(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機におけるレーザ発振機からは直線偏光のレーザビームが射出されるが、このレーザビームを用いてワーク(被加工物)を加工する場合、ワークの移動方向により当該ワークの光吸収率が大きく異なるので安定したレーザ加工を行うことができない。このため、波長板を用いてレーザ発振機から射出された直線偏光のレーザビームを円偏光に変換することが行われている。
【0003】
図4は、従来のレーザ加工機の光学系を説明する図である。レーザ加工機の光学系は、伝送光学系と、加工光学系とで構成されている。伝送光学系は、レーザ光を加工光学系へと導く光学系であり、主に円偏光ミラー20と、複数のゼロシフトミラー(金属反射ミラーを含む)21とで構成されている.一方、加工光学系は、レーザ光をワーク表面に集光する光学系であり、複数のレンズ22で構成されている。レーザ発振機23から射出されたレーザビーム24は直線偏光であり、円偏光ミラー20によって光線の向きを変えられながら円偏光に変化する。円偏光に変化したレーザビーム24は、さらに複数のゼロシフトミラー21を通過して加工光学系へと導かれ、この加工光学系のレンズ22によってワーク25の所望に位置に集光する。この場合、円偏光ミラー20によって理想的な円偏光を作り出すことができたとしても、その後のゼロシフトミラー21やレンズ22を通過することで偏光状態が少しずつ変化し、きれいな円偏光でなくなることがある。円偏光状態が崩れると、例えば穴を形成する場合の当該穴の真円度が低下するなど、加工精度が低下してしまう。
【0004】
個々のミラーの光学特性の製造誤差(特に位相差)が一般的な光学仕様を満たす場合でも、レーザビームが伝送光学系から加工光学系に導かれる最終偏光状態は、個々のミラーの位相差誤差の複雑な積算によって理想とされる円偏光度とならない場合がある。例えば、個々のミラーに対する位相差仕様が、円偏光ミラー±3°、ゼロシフトミラー±2°とし、それぞれの必要素子数が1個と6個であるとすると、ミラーの位相差相互の誤差軽減を図ることができない伝送ミラー配置であれば、最悪15°(3°×1+2°×6)のずれが生じることになる。
【0005】
これに対し、従来は、伝送光学系全体での位相差仕様が所定の規格を満たすように、個々のミラーの位相差仕様をより厳しくする方策がとられてきたが、そうすると相当数の不良品が発生することになる。また、伝送光学系はレーザ加工機毎にカスタマイズされている場合が多く、すべてのレーザ加工機に適用可能な位相差仕様を実現することは難しい。
このように、個々のミラーの位相差仕様を厳しくすることにも限界があり、作製誤差を考慮すると現実的な方策とは言い難い。
【0006】
偏光による加工の方向性をなくし、加工能力を向上させる方策として、レーザビームの偏光の方向をワークの加工の方向に合わせることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1記載のレーザ加工機では、レーザビームを2枚の1/4波長板を通過させており、直線偏光状態のレーザビームを加工に用いている。そして、2枚の波長板のうちの一方の波長板を回転可能としており、偏光の方向をワークの動きと連動させるように前記一方の波長板を回転する方式を採用している。
【0007】
また、レーザ加工とは異なるが、同じくレーザビームを偏光させて用いる技術として光ピックアップ装置がある。
図5は、一般的な光ピックアップ装置の光学系の説明図である。半導体レーザ30から射出したレーザビーム31は直線偏光であり、偏光ビームスプリッタ32で反射してコリメータ33で広げられる。コリメータ33で広げられたレーザビーム31は、1/4波長板34で円偏光に変換され、対物レンズ35を通過して光ディスク36に到達する。光ディスク36の凹凸によって強度変調されて反射したレーザビーム31は、1/4波長板34を通過して往路とは偏光面が直交した直線偏光に変換される。これにより、レーザビーム31は、偏光ビームスプリッタ32で反射されずに透過して集光レンズ37で集められ、光検出器38に到達し、当該光検出器38で電気信号に変換される。
【0008】
ところで、かかる光ピックアップ装置を長時間稼働させると、レーザ光源の発振波長が経時劣化によりずれることがある。レーザ光源の発振波長がずれるとピックアップ内部の1/4波長板34にて所望の位相差が得られなくなり、光エネルギの低下や読み取りエラーにつながる虞がある。
