【実施例1】
【0015】
以下、本発明の移動用変圧器を、
図1及び
図2を用いて説明する。本発明の移動用変圧器は、
図1に示すようにトラック運転席1から後方に延びる荷台2に、変圧器10と絶縁油を冷却する冷却器20を載置し、移動可能に構成している。
【0016】
変圧器10は、
図2に示すようにタンク11内に鉄心12と巻線13からなる変圧器中身を収納すると共に絶縁油として環境負荷を抑えることができるパームヤシ油14を封入している。冷却器20は、この例ではパームヤシ油14を十分に冷却可能な空冷式のものを備えている。
【0017】
変圧器10と冷却器20間は、タンク11の上下に接続する送油管15にて連結しており、この送油管11にはパームヤシ油14を循環させる送油ポンプ16が設けられている。本発明の移動用変圧器では、タンク11内に封入する絶縁油としてパームヤシ油14を使用するとき、送油管11に設ける送油ポンプ16は、鉱油の場合よりも遥かに早い後述する流速で、パームヤシ油14を冷却器20からタンク11内に循環できるものを用いている。
【0018】
なお、
図2に示す変圧器10は、タンク11の一部にはタップ切換器17を設けた例であり、タンク11の下部より入った油が、巻線13の冷却に充分に活用して冷却効率を損なわないようにするため、油の流れを規制するオイルガイド18を設けている。
【0019】
【表1】
【0020】
絶縁油として用いるパームヤシ油は、表1に鉱油の物性値との比較で示したような特徴点、即ち密度が2%程度小さいこと、比熱が8%程度大きいこと、動粘度が40%程度小さいこと、比誘電率が30%程度大きいこと、体積抵抗率が3桁小さいことの利点がある。
【0021】
鉱油の場合は、流動帯電対策で流速vが制限されるため、巻線13内の油流はレイノルズ数Re=v×d/ν<1000程度で、層流である(ただし、dは水力直径)。v×dは不変であるから、パームヤシ油14を使用する場合、上記表1の動粘度νの比8.13/5.06=1.6から、Re<1600程度でやや増加するものの、まだ層流の状態である。しかも、パ−ムヤシ油14では体積抵抗率が小さいことから、流動帯電し難いため、流速vを上げてレイノルズ数Reを増やし、乱流域で使うことも可能である。
【0022】
強制対流管内層流熱伝達のヌセルト数Nuは、Sieder−Tateの式を用いるとNu=1.86×(Re×Pr)
Λ(1/3)×(d/L)
Λ(1/3)×(μ/μ
W)
Λ0.14と表すことができる(長さL、バルク平均温度と壁温における粘度μ、μ
W)し、熱伝達率αは、α=Nu×λ/d∝(v×ρ×c)
Λ(1/3)で与えられる。表1の(ρ×c)
Λ(1/3)の比、((0.86×2.02)/(0.88×1.86))
Λ(1/3)=1.02より、鉱油の代わりにパームヤシ油を使用する場合の熱伝達率αの増加(流速vの1/3乗を除いた物性値の違いによる効果)はほとんど期待できない。
【0023】
したがって、層流域では、流速vの1/3乗で熱伝達率αが決まり、パ−ムヤシ油の特性により、流動帯電の流速制限を受けず流速を上げることは可能だが、同じ流速の鉱油と熱伝達率αは殆ど変わらない(流速の違いだけで、油種の違いは殆ど熱伝達率αに影響しない)
強制対流管内乱流熱伝達のヌセルト数Nuは、Dittus−Boelterの式を用いるとNu=0.023×Re
Λ0.8×Pr
Λ0.4と表すことができる。熱伝達率αは、α∝v
Λ0.8×(ρ×c)
Λ0.4×λ
Λ0.6/ν
Λ0.4で与えられる。表1の(ρ×c)
Λ0.4×λ
Λ0.6/ν
Λ0.4の比、((0.86×2.02)/(0.88×1.86))
Λ0.4×(1.26/1.23)
Λ0.6/(5.06/8.13)
Λ0.4=1.256より、鉱油の代わりにパームヤシ油を使用する場合の熱伝達率αの増加率(流速vの0.8乗を除いた物性値の違いによる効果)は、1.256倍となる。
【0024】
したがって、乱流域では、流速vの0.8乗で熱伝達率αが決まり、パ−ムヤシ油の特性により、流動帯電の流速制限を受けないことに加え、同じ流速の鉱油よりも熱伝達率αが1.256倍増加し、温度上昇としては同じ流速で鉱油を使用した場合の80%に低減できる。ただし、送油ポンプの質量増加を考慮する必要がある。
【0025】
以上は、流速が同じ条件で油種の違いによる熱伝達率の違いを比べたが、送油ポンプが同じ条件では、鉱油よりも動粘度の低いパームヤシ油は、圧損が低く流速が上がるため、熱伝達率αは更に大きくなる。例えば層流の場合、管摩擦のみの試算で概略評価すると、流速は表1の動粘度νの逆比より8.13/5.06=1.6倍、熱伝達率αは1.6
Λ(1/3)=1.17倍となり、管摩擦以外の圧損の存在も考慮すると、概ね1割程度は鉱油に比べパームヤシ油の熱伝達率が大きくなると考えられる。
【0026】
本発明者は、
図3に示すパームヤシ油入移動用変圧器の効果試算から、パームヤシ油14の最適な流速を検討し、流速の最大値Vmaxは、100cm/s≦Vmax≦500cm/sの範囲が望ましいことを見つけ出した。なお、ここでいう流速の最大値Vmaxは、巻線13内や巻線13上下の油道における流速の最大値である。一般には流速の判定解析よって行われ、実際の変圧器では送油管15内の流速を計測し、各部の圧損を考慮して巻線13内や巻線13上下の油道における流速の最大値を推定する。
【0027】
上記したパームヤシ油14の流速の最大値Vmaxを確保する送油ポンプ16は、この重量の増加を考慮して送油管11に1台を設けて使用、或いは重量増加を抑制できる程度の複数台を並列に設けて使用することができる。
【0028】
パームヤシ油を入れた移動用変圧器において、
図3に圧損を管摩擦のみで仮定し、流速の最大値Vmaxを100〜900cm/sで使用したときの軽量化効果を試算した結果を示している。この結果を流速の最大値Vmaxに対する熱伝達率の増加や電流密度の増加や温度上昇低減する率の関係を
図4に示し、また流速の最大値Vmaxと低減できる重量の関係を
図5に示している。これらからも明らかなように、流速の最大値Vmaxが100〜500cm/sの範囲では、低密度のパームヤシ油の使用及び巻線の冷却性能の向上による軽量化の効果を好ましい値にすることができる。
【0029】
例えばトラック積載形の移動用変圧器は、使用する油量が4000L程度のもので試算を行った場合、密度の違いによる効果だけで鉱油に比べパームヤシ油を使用すると数十kg程度以上の軽量化が図れる。また、冷却性能が向上する分だけ巻線の高電流密度化が可能なことから、鉄心及び巻線からなる変圧器中身を小さくし、同様に数十kg程度以上の軽量化することができる。
【0030】
なお、上記した
図1の実施例は、変圧器及び冷却器をトラック運転席からの後方に延びる荷台に載置したトラック積載形の移動用変圧器の例で説明したが、本発明はトラック運転席部分で牽引して移動するトレーラーの荷台に載置するトレーラー積載形の移動用変圧器にも同様に適用することができる。