特許第5923224号(P5923224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アシックスの特許一覧

<>
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000002
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000003
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000004
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000005
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000006
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000007
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000008
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000009
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000010
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000011
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000012
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000013
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000014
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000015
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000016
  • 特許5923224-歩行に適した靴の靴底 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5923224
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】歩行に適した靴の靴底
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   A43B13/14 A
【請求項の数】21
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-559348(P2015-559348)
(86)(22)【出願日】2015年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2015070505
【審査請求日】2015年12月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001265
【氏名又は名称】特許業務法人山村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100102060
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 喜信
(72)【発明者】
【氏名】市川 将
(72)【発明者】
【氏名】高田 靖之
(72)【発明者】
【氏名】西川 雅俊
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−052404(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/068128(WO,A1)
【文献】 特開2011−136250(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0152428(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00−23/30
A43C 1/00−19/00
A43D 1/00−999/00
B29D 35/00−35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底であって、前記靴底は、前足部3の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びている前縦溝G0と、前記前足部の母趾球O1よりも前方DFに配置され前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第1屈曲溝G1とを定義し、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の平均深さH0は3〜20mmに設定され、
前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は3〜12mmに設定され、
前記第1屈曲溝G1は前記中央部1Cから前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記中央部1Cから前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含しており、
前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。
【請求項2】
請求項1の靴底において、
前記前縦溝G0はアウトソール2およびミッドソール1の双方で形成され、
前記第1屈曲溝G1は前記アウトソール2および前記ミッドソール1の双方で形成されている。
【請求項3】
請求項1もしくは2の靴底において、
前記靴底は、前記外側屈曲部G10よりも後方DBにおいて前記前縦溝G0から前記外側縁10に向かって斜め後方に延びている補助屈曲溝G3を更に定義し、
前記外側縁10から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は、前記第1屈曲溝G1の平均深さH1と同じか、あるいは、前記第1屈曲溝G1の平均深さH1よりも小さい。
【請求項4】
請求項3の靴底において、前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は2〜8mmに設定されている。
【請求項5】
請求項3もしくは4の靴底において、
前記前縦溝G0、前記第1屈曲溝G1、前記補助屈曲溝G3および前記外側縁10に囲まれた前記靴底の領域30は、三角形状、台形状ないし扇状に形成されている。
【請求項6】
請求項1〜5にいずれか1項の靴底において、
前記靴底は前記前足部3において前記縦方向Yに交差する横方向Xに延びている前記第1屈曲溝G1とは異なる1又は複数の横溝G6を更に定義し、
前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は前記1又は複数の各横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きい。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の靴底において、
