(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
データセットが、イオン種の複数の異なる濃度及び異なるpH値の、さらに適宜異なる温度における、イオン種を含む溶液の導電率を測定し、Kを得るために得られたデータを請求項1の段階(ii)における式に当てはめることによって得られるコールラウシュ係数Kの値を含む、請求項1記載の方法。
各イオン種の濃度がデバイ−ヒュッケルの式を含むアルゴリズムにより計算され、各種のイオン強度がイオン種の平均水和半径の計算に重み付きパラメーターとして用いられる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【発明の概要】
【0007】
上述の目的並びに他の目的及び優位性は、予測される導電率を有する、液体混合物、特に緩衝液を調製するための本発明による方法により達成される。
【0008】
本発明によれば、導電率の予測は、弱電解質の荷電種のそれぞれの平衡濃度を含む溶液中に存在する各種イオンの正確な濃度を解き、荷電種のそれぞれのモル導電率を求め、対応する導電率を計算し、すべての個別の導電率を合計して液体混合物の総導電率を得ることを含む。
【0009】
本発明の基本的特徴によれば、弱電解質の亜種のモル導電率の計算は、モル導電率を計算する場合に用いられるコールラウシュ係数の既定値を適用することを含む。一般的に、既定のコールラウシュ係数値は、モル導電率を求めるために用いる式に測定導電率を当てはめることによって得られる。
【0010】
したがって、一態様において、本発明は、既定の配合表による成分を混合することにより液体溶液を調製する方法を提供し、液体溶液は複数の種を含み、1対以上の種は弱電解質由来であり、酸塩基対に対応し、液体溶液の導電率は、以下の(i)〜(iv)によって予測される。
(i)弱電解質由来の種の各対について、各平衡方程式を解いて、液体溶液中の平衡状態にある弱電解質由来のすべてのイオン種を含む、そのようなそれぞれの種の実際のモル濃度を前記既定の配合表から計算する。
(ii)前記複数の種の各イオン種について、以下の式によりモル導電率を計算する。
【0011】
Λ=Λ
0−K×Sqrt(c)
式中、Λは、モル導電率であり、Λ
0は、無限希釈におけるモル導電率であり、cは、イオン種の濃度であり、Kは、コールラウシュ係数であり、Sqrtは、平方根であり、K及びΛ
0は、各イオン種のK及びΛ
0の既定値を含むデータセットから得られる。
(iii)以下の式により各イオン種の導電率κを計算する。
【0012】
κ=c×Λ
式中、c及びΛは、上で定義した通りである。
(iv)各種イオン種について段階(iii)で求めた導電率を合計して、液体溶液の予測される導電率を得る。
【0013】
好ましい実施形態では、データセットは、イオン種の複数の異なる濃度及び異なるpH値の、さらに適宜異なる温度における、イオン種を含む溶液の導電率を測定し、Kを得るために得られたデータを上記の段階(ii)における式に当てはめることによって得られるコールラウシュ係数Kの値を含む。
【0014】
データセットにおけるΛ
0の値は、文献値及び/又は当てはめにより得られる値などの以前に公知の値を含み得る。
【0015】
コールラウシュ係数は、一般的にK=A+B×Λ
0と表され、式中、A及びBは、温度依存性定数であり、Λ
0は、上で定義した通りである。上述の当てはめによりKを直接的に得るよりはむしろ、A及びBの値を当てはめによって得ることができ、次に、Kはそれから計算される。
【0016】
或いは、コールラウシュ係数は、K=A+B+w×Λ
0と表すことができ、式中、A及びBは、温度依存性定数であり、wは、オンサガー因子であり、Λ
0は、上で定義した通りである。次に、A、B及びwの値は、当てはめにより得ることができ、Kは、それらから計算される。
【0017】
各イオン種の濃度は、好ましくはデバイ−ヒュッケルの式を含むアルゴリズムにより計算し、この場合、以下でより詳細に述べるように、各種のイオン強度は、イオン種の平均水和半径の計算に重み付きパラメーターとして用いる。
