(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
定着回転体を、その回転軸方向に沿って配された励磁コイルにより電磁誘導加熱し、当該定着回転体の周面と押圧部材との間に形成された定着ニップに記録シートを通紙して、未定着画像を定着する定着装置であって、
前記励磁コイルの、特定サイズの記録シートを通紙したときにおける定着回転体の通紙領域の両外側に存する非通紙領域に相当する各領域において、前記回転軸方向に沿って列設された複数の消磁コイルと、
通紙する記録シートの幅に応じて、前記複数の消磁コイルの動作を制御する動作制御手段と、
を備え、
前記複数の消磁コイルは、
隣接する消磁コイルと、前記回転軸方向における折返し部を相互に重ねると共に、前記複数の消磁コイルのうち、その一方の折返し部が、隣接する消磁コイルの折返し部の上に重なっている消磁コイルは、その他方の折り返し部が、前記励磁コイルに近付くように前記回転軸に対して傾斜した姿勢で配設されてなり、かつ、前記各消磁コイルの厚みが1〜2[mm]である
ことを特徴とする定着装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る画像形成装置の第1の実施の形態について、タンデム型フルカラープリンタ(以下、単に「プリンタ」という)を例にして図面に基づき説明する。
(1)プリンタの全体構成
図1は、本実施の形態に係るプリンタ1の構成を示す概略図である。
【0021】
同図に示すように、プリンタ1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5および制御部60を備えている。このプリンタ1は、ネットワーク(例えばLAN)に接続されていて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンダ、シアンおよびブラックの各色のトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像を形成した後、記録シートへの印刷処理を実行する構成を有している。
【0022】
以下、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各再現色をY,M,C,Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY,M,C,Kを添字として付加する。
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部3Y,3M,3C,3K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
作像部3Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラ34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを備えており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部3M〜3Kも、作像部3Yと同様の構成になっており、同図では符号を省略している。
【0023】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラ12と従動ローラ13に張架されて矢印A方向に循環走行される。
光学部10は、レーザダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Lを発し、感光体ドラム31Y〜31Kを露光走査する。
【0024】
この露光走査により、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。
各静電潜像は現像器33Y〜33Kにより現像されて、感光体ドラム31Y〜31K上にY〜K色のトナー像が作像される。
作像された各トナー像は、一次転写ローラ34Y〜34Kに印加された電圧による静電力により中間転写ベルト11上に一次転写される。この際、各色のトナー像が、走行する中間転写ベルト11の同じ位置に重ね合わせて転写されるように、作像部3Y,3M,3C,3Kにおける作像動作は、中間転写ベルト11の走行方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして実行される。
【0025】
