特許第5923965号(P5923965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923965
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】音響構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20160516BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   G10K11/16 F
   E04B1/86 K
   E04B1/86 Q
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-274602(P2011-274602)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2013-125189(P2013-125189A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】本地 由和
【審査官】 菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−030744(JP,A)
【文献】 特開2011−241583(JP,A)
【文献】 特開2009−030430(JP,A)
【文献】 特開2009−030431(JP,A)
【文献】 特開2009−030432(JP,A)
【文献】 特開昭57−044042(JP,A)
【文献】 特開平02−178447(JP,A)
【文献】 特開2008−082162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
E04B 1/62− 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のパイプを配列した音響構造体であって、前記複数本のパイプのうち少なくとも1本以上のパイプは、当該パイプの長さ方向に沿って離間した複数個の開口部を有し、当該パイプにおける隣り合う開口部間の区間が各開口部を開口端とする開管となっており、前記複数本のパイプの長さ方向における開口部の位置がパイプ毎に異なっていることを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
前記複数本のパイプの開口部は、当該複数本のパイプの各々における開口部と一方及び他方の端部の各々との間の距離、及び当該複数本のパイプの各々における隣り合う開口部間の距離が同じにならない位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の音響構造体。
【請求項3】
前記複数本のパイプの開口部は、当該複数本のパイプの各々における開口部と一方及び他方の端部の各々との間の距離のj(jは整数)倍の長さ、及び当該複数本のパイプの各々における隣り合う開口部間の距離のj/2倍の長さが同じにならない位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の音響構造体。
【請求項4】
前記複数本のパイプの各々における空洞を挟んで対向する2つの側面に前記開口部が設けられており、各パイプの長さ方向における開口部の位置がパイプ毎に異なっていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の音響構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホールや劇場などの壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁面間で音が繰り返し反射することによりブーミングやフラッターエコーなどの音響障害が発生する。図4は、この種の音響障害の防止に好適な従来の音響構造体90を示す正面図である。この音響構造体90は、複数本のパイプ5−m(m=1〜M:図4の例ではM=5)を全体として薄い直方体状をなすように配列したものである。この音響構造体90のパイプ5−m(m=1〜M)の各々は角筒状をなしている。パイプ5−m(m=1〜M)は両端を揃えて長さ方向と直交する方向に並べられている。各パイプ5−mの側面6−mには開口部7−mが設けられている。各パイプ5−mの長さ方向における開口部7−mの位置はパイプ5−m毎に異なっている。この音響構造体90は、音響空間の内壁や天井などに設置された場合に、パイプ5−m(m=1〜M)に入射する音波に対する吸音効果と散乱効果を発生し、音響空間内の音響障害の発生を防止する。
【0003】
音響構造体90の各パイプ5−mによる吸音効果および散乱効果の発生の原理は次の通りである。図5に示すように、パイプ5−mにおける開口部7−mの奥の空洞には、開口部7−mを開口端とし空洞の左側の端部8−mを閉口端とする閉管CP−mと、開口部7−mを開口端とし空洞の右側の端部8−mを閉口端とする閉管CP−mが形成されているとみなすことができる。音響空間から開口部7−mを介して空洞内に音波が入射すると、空洞内では、閉管CP−mの開口端(開口部7−m)から閉口端(端部8−m)に向かう進行波と、閉管CP−mの開口端(開口部7−m)から閉口端(端部8−m)に向かう進行波とが発生する。そして、前者の進行波は、閉管CP−mの閉口端において反射され、その反射波が開口部7−mへ戻る。また、後者の進行波は、閉管CPの−mの閉口端において反射され、その反射波が開口部7−mへ戻る。
