特許第5923936号(P5923936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923936
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】フィルム冷却構造及びタービン翼
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/18 20060101AFI20160516BHJP
   F01D 5/18 20060101ALI20160516BHJP
   F01D 9/02 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   F02C7/18 A
   F01D5/18
   F01D9/02 102
   F02C7/18 C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-245704(P2011-245704)
(22)【出願日】2011年11月9日
(65)【公開番号】特開2013-100786(P2013-100786A)
(43)【公開日】2013年5月23日
【審査請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】大北 洋治
(72)【発明者】
【氏名】仲俣 千由紀
(72)【発明者】
【氏名】久保 世志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 修
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−138794(JP,A)
【文献】 特開平10−054203(JP,A)
【文献】 特開2011−196360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D1/00−11/24
F02C1/00−9/58
F23R3/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が流通する壁面と、該壁面に開口して冷却媒体を噴出する複数のフィルム冷却孔と、を有するフィルム冷却構造であって、
前記熱媒体の主流方向において隣り合う前記フィルム冷却孔の各開口方向は、前記主流方向と直交するそれぞれの平面内においてそれぞれ設定されていると共に、前記噴出によって形成される前記冷却媒体の渦の向きが互いに逆方向で、且つ、前記主流方向の下流側の前記冷却媒体の渦が、前記主流方向の上流側の前記冷却媒体の渦に巻き込まれて合流し、該合流した前記冷却媒体が前記壁面に沿って前記主流方向と交差する同一方向に流通するように設定されていることを特徴とするフィルム冷却構造。
【請求項2】
前記熱媒体の主流方向において隣り合う前記フィルム冷却孔に係る、前記主流方向の上流側の前記開口方向の前記平面内における前記壁面に対する第1角度と、前記主流方向の下流側の前記開口方向の前記平面内における前記壁面に対する第2角度とは、互いに異なる角度に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルム冷却構造。
【請求項3】
前記第1角度と前記第2角度との差は、100度よりも大きく、且つ、120度よりも小さい範囲内に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のフィルム冷却構造。
【請求項4】
前記第1角度及び前記第2角度のうちいずれか一方が、135度よりも大きく、且つ、150度よりも小さい範囲内に設定されている場合に、他方が、30度よりも大きく、且つ、40度よりも小さい範囲内に設定されていることを特徴とする請求項3に記載のフィルム冷却構造。
【請求項5】
前記熱媒体の主流方向において隣り合う前記フィルム冷却孔は、前記主流方向と直交し、且つ、前記壁面に沿う方向において、互いに異なった位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルム冷却構造。
【請求項6】
熱媒体が流通する壁面と、該壁面に開口して冷却媒体を噴出する複数のフィルム冷却孔と、を有するフィルム冷却構造であって、
前記熱媒体の主流方向において隣り合う前記フィルム冷却孔の各開口方向は、前記噴出によって形成される前記冷却媒体の渦の向きが互いに逆方向で、且つ、前記主流方向の下流側の前記冷却媒体の渦が、前記主流方向の上流側の前記冷却媒体の渦に巻き込まれて合流し、該合流した前記冷却媒体が前記壁面に沿って前記主流方向と交差する同一方向に流通するように設定されており、
