特許第5923737号(P5923737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923737
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】鋳造用の複合模型及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 7/02 20060101AFI20160516BHJP
   B22C 9/04 20060101ALI20160516BHJP
   B22D 29/00 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B22C7/02 103
   B22C7/02 101
   B22C9/04 R
   B22D29/00 F
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-108964(P2012-108964)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-233587(P2013-233587A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】500318520
【氏名又は名称】有限会社広和製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【弁理士】
【氏名又は名称】木森 有平
(74)【代理人】
【識別番号】100151356
【弁理士】
【氏名又は名称】浅香 小百合
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 公幸
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−090046(JP,A)
【文献】 米国特許第06305458(US,B1)
【文献】 特開昭63−101041(JP,A)
【文献】 特開平02−258136(JP,A)
【文献】 特開平07−016696(JP,A)
【文献】 特開平04−172145(JP,A)
【文献】 特開2004−136325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 5/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス焼結体を金型内に挿入配置した複合模型にして、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体をインサート成型で同時に一体成形する工程と、金型からセラミックス焼結体が一体化した熱溶融消失体を取り外す工程と、セラミックス焼結体が一体化した熱溶融消失体を砂型である鋳型に組み込んで、溶融金属を注湯して熱溶融消失体を消失させて鋳物製品を成形する工程と、鋳物製品から前記セラミックス焼結体を取り除く工程とを備えることを特徴とする鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳造製品が円筒状の部分を有するものを製造するに際し、前記熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体の内壁側面全体にセラミックス焼結体が詰まっており、セラミックス焼結体の外側面が熱溶融消失体の内壁面と面接合した複合模型を用いることを特徴とする請求項1記載の鋳造方法。
【請求項3】
セラミックス焼結体を金型内に挿入配置した複合模型にして、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体をインサート成型で同時に一体成形する工程において、前記セラミックス焼結体にアンダーカット部分の形状を形成するための壁面部分を設け、当該壁面部分を鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応させることを特徴とする請求項1記載の鋳造方法。
【請求項4】
鋳型に溶融金属を注湯して鋳物製品を成形する鋳造用の複合模型を用い、前記セラミックス焼結体にアンダーカット部分の形状を形成するための壁面部分を設け、当該壁面部分を鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応する位置に砂型である鋳型に埋め込み配されていることを特徴とする請求項1記載の鋳造方法。
【請求項5】
前記セラミックス焼結体が、熱衝撃や振動等の外力によって崩壊する性質を有し、熱衝撃や振動等の外力によって前記セラミックス焼結体を、崩壊させて鋳物製品から取り除くことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の鋳造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体の中にセラミックス焼結体を挿入配置してなる鋳造用の複合模型であって、前記セラミックス焼結体は前記複合模型の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応する位置に埋め込まれ、前記セラミックス焼結体にアンダーカット部分の形状を形成するための壁面部分を設けられ、当該壁面部分が鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応しており、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体をインサート成型で同時に一体成形してなるものであり、鋳造後に前記セラミックス焼結体は取り除かれる複合模型であることを特徴とする鋳造用の複合模型。
