【実施例】
【0044】
細胞株
IgGを産生するDHFR−CHO細胞株を全ての実験で使用した。振盪フラスコによる拡大培養中、メトトレキセート選択圧を実施した。
【0045】
細胞培養培地及び添加物
細胞は、4〜5mMのグルタミンを補充したIS CHO−CD XP培地(Irvine Scientific)で増殖させた。この培地は、TFFシステムを用いた第1の培養の前半部分では45mMのグルコースを含有していた。この培養の後半部分及びTFFシステムを用いた第2の培養、並びにATFシステムを用いた培養では、グルコースの初期濃度は前より低く、20〜25mMに近かった。さらに、後者の培養では、3%のIS CHO Feed−CD XPサプリメント(Irvine Scientific,ref.91122)を培地に加えた。3%のフィードサプリメント(Sigma−Aldrich,ref.C1615)を補充したHyclone培地PF−CHO Liquid Soy(Hyclone,ref.SH30359.02)も使用した。主要な炭素及びエネルギー源、すなわちグルコース及びグルタミンの初期濃度はそれぞれ約20〜25mM及び4mMであった。培養培地はさらに2種の抗生物質(ストレプトマイシン及びペニシリンG)及び1種の抗真菌剤(アムホテリシン)を含有する抗生物質溶液(Sigma−Aldrich)を補充した。IS培地は粉末として提供され、培地の再構成が必要であった。pH及びオスモル濃度はそれぞれ7(±0.1)及び300〜330mMに調節した。その後、培地を0.2μm膜(ULTA−XX,GE Healthcare)でろ過した。管状バッフル/浸漬管内の泡の出現に応じてブースト添加によりMedical Anti−foam C(Dow Corning,cat.1811070−0705)をリアクター内50ppmの濃度まで加えた。グルコース(Sigma−Aldrich,cat.G6152)又はグルタミン(Irvine Scientific,cat.96700)のバッチ式補充は細胞の必要性に応じて実施した。
【0046】
細胞培養
バイオリアクターに播種する前に、IS培地を用いて振盪フラスコ内で(少なくとも4継代)細胞を増殖させた。本文中に述べる場合を除いて全ての実験で、CHO細胞を0.5MVC/mL(百万生存細胞/mL)の播種密度で接種した。プロトタイプの10L WAVE Bioreactor Cellbags(
図5に示したような33×56cmのトップシート22及び底部シート23を含み、7.5cmのS字形シリコーン熱成形ゴム配管がP9及びP10ポートをボトムシート23上のそれぞれの細胞懸濁液ディフューザー20と接続しており、各々が2つの5×20mmの開口を有する)を備えたWAVE Bioreactor(商標)System 20/50を全ての培養に使用した。表1に、
図5のバッグのいろいろな出入ポートの用途を記載する。
表1:
図5のバッグの出入ポート
P4 溶存酸素(DO)プローブ
P5 pHプローブ
P6 フィルター付きガス入口
P7 フィルター上ヒーター付きガス出口
P3 注射器及び試料採取ポートの添加用隔膜
P1 培地及び添加物(Glc、Gln、消泡剤)用の添加パイプ
P10 細胞懸濁液OUT(ATF及びTFFへの)並びにIN(TFF)のための管状バッフル/浸漬管
P8 アルカリ添加用管
P2 接種管
P9 細胞懸濁液IN(TFFから)のための管状バッフル/浸漬管。
【0047】
pHは、0.5MのNa2CO3の添加(液体表面上への滴下)により上方調節し、ヘッドスペース内への(0〜5%空気混合物のヘッドスペース内への)CO2パルスにより下方調節した。溶存酸素(DO)は、O2(0〜100%)のパルスにより、及び/又は揺動スピードの増大により上方調節し、揺動スピード低下により下方調節した。バイオリアクターの重量は、灌流の間、セットポイント重量(4kg)と、このセットポイントからの最小及び最大偏差(±0.3kg)を設定することによって調節した。培養のセットポイントを表2に示す。
【0048】
【表1】
ATFセットアップ
WAVEバイオリアクターを、バッグ上の管状バッフル/浸漬管(P10ポート)を介して、ATF−2ポンプ(Refine Technology,USA)に結合した中空糸カートリッジに無菌で接続した(
図5及び8)。バイオリアクターと中空糸モジュールとの間の外部の管(c−flex、内径8mm)はできるだけ短くなるように設計した。従って、中空糸カートリッジまでの管状バッフル/浸漬管の全体の長さ(バッグの底部の固定点からATFへの接続点P10ポートまで)は41〜47cmであった。このシステムに、圧縮空気及び真空ポンプ(Ilmvac)を備えた。中空糸フィルター(GE Healthcare,Sweden)の細孔径は0.2μmで、フィルター面積は850cm