前記靴底は後足部5の内側Mと外側Lとの間において少なくとも前記縦方向Yに延びている後縦溝G5と、前記後足部5に配置され前記後縦溝G5に仮想の第2交点C2で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第2屈曲溝G2とを更に定義し、
前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における前記後縦溝G5の平均深さH5は3〜16mmに設定され、
前記第2屈曲溝G2の平均深さH2は1〜12mmに設定され、
前記第2屈曲溝G2が前記内側縁11から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている。
【請求項8】
靴底であって、前記靴底は、前足部3の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びている前縦溝G0と、前記前足部3の母趾球O1よりも前方DFに配置され前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第1屈曲溝G1とを定義し、
前記第1交点C1から5cm後方DBまでの範囲における前記前縦溝G0の横断面積の平均値は10〜200平方ミリメートルに設定され、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は10〜120平方ミリメートルに設定され、
前記第1屈曲溝G1は前記中央部1Cから前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記中央部1Cから前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含しており、
前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。
【請求項9】
請求項8の靴底において、
前記前縦溝G0はアウトソール2およびミッドソール1の双方で形成され、
前記第1屈曲溝G1は前記アウトソール2および前記ミッドソール1の双方で形成されている。
【請求項10】
請求項8もしくは9の靴底において、
前記靴底は、前記外側屈曲部G10よりも後方において前記前縦溝G0から前記外側縁10に向かって斜め後方に延びている補助屈曲溝G3を更に定義し、
前記外側縁10から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値と同じか、あるいは、前記第1屈曲溝G1の平均値よりも小さい。
【請求項11】
請求項10の靴底において、前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は10〜100平方ミリメートルに設定されている。
【請求項12】
請求項10もしくは11の靴底において、
前記前縦溝G0、前記第1屈曲溝G1、前記補助屈曲溝G3および前記外側縁10に囲まれた前記靴底の領域30は、三角形状、台形状ないし扇状に形成されている。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項の靴底において、
前記靴底は前記前足部3において前記縦方向Yに交差する横方向Xに延び前記第1屈曲溝G1とは異なる1又は複数の横溝G6を更に定義し、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は前記1又は複数の各横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項の靴底において、
前記靴底は後足部5の内側Mと外側Lとの間において少なくとも前記縦方向Yに延びている後縦溝G5と、前記後足部5に配置され前記後縦溝G5に仮想の第2交点C2で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第2屈曲溝G2とを更に定義し、
前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における前記後縦溝5の横断面積の平均値は25〜600平方ミリメートルに設定され、
前記第2屈曲溝G2の横断面積の平均値は5〜120平方ミリメートルに設定され、
前記第2屈曲溝G2が前記内側縁11から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている。
【請求項15】
靴底であって、前記靴底は、前足部3の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びている前縦溝G0と、前記前足部3の母趾球O1よりも前方DFに配置され前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第1屈曲溝G1とを定義し、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の平均深さH0は3〜20mmに設定され、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の横断面積の平均値は25〜200平方ミリメートルに設定され、
前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は3〜12mmに設定され、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は10〜120平方ミリメートルに設定され、
前記第1屈曲溝G1は前記中央部1Cから前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記中央部1Cから前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含しており、
前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。
【請求項16】
靴底であって、前記靴底は、前足部3の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びている前縦溝G0と、前記前足部3において少なくとも前記縦方向Yに延び前記前縦溝G0とは異なる1又は複数の縦細溝G7と、前記前足部3の母趾球O1よりも前方DFに配置され前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第1屈曲溝G1と、前記前足部3において少なくとも前記横方向に延び前記第1屈曲溝G1とは異なる1又は複数の横溝G6とを定義し、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の平均深さH0は前記1又は複数の縦細溝G7の各々の平均深さH7よりも大きく、
前記第1屈曲溝G1の平均深さは前記1又は複数の横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きく、
