特許第5923529号(P5923529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923529
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】細胞培養用可撓性バッグ
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20160510BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20160510BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20160510BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
   C12N1/14
   C12N1/20
   C12N5/00
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-558819(P2013-558819)
(86)(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公表番号】特表2014-507959(P2014-507959A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】SE2012050292
(87)【国際公開番号】WO2012128703
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】61/454,138
(32)【優先日】2011年3月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】1150328-1
(32)【優先日】2011年4月15日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】チョットー,ヴェロニク
(72)【発明者】
【氏名】ダイアナ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】カイザーメイヤー,クリティチアン
(72)【発明者】
【氏名】リンドスコッグ,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン,クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】ルッカー,ジミー・エル
(72)【発明者】
【氏名】ウォルシュ,キーロン・ディ
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−539936(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0013063(US,A1)
【文献】 米国特許第03334870(US,A)
【文献】 特表2008−501347(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0020922(US,A1)
【文献】 特開2009−284860(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0203624(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0272146(US,A1)
【文献】 特表2007−511231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性材料のトップシート(2;22)及びボトムシート(3;23)を含み、互いに接合されて2つのエンドエッジ(4)及び2つのサイドエッジ(5)を形成している細胞培養のための膨張可能なバイオリアクターバッグ(1)であって、1つのバッフル(6)又は複数のバッフル(6)が、2つのエンドエッジ(4)のいずれか1つまでの最短距離が2つのエンドエッジ間の最短距離の約四分の一より大きい領域でボトムシートから伸延していて、少なくとも1つのバッフル(6)が管状であって、管状バッフルが、バッフル1つに付き1つの細胞懸濁液ディフューザーを介してボトムシートに、かつバッフル1つに付き1つの入口/出口ポートを介してトップシートに接合されている、膨張可能なバイオリアクターバッグ。
【請求項2】
バッフル(6)がボトムシート(3;23)及びトップシート(2;22)に接合されている、請求項1記載の膨張可能なバイオリアクターバッグ。
【請求項3】
なくとも1つの細胞懸濁液ディフューザー(10;20;30)が、ボトムリング(24;34)又はプレート、ボトムリング又はプレートをチューブコネクター(27;37)に結合する複数のストラット(25;35)、及びストラット間の複数の開口(26;36)を含む、請求項1又は請求項2記載の膨張可能なバイオリアクターバッグ。
【請求項4】
トップシートの少なくとも1つのポート(42;52)が、さらに、バッグ(41;51)の外部で少なくとも1つの細胞分離装置に接続されている、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の膨張可能なバイオリアクターバッグ(41;51)。
【請求項5】
細胞分離装置が、保持液側及び透過液側を有するミクロフィルター又はウルトラフィルターである、請求項4記載の膨張可能なバイオリアクターバッグ(41;51)。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の膨張可能なバイオリアクターバッグ(1)が、エンドエッジ(4)とほぼ平行な可動軸(7)の回りでベース(9)に対して旋回可能に載置された支持体(8)上に載置されているバイオリアクター。
【請求項7】
a)ポリマー材料のトップシート及びボトムシートからなり、互いに接合されて2つのエンドエッジ(4)及び2つのサイドエッジ(5)を形成する膨張可能なバイオリアクターバッグであって、1つのバッフル(6)又は複数のバッフル(6)が、2つのエンドエッジのいずれか1つまでの最短距離が2つのエンドエッジ間の距離の約四分の一より大きい領域でボトムシートから伸延する、膨張可能なバイオリアクターバッグを提供するステップ
b)エンドエッジとほぼ平行な可動軸の回りでベースに対して旋回可能に載置された支持体上にバイオリアクターバッグを載置するステップ
c)細胞培養培地及び細胞接種材料をバッグに供給するステップ
d)可動軸を中心にして支持体を揺動し、トップシート内のポートを介して少なくとも1つのガスを供給することにより提供される攪拌下でバッグ内の細胞を培養して細胞懸濁液を形成するステップ
を含む、細胞培養方法であって、少なくとも1つのバッフルが管状であり、細胞懸濁液ディフューザーを介してボトムシートに、かつ入口/出口ポートを介してトップシートに結合されている、方法
【請求項8】