前記熱媒体の主流方向において隣り合う前記フィルム冷却孔は、前記主流方向と直交し、且つ、前記壁面に沿う方向において、互いに異なった位置に形成されていることを特徴とするフィルム冷却構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルム冷却構造を有するタービン翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム冷却構造及びタービン翼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ガスタービンにおける動翼、燃焼器のライナ等のように高温ガス(熱媒体)に臨む壁面に噴出孔(フィルム冷却孔)を設け、この噴出孔から噴出される冷却媒体を壁面に沿って流すことによって壁面の冷却を行うフィルム冷却構造が開示されている。このフィルム冷却構造は、壁面からの冷却媒体の剥離を抑制し、フィルム効率を高めるべく、一対以上の噴射孔からの冷却媒体の噴出方向が、これら冷却媒体を互いに壁面に押し付ける方向の渦を形成するように設定されている。
【0003】
具体的には、各対の噴出孔が、壁面上で高温ガスの流れ方向に沿って前後に配置され、各噴出孔が、壁面上で、冷却媒体の噴出方向を長軸とする楕円形状を有し、各対の噴出孔から噴出される冷却媒体の噴出速度ベクトルはそれぞれ、高温ガスの流れに対して、壁面に沿った面上で横方向角度成分β1,β2を有し、これら横方向角度成分β1,β2が互いに相違するように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4147239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、対をなす2つの噴出孔からの冷却媒体同士が干渉し合い、冷却媒体を壁面に押し付け、冷却媒体の壁面からの剥離を抑制することにより、壁面上におけるフィルム効率を高めることができる。
しかしながら、上記従来技術では、冷却媒体の押し付け作用が得られるのが冷却媒体の渦と渦との間の範囲であり、高いフィルム効率が得られる範囲が狭いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高いフィルム効率が広範囲で得られるフィルム冷却構造及びタービン翼の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、熱媒体が流通する壁面と、該壁面に開口して冷却媒体を噴出する複数のフィルム冷却孔と、を有するフィルム冷却構造であって、上記熱媒体の主流方向において隣り合う上記フィルム冷却孔の各開口方向は、上記噴出によって形成される上記冷却媒体の渦の向きが互いに逆方向で、且つ、上記主流方向の下流側の上記冷却媒体の渦が、上記主流方向の上流側の上記冷却媒体の渦に巻き込まれて合流し、該合流した上記冷却媒体が上記壁面に沿って上記主流方向と交差する同一方向に流通するように設定されているという構成を採用する。
【0008】
また、本発明においては、上記熱媒体の主流方向において隣り合う上記フィルム冷却孔の各開口方向は、上記主流方向と直交するそれぞれの平面内においてそれぞれ設定されているという構成を採用する。
【0009】
また、本発明においては、上記熱媒体の主流方向において隣り合う上記フィルム冷却孔に係る、上記主流方向の上流側の上記開口方向の上記平面内における上記壁面に対する第1角度と、上記主流方向の下流側の上記開口方向の上記平面内における上記壁面に対する第2角度とは、互いに異なる角度に設定されているという構成を採用する。
【0010】
また、本発明においては、上記第1角度と上記第2角度との差は、100度よりも大きく、且つ、120度よりも小さい範囲内に設定されているという構成を採用する。
【0011】
また、本発明においては、上記第1角度及び上記第2角度のうちいずれか一方が、135度よりも大きく、且つ、150度よりも小さい範囲内に設定されている場合に、他方が、30度よりも大きく、且つ、40度よりも小さい範囲内に設定されているという構成を採用する。
【0012】
また、本発明においては、上記熱媒体の主流方向において隣り合う上記フィルム冷却孔は、上記主流方向と直交し、且つ、上記壁面に沿う方向において、互いに異なった位置に形成されているという構成を採用する。
【0013】
