が魚骨形態として成長した。
【0077】
高い冷却速度と短い固化時間は、より微細化されたミクロ組織の形成につながりうる。初晶ケイ素粒径は、Nb−Bを含むAl−14Siでは、高い冷却速度により、55μmから17μmへと減少している。添加なしのAl−14Siでは、Si粒径の変化が有意でない。粒径は50μmから35μmへと減少する。α−Alのサイズの変化も(図28ではコントラストが白い領域)も注目に値し、Nb−Bを含有する合金では、α−Alが添加なしの試料よりはるかに微細である。
【0078】
図29は、Al−16SiへのNb−Bの添加が初晶ケイ素を減少させることを示している。Nb−B添加は全てのSi粒子のサイズを低下させたわけではなかった。試料は、何も添加していないAl−16Siと比較すると、いくつかの大きい粒子と極めて小さい粒子を有している。
【0079】
共晶サイズについて定量的分析を行った。共晶はNb−Bを添加した場合の方がはるかに微細であることが、図30から明白である。Nb−Bはα−Alおよび初晶ケイ素を微細化していると推断することができる。α−Alとケイ素の共晶はより繊維状であり、何も添加していないAl−18Siに一般に見られるような粗大な構造ではない。
【0080】
実施例15:SrまたはP添加と共に行ったNb−B添加のLM13合金(Al−13Si−0.8Cu)への効果
(a)Sr添加:合金LM13は自動車用のピストンの生産に使用されている。LM13へのNb−BならびにSrおよびP添加の影響を調べる。共晶Siのサイズおよび形態の修飾は、本質的に脆い共晶ケイ素相の構造的微細化を促進することによって機械的性質を改良するための、LM13合金にとって一般的な手法である。Al−Si合金へのストロンチウムの添加が共晶ケイ素形態を粗大な板様組織から充分に微細化された繊維状組織へと転換させることは、よく知られている。LM13合金へのNb−BおよびSrの添加を調べるための実験を行った。図31は、マクロ組織の形態の相違を実証している。
【0081】
Nb−B+Srを添加したLM6では、α−Alの微細化が、共晶の修飾と共に依然として起こっている。
【0082】
(b)P添加:周知の初晶ケイ素微細化剤はリンであるから、Nb−B−P添加の影響を調べるために一連の鋳造実験を行った。その結果を図32に示す。Pの存在下でさえ、より微細なアルミニウム結晶粒組織が存在することから、合金組成に応じて、SrまたはP添加に加えてNb−B結晶粒微細化剤も使用できるであろうことが示唆される。
【0083】
(c)Tiリッチ合金:市販されているAl−Si合金の大半は、0.2%までのTiレベルを含んでいる。TiはAl−Si合金ではTi−Siの形成によって結晶粒微細化効果を害することが知られているので、Tiレベルの高い合金へのNb−B添加の効果を調べることは重要である。この研究で示すLM25合金とLM24合金は0.1wt%のTiを含む。これらの合金の全てにおいて、Nb−Bの添加は、実施例で説明するように、粒度を有意に微細化することが観察される。もう一つの実験では、LM25合金のTiを総含量が0.2wt%になるまで富化する。01.wt%Nb+0.1wt%Bを合金に添加すると、結晶粒微細化が観察されることが、実験的に確認される。
【0084】
実施例16:Al−Si二元合金の二次デンドライトアーム間隔(SDAS)に対するNb−Bの効果
歴史的に、冷却速度は、鋳放し合金のミクロ組織を制御するための効果的なパラメータの一つであることが判明している。冷却速度を増加させることによって、合金の二次アーム間隔は減少し、合金の強さは増加する。砂型鋳造における遅い冷却速度は通常、より大きなデンドライトアーム間隔と、より低い引張強さとをもたらす。粒度およびデンドライトアーム間隔を低下させることによって、合金の機械的性質を改良することができる。SDAS測定は、図33に示すように、Nb−B結晶粒微細化剤がSDAS形成に影響を及ぼすことを示唆している。二次デンドライトアーム間隔は、結晶粒微細化された試料におけるケイ素添加が多いほど減少することが観察される。
【0085】
図34は冷却速度、二次アーム間隔および粒度間の依存性を表す。低い冷却速度で鋳造された試料では、高い冷却速度と比較して、SDASが高い。
【0086】
実施例17:金属間化合物サイズに対する効果
LM6合金およびLM24合金に観察される金属間化合物に対するNb−B添加の効果を調べる。Nb−BなしおよびNb−BありのLM6における鉄相は、大部分が、チャイニーズスクリプト形態を有するが、粒子のサイズおよび分散は、Nb−Bを溶融物に添加した場合の方が小さい(図35)。それらは至るところに均一に分散している。
【0087】
高圧ダイキャスティング法で加工されたLM24およびLM6試料には、立方体形態の金属間化合物が見いだされた(図36)。Nb−Bを含むLM24では、小さな粒度および共晶相ゆえに、鉄粒子は40%小さかった。
【0088】
実施例18:高圧ダイキャストLM24およびLM6合金の機械的性質
図37に、Nb−B添加なしおよびNb−B添加ありのLM6およびLM24について、引張試験結果を示す。この図表は、6つの試料の平均最大引張強さを表し、この図には、それらに対応する伸び値が提示されている。
【0089】
実施例19:結晶粒組織に対する冷却速度およびNb−B添加の影響
Nb−Bの添加なしおよび添加ありで、LM6合金を800℃で溶融し、多様な冷却速度が達成されるように、異なる鋳型に鋳造した。図38に粒度を冷却速度の関数として示す。結晶粒微細化剤は異なる冷却速度に対する感受性があまり高くないことがわかる。0.03℃/sという低い冷却速度でさえ、Nb−Bを添加すると、粒度は依然として小さくなる。そのような遅い冷却下で生産された試料の断面を図に示す。