当該方法が、さらに、b’)トップシートの入口/出口ポートを少なくとも1つの細胞分離装置及びポンプに接続するステップ、及びd)細胞懸濁液ディフューザー及び管状バッフルを介して細胞分離装置に細胞懸濁液を循環させるステップを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
細胞分離装置がミクロフィルターであって、標的生体分子をステップd)で透過液として回収し、保持液をバッグに再循環するか、或いはフィルターがウルトラフィルターであって、ステップd)で標的生体分子が保持液内に留まり、これをバッグに再循環する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
培養をバッチ又はフェドバッチモードで行い、培養の終了時細胞懸濁液を細胞懸濁液ディフューザー、管状バッフル及び出口ポートを介して、さらに細胞分離装置を介してバッグから抜き出す、請求項7乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養のための可撓性バッグに関し、より特定的には、揺動することにより攪拌下で培養するための膨張可能な可撓性バッグに関する。本発明はまた、可撓性バッグ内で細胞を培養する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
バイオプロセシング産業は伝統的に発酵及び細胞培養のための製造工程でステンレス鋼のシステム及び配管を使用している。これらのデバイスは蒸気滅菌し再使用するように設計される。しかし、洗浄及び消毒は費用と労力を要する作業である。また、必要な配管と付属設備を有するこれらの伝統的なシステムの据え付け後コストは法外であることが多い。さらにそのうえ、これらのシステムは通例特定のプロセス用に設計されており、新しい用途のために容易に再構成することができない。これらの制限のため、最近十年間では新しい手法が採用されるようになっており、通常のステンレス鋼タンクに代わってプラスチックの一回使用で使い捨てされるバッグ及び配管材料が使用されるようになった。
【0003】
特に、伝統的にステンレス鋼から作成されるバイオリアクターは、多くの用途で、細胞培養のために必要とされる必要な通気と混合を提供するために揺動される使い捨てのバッグによって置き換えられている。これら一回使用のバッグは通例無菌で提供され、費用と時間がかかる洗浄及び滅菌工程が省かれる。これらのバッグは作業中無菌の環境を維持することにより汚染のリスクを最小にするように設計されている。
【0004】
一般に使用されているバッグは「ピロースタイル」とされる。これは、主として、プラスチックの2枚の可撓性シートを互いに継ぎ合わせることによって低コストで製造することができるからである。さらなるシートを使用して壁構造体を作成し得る三次元バッグも記載されている。
【0005】
成功した使い捨て式バイオリアクターシステムの1つは、バイオリアクターバッグが配置される揺動テーブルを使用する。バイオリアクターバッグには部分的に液体栄養培地と所望の細胞が充填されている。テーブルはバッグを揺り動かして、バッグ内の細胞の一定の動きを提供し、また掻き乱される空気−液体表面からの効率的なガス交換も提供する。バッグは、通例、空気、二酸化炭素、窒素又は酸素の導入のための少なくとも1つのガス供給管、及び呼吸ガスの除去を可能にする少なくとも1つの排気管を有する。栄養は他の管を介して加えることができる。
【0006】
細胞を高密度に培養する場合、曝気が細胞に供給するのに充分でない可能性がある。混合を改良するために縁に沿ってバッフルを設けたバッグが米国特許出願公開第2010/0203624号及び米国特許第7195394号に記載されているが、目下のところ目的とする細胞密度に達するには充分でない。従って、揺動テーブルバイオリアクターにおける改良された通気が必要とされている。
【0007】
伝統的に、細胞培養はバッチモードで行われている。バッチ式操作においては、バイオリアクターに培地と小量の細胞を蒔き、さらに栄養分を供給することなく細胞を高密度になるまで増殖させる。やがて細胞は栄養分の欠如又は毒性の代謝産物の蓄積のために死ぬ。これによって、収穫を行う時点が最終的に決定される。この方法には幾つかの欠点がある。まず、必須の栄養分が枯渇し、そのため最終細胞密度が低くなり、結果として産物収量が低くなり得る。次に、毒性の代謝副産物の蓄積のために可能な組換えタンパク質産物の生成と質が損なわれることが多い。
【0008】
操作の代わりのモードはフェドバッチ式である。基礎培地で培養を開始し、ある時点で、他の場合には限定されるようになり得る特定の栄養の補充給餌を開始する。これらの栄養分は別々に、又はまとめて加えることができ、また連続的又はバッチ式に追加することができる。この方策は早期の栄養分枯渇を相殺し、培養時間を延長し、最大の細胞密度を増大することにより、例えば細胞により産生される組換えタンパク質の高収量の可能性を増やす意味がある。しかし、一般にフェドバッチ方策は毒性の代謝産物の蓄積を妨げることはなく、その結果培養中に条件が変化することになる。これらの変化は、例えばあまり有利でないグリコシル化パターンの点で産物の品質に悪影響を与え得る。
【0009】
長い間、灌流培養は、幾つかのプロセスで経済性がより良好であることが認められている。この操作で、細胞はバイオリアクター内に留まり、毒性の代謝副産物は連続的に除かれる。栄養分を含有する給餌が絶えず加えられる。この操作は高い細胞密度を達成することができ、より重要なことに、細胞を数週〜数か月の間高い生産状態に維持することができる。これで、ずっと高い収量が達成され、必要なバイオリアクターの大きさが低減される。また、初代又はその他の成長の遅い細胞を培養するのにも有用な技術である。灌流操作は、ヒト細胞及び遺伝子療法用途に必要とされる大量の細胞を増殖させるのに大きな可能性がある。細胞のみでなく産物をもバイオリアクター容器内に保持するための方策を伴った新しい灌流プロセスが最近記載され、バイオプロセス社会で一定の関心がもたれている。このプロセスでは、低いカットオフの細孔径を有する中空糸フィルターを用いて、細胞及び標的タンパク質、例えば抗体のような高分子の粒子を低分子の廃棄物から分離する。高分子の粒子は保持液(retentate)内、従ってリアクター内に残り、低分子量のものは連続的に除去される。この方策によって、高い細胞密度のみでなく非常に高い産物濃度もリアクター容器内で得られる。
【0010】
灌流培養におけるもう1つの最近の進展は米国特許第6544424号に記載されている交互接線流(ATF)法である。
【0011】
膨張可能なバッグ内での灌流培養が米国特許出願公開第2011/0020922号及び米国特許第6544788号に記載されており、配管を介してろ液を除去するためにフィルターをバッグの内部に設けることを検討している。この配置ではフィルターの構築に厳しい制約が課され、またフィルターの目詰まりのリスクが大きい。さらに、フィルターが詰まると、培養物全体を新しい膨張可能なバッグに移さなければならない。従って、可撓性バッグ灌流培養に使用するための改良された構築物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7629167号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様は、高密度細胞培養に適した膨張可能なバイオリアクターバッグを提供することである。これは、請求項1に定義されているバッグによって達成される。この構成の1つの利点は、バッフルが改良された混合及び曝気を提供し、これが高い生存細胞密度における長期の培養を可能にすることである。