【0004】
そして、閉管CP−mでは、下記式(1)に示す共鳴周波数fL1−m(1次モード共鳴周波数)及びその3倍、5倍、7倍…の倍音周波数fL3−m,fL5−m,fL7−m…において共鳴が発生し、閉管CP−M内において進行波と反射波とを合成した音波は、閉管CP−mの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。また、閉管CP−mでは、下記式(2)に示す共鳴周波数fR1−m(1次モード共鳴周波数)及びその3倍、5倍、7倍…の倍音周波数fR3,fR5,fR7…において共鳴が発生し、閉管CP−m内において進行波と反射波とを合成した音波は、閉管CP−mの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。なお、下記式(1)および(2)において、Lは閉管CP−mの長さ(空洞の左側の端部8−mから開口部7−mまでの長さ)、Lは閉管CP−mの長さ(空洞の右側の端部8−mから開口部7−mまでの長さ)、cは音波の伝搬速度である。
L1−m=c/(4・L)…(1)
R1−m=c/(4・L)…(2)
【0005】
ここで、パイプ5−mの開口部7−m及び側面6−mにおける開口部7−mの近傍に入射する音波のうち周波数fL1,fL3,fL5,fL7…の成分に着目すると、閉管CP−mの閉口端において反射されて開口部7−mから音響空間へと放射される音波は、音響空間から開口部7−mに入射する音波に対して逆相の音波となる。一方、側面6−mにおける開口部7−mの周囲では、音響空間からの入射波が位相回転を伴うことなく反射される。
【0006】
よって、周波数fL1,fL3,fL5,fL7…の成分を含む音波が開口部7−mを介して空洞に入射した場合、側面6−mにおける開口部7−mの正面(入射方向)では、閉管CP−mから開口部7−mを介して放射される音波と側面6−mにおける開口部7−mの近傍の各点から反射される音波が逆相となって互いの位相が干渉し合い、吸音効果が発生する。また、側面6−mにおける開口部7−mの周囲では、開口部7−mからの音波と側面6−mからの反射波の位相が不連続となり、位相の不連続を解消しようとする気体分子の流れが発生する。この結果、側面6−mにおける開口部7−mの周囲では、入射方向に対する鏡面反射方向以外の方向への音響エネルギーの流れが発生し、散乱効果が発生する。
【0007】
同様に、周波数fR1,fR3,fR5,fR7…の成分を含む音波が開口部17−mを介して空洞に入射した場合、側面6−mにおける開口部7−mの正面(入射方向)では、吸音効果が発生する。また、側面6−mにおける開口部7−mの周囲では、散乱効果が発生する。
【0008】
また、周波数fL1,fL3,fL5,fL7…や周波数fR1,fR3,fR5,fR7…の近傍の周波数帯域内では、開口部7−mから音響空間に放射される音波の位相と側面6−mから音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になる。このため、周波数fL1およびfR1の各々の近傍の周波数帯域では、周波数fL1,fL3,fL5,fL7…や周波数fR1,fR3,fR5,fR7…に対する周波数の近さに応じた程度の吸音効果および散乱効果が発生する。以上が、パイプ5−m(m=1〜M)による吸音効果および散乱効果の発生の原理である。
【0009】
また、図4に示す従来の音響構造体90では、各パイプ5−mの長さ方向における開口部7−mの位置がパイプ5−m毎に異なっているため、音響構造体90内には共鳴周波数の異なる2×M本の閉管が形成されているとみなすことができる。よって、吸音効果及び散乱効果を広い帯域に亙って発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−84509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図4に示した従来の音響構造体90の場合、パイプ5−m(m=1〜M)の長さにより決まる特定帯域の音波については、開口部7−m(m=1〜M)の配置の如何に関わらず、吸音効果及び散乱効果が発生しなくなるという問題がある。その理由は次の通りである。特許文献1に記されているように、音響構造体90の各パイプ5−mに音波が入射したときの開口部7−mとその周辺の媒質(空気)の挙動は比音響インピーダンス比ζと呼ばれる物理量に依存する。比音響インピーダンス比ζは、音場内のある点の音響インピーダンス比Zとその点の媒質の特性インピーダンス比Zの複素比Z/Zを示す値である。音響構造体90のパイプ5−mにおける開口部7−mの面積をSとし、パイプ5−m内の空洞におけるパイプ5−mの長さ方向と直交する断面の面積をSとした場合、開口部7−mにおける各点の比音響インピーダンス比ζは次式(3)により表される。式(3)におけるjは虚数単位であり、Lはパイプ5−m内の一方の閉管CP−mの長さであり、Lはパイプ5−m内の他方の閉管CP−mの長さであり、kは波数(より具体的には、入射波の角速度2πf(fは周波数)を音速cで除算した値2πf/c)である。
【数1】
【0012】
また、開口部7−mの各点における複素音圧反射係数R(Rは入射波と反射波の複素比、R=|R|exp(jφ)、|R|は反射波の振幅、φは位相変化量)と比音響インピーダンス比ζとの関係は次式(4)により表される。
