(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記発泡樹脂領域は前記樹脂シートの面内方向に互いに離間して配置される複数の島状の部分を有し、前記スキン層領域が前記複数の島状の部分の間に存在する空間に向かって湾曲する及び/又は屈曲することにより、前記溝が形成されている、請求項1又は2に記載のシート。
前記溝の底面を形成する前記スキン層領域が前記溝の幅方向に引張応力を有し、及び/又は、前記溝の側壁面を形成する前記スキン層領域が前記溝の深さ方向に引張応力を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の溝の形成方法のうち、切削加工では、溝の側壁面及び底面などの内面に、孔部分の切削によるささくれ状の粗面及び発泡フォームの開気孔が生じる場合が多く、また、ささくれ状の粗面が研磨加工の間に剥離した切削屑も発生する。溝の内面に上記粗面や開気孔が存在することにより、スラリーの残渣、研磨屑及び切削屑がささくれ状の粗面に挟み込まれたり、開気孔内に入り込みやすくなったりなる。その結果、スラリーの残渣、研磨屑及び切削屑が堆積して、被研磨物でのスクラッチ(損傷)の発生、及び不均一な研磨が生じやすくなる。また、このような研磨パッドは、スラリーの液の浸入により膨潤しやすくなり、研磨パッドの形態安定性に欠けたり、基材との剥離が起きやすくなったりして、長時間の研磨に耐えうるものではなくなる傾向にある。
【0007】
他方、エンボス加工では、上述の粗面や開気孔及び切削屑は発生し難いものの、熱圧着により溝を形成するため、熱圧着した表面(研磨面)が熱により硬質化し、被研磨物でのスクラッチの原因となる。
【0008】
また、特許文献1に開示された技術では、賦形フィルムから剥離した面をそのまま研磨面として使用するものであるが、剥離時に賦形フィルムに樹脂が一部残ってしまい、研磨面が粗面化して被研磨物にスクラッチが発生したり、発泡シートが破断したりしてしまうという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、被研磨物でのスクラッチの発生を十分に抑制できる研磨パッド用シート及びその製造方法、研磨パッド及びその製造方法、並びに研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、スキン層領域に切削加工やエンボス加工とは異なる方法により溝を形成すれば、被研磨物でのスクラッチの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、複数の気泡を有する発泡樹脂領域と、その発泡樹脂領域上に一体不可分に形成されたスキン層領域とを含む樹脂シートを備える研磨パッド用シートであって、
スキン層領域はマトリックス樹脂中に複数の気泡が存在する微多孔構造を有し、スキン層領域が樹脂シートの厚み方向に湾曲する及び/又は屈曲することにより、樹脂シートの厚み方向におけるスキン層領域の側に溝が形成されて
おり、樹脂シートの厚み方向における発泡樹脂領域の側に粘着剤層を更に備え、スキン層領域における溝の底面を形成する部分と、発泡樹脂領域と、が、粘着剤層に貼着されているシートである。また、本発明の研磨パッドは、上記研磨パッド用シートから得られるものであり、本発明の研磨方法は、上記研磨パッドを用いて被研磨物を研磨する工程を有するものである。
【0012】
本発明の研磨パッド用シートの製造方法は、複数の気泡を有する発泡樹脂領域と、その発泡樹脂領域上に一体不可分に形成されたスキン層領域とを含む樹脂シートを形成する工程と、スキン層領域を樹脂シートの厚み方向に湾曲させる及び/又は屈曲させることにより、樹脂シートのスキン層領域の側に溝を形成する工程とを有するものであり、本発明の研磨パッドの製造方法は、上記研磨パッド用シートの製造方法により研磨パッド用シートを形成する工程を有するものである。
【0013】
本発明によると、切削加工やエンボス加工、及び特許文献1に記載の方法によらずに溝を形成することができるため、孔部分の切削によるささくれ状の粗面及び発泡フォームの開気孔が生じたりすること、熱圧着した表面(研磨面)が熱により硬質化すること、並びに、賦形フィルムに樹脂が一部残り研磨面が粗面化することを十分抑制できる。むしろ、スキン層領域は、湿式成膜法において、樹脂が凝固液と接触して凝固再生することにより形成されるものであり、その表面(研磨面)の平滑性に優れている。したがって、本発明によると、研磨パッドでの研磨加工時に、被研磨物におけるスクラッチの発生を十分に抑制することができる。
【0014】
本発明において、スキン層領域の表面が研磨面となると好ましい。また、発泡樹脂領域は樹脂シートの面内方向に互いに離間して配置される複数の島状の部分を有し、スキン層領域が複数の島状の部分の間に存在する空間に向かって湾曲する及び/又は屈曲することにより、溝が形成されていると好ましい。さらに、溝の側壁裏側に、少なくともスキン層領域の裏面と発泡樹脂領域の側面とに包囲される空間を有してもよく、溝の底面を形成するスキン層領域が溝の幅方向に引張応力を有し、及び/又は、溝の側壁面を形成するスキン層領域が溝の深さ方向に引張応力を有してもよい。
【0015】
また
、樹脂シートの厚み方向における発泡樹脂領域のスキン層領域とは反対側に、樹脂シートを支持するための基材を更に備えると好ましい。さらには、樹脂シートはポリウレタン樹脂を50質量%以上含むと好ましく、樹脂シートに含まれる樹脂の100%モジュラスが4〜50MPaであると好ましく、樹脂シートのショアA硬度が30度以下であると好ましい。
