(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記研磨層は、前記研磨領域と、その研磨領域の前記研磨面とは反対側に前記研磨領域と一体不可分に形成された準研磨領域と、を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨パッド用シート。
前記複数の研磨領域の間における前記準研磨領域の表面に現れる開口の数が、前記研磨面に現れる開口の数のよりも小さい、請求項6のいずれか1項に記載の研磨パッド用シート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
図1の(A)は、本実施形態の研磨パッド用シートの一例を示す概略平面図であり、(B)は(A)の破線IIで囲んだ部分を拡大した概略平面図である。
図2の(A)は、
図1のIII−III線に沿って切断して現れる断面を示す概略断面図であり、研磨パッド用シートの厚み方向に平行に切断した際に現れる断面である。
図2の(B)は、(A)の破線IVで囲んだ部分を拡大した概略断面図である。研磨パッド用シート100は、その研磨パッド用シート100からワーク(被研磨物)を研磨する研磨パッドを作製するためのものであり、基材110と、その基材110上に積層した樹脂シートである研磨層120とを備える。研磨層120は、研磨面120cを有する複数の研磨領域120aと準研磨領域120bとを含む。複数の研磨領域120aは、研磨層120の面内方向に互いに隔離して配列されており、本実施形態において、複数の研磨領域120aは、研磨層120の厚み方向における投影面の形状(以下、単に「投影面形状」ともいう。)が、
図1に示すとおり、各々正六角形又は略正六角形の形状を有している。また、準研磨領域120bは、研磨領域120aの研磨面120cとは反対側、すなわち基材110側に、研磨領域120aと一体不可分に形成されている。複数の研磨領域120aの間には、その研磨領域120aの側壁面120dと準研磨領域120bの表面120eとに囲まれた溝120g(
図1にのみ符号を示す。)が形成されており、準研磨領域120bの表面120eはその溝120gの底面になる。そして、研磨領域120aは、その研磨面120cと側壁面120dとの間に凸曲面120fを有する。
【0016】
研磨層120内部には、
図2の(B)に示すように複数の気泡121が形成されており、図示するようにその気泡は閉気孔であってもよく、図示していないが例えば研磨面120cに開口を有する開気孔であってもよい。気泡121の立体形状は特に限定されず、略球状、錐体状及び紡錘形状のいずれか1つ以上であってもよいが、図示するように細長い部分を有することが好ましく、全体として細長く丸みを帯びた錐体の形状(滴状)であるとより好ましい。このような形状を有することにより、気泡121が良好な緩衝作用を示し、研磨パッドが軟質になるので、ワークが損傷し難く、仕上げ研磨加工に適した研磨パッドとなる。ただし、研磨層120が細長い部分を有しない気泡を有していてもよい。
【0017】
基材110はフィルム状であり、研磨パッド用シート100から作製した研磨パッドを用いて研磨する際に、研磨パッドが伸縮したり破断したり又は湾曲したりするのを抑制するものである。その材質は、従来の研磨パッドの基材として用いられるものであってもよく、特に限定されない。材質として、通常可撓性のものが採用され、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)及びポリオレフィンが挙げられる。基材の厚さも、従来の研磨パッドの基材で採用されるような厚さであってもよく、特に限定されない。その厚さは、例えば、0.1〜5mmである。
【0018】
樹脂シートからなる研磨層120は、その厚み方向に基材110側から順に、準研磨領域120bと研磨領域120aとを一体不可分に有する。研磨層120の材料組成は、マトリックスとなる樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)を最も多く含む組成であれば特に限定されず、例えば、研磨層120は、その全体量に対して、マトリックス樹脂を80〜100質量%含むものであってもよい。研磨層120は、その全体量に対して、マトリックス樹脂をより好ましくは85〜100質量%含み、更に好ましくは90〜100質量%含み、特に好ましくは90〜95質量%含む。
【0019】
マトリックス樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリサルホン樹脂及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、従来の研磨パッドの研磨層に用いられるものであってもよい。これらの中では、本発明の目的を一層有効且つ確実に奏する観点から、ポリウレタン樹脂が好ましく、研磨層120がポリウレタン樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが更に好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0020】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、本発明の目的をより有効且つ確実に奏する観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0021】
