(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電極材料又は窒化物絶縁膜は、Al,B,C,Siのいずれか1種の元素を少なくとも含むことを特徴とする請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の積層構造体。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0023】
図1は、本発明のホウ素含有薄膜形成方法を実施するための電解装置の構成例を示す。ホウ素を含むイオンの存在する溶融塩中で電解を行うことにより、被処理材(陰極)上にホウ素含有薄膜が形成される過程を以下に説明する。「溶融塩」は、単一の塩や複数の塩を混合したものが溶融したイオン性の液体である。溶融塩は、様々な物質をよく溶かし、高温でも蒸気圧が低く、化学的に安定で、導電率が高い等、優れた特長を有する機能性液体である。
【0024】
電解装置は、陽極1(対極)、陰極(作用極)としての被処理材2、電解槽4、溶融塩電解浴5を備えている。また、陽極1と被処理材2と間に、電流波形又は電圧波形を変化させることができる可変電源装置6が接続されている。ここで、本実施例では、まずホウ素含有薄膜としてホウ素薄膜を形成する方法を説明する。
【0025】
被処理材2は、ホウ素薄膜の形成が行われる作用極として機能する。被処理材2には、例えば、Ni等の導電性材料が用いられる。また、ホウ素と合金をつくる元素、例えば、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、Ir、Mn、Mo、Nb、Pd、Pt、Ru、Ta、Ti、V、W、Y、Zr等を含む材料であれば、ホウ素薄膜と被処理材との間に傾斜組成をもった層ができ、ホウ素薄膜と被処理材との密着性が向上するので好ましい。
【0026】
また、陰極となる被処理材2は、産業上応用される場合には特に、拡面処理が施されるなど、複雑な形状を持つ。複雑な形状の一例として、拡面処理の例を
図7に模式的に例示列挙する((a):トレンチ構造、(b):焼結体構造、(c):多孔質構造)。これらの方法以外の拡面処理であっても良い。いずれの構造においても、多数の孔の形成により体積あたりの表面積が拡大している。以上のように、拡面処理した場合、比表面積が200〜10000 m
2/m
3、より好ましくは1000〜6000 m
2/m
3で、形成された孔や空隙の最小径が0.1〜5 mm、より好ましくは0.2〜1 mmとするのが良い。
【0027】
陽極1には、ホウ素を含むイオンの還元反応により生じるO
2-やCl
-などのイオンを酸化できる電極材料(不溶性陽極)が用いられる。また、陽極材料として、ドーピングなどにより導電性を高めたホウ素電極を用いることにより、陽極上での酸化反応をホウ素の陽極溶解(B→B(III)+e
-) とすることができる。これにより、ホウ素薄膜を形成する基礎となるホウ素イオンを途切れることなく十分供給することができる。
【0028】
溶融塩電解浴5に溶解している溶質としては、一般に、溶融塩電解でホウ素を還元析出させる際に用いられるホウ素源であれば良い。多くの場合、このようなホウ素源は、ホウ素とともに酸素やフッ素およびアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を含む化合物であり、例えば、Na
2B
4O
7、KBF
4 などを用いることができる。これらは単塩で用いても良いが、アルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ土類金属ハロゲン化物と混合して用いれば、融点が下がりより低温で実施できるので好ましい。
【0029】
ここで、陽極1と陰極となる被処理材2との間に電流を流すと、陰極電解により、溶融塩電解浴5中のホウ素イオン(B(III))は、被処理材2の表面で還元されて被処理材2上にホウ素含有薄膜3が形成される。または、ホウ素と被処理材との合金膜が形成される。この反応は、下式で表される。
B(III)+3e
- → B
また、ホウ素を含むイオン源の場合、例えば、B
4O
72-の場合には、反応式は以下のようになる。
B
4O
72-+12e
- → 4B+7O
2-
【0030】
本発明で、従来と異なるのは、
図19のように直流電源を用いずに、電流波形又は電圧波形の変化が可能な可変電源装置6を用いていることである。例えば
図2に示すように、陽極1と陰極となる被処理材2との間に流す電流をパルス電流とする(オン期間とオフ期間の繰り返しとする)ことで、均一で密着性の良いホウ素含有薄膜3を作製することができる。このパルス電流は、被処理材2から陽極1に流れる電流成分を有するものではない。
【0031】
パルス状の電流を流して得られた結果を
図3に示す。この実施例では、
図1のような電解装置を用い、各部の構成は以下のようにした。溶融塩は、Na
2B
4O
7-NaCl(80:20 wt%)で温度は800℃に維持した。電極材料は、被処理材2を多孔質ニッケルシート(5mm×10mm×1mm)で、陽極1をグラッシーカーボンで構成した。パルス電解条件は、
図2の電流I
h、パルスの周波数、電流のオン期間Wとオフ期間Lとから計算されるデューティー比(W/(W+L))を
図3のように変化させて確認した。試料4が、パルスなしの電解であり、従来例である。一方、試料No1〜3が、定電流パルスによる電解であり、実施例である。このとき、従来例については、Ni多孔質の比表面積カタログ値から算出した有効表面積に対する平均電流密度は62.5 mA/cm