また、本発明においては、先に記載のフィルム冷却構造を有するタービン翼を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下流側のフィルム冷却孔から噴出した冷却媒体が、上流側のフィルム冷却孔から噴出した冷却媒体で形成された渦の下に潜り込むように巻き込まれ、互いの冷却媒体が主流方向と交差する同一方向に押し広げるようにして干渉し合う。
したがって、本発明では、高いフィルム効率が広範囲で得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態におけるタービン翼を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態におけるフィルム冷却構造のフィルム冷却孔の配置を示す平面図である。
図3図2における矢視A−A断面図である。
図4】本発明の実施形態におけるフィルム冷却構造による作用を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態におけるフィルム冷却構造のフィルム効率を示す解析結果図である。
図6】本実施例におけるフィルム冷却構造の解析モデルを示す平断面図である。
図7】本実施例の多次元解析結果(γ1>γ2の場合)を示すグラフである。
図8】本実施例の多次元解析結果(γ1<γ2の場合)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明では、本発明におけるフィルム冷却構造を、ガスタービンのタービン翼の冷却構造に適用した場合を例示して説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態におけるタービン翼100を示す斜視図である。
図1に示すように、タービン翼100の前縁部101には、本実施形態におけるフィルム冷却構造1が設けられている。フィルム冷却構造1は、熱媒体が流通する壁面2と、壁面2に開口して冷却媒体を噴出する複数のフィルム冷却孔3と、を有する構成となっている。
【0018】
熱媒体は、不図示の燃焼器によって生成された高温の燃焼ガスである。この熱媒体は、壁面2に沿って、前縁部101から後縁部102に向かう主流方向に流通する。熱媒体の主流方向は、図において符号Fで示す。
冷却媒体は、タービン翼100が複数取り付けられる不図示の翼サポート部品等から供給される低温の圧縮空気である。タービン翼100の内部は中空となって不図示の流路が形成されており、供給された冷却媒体は、フィルム冷却孔3から噴出する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態におけるフィルム冷却構造1のフィルム冷却孔3の配置を示す平面図である。図3は、図2における矢視A−A断面図である。
図において、X軸方向は熱媒体の主流方向を、Y軸方向は熱媒体の主流方向と直交する方向(スパン(翼幅)方向)を、Z軸方向はX−Y平面(壁面2)に対して垂直な方向を、それぞれ示す。
【0020】
図2に示すように、壁面2には、熱媒体の主流方向(X軸方向)において隣り合って、フィルム冷却孔3a,3bが配置されている。なお、図において、主流方向上流側(−X側)のフィルム冷却孔3には符号3aを付し、主流方向下流側(+X側)のフィルム冷却孔3には符号3bを付している。フィルム冷却孔3a,3bは、Y軸方向において距離hをあけて、互いに異なった位置に形成されている。詳しくは、上流側のフィルム冷却孔3aが+Y側にオフセットして配置され、下流側のフィルム冷却孔3bが−Y側にオフセットして、互い違いに配置されている。
【0021】
この熱媒体の主流方向において隣り合うフィルム冷却孔3a,3bの各開口方向(図3において矢印を付す)は、後述する図4に示すように、上記噴出によって形成される冷却媒体の渦の向きが互いに逆方向で、且つ、主流方向の下流側の冷却媒体の渦(符号B2で示す)が、主流方向の上流側の冷却媒体の渦(符号A2で示す)に巻き込まれて合流し、該合流した冷却媒体が壁面2に沿って主流方向と交差する同一方向に流通するように設定されている。
【0022】
具体的には、図3に示すように、熱媒体の主流方向において隣り合うフィルム冷却孔3a,3bの各開口方向は、主流方向と直交する平面(Y−Z平面)内においてそれぞれ設定されている。フィルム冷却孔3a,3bは、それぞれ壁面2に対して斜めに形成され、主流方向から視ると壁面2の内側で交差(クロス)するように形成されている。フィルム冷却孔3a,3bは、直径dを有し、図2に示す平面視では、それぞれY軸方向を長軸とする略楕円形状を呈している。
【0023】