【数2】
【0013】
ここで、前掲式(3)におけるk(L+L)がπの整数倍となるような周波数の音波がパイプ5−mの開口部7−mに入射した場合、前掲式(3)におけるsink(L+L)が0になる。sink(L+L)が0になると比音響インピーダンス比ζは無限大になる。比音響インピーダンス比ζは無限大になるということは、パイプ5−mの開口部7−mから放射される音波と側面6−2における開口部7−mの周囲から放射される音波との間の位相変化量φが略0になることを意味する。このため、k(L+L)が整数となるような周波数の音波がパイプ5−mの開口部7−mに入射した場合、吸音効果や散乱効果が発生しない。また、パイプ5−m(m=1〜M)の長さ方向における開口部7−mの位置がパイプ5−m毎に異なっていたとしても、パイプ5−m(m=1〜M)の長さが同じであればパイプ5−m(m=1〜M)の内部の閉管CP−m及びCP−mの長さL及びLの和L+Lは同じになる。以上の理由から、従来の音響構造体90では、パイプ5−m(m=1〜M)における吸音効果及び散乱効果が発生しない帯域が全て同じになる。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、パイプを直方体状をなすように並べて配置した音響構造体の吸音能力及び散乱能力を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、複数本のパイプを配列した音響構造体であって、前記複数本のパイプのうち少なくとも1本以上のパイプは、当該パイプの長さ方向に沿って離間した複数本の開口部を有し、前記複数本のパイプの長さ方向における開口部の位置がパイプ毎に異なっていることを特徴とする音響構造体を提供する。
【0016】
この発明では、複数本のパイプの長さ方向における開口部の位置がパイプ毎に異なっている。このため、パイプの空洞内において形成される複数本の閉管の長さの和はパイプ毎に異なったものとなる。よって、本発明によると、パイプ5−mの開口部7−mから放射される音波と側面6−2における開口部7−mの周囲から放射される音波との間の位相変化量φが略0になる帯域はパイプ毎に異なる。従って、本発明によると、パイプの各々における吸音効果及び散乱効果が発生しない帯域が全て同じになる、という事態の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態である音響構造体を示す正面図である。
図2】同音響構造体のパイプとパイプ内に形成される閉管及び開管の縦断面図である。
図3】従来の音響構造体を示す正面図である。
図4】同音響構造体のパイプとパイプ内に形成される閉管の縦断面図である。
図5】同音響構造体における吸音効果及び散乱効果の発生の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である音響構造体10の正面図である。この音響構造体10は、複数本のパイプ1−n(n=1〜N:図1の例では、N=5)を全体として薄い直方体状をなすように配列したものである。この音響構造体10のパイプ1−n(n=1〜N)の各々は角筒状をなしている。パイプ1−n(n=1〜N)の長さ、幅、及び高さは同じである。パイプ1−n(n=1〜N)は左右の端部4−n(n=1〜N)及び4−n(n=1〜N)を揃えて長さ方向と直交する方向に並べられている。
【0019】
この音響構造体10のパイプ1−n(n=1〜N)のうちパイプ1−1の側面2−1には1つの開口部3−1が設けられている。パイプ1−2の側面2−2にはパイプ1−2の長さ方向に沿って離間した2つの開口部3−2及び3−2が設けられている。パイプ1−3の側面2−3にはパイプ1−3の長さ方向に沿って離間した2つの開口部3−3及び3−3が設けられている。パイプ1−4の側面2−4にはパイプ1−4の長さ方向に沿って離間した2つの開口部3−4及び3−4が設けられている。パイプ1−5の側面2−5にはパイプ1−5の長さ方向に沿って離間した2つの開口部3−5及び3−5が設けられている。これらの開口部3−1、3−2、3−2、3−3、3−3、3−4、3−4、3−5、3−5は正方形状をなしている。開口部3−1、3−2、3−2、3−3、3−3、3−4、3−4、3−5、3−5の一辺の長さはパイプ1−nの幅と略同じである。各パイプ1−n(n=1〜N)の長さ方向における開口部3−1、3−2、3−2、3−3、3−3、3−4、3−4、3−5、3−5の位置はパイプ毎に異なっている。この音響構造体10のパイプ1−n(n=1〜N)の開口部は、パイプ1−n(n=1〜N)の各々における開口部と一方及び他方の端部の各々との間の距離のj(j=1,2…)倍(整数倍)の長さ、及びパイプ1−2〜1−5の各々における隣り合う開口部間の距離のj/2倍の長さが同じにならない位置に配置されている。
【0020】