【0009】
そこで、複屈折性を有する有機薄膜を備えた位相遅延板を用いることが提案されている(特許文献2参照)。特許文献2記載の光ピックアップ装置では、レーザ光源の発振波長が経時劣化により変化した場合でも、複屈折性を有する有機薄膜を用いることで当該発振波長の変化に追従して有機薄膜が温度上昇し、位相差を変化させることで、経時劣化の影響を抑えることができる、とされている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔本発明の実施形態の説明〕
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係る偏光状態変換素子は、(1)複数の波長板と、光軸を中心として各波長板を互いに独立して回転させる回転機構とを備えており、
前記波長板は
、旋光性および複屈折性を有さず且つ透光性を有する材料で作製されており、その表面に偏光に依存した位相遅れの機能が付加された基板で構成されて
おり、且つ、
前記複数の波長板は2枚の1/8波長板のみからなる。
【0018】
本態様に係る偏光状態変換素子では、複数の波長板それぞれを回転機構によって互いに独立して回転させることができるので、波長板を通過した射出光の偏光状態が意図した位相差とならなくなった場合でも、その場で校正作業(波長板を回転させて、その方位角を変化させる)を行うことによって、簡単に位相差を調整することができる。これにより、振幅楕円率の小さいきれいな円偏光を安定して得ることができる。波長板の位相差は現場で調整することができないが、本態様に係る偏光状態変換素子では、全体としての位相差を波長板の方位角を変えることで調整している。
例えば、レーザ加工機の光学系において伝送光学系がカスタマイズされた場合でも、最終加工系での偏光状態を測定することができれば、その場で校正作業を行うことが可能である。そして、波長板の回転による位相差調整によって加工系での偏光状態を所望の円偏光に近づけて加工品質を向上させることができる。
また、光ピックアップ装置においては、無機物だけで構成された波長板を用いて経時劣化に対応して定期的に校正作業を行うことで、当該光ピックアップ装置の耐久性を大幅に向上させることができる。さらに、無機物だけで構成された波長板が採用可能となることで、環境湿度の位相差への影響を抑えることができるので、光ピックアップ装置を安定して動作させることができる。
また、複数の波長板を、2枚の1/8波長板で構成しており、同一規格の波長板を用いることができるので、コストダウンを図ることが可能となる。
【0019】
(2)前記複数の波長板の位相差の合計が85°以上360°以下であることが好ましい。この場合、制御可能な領域が大きくなるとともに、きれいな円偏光(射出光の位相差±5°以内、振幅楕円率1.09以下)を得ることができる。
(3)前記複数の波長板の位相差の偏差の最大値が0°以上5°以下であることが好ましい。この場合、制御可能な領域が大きくなるとともに、きれいな円偏光(射出光の位相差±5°以内、振幅楕円率1.09以下)を得ることができる。
【0020】
(4)前記複数の波長板の位相差の合計が90°以上であり、且つ、位相差の偏差の最大値が3°以下であることが好ましい。この場合、この場合、制御可能な領域が大きくなるとともに、特にきれいな円偏光(射出光の位相差±3°以内、振幅楕円率1.05以下)を得ることができる。
【0021】
(
5)本発明の他の態様に係るレーザ加工装置の偏光状態の制御方法は、上記(1)〜(
4)のいずれかに記載の偏光状態変換素子を備えたレーザ加工装置の偏光状態の制御方法であって、
レーザ光源から射出されたレーザビームの光路中に、当該レーザビームの偏光状態を直線偏光から円偏光に変換させる前記偏光状態変換素子を配置し、
前記偏光状態変換素子における複数の波長板それぞれを、ワークに照射した状態でのレーザビームの振幅楕円率が1.05以下になるように、前記レーザビームの光軸回りに互いに独立して回転させて各方位角を変化させる。
【0022】
本態様に係るレーザ加工装置の偏光状態の制御方法では、複数の波長板それぞれを回転機構によって互いに独立して回転させることができるので、波長板を通過した射出光の偏光状態が意図した位相差とならなくなった場合でも、その場で校正作業(波長板を回転させて、その方位角を変化させる)を行うことによって、簡単に位相差を調整することができる。これにより、振幅楕円率の小さいきれいな円偏光を安定して得ることができる。