【請求項7】
前記セラミックス焼結体が、熱衝撃や振動等の外力によって崩壊する性質を有することを特徴とする請求項6記載の鋳造用の複合模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の複合模型と、当該鋳造用の複合模型を用いた鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、自動車、航空機、産業機械等に用いられる機械部品や、水道バルブ、油圧バルブ等のボディや、配管部品等、多くの機械部品や構造部品に用いられている。鋳造は、シームレスで一体成型できるなどの特徴がある。主な鋳造方法としては、ロストフォーム法(フルモールド法)やロストワックス法(インベストメント法)、遠心鋳造法等が挙げられる。
【0003】
鋳造用の型としては、砂型が一般に知られているが、例えば特許文献1記載のように、セラミックス焼成体からなる崩壊性鋳型を用いる場合もある。
【0004】
鋳造用の消失模型としては、発泡ポリスチレン樹脂などの発泡性合成樹脂を成形した消失模型が一般に知られており、例えば特許文献2記載のように、接着剤や両面接着テープ等を用いて、複数の管状体を互いに接合して消失模型を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−227644号公報
【特許文献2】特開2005−199324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既知の鋳造においては、依然として未解決の問題が多々ある。特許文献1記載の方法のような、セラミックス焼結体を鋳型とする方法は、複雑な形状の鋳型を作製することが難しく、また、鋳型の材料コストが高くなる。特許文献2記載の方法のような、発泡性合成樹脂を消失模型とする方法は、複数の構成部材を接合することで複雑な形状とすることが容易であり、材料コストもあまりかからないが、その反面、複数の構成部材同士の接合面の接合が十分でないことがある。つまり、接着剤や両面接着テープ等を用いて、複数の構成部材を互いに接合すると、接着剤の量が少ない場合や、両面テープの強度不足等に起因して、接合面に隙間が出来ることがあり、この隙間によって、前記接合位置と対応する鋳物の位置に繋ぎ目(接合痕)が出来てしまう。そして、前記接合痕ができると、鋳物の強度が低下し、亀裂が入る虞がある。一方で、接着剤の量が多くなると、鋳物の外観が損なわれてしまうが、前記接合面の隙間の有無は目視判断し難く管理し難い。特に、各種バルブや配管部品では、高圧力に耐えられる信頼性の高い鋳物部品が必要とされる。また、各種バルブや配管部品等では、その構造上、鋳物の内側にアンダーカット(溝部)や凹凸形状等を設けることがあるが、アンダーカットや凹凸形状があると鋳物が型抜きし難くなる。
【0007】
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、合成樹脂の成形し易さを活かしつつ、複雑な形状としても鋳物に接合痕が出来難い、高信頼性の鋳物を製造するための、鋳造用の複合模型と、当該複合模型を用いて鋳造する鋳造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鋳造方法は、セラミックス焼結体を金型内に挿入配置した複合模型にして、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体をインサート成型で同時に一体成形する工程と、金型からセラミックス焼結体が一体化した熱溶融消失体を取り外す工程と、セラミックス焼結体が一体化した熱溶融消失体を砂型である鋳型に組み込んで、溶融金属を注湯して熱溶融消失体を消失させて鋳物製品を成形する工程と、鋳物製品から前記セラミックス焼結体を取り除く工程とを備えることを特徴とする。
また、本発明の鋳造用の複合模型は、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体の中にセラミックス焼結体を挿入配置してなる鋳造用の複合模型であって、前記セラミックス焼結体は前記複合模型の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応する位置に埋め込まれ、前記セラミックス焼結体にアンダーカット部分の形状を形成するための壁面部分を設けられ、当該壁面部分が鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応しており、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体をインサート成型で同時に一体成形してなるものであり、鋳造後に前記セラミックス焼結体は取り除かれる複合模型であることを特徴とする