2であった。その他の実施例については、12.5〜62.5 mA/cm
2で行った。 定電流(パルスなし)では、多孔質内部にホウ素が析出しなかった。他方、試料Noが、1、2、3については、多孔質内部にまで電析していた。これにより、パルス状に電流を流すことで電析の状態が良くなったことがわかる。
【0032】
本発明の方法でホウ素薄膜を電析させた多孔質Niの断面SEM写真を
図4に示す。
図4(a)が断面全体、(b)は内部を拡大した写真である。このように、試料内部にまでホウ素が電析している。なお、ホウ素薄膜の膜厚は、数nm〜数十μmmオーダー程度に形成することができる。用途に応じて異なるが、例えば、核融合炉壁のコーティングでは、10 nm〜1 μm程度となる。
【0033】
一方、
図1の構成で、パルス電解を用いて、ホウ素含有薄膜としてホウ素化合物薄膜を作製した例を以下に示す。
図1の構成で、上記実施例とは、溶融塩電解浴5、被処理材2、パルス電解条件を変えて実施しており、それ以外は同一のものを用いた。溶融塩電解浴5は、NaCl-CaCl
2共晶組成塩(32.4:67.6モル%)にNaBO2を10モル%添加したものを用い、溶融塩電解浴5の浴温は700℃とした。被処理材2にはTaを用い、大きさは10mm×20mm、厚さ0.5mmの基板とした。パルス電解条件は、
図2の電流I
hを300mA、電流のオン期間Wを0.1秒、電流のオフ期間Lを1秒とし(デューティー比は約9%)、これを2000サイクルの時間、継続して電解を行った。
【0034】
このとき、被処理材2の表面に電析した薄膜のX線回折による分析結果を
図5に、SEM/EDXによる表面SEM像と定量分析結果を
図6に示す。
図5の縦軸は回折強度を、横軸は入射角を示しており、○印を付けたピークからCaB
6であることがわかる。
図6(a)は、薄膜の定量分析結果であるが、元素B(ホウ素)と元素Ca(カルシウム)とで構成されていることがわかる。以上のデータより、ホウ化カルシウム(CaB
6)薄膜の形成が確認できた。また
図6(b)に示されるように、被処理材2の表面に電析したホウ化カルシウム薄膜は、均一で密着性良く結晶成長していることがわかる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態に係るホウ素含有薄膜形成方法は、ホウ素化合物薄膜の中でも、特に、窒化ホウ素薄膜を形成する方法である。
図8に示すように、基板を有し、かつホウ素(B)を含有する被処理材10を準備するステップと、窒化物イオン(N
3-)が溶解された溶融塩20中において、被処理材10を陽極とする溶融塩電解によって被処理材10上で窒化物イオンを酸化させることにより窒化ホウ素薄膜を形成するステップとを含む。上記のように、第2の実施形態に係るホウ素含有薄膜形成方法も、溶融塩電気化学プロセス(MSEP)を用いている。
【0036】
被処理材10には、ホウ素を含む基板に導電性材料を接触させた被処理材が使用される。例えば、ホウ素焼結体シートにニッケル(Ni)ワイヤーを巻きつけた被処理材等が、被処理材10に採用可能である。被処理材10に使用する導電性材料は、導電性の材料であればNiに限らないが、金属或いは合金が好ましい。ただし、電気化学プロセスを持続させるために、絶縁性窒化物を生成しにくい材料が好ましい。例えば窒化により絶縁物を形成するアルミニウム(Al)や半導体となる亜鉛(Zn)は、導電性材料に好ましくない。また、陽極導電性材料の形態も、ワイヤーに限られるものではなく、例えば剣山状の導電物を接触させるなどしてもよい。また、ホウ化タンタル等のホウ化物基板を被処理材10に使用してもよい。
【0037】
溶融塩20には、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物が採用可能である。更に、窒化物イオン(N
3-)が溶融塩と反応して消費されずに安定に存在し得るものであれば、溶融塩20に制限はない。特に、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物が好ましい。例えば塩化リチウム−塩化カリウム(LiCl-KCl)共晶組成塩(51:49モル%)に、窒化リチウム(Li
3N)を0.05〜2モル%程度添加したLiCl-KCl-Li
3N系溶融塩等が、溶融塩20に好適である。
【0038】
陰極30では、電解浴である溶融塩成分のアルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンが電気化学的に還元される。例えば、溶融塩20がLiCl-KCl-Li
3N系の溶融塩である場合、Li
+が還元されて金属Liが析出する。金属Liは液体として析出し、金属霧となって陽極陰極間の短絡を引き起こす可能性がある。そのため、陰極30にLiと合金を形成し易い材料を用いてLi合金を形成させる等して、析出した金属Liを陰極30に固定する工夫が必要である。例えば、溶融塩20にLiCl-KCl-Li
3N系の溶融塩を採用した場合には、Liと合金を形成する金属Alを陰極30に採用する。
【0039】
図8を参照して、第2の実施形態に係る薄膜形成方法を以下に説明する。なお、以下に述べる薄膜形成方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の形成方法により実現可能であることは勿論である。以下では、溶融塩20がLiCl-KCl-Li
3N系の溶融塩であり、陰極30に金属Al板を採用した場合を例示的に説明する。
【0040】