ポリウレタン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、クリスボン(DIC(株)社製商品名)、サンプレン(三洋化成工業(株)社製商品名)、レザミン(大日本精化工業(株)社製商品名)が挙げられる。
【0022】
ポリサルホン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、ユーデル(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)社製商品名)が挙げられる。ポリイミド樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、オーラム(三井化学(株)社製商品名)が挙げられる。
【0023】
また、マトリックス樹脂は、研磨パッドをワークに損傷を与え難い研磨加工仕上げに適した軟質なものにする観点から、その流動開始温度が220℃以下の樹脂を含むと好ましく、200℃以下の樹脂を含むとより好ましい。そのような樹脂としては、上記市販品の中から熱可塑性ポリウレタン樹脂を適宜選択すればよい。また、樹脂の流動開始温度は、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、製品名「RSA−III」)を使用して得られる温度依存性曲線中、位相角の急激な上昇が起こる点の外挿点から導出される。
【0024】
研磨層120は、マトリックス樹脂以外に、研磨パッド用シートの研磨層に通常用いられる材料、例えば、カーボンブラックなどの顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤の1種又は2種以上を含んでもよい。これらの任意に用いられる材料は、気泡121の大きさ及び個数を制御するのに用いられてもよい。さらには、研磨層120の製造過程において用いられた溶媒などの各種の材料が、本発明の課題解決を阻害しない範囲で研磨層120内に残存していてもよい。
【0025】
準研磨領域120bは、研磨層120において基材110側に形成されており、その厚さは特に限定されず、例えば50〜200μmである。準研磨領域120bは、後に詳述する研磨領域120aと一体不可分に形成されており、その材質は研磨領域120aと同一である。ただし、準研磨領域120bは、研磨領域120aと一体不可分でなくてもよく、材質が異なっていてもよい。
【0026】
研磨領域120aは、準研磨領域120bを挟んで基材110とは反対側に形成されており、その厚さは特に限定されないが、例えば0.1〜2.0mmである。研磨領域120aは、研磨層120の面内方向に互いに離間して複数形成されており、その各々の投影面形状は正六角形又は略正六角形である。複数の研磨領域120aは、その正六角形又は略正六角形の投影面形状を密に並べるように、いわゆるハニカム状に配置されており、それら複数の研磨領域120a間に溝120gが形成されている。このような形状及び配置を有することにより、例えば投影面形状が円形である場合とは異なり、溝120gの幅が一定になり、かつ、例えば投影面形状が矩形である場合とは異なり、溝120gは指向性が少なくなるように延在する。そのため、この研磨パッド用シート100から円形の平面形状を有する研磨パッドを作製した場合に、溝120g内を流動するスラリーを研磨パッドの全体に効率よく行き渡らせることができると共に、研磨屑を含むスラリーを滞りなく円滑に系外に排出することも可能になる。これにより、スラリーの循環量の低下を十分抑制できる。また、複数の研磨領域120aを密に配置することにより研磨パッドの単位面積当たりの研磨面面積をより大きくすることができるので、研磨パッドの研磨性能を更に高めることが可能となる。さらには、このような六角形は鈍角のみを有し、直角又は鋭角を有する角部を有しないので、ワークと研磨パッドの研磨領域120aとの衝突や、研磨領域120aの破損を抑制でき、研磨パッドの摩耗を軽減することが可能となる。つまり、研磨加工時、研磨パッドは、ワークによりその厚み方向に押圧されるため、その研磨領域120aは、その研磨領域120aのワーク進行方向に隣り合って存在し、ワークがまだ載っていない別の研磨領域120aよりも、研磨面120cが基材110側に位置している。その結果、ワークの進行方向側の端部は別の研磨領域120aに衝突することになる。通常、研磨パッドはワークよりも変形しやすいため、ワークと研磨領域120aとが衝突すると、ワークからの衝撃を受けて研磨領域120aが大きく変形した末に破損するので、研磨パッドが摩耗しやすくなる。別の研磨領域120aが上記投影面に角部の存在する形状を有すると、上記衝突の際、その角部がワークから強い衝撃を受けるため、容易に破損してしまう。ところが、本実施形態によると、上述のとおり、研磨領域120aの上記投影面形状が正六角形又は略正六角形であり、鈍角のみを有するため、上記衝突による衝撃を軽減でき、その結果、研磨領域120aが破損し難く、研磨パッドの摩耗を軽減することができる。
【0027】