【0016】
本発明の研磨パッド用シートの製造方法は、複数の気泡を有する発泡樹脂領域と、その発泡樹脂領域上に一体不可分に形成されたスキン層領域とを含む樹脂シートを形成する工程と、スキン層領域を樹脂シートの厚み方向に湾曲させる及び/又は屈曲させることにより、樹脂シートのスキン層領域の側に溝を形成する工程とを有するものである。樹脂シートを形成する工程は、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を、前駆体シート形成用基材の凹凸を有する表面に塗布する工程と、上記表面に塗布した樹脂溶液中の樹脂を凝固再生して、前駆体シートを形成する工程と、前駆体シートを前駆体シート形成用基材から剥離する工程と、剥離した前駆体シートから溶媒を除去して、樹脂シートを得る工程とを有すると好ましく、前駆体シートを形成する工程において、前駆体シートは、前駆体シート形成用基材に、スキン層領域とは反対側の面で付着した状態で形成されると好ましい。また、樹脂シートを粘着剤層に貼着する工程を更に有すると好ましい。
【0017】
本発明の研磨パッドは、上記研磨パッド用シートから得られるものであり、その製造方法は、上記研磨パッド用シートを形成する工程を有するものである。そして、本発明の研磨方法は、上記研磨パッドを用いて被研磨物を研磨する工程を有するものであり、その工程において、被研磨物を化学的機械的研磨により研磨するものであると好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被研磨物でのスクラッチの発生を十分に抑制できる研磨パッド用シート及びその製造方法、研磨パッド及びその製造方法、並びに研磨方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0021】
図1は、本実施形態の研磨パッド用シートの一例を示す模式断面図である。本実施形態の研磨パッド用シート100は、基材110と、樹脂シート120と、基材110上に樹脂シート120を貼着するためにそれらの間に挟み込まれた粘着剤層130とを備える。樹脂シート120は、発泡樹脂領域122と、その発泡樹脂領域122上に一体不可分に形成されたスキン層領域124とを含み、スキン層領域124が樹脂シート120の厚み方向に湾曲する及び/又は屈曲することにより、樹脂シート120の厚み方向におけるスキン層領域124の側に溝126が形成されている。
【0022】
基材110はフィルム状であり、研磨パッド用シート100から作製した研磨パッドを用いて研磨する際に、研磨パッドが伸縮したり湾曲したりするのを抑制するように、樹脂シート120を支持するためのものである。その材質は、従来の研磨パッドの基材として用いられるものであってもよく、特に限定されない。材質として、通常可撓性のものが採用され、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、その他のポリエステルが挙げられる。基材の厚さも、従来の研磨パッドの基材で採用されるような厚さであってもよく、特に限定されない。その厚さは、例えば、0.1〜5.0mmである。
【0023】
粘着剤層130は、基材110上に樹脂シート120を貼着するために用いられる。粘着剤層の粘着剤は特に限定されず、従来知られているものであってもよく、感圧型であっても感熱型であってもよい。粘着剤層130は、後述の樹脂シート120における発泡樹脂領域122を基材110上に、より確実に固定すると共に、スキン層領域124の溝126を形成する部分をも基材110上により確実に固定するために設けられる。粘着剤層130の厚さは特に限定されず、例えば5〜100μmであってもよい。
【0024】
樹脂シート120は、粘着剤層130側から、複数の気泡を有する発泡樹脂領域122と、その発泡樹脂領域122上に一体不可分に形成されたスキン層領域124とを含む。樹脂シート120の組成は、マトリックスとなる樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)を最も多く含む組成であれば特に限定されず、例えば、樹脂シート120は、その全体量に対して、マトリックス樹脂を70〜100質量%含むものであってもよい。樹脂シート120は、その全体量に対して、マトリックス樹脂をより好ましくは70〜90質量%含み、更に好ましくは75〜90質量%含む。
【0025】
マトリックス樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリサルホン樹脂及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、従来の研磨パッドの樹脂シート部分に用いられるものであってもよい。これらの中では、本発明の目的を一層有効且つ確実に奏する観点から、ポリウレタン樹脂が好ましく、マトリックス樹脂中にポリウレタン樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが更に好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0026】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、本発明の目的をより有効且つ確実に奏する観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0027】
