【実施例】
【0045】
1.NBRC3292菌株による4−ケト−D−アラボン酸生産及びその結晶の単離
(1)種培養液の調製
MA寒天培地(マンニトール2.5%(w/v)、酵母エキス(ディフコ・ラボラトリー社製)0.5%(w/v)、ペプトン(ディフコ・ラボラトリー社製)0.2%(w/v)、寒天1.5%(w/v);pHは無調整)で保存したグルコノバクター オキシダンス サブエスピ− メラノゲヌス(Gluconobacter oxydans subsp. melanogenus) NBRC3292株を、121℃で20分間の条件でオ−トクレ−ブ滅菌した5mlのMA液体培地が入った試験管(18mm内径×200mm長)に1白金耳植菌し、培養温度28℃で1分間あたり250往復の往復振とう培養を19時間行った。
【0046】
(2)4−ケト−D−アラボン酸の生産
前記で得た0.6mlの種培養液を、121℃で20分間の条件でオ−トクレ−ブ滅菌した30mlの生産培地(グルコース10%(w/v)、酵母エキス(ディフコ・ラボラトリー社製)0.1%(w/v)、コーンスチープパウダー1%(w/v)、塩化アンモニウム0.1%(w/v)、リン酸二水素カリウム0.1%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.025%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.0048%(w/v)、炭酸カルシウム3%(w/v))を入れた3本の300ml容三角フラスコにそれぞれ植菌し、28℃で1分間あたり200回転の回転振とう培養を行った。
【0047】
なお、培養開始直後から継時的に培養液1mlを無菌的に採取し、1分間当たり10,000回転で10分間の遠心分離を行い、この培養上澄液をHPLCで分析し、7.7分の保持時間を示すピークの増加を追跡した。
【0048】
また、培養5日間後に培養を終了させ、3本のフラスコの培養液を1分間当たり6,000回転で10分間の遠心分離を行い、85mlの培養上澄液を得た。
【0049】
(3)4−ケト−D−アラボン酸の精製
前記培養上澄液を5M水酸化ナトリウムでpH7.0に調整後、500mlのアンバ−ライトCG400陰イオン交換樹脂(蟻酸型、ローム・アンド・ハース社製)のカラムに通過させた。さらに、そのカラムに600mlの20mM蟻酸ナトリウム緩衝液を通過させ、カラムを洗浄した後、各500mlの20mM蟻酸ナトリウム緩衝液と500mM蟻酸ナトリウム緩衝液を用いた直線的な濃度勾配によって吸着物質を溶出させ、溶出した溶液を試験管に10mlずつ分画した。
【0050】
分画した画分は、それぞれHPLCで分析を行い、7.7分の保持時間に示すピークをもつ分画番号57〜71の画分の溶出液を集めた。
【0051】
また、前記回収した溶出液を200mlのアンバーライトCG120陽イオン交換樹脂(H型、ローム・アンド・ハース社製)のカラムに通過させた後、さらに200mlの脱イオン水でカラムの洗浄を行い、カラムを通過した非吸着画分及び洗液を回収した。
【0052】
さらに、この回収した溶液を35℃で減圧濃縮し、蟻酸を除去した後、このペースト状濃縮物を少量の水に溶解し、5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整した。また、再度、少量まで減圧濃縮後、この濃縮液にエタノールを白濁するまで加え、5℃で保持することで結晶を得た。
【0053】
また、得られた結晶をグラスフィルターで集め、室温で2時間真空乾燥を行うことで、2.42gの結晶を回収できた。
【0054】
(4)4−ケト−D−アラボン酸の同定
前記で得た結晶2mgを1mlの水に溶解し、この溶液を用いて該結晶の同定をLC−MS分析によって行った。すなわち、ディスカバリーHS−F5(4.6mm内径×250mm長)カラム(スペルコ社製)を接続し、フォトダイオードアレー検出器を装着したLCMS−2010A液体クロマトグラフ質量分析計(島津製作所社製)を用いて検討を行った。なおこの時、溶媒移動相は、0.1%(w/v)蟻酸含有の2%(w/w)アセトニトリル水溶液溶を用い、190〜300nmで検出される液体クロマトグラムと検出されたピークの紫外線吸収スペクトル及び陰イオンマススペクトル、マスクロマトグラムの解析を行った。さらに、該結晶について、重水素中で
1H−及び
13C−核磁気共鳴スペクトルの測定及び溶解性についての検討も行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
これら検討の結果、すなわち、分子量、分子式、