【0014】
本発明の別の態様は、膨張可能なバッグ内で効率的な細胞培養を可能にすることである。これは、請求項14に定義されている方法によって達成される。
【0015】
本発明のさらなる適切な実施形態は従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明によるバッフルを有する膨張可能なバイオリアクターバッグを示す(平面図及び側面図)。
図2図2は、本発明による代わりのバッフル配置を有するバッグを示す(平面図)。
図3図3は、旋回可能な支持体上に搭載された本発明によるバッグを示す(側面図及び平面図)。
図4図4は、旋回可能な支持体上に搭載された本発明によるバッグを示す(側面図及び平面図)。
図5図5は、本発明によるバッグのトップシート及びボトムシートを示す。
図6図6は、本発明による細胞懸濁液ディフューザーを示す。
図7図7は、本発明による細胞懸濁液ディフューザーを示す。
図8図8は、本発明によるATF灌流培養のためのセットアップ構成を示す。
図9図9は、本発明によるTFF灌流培養のためのセットアップ構成を示す。
図10図10は、TFFシステム(A)及びATFシステム(B)を用いて本発明に従って培養されたCHO細胞による組換えIgG産生の動態を示す。
図11図11は、TFFシステム(A)を用いた本発明による29日間の灌流プロセス及びATFシステム(B)を用いた本発明による27日間の灌流プロセスにおける細胞密度、生存率及び灌流速度を示す。
図12図12は、TFF灌流培養を総計49日間続けたときの図10Aと同じデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
用語「灌流」は、本明細書で使用する場合、細胞培地が連続的に交換されながら細胞がバイオリアクター容器内に留まる細胞培養モードを意味する。細胞培地の交換は、例えばフィルターを通して行うことができ、これは、抑制性又は毒性の低分子廃棄物を除去することができ、かつ栄養分を連続的に加えることができることを意味する。フィルターはミクロ(精密)フィルターであることができ、この場合細胞により発現された標的タンパク質は透過液中に回収することができる。また、ウルトラ(限外)フィルターであることもでき、発現されたタンパク質は細胞懸濁液中に留まることが可能であるため、バッチ式収穫作業で回収することができる。
【0018】
用語「バッフル」は、本明細書で使用する場合、膨張可能なバイオリアクターバッグ内に配置され、バッグの揺動中にバッグの内部の流体の流れを掻き乱すことができる物体を意味する。
【0019】
用語「ポート」は、本明細書で使用する場合、材料をバッグに出し入れする輸送のため、又はトランスデューサーの搭載のために適合させた、膨張可能なバッグ内の開口を意味する。ポートは管継ぎ手を備えていることが多い。
【0020】
実施形態の詳細な説明
図1〜5に図示されている1つの態様において本発明は細胞培養用の膨張可能なバイオリアクターバッグ1を開示し、このバッグは可撓性材料のトップシート2とボトムシート3を含んでおり、これらのシートは互いに接合されて2つのエンドエッジ(端辺)4と2つのサイドエッジ(側辺)5を形成しており、ここで、1つのバッフル6又は複数のバッフル6が、ボトムシート3の、2つのエンドエッジ4のいずれか1つ(すなわち最近接エンドエッジ)までの最短距離が2つのエンドエッジ4間の最短距離Dの約四分の一より大きい領域でボトムシート3から伸延している。バッグは一般に長方形であり得、その場合エンドエッジ4のいずれか1つ(最近接エッジ)までの最短距離はボトムシート3のいずれの点でもD/2を超えることはない。従って、バッフル6は、エンドエッジ4までの最短距離がエンドエッジ4間の最短距離Dの約四分の一〜二分の一、すなわちD/4〜D/2である領域でボトムシート3から伸延し得る。幾つかの実施形態においてエンドエッジまでの距離はD/3〜D/2であり得る。さらに、約D/2であることもでき、この場合バッフル6はバッグの中央に位置することになる。図3及び4に図示されているように、バッグ1は、エンドエッジ4に対してほぼ平行な可動軸7の回りで旋回可能にベース9に対して据え付けられ得る。可動軸7はバッグ1の下に位置し得、バッグは支持体8上に載置され得、例えば各エッジ4からボトムシート3上の可動軸7の投影までの距離はおよそD/2である。可動軸上に据え付けられる適切な旋回可能な支持体は例えばWAVE Bioreactor(商標)Systems(GE Healthcare)であることができる。トップシート2及びボトムシート3の可撓性材料は、厚さが例えば50〜500μmの範囲であるプラスチックフィルム又はラミネートのようなポリマー性材料であり得る。ラミネートは、1以上のポリマー性材料に加えて、例えばポリマー又は無機酸化物又は金属であり得るバリヤ層を含んでいてもよい。トップシート2は特にバッグの内部が確実に目に見えるように透明であることができる。トップシート2とボトムシート3はバッグの使用中の位置に関して規定される。すなわち、使用中、トップシート2はボトムシート3の上方に位置する。トップシートとボトムシートはまた、ポート11;P1〜P10;42;52が好ましくはトップシート2上に配置されて、ボトムシート3の滑らかな外面が得られ、支持体8上に載ったままでいるのに適切であるようになっているという点でも区別され得る。サイドエッジ5はエンドエッジ4より長くてよい。
【0021】
バッフル6の中央配置の利点は、バッグが部分的に細胞懸濁液で充填され、膨張し、軸7を中心にして揺動されるとき、本質的に全ての細胞懸濁液が繰り返しバッフルを通過するということである。これにより、攪拌強度が増大し、空気−液体界面でのガス交換が改良され、一方攪拌は繊細な細胞に損傷を与えないように十分穏やかなままである。
【0022】
幾つかの実施形態において、バッフル6はボトムシート3とトップシート2の両方に接合される。これの1つの利点は、バッフル6の安定性が改良されることである。
【0023】
図1〜4に示した幾つかの実施形態において、バッフル6は一般に円柱形であり、例えば円形又はほぼ楕円形の断面を有する。断面の形状は円、楕円、尖った楕円(pointed ellipse)、翼形(hydrofoil, airfoil)又は細長い滴形等でよいが、角のある、例えば平行四辺形、多角形等であることもできる。ほぼ円柱形の幾何学的形状の1つの利点は、攪拌強度の適切な増大が得られることである。別の利点は、バッフルが例えば押出棒又は配管材料から容易に製造することができることである。
【0024】
