【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0043】
(第1の実施例)
第1の実施例において作製した熱アシスト磁気記録媒体の層構成の一例を
図1に示す。
第1の実施例において熱アシスト磁気記録媒体を作製する際は、ガラス基板101上に、層厚100nmのCr−50at%Ti合金からなる下地層102と、層厚30nmのCo−27at%Fe−5at%Zr−5at%B合金からなる単層の軟磁性下地層103とを順次形成した。その後、ガラス基板101を250℃まで加熱し、その上に、層厚10nmのCrからなる下地層104と、層厚5nmのMgOからなる下地層105とを順次形成した後、ガラス基板101を450℃まで加熱し、層厚10nmの(Fe−55at%Pt)−C合金からなる第1の磁性層106と、層厚3nmのCo−26at%Fe−10at%Ta−2at%B合金からなる第2の磁性層107と、層厚3nmのカーボン(C)からなる保護層108とを順次形成した。
【0044】
ここで、第1の磁性層106については、Fe−55at%Ptターゲットと、Cターゲットとを同時にスパッタすることにより形成した。また、Fe−55at%Ptターゲットに対するCターゲットの放電パワー比率を段階的に低下させることによって、第1の磁性層106中のC(粒界偏析材料)の含有率を層厚方向に段階的に低下させた。これにより、
図2(a)〜(c)に示した3通りのC濃度プロファイル(P−1〜P−3)を有する熱アシスト磁気記録媒体を作製した。また、比較例として、
図2(d)に示すように、第1の磁性層106中のCの含有率を40at%で一定としたC濃度プロファイル(P−4)を有する熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0045】
以上のように作製された4種類のC濃度プロファイル(P−1〜P−4)を有する熱アシスト磁気記録媒体について、X線回折測定を行ったところ、何れの媒体からも、第1の磁性層106から強いL1
0−FePt(001)回折ピークが観察された。また、L1
0−FePt(002)回折ピークと、FCC−Fe(002)回折ピークとの混合ピークも観察された。また、後者の混合ピークに対する前者の回折ピークの積分強度比は1.7であり、規則度の高いL1
0型FePt合金結晶が形成されていることがわかった。
【0046】
また、上記4種類のC濃度プロファイル(P−1〜P−4)を有する熱アシスト磁気記録媒体について、280℃から360℃まで加熱したときの保磁力(Hc)の変化を
図3に、保磁力分散(ΔHc/Hc)の変化を
図4に示す。なお、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975-4977, 1991」に記載の方法で測定した。具体的には、メジャーループ及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。
【0047】
図3及び
図4に示すように、上記4種類のC濃度プロファイル(P−1〜P−4)を有する熱アシスト磁気記録媒体は、何れも温度上昇と共にHcが低下し、ΔHc/Hcが増加していることがわかる。熱アシスト磁気記録媒体では、記録部分を局所的に加熱し、その部分のHcを十分に低下させて記録を行うため、上記結果は、記録時のΔHc/Hcが、室温での値に比べて大幅に増大することを示している。
【0048】
ΔHc/Hcの大小関係については、同一のHcで比較する必要があるため、上記
図4で示したΔHc/Hcを、上記
図3で示したHcの関数として
図5に示した。
【0049】
図5に示すように、例えばHcが5kOeとなる場合で比較すると、本発明を適用して作製されたP−1〜P−3の熱アシスト磁気記録媒体は、比較例として作製されたP−4の熱アシスト磁気記録媒体に比べて、ΔHc/Hcが0.1〜0.4程度低くなっている。また、ΔHc/Hcは、P−1、P−2、P−3の順に低下しており、Cの含有率が減少する領域が広がるに従って、保磁力分散が改善されることがわかる。
【0050】
次に、比較例として、第1の磁性層106の上に第2の磁性層107を設けない熱アシスト磁気記録媒体を作製した。この比較例として示す磁気記録媒体は、上述した実施例として示す磁気記録媒体と同様の4種類のC濃度プロファイル(P−1〜P−4)を有する。また、成膜プロセスも上述した実施例として示す磁気記録媒体と同様である。これらの熱アシスト磁気記録媒体について、280℃から360℃まで加熱したときの保磁力(Hc)及び保磁力分散(ΔHc/Hc)を測定し、両者の関係を