(イ)被処理材10として、例えばホウ素焼結体シートにNiワイヤーを巻きつけた、ホウ素部材を含む基板を用意する。被処理材10は、必要に応じて有機溶剤や純水、希塩酸等によって洗浄される。
【0041】
(ロ)電解槽21に満たされた溶融塩20に、被処理材10と陰極30を浸す。溶融塩20の温度は、300℃〜550℃、例えば450℃に設定される。
【0042】
(ハ)所定の電圧に設定した電解電圧Vを被処理材10と陰極30間に印加する。その結果、MSEPにより、
図9に示すように被処理材10の有するホウ素を含む基板の表面が改質され窒化ホウ素薄膜11が形成される。陽極電位は、溶融塩20中で1気圧の窒素ガスが示す電位を基準として、例えば0.6Vに設定される。このときの電解電圧Vは、陰極反応がLi析出の場合には、1.0V程度となる。電解電圧Vを印加する時間(電解時間)は、例えば30分程度に設定される。表面に窒化ホウ素薄膜11が形成された被処理材10は、電解槽21から取り出された後、残留塩を除去するために洗浄される。
【0043】
図8に示したMSEPを用いた窒化物薄膜形成方法では、陽極電位は、電解浴が分解しない電位であって窒化物イオン(N
3-)が酸化される電位であればよい。溶融塩20がLiCl-KCl-Li
3N溶融塩である場合、溶融塩20中で1気圧の窒素ガスが示す電位を基準として、陽極電位は、-0.3 V〜3.3 V程度であればよく、好ましくは+0.2 V〜2.0 Vである。
【0044】
電解時間は、窒化ホウ素薄膜11の所望の膜厚に応じて、例えば3分〜120分程度に設定される。窒化ホウ素薄膜11をトランジスタのゲート絶縁膜に適用する場合は、窒化ホウ素薄膜11の膜厚が1nm以下になるように電解時間が設定される。窒化ホウ素薄膜11を切削工具の刃等に適用する場合は、窒化ホウ素薄膜11の膜厚が0.1〜1μm程度になるように電解時間が設定される。
【0045】
第2の実施形態に係る薄膜形成方法では、電気化学反応により「絶縁物」である窒化ホウ素膜を形成する。このため、電解方法を工夫している。つまり、ホウ素以外の導電性材料を電気化学反応場からの電子受容体として用いて電気分解を行う。
【0046】
例えば、
図10(a)に示すように、板状のホウ素板31が被処理材10のホウ素部材である場合、線状や針状の導電性材料32(電子受容体)をホウ素板31の表面に接触させて、ホウ素板31表面で積極的に電気化学反応(B+N
3-→BN+3e
-)を起こさせる。
図10(b)は、
図10(a)の破線Aで囲った領域を拡大した図である。
図10(b)に示すように、導電性材料32の表面の凹凸によりホウ素板31と導電性材料32との隙間が生じ、窒化物イオン(N
3-)がホウ素板31に供給される。
【0047】
窒化ホウ素は絶縁膜であり、従来は電気化学的にホウ素板上に均一な窒化ホウ素薄膜を形成することは困難であった。しかし、上記のようにホウ素板の周りにNiワイヤー等の導電性材料を巻きつけこの導電性材料に電流を流すことによって、絶縁物である窒化ホウ素が形成されても、導電性材料とホウ素板との接触部を中心として上記電気化学反応が連続的に進行する。
【0048】
電子受容体である導電性材料の表面にホウ素薄膜をホウ素部材として形成した基板が被処理材10である場合は、
図10(a)と同様に電子受容体をホウ素表面に接触させて窒化ホウ素薄膜が形成される。或いは
図11に示すように、被処理材のホウ素がホウ素薄膜41のように薄い場合には、導電性材料32を被処理材の窒化物が形成される側とは反対側で接触させ、上記の電気化学反応を促進させることも可能である。ホウ素薄膜41が薄い場合にはホウ素薄膜41を流れる電流によって窒化物イオンが酸化され、ホウ素薄膜41が窒化される。
【0049】
以上では、陰極30に金属板を使用する例を説明したが、陰極30に窒素ガス電極を用いることにより、陰極30上での電気化学反応を窒素ガスの還元反応(1/2N
2+3e
-→N
3-)とすることができる。
【0050】
図12(a)〜
図12(b)に、第2の実施形態に係るホウ素含有薄膜形成方法により得られた窒化ホウ素薄膜表面のXPS(X線光電子分析)スペクトル測定結果を示す。
図12(a)は、ホウ素(B)1s軌道のXPSスペクトル測定結果であり、
図12(b)は、窒素(N)1s軌道のXPSスペクトル測定結果である。
図12(a)に示すように、窒化ホウ素薄膜11の形成に伴い、結合エネルギーは高エネルギー側にシフトする。
【0051】
図13に、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)により測定された窒化処理後のスペクトルを示す。
図13に示す波数1380cm
-1及び800cm
-1付近での吸収スペクトルは、B-N結合に由来する。
【0052】
図14に、
図8に示したMSEPを用いた窒化物薄膜形成方法によってホウ素基板910上に窒化ホウ素膜920を形成した例のSTEM写真(SE像)を示す。
図14に示すように、緻密な窒化ホウ素膜920が形成されている。
【0053】
図15に、MSEPを用いた窒化物薄膜形成方法により得られた窒化ホウ素薄膜11の透過型電子顕微鏡写真を示す。また、
図16に、一般的な気相合成法であるRFマグネトロンスパッタリング法によってシリコン(Si)ウェハ110上に形成された窒化ホウ素薄膜111の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【0054】
透過型電子顕微鏡では、電子が通過できる箇所は白く見える。一方、窒化ホウ素薄膜が緻密であるほど電子は通りにくい。
図16に示した窒化ホウ素薄膜111の透過型電子顕微鏡写真に比べて、
