【実施例】
【0065】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかし、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は請求の範囲によってのみ定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【0066】
以下、本発明の実施例1が
図1〜
図5にしたがって説明される。
本実施例は例えばウォーキング用の靴の靴底である。
図1および
図2に示すメインソールMSはゴム製のアウトソール2と樹脂製のミッドソール1とを備える。メインソールMSの上には図示しない足の甲を包むアッパーが設けられる。
【0067】
ミッドソール1は例えばEVAのような樹脂製の発泡体からなるミッドソール本体を備え、更に、強化装置を備えていてもよい。「樹脂製」とは、熱可塑性等の樹脂成分を有するという意味で、任意の適宜の他の成分を含む。
【0068】
図2のアウトソール2は前記ミッドソール本体の発泡体よりも耐摩耗性の大きい接地底で、一般に、ミッドソール本体の発泡体よりも硬度が大きい。なお、「ゴム製」とは天然ゴムや合成ゴムの成分を有するという意味で、任意の他の成分を含む。
【0069】
図3において、本実施例のミッドソール1および図示しないインソールは足裏の概ね全面を覆う。一方、
図1および
図2に示すように、アウトソール2はミッドソール1の下面に付着され足裏を部分的に覆う。
【0070】
図1および
図2に明示するように、メインソールMSの接地面側には、前縦溝G0,第1屈曲溝G1, 第2屈曲溝G2,補助屈曲溝G3および後縦溝G5が形成されている。
【0071】
図3において、前記縦溝G0は、前足部3の内側Mと外側Lとの間において少なくとも縦方向Yに延びている。前記第1屈曲溝G1は前記前足部の母趾球O1よりも前方DFに配置され、
図4の前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている。なお、本実施例の場合、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とは第1交点C1において実際に交差(クロス)している。
【0072】
図4において、前記第1屈曲溝G1は内側屈曲部G11および外側屈曲部G10とを備える。前記内側屈曲部G11は前記第1交点C1から前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている。前記外側屈曲部G10は前記第1交点C1から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている。例えば、
図3に示すように、内側屈曲部G11は母趾球O1よりも前方で、かつ、第1趾の末節骨B1の後端よりも後方に配置される。一方、外側屈曲部G10は第5趾の末節骨B5の先端よりも前方に配置される。
【0073】
図3において、前記補助屈曲溝G3は、前記外側屈曲部G10よりも後方DBにおいて前記前縦溝G0から前記外側縁10に向かって斜め後方に延びている。なお、別の補助屈曲溝G4は前記内側屈曲部G11よりも後方において前記前縦溝G0から前記内側縁11に向かって延びている。前記各補助屈曲溝G3,G4は足趾の5つの中足趾節間関節MPに沿うように、かつ、前記中足趾節間関節MPよりも後方DBに配置されていてもよい。
【0074】
図2において、前記アウトソール2は互いに離間した複数のパーツを備える。前記各溝G0〜G5は、前記アウトソール2のパーツとパーツとの間の隙間で形成されている。更に、前記前縦溝G0,第1屈曲溝G1,補助屈曲溝G3および後縦溝G5については、パーツ間において露出したミッドソール1の底面が抉られていることで深い溝を構成する。
【0075】
図4において、前記第1屈曲溝G1は後方DBに向かって凸に形成され、たとえば、円弧状に湾曲している。前記前縦溝G0はミッドソール1の外側縁10に沿って湾曲している。前記前縦溝G0、前記第1屈曲溝G1、前記補助屈曲溝G3および前記外側縁10に囲まれた前記靴底の領域30は、
図4、
図6、
図7、
図9のように三角形状、台形状ないし扇状に形成されていてもよい。
【0076】
図4において、前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αは、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βよりも小さい。前記第1屈曲溝G1が湾曲している場合、前記第1および第2角α,βの大きさは、例えば下記の(1)または(2)の手法で算出されてもよい。
【0077】
(1)各屈曲部G10,11の中心線L10,L11上において第1交点C1から任意の距離離れた各点における接線と、前記前縦溝G0の中心線L0上において第1交点C1から同距離だけ離れた各点における接線とがなす角の平均値を前記第1または第2角α,βとする。
(2)各屈曲部G10,11の中心線L10,L11を長さ方向に2等分する点における接線と、前記前縦溝G0の中心線L0上において第1交点C1から前記2等分された線分の長さ離れた点における接線とがなす角を前記第1または第2角α,βとする。
【0078】
図4の前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における
図5Aおよび
図5Cの前記前縦溝G0の平均深さH0は5〜15mm程度に設定されている。
図5Bおよび
図5Dの前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は4〜10mm程度に設定されている。