【0018】
上述の方法は、緩衝液調合システム又はインライン希釈システムの制御に有利に用いることができる。該方法は、導電率が実験計画(DoE)パラメーターとして用いられるスクリーニング実験にも用いることができる。
【0019】
他の好ましい実施形態は、従属請求項に示す。
【0020】
他の態様において、本発明は、上述の方法の態様の段階を実施するための命令を含むコンピュータプログラムを提供する。
【0021】
本発明の方法における導電率予測段階はさらに、その導電率を測定することによって溶液のpHを間接的に求めるために「後ろ向き」で用いることができる。
【0022】
したがって、さらに他の態様において、本発明は、導電率センサー及び上述の方法の態様の導電率予測段階を後ろ向き計算方式で用いて測定導電率からpHを計算するための手段を含む、pHを測定するための装置を提供する。
【0023】
本発明のさらに他の態様は、上述の方法の態様の段階(i)〜(iv)を含む液体溶液の導電率を予測する方法を提供する。
【0024】
以下において、本発明は、添付図面を参照してほんの一例としてより詳細に述べることとする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
特段の定義がない限り、本明細書で用いるすべての技術及び科学用語は、本発明に関連する技術分野の技術者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。また、単数形で記載したものであっても、別途記載しない限り、複数のものも包含する。
【0027】
開示する発明の理解を促進するために、いくつかの用語を以下で定義する。
【0028】
定義
緩衝液
本明細書で用いる場合、緩衝液は、一般的に弱酸とその共役塩基又は弱塩基とその共役酸の混合物からなる水溶液である。緩衝液は、少量の強酸又は塩基がそれに加えられた場合に溶液のpHが非常にわずかに変化するという特性を有する。緩衝液は、多種多様な化学応用分野においてpHをほぼ一定の値に保つ手段として用いられている。
【0029】
滴定試料及び滴定剤
緩衝系に関連して本明細書で用いる場合、滴定試料は、滴定剤が加えられる溶液(又は他の物質)である。それぞれ、滴定試料は、例えば、弱酸又は塩基であり、滴定剤は、強塩基又は酸であり得る。
【0030】
電解質
「強」電解質は、溶液中で完全に又はほぼ完全にイオン化又は解離する溶質である。これらのイオンは、溶液中で電流の良導体である。強電解質の例としては、例えば、塩化ナトリウムなどの塩、塩酸、硫酸、硝酸などの強酸並びに水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強塩基などがある。
【0031】
弱電解質は、他方で、わずかな程度に、一般的に10%よりはるかに低い程度にのみイオンに解離し、弱電解質の大部分は、溶液中でその最初の非イオン化の形のままである。一般的に、ほとんどの有機酸及びそれらの塩並びに有機塩基の塩は、弱電解質である。弱電解質の例としては、例えば、酢酸及びクエン酸並びにそれらの塩などがある。解離する弱電解質の量は、溶液中に存在する対イオンの数に依存する。
【0032】
導電率(電解質の)
電解質溶液の導電率(又は比導電率)は、電気を伝導するその能力の尺度である。導電率のSI単位は、1メートル当たりの「シーメンス」(S/m)である。
【0033】
イオン強度
溶液のイオン強度は、溶液中のすべてのイオンの濃度の関数である(濃度にすべてのイオンのイオン電荷の二乗を掛けたものの合計の半分)。イオン強度は、一般的にモル/dm3の単位で示される。
【0034】
本発明の方法の説明
上述のように、本発明は、所望の配合表又は処方に従って調製される緩衝液の導電率の予測に関する。
【0035】