2であった。
【0049】
図7に、ATF−バイオリアクターセットアップ構成の概要を示す。アルカリ及び添加ボトルは溶接により接続したので、切り離し、再充填し、再度システムに溶接することができた。1つは10ml、もう1つは50mlの2つの注射器を用いて、グルコースとグルタミンを注入した。
【0050】
TFFセットアップ
P10管状バッフル/浸漬管を(ReadyMate(商標)継ぎ手により)フィルターに、またP9管状バッフル/浸漬管をそのフィルターの他端につなぐことにより、バイオリアクターを中空糸カートリッジ(上記ATFと同じ仕様だがReadyToProcess RTPCFP−2−E−4X2MSとして)に接続した(
図5及び9)。細胞懸濁液を、バイオリアクターから、Watson Marlow 620Sポンプによりフィルターを通して送った。次に、保持された細胞を、ポートP9を介してバイオリアクターに戻した。また、使い捨ての圧力センサー(SciLog,USA)も、(ReadyMate(商標)継ぎ手を用いて)フィルターの前後及び透過液側に接続した。
【0051】
分析アッセイ
バイオリアクター及び回収ラインからの試料を毎日一回又は二回取った。バイオリアクター(揺動中)からの試料を即座に、生細胞の数(生存細胞密度、単位は百万生存細胞/mL(MVC/mL))及び細胞の総数(合計細胞密度、単位は百万細胞/mL)を計数するBioProfile Flex(Nova Biomedical,USA)で分析して細胞増殖をモニターし、平均細胞直径を測定した。試料中のグルタミン、アンモニア、グルコース、乳酸塩の濃度、pO2及びpCO2もBioprofile Flexで測定した。その後、バイオリアクターからの試料を3300rpmで5分遠心分離し、上清をEppendorfチューブに等分し、LDH分析のために−20℃及び−70℃にした。次いで、バイオリアクターからの試料を3300rpmで5分遠心分離し、Eppendorfチューブに等分し、−20℃に保った。試料中のmAb濃度はプロテインA HPLC法を用いて分析した。
【0052】
実施例1
ATF及びTFF灌流
CHO細胞増殖
CHO細胞を両方のろ過システム、すなわちATF又はTFFシステムで培養した。
図10は、TFF灌流(
図10A)及びATF灌流(
図10B)培養中に得られた細胞密度、生存率及び灌流速度を示す。プロセス中2つの異なる種類の培養培地を用いた(HyClone PF−CHO Liquid Soy及びIS CHO−CD XP)。剪断応力を最小にするために、TFFシステムの外部のループ内の循環流量を0.3L/min、すなわち約1000s
-1に設定した。このパラメーターにより、細胞のリアクターの外部にいる、すなわち室温である滞留時間を1min未満にすることも可能であった。ATFシステムの平均流量は全プロセス中1L/minであった。TFFシステムのバイオリアクターでは、4LのIS CHO−CD XP培地中に0.4MVC/mLを接種し、ATFシステムのバイオリアクターでは、Hyclone培地中に5MVC/mLを接種した。より高い細胞密度に迅速に達し、その後両方の培養を並行して比較することができるように、より高い接種を選択した。従って、両方のプロセスを比較する目的で、TFFシステムで使用したIS培地を11日の培養後Hyclone培地に変えた。IS培地を用いると、両方の培養間の比較が数日間、すなわちATF及びTFF培養でそれぞれ3〜6日目及び11〜18日目に可能であった。
【0053】
プロセスの初期、TFFシステムを用いた培養は、定常期のバッチ培養からとった接種材料のために貧弱な細胞増殖を示した。3日目、細胞密度が約2MVC/mLに達した時、灌流を開始し、約1.2〜1.5L/dに維持した。5〜6日目に灌流速度を1wv/日未満に減らし、培養培地の取扱いのため18日目に8時間灌流を停止した。Hyclone培地はその後18日目に新たなIS CHO−CDXP培地に変更した。
【0054】
8日間培養後、細胞密度を約20MVC/mLに維持するために最初のブリード(bleed, 抜き取り)を実施した。追加のブリードを9〜11、13〜15、17〜18、及び20〜21日毎日実施した。1日の灌流速度を計算するときにはブリード容積を考慮した。
【0055】
ATF培養では、バイオリアクターの接種直後に灌流を開始した。TFFシステムでは、灌流速度を約1.5wv/日に保ち、速度を計算するときにはブリードを考慮した。さらに、細胞密度を約20MVC/mLに維持することは、このプロセスで、4、6、7、9及び10日目に培養物のブリードを実施することによっても達成された。