1H−及び
13C−核磁気共鳴スペクトルの分子中の水素原子及び炭素原子の化学シフト値から、本実施形態において採取した結晶は、4−ケト−D−アラボン酸と同定された。なお、以後の実施例における4−ケト−D−アラボン酸標準物質は、該結晶を用いた。
【0057】
2.各種細菌による4−ケト−D−アラボン酸及びその塩類の生産
(1)供試菌株
4−ケト−D−アラボン酸生産能を有する細菌として、以下の7菌株を用いた。すなわち、グルコノバクター オキシダンス サブエスピー メラノゲヌス(Gluconobacter oxydans subsp. melanogenus) NBRC3292株、グルコノバクター オキシダンス サブエスピー メラノゲヌス(Gluconobacter oxydans subsp. melanogenus) NBRC3293株、フラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia) NBRC3245株、フラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia) NBRC3247株、フラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia) NBRC13328株、フラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia) NBRC13330及びテイタメラ パンクタータ(Tatumella punctata) DSM13700株を使用した。
【0058】
(2)種培養液の調製
上述のMA寒天培地に保存されている前記7菌株を、121℃で20分間のオートクレーブ滅菌した5mlのMA液体培地入り試験管(18mm内径×200mm長)にそれぞれ1白金耳植菌し、28℃で1分間あたり250往復の往復振とう培養を19時間行った。
【0059】
(3)4−ケト−D−アラボン酸生産
前記で得た0.4mlのそれぞれの種培養液を、121℃で20分間のオートクレーブ滅菌した20mlのA培地(グルコース10%(w/v)、コーンスチープパウダー1%(w/v)、酵母エキス(ディフコ・ラボラトリー社製)0.1%(w/v)、塩化アンモニウム0.1%(w/v)、リン酸二水素カリウム0.1%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.025%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.0048%(w/v)、炭酸カルシウム3%(w/v))又は20mlのB培地(グルコース10%(w/v)、酵母エキス(ディフコ・ラボラトリー社製)1%(w/v)、リン酸二水素カリウム0.1%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.025%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.0048%(w/v)、炭酸カルシウム3%(w/v))を入れた200ml容三角フラスコにそれぞれ植菌し、30℃で1分間あたり220回転の回転振とう培養を行った。
【0060】
また、培養5日間後、該培養液1mlを1分間当たり10,000回転で10分間の遠心分離を行い、培養上澄液中の4−ケト−D−アラボン酸含量を前記同様HPLCで定量した。なおこの時、1g/L濃度の4−ケト−D−アラボン酸標準液を基準にして定量を行った。また、その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2で示したように、試験した7菌株は、A培地及び/又はB培地で4−ケト−D−アラボン酸の生産が認められた。なお、B培地を用いた場合におけるフラウテリア アウランティア NBRC3247及びNBRC13330菌株の場合には、4−ケト−D−アラボン酸の生産が認められなかった。
【0063】
上記7菌株の中で、特に4−ケト−D−アラボン酸の生産が顕著に認められた菌株は、グルコノバクター オキシダンス サブエスピー メラノゲヌス(Gluconobacter oxydans subsp. melanogenus) NBRC3292株、グルコノバクター オキシダンス サブエスピー メラノゲヌス(Gluconobacter oxydans subsp. melanogenus) NBRC3293株及びフラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia) NBRC3245株の3菌株であった。