一次転写の後、二次転写ローラ45に印加された電圧による静電力により、中間転写ベルト11上のトナー像が、給紙部4より搬送されてきた記録シートP上に一括して二次転写される。
給紙部4は、記録シートPを収容する給紙カセット41と給紙カセット41内の記録シートPを搬送路43上に一枚ずつ繰り出す繰り出しローラ42と、繰り出された記録シートPを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラ対44などを備えている。記録シートPは、中間転写ベルト11上のトナー像のタイミングに合わせて給紙部4から二次転写位置46に搬送される。
【0026】
上記二次転写により、トナー像(未定着画像)が形成された記録シートPは、さらに定着部5に搬送される。定着部5において、記録シートP上のトナー像が加熱・加圧されて熱定着される。その後、記録シートPは、排出ローラ対71により排出トレイ72上に排出される。
制御部60は、これら画像プロセス部3、給紙部4および定着部5の動作を制御するものである。
【0027】
(2)定着部の構成
次に、定着部5の構成について、
図2および
図3を参照しながら説明する。
図2は、定着部5の主要部の構成を示す分解斜視図であり、
図3は、定着部5の構成を示す断面図である。この
図3は、
図2の仮想面Vで切断したときのY´方向から見た断面に相当する。
【0028】
定着部5は、電磁誘導加熱方式によるものであり、定着回転体である定着ローラ51と、加圧ローラ52と、磁束発生部53などを備える。
定着ローラ51と加圧ローラ52とは平行に配設され、不図示の加圧機構により加圧ローラ52が定着ローラ51に押圧されている。これにより、定着ローラ51と加圧ローラ52との間に、記録シートを通紙する定着ニップ部N(
図3参照)が形成されている。
【0029】
また、加圧ローラ52は、モータ(不図示)を動力源とし、歯車ギアやベルトなどの動力伝達機構を介して回転駆動される。定着ローラ51は、加圧ローラ52の回転に従動して回転駆動され、互いに連動している。加圧ローラ52が矢印C方向に、定着ローラ51が矢印B方向にそれぞれ回転する。
以下、定着部5における各構成要素について詳しく説明する。
【0030】
(定着ローラ)
定着ローラ51は、長尺で円柱状の芯金511の周囲に断熱層512が形成されてなるローラ本体51aと、ローラ本体51aに外嵌された発熱ベルト51bとからなる。
芯金511は、例えば、アルミニウム等の非磁性材料からなり、その軸方向両端部に、定着部5の、不図示の筐体に設けられた軸受部に回転自在に支持される軸部511a,511bを有している。
【0031】
断熱層512は、耐熱性および断熱性の高い、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の発泡弾性体などの材料からなる。
発熱ベルト51bは、
図4の部分断面図に示すように、ローラ本体51aの断熱層512側から、金属発熱層513、弾性層514、離型層515の順に積層されてなる。
金属発熱層513は、例えば、Ni,SUS,Fe等の磁性材料からなる。弾性層514は、耐熱性、弾性および絶縁性を有するゴム材や樹脂材、例えばシリコーンゴムからなる。この弾性層514を設けることにより、トナー像が押しつぶされたり、トナー像が不均一に溶融されたりするのを防止し、画像ノイズの発生を防止している。離型層515は、定着後の記録シートPとの離型性を高めるための層であり、耐熱性を有し、離型性に優れた絶縁樹脂からなる。当該絶縁樹脂として、例えば、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)等のフッ素樹脂を使用することができる。
【0032】
ここでの芯金511(軸部511a,511bを除く)の外径は約18[mm]、断熱層512の厚みは約10[mm]である。また、発熱ベルト51bの各層の厚みは、金属発熱層513が10〜100[μm]、弾性層514が10〜800[μm]、離型層515が5〜100[μm]である。各層の厚みは、全周に亘って均一である。
これらを合わせた定着ローラ51の外径は、約30[mm]に設定されている。
【0033】
定着ローラ51の軸部511a,511bを除いた長さは、記録シートPの最大通紙幅(ここではA3縦通し)よりも大きい寸法に設定されている。
(加圧ローラ)
図2,