【0009】
本発明によれば、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体と、セラミックス焼結体とが、同時に一体成形されてなり、前記セラミックス焼結体の任意の面が前記熱溶融消失体の内壁面と合わさっている構成の複合模型とすることで、接着剤や両面接着テープ等を用いて貼り合わせた構造とは異なり、鋳物に繋ぎ目(接合痕)が生じることがなく、均質で高品質の鋳物を再現性良く製造することができる。
【0010】
前記熱溶融消失体は、熱可塑性樹脂からなり、熱可塑性樹脂としては、例えば、発泡ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、また、ワックスとしては、例えば、パラフィン、蜜蝋、カルナウバ蝋や、これらを配合したもの等が挙げられる。
前記熱溶融消失体は、樹脂成形金型、プレス金型、レーザ加工、切断加工、押し出し加工等により、所望の形状に成形されたものである。
【0011】
前記セラミックス焼結体は、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体を指しており、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、カルシア、マグネシア、イットリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト等が挙げられる。
前記セラミックス焼結体は、プレス金型、切断加工、押し出し加工等により、所望の形状に成形されたものである。
【0012】
前記熱溶融消失体と、前記セラミックス焼結体とは、インサート成形、同時成形、嵌め合い、接着、溶着等により一体的に形成される。
インサート成形としては、例えば、成形されたセラミックス焼結体を金型内に挿入配置して、樹脂モールドすることで熱溶融消失体を成形することで、熱溶融消失体とセラミックス焼結体とを一体成形する。
同時成形としては、例えば、同一の金型内で、セラミックス焼結体を成形し、次に、熱溶融消失体を成形することで、熱溶融消失体とセラミックス焼結体とを一体成形する。
嵌め合いとしては、例えば、成形されたセラミックス焼結体の突起部(凸部)と、当該突起部に対応させて同じサイズか若干サイズの小さな熱溶融消失体の窪み部(凹部)とを填め合わせることで、熱溶融消失体とセラミックス焼結体とを一体成形する。
接着としては、例えば、接着剤、粘着剤、接着テープ、粘着テープ等を用いて、熱溶融消失体とセラミックス焼結体とを接合し一体的に形成する。
溶着としては、例えば、溶剤液などにより化学的に熱溶融消失体の一部を溶かすか、加熱することで熱溶融消失体の一部を溶かす方法であり、熱溶融消失体とセラミックス焼結体との境界面の熱溶融消失体を溶かしてセラミックス焼結体に固着させることで、熱溶融消失体とセラミックス焼結体とを一体成形する。
【0013】
本発明は、前記セラミックス焼結体が、熱衝撃や振動等の外力によって崩壊する性質を有することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、前記セラミックス焼結体が、熱衝撃や振動等の外力によって崩壊する性質を有することで、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことが容易な構成となる。前記熱衝撃や振動等の外力としては、例えば鋳造における溶湯の凝固収縮力、凝固後の収縮力、鋳造後の冷熱衝撃力、鋳造後の振動や衝撃等の外力などが挙げられる。これらは、いずれも鋳物製品にダメージを加えない範囲内の外力である。
崩壊性セラミック焼結体としては、例えば、ジルコニア、チタニア、カルシア、マグネシア、イットリア等が挙げられる。また、本発明によれば、注湯に耐え得る最小厚みのセラミックシェル構造とすることも容易である。
【0015】
本発明は、前記セラミックス焼結体の任意の面が、鋳物の内壁面と対応する位置に配されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、前記セラミックス焼結体の任意の面が、鋳物の内壁面と対応する位置に配されていることで、鋳物の内壁面に繋ぎ目(接合痕)が生じることがなく、各種バルブや配管部品など、高圧力に耐えられる信頼性の高い鋳物部品となる。
【0017】
本発明は、前記セラミックス焼結体の任意の面が、鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応する位置に配されていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、前記セラミックス焼結体の任意の面が、鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応する位置に配されていることで、その内側にアンダーカット(溝部)を備えた鋳物についても、型抜きすることが容易である。
【0019】
