特許第5923971号(P5923971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923971
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】移動用変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/12 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   H01F27/12 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-283592(P2011-283592)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-135050(P2013-135050A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇本 聖
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−150056(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/029724(WO,A1)
【文献】 実開平01−135715(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に変圧器中身を収納すると共に絶縁油を封入した変圧器と、前記絶縁油を冷却する冷却器とを、移動可能な荷台に載置し、前記変圧器と前記冷却器間を送油管により連結し、前記送油管に絶縁油を循環させる送油ポンプを有する移動用変圧器において、前記絶縁油にはパームヤシ油を用い、前記送油ポンプは前記パームヤシ油の流速の最大値Vmaxを100cm/s≦Vmax≦500cm/sであって、該パームヤシ油の油流を乱流域に確保できるものを備えて構成したことを特徴とする移動用変圧器。
【請求項2】
請求項1において、前記送油ポンプは1台以上を前記送油管に備えて構成したことを特徴とする移動用変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動用変圧器に係り、特に変圧器本体の冷却を良好にして小形軽量化でき、運搬の容易な移動用変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、発電所や変電所の電力施設で使用している変圧器の点検の際や、長期間の使用で故障したとき或いは災害で故障したとき、緊急用として移動用変圧器を使用している。移動用変圧器は、保管場所より当該電力施設に移動し、既設の変圧器に代って電力系統に接続し、直ちに電力系統の運用を可能にしている。
【0003】
移動用変圧器は、トラックで牽引する低床式トレーラーやトラック運転席の後方に延びる荷台に載置されて搬送されるものであるから、幅及び高さ寸法に制限があるし、重量も可能な限り軽くすることが要求されている。このため、巻線をコンパクトにして変圧器本体の横幅を運搬車両の車幅より短くして移動用変圧器を構成し、運搬車両で容易かつ安全に運搬することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、トラック運転席部分で牽引する低床式トレーラーを使用するとき、トレーラーの低床面と接触し、しかも低床式トレーラーの後輪を避けるように梁部を形成した共通ベースを用い、変圧器を共通ベースの低床面に積載すると共に補機を梁部に積載し、変圧器及び補機とを一体的に構成することで汎用の低床式トレーラーでの輸送を可能にし、搬送した現地での据付けを容易にすることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
トラック運転席部分で牽引する低床式トレーラーは重量を減らすことが難しいことから、移動用変圧器を可能な限り軽量化することが望まれている。移動用変圧器の主な軽量化の対策には、例えばタンクに鉄よりも軽量のアルミニウムを使用する、タンクを変圧器中身に適合させた形状にして内部に封入する絶縁油の量を減少させる、変圧器中身を高温でも使用可能な耐熱性の高い絶縁材料を使用する、温度は上昇するが電流密度を上げて巻線を小さくすることや冷却装置を減らす等がある。
【0006】
ところで、一般に変圧器はタンク内に封入する絶縁油として鉱油を用いているが、最近出願人等から鉱油に代えて植物原料のパームヤシ油(パームヤシ脂肪酸エステル、PFAE=Palm Fatty Acid Ester)を封入することが提案されている。パームヤシ油を用いた変圧器は、鉱油を用いる変圧器に比較してCOの排出量を大幅に削減できるので環境負荷対策に好適であるし、冷却性能の向上で変圧器の据付け面積の削減ができ、従来に比べてコンパクト化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−221333号公報