図15に示した窒化ホウ素薄膜11の透過型電子顕微鏡写真は白い部分が非常に少ない。つまり、本発明の実施の形態に係る形成方法で形成した窒化ホウ素薄膜11は緻密であることがわかる。
【0055】
一方、以下では、溶融塩20にLiCl-KCl-CsCl共晶組成塩を用い、これにLi
3N(0.5モル%)を添加して作製された電解浴を採用した場合を例示的に説明する。被処理材10として、ホウ素薄膜を成長させたCu基板に、Niワイヤーを接触させた基材を用意する。その他は、上記のLiCl-KCl-Li
3N系の溶融塩の場合の実施例と同様に構成する。電解浴温度は350℃とした。また、陽極電位は、1.5 Vに設定し、4時間電析を行った。
【0056】
このときの、被処理材の表面に形成された窒化ホウ素薄膜のXPSスペクトル測定結果を
図17に、窒化ホウ素薄膜が形成された被処理材の断面TEM像を
図18に示す。
図18の断面像は、銅基板120上にホウ素薄膜121が積層され、ホウ素薄膜121上に窒化ホウ素薄膜122が形成された構造を示している。ホウ素薄膜121は、1.5μm〜3.5μmの膜厚に形成され、窒化ホウ素薄膜122は150nm程度の膜厚に形成されている。
図17(a)はホウ素(B)1s軌道のXPSスペクトル測定結果であり、
図17(b)は窒素(N)1s軌道のXPSスペクトル測定結果であり、
図17(c)は酸素(O)1s軌道のXPSスペクトル測定結果である。このように、窒化ホウ素薄膜を作製する過程で、窒素成分及びホウ素成分だけでなく、酸素成分等の微量の不純物が含まれることがある。酸素以外にも、炭素やケイ素、アルミニウム等の不純物が微量混じることがあるが、耐熱衝撃性、高温安定性、高硬度、高熱伝導性、高絶縁性等の窒化ホウ素薄膜として期待される特性を有する限りにおいて、窒化ホウ素薄膜中におけるホウ素と窒素以外の元素の存在は問題にならない。
【0057】
以上に説明したように、本発明の実施の形態に係る窒化物薄膜形成方法によれば、基板の表面に絶縁物である窒化物薄膜が電気化学的に形成される。被処理材10のホウ素部材の表面で酸化された窒化物イオンは吸着窒素(N
ads)となり、ホウ素部材中に拡散する。つまり、ホウ素部材の表面からホウ素部材の内部まで窒素が侵入し、ホウ素部材内部に窒素濃度の連続的な傾斜が発生する。具体的には、ホウ素部材の表面の窒素濃度が高く、ホウ素部材の膜厚方向に沿って窒素濃度が漸減する。このため、ホウ素部材−窒化ホウ素膜界面の結合が強固になる。
【0058】
CVD法やPVD法では化合物の堆積によって基板上に窒化物薄膜が形成される。このため、窒化物薄膜全体に応力が生じ、窒化物薄膜が基板から剥離しやすい。一方、MSEPでは窒素が被処理材表面から拡散し、傾斜組成をもった窒化物薄膜が形成される。つまり、基板との密着性のよい窒化物薄膜を形成する窒化物薄膜形成方法を提供できる。
【0059】
窒化ホウ素薄膜は耐熱衝撃性・高温安定性に優れ、高硬度、高熱伝導性、高絶縁性等の特性を有する。このため、電解時間によって窒化ホウ素薄膜11の膜厚を制御することにより、窒化ホウ素薄膜11を多様な産業分野において利用できる。例えば、超硬工具材、高温用炉材、高温電気絶縁材、溶融金属/ガラス処理用治具/坩堝、熱中性子吸収材、IC/トランジスタ放熱絶縁材、赤外/マイクロ波偏光器/透過材等に利用可能である。
【0060】
また、
図8に示した窒化ホウ素薄膜11の形成方法は溶融塩20を使用する液相でのプロセスであり、真空チャンバーが不要である。つまり、気相反応による薄膜合成では必須である高真空状態を必要としない。このため、窒化ホウ素薄膜11形成に要するコストを削減できる。更に、大きな構造物や複雑な形状の構造物にも窒化ホウ素薄膜11を形成できる。
【0061】
既に述べた実施の形態の説明においては、窒化ホウ素薄膜11を形成する場合について説明したが、窒化ホウ素膜と同等の絶縁性を有する他の窒化物薄膜の形成にも適用できる。
【0062】
次に、第3の実施形態を説明する。第3の実施形態は、積層構造体に係るものである。第3の実施形態に係る積層構造体100は、
図22に示すように、金属を主成分とする基板50と、基板50に含まれる金属と導電体又は半導体との化合物からなり基板50上に配置された化合物層61と、その導電体又は半導体の窒化物からなり化合物層61の上方に配置された窒化物絶縁体層70とを備える。
図22に示した積層構造体100は、化合物層61と窒化物絶縁体層70との間に配置され、化合物層61の成分である導電体又は半導体からなる中間層62を更に備える。窒化物絶縁体層70の窒素濃度は、化合物層61側の中間層62に接する第1の主面70aから窒化物絶縁体層70の膜厚方向に沿って漸増する。
【0063】
中間層62は金属や半導体等の導電体からなり、アルミニウム、ホウ素、シリコン(Si)の少なくともいずれかを含む。例えば中間層62がホウ素膜である場合、窒化物絶縁体層70は窒化ホウ素(BN)である。
【0064】
窒化物絶縁体層70は、
図22に示すように絶縁窒化層72と窒素濃度傾斜層71とを有する。絶縁窒化層72は絶縁体であり、窒素濃度傾斜層71は膜厚方向に沿って窒素濃度の傾斜を有する層であって、窒素濃度傾斜層71の窒素濃度は絶縁窒化層72に接する領域の窒素濃度が最も高く、膜厚方向に沿って漸減する。
【0065】
なお、便宜上、窒素の「濃度」の傾斜と表記しているが、正確には窒素の「活量」に傾斜がある。窒素活量は汎用の分析装置では確認が困難なものであるため、分析評価が可能な窒素濃度で表記した。窒素組成幅の小さい窒化物等では、窒素の活量に大きな傾斜があっても、窒素濃度傾斜はわずかになる場合もある。