【0056】
攪拌速度の増大
両方の培養で、DO制御は揺動スピードによって行った。先の実験により、CHO細胞濃度を約20MVC/mLに保つときDOをSP値(35%)付近に維持するのに必要とされる攪拌速度(22〜26rpm、7°)を決定することができた。入口ガスのO2の富化は、細胞が利用可能な酸素の量をさらに増大することが必要なときに使用した(表3及び4)。DO SP値を達成し、高い生存率(・95%)を維持するためのこれらのパラメーターの使用はATF及びTFFシステムの両方で確認された。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
細胞内代謝
TFFシステムの場合、11日目まで、IS培地中のグルコースの初期濃度は、Hyclone培地及びHyclone培地の後に使用したIS培地中の同濃度より高かった(約20mM)。これら後者におけるグルコースの初期濃度の20mMへの低下により、培養物中の乳酸塩の蓄積を低下させることが可能であった(20〜25mM対35mM)。これらの条件下で、残留グルコース濃度は低く3〜5mM付近のままであり、毎日行ったグルコースの注入を両方のシステムで15mMから22mMに増加した。TFFシステムでは残留グルコース濃度が増大したが、ATFシステムではグルコースの注入の増加はより高い残留グルコース濃度を達成するのに充分ではなかった。両方の培養培地中に存在するグルタミンの初期濃度は約4mMであった。両方のシステムで、2mMを達成するようにグルタミンの毎日の注入を行ったが、グルタミンは注入後毎日完全に排出された。アンモニアの蓄積は4〜5mM付近であり、これは通常毒性とは考えられない。従って、グルタミンの制限を回避するために、培養の最後の4日間グルタミンの標的を2mMから4mMに増大することに決定した。結果として、残留グルタミン濃度は少なくとも0.2mMより高く維持された。
【0059】
10〜15pg/細胞/dという組換えIgGの最大の比速度並びに200mg/L/dに近い容積測定生産性がATF及びTFFの両方のシステムで得られた。
【0060】
結論
本バッグはATF及びTFF灌流システムの両方で細胞増殖を非常に良好に支持した。酸素輸送はWAVEバイオリアクターで充分であり、システムのセットアップに制限は検出されなかった。いろいろな揺動/角度設定を使用し、いろいろな培地を試験した。結果はシステムのロバスト性を示している。毎日のブリードを用いてこの初期検討段階中の高過ぎる細胞密度を回避した。
【0061】
ATF及びTFFシステムの両方がIS培地又はHyclone培地を用いた細胞増殖及び生存率に関して等価な性能を有するようである。TFFシステムの場合、約20〜30MVC/mLの高い細胞密度で、高い生存率(・95%)が18日間維持された。興味深いことに、培養の最後の数日間揺動を8°に増大しても生存率に影響はなかった。すなわち、以前と同様90%超に維持された。
【0062】
実施例2
高密度ATF及びTFF灌流
CHO細胞増殖
IS培地を用いてTFF及びATFの両方のシステムでそれぞれ49日間及び27日間CHO細胞を培養した(
図11及び12)。ATFシステムを用いた培養は27日間の培養後停止したが、TFFを用いた培養は22日間追加して続けた。先の培養と同様、必要に応じて消泡剤Cの添加を、最も一般的には3日又は7日毎に行った。両方のプロセスで、2日間の培養後、7日目まで1wv/dの灌流速度を使用した。ここでも、CHO細胞増殖及び生存率に関して同様な結果が得られた。実際、約20〜30MVC/mLのCHO細胞濃度及び95%を超える生存率が観察された。角度7°で22〜26rpmの攪拌速度により、SP値に近いDOの維持と高い生存率(・95%)の保持が可能であった。ATFシステムにおいて先の培養中使用した値、すなわち1L/minで流量を増大することが決定された。同一の条件で両方のろ過装置を評価するために、TFFの外部のループの流量も1L/minに増大したが、これは3400s
-1の剪断応力値に相当する。さらに、ATFシステムにおける高い生存率を維持する目的で、灌流速度を1.5L/minに増大した。
【0063】
TFFシステムでは、再循環流量を0.7L/minから1L/minに増大してもCHO細胞増殖及び生存率に影響はなかった。従って、この流量を使用して、細胞の高い生存率を得ることが可能である。灌流速度は1.5wv/dからそれぞれATF及びTFF培養の培養終了時の4及び5wv/dまで次第に増大した。ATFを用いた培養の最後の3日間、灌流速度を4wv/dに増大したが、生存率は増大せず(88〜90%付近)、不十分な細胞増殖が観察された。この結果は16.5〜17.5μmから18〜18.5μmへの細胞の平均細胞直径の増大と関連していた。従って、細胞の状態は両方のろ過システムでもはや同等ではないように見えたので、ATF培養の中止を決定した。