【0025】
〔本発明の実施形態の詳細〕
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の偏光状態変換素子の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0026】
図1は、本発明の一態様に係る偏光状態変換素子を含むレーザ加工機の光学系の説明図である。
図1に示されるレーザ加工機の光学系は、
図4に示される従来のレーザ加工機の光学系と同じく伝送光学系と、加工光学系とで構成されているが、円偏光ミラーに代えて回転可能な2枚の透過型の波長板を採用している点が異なっている。円偏光ミラーには、レーザビームを曲げる(方向を変える)機能と、レーザビームの偏光状態を直線偏光から円偏光に変換する機能を有しているが、本態様に係るレーザ加工機の光学系では、前者の機能は後述するゼロシフトミラーにもたせ、後者の機能は2枚の透過型の波長板にもたせている。
【0027】
伝送光学系は、レーザ光を加工光学系へと導く光学系であり、主に2枚の波長板1a、1bと、複数のゼロシフトミラー(金属反射ミラーを含む)2とで構成されている。波長板1a、1bは、ゼロシフトミラー2のレーザ発振機3側に配置されている。一方、加工光学系は、レーザ光をワーク表面に集光する光学系であり、複数のレンズ4で構成されている。
【0028】
波長板1a、1bは
、旋光性および複屈折性を有さず且つ透光性を有する材料で作製されており、その表面に偏光に依存した位相遅れの機能が付加された基板で構成されている。位相遅れの機能の付加は、例えば基板の表面に一定方向の溝を形成したり、ウェッジ板に特定のコーティングを施したりすることで行うことができる。
波長板1a、1bの材料は、本発明において特に限定されるものではなく、例えば赤外レーザの場合は、ZnSe、Geなどを用いることができ、この基板表面にZnSeをコーティングしたり、微細構造を付加したりすることで波長板を得ることができる。微細構造の付加は、例えば段付きの縞模様を基板表面に形成することにより行うことができる。結晶体としては、LaF
3、CaF
2を用いることができる。また、可視レーザの場合は、ガラス系材料全般を採用することができ、紫外レーザの場合は、合成石英などの基板の表面に前記微細構造を付加することで波長板を作製することができる。
波長板の数は、本態様において特に限定されるものではないが、例えば2〜5枚とすることができる。波長板の数が5枚を超えるとそれらの制御が難しくなり、コストアップの要因ともなる。複数の波長板は、これらを回転させる機構をまとめて配置することができ、省スペース化および高効率化が図れるという点からは、本態様のように1箇所にまとめて配置することが好ましい。
【0029】
波長板1a、1bには、それぞれ回転機構5a、5bが連結されている。回転機能5a、5bは、波長板1a、1bを所定の角度だけ回転させるための機構であり、一般的な構成を適宜採用することができる。例えば、波長板が、中央孔を有する円板状のウォームホイールの当該中央孔に嵌め込まれている場合、このウォームホイールと噛み合うウォームを減速機構を介してモータの出力軸に接続し、当該モータを駆動させることで波長板を回転させることができる。この場合、モータ、減速機構、ウォームおよびウォームホイールが回転機構を構成する。
【0030】
レーザ発振機3から射出されたレーザビーム6は直線偏光であり、2枚の波長板1a、1bの合計位相差によって決まる形状の楕円偏光へと変化する。楕円偏光に変化したレーザビーム6は、さらに複数のゼロシフトミラー2を通過して加工光学系へと導かれ、この加工光学系のレンズ4によってワーク7の所望に位置に集光する。本態様では、ワーク7の表面(被加工面)でのレーザビーム6の偏光状態を回転検光子法や回転補償子法などにより測定し、この偏光状態が所望の円偏光となるように、回転機構5a、5bを駆動させて波長板1a、1bの各方位角を調整する。
【0031】
2枚の波長板の方位角の調整は、互いに独立して行うことができる。また、方位角の調整は適宜の度数毎(例えば、1°毎、2°毎、3°毎・・・)に行うことができる。波長板の位相差が分かれば、所望の円偏光を得るために必要とされる波長板の概略の方位角は、例えばジョーンズ計算法などの手法に基づいて計算することができる。そして、この計算された予想方位角になるように各波長板の方位角を調整し、その後、各波長板を前述した適宜の度数毎に回転させて微調整を行う。そして、射出光の振幅楕円率が、所望の値(例えば、1.05)以下となる方位角で各波長板1a、1bを固定する。