【0066】
基板50には、中間層62を構成する導電体又は半導体と化合物を形成する金属或いは合金を使用する。例えば、基板50に、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、セリウム(Ce)等が採用可能である。例えば中間層62がホウ素(B)膜である場合には、基板50にホウ素と化合物をつくる元素(Al、Co、Cr、Cu、Fe、Ir、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Pt、Ru、Ta、Ti、V、W、Y、Zr等)を含む材料を選択することにより、ホウ素薄膜と基板材料との間に傾斜組成を有する化合物層61が形成され、中間層62と基板50との密着性が向上する。
【0067】
以下に、
図22に示した積層構造体100の製造方法の例を説明する。なお、以下に述べる積層構造体の製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0068】
先ず、
図23を参照して、基板50上に中間層62を形成し、窒化物絶縁体層70の前駆体として用いる方法の例を説明する。このような方法には、溶融塩電気化学プロセス(MSEP)が適用可能である。
図23はMSEPを用いた薄膜形成方法によって導電体又は半導体からなる層を形成する方法を説明する図である。
【0069】
以下では、基板50がニッケル(Ni)基板であり、中間層62がホウ素膜である場合を例示的に説明する。例えば、ニッケル板を基板50に使用する。溶融塩200は、Na
2B
4O
7−NaCl(80:20wt%)溶融塩である。陽極210には、グラッシーカーボンを使用する。
【0070】
図23に示したように、電解槽220に満たされた溶融塩200に、基板50と陽極210を浸す。溶融塩200の温度は、800℃〜900℃、例えば800℃に設定される。
【0071】
その後、陽極210と陰極である基板50間に電解電圧Vを印加する。その結果、ホウ素(B(III))を含むイオン201が溶解された溶融塩中における溶融塩電解によって、基板50上でホウ素イオンが還元析出され、中間層62としてホウ素薄膜が基板50の表面に形成される。基板50は、電解槽220から取り出された後、残留塩を除去するために洗浄される。
【0072】
中間層62を構成する元素と化合物を形成する金属等を基板50に使用することで、中間層62と基板50との間に化合物層61が形成される。上記の例では、ホウ素とニッケルの化合物であるホウ化ニッケルが、化合物層61として形成される。以上により、
図24に示すように、化合物層61と中間層62が基板50上に積層する。
【0073】
中間層62は、電気化学反応によって基板50の表面に析出した膜であるため、均一且つ緻密な膜である。また、電気化学反応に伴い基板50と中間層62との界面で化合物層61の形成が促進される。このため、基板50と中間層62との界面は強固に結合され、基板50と中間層62の密着性が向上する。ここで、特に、中間層62をホウ素薄膜又はホウ素化合物薄膜で構成する場合は、第1の実施形態で説明した
図1のMSEPを用いて、パルス電解を行うことが望ましい。
【0074】
ところで、
図25に示すように、実際には化合物層61は、ごく薄く形成されることが多く、確認できない場合が多い。
図25(b)に示されるように、実質的には、基板500上に中間層620が作製される。例えば、
図25(b)における基板500には銅(Cu)を、溶融塩200にLiCl-KCl-NaBO
2を用い、電解浴の温度700℃でパルス電解を行った場合等である。この場合、
図25(a)に示されるように、基板500上に中間層620が形成される。また、後述する方法により、中間層620上には、絶縁窒化層720と窒素濃度傾斜層710とを有する窒化物絶縁体層700が形成される。この断面TEM像を示すのが
図27であり、この拡大写真が
図28(a)である。この場合、窒化物絶縁体層700は、窒化ホウ素で構成される。
【0075】
一方、
図28(b)は、中間層620をホウ素化合物とした例を示す。第1の実施形態の
図5、6で説明した実施例を適用することで、ホウ素化合物を形成することができる。基板500にはタンタル(Ta)を、溶融塩200にNaCl-CaCl
2共晶組成塩(32.4:67.6モル%)にNaBO2を10モル%添加したものを用い、電解浴の浴温は700℃とし、パルス電解を行った。パルス電解条件は、前述の通りである。このようにすることで、基板500上に中間層620としてホウ化カルシウム(CaB
6)層を形成することができる。また、後述する方法で中間層620上には窒化物絶縁体層700が形成される。この場合、窒化物絶縁体層700は、窒化ホウ素で構成される。
【0076】
次に、
図8と
図26を参照して、基板50上に形成された中間層62を前駆体として、窒化物絶縁体層70を形成する方法の例を説明する。まず、基本的には、第2の実施形態に係る
図8の構成を用いる。
図8のMSEPを用いた薄膜形成方法によって窒化物絶縁体層70を形成した状態を示すのが
図26である。窒化物絶縁体層70は、窒化物イオン(N
3-)が溶解された溶融塩中での基板50を陽極とする溶融塩電解によって、中間層62を有する基板50上で、窒化物イオンが酸化され、中間層62の一部と反応することで形成される。なお、この窒化反応の進行により中間層62の膜厚が非常に薄くなって判別が困難な場合もある。
【0077】
溶融塩300には、アルカリ金属ハロゲン化合物、アルカリ土類金属ハロゲン化合物が好ましい。例えば塩化リチウム−塩化カリウム(LiCl-KCl共晶組成塩(51:49モル%)に、窒化リチウム(Li