図3に戻って、加圧ローラ52は、長尺で円柱状の芯金521の周囲に、弾性層522と離型層523とがこの順に積層されている。
【0034】
芯金521は、例えば、アルミニウム等からなり、その軸方向両端部に、定着部5の、不図示の筐体に設けられた軸受部に回転自在に支持される軸部521a,521bを有している。弾性層522は、例えば、シリコーンゴムからなり、離型層523は、例えば、PFA等のフッ素系樹脂からなる。この弾性層522を設けることにより、加圧ローラ52と定着ローラ51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。弾性層522の厚みは1〜20[mm]、離型層523の厚みは10〜50[μm]が好ましい。
【0035】
ここでは、芯金521(軸部521a,521bを除く)の外径が約30[mm]、弾性層522の厚みが約3[mm]である。また、加圧ローラ52の軸部521a,521bを除いた長さは、記録シートPの最大通紙幅(A3縦通し)よりも大きい寸法に設定されている。
(温度検出部)
定着ローラ51の回転軸方向の中央部における表面温度を検出するよう温度検出センサ54(
図3参照)が、不図示のフレームにより保持されている。
【0036】
この温度センサ54は、たとえば非接触型の赤外線センサからなり、制御部60は、温度センサ54の検出結果に基づき、当該定着ローラ51の通紙領域の表面温度が所定の定着温度(例えば、170℃)になるように励磁コイル80へ供給する電力を制御する。
(磁束発生部)
磁束発生部53は、
図2に示すように励磁コイル80と、3対の消磁コイル81・81、82・82、83・83と、コイルボビン84と、メインコア85と、裾コア86a,86bを有する。なお、
図2では、煩雑さを避けるため、各コイルの巻線の図示は省略し、その外径のみで示している。
【0037】
コイルボビン84は、励磁コイル80と3対の消磁コイル81・81,82・82,83・83、並びにコア85,86a,86bを保持するものであり、定着ローラ51の外周面の回転軸J方向に沿って配される。
コイルボビン84の定着ローラ51の外周面に対向する部分の横断面の形状は、定着ローラ51の外周面に沿うように円弧状に湾曲している。コイルボビン84は、当該円弧状の面と定着ローラ51との隙間が、所定の間隔、例えば1.5[mm]程度となるように不図示のフレームに固定されている。
【0038】
励磁コイル80は、リッツ線を定着ベルト51の回転軸J方向に沿って巻回してなり、これを、コイルボビン84の円弧状に湾曲した部分の内側の面に沿って載置することにより、励磁コイル80の横断面形状が、定着ローラ51の周方向に沿う形状としている。
励磁コイル80の長手方向の長さは、記録シートの最大通紙幅(ここではA3縦通し)よりも大きい寸法に設定されている。
【0039】
励磁コイル80は、高周波電力の供給を受けて、定着ローラ51の金属発熱層513を発熱させたるめの交番磁束を発生させる。
励磁コイル80の上面に、3対の消磁コイル81・81、82・82、83・83が保持される。この配置の詳細については後述する。
各消磁コイル81〜83も、それぞれリッツ線を回転軸J方向に沿って巻き回してなり、かつそれぞれの横断面が、励磁コイル80の上面に沿った円弧状に形成されている。
【0040】
メインコア85および裾コア86a,86bは、高磁性率かつ低損失の磁性体、例えばフェライトやパーマロイのような合金からなる。
メインコア85は、励磁コイル80の外面を覆うようにして台形状に屈曲した複数の部材からなる。台形状の各部材は、定着ローラ51の回転軸J方向に所定間隔をおいて配置され、それぞれの両端が、回転軸J方向に平行に伸びる長尺状の裾コア86a,86bに取り付けられている。裾コア86a,86bは、例えば、シリコーン系接着剤などで、コイルボビン84に固着されている。
【0041】
このようなメインコア85および裾コア86a,86bを設けることにより、励磁コイル80で発生した磁束が、定着ローラ51側とは反対側から漏れないようにして、定着ローラ51を効率的に誘導加熱できるようにしている。
(消磁コイルの配置)
次に、各消磁コイル対81〜83の配置の詳細について説明する。
【0042】
図5(a)は、各消磁コイル対81〜83と励磁コイル80との位置関係を説明するための平面図であり、
図5(b)は、励磁コイル80と消磁コイル81〜83のみを、
図5(a)のD−D線で切断したときの正面図を概略的に示す図である。
