(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923667
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】工業用織物の接合構造
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20160510BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20160510BHJP
D21F 1/12 20060101ALI20160510BHJP
D21F 7/10 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
D03D1/00 D
D03D11/00 Z
D21F1/12
D21F7/10
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-528181(P2015-528181)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2014064697
(87)【国際公開番号】WO2015011992
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2015年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-152184(P2013-152184)
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117145
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 純
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 努
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史仁
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭57−106797(JP,U)
【文献】
実開昭59−017798(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00−27/18
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の工業用織物を形成するために有端状の織物の両端を接合するための構造において、織物を構成する経糸の一部又は全端部を両端部で曲成して折り返すことによりループを形成し、片端部のループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を形成する接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部のループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有し、かつ芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする工業用織物の接合構造。
【請求項2】
前記接合用ループは略垂直方向に曲成してループが形成され、前記ループホールは略水平方向に曲成してループが形成され、かつ接合の際に芯線に掛止されることを特徴とする請求項1に記載された工業用織物の接合構造。
【請求項3】
前記片端部において、接合用ループとループホールとが交互に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された工業用織物の接合構造。
【請求項4】
前記工業用織物が緯糸及び経糸を多層に配置した構造であって、片端部における上面側経糸により形成されたループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を有した接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部における上面側経糸により形成されたループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有する芯線を挿通しないループホールであり、他端部における下面側経糸により形成されたループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を有した接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる片端部における下面側経糸により形成されたループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有し芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載された工業用織物の接合構造。
【請求項5】
前記片端部における上面側経糸の全端部が接合用ループであり、前記他端部における上面側経糸の全端部がループホールであり、前記他端部における下面側経糸の全端部が接合用ループであり、前記片端部における下面側経糸の全端部がループホールであることを特徴とする請求項4に記載された工業用織物の接合構造。
【請求項6】
前記工業用織物が、上面側経糸、下面側経糸、上面側緯糸、下面側緯糸、緯糸接結糸、補助緯糸からなる二層織物であることを特徴とする請求項4又は5に記載された工業用織物の接合構造。
【請求項7】
