【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係るスプロケット磨耗痕測定治具が測定対象とするスプロケット局部の歯部を正面方向から示した概略図である。また、
図2は、
図1に示したスプロケット局部の歯部に生じる磨耗痕の様子を示した斜視図である。
図1及び
図2を参照すれば、ここでのスプロケットは、
図11〜
図13で説明した乗客コンベアの駆動機構に用いられる駆動スプロケット3、並びに従動スプロケット5を示すものであり、凹凸形状の凸部となる歯部21の磨耗発生範囲22に磨耗痕23が発生する様子を示している。乗客コンベアの駆動機構では、
図12に示した駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10が正しく許容値の範囲内で設置されていても、駆動スプロケット3及び駆動チェーン4と従動スプロケット5及び駆動チェーン4とがそれぞれ噛み合うことで磨耗して磨耗痕23が発生する。
【0014】
図3は、ここでのスプロケットに掛けられる駆動チェーン4局部の外観を示したもので、同図(a)は上面方向からの図、同図(b)は正面方向からの図である。
図3(a)及び
図3(b)を参照すれば、ここでは駆動チェーン4のプレート31の内側における磨耗発生範囲32で磨耗を起こす様子を示している。本発明では、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との相互間の平行度10がずれていると、駆動スプロケット3及び駆動チェーン4と従動スプロケット5及び駆動チェーン4との噛み合わせが変化して磨耗痕23が発生する位置にも変化が生じることを確認し、更に駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10と駆動スプロケット3及び従動スプロケット5に発生する磨耗痕23の発生位置の変化に相関性があることを確認した。その結果、スプロケットと駆動チェーン4との磨耗痕23を測定すれば、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10がずれていること、即ち、平行度10について正常であるか異常であるかを適確に把握(判定)できることを見出したものである。
【0015】
図4は、スプロケットと駆動チェーン4との噛み合いの状態をスプロケットの平行度10にずれが無い状態について示した上面方向からの概略図である。
図5は、スプロケットと駆動チェーン4との噛み合いの状態をスプロケットの平行度10にずれが有る状態について示した上面方向からの概略図である。また、
図6は、
図4のスプロケットの平行度10にずれが無い状態でのスプロケット断面方向での駆動チェーン4との噛み合いの状態を示した図である。更に、
図7は、
図5のスプロケットの平行度10にずれが有る状態でのスプロケット断面方向での駆動チェーン4との噛み合いの状態を示した図である。
【0016】
駆動スプロケット3及び駆動チェーン4と従動スプロケット5及び駆動チェーン4との噛み合いは、
図4に示すように、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10にずれが無ければ、回転軸51を持つ駆動スプロケット3の歯部52及び駆動チェーン4と回転軸53を持つ従動スプロケット5の歯部54及び駆動チェーン4とのギャップ55は均一で、一定のギャップ55が確保された状態となる。これに対し、
図5に示すように、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10にずれが有れば、回転軸51を持つ駆動スプロケット3の歯部52及び駆動チェーン4と回転軸53を持つ従動スプロケット5の歯部54及び駆動チェーン4とのギャップ55に偏りが発生し、ギャップ55が零以下になると駆動スプロケット3や従動スプロケット5と駆動チェーン4とが常に干渉する部分が生じて磨耗する。
【0017】
また、
図6を参照すれば、駆動スプロケット3の歯部52や従動スプロケット5の歯部54の駆動チェーン4との噛み合いは、スプロケットの歯部断面56が曲線形状で、歯元57から歯先58に向かう程、幅が狭くなっているため、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10のずれが小さい状態では、スプロケットの磨耗が小さく、歯元57側に近い位置に磨耗痕23の上端部が発生する。更に、