図5(a)に示す領域N1,N2は、励磁コイル80の、特定サイズ(ここでは、サイズD)の記録シートを定着部5に通紙したときの非通紙領域に相当する領域であって、各領域N1,N2のそれぞれにおいて、定着ローラ51の回転軸J方向の内側から外側に向かって消磁コイル81,82,83が、それぞれの一方の折り返し部を隣接する消磁コイルの他方の折り返し部に重ねるようにして列設されている。
【0043】
すなわち、
図5(b)に示すように、消磁コイル82の折返し部82bが、不図示の絶縁樹脂を介して消磁コイル81の折返し部81aの上に重ねられている。同様に、消磁コイル83の折返し部83bも、不図示の絶縁樹脂を介して消磁コイル82の折返し部82aの上に重ねられている。そして、消磁コイル81〜83のそれぞれが、回転軸J方向の内側から外側に向かうに従い励磁コイル80に近接するように傾いた姿勢で、それぞれの隙間に介在する耐熱性接着剤(不図示)により励磁コイル80に固定されている。
【0044】
もっとも、最内側の消磁コイル81については、特に傾ける必要はなく、全体を励磁コイル80に密着して固定してもよい。
なお、
図5(b)では、分かりやすいように各折返し部の重なり部分や、折返し部と励磁コイル82表面との接着部の隙間が誇張して大きく描かれているが、実際には耐熱性接着剤の層は、各コイルの厚みに比べて非常に薄く、無視できる程度である(他の側面図においても同じ。)。
【0045】
このように、消磁コイル81〜83のそれぞれが傾斜して、少なくともその他の消磁コイルの折り返し部と重なった部分以外は、当該他の折り返し部に重なる位置よりも、励磁コイル80に接近しているので、従来の
図13に示したように特定の消磁コイルの全てが、励磁コイルから離れている場合に比べて各消磁コイルの消磁効率の低下を十分抑えることができる。
【0046】
しかも、消磁コイル81〜83の各折返し部81a,82bを重ねることで、
図14に示したように折返し部を回転軸J方向に並べた場合と比べて、消磁効率の低い低消磁領域Rの長手方向における範囲を半分にすることができ、全体として消磁効率を向上させることが可能となる。
なお、一番狭い通紙幅となる「特定サイズ」は、機種ごとに具体的に決定される。本実施の形態では、サイズD(例えば、A5サイズ縦通し)としているが、この特定サイズは、必ずしも当該画像形成装置で使用可能な最小サイズである必要はない。当該最小サイズの使用頻度が極めて低い場合には、それに対応した消磁コイルを設けてもコストアップとなるだけだからである。
【0047】
(励磁回路および消磁回路)
図6は、励磁コイル80を駆動する励磁回路90、および消磁コイル対81〜83を動作させる消磁回路91〜93の構成例を示す図である。
図6に示すように、励磁回路90は、励磁コイル80、高周波電源94および切替えリレー95を直列接続して形成されている。
【0048】
高周波電源94は、励磁コイル80に供給する高周波電力(例えば10〜100[kHz]、100〜2000[W])を出力する。切替えリレー95は、公知のリレースイッチからなり、制御部60からの制御信号に基づいて、励磁コイル80への電力供給をオン・オフ制御する。
消磁回路91は、消磁コイル対81および切替えリレー96を直列接続して形成されている。切替えリレー96は、制御部60からの制御信号に基づいて、消磁コイル対81の動作をオン・オフ制御する。
【0049】
切替えリレー96をONにして消磁回路91を閉じることにより各消磁コイル81に、励磁コイル80により発生された交番磁界の磁束を妨げる方向に磁界が発生する。逆に、切替えリレー96をオフして消磁回路91を開くことにより、各消磁コイル81は動作せず、励磁コイル80の交番磁界は低減しない。
同様に、消磁回路92は消磁コイル対82および切替えリレー97で構成され、消磁回路93は、消磁コイル対83および切替えリレー98で構成されている。
【0050】
また、制御部60は、温度検出部54の検出結果に基づいて、定着ローラ51の通紙領域の温度が定着温度となるように、切替えリレー95に制御信号を送信し、励磁コイル80の駆動を制御する。