【特許文献2】特開2005−348490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び2の移動用変圧器でも、タンク内に封入する絶縁油は、変圧器中身を構成する巻線や鉄心の冷却に適した動粘度の低い鉱油が用いられている。しかし、変圧器の絶縁油に鉱油を使用する場合は、巻線に使用する絶縁紙等の固体表面を流動することによって生ずる静電気現象、即ち流動帯電の対策のために、製作各社は巻線内や巻線上下の油道における油の流速は、最大値に各種の文献で知られているような制限を設けている。
【0009】
移動用変圧器は小形で軽量にすることが望ましいが、鉱油では流動帯電を生じない流速に制限するため、小形軽量化を進めるのに障害となっている。また、移動用変圧器のタンクに鉱油を封入して使用する場合、上記した現行の手段では、軽量化はほぼ限界となっている。特にトラック積載形の移動用変圧器では、100kg程度の軽量化でも価値があるから、軽量化の限界の状況を打開する他の軽量化の手段が求められている。
【0010】
本発明の目的は、冷却性能を向上できて軽量化が図れる移動用変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の移動用変圧器は、タンク内に変圧器中身を収納すると共に絶縁油を封入した変圧器と、前記絶縁油を冷却する冷却器とを、移動可能な荷台に載置して、前記変圧器と前記冷却器間を送油管により連結し、前記送油管に絶縁油を循環させる送油ポンプを有する際に、前記絶縁油にはパームヤシ油を用い、前記送油ポンプは前記パームヤシ油の流速の最大値Vmaxを100cm/s≦Vmax≦500cm/sであって、該パームヤシ油の油流を乱流域に確保できるものを備えて構成したことを特徴としている。好ましくは、前記送油ポンプは1台以上を前記送油管に備えて構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の移動用変圧器によれば、絶縁油には環境負荷を抑制できるパームヤシ油を用いており、送油ポンプにより鉱油に比較して遥かに早い流速で動粘度の低いパームヤシ油をタンク内に循環させているから、変圧器中身の冷却性能を良好にできる。このため、変圧器中身を冷却できる分だけ巻線の電流密度を上げて変圧器中身を小さくできるから、移動用変圧器全体の重量を軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の移動用変圧器の一実施例を示す側面図である。
図2図1の移動用変圧器の概略断面図である。
図3】パームヤシ油入移動用変圧器の効果試算を示す図である。
図4図3の流速に対する熱伝達率増加、電流密度の増加、温度上昇低減の率の関係を示すグラフである。
図5図3の流速に対する巻線重量低減、鉄心の重量低減、巻線と鉄心の重量低減、送油ポンプ重量増加、冷却性能向上による軽量化効果、パームヤシ油が鉱油よりも低密度であることによる効果と冷却性能向上による効果の両方を合わせた軽量化効果の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、タンク内に変圧器中身を収納すると共に絶縁油を封入した変圧器と、絶縁油を冷却する冷却器とを、移動可能な荷台に載置した移動用変圧器であり、変圧器と冷却器間は送油管により連結し、送油管に絶縁油を循環させる送油ポンプを有している。そして、絶縁油にはパームヤシ油を用い、また送油ポンプはパームヤシ油の流速の最大値Vmaxを100cm/s≦Vmax≦500cm/sであって、該パームヤシ油の油流を乱流域に確保できるものを備えている。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の移動用変圧器を、図1及び図2を用いて説明する。本発明の移動用変圧器は、図1に示すようにトラック運転席1から後方に延びる荷台2に、変圧器10と絶縁油を冷却する冷却器20を載置し、移動可能に構成している。
【0016】
変圧器10は、図2に示すようにタンク11内に鉄心12と巻線13からなる変圧器中身を収納すると共に絶縁油として環境負荷を抑えることができるパームヤシ油14を封入している。冷却器20は、この例ではパームヤシ油14を十分に冷却可能な空冷式のものを備えている。
【0017】
変圧器10と冷却器20間は、タンク11の上下に接続する送油管15にて連結しており、この送油管11にはパームヤシ油14を循環させる送油ポンプ16が設けられている。本発明の移動用変圧器では、タンク11内に封入する絶縁油としてパームヤシ油14を使用するとき、送油管11に設ける送油ポンプ16は、鉱油の場合よりも遥かに早い後述する流速で、パームヤシ油14を冷却器20からタンク11内に循環できるものを用いている。
【0018】
なお、図2に示す変圧器10は、タンク11の一部にはタップ切換器17を設けた例であり、タンク11の下部より入った油が、巻線13の冷却に充分に活用して冷却効率を損なわないようにするため、油の流れを規制するオイルガイド18を設けている。
【0019】
【表1】
【0020】
絶縁油として用いるパームヤシ油は、表1に鉱油の物性値との比較で示したような特徴点、即ち密度が2%程度小さいこと、比熱が8%程度大きいこと、動粘度が40%程度小さいこと、比誘電率が30%程度大きいこと、体積抵抗率が3桁小さいことの利点がある。
【0021】