所望のpHを有する緩衝液を調製するために、必要な場合、滴定試料、滴定剤及び塩溶液の添加モル量を計算することができる。これらのモル値から、対応する保存溶液の必要な体積を次に計算することができる。一般的に、そのような計算は、市販されている適切なコンピュータソフトウエアにより行われる。そのようなソフトウエアを用いることにより、下でより詳細に述べるように、1M以上の濃度までの緩衝液の調製が可能である。
【0036】
しかし、調製する緩衝液の予測される導電率を予測することは、ささいなことではない。NaClのような単純な電解質については理論的説明がなされた(例えば、Chandra, A., Biswas, R., and Bagchi, B., J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 4082−4083参照)が、これは、他方で、一般的に、完全に解離する強酸又は塩基及び塩のような強電解質と、部分的にイオン化する緩衝物質(弱酸及び塩基)のような弱電解質との複雑な組合せである緩衝液には一般的に適用できない。背景の項で上述したように、Atkins, P., and de Paula, J., 2002は、活量係数が無視される理想的な場合の弱電解質のモル導電率の計算を述べているが、その仮定は、ほとんどの場合に平衡方程式の解の大誤差をもたらす。しかし、現在のところ、イオンの活量を考慮に入れる実際の溶液の一般的な場合に対応するモデル及びそのようなモデルをパラメーター化するためのデータは存在しない。
【0037】
本発明をより詳細に述べる前に、電解質導電率の背後の理論を簡単に述べる。
【0038】
その定義から、モル導電率は、以下の式により示される。
【0039】
Λ=κ/c (式1)
ここで、κは、測定導電率であり、cは、電解質の濃度である。
【0040】
塩、強酸及び強塩基などの強電解質については、モル導電率は濃度にほんの少し依存し、良近似で以下のコールラウシュ式に適合する。
【0041】
Λ=Λ
0−K×Sqrt(c) (式2)
ここで、Λ
0は、無限希釈におけるモル導電率又は「極限モル導電率」であり、Kは、溶液中の個別の塩の性質に依存する「コールラウシュ係数」である。
【0042】
定数Kは、A+B×Λ
0(Debye, P., Huckel, H., Phys. Z. 1924, 25, 49)又はA+B×w×Λ
0(Onsager, L., Phys. Z, 1926, 27, 388−392及び1927, 28, 277−298)と表すことができ、A及びBは、温度(T)、誘電率(ε)及びイオンの電荷に依存する定数であり(Aは液体の粘度にも依存する)、wは、イオンの自己ブラウン運動による寄与を含むオンサガーにより導入された因子である(Onsager, L., 1926, 1927上記)。
【0043】
上の式2によれば、モル導電率は、濃度の平方根の関数として直線的に低下する。これは、低濃度域で有効な近似である。例えば、上で引用した参考文献Chandra, A., 1999の
図1においてわかるように、濃度が増加するにつれて、モル導電率Λの低下率は低下し、そのため、横ばい状態になる。さらに、この参考文献は、溶媒を誘電性連続体として扱い、微視的摩擦に対する濃度依存的なイオンの寄与を算定することにより、定数A及びBを説明する微視的理論も提示している。極限モル導電率Λ
0は、以下のように異なるイオンの寄与に分解することができる(イオン独立移動の法則として一般的に公知である)。
【0044】
Λ
0=Σ
iν
iλ
i (式3)
ここで、λ
iは、イオンiのモルイオン導電率であり、ν
iは、電解質の式単位におけるイオンiの数(例えば、Na
2SO
4におけるそれぞれNa
+及びSO
42-の2及び1)である。
【0045】
溶液中の限られた数の異なるイオンの極限モル導電率の表は、例えば、Harrison, R. D., Revised Nuffield Advanced Science Book of data. Longman, Harlow, 1984に見いだすことができる。
【0046】