より詳細に説明すると、図1に示すように、この音響構造体10では、パイプ1−1の側面2−1における端部4−1と開口部3−1の間に距離L−1の間隔が空いており、同面2−1における端部4−1と開口部3−1の間に距離L−1(L−1は、L−1のj(j=1,2…)倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−2の側面2−2における端部4−2と開口部3−2の間には距離L−2(L−2は、L−1及びL−1のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いており、同面2−2における端部4−2と開口部3−2の間には距離L−2(L−2は、L−1、L−1、及びL−2のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−3の側面2−3における端部4−3と開口部3−3の間には距離L−3(L−3は、L−1〜L−2、L−1、及びL−2のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いており、同面2−3における端部4−3と開口部3−3の間には距離L−3(L−3は、L−1〜L−3及びL−1〜L−2のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−4の側面2−4における端部4−4と開口部3−4の間には距離L−4(L−4は、L−1〜L−3及びL−1〜L−3のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いており、同面2−4における端部4−4と開口部3−4の間には距離L−4(L−4は、L−1〜L−4及びL−1〜L−3のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−5の側面2−5における端部4−5と開口部3−5の間には距離L−5(L−5は、L−1〜L−4及びL−1〜L−4のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いており、同面2−5における端部4−5と開口部3−5の間には距離L−5(L−5は、L−1〜L−5及びL−1〜L−4のj倍(整数倍)と一致しない長さ)の間隔が空いている。
【0021】
さらに、この音響構造体10では、パイプ1−2の側面2−2における開口部3−2及び3−2間に距離L−2(L−2は、L−1〜L−5及びL−5〜L−5の2j倍と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−3の側面2−3における開口部3−3及び3−3間に距離L−3(L−3は、L−2のj倍(整数倍)と一致せず且つL−1〜L−5及びL−5〜L−5の2j倍と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−4の側面2−4における開口部3−4及び3−4間に距離L−4(L−4は、L−2及びL−3のj倍と一致せず且つL−1〜L−5及びL−5〜L−5の2j倍と一致しない長さ)の間隔が空いている。また、パイプ1−5の側面2−5における開口部3−5及び3−5間に距離L−5(L−5は、L−2〜L−4のj倍(整数倍)と一致せず且つL−1〜L−5及びL−5〜L−5の2j倍と一致しない長さ)の間隔が空いている。
【0022】
ここで、図2に示すように、この音響構造体10における各パイプ1−nの開口部3−n及び3−nの奥の空洞には、開口部3−nを開口端とし空洞の左側の端部を閉口端とする閉管CP−nと、開口部3−nを開口端とし空洞の右側の端部を閉口端とする閉管CP−nと、開口部3−2及び開口部3−2を開口端とする開管OP−nとが形成されているとみなすことができる。閉管CP−nでは、下記式(6)に示す共鳴周波数fL1−n(1次モード共鳴周波数)及びその3倍、5倍、7倍…の倍音周波数fL3−n,fL5−n,fL7−n…において共鳴が発生し、閉管CP−nでは、下記式(7)に示す共鳴周波数fR1(1次モード共鳴周波数)及びその3倍、5倍、7倍…の倍音周波数fR3,fR5,fR7…において共鳴が発生し、開管OP−nでは、下記式(8)に示す共鳴周波数fC1(1次モード共鳴周波数)及びその2倍、3倍、4倍…の倍音周波数fC2,fC3,fC4…において共鳴が発生する。下記式(6)〜(8)において、Lは閉管CP−nの長さ、Lは閉管CP−nの長さ、Lは閉管CP−nの長さ、cは音波の伝搬速度である。
L1−n=c/(4・L)…(6)
R1−n=c/(4・L)…(7)
C1−n=c/(2・L)…(8)
【0023】
以上が、本実施形態の構成の詳細である。本実施形態では、パイプ1−n(N=1〜N)の中の一部のパイプ1−2〜1−5の側面2−2〜2−5に、パイプ1−2〜1−5の長さ方向に沿って離間した2つの開口部3−2〜3−5及び3−2〜3−5が設けられている。ここで、開口部の個数が2つであるパイプ1−2〜1−5における左側の開口部3−2〜3−5の比音響インピーダンス比ζは次式(9)により表され、右側の開口部3−2〜3−5の比音響インピーダンス比ζは次式(10)により表される。次式(9)及び(10)におけるjは虚数単位であり、SOLはパイプ1−mの開口部3−mの面積であり、SORはパイプ1−mの開口部3−mの面積であり、Sはパイプ1−m内の空洞におけるパイプ1−mの断面面積である。また、Lはパイプ1−m内の閉管CP−mの長さであり、Lはパイプ1−m内の閉管CP−mの長さであり、Lはパイプ1−m内の開管OP−nの長さである。
【数3】

【数4】
【0024】