図2〜4に示した幾つかの実施形態において、少なくとも1つのバッフル6、例えば2つのバッフルが管状である。この1つの利点は、バッフルが、使用前のつぶしたバッグの容易な包装及び貯蔵を可能にするのに十分に可撓性であるが、バッグの作動中流体力に耐えるのに十分な剛性をもつようにすることができるということである。別の利点は、この管状構造により、バッグに出し入れするためにバッフルを通した材料の輸送が可能になることである。管状バッフルは、例えば、バッグの包装時その構造体をつぶすことができるが、バッグが充填され及び/又は膨張したとき開いた管状形状を完全に回復するのに十分に弾力性であるエラストマー性材料から製造することができる。エラストマー性材料は、例えば架橋シリコーンゴム又はその他の加硫ゴム材料であることができる。厚い壁及び/又は高い剛性を有する配管材料を使用する場合、管状バッフルは、バッグの膨張前及び膨張中バッグのトップシートとボトムシートを分離した状態に保つ柱として機能し得る。
【0025】
図4、5及び6に示したある種の実施形態において、管状バッフル6;31は、細胞懸濁液ディフューザー10;20;30、例えばバッフル6;31の1つにつき1つの細胞懸濁液ディフューザーを介してボトムシート3;23に、また入口/出口ポート11;P9;P10、例えばバッフル1つにつき1つの入口/出口ポートを介してトップシート2;22に接合することができる。細胞懸濁液ディフューザー10;20;30は、バッグから管状バッフルの内腔への、又は内腔からバッグ内への細胞懸濁液(通例増殖培地に懸濁された細胞)の輸送を可能にする構造体であることができる。細胞による目詰まりのリスクなしにこれを達成するために、細胞懸濁液ディフューザーは、細胞より数桁大きい、例えば約1又は2mmより小さい寸法のない開口26;36を有することができる。この細胞懸濁液ディフューザー−管状バッフルアセンブリは、邪魔する構造体なしにディフューザー及びバッフルを通る細胞懸濁液のための開いた流路を提供するように設計することができる。管状バッフル6;31は、これらの実施形態において、浸漬管ということもできる。トップシートの入口/出口ポート11;P9;P10は、内側に管状バッフル(浸漬管)を、また外側に配管を取り付けることができるように内側と外側の両方に管継ぎ手を含み得る。また、外側には、ポートに一体化されるか又は配管を介して取り付けられる無菌のコネクターも含み得る。無菌コネクターの例には、例えば、無菌流路を含む完全なアセンブリを作成するために通常の周囲条件下でバッグ、配管、センサー、ポンプヘッド(揚程)、バルブ、フィルター(例えば中空糸フィルター)等のような内部が無菌の流路構成部分の接続を可能にするReadyMate(商標)コネクター(GE Healthcare)がある。或いは、これらの構成部分は例えば、Sterile Tube Fuser(GE Healthcare)を用いて熱可塑性の配管材料の無菌溶接によって接続し得る。
【0026】
幾つかの実施形態において、バッグは無菌のコネクターを備えており、放射線を照射される。全てのポートは、微生物がバッグ内に侵入することができないようにクロージャー、無菌コネクター又は無菌ろ過グレードフィルターを備えることができる。その際、バッグは、バッグアセンブリの生物汚染度に応じて無菌状態を確保する線量を用いてガンマ線、電子ビーム又は高エネルギーX線のような電離放射線で照射することができる。線量は例えば10〜50kGyのように10kGyより高くすることができる。バッグ、バッフル、ポート、コネクター及びフィルターは放射線耐性材料、例えばエチレン(コ)ポリマー、シリコーン、スチレン(コ)ポリマー、ポリスルホン等から有利に構築することができる。
【0027】
ある種の実施形態において、少なくとも1つ、例えば各々のバッフルがほぼS字形のような湾曲した形状を有する。この1つの利点は、S字形のバッフルが、細胞懸濁液と接触するバッフルの長さが直線状のバッフルと比べてより長いという点で、より効率的に攪拌を強化することである。別の利点は、管状バッフル(浸漬管)を細胞懸濁液ディフューザー及びポートと接続するとき、ディフューザーとポートを互いに独立して配置することができる一方で、ディフューザーとポートをボトムシート及びトップシートに対して垂直に保つことができるということである。もう1つ別の利点は、S字形のバッフル形状は、直線状のバッフルを含むバッグと比較してバッグの製造、包装及び輸送が容易になることである。形状は、バッフルの長さ軸に対してほぼ平行な平面内で湾曲していることができる。バッフルは、この平面がバッグのエンドエッジ4とほぼ平行になるように設置し得る。この設定により、攪拌は特に十分に強化される。湾曲した形状の管状バッフル(浸漬管)は、例えば架橋シリコーンのようなエラストマーの成形によって製造することができる。
【0028】
図5〜7に示した幾つかの実施形態において、少なくとも1つ、例えば各々の細胞懸濁液ディフューザー20;30は、ボトムリング24;34又はプレート38、ボトムリング又はプレートをチューブコネクター27;37に結合する複数のストラット25;35、並びにストラット間の複数の開口26;36を含んでいる。開口の数は例えば2、3又は4であることができる。ボトムリング24;34又はプレート38は、例えば溶接又は接着剤接合によりディフューザーをボトムシート3;23に結合するのに使用することができ、ボトムシート3;23に面して本質的に平らな面を有することができる。ストラット25;35は耐荷重性であり、作動中の流体力によって生じる荷重並びにバッグの包装及び取扱い中に課される力を吸収できる寸法であるべきである。上で述べたように、開口26;36は長さと幅が両方とも約1又は2mmより大きく、例えばディフューザーの大きさに応じて長さ5〜25mm、幅2.5〜10mmであることができる。細胞懸濁液ディフューザー20;30の全体の形状はほぼ円錐台でよく、円錐台の頂部に円柱形のチューブコネクター27;37を有し得る。チューブコネクター27;37は継ぎ手を管状バッフル(浸漬管)に固定できるように1以上のあご39を含み得る。この場合バッフル/浸漬管はさらにケーブルタイのようなつなぎ材で固定することもできる。また、ディフューザー20;30の内部のキャビティもほぼ円錐台形であって細胞懸濁液の滑らかな流路を提供し得る。この開示されたディフューザー設計の1つの利点は、スムーズな細胞懸濁液の流れを可能にしつつ機械的に安定なことである。別の利点は、ボトムシート3;23に容易に接合されることである。さらに1つの利点は、開口26;36がボトムシートに近接していることであり、特にディフューザーが、ボトムシート3;23上で旋回軸7の投影の近く、例えば2つのエンドエッジ4のいずれかまでの最短距離が2つのエンドエッジ4間の最短距離Dの約四分の一又は三分の一より大きい領域に配置された場合、バッグの揺動中に空気の泡が管状バッフル(浸漬管)に入る傾向が低下する。
【0029】