【0064】
驚くべきことに、TFFシステムでは、灌流速度を5wv/dに増大すると非常に高い細胞密度、すなわち約100MVC/mLが得られた。23日目以降、80〜105MVC/mLというこれらの高い細胞密度を維持するためにブリードを毎日実施した。すると、これらの高い細胞濃度(約100MVC/mL)は1週間高い生存率(92〜95%)で維持された。この後、細胞密度は120〜130MVC/mLに増大し、毎日のブリードによりさらに1週間94%より大きい細胞生存率を維持しつつ維持することができた。言い換えると、培養は100MVC/mLより大きい細胞密度及び94%より大きい細胞生存率で2週間以上安定に保たれた。その後、灌流速度をさらに10RV/日まで増大したところ、驚くべきことに、200MVC/mLを超える細胞密度が最大214MVC/mLで観察され、一方細胞生存率は94%より大きかった。この極めて高い細胞密度は2日間保たれ、その後灌流速度を再び低下させた。合計で、TFF培養は灌流バッグを用いて49日間行った。
【0065】
【表4】
細胞内代謝
両方のシステムで、より高い細胞密度に達したとき、グルコースの制限を回避するために、毎日行ったグルコースの注入を増やした。乳酸塩の蓄積は35〜40mMを越えなかった。かかる濃度は細胞に対して毒性とは考えられない。両方の培養培地中に存在するグルタミンの初期濃度は約4mMであった。グルタミンの注入を増大したけれども、培養中にグルタミンの幾らかの制限が起こった。培養の最後の数日の間、制限を回避するために実際に注入を増やした。アンモニアの蓄積は両方の培養で4mMに近く、約100MVC/mLの細胞密度がグルタミン添加の増大を必要としたときのTFF培養ではさらにより高かった(約7mM)。
【0066】
IgG産生
10〜15pg/細胞/dの組換えIgGの最大の比速度及び200mg/L/dに近い容積測定生産性が得られた。TFFシステムを用いて同様な結果が20日目まで得られた。
【0067】
結論
2つのS字形管状バッフル/浸漬管を有する
図5のバッグは、細胞分離のためにATF及びTFF方策を用いることによりWAVEバイオリアクターシステムで外部の灌流を支持することが繰り返し示されている。また、発泡又はフィルターの目詰まりの問題なくTFFシステムで極度の細胞密度に達することが可能であることが示されている。
【0068】
ATFを用いた2つの培養実験とTFFを用いた2つの培養実験を行った。4つの最初の実験(ATF及びTFF)の間、細胞密度は毎日の細胞ブリードにより20〜30MVC/mLに維持された。この細胞密度で健全な細胞増殖を可能にするためには1.5wv/日の灌流速度が必要であった。Irvine Scientific,IS(給餌濃縮物補充を伴うか伴わないで使用した)及びHycloneの2つの市販の培地を用いて匹敵する細胞増殖及び生存率が得られ、これらのシステムが培地の改変に対して堅牢であることを示した。
【0069】
TFFシステムを用いて、100MVC/超の細胞密度が5wv/日で達成された。この細胞密度は2週を越えて保たれ、毎日の細胞ブリードで維持された。さらに、灌流速度を10wv/日に増大すると、>200MVC/mL、最高214MVC/mLの極めて高い細胞密度が得られた。この結果は予想外であり、バッフル付きのバッグでないと達することができなかったものである。このTFFシステムで、1つの中空糸カートリッジは詰まることなく4週間使用された。中空糸カートリッジのこの長い寿命は、おそらく、この培養物が絶えず増殖しており、3週間の間優れた生存率(・94%)を維持したという事実に記することができよう。ATFシステムを用いた実験を並行して行った。このシステムを用いて、46MVC/mLの最大細胞密度が達成された。
【0070】
本明細書では、最良の態様を含めて本発明を開示し、また当業者がいずれのデバイス又はシステムも作り使用し、そして任意の援用された方法を実行することを含めて本発明を実施できるようにするために、例を使用した。本発明の特許性のある範囲は特許請求の範囲に定義されており、当業者には自明の他の例を包含し得る。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない等価な構造要素を含む場合、特許請求の範囲内に入ると考えられる。個々の実施形態及び/又は態様の要素及び特徴を組み合わせて別の実施形態を創成し得ることに留意されたい。