本発明によれば、一方で、たとえ緩衝物質自体は強電解質でないとしても、その荷電亜種のすべて及びそれぞれのものを平衡状態にある1つの強電解質とみなすことができるという仮定に基づき、他方で、上記のコールラウシュ式から弱電解質亜種のモル導電率を計算するために平衡濃度を用いることに基づく、導電率を予測するための提案されるアプローチが今や存在し、この場合、コールラウシュ係数Kは、一般的に既知のpH値及び濃度における測定導電率をそれに適合させることにより、あらかじめ求めた。
【0047】
このアプローチを用いて、手短には、緩衝物質の荷電種のそれぞれの濃度を含む溶液中に存在する各種イオンの正確な濃度を最初に求めることにより、定数K及びΛ
0、或いは定数A、B及びΛ
0(並びに適宜w)が決定されたならば、次に導電率を上記の式(2)及び(3)を用いて計算することができる。この決定は、異なる濃度、温度及びpH値における緩衝液の多数の試料の導電率を測定し、次に得られたデータを式(2)に当てはめることによって実験的に行うことができる。
【0048】
溶液中に存在する各種イオンの濃度を求めるための第1の段階に関して、これを行うための方法は、文献に文書化されており、当業者に周知であり、したがって、下でほんの簡単に扱うこととする。基本的には、これは、緩衝種に関する平衡方程式を解くことを含む。
【0049】
平衡方程式の解法
対応する酸性種(それぞれ共役酸BH
+又は酸HAであり得る)と平衡状態にある特定の塩基性種(塩基B又は共役塩基A−であり得る)について、以下の式が適用される。
【0050】
pH=pK
a+log{(塩基性種)/(酸性種)} (式4)
これは、しばしばヘンダーソン−ハッセルバルヒ(Henderson−Hasselbach)の式と呼ばれている。この式において、丸括弧は、各種の濃度ではなく活量を意味する。その理由は、関係するイオンが環境から遮へいされた状態になる傾向があるためである。各イオンの活量は、以下のように活量係数φにより対応する濃度と関連づけられる。
【0051】
(種)=φ[種] (式5)
無限希釈の理想状態では、φは1になり、すべてのイオンの活量は、対応する濃度に等しい。しかし、実際には、イオン強度は、ゼロと異なり、各種の種の活量係数は、1未満である。
【0052】
式5を上の式4に挿入して、活量の代わりに濃度により以下のようにpHを示す。
【0053】
pH=pK
a’+log{[塩基性種]/[酸性種]} (式6)
ここで、
pK
a’=pK
a+logφ
b−logφ
a (式7)
式中、φ
a及びφ
bは、それぞれ酸性及び塩基性種の活量係数であり、pK
a’は、各種緩衝種の測定可能な濃度を用いることを可能にする見かけのpK
a値である。
【0054】
これらの逸脱のモデルは、以下の式として公知のいわゆるデバイ−ヒュッケル理論において示されている。
【0055】
logφ=(AZ
2I
0.5)/(1+0.33×10
8aI
0.5) (式8)
式中、Aは、定数又は温度依存性パラメーターであり、約0.51である。周知のデータを用いて、Aの値は、A=0.4918+0.0007×T+0.000004×T
2として正確に計算することができる。ここで、Tは、セ氏温度であり、Zは、イオンの電荷であり、量aは、水和イオンの半径(Å単位)であり、デバイ及びヒュッケルの原著論文に「イオン(正又は負)の平均接近距離」と記述されている。
【0056】
pK
a’の値は、式8を式7に挿入して以下の式を得ることにより計算することができる。
【0057】
pK
a’=pK
a+(AZ
a2I
0.5)/(1+0.33×10
8a
aI
0.5)−(AZ
b2I
0.5)/(1+0.33×10
8a
bI
0.5) (式9)
ここで、下付き文字a及びbは、それぞれ酸及び塩基に対応するパラメーターを示し、Z
a=酸性種の電荷、Z
b=塩基性種の電荷、a
a=酸性種のイオンサイズパラメーター及びa
b=塩基性種のイオンサイズパラメーターである。
【0058】