本発明の鋳造方法は、セラミックス焼結体を金型内の任意の面に挿入配置して、樹脂モールドなどで熱可塑性樹脂等からなる熱溶融消失体を同時に一体成形する工程と、金型からセラミックス焼結体が一体化した熱溶融消失体を取り外す工程と、セラミックス焼結体が一体化した熱溶融消失体を砂型等の鋳型にセットして注湯して熱溶融消失体を消失させる工程と、セラミックス焼結体が残留した鋳型に溶融金属を注湯して鋳物製品を成形する工程と、鋳物製品から前記セラミックス焼結体を取り除く工程とを備えることを特徴とする。また、鋳造がロストフォーム法に基づいて鋳造し、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことを特徴とする。
【0020】
本発明では、既知のロストフォーム法に基づいて鋳造する。すなわち、従前の消失模型に置き換えて、本発明の複合模型を枠の中に設置し、砂型等の鋳型を設ける。そして、砂型等の鋳型に注湯すると、前記熱溶融消失体がガス化して消失するが、前記セラミックス焼結体が鋳型内に残留し、次いで溶湯が凝固して鋳造され、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことで、前記セラミックス焼結体と対応する鋳物の位置に繋ぎ目(接合痕)が生じることがなく、均質で高品質の鋳物を再現性良く製造することができる。さらに、熱衝撃や振動等の外力によって前記セラミックス焼結体を、崩壊させて取り除くことで、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことが容易となる。
【0021】
前記鋳物材料としては、鋳鉄、鋳鋼、銅合金、軽金属合金、ダイカスト等が挙げられる。
【0022】
本発明としては、セラミックス焼結体を金型内の任意の面に挿入配置して、樹脂モールドなどで熱可塑性樹脂等からなる熱溶融消失体を同時に一体成形する工程において、前記セラミックス焼結体の任意の面を、金型の内壁面のうちのアンダーカット部分のみと対応させるともに、引き出し面と面一になるように対応させることを特徴とする。また、注湯によって前記熱溶融消失体を消失させ、前記セラミックス焼結体の任意の面を、鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分のみと対応させることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、前記セラミックス焼結体の任意の面を、鋳物の内壁面と対向させることで、鋳物の内壁面に繋ぎ目(接合痕)が生じることがなく、各種バルブや配管部品など、高圧力に耐えられる信頼性の高い鋳物部品を製造することができる。そして、注湯によって前記熱溶融消失体を消失させ、前記セラミックス焼結体の任意の面を、鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分のみと対応させることで、その内側にアンダーカット(溝部)を備えた鋳物についても、型抜きすることが容易となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の鋳造用の複合模型によれば、前記セラミックス焼結体の任意の面が前記熱溶融消失体の内壁面と面接合している構成の複合模型とすることで、接着剤や両面接着テープ等を用いて貼り合わせた構造とは異なり、鋳物に繋ぎ目(接合痕)が生じることがない。さらに、前記セラミックス焼結体が、熱衝撃や振動等の外力によって崩壊する性質を有することで、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことが容易な構成となる。
【0025】
本発明の鋳造方法によれば、従前の消失模型に置き換えて、本発明の複合模型を用いており、既知のロストフォーム法に基づいて鋳造するので、既存の設備等がそのまま使用できる。そして、前記複合模型を用いて、砂型等の鋳型に注湯すると、前記熱溶融消失体がガス化して消失するが、前記セラミックス焼結体が鋳型内に残留し、次いで溶湯が凝固して鋳造され、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことで、鋳物に繋ぎ目(接合痕)が生じることがなく、均質で高品質の鋳物を再現性良く製造することができる。そして、例えば、鋳造に伴う熱衝撃や振動等の外力によって前記セラミックス焼結体を、崩壊させて取り除くことで、鋳造後に、前記セラミックス焼結体を取り除くことが容易かつ合理的である。そして、注湯によって前記熱溶融消失体を消失させ、前記セラミックス焼結体の任意の面を、鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分と対応させることで、その内側にアンダーカット(溝部)を備えた鋳物についても、型抜きすることが容易となる。
【0026】
これら本発明によって、複雑な形状としても鋳物に接合痕が出来難い、高信頼性の鋳物を、容易に製造することができ、特に、各種バルブや配管部品など、高圧力に耐えられる信頼性の高い鋳物部品を、均質で再現性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明を適用した第1の実施形態の鋳造用の複合模型を側面側から示す外観図である。
図2】上記第1の実施形態の複合模型を側面側から示す断面図である。
図3】上記第1の実施形態の複合模型を型にセットした状態の図である。
図4】上記第1の実施形態の複合模型を用いて、注湯を行った状態の図である。
図5】上記第1の実施形態の複合模型を用いて鋳造し、型から取り出した状態の図である。