ポリウレタン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、クリスボン(DIC(株)製商品名)、サンプレン(三洋化成工業(株)製商品名)、及びレザミン(大日精化工業(株)製商品名)が挙げられる。
【0028】
ポリサルホン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、ユーデル(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製商品名)が挙げられる。
【0029】
ポリイミド樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、オーラム(三井化学(株)製商品名)が挙げられる。
【0030】
樹脂シート120は、マトリックス樹脂以外に、研磨パッド用シートに備えられる樹脂シートに通常用いられる材料、例えば、カーボンブラックなどの顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤の1種又は2種以上を含んでもよい。これらの任意に用いられる材料は、気泡122aの大きさや個数を制御するのに用いられてもよい。さらには、樹脂シート120の製造過程において用いられた溶媒などの各種の材料が、本発明の課題解決を阻害しない範囲で樹脂シート120内に残存していてもよい。
【0031】
樹脂シート120の発泡樹脂領域122は、樹脂シート120の面内方向に互いに離間して配置される複数の島状の部分を有し、その島状の部分は粘着剤層130に貼着されている。複数の島状の部分の形状及び大きさは、後に詳述する溝126のパターンに依存し、特に限定されず、互いに同一であっても異なっていてもよい。発泡樹脂領域122の厚さは特に限定されないが、例えば0.3〜2.0mmである。
【0032】
発泡樹脂領域122では、マトリックス樹脂中に、複数の気泡122aが形成されている。気泡122aは、研磨パッドによる被研磨物の研磨加工時に、被研磨物の研磨パッドへの過剰な押圧力を吸収する作用を有するものである。気泡122aの立体形状は特に限定されず、略球状、縦長の(すなわち樹脂シート120の厚み方向に長い)錐体状及び紡錘形状のいずれか1つ以上であってもよいが、研磨パッドの寿命(ライフ)の観点から、縦長の錐体状及び紡錘形状であると好ましい。また、気泡122aの少なくとも一部が、スキン層領域124を経由して主面120aに通じた開口(図示せず)を有していてもよい。気泡122aが開口を有することにより、化学的機械的研磨法による研磨加工時に用いられるスラリーを取り込んで保持することができる。気泡122aに保持されたスラリーは、被研磨物の研磨パッドへの押圧により、上記開口から排出されて、被研磨物と研磨パッドとの間に供給される。このように気泡122aが開口を有することにより、研磨対象となる被研磨物が存在する際にスラリーを研磨面上に供給することができるので、スラリーを効率よく消費することが可能となる。気泡122aが形成されていることは、樹脂シート120を厚み方向に切断して現れる断面を走査型電子顕微鏡により観察することで確認できる。
【0033】
スキン層領域124は、発泡樹脂領域122と一体不可分に形成されている。スキン層領域124は、発泡樹脂領域122の島状の部分上に積層すると共に、複数の島状の部分の間に存在する空間に向かって、すなわち、その空間において樹脂シート120の厚み方向の粘着剤層130側に、湾曲及び/又は屈曲して、その下側の面が粘着剤層130に貼着されるように形成されている。これにより、樹脂シート120の厚み方向におけるスキン層領域124の側に溝126が形成され、その溝126の底面を形成する部分が粘着剤層130に貼着された状態になっている。
【0034】
スキン層領域124は、研磨パッドの研磨面となる主面120aと溝126の側壁面及び底面とを形成しており、その厚さは特に限定されないが、数μmである。スキン層領域124は、マトリックス樹脂中に微細な気泡が多く形成された微多孔構造を有している。その微細な気泡の一つ一つは、通常、発泡樹脂領域122に形成されている気泡122aよりも小さな容積を有する。
【0035】
スキン層領域124が、主面120aだけでなく、溝126の側壁面及び底面をも形成することにより、それらの面は、溝が切削加工、エンボス加工及び特許文献1に開示されるような加工により形成された場合と比較してより平滑になる。その結果、研磨パッドを用いた研磨加工により生じたスラリー中の研磨屑及び砥粒が、溝126内のそれらの面に捕捉されたり、それらの面との摩擦によりその流動性が低下したりすることを、有効に抑制することができるので、それらの研磨屑及び砥粒を速やかに系外に排出することが可能となる。また、このような溝126は、切削加工により形成されないので、従来生じ得た孔部分の切削加工によるささくれ状の粗面及び発泡フォームの開気孔が生じたりしない。同様に、このような溝126はエンボス加工により形成されないので、従来生じ得た、エンボス加工に伴う熱圧着した表面(研磨面)の熱による硬質化も防止できる。さらには、本実施形態によると、スキン層領域124が研磨面を構成するが、このような研磨面は、特許文献1に記載の方法では形成されないので、賦形フィルムに樹脂が一部残り研磨面が過剰に粗面化することも抑制される。したがって、本発明によると、研磨パッドでの研磨加工時に、被研磨物におけるスクラッチの発生を十分に抑制することができる。
【0036】