前記第1屈曲溝G1は前記第1交点C1から前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記第1交点C1から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含しており、
前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。
【請求項17】
靴底であって、前記靴底は、前足部3の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びている前縦溝G0と、前記前足部3において少なくとも前記縦方向Yに延び前記前縦溝G0とは異なる1又は複数の縦細溝G7と、前記前足部3の母趾球O1よりも前方DFに配置され前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第1屈曲溝G1と、前記前足部3において少なくとも前記横方向に延び前記第1屈曲溝G1とは異なる1又は複数の横溝H6とを定義し、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の横断面積の平均値は前記1又は複数の各縦細溝G7の横断面積の各々の平均値よりも大きく、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は前記1又は複数の横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きく、
前記第1屈曲溝G1は前記中央部1Cから前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記中央部1Cから前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含しており、
前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項の靴底において、前記第1屈曲溝G1は後方に向かって凸に形成されている。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項の靴底において、前記第1屈曲溝G1が円弧状に形成されている。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項の靴底において、
前記前縦溝G0および前記第1屈曲溝G1は少なくとも靴底の接地面側に形成されている。
【請求項21】
請求項20の靴底において、前記靴底は、
前記接地面とは反対側の上面の前記外側屈曲部G10と前記補助屈曲溝G3との間の領域30及び/又は前記上面の前記外側屈曲部G10よりも前方の領域32において、
前記外側屈曲部G10に沿う前記斜め前方に延びている上溝G8を更に定義する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筋力の低い例えば高齢者等の歩行に適した靴の靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
ランニングやウォーキング等の前方移動を伴う靴において、足の本来の動きを実現するために、足の関節に対応した屈曲溝を設けた靴底は一般的である。また、近年、走行効率を高めるために靴の縦方向に延びている縦溝が設けられた靴底も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2010/038266A1(フロントページ)
【特許文献2】JP2008/29717A(フロントページ)
【特許文献3】JP2009/240827A(フロントページ)
【発明の概要】
【0004】
前記特許文献1に開示された発明は、走行効率の良い靴底を狙っており、高齢者の歩行の安定については配慮されていない。
【0005】
前記特許文献2に開示された靴底は、第1趾から第5趾のMP関節の配置に沿って足の内側から足の外側に斜め後方に延びている複数の屈曲溝が前足部から爪先部まで同じ様な向きで配置されている。これらの複数の屈曲溝は歩行者の足趾の関節がどのように屈曲するかを支配するであろう。
【0006】
前記特許文献2の発明は高齢者や幼児の歩行の安定性能の向上を狙っている。しかし、同文献の発明は高齢者等の歩行のメカニズムについて十分な検討がなされていない。
【0007】
特許文献3に開示された発明は、アッパーの特定の部分における伸縮度を選択的に変化させることを狙っている。同発明の靴底の概ね全域には、靴底を前後方向に分離する多数の切り込みが形成されている。
【0008】
しかし、同文献3の靴底は高齢者等の歩行の安定性能を向上することは難しいだろう。たとえば、靴底の全域に形成された前記多数の切り込みは靴底の不安定な変形をもたらすであろう。
【0009】
したがって、本発明の目的は、筋力の低下した高齢者等が歩行時の安定性能を高めることのできる靴底を提供することである。
【0010】
つぎに、高齢者等の歩行のメカニズムについて説明する。
歩行中には、体重を片脚のみで支える片脚支持期と、体重を両脚で支える両脚支持期とが交互に繰り返し現れる。
【0011】
図11は両脚支持期における靴底の配置を示す。この図のように、前後の足は互いに若干左右に開いた状態で接地している。図11のドット模様で示すように、前方の靴底S1は後端部S10のみが接地し、一方、後方の靴底S2は前端部S20のみが接地する。
【0012】
本発明者は両足の歩隔SDおよび歩行角θが、高齢者の場合、若年者に比べ大きい傾向があることを発見した。その理由は高齢者は加齢と共に筋力およびバランス能力が低下し、これらの低下を前記歩隔SDと歩行角θを大きくすることで補っていると考えられる。
【0013】
つぎに、歩行が不安定となる歩行のタイミングについて研究した結果について説明する。
【0014】
図12(b)に示す歩行者の地面反力Fを図12(a)の左右x成分Fxおよび上下z成分Fzについて計測し、左右への傾斜角Фを算出した。歩行の1サイクルについての傾斜角Фの値を図12(c)に示す。図12(c)において、ドット模様を付した両脚支持期TEにおいて前記傾斜角Фの振れ幅WФが最大になっていることが理解できる。
【0015】
つまり、歩行動作において両脚で接地している時、左右へ力がブレ易くなり、不安定な状態になっていると推測される。その為、両脚支持期TEにおいて安定した接地を行うためには、この傾斜角Фの振れ幅WФを小さくすることが重要と考えられる。
【0016】
一方、両脚支持期TEにおいては図11に示すように、先導脚の靴底S1の後端部S10と後継脚の靴底S2の前端部S20とが接地し、その他の部分は接地していない。したがって、前記後端部S10および前端部S20の安定した接地状態を得ることが重要である。
【0017】
一方、本発明者等の研究によれば、筋力の強い若年者と異なり高齢者は、歩行時に、いわゆるローリング動作(あおり運動)やヒールライズの高さが小さいと考えられている。また、後継脚の靴底S2の前端部S20に注目すると、前記歩隔SDが大きいため、接地してから離地するまでの間に圧力中心が内側Mに移動するであろうと推測される。この移動時に小趾球には圧力が負荷されにくいだろう。
【0018】
したがって、両脚支持期TE(図11)における後継脚の靴底S2の前端部S20の後端のラインS21は図11のように後方DBに向かって凸となるであろうと推測される。また、前記歩行角θが大きいことから、前記後端のラインS21は足の内側Mから外側Lに向かって斜め前方に延びるだろうと推測される。更に、前記ラインS21が前記センタSCとなす角α1、β1を比べると、β1>α1となるであろうと推測される。