図6】上記第1の実施形態の複合模型を用いて鋳造した鋳物を側面側から示す断面図である。
図7】本発明を適用した第2の実施形態の鋳造用の複合模型を側面側から示す断面図である。
図8】上記第2の実施形態の複合模型を用いて鋳造した鋳物を側面側から示す断面図である。
図9】本発明を適用した第3の実施形態の鋳造用の複合模型を側面側から示す断面図である。
図10】本発明を適用した第3の実施形態の鋳造用の複合模型の他の例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて以下に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明と実質同一又は均等の範囲内において、既知の変更を加えることが可能である。
【0029】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明を適用した第1の実施形態の鋳造用の複合模型1を側面側から示す外観図である。図1は、水道バルブ用の管体を鋳造するための複合模型1である。図2は、本実施形態の複合模型1を側面側から示す断面図である。
【0030】
本実施形態の鋳造用の複合模型1は、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体2と、セラミックス焼結体3とが、一体的に形成されている(図2)。図2に示す例では、セラミックス焼結体3は、円環状を呈し、その外壁面31が、熱溶融消失体2の内壁面のうちのアンダーカット部分21と面接合している。セラミックス焼結体3の外周側面31は、後述する鋳物10の内壁面のうちのアンダーカット部分101と対応する位置に配されている。
【0031】
前記熱溶融消失体2は、熱可塑性樹脂からなり、熱可塑性樹脂としては、例えば、発泡ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、また、ワックスとしては、例えば、パラフィン、蜜蝋、カルナウバ蝋や、これらを配合したもの等が挙げられる。
前記熱溶融消失体2は、樹脂成形金型、プレス金型、レーザ加工、切断加工、押し出し加工等により、所望の形状に成形されたものである。
【0032】
前記セラミックス焼結体3は、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体を指しており、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、カルシア、マグネシア、イットリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト等が挙げられる。
前記セラミックス焼結体3は、プレス金型、切断加工、押し出し加工等により、所望の形状に成形されたものである。
【0033】
前記熱溶融消失体2と、前記セラミックス焼結体3とは、インサート成形、同時成形、嵌め合い、接着、溶着等により一体的に形成される。
インサート成形としては、例えば、成形されたセラミックス焼結体3を金型内に挿入配置して、樹脂モールドすることで熱溶融消失体2を成形することで、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3とを一体成形する。
同時成形としては、例えば、同一の金型内で、セラミックス焼結体3を成形し、次に、熱溶融消失体2を成形することで、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3とを一体成形する。
嵌め合いとしては、例えば、成形されたセラミックス焼結体3の突起部(凸部)と、当該突起部に対応させて同じサイズか若干サイズの小さな熱溶融消失体2の窪み部(凹部)とを填め合わせることで、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3とを一体成形する。
接着としては、例えば、接着剤、粘着剤、接着テープ、粘着テープ等を用いて、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3とを接合し一体的に形成する。
溶着としては、例えば、溶剤液などにより化学的に熱溶融消失体2の一部を溶かすか、加熱することで熱溶融消失体2の一部を溶かす方法であり、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3との境界面の熱溶融消失体2を溶かしてセラミックス焼結体3に固着させることで、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3とを一体成形する。
【0034】
本実施形態では、同時成形を採用している。例えば、同一の金型内で、セラミックス焼結体3を成形し、次に、熱溶融消失体2を成形することで、熱溶融消失体2とセラミックス焼結体3とを一体成形する。この製造方法によれば、セラミックス焼結体3と熱溶融消失体2を連続的に一体成形して鋳造用の複合模型1とするので、合理的であり、高精度の複合模型1を製造することが容易である。
【0035】
