【実施例】
【0046】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<老化防止剤の製造>
(実施例1,2)
中国産生RJ(固形分32.7%)8gに水45mlを加えて5分間攪拌し、RJ希釈液を調製した。次に、前記RJ希釈液に、バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼ(天野エンザイム社製プロテアーゼN)を25mg添加し、至適pHである7.0に調整した後、50℃で14時間反応させた。反応終了後、98℃で5分間加熱することにより酵素失活工程を行い、酵素処理RJを調製した。
【0047】
次に、上記酵素処理RJを含有する水溶液(固形分20g相当)を、ODSカラムクロマトグラフィー(内径10cm×長さ60cm)に付した。クロマトグラフィー担体としてクロマトレックスODS−DM1020T(富士シリシア化学社製)を使用した。
【0048】
次に、溶出用溶媒として水、水とメタノールの混合液、及びメタノールを使用し、段階的に溶出させた。最初に水1L通過させ、次に水:メタノール=70:30の混合液1L、次に水:メタノール=40:60の混合液を1L、最後に100%メタノール1Lを順に通過させた。水を用いて処理を行った際に得られた画分(酵素処理RJをODSカラムに付した際の通過成分を含む)を凍結乾燥し、得られた粉末状成分(15g)を実施例1の老化防止剤とした。水:メタノール=70:30の混合液を用いて溶出処理を行った際に得られた溶出画分を凍結乾燥し、得られた粉末状成分(3.8g)を実施例2の老化防止剤とした。
【0049】
(
参考例3)
10HDA(Alfresa Pharma社製)を老化防止剤の有効成分として使用した。
(
参考例4)
中国産生RJ(固形分32.7%)を
参考例4として使用した。
【0050】
(
参考例5)
実施例1において調製された酵素処理RJを凍結乾燥した。得られた粉末状の試料を
参考例5として使用した。
【0051】
(比較例1)
参考例4のRJ1kgに水1L、ヘキサン2L及びエタノール4Lからなる混合溶媒を加えて、混合液を調整した後、室温で12時間混合しながら抽出処理した。次に、混合液をろ紙(アドバンテック東洋製No.2)でろ過した後、ろ液を加圧下で濃縮し、比較例1として使用した。尚、収率は16%であった。
【0052】
(比較例2)
比較例1において、ろ紙でろ過された残渣について、減圧乾燥した後、5%エタノールで混合した。混合後の上清を凍結乾燥した。得られた粉末を比較例2として使用した。尚、収率は40.9%であった。
【0053】
<線虫C.エレガンスを用いた寿命延長試験>
(線虫の調製)
NG培地上でEscherichia coli strain OP50を培養し、NGM培地(nematode growth medium)とした。次に、このNGM培地上で、線虫C.エレガンス(Caenorhabditis elegans)を大量に飼育した。野生体としてN2 Bristol Strainを使用した。変異体としてCF1038daf−16(mu86)I変異体を使用した。
【0054】
同一生育ステージのC.エレガンスを得るため、大量飼育した個体群より採卵した。すなわち、次亜塩素酸ナトリウムに大量の成虫を浸漬し、成虫の体表を溶かすことにより卵だけを得た。孵化してきた幼虫を集め、NGM培地上でL4脱皮期になるまで飼育した。次世代幼虫の孵化遊出を抑制する目的で5−フルオロ−2’−デオキシウリジンを培地に添加した。L4脱皮期に移行した日を寿命試験の0日としてカウントする。
参考例4,5、比較例1で得られた検体は、エタノールに溶解した。比較例2、実施例1,2で得られた検体は、水に溶解した。
参考例3の10HDAはDMSOに溶解した。各試験試料を表1,2に示す各固形分濃度になるようにNGM培地に添加した。C.エレガンスを検体添加培地の上で飼育し、その寿命の変動を調査した。その結果を表1,2に示す。表1,2は各検体を投与した個体群の寿命曲線から得られた平均寿命、個体群の75%生存寿命、及び最大生存寿命の各日数を表す。尚、統計学的解析は、Kaplan−Meier法により行い、log−rank testにより検定した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
表1に示されるように、実施例1,2の試料は、ODSカラムを通過させる前のRJ及びRJを酵素処理した
参考例4,5と比べ寿命が延長していることが確認された。ODSカラムから30容量%メタノール溶液で溶出させた画分からなる実施例2は、水を用いて溶出させた画分からなる実施例1より優れた寿命延長効果が認められた。RJから得られた油溶性の画分である比較例1と水溶性の画分に相当する比較例2は、ともに寿命延長効果は認められなかった。表2に示されるように、RJ含有成分である10HDAを使用した
参考例3は、濃度依存的な寿命延長効果が認められた。