【0019】
両脚支持期TE(図11)における先導脚について考察する。前記ローリング動作が小さいことから、靴底S1の後端部S10の前端のラインS11は進行方向に向かって直交する方向に近づくであろうと推測される。したがって、前記ラインS11は前記センタSCに対して、足の内側Mから外側Lに向かって斜め前方DFに延びるだろうと推測される。
【0020】
つぎに、本発明の種々の局面における共通の構成が説明される。
本発明は靴底であって、前記靴底は、前足部3の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びている前縦溝G0と、前記前足部の母趾球O1よりも前方DFに配置され前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第1屈曲溝G1とを定義し、
前記第1屈曲溝G1は前記中央部1Cから前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記中央部1Cから前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含しており、
前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。
【0021】
本発明においては、前記中央部1Cにおいて縦方向に延びる前縦溝G0が設けられている。これにより、片足支持期に、前足部において圧力中心点がシューズ中央付近に安定して集まり易くなり、安定した接地状態から次の両脚支持期TEへの移行が期待できる。
【0022】
本発明において、母趾球O1よりも前方に配置された前記第1屈曲溝G1は前記中央部1Cから前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている内側屈曲部G11と、前記中央部1Cから前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている外側屈曲部G10とを包含している。これにより、両脚支持期TEにおいて、爪先部の圧力中心点の軌跡が内側に移動した時にも、安定した爪先接地が可能となるであろう。
【0023】
本明細書において、仮想の第1交点C1(第2交点C2)とは、かかる交点が実際には目で見ることができないことを意味する。
また、「交点で交わるように」とは、溝同士が実際に交わっていなくてもよいことを意味する。たとえば、第1屈曲溝G1に対し、前縦溝G0が2〜3mm程度まで接近し、かつ、交わっていない場合が含まれることを意味する。
【0024】
また、前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αよりも、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βのほうが大きい。そのため、外側において斜め前方に延びる第1屈曲溝G1は、左右の足の歩隔が大きい場合、両脚支持期TEにおいて、爪先部の圧力中心点の軌跡を内側に移動し易くするであろう。これにより、安定した爪先接地が期待できる。
【0025】
本発明において、前縦溝G0および第1屈曲溝G1は、後述するように、種々の定義により特定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は本発明の実施例1を示す靴底の底面図である。図1においては主たる溝の部分にドット模様が付されている。
図2図2は同靴底の概略斜視図である。図2および後述する図8においては、作図の便宜上、アウトソールの接地面に形成された細い溝の図示が省略されている。また、図2および図8においてアウトソールの部位にはドット模様が付されている。
図3図3は同靴底を足の骨格と共に示す概略底面図である。
図4図4は同靴底の概略底面図である。図3および図4においては、図を見易くするために、アウトソールの接地面に形成された細い溝の図示が省略されている。
図5図5A図5B図5C図5D図5Eおよび図5Fはそれぞれ、図4に示す断面線A,B,C,D,EおよびFに沿って断面した靴底の部分断面図である。
図6図6は本発明の実施例2を示す靴底の底面図である。図6後述する図7および図9においては主たる溝の部分にドット模様が付されている。
図7図7は本発明の実施例3を示す靴底の底面図である。
図8図8は同靴底の概略斜視図である。
図9図9は本発明の実施例4を示す靴底の底面図である。
図10図10は本発明の実施例5を示す靴の概略側面図である。
図11図11は両脚支持期TEにおける左右の靴底の配置を示す概念図である。なお、図11において接地部位にはドット模様が付されている。
図12図12は、歩行の1サイクルにおける地面反力の傾きを示すグラフである。
図13図13はテストサンプルT1〜T4について安定性を計測した結果を示すグラフである。
図14図14はテストサンプルT5〜T7について安定性を計測した結果を示すグラフである。
図15図15Aおよび図15Bは、それぞれ、実施例6および7にかかる靴底の爪先部分の底面図である。
図16図16Aおよび図16Bは、それぞれ、実施例8および9を示す靴底の爪先部分の底面図である。なお、図15A図16Bにおいては主たる溝の部分にドット模様が付されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の前縦溝G0および第1屈曲溝G1は第1の局面において以下のように定義される。すなわち、第1の局面において、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の平均深さH0は3〜20mmに設定され、
前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は3〜12mmに設定されている。
「平均深さ」とは、溝の任意の横断面における最深部の深さを溝の延びている方向について平均した平均値を意味する。
【0028】
前記前縦溝G0の部位に荷重が負荷されて靴底が屈曲し、靴底が下方に沈む。これにより圧力中心が前縦溝G0に沿って移動し易い状態となる。かかる前縦溝G0の機能から、前記前縦溝G0の平均深さH0は4〜20mm程度が好ましく、5〜15mm程度が最も好ましい。
【0029】
前記第1屈曲溝G1の部位において、足の屈曲に沿って靴底が屈曲する。第1屈曲溝G1が浅いと靴底が屈曲しにくい。かかる観点から前記第1屈曲溝G1の深さH1は3.5〜12mm程度が好ましく、4〜10mm程度が最も好ましい。
【0030】
本発明の前縦溝G0および第1屈曲溝G1は第2の局面において以下のように定義される。すなわち、第2の局面において、
前記第1交点C1から5cm後方DBまでの範囲における前記前縦溝G0の横断面積の平均値は10〜200平方ミリメートルに設定され、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は10〜120平方ミリメートルに設定される。
前記「横断面積の平均値」とは、溝の任意の横断面における横断面積を溝の延びている方向について平均した平均値を意味する。
【0031】