パラメーターaに関して、Guggenheim E. A. & Schindler, T. D.,(1934) J. Phys. Chem. 33. 533は、パラメーターaの近似をすべての緩衝分子について3Åとして、以下の簡略化された式を得ることを提案している。
【0059】
pK
a’=pK
a+(AZ
a2I
0.5)/(1+I
0.5)−(AZ
b2I
0.5)/(1+I
0.5) (式10)
上の式10は、文献に通常見いだされるイオン強度補正のための式である。
【0060】
(i)質量保存、(ii)電荷保存及び(iii)水の解離平衡の式と組み合わせて式7(又は4)を用いて、平衡状態にあるモノプロトン性緩衝液のそれぞれ酸性及び塩基性種の濃度を計算することができる。
【0061】
しかし、多くの緩衝剤がポリプロトン性である。すなわち、それらの緩衝分子は、2以上のpK
a値に対応する2以上のプロトンを受け入れ、与えることができる。そのような緩衝系における種の数は、pK
a値の数より常に1つ多い。プロトン化種のそれぞれにおけるモル量の計算は、1つ多い及び/又は1つ少ないプロトンを有する「隣接」種並びに水素原子の濃度(pH)を用いた種のそれぞれの平衡方程式を解くことと同等である。
【0062】
例えば、三プロトン性緩衝液を仮定する。4つのプロトン化状態又は種を定義し(s1、s2、s3及びs4)、3つのpK
a値を用いる。次に3つの方程式(3つのpK
a値に対応する)を上の式6から直接得ることができる。
【0063】
xx[i]=10
(pH-pKa'[i]) (式11)
ここで、各iは、各pK
a(i)値(i=1、2、3)に対応し、xx[i]は、対応する塩基と対応する酸の濃度の間の比、すなわち、xx[1]=[s
2/s
1]、xx[2]=[s
3/s
2]、xx[3]=[s
4/s
3]である。
【0064】
これらの3つの方程式に加えて、質量の保存のために以下の式が、
[s
1]+[s
2]+[s
3]+[s
4]=緩衝液濃度 (式12)
また電荷の保存のために以下の式が生ずる。
【0065】
[H
+]−[OH
-]+Σ比電荷(s
i)−滴定剤電荷×[滴定剤]−比電荷(start_species)×[start_species]=0 (式13)
「start_species」とは、混合前の緩衝物質の種、すなわち、カン(can)又は保存溶液中のプロトン化状態の緩衝剤を意味する。巨視的物体であるカン又は保存溶液は電気的に中性でなければならないので、このプロトン化状態は、緩衝分子当たりの対イオンの量によって決定される。[OH
-]の前のマイナス符号は、OHイオンの電荷のマイナス符号によるものであり、最後の2つの項の前のマイナス符号は、それぞれ滴定剤及びstart_speciesの対イオンの電荷によるものである。
【0067】
[OH
-][H
+]=10
14 (式14)
上の式(11)〜(14)は、3つのpK
a値の場合について6つの未知の要素(4つの[s
i]、[OH
-]及び[H
+])を含む6つの方程式が存在し、したがって各酸性及び塩基性種の平衡濃度を計算することができることを意味する。
【0068】
例えば、モノプロトン性緩衝液については、計算は簡単であり、s
1は、酸性種に、s
2は、塩基性種に対応し、s
3及びs
4の濃度は、0とされる。
【0069】
上記のデバイ−ヒュッケルの式8におけるイオンサイズパラメーターaのより正確な決定は、国際公開第2009/131524号A1(その開示が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、aは、重み付きパラメーターとしてのイオン強度を用いて、液体混合物のイオン強度に寄与するすべての種の重み付き平均イオンサイズとして決定する。次にイオンサイズパラメーターaは、以下のように計算することができる。
【0070】
【数1】
ここで、I
iは、イオン強度であり、a
iは、種iのイオンサイズパラメーターであり、Iは、以下の式により定義される総イオン強度である。
【0071】