研磨領域120aの上記投影面の面積及び溝120gの幅に特に制限はないが、上記投影面の面積は、研磨効率及び表面品質を向上する観点から、研磨パッド用シートの全体の投影面の面積を基準とする割合として、50〜80%であると好ましく、55〜70%であるとより好ましい。また、溝120gの幅は、研磨屑をスラリーと共に円滑に排出し、ワークに対するスクラッチを防止する観点から、側壁面120d間の距離として0.5mm〜3.0mmであると好ましく、0.8mm〜2.0mmであるとより好ましい。投影面の面積割合が上記範囲よりも大きいと、ウェーハが研磨パッドに吸着し、研磨加工を阻害しやすくなる傾向にある。溝120gの幅が上記範囲よりも狭い場合、スラリーの循環性が落ちて、加工効率が低下しやすくなる傾向にある。逆に、投影面の面積割合が上記範囲よりも小さい場合、あるいは、溝120gの幅が上記範囲よりも広い場合、研磨に寄与する部分が小さくなるため加工効率が低下したり、研磨平坦性が悪化したりする傾向にある。つまり、投影面の面積割合及び溝120gの幅が上記範囲にあると、スラリーを良好に循環させつつ研磨に寄与する研磨領域を確保できるため、研磨効率が一層高くなり好ましい。
【0028】
溝120gは、エンボス加工により形成されたものであっても、切削加工により形成されたものであってもよいが、エンボス加工により形成されたものであると好ましい。エンボス加工により形成された溝120gは、切削加工により形成された溝と比較して、その壁面が、エンボス加工時の加熱により硬質化するので、研磨パッド用シート100から作製した研磨パッドを用いて研磨する際に、ワークと研磨面120cとの摩擦に伴う溝120gの開口端や壁面の崩壊が発生し難い。
【0029】
また、溝120gがエンボス加工により形成されたものである場合、エンボス加工での加熱及び強い押圧に伴うマトリックス樹脂の溶融及び変形により、準研磨領域120bの表面(すなわち溝120gの底面)120eに現れていた開口の少なくとも一部が、研磨面120cに現れていた開口よりも多く閉塞される。したがって、複数の研磨領域120aの間における準研磨領域120bの表面120eに現れる開口の数が、研磨面120cに現れる開口の数よりも小さくなる。これにより、スラリーを研磨パッドの全面に効率よく且つ確実に行き渡らせると共に、研磨屑や砥粒を含むスラリーを系外に排出するという研磨パッドに形成される溝の機能を維持すると共に、ワークが当接する研磨面120cでのスラリーの保持を確実に可能とすることができる。
【0030】
本実施形態では、研磨領域120aにおいて、研磨面120cと側壁面120dとの間に凸曲面120fが形成されており、この凸曲面120fは、ワークの進行方向に対向する側壁面120dと研磨面120cとの間に存在する。これにより、研磨パッド用シート100から作製された研磨パッドを用いて、ワークに研磨加工を施す際、研磨パッドの摩耗を十分に抑制することができる。つまり、上述のとおり、研磨加工時、ワークに押圧された研磨領域120a上にあるワークの進行方向側の端部は、別の研磨領域120aに衝突することになる。ところが、本実施形態においては、別の研磨領域120aのワークが衝突すべき部分に凸曲面120fが存在している。その凸曲面120fは上方に向かうにつれて、ワークの進行方向に傾斜しており、ワークが凸曲面120fに沿って上方に湾曲しながらずれるように移動するので、上記衝突による衝撃が軽減される。その結果、研磨領域120aが破損し難く、研磨パッドの摩耗を軽減することができる。
【0031】
ワークの進行方向に対向する側壁面120dと研磨面120cとの間に存在する凸曲面120fは、その曲率半径の大きさや曲面の形状に特に制限はない。ただし、上述のような研磨パッドの摩耗を軽減する効果を更に高める観点から、曲率半径は0.15〜15.0mmであると好ましい。
【0032】
本実施形態においては、ワークの進行方向に向いた側壁面120dと研磨面120cとの間にも凸曲面120fが存在する。これにより、ワークの上記湾曲の支点、すなわち押圧している研磨領域120aとワークとの当接部分のワーク進行方向先端部と、ワーク進行方向に隣り合う別の研磨領域120aとワークとの衝突部分と、の距離が長くなり、研磨パッドの研磨領域120aがワークから受ける上記衝撃をより弱めることができるので、研磨パッドの摩耗を一層抑制することが可能となる。
【0033】
ワークの進行方向に向いた側壁面120dと研磨面120cとの間に存在する凸曲面120fは、その曲率半径の大きさや曲面の形状に特に制限はない。ただし、研磨層120の厚み方向に11.5gf/cm
2の圧力で押圧されたときに、凸曲面120fの後述の
図4に示す断面における研磨面120cとのなす角度(後述の
図4における角度θ)が、15〜60°となるような曲率半径の大きさや曲面の形状であると好ましく、上記角度は、20〜45°であるとより好ましい。その角度が15°以上であることにより、隣り合う研磨領域120aにおける側壁面120d間の距離(溝120gの幅)に、溝120gの開口端の幅、すなわち、隣り合う研磨領域120aにおける凸曲面120fと研磨面120cとの境界間の距離が近い長さになるため、研磨に寄与する研磨面120cの面積を確保できる。その結果、研磨時にワークの外周部が丸まりやすくなること、すなわちいわゆるエッジだれの発生を抑制でき、ワークの表面品位をより高くすることが可能となる。一方、上記角度が60°以下であることにより、隣り合う研磨領域120aにおける凸曲面120fと研磨面120cとの境界間の距離をある程度長く保つことができ、ワークの上記湾曲の支点と、ワーク進行方向に隣り合う別の研磨領域120aとワークとの衝突部分との距離を更に長くすることができる。その結果、研磨パッドの研磨領域120aがワークから受ける上記衝撃を更に弱めることができ、研磨パッドの摩耗を更に抑制することが可能となる。なお、上記角度θはワークと凸曲面120fとの接触点を接点とした接線とワークとのなす角度である。
【0034】