【0032】
つぎに本発明の偏光状態変換素子の実施例について説明するが、本発明はもとよりかかる実施例にのみ限定されるものではない。
以下の実施例では、入射光の偏光状態をさまざまに変化させ、2枚の波長板を当該入射光が通過した際、両波長板の方位角調整によってどの程度きれいな円偏光が得られるのかを確かめた。
[
参考例]
表1は、1/16波長板(第1波長板)と3/16波長板(第2波長板)との組み合わせによる偏光調整の結果を示している。表1および後出する表2〜4において、「d1°」および「「d2°」はそれぞれ第1波長板および第2波長板の位相差であり、「p1°」および「p2°」はそれぞれ第1波長板および第2波長板の方位角である。
なお、本明細書において、位相差および方位角における「正負(±)」の定義は以下のとおりである。
すなわち、
図2に示されるように、光軸をz軸にとり、光はz軸の+方向(
図2において右方向)に進むことにして、右手系のx軸とy軸を配置した場合に、入射光はx軸方向とy軸方向に共に1の振幅をもつものとする。
入射光位相差は、y軸方向の偏光成分がdi°遅れた場合を+di°と定義する。波長板において光軸と直交する面内で、それぞれの方向の直線偏光成分に対して位相遅れが与えられるが、入射光と射出光に位相遅れが最も小さくなる方向の軸を「速軸」といい、最も大きくなる方向の軸を「遅軸」という。かかる「速軸」と「遅軸」は直交する。
波長板の「速軸」をx軸、「遅軸」をy軸にとった場合を方位角0°と定義し、x軸の+方向からy軸の+方向に向かって、「速軸」がdI°傾いている場合に波長板の方位角が+dI°となるように定義している。
【0034】
参考例では、表1から分かるように、入射光の位相差が大きくなるにつれ、射出光振幅楕円率の良い解が見つからなくなる。すなわち、所望の振幅楕円率が1.05以下であるとすると、入射光位相差が45°まで(0°を除く)は所望の振幅楕円率を満たす両波長板の方位角が存在するが、入射光位相差が50°以上になると、所望の振幅楕円率を満たす両波長板の方位角が存在しない。以上より、1/16波長板(第1波長板)と3/16波長板(第2波長板)とを組み合わせて用いる場合、偏光調整は可能であるが、調製範囲が限定されることが分かる。
【0035】
[実施例
1]
表2は、2枚の1/8波長板(第1波長板と第2波長板)を用いた偏光調整の結果を示している。さまざまな入射光の偏光状態に対して両波長板の方位角を変化させて射出光の振幅楕円率の最小値を求め、そのときの両波長板の方位角を示している。
2枚の波長板の方位角を変化させることによって、入射光の位相差が0°(直線偏光を示す)から大きくずれた場合であってもきれいな円偏光が得られることが分かる。位相差が±3°で振幅楕円率が1.053772と計算されることから、1.05以下の振幅楕円率であれば、加工に大きな影響はないものと判断することができる。
【0037】
表2より、入射光位相差が0°または180°の場合は射出光の振幅楕円率が1.05を下回らないことが分かる。入射光位相差が0°または180°の場合は、きれいな直線偏光の入射光をきれいな円偏光として出力する場合に相当し、方位角を考慮した2枚の波長板の合計位相差を90°にする必要がある。2枚の波長板の合計位相差が90°に満たない場合(表2の例では、合計位相差が80°である)、両波長板の相対的な方位角を揃えても位相差を拡大しきれず、合計位相差が90にならないため、振幅楕円率が下がらなかったと考えられる。したがって、きれいな直線偏光に対してきれいな円偏光(振幅楕円率が1.05以下)を出力するためには、波長板の合計位相差が90°以上である組み合わせの波長板を用いる必要がある。なお、理論上、かかる合計位相差について何°以下である、という制限はない。したがって、複数の波長板の位相差の合計は、きれいな直線偏光に対してきれいな円偏光(振幅楕円率が1.05以下)を出力するという観点からは、90°以上360°以下である。
【0038】
[実施例
2]
表3は、2枚の1/8波長板(第1波長板と第2波長板)を用いた偏光調整の結果を示している。さまざまな入射光の偏光状態に対して両波長板の方位角を変化させて射出光の振幅楕円率の最小値を求め、そのときの両波長板の方位角を示している。