I=1/2Σ(C
iZ
i) (式16)
ここで、C
iは、濃度であり、Z
iは、溶液中に存在するイオンの電荷(電荷の単位)であり、これにより以下のとおりとなる。
【0072】
【数2】
イオンサイズパラメーターaも以下のように近似することがきる。
【0073】
a=0.5×(質量)
1/3+シェル (式18)
ここで、「シェル」は、正に荷電したイオン種について特定の値(一般的に3.9〜4.1の範囲内)に、また負に荷電した種について他の固定値(一般的に0〜0.1の範囲内又は0)に固定される。
【0074】
これにより、2Mまで又はそれ以上又は5Mの塩濃度を有する緩衝液の成分の相対的割合を決定することが可能となる。
【0075】
上述の国際公開第2009/131524号A1において、所定のpH及びイオン強度(又は代わりなるべきものとして、イオン強度の代わりに塩濃度)の溶液を達成するための配合表(すなわち、滴定試料、滴定剤、水及び塩の量)の計算のためのコンピュータプログラム又はソフトウエアも開示されている。具体的には、Visual C++で書かれ、フォスフェ−ト、クエン酸、酢酸及びトリスを含む緩衝系の1M程度と高いイオン強度における緩衝液のpHの正確な計算のためにWindowsで実行することができるコンピュータプログラム「Buffalo Plus」が開示されている。
【0076】
そのようなソフトウエアは、本発明の目的のために酸性及び塩基性種の平衡濃度を計算するために好都合に用いることができる。
【0077】
導電率の予測
1.コールラウシュ係数Kの決定
所望の組成、pH及び適宜イオン強度の緩衝液に存在すべき弱電解質のイオン種の各対について、弱電解質を含む溶液の導電率を、複数の異なる濃度及び異なるpH値において、また適宜異なる温度で測定する。次に、得られた導電率を上述の平衡方程式を解くことにより得られた平衡濃度とともに用いて、回帰分析型の計算手順により、上述の式(2)及び(3)、すなわち、以下の式により示される回帰モデルへの最良適合を与えるKの値を発見する。
【0078】
Λ=Λ
0−K×Sqrt(c) (式2)
Λ
0=Σ
iν
iλ
i (式3)
極限モル導電率の値は、弱電解質のイオンを含む多くの一般的なイオンについて文献で得られる。しかし、そのようなλ0値が公知でない場合、それらは、式(2)及び(3)への当てはめにより決定することができる。
【0079】
好ましくは、測定は、多数の異なる弱電解質イオン種について異なる濃度及びpHで行って、係数Kの値並びに適宜Λ
0/λ0値のカタログ又はデータベースを生成する。
【0080】
2.導電率の計算
上述のように得られたK及びΛ
0の値は、上記の式(2)を用いて所望の緩衝液中に存在する各イオン(強電解質イオン並びに弱電解質イオン)のモル導電率を計算するために用いる。次に、各イオンの対応する導電率を前述の式(1)から求める。
【0081】
Λ=κ/c (式1)
最後に、すべてのイオンの導電率を合計して、所望の緩衝液の予測される導電率を得る。
【0082】
本発明の方法は、コンピュータなどの電子データ処理装置で実行されるソフトウエアにより実施することができる。そのようなソフトウエアは、記録媒体、読み出し専用メモリを含む任意の適切なコンピュータ可読媒体で、又は電気若しくは光学ケーブルにより又はラジオ若しくは他の手段により搬送できる電気若しくは光学信号でコンピュータに備えることができる。
【0083】
上述のような導電率の予測は、いくつかの目的のために用いることができる。具体例としての応用例は、
・緩衝剤、
・酸又は塩基、
・溶媒、及び適宜
・塩
のそれぞれの1つ以上の相対成分割合のものを混合することにより、既定の導電率、pH(及び場合によって他のパラメーター)の緩衝液を調製し、本発明による予測される導電率を用い、国際公開第2009/131524号に開示されている方法による予測されるpH及びイオン強度を用いて相対成分割合を決定する、緩衝液調合システム又はインライン希釈システムを制御するための使用などである。
【0084】