溝において靴底が屈曲するには溝に十分な深さが必要である。しかし、靴底がスムースに屈曲して安定した歩行姿勢を得るためには、溝の幅が十分な大きさであるのが好ましい。
【0032】
かかる観点から、前記前縦溝G0の横断面積の平均値は、好ましくは15〜200平方ミリメートルに設定され、より好ましくは20〜200平方ミリメートルに設定され、最も好ましくは25〜200平方ミリメートルに設定される。
【0033】
同様の観点から、前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は20〜120平方ミリメートル程度が好ましく、最も好ましくは25〜100平方ミリメートルに設定される。
【0034】
本発明の前縦溝G0および第1屈曲溝G1は第3の局面において以下のように定義される。すなわち、第3の局面において、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の平均深さH0は3〜20mmに設定され、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の横断面積の平均値は25〜200平方ミリメートルに設定され、
前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は3〜12mmに設定され、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は10〜120平方ミリメートルに設定される。
【0035】
本第3の局面において、前記両溝G0,G1は、それぞれ、前記各平均深さH0,H1および横断面積の各平均値の双方で定義されている。したがって、前記両溝において靴底がよりスムースにより屈曲し易い。
【0036】
本発明の第4および第5の局面においては、前記両溝G0,G1に加え、
前記前足部3において少なくとも縦方向Yに延び前記前縦溝G0とは異なる1又は複数の縦細溝G7と、
前記前足部3において前記縦方向Yに交差する横方向に延び前記第1屈曲溝G1とは異なる1又は複数の横溝G6とを、靴底が定義する。
【0037】
本発明の前縦溝G0および第1屈曲溝G1は前記第4の局面において以下のように定義される。すなわち、第4の局面において、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の平均深さH0は前記1又は複数の縦細溝G7の各々の平均深さよりも大きく、
前記第1屈曲溝G1の平均深さは前記1又は複数の横溝G6の各々の平均深さよりも大きい。
【0038】
靴底の接地面や底面には横方向および縦方向への防滑のための縦細溝G7および横溝G6が設けられる場合がある。第4の局面において、かかる防滑用の各溝G7,G6の深さに比べ前記前縦溝G0や第1屈曲溝G1の深さは大きい。そのため、深い前縦溝G0および第1屈曲溝G1において靴底は最も屈曲し易く、したがって、所期の安定性能が発揮され易いだろう。
【0039】
本発明の前縦溝G0および第1屈曲溝G1は第5の局面において以下のように定義される。すなわち、第5の局面において、
前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における前記前縦溝G0の横断面積の平均値は前記1又は複数の各縦細溝G7の横断面積の各々の平均値よりも大きく、
前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は前記1又は複数の横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【0040】
第5の局面において、かかる防滑用の各溝G7,G6の横断面積の平均値に比べ前記前縦溝G0および第1屈曲溝G1のそれは大きい。そのため、横断面積が大きい前縦溝G0および第1屈曲溝G1において靴底は最も屈曲し易く、したがって、所期の安定性能が発揮され易いだろう。
【0041】
前記第2〜第5局面において、前記前縦溝G0および第1屈曲溝G1の各平均深さH0,H1は、前述の第1局面において設定された値が採用されてもよい。
【0042】
一方、前記第1局面および第3〜第5局面において、前記前縦溝G0および第1屈曲溝G1の横断面積の各平均値は、前述の第2局面において設定された値が採用されてもよい。
【0043】
前記各局面において好ましくは、前記前縦溝G0はアウトソール2およびミッドソール1の双方で形成され、
前記第1屈曲溝G1は前記アウトソール2および前記ミッドソール1の双方で形成されている。
【0044】
これらの場合、前記前縦溝G0および第1屈曲溝G1は、アウトソールだけでなくミッドソールにも形成されており、そのため、深く、靴底が屈曲し易いだろう。
【0045】
前記各局面において好ましくは、前記靴底は、前記外側屈曲部G10よりも後方DBにおいて前記前縦溝G0から前記外側縁10に向かって斜め後方に延びている補助屈曲溝G3を更に定義し、
前記外側縁10から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は、前記第1屈曲溝G1の平均深さH1と同じか、あるいは、前記第1屈曲溝G1の平均深さH1よりも小さい。
【0046】
また、各局面において好ましくは、前記靴底は、前記外側屈曲部G10よりも後方において前記前縦溝G0から前記外側縁10に向かって斜め後方に延びている補助屈曲溝G3を更に定義し、
前記外側縁10から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値と同じか、あるいは、前記第1屈曲溝G1の平均値よりも小さい。
【0047】
これらの場合、前記外側屈曲部G10よりも後方に配置された補助屈曲溝G3は前縦溝G0から外側縁10に向かって斜め後方に延びており、第3〜第4足趾のMP関節の配置に沿い易い。そのため、靴底がMP関節の屈曲に沿って屈曲し易いであろう。
【0048】
一方、補助屈曲溝G3が第1屈曲溝G1よりも屈曲し易いと、前記MP関節に沿った靴底の屈曲が支配的になる。この場合、補助屈曲溝G3は第1屈曲溝G1における所期の屈曲の妨げとなるおそれがある。かかる観点から、前記補助屈曲溝G3の深さH3が第1屈曲溝G1の深さH1よりも小さいのが更に好ましい。同様に、前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値が前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値よりも小さいのが更に好ましい。
【0049】
かかる観点から、前記補助屈曲溝G3の深さH3は2〜8mm程度が好ましく、2.5〜6mm程度が最も好ましい。
【0050】
同様の観点から、前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、好ましくは10〜100平方ミリメートルに設定され、最も好ましくは12〜80平方ミリメートルに設定される。
【0051】
前記補助屈曲溝G3を設けた場合、前記前縦溝G0、前記第1屈曲溝G1、前記補助屈曲溝G3および前記外側縁10に囲まれた前記靴底の領域30は、三角形状、台形状ないし扇状に形成される場合が多いであろう。
【0052】