図6に示した。
【0051】
図6に示すように、HcとΔHc/Hcとの関係を示すプロットは、C濃度プロファイルによらず、同一線上にあり、Hcが5kOeeとなるときのΔHc/Hcは、0.8〜0.9程度と極めて高い。
【0052】
上記結果から、第1の磁性層106中にCの含有率を段階的に減少させたとしても、第2の磁性層107を設けなかった場合には、保磁力分散を改善できないことが明らかとなった。すなわち、本発明では、第1の磁性層106中のCの含有率を段階的に低減し、且つ、第1の磁性層106の上に第2の磁性層107を設けることで、保磁力分散を低減することが可能となる。
【0053】
(第2の実施例)
第2の実施例において作製した熱アシスト磁気記録媒体の層構成の一例を
図7に示す。
第1の実施例において熱アシスト磁気記録媒体を作製する際は、ガラス基板201上に、層厚30nmのNi−40at%Ta合金からなる下地層202を形成した後、ガラス基板201を280℃まで加熱し、その上に、層厚10nmのCrからなる下地層203を形成した。その後、層厚100nmのAgからなるヒートシンク層204と、層厚10nmのMgOからなる下地層205とを順次形成した後、ガラス基板201を420℃まで加熱し、その上に、層厚10nmの(Fe−55at%Pt)−TiO
2合金からなる第1の磁性層206と、第2の磁性層207と、層厚3.5nmのカーボン(C)からなる保護層208とを順次形成した。
【0054】
そして、表1に示すように、第1の磁性層206中のTiO
2(粒界偏析材料)の濃度プロファイルと、第2の磁性層207との組み合わせを変更したNo.2−1〜2−13の熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0055】
【表1】
【0056】
第1の磁性層206は、Fe−55at%Ptターゲットと、TiO
2ターゲットとを同時にスパッタすることにより形成した。また、Fe−55at%Ptターゲットに対するTiO
2ターゲットの放電パワー比率を段階的又は連続的に低下させることにより、
図8(a)〜(f)に示す6種類のTiO
2濃度プロファイル(P−5〜P−10)を導入した。なお、比較例として、第1の磁性層106中のTiO
2の含有率を一定(20mol%)とした熱アシスト磁気記録媒体を作製した(NO.2−1〜2−13)。また、第2の磁性層207の層厚は2〜4nmとした。
【0057】
以上のように作製されたNO.2−1〜2−13の熱アシスト磁気記録媒体について、X線回折測定を行ったところ、何れの媒体においても、Cr下地層203及びAgヒートシンク層204から強いBCC(200)回折ピークが観察された。また、第1の磁性層206からは、強いL1
0−FePt(001)回折ピークが観察された。さらに、第1の磁性層206からは、L1
0−FePt(002)回折ピークと、FCC−Fe(200)回折ピークとの混合ピークも観察された。この第1の磁性層206から観察された回折ピークのうち、後者の混合ピークに対する前者の回折ピークの積分強度比は1.6であり、規則度の高いL1
0型FePt合金結晶が形成されていることがわかった。
【0058】
次に、NO.2−1〜2−12の熱アシスト磁気記録媒体について、平面TEM観察を行ったところ、第1の磁性層206については、何れの媒体もFePt合金の結晶粒がTiO
2で囲まれたグラニュラー構造であった。また、FePt合金の結晶粒の平均粒径は、5〜6nm程度であった。
【0059】
さらに、NO.2−1〜2−12の熱アシスト磁気記録媒体について、断面TEM観察を行ったところ、第1の磁性層206については、何れの媒体もFePt合金が基板面に対して垂直な方向に連続成長したコラム構造をとっていることがわかった。一方、NO.2−13の熱アシスト磁気記録媒体について、断面TEM観察を行ったところ、第1の磁性層206が、コラム構造のFePt結晶と、その上に形成された球状のFePt結晶からなる二層構造であることがわかった。
【0060】
また、第2の磁性層207に用いた合金からは、明瞭な格子縞が観察されなかった。これより、本実施例で用いた第2の磁性層207は、全て非晶質構造であることがわかる。
【0061】