研磨層120の厚さは、特に限定されないが、0.3〜2.1mmであると好ましい(ただし溝120gが存在する部分は除く)。研磨層120の厚さが0.3mm以上であることにより、研磨パッドの寿命を十分に保証することができ、2.1mm以下であることにより、適度な研磨パッドの硬度を維持でき、ワークのエッジだれを一層防ぐことができる。
【0035】
次に、本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法について説明する。本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法は、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液中の樹脂を凝固再生して、前駆体シートを形成する工程(凝固再生工程)と、その前駆体シートの主面に対してエンボス加工又は切削加工を施すことによって研磨領域120aを形成する工程(溝形成工程)とを有するものである。本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法は、それらの工程以外に、
図3に示すように、湿式成膜法に基づいて、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を調製する工程(樹脂溶液調製工程)と、樹脂溶液を成膜用基材の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前駆体シートから溶媒を除去する工程(溶媒除去工程)と、前駆体シートをバフ処理又はスライス処理により研削する工程(研削工程)と、前駆体シートを必要に応じ基材110に貼り合わせて研磨層120とする工程(基材貼り合わせ工程)とを、それぞれ必要に応じて有していてもよい。以下、各工程について説明する。
【0036】
まず、必要に応じて設けられる樹脂溶液調製工程では、上述のポリウレタン樹脂などのマトリックス樹脂と、そのマトリックス樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて研磨層120に含ませるその他の材料とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。研磨層120の研磨能力を確保し、気泡121中にスラリーをより十分に保持する観点から、樹脂溶液について、B型回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が3〜10Pa・sの範囲であると好ましく、3〜6Pa・sの範囲であるとより好ましい。そのような粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点、並びに後述の凝固スピードを調整する観点から、例えば、マトリックス樹脂を、樹脂溶液の全体量に対して10〜30質量%の範囲、より好ましくは15〜25質量%の範囲で溶媒に溶解させてもよい。樹脂溶液の粘性は、用いるマトリックス樹脂の種類及び分子量にも依存するため、これらを総合的に考慮し、マトリックス樹脂の選定、濃度設定等を行うことが重要である。
【0037】
必要に応じて設けられる塗布工程では、樹脂溶液を、好ましくは常温下で、ナイフコータ等の塗布装置を用いて帯状の成膜用基材に塗布して塗膜を形成する。このときに塗布する樹脂溶液の厚さは、特に限定されないが、研磨層120の研磨能力を確保し、気泡121中にスラリーをより十分に保持できるようにする観点から、例えば0.3〜3.0mmの範囲であると好ましい。成膜用基材の材質としては、例えば、PETフィルムなどの樹脂製フィルム、布帛及び不織布が挙げられる。これらの中では、液を浸透し難いPETフィルムなどの樹脂製フィルムが好ましい。
【0038】
凝固再生工程では、成膜用基材に塗布された樹脂溶液の塗膜を、マトリックス樹脂に対する貧溶媒(例えばポリウレタン樹脂の場合は水)を主成分とする凝固液中に連続的に案内する。凝固液には、マトリックス樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の溶媒以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、マトリックス樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されず、マトリックス樹脂がポリウレタン樹脂である場合、例えば、15〜20℃であってもよい。凝固液中では、まず、樹脂溶液の塗膜と凝固液との界面に皮膜(スキン層)が形成され、皮膜の直近のマトリックス樹脂中に無数の微細な気泡が形成される。その後、樹脂溶液に含まれる溶媒の凝固液中への拡散と、マトリックス樹脂中への貧溶媒の浸入との協調現象により、好ましくは連続気泡構造を有するマトリックス樹脂の再生が進行する。このとき、成膜用基材が液を浸透し難いもの(例えばPET製フィルム)であると、凝固液がその基材に浸透しないため、樹脂溶液中の溶媒と貧溶媒との置換がスキン層付近で優先的に生じ、スキン層付近よりもその内側にある領域の方に、より大きな気泡121が形成される傾向にある。こうして成膜用基材上に前駆体シートが形成される。
【0039】
次に、必要に応じて設けられる溶媒除去工程では、形成された前駆体シート中に残存する溶媒を除去する。溶媒の除去には、従来知られている洗浄液を用いることができる。また、溶媒を除去した後の前駆体シートを、必要に応じて乾燥してもよい。前駆体シートの乾燥には、例えば、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いることができるが、乾燥方法はこれに限定されない。シリンダ乾燥機を用いる場合、前駆体シートがシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。さらに、得られた前駆体シートをロール状に巻き取ってもよい。