図8及び9に示したある種の実施形態において、トップシート上の少なくとも1つのポート42;52はさらに、バッグ41;51外側の少なくとも1つのフィルター43;53及び/又は少なくとも1つの重力デバイスのような1つ(又は少なくとも1つ)の細胞分離装置に接続される。細胞分離装置は、細胞懸濁液を細胞富化部分と細胞枯渇部分に分離することができるいかなるデバイスでもよく、フィルター、又は例えば重力沈降タンク、遠心分離機若しくはハイドロサイクロンのような重力デバイスであることができる。細胞分離装置を接続する1つの利点は、そのバッグを細胞の灌流培養に使用することができることである。
【0030】
図8及び9に示した幾つかの実施形態において、フィルター43;53はミクロフィルター(通例細孔径が0.1〜10μm)又はウルトラフィルター(通例分子量カットオフが1〜1000kDa)であり、保持液側と透過液側がある。かかるフィルターは多くのフォーマット、例えば中空糸カートリッジ、フラットシートカセット、スパイラルモジュール、プリーツフィルター、スピンフィルター等を有することができる。ミクロフィルターは細胞を保持液側に保持する一方で、懸濁液の全て又は殆ど全ての溶解した構成部分を透過液側に通過させる。これは、細胞により発現されたタンパク質のような標的種を透過液から連続的に回収することができるという利点を有する。ウルトラフィルターは細胞を保持し、分子量カットオフは、高分子の標的種も保持液内に保持され、一方小さい分子である毒性又は細胞抑制性代謝産物は透過液に通過させ、連続的に除去することができるように選択することができる。これの1つの利点は、効率的な細胞培養を達成することができ、その後1つの明確に定義されたバッチで標的種を回収することができることである。
【0031】
図8に示したある種の実施形態において、細胞分離装置はさらに空気作動式膜ポンプ(例えば、Refine Technology,USAから入手可能)のような往復ポンプ44に接続される。かかる構成はATF(交互接線流)と称される灌流培養法に使用することができ、この場合、ポンプは外方ストロークで、細胞分離装置、例えば中空糸カートリッジのようなフィルター43を通して細胞懸濁液をポンプチャンバー内に引き出す。そこで細胞枯渇部分、例えば透過液が作り出され、ポンプの内方ストロークの際細胞懸濁液は、細胞富化懸濁液が管状バッフル(浸漬管)及び細胞懸濁液ディフューザーを介してバッグ41に戻される前に、再び細胞分離装置を通過する。
【0032】
図9に示した幾つかの実施形態において、トップシートの2つのポート52が、ポンプ54を介して細胞分離装置の保持液側に接続されて保持液ループを形成している。この場合、細胞懸濁液は1つの細胞懸濁液ディフューザー及び1つの管状バッフル(浸漬管)を介して第1のポートから細胞分離装置の保持液側を通して引き出され、トップシートの第2のポートを介してバッグ51に戻される。第2のポートは管状バッフル(浸漬管)及び細胞懸濁液ディフューザーに取り付けてもよいが、戻り送達の細胞懸濁液は必ずしもディフューザーを必要としないので、バッグ内部にある配管の一部のみに取り付けてもよい。これらの実施形態は例えば接線流ろ過(TFF)による灌流培養に適している。この場合、細胞分離装置は中空糸カートリッジ、フラットシートカセット又はスパイラルモジュールのようなフィルター53であり、細胞懸濁液がフィルターの保持液側を通過するとき、細胞枯渇部分を透過液として回収することができる。第2のポンプ55はフィルターから透過液を抜き出すために使用され得る。
【0033】
図3、4及び10に示されている1つの態様において、本発明は、
a)互いに接合されて2つのエンドエッジ4と2つのサイドエッジ5を形成している可撓性材料のトップシート2とボトムシート3からなる膨張可能なバイオリアクターバッグを準備するステップ、ここで、2つのエンドエッジ4のいずれか(最も近いもの)までの最短距離が2つのエンドエッジ4間の距離の約四分の一より大きい領域で1つのバッフル6又は複数のバッフル6がボトムシートから伸延している、
b)エンドエッジ4にほぼ平行な可動軸7の回りでベース9に旋回可能に載置された支持体8上にバイオリアクターバッグを載置するステップ、
c)細胞培養培地及び細胞接種材料をバッグ1に提供するステップ、
d)可動軸7の回りで支持体8を揺動することで提供される攪拌の下でバッグ1内の細胞を培養し、細胞懸濁液を形成し、トップシート2のポートを介して少なくとも1つのガスを供給するステップ
を含む、細胞培養の方法を開示する。
【0034】
この方法の1つの利点は、中央に配置されたバッフルの存在により、細胞懸濁液に出入りする効率的なガス輸送が得られ、良好な細胞培養条件と高い生存細胞密度に達する可能性が得られることである。この方法は上記バッグの実施形態のいずれかを使用して実施し得る。
【0035】
幾つかの実施形態において、培養中の細胞はタンパク質のような標的生体分子を発現する。標的生体分子はタンパク質、例えばモノクローナル抗体であることができるが、また例えばワクチンとして、若しくは遺伝子療法において使用される核酸、例えばプラスミド、又はウィルス粒子であることもできる。細胞は哺乳類細胞、例えばCHO又はMDCK細胞であることができるが、例えば昆虫細胞、細菌細胞、例えばE Coli、又は真菌細胞、例えばP Pastorisであることもできる。細胞は懸濁液中で自由に増殖することができるが、ミクロキャリア、例えばCytodex(商標)(GE Healthcare)のような支持粒子上で増殖することもできる。
【0036】
図4〜9に示されている幾つかの実施形態において、少なくとも1つのバッフル6;31は管状であり、細胞懸濁液ディフューザー10;20;30を介してボトムシート3;23に、また入口/出口ポート11;P9,P10を介してトップシート2;22に接合されており、方法はさらに、トップシートの入口/出口ポート42;52をフィルター43;53のような少なくとも1つの細胞分離装置、及びポンプ44;54に接続するステップb’)、並びに細胞懸濁液ディフューザー及び管状バッフルを介して細胞懸濁液を細胞分離装置又はフィルターに循環させるステップd)を含んでいる。1つの利点は、外部の細胞分離装置を用いて効率的な灌流培養を実施することが可能なことである。また、この方法は、培養中、例えば培養中のバイオマス低減のため、又は宿主細胞のウィルス感染に関する減容のために、細胞密度を操作することが望まれるときはいつでも、使用することが可能である。管状バッフルはこれらの実施形態において浸漬管ともいうことができる。
【0037】
幾つかの実施形態において、フィルター43;53はミクロフィルターであり、標的生体分子はステップd)で透過液として回収され、一方細胞に富む保持液はバッグ41;51に再循環される。その1つの利点は、標的生体分子の連続的な回収を達成することができることである。
【0038】
幾つかの実施形態において、フィルター43;53はウルトラフィルターであり、ステップd)で標的生体分子は細胞に富む保持液中に留まり、この保持液がバッグ41;51に再循環される。その利点は、標的生体分子を明確に定義されたバッチで回収することができることである。
【0039】