3N)(1モル%)を添加したLiCl-KCL-Li
3N溶融塩等が、溶融塩300に好適である。
【0078】
陰極310では、電解浴である溶融塩成分のアルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンが電気化学的に還元される。例えば、溶融塩300がLiCl-KCL-Li
3N溶融塩である場合、Li
+が還元されて金属Liが析出する。そのため、例えば、Liと合金を形成する金属Alを陰極310に採用するのが好ましい。
【0079】
以下では、基板50がNi基板であり、中間層62がホウ素膜である場合に、ホウ素膜を前駆体として窒化物絶縁体層70を形成する例を説明する。なお、溶融塩300はLiCl-KCL-Li
3N溶融塩であり、陰極310は金属Al板であるとする。
【0080】
図26に示すように、電解槽320に満たされた溶融塩300に、前駆体として用いる中間層62が形成された基板50と陰極310を浸す。溶融塩300の温度は、300℃〜500℃、例えば450℃に設定される。
【0081】
次いで、基板50を陽極として、所定の電圧値に設定した電解電圧Vを基板50と陰極310間に印加する。その結果、
図26に示すように、MSEPにより窒化ホウ素薄膜である窒化物絶縁体層70が中間層62の表面に形成される。表面に窒化物絶縁体層70が形成された基板50は、電解槽320から取り出された後、残留塩を除去するために洗浄される。
【0082】
図26に示したMSEPを用いた窒化薄膜形成方法では、1気圧の窒素ガスが示す電位を基準として、陽極電位は、−0.3V〜3.3V程度であればよい。好ましくは+0.2V〜2.0V、例えば0.6Vに陽極電位が設定される。このときの電解電圧Vは、陰極反応がLi析出の場合は、1.0V程度となる。
【0083】
電解電圧Vを印加する時間(電解時間)は、例えば30分程度に設定される。具体的には、電解時間は、窒化物絶縁体層70の所望の膜厚に応じて、3分〜120分程度に設定される。
【0084】
以上に説明したように、
図23を参照して説明した方法等により基板50上に析出させた中間層62と、溶融塩300中の窒化物イオン(N
3-)とが電気化学的に反応することで、中間層62が前駆体として作用し、窒化物絶縁体層70が形成される。中間層62の表面で酸化された窒化物イオンは吸着窒素(N
ads)となり、中間層62中に拡散することで中間層62の内部まで窒素が連続的に侵入し、溶融塩300に接する表面から中間層62が窒化される。このため、窒化物絶縁体層70に窒素濃度の傾斜が発生する。
【0085】
具体的には、溶融塩300に接する窒化物絶縁体層70の第2の主面70bの窒素濃度が高く、窒化物絶縁体層70の膜厚方向に沿って窒素濃度が漸減する。このように中間層62と窒化物絶縁体層70との界面に連続的な組成傾斜が生じるため、熱膨張係数等の物性を徐々に変化させることができ、残留応力を緩和することが可能となる。このため、中間層62と窒化物絶縁体層70との密着性が向上する。
【0086】
上記のような本発明の実施の形態に係る積層構造体100の製造方法によれば、溶融塩中での電気化学反応を応用することで、基板50と中間層62との界面、及び中間層62と窒化物絶縁体層70との界面を、それぞれ強固に結合させた積層構造体100を製造することができる。
図22に示した積層構造体100を形成する方法であれば製造方法は限定されないが、MSEPで製造することが好ましい。
【0087】
また、上記に示した積層構造体100の製造方法では、気相反応ではなく液相中の反応(溶融塩)により積層構造体100が製造される。このため、気相反応法による成膜で必要とされる真空チャンバーが不要である。これにより、積層構造体100の製造コストの増大が抑制される。
【0088】
液相反応法では反応装置のスケールアップが容易であるため、大きなサイズの積層構造体100を製造できる。また、液体は立体的に複雑な構造にも均一に入り込むことが可能であり、電極の形状に関わらず電流を流すことが可能である。このため、溶融塩中での電気化学的反応である本発明によれば、成膜が困難である複雑な形状の積層構造体100であっても成膜を行うことができる。
【0089】
窒化物絶縁体は高硬度で耐摩耗性等に優れ、高温まで安定に存在する絶縁体である。このため、金属等の基板50上に窒化物絶縁体層70を配置した積層構造体100は、例えば、切削工具や機構部品等の表面処理分野や、集積回路内の絶縁膜やコンデンサの誘電体に用いる電子デバイス分野において利用可能である。
【0090】
以上に説明したように、第3の実施の形態に係る積層構造体100では、窒化物絶縁体層30の窒素濃度が膜厚方向に沿って連続的に変化し、中間層62と窒化物絶縁体層70との密着性が向上する。このため、
図22に示した積層構造体100によれば、基板50との密着性のよい窒化物絶縁体層70を含む積層構造体を提供できる。
【0091】
次に、第3の実施形態に係る積層構造体を具体的なデバイスに適用した第4の実施形態を、以下図面を参照して説明する。第4の実施形態では、第3の実施形態に係る積層構造を用いてコンデンサを構成した。このコンデンサの概略構成例を
図29に示す。第1の電極410と第2の電極440とが対向して配置されており、第1の電極410と第2の電極440との間に窒化物絶縁膜430が形成されている。また、
図29の左側に記載されているのは、コンデンサの回路記号を示す。ここで、