【0090】
実施例20:Al−Si合金の熱処理に対するNb−Bの影響
大半のアルミニウム鋳造物は「鋳放し」状態で使用されるが、より高度な機械的性質、または鋳放し材料とは異なる性質を要求する応用も、いくつかある。アルミニウム鋳造物の熱処理は、鋳造物を熱サイクルまたは一連の熱サイクルに付すことによって鋳放し合金の性質を変化させるために行われる。何も添加していないLM25とNb−Bを含むLM25の引張特性を比較するための実験を行った。金属への熱処理の影響を分析するために、引張試験片の熱処理も行った。引張試験片調製のために、試料を800℃で溶融し、予熱した円筒状鋳型に注湯した。LM25を溶体化処理し、532℃で5時間安定化した後、熱水で急冷し、次に250℃で3時間安定化処理した(TB7)。図39に示す図表は、添加なしおよびNb−Bあり、熱処理ありおよび熱処理なしのLM25について、測定された伸びの最大値を、対応する引張応力の関数として表している。
【0091】
図39の図表からわかるように、LM25の熱処理はその引張強さを改良した。Nb−Bの添加はLM25の伸びおよび引張強さを改良する。Nb−Bを含むLM25の熱処理は、何も添加していないLM25の3.3〜3.7%から14.7%へと、伸びを有意に改良した。
【0092】
実施例21:LM6合金のリサイクリング
回収プロセススクラップのリサイクリングはアルミニウム鋳造場における一般的な手法である。0.1wt%Nb−0.1wt%Bを添加して1kgのLM6溶融物を生産した。試料を200℃に予熱した円筒状鋳型に680℃の鋳込温度で鋳造した。次に試料を切断し、ミクロ組織分析を行った。残りの金属を、Nb−Bを一切追加せずに再び溶融した。この手順を4回繰り返した。図40に、粒度対異なるリサイクリング工程を示す。同様の実験をLM25合金に繰り返して、3回のリサイクリング後でさえ、微細な結晶粒組織を保っていることを確認した。
【0093】
粒度は1回目の鋳造後の方が小さく、1回目の再溶解後はわずかに大きくなる。2回目および3回目の再溶解でも、まだ正の結晶微細化の形跡がある。核生成部位は溶融物において依然として活性であり、これは、Nb−B結晶粒微細化剤添加後の合金のリサイクリングに有益であるだろう。溶融物にNbおよびBを追加することにより、さらに小さな結晶粒を得ることが可能であり、この研究は、工業的応用の観点から重要であるだろう。
【0094】
実施例22:LM25合金におけるFe不純物耐性
スクラップ合金における鉄含量は、市販合金組成物の大半では、指定された鉄レベルより、一般に高い。増加したFe濃度は、より大きな針状AlFeSi相粒子をもたらす。これら大形の針状物は、機械的性質、特に可鍛性にとって有害である。1wt%Feで富化されたLM25へのNb−B添加の効果を調べたところ、図41に示すように、AlFeSi針状物の粒径はNb−Bを添加すると有意に低下することが確認される。
【0095】
実施例23:Al−5wt%NbB2母合金の透過型電子顕微鏡法による研究
AlとNbB2またはAl3Nbの間の位相コントラストを調べるために、Al−5NbB2についてTEM分析を行った。位相の異なる電子を対物絞りに通すと常に、位相コントラストが生まれる。大半の電子散乱機序は相変化を伴うので、ある種の位相コントラストは全ての像に存在する。最も有用なタイプの位相コントラスト像は、より多くの回折ビームを使って像を形成させた場合に形成される。いくつかのビームを選択することにより、しばしば高分解能電子顕微鏡(HREM)像と呼ばれる組織像を形成させることができる。多くの縞模様が交差して、図42に見られるように、原子列に対応する輝点のパターンを与える。Nb系粒子とAlの間にコヒーレント界面を見ることができる。Nb系粒子とAlマトリックスの間の格子不整合は0.1%である。異質な固相とAlの間のそのような小さな格子不整合は、これらの粒子が効果的な不均質核生成部位として作用しうるであろうことを示唆している。
【0096】
実施例24:Al−Nb−B母合金の加工
実施例6に記載の合金に加えて、表4に記載の組成を有する母合金を調製した。Nb金属粉末およびKBF4の形のホウ素を、表4に示す必要量でアルミニウム液体に添加する。溶融物を鋳造してAl−Nb−B母合金を生産する。これらの母合金は全て、LM6合金およびSiが約10%である他の合金についての結晶粒微細化で試験された。粒度はルーラーで測定され、誤差は±0.05mmである。
【0097】
【表4】
【0098】
実施例25:Al−Nb母合金へのホウ素の添加によるAl−Nb−B母合金の加工
市販Al−10Nb母合金を900℃で溶融し、合金を希釈するために純Alを添加することで、Al−2Nb母合金を形成させる。次に、Al−2Nb−Bの母合金組成に達するように、その溶融物に1wt%ホウ素を添加する。合金を鋳鉄製鋳型に鋳造する。図43にこの合金のミクロ組織を示すが、これは針状のアルミナイド(Al3Nb)およびホウ化物粒子を明らかにしている。結晶粒微細化を検証するためにこの母合金をAl−10Si合金に添加する。この母合金について結晶粒微細化が確認される。
【0099】
実施例26:Mg系合金
0.1wt%Nb+0.1wt%Bの添加あり、および添加なしで、TP1鋳型を使って、660℃の鋳込温度で、以下のMg合金を鋳造した。結晶粒微細化がこれらの合金の全てについて観察された。
【0100】
【表5】
図29
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