前記上面側経糸がフッ素系樹脂によって形成されており、下面側経糸が上面側経糸以外の材料で形成されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一に記載された工業用織物の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用織物、不織布製造用織物、汚泥等の脱水や搾水に用いられる織物、建材製造用ベルト、コンベアベルト等の無端状の工業用織物の接合構造に関し、接合用ループとそれに対応したループホールを形成することによって、有端状の工業用織物を機械に装着し、無端状の織物に加工する作業を安定的かつ簡便化することができ、結果的に作業時間の短縮を可能とした工業用織物の接合構造に関する。更に上面側織物がフッ素樹脂の糸によって形成されている織物のループ形成部において下面側経糸の表面への露出を防止し、ループ形成部における網厚を普通部と同程度とする工業用織物の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用織物としては、例えば抄紙用織物や抄紙用キャンバス等の製紙用織物、不織布製造用織物、汚泥脱水用織物、建材製造用ベルト、コンベアベルト等多くのものが知られている。これらの工業用織物は、無端状に加工され、抄紙機や脱水機等のそれぞれの機械に取り付けられて使用されているのが現状である。
ここで、工業用織物を無端状に加工する方法としては、いわゆる織継による方法、両端部に工業用織物自体の経糸を使用して形成したループを噛み合わせた後に当該ループの共通孔に接合用の芯線を挿通することによる方法、織物の両端部に設置したスパイラル状ループを噛み合わせて芯線を挿通することによる方法、又はクリッパーレーシングと呼ばれている織物の両端部に取り付けた金属製フックを噛み合わせて芯線を挿通することによる方法等、等が挙げられる。そして、これらの多くの周知の方法は、それぞれの用述に応じて採用されている。
【0003】
中でも工業用織物の端部に形成したループを噛み合わせて無端状にする方法では、接合用の芯線を挿入したり抜き取ったりすることにより、織物を自由に無端状や有端状に形成することが可能である。ここで織物を自由に無端状や有端状に形成することが可能であれば、使用する装置に取り付ける際に有端状の状態で装置のロール間に掛け渡した後、装置に掛け渡した状態で織物を無端状に形成することができ、装置への織物の取り付けを非常に容易にかつ効率的に行うことができる。
【0004】
例えば、古い使用済みの工業用織物を装置に取り付けられている状態で有端状にした後、その一端にこれから取り付ける新しい工業用織物の一端を接合し、装置を作動することができる。これにより工業用織物を装置のロール間を移動させて掛け渡し、織物が1周して全体に掛け渡った状態を確認した後に、古い工業用織物を取り外して、新しい工業用織物を無端状に形成して取り付けることができる。
これに対し、自由に無端状や有端状に形成することが不可能な織継方法の場合は、装置におけるロールを片側で支え、反対側の邪魔になる支柱等を取り外して工業用織物を装置の片側から巾方向に向かって挿入して掛け入れる、いわゆるカンチレバー方式によって行なわなければならなかった。しかし、カンチレバー方式で織継方法を行うには、機械自体に織物を脱着するための特殊な構造が必要となり、機械の製造コストが高くなる欠点があった。又、装置が大型になる欠点や、広い設置スペースが必要となる等の欠点も指摘されていた。更に、重量が大きかったり非常に長い工業用織物を使用する場合には、織物を挿入するのが困難であり不向きであった。
【0005】
そのため表面平滑性が非常に重要視される製紙機の抄造部で使用される抄紙用織物を除いて上記カンチレバー方式はほとんど採用されていないのが実状である。従って、無端状の織物を形成する方法としては、再度有端状に形成することが可能な、端部にスパイラル状ループを形成する方法や金属製フックを形成する方法が採用されている。
ところが、上記方法では工業用織物を形成する糸とは全く異なる構造及び材料である別体のスパイラル線や金属製フックを取り付けることになる。又、ループを形成する場合においてもループ形成部と普通部とが異なっており、端部からループが突出して形成されている状態であり、接合部の構造が普通部と全く異なることになる。
【0006】
このような問題点に鑑みて、織物を構成する経糸を端部で折り返して複数の接合用ループを形成し、かかる複数の接合用ループを並べて形成された穴を揃えた後に芯線を挿通する特許文献1又は2に記載された工業用織物の接合ループ構造が提案された。
図6は、このような工業用織物の従来技術における接合構造の一例を示す平面写真である。
図6に示す如く、ループの共通孔には芯線が挿通されている。
しかし、このような工業用織物の接合ループ構造では、無端状に加工する前に、複数の接合用ループを並べて、ループによって形成された芯線を挿通する穴を揃える工程が必要となる。この際、一つでもループの穴の位置がずれると芯線の挿通が円滑に行えない。また、ループが外れたまま芯線を挿通すると、上層面に接合用ループが飛び出したり、隙間が発生するという問題がある。このような欠陥は、マーキングや剛性の低下等といった重大な問題を引き起こす要因となっていた。
そのため複数の接合用ループを並べて、芯線を挿通する穴を揃える作業には、高度な技能と時間がかかり、無端状に加工する作業の難易度を押し上げ、結果的に接合作業が長時間に及ぶ要因となっていた。
【0007】
また、工業用多層織物においては、上面側経糸によって形成された接合用ループと、下面側経糸によって形成された接合用ループとが、ループ形成部において重なり合うことから、織物の網厚が普通部よりも厚くなっていた。
そして、現在知られている工業用織物の接合構造では、上記の問題点を解決することができなかった。
さらに、現在の工業用織物においては、汚れ対策のために上面側織物をフッ素系樹脂等の防汚機能を有した糸で構成し、下面側織物には剛性等の物性面における要求特性を満たすためポリエチレンテレフタレート(PET)等の一般糸を使用することが知られている。
このような工業用織物の両端部の接合構造として、ループを形成する方法を採用すると、ループ形成部と普通部の構造が異なっている点が問題となる。すなわち、ループ形成部における強度を高めるために上面側経糸に加え下面側経糸でもループ部を形成することになるが、ループ形成部において、PET等で形成された下面側経糸が表面に露出することになり、接合部における汚れ防止の効果が劣るという問題点が指摘されていた。
【0008】