図7を参照すれば、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10のずれが大きい状態では、スプロケットの磨耗が大きく、歯先58側に近い位置に磨耗痕23の上端部が発生する。従って、スプロケットの歯部断面56で磨耗痕23の上端部がどの程度歯元57側に発生しているか、或いは歯先58側に発生しているかを測定すれば、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10のずれを把握して判定を行うことができる。
【0018】
このように、スプロケットの磨耗痕23を測定すれば、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10のずれを把握できるが、駆動チェーン4の磨耗痕については、プレート31の内側に発生するため、測定することが困難である。因みに、スプロケットの磨耗痕23を測定することは可能であっても、磨耗痕23が発生する歯部21は凹凸形状及び曲線形状を持つため、一般的な測定治具では正確に測定を行うことが難しく、しかも測定作業者の熟練度や判断基準により実測結果にバラツキが生じ易いものとなっている。そこで、実施例1のスプロケット磨耗痕測定治具では、こうした問題を解決してスプロケットの磨耗を容易にバラツキ無く測定できるようにすることを技術的課題としている。
【0019】
図8は、本発明の実施例1に係るスプロケット磨耗痕測定治具40の基本構造を一部透視して示した外観斜視図である。このスプロケット磨耗痕測定治具40は、スプロケットの歯部21同士間の形状に合わせた形状を有すると共に、歯部21同士間の凹凸及び曲線部に嵌め込まれた状態で歯部21の磨耗度を測定する目盛り42を持つ計測部41を備えており、この計測部41がその外周形状よりも大きい平面を有する平板材46における平面に対して取り付けられ、平板材46にはマグネット43が配備されている。
【0020】
このうち、計測部41は、スプロケットの歯部21の高さと同じ高さの形状で、スプロケットの磨耗度の測定時にスプロケットの歯部21側壁間で若干のクリアランスを有して配置される外形を持つ。この計測部41の外形については、歯部21同士間の曲線部に対しても若干のクリアランスを持たせるようにスプロケットの歯部21の高さよりもやや低い高さにしても良い。但し、計測部41の厚さについては、スプロケットの歯部21同士間に嵌め込む際に動きを固定でき、磨耗痕23を測定し易い程度にすることが好ましい。計測部41の厚さが薄過ぎたり、或いは厚過ぎるとスプロケットの表面と計測部41の表面の目盛り42との位置が奥行き方向でずれて段差を生じてしまい、測定し難くなるためである。また、目盛り42は、スプロケットの磨耗度の測定時にスプロケットの歯部21に生じる磨耗痕23の(上端部の)高さとの比較に供される。更に、マグネット43は、スプロケットの磨耗度(磨耗痕23)の測定時にスプロケットに対して吸着固定させ、スプロケット磨耗痕測定治具40を測定作業者が手で支えて使用する場合に生じ得る傾き等の影響を無くして安定して測定を行わせるためのものであるが、ここでは更に計測部41を嵌め込んで配置する際の位置決めの確保の妨げにならないように、平板材46の平面の表面側、表面に露出しないように配置されている。また、本実施例1では、マグネット43が平板材46の裏面側より突出して他の部材と干渉することを避けるため、裏面側表面より突出しないような厚さに設定されている。
【0021】
図9は、係るスプロケット磨耗痕測定治具40を用いた駆動スプロケット3の歯部21に生じる磨耗痕23の測定の様子を示した局部の外観斜視図である。
図9を参照すれば、ここでは駆動スプロケット3の磨耗度の測定時に計測部41を駆動スプロケット3の歯部21同士間に配置して嵌め込んだ状態で目盛り42により駆動スプロケット3の歯部21(歯元57から歯先58までの背高部分)に生じる磨耗痕23の上端部の高さと比較する様子を示している。この比較結果で磨耗痕23の上端部の高さ(磨耗痕測定箇所24)が目盛り42の所定の指標よりも高い位置にある場合には、駆動スプロケット3の平行度が許容範囲外の異常であると判定し、低い位置にある場合には、駆動スプロケット3の平行度が許容範囲内の正常であると判定する。
【0022】
具体的に云えば、計測部41の目盛り42は、駆動スプロケット3の歯部21の底部である歯元57を0%、頂部である歯先58を100%として、駆動スプロケット3に対して回転軸51を中心とする同心円状にその間隔を10等分した指標を設ける場合を例示できる。10等分以外でも必要数分設けることが可能である。何れにせよ、磨耗痕23の上端部の高さとなる磨耗痕測定箇所24が目盛り42の指標により歯部21の深さに対して何%の高さであるかが示されることになるので、例えば所定の指標として、磨耗痕測定箇所24の位置が目盛り42の30%以下であれば平行度10が許容範囲内の正常であると判定し、30%を超える場合には平行度10が許容範囲外の異常であると判定して平行度10の調整が必要であるとする具合に、絶対的な指標として用いることができる。