この式(9)及び(10)から分かるように、各パイプ1−nでは、前掲式(9)におけるk(L+L)がπ/2の整数倍となるような周波数の音波がパイプ1−mの開口部に入射した場合、及び前掲式(10)におけるk(L+L)がπ/2の整数倍となるような周波数の音波がパイプ1−mの開口部に入射した場合に吸音効果及び散乱効果が発生しなくなる。これに対し、本実施形態では、パイプ1−2〜1−5の長さ方向における開口部3−2〜3−5及び3−2〜3−5の位置がパイプ毎に異なっているため、k(L+L)及びk(L+L)もまたパイプ毎に異なったものとなる。よって、本実施形態によると、パイプ1−n(n=1〜N)の各々における吸音効果及び散乱効果が発生しない帯域が同じになる、という事態の発生を防止することができる。
【0025】
また、本実施形態では、音響構造体10のパイプ1−n(n=1〜N)の開口部は、パイプ1−n(n=1〜N)の各々における開口部と一方及び他方の端部の各々との間の距離のj(j=1,2…)倍(整数倍)の長さ、及びパイプ1−2〜1−5の各々における隣り合う開口部間の距離のj/2倍の長さが同じにならない位置に配置されている。このため、パイプ1−n内において共鳴が発生する共鳴周波数fL1−m、fR1−m、fC1−mとその倍音周波数fL3−m、fL5−m、fL7−m…、fR3−m、fR5−m、fR7−m…、fC1−m、fC3−m、fC5−m…がパイプ毎に異なったものとなる。よって、本実施形態によると、吸音効果及び散乱効果を幅広い帯域に亙って発生させることができる。
【0026】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態である音響構造体10Aの正面図である。この音響構造体10Aは、音響構造体10(図1)のパイプ1−nにおける2つの開口部3−n及び3−nのうち一方を側面2−nの反対側の側面2’−nに設けたものである。より具体的に説明すると、この音響構造体10Aでは、パイプ1−2の側面2−2に開口部3−2が設けられており、その側面2’−2に開口部3−2が設けられている。また、パイプ1−3の側面2−3に開口部3−3が設けられており、その側面2’−3に開口部3−3が設けられている。また、パイプ1−4の側面2−4に開口部3−4が設けられており、その側面2’−4に開口部3−4が設けられている。また、パイプ1−5の側面2−5に開口部3−5が設けられており、その側面2’−5に開口部3−5が設けられている。パイプ1−2〜1−5の長さ方向における開口部3−2〜3−5及び開口部3−2〜3−5の位置はパイプ毎に異なっている。本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0027】
以上、この発明の第1及び第2実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1及び第2実施形態では、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−nの本数は5本であった。しかし、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−nの本数を2〜4本にしてもよいし6本以上にしてもよい。
【0028】
(2)上記第1及び第2実施形態では、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−nの左右の端部4−n(n=1〜N)及び4−n(n=1〜N)は閉塞していた。しかし、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−n(n=1〜N)の全部または一部の左右の端部4−n及び4−nを開放してもよい。また、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−n(n=1〜N)の全部または一部の一方の端部4−nまたは4−nを開放してもよい。また、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−n(n=1〜N)の中に左右の両方の端部4−n及び4−nが開放したものと、一方の端部4−nまたは4−nが開放したものが混在していてもよい。
【0029】
(3)上記第1及び第2実施形態では、音響構造体10及び10Aを構成するパイプ1−n(n=1〜N)のうち側面2−n(n=1〜N)の開口部3−n(n=1〜N)の本数が1本であるものと2本であるものの比率が1:4になっていた。しかし、この比率を任意に変更してもよい。また、音響構造体10を構成するパイプ1−n(n=1〜N)の中に側面2−n(n=1〜N)の開口部3−n(n=1〜N)の本数が3本以上のものが混在してもよい。
【0030】
(4)上記第1実施形態では、音響構造体10のパイプ1−n(n=1〜N)の開口部は、パイプ1−n(n=1〜N)の各々における開口部と一方及び他方の端部の各々との間の距離のj(j=1,2…)倍(整数倍)の長さ、及びパイプ1−n(n=1〜N)の各々における隣り合う開口部間のj/2倍の長さが同じにならない位置に配置されていた。しかし、パイプ1−n(n=1〜N)の各々における開口部と一方及び他方の端部の各々との間の距離、及びパイプ1−n(n=1〜N)の各々における隣り合う開口部間の距離が同じにならない位置に配置してもよい。この実施形態によると、パイプ1−n内における1次モードの共鳴周波数fL1−m、fR1−m、fC1−mがパイプ毎に異なったものとなる。よって、本実施形態によっても、吸音効果及び散乱効果を幅広い帯域に亙って発生させることができる。
【符号の説明】
【0031】
10、90…音響構造体、1、5…パイプ、6…側面、3、7…開口部、4、8…端部。
図1
図2
図3
図4
図5