また、図3に示すように、熱媒体の主流方向において隣り合うフィルム冷却孔3a,3bに係る、主流方向上流側のフィルム冷却孔3aの開口方向のY−Z平面内における壁面2に対する第1角度γ1と、主流方向下流側のフィルム冷却孔3bの開口方向のY−Z平面内における壁面2に対する第2角度γ2とは、互いに異なる角度に設定されている。
【0024】
第1角度γ1と第2角度γ2との差は、その大小関係に係らず、100度よりも大きく、且つ、120度よりも小さい範囲内に設定することが好ましい。すなわち、第1角度γ1と第2角度γ2との差をΔで示すと、Δは下に示す式で表される。
Δ = |γ1−γ2| (但し、100<Δ<120)
【0025】
さらに、第1角度γ1及び第2角度γ2のうちいずれか一方が、135度よりも大きく、且つ、150度よりも小さい範囲内に設定されている場合に、他方が、30度よりも大きく、且つ、40度よりも小さい範囲内に設定することがより好ましい。すなわち、より好ましいケースとしては、下に示す2通りとなる。
ケース1… 135<γ1<150 且つ 30<γ2<40
ケース2… 30<γ1<40 且つ 135<γ2<150
【0026】
なお、上流側のフィルム冷却孔3a及び下流側のフィルム冷却孔3bは、それぞれスパン方向(Y軸方向)に複数設けられて列を成している(図1参照)。上記関係は、この列毎に設定されている。すなわち、ある一列を構成するフィルム冷却孔3を見ると、それぞれ同じ傾きで形成されており、その隣の列と比較すると、上記関係を有する。図1においては、スパン方向に列を成すフィルム冷却孔3が主流方向に複数並んで示されているが、主流方向で隣り合う列同士のフィルム冷却孔3が、それぞれ上記関係を有することとなる。
【0027】
続いて、上記構成のフィルム冷却構造1による作用について、図4を参照して説明する。
図4は、本発明の実施形態におけるフィルム冷却構造1による作用を説明するための図である。なお、図4(a)は図2における矢視A−A断面における冷却媒体の流れを示し、図4(b)は図2における矢視B−B断面における冷却媒体の流れを示し、図4(c)は図2における矢視C−C断面における冷却媒体の流れを示す。
【0028】
壁面2には熱媒体がX軸方向(図4において紙面奥行き方向)に流通しており、上流側のフィルム冷却孔3aから噴出した冷却媒体は、大きく分けて符号A1で示す流れと符号A2で示す流れになる。流れA1は、壁面2に沿う流れであり、フィルム冷却孔3aの開口方向(傾く方向)に従った向きの+Y側の流れとなる。一方、流れA2は、冷却媒体の噴出により誘起された渦であり、フィルム冷却孔3aの開口方向に逆らう向きの−Y側の流れとなる。図4(a)に示すように、流れA2は、時計回りの渦を巻く。
【0029】
図4(b)に示すように、下流側のフィルム冷却孔3bから噴出した冷却媒体も同様に、大きく分けて符号B1で示す流れと符号B2で示す流れになるが、上流側の流れA1,A2とはそれぞれ向きが反対になる。すなわち、流れB1は、壁面2に沿う流れであり、フィルム冷却孔3bの開口方向(傾く方向)に従った向きの−Y側の流れとなる。一方、流れB2は、冷却媒体の噴出により誘起された渦であり、フィルム冷却孔3bの開口方向に逆らう向きの+Y側の流れとなる。図4(b)に示すように、流れB2は、反時計回りの渦を巻く。
【0030】
流れA2,B2は、それぞれ熱媒体の主流方向の流れによって下流側に運ばれるが、その下流側の矢視C−C断面において、図4(c)に示すように干渉し合う。冷却媒体の渦の向きが互いに逆方向の流れA2,B2は、主流方向下流側の流れB2が、主流方向上流側からきた流れA2の渦に巻き込まれて合流し、該合流した冷却媒体が壁面2に沿って主流方向と交差する同一方向(Y軸方向成分を含む方向)に流通する。これは、下流側のフィルム冷却孔3bから噴出した冷却媒体が、上流側のフィルム冷却孔3aからの冷却媒体で誘起された流れA2の渦の下に潜り込むように広がり、互いにスパン方向(Y軸方向)に押し広げるように干渉し合った結果である。
【0031】
図5は、本発明の実施形態におけるフィルム冷却構造1のフィルム効率を示す解析結果である。なお、図5における熱媒体の主流方向は、紙面右側から紙面左側であり、符号Fで示す。また、フィルム効率の高低は、パターンの濃淡で示している。
図5に示すように、本実施形態のフィルム冷却構造1によれば、上流側のフィルム冷却孔3aから噴出した冷却媒体の流れと下流側のフィルム冷却孔3bから噴出した冷却媒体の流れとが干渉し合って、壁面2において高いフィルム効率が広範囲で得られていることが分かる。
【0032】