【0023】
更に、
図4を参照して説明したスプロケットの平行度10にずれが無い状態や、
図5を参照して説明したスプロケットの平行度10にずれが有る状態を想定し、JIS B1801の伝動用ローラチェーンに規定された呼び番号100番のチェーン又は呼び番号80番のチェーンを使用し、駆動スプロケット3の回転軸51と従動スプロケット5の回転軸53との軸間距離が700mmである条件下を仮定すると、磨耗痕測定箇所24の位置が歯元57から歯先58に向かって30%の位置にある場合、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平面度10が4mmずれた状態であることを把握することができる。チェーンサイズが異なる場合でも、スプロケット磨耗痕測定治具40の計測部41の目盛り42と平行度10との相関性を予め規定しておけば、計測部41の目盛り42と磨耗痕23の上端部の高さの磨耗痕測定箇所24とを比較してスプロケットの磨耗度を確認し、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10のずれを把握(判定)することができる。
【0024】
実施例1に係るスプロケット磨耗痕測定治具40によれば、スプロケットの歯部21に発生する磨耗痕23を容易にバラツキを無くして測定することが可能となり、駆動スプロケット3と従動スプロケット5との平行度10のずれを適確に把握して判定することができる。また、計測部41を取り付けた平板材46にはマグネット43が埋設されているため、スプロケットの歯部21の磨耗痕23の測定時にスプロケットの吸着固定が安定して行われ、作業性が向上するだけでなく、スプロケット磨耗痕測定治具40を毎回同一条件で設置することが可能となり、測定精度の向上も図られる他、スプロケットの歯部21の磨耗痕23の測定後にスプロケット磨耗痕測定治具40をスプロケットから取り外す際にも、マグネット43が平板材46の表面側に露出していないため、平板材46から離脱してスプロケットに吸着されたままとなるようなトラブルも回避される。
【実施例2】
【0025】
図10は、本発明の実施例2に係るスプロケット磨耗痕測定治具40′の基本構造を示した外観斜視図である。このスプロケット磨耗痕測定治具40′は、実施例1に係るスプロケット磨耗痕測定治具40と比べ、平板材46の平面の表面側、裏面側のそれぞれにスプロケットの大きさが異なるものに適合させるために大きさが異なる大サイズ計測部44、小サイズ計測部45を取り付けて構成される点が相違している。因みに、ここでの平板材46内では、表裏両面共に測定時にスプロケットに接触する可能性があることを考慮し、図示されないマグネット43が埋設されている。
【0026】
実施例2に係るスプロケット磨耗痕測定治具40′によれば、大きいサイズのスプロケットに対応する大サイズ計測部44、小さいサイズのスプロケットに対応する小サイズ計測部45が平板材46の平面の表面側、裏面側にそれぞれ一体的に設けられており、1台で異なるサイズのスプロケットの歯部の磨耗痕を測定してそれらのスプロケットの平行度の判定を行うことができる。これにより、異なるサイズのスプロケットの歯部の磨耗痕の測定並びにそれらのスプロケットの平行度の判定を行う場合に、測定作業者が実施例1のスプロケット磨耗痕測定治具40の構成であれば2種類の別体構成の治具を持ち運ぶ必要があるのに対し、そのような持ち運び手間を省くことができて便利になる。
【0027】
以上に説明した各実施例に係るスプロケット磨耗痕測定治具40、40′を用いてスプロケットの平行度を判定する場合の技術的概要は、スプロケット平行度判定方法として換言することができる。即ち、この場合のスプロケット平行度判定方法は、スプロケット磨耗痕測定治具40、40′の計測部41、大サイズ計測部44、小サイズ計測部45の何れか1つを測定対象のスプロケットの歯部同士間に配置して嵌め込んだ状態で歯部に生じる磨耗痕の(上端部の)高さを目盛りと比較した結果、磨耗痕の高さが目盛りの所定の指標よりも高い位置にある場合にスプロケットの平行度が許容範囲外であると判定するものとなる。また、ここでの磨耗痕の高さが目盛りの所定の指標よりも低い位置にある場合には、スプロケットの平行度が許容範囲内であると判定するものとなる。