溝126の開口端126aは、その長さ方向に直交する断面において円弧状である。これにより、研磨加工時に被研磨物と樹脂シート120とが摩擦しても、その開口端126aが崩壊し難くなるので好ましい。ただし、溝の形状は円弧状に限定されない。
【0037】
溝126の、その長さ方向に直交する断面の形状は特に限定されず、
図1に示すように角が丸い台形状であってもよく、円弧状、U字状、V字状、矩形状及びその他の多角形状であってもよい。また、溝126の、樹脂シート120の主面120aの面内方向におけるパターン、すなわち溝パターンも特に制限されず、例えば、格子状、放射状、同心円状及び渦巻状、並びにこれらのうち2種以上の組み合わせであってもよい。また、溝126の深さ及び幅、並びに隣り合う溝126の間隔(ピッチ)は特に限定されないが、研磨パッドの機械的強度、及び被研磨物と当接する研磨面の面積を確保する観点、並びに、スラリーを研磨パッドの全面により効率的且つ確実に行き渡らせると共に系外に排出する観点から、深さは0.1〜1.8mmであると好ましく、幅は0.5〜5.0mmであると好ましく、間隔は2.0〜20.0mmであると好ましい。深さ、幅及び間隔が上記の範囲内であれば、研磨屑をより円滑に排出できるため、スクラッチ発生を一層抑えることができる。
【0038】
本実施形態において、スキン層領域124によって形成される溝126の側壁126bの裏側に、少なくともスキン層領域124の裏面124aと発泡樹脂領域122の側面122bとに包囲される空間128を有する。
図1においては、空間128は、裏面124a及び側面122bと共に、粘着剤層130の頂面(上面)にも包囲されている。このような空間128を設けることにより、被研磨物(ワーク)に対する過度の押圧を抑制し、被研磨物及び/又は研磨パッドの損傷をより抑えることが可能となる。
【0039】
また、スキン層領域124において、溝126の底面を形成する部分が、溝126の幅方向に引張応力を有してもよく、及び/又は、溝126の側壁面を形成する部分が、溝126の深さ方向に引張応力を有してもよい。このようなスキン層領域124に含まれるマトリックス樹脂は延伸した状態にあり、その表面である側壁面及び/又は底面が更に平滑化されるので、スラリー中の研磨屑及び砥粒の流動性が低下することを更に有効に抑制することが可能となり、それらの研磨屑及び砥粒を速やかに系外に排出することができる。引張応力を有することは、例えば、それらの部分のスキン層領域124を粘着剤層130から剥離したときに、そのスキン層領域124が収縮して、湾曲及び/又は屈曲の程度を弱めて上方に引き上げられることで確認できる。あるいは、例えば、スキン層領域124によって形成される溝126の側壁126bを切断したときに、切断された部分が収縮して互いに離間することで確認できる。
【0040】
樹脂シート120の厚さは、特に限定されないが、0.3〜2.1mmであると好ましい(ただし、溝126の部分は無視する。)。樹脂シートの厚さが0.3mm以上であることにより、研磨パッドの寿命をより十分に保証することができ、2.1mm以下であることにより、樹脂シート120の適度な硬度が維持でき、被研磨物の外周ダレをより有効に防ぐことができる。
【0041】
上述の本実施形態による作用効果をより有効且つ確実に奏する観点から、樹脂シート120の圧縮率は7〜20%であると好ましく、12〜20%であるとより好ましい。また、同様の観点から、樹脂シート120に含まれる樹脂の100%モジュラスが4〜50MPaであると好ましく、7〜30MPaであるとより好ましい。さらに、同様の観点から、樹脂シートのショアA硬度は、30度以下であると好ましく、15〜25度であるとより好ましい。圧縮率は日本工業規格(JIS L 1021)に準拠して、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて求められる。具体的には、初荷重で30秒間加圧した後の厚さt1を測定し、次に最終圧力の下で5分間放置後の厚さt2を測定する。これらから、圧縮率を下記式:
圧縮率(%)=(t1−t2)/t1×100
から算出する。このとき、初荷重は100g/cm
2、最終圧力は1120g/cm
2とする。100%モジュラスは、樹脂シート120と同じ材料を用いた無発泡の樹脂シートを100%伸ばしたとき、すなわち元の長さの2倍に伸ばしたとき、に掛かる荷重を断面積で割った値である。ショアA硬度は日本工業規格(JIS K 6253)に準拠して測定され、バネを介して試験片表面へ押し付けられた押針の押し込み深さから求められる。
【0042】
次に、本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法について説明する。本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法は、複数の気泡122aを有する発泡樹脂領域122と、その発泡樹脂領域122上に一体不可分に形成されたスキン層領域124とを含む樹脂シート120を形成する工程(樹脂シート形成工程)と、スキン層領域124を樹脂シート120の厚み方向に湾曲させる及び/又は屈曲させることにより、樹脂シート120のスキン層領域124の側に溝126を形成する工程(溝形成工程)とを有するものである。本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法は、