図22の積層構造体に対応して説明すると、基板50が第1の電極410又は第2の電極440のいずれか1方に相当し、窒化物絶縁体層70が窒化物絶縁膜430に相当する。
【0092】
第1の電極410の材料には、金属、合金、金属化合物、半導体等を用いることができる。例えば、Al(アルミニウム)、B(ホウ素)、Si(シリコン)、C(炭素)の元素のうち、1種以上を含む材料とすることができる。第2の電極3は、通常良く用いられるAg(銀)等で構成される。窒化物絶縁膜430は、
図29のコンデンサの誘電体を構成している。窒化物絶縁膜430は、被処理材の表面を電気化学反応により窒化処理して形成される。ここで、窒化処理される被処理材には、Al、B、Si、Cの元素のうち、1種以上の元素を含む材料が用いられる。
【0093】
一方、窒化物絶縁膜430は、第1の電極410の材料と異なる被処理材を窒化処理したもので構成しても良いが、第1の電極410の電極材料の一部を窒化処理することにより形成するようにしても良い。この場合、第1の電極の材料が、例えば、Al、B、Si、Cのいずれかであるとすると、窒化物絶縁膜430は、対応する順に、例えば、AlN、BN、Si
3N
4、C
3N
4で構成される。ただし、窒化物化合物については、上述の窒化物化合物に限定されない。
【0094】
また、窒化物絶縁膜430は、第1の電極410又は第2の電極440の方向に向かって、窒素成分が組成傾斜を有するように形成される。例えば、第2の電極440から第1の電極410の方に向かって、窒化物絶縁膜430の窒素成分が漸次増加していくように組成傾斜を形成することができる。一方、第2の電極440から第1の電極410の方に向かって、窒化物絶縁膜430の窒素成分が漸次減少していくように組成傾斜を形成することもできる。このように、窒化物絶縁膜430の窒素成分に組成傾斜を作製することは、以下に述べる電気化学反応による窒化処理方法により達成できる。電気化学反応を用いると、被処理材の電流が流れやすい箇所、すなわち絶縁性の弱い箇所で優先して窒化反応が進むために、絶縁性が向上する。また、一定時間窒化反応を行うことで、窒素成分が電極の方向に組成傾斜を有し、かつ非常に緻密な誘電体を形成することができる。
【0095】
また、本発明のコンデンサは、
図30のように構成することができる。第1の電極410と第2の電極440とが対向して配置されており、第1の電極410と第2の電極440との間に、中間層420と窒化物絶縁膜430が形成されている。ここで、
図22の積層構造体の中間層62が、コンデンサの中間層420に相当する。このとき、中間層420は、第1の電極410から誘電体に相当する窒化物絶縁膜430までの間で電荷を運ぶ役割を果たす。
【0096】
電気化学反応による窒化処理を行う電解装置は、第2の実施形態で説明した
図8〜
図11の構成を用いる。
図8において、被処理材10は、陽極として直流電源に接続され、直流電源の他方には陰極30が接続されている。電解槽には溶融塩が溶けた状態になっており、窒化物イオンが含まれた溶融塩電解浴20が充填されている。ここで、溶融塩電解浴20中に配置された被処理材10と陰極30との間に直流電流を流すと、被処理剤10表面上で酸化反応が起こり、被処理材10の表面から窒化される。
【0097】
ところで、形成される窒化物が窒化ホウ素や窒化アルミのような絶縁物の場合、電気化学反応を連続的に進行させるのは容易でない。
【0098】
そこで、例えば、陽極の構成を
図10のようにする。
図10(a)では、陽極となる被処理材31の窒化物を形成する側に、導電性材料32を接触させておく。このようにすると、被処理材31の表面で酸化反応を促進させることができ、被処理材31の一部が窒化処理されて窒化物絶縁膜を形成することができる。
図11では、被処理材41がホウ素薄膜のように薄い場合には、膜厚方向の抵抗は小さいので、導電性材料42を被処理材41の窒化物が形成される側とは反対側で接触させ、酸化反応を容易に進行させている。
【0099】
また、コンデンサの静電容量は、コンデンサの電極の面積に比例し、電極間の距離に反比例するので、誘電体として形成される窒化物絶縁膜430は薄く、かつ第1の電極410及び第2の電極440の表面積は広いことが望ましい。そこで、コンデンサの静電容量を大きくできるように、表面積を拡大させる拡面処理を行うことが考えられる。
【0100】
拡面処理の例を
図33に模式的に例示列挙するが、これらの方法以外の拡面処理であっても良い。
図33(a)は、トレンチ構造を示し、例えば、板状の金属等に多数の孔を形成したものである。多数の孔を形成したことにより、単なる板状の場合よりも表面積は拡大する。
図33(b)は、焼結体構造を示しており、小さな粒子が焼結して一体化している構造である。小さな球状の粒子の集まりとすることで、直方体形状の場合よりも表面積は拡大する。
図33(c)は、多孔質金属を示す。多数の孔が形成されて表面積は拡大している。ここで、実用的なコンデンサとして好ましい表面積は、0.02m
2〜2.0m
2である。
【0101】
次に、
図29のコンデンサの作製例について説明する。
(
参考例)
本
参考例では、電解槽内の電極構造については、
図10(a)の型を用いた。陽極として配置される被処理材10としてホウ素(B)を選択した。被処理材10は、第1の電極410を含むもので、この電極材料の一部が窒化処理される。ホウ素は純度99.95%で、形状は20×10×2.5mmの板状とした。また、準備した板状ホウ素は、
図33(b)に示されるように、微粒子の焼結体から構成されており、単純な板よりも大きな表面積を有している。窒化処理を行う溶融塩には、LiCl−KCl共晶組成塩(51:49 モル%)を用いた。溶融塩は450℃に保ち、窒素イオン(N