【0040】
次いで、必要に応じて設けられる研削工程では、前駆体シートの好ましくはスキン層側の主面と、その反対側である裏面とを、バフ処理又はスライス処理で研削する。バフ処理やスライス処理により前駆体シートの厚さの均一化を図ることができるため、ワークに対する押圧力を一層均等化し、ワークの平坦性を向上させることができる。
【0041】
次に、必要に応じて設けられる基材貼り合わせ工程では、前駆体シートの裏面側に、前駆体シート(及び後述の研磨層)を支持するための基材110を貼り合わせる。基材110の前駆体シートに対向する面側に接着剤を常法により塗布した後、前駆体シートと基材110とを互いに押圧することにより、基材110と前駆体シートとを接着剤で貼り合わせた積層体を得ることができる。接着剤としては、例えば、アクリル系、ニトリル系などの感熱型接着剤が挙げられる。ただし、接着剤に代えて、感熱型又は感圧型の粘着剤又は粘着テープを用いて、前駆体シートと基材110とを貼り合わせてもよい。
【0042】
続いて、溝形成工程では、前駆体シートの主面に、エンボス加工又は切削加工を施して、複数の研磨領域120aを形成すると共に複数の研磨領域120a間に溝120gを形成して、研磨層120を得る。本発明に係る研磨層120を容易に得ることができるので、エンボス加工を用いることが好ましい。エンボス加工を施す場合、まず、基材110と前駆体シートとを貼り合わせた積層体を、平坦表面を有する台上に、台の平坦表面と基材110とが対向するようにして載置する。それと共に、研磨領域120a及び溝120gの形状が所望の形状になるように、それらの形状に合わせた凹凸を有する金型を加熱しておく。次いで、加熱した金型を台上に載置した積層体における前駆体シートの主面側に当接し押圧する。これにより、前駆体シートの主面側に溝120gが形成される。エンボス加工では、通常、マトリックス樹脂の融点をTm(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、エンボス金型を温度(Tm±50)℃ないし(Tg+100〜Tg+200)℃の近傍まで加熱し、一定圧力で一定時間プレスすることで、研磨面に凹凸を付与する。例えば、マトリックス樹脂がポリウレタン樹脂である場合、好ましくは、エンボス金型を140〜180℃の温度に加熱し、4.5〜9.0MPaの圧力で120〜180秒間プレスする。こうして、研磨パッド用シート100が得られる。
【0043】
本実施形態の研磨パッドは、上述のようにして得られた研磨パッド用シート100が所望の平面形状を有するように裁断することにより得られる。平面形状としては、例えば円形が挙げられる。あるいは、研磨パッド用シート100をそのまま研磨パッドとして用いてもよい。さらには、そのような研磨パッドの基材110に対して研磨層120とは反対側に、粘着剤層や剥離基材等の別の部材を備えてもよい。好ましくは、得られた研磨パッドを用いて研磨するまでの間で、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査が行われる。
【0044】
研磨パッドの研磨領域120aの表面(研磨面120c)に現れる開口の数は、研磨面102cを走査型電子顕微鏡CCD(Charge Coupled Device)カメラで観察して、開口径が30μm以上の細孔の1mm
2当たりの平均数(個/mm
2)で表され、100個/mm
2以上であると好ましく、110〜200個/mm
2であるとより好ましい。これにより、研磨スラリーの保持性を向上させることができる。研磨面120cに現れる開口の数は、研磨面120cを、CCDカメラで観察して、その写真(画像)を画像処理することにより、測定することができる。同様の観点から、研磨パッドの研磨層120におけるショアA硬度は40°以下であると好ましく、1〜35°であるとより好ましい。ショアA硬度は、日本工業規格(JIS K 6253)に準拠して測定され、バネを介して試験片表面へ押し付けられた押針の押し込み深さより導出される。
【0045】
本実施形態の研磨パッドを用いた研磨方法は、得られた研磨パッドを用いてワーク(被研磨物)を研磨する工程を有する。その具体的な一例を説明する。まず、片面研磨機の保持定盤に被研磨物を保持させる。次いで、保持定盤と対向するように配置された研磨定盤に研磨パッドを装着する。研磨定盤に研磨パッドを装着する際、研磨パッドが基材側から粘着剤及び剥離基材を更に備えている場合は剥離基材を取り除いて粘着剤を露出させた後、露出した粘着剤を研磨定盤に接触させ押圧する。なお、研磨パッドがそのような粘着剤を備えていない場合は、基材110側に粘着剤を塗布又は貼り付けてから研磨定盤に装着することもできる。そして、ワークと研磨パッドとの間に砥粒(研磨粒子)を含むスラリーを循環供給すると共に、ワークを研磨パッドの方に所定の研磨圧にて押圧しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、ワークを化学的機械的研磨により研磨する。
【0046】