一方、特許文献2に記載された接合部の如く、ループ形成部を積極的に上面側緯糸で隠す接合用ループ構造が知られている。しかし、特許文献2に記載された接合用ループに係る発明は、下面側織物の表面に露出しないという点に配慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−36157号
【特許文献2】特許3938817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有端状の工業用織物を機械に装着し無端状に加工する作業を、従来の接合作業と比較して高度な技能を必要とせず、安定かつ簡便に行うことができ、結果的に作業時間の大幅な短縮を可能とする工業用織物の接合構造を提供することを目的とする。
また本発明は、上面側経糸をフッ素樹脂等の防汚機能を有する糸で形成した場合において、接合強度を低下させることなく、接合部における織物の表面における汚れを防止する工業用織物の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
(1)無端状の工業用織物を形成するために有端状の織物の両端を接合するための構造において、織物を構成する経糸の一部又は全端部を両端部で曲成して折り返すことによりループを形成し、片端部のループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を形成する接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部のループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有し、かつ芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする工業用織物の接合構造である。
(2)前記接合用ループは略垂直方向に曲成してループが形成され、前記ループホールは略水平方向に曲成してループが形成され、かつ接合の際に芯線に掛止されることを特徴とする上記(1)に記載された工業用織物の接合構造である。
(3)前記片端部において、接合用ループとループホールとが交互に配置されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載された工業用織物の接合構造である。
【0012】
(4)前記工業用織物が緯糸及び経糸を多層に配置した構造であって、片端部における上面側経糸により形成されたループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を有した接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部における上面側経糸により形成されたループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有する芯線を挿通しないループホールであり、他端部における下面側経糸により形成されたループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を有した接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる片端部における下面側経糸により形成されたループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有し芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載された工業用織物の接合構造である。
【0013】
(5)前記片端部における上面側経糸の全端部が接合用ループであり、前記他端部における上面側経糸の全端部がループホールであり、前記他端部における下面側経糸の全端部が接合用ループであり、前記片端部における下面側経糸の全端部がループホールであることを特徴とする上記(4)に記載された工業用織物の接合構造である。
(6)前記工業用織物が、上面側経糸、下面側経糸、上面側緯糸、下面側緯糸、緯糸接結糸、補助緯糸からなる二層織物であることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載された工業用織物の接合構造である。
(7)前記上面側経糸がフッ素系樹脂によって形成されており、下面側経糸が上面側経糸以外の材料で形成されていることを特徴とする上記(4)乃至(6)のいずれか一に記載された工業用織物の接合構造である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る工業用織物の接合構造は、有端状の工業用織物を機械に装着し無端状に加工する作業を、従来の接合作業と比較して高度な技能を必要とせず、安定かつ簡便に行うことができ、結果的に作業時間の大幅な短縮を可能とする優れた効果を奏する。
また本発明に係る工業用織物の接合構造を採用することによって、上面側経糸をフッ素樹脂等の防汚機能を有する糸で形成した場合において、接合強度を低下させることなく、接合部における織物の表面における汚れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態1に係る接合構造の一例を示す部分斜視図である。(a)は接合前における接合用ループとループホールを表わす、(b)は実施形態2に係る接合構造を示す部分斜視図である。
【
図2】実施形態1における接合構造の一例を示す部分平面図である。
【
図3】本発明の実施形態1における接合構造を示す平面部分写真である。
【
図4】本発明の実施形態2における織物の両端部における接合構造を示す断面図である。(a)が接合構造の全体を示す図であり、(b)が上面側経糸により形成された接合用ループ、(c)が下面側経糸により形成されたループホール、(c)が上面側経糸によって形成された他端部における接合用ループホール、(d)が下面側経糸により形成された他端部のループホールを示す。
【
図5】本発明の実施形態2に係る工業用織物の接合構造を示す表面側の平面実態図である。
【