【0057】
<DNAマイクロアレイによる解析>
線虫の遺伝子は、全遺伝子配列(約19000個)が明らかにされている。RJにより発現が変化する線虫の遺伝子を明らかにし、寿命に関連する遺伝子を見出す為にDNAマイクロアレイによる解析を行った。
【0058】
実施例2において、寿命の延長効果が認められた濃度(25μg/mL)にて24時間処理した線虫(野生体使用)とコントロールの線虫を採取し、ショ糖濃度勾配法にて餌の大腸菌と分離した。分離した線虫を細胞破砕機(Precellys24:Bertin Technology社製)にて粉砕し、PureLink RNA Mini Kit(Invitrogen社製)にて総RNAを抽出した。DNAマイクロアレイは、C.elegans Gene Expression Microarray(Agilent社製)を使用した。網羅的遺伝子発現解析により、遺伝子の発現量が変化する遺伝子を複数種類同定した。それらの中に、寿命関連遺伝子であると考えられているインスリン/IGF−1シグナル伝達系に関与する遺伝子として、ins−20、dod−3、dod−19、dao−4、fkb−4、及びins−9が含まれていることが確認された。
【0059】
<定量的リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現量の解析>
DNAマイクロアレイによる解析により、遺伝子の発現量が変化する遺伝子として見出されたins−20、dod−3、dod−19、dao−4、fkb−4、及びins−9の各遺伝子について、定量的リアルタイムRT−PCRを用い、遺伝子発現量について解析した。
【0060】
まず、全RNAをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社製)を用いてcDNAへ逆転写を行った。Thermal Cycler Dice Real Time System(Takara社製)を用いて、SYBR Premix Ex Taq II(Perfect Real Time)(Takara社製)によりリアルタイムPCRを行った。プライマーは表3に示されるものを使用した。結果を
図1,2に示す。尚、グラフ中の縦軸の遺伝子の発現量は、対コントロール比を示す。グラフ中、
*;p<0.05、
**;p<0.01(対コントロール)を示す。
【0061】
【表3】
図1,2に示されるように、インスリン/IGF−1シグナル伝達系に関与するins−20及びdod−3の各遺伝子の発現量の増加が確認された。また、インスリン/IGF−1シグナル伝達系に関与するdod−19、dao−4、fkb−4及びins−9の各遺伝子の発現量の減少が確認された。
【0062】
ところで、インスリン/IGF−1シグナル伝達系は、
図3に示されるように、インスリン受容体daf−2を介し、最終的にdod−3等の遺伝子の発現量が変化することにより長寿命の効果が発現するものと考えられている。インスリン/IGF−1シグナル伝達系におけるインスリンシグナルの低下により発現するFOXO転写因子のホモログとしてdaf−16の遺伝子が知られている。また、インスリン/IGF−1シグナル伝達系が遮断されている変異体として、CF1038daf−16(mu86)I変異体が知られている。
【0063】
寿命延長試験として、CF1038daf−16(mu86)I変異体を使用し、実施例2(水/メタノール溶出画分)及び
参考例3(10HDA)の各試料をそれぞれ投与した場合の試験も併せて行っている。結果を表1(試験区分5)及び表2(試験区分7)に示す。各表に示されるように、実施例2
及び参考例3ともに変異体において寿命の延長が認められた。
【0064】
実施例2の野生体25μg/mL投与時における平均寿命の変化率は、+19%であった。一方、実施例2のCF1038daf−16(mu86)I変異体25μg/mL投与時における平均寿命の変化率は、野生体よりは小さい+12%であった。つまり、実施例2のRJ処理物の老化防止作用は、寿命関連遺伝子として分類されるインスリン/IGF−1シグナル伝達系に関与する遺伝子群に対し、通常のインスリンシグナルのルート及び通常のインスリンシグナルとは異なるルートの両方で遺伝子発現に影響を与えることによりもたらされることが推認された。
【0065】
以上により、RJ等の摂取により、カロリ制限によりインスリン/IGF−1シグナル伝達系が制限される際に観察される寿命延長効果と同様の効果が期待できることが確認された。
【0066】
参考例3の野生体50μM投与時における平均寿命の変化率は、+10%であった。一方、
参考例3のCF1038daf−16(mu86)I変異体50μM投与時における平均寿命の変化率は、+15%であった。変異体の平均寿命の変化率が高い結果となった。つまり、
参考例3の10HDAは、daf−16の経路とは異なるメカニズムで寿命延長をもたらすことが示唆された。