本実施形態では、既知のロストフォーム法に基づいて鋳造する。図3から図6は、本実施形態の複合模型1を用いて鋳造する鋳造工程の各状態図であり、側面側から示す断面図である。図3は、前記複合模型1を砂型5にセットした状態の図である。図3における符号4は、溶融金属6を注湯する湯口であり、上述の熱溶融消失体と同様の熱溶融消失体からなる。前記湯口4の開口部41から溶融金属6を複合模型1に向けて注湯すると(図3)、前記熱溶融消失体4と2とがガス化して消失するが、前記セラミックス焼結体3が鋳型内に残留し、次いで溶湯が凝固して鋳造される(図4)。
【0036】
そして、前記鋳造後に、鋳物10をセラミックス焼結体3を伴って鋳型5から取り出す(図5)。この鋳造による凝固収縮力によってセラミックス焼結体3が崩壊するので、鋳造後に、セラミックス焼結体3を取り除くことが容易かつ合理的である。そして、セラミックス焼結体3を取り除くと鋳物10となる(図6)。
崩壊性セラミック焼結体3としては、例えば、ジルコニア、チタニア、カルシア、マグネシア、イットリア等が挙げられる。また、注湯に耐え得る最小厚みのセラミックシェル構造とすることもできる。なお、鋳物10を鋳型5から取り出す際に、セラミック焼結体3の崩壊を促進させるために、鋳物製品にダメージを加えない範囲内であれば、多少の振動や衝撃を加えてもよい。
【0037】
本実施形態によれば、セラミックス焼結体3を取り除くことで、セラミックス焼結体3の外周側面31と対応する位置である、鋳物10のアンダーカット面101に繋ぎ目(接合痕)が生じることがなく、均質で高品質の鋳物を再現性良く製造することができる。
【0038】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明を適用した第2の実施形態の鋳造用の複合模型1を側面側から示す断面図である。図8は、本実施形態の複合模型1を用いて鋳造した鋳物10を側面側から示す断面図である。ここで、同一の符号は同じ機能を指していることから、その説明を省略する。本実施形態では、図7に示すように、セラミックス焼結体3は、円環状を呈し、その外壁面のうちの傾斜面(テーパ面)31の一部が、熱溶融消失体2の内壁面のうちのアンダーカット部分の傾斜面(テーパ面)21の一部と合わさっている。その一方で、セラミックス焼結体3の外壁面のうちの最外周面311は、熱溶融消失体2の内壁面のうちのアンダーカット部分の底面211とは接していない。そして、セラミックス焼結体3の外壁面のうちの最外周面311は、鋳物10の内壁面のうちのアンダーカット部分101と対応する位置に配されている(図8を参照)。なお、本実施形態では、既知のロストフォーム法に基づいて鋳造する。
本実施形態によれば、セラミックス焼結体3の形状の自由度が高くなるので、鋳物製品の仕様に合わせて、セラミックス焼結体3を作製し、熱溶融消失体2に嵌め合せるなどして、組み合わせのバリエーションを増やすことができ、多品種少量生産に対応することが容易となる。
【0039】
(第3の実施の形態)
図9は、本発明を適用した第3の実施形態の鋳造用の複合模型1を側面側から示す断面図である。ここで、同一の符号は同じ機能を指していることから、その説明を省略する。図7は、水道用分岐管を鋳造するための複合模型1である。本実施形態では、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体2の内壁側面21全体に、セラミックス焼結体3が詰まっており、セラミックス焼結体3の外側面31が熱溶融消失体2の内壁面21と面接合した複合模型1となっている。
本実施形態によれば、熱溶融消失体2の内側に砂を詰めたり、中子を入れる作業が不要となり、また、セラミックス焼結体3が芯材となっているため、熱溶融消失体2の厚みを薄くすることが容易となる。したがって、鋳物の厚みを薄くすることが容易である。
【0040】
10は、本実施形態の他の例であって、円筒管を鋳造するための複合模型1であり、側面側から示す断面図である。本実施形態では、熱可塑性樹脂からなる熱溶融消失体2の内壁側面全体に、セラミックス焼結体3が入っている。セラミックス焼結体3は、円筒形状であり、中空となっている。そして、セラミックス焼結体3の内側側面33は、多数の切り込みが入ってギザギザ形状となっている。
本実施形態によれば、鋳物の厚みを薄くすることが容易となるうえ、セラミックス焼結体3が中空となっており、多数の切り込みが入っているので、鋳造後に崩壊させ易い。そして、自由なカーブ形状の管体をシームレスで鋳造することが容易である。
【0041】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。セラミックス焼結体3は、複数配置してもよいし、非対称な位置に配置してもよく、その配置構成は任意である。そして、セラミックス焼結体3の全体を覆うように熱溶融消失体2を設けることもできる。また、セラミックス焼結体3の内側に別の中子を設けることもできる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
1 鋳造用の複合模型、
2 熱溶融消失体、
3 セラミックス焼結体、
21 熱溶融消失体の内壁面のうちのアンダーカット部分、
31 セラミックス焼結体の外壁面、
10 鋳物、
101 鋳物の内壁面のうちのアンダーカット部分
図1
図2
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図8
図9
図10