一実施形態によれば、反復法を用いて相対成分割合を決定する。この場合、導電率及び他の制御パラメーターを用いて、相対成分割合を反復して決定する。
【0085】
導電率のそのような予測は、導電率を実験計画(DoE)パラメーターとして用いる、スクリーニング実験にも用いることができる。さらに他の応用例は、弱電解質の保存溶液の正確な濃度の測定用である。さらに他の応用例は、導電率を測定し、それからpHを計算することによるpHの間接的測定用である。
【0086】
本発明は、以下の非限定的な実施例により、ほんの一例としてより詳細に述べることとする。
【実施例】
【0087】
この実施例では、異なるpHのホルメート緩衝液(ギ酸−Naホルメート)の複数の組成物の導電率を予測し、測定導電率と比較した。
【0088】
「Buffalo Plus」ソフトウエア(GE Healthcare)により計算された配合表による異なるpH及び塩濃度の緩衝液は、以下の表1に従って成分の各量を秤量し、TECANロボットで混合することにより調製した。pH及び導電率を測定した。導電率は、WTWLF340導電率メーターを用いて測定し、結果を表1に示す。温度は22℃であった。
【0089】
【表1】
Buffaloソフトウエアを用いて、pK
a’値及びHCOOHとNa
+HCOO
-の平衡濃度、並びにNa
+、H
+、OH
-及びCl
-の濃度を次に計算し、結果を下の表2に示す。
【0090】
【表2】
緩衝液の総導電率Ctotは、以下の式によりすべてのイオン種の導電率を合計することによって得られる。
【0091】
C
tot=C
s1+C
s2+C
Na++C
H++C
OH-+C
Cl-
ここで、下付き文字S1及びS2は、それぞれHCOOH及びNa
+COO
-を表す。
【0092】
導電率の値は、上記の式(1)〜(3)により順に得られる。
【0093】
Λ=κ/c (式1)
Λ=Λ
0−K×Sqrt(c) (式2)
Λ
0=Σ
iν
iλ
i (式3)
それぞれの種のΛ
0値(mSm
2mol
-1単位)は、Atkins’ Physical Chemistry, 7th Ed.(前出)から得られ、下の表3に示す。
【0094】
【表3】
表2における濃度値及び表3におけるΛ
0値を用いた式(1)〜(3)を用いて、「マニュアル」当てはめ法を用いて表1における測定導電率の値との最良適合を与える式(2)におけるコールラウシュ係数Kのそれぞれの値を得た。より具体的には、当てはめは、測定導電率を予測導電率に対してプロットするグラフにおいて原点を通る直線について最良適合が得られるまでパラメーターを1つ1つ徐々に変化させることにより、MS Office Excelで手作業により行った。
【0095】
HCOO
-、Na
+及びCl
-について得られたK値をΛ
0値とともに下の表4に示す。HCOOH、H
+及びOH
-のK値は、低濃度のためゼロと仮定した。
【0096】
【表4】
表2に示すそれぞれの種の異なる種濃度における対応する導電率の値、及び緩衝液の予測総導電率、並びに表1の測定導電率の値を下の表5に示す。
【0097】
【表5】
測定導電率を予測導電率に対してプロットする上述の対応するグラフを
図1に示す。
【0098】
表5及び
図1から明らかなように、良適合が得られ、これは、上で概説した手順が、緩衝組成物の既定の配合表に従って得られる導電率を予測するのに用いることができることを示している。
【0099】
上述の当てはめ法は、手作業で実施したが、そのために設計されたアルゴリズムにより好都合に実施することができる。上述の教示に基づいて、そのような適切なアルゴリズムの設計は、当業者が容易に行うことができる。
【0100】
本発明は、上述の好ましい実施形態に限定されない。様々な代替物、変更態様及び均等物を用いることができる。したがって、上述の実施形態は、添付の特許請求の範囲により規定される、本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。