幾つかの実施形態において、細胞懸濁液は、ステップd)で、往復ポンプ44の外方ストロークによりフィルター43の保持液側を越えて送られ、次に往復ポンプの内方ストロークにより保持液側を越えて細胞懸濁液ディフューザーを介してバッグ41内に戻される。往復ポンプ44は、空気作動式膜ポンプであり得、中空糸カートリッジであってもよいフィルターに直接据え付けられ得る。
【0040】
幾つかの実施形態において、細胞懸濁液は、ステップe)で、ポンプにより、フィルター53の保持液側を越えてループ内でトップシートのポート52を介して、例えば第2の管状バッフル(浸漬管)及び第2の細胞懸濁液ディフューザーを介してバッグ51に戻される。ポンプ54は例えば蠕動ポンプ、膜ポンプ又は遠心ポンプであり得、またフィルター53から透過液を抜き出すために第2のポンプ55を加えることも可能である。
【0041】
幾つかの実施形態において、生存細胞の密度は少なくとも40又は少なくとも150MVC/mL(百万生存細胞/mL)、例えば40〜210MVC/mL又は100〜210MVC/mLである。本発明の方法を用いると、驚くほど高い生存細胞密度で細胞培養を行うことが可能である。
【0042】
幾つかの実施形態において、バッグの容積は少なくとも200mL、例えば200mL〜500Lである。バッグ内の細胞懸濁液の容積はバッグ容積の少なくとも40%、例えば40〜50%であり得る。その1つの利点は、懸濁液の容積が比較的大きければ細胞懸濁液ディフューザー内への空気の巻き込みがさらに減ることである。揺動速度は例えば20〜30揺動/分(rpm)であることができ、揺動角度は例えば6〜8度であることができる。
【0043】
幾つかの実施形態において、培養はバッチ式又はフェドバッチ式に行われ、培養期間の終了時細胞懸濁液はバッグから細胞懸濁液ディフューザー、管状バッフル(浸漬管)及び出口ポートを介して、さらに細胞分離装置、例えばフィルターを介して抜き出され、標的生体分子を含む細胞枯渇部分、ろ液又は透過液を回収することができる。フィルターは直交流/接線流フィルター、例えば中空糸カートリッジ、フラットシートカセット若しくはスパイラルモジュール、又は通常流フィルター、例えばプリーツフィルター若しくはデプスフィルターであることができる。このように開示されたバッグを直交流フィルターと共に使用する1つの利点は、バッグ自体をフィルターの保持液ループのためのリザーバーとして使用することができ、他の容器に移す必要がないことである。バッグの底部から細胞懸濁液を抜き出すため、全ての細胞懸濁液をバッグから取り出すことも容易であり、これは、懸濁液で満たされたとき取り扱いが非常に難しい大きいバッグからの標的生体分子の通常流ろ過回収時に特に重要である。
【実施例】
【0044】
細胞株
IgGを産生するDHFR−CHO細胞株を全ての実験で使用した。振盪フラスコによる拡大培養中、メトトレキセート選択圧を実施した。
【0045】
細胞培養培地及び添加物
細胞は、4〜5mMのグルタミンを補充したIS CHO−CD XP培地(Irvine Scientific)で増殖させた。この培地は、TFFシステムを用いた第1の培養の前半部分では45mMのグルコースを含有していた。この培養の後半部分及びTFFシステムを用いた第2の培養、並びにATFシステムを用いた培養では、グルコースの初期濃度は前より低く、20〜25mMに近かった。さらに、後者の培養では、3%のIS CHO Feed−CD XPサプリメント(Irvine Scientific,ref.91122)を培地に加えた。3%のフィードサプリメント(Sigma−Aldrich,ref.C1615)を補充したHyclone培地PF−CHO Liquid Soy(Hyclone,ref.SH30359.02)も使用した。主要な炭素及びエネルギー源、すなわちグルコース及びグルタミンの初期濃度はそれぞれ約20〜25mM及び4mMであった。培養培地はさらに2種の抗生物質(ストレプトマイシン及びペニシリンG)及び1種の抗真菌剤(アムホテリシン)を含有する抗生物質溶液(Sigma−Aldrich)を補充した。IS培地は粉末として提供され、培地の再構成が必要であった。pH及びオスモル濃度はそれぞれ7(±0.1)及び300〜330mMに調節した。その後、培地を0.2μm膜(ULTA−XX,GE Healthcare)でろ過した。管状バッフル/浸漬管内の泡の出現に応じてブースト添加によりMedical Anti−foam C(Dow Corning,cat.1811070−0705)をリアクター内50ppmの濃度まで加えた。グルコース(Sigma−Aldrich,cat.G6152)又はグルタミン(Irvine Scientific,cat.96700)のバッチ式補充は細胞の必要性に応じて実施した。
【0046】
細胞培養
バイオリアクターに播種する前に、IS培地を用いて振盪フラスコ内で(少なくとも4継代)細胞を増殖させた。本文中に述べる場合を除いて全ての実験で、CHO細胞を0.5MVC/mL(百万生存細胞/mL)の播種密度で接種した。プロトタイプの10L WAVE Bioreactor Cellbags(図5に示したような33×56cmのトップシート22及び底部シート23を含み、7.5cmのS字形シリコーン熱成形ゴム配管がP9及びP10ポートをボトムシート23上のそれぞれの細胞懸濁液ディフューザー20と接続しており、各々が2つの5×20mmの開口を有する)を備えたWAVE Bioreactor(商標)System 20/50を全ての培養に使用した。表1に、図5のバッグのいろいろな出入ポートの用途を記載する。
表1:図5のバッグの出入ポート
P4 溶存酸素(DO)プローブ
P5 pHプローブ
P6 フィルター付きガス入口
P7 フィルター上ヒーター付きガス出口
P3 注射器及び試料採取ポートの添加用隔膜
P1 培地及び添加物(Glc、Gln、消泡剤)用の添加パイプ
P10 細胞懸濁液OUT(ATF及びTFFへの)並びにIN(TFF)のための管状バッフル/浸漬管
P8 アルカリ添加用管
P2 接種管
P9 細胞懸濁液IN(TFFから)のための管状バッフル/浸漬管。
【0047】
pHは、0.5MのNa2CO3の添加(液体表面上への滴下)により上方調節し、ヘッドスペース内への(0〜5%空気混合物のヘッドスペース内への)CO2パルスにより下方調節した。溶存酸素(DO)は、O2(0〜100%)のパルスにより、及び/又は揺動スピードの増大により上方調節し、揺動スピード低下により下方調節した。バイオリアクターの重量は、灌流の間、セットポイント重量(4kg)と、このセットポイントからの最小及び最大偏差(±0.3kg)を設定することによって調節した。培養のセットポイントを表2に示す。
【0048】
【表1】
ATFセットアップ
WAVEバイオリアクターを、バッグ上の管状バッフル/浸漬管(P10ポート)を介して、ATF−2ポンプ(Refine Technology,USA)に結合した中空糸カートリッジに無菌で接続した(図5及び8)。バイオリアクターと中空糸モジュールとの間の外部の管(c−flex、内径8mm)はできるだけ短くなるように設計した。従って、中空糸カートリッジまでの管状バッフル/浸漬管の全体の長さ(バッグの底部の固定点からATFへの接続点P10ポートまで)は41〜47cmであった。このシステムに、圧縮空気及び真空ポンプ(Ilmvac)を備えた。中空糸フィルター(GE Healthcare,Sweden)の細孔径は0.2μmで、フィルター面積は850cm2であった。