2枚の波長板の方位角を変化させることによって、入射光の位相差が0°(直線偏光を示す)から大きくずれた場合であってもきれいな円偏光が得られることが分かる。位相差が±3°で振幅楕円率が1.053772と計算されることから、1.05以下の振幅楕円率であれば、加工に大きな影響はないものと判断することができる。
【0040】
入射光位相差が90°のときだけ射出光の振幅楕円率が
1.05を下回らない場合があるが、入射光位相差が90°のときは、きれいな直線偏光の入射光をきれいな円偏光として出力する場合に相当し、2枚の波長板の合計位相差を0°にする必要がある。2枚の波長板の位相差の偏差が大きいと、これらの相対的な方位角の差を大きくとったとしても位相差を相殺しきれず、合計位相差が0°とならないため、振幅楕円率が下がらなかったと考えられる。したがって、任意の入射光位相差に対してきれいな円偏光(振幅楕円率が1.05以下)を出力するためには、波長板の合計位相差が90°以上であり、且つ、位相差の偏差が3°以下(0°が理想である)となる組み合わせの波長板を用いる必要がある。また、表3の計算結果より、合計位相差が180°以上であり、且つ、位相差の偏差が3°以下(0°が理想値である)となる波長板を2枚用いれば、右回り円偏光の入射光に対して左回り円偏光を射出することも可能になり、任意に偏光状態を変換することができる素子が実現可能であることが分かる。
なお、実施例
1と同様に理論上、波長板の合計位相差について何°以下である、という制限はない。したがって、複数の波長板の位相差の合計は、きれいな直線偏光に対してきれいな円偏光(振幅楕円率が1.05以下)を出力するという観点からは、90°以上360°以下である。
【0041】
[比較例1]
表4は、1/4波長板を1枚だけ用いて偏光調整を行った場合を示している。入射光位相差と波長板の位相差の和または差が90°となる場合には、振幅楕円率が1となるような方位角が存在するが、そうでない場合には、波長板の方位角をいくら変化させても振幅楕円率の抑制には限界があることが分かる。完全な直線偏光と崩れた直線偏光の両方に対応するためには、波長板の位相差を制御する必要があり、一枚の波長板だけでは射出光の振幅楕円率を調整することができない。
【0043】
〔他の態様〕
図3は、本発明の偏光状態変換素子の一態様を含む光ピックアップ装置の光学系の説明図である。
図3に示される光ピックアップ装置の光学系は、1枚の1/4波長板に代えて回転可能な2枚の透過型の波長板を採用している点が、
図5に示される従来の一般的な光ピックアップ装置の光学系と異なっている。
【0044】
図3に示される光ピックアップ装置において、半導体レーザ10から射出したレーザビーム11は直線偏光であり、偏光ビームスプリッタ12で反射してコリメータ13で広げられる。コリメータ13で広げられたレーザビーム11は、2枚の透過型1/8波長板14a、14bで円偏光に変換され、対物レンズ15を通過して光ディスク16に到達する。光ディスク16の凹凸によって強度変調されて反射したレーザビーム11は、2枚の1/8波長板14a、14bを通過して往路とは偏光面が直交した直線偏光に変換される。これにより、レーザビーム11は、偏光ビームスプリッタ12で反射されずに透過して集光レンズ17で集められ、光検出器18に到達し、当該光検出器18で電気信号に変換される。
【0045】
2枚の波長板14a、14bは、それぞれ前述した回転機構5a、5bと同様の機能を備えた回転機構19a、19bに連結されており、互いに独立して回転可能である。
【0046】
本態様では、光検出器18に入射する光量が最大になるように、前記レーザビーム11の光軸回りに2枚の波長板14a、14bを互いに独立して回転させて各方位角を変化させる。これにより、波長板14a、14bを通過した射出光の偏光状態が意図した位相差とならなくなった場合でも、その場で校正作業(波長板を回転させて、その方位角を変化させる)を行うことによって、簡単に位相差を調整することができる。これにより、振幅楕円率の小さいきれいな円偏光を安定して得ることができる。
【0047】
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、複数の波長板を1箇所にまとめて配置しているが、各波長板を別々の箇所に配置することもできる。
また、前述した実施形態では、ゼロシフトミラーのレーザ発振機側に波長板を配置しているが、ゼロシフトミラーのワーク側、更には加工光学系内に波長板を配置することもでき、波長板の位置は特に限定されるものではない。