制御部60は、外部の端末からプリントジョブを受け付けると、当該プリントジョブのデータのヘッダに含まれているユーザ指定のシートサイズに関する情報を抽出して、その情報に基づき、画像形成時に当該サイズの記録シートを給紙させると共に切替えリレー96〜98に入力信号を送信し、各消磁コイル対81〜83の動作を制御する。ここで、給紙カセット41の記録シートが指定サイズでない場合には、制御部60が、プリントジョブを発信した外部の端末にエラー情報を返す。そして、給紙カセット41に指定サイズの記録シートがセットされると、制御部60は、記録シートを給紙し、切替えリレー96〜98に入力信号を送信して各消磁コイル対81〜83の動作を制御する。なお、給紙カセット41に収納されている記録シートのサイズは、公知のサイズ検出センサで検出することにより、もしくは記録シートを給紙カセットにセットする際にユーザが操作パネルから入力することにより得られる。
【0051】
また、ここで仮に、プリンタ1が有する給紙カセットが複数あって、それぞれに異なるサイズの記録シートが収容されている場合には、制御部60は、プリントジョブのシートサイズに関する情報により、該当する記録シートが収容される給紙カセットを選択して、画像形成時に記録シートを給紙させると共に切替えリレー96〜98に入力信号を送信して各消磁コイル対81〜83の動作を制御する構成が採られる。なお、この場合にも、該当する記録シートがいずれの給紙カセットに収容されていなければ、制御部60は、プリントジョブを発信した外部の端末にエラー情報を返し、該当する記録シートが給紙カセットにセットされるのを待つことになる。
【0052】
本実施の形態において、サイズD以下の記録シートでは、このように列設された消磁コイル対81〜83の3つを全てオンにする。また、このうち消磁コイル対82,83の2対をオンにすることにより、サイズCの記録シートに対応し、消磁コイル対83のみをオンにすることによりサイズBの記録シートに対応している。サイズAの記録シートの場合には、消磁コイル対81〜83をOFFのままで動作させない。
【0053】
各消磁コイル81〜83は、オンにされるとそれぞれ励磁コイル80で発生した磁束のうち、当該消磁コイルを通過する磁束を打ち消す方向に磁束を発生することにより、定着ローラ51の金属発熱層513を誘導加熱する磁束を低減させて、非通紙領域の温度上昇を抑制する。
(実験による検証)
図7は、本実施の形態の定着部5(実施例)と
図13の定着装置800(従来例)との間で、サイズBの記録シート(ここでは、B4サイズ縦通し)を通紙したとき非通紙領域に対応する消磁コイル(一番外側の消磁コイル。実施例では
図5の消磁コイル83、従来例では
図13の二段目の消磁コイル804に相当)における消磁効率を測定して比較したグラフである。なお、本実験では比較のため、消磁コイル83、804とも、ターン数や厚みが同じものを使用している。具体的には、素線径φ0.17の素線を114本撚ったリッツ線を10ターン巻いた消磁コイルであって、コイルの厚みが2.8[mm]のものを使用している。
【0054】
図7において、縦軸は消磁効率[%]、横軸は、定着ローラ51の回転軸J方向における通紙中心からの距離[mm]を示している。また、線101が実施例の消磁効率を、線102が従来例の消磁効率を示している。
図7のグラフに示すように、サイズBの記録シートを通紙する場合、通紙領域と非通紙領域との境界が通紙中心から128.5[mm]の位置にあって、当該境界から10〜15[mm]程度外側までの領域に、実施例の消磁コイル83および従来例の消磁コイル804の折返し部が配されている。そのため、その範囲内では、実施例および従来例ともに消磁効率が低くなっているが、それより外側においては、本実施例の構成が、従来例の構成よりも、消磁効率が大幅に向上しているのが容易に理解される。
【0055】
本実験では、従来例として二段目にある消磁コイルと比較したが、従来の構成でさらに異なるサイズの記録シートに対応させる場合には、消磁コイルを3段、4段に重ねることになるが、これに対し、本実施例によれば、いくらサイズが増えても全ての消磁コイルについて同程度に励磁コイルに近接させて設けることができるので、この場合には
図7の場合よりもますます消磁効率の向上が望める。
【0056】
(コイル形状)
本実施の形態では、消磁コイルの一方の折り返し部を隣接する消磁コイルの折返し部に重ねるため、その分だけ励磁コイルとのギャップが生じる。そこで、本願発明者らは消磁コイル自体の厚みを押さえてこのギャップを小さくして消磁コイルの傾きを小さくし、できるだけ励磁コイル80に近接させて、さらに消磁効率を向上させることを試みた。
【0057】