図6】従来の工業用織物における接合ループ構造を示す平面部分写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る工業用織物の接合構造を説明する。その後、図面を参照して本発明の工業用織物の接合構造に係る実施形態を詳述する。
本発明に係る工業用織物の接合構造は、織物を構成する経糸の一部又は全端部を両端部で曲成して折り返すことによりループを形成し、片端部のループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を形成する接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部のループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有し、かつ芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする。
【0017】
ここで接合用ループとは、有端状の織物を無端状にする際に挿通される芯線が挿通される織物のマシン走行方向に垂直に並設された一以上の穴のことである。すなわち芯線等を挿入するための共通孔を形成するループを意味し、端部の緯糸を押える機能のみの単に折り返された経糸を意味するものではない。接合用ループは略垂直方向にループを形成するように予め曲成しておくのが良い。その方が芯線を挿入しやすいためである。
そして、織物における経糸の端部を曲成して折り返し、複数の緯糸に折り返された経糸の端部を編み込むことによって形成しても良い。すなわち通常はループを形成して折り返された経糸は、普通部(接合部ではない織物の部分をいう。以下同じ。)の隣接する経糸が存在すべきところに織り込まれて、普通部の適当な部分で切断されている隣接する経糸と突き合わされる。ループを形成して折り返された経糸を、隣接しない離れた経糸部分に織り込んでもよいし、隣接する2本の経糸と経糸の間に織り込んでもよい。又、接合用ループやループホールを形成しない経糸が含まれる場合も折り返して止めを形成した後に同様に織り込むことができる。なお、ループを形成しない経糸については折り返さずに、普通部の途中や端部で単に切断するだけでもよい。
【0018】
また、ループホールとは、前記接合用ループとは相違し、前記芯線が挿通されないものである。ループホールも接合用ループと同様に織物のマシン走行方向に並設される一以上のループであるが、前記接合用ループと相対し接合の際に対となる織物の他端部における経糸によって形成されることになる。他端部における経糸の端部を曲成して折り返し、複数の緯糸に折り返された経糸の端部を編み込むことによって形成しても良い。
かかるループホールは、前記接合用ループを嵌め込んで係止する構造を有している。前記接合用ループ及びループホールの形状は、ループホールが接合用ループを嵌め込む構造であれば、どのような構造であっても良い。例えば、前記接合用ループを略垂直方向に曲成してループを形成し、前記ループホールを略水平方向に曲成してループを形成すれば良い。更にループホールは、接合の際に芯線に掛止される構造となっているのが特に好ましい。
【0019】
上記接合構造を採用することにより、マシン方向に並設された一以上のループホールに、芯線が挿通される接合用ループが嵌め込まれて固定されるため、従来技術では必須となっていた無端状に加工する際に、複数の接合用ループを並べて保持する必要がなくなる。そのため、接合用ループの穴の位置のずれが大幅に軽減されるため、有端状の工業用織物を機械に装着し無端状に加工する作業を、従来の接合作業と比較して高度な技能を必要とせず、安定かつ簡便に行うことが可能となる。そのため無端状に加工する作業にかかる時間を大幅に短縮することが可能となる。
又、本発明に係る工業用織物の接合構造は、片端部における経糸の全端部を接合用ループとしても良い。更に、他端部における経糸の全端部がループホールとしても良い。もちろん、片端部における経糸の一部を接合用ループやループホールで形成し、ループを形成しない経糸については折り返さずに、普通部の途中や端部で単に切断するだけでもよい。
【0020】
本発明に係る工業用織物の接合構造は、緯糸及び経糸を多層に配置した有端状の工業用織物を接合するための構造において、織物を構成する経糸の一部又は全端部を両端部で曲成して折り返すことによりループを形成し、片端部のループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を形成する接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部のループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有し、かつ芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする。
特に本発明は、片端部における上面側経糸により形成されたループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を有した接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる他端部における上面側経糸により形成されたループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有する芯線を挿通しないループホールであり、他端部における下面側経糸により形成されたループが接合の際に芯線を挿通する共通孔を有した接合用ループであって、当該接合用ループと相対し接合の際に対となる片端部における下面側経糸により形成されたループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得る構造を有する芯線を挿通しないループホールであることを特徴とする。
又、2本の芯線を挿入するために接合用ホールが並んで配置される箇所を二箇所形成することもできる。このような構成においては、片端部における少なくとも上面側経糸の端部において、上面側経糸による接合用ループと下面側経糸によるループホールを交互に配置し、その隣りには他端部において上面側経糸によるループホールと下面側経糸による接合用ループを交互に配置すると良い。