次に、NO.2−1〜2−13の熱アシスト磁気記録媒体について、280℃から360℃まで加熱したときの保磁力(Hc)及び保磁力分散(ΔHc/Hc)を測定し、Hcが5kOeとなるときの温度におけるΔHc/Hcを見積もった。その結果を表1に示す。
【0062】
表1に示すように、本発明を適用して作製されたNO.2−1〜2−12の熱アシスト磁気記録媒体は、比較例として作製されたNO.2−13の熱アシスト磁気記録媒体に比べて、Hcが5kOeとなるときのΔHc/Hcが0.3〜0.6程度低くなっている。
これは、上述したように、NO.2−13の熱アシスト磁気記録媒体では、第1の磁性層206が、コラム構造のFePt結晶と、その上に形成された球状のFePt結晶からなる二層構造であるのに対し、NO.2−1〜2−12の熱アシスト磁気記録媒体では、第1の磁性層が、FePt合金が基板面に対して垂直な方向に連続成長したコラム構造であることが原因と考えられる。
【0063】
以上のことから、本発明では、第1の磁性層206中のTiO
2の含有率を段階的に低減させることにより、第1の磁性層206に基板面に対して垂直な方向に連続成長したコラム構造を取らせることができ、これによって保磁力分散を低減できることが明らかとなった。
【0064】
また、ΔHc/Hcについては、第2の磁性層207の厚みを増加させる、又は、飽和磁束密度(Bs)を増加させることによって、更に低減することが可能である。但し、何れの場合も、第1の磁性層206中のFePt結晶粒間の交換結合が増大することによって、媒体ノイズが増大するため、第2の磁性層207の層厚とBsについては、このような媒体ノイズの増加を抑制するように設計する必要がある。
【0065】
なお、第2の磁性層207としては、上記以外にも、FeNi、FeCr、FeV、FePt等のBCC又はFCC合金などを用いることができる。
【0066】
(第3の実施例)
第3の実施例において作製した熱アシスト磁気記録媒体の層構成の一例を
図9に示す。
第3の実施例において熱アシスト磁気記録媒体を作製する際は、ガラス基板301上に、層厚10nmのCo−50at%Ti合金からなる下地層302と、層厚200nmのCuからなるヒートシンク層303と、Ruを介して互いに反強磁性結合したCoFeTaZrB合金からなる層厚15nmの軟磁性下地層304と、層厚10nmのPdからなる下地層305とを順次形成した。その後、ガラス基板301を350℃まで加熱し、その上に、層厚13nmの第1の磁性層306と、層厚5nmのFe−27at%Co−10at%Ta合金からなる第2の磁性層307と、層厚3nmのカーボン(C)からなる保護層308とを順次形成した。
【0067】
また、第1の磁性層306には、層厚5nmの(Co−50at%Pt)−20mol%SiO
2層を形成した後、層厚2nmの(Co−50at%Pt)−15mol%SiO
2層、層厚2nmの(Co−50at%Pt)−10mol%SiO2層、層厚2nmの(Co−50at%Pt)−5mol%SiO
2層、層厚2nmのCo−50at%Pt層を連続に形成した。
【0068】
なお、上記各層は、SiO
2含有率が異なるCoPt−SiO
2複合ターゲットを用いて、異なる成膜チャンバーにて形成した。本実施例では、上記5層構造のCoPt−SiO
2多層膜を第1の磁性層306とみなす。
【0069】
また、比較例として、第1の磁性層306に、層厚13nmの(Co−50at%Pt)−20mol%SiO2の単層膜を用いた熱アシスト磁気記録媒体(NO.3−2)と、層厚13nmの(Co−50at%Pt)−5mol%SiO
2の単層膜を用いた熱アシスト磁気記録媒体(NO.3−3)を作製した。第1の磁性層306が異なる以外は、上記比較例媒体の層構成、成膜プロセスは、実施例媒体(NO.3−1)と同一である。
【0070】
【表2】
【0071】
NO.3−1〜3−3の熱アシスト磁気記録媒体について、X線回折測定を行ったところ、何れの媒体においても、第1の磁性層306からL1
1−CoPt(111)回折ピークと、L1
1−CoPt(333)回折ピークが観察された。これより、CoPt合金が良好なL1
1規則構造をとっていることが明らかとなった。
【0072】
また、NO.3−1〜3−3の熱アシスト磁気記録媒体について、280℃から360℃まで加熱したときの保磁力(Hc)及び保磁力分散(ΔHc/Hc)を測定し、Hcが5kOeとなるときの温度におけるΔHc/Hcを見積もった。さらに、Hcが5kOeとなるときの温度でダイナミック保磁力Hc0を測定した。ここで、Hc