図2に示すように、樹脂シート形成工程が、湿式成膜法に基づいて、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を調製する工程(樹脂溶液調整工程)と、樹脂溶液を前駆体シート形成用基材(成膜用基材)の凹凸を有する表面に塗布する工程(塗布工程)と、上記表面に塗布した樹脂溶液中の樹脂を凝固再生して、前駆体シートを形成する工程(凝固再生工程)と、前駆体シートを前駆体シート形成用基材から剥離する工程(剥離工程)と、剥離した前駆体シートから溶媒を除去して、樹脂シート120を得る工程(溶媒除去工程)とを、それぞれ必要に応じて有していてもよい。上記凝固再生工程において、前駆体シートは、前駆体シート形成用基材に、スキン層領域124とは反対側の面で付着した状態で形成される。さらに、本実施形態の研磨パッド用シートの製造方法は、溝形成工程の前に、基材110に樹脂シート120を粘着剤層130を介して貼り合わせる工程(貼り合わせ工程)を必要に応じて有していてもよい。以下、各工程について説明する。
【0043】
まず、樹脂溶液調製工程では、上述のポリウレタン樹脂などのマトリックス樹脂と、そのマトリックス樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて樹脂シート120に含ませるその他の材料とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。樹脂シート120の研磨能力を確保し、気泡122a中にスラリーをより十分に保持する観点から、樹脂溶液について、B型回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が3〜10Pa・sの範囲であると好ましく、3〜7Pa・sの範囲であるとより好ましい。そのような粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点、並びに後述の凝固スピードを調整する観点から、例えば、マトリックス樹脂を10〜30質量%の範囲、より好ましくは15〜25質量%の範囲で溶媒に溶解させてもよい。樹脂溶液の粘性は、用いるマトリックス樹脂の種類及び分子量にも依存するため、これらを総合的に考慮し、マトリックス樹脂の選定、濃度設定等を行うことが重要である。
【0044】
図3は、塗布工程において、樹脂溶液を前駆体シート形成用基材に塗布した状態を示す模式断面図である。塗布工程では、樹脂溶液を、好ましくは常温下で、ナイフコータ等の塗布装置を用いて帯状の前駆体シート形成用基材200に塗布して塗膜210を形成する。前駆体シート形成用基材200は、樹脂溶液が塗布される塗布面200aに凹凸形状を有し、塗膜210は、その塗布面200aの凹凸形状に追従するよう、かつ、塗膜表面210aが平坦になるよう形成される。塗布面200aの凹凸形状は、その凹状の溝部分200bに充填された樹脂溶液が発泡樹脂領域122を形成し、かつ、溝部分200bの更に上側と凸状の突起部分200cの上側とに塗布された塗膜210がスキン層領域124を形成するような形状であればよい。このときに塗布する樹脂溶液の厚さは、特に限定されないが、樹脂シート120の研磨能力を確保し、気泡122a中にスラリーをより十分に保持できるようにする観点から、溝部分200bの底面から塗膜表面210aまでの厚さで、例えば0.3〜2.1mmの範囲であると好ましい。また、突起部分200cの上面から塗膜表面210aまでの厚さは、スキン層領域124の表面の平滑性をより十分に確保しつつ、スラリーがより良好に流動する程度の溝126の深さを確保する観点から、0.3〜2.0mmの範囲であると好ましい。
【0045】
前駆体シート形成用基材の材質としては、例えば、PETフィルムなどの樹脂製フィルム、布帛及び不織布が挙げられる。これらの中では、樹脂溶液を浸透し難いPETフィルムなどの樹脂製フィルムが好ましい。
【0046】
凝固再生工程では、前駆体シート形成用基材に塗布された樹脂溶液の塗膜を、マトリックス樹脂に対する貧溶媒(例えばポリウレタン樹脂の場合は水)を主成分とする凝固液中に連続的に案内する。凝固液には、マトリックス樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の溶媒以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、マトリックス樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されず、マトリックス樹脂がポリウレタン樹脂である場合、例えば、5〜80℃であってもよいが、好ましくは15〜20℃である。凝固液中では、まず、樹脂溶液の塗膜と凝固液との界面に皮膜が形成され、皮膜の直近のマトリックス樹脂中にスキン層領域124を構成する無数の微細な気泡が形成される。その後、樹脂溶液に含まれる溶媒の凝固液中への拡散と、マトリックス樹脂中への貧溶媒の浸入との協調現象により、好ましくは連続気泡構造を有するマトリックス樹脂の再生が進行する。このとき、前駆体シート形成用基材が凝固液を浸透し難いもの(例えばPET製フィルム)であると、樹脂溶液中の溶媒と貧溶媒との置換がスキン層領域124側で優先的に生じ、発泡樹脂領域122側にスキン層領域124側よりも大きな気泡122aが形成される傾向にある。
【0047】
次いで、剥離工程では、前駆体シートを前駆体シート形成用基材から剥離する。なお、マトリックス樹脂が前駆体シート形成用基材上で再生されることから、前駆体シート形成用基材の表面に接触して形成された前駆体シートの裏面では、気泡122aの開口は形成されていない。