【0049】
図7に、ATF−バイオリアクターセットアップ構成の概要を示す。アルカリ及び添加ボトルは溶接により接続したので、切り離し、再充填し、再度システムに溶接することができた。1つは10ml、もう1つは50mlの2つの注射器を用いて、グルコースとグルタミンを注入した。
【0050】
TFFセットアップ
P10管状バッフル/浸漬管を(ReadyMate(商標)継ぎ手により)フィルターに、またP9管状バッフル/浸漬管をそのフィルターの他端につなぐことにより、バイオリアクターを中空糸カートリッジ(上記ATFと同じ仕様だがReadyToProcess RTPCFP−2−E−4X2MSとして)に接続した(図5及び9)。細胞懸濁液を、バイオリアクターから、Watson Marlow 620Sポンプによりフィルターを通して送った。次に、保持された細胞を、ポートP9を介してバイオリアクターに戻した。また、使い捨ての圧力センサー(SciLog,USA)も、(ReadyMate(商標)継ぎ手を用いて)フィルターの前後及び透過液側に接続した。
【0051】
分析アッセイ
バイオリアクター及び回収ラインからの試料を毎日一回又は二回取った。バイオリアクター(揺動中)からの試料を即座に、生細胞の数(生存細胞密度、単位は百万生存細胞/mL(MVC/mL))及び細胞の総数(合計細胞密度、単位は百万細胞/mL)を計数するBioProfile Flex(Nova Biomedical,USA)で分析して細胞増殖をモニターし、平均細胞直径を測定した。試料中のグルタミン、アンモニア、グルコース、乳酸塩の濃度、pO2及びpCO2もBioprofile Flexで測定した。その後、バイオリアクターからの試料を3300rpmで5分遠心分離し、上清をEppendorfチューブに等分し、LDH分析のために−20℃及び−70℃にした。次いで、バイオリアクターからの試料を3300rpmで5分遠心分離し、Eppendorfチューブに等分し、−20℃に保った。試料中のmAb濃度はプロテインA HPLC法を用いて分析した。
【0052】
実施例1
ATF及びTFF灌流
CHO細胞増殖
CHO細胞を両方のろ過システム、すなわちATF又はTFFシステムで培養した。図10は、TFF灌流(図10A)及びATF灌流(図10B)培養中に得られた細胞密度、生存率及び灌流速度を示す。プロセス中2つの異なる種類の培養培地を用いた(HyClone PF−CHO Liquid Soy及びIS CHO−CD XP)。剪断応力を最小にするために、TFFシステムの外部のループ内の循環流量を0.3L/min、すなわち約1000s-1に設定した。このパラメーターにより、細胞のリアクターの外部にいる、すなわち室温である滞留時間を1min未満にすることも可能であった。ATFシステムの平均流量は全プロセス中1L/minであった。TFFシステムのバイオリアクターでは、4LのIS CHO−CD XP培地中に0.4MVC/mLを接種し、ATFシステムのバイオリアクターでは、Hyclone培地中に5MVC/mLを接種した。より高い細胞密度に迅速に達し、その後両方の培養を並行して比較することができるように、より高い接種を選択した。従って、両方のプロセスを比較する目的で、TFFシステムで使用したIS培地を11日の培養後Hyclone培地に変えた。IS培地を用いると、両方の培養間の比較が数日間、すなわちATF及びTFF培養でそれぞれ3〜6日目及び11〜18日目に可能であった。
【0053】
プロセスの初期、TFFシステムを用いた培養は、定常期のバッチ培養からとった接種材料のために貧弱な細胞増殖を示した。3日目、細胞密度が約2MVC/mLに達した時、灌流を開始し、約1.2〜1.5L/dに維持した。5〜6日目に灌流速度を1wv/日未満に減らし、培養培地の取扱いのため18日目に8時間灌流を停止した。Hyclone培地はその後18日目に新たなIS CHO−CDXP培地に変更した。
【0054】
8日間培養後、細胞密度を約20MVC/mLに維持するために最初のブリード(bleed, 抜き取り)を実施した。追加のブリードを9〜11、13〜15、17〜18、及び20〜21日毎日実施した。1日の灌流速度を計算するときにはブリード容積を考慮した。
【0055】
ATF培養では、バイオリアクターの接種直後に灌流を開始した。TFFシステムでは、灌流速度を約1.5wv/日に保ち、速度を計算するときにはブリードを考慮した。さらに、細胞密度を約20MVC/mLに維持することは、このプロセスで、4、6、7、9及び10日目に培養物のブリードを実施することによっても達成された。
【0056】
攪拌速度の増大
両方の培養で、DO制御は揺動スピードによって行った。先の実験により、CHO細胞濃度を約20MVC/mLに保つときDOをSP値(35%)付近に維持するのに必要とされる攪拌速度(22〜26rpm、7°)を決定することができた。入口ガスのO2の富化は、細胞が利用可能な酸素の量をさらに増大することが必要なときに使用した(表3及び4)。DO SP値を達成し、高い生存率(・95%)を維持するためのこれらのパラメーターの使用はATF及びTFFシステムの両方で確認された。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
細胞内代謝
TFFシステムの場合、11日目まで、IS培地中のグルコースの初期濃度は、Hyclone培地及びHyclone培地の後に使用したIS培地中の同濃度より高かった(約20mM)。これら後者におけるグルコースの初期濃度の20mMへの低下により、培養物中の乳酸塩の蓄積を低下させることが可能であった(20〜25mM対35mM)。これらの条件下で、残留グルコース濃度は低く3〜5mM付近のままであり、毎日行ったグルコースの注入を両方のシステムで15mMから22mMに増加した。TFFシステムでは残留グルコース濃度が増大したが、ATFシステムではグルコースの注入の増加はより高い残留グルコース濃度を達成するのに充分ではなかった。両方の培養培地中に存在するグルタミンの初期濃度は約4mMであった。両方のシステムで、2mMを達成するようにグルタミンの毎日の注入を行ったが、グルタミンは注入後毎日完全に排出された。アンモニアの蓄積は4〜5mM付近であり、これは通常毒性とは考えられない。従って、グルタミンの制限を回避するために、培養の最後の4日間グルタミンの標的を2mMから4mMに増大することに決定した。結果として、残留グルタミン濃度は少なくとも0.2mMより高く維持された。
【0059】
10〜15pg/細胞/dという組換えIgGの最大の比速度並びに200mg/L/dに近い容積測定生産性がATF及びTFFの両方のシステムで得られた。
【0060】
結論