前述した理由から、前記第1〜第3局面において、好ましくは、前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は前記1又は複数の各横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きい。
同様に、第1〜第3局面において、好ましくは、前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は前記1又は複数の各横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【0053】
前記各局面において、好ましくは、前記靴底は後足部5の内側Mと外側Lとの間において少なくとも前記縦方向Yに延びている後縦溝G5と、前記後足部5に配置され前記後縦溝G5に仮想の前記第2交点C2で交わるように少なくとも横方向Xに延びている第2屈曲溝G2とを更に定義し、
前記第2屈曲溝G2が前記内側縁11から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びる。
【0054】
前述の先導脚について考察したとおり、爪先が外側に向かっている靴底の後端部は、両脚支持期TEにおいて、シュー(ズ)センタSCに対して斜めに傾いている。したがって、前記内側縁11から外側縁10に向かって斜め前方に延びる第2屈曲溝G2は、先導脚が踵接地する際に、屈曲し易く、前記後端部の安定した接地に役立つだろう。
【0055】
一方、前記両脚支持期TEから片脚支持期に移行する際に、着用者の姿勢を安定させるためには、圧力中心が後足部の内外の中央に位置しながら前方へ移動するべきである。前記内側Mと外側Lとの間に配置された前記後縦溝G5は前記圧力中心が後足部において内外の中央に位置しながら前方へ移動するのに役立つだろう。
【0056】
この場合において、前記後縦溝G5および第2屈曲溝G2は、前述と同様の理由で、平均深さ及び/又は横断面積の平均値で定義される。
【0057】
好ましくは、前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における前記後縦溝G5の平均深さH5は3〜16mmに設定され、更に好ましくは、5〜16mmに設定される。一方、前記第2屈曲溝G2の平均深さH2は1〜12mmに設定されるのが好ましく、更に好ましくは、2〜12mmに設定され最も好ましくは3〜12mmに設定される。
【0058】
好ましくは、前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における前記後縦溝G5の横断面積の平均値は25〜600平方ミリメートルに設定され、更に好ましくは、30〜600平方ミリメートルに設定される。一方、前記第2屈曲溝G2の横断面積の平均値は5〜120平方ミリメートルに設定されるのが好ましく、更に好ましくは、8〜100平方ミリメートルに設定される。
【0059】
本明細書において、前足部3(後足部5)の内側Mと外側Lとの間の中央部1Cにおいて少なくとも縦方向Yに延びているとは、前縦溝G0または後縦溝G5の中心線が内外の縁に近い部位を通っておらず、内外の中央部1Cを通っていることを意味する。
好ましくは、前記中央部1Cは靴底を横方向に3等分した中央の1/3の部位であり、この中央部1Cに前記縦溝G0または後縦溝G5の中心線が配置される。
【0060】
好ましくは、第1屈曲溝G1が後方DBに向かって凸に形成されており、そのため、両脚支持期TEにおける後継脚の爪先接地に沿って第1屈曲溝G1が屈曲するだろう。
したがって、安定した爪先接地が期待できる。
【0061】
更に好ましくは、前記第1屈曲溝G1が円弧状に形成されている。
この場合、円弧状の第1屈曲溝G1により靴底の屈曲がスムースであろう。
【0062】
好ましくは、前記前縦溝G0および前記第1屈曲溝G1は少なくとも靴底の接地面側に形成されている。
接地面側に設けられた第1屈曲溝G1は靴底の上面に設けられる場合に比べ、靴底が屈曲し易いだろう。
【0063】
好ましくは、前記接地面とは反対側の上面の前記外側屈曲部G10と前記補助屈曲溝G3との間の前記領域30、及び/又は、前記上面の前記外側屈曲部G10よりも前方の領域32において、前記外側屈曲部G10に沿う前記斜め前方に延びている上溝G8が設けられる。
この場合、上溝G8により靴底が更に屈曲し易く、かつ、スムースに屈曲するだろう。
【0064】
1つの前記各実施態様または下記の実施例に関連して説明および/または図示した特徴は、1つまたはそれ以上の他の実施態様または他の実施例において同一または類似な形で、および/または他の実施態様または実施例の特徴と組み合わせて、または、その代わりに利用することができる。
【実施例】
【0065】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかし、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は請求の範囲によってのみ定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【0066】
以下、本発明の実施例1が図1図5にしたがって説明される。
本実施例は例えばウォーキング用の靴の靴底である。
図1および図2に示すメインソールMSはゴム製のアウトソール2と樹脂製のミッドソール1とを備える。メインソールMSの上には図示しない足の甲を包むアッパーが設けられる。
【0067】
ミッドソール1は例えばEVAのような樹脂製の発泡体からなるミッドソール本体を備え、更に、強化装置を備えていてもよい。「樹脂製」とは、熱可塑性等の樹脂成分を有するという意味で、任意の適宜の他の成分を含む。
【0068】
図2のアウトソール2は前記ミッドソール本体の発泡体よりも耐摩耗性の大きい接地底で、一般に、ミッドソール本体の発泡体よりも硬度が大きい。なお、「ゴム製」とは天然ゴムや合成ゴムの成分を有するという意味で、任意の他の成分を含む。
【0069】
図3において、本実施例のミッドソール1および図示しないインソールは足裏の概ね全面を覆う。一方、図1および図2に示すように、アウトソール2はミッドソール1の下面に付着され足裏を部分的に覆う。
【0070】
図1および図2に明示するように、メインソールMSの接地面側には、前縦溝G0,第1屈曲溝G1, 第2屈曲溝G2,補助屈曲溝G3および後縦溝G5が形成されている。
【0071】
図3において、前記縦溝G0は、前足部3の内側Mと外側Lとの間において少なくとも縦方向Yに延びている。前記第1屈曲溝G1は前記前足部の母趾球O1よりも前方DFに配置され、図4の前記前縦溝G0に仮想の第1交点C1で交わるように少なくとも横方向Xに延びている。なお、本実施例の場合、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とは第1交点C1において実際に交差(クロス)している。
【0072】
図4において、前記第1屈曲溝G1は内側屈曲部G11および外側屈曲部G10とを備える。前記内側屈曲部G11は前記第1交点C1から前記内側縁11に向かって真横または斜め後方に延びている。前記外側屈曲部G10は前記第1交点C1から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている。例えば、図3に示すように、内側屈曲部G11は母趾球O1よりも前方で、かつ、第1趾の末節骨B1の後端よりも後方に配置される。一方、外側屈曲部G10は第5趾の末節骨B5の先端よりも前方に配置される。