【0021】
本発明に係る織物に使用される糸としては、工業用織物に望まれる特性によって自由に選択でき特に限定されない。例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や崇高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーン、タスラン糸と称される加工糸、モール糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸等が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状、星型等の矩形状、偏平形状、楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の性質としても、自由に選択でき、ポリエステル、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、綿、ウール、金属等が使用できる。勿論、共重合体やこれらの性質に目的に応じて色々な物質をブレンドしたり含有させた糸を使用してもよい。特に上層緯糸にスパンヤーン、捲縮加工や崇高加工等を施した加工糸、モール糸等の柔軟性があって見掛け線径が太い糸を用いると、上層面がこれらの糸で覆われやすくなるため、より普通部と接合部の差異を上層側から見たのではわからない程度まで近付けることができ好適である。
【0022】
本発明に使用される糸は用途によって選択すればよいが、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらをより合わせるなどして組み合わせた糸が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状や星型等の短形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、自由に選択でき、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロ、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じてさまざまな物質をブレンドしたり含有させた糸を使用しても良い。一般的に不織布用織物を構成する糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。
【0023】
更に本発明に係る接合構造においては、上面側経糸をフッ素系樹脂によって形成するのが好ましい。この場合、上面側織物を構成する上面側経糸のみではなく、上面側緯糸及び上面側浮糸、場合によっては上面側接合用ループに挿通される芯線をフッ素樹脂によって形成された糸で形成しても良い。このようなフッ素樹脂としては、防汚性の高いフッ素を含有する複合樹脂であれば良いが、例えば、ポリテトラフロロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフロロエチレン−パーフロロビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン−テトラフロロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフロロエチレン共重合体(ECTFE)から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。特にETFEが防汚性、コストの面から適している。
【0024】
なお、フッ素樹脂原料(水分散液)中にシリコン樹脂を含ませておくと柔軟性の面で更に好ましい。又、フッ素樹脂原料(水分散液)中に各種顔料を添加しておくと、織物表面の色を任意に変えることができる。
又、本発明に係る織物の構造としては、経糸一層緯糸一層構造や、経糸一層緯糸二層構造、経糸一層緯糸三層構造等がある。
更に本発明に係るフッ素樹脂を採用する工業用織物については、上面側織物と下面側織物とを緯糸接結糸により接結した二層織物であるのが好ましい。例えば、上面側織物をフッ素樹脂等で形成した場合、接結糸はフッ素系樹脂等よりも強度の高いPET等の糸で形成することができる。ここで、接結糸を緯糸接結糸とすることによって、接結糸が表面に露出しない内部接結を採用することができる。すなわち、フッ素系樹脂等のみで形成された上面側織物の表面に、PET等の糸が露出することを防止することができるという、より大きな効果を奏することができる。
【0025】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態1
図1は、本発明に係る工業用織物の接合構造の一例を示す部分斜視図である。本発明に係る工業用織物の接合構造1は、織物を構成する経糸を両端部で曲成して折り返すことによりループが形成されている。
図1(a)に示す如く、本発明に係る接合構造1は、接合の際に芯線を挿通する共通孔3を形成する接合用ループ2と、前記接合用ループ2と相対するループホール5とから構成されている。
図1(b)に示す如く、ループホール5は前記接合用ループ2を嵌め込んで係止し得る構造を有している。ここで接合用ループ2は、図示しない芯線を挿通する共通孔3を有しているが、ループホール5は芯線を挿通せず、接合用ループ2を嵌め込む構造を有していることを特徴とする。
このように接合用ループ2を相対する織物の他端部のループホール5に嵌め込むことによって、接合用ループ2の共通孔3の位置を固定することができる。
【0026】
図2は、実施形態1における工業用織物の接合構造の一例を示す部分平面図である。
図2に示す如く、
織物を構成する経糸2,5を両端部で曲成して折り返すことによりループを形成し、片端部のループが接合の際に芯線を挿通する共通孔3を形成する接合用ループ2であって、前記接合用ループ2と相対し接合の際に対となる他端部のループが前記接合用ループを嵌め込んで係止し得るループホール5である。かかる接合用ループ2を相対する織物の他端部のループホール5に嵌め込んだ後、共通孔3に芯線7を挿通することによって、有端状の工業用織物を無端状の織物に加工することができる。ここで実施形態1における工業用織物の製造構造においては、