図4は、その研磨方法において、(A)及び(B)の順に、研磨パッド200に対してワーク300をその進行方向Sに移動させた際のワークの挙動を示したものである。(A)においては、左側の研磨領域120a上にあるワーク300が研磨面120cに沿って進行方向Sに移動しているが、ワーク300の押圧により、左側の研磨領域120aの研磨面120cは、右側の研磨領域120aの研磨面120cよりも下側(基材110側)に位置する。そのため、(B)において、ワーク300の進行方向S側の端部310は、右側の研磨領域120aに衝突することになる。この際、右側の研磨領域120aのワーク300が衝突する部分に、上方に向かうにつれてワーク300の進行方向Sに傾斜する凸曲面120fが存在している。この凸曲面120fは、研磨面120cとその研磨面120cに対して垂下する側壁面120dとの間に位置している。その後、ワーク300が更に進行方向Sに移動すると、凸曲面120fに沿って上方に滑り込むように乗り上がって移動するので、ワーク300と研磨領域120aとの衝突による衝撃が軽減される。その結果、研磨領域120aが破損し難く、研磨パッド200の摩耗を軽減することができる。
【0047】
また、研磨パッド200の研磨領域120aは、ワーク300の進行方向Sに向いた側壁面120dと研磨面120cとの間にも凸曲面120fを有する。これにより、研磨領域120aが凸曲面120fを有しないで研磨面120cと側壁面120dとが一直線で交わり角部を構成する場合と比較して、ワーク300の上記湾曲の支点、すなわち押圧している研磨領域120aとワーク300との当接部分のワーク進行方向先端部320と、ワーク進行方向Sに隣り合う右側の研磨領域120aとワーク300との衝突部分330との距離が長くなり、ワーク300が滑らかに移動することが可能となる。その結果、研磨パッド200の研磨領域120aがワーク300から受ける上記衝撃をより弱めることができ、研磨パッド200の摩耗を一層抑制することが可能となる。
【0048】
また、研磨パッド200において、研磨領域120aの投影面形状が正六角形又は略正六角形であり、複数の研磨領域120aは、その正六角形又は略正六角形の投影面形状を密に並べるように、いわゆるハニカム状に配置されており、それら複数の研磨領域120a間に溝120gが形成されていると好ましい。研磨領域の投影面形状が円形であると、複数の研磨領域間に形成される溝の幅は、細い部分と広い部分とが混在することになる。そうすると、溝内を流動するスラリーの流れが円滑でなくなり、特に、研磨屑や砥粒を含むスラリーは、それらの研磨屑や砥粒が溝内に堆積するのに伴って、滞留しやすくなる。これでは、スラリーを研磨パッド全体に行き渡らせたり、あるいは、研磨屑や砥粒を含むスラリーを滞りなく円滑に系外に排出したりすることが困難になるという問題がある。一方、本実施形態によると、上述のような研磨領域120aの投影面形状及び配置を有することにより、溝120gの幅を一定にすることが可能になるので、上記問題が生じ難くなり、スラリーの循環量の低下を十分抑制できる。また、複数の研磨領域120aを密に配置することにより研磨パッド200の単位面積当たりの研磨面120c面積をより大きくすることができるので、研磨パッド200の研磨性能を更に高めることが可能となる。さらには、このような六角形の投影面形状は鈍角のみを有し研磨領域120aの断面形状に直角又は鋭角を有する角部を有しないので、ワーク300がどの方向から進行してきた場合であっても、ワーク300と研磨パッド200の研磨領域120aとの衝突や、ワーク300と研磨領域120aとに挟まれた砥粒や研磨屑の押し当てによる研磨領域120aの破損を抑制でき、研磨パッド200の摩耗を軽減することが可能となる。
【0049】
さらには、研磨パッド200の平面形状が円形である場合、研磨領域120aが上述のような投影面形状及び配置を有すると特に好ましい。研磨領域の投影面形状が正方形であると、研磨領域間に形成される溝のうち、円形の研磨パッド200の中心から外周部へのスラリーの流れと同じ方向に延在する溝では、スラリーが溝内を直線的に流動できるので、その流動性は極めて円滑になる。しかしながら、そのような溝は、研磨パッドの中心から放射状に90°間隔で延びる4本のみであり、それらの間にある溝、特に研磨パッドの中心からそれらの溝に対して45°の角度付近に存在する溝では、研磨パッドの中心から外周へスラリーが直線的に流動できないため、円滑な流動が困難になる。このようなスラリーの流動の不均一性の結果、研磨パッドのスラリーが流動し難い溝付近の部分では、研磨パッドが局地的に摩耗して、いわゆる偏摩耗が発生しやすくなる。一方、本実施形態の場合、円形の研磨パッド200の中心から外周部への溝の経路は、いずれの方向でも同じような経路になっているため、スラリーの流動性は均一になる。その結果、研磨パッド200は均一に摩耗することになるので、更なる研磨パッドの長寿命化及びワークの処理数の増加が実現可能となる。また、偏摩耗の発生を抑制することにより、特に研磨パッドの寿命の終盤においてもワークへの損傷をより有効に防止することができる。さらには、研磨領域120aが、正方形のような角部の存在する投影面形状を有すると、ワークとの衝突により容易に破損してしまう。ところが、本実施形態によると、上述のとおり、研磨領域120aの投影面形状が正六角形又は略正六角形であり、鈍角のみを有するため、上記衝突による衝撃を軽減でき、その結果、研磨領域120aが破損し難く、研磨パッド200の摩耗を軽減することが可能となるので、この点からも、研磨パッド200の長寿命化及びワークの処理数の増加を実現することができる。
【0050】