【0073】
図3において、前記補助屈曲溝G3は、前記外側屈曲部G10よりも後方DBにおいて前記前縦溝G0から前記外側縁10に向かって斜め後方に延びている。なお、別の補助屈曲溝G4は前記内側屈曲部G11よりも後方において前記前縦溝G0から前記内側縁11に向かって延びている。前記各補助屈曲溝G3,G4は足趾の5つの中足趾節間関節MPに沿うように、かつ、前記中足趾節間関節MPよりも後方DBに配置されていてもよい。
【0074】
図2において、前記アウトソール2は互いに離間した複数のパーツを備える。前記各溝G0〜G5は、前記アウトソール2のパーツとパーツとの間の隙間で形成されている。更に、前記前縦溝G0,第1屈曲溝G1,補助屈曲溝G3および後縦溝G5については、パーツ間において露出したミッドソール1の底面が抉られていることで深い溝を構成する。
【0075】
図4において、前記第1屈曲溝G1は後方DBに向かって凸に形成され、たとえば、円弧状に湾曲している。前記前縦溝G0はミッドソール1の外側縁10に沿って湾曲している。前記前縦溝G0、前記第1屈曲溝G1、前記補助屈曲溝G3および前記外側縁10に囲まれた前記靴底の領域30は、図4図6図7図9のように三角形状、台形状ないし扇状に形成されていてもよい。
【0076】
図4において、前記内側屈曲部G11と前記前縦溝G0とのなす第1角αは、前記外側屈曲部G10と前記前縦溝G0とのなす第2角βよりも小さい。前記第1屈曲溝G1が湾曲している場合、前記第1および第2角α,βの大きさは、例えば下記の(1)または(2)の手法で算出されてもよい。
【0077】
(1)各屈曲部G10,11の中心線L10,L11上において第1交点C1から任意の距離離れた各点における接線と、前記前縦溝G0の中心線L0上において第1交点C1から同距離だけ離れた各点における接線とがなす角の平均値を前記第1または第2角α,βとする。
(2)各屈曲部G10,11の中心線L10,L11を長さ方向に2等分する点における接線と、前記前縦溝G0の中心線L0上において第1交点C1から前記2等分された線分の長さ離れた点における接線とがなす角を前記第1または第2角α,βとする。
【0078】
図4の前記第1交点C1から5cm後方までの範囲における図5Aおよび図5Cの前記前縦溝G0の平均深さH0は5〜15mm程度に設定されている。図5Bおよび図5Dの前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は4〜10mm程度に設定されている。
【0079】
図5Eの前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は2.5〜6mm程度に設定されている。前記外側縁10から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の平均深さH3は前記第1屈曲溝G1の平均深さH1よりも小さい。なお、深さH3は前記第1屈曲溝G1の平均深さH1と同じであってもよい。
【0080】
図1において、アウトソール2には、前記前足部3において前記縦方向Yに交差する横方向に延び前記第1屈曲溝G1とは異なる複数本の横溝G6が更に形成されている。図5Dの前記第1屈曲溝G1の平均深さH1は前記各横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きい。
【0081】
図4の前記後縦溝G5は後足部5の内側Mと外側Lとの間において少なくとも前記縦方向Yに延びている。前記第2屈曲溝G2は前記後足部5に配置され前記後縦溝G5に仮想の前記第2交点C2で交わるように少なくとも横方向Xに延びている。本実施例の場合、後縦溝G5と前縦溝G0とは第2交点C2において実際に交わっている。
前記第2屈曲溝G2は前記内側縁11から前記外側縁10に向かって斜め前方に延びている。
【0082】
図4において、前記後縦溝G5の中心線L5および前記前縦溝G0の中心線L0は、メインソールMSを内側M、外側L及び中央部に3等分した前記中央部1Cに配置されている。より好ましくは、メインソールMSを幅方向Xに5等分した中央部1Cに配置される。
【0083】
図4の前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における図5Aの前記後縦溝G5の平均深さH5は3〜16mmに設定されている。図5Fの前記第2屈曲溝G2の平均深さH2は1〜12mmに設定されている。
【0084】
図5Cの前記前縦溝G0の前記平均深さH0は前記複数の縦細溝G7の各々の平均深さH7よりも大きい。また、図5Dの前記第1屈曲溝G1の前記平均深さH1は前記複数の横溝G6の各々の平均深さH6よりも大きい。
【0085】
図2および図1に示すように、ミッドソール1の外周縁にはアウトソール2が配置されていない。そのため、ミッドソール1の外側縁10および内側縁11においては図2に示すように底面に高低差が殆ど生じていない。したがって、第1屈曲溝G1、第2屈曲溝G2および補助屈曲溝G3、G4はメインソールMSの外側縁10および内側縁11に形成されていないと認定すべきである。すなわち、各屈曲溝G1〜G4は中央部1Cと側縁10,11との間に設けられていればよく、両側縁10,11の間の全幅にわたって設けられている必要はない。
【0086】
このような理由から、各溝の平均深さH1〜H4(図5A図5E)などの平均値は、図1の前記外側縁10および内側縁11の部位を除いた範囲の深さ等の平均値を意味する。また、図5A図5Eの平均深さH1〜H6は各溝の横断面における最深部の深さの平均値を意味する。
【0087】
図4の前記第1交点C1から5cm後方DBまでの範囲における図5Aおよび図5Cの前記前縦溝G0の横断面積の平均値は25〜200平方ミリメートル程度に設定されている。図5Bおよび図5Dの前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は20〜100平方ミリメートル程度に設定されている。
【0088】
図5Eの前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は12〜80平方ミリメートル程度に設定されている。前記外側縁10の近傍から前記前縦溝G0に至るまでの範囲における前記補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、前記第1屈曲溝G1の平均値よりも小さい。なお、補助屈曲溝G3の横断面積の平均値は、前記第1屈曲溝G1のそれと同じであってもよい。
【0089】
図5Dの前記第1屈曲溝G1の横断面積の平均値は前記1又は複数の各横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【0090】
図4の前記第2交点C2から5cm前方までの範囲における図5Aの前記後縦溝G5の横断面積の平均値は30〜600平方ミリメートル程度に設定されている。図5Fの前記第2屈曲溝G2の横断面積の平均値は8〜10平方ミリメートル程度に設定されている。
【0091】
図5Cの前記前縦溝G0の前記横断面積の平均値は前記複数の各縦細溝G7の横断面積の各々の平均値よりも大きい。また、図5Dの前記第1屈曲溝G1の前記横断面積の平均値は前記複数の横溝G6の横断面積の各々の平均値よりも大きい。