【0079】
図5Eの前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は2.5〜6mm程度に設定されている。前記外側縁10から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は前記第1屈曲溝G1の平均深さH1よりも小さい。なお、深さH3は前記第1屈曲溝G1の平均深さH1と同じであってもよい。
【0080】
図1において、アウトソール2には、前記前足部3において前記縦方向Yに交差する横方向に延び前記第1屈曲溝G1とは異なる複数本の横溝G6が更に形成されている。
図5Dの前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は前記各横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きい。
【0081】
図4の前記後縦溝G5は後足部5の内側Mと外側Lとの間において少なくとも前記縦方向Yに延びている。前記第2屈曲溝G2は前記後足部5に配置され前記後縦溝G5に仮想の前記第2交点C2で交わるように少なくとも横方向Xに延びている。本実施例の場合、後縦溝G5と前縦溝G0とは第2交点C2において実際に交わっている。
前記第2屈曲溝G2は前記内側縁11から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている。
【0082】
図4において、前記後縦溝G5の中心線L5および前記前縦溝G0の中心線L0は、メインソールMSを内側M、外側L及び中央部に3等分した前記中央部1Cに配置されている。より好ましくは、メインソールMSを幅方向Xに5等分した中央部1Cに配置される。
【0083】
図4の前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における
図5Aの前記後縦溝G5の平均深さH5は3〜16mmに設定されている。
図5Fの前記第2屈曲溝G2の平均深さH2は1〜12mmに設定されている。
【0084】
図5Cの前記前縦溝G0の前記平均深さH0は前記複数の縦細溝G7の各々の平均深さH7よりも大きい。また、
図5Dの前記第1屈曲溝G1の前記平均深さH1は前記複数の横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きい。
【0085】
図2および
図1に示すように、ミッドソール1の外周縁にはアウトソール2が配置されていない。そのため、ミッドソール1の外側縁10および内側縁11においては
図2に示すように底面に高低差が殆ど生じていない。したがって、第1屈曲溝G1、第2屈曲溝G2および補助屈曲溝G3、G4はメインソールMSの外側縁10および内側縁11に形成されていないと認定すべきである。すなわち、各屈曲溝G1〜G4は中央部1Cと側縁10,11との間に設けられていればよく、両側縁10,11の間の全幅にわたって設けられている必要はない。
【0086】
このような理由から、各溝の平均深さH1〜H4(
図5A〜
図5E)などの平均値は、
図1の前記外側縁10および内側縁11の部位を除いた範囲の深さ等の平均値を意味する。また、
図5A〜
図5Eの平均深さH1〜H6は各溝の横断面における最深部の深さの平均値を意味する。
【0087】
図4の前記第1交点C1から5cm後方DBまでの範囲における
図5Aおよび
図5Cの前記前縦溝G0の横断面積の平均値は25〜200平方ミリメートル程度に設定されている。
図5Bおよび
図5Dの前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は20〜100平方ミリメートル程度に設定されている。
【0088】
図5Eの前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は12〜80平方ミリメートル程度に設定されている。前記外側縁10の近傍から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、前記第1屈曲溝G1の平均値よりも小さい。なお、補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、前記第1屈曲溝G1のそれと同じであってもよい。
【0089】
図5Dの前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は前記1又は複数の各横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【0090】
図4の前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における
図5Aの前記後縦溝G5の横断面積の平均値は30〜600平方ミリメートル程度に設定されている。
図5Fの前記第2屈曲溝G2の横断面積の平均値は8〜10平方ミリメートル程度に設定されている。
【0091】
図5Cの前記前縦溝G0の前記横断面積の平均値は前記複数の各縦細溝G7の横断面積の各々の平均値よりも大きい。また、
図5Dの前記第1屈曲溝G1の前記横断面積の平均値は前記複数の横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【0092】
図1のメインソールMSにおける接地面とは反対側の上面には破線で示す上溝G8が形成されている。前記上溝G8は前記上面の前記外側屈曲部G10と前記補助屈曲溝G3との間の前記領域30並びに前記上面の前記外側屈曲部G10よりも前方の領域32において、前記外側屈曲部G10に沿う前記斜め前方に延びている。