このように、上述の本実施形態によれば、熱媒体が流通する壁面2と、該壁面2に開口して冷却媒体を噴出する複数のフィルム冷却孔3と、を有するフィルム冷却構造1であって、熱媒体の主流方向(X軸方向)において隣り合うフィルム冷却孔3a,3bの各開口方向は、上記噴出によって形成される冷却媒体の渦の向きが互いに逆方向で、且つ、主流方向の下流側の符号B2で示す冷却媒体の渦が、主流方向の上流側の符号A2で示す冷却媒体の渦に巻き込まれて合流し、該合流した冷却媒体が壁面2に沿って主流方向と交差する同一方向に流通するように設定されているという構成を採用することによって、高いフィルム効率が広範囲で得られる。
また、本実施形態のフィルム冷却構造1を有するタービン翼100によれば、熱耐久性が向上するため、高性能化、長寿命化を図ることができる。
【0033】
(実施例)
以下、実施例により本発明の効果をより明らかにする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0034】
図6は、本実施例におけるフィルム冷却構造1の解析モデルを示す平断面図である。
図6に示すように、本多次元解析においては、タービン翼100の前縁部101を想定したモデルを用いた。本多次元解析においては、平断面視で略U字形状のモデルを半分にしたものを用いた。なお、図6において、上流側のフィルム冷却孔3aの基準面110に対する角度はαで示し、下流側のフィルム冷却孔3bの基準面110に対する角度はβで示している。
【0035】
本多次元解析においては、流れに関する1つの流れ変数、すなわち噴出し比(BR)及び形状に関する4つの設計変数(h/d、β、γ1、γ2)の計5つを変数として解析を行った。各条件は以下の通りである。なお、αは、一定(15°)とした。
【0036】
[流れ条件]
BR … 0.5≦BR≦2.0
[形状条件]
h/d(図2及び図3参照) … 3.5≦h/d<10.5 (ベース条件:h/d=3.5)
β(図6参照) … 39≦β≦90 (ベース条件:β=55°)
γ1(図3参照)… 10≦γ1 (ベース条件:γ1=45°)
γ2(図3参照)… γ2≦170 (ベース条件:γ2=45°)
【0037】
図7は、本実施例の多次元解析結果(γ1>γ2の場合)を示すグラフである。図8は、本実施例の多次元解析結果(γ1<γ2の場合)を示すグラフである。なお、同グラフは、各パラメータにおいて上に向かうほど値が大きくなるグラフである。また、冷却孔率は、壁面2における3点の所定箇所(η5d、η120、η90)で評価した。
【0038】
図7に示すように、γ1>γ2の場合、形状条件(abs(γ1−γ2))が100°〜120°の範囲内にあれば、他の条件(BR、h、β)の値をある程度振ったとしても、高い冷却効率が得られることが分かる。
また、図8に示すように、γ1<γ2の場合(逆の関係)においても同様に、形状条件(abs(γ1−γ2))が100°〜120°の範囲内にあれば、他の条件(BR、h/d、β)の値をある程度振ったとしても、高い冷却効率が得られることが分かる。
【0039】
また、多次元解析において、γ1とγ2を考え得る角度範囲全体で数値解析を行った結果、第1角度γ1及び第2角度γ2のうちいずれか一方が、135度よりも大きく、且つ、150度よりも小さい範囲内に設定されている場合に、他方が、30度よりも大きく、且つ、40度よりも小さい範囲内に設定されていることが、冷却効率の観点から優位な効果が得られることが分かった。
【0040】
以上の実施例から、第1角度γ1と第2角度γ2との差は、100度よりも大きく、且つ、120度よりも小さい範囲内に設定することが、好ましく、また、第1角度γ1及び第2角度γ2のうちいずれか一方が、135度よりも大きく、且つ、150度よりも小さい範囲内に設定されている場合に、他方が、30度よりも大きく、且つ、40度よりも小さい範囲内に設定されていることが、より好ましいことが分かる。
【0041】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では、本フィルム冷却構造1をガスタービンのタービン翼100の冷却構造に適用した場合を例示して説明したが、本発明はこの構成に限定されず、例えば、燃焼器のライナ等の他の冷却構造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…フィルム冷却構造、2…壁面、3(3a,3b)…フィルム冷却孔、A1…流れ、A2…流れ(上流側の渦)、B1…流れ、B2…流れ(下流側の渦)、γ1…第1角度、γ2…第2角度、100…タービン翼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8