【0048】
次に、溶媒除去工程では、凝固再生工程を経て得られた前駆体シート中に残存する溶媒を除去して樹脂シート120を得る。溶媒の除去には、従来知られている水洗処理を用いることができる。また、溶媒を除去した後の樹脂シート120を、必要に応じて乾燥してもよい。樹脂シート120の乾燥には、例えば、熱風乾燥機や、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いることができるが、乾燥方法はこれに限定されない。シリンダ乾燥機を用いる場合、樹脂シート120がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。さらに、得られた樹脂シート120をロール状に巻き取ってもよい。このようにして得られた樹脂シート120は、発泡樹脂領域122と、その発泡樹脂領域122上に一体不可分に形成されたスキン層領域124とを含むが、
図4に示すように、スキン層領域124は樹脂シート120の厚み方向に湾曲及び/又は屈曲していない。
【0049】
図4は、貼り合わせ工程において、樹脂シート120と基材110とを貼り合わせた状態を示す模式断面図である。貼り合わせ工程では、溶媒を除去した後の樹脂シート120の裏面120b側、すなわち、上記前駆体シート形成用基材に付着していた側に、基材110を貼り合わせる。基材110の樹脂シート120に対向する面110a側に粘着剤層130を常法により貼着した後、更にその粘着剤層130の上側に、樹脂シート120の裏面120b側を貼着し、樹脂シート120と基材110とを互いに押圧することにより、粘着剤層130を介して、基材110と樹脂シート120とを貼り合わせた積層体300を得ることができる。粘着剤層130の粘着剤は、従来知られているものであってもよく、感圧型であっても感熱型であってもよい。
【0050】
そして、溝形成工程は、上述のようにして得られた積層体300の樹脂シート120におけるスキン層領域124のうち、その下側に空間(発泡樹脂領域122が有する複数の島状の部分の間に存在する空間)が存在する部分124bを、その空間に向かって湾曲及び/又は屈曲させ、その下面を粘着剤層130に貼着する。これにより、
図1に示す溝126を有する研磨パッド用シート100を得ることができる。湾曲及び/又は屈曲させる方法としては、例えば、プレス機などを用いて、スキン層領域124の部分124bを粘着剤層130に向かって押し付ける方法が挙げられるが、その方法はこれに限定されない。溝126の断面形状は、上述の押し付ける態様を調整することによって種々変化させることができ、例えば、粘着剤層130に貼着させる部分を適宜調整したり、粘着剤の粘着力を調整したりすることによって、種々の断面形状を得ることができる。
【0051】
また、
図1に示す研磨パッド用シート100では、空間128を有するが、上述の押し付ける態様を調整することによって、この空間128の形状を種々変化させることができる。また、スキン層領域124の部分124bの下面全体を極力粘着剤層130に貼着させることにより、その空間128を極めて小さくしたりなくしたりすることも可能である。
【0052】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、上記研磨パッド用シートの製造方法により研磨パッド用シート100を形成する工程を有するものである。例えば、本実施形態の研磨パッドは、上述のようにして得られた研磨パッド用シート100を所定形状に裁断することにより得られる。裁断する形状としては、例えば円形やドーナツ型が挙げられるがこれに限定されない。あるいは、研磨パッド用シート100をそのまま研磨パッドとして用いてもよい。さらには、そのような研磨パッドの基材110に対して樹脂シート120とは反対側に、後述の粘着剤層や剥離基材等の別の部材を備えてもよい。いずれの場合も、研磨パッド用シート100の主面120a側が研磨パッドの研磨面となる。好ましくは、得られた研磨パッドを用いて研磨するまでの間で、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査が行われる。
【0053】
本実施形態の研磨パッドを用いた研磨方法は、得られた研磨パッドを用いて被研磨物を研磨する工程を有する。その具体例の一つを以下に説明する。まず、片面研磨機の保持定盤に被研磨物を保持させる。次いで、保持定盤と対向するように配置された研磨定盤に研磨パッドを装着する。研磨定盤に研磨パッドを装着する際、研磨パッドが基材側から粘着剤層及び剥離基材を更に備えている場合は剥離基材を取り除いて粘着剤層を露出させた後、露出した粘着剤層を研磨定盤に接触させ押圧する。なお、研磨パッドが粘着剤層を備えていない場合は、基材側に粘着剤を塗布又は貼り付けてから研磨定盤に装着することもできる。そして、被研磨物と研磨パッドとの間に砥粒(研磨粒子)を含むスラリーを循環供給すると共に、被研磨物を研磨パッドの方に所定の研磨圧にて押圧しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物を化学的機械的研磨により研磨する。
【0054】