【0093】
図2に示すように、本実施例1においては、前縦溝G0と後縦溝G5とが、アウトソール2による強化部20を介して互いに連なっている。前記強化部20は例えば1〜5mm程度の浅い溝を定義している。
【0094】
図6の例に示すように、前記強化部20(
図2)は設けられなくてもよい。また、前記前縦溝G0と後縦溝G5とは互いに滑らかに連なっていてもよい。
【0095】
図7および
図8の例に示すように、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とは十字状ではなく、T字状に交わっていてもよい。
【0096】
図7および
図9の例に示すように、補助屈曲溝G3は前記第1交点C1の近傍の前縦溝G0から斜め後方に向かって外側縁10に至るまで延びていてもよい。この場合、前記領域30は三角形状である。
【0097】
また、
図8の例に示すように、第2屈曲溝G2の平均深さおよび横断面積の平均値は第1屈曲溝G1のそれらの値と同程度であってもよい。
【0098】
図7および
図9の例のように、前記補助屈曲溝G3とは別の補助屈曲溝G4(
図2)は設けられていなくてもよい。これらの例の場合、アウトソール2はミッドソール1の内側縁11から外側縁10まで設けられており、その場合、例えば、第1屈曲溝G1は外側縁10の端から内側縁11の端まで延びていると認定することができる。
【0099】
前記各実施例では前記前縦溝G0および前記第1屈曲溝G1は少なくとも靴底の接地面側に形成されている。しかし、
図10の実施例5に示すように、例えば第1屈曲溝G1が接地面側とは反対側の上面1Fに形成されていてもよい。
【0100】
前記実施例1〜4において、
図1の前縦溝G0と第1屈曲溝G1とは第1交点C1において実際に交わっている。しかし、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とが実際に交わっている必要はない。
【0101】
図15A、
図15Bおよび
図16Aは、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とが互いに一部において不連続である場合の例を示す。
【0102】
図15Aにおいて、第1屈曲溝G1の後方DBにおいて、アウトソール2は内外に連なり、かつ、接地する部位21を有している。この場合、前記部位21において第1屈曲溝G1と前縦溝G0とは互いに不連続である。
【0103】
図15Bにおいて、前縦溝G0の両側においてアウトソール2は前後に連なり、かつ、接地する部位22を有している。この場合、前記部位22において外側屈曲部G10と内側屈曲部G11とは互いに分断されて不連続である。
【0104】
図16Aにおいて、第1交点C1を含む部位23はミッドソール1が露出している。この部位23はミッドソール1の他の部分に比べ窪んでいない。ミッドソール1からアウトソール2の突出量が小さい場合、前記部位23が前縦溝G0およびまたは第1屈曲溝G1の一部か否かの判断をする必要はない。
【0105】
図16Bの例において、第1屈曲溝G1は中心線L1が直線となるように設定されている。この場合、第1屈曲溝G1の溝の幅は一定でもよいが、
図16Bのように、中央部1Cから外側縁10および/または内側縁11に向かって溝の幅が拡がっていてもよい。また、第1屈曲溝G1の爪先側の溝端G12が後方に向かって凸に形成されているのが好ましく、円弧状に形成されているのが更に好ましい。
【0106】
つぎに、前記第1屈曲溝G1の溝の傾きについて検証したテストについて説明する。
【0107】
テストサンプルとして
図13のT1〜T4が用意された。テストサンプルT1〜T3の靴底には、
図13の二点鎖線で示す位置に第1屈曲溝G1(
図1)に相当する溝G15が形成された。テストサンプルT1〜T3の各溝G15のセンタSCに対する角度は、それぞれ、70°、88°または106°に設定された。テストサンプルT4には第1屈曲溝G1に相当する溝が設けられていない。
【0108】
被験者が前記各テストサンプルT1〜T4の靴を着用して6km/hで歩行し、前述の
図12の両脚支持期TEにおける振れ幅WΦを計測した。その結果が
図13に示される。なお、前記被験者は60代の男性である。
【0109】
図13のテスト結果から、各実施例の第1屈曲溝G1に近似した溝G15を有するテストサンプルT3は他のテストサンプルT1,T2,T4に比べ、安定性能に優れていることが分かる。
【0110】
つぎに、前述の実施例1(
図1)の靴底に関し検証したテストについて説明する。
【0111】
図14のテストサンプルT5として、前記
図1の各溝G0〜G7に近似した溝を定義する靴底を有する靴を試作した。テストサンプルT6およびT7として同靴の現行バージョンの靴を用意した。
【0112】
3名の被験者が前記各靴を着用し4km/hで歩行し、前述の
図12の両脚支持期TEにおける振れ幅WΦを計測した。その結果が
図14に示される。
【0113】
図14のテスト結果から、実施例1の構造に近似したテストサンプルT5は他のテストサンプルT6,T7に比べ、安定性能に優れていることが分かる。
【0114】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、ミッドソールにはゲルや鞘様の緩衝パーツが設けられていてもよい。また、メインソールは柔軟なミッドソールのような素材のみ、あるいは、アウトソールのみで形成されていてもよい。また、溝はアウトソールのみで形成されていてもよい。
したがって、そのような変更および修正は、本発明の範囲内のものと解釈される。