図8は、この場合の実施例に係る消磁コイル81(82,83)(以下、「実施例品」の平面視と側面視の形状を、従来例の消磁コイル(以下、「従来品」)と比較して示す図である。
従来品では、素線径φ0.17の素線を114本撚ったリッツ線を10ターンだけ巻いて形成された消磁コイル880を用いており、その厚みT2は2.8[mm]である。
【0058】
一方、実施例品では、素線径φ0.17の素線を20本撚ったリッツ線を19ターン巻いて形成し、その厚みT1を1.0[mm]に抑えている。
また、従来品では、平面視において、折返し部が大きく湾曲しているのに対して、実施例品では、コイルの巻き形状が平面視において全体的に矩形状であって、折返し部の湾曲が小さくなっている。このように折返し部の湾曲を小さくすることにより、隣接する消磁コイルの折返し部に重ねたときに、それらの折り返し部の大半が重なり合うので、低消磁領域Rをより小さくすることができるという利点がある。
【0059】
実施例品では、リッツ線の撚数が従来品よりも大幅に減っているため、発生する打ち消し磁束も少なくなり消磁効率も従来品よりも低下するように思えるが、実際には励磁コイルに近接した分だけ励磁コイルとの磁気結合が強くなり、厚みが1.0mmの実施例を
図5のように配した場合には、当該実施例品の存する領域において平均63%の消磁効率を得られた。因みに、実施例品の厚みを2.0mmおよび2.8mmにして上記と同様に平均消磁効率を測定したところ、厚みが増す分、隣接する消磁コイルの折返し部の上に重なる折返し部と励磁コイルとのギャップが大きくなることから平均消磁効率は低下して、前者では57%、後者では50%となった。
【0060】
最近では、A4サイズ横通しで75枚/分の処理能力を有する高速機も登場しており、この場合において、大量に連続印刷した場合でも非通紙領域の過昇温を効果的に防止するためには、消磁コイルの消磁効率が55%以上あることが望ましいことが経験的に知られており、この観点からすれば、消磁コイルの厚みは2mm以下が望ましい。
一方、コイル自体の過剰な発熱を防止するため、素線の細さやリッツ線の撚り本数を少なくすることに限界があり、コイルの厚みの下限は、1[mm]以上であることが望ましい。
【0061】
したがって、消磁コイルの厚みT1は、1〜2[mm]がより好ましいと言える。
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態の定着部と第1の実施の形態の定着部5とは、消磁コイルの形状および消磁コイルを励磁コイルに近接させるための構成が異なる。
【0062】
その他の構成については基本的に第1の実施の形態と同様である。したがって、以下では上記の相違点についてのみ説明し、その他の構成についての説明は省略する。また、第1の実施の形態の定着部5と同じ構成要素については、同じ符号を用いる。
図9(a)は、第2の実施の形態に係る定着部150が有する消磁コイル181〜183の形状の側面視の形状を示す断面図である。
図9(b)は、そのうち消磁コイル182の形状を示す斜視図であり、その外観形状のみ示しておりリッツ線の図示は省略している。
【0063】
なお、
図9(a)では、定着ローラ51の回転軸J方向における通紙中心から一方側のみが示されている。
図9(a)に示すように、回転軸J方向に沿って列設された消磁コイル181〜183のうち、消磁コイル181の形状は側面視で直線状であり、定着ローラ51に近接させて平行に配し、消磁コイル182,183は、その一方の折返し部が、段違いになるように成形されている。
【0064】
すなわち、消磁コイル182では、その折返し部182bが消磁コイル181の折返し部181aの上に重ねられた状態で、それ以外の平行部分182cおよび折返し部182aが励磁コイル80に近接するように段差が設けられている。
ここでの平行部分182cとは、消磁コイル182の折返し部182a,182b間であって、コイルを構成するリッツ線が回転軸J方向に沿って平行になっている部分を示している。同様に、消磁コイル183でも、折返し部183bが消磁コイル182の折返し部182aの上に重ねられた状態で、それ以外の平行部分183cおよび折返し部183aが励磁コイル80に近接するように段差が設けられている。
【0065】
このような形状は、平坦状に巻いたコイル体をプレス加工することにより容易に成形できる。