【0092】
図1のメインソールMSにおける接地面とは反対側の上面には破線で示す上溝G8が形成されている。前記上溝G8は前記上面の前記外側屈曲部G10と前記補助屈曲溝G3との間の前記領域30並びに前記上面の前記外側屈曲部G10よりも前方の領域32において、前記外側屈曲部G10に沿う前記斜め前方に延びている。
【0093】
図2に示すように、本実施例1においては、前縦溝G0と後縦溝G5とが、アウトソール2による強化部20を介して互いに連なっている。前記強化部20は例えば1〜5mm程度の浅い溝を定義している。
【0094】
図6の例に示すように、前記強化部20(図2)は設けられなくてもよい。また、前記前縦溝G0と後縦溝G5とは互いに滑らかに連なっていてもよい。
【0095】
図7および図8の例に示すように、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とは十字状ではなく、T字状に交わっていてもよい。
【0096】
図7および図9の例に示すように、補助屈曲溝G3は前記第1交点C1の近傍の前縦溝G0から斜め後方に向かって外側縁10に至るまで延びていてもよい。この場合、前記領域30は三角形状である。
【0097】
また、図8の例に示すように、第2屈曲溝G2の平均深さおよび横断面積の平均値は第1屈曲溝G1のそれらの値と同程度であってもよい。
【0098】
図7および図9の例のように、前記補助屈曲溝G3とは別の補助屈曲溝G4(図2)は設けられていなくてもよい。これらの例の場合、アウトソール2はミッドソール1の内側縁11から外側縁10まで設けられており、その場合、例えば、第1屈曲溝G1は外側縁10の端から内側縁11の端まで延びていると認定することができる。
【0099】
前記各実施例では前記前縦溝G0および前記第1屈曲溝G1は少なくとも靴底の接地面側に形成されている。しかし、図10の実施例5に示すように、例えば第1屈曲溝G1が接地面側とは反対側の上面1Fに形成されていてもよい。
【0100】
前記実施例1〜4において、図1の前縦溝G0と第1屈曲溝G1とは第1交点C1において実際に交わっている。しかし、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とが実際に交わっている必要はない。
【0101】
図15A図15Bおよび図16Aは、前縦溝G0と第1屈曲溝G1とが互いに一部において不連続である場合の例を示す。
【0102】
図15Aにおいて、第1屈曲溝G1の後方DBにおいて、アウトソール2は内外に連なり、かつ、接地する部位21を有している。この場合、前記部位21において第1屈曲溝G1と前縦溝G0とは互いに不連続である。
【0103】
図15Bにおいて、前縦溝G0の両側においてアウトソール2は前後に連なり、かつ、接地する部位22を有している。この場合、前記部位22において外側屈曲部G10と内側屈曲部G11とは互いに分断されて不連続である。
【0104】
図16Aにおいて、第1交点C1を含む部位23はミッドソール1が露出している。この部位23はミッドソール1の他の部分に比べ窪んでいない。ミッドソール1からアウトソール2の突出量が小さい場合、前記部位23が前縦溝G0およびまたは第1屈曲溝G1の一部か否かの判断をする必要はない。
【0105】
図16Bの例において、第1屈曲溝G1は中心線L1が直線となるように設定されている。この場合、第1屈曲溝G1の溝の幅は一定でもよいが、図16Bのように、中央部1Cから外側縁10および/または内側縁11に向かって溝の幅が拡がっていてもよい。また、第1屈曲溝G1の爪先側の溝端G12が後方に向かって凸に形成されているのが好ましく、円弧状に形成されているのが更に好ましい。
【0106】
つぎに、前記第1屈曲溝G1の溝の傾きについて検証したテストについて説明する。
【0107】
テストサンプルとして図13のT1〜T4が用意された。テストサンプルT1〜T3の靴底には、図13の二点鎖線で示す位置に第1屈曲溝G1(図1)に相当する溝G15が形成された。テストサンプルT1〜T3の各溝G15のセンタSCに対する角度は、それぞれ、70°、88°または106°に設定された。テストサンプルT4には第1屈曲溝G1に相当する溝が設けられていない。
【0108】
被験者が前記各テストサンプルT1〜T4の靴を着用して6km/hで歩行し、前述の図12の両脚支持期TEにおける振れ幅WΦを計測した。その結果が図13に示される。なお、前記被験者は60代の男性である。
【0109】
図13のテスト結果から、各実施例の第1屈曲溝G1に近似した溝G15を有するテストサンプルT3は他のテストサンプルT1,T2,T4に比べ、安定性能に優れていることが分かる。
【0110】
つぎに、前述の実施例1(図1)の靴底に関し検証したテストについて説明する。
【0111】
図14のテストサンプルT5として、前記図1の各溝G0〜G7に近似した溝を定義する靴底を有する靴を試作した。テストサンプルT6およびT7として同靴の現行バージョンの靴を用意した。
【0112】
3名の被験者が前記各靴を着用し4km/hで歩行し、前述の図12の両脚支持期TEにおける振れ幅WΦを計測した。その結果が図14に示される。
【0113】
図14のテスト結果から、実施例1の構造に近似したテストサンプルT5は他のテストサンプルT6,T7に比べ、安定性能に優れていることが分かる。
【0114】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、ミッドソールにはゲルや鞘様の緩衝パーツが設けられていてもよい。また、メインソールは柔軟なミッドソールのような素材のみ、あるいは、アウトソールのみで形成されていてもよい。また、溝はアウトソールのみで形成されていてもよい。
したがって、そのような変更および修正は、本発明の範囲内のものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明はウォーキング用、ビジネス用などの種々の靴に適用できる。
【符号の説明】
【0116】
1:ミッドソール 1C:中央部 1F:上面 10:外側縁 11:内側縁
2:アウトソール 20:強化部 21〜23:部位
3:前足部 30,32:領域
5:後足部
C1:第1交点 C2:第2交点
DF:前方 DB:後方
G0:前縦溝 G1:第1屈曲溝 G2:第2屈曲溝 G3:補助屈曲溝 G4:別の補助屈曲溝 G5:後縦溝 G6:横溝 G7:縦細溝 G8:上溝 G10:外側屈曲部 G11:内側屈曲部
H1,H2,H3,H5,H6:深さ
L0,L1,L10,L11:中心線
L:外側 M:内側
MS:メインソール
O1:母趾球 B1,B5:末節骨
S1,S2:靴底 S10:後端部 S20:前端部 SC:シュー(ズ)センタ SD:歩隔
TE:両脚支持期
X:横方向 Y:縦方向
WΦ:振れ幅
θ:歩行角
【要約】
靴底は、前足部の内側と外側との間において少なくとも縦方向に延びている前縦溝と、前足部の母趾球よりも前方に配置され前縦溝に仮想の第1交点で交わるように少なくとも横方向に延びている第1屈曲溝とを定義し、前記第1屈曲溝の内側屈曲部と前縦溝とのなす第1角よりも、前記第1屈曲溝の外側屈曲部と前記前縦溝とのなす第2角のほうが大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16