【0064】
3.NBRC3245菌株による4−ケト−D−アラボン酸生産及びその結晶の単離
(1)種培養液の調製
上述のMA寒天培地で保存したフラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia) NBRC3245株を121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌した5mlのMA培地入りの試験管(18mm内径×200mm長)に1白金耳植菌し、28℃で1分間あたり250往復の往復振とう培養を19時間行った。
【0065】
(2)4−ケト−D−アラボン酸生産
前記で得た0.4mlの種培養液を121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌した20mlの生産培地(グルコース10%(w/v)、酵母エキス(ディフコ・ラボラトリー社製)1%(w/v)、リン酸二水素カリウム0.1%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.025%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.0048%(w/v)、炭酸カルシウム3%(w/v))を入れた3本の200ml容三角フラスコにそれぞれ植菌し、30℃で1分間あたり220回転の回転振とう培養を行った。
【0066】
また、培養5日間後、各培養液1mlを1分間当たり10,000回転で10分間の遠心分離を行い、これら培養上澄液中の4−ケト−D−アラボン酸含量を前記同様HPLCで定量を行った。なおこの時、1g/L濃度の4−ケト−D−アラボン酸標準液を基準にして定量を行った。
【0067】
その結果、3本のフラスコで培養して得た各培養上澄液中には、4−ケト−D−アラボン酸が平均22.1g/L(モル収率:24.3%)含有していた。
【0068】
(3)4−ケト−D−アラボン酸の精製
前記培養液を1分間当たり6,000回転で10分間の遠心分離を行い、58mlの培養上澄液を得た。この培養上澄液58mlを5M水酸化ナトリウムでpH7.0に調整した後、500mlのアンバーライトCG400陰イオン交換樹脂(蟻酸型、ローム・アンド・ハース社製)のカラムに通過させた。さらに、そのカラムを500mlの20mM蟻酸ナトリウム緩衝液で洗浄後、各500mlの20mM蟻酸ナトリウム緩衝液と500mM蟻酸ナトリウム緩衝液を用いて直線的な濃度勾配によって吸着物質を溶出させ、試験管に10mlずつ分画した。
【0069】
分画した画分は、それぞれHPLCで分析を行い、4−ケト−D−アラボン酸標準液と同一の保持時間を示すピークをもつ分画番号55〜68の画分の溶出液を集めた。
【0070】
また、前記回収した画分を200mlのアンバーライトCG120陽イオン交換樹脂(H型、ローム・アンド・ハース社製)のカラムに通過させた後、さらに200mLの脱イオン水でカラムの洗浄を行い、カラムを通過した非吸着画分及び洗液を回収した。
【0071】
さらに、回収した画分を35℃で減圧濃縮し、蟻酸を除去した後、ペースト状物質を少量の水に溶解し、5N水酸化カリウム溶液でpH7.0に調整した。また、再度、少量まで減圧濃縮し、この濃縮液にエタノールを白濁するまで加え、5℃で保持することで4−ケト−D−アラボン酸カリウム塩の結晶を得た。
【0072】
また、得られた結晶をグラスフィルタ−で集め、室温で2時間真空乾燥を行い、0.77gの結晶を得た。
【0073】
該結晶1mgを1mlの水に溶解し、前記同様HPLCで分析を行ったところ、該結晶は、実施例1で得た精製標品4−ケト−D−アラボン酸の保持時間と一致した。
【0074】
4.休止菌体による4-ケトアラボン酸の生産
(1)供試菌株
グルコノバクター オキシダンス サブエスピー メラノゲヌス(Gluconobacter oxydans subsp. melanogenus)NBRC3292株及びフラテウリア アウランティア(Frateuria aurantia)NBRC3245株の2菌株を使用した。
【0075】
(2)種培養液の調製
上述のMA寒天培地に保存した前記2菌株を121℃で20分間のオートクレーブ滅菌した5mlのMA液体培地入り試験管(18mm内径×200mm長)にそれぞれ1白金耳植菌し、28℃で1分間あたり250往復の往復振とう培養を19時間行った。
【0076】
(3)休止菌体の調製