上記のように消磁コイル182,183に段差を設けることにより、それぞれの平行部分182c,183cを励磁コイル80に近接させて密着させることができるので、第1の実施の形態の消磁コイル81〜83のように、それぞれが傾いた姿勢で励磁コイル80に近接する第1の実施の形態に比べて、消磁効率をさらに向上させることができる。これにより、非通紙領域の過昇温をより効果的に抑制することができる。
[変形例]
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
【0066】
(1)消磁コイルの数、配置等の構成は、上記実施の形態に限定されるものではなく、定着ローラや定着部の仕様に応じて、適宜選択することができる。
(1−1)
図10は、上記第1の実施の形態の変形例であって、消磁コイル281〜283のそれぞれが、定着ローラ51の回転軸J方向の外側から内側に向かうに従い励磁コイル80に近接するように傾く姿勢で配置されている。つまり、上記第1の実施の形態の消磁コイル81〜83とは、傾く向きが反対となっている。この場合、消磁コイル281〜283は、対応する通紙幅サイズの通紙領域と非通紙領域との境界付近で、消磁コイルが励磁コイルに最も近接するようになるので、通紙領域と非通紙領域の境界付近の消磁効率を、上記第1の実施の形態よりも高めることができる。
【0067】
(1−2)
図11、
図12は、上記第2の実施の形態における変形例であって、
図11では、消磁コイル381,382の定着ローラ51の回転軸J方向外側の折返し部381a,382aが、それぞれ隣接する消磁コイル382,383の折返し部382b,383bの上に重ねられている。
図12では、消磁コイル482の2つの折返し部482a,482bが、それぞれ隣接する消磁コイル481,483の折返し部481a,483bの上に重ねられた構成となっている。
【0068】
(2)上記実施の形態では、定着回転体として、金属発熱層513を有する発熱ベルト51bをローラ本体51aの外周に嵌め込んでなる定着ローラ51を用いた構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、金属発熱層を有する定着ベルトを用いて、その内側にローラ本体を緩嵌めまたは締まり嵌めした構成とすることもできる。また、当該定着ベルトを用いる場合、ローラ本体に変えて、加圧ローラ52からの押圧力を受け止める長尺の押圧部材を定着ベルトの内側に配するようにしても良い。
【0069】
(3)上記実施の形態では、金属発熱層513、弾性層514、離型層515がこの順で積層されてなる発熱ベルト51bの構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、金属発熱層513と弾性層514との間に、Cu,Ag,Auなどの低抵抗材料からなる低抵抗層を介挿することができる。もっともこの場合には、低抵抗層の厚みは、数[μm]〜数10[μm]程度が好ましく、低抵抗層を介挿することにより、さらに良好な発熱効率を得ることができる。
【0070】
(4)上記実施の形態において、メインコア85および裾コア86a,86bが、励磁コイル80や定着ローラ51とともに磁気回路を形成する構成を示したが、さらに励磁コア80のループ内の長手方向両端部にコア部材(端部コア)を配置しても構わない。
定着ローラ51の回転軸方向両端部は、十分に励磁コイルの交番磁界が行き届きにくく、また、側方から外部に放熱しやすい場所でもあるので、上記端部コアを配置して、両端部における磁束密度を高めることにより、最大サイズAの通紙をした場合における幅方向両端部の定着不良を防止することができる。
【0071】
(5)上記実施の形態では、隣接する消磁コイルの折り返し部に重ねた部分よりも、消磁コイルの他の部分が励磁コイルに近接するように構成するため、消磁コイルを傾斜させたり(第1の実施の形態)、段差部を設けたり(第2の実施の形態)したが、少なくともそれぞれの消磁コイルの他の部分が、前記重ねた折返し部のうち上に重なったいずれの折り返し部の位置よりも、励磁コイル側に近接するような姿勢で配設されておれば、少なくとも従来よりは、消磁効率を向上させることが可能となり得る。
【0072】
(6)上記実施の形態では、画像形成装置として、タンデム型フルカラープリンタを用いて説明したが、本発明の適用範囲は、これに限らず、抵抗発熱体を用いた定着部を有する複写機、ファクシミリ装置、プリンタなどに適用することができる。
また、上記実施の形態及び変形例の内容は、可能な限り組み合わせても構わない。