0は、Hcの磁界印加速度依存性からSharrockの式を用いて算出した。一般に、Hc/Hc
0は、磁性粒子間の交換結合の強さを表し、交換結合が強いほど低くなる。表2にNO.3−1〜3−3の熱アシスト磁気記録媒体のΔHc/HcとHc/Hc
0を示す。
【0073】
表2に示すように、本発明を適用して作製されたNO.3−1の熱アシスト磁気記録媒体は、ΔHc/Hcが0.37であった。また、Hc/Hc
0も0.32と比較的高く、交換結合が低減されていることがわかる。
【0074】
これに対して、NO.3−2の熱アシスト磁気記録媒体は、Hc/Hc
0はNO.3−1の熱アシスト磁気記録媒体とほぼ同程度であるものの、ΔHc/Hcは1.01と著しく高い。このことは、NO.3−2の熱アシスト磁気記録媒体では、磁性粒子間の交換結合がNO.3−1の熱アシスト磁気記録媒体と同程度に低いものの、保磁力分散が著しく大きいことを示している。
【0075】
一方、NO.3−3の熱アシスト磁気記録媒体は、ΔHc/HcはNO.3−1の熱アシスト磁気記録媒体とほぼ同程度まで低減されているものの、Hc/Hc
0は0.12と著しく低い。これは、SiO
2(粒界偏析材料)の添加量を低減することによって、保磁力分散が小さくなるものの、磁性粒子間の交換結合が著しく強くなったことを示している。したがって、粒界偏析材料を単に減らすだけでは、磁性粒子間の交換結合を増大させずに、保磁力分散を低減することは困難である。
【0076】
以上のことから、磁性粒子間の交換結合を増大させずに、保磁力分散を低減するためには、本発明のように、第1の磁性層306中の粒界偏析材料の含有率をガラス基板301側から第2の磁性層307側に向かって減少させることが効果的であることが明らかとなった。
【0077】
なお、第2の磁性層307としては、上記FeCoTa合金以外にも、HCP構造を有するCoCr合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoCrPtB合金などを用いてもよい。
【0078】
(実施例4)
実施例4においては、上記第1〜第3の実施例において作製した熱アシスト磁気記録媒体の表面にパーフルオルポリエーテル系の潤滑剤を塗布した後、
図10に示す磁気記録再生装置に組み込んだ。この磁気記録再生装置は、熱アシスト磁気記録媒体501と、熱アシスト磁気記録媒体を回転させるための媒体駆動部502と、熱アシスト磁気記録媒体501に対して記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド503と、磁気ヘッド503を熱アシスト磁気記録媒体501に対して相対移動させるためのヘッド駆動部504と、磁気ヘッド503への信号入力と磁気ヘッド503から出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系505とから概略構成される。なお、上記磁気記録再生装置には、
図10に図示されていないものの、レーザー光を発生させるレーザー発生装置と、発生したレーザー光を磁気ヘッド503まで伝達するための導波路とが配置されている。
【0079】
また、上記磁気記録再生装置に組み込んだ磁気ヘッド503の構造を
図11に模式的に示す。この磁気ヘッド503は、記録ヘッド601と再生ヘッド602とを備え、記録ヘッド601は、主磁極603、補助磁極604、及び両者の間に挟まれたPSIM(Planar Solid Immersion Mirror)605から構成される。PSIM605は、例えば「Jpn.,J.Appl.Phys.,Vol145,no.2B,pp1314−1320(2006)」に記載されているような構造のものを用いることができる。記録ヘッド601は、PSIM605のグレーティング部606に半導体レーザーなどのレーザー光源607から波長440nmのレーザー光Lを照射し、PSIM605の先端部から発生した近接場光NLにより熱アシスト磁気記録媒体501を加熱しながら記録を行う。一方、再生ヘッド602は、上部シールド608と下部シールド609で挟まれたTMR素子610で構成されている。
【0080】
上記磁気ヘッド503により、熱アシスト磁気記録媒体501を加熱し、線記録密度21800kFCI(kilo Flux changes per Inch)で記録し、電磁変換特性を測定したところ、15dB以上の高い媒体SN比と良好な重ね書き特性が得られた。