本実施形態の研磨パッドは、ベアシリコン、半導体デバイス、磁気ディスク及び液晶ディスプレイ用ガラス基板の仕上げ研磨に特に好適に用いられる。ただし、本実施形態の研磨パッドの用途はそれらに限定されない。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、研磨領域の投影面形状は、正六角形又は略正六角形でなくてもよく、鈍角のみを有する多角形であってもよい。そのような多角形としては、例えば、正六角形又は略正六角形以外の六角形(例えば、そのような六角形の投影面形状を有する研磨領域の配置の一部を
図5の(A)及び(B)に示す。)、角が7以上の正多角形(例えば、正八角形、正十二角形)若しくは略正多角形、又はそれ以外の多角形であって鈍角のみを有するものが挙げられる。あるいは、研磨領域の投影面形状は、鈍角のみを有する多角形の集合体形状であってもよい。そのような形状を有する研磨領域の配置の具体例を
図6に示す。
図6は、集合体形状における多角形が六角形である場合の例である。図中、破線は実際には存在しない線であり、集合体形状における多角形を分かりやすくするために示したものである。これらの場合であっても、研磨領域が鈍角を有する投影面形状を有するので、ワークとの衝突による研磨領域の破損及び研磨パッドの摩耗を軽減することができる。なお、本発明の目的を達成できる範囲であれば、複数の研磨領域が互いに異なる形状であってもよい。
【0052】
また、研磨領域は
図2に示すような凸曲面120fに代えて、
図7に示すような隅取り面720fを有してもよい。
図7において、研磨パッド用シート700は、その研磨パッド用シート700からワークを研磨する研磨パッドを作製するためのものであり、基材110と、その基材110上に積層した樹脂シートである研磨層720とを備える。研磨層720は、研磨面720cを有する複数の研磨領域720aと準研磨領域720bとを含む。複数の研磨領域720aは、研磨層720の面内方向に互いに隔離して配列されている。また、準研磨領域720bは、研磨領域720aの研磨面720cとは反対側、すなわち基材110側に、研磨領域720aと一体不可分に形成されている。複数の研磨領域720aの間には、その研磨領域720aの側壁面720dと準研磨領域720bの表面720eとに囲まれた溝が形成されており、準研磨領域720bの表面720eはその溝の底面になる。そして、研磨領域720aは、その研磨面720cと側壁面720dとの間に隅取り面720fを有する。このような研磨パッド用シート700から得られる研磨パッドであっても、隅取り面720fが、凸曲面120fと同様の作用により、ワークの衝突による衝撃を弱めることができるので、研磨領域720aの破損及び研磨パッドの摩耗を抑制することができる。もちろん、研磨パッド用シートにおける複数の研磨領域が、凸曲面及び隅取り面の両方を有していてもよい。また、隅取り面720fと研磨面720cとのなす角度は、凸曲面120fと研磨面120cとのなす角度θと同様の範囲であれば同様に好ましい。
【0053】
さらに、上述の本実施形態では、研磨領域120aは、ワークの進行方向に対向した側壁面120dと研磨面120cとの間に存在する凸曲面120fだけでなく、ワークの進行方向に向いた側壁面120dと研磨面120cとの間にも凸曲面120fを有するが、研磨領域が、前者の凸曲面120fのみを有していてもよい。この場合であっても、前者の凸曲面120fが、ワークの衝突による衝撃を弱めることができるので、研磨領域の破損及び研磨パッドの摩耗を抑制することができる。
また、研磨パッド用シート及び研磨パッドは、準研磨領域を有しなくてもよい。さらに成膜用基材と、前駆体シートや研磨層を支持するための基材とは同一であってもよく、その場合は、成膜用基材をそのまま、支持するための基材として用いることができる。また、成膜用基材と支持するための基材とは異なっていてもよく、その場合は、成膜用基材を剥離した後に、上述のようにして、支持するための基材を前駆体シートと貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
まず、30質量%のポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂(DIC(株)社製、商品名「クリスボン」、100%モジュラス:9MPa、流動開始温度:195℃)のDMF溶液100質量部に対して、顔料であるカーボンブラックを30質量%含むDMF分散液を40質量部、疎水性活性剤を2質量部混合して、樹脂溶液を調製した。その25℃での粘度をB型回転粘度計(東機産業株式会社製、商品名「TVB−10型」)を用いて測定したところ、7Pa・sであった。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂溶液を、ナイフコータを用いて塗布し、厚さ1.0mmの塗膜を得た。
【0056】
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる室温の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、PETフィルムを前駆体シートから剥離した後、前駆体シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶剤浴)に浸漬し、溶媒であるDMFを除去した。その後、前駆体シートを乾燥しつつ巻き取った。次に、前駆体シートの裏面(成膜用基材に接触していた面)に対してバフ処理を施した。
【0057】
基材であるPETフィルム(厚さ:188μm)に剥離紙つき両面テープをラミネートした後、その両面テープを介して、バフ処理後の前駆体シートと基材とをプレスロールにより貼り合わせて積層体を得た。