この際、樹脂シート120のスキン層領域124が研磨面(主面120a)だけでなく、溝126の側壁面及び底面をも形成するため、このような溝126は切削加工により生じ得るささくれ状の粗面及び発泡フォームの開気孔を有し難い。また、同様に、このような溝126は、エンボス加工により形成され得る熱圧着により硬質化した研磨面を有し難い。さらには、本実施形態の研磨パッドは、前駆体シート形成用基材200に付着した側を研磨面とするのではなく、その反対側の主面120aを研磨面としているので、前駆体シート形成用基材200に樹脂が一部残り研磨面が粗面化することも発生し難い。むしろ、スキン層領域124は、湿式成膜法において、樹脂が凝固液と接触して凝固再生することにより形成されるものであるから、その表面は平滑性の高い状態にある。したがって、本実施形態の研磨パッドを用いた研磨加工では、研磨パッドから切削屑などが生成し難く、研磨面の硬さが低く抑えられ、切削屑、砥粒及び研磨屑などを平滑性の高い表面を有する溝126から速やかに排出することが可能であるため、被研磨物におけるスクラッチの発生を十分に抑制することができる。
【0055】
本実施形態の研磨パッドは、磁気ディスク等の半導体デバイス、ベアシリコン及び液晶ディスプレイ用ガラス基板の仕上げ研磨に特に好適に用いられる。ただし、本実施形態の研磨パッドの用途はそれらに限定されない。
【0056】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明に係る研磨パッド用シートの別の実施形態では、発泡樹脂領域が、上記の他、湾曲及び/又は屈曲したスキン層領域の裏側に一体不可分に形成されていてもよい。この場合、湾曲及び/又は屈曲したスキン層領域の裏側に形成された発泡樹脂領域の厚さが、それ以外の発泡樹脂領域の厚さよりも薄くなる。また、この場合、溝の側壁裏側に、少なくともスキン層領域の裏側に形成された発泡樹脂領域の裏面とその他の部分に形成された発泡樹脂領域の側面とに包囲される空間を有してもよい。
【0057】
また、本発明に係る研磨パッド用シートの製造方法の別の実施形態において、樹脂シート形成工程と溝形成工程との間に研削工程を更に有してもよく、溝形成工程の後に研削工程を有してもよい。
【0058】
前者の研削工程では、樹脂シートのスキン層領域側の主面(研磨面)、及び/又は、発泡樹脂領域側の裏面を、バフ処理又はスライス処理により、少なくともスキン層領域が残存するように研削する。バフ処理やスライス処理により樹脂シートの厚さの均一化を図ることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の平坦性を向上させることが可能となる。
【0059】
また、後者の研削工程では、溝を形成した状態で研磨面をバフ処理又はスライス処理により研削することにより、被研磨物に当接する研磨面の平坦性をより高めることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の平坦性を向上させることが可能となる。また、この場合、発泡樹脂領域上のスキン層領域の部分は少なくともその一部が研削されるが、溝の内面(側壁面及び底面)は研削されないため、その内面の平滑性は維持され、研磨屑や砥粒の速やかな排出ができるので、被研磨物におけるスクラッチの発生を抑制することが可能となる。
【0060】
上記いずれの研削工程を採用しても、溝を形成するために切削加工、エンボス加工及び特許文献1に開示の方法を用いる必要がないため、被研磨物におけるスクラッチの発生を抑制することができる。
【0061】
さらに、上記本実施形態の研磨パッド用シート100は、樹脂シート120と基材110との間に粘着剤層130を備えていたが、それに代えて/加えて、接着剤が樹脂シート120の基材110側、及び/又は、基材110の樹脂シート120側に塗布されたものであってもよい。接着剤としては、例えば、アクリル系、ニトリル系などの感熱型接着剤が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
まず、30%ポリエステル系ポリウレタン樹脂(100%モジュラス:23MPa)のDMF溶液50質量部、粘度調整用のDMF23質量部、水3質量部、及び、顔料のカーボンブラックのDMF分散液(固形分であるカーボンブラックをその全体量に対して20質量%含む。)22質量部を混合して、樹脂溶液を調製した。その25℃での粘度をB型回転粘度計(東機産業株式会社製、商品名「TVB−10型」)を用いて測定したところ、7.0Pa・sであった。次に、前駆体シート形成用基材として、塗布面に凹凸形状を有するPETフィルムを用意した。塗布面の凹凸形状は、正方形の平面形状を有する凹部が互いに離間して複数配列した格子パターンであった。その前駆体シート形成用基材の塗布面に、上記樹脂溶液を、ナイフコータを用いて塗布して塗膜を得た。
【0064】
次いで、得られた塗膜を、凝固液である水からなる室温の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、前駆体シート形成用基材から前駆体シートを剥離した後、水からなる室温の洗浄液(脱溶媒浴)に浸漬し、DMFを除去して、樹脂シートを得た。その後、樹脂シートを乾燥しつつ巻き取った。次に、基材であるPETフィルム(厚さ:188μm)に、グラビアロールを用いて粘着剤を塗布した後、樹脂シートの裏面側(前駆体シート形成用基材に付着していた側)に、PETフィルムの粘着剤を塗布した面をプレスロールにより貼り合わせて積層体を得た。その後、樹脂シートの薄い凹部をPETフィルム側に湾曲するように押圧し、厚い凸部だけでなくその凹部もPETフィルムに粘着剤を介して貼着するようにして貼り合わせた。こうして得られた研磨パッド用シートを乾燥して巻き取った。なお、得られた研磨パッド用シートは、その表面形状が略正方形の凸部を複数離間して配列した格子パターンであり、凹部である溝の深さは約0.4mm、幅は約1.1mm、間隔は約13mmであった。得られた研磨パッド用シートの幅方向中央付近を、長さ方向に沿って切断し、現れた断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。その写真を