【0067】
<各例の老化防止剤及び画分の成分分析>
実施例2において得られた粉末状成分について、糖質、タンパク質及び10HDAの各含有量、タンパク質(ペプチド)の分子量分布を求めた。実施例1
、参考例4,5及び比較例1,2は、固形分中における10HDAの含有量のみ測定を行った。
【0068】
(a)全糖分析は、オルシノール硫酸法により行った。すなわち、オルシノール硫酸液(オルシン0.5g/70%硫酸1L)5mLに試料溶液0.5mLを加え、70℃15分間加熱、放冷後、OD420を測定した。グルコースを検量線とした時の試料中の全糖含量を換算して求めた。結果を表4に示す。
【0069】
(b)タンパク質(ペプチド)の含有量は、Lowly法及びBradford法を組み合わせて行った。
Lowly法は、DCプロテインアッセイキット(Bio-Rad社)を用いてタンパク質定量を行なった。すなわち、1.0mg/mLに調製した試料水溶液100μLに対し、キットA試薬を500μL、B試薬を4mL添加し撹拌後、15分間常温放置し、750nmで吸光度を測定した。検量線作成には牛血清アルブミンを用いた。
【0070】
Bradford法は、1.0mg/mLに調製した試料溶液0.1mLを試験管に分注し、発色試薬(Coomassie Brilliant Blue G-250の100mgを50mLの95%エタノールに溶解し、さらに85%(v/w)リン酸100mLを加え、水で1Lに希釈)を5.0mL加え混合し、混合後10〜60分以内に595nmの吸光度を測定した。検量線作成には牛血清アルブミンを用いた。結果を表4に示す。
【0071】
(c)10HDAの含有量は、ODSカラムを用いたHPLCにより求めた。HPLCは以下の条件を採用した。標準品を用い10HDAのピークを同定するとともに、ピーク面積より、試料中の10HDAの濃度を求めた。結果を表4に示す。
【0072】
装置:Waters600システム
カラム:Shiseido CAPCELLPAK AG120 内径4.6mm×長さ250mm
溶媒:A液/0.1%TFAH
2O B液/0.1%TFACH
3CN
グラジエント:B液2%→30%(0→120分)
【0073】
【表4】
表4に示されるように、ODSカラムから溶出された実施例2の成分は、多くはタンパク質から構成されていることが確認された。また、実施例1においては、10HDAがほとんど含有されていないことが確認された。つまり、RJの老化防止作用は、10HDAの作用のみによるものではないことが推認される。また、老化防止作用がほとんど確認されなかった比較例1,2において10HDAが含有されていることが確認された。つまり、比較例1,2の試料中には、10HDAの老化防止作用を阻害する、若しくは打ち消すような成分が共存している可能性が示唆された。RJにおける老化防止作用は、複数の成分が複雑に作用することにより発揮していることが推認された。
【0074】
(d)ペプチドの分子量分布は、Superdexpeptide10/300カラムを用い分析を行った。標準物質(スタンダード)としては所定アミノ酸からなるペプチドを用い、分子量とリテンションタイム以下、R.tから検量線を作成し、実施例2の試料中に含まれるタンパク質(ペプチド)の分子量分布を求めた。以下の測定条件で行った。結果を
図4に示す。
【0075】
装置:Waters 600S system
カラム:Superdexpeptide10/300
移動相:(0.1%TFA)/(30%CH
3CN/H
2O)
流速:0.3mL/分
検出:PDA
測定試料中の固形分濃度:25mg/mL→20μL注入
標準物質の固形分濃度:5mg/mL→20μL注入
(但し、Gly−Glyの場合は、10mg/mL→20μL注入)
図4においてR.t(2)の範囲における下限R.t52.4分はTrp−Trp−Trpの分子量相当のR.tを示す。R.t52.4分よりも短い範囲においては、Trp−Trp−Trpよりも大きい分子量であることを示す。R.t(2)の範囲における上限R.t64.7分はGly−Glyの分子量相当のR.tを示す。R.t64.7分よりも長い範囲においては、Gly−Glyよりも小さい分子量であることを示す。
【0076】
R.t(2)の範囲は、全体のピーク面積の24.98%を占めた。R.t(1)(3)の範囲は、全体のピーク面積に対し、それぞれ20.72%、54.32%であった。これらペプチドの分子量分布の結果より、実施例2の試料中には比較的低分子量のペプチドが多く含まれることが確認された。
【0077】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。(イ)前記シリカ系吸着剤は、ODSであることを特徴とする前記老化防止剤。(ロ)前記溶出用溶媒は、水又は水とメタノールの混合液である前記老化防止剤。(ハ)前記溶出用溶媒は、メタノールが20〜40容量%のメタノールと水の混合液である前記老化防止
剤。