前記で得た1.0mlの種培養液を121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌した50mlのB培地(グルコース10%(w/v)、酵母エキス(ディフコ・ラボラトリー社製)1%(w/v)、リン酸二水素カリウム0.1%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.025%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.0048%(w/v)、炭酸カルシウム3%(w/v))を入れた500ml容三角フラスコにそれぞれ植菌し、30℃で1分間あたり220回転の回転振とう培養を行った。
【0077】
また、培養3日間後、それぞれ菌株の培養液50mlを121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌した250ml容遠心管に入れ、培養液に含まれる炭酸カルシウムを取り除くために10℃、900回転で1分間の低速遠心分離を行い、細胞を含む遠心上澄液を得た。
【0078】
前記細胞を含む遠心上澄液を121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌した250ml容遠心管に入れ、再度、10℃、9,000回転で10分間の高速遠心分離を行った後、この遠心上澄液を捨て、遠心管に沈降した菌体ペレットに50mlの滅菌した0.85%(w/v)食塩水を加えて、菌体懸濁液を調製した。
【0079】
前記細胞懸濁液を10℃、9,000回転で10分間の高速遠心分離を行い、前記同様の操作によって該菌体を0.85%(w/v)食塩水で2回洗浄したものを洗浄菌体とした。
【0080】
該洗浄菌体を菌体濁度A
600nm=40となるように121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌した精製水に懸濁し、この菌体懸濁液を休止菌体懸濁液として以下の反応に用いた。
【0081】
(3)休止菌体による4-ケト−D−アラボン酸の生産
あらかじめ、121℃で20分間のオ−トクレ−ブ滅菌したシリコン栓付ガラス試験管(11mm内径×100mm長)に、0.45mlの滅菌精製水、0.1mlのろ過滅菌した緩衝液(1Mクエン酸−リン酸緩衝液;pH3.5、1Mリン酸カリウム緩衝液;pH5.0又は1Mリン酸カリウム緩衝液;pH7.0)、0.25mlの前記休止菌体懸濁液及び0.2mlのろ過滅菌した基質溶液(10%グルコース溶液、グルコン酸ナトリウム溶液(和光純薬工業社製)、2−ケト−D−グルコン酸ヘミカルシウム溶液(シグマ社製)又は2,5−ジケト−D−グルコン酸カルシウム溶液)を加え、反応を開始した。なお、該反応は、28℃で1分間あたり250往復の往復振とうで行った。
【0082】
反応24時間後、該反応液を1分間当たり10,000回転で10分間の遠心分離を行い、該反応上澄液中の4−ケト−D−アラボン酸量を前記同様HPLCで定量した。なおこの時、1g/L濃度の4−ケト−D−アラボン酸標準液を基準にして定量を行った。また、その結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3で示したように、試験したNBRC3292菌株及びNBRC3245菌株の休止菌体は、pH3.5、pH5.0又はpH7.0の緩衝液中のグルコース、グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸又は2,5−ジケト−D−グルコン酸を基質とした全てにおいて4−ケト−D−アラボン酸を生成し、その生成量は、NBRC3245菌株及びNBRC3292菌株とも高い値を示した。また、両菌株とも基質がグルコース、グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸の順で4−ケト−D−アラボン酸の生成量が増加した。
【0085】
本発明によれば、グルコノバクター(Gluconobacter)属、フラテウリア(Frateuria)属又はテイタメラ(Tatumella)属により、グルコース、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、2,5−ジケトグルコン酸又はそれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種の糖類を基質として4−ケト−D−アラボン酸及びその塩類を非常に効率良く、かつ、低コストで製造することができる。そのため、D−酒石酸製造の原料となる本発明の4−ケト−D−アラボン酸の製造方法は、特に有用となる。