【0058】
次に、積層体の前駆体シートの主面にエンボス加工を施した。その時の加工条件は、加工圧力4.5MPa、加工(金型)温度160℃、加工時間180秒であった。
【0059】
こうして、
図1及び2に示すのと同様の研磨領域及び溝を有する研磨層を備えた、研磨パッド用シートを得た。研磨領域の投影面形状は、一辺が12mmの略正六角形であり、溝の幅は1mmであり、研磨領域の厚さは0.8mmであった。また、凸曲面の曲率は約0.8mmであった。なお、研磨パッド用シートについて、その全体の投影面の面積に対する研磨領域の投影面の面積の割合は、64.0%であった。
【0060】
得られた研磨パッド用シートを平面形状が半径37cmの円形になるよう切り抜き研磨パッドを得た。その研磨パッドにおいて、研磨層のショアA硬度は10.0°であり、また、研磨面に開口する気孔の数は110〜140個/mm
2であった。さらに、シリコンウェハを用いて、研磨パッドにおける研磨層の厚み方向に11.5gf/cm
2の圧力で押圧した状態で10秒間静置し、その状態で研磨面と凸曲面とのなす角度θを、マイクロスコープ(KEYENCE社製、商品名「VHX−600」)を用いて倍率50倍で観察したところ、25.37°であった。
【0061】
得られた研磨パッドを研磨機の所定位置に設置し、ワークとしてのシリコンウェハに対して、下記条件にて研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表1に示す。
【0062】
研磨条件
使用研磨機:(株)荏原製作所製、商品名「F−REX300」
研磨速度(定盤回転数):70rpm
加工圧力:176g/cm
2
スラリー:コロイダルシリカスラリ(pH:11.5)
スラリー流量:200mL/分
研磨時間:60秒
被研磨物:シリコンウェハ(φ300mmのSi基板上に1000nm厚の酸化珪素膜をTEOS−プラズマCVD法で形成したブランケットウエハ)
【0063】
<研磨試験>
各実施例及び比較例の研磨パッドについて、上記研磨条件で研磨加工を行い、研磨レート及び研磨均一性を評価した。評価基準として、研磨レートは600Å/分超を○、550〜600Å/分を△、550Å/分未満を×と評価し、研磨均一性は3%以下を○、3%超を×と評価した。
(研磨レート)
研磨レートは、研磨処理前後の膜厚の差である研磨量を、研磨時間で除して表したものであり、研磨加工前後の基板について各々121箇所の厚み測定結果の平均値として求めた。なお、厚み測定は、光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、商品名「ASET−F5x」)のDBSモードにて測定した。
(研磨均一性)
研磨均一性は、上記121箇所の厚み測定結果のバラツキ((研磨レートの平均)÷(研磨レートの標準偏差(1σ))×100(%))として求めた。
【0064】
(実施例2)
研磨領域が、
図2に示すような凸曲面120fに代えて、
図7に示すような隅取り面720fを有するように代えた以外は実施例1と同様にして、研磨パッド用シート及び研磨パッドを作製した。実施例1と同じ条件で研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
溝を形成しない以外は実施例1と同様にして、研磨パッド用シート及び研磨パッドを作製した。実施例1と同じ条件で研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
エンボス加工における金型の形状を、研磨領域及び溝の投影面形状が正方形格子の形状になるように代えた以外は実施例1と同様にして、研磨パッド用シート及び研磨パッドを作製した。正方形の一辺の長さは3.0mmであり、溝の幅は1.0mmであり、研磨領域の厚さは0.8mmであった。また、凸曲面の曲率は約0.8mmであった。なお、研磨パッド用シートについて、その全体の投影面の面積に対する研磨領域の投影面の面積の割合は、56.3%であった。実施例1と同じ条件で研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例3)
エンボス加工に代えて切削加工により溝を形成し、かつ、研磨領域が、
図2に示すような断面形状に代えて、側壁面と研磨面とが直接接合しており、それらのなす角度が90°(直角)である以外は実施例1と同様にして、研磨パッド用シート及び研磨パッドを作製した。研磨領域の投影面形状は、一辺が12mmの略正六角形であり、溝の幅は1mmであり、研磨領域の厚さは0.8mmであった。実施例1と同じ条件で研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
(評価結果)
溝を形成していない比較例1の研磨パッドでは、スラリーの循環性が良好ではなく、研磨レートが低かった。また、研磨領域及び溝の投影面形状が正方形格子の形状である比較例2の研磨パッドは、スラリーの循環性が良好ではなく研磨レートが低い上、研磨後の研磨パッドには、外周部の4か所に偏摩耗が発生しており、その影響を受けて、ウェーハの研磨均一性も悪化した。さらに、側壁面と研磨面とが一直線で交わり角部を構成する比較例3の研磨パッドでは、上記角部(研磨領域のエッジ部分)が、ウェーハによりダメージを受け、研磨パッドの平坦性が損なわれてしまい、ウェーハの研磨均一性が悪化した。
一方、本発明に係る実施例1及び実施例2の研磨パッドは、研磨レート及び研磨均一性(ユニフォーミティ)のいずれも良好な結果であった。