3-)源として、溶融塩にLi
3Nを1モル%添加した溶融塩電解浴を使用した。
【0102】
電解窒化は以下のプロセスで実施した。まず、導電性材料32としてNiワイヤーを被処理材(ホウ素板)に取り付け、溶融塩中に浸した。次に、溶融塩電解浴中の窒化物イオン(N
3-)が被処理材上で酸化反応を起こすように、例えば1気圧の窒素ガスが示す電位を基準にして+0.6Vの電位にポテンョシスタットで電位を設定した。電解は30分間行った。電解窒化処理後、残留塩を除去するために窒化膜が形成されたホウ素板を洗浄した。
【0103】
続いて、対向電極(第2の電極440)の形成を実施した。まず、窒化膜が形成された被処理材からNiワイヤーを取り外し、Niワイヤーが接続されていた部分を研磨することで、陽極として用いたホウ素板の一部を露出させた。これは陽極に用いたホウ素板をコンデンサの第1の電極410として使用するための措置である。
【0104】
前記方法はその為の一例であり、本発明を何ら限定するものではない。前記以外の方法では、例えば当該溶融塩中、当該反応温度でも安定に存在し、窒化反応に影響しない物質を、陽極の一部に形成することでマスキングし、窒化処理後にマスキング材を除去する方法や、陽極材料と同じ材料からなるワイヤー等を陽極に接続して引き出し部を形成しておき、電解窒化後に引き出し部の窒化膜を除去して陽極材を露出させるような方法を採用しても良い。
【0105】
コンデンサの第2の電極を形成させるために、上記電解窒化後の被処理材にAgペーストを塗布し硬化させた。本実施例では、一般的なAgペーストをディスペンサーを用いて塗布した。なお、第2の電極の形成に関して、本発明では従来技術を使用している。よって、前記した以外にも多結晶SiやWなどをCVD法で形成する方法や、無電解めっきなどが考えられる。この際、大きな表面積を有する第1の電極に見合うような形で電極を形成させることが望ましい。このようにして形成された構造体はコンデンサ構造(電極−誘電体−電極)を形成している。
【0106】
上記のように作製したコンデンサの高温時の特性を調査したところ、環境温度を250℃まで上昇させても特性が劣化することはなく安定動作した。また、形成された窒化物絶縁膜は、主にB−N結合からなるアモルファス状であった。
【0107】
(
実施例1)
拡面処理された基材として
図33(c)に示す多孔質金属を用いる例を示す。ホウ素薄膜が被覆された多孔質Ni基材(
図34(a))を被処理材に用いた。また、電解槽中の電極構造としては、
図33(b)の電極構成を用いた。ホウ素薄膜の被覆は、本発明の第1の実施形態にて開示された技術により達成されている。
【0108】
電解窒化は以下のプロセスで実施した。溶融塩には、LiCl−KCl共晶組成塩(51:49 モル%)を用いた。溶融塩は450℃に保ち、Li
3Nを1モル%添加した溶融塩電解浴を使用した。被処理材を溶融塩中に浸した。次に、溶融塩電解浴中の窒化物イオン(N
3-)が被処理材上で酸化反応を起こすように、例えば1気圧の窒素ガスが示す電位を基準にして+0.6Vの電位にポテンショスタットで電位を設定した。電解は、窒化ホウ素膜が1μm程度の膜厚になるまで行った(
図34(b))。電解窒化処理後、残留塩を除去するために、窒化ホウ素膜が形成された多孔質Ni基材を洗浄した。
【0109】
続いて、対向電極(第2の電極440)の形成を実施した。コンデンサの第2の電極を形成させるために、
図34(c)に示すように、ポーラスNi基材を所定の深さまでCペーストに含浸させた後、150℃の温度で60分間保ち、硬化させた。その後、Cが形成されていない部分の窒化ホウ素膜の一部を除去し、
図34(d)第1の電極(ニッケル部分)を露出させた。ここでも、第2の電極形成に関して、本発明では従来技術を使用している。したがって、
参考例の説明同様、他の方法によっても作製することができる。
【0110】
図30のコンデンサは、上記実施例と同様の方法で作製することができるが、中間層420が形成されているために、少し異なる部分がある。第1の電極410として金属基板(Ta)を準備する。例えば、大きさは、20mm×10mmで厚さ0.5mmのものを用いた。中間層420をホウ素薄膜(B)とするために、MSEPで形成した。条件は、溶融塩にLiCl-NaBO
2を用い、浴温700℃で、パルス電解を行った。中間層420を作製した後、窒化物絶縁膜430として窒化ホウ素薄膜をMSEPにより形成した。条件は、溶融塩にLiCl-KCl-CsCl-Li
3Nを用い、浴温350℃で電解電位を2.0V(vs. Ag+/Ag)にし、4.0時間電析を行った。窒化ホウ素薄膜形成後、第2の電極440に相当する上部電極(ニッケルNi )をスパッタリングで形成した。
【0111】
上記のように上部電極まで形成したコンデンサの上部からの表面SEM像を示すのが、
図31(a)であり、断面SEM像を示すのが
図31(b)である。また、断面TEM像を
図32に示す。
図31(a)からわかるように、凹凸が多く形成され、表面積が増加している。これらの撮影像からわかるように、複雑な構造体を自ら作製し表面積を大きくすることで、コンデンサの静電容量を拡大することも可能である。本例では従来法と比較して、単位面積あたり10倍の静電容量を実現した(φ1mm当たり 3.2nF)。室温〜300℃の温度域までの静電容量の変化率は±10%以内となった。
【0112】
以上のように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。