図2に示す如く、ループホール5が芯線7に上部側から掛止されているのが分かる。更に
図2に示す如く、本実施形態1における工業用織物の接合構造は、前記接合用ループ2が略垂直方向に曲成したループとなっており、前記ループホール5が略水平方向に曲成したループとなっている。
【0027】
なお、
図2において、符号8は、緯糸である。織物における経糸2,5の端部は曲成されて折り返され、複数の緯糸8,8に折り返された経糸の端部を編み込むことによって形成されている。
このような接合構造を採用することにより、マシン方向に並設された一以上のループホール5に、芯線が挿通される接合用ループ2が嵌め込まれて固定されるため、接合用ループ2の共通孔の位置のずれが大幅に軽減されるため、有端状の工業用織物を機械に装着し無端状に加工する作業を、高度な技能を必要とせず、安定かつ簡便に行うことが可能となる。そのため無端状に加工する作業にかかる時間を大幅に短縮することが可能となるのである。
【0028】
図3は、本発明の実施形態1における接合構造を示す平面部分写真である。
図3に示されるループ接合部が、実施形態1における工業用織物の接合構造を有している。
図3に示す工業用織物の製造構造を採用することより、有端状の工業用織物を機械に装着し無端状に加工する作業を、
図6に示す従来の接合構造と比較して高度な技能を必要とせず、安定かつ簡便に接合作業を行うことができ、結果的に作業時間の大幅な短縮が可能となる。又、
図3に示された写真から明らかなように、織物の両端が近接することによって、
図6のような隙間を低減することができるため、本発明の実施形態1に係る工業用織物は、織物の接合部におけるマーキングを従来技術に比較して大幅に低減することができる。
【0029】
実施形態2
図4は、本発明に係る工業用織物の接合構造10の一例を示す断面図である。(a)が接合構造10の全体を示す図であり、(b)が上面側経糸14により形成された接合用ループ11、(c)が下面側経糸16により形成されたループホール25、(d)が上面側経糸14によって形成された他端部における接合用ループホール21、(e)が下面側経糸16により形成された他端部の接合用ループ15を示す。
本発明に係る工業用織物の接合構造10は、
図4(a)に示す如く、上面側経糸14と下面側経糸16を、緯糸18と上面側補助緯糸20と下面側補助緯糸22と緯糸接結糸26と織り合せることによって形成されている。各経糸の構造は以下のとおりである。
図4(b)に示す如く、片端部における上面側経糸14により形成されたループが接合の際に芯線17を挿通する共通孔12を有した接合用ループ11である。前記上面側経糸14は、フッ素系樹脂によって形成されている。
また、
図4(d)に示す如く、上記接合用ループ11と相対し接合の際に対となる他端部における上面側経糸14により形成されたループが前記接合用ループ11を嵌め込んで係止し得る構造を有する芯線17を挿通しないループホール21である。
【0030】
また、
図4(e)に示す如く、他端部における下面側経糸16により形成されたループが接合の際に芯線27を挿通する共通孔22を有した接合用ループ15である。
図4(c)に示す如く、かかる接合用ループ15と相対し接合の際に対となる片端部における下面側経糸16により形成されたループが前記接合用ループ15を嵌め込んで係止し得る構造を有し芯線27を挿通しないループホール25である。前記下面側経糸16は、剛性に優れたポリエステルによって形成されている。
このように接合用ループ11,15を相対する織物の他端部のループホール21,25に嵌め込むことによって、接合用ループ11,15の共通孔12,22の位置を固定することができ、芯線17,27を通す作業を簡便化できる。
【0031】
図5は、本発明の実施形態2における接合構造を示す平面図である。
図5に示されるループ接合部が、実施形態2における工業用織物の接合構造を有している。
図5に示す如く、本発明に係る工業用織物の接合構造は、片端部における上面側経糸14により形成されたループが接合の際に芯線17を挿通する共通孔を有した接合用ループ11である。かかる上面側経糸14は、フッ素系樹脂によって形成されている。
また、上記接合用ループ11と相対し接合の際に対となる他端部における上面側経糸14により形成されたループが前記接合用ループ11を嵌め込んで係止し得る構造を有する芯線を挿通しないループホール21である。
平面図であるため、下面側経糸の構造は看取し得ないが、
図4(c)及び(e)で説明したように形成され、芯線27が挿通された接合構造が形成されている。下面側経糸は剛性に優れたポリエステルによって形成されている。
このような接合構造を採用することより、有端状の工業用織物を機械に装着し無端状に加工する作業を、
図6に示す従来の接合構造と比較して高度な技能を必要とせず、安定かつ簡便に接合作業を行うことができ、結果的に作業時間の大幅な短縮が可能となる。又、
図5に示された平面図から明らかなように、織物の両端が近接することによって、
図6に見られる接合部における隙間を低減することができるため、本発明の実施形態2に係る工業用織物は、織物の接合部におけるマーキングを従来技術に比較して大幅に低減することができる。
また、本発明の実施形態2における接合構造を採用することによって、上面側経糸をフッ素樹脂の防汚機能を有する糸で形成し、下面側経糸を剛性に優れたポリエステルによって形成していることから、接合強度を低下させることなく、接合部における織物の表面における汚れを防止することができる。
【符号の説明】
【0032】
1,10 実施形態に係る工業用織物の接合構造
2,11,21 接合の際に芯線を挿通する共通孔を形成する接合用ループ
3,12,22 共通孔
5,16,18 接合用ループと相対し接合の際に対となるループホール
7 芯線
8 緯糸
20 上面側補助緯糸
22 下面側補助緯糸
26 緯糸接結糸