鉱油の場合は、流動帯電対策で流速vが制限されるため、巻線13内の油流はレイノルズ数Re=v×d/ν<1000程度で、層流である(ただし、dは水力直径)。v×dは不変であるから、パームヤシ油14を使用する場合、上記表1の動粘度νの比8.13/5.06=1.6から、Re<1600程度でやや増加するものの、まだ層流の状態である。しかも、パ−ムヤシ油14では体積抵抗率が小さいことから、流動帯電し難いため、流速vを上げてレイノルズ数Reを増やし、乱流域で使うことも可能である。
【0022】
強制対流管内層流熱伝達のヌセルト数Nuは、Sieder−Tateの式を用いるとNu=1.86×(Re×Pr)Λ(1/3)×(d/L)Λ(1/3)×(μ/μΛ0.14と表すことができる(長さL、バルク平均温度と壁温における粘度μ、μ)し、熱伝達率αは、α=Nu×λ/d∝(v×ρ×c)Λ(1/3)で与えられる。表1の(ρ×c)Λ(1/3)の比、((0.86×2.02)/(0.88×1.86))Λ(1/3)=1.02より、鉱油の代わりにパームヤシ油を使用する場合の熱伝達率αの増加(流速vの1/3乗を除いた物性値の違いによる効果)はほとんど期待できない。
【0023】
したがって、層流域では、流速vの1/3乗で熱伝達率αが決まり、パ−ムヤシ油の特性により、流動帯電の流速制限を受けず流速を上げることは可能だが、同じ流速の鉱油と熱伝達率αは殆ど変わらない(流速の違いだけで、油種の違いは殆ど熱伝達率αに影響しない)
強制対流管内乱流熱伝達のヌセルト数Nuは、Dittus−Boelterの式を用いるとNu=0.023×ReΛ0.8×PrΛ0.4と表すことができる。熱伝達率αは、α∝vΛ0.8×(ρ×c)Λ0.4×λΛ0.6/νΛ0.4で与えられる。表1の(ρ×c)Λ0.4×λΛ0.6/νΛ0.4の比、((0.86×2.02)/(0.88×1.86))Λ0.4×(1.26/1.23)Λ0.6/(5.06/8.13)Λ0.4=1.256より、鉱油の代わりにパームヤシ油を使用する場合の熱伝達率αの増加率(流速vの0.8乗を除いた物性値の違いによる効果)は、1.256倍となる。
【0024】
したがって、乱流域では、流速vの0.8乗で熱伝達率αが決まり、パ−ムヤシ油の特性により、流動帯電の流速制限を受けないことに加え、同じ流速の鉱油よりも熱伝達率αが1.256倍増加し、温度上昇としては同じ流速で鉱油を使用した場合の80%に低減できる。ただし、送油ポンプの質量増加を考慮する必要がある。
【0025】
以上は、流速が同じ条件で油種の違いによる熱伝達率の違いを比べたが、送油ポンプが同じ条件では、鉱油よりも動粘度の低いパームヤシ油は、圧損が低く流速が上がるため、熱伝達率αは更に大きくなる。例えば層流の場合、管摩擦のみの試算で概略評価すると、流速は表1の動粘度νの逆比より8.13/5.06=1.6倍、熱伝達率αは1.6Λ(1/3)=1.17倍となり、管摩擦以外の圧損の存在も考慮すると、概ね1割程度は鉱油に比べパームヤシ油の熱伝達率が大きくなると考えられる。
【0026】
本発明者は、図3に示すパームヤシ油入移動用変圧器の効果試算から、パームヤシ油14の最適な流速を検討し、流速の最大値Vmaxは、100cm/s≦Vmax≦500cm/sの範囲が望ましいことを見つけ出した。なお、ここでいう流速の最大値Vmaxは、巻線13内や巻線13上下の油道における流速の最大値である。一般には流速の判定解析よって行われ、実際の変圧器では送油管15内の流速を計測し、各部の圧損を考慮して巻線13内や巻線13上下の油道における流速の最大値を推定する。
【0027】
上記したパームヤシ油14の流速の最大値Vmaxを確保する送油ポンプ16は、この重量の増加を考慮して送油管11に1台を設けて使用、或いは重量増加を抑制できる程度の複数台を並列に設けて使用することができる。
【0028】
パームヤシ油を入れた移動用変圧器において、図3に圧損を管摩擦のみで仮定し、流速の最大値Vmaxを100〜900cm/sで使用したときの軽量化効果を試算した結果を示している。この結果を流速の最大値Vmaxに対する熱伝達率の増加や電流密度の増加や温度上昇低減する率の関係を図4に示し、また流速の最大値Vmaxと低減できる重量の関係を図5に示している。これらからも明らかなように、流速の最大値Vmaxが100〜500cm/sの範囲では、低密度のパームヤシ油の使用及び巻線の冷却性能の向上による軽量化の効果を好ましい値にすることができる。
【0029】
例えばトラック積載形の移動用変圧器は、使用する油量が4000L程度のもので試算を行った場合、密度の違いによる効果だけで鉱油に比べパームヤシ油を使用すると数十kg程度以上の軽量化が図れる。また、冷却性能が向上する分だけ巻線の高電流密度化が可能なことから、鉄心及び巻線からなる変圧器中身を小さくし、同様に数十kg程度以上の軽量化することができる。
【0030】
なお、上記した図1の実施例は、変圧器及び冷却器をトラック運転席からの後方に延びる荷台に載置したトラック積載形の移動用変圧器の例で説明したが、本発明はトラック運転席部分で牽引して移動するトレーラーの荷台に載置するトレーラー積載形の移動用変圧器にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
2…荷台、10…変圧器、11…タンク、12…鉄心、13…巻線、14…パームヤシ油、15…送油管、16…送油ポンプ、20…冷却器。
図1
図2
図3
図4
図5