図5に示す。この写真から、複数の離間した島状の発泡樹脂領域上に形成されたスキン層領域が、樹脂シートの厚み方向に湾曲することで溝が形成されていることが確認できる。また、溝の側壁裏側に、スキン層領域の裏面と発泡樹脂領域の側面とに包囲される空間を有していることも確認できる。
【0065】
上述の方法によりショアA硬度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
得られた研磨パッド用シートを平面形状が外径64.0cm、内径23.2cmのドーナツ型になるよう切り抜き研磨パッドを得た。その研磨パッドを研磨機(スピードファム社製、商品名「9B−5Pポリッシングマシン」)の所定位置に設置し、被研磨物として95mmφハードディスク用アルミニウム基板に対して、下記条件にて研磨加工を施した。
【0068】
研磨条件
・研磨速度(回転数):30rpm
・研磨圧力:100g/cm
2
・研磨剤:コロイダルシリカスラリ(pH:1.5)
・研磨剤吐出量:100cc/min
・研磨時間:300秒間
【0069】
この研磨加工後の被研磨物表面にスクラッチが生じているか否かを目視にて確認した。スクラッチが認められない場合を「A」、スクラッチが少しだけ認められるものの、被研磨物の品質としては製品にできるレベルである場合を「B」、スクラッチが多すぎて被研磨物を製品とすることができない場合を「C」と評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例2)
ポリエステル系ポリウレタン樹脂を100%モジュラスが8MPaのものに変更し、各成分の混合比率を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、研磨パッド用シート及び研磨パッドを得た後、ショアA硬度を測定し、研磨加工により発生するスクラッチの状況を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
実施例2と同様にして樹脂溶液を調製した。次に、前駆体シート形成用基材として、塗布面に凹凸形状を有しないPETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂溶液を、上記ナイフコータを用いて塗布して塗膜を得た。次いで、得られた塗膜を、凝固液である水からなる室温の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、前駆体シート形成用基材から剥離し、水からなる室温の洗浄液(脱溶媒浴)に浸漬し、DMFを除去して、樹脂シートを得た。その後、樹脂シートを乾燥しつつ巻き取った。次に、基材であるPETフィルム(厚さ:188μm)に、グラビアロールを用いて上記粘着剤を塗布した後、樹脂シートの裏面側に、PETフィルムの粘着剤を塗布した面をプレスロールにより貼り合わせて積層体を得た。次いで、積層体の樹脂シートの主面にエンボス加工を施した。その時の加工条件は、加工圧力4.5MPa、加工(金型)温度160℃、加工時間180秒であった。こうして得られた研磨パッド用シートは、その表面形状が略正方形の凸部を複数離間して配列した格子パターンであり、凹部である溝の深さは約0.4mm、幅は約1.0mm、間隔は約3.0mmであった。得られた研磨パッド用シートを乾燥して巻き取った。
【0072】
得られた研磨パッド用シートについて、実施例1と同様にして研磨パッドを作製し、ショアA硬度を測定し、研磨加工により発生するスクラッチの状況を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
エンボス加工に代えて切削加工を用いて溝(切削溝)を形成した以外は比較例1と同様にして、研磨パッド用シート及び研磨パッドを得た。なお、切削加工の条件は下記のとおりであり、得られた研磨パッド用シートは、その表面形状が略正方形の凸部を複数離間して配列した格子パターンであり、凹部である溝の深さは約0.4mm、幅は約1.0mm、間隔は約5.0mmであった。
【0074】
得られた研磨パッド用シート及び研磨パッドについて、ショアA硬度を測定し、研磨加工により発生するスクラッチの状況を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
樹脂シートを乾燥しつつ巻き取るまでは、実施例2と同様にした。次に、基材であるPETフィルム(厚さ:188μm)に、グラビアロールを用いて粘着剤を塗布した後、樹脂シートの主面側(前駆体シート形成用基材に付着していたのとは反対側)に、PETフィルムの粘着剤を塗布した面をプレスロールにより貼り合わせて研磨パッド用シートを得た。こうして得られた研磨パッド用シートを乾燥して巻き取った。なお、得られた研磨パッド用シートは、その表面形状が略正方形の凸部を複数離間して配列した格子パターンであり、凹部である溝の深さは約0.5mm、幅は約1.0mm、間隔は約14mmであった。
【0076】
得られた研磨パッド用シートについて、実施例1と同様にして研磨パッドを作製し、ショアA硬度を測定し、研磨加工により発生するスクラッチの状況を評価した。結果を表1に示す。