本バッグはATF及びTFF灌流システムの両方で細胞増殖を非常に良好に支持した。酸素輸送はWAVEバイオリアクターで充分であり、システムのセットアップに制限は検出されなかった。いろいろな揺動/角度設定を使用し、いろいろな培地を試験した。結果はシステムのロバスト性を示している。毎日のブリードを用いてこの初期検討段階中の高過ぎる細胞密度を回避した。
【0061】
ATF及びTFFシステムの両方がIS培地又はHyclone培地を用いた細胞増殖及び生存率に関して等価な性能を有するようである。TFFシステムの場合、約20〜30MVC/mLの高い細胞密度で、高い生存率(・95%)が18日間維持された。興味深いことに、培養の最後の数日間揺動を8°に増大しても生存率に影響はなかった。すなわち、以前と同様90%超に維持された。
【0062】
実施例2
高密度ATF及びTFF灌流
CHO細胞増殖
IS培地を用いてTFF及びATFの両方のシステムでそれぞれ49日間及び27日間CHO細胞を培養した(図11及び12)。ATFシステムを用いた培養は27日間の培養後停止したが、TFFを用いた培養は22日間追加して続けた。先の培養と同様、必要に応じて消泡剤Cの添加を、最も一般的には3日又は7日毎に行った。両方のプロセスで、2日間の培養後、7日目まで1wv/dの灌流速度を使用した。ここでも、CHO細胞増殖及び生存率に関して同様な結果が得られた。実際、約20〜30MVC/mLのCHO細胞濃度及び95%を超える生存率が観察された。角度7°で22〜26rpmの攪拌速度により、SP値に近いDOの維持と高い生存率(・95%)の保持が可能であった。ATFシステムにおいて先の培養中使用した値、すなわち1L/minで流量を増大することが決定された。同一の条件で両方のろ過装置を評価するために、TFFの外部のループの流量も1L/minに増大したが、これは3400s-1の剪断応力値に相当する。さらに、ATFシステムにおける高い生存率を維持する目的で、灌流速度を1.5L/minに増大した。
【0063】
TFFシステムでは、再循環流量を0.7L/minから1L/minに増大してもCHO細胞増殖及び生存率に影響はなかった。従って、この流量を使用して、細胞の高い生存率を得ることが可能である。灌流速度は1.5wv/dからそれぞれATF及びTFF培養の培養終了時の4及び5wv/dまで次第に増大した。ATFを用いた培養の最後の3日間、灌流速度を4wv/dに増大したが、生存率は増大せず(88〜90%付近)、不十分な細胞増殖が観察された。この結果は16.5〜17.5μmから18〜18.5μmへの細胞の平均細胞直径の増大と関連していた。従って、細胞の状態は両方のろ過システムでもはや同等ではないように見えたので、ATF培養の中止を決定した。
【0064】
驚くべきことに、TFFシステムでは、灌流速度を5wv/dに増大すると非常に高い細胞密度、すなわち約100MVC/mLが得られた。23日目以降、80〜105MVC/mLというこれらの高い細胞密度を維持するためにブリードを毎日実施した。すると、これらの高い細胞濃度(約100MVC/mL)は1週間高い生存率(92〜95%)で維持された。この後、細胞密度は120〜130MVC/mLに増大し、毎日のブリードによりさらに1週間94%より大きい細胞生存率を維持しつつ維持することができた。言い換えると、培養は100MVC/mLより大きい細胞密度及び94%より大きい細胞生存率で2週間以上安定に保たれた。その後、灌流速度をさらに10RV/日まで増大したところ、驚くべきことに、200MVC/mLを超える細胞密度が最大214MVC/mLで観察され、一方細胞生存率は94%より大きかった。この極めて高い細胞密度は2日間保たれ、その後灌流速度を再び低下させた。合計で、TFF培養は灌流バッグを用いて49日間行った。
【0065】
【表4】
細胞内代謝
両方のシステムで、より高い細胞密度に達したとき、グルコースの制限を回避するために、毎日行ったグルコースの注入を増やした。乳酸塩の蓄積は35〜40mMを越えなかった。かかる濃度は細胞に対して毒性とは考えられない。両方の培養培地中に存在するグルタミンの初期濃度は約4mMであった。グルタミンの注入を増大したけれども、培養中にグルタミンの幾らかの制限が起こった。培養の最後の数日の間、制限を回避するために実際に注入を増やした。アンモニアの蓄積は両方の培養で4mMに近く、約100MVC/mLの細胞密度がグルタミン添加の増大を必要としたときのTFF培養ではさらにより高かった(約7mM)。
【0066】
IgG産生
10〜15pg/細胞/dの組換えIgGの最大の比速度及び200mg/L/dに近い容積測定生産性が得られた。TFFシステムを用いて同様な結果が20日目まで得られた。
【0067】
結論
2つのS字形管状バッフル/浸漬管を有する図5のバッグは、細胞分離のためにATF及びTFF方策を用いることによりWAVEバイオリアクターシステムで外部の灌流を支持することが繰り返し示されている。また、発泡又はフィルターの目詰まりの問題なくTFFシステムで極度の細胞密度に達することが可能であることが示されている。
【0068】
ATFを用いた2つの培養実験とTFFを用いた2つの培養実験を行った。4つの最初の実験(ATF及びTFF)の間、細胞密度は毎日の細胞ブリードにより20〜30MVC/mLに維持された。この細胞密度で健全な細胞増殖を可能にするためには1.5wv/日の灌流速度が必要であった。Irvine Scientific,IS(給餌濃縮物補充を伴うか伴わないで使用した)及びHycloneの2つの市販の培地を用いて匹敵する細胞増殖及び生存率が得られ、これらのシステムが培地の改変に対して堅牢であることを示した。
【0069】
TFFシステムを用いて、100MVC/超の細胞密度が5wv/日で達成された。この細胞密度は2週を越えて保たれ、毎日の細胞ブリードで維持された。さらに、灌流速度を10wv/日に増大すると、>200MVC/mL、最高214MVC/mLの極めて高い細胞密度が得られた。この結果は予想外であり、バッフル付きのバッグでないと達することができなかったものである。このTFFシステムで、1つの中空糸カートリッジは詰まることなく4週間使用された。中空糸カートリッジのこの長い寿命は、おそらく、この培養物が絶えず増殖しており、3週間の間優れた生存率(・94%)を維持したという事実に記することができよう。ATFシステムを用いた実験を並行して行った。このシステムを用いて、46MVC/mLの最大細胞密度が達成された。
【0070】
本明細書では、最良の態様を含めて本発明を開示し、また当業者がいずれのデバイス又はシステムも作り使用し、そして任意の援用された方法を実行することを含めて本発明を実施できるようにするために、例を使用した。本発明の特許性のある範囲は特許請求の範囲に定義されており、当業者には自明の他の例を包含し得る。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない等価な構造要素を含む場合、特許請求の範囲内に入ると考えられる。個々の実施形態及び/又は態様の要素及び特徴を組み合わせて別の実施形態を創成し得ることに留意されたい。
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